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2.地球環境科学技術の基本理念
 「持続可能な社会の実現に向けた知恵」の具現として地球環境科学技術は,研究の理念,対象のとらえ方,研究の取り組み方において,以下のように従来の科学技術とは異なる側面を有し,それが研究対象選定や研究推進体制を特徴づける。

  (1)持続型社会のための科学技術
 1999年6月ブタペスト世界科学会議では,「社会の中の社会のための科学」が謳われ,科学の最終目標は人類の福祉であり,貧困の撲滅,人間の尊厳と権利の尊重,地球環境の保全,次世代への責任に関与しなければならないと宣言された。これは,科学の目的を持続型社会の実現におき,そこに向けて研究を誘導していく「持続型社会のための科学技術」を提唱するものである。この,循環・持続型社会の実現という使命に向けた,社会,経済,法律,哲学,宗教,倫理,教育,政治などが関連する実践的総合科学技術の提案は,科学技術の新たな方向性を提示しており,次期科学技術基本計画において強く考慮されるべきである。地球環境科学技術は,他の分野に比べこの視点からの取組が特に必要な分野である。
 競争的研究環境の中で最先端の基礎科学を発展させ,その応用によって,独創性,新規性,効率性などで世界に抜きん出た環境科学技術を進展させていく必要はもちろんである。しかしながら同時に,科学技術の光と陰を認識し,現実の生活圏での問題解決に目標を置き,人間性,社会的許容性,実効性などを第一義とした展開が重視されねばならない。

(2)自然と社会を含む統合システムとしての対象把握−分野横断的総合科学
 環境問題は,人間活動が閾値を越えて自然に過重な影響を与え,それが人間活動に跳ね返ることから起こる。環境を扱う科学技術は,人と自然をひとつの統合された地球システムとして捉え,両者の関係を如何に望ましい方向へ導くかの知見を提供するものでなくてはならない。したがって,自然の理解だけでなく人間社会への洞察も必要であり,特にその接点である自然資源の適正利用に向けて科学技術をどう活用していくかの提案が問題解決の鍵を握っている。
 問題解決には,望ましい社会の提示,そこに向かうための問題の認識,対象システムの観察と理解,将来予測,問題解決に向けた技術開発や社会変革の提案,その効果評価,実施に向けた社会変革,これらすべての過程に地球環境科学技術が結集されねばならない。地球システム変化を把握するための地球観測,深く理解するための環境変動メカニズムの解明,予測モデルの開発,環境変動が人間社会や自然生態系に及ぼす影響の評価,環境変動を緩和するための技術開発,自然生態系との共生技術の開発及び環境変動に人間社会が適応するための方策,人間活動と自然現象を統合したシミュレーション手法,システム設計に関する技術のほか,上記の基盤となるデータの収集と蓄積,観測・モニタリング技術開発,情報システム等に係わる科学技術,さらには望ましい社会のビジョン形成と社会改革を受け持つ人文社会科学に基礎を置く社会技術など,さまざまな学問分野にわたる科学技術が動員される。いわゆる文理融合・分野横断的総合科学である。

(3)自立・自律分散型ネットワーク巨大科学技術
 自然のさまざまな要素と人間活動の要素が相互に影響しあってある場所に固有の環境を形成する。問題のあらわれ方は地域によって異なる。ゆえに環境は優れて地域的であり,環境の科学が,場所依存科学(Place-based Science)といわれるゆえんである。そして,地域でのさまざまな環境が集積されて地球環境を形成する。問題解決に向けては,地域に分散した自立し自律的に活動する主体が,多岐にわたる手段を駆使して事に当たり,その結果を地球規模で集約するという作業を必要とする。このため,地球環境の科学技術は,その広がり,目的,必要となる資源の面から見て巨大な科学技術でありながらも必然的に,国内外に分散した主体同士によるネットワークを介した共同作業を必須とする。IGBPやIHDP,WCPRさらにはIPCCなどの国際地球変動協力研究がまさにそれである。ここでは,ロケット打上げのようなトップダウン型の組織的取組,ゲノム研究のような平行競争的研究形態,個人による独創的な発見等も必要とするが,それにも増して,研究を効果的に推進するための共通目標の設定,分担作業と統合作業が研究推進の中核となる。地球環境科学技術推進における資源の配分や成果の評価も,こうした地域の研究を育て,そのつながりによる共同作業を適切に誘導するものでなくてはならない。

(4)長期的・基礎的視点の必要性
 地球環境の変化は,さまざまな自然のメカニズムの複合であり,問題を解こうとするときわめて基礎的な課題がボトルネックになることがあり,それがまた新たな基礎科学のフロンテイアを形成する。また,長期にわたる環境変化は,長期広汎にわたる観測を集積して初めて全貌が明らかになる(例:マウナロアでの二酸化炭素観測)とともに,将来の研究基盤形成のための環境資料の保存など,重要であるがすぐには結果の出ない科学的作業を必要とする。

(5)社会に働きかけ市民が参加する科学技術
 地球環境科学技術の推進にあたっては,その科学技術が如何に社会に結びつくのか,どのように社会に貢献できるのかを常に念頭におく必要がある。社会への貢献を確実にするためには,科学技術を行動主体である社会・市民へ広く開き,市民の参加型アプローチ(Participatory approach)をとる必要がある。研究によって得られた科学的知見や新技術は,広く社会に公開されることによって,国家的な意思決定や社会的合意の形成の論拠となるばかりでなく,国際貢献を含めた我が国の国家戦略に反映され,世界全体の持続可能な発展に寄与するものとなる。


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