2.情報科学技術の推進に関する基本的考え方

【研究開発を進める上で配慮すべきこと】

 科学技術創造立国を目指す我が国にとって、研究開発の成果が社会、経済に比較的短期間で還元され、また、様々な他分野の研究開発を効果的・効率的に進めていくためのツールとなる情報科学技術の意義は大きいが、その研究開発の推進にあたっては、現下の社会情勢、経済情勢等に鑑みると以下の点に配慮しておく必要がある。

○適切な社会ニーズの把握と成果の実用化に当たっての適切な方向づけ

 情報科学技術は基礎から実用化までの開発ステップが比較的短く、また、その成果も短期間のうちに時代のニーズに適応しなくなることが多い。このため、基礎的段階の研究においても常に早期の実用化を念頭に置くとともに、そのときどきの社会ニーズを適切に反映するための不断のレビューが必要である。

○将来を見据えた基礎研究の推進、知的基盤の構築

 比較的短期間で経済、社会への波及が期待できる研究開発の推進が目下の重要課題である一方、情報科学技術は基礎研究も含めた様々な科学技術分野の全体的な底上げにも大きく貢献するものである。このため、10年、20年先の成果の発現を見据えた基礎的な原理、真理の探究のための研究についても着実に進め、将来の発展を睨んだ知的基盤の構築を図ることも念頭に置くべきである。

○システム化、ソフトウェア、人間や社会と情報科学技術の関わりの重視

 個々の要素技術の性能を向上させていくことはもちろんであるが、それで終わるのではなく、技術そのものを社会の用に足るものとしていくためには、最終的には個々の技術の統合化、システム化まで行わなければならない。また、情報科学技術と人間、社会との関わりも考慮に入れていくべきである。さらには、情報科学技術はハードウェアとソフトウェアのバランスある開発とその開発成果の相乗効果によってその成果が最適のものとなる。従来ともすれば要素技術、ハードウェア技術に比重が置かれていたことも踏まえ、今後はシステム化技術、ソフトウェア技術、さらには社会との協創的なデザインに関する基礎技術の研究開発などを通じて技術の進展に動的に対応しつつ、情報科学技術の発展や変革に起因する複雑で多様な問題の解明と解決を目指すことを特に重視すべきである。

○社会の要請に的確に応えることのできる高度で多様性のある研究者、技術者の養成

 第3期科学技術基本計画を遂行するに当たっての基本姿勢の一つとして「人材育成の重視」が挙げられている。科学技術力の基盤は人であり、日本における創造的な科学技術の将来は、我が国に育まれ、活躍する「人」の力如何にかかっている。
 しかしながら、必要な研究開発を進めていくための研究者、技術者は質量ともに十分とはいいがたく、特にソフトウェア関係の人材育成は危機的状況にある。
 この点は本委員会においても再三議論となったほか、総合科学技術会議も「平成18年度の科学技術に関する予算、人材等の資源配分の方針」(平成17年6月)で「情報通信分野の中で、特に、ソフトウェア技術及びセキュリティ技術の開発を担う中核的な人材の育成強化」を重点的に推進することとしている。
 情報科学技術、中でもソフトウェア関係は開発の主体たる「人」が全てと言っても過言ではなく、高度情報化社会の基盤となる金融、物流システム等の利便性、信頼性、安全性を確保するためには、優れた人材、特にシステム、ソフトウェアを正確に作り上げる能力をもった人材、対象となるソフトウェアを適切にモデル化し維持・管理する人材の養成が不可欠である。このためソフトウェア関係の人材には1)情報科学技術の最新の技術に通じていること、2)その知識を実用システム、実際のソフトウェア開発の現場に適用できること、3)ユーザのニーズに敏感で柔軟な発想を持つこと、4)情報科学技術に対する社会的な要請等に高いレベルで応え続けるモティベーションを維持し続けること等、幅広い能力が必要であることから、将来にわたる発展的研究活動を支える高度で多様性のある研究者、技術者の養成に特に留意しなければならない。

○新しい時代に即した新興領域・融合領域への対応

 情報科学技術は様々な直接的成果を生み出す研究分野の一つであるとともに、ネットワーク、コンピュータという全ての研究活動を支える研究基盤としての側面ももつ。近年の高速ネットワーク、高性能コンピュータ(ソフトウェアを含む)の発達により、時間や空間等の制約により従来は実現不可能だった研究形態が可能となってきている。また、21世紀に入り、世界的な知の大競争が激化している。これにより、知の学術資産に立脚した新興領域・融合領域の研究の創出が加速されている。我が国の今後の持続的な経済、社会発展のためにも、このような新しい研究スタイルの確立や新興・融合領域の研究開発に資するような情報科学技術の研究開発の推進が必要である。

○厳しい改革を乗り越えダイナミズム、柔軟性のある研究組織の実現

 第2期科学技術基本計画中に国立大学(大学共同利用機関を含む)は法人化され、また、特殊法人等は独立行政法人に移行し、厳しい外部評価や効率的な研究資金の運営が求められている。そのため、研究を実施する組織そのものの改革が今後も進むことに鑑みると、行うべき研究の目標、手法を明らかにし、評価、外部への情報公開等についてさらなる充実を図らなければならない。
 一方、研究資金、研究組織、研究人材等に関して柔軟で迅速な運営が可能になったこと、研究組織、研究者の目的意識がより明確になったこと等の改革のプラス面に留意し、新しい時代、社会的要請に応えていくダイナミズムあふれる研究組織、研究スタイルの実現に取り組むことが望まれる。

