第3章 機関や研究開発の特性に応じた配慮事項

第1章、第2章では、文部科学省の所掌に係る研究開発全般について、評価を行う上での考え方を示した。

研究開発法人等については、「独立行政法人通則法」(平成11年法律第103号)、国立大学法人及び大学共同利用機関法人については、「国立大学法人法」(平成15年法律第112号)等において評価の枠組みが明記されているので、これらと本指針との関係を本章において整理することとした。

また、文部科学省の所掌に係る研究開発において極めて重要な位置を占める大学等における学術研究は、他の研究開発と比べて異なる特性を有すること、また、大学等は教育機能を有する機関でもあることから、その評価に当たっては、前章までに示した考え方に基づくほか、これらの特徴を踏まえる必要があるため、特に配慮すべき事項を本章において整理する。

3.1 独立行政法人通則法、国立大学法人法等との関係

 研究開発法人等については、「独立行政法人通則法」に基づき、独立行政法人評価委員会が業務の実績に関して第三者評価を行う。独立行政法人評価委員会が評価を進める上で、本指針を参考とすることが期待される。

 大学等については、学校教育法等に規定する自己点検・評価を厳正に行う。国立大学法人及び大学共同利用機関法人については、「国立大学法人法」に基づき、国立大学法人評価委員会が業務の実績に関し第三者評価を行うが、教育研究の状況については、大学評価・学位授与機構における評価の結果を尊重することとされている。これらの評価に当たっては、大学等の研究活動の特殊性に留意し、本指針を参考とすることが期待される。

 なお、本指針をもって新たな機関評価を行う義務が発生するものではない。

3.2 大学等における学術研究の評価における配慮事項

3.2.1 基本的考え方

3.2.1.1 学術研究の意義

 大学等における学術研究は、研究者の自由な発想と研究意欲を源泉として行われる知的創造活動であり、人間の精神生活を構成する要素としてそれ自体優れた文化的価値を有する。その成果は人類共通の知的資産となり、文化の形成に寄与する。また、多様性を持った学術研究が幅広く推進される中から未来社会の在り方を変えるブレークスルーを生み出すなど、国家・社会発展の基盤ともなる。

3.2.1.2 学術研究における評価の基本的理念

 学術研究においては、自律的な環境の中で研究活動が行われることが極めて重要である。その評価に当たっては、専門家集団における学問的意義についての評価を基本とする。その際、公正さと透明性の確保に努める。

 また、優れた研究を積極的に評価するなど、評価を通じて研究活動を鼓舞・奨励し、その活性化を図るという積極的・発展的な観点を重視する。画一的・形式的な評価や安易な結果責任の追及が研究者を萎縮させ、独創的・萌芽的な研究や達成困難な課題に挑戦しようとする意欲を削ぎ、研究活動が均質化することのないようにする。

3.2.1.3 学術研究の特性

 学術研究は、人文・社会科学、自然科学のあらゆる学問分野にわたるものであり、その性格、内容、規模等が極めて多様である。また、学術研究においては独創性が重視されるとともに、萌芽的な研究や長期間を経て波及効果が現れる研究等、評価が容易でないものも多い。さらに、新しい原理や法則の発見に至る過程においては、研究の経過そのものや時には失敗さえもがその後の展開にとって価値を有する場合がある。また、大学等においては、研究成果を踏まえた教育活動によって研究者をはじめ社会の様々な分野で活躍する人材が養成されるなど、研究活動と教育活動が密接な関連をもって推進されている点にも大きな特徴がある。

 学術研究における評価に当たっては、これらの特性に配慮する必要がある。

3.2.1.4 評価の際の留意点

3.2.1.4.1 評価の視点

 学問的意義についての評価を中心とし、それに加えて研究の分野や目的に応じて、社会・経済への貢献という観点から新技術の創出や特許等の取得に向けた取り組み等を評価の視点の一つとする。また、成果の波及効果を十分に見極めるなど、長期的・文化的な観点に立った評価が必要である。さらに、最先端の研究のみならず、萌芽的な研究を推進するとともに、若手研究者による柔軟で多様な発想を活かし、育てるという視点が重要である。単に成果を事後的に評価するのみならず、現に研究活動に取り組んでいる研究者の意欲や活力、発展可能性を適切に評価するという視点を持つべきである。

