数学イノベーション委員会(第9回) 議事録

1.日時

平成24年12月11日(火曜日) 13時~15時

2.場所

文部科学省17階 研究振興局会議室

3.議題

  1. 「数学イノベーション戦略(中間報告)」への学会等からの意見について
  2. その他

4.出席者

委員

若山主査、安生委員、北川委員、杉原委員、中川委員、宮岡委員

文部科学省

森本大臣官房審議官(研究振興局担当)、磯谷科学技術・学術総括官兼政策課長、菱山振興企画課長、安藤基礎研究振興課長、太田基礎研究振興分析官、粟辻融合領域研究推進官、藤沼情報科学技術研究推進官

オブザーバー

独立行政法人科学技術振興機構 野水昭彦 技術参事
岡山大学大学院環境生命科学研究科 水藤寛 教授
東京大学大学院情報理工学系研究科 田中冬彦 助教
北海道大学大学院理学研究院 坂上貴之 教授
明治大学先端数理科学インスティテュート 三村昌泰 所長

5.議事録

【若山主査】 おはようございます。定刻になりましたので、ただ今より、第9回数学イノベーション委員会を開会いたします。本日は御多忙のところ、お集まりいただきましてありがとうございます。
 本日は森主査代理、小谷委員、青木委員、大島委員、西浦委員から欠席との御連絡を頂いております。また、杉原委員が30分ほど遅れられるとのことです。それから今日、委員会で御発表いただきます、北海道大学の坂上先生は若干遅れてこられるとの御連絡を頂いております。それから今回は、第8回の委員会で御意見を頂きました明治大学先端数理科学インスティテュートの三村先生もオブザーバーとして御出席賜っております。
 それでは本日の議事を進めるに当たり、事務局より配布資料の確認をさせていただきたいと思います。よろしくお願いします。

○粟辻融合領域研究推進官より配付資料の確認があった。

【若山主査】 どうもありがとうございます。それでは議事次第に沿いまして、議題1「数学イノベーション戦略(中間報告)への学会等からの意見について」ということで、始めさせていただきます。本年8月7日に本委員会の議論のまとめ、「数学イノベーション戦略(中間報告)」が先端研究基盤部会において決定されました。その後、連携相手となる諸科学産業界のニーズや、より効果的な連携方策について聴取するために、中間報告について学会や経済団体等との意見交換を行い、一部の委員にも意見交換に参加いただきました。
 それでは学会等から頂いた御意見について、事務局の方から紹介していただきたいと思います。

○粟辻融合領域研究推進官より資料2について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。若干の、数学者側に対する改善が必要な点というのも御指摘いただいておりますけれども、私も幾つかの、この機会に出席させていただきましたが、基本的に前向きで建設的な御意見を頂戴しておりまして、是非この数学イノベーションに生かしていきたいと考えているところです。
 さて、粟辻さんから1ページ目はきちっと解説していただきまして、あとは具体的に頂いた御意見を書いております。1は必要な課題ですね。数学、数理科学の力が必要な課題、テーマに関する御意見で、二つ目は連携の推進方策に関する御意見というのが続いて、4ページ、最後のページまで出ております。
 少し時間を、簡単に取りたいと思いますが、5分程度、何か御意見等、もし意見交換に御出席いただいていたときに、こんなこともあったということがあれば、頂戴できればと思いますが。あるいは発言の趣旨がどうだったのかということをお尋ねいただければ、粟辻さんの方からお答えいただけると思います。何かございますでしょうか。

【北川委員】  すみません、補足させていただきます。これはこれでいいんですが、この委員会でも議論になったんですが、どこかの学会との話の中で、やっぱり数学と数理科学の整理の仕方が分かりづらいという意見はあったと思いますので、それはちょっと頭に入れておいていただいた方がいいかと思います。

【若山主査】  以前から北川先生から御指摘の点に関する御確認だと思いますので、頭の中に入れておきたいというふうに思います。
 さて、ほかにございませんでしょうか。それでは続きまして、今日はJST、それから三人の先生方に御発表をお願いしているところですので、それを始めていきたいと思います。まず最初に、JSTの戦略的創造研究推進事業「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」領域、さきがけ、CRESTで連携研究を行っている先生方、それからそのバックグラウンドについて御意見等を御紹介していただきたいと思います。先生方にはさきがけ、CRESTでの連携研究の経験を踏まえながら、共同研究につなげるための橋渡しとして必要な方策や、数学の有用性に関する情報発信、国際交流の効果、必要性についてお話しいただくこととなっています。
 それでは、まず本領域の事務局を担当されておりますJSTの技術参事 野水昭彦様から御発表をお願いしたいと思います。5分程度でよろしくお願いいたします。

【野水技術参事】  JSTの野水と申します。どうぞよろしくお願いします。日ごろお世話になっています。時間が短いということで、簡単に走りながらいきたいと思いますが、JSTの事業であります、さきがけとCREST、個人型研究とチーム型研究ですが、通常同じ戦略目標の下に、それぞれの領域を立てるんですが、御承知の方も多いと思いますが、この領域に関しては、委員の西浦先生お一人で両方の領域を見るという形の、ハイブリッドと我々呼んでますが、そういった領域になっています。その中で、今年度で終了するさきがけの担当をしてますので、その内容を中心に簡単に御報告させていただきます。

 さきがけでは年2回、合宿で領域会議というのを行っていて、非常に異分野交流とか、人のつながりとかやるんですが、その中で、3年間にわたって募集をされたので、3年目ですね。第5回から全員、1期生、2期生、3期生、フルメンバーになりましたので、そこから全体の討論というのを続けています。御覧のような、ちょっと内容は省略しますが、様々なテーマを持って、来年1月、最終回ですが、そこまでまた議論を続けようとしています。

 また、外に向けての情報発信と社会とのつながりという部分では、赤字で書きましたが、大学生を主体に対象にした数学塾というのと、それから高校生をメインに考えた数学キャラバンというのを行いました。これはまた後で簡単に御紹介いたします。

 それから2週間前に3期生の報告会が終わったんですが、それぞれ1期生、2期生、3期生、終了の年に成果報告会というのを行っていますが、報告だけではなくて、いわゆる情報発信というか、アウトリーチとしてパネルディスカッションをやったり、ステージのインタビューでそれぞれの方にいろいろなさきがけの研究の成果であったり、自分の成長の部分を報告していただいたり、これはまた前回は、後で御報告します「つながる知」ということで、この領域がどんなふうに諸分野と交流できたのか、協働できたのかという発表を行っています。CRESTに関してはこのようなものがありますけれども、今回は文字のみで省略させていただきます。

 あとは先ほどの領域会議の一覧表になります。それからシンポジウムは、これは先ほど冒頭申し上げたように、ハイブリッドということで、その全体活動をしたかったんですが、実際はさきがけの報告会とか、CRESTの発表会という形で個別の内容になってしまいました。非常に残念ではあるんですが、今後、逆に、さきがけ研究そのものは終了しているんですが、領域があるという中で、さきがけのOBの人にも協力していただいて、例えば応用分野を限定したものでの、例えば数学を中心としたシンポジウムを開催するということを検討して進めていきたいと考えています。

 それでは先ほどあった数学塾ですが、これはさきがけの研究者が中心に、大学生を主な対象にして、いわゆるここにあるような集中講義と演習という格好で、延べ3日間にわたってJSTの施設を使って行ってまいりました。今まで4回行って、前回は今年の3月に、生命現象を対象に、こういったポスターで、その中には数学のいろいろな要素を取り上げながら、先ほど申し上げたように演習なども含めて行ってきました。非常にこれが、教室の雰囲気で、例えばチームごとでグループを組んで演習等を行ったりして、非常にさきがけの研究者が中心になって講師を行い、こういった諸分野の結集というものをうまく活用して、応用につながるような数学の基礎を分野外の人にも学んでいただけたというふうに思っています。

 それからキャラバンですが、この発端は、隣にいる水藤さんの岡山大でのイベントがきっかけと聞いてるんですが、またその辺は後であると思うんですが、これは高校生を対象に、数学がどのように世の中で、社会で役に立つかというのをテーマに行っています。当初はさきがけ数学キャラバンという名前だったんですが、途中からはCRESTも一緒になって、JST数学キャラバンという名前で、今まで5回、今年の6月の千葉まで行っています。実は来年の1月に、休み明け早々ですが、5日に福島、それから13日に岡山という形で順次継続していまして、この後も実は開催要望が出ていて、どういうふうにやっていこうかというのを今考えているところです。ポスターで、左側はJSTが主体になって、こちら側は大学が主催、JST共催という形で各地でやってきて、日本のいろんなところでやってきたという内容です。

 前回の千葉ではこのようなプログラムで、午後ですね。昼から夕方までの時間に、講師4名で、その中には領域のアドバイザーの先生も参加していただいて、様々な分野のテーマで非常に質問もあって、これは千葉大の教室の方なんですが、ちょっと暗くて見にくいと思いますが、講演者と最後にいろいろな懇談、自由な質問をしてもらったり、その後も残って講師を取り囲んで質問したりと、非常に活発な内容だったと思います。アンケートを見ても、若い層が多いんですが、満足度が高く、かつ難易度も高かったということで、難しいから嫌だったとかではなくて、難しいけれどやっぱり面白かったという声が多かったのが、こういったものの特徴かなと考えています。

 それから最後が、先ほどもちょっと言いました、さきがけの研究者がどのように諸分野と協働できたかというところですが、実際は内部的には科研費の細目表の71項目を、それぞれの専門領域、あるいは論文等の成果が出たとか、出つつある、あるいは応用できそうといった形で、内部でアンケートをとりました。で、元々持っている専門、あるいは関わっている分野が今、山と川がこうあるんですが、黒字のところが当初の研究分野です。で、赤になっているんですが、それが新たに成果として広がった分野ということで、このように大分広がっています。で、越境例につながった例としては240例になっていまして、31名の研究者ですので、一人につき七つから八つの、こういった結び付きができたと。平均の数字で言えば、そういうことになります。

 これは研究者の人が作ってくれたので、こういう組合せはどれだけあるだろうというのを単純に、組合せの計算なだけなんですが、先ほどの271、元がありますので、全部で3万6,000個、これだけの連携の可能性はあるという中で、先ほどお示ししたように、数学を中心に240という、非常に大きなつながりができたと思います。

 これはそのまま横に並べた図ですけれども、ちょうど真ん中に数学というものを据えたことによって、いろいろな諸分野の知がつながったと言えると思います。先ほどの報告の中にもありましたけれど、そのつなげる人材というのがこの場合、さきがけの研究者の人が自らつながるとか、つなげるという人材になったというふうに思います。以上、雑ぱくですが、終わります。ありがとうございました。

