ここからサイトの主なメニューです

3章 静粛超音速機技術の研究開発のあり方

 「何をターゲットにして、どのように進めていくのか?」との観点から、必要とされる研究開発の課題、技術目標、実施体制などを明らかにする。

1. 研究開発にあたっての基本的な考え

 第1章及び第2章で述べてきたとおり、次世代SSTの実現及びその研究開発の推進は、我が国にとって非常に大きな意義があり、また、引き続き高度な研究開発を早急に実施し、次世代SST技術に関する優位性を確固なものとできれば、将来の国際共同開発に主体的に参画できる余地は十分にある。

 よって、本研究開発を無推力実験機の開発・飛行実験等の研究開発に続く、次世代SST技術に関する我が国の国際競争力強化の戦略的ステップの一つとして位置付け、「第3期科学技術基本計画」及び「航空科学技術に関する研究開発の推進方策について」も踏まえ、将来可能性のある国際共同開発において我が国が主体的に参画できるよう、世界的な優位技術を獲得することを本研究開発の目標とすべきである。この目標達成のためには、欧米での研究開発が活性化しており国際共同開発の動きが一気に加速する可能性もあるところ、迅速かつ効果的な研究開発の推進が不可欠である。

 このため、本研究開発においては、我が国の技術力を高めるとともに国際的なインパクトを与えられるような課題を選定し、人・資金・時間等のリソースを集中的に配分することが重要となる。また、将来の国際共同開発への参画のための戦略として、国際的な特許取得によって研究開発の成果を保護しつつ国際社会にアピールするとともに、我が国技術の普及のため、将来の次世代SSTの国際基準策定に積極的に対応していくことも重要である。

(1) 研究開発の課題

 本研究開発においては、次世代SST実現のために解決が不可欠な課題であって、かつ、現在の我が国の技術レベル、欧米の動向等も踏まえ、我が国が各国に先行して優位技術を獲得でき、また、国内で十分な取組みが行われていない分野の課題を中心に取り組むべきである。

 このような観点から見ると、「ソニックブーム低減」は、洋上はもちろん陸上での超音速飛行をも可能とする鍵となる技術であり、次世代SST実現において最も重要な課題であるが、その解決には高度な設計技術等が必要となるため、世界的にも米国が機首部分における低減を実証しているに過ぎない。また、国内の他の機関等における取組みも十分に進んでいるとは言えない状況である。

 他方JAXA(ジャクサ)は、スーパーコンピュータの黎明期から国産初のスーパーコンピュータを導入するなど、航空分野における数値計算技術の発展・蓄積に努めてきている。具体的には、過去の「飛鳥」プロジェクト、「無推力実験機」プロジェクト等を通じ、我が国のCFD技術の発展を牽引しており、特にCFD技術と数学的アルゴリズムを融合した先進設計技術の分野では欧米と比肩する技術レベルを有していると言える。この無推力実験機に活用されたCFD設計技術(逆問題設計技術)は世界から高く評価されており、さらに、このCFD設計技術を発展させ、空気抵抗を抑えつつソニックブームを低減する形状を効率的に見いだす先進的な設計技術(多目的設計技術)のツールを開発してきている。このようなJAXA(ジャクサ)が蓄積してきた高度なCFD設計技術等を適用すれば、機首部分のみならず機体全体でのソニックブームの低減が可能となると考えられる。

 よって、特に重要な課題であり、かつ、現在のJAXA(ジャクサ)の技術的な優位性を最大限に活用できる「ソニックブーム低減」を研究開発の中心的な課題として据えるべきである。

 また、「空港騒音低減」「低抵抗化」「軽量化」については、国内の他の機関等において相当程度の取組みが進んでいるが、本研究開発を通じ、これらにも貢献しうることから、本研究開発の課題とする。その取組みに当たっては他の機関等と連携しつつ実施すべきである(資料3(PDF:317KB)参照)。

(2) 知的財産権の確保と国際標準化への対応

 他国に先駆けた特許等の知的財産権の獲得は、国際的なシェアを獲得する上で重要な役割を果たすものである。次世代SSTの研究開発は、まさに国際的な競争環境下にある。この状況において我が国が欧米に対して優位性を確保していくためには、国内での特許取得はもちろんのこと、欧米等の外国特許を取得しその権利を保護していくことが重要である。

 将来の国際共同開発への参画にあたっては、我が国技術の信頼性及び実績を高め、国際社会にアピールすることが重要となってくる。国際的な特許の取得は、我が国の技術力を客観的かつ透明性の高い形で裏付けるものであり、そのアピールの効果もいっそう高まるものと考える。

 また、我が国の研究開発成果の普及のためには、国際標準化への積極的な対応も重要である。ICAOにおいて今後策定される次世代SSTの環境基準について、検討に参画している国土交通省等の関係機関と連携しつつ技術データの提供を行うなど、我が国の知見を活かした国際基準の策定を目指した積極的な取組みが必要である。

