第2章 対象別事項

 研究開発に関する評価が多様な側面からなされるようになったことから、各評価を個別に行うのではなく、収集した情報や評価結果を相互に活用することにより、作業の重複を避け、効率的に評価を実施することが必要である。例えば、研究開発課題の評価結果は、研究開発施策、研究開発機関等、あるいは研究者等の業績の評価の際の情報となり得るものであり、課題の評価実施主体は、評価結果に関する情報の提供を積極的に行う。

2.1 研究開発施策の評価

2.1.1 評価の目的

 研究開発施策とは、複数の研究開発課題を運営する施策や競争的資金制度等、研究開発に係る政策上の特定の目的や目標の実現を目指して、推進方針や戦略・計画・実施手段等の体系が整備され、それに応じて推進されるものをいう。

 研究開発施策の評価は、文部科学省内部部局及び研究開発法人等が、このような施策や制度等を対象として、目標の設定された施策毎に評価を実施することにより、実施の当否を判断するとともに、研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等につなげることを目的とする。

 文部科学省内部部局は、「行政機関が行う政策の評価に関する法律」や「文部科学省政策評価基本計画」等に基づく政策評価のなかでも、研究開発施策(注11)の評価に当たっては、本指針に基づき行う。

 なお、本指針をもって新たな施策評価を行う義務が発生するものではない。

(注11)
ここでいう研究開発施策とは、文部科学省政策評価基本計画における施策、事務事業(研究開発課題を除く)のうち研究開発に関するもの等に相当する。

2.1.2 評価とマネジメント

 文部科学省内部部局及び研究開発法人等は、評価の実施に当たって、研究開発施策を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映するという循環過程を構築する。なお、評価を適切に実施するために、施策を企画立案する際に、達成目標を明確に設定するとともに、評価に活用することが可能な定性的・定量的な指標を設定するように努める。

 研究開発施策の評価に当たっては、評価に階層構造が存在することを考慮し、様々な評価を有機的に連携させる。例えば、研究開発課題を運営する制度に関しては、その制度の下で行われる課題の評価結果を総覧しつつ、分野間の配分や制度運営の適切性等の視点も含め、評価を行う。その際、研究開発課題に対する評価者からの意見聴取等に配慮する。

2.1.3 評価者

2.1.3.1 評価者の選任

 評価実施主体は、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるため、原則として外部の専門家等を評価者とする外部評価により実施する。また、必要に応じて第三者評価を活用する。

 なお、国家安全保障や国民の安全確保等の観点から機密保持が必要な場合は、上記によらず適切に評価を行う。

 評価者の選任に当たっては、独創性、革新性、先導性、発展性等の科学的・技術的意義に係る評価(科学的・技術的観点からの評価)と文化、環境等を含めた国民生活の質の向上への貢献や成果の産業化等の社会・経済への貢献に係る評価(社会的・経済的観点からの評価)では、評価者に求められる能力が異なることから、評価実施主体は、評価対象・目的に照らして、それぞれの観点に応じた適切な評価者を選任する。

 科学的・技術的観点からの評価においては、評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の研究者を評価者とする。社会的・経済的観点からの評価においては、評価対象と異なる研究開発分野の研究者、成果を享受する産業界、人文・社会科学分野を専門とする人材、研究開発成果の産業化・市場化の専門家、一般の立場で意見を述べられる者や波及効果、費用対効果等の分析の専門家等を加えることが適当である。

 なお、評価実施主体は、評価の目的や方法等に関して、選任した評価者に対して周知するとともに、相互の検討等を通じて、評価について共通認識が醸成されるよう配慮する。

2.1.3.2 評価者の幅広い選任、利害関係者の取り扱い

 評価実施主体は、評価の客観性を十分に保つとともに、様々な角度・視点から評価を行うために、例えば、年齢、所属機関、性別等に配慮するなどして、各研究開発活動の趣旨に応じて、民間人、若手研究者、外国人等を含め幅広く評価者を選任する。また、国際競争・協調の観点や研究開発水準の国際比較等の観点からの評価を行うため、必要に応じて、メールレビュー等により海外の研究者等に評価への参画を求める。

 また、公正で透明な評価を行う観点から、原則として利害関係者が評価に加わらないようにする。その際、各研究開発施策等の趣旨や性格に応じてあらかじめ利害関係となる範囲を明確に定める。やむを得ず利害関係者とみなされる懸念が残る者を排除できない場合には、その理由を明確にするとともに、当該評価者のモラルの維持や評価の透明性の確保等を図らなければならない。

2.1.4 評価の実施時期

 評価実施主体は、研究開発施策の開始前に、国の政策や機関等の設置目的に照らした施策の位置付け、実施の必要性、施策が担う範囲、目的や目標、実施手段、見直し方法等の妥当性等を把握し、予算等の資源配分の意思決定等を行うため、事前評価を実施する。

 また、研究開発施策の終了時に、目標の達成状況や成果等を把握し、その後の施策展開への活用等を行うため、事後評価を実施する。事後評価は、当該研究開発施策から得られる成果等を次の施策につなげていくために必要な場合には、施策終了前に実施し、その評価結果を次の施策の企画立案等に活用する。

 このほか、研究開発施策に実施期間の定めがない場合には、5年毎を目安に、情勢の変化や目標の達成状況等を把握し、研究開発の質の向上や運営改善、中断や中止を含めた計画変更等の要否の確認等を行うため、中間評価を実施する。

 さらに、研究開発施策が終了した後に、一定の時間を経過してから追跡評価を実施する。追跡評価については、学界における評価や実用化の状況、研究開発を契機としたイノベーションの創出や社会における価値の創造、さらに、大型研究施設の開発・建設等の場合は当該施設の稼動・活用状況等の成果の波及効果や副次的効果を把握するとともに、過去に実施した評価の妥当性を検証し、より良い研究開発施策の形成等に適切に反映する。なお、追跡評価については、研究開発施策の特性に応じて、国費投入額が大きい、重点的に推進する分野における施策、さらに、成果が得られるまでに時間がかかる施策等といった主要な施策から対象を選定して実施する。

 これらの評価の実施に当たっては、透明性や専門性を確保するため、必要に応じて民間等外部機関の活用も考慮する。

2.1.5 評価方法

2.1.5.1 評価方法の設定・抽出及び見直し

 評価実施主体は、評価における公正さと信頼性を確保し、実効性のある評価を実施するために、評価対象や目的に応じて評価方法(評価の観点、評価項目、評価基準、評価手法、評価過程、評価手続等)を明確かつ具体的に設定する。

