(資料3)航空科学技術を取り巻く動向

1.運航・利用分野の動向

 世界の航空輸送は、世界経済の発展を受け着実に増加を続けている。財団法人日本航空機開発協会(以下、「JADC」とする。)によれば、最近20年間で旅客輸送量が年率5パーセント程度増加しており、今後も長期的に、年率5パーセント程度で増加し、特にアジアでは、経済成長に伴い、年率6パーセント程度での増加となり、世界最大の市場となる見込みである。地域的には、北米、アジア、欧州の3地域間及びそれぞれの地域内での航空旅客輸送が世界の大半を占めている。また、短期的にも、2001年9月の米国同時多発テロ後の需要の停滞から立ち直り、回復傾向を示している。
 我が国においては、国民のニーズの多様化・高度化、企業の海外進出による国際分業化の進展による部品輸送等の増加が引き続き需要の増加要因となり、平成17年度版観光白書によると、海外渡航者1,683万人のうち約98パーセントが航空機を利用しており、500キロメ-トルを超える国内の長距離旅客の約46パーセントを航空が占有している。最近20年間で国内航空旅客輸送は2倍に増加しており、大量かつ長距離輸送の手段としては、ますます航空輸送が中核となってきている。
 こうした需要に対応する国内航空ネットワークとしては、規制緩和により、平成9年度以降、路線数自体は減少しているが、輸送量の多い路線へのシフトから1路線当たりの運航回数は増加しており、特に羽田空港への一極集中が著しく、離着陸枠が飽和状態となっている。現在そうした課題に対処するため、平成21年に羽田空港が再拡張される計画となっている。
 地方においては、航空利用の利便性向上に寄与することから小型の機材による輸送が有望視されており、小型機を活用した路線展開を行う航空会社が進出してきている。

 以上のような航空輸送の現状の中で、世界の航空会社は厳しい国際競争を行っており、運航コストの削減、客室快適性・安全性・定時運航性の向上、環境保全への対応といった様々な側面から総合的に市場競争力強化の取り組みを行っている。また、その取り組みの一環として各社が世界規模で業務提携(アライアンス)を強化しており、グローバルな大競争時代に突入している。また、目的地間の移動時間の短縮化の要求を背景に、大都市を経由するハブ・アンド・スポーク(注)型に加えて、目的地間を直接結ぶポイント・トゥ・ポイント(注)型の航空路線の検討が引き続き行われており、今後路線形態の選択が国際競争力強化の鍵となると想定される。

 航空を取り巻く社会状況は時々刻々と変化している。航空機燃料価格は、ブラジル、ロシア、インド、中国といったBRICs諸国の経済成長等に伴い、かつてないほど高騰を続けている。また、環境規制の強化が一層進み、国際民間航空機関(注)(以下、「ICAO」とする。)は2006年1月に新しい騒音規制を適用し、また2008年には新しいNOx(窒素酸化物)規制の枠組みを適用する予定となっている。CO2(二酸化炭素)についても、2005年2月16日に京都議定書が発効しており、温室効果ガスの排出削減に関する意識は一層に高まっている。今後とも、これらの規制が強化される方向にあることから、状況に応じた技術的な対応が一層求められている。
 また、科学技術と社会に関する世論調査(平成16年2月)によれば、現在、国民の7割近くが「安全の確保のために高い科学技術水準が必要である」とし、政府も、「安全が誇りとなる国-世界一安全な国・日本を実現」と政策目標を掲げ研究開発を推進している。航空については、世界的に、距離当たりの死亡事故件数は減少しているものの、航空機利用が拡大している状況から、総死亡事故件数は横ばいとなっている。今後も航空需要が伸びていくと予想されていることを踏まえ、引き続き死亡事故ゼロに向けた継続的な取り組みが必要とされている。さらに、航空機の利用が多様化し、災害監視、気象観測、海上監視等に使用できる多目的小型無人機等の必要性が検討されており、様々な安全・安心に関わる局面での航空機の活用が期待されてきている。

2.開発・製造分野の現状

 JADCによると、2004年から2024年の間にジェット機は現在の2.2倍(約31,700機)に増加するとされている。その中で、約25,100機の需要が発生するとされており、サイズ別では、リージョナル機(注)に大きな伸びがでると見込まれている。また、大型機、中型機も引き続き増加の見込みとなっている。