2. 飛行実証の必要性

 航空技術分野においては、実証された技術であるかどうかが大きな評価のポイントであり、シミュレーション上の結果だけでは、国際的に高い評価を受けることはできない。特に、各国が競争状態にある次世代SST技術において優位技術を獲得しアピールするためには、その技術を何らかの形で世界に先駆けて実証することが不可欠である。

 本研究開発の中心的課題である「ソニックブーム低減」の確認については、上空の超音速機から地上までの長い伝播距離があり、かつ、実在大気の影響(密度や温度勾配、乱れ等)があるため、風洞等の地上試験による確認は事実上不可能である。研究開発の成果を確実に検証し、信頼性の高い形で世界に示さなければ、せっかくの成果も国際的には受け入れられない。このため、実験機を用いた飛行実証を行うことは、他の効果的な手法のない現時点において、最適かつ唯一の確認手法である。また、この飛行実証を行うことにより、大気乱流等によるソニックブーム伝播への影響を把握することも可能となり、これらのソニックブームに関する総合的な知見によって、次世代SSTの開発に優位な形で参画することが可能となる。

 また、航空機の開発機会が欧米に比べて少ない我が国においては、飛行実証に伴う実験機の開発、製造、運用等の過程は、CFD設計技術、製造技術等の技術の高度化及び信頼性の向上の絶好の機会であり、我が国の航空機産業の技術基盤の強化につながるものである。過去の例でも、STOL(短距離離着陸)実験機「飛鳥」に取り入れられたコンピュータ飛行制御技術、複合材技術等の要素技術は、その後の各種民間航空機や防衛航空機の開発・製造に大きく貢献している。

 さらに、離着陸から超音速巡航までを自律飛行する民間の機体開発は世界にも類がなく、我が国の航空技術基盤の向上、世界へのアピール及び技術者の人材育成の観点から、それ自体でも十分な価値を有する。また、自律飛行の技術は、パイロットの負荷を低減する技術として応用可能であるとともに、他機との衝突を自律的に回避可能とするなど、航空機の運航安全性の向上に資するものであり、今後いっそう重要視される技術である。また、応用度の高い汎用技術として我が国の安全保障の観点からも貢献し得る重要な技術である。

 このように、「ソニックブーム低減」を中心とする本研究開発においては、信頼性の高い成果の実証、ソニックブームに関する総合的な知見の獲得、我が国の航空技術の基盤強化等の観点から、実験機を開発して飛行実証を行うことは非常に意義が大きく、不可欠である。

 具体的な実験機の姿としては、ソニックブームを有意な精度で計測でき、かつ、実在大気や飛行条件による影響を把握できる機体規模及び超音速飛行能力を有するものとすべきである。また、先に述べた飛行実証の意義を喪失させない範囲で必要最小限の規模・システムとすることも費用対効果の観点から非常に重要である。この点において実験機は、開発試験等を省力化できる無人実験機とすることが妥当と考えられる。

3. 研究開発の技術目標

 中心的課題である「ソニックブーム低減」については、JAXA(ジャクサ)技術を駆使すればコンコルドの技術に比してソニックブーム強度を半減できると考えられる。ソニックブームは、超音速飛行中に機体周辺に生じた衝撃波が大気を伝播する過程で前方と後方の2つの衝撃波に統合され、N型の波形となってこれが地上に到達した際に大きな雷のような音として聞こえるものである。JAXA(ジャクサ)がこれまで研究を進めてきたコンピュータ設計技術によって機体形状を最適化すれば、衝撃波の統合を抑えN型の波形を崩すことでその強度を半減することができると考える(資料4(PDF:316KB)参照)。

 また、ソニックブーム強度は機体の大きさに比例して強くなるため、欧米が当面の目標として設定している機体規模と比較することにより、技術レベルの優位性を確認することができる。具体的には、ソニックブーム強度を半減するという技術は、例えば、50席クラスの機体において陸上超音速飛行の許容が見込まれる技術レベルであり、20席クラスの機体を当面のターゲットとしている欧米に対して大きなアドバンテージを獲得できる(資料5(PDF:346KB)参照)。

 さらに、JAXA(ジャクサ)が蓄積してきた技術は、機体形状そのものを最適化することによってソニックブームの発生を抑えることを可能とする非常に汎用性の高い技術である。このため、この技術を用いれば、例えば、コンコルドの3倍の旅客が搭乗できる300席クラスの機体であっても、機体規模がはるかに小さなコンコルドよりもソニックブーム強度を抑えることが可能となる。

