第3章 研究開発を推進するにあたっての重要事項

 これまでに示した各分野の研究開発を進めるにあたっては、以下の諸点を踏まえてより効果的な実施に努めることが必要である。

(1)基礎研究の振興

 第1章3(1)のとおり、防災分野においても基礎研究は重要である。このため、各機関において適正な方法で基礎研究のための経費を確保し配分する等、研究体制の整備が必要である。また、基礎研究については、基盤的研究費や競争的資金等を通じ、長期的視野に立った国の支援が不可欠である。
 基礎研究についても研究評価を厳正に行うべきものであるが、その研究の価値、意義を適正に評価できるよう、評価の方法を工夫することが必要である。

(2)総合科学技術としての展開

 防災分野における研究開発は、既存の学問分野の枠を越えていたり、融合的領域であったりすることから、既存の学部、学科、研究科を越えた、理学と工学、工学と人文科学・社会科学等の横断的な取組や、大学、独立行政法人、地方公共団体等機関の枠を越えた連携協力が必要である。
 その際、国立試験研究機関の独立行政法人化等により、諸々の制度的制約が緩和されていることから、この状況を積極的に活用して、共同研究、施設共用、人材交流等を積極的に実施していくことが重要である。
 さらに、競争的資金を含む研究経費の配分においても、既存の個別分野ごとの配分ではなく、その枠を越えて総合的な防災分野として明確に設定して課題を拾い上げていくことが必要である。また、その際には、中長期的な視点に立って技術革新の芽となる課題や分野横断的な研究を積極的に抽出していく必要がある。

(3)地域の特性に応じた研究開発の推進

 災害を引き起こす原因となる気象、地変はいずれも地域特殊性を有するものであり、また、災害を被る地域も地形、土地利用形態、人口、都市の規模、災害の経験の有無、災害に対する体制の有無等様々に異なっていることから、実際に地域の防災に役立つ研究開発を行うためには、地域の特性を踏まえて行うことが必要である。このため、大学、国の機関、独立行政法人等の研究機関は、地方公共団体の防災実務者やNPOと密接に連携して研究開発を進めていくことが必要である。また、地域の防災力向上の研究にあたって、繰り返し起こる地域特有の災害体験の伝承等をはじめ、その地域に存在する伝統的な防災の知恵も十分活用することが必要である。

(4)国際協力の推進

 国際協力の取組については、相手国や地域により社会状況や科学技術の状況が様々に異なるだけでなく、途上国では活用できる防災資源の質・量には先進国と際だった差があり、防災担当者の育成・確保が往々にして困難であることから、関連する人文科学・社会科学による地域研究の成果をもとにそれぞれの国情に合わせた取組を進めていくことが必要である。国際協力の場合にも、相手となる国や地域が持つ社会の防災力の向上に貢献する必要があり、研究や事業の協力の終了とともにその成果が無に帰することのないよう、相手となる国や地域の自立と協力効果の持続に留意する必要がある。
 また、国際協力を実際に推進するため、従来にも増して国際シンポジウム・ワークショップ等の開催、出席を通して積極的に情報発信を推進することが重要である。その際、防災力の向上のために払われた努力の効果について科学的な視点から評価を加える必要がある。
さらに、我が国の防災対策が深化し、国際的な役割が増大するとともに、包括的な防災の枠組みに関する研究課題が提起されており、個別対策を総合防災リスクマネジメントの枠組みの中に組み込んで、国内外における防災対策に戦略的に対応できる政策課題を対象とした研究拠点の設置が必要である。

(5)関係機関の連携と成果の移転

 1) 大学、大学附置研究所、独立行政法人等の研究機関間の連携や地方公共団体等も含めた研究と実務の連携を積極的に進めていくことが、研究開発を効果的・効率的に進めていくためには不可欠である。研究機関・研究者間の連携の強化を図り、分野横断的・総合的なプロジェクトの企画・調整も行いつつ、地方公共団体の防災実務者等利用者のニーズの把握と成果の普及を図る具体的な仕組みを作っていくことが有用である。このため理学・工学・人文科学・社会科学を含むすべての分野の研究者、行政関係者等に対して開かれた防災関係者間の緩やかな連携を促進する。
 2) 防災分野における研究成果は、人命・財産の安全・安心を守るためのものであり、できるだけ広く公開してだれでも利用できるようにするため、特許権の取得等には消極的な考え方もあり得る。しかし、一般的に発明者には適正な権利を与えるべきである。さらに、企業化することが当該成果の移転を促進するものであると考えられるため、防災分野においても研究成果の特許化に積極的に取り組むことが必要である。また、防災に関するシステム等の普及のためには、導入に際して必要となる人的資源及び資金に鑑み、地方公共団体等の平常業務の中でも利用できるものが有用である。

