数学イノベーション委員会における人材育成関係の議論の概要について(第21回~第25回での主な御意見)

1.大学における数学と他分野の交流促進

副専攻等

  • 数学専攻の学生が在学中に数学以外の分野にも触れられるように、副専攻のようなものがあっても良い。
  • 学生の専門分野によっては副専攻の講義についていけないこともあるのではないか。しかしながら専門分野が異なる学生向けの基礎的な講義を別途設けるのも、教員に余裕がないので難しい。
  • 副専攻に学生を引きつけることはできているが、受講者に占める修了者の割合をどう高めていくのかも課題。
  • 副専攻を修了する前に就職活動が始まり就職先が決定してしまうことから、副専攻修了を就職活動で活用できないので副専攻修了のインセンティブが弱い。
  • 学部1、2年段階において様々な分野の先端となるトピックスに多く触れておくことで将来大学院で他分野に接することになった時の障壁を下げるような教育が必要。
  • アメリカの例で、企業が解決したい数学の問題を教授が受け付けて、期限を設けて学部学生グループに解かせるという試みがある。学部学生にとってはそれまでに学んだ知識を使って現実の問題を解決する経験やプレゼン能力の向上という教育効果があり、大学と企業間の関係も密になるので日本でも実施できたらいいと思う。

他分野での研究

  • 数学博士号を取得した後に産総研などにインターンシップなどで一回出ていって、自分の知識を活かせる場がいろいろあることを知るチャンスがあるとよい。
  • 諸科学の研究室に行くルートを促してもいいと思う。
  • 企業の研究開発段階で、数学的アプローチを入れ込むことを発案できる者が社内に不在。この問題を打破するためには、物理専攻学生に卒業前に純粋数学の威力と効果を実感させる講義を聴かせることや、就職後に講演会を催すことが効果的だと思う。

社会人の受入れ

  • 産業界の学び直しの仕組みが必要。
  • 社会人博士課程学生は、大学の研究室と企業の双方にとってメリットが大きい。

ビッグデータ時代への対応

  • アメリカのBest Jobsのトップに数学者や統計研究者、データサイエンティスト、アクチュアリー等が入っているが、アメリカと日本との産業構造の違いも考慮すべき。
  • 日本は製造業中心で、現場主義で物理法則を重視する。IT主流のアメリカではソフトウェア中心であるという点が違う。
  • 日本のものづくりもスマートに行うことが必要となっているので、数学は不可欠。
  • データ科学の社会的位置づけが学生にはよく見えていない。
  • 生物工学の学生でもデータ科学(例えば機械学習)のコースに関心を持つ例はある。
  • データ科学そのものの教育は難しい。アルゴリズムや原理は教えられても、与えられた問題をどういう関係性でマイニングするかなどを教えるのは難しい。様々な分野のトップレベルの先生から(ある程度解決策が分かっているような)問題を出してもらい演習をすることが必要。語学力も重要。

その他

  • 産業競争力懇談会(COCN)の人材委員会でも数学や物理の基礎教育が必要であると指摘されている。
  • 教員の教育も必要。自身の専門以外の分野で何が起きているかを少しでも把握できていれば、学生にも伝わる。

2.数学イノベーションの実践の場への参画を通じた人材育成

数学イノベーション拠点における育成

  • 大学の数学や数理科学専攻以外、例えば理研にも数学のPIがいれば若い人の流れは自然に生まれると思う。PIは専任である必要はないので、クロスアポイントメントの活用などが考えられる。
  • 数学専攻の若手研究者にとって、身近に専門(数学)を評価してくれる上位者がいないことへの不安感を払拭するためにも、外部評価の仕組みを取り入れるべき。

3.数学選考学生の企業へのキャリアパスの構築

  • 博士号取得者のうち、期限付きのポストに就いている者が多いのが問題。その後のキャリアパスについて議論されるべき。
  • 博士課程修了者の産業界でのポジションが非常に少ない。日本の企業が世界のトップ3に入るような業界でないと、基礎研究のために大量採用するような状況は望めない。
  • 企業では、製造現場や研究現場の人と自らコンタクトして潜在的ニーズを見つけ、テーマを構想し、計画を立てて人や予算を集めて実現できる能力が必要。
  • 企業が新しい分野に取り組む際にはコンサル会社に頼るのが一般的だが、純粋数学に強いコンサル会社が非常に少ないのが問題。
  • 純粋数学の場合は物理や化学のように技術面接で企業側が学生の能力を評価することが難しい。数学独自の能力のアピール方法・評価手法が必要。
  • 数学専攻出身者が社会で活躍している例をロールモデルとして数学専攻学生に伝える仕組みがあるとよいと思う。
  • 企業が数学との協働によって成果を上げたことを、産業界向けに企業の言葉で話していただくような仕組みができるといいと思う。
  • 産業界に精通しているキャリアアドバイザーを文科省の事業として養成する必要があると思う。
  • 企業で働くきっかけとして、「企業ポスドク」のような制度(博士課程修了者を3年間程度雇用し、企業と本人のマッチングができればその後本採用される制度)があると良い。
  • 理由は分からないが、学生がインターンシップに出たがらない状況があるように思う。

4.「数学」に対する意識の変革

 

5. その他(育成する人材のタイプなど)

数学と諸科学・産業との橋渡し人材

  • 産業界が持ち込む問題に対してどのように数学的アプローチをするかを考えるトランスレーション機能を担う人材、産業界が持ち込む問題を適切な数学者につなぐインターフェース機能を担う人材(合わせて、コーディネーション人材)を、産学の中間地点に組織的に専任で置くとよい。問題を持ち込みやすい環境を作り出すことで、数学出身者を擁していない企業も入りやすく、数学を効率的に産業界にアウトリーチできると思う。
  • また、この組織構成としては、経験を積んだシニア人材1~2人の下にジュニア人材が複数いる形がベストだと思う。ジュニア人材は最終的に数学者になるのか、コーディネーションの道に進むのか自分に向いている方向を模索できるように、異分野交流のコーディネートをしつつ、自分の研究もしっかりするのが望ましい。
  • 数学のバックグラウンドを持ち、諸科学・産業に出て行こうとする人を育成すべき。このような人材がある程度の集団になれば、諸科学・企業で働く数理人材や、数学関係分野で活躍する人材が出てくる。

特定分野で活躍する数理的人材

  • 他分野出身でも数学に従事している人がどれくらいいるかが重要。アメリカのSIAM(産業・応用数学会)では、数学者だけでなく、コンピュータサイエンスや機械工学の人も入っている。
  • さきがけ「数学協働」領域(平成26年度開始)への応募者の多くは数学科出身者以外であり数学への関心の高さを感じる。一方で、純粋数学の人からの関心が低いのが問題。
  • バイオインフォマティクスでは5年先にはどういうデータのどういう解析をしなければならないのかを見越して自分で課題を見付けて形式化できないと、単なるお手伝いする人材になってしまう。

必要な人材像

  • 数学に限らず分野横断的科学(データサイエンス、制御、シミュレーション科学など)にも共通して、シーズドリブンの人材だけでなく、ニーズドリブンの人材の必要性が高まっている。
  • バイオインフォマティクスの場合、ニーズに合わせ過ぎて大きなブレークスルーはなくなってきている。例えば数学のようなシーズから行った方が新しいことができるのではないか。

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