 また、評価実施主体は、科学技術の急速な進展、社会や経済情勢の変化等、研究開発を取り巻く状況に応じて評価方法を見直す。

2.1.5.2 評価の観点

 評価は、当該研究開発施策の位置付け、施策設定理由に係る重要性、緊急性等(「必要性」)、当該施策の目的や目標、施策が担う範囲等に係る有効性(「有効性」)、当該施策の実施方法、体制、施策見直し方法等に係る効率性(「効率性」)等の観点から行う。

 また、評価は、研究開発の特性や規模に応じて、対象となる研究開発の世界的水準を踏まえて行う。

2.1.5.3 評価項目の抽出

 評価実施主体は、研究開発施策の性格、内容、規模等に応じて、「必要性」、「有効性」、「効率性」等の施策評価の観点の下に適切な評価項目を設定する。

 なお、評価項目としては以下のものが考えられる。

ア.「必要性」の観点
科学的・技術的意義(独創性、革新性、先導性、発展性等)、社会的・経済的意義(産業・経済活動の活性化・高度化、国際競争力の向上、知的財産権の取得・活用、社会的価値(安全・安心で心豊かな社会等)の創出等)、国費を用いた研究開発としての意義(国や社会のニーズへの適合性、機関の設置目的や研究目的への適合性、国の関与の必要性・緊急性、他国の先進研究開発との比較における妥当性等)、その他国益確保への貢献、政策・施策の企画立案・実施への貢献等

イ.「有効性」の観点
新しい知の創出への貢献、研究開発の質の向上への貢献、実用化・事業化への貢献、行政施策への貢献、人材の養成、知的基盤の整備への貢献、(見込まれる)直接の成果の内容、(見込まれる)効果や波及効果の内容等

ウ.「効率性」の観点
計画・実施体制の妥当性、目標・達成管理の向上方策の妥当性、費用構造や費用対効果向上方策の妥当性、研究開発の手段やアプローチの妥当性、施策見直し方法等の妥当性等

2.1.5.4 評価基準の設定

 評価実施主体は、抽出された各評価項目についての判断の根拠があいまいにならないよう、評価基準をあらかじめ明確に設定する。この際、研究開発の質を重視する。特に、科学的・技術的観点からの評価基準の設定に当たっては、研究開発の特性や規模に応じて、世界的水準を評価の基準とし、未知への挑戦に対する取り組みを重視することを基本とする。

2.1.5.5 評価手法の設定

 評価手法については、事前評価と中間・事後・追跡評価とでは異なる。

 事前評価では、研究開発施策評価の観点を踏まえ、上位政策と関連政策との位置付け、目的・目標・施策が担う範囲、それらを実現するための仕掛けや仕組み、循環的な施策見直し方法とそのための情報収集体制等の妥当性に関し、評価項目・評価基準を具体的に定め、類似の施策や当該施策が実施されなかった場合との比較の視点から評価する。

 中間・事後・追跡評価では、施策実施に伴う実績の把握を中心に行う。評価の観点及び評価項目・評価基準は事前評価と同様であるが、期待した成果と実績との比較(達成度評価)、評価基準に照らした実績の多寡(価値評価)、施策の効率を高めるための修正方策(レビュー評価)等の観点から評価を行う。

 評価については、評価に先立つ調査分析法から評価法そのものに至るまで様々な手法があり、その対象や時期、評価の目的や入手可能な情報の状況等に応じて適切な調査・分析及び評価の手法を選択する。

 その際、評価の客観性を確保する観点から、具体的な指標・数値による評価手法を用いるよう努める。

 今後、評価においては、その信頼性を高めるため、従来にも増して評価に先立つ調査分析を充実させ、判断の根拠となる客観的・定量的なデータを組織的に収集・分析するなど、その質の高度化が求められる。また、当面、現在入手可能な手法の中から適切なものを選択して行うが、今後は、評価手法等についても、それらの開発・改良を進め、評価の高度化を図る。

2.1.5.6 評価の実施

 評価実施主体は、設定・抽出した評価の観点、評価項目、評価基準、評価手法に従い、評価を実施する。

 特に、中間・事後評価等においては、あらかじめ設定した目標に対する達成状況等を評価することを基本とするが、併せて、実施したプロセスの妥当性や副次的成果、さらに、理解増進や研究基盤の向上等、次につながる成果を幅広い視野から捉える。また、失敗も含めた研究過程や計画外の事象から得られる知見、研究者の意欲、活力、発展可能性等にも配慮する。

2.1.6 評価に当たり留意すべき事項

2.1.6.1 評価活動の継続性

 評価実施主体は、過去に評価を行った者を評価者に含めるなど、評価の考え方の継承に努め、継続性を確保する。

 また、一連の評価に係る情報を一括管理し、当該研究開発施策の過程をたどることを可能としたり、事後評価や追跡評価の結果を次の研究開発段階の施策がより良いものになるべく活用されるよう運営する。

2.1.6.2 基礎研究等の評価

 基礎研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このため、評価実施主体は、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意する。

 また、試験調査等の研究開発の基盤整備的な役割を担うもの(注12)については、個々の性格を踏まえた適切な評価方法を用いる。

 (注12)
研究開発の基盤整備的な役割を担うものとは、各種観測調査、遺伝子資源の収集・利用、計量標準の維持、安全性等に関する試験調査、技術の普及指導等、相対的に定型的、継続的な業務をいう。

2.1.7 評価結果の取り扱い

 研究開発施策を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映するといった循環過程を確立しなければならない。

 そのためには、研究開発施策の評価については、あらかじめ評価目的及び活用方法を具体的に明確化し、評価結果を施策の企画立案や資源配分等に適切に反映して、研究開発の質の向上や資源の有効活用を図ることが重要である。評価結果の具体的な活用の例としては、評価時期別に、

  • 事前評価では、実施の当否、計画変更、優れた研究開発体制の構築、研究者又は研究代表者の責任の明確化等
  • 中間評価では、進捗度の点検と目標管理、継続、中止、方向転換、研究開発の質の向上、機関運営の改善等
  • 事後評価では、計画の目的や目標の達成状況の確認、研究者又は研究代表者の責任の明確化、国民への説明、評価結果のデータベース化や以後の評価での活用、次の段階の研究開発の企画・実施、次の政策・施策形成の活用、研究開発マネジメントの高度化、機関運営の改善等
  • 追跡評価では、効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)の確認、国民への説明、次の政策・施策形成への活用、研究開発マネジメントの高度化等 が挙げられる

 また、中間評価においては、研究開発が一層発展するよう必要に応じて助言する。特に、進展の激しい研究開発については、柔軟に研究計画を変更することを提言する。

 さらに、評価実施主体は、評価結果に応じて、研究者がさらにその研究開発を発展させ、より一層の成果を上げることができるような事後評価を行うとともに、研究開発実施・推進主体は、必要に応じて事後評価を活用するなどして、ある制度で生み出された研究成果が適切に次の制度等で活用されるような仕組みの構築を図る。