3.2.1.4.2 評価の方法

 定量的指標による評価方法には限界があり、ピアレビューによる研究内容の質の面での評価を基本とする。その際、数量的な情報・データ等を評価指標として用いる場合には、前述(2.2.1.5.6及び2.2.2.5.2 評価の実施)に述べた観点を踏まえ、慎重な態度が求められる。 人文・社会科学の研究は、人類の精神文化や人類・社会に生起する諸々の現象や問題を対象とし、これを解釈し、意味付けていくという特性を持った学問であり、個人の価値観が評価に反映される部分が大きいという点に配慮する。

3.2.1.4.3 研究と教育の有機的関係

 大学等は教育機能を有する機関でもあることから、大学等の機関評価や大学等の研究者の業績評価については、教育、研究、社会貢献といった大学等の諸機能全体の適切な発展を目指すことが必要であり、研究と教育の有機的関係に配慮する。

3.2.2 対象別の評価方法

3.2.2.1 研究開発課題の評価

3.2.2.1.1 基盤的資金による研究

 基盤的資金は、萌芽的な研究や継続的な研究を含め、研究者の自由な発想による多様な研究活動を支え、学術研究の発展の基盤を培うものである。

 基盤的資金による研究開発課題の評価は、研究者による日常的な論文発表や学会活動等に対する評価を活用しつつ、各大学等において行う。その際、研究者の業績評価の一環として行うことも考慮する。また、自由闊達な雰囲気を損ねたり、将来に向けての研究の発展の芽を摘み取ることのないよう留意する。

3.2.2.1.2 競争的資金による研究

 学術振興を目的とする競争的資金による研究の評価については、時代の要請に応じて必要な体制の整備を図りつつ、一層の充実を図る。その際、研究種目の性格や研究費規模に応じて、事前評価(審査)に重点を置くなど、効果的・効率的な評価方法を設定する。評価の質的向上を図る観点から、 審査員の構成バランスへの配慮、研究内容を理解できる人材の確保を含めた評価業務実施体制の強化、審査結果の申請者への開示の拡充に努める。

3.2.2.1.3 大型研究プロジェクト

 天文学、加速器科学、核融合科学等、特定の大学共同利用機関等が中心となり、巨額の資金と多くの研究者集団により実施される大型研究プロジェクトの評価に当たっては、研究者のアイデアを汲み上げつつ第三者的立場の審議会等で評価を行う体制が有効かつ適切である。このため、科学技術・学術審議会等において、事前・中間・事後の各段階における評価を実施し、それに基づいてプロジェクトの変更・中止等の措置を講ずるとともに、評価結果を積極的に公表し、発信する。その際、評価の適切性を高めるため、学問的意義のみならず社会・経済に与える影響について十分な評価が行われるよう、有識者の参画を得て評価を行う。また、外国人研究者の意見を聴くなど、世界的あるいは国際的な視点に立った評価の実施に努める。

3.2.2.2 研究面における大学等の機関評価

 評価に当たっては、まず各大学等が自らの目標に照らして研究活動及び組織運営の状況について自己点検・評価を行い、その結果を組織運営の改善に役立てるとともに、国民に対する説明責任を果たす観点からこれを公表する。

 大学共同利用機関については、運営会議において、機関の運営及び研究活動の両面での評価が行われており、これら外部に開かれた運営体制における評価機能を活用する。

3.2.2.3 研究者の業績評価

 各大学等においては、例えば、学会等を通じた研究者間の相互評価や競争的資金の獲得実績も活用して個々の研究者の業績を評価し、その結果を大学等の組織運営に活かす。なお、研究者の業績評価については、大学等における自己点検・評価の一環として実施することも考慮する。

 研究者の業績評価に当たっては、研究者の創意を尊重し、優れた研究活動を推奨し、支援するという積極的視点が重要である。一方、研究者は、大学等がその使命を全うするために自由な研究環境の保障が必要とされていることを自覚し、自らを厳しく律して研究を推進することが望まれる。

 大学等にとっては、教育機能も極めて重要な要素であり、教員の評価に当たって研究面での業績のみが重視されることによって、大学等における教育面での機能の低下をもたらすことのないよう留意する。

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