平成13年8月30日
科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会
防災分野の研究開発に関する委員会
大学の関係学部、附置研究所、研究センターや大学共同利用機関等においては、多種多様な防災分野の研究開発が行われており、我が国の防災科学技術の発展に果たしている役割は極めて大きい。一方、独立行政法人防災科学技術研究所は、防災科学技術の総合的試験研究機関として、研究開発のみならず大型共用施設の整備や運用を含めた幅広い業務を行っている。
これまで、両者は研究領域毎に共同研究や研究者の交流などによって一定の連携を図ってきているが、組織全体として見たときの両者のあり方や連携方策についてこれまで必ずしも十分な議論が行われてきたとは言えない。また、大学における本分野の研究開発の重要性やその成果の活用について、これまで行政レベルで十分な議論が行われてきたとは言えない。我が国における防災分野の研究開発を総合的に進めていくためには、関係府省の試験研究機関間の連携はもちろん、大学と防災科学技術研究所が、文部科学省の下でそれぞれの特色を活かしつつ、より一層の連携を図って研究開発を進めていくことが必要である。
今後、本委員会の調査検討においては、関係行政機関における災害対策上あるいは研究開発上の要請も踏まえつつ、防災に関して必要とされる研究開発の体系化を図り、文部科学省における防災分野の研究開発を国際協力も含めて効果的かつ効率的に推進していくための方針や推進方策を示していくこととする。その際、特に大学における研究開発の重要性に鑑み、その成果の普及や防災科学技術研究所との一層の連携について検討を行い、文部科学省としての一体的な研究開発の取り組みが図られるよう留意することが重要である。また、大学と防災科学技術研究所との共同プロジェクト等についても検討していくこととする。
防災分野の研究開発は、災害から国土、人命及び財産を守るという、実際的な社会の要請に応えるものでなければならず、研究開発ニーズの的確な把握及びその成果に対する利用者のアクセスを容易にすることが重要である。また、現実には地震等に伴い複数の種類の災害が複合して起こるなど多様な災害を総合的に取り扱う必要があること、防災対策においては理学、工学、社会科学等広範な科学技術分野の活用が必要になること、などから、組織、災害の分野、科学技術の分野を超えた研究者間の連携が重要である。
しかしながら、防災分野全般にわたる研究者間の連携に関する国の取り組みは未だ十分とは言えず、科学技術行政として、地方公共団体の防災実務者をはじめとする利用者のニーズを把握し、成果に対するアクセスを支援するとともに、研究者間の連携を促進するための施策を講ずることが重要である。
このため、自然災害研究協議会等における既存の取り組みを最大限活かして、研究開発を効果的・効率的に進めていくための研究者間の連携の強化を図りつつ、地方公共団体の防災実務者など利用者のニーズの把握、成果の普及を図っていくための枠組みを整備していくことが必要である。この枠組みは社会科学分野を含むすべての分野の研究者、行政関係者等に対してオープンなものとならなければいけない。また、地方公共団体との関係においては、地域科学技術振興の観点から行われている既存の取り組みの活用、連携にも留意することが重要である。なお、将来的にはこのような枠組みを活用した共同プロジェクト等の実施が期待されるが、このための公募型の研究開発費が確保されることが望ましい。
上記を達成するため、本委員会は、産官学の防災関係者間の緩やな連携を確保するための恒常的枠組みとして「防災研究フォーラム(仮称:以下「フォーラム」という。)を設立することを提案する。フォーラムには、必要に応じて地域の防災ニーズに密着した活動を行うための地域フォーラムや研究課題に応じた専門的な活動を行うためのプロジェクト委員会等を設置する。また、当面は定期的な会合等の開催による情報交換や意見交換を行いつつ、次のような事業の実施への発展を視野に入れることが重要である。
災害は人間社会への被害を前提とする社会事象の一つであって、災害対策のために必要となる科学技術は、理学系分野・工学系分野のほか、人文科学、社会科学等幅広い分野にわたっている。このため、防災分野の研究開発を行うにあたっては、社会環境の変化や科学技術の発展を考慮し、社会のニーズや研究開発課題に応じて既存の研究開発分野と様々な新しい科学技術分野との融合、連携等を図っていくことが重要である。
特に阪神・淡路大震災後においては、構造物の耐震性向上などハード面の研究開発はもとより、災害の予防、緊急対応及び災害からの復旧・復興に有益な情報や手段の提供、災害に強い都市計画作りを支える技術等、社会科学的分野の取り組みによるソフト面での研究開発が強く要請されている。また、近年の情報通信技術等の顕著な発展に鑑み、ITやロボティクスなどの先端技術を災害の予防、緊急対応及び災害からの復旧・復興に活用していくための研究開発の取り組みが重要である。
しかしながら、我が国におけるこれら複合領域の研究開発は、まだ緒についたばかりであり、今後、研究者及び研究資金の確保、研究環境の整備、成果の活用のための体制整備等を積極的に行っていく必要がある。
文部科学省と防災科学技術研究所によって兵庫県三木市に建設中の実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)は、実大規模の構造物の破壊実験等を行うため、国際的にも貴重な共用の研究施設として、平成16年度末の完成を目指して整備を進めており、運用・利用の基本方針は次のとおりとされている。
(1)国内外の幅広い研究機関ないしは研究者の利用を可能とする「国際共同利用施設」として運営する。
(2)研究課題の選定、研究内容の評価を行うために、外部学識経験者により構成される委員会を設ける。
(3)防災科学技術研究所が保有するスーパーコンピュータとの結合および海外を含む関係機関とのネットワークを構築する。
(4)研究の企画及び実施には、防災科学技術研究所の研究者が積極的に関与する。
(5)運用及び管理は外部能力も活用しつつ一元的に行う。
防災科学技術研究所は、上記基本方針に基き、具体的な運用・利用体制、研究課題等について検討を行っているところであるが、以下の点に留意しつつ、早急に運用・利用体制の整備に着手すべきである。
青砥 謙一 | 兵庫県防災監 | |
井田 善明 | 東京大学地震研究所教授 | |
石山 祐二 | 北海道大学大学院工学研究科教授 | |
○ | 岡田 恒男 | 芝浦工業大学工学部教授 |
片山 恒雄 | 独立行政法人防災科学技術研究所理事長 | |
亀田 弘行 | 京都大学防災研究所教授 | |
河田 恵昭 | 京都大学防災研究所巨大災害研究センター長 | |
小林 俊一 | 新潟大学積雪地域災害研究センター教授 | |
島崎 邦彦 | 東京大学地震研究所教授 | |
大門 文男 | 損害保険料率算定会地震保険部長 | |
田所 諭 | 神戸大学工学部助教授 | |
田村 和子 | 社団法人共同通信社客員論説委員 | |
土岐 憲三 | 京都大学大学院工学研究科教授 | |
林 春男 | 京都大学防災研究所教授 | |
廣井 脩 | 東京大学社会情報研究所長 | |
古谷 尊彦 | 千葉大学大学院自然科学研究科教授 | |
虫明 功臣 | 東京大学生産技術研究所教授 | |
村上 ひとみ | 山口大学大学院理工学研究科助教授 | |
渡辺 正幸 | 国際協力事業団国際協力専門員 | |
○・・・主査 |
科学技術・学術政策局政策課