 評価実施主体は、評価結果を原則として公表するとともに、研究開発施策の企画立案に責任を有する部門や資源配分等に責任を有する部門に適切に周知する。また、評価結果が他の評価にも有効であることに留意し、必要に応じ関係部門に周知する。これらの関係部門は、評価結果を受け、研究開発施策や機関運営等の改善、資源配分等への適切な反映について検討する。その上で、文部科学省内部部局及び研究開発法人等は、これらの検討結果や反映状況も含めて公表する。

 評価実施主体は、個人情報や知的財産の保護等、あらかじめ必要な制限事項について配慮した上で評価結果等を公表する。また、評価結果の公表は、国民に対する説明責任を果たすとともに、評価の公正さと透明性を確保し、社会や産業において広く活用されることに役立つことから、インターネットを利用するなどして、分かりやすく活用されやすい形で公表する。その際、評価の目的や前提条件を明らかにするなど、評価結果が正確に伝わるように配慮する。評価者の評価内容に対する責任を明確にするとともに、評価に対する公正さと透明性を確保する点から、評価者名も公表する。

2.2 研究開発課題の評価

 研究開発課題は、政策や研究開発施策の下で個別の具体的な研究開発活動が実施される単位である。研究開発課題は、公募により複数の候補の中から優れたものが競争的に選択されて実施される「競争的資金による研究開発課題」、国が定めた明確な目的や目標に沿って重点的に推進される「重点的資金による研究開発課題」及び研究開発機関等に運営費交付金等として配分された資金により実施される「基盤的資金による研究開発課題」に区分される(注13)。

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、その研究開発課題の特性や分野、その課題が実施される研究開発施策等の目的や政策上の位置付け、課題の規模等に応じて、評価の目的や評価結果の活用の仕方、評価項目・評価基準等を的確に設定し、また、必要となる評価実施体制等を整備して評価を実施する。

 (注13)
ここでの区分は排他的ではない。したがって、研究開発課題の性質によっては複数の区分に該当することもありえる。

2.2.1 競争的資金による研究開発課題

2.2.1.1 評価の目的

 競争的資金による研究開発課題とは、競争的資金制度等の上位の目的を達成するため、公募により複数の候補の中から優れたものが競争的に選択されて実施される個々の課題をいう。

 競争的資金による研究開発課題の評価は、文部科学省内部部局及び研究開発機関等が競争的資金制度等の下で評価活動を実施することにより、課題の採否を判断するとともに、実施されている研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等につなげることを目的とする。

2.2.1.2 評価とマネジメント

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価の実施に当たって、競争的資金制度等を企画立案し、公募により提案された複数の候補の中から制度等の目的に適合する研究開発課題を選定し、課題を実施させ、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映し、さらに、課題に対する評価から得られた情報を集積・分析して制度等の評価に活用するという循環過程を構築する。

2.2.1.3 評価者

2.2.1.3.1 評価者の選任

 評価実施主体は、評価の公平さを高めるとともに、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるため、外部の専門家等を評価者とする外部評価により実施する。

 なお、国家安全保障や国民の安全確保等の観点から機密保持が必要な場合は、上記によらず適切に評価を行う。

 評価者の選任に当たっては、独創性、革新性、先導性、発展性等の科学的・技術的意義に係る評価(科学的・技術的観点からの評価)と文化、環境等を含めた国民生活の質の向上への貢献や成果の産業化等の社会・経済への貢献に係る評価(社会的・経済的観点からの評価)では、評価者に求められる能力が異なることから、評価実施主体は、評価対象・目的に照らして、それぞれの観点に応じた適切な評価者を選任する。

 科学的・技術的観点からの評価においては、評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の研究者を評価者とする。社会的・経済的観点からの評価においては、評価対象と異なる研究開発分野の研究者、成果を享受する産業界、人文・社会科学分野を専門とする人材、研究開発成果の産業化・市場化の専門家、一般の立場で意見を述べられる者や波及効果、費用対効果等の分析の専門家等を加えることが適当である。

 なお、評価実施主体は、評価の目的や方法等に関して、選任した評価者に対して周知するとともに、相互の検討等を通じて、評価について共通認識が醸成されるよう配慮する。

2.2.1.3.2 評価者の幅広い選任、在任期間、利害関係者の取り扱い、守秘義務

 評価実施主体は、評価の客観性を十分に保つとともに、様々な角度・視点から評価を行うために、例えば、年齢、所属機関、性別等に配慮するなどして、各研究開発活動の趣旨に応じて、民間人、若手研究者、外国人等を含め幅広く評価者を選任する。若手研究者を評価に参画させることは、最先端の知見に基づいた評価が促進されるとともに、研究者の資質の向上にもつながることから、適宜これを考慮する。また、国際競争・協調の観点や研究開発水準の国際比較等の観点からの評価を行うため、必要に応じて、メールレビュー等により海外の研究者等に評価への参画を求める。

 評価者の固定化を防ぐため、評価者には一定の明確な在任期間を設ける。

 また、公正で透明な評価を行う観点から、原則として利害関係者が評価に加わらないようにする。その際、各研究開発課題等の趣旨や性格に応じてあらかじめ利害関係となる範囲を明確に定める。やむを得ず利害関係者とみなされる懸念が残る者を排除できない場合には、その理由を明確にするとともに、当該評価者のモラルの維持や評価の透明性の確保等を図らなければならない。
 さらに、被評価者に不利益が生じることがないよう、評価者には評価内容等の守秘の徹底を図る。

2.2.1.4 評価の実施時期

 評価実施主体は、研究開発課題の開始前に、競争的資金制度等の目的に照らした実施の必要性、目標や計画の妥当性等を把握し、予算等の資源配分の意思決定等を行うため、事前評価(審査)を実施する。

 また、研究開発課題の終了時に、目標の達成状況や成果等を把握し、その後の課題発展への活用等を行うため、事後評価を実施する。

 優れた成果が期待され、かつ研究開発の発展が見込まれる研究開発課題については、次の競争的資金(異なる競争的資金制度によるものを含む)等により、切れ目なく研究開発が継続できることが重要である。そのため、事後評価は、研究開発の特性や発展段階に応じて、研究開発終了前の適切な時期に前倒しで評価を行い、その評価結果を次の申請時の事前評価に活用する。