【若山主査】  どうもありがとうございました。恐らく御質問等、おありかと思いますけれども、まず今日、順に御発表をお願いしております、御発表後に、まとめて御質問していただきたいと思います。
 それでは続きまして、さきがけ1期生で、またCRESTチームのチームリーダーをされております、岡山大学大学院環境生命科学研究科の水藤先生に御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。15分程度でお願いできればと思います。

【水藤教授】  御紹介いただきました岡山大学の水藤です。私は今のハイブリッド領域ということで、さきがけ、CRESTと続けてやらせていただいてきましたので、その流れを御紹介して、問題点などについてお話ししたいということと、もう一つは、今も出ました高校生向けの情報発信について、御紹介したいと思います。

 我々のグループの内容は図のようになっています。臨床医学は数学から見ると、先ほどの連携位置図の中でも、人文科学に次ぐくらいの遠さがあるんですが、そういうところと一緒にやるのは大変面白いです。三つの柱がありまして、一つ目は、どうしてこの病気はこういうふうに進むのかという機序がよく分からないので理解したい。二つ目は統計解析で、最近はEvidence-based medicineと言いまして、実際に診断をして治療につなげるときは統計的な裏付けが必要になっています。三つ目が画像診断ですが、熟練医は的確な診断ができるのだけれども研修医は最初はなかなかそうはいかない、そして熟練医が研修医にその技術をうまく伝えることができないという問題があります。でも熟練医はみんな的確な診断を下すので、絶対何か論理があるはずだということで、それを見つけることを数学から支援したいということをやっています。

 それが三つの柱なんですが、それをやっていて、数学から諸分野―我々の場合は医学―に貢献するときに、多分二つ考え方があるような気がするんです。一つ当然思い付くのは、今まで見えなかった小さいものが見えたり、分からなかったことが分かったり、より高精度に、より高解像度にしていくという方向性です。また今までは、人間をざっと大きく見ていたのを、一人一人個別の違いをちゃんと見ていって、Patient-specific simulationと言っていますけれども、個別化を進めることで高精度の予測ができる。この人はいつ頃動脈りゅうが破裂するとか、しないとか、そういうことを予測するという方向性が一つあると思います。

 しかし、それの対極として、抽象化してそのメカニズムを知るという方向もあると思うんです。私はこの臨床医学というのは、数学の協働相手として穴場だと思っているんですけれども、何が穴場かといいますと、そもそも分野的にかなり遠いので、相手のことを新しい目で見ることができるということと、お互い「抽象化する」ことを好むということが共通点だと思います。

 数学は常に抽象化を考えていますし、臨床医学の方も実は抽象化を考えていて、本質的な部分だけを取り出そうとしています。人間の体はもちろん人によって全然違う要素がたくさんあるので、一つの診断をするのにも、一つのデータだけから決めるわけにはいかず、家族構成から、年齢や、いろんな病歴まで全部考えていると、データとしては多過ぎるわけですけれども、その中から何が一番効いているのかということを考えたいというわけです。そうすると、考え方が非常に近いところがあるなというのが実感するところです。

 それで、分野が近いか遠いかでいろいろ問題があったり、なかったりするわけですが、私の主張したいことは、図の左側はどちらかというと工学的な考え方かと思います。それに対して数学は、もちろん左もありますけれども、右側の、より抽象化していくという方向性が、数学らしい貢献の形ではないかなと思っています。

 他分野との協働に当たって大変なことは、もちろん言われ尽くされていると思いますけれども、言葉が違ったり、文化が違ったりすることがあります。そのほかに最近感じているのは、時間感覚の違いです。数学者にとって、今やっている問題ができなくても、とりあえず誰も困らないわけですけれども、同じ問題を考えている医師というのは、もう目の前で人が亡くなっていたりするわけですね。そういうことに対する時間感覚の違いっていうのはすごいものがあって、いつも勉強させられます。

 それから成果の評価というのは、例えば新しい治療法が使われ始めてから10年後に結果が出たりするわけですが、その間にまたどんどん新しい治療法ができてしまうので、ある技術だけの評価を純粋にはできないということがあります。
 
 また、医学の教科書に書いてある数学というのは、30年前の数学の場合があります。「教科書にこういうふうに書いてあるんだけど本当かね」って聞かれると、「ん?」ということが時々ありまして、そういうことを一つずつ解決していくだけでも大分違うと思います。また逆に、数学者に任せれば全部できるんじゃないかという過大な期待ももちろんありますが、よく考えられた現実的な提案もあります。それから、医師の方はそう思っていないんだけれども、実はこれ数学の問題なんじゃないかなということを予感させるような提案も時々あります。そのような問題にどんどん取り組んでいくべきだと思うのですが、医師の側から問いかけがあったとき、誰か関係ありそうな数学者を紹介して終わり、では済みそうもありません。先ほどもあったように、数学者は壁を作りたがるというのはありますけれども、特に純粋数学だと、突然臨床医と組めといわれても、かなりつらいものがあると思います。我々の経験では、一段階では通訳が済まなくて、二段階ぐらい通訳があると、うまくいくというのが実感です。

 そこでそのようなことを実現する環境整備ということになるんですけれども、もちろんやっぱり当事者の、熱意と努力が必要だと思います。やる気が出ないとどうにもなりませんし、上からやれと言われてもどうにもなるものではないと思います。しかし、実際やっていて、異分野交流というのは国際交流と同じで、大変面白いものです。しかし実際問題になると、我々大学人はまだいい方で、医師たちは、毎日の診療との兼ね合いでかなり大変な状況に置かれています。最近いろいろ出ている数学分野の将来像の提案の中で、滞在型研究施設というのがありまして、これ自体は非常に良い案だと思うのですが、医学との連携にとってはちょっと困難だと思います。その代わり、例えばある曜日を決めて、その日に研究チームが集まるような仕組みができたらいいなと思っています。

 それからもう一つ大事なのは、やっぱり先ほどのネットワークの絵でもありましたように、応用数学者だけでは真の協働は絶対できないということです。純粋数学者の助けがないと、とてもやれません。で、今までなぜそれができてきたかというと、JST数学領域があったからにほかなりません、例えば私が医師と話していて、「こういうことがなあ」と言われて特に対応策を思いつけなかったとき、領域会議へ行って、飲みながら、「こんな問題があるんだけどな」と言うと、「ああ、それにはこの数学が使えるんじゃないか?」と出てくるんですね。そういうところがJST数学領域のすごいところです。他分野との協働を実現するには、そういうネットワークが数学側にしっかりあるということがとても重要です。

 なので、私の主張は研究者のつながりを四段階そろえればできますということです。もちろんそういうことが数学界での評価、個人的な評価につながってくれないと、なかなかやりにくいところはあります。楽しいだけではできませんので。ここまでが、私からの連携研究についての現状の御報告と問題点です。

 後半は、先ほどもありました数学キャラバンについてお話ししたいと思います。実は数学キャラバンには第0回というのがありました。発表者は全員JST数学領域の人でして、私が講演をお願いして回ったら皆さんが「いいよ」と言ってくださって、実現しました。その後、こういうことができるんだなということでキャラバンが続いてきたような感じになっています。なので、その0回を含めれば、岡山では実質的に、これから来年1月にやるのを含めて4回になるんですけれども、高校生からダイレクトな反響が返ってきて楽しいものです。後ほど高校生からのアンケート御紹介しますが、非常に前向きな反応があります。

 過去の数学キャラバンで、ある若手数学者がさっそうと現れて、難しい話を分かりやすく話してくれたので、女子高校生にすごく受けたことがありました。数学の先生って、おじさんが難しい顔をしてやってると思ってたら、あんなかっこいい人もいるんだっていうことがすごく新鮮だったようです。

 我々のところでは「広がる数学」という名前を付けています。第1回の時は、純粋から応用まで分野を広げ、次のときは講師の年齢層を広げました。その次は性別も広げて、男性数学者と女性数学者のバランスをとって、女子高校生も引き込めるような形にしたいと思っています。

 アンケートにはいつも非常に良いことが書かれています。「数学ってつまんないと思ってたけど、実は面白いな」という人と、「数学って役に立たないと思ってたけど、役に立つんだな」という人。総じて、数学ってすごいなという感想がほとんどです。そのような感想は私も予想していたのですが、驚いたのは一番下の例です。「僕は数学がとても好きです。なので、これで食べていきたいと思っていました。でもこんな好きなことだけをやっていていいのかなということが不安でした。今日の講演会を聞いて、数学はちゃんと社会とつながっているんだなということを知り、安心しました」と。あ、これは良かったと思いました。そんな真面目な高校生が、聴衆のうちに一人でもいればすごいなと思います。

 そういうことを含めて数学キャラバンの効果ですけれども、現実の生活に数学が深く関わっているということを新たに認識してもらうこと。それから、応用だけではなくて、純粋数学も、今高校でやっているような勉強も含めて非常に大事なんだなっていうことを、再認識してもらうこと。高校でやれって言われているからやるんじゃなくて、あ、こんなことに役に立つんだということを分かってもらうこと。それから時々、何の役に立つか分からないからやる気がしないっていう高校生、大学生もいますが、そういう人たちは「数学も役に立つんだ」ということが分かれば、急にやる気が出ます。それから先ほど例に挙げましたような、楽しいことだけやっていていいのかなという、真面目な高校生に安心してもらうこと、それから身近な数学者、こんな人もいるんだいうこと、それらを全部含めて、進路選択への指針になっているのではないかと思います。 

 JSTからもちろんたくさん支援を受けています。お金のことももちろんですけれども、私としてはお金よりも、JST数学領域っていうのがあることが一番本質的なことだったと思っています。

 それで今後工夫が必要なことはたくさんあるんですけれども、特に我々のような地方でやろうとすると、講演者を確保することです。面白いこと、いいことを話してくれる講演者を確保することは大変ですが、研究者ネットワークがあれば可能です。それからテーマの選択も難しくて、なるべく幅広いことを提供したいと思うと、これもネットワークがないとできません。

 それから内容の程度の検討も難しいんですけれども、必ずしも高校生に内容を全部理解してもらう必要はないと思います、難しいことを結構いつも話していますけれども、でも高校生には受けています。だから「難しいけど、もっと面白そうなものがその向こうにありそうだ」と思ってもらえれば、良いと思っています。

 それであと、日程は難しいです。高校生は結構忙しいということが分かりまして、なので高校の先生と相談して、いつがいいかなということを相談してやっています。それから県教育委員会に後援をしてもらうと、高校教員の方は来やすいようなので、後援していただくようにしています。

 これからに向けてなんですけれども、こういう単発の講演会などに使えるお金が余りないので、何か支援を続けていただけたら有り難いなと思っています。それから絶対数は増やしたいです。というのは、今は辛うじて年に1回、大きなものを県庁所在地でやるぐらいが精一杯なんですが、あちこちの小さな町でやりたいというのが希望です。で、これもまた、そういうことをすることが研究者、話した人の評価につながっていってくれればとてもいいなと思っています。すみません、長くなりましたが、以上でございます。

