2.研究開発の推進の基本的考え方

 第3期基本計画では、「社会・国民に支持され、成果を還元する科学技術」の推進等の基本姿勢を定めた上で、科学技術の発展と絶えざるイノベーション創出、人材育成と競争的環境の醸成、制度・運用上の隘路の解消といった多様な政策課題への挑戦に取り組むこととしているほか、特に政策課題対応型の研究開発については分野別推進戦略を定めて重点的に推進していくこととしている。

 また、前述のとおり、航空科学技術の研究開発は、我が国の社会基盤を支えるのみならず、産業政策上、安全保障上も重要な意義を有している。

 一方、航空機の開発は、高い水準の技術が必要な上、大規模で長期の開発期間と多額の開発資金が必要であるために大きなリスクを伴う。このため、諸外国においては、国として長期的な視点に立って先進的な研究開発を実施し、航空機産業を支援している。この点を踏まえると、我が国としても、長期的な視点から航空科学技術の研究開発を行い、民間だけでは開発が困難な技術の開発を支援する必要がある。

 航空科学技術分野の動向を見ると、我が国における国産航空機・エンジンの研究開発の進展への対応や、今後も見込まれる着実な航空輸送量の伸びを支える安全性及び効率性の向上に必要な研究開発が求められている。また、災害時等における空からの観測・監視の重要性が認識される中で、無人機による観測・監視等に対する新たなニーズが発生しており、これらに適切に対応していく必要がある。さらに、我が国が得意としこれまで蓄積してきた技術を基礎として、将来の航空機の利便性・快適性・高速性を大幅に向上させるとともに、人類共通の課題である環境問題に大きく貢献する革新的な交通輸送システムを実現するために必要なブレークスルーとなる技術に取り組むことの重要性も高まっている。

 以上のような国として研究開発を行う意義と、第3期基本計画、分野別推進戦略の趣旨、航空を取り巻く動向及び我が国の持つ技術力を踏まえ、文部科学省が重点的に進めるべき航空科学技術の研究開発とそれら研究開発を推進するに当たっての重要事項に対する基本的な考え方を以下に示す。

2.1 重点的に進めるべき研究開発に対する基本的考え方

○社会のニーズに即した成果の還元

 航空科学技術の研究開発は、航空機の設計・製造や運航を通じて、国民生活の利便性・快適性を向上させるとともに、安全・安心で環境に適合した交通システムを提供することにより社会に貢献していくものであり、社会ニーズを見据えて研究開発を行い、成果を還元することが肝要である。

 現在、我が国では民間企業において国産航空機・エンジンの開発が進められているほか、航空輸送量の増大に対応した安全性及び運航効率の向上に関する関心が高まっている。また、災害時における観測・監視の重要性がクローズアップされる等、航空機及び無人機の利用に関する新たなニーズも見込まれている。このような状況に対し、国はリスクの高い技術等を開発し、民間企業に移転することにより航空機・エンジンの開発に貢献するとともに、新しい安全で効率的な航空輸送システムの構築に取り組んでいく必要がある。

 航空科学技術の研究開発を推進するに当たっては、これらの動向を考慮しつつ、社会のニーズを的確に捉え、速やかな実現が求められる課題に焦点を当てて技術の成熟度を高め、社会に成果を還元することを目指す。その際、社会における航空科学技術の利用の観点から、個別の技術課題のみならず航空輸送システム全体を視野に入れる。

○国力の源泉となる独創的な技術への挑戦

 資源の乏しい我が国は、科学技術創造立国を標榜し、独自の優れた技術により繁栄していくことを目指している。航空科学技術分野は幅広い科学技術の集約的分野であるため、この分野での独創的な技術は広範な産業分野の高度化を先導することにつながる。しかしながら、航空科学技術分野における独創的な研究開発は、研究開発費が大きく、事業化までに相当な期間を要する等、民間企業が独自に取り組むことは難しい。このため、国として長期的な視点に立って国力の源泉となる独創的な技術を創出することを目指したたゆみない挑戦を続けていく必要がある。

 この考え方に基づいて研究開発を推進するに当たっては、我が国が蓄積して来た先進技術を基礎として、航空科学技術にブレークスルーをもたらすような研究開発を着実に進め、イノベーションの創出につながる技術の獲得に努める。このような取り組みを通じて国際競争力を強化するとともに、高度な技術により国際的に貢献することを目指す。

○技術基盤の充実による研究開発の高度化

 航空機の開発といった巨大かつ複雑な研究開発プロジェクトを進めるためには、信頼性の高い実用化技術や先進技術からなる基盤技術の強化を図るとともに、風洞(注)や大型計算機といった高度な大型試験研究設備の整備及びそれらの設備を活用した試験・評価技術の向上が不可欠である。しかしながら、これらの技術基盤を大学や民間企業のみで整備するには、費用等の面で極めて限られたものとならざるを得ず、国として大学や産業界等の要望を踏まえながら充実させていく必要がある。

2.2 研究開発の推進に当たっての重要事項に対する基本的考え方

○柔軟で効果的な研究開発活動を支えるための環境整備

 柔軟で効果的な研究開発活動に貢献する優れた人材を育成・確保するとともに、研究開発活動を支える効果的・効率的な仕組みを構築することは、航空科学技術及び産業の発展の礎となるものであり、長期的な視点に立って継続的に実施する。また、限られた資源を有効に活用するために、航空機の開発から運航にかけて関連する省庁、企業、研究機関及び大学の密接な連携を図る。

 また、国として研究開発を進めるに当たっては、説明責任を果たすことにより、社会・国民の理解・支持を得ることを重視する。このため、研究開発についての情報発信を積極的に行うことにより、航空に関する国民の関心及び理解を深め、特に青少年が航空科学技術に興味を持つよう国民意識の醸成に努める。

 さらに、国際競争力の強化及び国際協力の推進の観点から、知的財産を積極的に獲得し権利保護を図る取り組みを行う。そのほか、研究開発上の諸制度等の研究開発を支える環境の整備は、航空科学技術の研究開発の多様性及び柔軟性を考慮しながら、着実に行う。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)