 このほか、研究開発課題の実施期間が長期にわたる場合には、3年毎を目安に、情勢の変化や進捗状況等を把握し、研究開発の質の向上や運営改善、中断・中止を含めた計画変更等の要否の確認等を行うため、中間評価を実施する。ただし、研究開発課題の実施期間が5年程度で終了前に事後評価の実施が予定される課題については、課題の性格、内容、規模等に応じて、研究開発計画等の重要な変更の必要が無い場合には、評価実施主体が毎年度の実績報告等により適切に進行管理を行い、中間評価の実施は必ずしも要しない。

 さらに、研究開発課題が終了した後に、一定の時間を経過してから追跡評価を実施する。追跡評価については、学界における評価や実用化の状況、研究開発を契機としたイノベーションの創出や社会における価値の創造等の成果の波及効果や副次的効果を把握するとともに、過去に実施した評価の妥当性を検証し、その結果を次の課題の検討や評価活動の改善等に活用する。なお、追跡評価については、研究開発課題の特性に応じて、国費投入額が大きい課題、重点的に推進する分野における課題、さらに、成果が得られるまでに時間がかかる課題等といった主要な課題から対象を選定して実施する。

 これらの時系列的な評価では、研究開発課題の公募を開始する前に、事前評価、中間評価、事後評価の実施時期、これらの評価の目的や方法、以前に実施された評価結果の活用方策等を決定して公表し、それらを有機的に連携して行うことによって評価に連続性と一貫性をもたせる。

 また、これらの評価の実施に当たっては、透明性や専門性を確保するため、必要に応じて民間等外部機関の活用も考慮する。

2.2.1.5 評価方法

2.2.1.5.1 評価方法の設定・抽出、周知及び見直し

 評価実施主体は、評価における公正さと信頼性を確保し、実効性のある評価を実施するために、評価対象や目的に応じて評価方法(評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準、評価過程、評価手続等)を明確かつ具体的に設定・抽出し、被評価者ならびに被評価者となり得る者に対してあらかじめ周知する。

 また、評価実施主体は、科学技術の急速な進展や社会や経済情勢の変化等、研究開発を取り巻く状況に応じて評価方法を見直す。

2.2.1.5.2 評価手法の設定

 評価については、評価に先立つ調査分析法から評価法そのものに至るまで様々な手法がある。代表的な評価手法としては、当該分野の研究者によるピアレビューや産業界や経済・社会的効果の専門家等も含むエキスパートレビューがある。また、ピアレビュー等における評価結果を明確に表現し、複数の事業間における比較を可能にする評点法(注14)等がある。さらに、ピアレビューア等に客観的情報を提供し、レビューの質の向上に寄与する種々の定量的分析がある。評価実施主体は、これら多様な評価手法を検討し、評価対象や目的に応じて柔軟に最適な評価手法を設定する。

 また、評価に当たっては、科学的・技術的観点からの評価と社会的・経済的観点からの評価を区別し、研究開発の特性に応じた手法により適切な評価を行う。例えば、科学的・技術的観点からの評価を重視すべき課題がある一方で、それのみならず社会的・経済的な観点からの評価をより重視すべき課題もある。これらを混同して評価を行うことは、当該研究開発課題を提案・実施する被評価者のみならず研究者全体の意気を阻喪させるとともに、国全体として適切な研究開発が実施されないおそれが生じることとなり、この点に十分留意する必要がある。

 今後、評価においては、その信頼性を高めるため、従来にも増して評価に先立つ調査分析を充実させ、判断の根拠となる客観的・定量的なデータを組織的に収集・分析するなど、その質の高度化が求められる。また、当面、現在入手可能な手法の中から適切なものを選択して行うが、今後は、評価手法等についてもそれらの開発・改良を進め、評価の高度化を図る。

(注14)
「評点法」とは、評価者の判断を定量化して評価する方法を指す。まず、考えられる評価項目についてリストを作成し、評価者がヒアリングや報告書、各種データ等を基にして項目毎に評点をつけ、これらの評点を合計して総合点を算出するなどして評価する方法である。

2.2.1.5.3 評価の観点

 評価は、当該研究開発課題の重要性、緊急性等(「必要性」)、当該課題の成果の有効性(「有効性」)、当該課題の実施方法、体制の効率性(「効率性」)等の観点から行う。

 また、評価は、研究開発の特性や規模に応じて、対象となる研究開発の世界的水準を踏まえて行う。

 さらに、研究者が、社会とのかかわりについて常に高い関心を持ちながら研究開発に取り組むことが重要であることから、研究開発によっては、人文・社会科学の視点も評価に十分に盛り込まれるよう留意すること(社会との接点で生ずる倫理的・法的・社会的課題(ELSI)に対する適切な配慮を含む)、評価を通じて研究開発の前進や質の向上が図られることが重要であることから、評価が必要以上に管理的にならないようにすることや研究者の挑戦意欲を萎縮させないためにも研究者が挑戦した課題の困難性も勘案することが重要である。

2.2.1.5.4 評価項目の抽出

 評価実施主体は、研究開発課題の性格、内容、規模等に応じて、「必要性」、「有効性」、「効率性」等の観点の下に適切な評価項目を設定する。

 なお、評価項目としては以下のものが考えられる。

ア.「必要性」の観点
科学的・技術的意義(独創性、革新性、先導性、発展性等)、社会的・経済的意義(産業・経済活動の活性化・高度化、国際競争力の向上、知的財産権の取得・活用、社会的価値(安全・安心で心豊かな社会等)の創出等)、国費を用いた研究開発としての意義(国や社会のニーズへの適合性、機関の設置目的や研究目的への適合性、国の関与の必要性・緊急性、他国の先進研究開発との比較における妥当性等)等

イ.「有効性」の観点
新しい知の創出への貢献、研究開発の質の向上への貢献、実用化・事業化への貢献、国際標準化への貢献、行政施策への貢献、人材の養成、知的基盤の整備への貢献、(見込まれる)直接の成果の内容、(見込まれる)効果や波及効果の内容等

ウ.「効率性」の観点
計画・実施体制の妥当性、目標・達成管理の妥当性、費用構造や費用対効果向上方策の妥当性、研究開発の手段やアプローチの妥当性等

2.2.1.5.5 評価基準の設定

 評価実施主体は、抽出された各評価項目についての判断の根拠があいまいにならないよう、評価基準をあらかじめ明確に設定する。この際、研究開発の質を重視する。特に、科学的・技術的観点からの評価基準の設定に当たっては、研究開発の特性や規模に応じて、世界的水準を評価の基準とし、未知への挑戦に対する取り組みを重視することを基本とする。

 また、当初計画で予期し得なかった成果が生じた場合には、当初の評価基準にとらわれることなく新たな視点で評価基準を設定するなど柔軟に対応する。

2.2.1.5.6 評価の実施

 評価実施主体は、設定・抽出した評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準に従い、評価を実施する。