 それぞれの市場における世界の主な航空機・エンジン製造企業については、大型・中型機のシェアは、欧米企業2社の寡占、リージョナル機は、カナダ・ブラジル企業2社の寡占、航空機用エンジンでは、欧米の企業3社が世界の売上げの大半を占有する状態となっている。我が国の企業は、これらの企業が開発する航空機及びエンジンの一部を分担して開発を行っている。

 我が国は、1960~1970年代に初の国産旅客機となるYS-11の自主開発を行った。その後、1980年代以降は機体、エンジンの国際共同開発に参画してきた。航空機開発は技術リスクが大きく、多額の資金が必要なため、企業が単独で開発を行うことは回避される傾向にある。そうした状況の中で、国内民間企業は海外企業の航空機開発に参加することにより、要素技術を中心に技術の蓄積を行っている。

 大型・中型航空機の開発動向としては、現在、欧米では、欧州企業によりA380、米国企業によりB787の新型機の開発が行われている。開発には競合機との差別化が厳しく求められ、燃費の向上や整備費の削減といった運航経済性の追求や、客室空間の拡大、騒音の低減や与圧・湿度調整技術の向上といった快適性の向上を進めている。
 我が国の民間企業は高い技術力により、国際共同開発におけるワークシェアを拡大し、主翼等のより重要な部分を担当するまでに成長してきた実績、また、設計段階からの参画を行うことで世界的な信頼を獲得し、B787の開発においてはリスクシェアパートナー(注)へ進展している。一方、欧州企業が中国に航空機の組み立て工場を建設する動きも出てきており、こうした欧米の航空機産業とアジア諸国との結びつきが強くなっていると同時に、ワークシェアをめぐるアジア内での競争の激化が進行している側面もある。

 リージョナル機(100席以下)の開発動向としては、ターボプロップ機(注)メーカの多くが撤退する中で、1997年以降、ジェット機のシェアが拡大し、受注機数の70パーセント以上を占有するようになっている。またリージョナルジェット機市場には新規参入を目指す動きが相次ぎ、現在のところ、中国、ロシア、日本等で計画が進行中となっている。我が国では、平成15年度から経済産業省において「環境適応型高性能小型航空機研究開発」が産学官の連携の下に進められている。当初、競合機の少ない30~50席クラスの機体の開発が想定されていたが、需要動向等を踏まえ、平成17年9月、開発機体を70~90席クラスに変更した。しかしながら、このクラスの機体については競合機が存在するため、市場競争力を確保していく上でより高度な差別化技術の確立が不可欠な状況となっている。

 20席以下の小型航空機の開発動向としては、米国を中心として、小型機航空輸送システムが飛躍的に成長することが見込まれる中、航空業界に変革をもたらす革新的低価格機の市場投入を目指した米国企業の動きや、我が国においては自動車・オートバイメーカが20席以下のビジネスジェット機の試作機及びビジネスジェット機用エンジンを開発する等、航空機の多様化、低価格化による市場の活性化の流れが起きている。

 航空機エンジンの開発動向としては、国際共同開発の流れが加速しており、運航経済性の向上、安全性・信頼性の確保、環境適合性の向上等を重要な技術とし、新規の開発が進められている。我が国の取り組みとしては、V2500を皮切りに数々の国際共同開発に参加する一方で、平成15年度から経済産業省において「環境適応型小型航空機用エンジン研究開発」が産学官の連携の下に進められている。

 超音速機の開発動向としては、我が国において、2005年6月に日本航空宇宙工業会と仏航空宇宙工業会が超音速機に関する共同研究に調印を行い、超音速輸送機(注)(SST)におけるいくつかの主要課題を解決するための基礎研究を協力して実施することとしている。また、同年10月には、JAXA(ジャクサ)において、コンピュータによる革新的な設計技術の実証を目的として開発した小型超音速実験(無推力)の飛行実験に成功した。さらに、こうした動きを見て、日本航空宇宙学会に、超音速輸送機の実現に向けて、その最重要課題である静粛性を研究目標として、大学、産業界、研究機関の約50名の研究者、技術者を構成員とする「サイレント超音速旅客機研究会」が発足している。
 一方、海外の動きとしては、ソニックブームや騒音といった環境適合技術を中心とした技術研究が進行中である。米国においては、国防総省高等研究計画局が低ソニックブーム技術を中心とした研究開発を実施し、2003年にソニックブーム低減に関する飛行実験を実施した。また、米国航空宇宙局(以下、「NASA(ナサ)」とする。)においては、SSTへの技術ステップとしての小型静粛超音速輸送を対象として2003年から概念研究に着手した。欧州においては、EU統合研究プログラムとして、2002~2006年の4年間でソニックブーム低減、NOx(窒素酸化物)、CO2(二酸化炭素)(注)削減等を目指した小型超音速機研究計画を実施している。
 また、国による研究開発とは別に、今後10年で250~300機という需要予測を背景に、2010年代初頭の就航を目指し米国を中心として民間企業による超音速ビジネスジェット(SSBJ)の開発の動きが具体的に出てきている。
 こうした況を踏まえて、米国連邦航空局(FAA)及びICAOが2003年より民間超音速機の騒音やソニックブーム基準策定に向けた調査を実施している。

