資料1-2 新たな科学技術の社会実装に係る研究活動における人文社会科学と自然科学の連携の推進について(修正案)

科学技術社会連携委員会

1.背景
 現代社会は、科学技術と社会の相互作用が益々強くなっている。特に、2015年の国連持続可能な開発サミットで採択された持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals(以下「SDGs」という。)の取組や、新しい科学技術の分野の研究開発における倫理的・法制度的・社会的課題:Ethical, Legal and Social Issues(以下「ELSI」という。)においては、科学者・技術者だけでは解決できず、一般市民や人文社会科学系を含めた研究者など多様なステークホルダーとの対話・協働が必要となっている。また、ELSIを越える概念としてEUで提唱された責任ある研究とイノベーション:Responsible Research and Innovation(以下「RRI」という。)では、イノベーションの早い段階からの市民参加やステークホルダー参加が提案されている。
 これらのことは、従来の科学技術基本計画においても社会と科学技術イノベーションとの関わりを深める方向性が指摘されている。また、当委員会の前身である安全・安心科学技術及び社会連携委員会においても「社会と科学技術イノベーションとの関係深化に関わる推進方策~共創的科学技術イノベーションに向けて~」(平成27年6月16日)において人文社会科学と自然科学の連携の必要性を指摘されているところである。
 その結果、研究者と研究に係るステークホルダーとの対話の場がもたれるなど進展は見られるが、人文社会科学と自然科学の連携は、一部の事業にとどまっているところである。従って今後さらに、人文社会科学と自然科学の連携を推進するために、どのような取組が必要かについて検討を進める必要がある。

2.基本的な考え方 
 第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日閣議決定)においては、科学技術イノベーションと社会との関係深化として、多様なステークホルダーによる対話・協働に基づく共創的科学技術イノベーションの推進が謳われており、新たな科学技術の社会実装に向けて、ELSIへの対応が求められている。
 共創的科学技術イノベーションのあり方として、新しい科学的知見や技術を起点としたイノベーションと、社会問題や期待、社会的動向を起点としたイノベーションが想定される。これはすなわち、前者は調整型アプローチ、後者は再構成型アプローチである。

(1)新しい科学的知見や技術を起点とした調整型アプローチ 
 一般的には、新しい技術開発が提示され、その新しい技術を社会実装していく流れがある。この場合、環境適合性、ヒューマンインターフェイスなどの研究開発の視点からの社会的適用性への配慮に加えて、新しい技術に伴う法制度の未整備、人々の価値観や順応性とのずれなどの課題を解消するなど社会(国民)の視点に立って新しい技術が受け入れられる環境を整えることが不可欠となる。また、新しい技術が社会実装されるに当たっての社会(国民)への影響を多面的に俯瞰するテクノロジー・アセスメントなども重要となる。
 したがって、これらの視点から課題解決するためには、研究開発活動と並行してステークホルダー間で検討・調整するアプローチ(調整型)が求められる。この場合、個別技術の特徴に応じて具体的な課題として抽出され、それに対応する解消策を検討することになることから、できるだけ早い段階から各研究開発課題に対して個別に具体的な措置を講じることが重要となる。

(2)社会問題や社会動向等を起点とした再構成型アプローチ
 一方で、社会(国民)の観点から社会問題の俯瞰・分析等を通じて、現在あるいは将来の社会における様々な社会課題を特定して、その課題解決のために求められる研究開発テーマ等を検討するというアプローチも重要である。とりわけ、研究開発者からの盲点となっている課題を掘り起こすことも考えられ、社会(国民)からの研究開発者への課題提案となる。
 提案された社会課題解決のために期待される技術やシステムが社会(国民)の要求を満たすものとなっているのかというアプローチ(再構成型)が求められる。この場合、社会(国民)からの要求に応える技術を特定していくことが必要となるため、検討の初期段階から研究開発者とそれに係るステークホルダーが協働することが重要である。このアプローチを通じて、具体的な技術課題が絞り込まれるが、その技術の特徴に応じた社会(国民)としての技術の受け入れに係る課題も特定されていくことになる。

(3)社会課題に応える解消策の検討
 調整型、再構成型のいずれの場合であっても、ELSIをはじめとした社会課題に応える解消策の検討にあたっては、研究開発者や社会(国民)など、多様なステークホルダーからのアプローチによる相互作用が不可欠となる。とりわけ、今後の研究開発の取組の方向性が、従来の調整型アプローチから、社会課題への対応という流れが出てきていることを踏まえれば、再構成型のアプローチが重要となる。 RRIでは、研究がどのような方向に展開するかの予見(anticipation)を誰が行うのかがカギとなる。予見は専門家だけに閉じられた空間で行うのではなく、科学技術の影響を共有することとなる市民に開かれた形で行う。この予見という意味では、上記調整型も再構成型も同じ方向性を持っているといえる。両者は円環的に補完されるべきである。

(4)科学技術と社会の関係深化に主体的に取り組む人材の育成
 社会問題の俯瞰・分析を通じての社会課題の特定や新しい技術の社会実装に係る課題の解消にあたっては、人文社会科学的な視点を持った者が主体的に関わっていくことが重要である。とりわけ、新しい技術の社会的受容に関し、現行の法制度や現行の価値観などに照らして、人文社会科学的視点から技術が内包する課題を明らかにし、それを具体的な人文社会科学的課題に落とし込むことが必要となる。そして、落とし込まれた人文社会科学的課題を研究開発活動に反映することが必要である。現行、人文社会科学研究においてこうした活動は一部にとどまっており、また、人材も積極的に育成されていないのが現状であり、今後、こうした活動に適切に対応できる人材を育成していくことが課題である。
 このため、例えば、上記の調整型、再構成型それぞれのアプローチに係る具体的な取組事例についての分野横断的なケーススタディを行うことなどを通じて、その解消方策を検討することができる人材を育成することが有益であると考えられる。こうした取組を促進する方策を継続的に実施することを通じて、研究者のネットワークの構築や継続的な人材育成を行うことが必要である。

(5)社会技術的活動に係る情報や知見等の蓄積・活用 
 社会課題の特定や新しい技術の社会的受容に向けた人文社会科学的視点からの活動(以下「社会技術的活動」という。)は、従来から様々な事業の一環として行われてきているが、社会技術的活動により得られた情報や知見、ノウハウ等は必ずしも体系だって蓄積されていないと言える。また、個々の事業において社会技術的活動に従事していた者も、事業の終了とともに分散し、継続的な社会技術的活動への従事ができておらず、人材の育成といった観点が見過ごされている。この結果、新たな社会技術的活動を実施する際に、従前の活動の知見やノウハウ等が十分に活用されず、また、社会技術的活動を適切に行える人材もいないという状況が生じている。
 今後、多くの場面で社会技術的活動が重要になってくる流れがあることを踏まえ、人材育成の観点を取り入れた継続的な取組の実施とともに、社会技術的活動の情報や知見、ノウハウ等を体系的に蓄積し、活用できる仕組みを整備することが必要である。

3.今後の取組
 上記の考え方に沿って、課題の選定段階から研究実施段階を経て研究の評価に至るまで人文社会科学の研究者が関わるとともに、特に、研究の実施段階においては自然科学の研究開発グループの一員として関わるなど、人文社会科学と自然科学の連携による研究開発活動を試行的に実施することが必要である。そして、その効果、課題等についての検証を通じて国、公的研究機関のみならず、民間企業等を含む全ての研究開発活動や人材育成に人文社会科学との協働の仕組みを組込むことを目指すことが必要である。


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