 事前評価(審査)に当たっては、申請書の様式の充実や審査基準の見直し等により、申請課題の実質的内容と実施能力を重視した審査を行うことが必要である。採択実績の無い者や少ない者(若手、産業界の研究者等)に対しても研究内容や計画に重点をおいて的確に評価し、研究開発の機会が適切に与えられるようにする。さらに、少数意見も尊重し、斬新な発想や創造性等を見過ごさないように十分に配慮する。

 基礎研究を支える競争的資金において、研究者の斬新なアイデアに基づく研究であって、失敗の可能性はあるが、革新性の高い成果を生み出しうる研究を推進しようとする場合、研究計画の書類審査のみではなく、研究者個人のアイデアの独創性や可能性を見極める審査が重要である。このため、配分機関は適切な審査基準を設け、制度の趣旨に応じ責任と裁量を持って課題を選定する審査方法の工夫も必要である。

 グループ研究開発の場合は、参画研究者の役割分担や活動状況、実施体制、責任体制の明確さ(研究代表者の責任を含む)についても評価する。

 また、評価過程や評価結果の適切な開示は、評価システムの透明性の確保に加え、研究者の研究計画の企画立案能力の向上にもつながるため、「研究者を育てる」観点を重視し、今後とも積極的に推進する。特に、評価結果の内容等をできる限り詳細に被評価者に伝えることにより、研究計画の充実や改善が図られるとともに、研究者(特に若手研究者)のプレゼンテーション能力等の向上に寄与することが期待される。

 中間・事後評価等においては、あらかじめ設定した目標に対する達成状況等を評価することを基本とするが、併せて、実施したプロセスの妥当性や副次的成果、理解増進や研究基盤の向上、さらに、当該研究が次代を担う若手研究者の育成にいかに貢献したかなど、次につながる成果を幅広い視野から捉える。また、失敗も含めた研究過程や計画外の事象から得られる知見、研究者の意欲、活力、発展可能性等にも配慮する。さらに、被評価者が達成状況を意識するあまり当初の目標を低く設定することにつながらないよう、高い意義を有する課題に挑む姿勢を考慮する。

 また、評価実施主体は、評価者の見識に基づく質的判断を基本とする。その際、評価の客観性を確保する観点から、評価対象や目的に応じて、論文被引用度や特許の取得に向けた取り組み等といった数量的な情報・データ等を評価の参考資料として利用することは場合によっては有用であるが、数量的な情報・データ等を評価指標として安易に使用すると、評価を誤り、ひいては被評価者の健全な研究活動を歪めてしまうおそれがあることから、これらの利用は慎重に行う。特に、掲載されている論文の引用数をもとに雑誌の影響度を測る指標として利用されるインパクトファクター等は、掲載論文の質を示す指標ではないことを認識して、その利用については十分な注意を払うことが不可欠である。

2.2.1.5.7 自己点検・評価の活用

 評価への被評価者等の積極的な取り組みを促進し、また、評価の効率的な実施を推進するため、研究開発の特性や規模に応じて、被評価者が、自ら研究開発課題の計画段階において明確な目標とその達成状況の判定指標等の明示に努め、課題実施中には、随時、目標の達成状況や問題点、今後の発展見込み等について自己点検・評価を行い、評価者はその内容を評価に活用する。

2.2.1.6 評価に当たり留意すべき事項

2.2.1.6.1 評価活動の継続性

 評価実施主体は、過去に評価を行った者を評価者に含めるなどにより評価の考え方の継承に努め、継続性を確保する。

 また、一連の評価に係る情報を一括管理し、当該研究開発課題の過程をたどることを可能としたり、事後評価や追跡評価の結果を次の研究開発段階の課題がより良いものになるべく活用されるよう運営する。

2.2.1.6.2 評価の過程における被評価者との意見交換

 評価実施主体は、評価内容の充実、研究開発活動の効果的・効率的な推進並びに評価者と被評価者の信頼関係の醸成の観点から、評価の過程において評価者と被評価者による意見交換の機会を可能な限り確保するよう努める。その際、評価の公正さと透明性が損なわれないよう配慮する。

2.2.1.6.3 基礎研究等の評価

 基礎研究については、その成果は必ずしも短期間のうちに目に見えるような形で現れてくるとは限らず、長い年月を経て予想外の発展を導くものも少なからずある。このため、評価実施主体は、画一的・短期的な観点から性急に成果を期待するような評価に陥ることのないよう留意する。

 また、試験調査等の研究開発の基盤整備的な役割を担うものについては、個々の性格を踏まえた適切な評価方法を用いる。

2.2.1.7 評価結果の取り扱い

 競争的資金制度等を企画立案し、公募により提案された複数の候補の中から制度等の目的に適合する研究開発課題を選定し、課題を実施させ、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映し、さらに、課題に対する評価から得られた情報を集積・分析して制度等の評価に活用するといった循環過程を確立しなければならない。

 そのためには、競争的資金制度等による研究開発課題の評価については、あらかじめ評価目的及び活用方法を具体的に明確化し、評価結果を資源配分等に適切に反映して、研究開発の質の向上や資源の有効活用を図ることが重要である。評価結果の具体的な活用の例としては、評価時期別に、

  • 事前評価(審査)では、課題の採否、計画変更、優れた研究開発体制の構築、研究者又は研究代表者の責任の明確化等
  • 中間評価では、進捗度の点検と目標管理、継続、中止、方向転換、研究開発の質の向上、機関運営の改善、研究者の意欲喚起等
  • 事後評価では、計画の目的や目標の達成状況の確認、研究者又は研究代表者の責任の明確化、国民への説明、評価結果のデータベース化や以後の評価での活用、次の段階の研究開発の企画・実施、次の政策・施策形成の活用、研究開発マネジメントの高度化、機関運営の改善等
  • 追跡評価では、効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)の確認、国民への説明、次の政策・施策形成への活用、研究開発マネジメントの高度化等が挙げられる。

 また、中間評価においては、研究開発が一層発展するよう必要に応じて助言する。特に、進展の激しい研究開発については、柔軟に研究計画を変更することを提言する。

 さらに、評価実施主体は、評価結果に応じて、研究者がさらにその研究開発を発展させ、より一層の成果を上げることができるような事後評価を行うとともに、研究開発実施・推進主体は、必要に応じて事後評価を活用するなどして、ある制度で生み出された研究成果が適切に次の制度等で活用されるような仕組みの構築を図る。