【若山主査】  どうもありがとうございました。大変面白いお話を聞かせていただきました。
 それでは先ほどの野水さんの、全体に関する御発表とともに、5分間程度時間を取りたいと思いますので、どんなことでもよろしいですので、御質問とか御意見とかございましたら御発言ください。

【三村所長】  よろしいですか。お二人の話、非常に面白く聞きました。どうもありがとうございました。ここでちょっと気になっていたことは、例えばCRESTとかさきがけにしても、数学のバックグラウンドでいろんな分野に切り込んでいこうという方と、数学からちょっと離れていると。例えば水藤さんみたいに、バックグラウンドが数学でない人で、それで数学の方に何かやっていこうと。そのときに評価というのはどうされているんですかね。ミッションが違うような気がするんですけれどね。その二つのタイプのミッションが。

【水藤教授】  その評価というのは、例えば我々が大学から受ける評価のことですか。

【三村所長】  そう、だから自分がどういう研究とかやっていくのがいいのかという。

【水藤教授】  おっしゃられたように、私は元々数学の出身ではないですけれども、この数学領域に入れていただいて、一緒にやって、そうするとその純粋数学の人と話すことができて、その間をつなぐことができて、多分CRESTに採用していただいたのは、幾らかは評価していただいたのかなと思って、私はそれで良かったなと思っていますけれども。

【三村所長】  それが文科省の言っている、数学・数理科学のことなんですかね。

【水藤教授】  ですか。

【三村所長】  つまり両方が大事だと。

【粟辻融合領域研究推進官】  いわゆる狭い意味での数学だけではなくて、数理的なものを扱う人をうまく集団でといったらあれですけれども、それを一種の固まりにして、もっと外の分野とうまく連携していこうというのが、元々のコンセプトですので、今おっしゃった生徒さんのようなパターンは、いわゆる純粋数学者とほかの分野の間をうまくつなぐような役割を、広い意味の数学・数理科学の中でされているんだろうなと思います。

【三村所長】  だから、僕はそれが本当に、そういう両方の評価というのが、どこでやったらいいのかが分からないんですね。数学の分野だけで評価するのか、あるいはそれこそ、もっと違うところで、数学の人に対してこういう分野も大事ですよということで評価するとか、それがちょっと、CRESTなんかでもどうしているのかなと思って。

【水藤教授】  CRESTでどうしているかは、私にはちょっと何とも分かりかねます。

【北川委員】  多少関連して、質問でよろしいですか。水藤先生のお話は、大変面白いと思うんですが、数学の分野ではこういう現実、医学の分野の方への橋渡しができたということで評価できるんだけど、逆に医学の方の立場で、4ページのところに、医療現場への大きな貢献と書いてありますが、その医学の意味で本当に具体的な成果っていうのは何かあったのか、そこまで進んでいるのか、これからということなんでしょうか。

【水藤教授】  医学系の雑誌の論文というのは、数編、やっと出たところです。その連携をもとに、成果を使って論文になったのは。

【北川委員】  論文というよりも、例えば今までの医者の経験だと見付からなかったようなのが、こういう方法で自動的にできるようになったとか、あるいは見落としていたのが見付かるようになったという、そういうのがあると非常にいいんじゃないかなと思います。

【水藤教授】  実際の標準治療になっているものは、まだ一つもありませんが、早くそういう形になる成果を出していきたいと思っています。新しい概念が出てくると、医師の方は、ああ、これを待っていたんだということを言ってくれますので、早く標準治療というところまでもって行きたいと思っています。数学、数理科学がどうなのかは、ちょっと何とも分からないですけれど。

【若山主査】  この問題は大事な問題だと思いますが、お二人の先生方のお話を聞いた後でも、やはりこのお話は、また少し出していただいてもかまわないと思いますし、また評価という意味では、評価される側(がわ)だけじゃなくて、もちろんのことながら評価する側というか、年々刻々と変わっていくんでしょうが、そこも含めての話になると思います。
 それでは続きまして、さきがけ2期生でおられる東京大学大学院情報理工学系研究科の田中冬彦先生から、御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【田中助教】  どうも御紹介ありがとうございました。今回、時間も限られているということで、また資料を配られているということで、ポイントをかいつまんでお話ししたいと思います。タイトルは「さきがけ研究を通じて~現代的な統計学と量子物理の連携」ということで、東京大学情報理工の田中冬彦が発表したいと思います。

 私はさきがけ2期生で、2期は今年の3月に終了していました。その中で、私は専門が統計なんですけれども、量子物理との連携を模索して活動を進めてまいりました。統計理論というのは、余り知られてはいないんですが、実はほとんど数学で、非常に抽象的なものです。一方で、物理の人と連携しようと思ったときに、物理の人がまず考える統計のイメージというのは、実験で推定誤差を評価するときに使う公式とか、これはさっきちょっと教科書で、水藤さんの話でもあったんですが、物理の教科書で出てるような話というのはFisherの統計で、かなり古いものです。一方、数学と物理の連携というときに、これは数学の人も物理との連携を言うわけですけれども、統計というのはそこで余り出てきてなくて、解析、代数、幾何(きか)、確率といったもので、関連する連携はたくさんあります。ですので、私は全く新しい連携をこれからやろうとしている。で、そのギャップを埋めるところが今苦労しているところです。

 大きな目標としましては、ミクロな系の統計理論、これ量子統計と呼びますが、これを構築して、更に実験への応用を統合し、両分野間に新しい融合領域を確立すること。例えばバイオインフォマティクスみたいな位置付けを目指しているということになります。

 で、足がかりなんですが、2010年4月にQ-statsと呼ばれる、理論物理と実験の若手が中心のメーリングリストができまして、これは今、私も入って、研究交流の組織として動かしています。現状としては、実験の方は結構消極的で、今全部理論ですね。統計の理論、理論物理、あと数学の人たちが入ってやっているということになります。

 目標なんですが、Q-statsは草の根的な組織で、研究交流を通じて、メンバーの間で共同研究が自然に発生することを目指すと。課題解決型と違って、共同研究をいきなり始めるというのが目的ではない。つまりイメージとしては土壌を耕して、そこに自然に芽が発生する。ただその研究交流って口で言っても難しくて、まず先行例が国内外全然ないような、新しいタイプの連携を目指しましたので、手探りでやっていったと。また、財政母体もありませんで、当初支援する先生もいないという状況でした。

 いろいろ工夫してきたんですが、今日は余り時間がありませんので、簡単なところを一つだけ説明します。で、まずその前に、異分野間の連携研究にとって、私が考える重要なポイントというのは三つあります。一つ目は、フェーストゥフェースのコミュニケーションができるぐらい近いところに人がいると。二つ目は、近いだけでは駄目で、それだとマンションで隣の人が何をしているか分からないという状況になりますので、精神的な親密さを作っておくと。三つ目は、個人間の共同研究ではなくて、分野ごとで何人か集まってやるということなので、一人、人が欠けたとしても、あるいは忙しくてできなかったとしても、その連携研究が進むようにお互いにそのノウハウをいろいろ共有すると。この三つが大事だと私は考えています。

 実際にやったのは、情報幾何(きか)の勉強会というものを最初にやりました。情報幾何(きか)っていうのは統計理論の中でもかなりマニアックなところなんですが、私の専門がそうなんですけれども、私にとっては既に分かっていることで、直接的なメリットは全然なかったわけです。ただ結局、それでオブザーバーとして参加して、いろいろコメントしていくと、物理の人たちと研究上の議論をする素地(そじ)になっていったと思っています。ですので、標語的に述べますと、勉強会というのは最初の協働体験、一緒の共同作業というような感じになっています。実際、さっき言った要素がこういうところに出てきているというふうに思います。

 それで、ほかに具体的にやったこととしましては、統計学会と物理学会でそれぞれ異分野の人たちが発表したり、チュートリアルを行っていったと。例えば理論の物理の人たちが、統計学会の中でセッションを組んで発表したり、あるいは逆に、統計の理論の人たちが物理の理論の人や実験の人向けに、最新の統計理論を紹介するチュートリアルをやったりしています。そういったような作業をして、最近ですと、RIMSなんかでも研究集会を行ったという状況です。

 現在、その2年半にわたる活動の成果としましては、まず理論の物理の人たちとはかなり議論ができるようになってきました。一方で、実験の人はなかなか参加してくれないんですけれども、理論の人を通じて実験分野の状況が今把握できていて、次にお見せしますような、今急いで取り組むべき課題というのも出てきました。それが量子トモグラフィと呼ばれるものになります。

 量子トモグラフィなんですが、今日は余り時間がありませんし、専門的な話題は避けますが、単語の意味としては、実験データから統計的手法を用いて量子系を特徴付ける行列を推定する作業ということになりまして、量子物理の実験なんかで、いろんなところで使用されているという状況です。で、イメージとしましては、何かミクロのものがあって、ミクロのものっていうのは測定装置を介して見るということをしていますので、実際には実験家がうまく測定装置を準備して、しかもその得られたデータを統計処理して、そのデータを通じてミクロの世界をのぞいている、こういうことをやっていて、だからここの部分は実験家が実際に作るもの。で、このデータ処理は統計家がやるというようなイメージでの連携を今考えています。

 従来は、ここの部分というのは完全に無言の分業体制という形でした。つまり統計の理論家というのは、量子うんぬんとは関係なく、一般的に役に立つ統計手法を提供すると。それを教科書に書くなり、論文に出していくと。一方で、物理の理論の人たちは、そういったものを読んで勉強して、実験家に提案すると。ここをまた論文として書いて、実験の人はその論文を読んで、それを使うと。こういうような無言の分業体制が今までありました。ところが現在、実験技術が進歩して、これまでよりも、もっとはるかに大きい系を扱うことができるようになってきた。これはビッグデータのパラダイムにどんどん移行している状況なんですが、そうしますとほかの分野でも同様ですが、統計手法、既存の統計手法では不十分だということが分かっています。

 それで私が唱(とな)えているのは、量子トモグラフィに特化した統計手法の開発をやるべきであると。スローガンとしましては、既製品からオーダーメードの統計手法へということになります。物理の人が何かこういうのが欲しいよと注文を渡して、統計の人が作りましょうと。これは絵に描くと非常に簡単なんですが、カリキュラムが全然、育ってきた背景も全然違いますので、こういうのが今全然できてないと。これをやろうとしています。

 世界の最新動向。これは非常に面白いんですが、国内では統計理論の方と物理の方で、統計理論の方が空気が温まってきている。それは一生懸命Q-statsなんかで宣伝活動をしたおかげです。一方で物理の方は、Q-stats以外の人は、まだちょっと冷ややかというか、様子見という状況になっています。じゃ逆に海外はといいますと、統計理論の人は、これは全然そういうニーズ、問題に気づいてない。それは誰も、Q-statsみたいな活動をする人がいないからです。一方で、物理の理論の人たちっていうのは、これは一部なんですが、現代的な統計理論をどんどん勉強して、使うべきだと。重要性を強く認識しています。こういう状況に今来ています。