○知的財産権の保護と活用

 知的財産の保護と活用に関する検討は、研究開発投資の拡充に対応した成果の創出・確保を図り、国際競争力の強化に結び付けるために重要である。総合科学技術会議でも、平成14年1月に知的財産戦略専門調査会を設置し、「知的財産戦略について」を毎年とりまとめる等、本格的な検討を行っている。これらの検討状況等に留意しつつ、日本版バイドールの適用等、情報科学技術分野の実際の研究開発に即した知的財産の保護と活用に関する方策を進める必要がある。

○最先端の情報科学技術を国民に分かりやすく説明する責任の認識

 最先端の情報科学技術の研究開発を推進するに当たり、その内容や成果を国民に見えやすく、分かりやすく説明することを心がけるべきである。特に、多額の国費を投じた大規模プロジェクトの場合、納税者に対する説明責任を果たし、国民の最先端の情報科学技術に対する理解と支持を得る観点からも重要である。また、この分野の成果やすばらしさの周知により情報科学技術の魅力を向上させ、青少年が情報科学技術に夢を抱き、その担い手になることに誇りを持てるようにすることも重要である。

【情報科学技術分野における文部科学省の果たすべき役割】

 情報科学技術はネットワーク、半導体、コンピュータのようなハードウェアからシステムソフトウェア(OS)、ミドルウェア、ヒューマンインタフェース等の基盤的なソフトウェア、さらには、アプリケーション領域もライフサイエンス、ナノテクノロジー・材料、環境等の科学技術関係応用分野からITS、医療、教育、防災等の社会的応用分野に至る極めて広範な範囲にまたがるため、その行政ニーズに応じ様々な省庁が施策を実施している。また、実用化一歩手前のデバイス開発やビジネスアプリケーション等の分野では民間の果たしている役割が大きい。
 このような、基本的役割の下、教育、科学技術・学術研究を所管している文部科学省では、これまで
 1)大学を中心とした教育・研究機関における基礎基盤的な研究及び人材の養成
 2)情報科学以外の分野も含む研究開発のツールとしての情報科学技術
 3)研究情報基盤の高度化、高機能化
を推進してきた。今後、これらの機能を活かしつつ、新しい時代の要請にも応えるべく文部科学省が果たすべき役割は以下のとおりと考える。

○基礎基盤的領域の研究ポテンシャルを活用した社会への積極的貢献

 情報科学技術の研究は民間でも行われているが、民間における基礎的研究開発活動が従前ほど活発に行われなくなっており、このため、国による基礎的・萌芽的研究と民間による実用化研究との橋渡しが従前のようにうまく機能していない状況にある。このため、大学等を中心とする基礎基盤的領域の研究ポテンシャルを積極的に発掘し、民間企業がそれを活用できる段階にまで育成し、その成果を社会へ貢献できるような仕組みを積極的に構築する。

○基礎研究、学術研究の推進

 研究開発の成果をイノベーションを通じて社会・国民に還元していく一方、より長期的スパンで研究者の自由な発想と研究意欲に基づく基礎研究、学術研究を持続的に実施することにより学問分野発展の基盤を着実に構築していくことも重要であることから、科学研究費補助金等による情報科学技術に関する基礎研究をより一層着実に進める。
 また、情報科学技術のみならず、情報科学技術を直接的に用いる他の研究分野(ライフサイエンス分野のゲノム解析、ナノテクノロジー・材料分野のシミュレーション等)における情報科学技術に基盤を置いた基礎研究、学術研究を推進する。

○高度な研究を支える情報科学技術を活用した基盤の高度化、高機能化

 情報科学技術は基盤として、他の科学技術の研究開発の推進における基盤を形成するために使われる。世界的な知の大競争時代の中、情報科学技術分野の研究はもちろんのこと、他分野において高度な研究を行っていくための情報科学技術を活用した研究基盤の重要性が高まっている。このため、遠隔共同研究、研究情報の解析・整理・蓄積等、情報科学技術を活用した基盤の高度化、高機能化を推進する。
 第3期科学技術基本計画においては、国家的な大規模プロジェクトとして集中的に投資すべき基幹技術(国家基幹技術)に取り組むこととしている。情報通信分野では次世代スーパーコンピューティング技術が国家基幹技術として挙げられており、情報科学技術分野や他の高度な研究を支える基盤として、科学技術を牽引する高性能の次世代スーパーコンピュータの開発利用を積極的に推進する。その際、産業への波及効果を明確に意図した積極的な新技術開発を行うとともに、他の大規模・中規模のスーパーコンピュータとの役割分担を考慮しつつ、中・長期的な視座から継続的に取り組むべきである。
 また、科学技術の持続的な発展を支えるため、システムソフトウェアやミドルウェア、ネットワークなどの研究活動を産学が連携して支える研究開発基盤の高度化を推進する。

○高度で多様性のある研究人材の養成・確保

 今後の我が国の情報科学技術分野における研究開発を支えるだけでなく、高度IT社会に対応した幅広い知見と高いリーダーシップを持ち、ITを活用した高い付加価値を創造できる、いわゆる高度IT人材を育成するための体系的な取組を推進する。
 特に、我が国が国際的な競争優位性を奪われているソフトウェア分野の人材強化に迅速に取り組んでいく。
 また、高度な研究開発を支えるサポート人材、魅力あるコンテンツとその活用を生み出すクリエータの育成にも配慮する。

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科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)