 評価実施主体は、評価結果を原則として公表するとともに、研究開発の企画立案に責任を有する部門や資源配分等に責任を有する部門に適切に周知する。また、評価結果が他の評価にも有効であることに留意し、必要に応じ関係部門に周知する。それらの関係部門は、評価結果を受け、研究開発施策や機関運営等の改善、資源配分等への適切な反映について検討する。その上で、文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、これらの検討結果や反映状況も含めて公表する。

 評価実施主体は、個人情報や知的財産の保護等、あらかじめ必要な制限事項について配慮した上で評価結果等を公表する。また、評価結果の公表は、国民に対する説明責任を果たすとともに、評価の公正さと透明性を確保し、社会や産業において広く活用されることに役立つことから、インターネットを利用するなどして、分かりやすく活用されやすい形で公表する。その際、評価の目的や前提条件を明らかにするなど、評価結果が正確に伝わるように配慮する。評価者の評価内容に対する責任を明確にするとともに、評価に対する公正さと透明性の確保の点から、適切な時期に評価者名も公表する。ただし、研究開発課題の評価の場合、研究者間に新たな利害関係を生じさせないよう、個々の課題に対する評価者名が特定されないように配慮することも必要である。

 評価実施主体は、評価実施後、研究開発の規模等を考慮しつつ、原則として被評価者に対して評価結果(理由を含む)を開示する。さらに、被評価者が説明を受け、意見を述べることができる仕組みの整備を図る。被評価者からの意見を受け、必要に応じ評価方法等を検証する。また、被評価者が評価結果について納得し難い場合に、制度の趣旨等に応じて、評価実施主体に対し十分な根拠をもって異議を申し立てるための体制整備に努める。

2.2.1.8 評価体制の整備

 評価実施主体は、研究開発課題の評価プロセスの適切な管理、質の高い評価及び優れた研究開発の支援を行うため、評価部門を設置し、国の内外から若手を含む研究経験のある人材を適性に応じて一定期間配置するとともに、必要に応じて審査員の増員を図るなど評価体制を整備・充実する。

 また、研究者の利便性の向上及び業務の効率化等のため、申請書の受付等に関し、電子システムの導入を図る。

2.2.2 重点的資金による研究開発課題

2.2.2.1 評価の目的

 重点的資金による研究開発課題とは、大規模プロジェクト及び社会的に関心の高い課題等、国が定めた政策や研究開発施策の目的や目標を達成するために実施される個々の課題をいう。

 重点的資金による研究開発課題の評価は、文部科学省内部部局及び研究開発機関等が、このような課題毎に評価を実施することにより、実施の当否を判断するとともに、実施されている研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等につなげることを目的とする。

2.2.2.2 評価とマネジメント

 文部科学省内部部局及び研究開発機関等は、評価の実施に当たって、研究開発課題を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映するという循環過程を構築する。なお、評価を適切に実施するため、課題を企画立案する際に、達成目標を明確に設定するとともに、評価に活用することが可能な定性的・定量的な指標を設定するように努める。

2.2.2.3 評価者

 評価実施主体は、研究開発を取り巻く諸情勢に関する幅広い視野を評価に取り入れるため、外部の専門家等を評価者とする外部評価により実施する。また、必要に応じて第三者評価を活用する。

評価者の選任に当たっては、独創性、革新性、先導性、発展性等の科学的・技術的意義に係る評価(科学的・技術的観点からの評価)と文化、環境等を含めた国民生活の質の向上への貢献や成果の産業化等の社会・経済への貢献に係る評価(社会的・経済的観点からの評価)では、評価者に求められる能力が異なることから、評価実施主体は、評価対象・目的に照らして、それぞれの観点に応じた適切な評価者を選任する。

 科学的・技術的観点からの評価においては、評価対象の研究開発分野及びそれに関連する分野の研究者を評価者とする。社会的・経済的観点からの評価においては、評価対象と異なる研究開発分野の研究者、成果を享受する産業界、人文・社会科学分野を専門とする人材、研究開発成果の産業化・市場化の専門家、一般の立場で意見を述べられる者や波及効果、費用対効果等の分析の専門家等を加えることが適当である。

 なお、評価実施主体は、評価の目的や方法等に関して、選任した評価者に対して周知するとともに、相互の検討等を通じて、評価について共通認識が醸成されるよう配慮する。

 また、大規模プロジェクトについては、国民の理解を得るため、早い段階から大規模プロジェクト等の内容や計画等についてインターネット等を通じて広く公表し、必要に応じて国民の意見を反映させる。

 

 このほか、評価者の幅広い選任、利害関係の取り扱いに関しては2.1.3.2と同様に実施する。

2.2.2.4 評価の実施時期

 評価実施主体は、研究開発課題の開始前に、実施の必要性、目標や計画の妥当性等を把握し、予算等の資源配分の意思決定等を行うため、事前評価を実施する。

 また、研究開発課題の終了時に、目標の達成状況や成果等を把握し、その後の課題展開への活用等を行うため、事後評価を実施する。事後評価は、その成果等を次の研究開発課題につなげていくために必要な場合には、課題の終了前に実施し、その評価結果を次の課題の企画立案等に活用する。

 このほか、研究開発課題の実施期間が長期にわたる場合には、3年毎を目安に、情勢の変化や目標の達成状況等を把握し、研究開発の質の向上や運営改善、中断・中止を含めた計画変更等の要否の確認等を行うための中間評価を実施する。ただし、研究開発課題の実施期間が5年程度で終了前に事後評価の実施が予定される課題については、課題の性格、内容、規模等に応じて、研究開発計画等の重要な変更の必要が無い場合には、評価実施主体が、毎年度の実績報告などにより適切に進行管理を行い、中間評価の実施は必ずしも要しない。

 さらに、研究開発課題が終了した後に、一定の時間を経過してから追跡評価を実施する。追跡評価については、学界における評価や実用化の状況、研究開発を契機としたイノベーションの創出や社会における価値の創造、大型研究施設の開発・建設等の場合は当該施設の稼動・活用状況等の成果の波及効果や副次的効果を把握するとともに、過去に実施した評価の妥当性を検証し、その結果を次の課題の検討等に活用する。なお、追跡評価については、研究開発課題の特性に応じて、国費投入額が大きい課題、重点的に推進する分野における課題、成果が得られるまでに時間がかかる課題等といった主要な課題から対象を選定して実施する。

 これらの時系列的な評価では、研究開発課題の開始前に、事前評価・中間評価・事後評価・追跡評価の実施時期、これらの評価の目的や方法、以前に実施された評価結果の活用方策等を決定し、それらを有機的に連携して行うことによって評価に連続性と一貫性をもたせる。