 じゃ連携研究をぱーっと進めていったらどういうようなうれしいことがあるのと。三つあると思います。一つ目は、まずデータ数を減らしても精度が保証できるということですので、大幅なコストダウンが図れる。二つ目は、これは実験の人の話をいろいろ聞いた感じなんですが、やっぱり難しい統計手法を使うより、だったら、何か実験方法を工夫しましょうと。課題をすり替えて、違う問題に取り組みましょうということになるので、今までできなかったものを高度な統計手法を持ち込むことによってできるようになる。そうすると、日本発の先駆的な実験結果を「Nature」とか「Science」に出して、今度は逆に海外の人がそれを見て、統計手法、重要だねというふうに勉強するようになる。こういうのを目指せます。三つ目、データ数が少なくても済むということであれば、次から次へと、ぽんぽん新しい実験に取り組めますので、これは国際的な競争力の強化が期待できるということになります。

 一方で逆に、悪いシナリオ。まだちょっと壁がありますので、連携がこのまま止まってしまった場合に何が起きるか。これは試算、最悪のケースなんですが、海外で連携したときに、うまい測定方法、統計手法を丸ごと特許をとられると。これは可能性なんですが、そういう可能性があって、そうするとその測定装置、非常に高額なものを日本は売りつけられると。こういうことになって、物理で実験をやろうと思ったときに、予算の申請額が急に増えて、例えば特許料として(累積で)20億円ぐらい海外に取られるかもしれない、こういうようなリスクも可能性としてはあるということになります。

 じゃこれでテーマも決まって、連携研究をどんどん進めていこうと、こういう状況に入っていくわけです。実際、Q-statsは非常に小規模なんですけれども、連携推進方策にあるようなことはどんどん実現できています。一つ目は、まず定期的な議論の場や、成果発信をいろんな学会や研究集会でやっていますし、Q-stats自体が若い人ばっかりですから、その中で将来の橋渡し的な人材も育ちつつあると。それで更に共通で取り組めるような、みんなで取り組めるような課題というものも見付かってきたと。ですので、あとは物理の人たちと共同研究を推進していくだけと、こういうように思うんですが、答えはノーです。非常にもう限界です。だから共同研究どころでなくて、連携終了、もう泣いてしまうという状況です。

 そうすると相手は、じゃ何でということになると思います。これは個人的な理由になってしまうんですが、先ほどの水藤さんの話でもありましたが、現在の評価の状況では、自分の専門分野の中での論文を増やすことが重要で、連携研究みたいなものはまだちょっと認知が低いですから、ほとんど評価されません。ですので、そういうところよりは専門分野を深めた方がいいと。あとは、やっぱりオーバーワークですね。事務作業なんかも一人で今やっていますので、これも厳しい。じゃ人を使ってということになるんですが、さきがけは残念ながら終了して、今後、数学領域で募集はありませんので、そういうのを申請できないという状況です。で、学生が興味を持ってくれても勧めづらいですし、あとは一番悔しいのは、2年間かけてそれなりに勉強して、やる気もあった学生が、結局民間就職とか、あるいは他の大きいプロジェクトに採用されて、そこで全然違う、専門分野を深める研究に今従事していると。こういう状況になっています。

 これは問題点に対する回答ということで、事前に頂いた問題点について簡単に回答をまとめていますが、まず共同研究への橋渡しという、こういう問題点があるよと。一つは、具体的な共同研究になかなかつながらない。もう一つは、壁があるよと。1につきましては先ほどの話にあるように、スライドにあるとおりです。これに対する方策は、後で私の意見を述べさせていただきます。二つ目なんですが、壁があるという話は先ほどの水藤さんの話でもありましたように、これは、やる人たちが本気で取り組めば、いろいろ工夫は必要なんですが、ちゃんと乗り越えることはできると。ただし、すぐできるというものではなくて、時間をかけて信頼関係を構築するというのが大事です。

 もう一点、情報発信、先ほど数学キャラバンの話なんかもありましたが、ここでは量子統計の中での気持ちとして回答しておきます。そうすると、これは世界に類を見ない、新しいタイプの連携を今打ち立てている状況ですので、はっきり分かるような成功事例はないと。ですので、まず成功事例を打ち立てる。両方の人たちが納得するような事例を立てるというのが大事で、あと三つ目に、やっぱり役立つ、役立たないという議論の前に、まず生身の人間同士、理学部と工学部という関係なんですが、そういう人たちが交流する機会を積極的に作るべきだということになります。

 最後になりますが、これは私の個人的な意見として、今後の支援策として、先端数学連携ユニットというものを提案したいと思います。さっきちらっと話したんですけれども、異分野間の連携、いろいろなステージがあると思います。で、最初はやっぱり萌芽段階。これはいろんな風に、顔を合わせていろいろ議論をしていくうちに、新しい連携の萌芽が見付かってくると。特徴としましては、世界に類を見ない、量子論と現代的な統計理論とか、こういうようなものですと、各分野、それぞれの分野で非常に懐疑的に見られる。何か怪しいことをやってるというふうに見られるわけですね。で、認知度も低いと。一方、それが成果が出てくると、こういう段階に入ってくる。これは海外でももう連携をやってるよ、あるいは成功例がありますねと。それでお互いの分野で、「うん、あれは重要だ」ということが認識されていると。偉い人もどんどん支援してくれて、非常にやりやすいと、こういう状況。で、AからBへのステップが非常に大事だと私は思います。

 ほかのグラントとの関係でいきますと、やっぱり異分野間、いろんなライフステージがあって、最初は土壌を耕す。次に、そこから芽が出てきて、それが確実な成功事例を出していって、それを今度はたくさんリソースを投入して増やすと。こういう段階があると思います。で、さきがけ、あるいは今やっている文科省の連携ワークショップなんかは、ここを非常に支援してくれていると。一方で、さきがけ、CREST、あるいはもう少し規模の大きいところではKavli IPMUのような、巨大な拠点なんかはこっちの方を支援していると。ただここの部分がやっぱり弱いかなというふうに、私は考えています。で、イノベーションの鍵になるのは、恐らくこういうところなんではないかというのが私の意見になります。

 それで、これは案なんですが、これは気持ちとしてはさきがけとCRESTの中間ぐらいということで、CRESTのようなチーム体制を、余計な予算を全部絞って、さきがけ並みに落としたものというようなイメージです。で、任期は5年間で、少数精鋭のチームで、もう芽は出ているところから具体的な成果へつなげるという部分。それから、それに伴って実践的なノウハウを蓄積するということになります。

 活動内容なんですが、ここは実は、例えば先ほどのQ-statsのようないろいろな活動をやるということになります。時間が余りありませんので、ここは省略いたします。

 あと、大体、体制的にはCRESTに近いわけなんですけれども、一個工夫としましては、リーダーですね。チームリーダーに対応する人の、これは教員が兼任するというイメージなんですけれども、この人たちの雑務を軽減しましょうと。そのための奨励費用を入れておこうということです。ここがほかと違う点です。で、これは個人的な試案なんですが、余計なものは全部絞ってフォーカスするということで、ほとんど全部人件費に当てています。リーダーと事務員、あとポスドク二人、この人件費を入れて、間接経費を入れて、あと違うのは、雑務軽減で大学に支払う奨励費、例えば300万。これはリーダーの役職に応じて変動するものですが、トータル1,600万と。年間1,600万ぐらいあれば、何とかそれでつなげていけるだろうと。これを5年間やれば、何とかつなげていけるんじゃないかというのが私の計算です。

 これ、じゃ作ったら、何がうれしいのということなんですが、まず組織的な連携活動。一から連携の基盤を作っていくような部分に関して、実践的なノウハウが手に入るということ。それから二つ目は、将来、本格的な数学連携拠点ができるかもしれませんが、その詳細な設計図と、それから本当にその部分で、実際のところどういった支援が必要ですかという部分がまだ明確にはなっていないような気がしますので、そこの具体案を出していくと。それと、三つ目なんですが、さっき1,600万、出ましたけれども、あれは研究費自体は全然出てない。研究費自体は、科研費なんかで自分たちで取ってこいと、そういうものなので、本気で取り組める人たちを求めていると。だから単に書類上で、異分野間の連携をしますというのではなくて、本気の人じゃないと出てこないという、そういうことで人材の育成にもつながるし、非常にいいでしょうということです。

 これは最後、ちょろっとなんですが、これハンドアウトにはないんですが、例えば数学拠点、いつ頃作りますかというような、タイミングの議論、あると思います。例えば20年後に、20億円使ってやりましょうと。あるいは1年以内に、1億円でまずプロトタイプを作りましょうと。いろいろな案が皆さんあるかもしれません。このときに私が主張したいのは、皆さん多分いろいろ気持ちはあると思います。規模にしても、いつ頃というのもあると思います。私の案はこれです。もう明日、1万円で作りましょう。これは半分冗談ですが、この心が大事です。それは今、ある程度、橋渡し的な人材が来て、それなりに勉強して、もう連携の芽というものができていると。ここをやっぱり素早く手当てをする。迅速に支援する。これが一番大事です。ですが、例えば平成25年度から、数学領域で募集は全然ないし、さきがけも完全に終わってしまうということで、今からというのはやっぱり簡単ではない。ですが、その姿勢をアピールすることはできる。これを若手にアピールすることができる。

 今、やっぱり学生の人からすると、さきがけなんか連携連携と言ってたけれども、何も募集がないよねと。募集ないって、CRESTは今動いてますが、募集がないと、それは終わったものとして、余り認識されていません。特に今、修士で入ってきてる学生なんかに何も宣伝する材料がないので、一緒に勉強して連携研究をやってみようというのがなかなか言いづらい状況です。ですので、明日1万円というのは無理かもしれませんが、何かすぐ国が動いて、もう考えてますよという姿勢を少しでもアピールすること。今、真っ暗な状況に、ちょっとでも小さな明かりがすぐについた方がうれしい。ですので、希望の明かりと。そして、それが、例えば5年後なんかに本格的にポスドクを大量に募集しましょうと、こういったときの人材確保のための布石になるでしょうということです。

 ちょっと長くなりましたが、これで大体おしまいです。これは最後なんですけれども、今、芽の状態にあると。途中で、ちょっと量子トモグラフィで、例えば最悪20億円の損失が起きますよという話をしましたが、あれは飽くまで最悪の試算です。ですが、新しい分野というのは、今後、仮にトモグラフィでそういう危険性がなくなったとしても、また別の新しい危険性というかリスクが生じてくると。そうすると、そのたびごとにいろいろ後手後手で対策を打つよりは、新しい分野を支援して、どんどん積極的に人材を育てていく、こういうことやった方がいいということになります。