(6)人材の育成・確保

 研究開発は基本的には人が実施するものであり、それを担う適切な人材を育成・確保することが不可欠である。防災分野の研究開発においては、総合的な取組の重要性が認識されてきているにもかかわらず、特に人文科学・社会科学系の人材が不足している。このため、人文科学・社会科学系の人材の育成に積極的に取り組む必要があり、その一環として研究課題の採択や予算の配分にあたって、これらの研究を行う機関、学科、研究科等への配分に留意することが必要である。
 他方、防災分野全体の人材の育成を防災実務の側から支えるとともに、研究成果を円滑に活用して実際の防災対策に役立てるため、地方公共団体等において防災の専門家を積極的に採用し、育成・レベルアップを図ることが望ましい。あわせて、全地球的な枠組みの中で研究開発を展開するためには、国外のカウンターパートとなる人材の育成も必要であり、このための国際ワークショップの開催や外国の研究者を対象とした研修等防災に専念できる環境づくりを支援することが重要である。

(7)研究開発基盤の整備

 1) 防災分野の研究開発の進展のためには、実際の災害を再現して様々な実験を行うための施設・設備が必要である。また、災害を起こす自然現象に関するさまざまなデータを観測するための観測網が不可欠であり、これらの整備を着実に進めるとともに、適切に維持しなければならない。これら施設・設備はできる限り内外に開かれた共同利用施設として運営する。
また、防災分野においては、災害を起こす自然現象に関するデータ、過去に起こった災害のデータ等研究遂行上不可欠のデータがあり、これらが入手しやすい状態でデータベース化され、共有されていることが重要である。このため、必要なものから順次これらのデータベース化を進めるとともに、その維持・更新を着実に進める。
 2) 文部科学省と独立行政法人防災科学技術研究所によって兵庫県三木市に建設した実大三次元震動破壊実験施設(E-ディフェンス)は、実大規模の構造物の破壊実験等を行うため、国際的にも貴重な共用の研究施設として、平成17年4月から運用を開始した。その運用・利用については、以下のような基本方針の下に行う。

  1. 国内外の幅広い研究機関ないしは研究者の利用を可能とする「国際共同利用施設」として運営する。
  2. 研究課題の選定、研究内容の評価を行うために、学識経験者により構成される委員会を設ける。
  3. 防災科学技術研究所が保有するスーパーコンピュータとの結合及び海外を含む関係機関とのネットワークを構築する。
  4. 運用及び管理は民間企業等も活用しつつ一元的に行う。

(8)普及・啓発活動の充実

 防災分野の研究開発成果は、一般市民がその重要なユーザーであることが多く、独立行政法人、大学等の研究機関は、企業等に研究成果を移転するとともに一般向けに積極的に広報・普及することが必要である。また、防災分野では研究活動そのものに一般市民の参加が必要となる場合も多く、行政機関や地方公共団体との密接な連携の下、一般市民への普及・啓発活動を活発に行いつつ研究を推進することが必要である。

(9)他の計画等との連携

 我が国における地震調査研究推進本部の下で、「地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」や各種の調査観測計画が策定されている。また、学術研究としての性格の強い地震観測研究や火山噴火予知研究については、科学技術・学術審議会の建議に基づいた計画が策定されている。
このように、計画や推進方策が別立てになっていることが、これらの自然現象の解明に関する主として理学的な研究と、防災力を向上させるための工学的・社会科学的な様々な研究とが独立して行われてもよいことを意味するものではなく、密接に連携して行うことが必要である。
 また、分野別推進戦略において国家基幹技術に位置づけられている海洋地球観測探査システムは、宇宙・海洋からの観測データを取得し、統合・解析・提供するシステムであり、文部科学省内に設置した海洋地球観測探査システム推進本部が策定する共通的な推進方策である実施戦略に基づき推進することとしている。このシステムの目的には衛星及び海洋探査技術の地震・津波・火山噴火等の災害監視への活用や地球観測データ全体の統合・提供も含まれていることから、本推進方策の実施にあたっては、これらの取組と十分な連携を図っていくことが重要である。
なお、本推進方策に示された研究開発を推進するにあたっては、防災対策の実施の面から、災害対策基本法に基づく防災基本計画をはじめとする関連する計画等との連携を十分配慮する必要がある。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)