 また、これらの評価の実施に当たっては、透明性や専門性を確保するため、必要に応じて民間等外部機関の活用も考慮する。

2.2.2.5 評価方法

2.2.2.5.1 評価の観点

 評価は、当該研究開発課題の重要性、緊急性等(「必要性」)、当該課題の成果の有効性(「有効性」)、当該課題の実施方法、体制の効率性(「効率性」)等の観点から行う。

 また、評価は、研究開発の特性や規模に応じて、対象となる研究開発の世界的水準を踏まえて行う。

2.2.2.5.2 評価の実施

評価実施主体は、設定・抽出した評価手法、評価の観点、評価項目、評価基準に従い、評価を実施する。

 特に、中間・事後評価等においては、あらかじめ設定した目標に対する達成状況等を評価することを基本とするが、併せて、実施したプロセスの妥当性や副次的成果、さらに、理解増進や研究基盤の向上など、次につながる成果を幅広い視野から捉える。また、失敗も含めた研究過程や計画外の事象から得られる知見、研究者の意欲、活力、発展可能性等にも配慮する。

 大規模プロジェクトは、巨額の国費を投入するため、その内容に関して計画・体制・手法の妥当性、責任体制の明確さ、費用対効果、基盤技術の成熟度や代替案との比較検討等の多様な項目について評価を行うなど特に入念に事前評価を行う。当該プロジェクトが実施されなかった場合の損失も評価項目の一つとなり得る。

 また、評価実施主体は、評価者の見識に基づく質的判断を基本とする。その際、評価の客観性を確保する観点から、評価対象や目的に応じて論文被引用度や特許の取得に向けた取組等といった数量的な情報・データ等を評価の参考資料として利用することは場合によっては有用であるが、数量的な情報・データ等を評価指標として安易に使用すると、評価を誤り、ひいては被評価者の健全な研究活動を歪めてしまうおそれがあることから、これらの利用は慎重に行う。特に、掲載されている論文の引用数をもとに雑誌の影響度を測る指標として利用されるインパクトファクター等は、掲載論文の質を示す指標ではないことを認識して、その利用については十分な注意を払うことが不可欠である。

2.2.2.5.3 自己点検・評価の活用

 評価への被評価者等の積極的な取組を促進し、また、評価の効率的な実施を推進するため、研究開発の特性や規模に応じて、被評価者が自ら研究開発課題の計画段階において明確な目標とその達成状況の判定指標等の明示に努め、課題実施中には、随時、目標の達成状況や問題点、今後の発展見込み等について自己点検・評価を行い、評価者はその内容を評価に活用する。

 そのほか、評価方法の設定・抽出、周知及び見直し、評価手法の設定、評価項目の抽出、評価基準の設定に関しては2.2.1.5.1、2.2.1.5.2、2.2.1.5.4及び2.2.1.5.5と同様に実施する。

2.2.2.6 評価にあたり留意すべき事項

 評価活動の継続性、基礎研究等の評価に関しては2.2.1.6.1及び2.2.1.6.3と同様に実施する。

2.2.2.7 評価結果の取り扱い

 研究開発課題を企画立案し、実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発の質の向上や運営改善、計画の見直し等に適切に反映するといった循環過程を確立しなければならない。

 そのためには、研究開発課題の評価については、あらかじめ評価目的及び活用方法を具体的に明確化し、評価結果を資源配分等に適切に反映して、研究開発の質の向上や資源の有効活用を図ることが重要である。評価結果の具体的な活用の例としては、評価時期別に、

  • 事前評価では、実施の当否、計画変更、優れた研究開発体制の構築、研究者又は研究代表者の責任の明確化等
  • 中間評価では、進捗度の点検と目標管理、継続、中止、方向転換、研究開発の質の向上、機関運営の改善、研究者の意欲喚起等
  • 事後評価では、計画の目的や目標の達成状況の確認、研究者又は研究代表者の責任の明確化、国民への説明、評価結果のデータベース化や以後の評価での活用、次の段階の研究開発の企画・実施、次の政策・施策形成の活用、研究開発マネジメントの高度化、機関運営の改善等
  • 追跡評価では、効果・効用(アウトカム)や波及効果(インパクト)の確認、国民への説明、次の政策・施策形成への活用、研究開発マネジメントの高度化等が挙げられる。

 また、中間評価においては、研究開発が一層発展するよう必要に応じて助言する。特に、進展の激しい研究開発については、柔軟に研究計画を変更することを提言する。

 さらに、評価実施主体は、評価結果に応じて、研究者がさらにその研究開発を発展させ、より一層の成果を上げることができるような事後評価を行うとともに、必要に応じて、研究開発実施・推進主体は事後評価を活用するなどして、ある課題で生み出された研究成果が適切に次の課題等で活用されるような仕組みの構築を図る。

 評価実施主体は、原則として評価結果を公表するとともに、研究開発の企画立案に責任を有する部門や資源配分等に責任を有する部門に適切に周知する。また、評価結果が他の評価にも有効であることに留意し、必要に応じて関係部門に周知する。それらの関係部門は、評価結果を受けて、研究開発課題や機関運営等、資源配分の改善や等への適切な反映について検討する。その上で、文部科学省内部部局及び研究開発機関等はこれらの検討結果や反映状況も含め公表する。

 評価実施主体は、個人情報や知的財産の保護等、あらかじめ必要な制限事項について配慮した上で評価結果等を公表する。また、評価結果の公表は、国民に対する説明責任を果たすとともに評価の公正さと透明性を確保し、社会や産業において広く活用されることに役立つことから、インターネットを利用するなどして、分かりやすく活用されやすい形で公表する。その際、評価の目的や前提条件を明らかにするなど、評価結果が正確に伝わるように配慮する。評価者の評価内容に対する責任を明確にするとともに、評価に対する公正さと透明性の確保の点から、評価者名も公表する。

2.2.3 基盤的資金による研究開発課題

 基盤的資金は、大学等においては、競争的資金の獲得に至るまでの構想段階の研究を保障し日常的な教育研究活動を支えるとともに、大学附置研究所、研究センターの整備や特殊大型施設・設備を要する大規模研究の推進に大きな役割を果たすものである。前者の評価においては、研究者による日常的な論文発表や学会活動等を通じた評価を活用しつつ、各大学等において機関の長が機関の設置目的等に照らして、評価時期も含め、適切かつ効率的な評価の体制や方法を整備し、責任をもって実施する。一方、後者すなわち特定の大学共同利用機関等が中心となり、巨額の資金と多くの研究者集団により実施される大型研究プロジェクトの評価に当たっては、研究者のアイデアを汲み上げつつ第三者的立場の審議会等で評価を行う体制が有効かつ適切である。