 それはこの芽の状態を、要するにここに、そのままストレートに持っていくのが一番大事であると。で、今この芽ができているところをちょっと放っておくと、若い人はどんどんほかのポスドクにとられてしまいます。すると、こうなってしまう。で、こうなってしまってから、また慌てて、何か海外で量子統計がどんどんはやってきているから日本の物理の人たちも連携をやるといっても遅い。プロジェクトを立てて、学生を集めてやるといったときに、またここから始めなきゃいけないということになってしまいます。ですと、結局すごい遠回りになってしまいますし、そもそもこれをやる人自体がもういなくなってしまう可能性もあります。ですので、できるだけ早く、こういった芽を支援することが大事だというふうに思います。すみません、かなり長くなってしまいましたが、以上でおしまいです。

【若山主査】  どうもありがとうございました。面白いお話、意欲的な御提案も頂きまして、どうもありがとうございます。
 それでは時間が余りございませんが、少し今の時点で御質問、御意見等ございましたら、お願いいたします。

【北川委員】  質問じゃないですが、大変大事な御指摘を頂いたと思います。特に数学イノベーションでは、これまで出会いの場を作るというのをメインにやってきて、その先をどう進めるかというところが今後考えていかないといけないので、御提案いただいた連携ユニットとか、タイムスケールの話とか、非常に参考になるので、文科省の方も是非よろしくお願いしたいと思います。

【田中助教】  ありがとうございます。

【北川委員】  もう一つ、別なことで重要な指摘というか、示唆していると思うことは、やはり数学イノベーションを考えるときに、バイ・マスよりも、オブ・マスですね。イノベーション・オブ・マスが重要であって、それが統計のところで言われましたけれども、ほかの分野を含めて、今正に変わりつつあるし、今後更に変えていかないといけないし、そのための連携を実現していかないといけないと思うんですね。それでちょっと前の方の話に飛んでしまいますけれど、先ほど医学で、個別化のところと一般化のところが二つあって、どちらかというと数学は右側だというお話をされたけど、実は統計では、今正にその二つ、個別化のところをつなぐっていうのが新しい課題になってるんですね。そういう意味で数学の方も今、正に変わりつつあるところだと思っています。

【若山主査】  どうもありがとうございます。ほかによろしいですか。
 それでは時間も限られておりますので、さきがけの第1期生であられて、CRESTのチームリーダーをされております、北海道大学大学院理学研究員の坂上先生に御発表をお願いしたいと思います。よろしくお願いいたします。

【坂上教授】  お願いします。こんにちは、北海道大学の坂上と申します。ちょっと慌てて来たもので、汗かいてますけれども、今日、こういうタイトルでお話しさせていただきます。前のお二人の方は割と詳細にCRESTの話をされましたけれども、私は前回、これをやるに当たって、粟辻さんから頂きました問題点とか、素朴な疑問にどう答えるかということを念頭に、今まで私がやってきた活動を少し振り返りながら答えていきたいと思っています。

 まず最初に、これまで私がやってきたこと、あるいは今やっていることの説明を、実例とともに御説明しまして、それを受けて、三つの問題点が挙げられてましたけれども、共同研究の橋渡し、情報発信、国際交流という点について少しお話をしたいと思います。細かい字を書いてしまいましたが、かいつまんで説明しますと、元々私自身は数学の出身で、応用数学なので、どちらかというと純粋数学じゃないんですけれども、こういう諸分野連携研究をやろうというきっかけを作ったのは、実は科研費です。で、平成15年に私は北大に移りましたが、そのときから実はこういう基盤研究をして、当時、企画調査というカテゴリーがありまして、これで諸分野連携をやりましょうといって、当時、今のさきがけのメンバー、CRESTのメンバーもいますけれども、その人たちと手を組んで、タイトルは「反応拡散系理論と流体理論」という、ある意味ちょっと科研費っぽい名前ですが、基本的には数学以外の諸分野、名前は言いませんが、分析科学とか環境科学、皮膚科学、理論化学と。この年、私30ぐらいだったので、30代ぐらいの若い人たち四人で集まって、数学研究者と数学以外の研究者を、二人一組、ペアにしまして、それからお互いが興味のある研究集会をやる。主に数学系、科学系もありましたが、二人で一つの問題についていろいろ語り合うという調査をやりました。

 これ非常に効果がありまして、1年間二人で行くので、問題意識を共有化したり、言葉の違いというのを理解したりという意味で、非常に企画調査の結果も良かったし、その後の連携研究の一つの形を作るという、非常に役に立ちました。

 結果はいろいろありまして、もちろんメンバーが、信頼関係があって、今でも付き合いがありますけれども、あったり、具体的にはある研究が、数理研の講究録に載ってみたり、あるいは私のさきがけ、CRESTの課題の一部が実はこの辺から走ってます。で、もっと直接的に、今同じCRESTに長山先生がいらっしゃいますけれども、長山先生がやられている皮膚科学の研究というのは、実はこのときに出てきた話です。で、彼はこれを大事に温めて、さきがけ、CRESTのテーマに選んでいます。

 その後、私、北海道に移ったときに、ちょうど21世紀COEというのをやっていまして、こういうタイトルでやっていたわけですけれども、ここは実は数学研究と、その周辺諸分野の応用研究をつなぐための事業を実施するということで、私も積極的にやりました。で、いろいろやりましたが、主にやったことが三つありまして、一つはSpecial Monthsという、テーマを一つ決めて、半年ぐらいの間でそのスペシャルプログラムを実施して、数学とか諸分野の人を呼んできてやると。いわゆる今、海外でよく行われている滞在型研究者のひな形のようなものです。ちっちゃいバージョンですけど。

 それからもう一つは、これがもう一つ目玉でして、数学の疑問を他分野の研究者が受け付けるインターフェースを作りまして、それに答えていくというプロジェクトを5年間やりました。もちろん21世紀COEでやっていますので、そんなに規模が大きくありませんから、質問を北大内に限定しましたが、その中で17件ほどの質問がありまして、いろんなレベルはありますけれども、いろいろ面白い問題が出たり、連携活動をやる上で必要なノウハウですね。チュートリアルとか連携ポスドクというような概念が出てくるに至っています。

 最後、連携連携と言うけれども、要するに研究集会があって終わりというのではちょっと寂しいので、本質的に何か真面目に研究論文、あるいは連携研究をやりたいということで、連携セミナーというのをやりました。これテーマが「乱流物理とBesov空間」という、ちょっと数学と物理の話ですけれども、これ21世紀COE、途中から始めまして、かれこれ七、八年になりますが、大体本格的にやり始めてから5年で、ちゃんと物理にも意味のある論文が出るというところまで行ったので、なかなかやっぱり連携研究で、その分野に意味のある結果を出すというのは難しいなということも経験しています。

 このことを受けまして、北海道大学の数学では、今現在行ってるWPIですけれども、に提案をしています。残念ながら結果は不採択だったんですけれども、先ほどやりました三つの活動を、ある意味で大きな巨大な組織として、滞在型研究所を作りましょうという提案です。で、結果としてはこれは不採択であったんですけれども、これを作るに当たって実効性を伴わせるようなアイデアということを求められますので、非常にいろんなアイデアを追求して、連携のためのアイデア及びそれを実現するための手法、仕組みですね。予算、全てこれでほとんど作り上げました。

 ただこれ、やっていて思ったことは、こういうのを実現する枠とか箱はできるんですけれども、じゃこれを誰がやるのかという問題に関しては、当時これ2008年かな、ですけれども、当時そんなにまださきがけもCRESTも走っていませんので、こういう人の少なさというのが際立つという結果になりました。以後、私がやっているさきがけ、CREST及びそれ以外の活動というのは、このときに出てきた問題点を自分なりに解決するためにはどうしたらいいかということを踏まえてやっています。

 で、さきがけですが、さきがけはタイトルは「水圏環境力学」ってことで、環境問題に少しタッチしてみようってことで、いろいろと、流体が私の専門なので、流体水圏というのは川とか河川とか、そういうものに対する、流れ理論を作りましょうということで始めました。これは理論の構築なので、諸分野連携を真面目にやる、本当にやるというところまでまだ行ってませんが、ただこの中で、環境というのを標ぼうしてますから、いろいろ声がかかりまして、例えば国際シンポジウムを開くと、環境問題に取り組んでいる数学者のネットワークができたり、環境問題を数学で扱うにはどうしたらいいかというところから、結構真面目に議論できたと。そういう機会を持つこともできましたし、日米先端工学シンポジウムというのをJSTさんがやられてまして、私もJSTの人として行きましたが、そこで地球環境に関するセッションがありまして、そこで非常にたくさんの人に知り合いができました。で、国立環境研の人とかも、今でも付き合いがあって、たまに行きますけれども、こういう今後の展開を目指せるような活動のきっかけにもなっています。

 あとは豊田中央研とも、企業研究所と研究交流をやったりしてまして、私はこっちの方はあんまり深く行ってませんが、ここでいろいろ得た知見というのがその後のJST、CRESTの、企業との研究というものの一つのひな形になっていると。

 で、最後にこれ、皆さんおっしゃってましたけれども、数学領域単独でやったことの相乗効果って非常に大きくて、こういう一連の私の研究のみならず、様々な諸分野の連携の在り方というのが、さきがけの研究者によって提案されてまして、それを半年に1回の領域会議で見ることで、自分の困っている点とか、越えられない壁なんかを越える一つのヒントっていうのが毎回得られたので、非常に私にとっては良かったと思ってます。

 今やっている、このCREST計画ですけれども、先ほどのさきがけの成果を受けまして、もう少し大きく、環境に絞らずに大きな枠組みでやっています。で、基本的にはパラダイムシフトを起こすための流体理論、流体数学理論を作りましょうということです。何がパラダイムシフトかというのは、ここではお話ししませんけれども、特に諸分野連携に限ってやっている活動について説明しますと、基本的にはまず連携セミナーをやります。で、ターゲット分野を決めて、その分野の人を呼んで、皆で話を聞くと。これだけだと普通によくやられてるセミナーなんですけれども、その後、研究機関、その対象となる研究分野の研究室に押しかけていって、そこの現場にちょっと長くいて、いろいろと議論しましょうという活動をしています。Laboratory Stayといって、かなり実験的にやっているので、なかなか実現するのに数年かかってますけれども、今少しずつ出てきてます。

 その流れで、アイシンAWという会社がありますけれども、車のトランスミッションを作ってる会社ですが、こちらの方と割と連携が進んで、会社の方も部屋を用意してくれたりしまして、今現在、自分たちのパラダイムシフトの一つの実例というものを作っていく活動にコミットしてくれるという形まで、今進んでいます。

 その中で、特に連携活動の実施事例として、アイシンAWには2回ほどお邪魔して、このように部屋で、この日はまずトランスミッションとは何かという説明を受けたんですけれども、そこは流体の機械ですから、流体機械、流体力学者にとっては非常に面白かったですね。で、やりました。つい最近は、これ1日で終わっちゃったんですけれども、鉄道総研というのが国立にありますが、そこの持っている、米原風洞実験センターというのがあります。ちょうど米原駅のそばにある風洞施設ですけれども、ここで鉄道の横風試験というのをやってまして、それを見に行って、いろいろと風洞に関する話を聞いたりしてます。

