第2章 3.科学技術外交の強化による地球観測体制の確立

 我が国は、「推進戦略」及び「10年実施計画」を踏まえて、アジア・オセアニア地域との連携の強化による地球観測体制の確立に向けて取り組んできた。
 しかしながら、第1章の2.基本的考え方にもあるとおり、現在、気候変動に関する観測データ及び文献の地理的分布に偏りがあり、アジア・オセアニアのみならず世界各地に空白域が存在しており、このことは将来の気候変動とその影響の予測を不確実なものとする可能性がある。また、開発途上国における気候変動の影響は深刻であり、食料輸入や海外渡航を通じて間接的に我が国にも影響を及ぼすことも考えられる。
 さらに、総合科学技術会議が本年5月に取りまとめた「科学技術外交の強化に向けて」において、アジアのみでなく、アフリカなどの開発途上国の発展に我が国の科学技術力の果たす役割は非常に大きく、開発途上国側からも我が国の科学技術力を使った支援や取組に関する期待は極めて高いと指摘されているところである。
 また、欧米先進諸国およびアジア・オセアニア先進諸国では、国際政治における自らの地位を高めるための重要政策として、地球環境問題に関する科学技術協力をアジア・アフリカ・オセアニア地域に残る発展途上国に対して開始しつつある。
 このような状況を踏まえ、「平成21年度の我が国における地球観測の実施方針」においては、以下の点についてアジア・オセアニア地域及びアフリカ地域など、広く連携を図っていくことが必要である。

(1)災害分野

 災害分野に関する国際協力については、できる限り、リアルタイムで現地防災機関に情報を提供することができる体制を整備し、既存のシステムとあわせて活用することが重要である。地震、津波及び火山噴火に関わる情報提供の観点では、開発途上国に対する観測技術や専門家育成の支援、データ提供・交換を含めた国際機関との連携を進めることが重要である。また、風水害の被害を軽減する観点から、衛星観測雨量データを活用して地域的、季節・時間的な特性を地球規模で解明するとともに、これを活用した洪水警報を支援するシステムを構築するなど、水災害が頻発する開発途上国において被害の軽減に資する方策を検討することが課題となっている。

(2)水分野

 水分野については、気候変動に対して脆弱な地域、特にアジア、アフリカの開発途上国及びその他観測データの空白地域の関係機関と協力して、水文、水利用や水管理に関するデータ収集などが重要である。特に、観測データの空白域においては、海大陸レーダーネットワークに関する基盤整備等を促進するとともに、現地で得られた降水・河川流量等に関するデータと衛星などによる全球観測データ、気候変動予測結果とを組み合わせて水資源管理に資する情報に変換して利用者に提供する。さらには、能力開発などを進めることによって、データの提供者と利用者が結び付くことが期待される。

(3)生態系分野

 生態系分野については、アジアフラックスや日本長期生態学観測研究ネットワーク(JaLTER)の構築・運用、それらのプラットフォームを利用した能力開発、日本とアジア地域の森林生態系を衛星観測と地上観測によって広域に観測する戦略の策定、およびこれらのネットワーク間連携に基づき生態系変動の検出を実現する体制の確立などが望まれる。また、二酸化炭素の吸収源である森林の違法伐採監視、森林火災の状況把握等のため、開発途上国と協力して、衛星データの利用実証を推進することが必要である。

(4)農業分野

 農業分野については、開発途上国の関係機関と協力して、農作物の作付け、作況、干ばつ・洪水被害を早期に把握する常時監視体制を確立することが重要である。このような体制を確立するため、衛星観測と地上観測によって必要なデータを収集・整備するとともに、これらのデータを統融合的に利用することができるよう環境を整備することが必要である。また今後、特に東、東南アジア、オセアニアにおける栽培期間の気象変動と水稲収量との関係を明らかにすることが必要である。

(5)地球観測の共通基盤

 地球観測の基盤となる地理情報として、全陸域を対象とした地球地図データの利活用促進を図るとともに、地球地図データを作成している国と連携を強化し整備を進めていくことが課題である。また、測地観測国際プログラムへ貢献するため、引き続き、宇宙測地技術等による国際観測を着実に実施することが必要である。特に、アジア太平洋地域においては、アジア太平洋GIS基盤常置委員会(PCGIAP)などを拠点として各国との共同観測・情報交換・データの精度の向上を図ることが必要である。

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研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室

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