資料1-1 文部科学省における研究及び開発に関する評価指針【概要】

1. 位置付け及び策定の観点

文部科学省の所掌に係る研究開発に関する評価の基本的な考え方を示したガイドライン(指針)を、「国の研究開発評価に関する大綱的指針」(平成24年12月6日内閣総理大臣決定)、研究開発評価に係る諸課題等を踏まえ改定。本改定にあたっては、特に以下の五つの課題に焦点を当てている。

○科学技術イノベーションの創出、課題解決のためのシステムの推進

○ハイリスク研究、学際・融合領域・分野間連携研究等の推進

○次代を担う若手研究者の育成・支援の推進

○評価の形式化・形骸化、評価負担増大の改善

○研究開発プログラム評価

2. 改定のポイント

(1)研究開発評価の在り方に係る特筆課題

●経済の再生を図り、国際競争力を強化するには、科学技術を基盤としてイノベーションの実現を強力に推進していくことが必要不可欠である。

●厳しい社会経済情勢や財政状況の中、限られた資源・財源で研究開発を行わなければならない実情を踏まえ、科学コミュニティ自らが研究開発活動の意義や在り方について考え、改善し、行動し、説明していかなければならないという考え方が国際的にも示されるようになってきている。

●研究者が自ら社会の要請に的確に把握し、多様な専門知の結集などによる課題解決を可能としていく研究開発システムが構築されていくように改善・改革を図っていく必要がある。

●基礎研究・学術研究の意義は、最新の科学技術・学術の知見をもとに新しい学理・学術領域の創出や既存の学理の再体系化を促すことによって科学技術・学術の進歩に資することである。さらに技術の背後にある基礎学理を明らかにすることは、その技術に信頼を与え、それを広く活用することを可能とするものであり、科学技術イノベーションの源泉となる。こうした目標や意義について、研究者自ら常に意識し、それに沿った成果を効果的に創出し社会に還元するように努力しなければならない。

●研究開発の多くは、大学院生を含む若手研究者の活動の中で行われていることから、研究開発施策と高等教育施策などの人材育成施策は有機的な連携を図っていくことが大切であり、個々のプログラム、プロジェクト、課題等の評価のみならず、人材育成の視点等、研究開発をとりまく諸情勢までを踏まえたマクロな視点から研究開発施策について評価を行っていくことも重要である。

●国、資金配分機関とともに、研究開発機関等の研究開発の現場においても、評価の頻度・負担が増大してきており、評価活動に伴う弊害を改善する取組を真剣に進めていくことの重要性が高まっている。

●評価は、何らかの意思決定(資金配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であり、その目的に応じて個々の評価システムが構築される必要があるが、これまで研究開発評価の導入やシステム化を優先的に図ってきた結果、逆に意思決定のプロセスが不明確化する事態も生じている。

●施策の企画立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任と権限を有する主体を明確化し、当該主体が適切な意思決定を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から、評価の在り方を再構築していく必要がある。また、従来、評価に係る負担が研究開発活動の現場に向かいがちであったものを、研究開発施策の企画立案やマネジメントの在り方等、文部科学省内部部局や資金配分機関の取組に対する評価を適切に行っていくことの重要性が増している。

●評価に責任と権限を持つことができる、評価に関わる資質能力を備えた人材を育成していくとともに、当該人材が活躍できる環境やキャリアパスを整備していくことも重要な課題である。

(2)科学技術イノベーション創出、課題解決のためのシステムの推進

●論文発表数や論文被引用度は客観的・定量的な評価指標であり得るが、論文関係の数値だけに頼り安易にこれらの数値を上げること自体が目的化することは適当ではなく、必ずしも論文至上主義に偏しすぎないようにする。

●研究開発の開始段階等における幅広い関係者との協力に基づいた、国際水準をも踏まえた課題設定、出口戦略の作成、産業構造の変化への対応等の取組を適切に評価へ反映する。

●課題解決のためのシステム化を促進するため、知の探求のみならず社会ニーズに対応した知の活用を促し、成果の受渡しや成果の実用化など、社会実装に至る全段階を通じた取組を評価へ反映する。

●研究開発活動の費用対効果の観点等も含め、研究者等の活動及び成果がコストに見合わないと判断されるような場合は、研究開発活動の改善を促す措置とあわせて、改善が見込み難い場合の対処方法等についても組み込んだ研究開発評価システムを構築する。その際、科学技術・学術の展開に対する影響度など研究の質及び新規性についても適切に評価を行い、多方面からの評価軸を設定するなど多様性に配慮したものとすること、また、全てを加点方式により評価するシステムの導入など、被評価者の能力向上につながるものとして肯定的に受け入れられ、研究開発活動の改革や進展を促進するものとすることに努める。

(3)ハイリスク研究、学際・融合領域・領域間連携研究等の推進

●本来はハイリスク研究の推進自体を目的としない研究開発施策においても、当該目的・評価基準では推し量れないハイリスクな研究が提案される可能性はある。その場合、当該目的・評価基準では必ずしも優位ではないがリスクをとっても実施する価値があると考えられる案件を採択することを妨げないような審査基準等を設定し、中間評価や事後評価においても、ハイリスク案件であることを前提として評価するなどの取組を推進する。