 また、研究開発法人等の運営費交付金等によっては、大規模プロジェクト及び社会的に関心が高い研究開発課題等や機関の長の裁量研究費による比較的小規模な研究開発課題等が行われる。中期計画に沿って重点的に推進されるプロジェクトの評価については、本指針における「重点的資金による研究開発課題」の評価を準用する。一方、それ以外の基盤的資金による研究開発課題の評価に当たっては、機関の長が機関の設置目的等に照らして、評価時期も含め、適切かつ効率的な評価の体制や方法を整備し、責任をもって実施する。

 このように、評価結果を踏まえ、効果的な資源の配分に努めるとともに、必要に応じて機関評価に活用し、機関における経常的な研究開発活動全体の改善に資する。

2.2.4 その他

民間研究機関や公設試験研究機関等が国費の支出を受けて実施する研究開発課題については、評価実施主体は、国費の負担度合い等、国の関与に対応して適切に評価を行う。

また、効果的・効率的な研究開発の推進を図るためには、研究者の当該研究開発課題への研究者の関与の程度を明らかにすることも重要である。このため、競争的資金制度における新規課題の選定、研究開発課題の企画立案等の際には、研究計画書等に研究代表者及び研究分担者のエフォートを明記させ、当該研究者によるその研究開発課題の遂行可能性に関する判断や特定の研究者への研究費の過度な集中の排除等の観点から、このエフォートに関する情報を適切に活用する。

2.3 研究開発機関等の評価

2.3.1 評価の目的

 研究開発機関等の評価は、機関の長が、機関の設置目的や研究開発の目的・目標に即して評価を実施することにより、研究開発及び機関全体の管理運営の改善に資するとともに、国民に対する説明責任を果たすことなどを目的とする。

 大学については、「学校教育法」に基づく自己点検・評価や認証評価が、国立大学法人及び大学共同利用機関法人については、「国立大学法人法」に基づく法人評価(教育研究の状況についての評価を含む)が、研究開発法人等については、「独立行政法人通則法」に基づく法人評価が義務づけられている。

 これらの評価の基本となるのは、自らが実施する評価であり、研究開発活動に関する評価に関しては、機関の特性等に応じて、本指針を参考に、評価の目的や評価結果の活用の仕方、評価の項目・基準等を的確に設定し、実施することが期待される。

2.3.2 評価とマネジメント

 研究開発機関等は、評価の実施に当たって、機関の目的や研究開発の目的・目標を作成し、これらに対応した研究開発施策や研究開発課題等を実施し、評価するとともに、評価結果を研究開発や機関全体の管理運営の改善等に適切に反映するという循環過程を構築する。なお、評価を適切に実施するために、施策や課題等を企画立案する際に、それらの達成目標を明確に設定するとともに、評価に活用することが可能な定性的・定量的な指標を設定するように努める。

 研究開発機関等の評価に当たっては、評価に階層構造が存在することを考慮し、様々な評価を有機的に連携させる。

2.3.3 評価者

 評価者の選任及び評価者の幅広い選任、利害関係の取り扱いに関しては、2.1.3.1及び2.1.3.2と同様に実施する。

2.3.4 評価の実施時期

 評価実施主体は、研究開発をめぐる諸情勢の変化に柔軟に対応しつつ、常に活発な研究開発が実施されるよう、3年から6年程度の期間を一つの目安として、定期的に評価を行う。

2.3.5 評価方法

 評価実施主体は、機関の設置目的や研究開発の目的・目標に即して、機関運営面と研究開発の実施・推進面から評価を行う。

 機関運営面については、研究開発の目的・目標の達成や研究開発環境の整備等のための運営について、効率性の観点も踏まえ評価を行う。

 研究開発の実施・推進面については、機関が実施・推進する研究開発施策及び研究開発課題の評価と所属する研究者等の業績評価の総体で行う。なお、機関評価の実施に当たっては、改めて個別の課題及び研究者等の業績についての評価を行うことは必ずしも必要としないことに留意する。

 同一機関内で異なる階層の組織単位における機関評価が行われる場合には、効果的・効率的な評価の実施のため、その評価がより上位階層の組織単位の評価に活用できるよう、評価項目を一致させるなど、各評価実施主体が連携をとって行う。

2.3.6 評価結果の取り扱い

 機関の長は、評価結果を機関運営の改善や機関内での資源配分に適切に反映する。

 また、評価結果等について、個人情報や知的財産の保護等、あらかじめ必要な制限事項について配慮した上で公表する。また、評価結果の公表は、国民に対する説明責任を果たすとともに、評価の公正さと透明性を確保し、社会や産業において広く活用されることに役立つことから、インターネットを利用するなどして、分かりやすく活用されやすい形で公表する。その際、評価の目的や前提条件を明らかにするなど、評価結果が正確に伝わるように配慮する。評価者の評価内容に対する責任を明確にするとともに、評価に対する公正さと透明性の確保の点から、適切な時期に評価者名を公表する。

2.3.7 留意事項

 機関運営は、機関の長の裁量の下で行われるものであり、評価結果を責任者たる機関長の評価につなげる。

 なお、資源配分機関の機関評価に当たっては、機関運営面に加えて、配分した資金がどのように活用され、どのような成果が得られているかという面も把握し、資源配分の運用へ適切に反映する。

2.4 研究者等の業績評価

 第3期科学技術基本計画においては、科学技術システム改革の一環として、研究者の処遇に関して、能力や業績の公正な評価の上、優れた努力に積極的に報いることなどによる公正で透明性の高い人事システムの徹底が掲げられている。

 このため、評価実施主体である研究開発機関等の長は、研究者等の業績評価の実施に当たっては、評価の目的(注15)を明確にするとともに、機関の設置目的等に照らして、評価時期も含め適切かつ効率的な評価の体制や方法を整備し、責任をもって実施する。


 また、研究者が挑戦する課題の困難性等も考慮に入れるなど、研究者を萎縮させず果敢な挑戦を促すなどの工夫が必要である。

 さらに、研究開発を推進するためには、研究支援者の協力が不可欠であることから、研究支援者の専門的な能力、研究開発の推進に対する貢献度等を適切に評価する。

 評価結果は、個人情報の保護の点から特に慎重に取り扱うよう留意しつつ、その処遇等に反映するなど、機関の長の定める方法の下で適切に活用する。

(注15)
研究者等の業績評価の目的には、自己点検による意識改革、研究の質の向上、教育の質の向上、社会貢献の推進、組織運営の評価・改善のための資料収集、社会に対する説明責任等が挙げられる。

(注16)
「アウトリーチ活動」とは、国民の研究活動・科学技術への興味や関心を高め、かつ国民との双方向的な対話を通じて国民のニーズを研究者が共有するため、研究者自身が国民一般に対して行う双方向的なコミュニケーション活動のことをいう。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局 計画官付)