 これ、まだ、ほか何件かあるんですけれども、このように実際に数学の人が現場へ行って、現場の実験をやってる人と話をして、数学上の問題は何かとか、あるいは何が解決されるといいのかということを、検討を加えると。そういう活動を今やっています。

 アイシンとは非常にもっと連携が強化されていて、来年度は実際の実験装置を作っても良いというところまで行ってますので、できれば来年、それを実現したい。で、これも実は科研費ではできなくて、CRESTだからできるという、これ数学の科研費だと、多分まず当たらないので、駄目ですが、CRESTだとできます。で、最終的にはこういうのを使って実験を重ねて、理論も作った上で、新しいコンセプトを出して、それがそのいろんな問題にアプライできるような、新しい流体概念を導き出そうというのが、一応CRESTの最終目的になっています。今、ちょうど2年半が経過したところなので、折り返し地点に来てまして、来年からは少しずつ結果も出てきたらいいなと思っています。

 もう一つ、これ一つは直接課題ないんですけれども、先ほどのWPIの経験も受けまして、やっぱりきちっとした連携というものを進める方策を自分なりに構築しておこうという気持ちもあったので、北海道大学の自然史科学部門、これは地球物理とかの人たちがいるところですけれども、この研究者の人と話をして、MaeT(mathematicsとmeteorologyの造語)を作って、地球環境問題にプラスになるような気象気候という問題と数学の連携研究をやりましょうということを進めています。具体的には今、月1回か2回のペースで、必ず会うと。で、いろいろなことを話をするということをやってます。

 ここでやってる大きな活動ですけど、結構成果が出てまして、向こうの経費でポスドクを雇ってもらいまして、そのポスドクも気象学の人じゃなくて数学の人を雇ってもらっています。偏微分方程式論の専門家ですが、彼がほぼ、連携の中心として、気象のことを非常に勉強して、かつ自分の数学の勉強をして、実は気候気象における確率モデル方程式の導出を数学的に厳密化して、さらに、物理的にも妥当な確率モデルにするという成果を得たということで、これ成果の一部ですけれども、こっちが実際に観測で出てきた予測のスプレッドなんですが、こっちは理論で出てきたスプレッドで、これを合ってると言うか、合ってないと言うかは、ちょっと人によりますが、気象学の人が見ると、これ非常に合っているということで、割といい雑誌に載ったりしてまして、これに力を得て、どんどん進めていきましょうということをやってるんです。これは既に2年半ぐらいやってますけれども、2年半すると、これぐらいのことが出てくるようになりました。

 あと文科省の方でワークショップの支援をしていただいているので、そこで意図的に気象と数学者の若手の連携を生むような研究集会を実施してます。今年も12月の末にやる予定をしてますけれども、これかなり30代の若い気象学者のネットワークが、ほぼ私の知り合いになってますので、将来的にはこれを生かしていきたいと。で、たまたまですが、私4月から移ることになってまして、北大を出るんですけれども、その機会に、今ここで得たメンバーとか、この信頼感を踏まえて、海外でも実は知り合いできます。で、東大にもいます。で、京大の防災研とか理研医学研究所とかにも散らばっているので、この人たちを含めて、北大ではなく、気象学・数学連携ユニットとしてこれから大きくしていこうという活動に、今やっていこうとしています。

 これ、以上、私が現在行っている気象連携研究の概要ですけれども、問題点にお答えしますと、具体的な研究につながらないということに関しては、短期では、実は研究者って忙しいので、そもそもどっちかにコミットメントを求めるのは難しいです。ですからプロジェクトにして増やすというのが一番手っ取り早い方法だと思います。で、中期に関しては、連携ポスドクっていうのは非常に有効です。もちろんキャリアパスの問題もあるので、早々簡単にできない制度ですが、二、三年のオーダーで、この人が非常に頑張ってくれれば本当にいい連携が生まれます。もう一つは、長期ですけれども、やっぱり最後は、双方の分野が数学と組んで良かったなと。組むべきであるという概念というか、一つの何ですかね、価値の共有が必要だと。時代背景とか資金的なインセンティブがあれば当然いいんですけれども、それ以外に、数学も諸分野連携をやった意味があるし、諸分野も数学と連携をやって何か意味があるんだというものを作れていくような環境づくりが大事かなと思っています。

 そういう意味で、CREST、さきがけの人が口を酸っぱくして連携が大事だと言ってるのは、非常に意味のある活動だと思います。

 あと言語の壁、時間の壁、文化の壁ですが、これ自体は、私自身が今10年以上いろいろやってきましたが、会った時間と議論した時間に比例して理解は進みますので、こういう時間が作れるということが大事だと思います。あともう一つ、若い人ですね。やっぱり年齢が上がってくるとどんどん頭が固くなって、異分野に対して時間を割くような余裕もないので、若いポスドクとか、学位を取れてるぐらいの人が異分野に対して余計な壁を作らないような雰囲気を作るのが大事です。これはいわゆる、今はやりの分野融合ではなくて、例えば数学の側(がわ)でいうと、数学がしっかりできる人がそういう多分野のことに、余計な壁を作らずに自然に入っていけるという時間が必要だと。もちろん、あと技術的には計算機の力とか、概念を提案せなあかんというような、ある種のちょっとメタな能力ですね。具体的な能力が必要ですので、こういう力を身に付けていかないといけないでしょうと。

 経費についての話も出てましたが、基本的に、私JSTも科研費も全部使ってますので、COEやGCOEも使ってますので、ほぼ経費、何でもやろうと思えばできます。要するに本気度の問題で、ただ枠がないとできないので、何らかの枠は絶対に欲しいところです。研究費ドリブンな連携もあるんですけど、先ほどの気象の場合も同じで、問題解決のために連携しましょうという人は何人かいて、そういう人たちと地道にやってると、研究費獲得のレベルに達する時間は、普通にやれば出てきますので、こういうのをやり続けるということが大事かなと思います。あとは本気度ですね。これは田中さんもおっしゃってましたが、本気度がないと、こういうのは進みません。

 あともう一つ、数学的な意味でいうと、連携研究っていうのは普通、チーム的な研究が不可欠です。で、数学というのは、伝統的に個人がやるものとなってますので、こういうチーム的な研究というのは不慣れです。だから雑務が多くなったり、あるいは不手際が多いですけれども、こういうことを進めていくためにはリーダーになるような人を養成していくということも考えていく必要がありますし、ある意味でさきがけやCRESTを経験した人は、これを実感として持っているので、そういう候補になっているのかなと、私は考えています。

 問題点、その2が、情報発信ですが、数学が役に立つという認知度は低いと書いてあったんですが、これは正しくなくて、多分多くの人は数学は役に立つと思ってると思います。ただ、そこにいる数学者が役に立つかと言われれば、それはどうかなというのが、確かに……。だから目の前にいる誰かさんが、数学やってるAさんが意味があるかどうかということに関する認知度が低いんじゃないかと。中身が伴ってない、見た目だけの連携というのは、結果として信頼感を損なうので無理だと。真剣にやってる人を、姿を見せる必要があると。

 もう一つは、21世紀COEの経験からですが、実際に数学を使って問題を解決したいと思ってる人は本当にたくさんいます。本当にいます。ただし、その要求される数学のレベルというのが幅が広いスペクトルなので、数学者がこれは数学的に面白いと思う問題というのは、ほんのわずかです。8割以上は数分、あるいは基礎的すぎて回答するのもどうかというぐらい簡単なものだったりします。ただ、そういうのを切っていては、はっきり言って連携は生まれません。信頼度というのは非常にそこから生まれるので、丁寧な仕分けをやって、それをレベルに応じて対応していくことで信頼感を作りながら、数学的意味がある研究をしていこうというのが大事だと思います。これ実は、北大COEとかWPIで、正にこれをやろうと目指したんですけれども、残念ながらこれは実現されていません。

 あと単発的な講演会ですが、これは本当に意味があんまりないです。21世紀COEでいろいろやりましたけれども、やっただけでは、それで終わりです。で、世界の連携研究を行っている研究所がありますけれども、ここで単なる講演会だけやってるところはほとんどありません。実は私が今やってる研究集会は、ほとんど講演者も事前打合せにして、資料の提供を求めて、コアになる人が事前に勉強会をします。それぐらいやって初めて効果が出てきますし、講演会の開催後のケアも非常に大事です。やったらやりっぱなし、情報提供した人に何もフォローしないというのは、それは二度と来てくれませんので、その後もちゃんとフォローしていくための関与を今やってます。そのための連携ユニットを作ったりしているわけですけれども、こういうきめ細かいケアがないと、なかなか諸分野連携というのはできません。

 あと、その事例ですけれども、まさに今我々、CRESTっていうのはその責務を負っていると思いますので、それは私は頑張ってやらないといけないと思っています。

 あと国際交流ですけれども、私自身の経験としましては2000年、ちょうどこれは平成15年になるんですが、私としてはエポックメーキングの年になってまして、アメリカのUCLAにある応用数学研究所ですが、に行って、1年間滞在しています。そこでいろんなことを勉強してきました。今の所長は実はそのときのホストだった人で、いろんなことを教えてもらいまして、アメリカもちょうどこのころは連携活動にかじを大きく切るタイミングだったので、非常に勉強になって、結果として北大に行きたくなった理由というのも、ここでの経験があったからです。あとは2008年にNewton Instituteですね。で、ロングタームプログラムに参加しました。ここでも非常に活発な連携研究があって、勉強になりました。ある意味、行くと非常に勉強になります。

 もう一方で、国際研究所のネットワーク形成というのは、これは意図的に今やってまして、先端シンポジウムで得た人っていうのは同窓会も今構成されていて、比較的強いつながりがあります。で、国際研究集会をやってはみるけれども、一番の問題点は、講演者以外に外国人が来ないので、あんまりやっても、うれしいのは主催者だけで、世界的なプレゼンスがないなと、ちょっとこの辺の問題点はあると思います。

 あと今現在、世界の私の周辺の分野の人たちを見ていても、欧米含めて、日本の研究者も含めて、世界的ネットワークを作るということが、ある意味で予算と関連して求められていますので、私の方から働きかけていくとかなりレスポンスがありますので、こういうものは積極的に作っていこうとして作っていかないと、なかなかできないだろうと。

 あと若手の海外派遣についても、コメントがありましたけれども、実際経費はいろんな意味でばらばらなんですが、今、北大数学の助教の方を、私がやってる連携研究に近い大学に行っていただきまして、そこでエフォートの何パーセントかを押さえてもらって、ケンブリッジの方は今CRESTの方ですね。メリーランドの方は気象連携ですが、各研究所との交流を深めてもらって、やってます。まだCRESTのポスドクも実は3名いるんですけど、2名が外国人ですので、自然に外国人から来るので、やっぱり海外の人が来たいと思うプロジェクトが大事だと思うので、こういうのを作ろうというのを意図的にやっていって、効果もあります。