 このように「ソニックブーム低減」は、機体規模の大小を問わず、次世代SST実現の鍵となる重要な技術であって国際的な関心も非常に高い。この分野において技術的な優位性を獲得することは非常に大きな意味を持つ。よって、技術目標としては、JAXA(ジャクサ)技術を最大限に活用することによって達成可能となるソニックブーム強度の半減とすべきである。

 その他の課題である「空港騒音低減」「低抵抗化」「軽量化」については、財団法人日本航空機開発協会が、経済産業省の補助事業において次世代SSTの技術目標を設定している。JAXA(ジャクサ)においても、これらの達成を長期的な目標として視野に入れつつ、当面実施する本研究開発においては、欧米の研究開発に対する優位性、国内での他の研究開発の進捗等を勘案し、具体的な達成見通しを定めるとともに、産業界、大学等と密接に連携しながら、迅速かつ着実に研究開発を行い、成果の還元に努めるべきである。

4. 研究開発の目標時期

 前述のとおり、欧米での研究開発も活性化しており、民間企業によるSSBJの開発も進められ、今後、各国の研究開発が一気に加速することも予想される。我が国としては、時間的優位性の確保のため、可能な限り早期に飛行実証等の成果を上げることが必要である。仮に研究開発が遅れた場合には、国際共同開発への主体的な参画はおろか、次世代SSTの一部製造等の役割も低コスト等を活かした他の国に奪われかねず、大きなダメージを被るおそれがある。

 欧米による現行の研究開発の目標時期が2010年前後であること、また、SSBJの市場投入が2012年頃を目標とされていること等を踏まえると、2010年代初頭から中頃は次世代SSTの研究開発にとって大きな節目となる時期と考えられる。具体的な国際共同開発の計画もその時期又はより早い時期から動き出す可能性がある。よって、JAXA(ジャクサ)においても、欧州の研究開発の進捗等を前提とすると、遅くとも2010年代の中頃までを目標時期とした研究開発を行うことが不可欠である。またさらに、あらゆる観点から検討を行い、最短期間にて飛行実証等の成果を上げられるよう努めるべきである。

5. 亜音速機への技術波及効果

 SSTと亜音速旅客機の開発には共通する技術が多く、特により高度な技術が求められるSSTの研究開発の成果は亜音速旅客機への波及効果が極めて大きい。例えば過去においても、フライ・バイ・ワイヤ(電気信号により舵面を操作するシステム)はコンコルドにおいて初めて採用され、その成果はエアバス機に波及して今日に至っている。

 本研究開発においても、亜音速機への技術波及効果も念頭に置き、常に成果の還元先を意識することが重要である。

 具体的には、中心的課題である「ソニックブーム低減」に用いられることが想定される、多分野統合・多目的最適設計技術は、亜音速機の設計にも適用可能な技術であり、機体設計の初期段階での詳細な検討・評価を可能とし、これにより設計サイクル数を削減し、開発コスト・期間の削減に導く効果が期待できる。

 また、「空港騒音低減」「低抵抗化」「軽量化」に用いられることが想定される、高効率高揚力装置設計技術、層流化技術、複合材構造技術等の技術は、超音速機のみならず亜音速機においても重要な技術であり、亜音速機技術を含む我が国の航空技術基盤の高度化に資することが期待できる。

6. プロジェクト管理

 プロジェクト管理は、研究開発を計画通りに目標達成へと導くために非常に重要なプロセスである。仮にプロジェクト管理が有効に機能しなければ、研究開発期間の延長、コストの増大など、様々な問題が生じるおそれがある。本研究開発においても、過去の研究開発の事例も踏まえながら、以下の観点からプロジェクト管理を行い、効果的かつ効率的な研究開発を実施すべきである。

(1) 時間的優位性の確保

 次世代SSTの研究開発は国際的な競争下にあるため、可能な限り早期に成果を上げることが重要であり、スピーディな研究開発の進行は本研究開発における最重要事項である。よって、あらゆる観点から検討を行い、世界的な優位性を確保できる柔軟なスケジュール管理を行うとともに、常に国際的な動向を注視し、迅速な研究開発の進行を図り、研究開発の先進性を喪失することがないようにすべきである。

(2) コスト管理

 研究開発は国民からの貴重な税金によって支えられていることを強く認識し、研究開発のあらゆる段階において効率的な手法を模索し、コスト削減及びコスト超過の防止に努めるべきである。また、限られたリソースを有効に活用するため、例えば、中心的課題である「ソニックブーム低減」に集中的に資金を投入するなど、研究開発全体を見渡した効果的なコスト計画の策定を行うべきである。

(3) リスク管理

 本研究開発における飛行実証は、「ソニックブーム低減」を検証するという本研究開発の中核をなすとともに、我が国の航空技術基盤の強化、我が国の技術力を国内外にアピールする等の観点から非常に重要であり、その成功に万全を期す必要がある。よって、設計、開発、飛行実証等の各段階においてヒューマン・ファクタも含む研究開発上のリスクを精査し、事前に対応策を準備するなど、リスクの低減に努めるべきである。