●評価者の立場からすると、ハイリスク研究についてはその性質上、あらかじめ統一的・客観的で明確な評価基準をもって評価ないし判断することは困難である。そのため、ハイリスク研究の推進に際しては、PD(プログラムディレクター)・PO(プログラムオフィサー)、研究開発課題(プロジェクト)のリーダー等に、研究開発の具体的推進に係る相当の裁量権限と責任を委ねるような仕組みや評価の枠組みを採り入れることを考慮する。

●本来は新しい研究領域の開拓自体を目的としない研究開発施策における研究開発課題(プロジェクト)の審査においても、学際・融合領域・領域間連携研究が提案された場合に不利にならないよう、審査・評価に際しての取扱いを明確にするなど、研究の芽を適切に拾い上げることに努めるとともに、研究の進展に応じて、評価の基準・方法等を適切に見直す。

●ハイリスク研究の事後評価においては、挑戦的な研究開発課題(プロジェクト)が当初の目標の達成には失敗したとしても、予期せざる波及効果に大きい意味がある場合等には、次につながる有意義なものとして評定することを許容するような評価基準を設定する。

(4)次代を担う若手研究者の育成・支援

●ポストドクターや博士課程学生に提供されている処遇や研究環境、若手研究者が自立した研究者へ育って多様なキャリアへ進むことを支援するような研究代表者の所属機関での組織的な活動を適切に確認する。

●多様で優れた研究者の活躍を促進する観点から、研究開発施策等の目的を十分踏まえた上で、若手研究者、女性研究者、外国人研究者が研究代表者である優れた研究開発課題を積極的に評価する。

●文部科学省内部部局及び資金配分機関は、研究開発課題の評価において、参画している個々の若手研究者に評価資料の作成負担がかかるような評価活動を行うのではなく、研究代表者を中心とした評価活動を行うことで、若手研究者が研究に専念できるよう配慮する。

●個人業績評価による若手研究者への影響を確認しながら、若手研究者が励まされ、創造性を発揮しやすくなるような評価方法を検討する。

(5)評価の形式化・形骸化、評価負担増大に対する改善

●評価は、最も評価対象・評価事項等に理解・精通している者が行う評価、すなわち「自己評価」が基本かつ重要であり、評価システムが質の高い自己評価を基盤として再構築されることが望ましい。そのために、自己評価に当たっては、客観的で信憑(しんぴょう)性の高いものとすることに十分留意するとともに、研究者側からの研究意義等についての積極的な主張を歓迎する。質の高い自己評価をベースとした第三者評価や外部評価については、多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて柔軟に合理的な評価手法を設定する。

●文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価は何らかの意思決定(資源配分、改善・質の向上、進捗度の点検、説明責任等)を行う目的のために実施される手段であることを再確認し、画一的な評価システムを形式的に導入するのではなく、その目的に応じて個々に適切な研究開発評価システムを構築する。

●評価を導入・システム化してきた結果として、逆に責任・権限関係や意思決定のプロセス等が不明確化する事態も生じている。施策の立案、資源配分、研究課題の実施等の各段階において主として責任・権限を有する主体を明確化し、当該意思決定を行う主体が適切な判断等を行うために評価が活用されるべきであるとの観点から評価の在り方を再構築する。また、そのような責任・権限体制が整備・確立されているかどうかについて適切に評価する。

●研究開発に係る各種の評価システムの必要性や有効性、評価の頻度や方法の妥当性等を踏まえ、実効的かつ合理的な評価の在り方を検討するとともに、評価の質を高めるよう努める。その際、「必要性」・「有効性」・「効率性」を含め、評価の観点や項目全てについて網羅的に評価するのではなく、むしろ、それぞれの研究段階、研究特性、研究方法等を踏まえて、評価の観点や項目の重みづけを行い、評価すべきことをしっかりと評価することが本質的に重要であることに十分留意する。

(6)研究開発プログラム評価

●政策的に推進すべき具体的な科学技術イノベーション創出へ向けてのゴール(目標)及び時間軸が明確に設定できる場合、国民や社会が解決を必要としている具体的な政策課題について明確なゴール(目標)を設定できる場合には、「研究開発プログラム」のレベルで時間軸を設定し各段階での達成度目標を踏まえて評価を行うことが、研究開発施策の評価に際して効果的に機能していくものと期待される。

●政策、施策、事業等に係る諸評価体系(政策評価法に基づく政策評価、独立行政法人通則法に基づく独立行政法人評価、国立大学法人法に基づく国立大学法人評価、大学の認証評価、総合科学技術会議による評価、行政改革に係る行政事業レビュー等)と整合性をとりながら、合理的かつ実効的な形で研究開発プログラム評価の導入を進める。

●基礎研究、学術研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このほか、独創性が重視されるとともに、人材養成の意義も重要である。このため、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意することが必要であり、研究開発プログラム評価においても、こうした特性を十分考慮する。

●文部科学省関係の研究開発施策について、定量的に評価できる指標をあらかじめ画一的に設定することに固執することなく、定性的な目標・指標を設定することを含め、有意義かつ実効的な形で目標・指標を設定するとともに、プログラムの進捗に応じた適切かつ柔軟な評価を行う。

●研究開発プログラムの企画・立案段階から、国、資金配分機関、PD・PO候補者等が適切に関与・参画し、責任・権限関係や役割分担等が明確な形で実施され、研究開発プログラムの評価は当該態様に適合した形で行われることも重要である。

お問合せ先

科学技術・学術政策局企画評価課

(科学技術・学術政策局企画評価課)

-- 登録:平成26年03月 --