 で、問題点に対する答えですが、先行している海外の研究機関にどうしたらいいかということですけれども、そこに行くのは非常に意味があります。漫然と行ったら意味ないですが、行くこと自体に意味があります。連携研究というのは経験も大事です。特に人間関係重視の研究が多くなりますので、人間関係がうまく構築できない人はなかなか連携もうまくいきません。そういう意味では効果があると思います。で、諸分野が連携研究を行っている研究グループごと行くというのが意味があると思います。ただしこの場合は、本務を休めませんので、なかなか難しいですが、私のところでは一応計画では、それを最終年度でやりたいと書いてますが、それは神のみぞ知るという状態です。

 あと、単に研究者の派遣、招へいだけでは不十分かですが、やっぱり十分とは言い難くて、行くからには事前事後の、入念な調整は必要でしょうと。なぜ行くのかと。何を学んでくるのかと。あとミッションが明確になってないと、漫然と海外で楽しく過ごすだけになっちゃうので、意味がないです。で、これが行ったことによって、彼らの将来、キャリアパスにプラスになるということをある程度考えて、制度設計をしてあげないと、なかなかうまくいかないのではないかと思います。

 あと、海外研究機関との共同研究ですけれども、先ほど言いましたように、海外もそういう国際ネットワークを求めてますので、日本がそこに入っていくことは重要です。やらないといけないと思います。ただし一方で、連携する数学研究というところにちょうど当てると、組織力とか人材の豊富さにおいて日本はかなり後れているという認識があるので、これ共同と言えるかどうか、ちょっと不明です。この非対称性を解消していくということが急務ですし、実はJSTの数学領域が立ち上がることによって、かなりの人がこういう研究に興味があるということが分かってきましたので、これ自体は徐々に解消されてるのではないかと私は考えています。

 あと、日本の数学者、これも実はCOEとかWPIのときにいろんな人に聞いたことの、コメントを集めたんですけれども、彼らが言うには、日本の数学者というよりは日本の企業とか、そういう技術というものに、数学者として知りたいとか、連携したいという人は、結構数学者の中にも多かったです。これは今もアプライするかどうかはちょっと分かりませんが、少なくともWPI計画時は、日本の技術、中には面白い、共同研究の種があると思っている数理科者、連携がある応用数学者ですね。多かったのは事実ですので、こういう点も解決した方がいいかなと思います。

 最後ですが、連携研究に効果ある方策として、まずポスドクは非常に有効です。使い方にもよりますが、有効です。で、若い数学者を連携研究に向かわせる展開も必要で、今の制度だと大学院教育というのはかなり専門化が激しいので、数学科に来る学生というのは数学が勉強したいと。一方で、その結果としてか、それだから数学なのか分かりませんが、諸分野に関する関心の希薄が著しいと感じます。物理が嫌だから数学をやるとかいうことを言う人もいるぐらいなので、その辺が問題だなと思ってます。

 一方で、数学が進出すべき諸分野問題というのは非常に多いです。特にバイオ、環境ということは、とっても、非常に山のようにあるので、数学自身をリッチにするという意味でも、こういうことにアプライしていく人たちがたくさん要ります。そのためにはマスが必要だなと思います。

 もう一つはキャリアパスの話が出ましたが、特に日本が世界と違うなと思うのは、国研レベルで、その研究所の中で、研究の数理的バックアップを行う数学者集団というのは余りないですね。それはシステム化されて、そういうグループがあって、雇用されてるわけでもありません。一方でNASAとか、NCARとか、NIHという、アメリカの大きな研究所には必ず数学をやってる人がいます。いるのが当然のことなので。こういう仕組みがちょっとでも整うだけでも、随分キャリアパスってのは改善してくるんではないかと思います。

 あと拠点形成ですけれども、拠点はもうちょっと、作るには非常に考える必要があって、世界のポスドク、世界の研究者が来てみたいと思う拠点を作らないことには、なかなか箱物では、日本国内で閉じてしまってよくないだろうと。内容と形式を同時に世界レベルに引き上げるのは困難ではあるので、一つ一つ問題を潰しながらやっていくと。人材輩出と、その内容をよくしていくということですね。

 あと教育は、ちょっとここは場にそぐわないのかもしれませんが、海外で、なんで応用数学者が多いかというと、大体Applied mathとか、Statistical ScienceとかStatisticsですかね。大体Mathematics and statisticsという、並列記している大学が多いですね。だからこういうのを専門に教える学科というのが、学部レベルで結構存在しているので、こういう四つのカテゴリーというのは割と同時進行してます。日本は大体ここか、ここ、ここはもうここばっかりな感じがしますね。その辺の、教育の面での多様化というのもあった方がいいのかなという気はしています。以上です。どうもありがとうございました。

【若山主査】  どうもありがとうございます。それでは今の御講演に関しまして、御質問等ございましたら、よろしくお願いいたします。
 国研レベルでなくても、海外ですと、企業で普通に数学者の集団がいるのは事実です。数学者って、広い意味でですけれども、どちらかというと学位を数学系で取ったという意味ですけれども、IBMはもちろんのことながら、当然グーグルやマイクロソフトはそうでしょうし、航空機産業なんかもエンジンの製造部門だけではなくて、別の部門にもいらっしゃいますし、もちろんエンターテインメントの世界にも多く数学出身者がいます。もちろんストックマーケットに近いところには大勢の数学出身者がおります。そういう意味で、随分と状況が違うことはたくさんありまして、私は人材育成の面でいろいろと活動したり、考えたりしてきたんですけれども、今の先生のお話を聞いて、非常に共有する部分が多いなということを実感しました。

 何かございませんでしょうか。それでは、どうも野水様、水藤先生、田中先生、坂上先生、お忙しい中、お越しいただいたということもそうですけれども、非常に、私が言うのも変ですけれども、準備に時間をおかけになったんじゃないかと思いますが、いろいろ御提案くださいまして、より突っ込んだ、私たちのこのイノベーション委員会でも話ができていくんじゃないかと思います。どうもありがとうございました。
 また御都合がよろしければ、今日もこの場に残っていただきまして、この後行われる議論、余り時間ないんですけれども、もし御発言いただいてもよいかなというふうに考えております。どうも、まずありがとうございました。
 それでは、ただ今の御発表の内容等も踏まえた議論に入りたいと思います。事務局から事前に御準備いただいている資料がございます。ごく簡単に、粟辻さんの方から。

○粟辻融合領域研究推進官より、資料4について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。今後の、今からの目的は、中間報告は既にございますが、最終報告案の取りまとめに向けて今回、それから次回というふうにやっていく、それが目的です。そのために今日もサジェスティブな、そして御同感いただけることとか、たくさん御講演も頂いたわけですけれども、時間も余りございませんので、ゆっくりした議論はできないと思います。ただやはりポイントになることは、少なくとも、今日議論が収束するということは分かりませんけれども、お出しいただいておくと、最終案に盛り込むときに役立つと思いますので、どなたからでもよろしいですから、御意見をお願いいたします。

【中川委員】  1点よろしいですか。連携の場合の成果とか、成功事例という話はあるんですが、それは何をもって成功と言うのかという、その辺の定義ですね。僕は論文だけが評価対象じゃないと思うんですね。

【若山主査】  それは今日、三村先生からお話のあった評価という問題と、ほとんど同じところであると思うんですね。

【中川委員】  その評価も、企業から見た評価と、アカデミアからの評価は、違うと思います。

【若山主査】  はい。ただ、いずれにしても、違うとは思うんですけれども、ポジティブな評価というのはやはり間違いなく評価であると。そう思うんですね。で、その評価を、今度は評価のみならず、評価をどう反映していくかというのが、また次に別のところにあったりしますし、あるいは評価というものが例えば若い人たちのその後の、簡単に言うと職ですよね。そういうものはある意味じゃ分かりやすい評価であって、難しい評価でもあるわけです。で、すぐに評価されないことをやるということも大事なのかもしれませんけど、新し過ぎて誰も分からないということはありますから。しかし、どこかでいずれ評価されることをやるということが、それは今の社会の枠組みの中での産業界での評価であったり、学術的な意味での数学での評価かもしれませんし、いろんな評価があると思うんですけど、それすべて大事だということは、ほぼ疑いないと、個人的には考えています。ただ、私がお答えするようなことだったのかどうか、分かりませんが。
 何か、このことについても御意見を交換していただければと思いますが。

【宮岡委員】  例えば、生産性が上がったようなことが起こったと仮定すると、企業にとってはものすごく高い評価と思うんですけれども、それが例えば数学の方にはどうやって伝わるかとかいう問題はありますよね。

【中川委員】  そうですね。その前に、生産性が上がった効果に、数学の寄与がどれだけあるかということを、どう示すかというのが非常に重要です。それができていればフィードバックは何らかの形で行われると思います。

【宮岡委員】  個人的には、そういうことがあって企業へ就職する方が、数が増えれば、一番接触の機会が増えることによって、またそれが触媒となって新しい交流も増えるんじゃないかと。数を増やすのがまず最初の、一つの大きなファクターじゃないかというのは感じてるんですけれども、いかがでしょうか。

【若山主査】  そうですね。先生がおっしゃるような形になってくると、要するに評価できる人が増えるわけですから、そこはとても大事ですね。年をとると頭が固くなるので、もう駄目だというふうなことをさっき、スライドの中に書いてあったので、難しいなとか思ったんですが。

【三村委員】  ちょっといいですかね。今のに関連して、直接的ではないかも分からないんですけれども、例えば僕の経験でいうと、大体20年ぐらい、10年か20年前ですと、僕が数学に行ったときには、数学はある意味で一人でやるんだということだけど、今日のその坂上さんの話でしたか、グループでやるということ。やっぱりグループでやる研究を続けていくと、それの教育もやっていくと、そうするともう少し立場の大きなところで物が見えてくるんですね。だからそういう人たちを増やしていくと、数学でも、いろんな評価というのがある程度見られると思います。それを1本しか見てきてなかったんだから、なかなか難しいわけなんですね。だからそういう共同研究で、実績を作る人を増やしていくと。それが今回のこのイノベーションじゃないかと僕は思ってるんですけれどもね。