(4) 実施体制

 実効あるプロジェクト管理のためには、本研究開発に携わる組織又は職員の責任と権限を明確化することが不可欠である。また、プロジェクトの進捗に応じてJAXA(ジャクサ)内外の評価を受けるなど、研究開発リスクの低減に資する体制を組むべきである。さらに、仮に問題等が発生した場合には迅速に対応できるよう、機動性のある体制を構築すべきである。

(5) 社会とのつながりのある研究開発

 社会への成果の還元を目指した研究開発を行うためには、目標を達成するための科学技術の創出に注力することが大前提であるが、技術開発の面のみに重きを置くことなく、産業界はもちろんのこと一般の航空利用者等のニーズについても継続的な把握に努め、必要に応じて研究開発に反映するなど、“社会とのつながり”のある研究開発の実施が不可欠である。

(6) 周辺課題への取組み等

 将来の次世代SSTについては、亜音速旅客機と同等の安全性が要求され、また、超音速機に最適な航空路や運航方式、操縦士の訓練方法等の検討が想定されるなど、本研究開発以外の周辺課題も少なくない。よって、ヒューマン・ファクタも含んだ航空機の安全性向上、航空機の最適な運航、操縦士の訓練に関する研究開発等についても、本研究開発と連携しつつ推進すべきである。さらに将来、本研究開発の飛行実験機を他の研究開発のテストベッドとして使用することなど、今後の発展性についても継続的に検討すべきである。

7. その他の留意事項

 本研究開発にあたっては、以下の事項にも留意すべきである。

(1) 関係機関等との連携

 経済産業省の主導による民間企業、防衛省、国土交通省、大学等の知見や研究開発の成果を可能な限り活用するとともに、これらの関係機関等と連携して推進することにより、効率的かつ効果的な研究開発を行うとともに、我が国全体の航空科学技術レベルの向上を図るべきである。また、国際基準の検討に参画している国土交通省と連携し、研究開発による知見をもって国際基準の策定に積極的に貢献すべきである。さらに、欧米の研究機関等との情報交換、共同研究等を通じ、国際共同開発に関する動向の把握とともにJAXA(ジャクサ)技術の国際的な価値の向上にも努めるべきである。

 また、本研究開発の後においては、獲得した優位技術の提供、保有する試験設備の供用等を通じて、民間企業等による次世代SSTに関する研究開発を支援していくべきである。

(2) 人材育成

 本研究開発は、実験機の設計・製造・運用等を含む最先端のプロジェクトであることから、研究者の能力及び経験の向上に大きく資するものである。よって、JAXA(ジャクサ)職員の育成はもちろんのこと、共同研究等の機会を通じて、広く民間企業や大学等の人材を活用し、航空科学技術における我が国全体の人材育成に貢献すべきである。

(3) 広報活動

 研究開発の推進には、国民からの広い支持を得ることが大前提である。広報活動は国民への説明責任を果たす重要な機会であり、本研究開発においても、その意義、目標、進捗状況等について高頻度の情報提供を行うべきである。その際、正確な情報発信はもちろんのこと、超音速飛行がもたらす将来の航空輸送の姿や、人々の生活における利便性の向上等の紹介も含め、本研究開発に関して理解しやすい形で国民に示すことが非常に重要である。また、飛行実証以外の技術研究についても積極的にアピールすべきである。

8. 産業界からの評価

 本研究開発に対しては、我が国の航空機産業界からも大きな期待が寄せられている。社団法人日本航空宇宙工業会からは、以下のような評価を受けている。

  適正な価格でより早く移動が可能な運航手段を運航業界は常に望んでおり、次世代SSTは必ずや実用化への取組みが見込まれる。
よって、技術成立性に基づいた次世代SSTのコンセプトを世界に先駆けてアピールする必要があり、一日も早く本研究開発の成果が得られることを望む。
このアピールにより、日本の技術力の高さを世界が認識し、国際共同開発に構想段階から参画すること等の効果を期待する。
また、飛行実証と並行して行う技術研究の早期玉成も望む。
さらに、波及効果として、低抵抗、軽量化、低騒音等に関する先端技術による亜音速旅客機の技術基盤の向上、また、無人機の設計、製作等の参画によるシステム・インテグレーション能力の向上を期待する。
本研究開発への参画、成果等も活用し、次世代SSTの国際共同開発への主体的な参画を目指し、鋭意取り組んで行きたい。

 このような期待にも応えられるよう、今後とも関係機関等と連携しつつ、社会からの要請に応える成果の還元を目指し、本研究開発を迅速かつ着実に推進していく必要がある。

前のページへ 次のページへ


ページの先頭へ   文部科学省ホームページのトップへ