 極超音速機等の開発動向については、2004年11月にNASA(ナサ)のX-43Aがマッハ9.6を達成し、ジェット推進による最高速度記録を達成した。JAXA(ジャクサ)も航空機の高速化技術のさらなる向上を目指し、極超音速エンジンの研究を継続している。
 また、2004年10月に米国の民間企業がスペースシップワン(注)により、民間初の宇宙飛行に成功した。これにより、航空と宇宙の融合による新たなビジネスの出現の可能性が出てきている。

 回転翼機については、我が国の民間企業は、国際共同開発への参加を行っている。米国では、民間用初のティルトローター機(注)BA609が2007年に型式証明取得予定となっている。また、無人機は一般に、Dirty(汚い)、Dangerous(危険)、Dull(退屈)と言われる任務を有人機に代わり遂行される役割が求められ、実際に農薬散布等の事故の多い作業や送電線等の点検等に使用され用途が拡大している。コンピュータ技術、通信技術、小型化技術の発達により高性能化・多機能化が飛躍的に進む中、火山、地震、河川氾濫等の災害現場での観測や監視といったより幅広い活用方法の検討が進められており、そういった用途での実運用に向けた法制化の検討も開始されている。

 防衛庁機の開発動向としては、航空機の防衛需要は横ばいとなっている状況の中で、産学官の優れた技術を積極的に導入し、民生品・民生技術の活用を図りながら着実に進められている。現在は、救難飛行艇(注)(US-2)、次期固定翼哨戒機(注)(P-X)、次期輸送機(C-X)等の開発が進められており、これらの民間機への技術転用についても同時に検討されている。

3.その他

 我が国においては、業務の効率化のため、平成15年10月に、航空・宇宙関係の研究開発を実施している機関である、宇宙科学研究所、航空宇宙技術研究所、宇宙開発事業団が統合し、JAXA(ジャクサ)が発足した。JAXA(ジャクサ)では、平成17年3月に、約20年後までの我が国の航空研究開発の望ましい姿をまとめた「JAXA(ジャクサ)長期ビジョン-JAXA(ジャクサ)2025-」を発表し、関係者への働きかけを始めている。また、同年10月には、JAXA(ジャクサ)の組織改正により航空プログラムグループが発足し航空分野における研究開発を推進している。
 米国は、「Vision100-Century of Aviation Reauthorization」(2003年12月12日発効)に基づき、Joint Planning & Development Office(JPDO)を設置し、関係省庁連携、並びに官民一体となって、2025年までの次世代航空交通システムの包括的ロードマップである「Next Generation Air Transportation System」(NGATS)の提案が検討されている。また、NASA(ナサ)においては2006年1月に航空研究活動の再編が実施され、選択と集中の強化と継続可能な大方針の設定が行われている。
 欧州では、2002年から2006年を対象としたSixth Framework Programme(第六次科学技術政策)の下、国際競争力の強化、環境への取り組み、安全性とセキュリティの改善、航空交通管理システムの統合による運用能力・安全性の向上に重点的に取り組み、社会の要請に応え、世界のリーダーシップの獲得を目指し、研究開発を推進している。また、欧州航空航法安全機構(EUROCONTROL)において、2005年11月に、2020年までを視野に入れた新プログラムである「Single European Sky ATM Research」(SESAR)が調印され、欧州上空を一つの空域として捉え、統一した航空管制(注)方式を導入することを目指した取り組みが具体化されている。

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