【若山主査】  ごく最近、一月ほど前に、ブラウン大学に1年半ぐらい前にできた、実験とそれから計算の数学の研究所っていうのがありまして、そこの所長のJill Pipherさんという女性の方が九州大においでになったんですけれども、彼女の講演の中にもありましたが、彼女自身は元々は関数解析出身で、その後、確率論なんかにもかなり造詣があったみたいで、いろんな話を近くの人たちに話しかけられて、外の世界を見て、現在は割と有名な暗号の研究をされている方なんですけれども、純粋数学であっても統計的に見ると共同研究というのが急激に上がっていると。というので、今は純粋数学の話をする場ではありませんけれども、やはりチーム研究というのはちょっと、最初から純粋数学の場合チーム研究をやってるかどうか分かりませんけれども、ある意味で人と交流しながら物事を進めていくっていうことは、数学の世界でもかなり、狭い意味での数学の世界でも普通になってきていると思うんですね。
 ただ、おっしゃる意味が、それを超越した意味であることは、もちろん私も理解しているつもりですけれども、やはりしっかりした交流の機会が大事で、そのときにその交流っていうのを、そんなに簡単に何かできるわけではないし、最初は周到な準備とか、最初は共感を持ってというのが多分出発点なんでしょうけれども、そういうふうに進めていく。だから評価があって何かが進んでいくというのではなくて、何かがあってから評価とか、やっぱりぐるぐる回転しているような気がするんですね。ですからその意味でちゃんとした機会を作っていって、それをサポートする心の広さみたいなものとか、国の予算措置とか、そういうものがあると……。それが多分、今回、数学イノベーション戦略の最終報告書にも大いに盛り込まなければいけないことなんではないかと私は考えます。

【三村委員】  スペインのマドリードにね、いわゆるコンプルテンセなんですけれど、そこにInterdisciplinar Matematicaの研究所があるんです。だから僕は学際数学研究と呼んでるんですけれども、そこはものすごくクリアなんですね。まずバックグラウンドが数学じゃなきゃいけないと。ただし研究対象はいわゆる宇宙工学とか、生命科学なんですね。それを研究対象にしていると。そういう非常にある意味で面白い研究所があるんですけど、一つの今回の参考事例になるんじゃないかと思うんですけどね。

【若山主査】  そうですね。ある意味では、日本の状況が後れているというのはちょっと言いづらいんですけど、ただ、これだけいろいろと良い例というのが世界に散らばってるわけですから、良い例は学ぶというのが大事なのかなと思いますけれど。
 ほかにございませんでしょうか。もし先生方も、何かここで、さっきは言わなかったけれど言っておきたいということがございましたら。

【粟辻融合領域研究推進官】  多分皆さんの話で共通するのは、若い人をうまく育成していかなきゃいけないということで、そのために連携のためのポスドクを雇用して、それを活動の中核に据えるということが、研究の上でも、あるいは多くの人に知ってもらうという意味でも重要だということなんだろうなと思いますけれども、問題はキャリアパスがあるのかどうかということが、一つの問題で、例えば田中先生とかおっしゃっていたように、キャリアパスの問題があるから学生にはなかなか勧めづらいみたいな話があろうかと思うんですけれども、それを逆に言うと、どういう環境整備があれば学生に勧めやすくなるのか、あるいは何かこういう例が身近にあれば勧めやすいとか、そういうものがありましたら教えていただけませんでしょうか。

【田中助教】  さっきちょっとそういう話が出たんですけれども、評価する側の体制を、大学とか、変えていくというのはすぐにはできないと思いますので、何かポスドクというよりもバッファですね。一時しのぎでもいいので、5年間ぐらいは雇えるというのがいいかなと思います。というのは、さきがけは私は3年半でして、で、連携の活動を一から始めると2年ぐらいかかって、その間に学生をちょっとそそのかすというか、勉強させたりしていると、それでドクター取って、じゃポスドクになったときに、私はさきがけ、あと半年しかないからちょっと無理だねとか、そういう話になってしまって、結局ほかのポスドクにとられて、専門性を深めるという方向に行っているということなので、つなぎといいますか、まずとにかく体制。
 これ、並行してやることが大事だと思います。これ5年ぐらいだったら、例えば最初2年ぐらいはみっちり。今、新しいことをやろうと思うと、どうしてもカリキュラムができていませんから、若い人に、例えば統計の人に物理を教える、あるいは逆に物理の人が私のところで統計を教わると、これはやっぱり2年ぐらいはかかると思います。それで初めて、連携研究の戦力として使えますから、その上で、あと3年かけて成果を出すと。そこで、私の案としては、まずはとにかく実績。端から見てもそれなりに、小さくても連携の成果と見えるもの、統計と物理の両側から評価されるような実績を出すというところをやると。そうするとやっぱり5年ぐらい。4年ぐらいで、ある程度の論文が出てきて、5年目は無事にほかに移れると。
 そういうようなキャリアプランを考えると、従来のさきがけでやると、3年じゃ短過ぎますというのが私の意見です。で、5年で、あとそれだけを単体で、例えば数学領域みたいなものをまた作って、さきがけを今度は5年でやりますというのだけを延々とやっていっても、今度はポスドクは増えるけれど、その後のテニュアトラックが全然ないよということになりますから、私はそれと同時に、テニュアトラックの定着普及事業って今やられていると思うんですけれども、あそこの部分をもうちょっとうまく工夫できないかなという気はしています。
 テニュアトラック、私が調べた感じですと、大学側が申請して、そのお金をもらって採用するという形なんですが、そこをちょっと、それは大学側の都合で、欲しい人材ですから、連携を進めている人材をテニュアトラックで採るような事業を新たに付け加えるとかしていって、テニュアトラックというようなキャリアパスの整備と、まずは異なる分野の勉強して修行を積むためのポスドク雇用と。両輪の体制で進めていってほしいかなと思います。まだ、きちんと調べ切れてませんが、何となくそんな感じなんです。

【若山主査】  ありがとうございます。テニュアトラックとか、今度労基法の改正があって、どこの大学もいろんな混乱があると思うんですけれども、良いところも、もしかしたらあるかもしれません。テニュアトラックということとかですね。ただいずれにしてもやはり、数学バックグラウンドですね。先ほど三村先生がおっしゃっていたように、バックグラウンドは数学で、やることはこうだと。で、そういう方たちが、やはり日本のアカデミアでのポストというのは、多分そんなに増えることはまず当面なかろうと。そう考えると活躍の場所っていうのが別に必要で、産業界、欧米を見ましても、同じようにあるはずであると思いますと、そちらもあるし、それからまた数学バックグラウンドの人が、そちらで研究者として過ごされて、そのチーム研究での力を発揮されて、また大学等へ移っていかれる、そんなサーキットも少し出てくることが……。
 例えば工学部にそういう先生が、数学科出身であっても、最終的に工学部に行かれて、何か御専門で学生を育てるということになれば、数学の側(がわ)からは、あの人は数学なんだと思ってもいいし、工学系から見れば、工学の人なんだと。二重に思えば、人が活躍する場所は増えていく可能性もあるかなと思うんですね。
 ポスドクに関して言うと、本当にポスドクだけを増やすと、皆さん御承知でしょうが、私ちょっと大学で今、九州大学の試みで、新しい人事をやっているんですけれども、それで物理であるとか化学であるとか、あらゆる範囲の人事に関与してるんですけれど、やはり物理、それから生命科学となると、一つのポストで100名ぐらい、あっという間に応募されてきます。ですからそういう意味では、アカデミアの職っていうことだけ考えていきますと、ポスドクが多いということが、余りポジティブになってないところもありまして、しかも教育経験がないという方もたくさんいらっしゃると、今九州大学で募集しているようなポストではなかなか採用できないということもあります。そんなこともちょっと考えて、広い意味での数学を考えていかないといけないなと理解しているところです。

【三村委員】  文科省とある程度そういうことをやってる各大学と話し合って、例えばそこの特任を、何とか予算をかき集めて、ポストを作って、それは実はこういうことをやるんだよということで、一応公募してもらうとかね。ある程度方向性を言わなかったら、なかなかそこは育っていかないと思うんですよね。で、生命科学なんかも、それを多分やろうとしているんですけれどね。数理科学が大事だということで。

【森本研究振興局審議官】  よろしゅうございますか。ほかの分野の数学へのニーズはものすごく高くて、生物科学でもバイオインフォマティクスの人が足りないということは、ライフサイエンス委員会でも常に話題に上るんですね。それから地球環境の問題でもシミュレーションを更に高度化するためには、単純にそのメッシュの切り方を細かくすればいいということではなくて、特異点の処理とか、あるいは分割の方法とか、そういったことを解決しないと、もうこれ以上行動できない。さらに、ビッグデータの時代なので、これをちゃんと扱える人を増やしていかないと、社会全体で世界に後れてしまうという、すごく危機感がまん延していまして、いかに数学者のポテンシャルを活用していくかというのが、国力に直接関わってくるような状態になってきているんですね。
 ですから我々としては非常に焦っておりまして、正に数学者を即戦力としてどんどん活躍していただく場を作っていかなければ、本当に各分野が後れてしまうということで、そこにものすごい活躍の場が開けているふうに見えるわけなんです。ですから、そういうメッセージを是非、大学の数学科の皆さんにもお伝えしたいですし、そういう場を作りたいわけなんです。先ほど、共同研究という御提案もありましたが、そういうものを具体的に本当に困っているところに集中的に配置をしていくというようなこともあり得ると思いますし、それで新しいキャリアパスを作っていかないと、今までの単線ではどうしようもないということだと思いますので、その大きなグランドデザインを描いていくことができればいいなと思っています。

【若山主査】  どうもありがとうございます。時間はちょっと過ぎてしまいましたが、何か、今日の最後に御発言、もしございましたら。よろしいでしょうか。

【安生委員】  私は産業側の立場でずっと参加しておりますが、今日の評価のお話について発言させていただきます。例えば大学で勤めるという意味で言えば、その人の実績がその分野でどう評価されるかという問題はすごく大きいと思いますが、我々からすると、評価の問題はもちろんあるものの、結局産業側でもいろんなポジションがあったり、数学の人が活躍する場所が増えれば、自然にそちらに行きたくなる人も増えると思うのでし。つまり、アカデミアだけで数学が閉じるものではないのではないかと。もちろんいろんな意味があるでしょう。閉じた部分もあってもいいですし、そうではなくて産業に密着した部分もあってもいい。数学の問題ってどこにあるか分からないわけですから。そういう意味で産業側としては、数学の人材がいろいろな分野で欲しいです。
 ですからお互いに、産業側とアカデミア側で、そういう認識自体をうまく合わせていくような努力というのもやっていく必要があると思います。共同研究というのは一つのデモンストレーションになりますし、実質的な活動でもいいと思います。CRESTのような産学が一緒に活動できる機会もう少し増やしていただけるといいなっていう気がしますね。だから数学の必要性は、産業側にも一杯ありますということです、実際に。

【若山主査】  ありがとうございます。
 それでは今日は時間がございませんので、次回にまた御議論いただくということで、続いて事務局より参考資料等と、今後の予定につきまして説明をお願いしたいと思います。

○事務局より、参考資料及び今後の予定について説明があった。

【若山主査】  どうもありがとうございます。それでは今日は長時間、どうもありがとうございました。まだ少しありますけれども、良いお年をお迎えください。それでは来年もよろしくお願いいたします。

―了―

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