資料2「気候変動適応技術社会実装プログラム」の中間評価結果(原案)

気候変動適応技術社会実装プログラム 中間評価調整グループ 構成員一覧

(敬称略)


氏名

所属

市橋 新

公益財団法人東京都環境公社 東京都環境科学研究所 環境資源研究科 主任研究員

近藤 洋輝

一般財団法人リモートセンシング技術センター 参与

高村 ゆかり(※)

国立大学法人名古屋大学大学院 環境学研究科 教授

手塚 宏之

JFE スチール株式会社 技術企画部・理事地球環境グループリーダー

本郷 尚

三井物産株式会社 戦略研究所 国際情報部 メガトレンド調査センター シニア研究フェロー

※主査


気候変動適応戦略イニシアチブ 気候変動適応技術社会実装プログラムの概要

1.課題実施期間及び評価時期

平成27年度~平成31年度
中間評価 平成29年度、事後評価 平成32年度を予定

2. 研究開発概要・目的

我が国のあらゆる地域で適応策の立案を支える共通基盤的技術を活用できるよう、 研究開発法人等の技術開発の進捗管理や出口戦略の策定等のマネジメントを行う機関(社会実装機関)が、研究開発法人・企業・大学と連携して、政府の適応計画や社会ニーズを踏まえた、汎用性の高い技術や共通基盤的なアプリケーションを開発し、 自治体等への技術の移転を進め、最適な適応策の組合せの導入や適応に関する民間企業等の活動への展開につなげる。具体的には、信頼度の高い近未来予測技術や超高解像度ダウンスケーリング技術等、必要な技術シーズを組み合わせた予測技術・影響評価技術の開発を実施する。開発にあたっては、社会実装機関のマネジメントの下、研究機関が連携して取り組むとともに、気候変動に係る最先端研究を自治体の適応計画や企業の適応策に係る新規事業といった出口へと橋渡しする協働体制をシステムとして設計・構築することで、地方公共団体における最適な適応策の組合せや新たなビジネス創出等の支援を実現する。

3. 研究開発の必要性等

【必要性】

策定される適応計画に科学的根拠を与え 地球環境が直面する諸課題に効果的に対応する手段の一つとして社会に定着させるため、本プログラムの必要性は高い。

【必要性】

適応策は、気候変動の影響の解明を基礎として講じられるべきであり、 本プログラムで開発する技術はこれに必要不可欠なものであることから、 本プログラムの有効性は高い。

【効率性】

技術開発終了後の自立的な社会実装を進めるため、マネジメント機関が適応策立案に関するニーズを有する機関や技術シーズを有する機関と連携・協力して技術開発を行うシステム設計を行うこととしており、創出した最先端の基盤情報等を、出口である社会実装へと確実につなげるための 効率的な実施体制が設計されている。

4.予算(執行額)の変遷

年度

平成27年度(初年度)

平成28年度

平成29年度

翌年度以降~平成31年度

総額

予算額

576百万円

517百万円

430百万円

430百万円
(見込額)

2,383百万円
(見込額)

執行額

576百万円

517百万円

430百万円

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5. 課題実施機関・体制

<1.プログラム・ディレクター(PD)、サブプログラム・ディレクター(サブPD)>

○PD
木村富士男(筑波大学 名誉教授)
○サブPD(技術開発担当)
三上正男(一般財団法人 気象業務支援センター 地球環境・気候研究推進室長代理(研究担当))
○サブPD(社会実装担当)
栗栖 聖(東京大学大学院 工学系研究科 准教授)

<2.課題1:気候変動適応技術社会実装プログラムにおける社会実装の着実な推進>

○研究代表者 
国立研究開発法人 科学技術振興機構 津田博司
○主管研究機関
国立研究開発法人 科学技術振興機構
○共同研究機関
学校法人 法政大学
一般財団法人 リモート・センシング技術センター
(課題担当順、以下同様)

<3.課題2:信頼度の高い近未来予測技術の開発及び超高解像度ダウンスケーリング技術の開発>

○研究代表者
国立研究開発法人 海洋研究開発機構 石川洋一
○主管研究機関
国立研究開発法人 海洋研究開発機構
○共同研究機関
国立大学法人 京都大学学術情報メディアセンター
国立研究開発法人 防災科学技術研究所   
国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構
国立大学法人 東北大学大学院理学研究科
国立大学法人 京都大学防災研究所
国立大学法人 北海道大学
国立大学法人 東京工業大学
国立大学法人 長崎大学
国立大学法人 室蘭工業大学
国立大学法人 九州大学
埼玉県
国立大学法人 筑波大学

<4.課題3:気候変動の影響評価等技術開発に関する研究>

○研究代表者
国立研究開発法人 国立環境研究所 肱岡靖明
○主管研究機関
国立研究開発法人 国立環境研究所
○共同研究機関
国立大学法人 東北大学
国立大学法人 福島大学
国立大学法人 九州大学
国立研究開発法人 森林総合研究所
国立研究開発法人 農業・食品産業総合研究機構
農業環境変動研究センター
国立大学法人 茨城大学
国立研究開発法人 農業・食品産業総合研究機構 果樹茶業研究部門
NECソリューションイノベータ株式会社
国立研究開発法人 水産研究・教育機構
国立研究開発法人 京都大学防災研究所
国立大学法人 筑波大学
公立大学法人 兵庫県立大学
学校法人 名城大学
国立大学法人 岐阜大学地域減災研究センター
公立大学法人 高知工科大学
長野県環境保全研究所

中間評価票

1.課題名

気候変動適応技術社会実装プログラム

2.評価結果

(1)課題の進捗状況

<施策目標>

  最先端の気候変動予測・対策技術の確立


<大目標(概要)>

  気候変動適応情報にかかるプラットフォーム等において、ダウンスケーリング等による高解像度のデータなど地域が必要とする様々なデータ・情報にもアクセス可能とするとともに、地方公共団体が活用しやすい形で情報を提供する。また、地方公共団体が影響評価や適応計画の立案を容易化する支援ツールの開発・運用や優良事例の収集・整理・提供を行う。(「気候変動の影響への適応計画」(平成27年11月閣議決定))


<中目標(概要)>

  効率的・効果的な気候変動適応策の立案・推進のため、不確実性の低減、高分解能での気候変動予測や気候モデルのダウンスケーリング、気候変動影響評価、適応策の評価に関する技術の研究開発を推進する。


<重点的に推進すべき研究開発の取組(概要)>

  地域レベルでの気候変動適応に活用するための気候変動影響評価・適応策評価技術の開発

 気候変動への適応計画の策定を踏まえ、今後本格化することが想定される地方公共団体における地域レベルでの気候変動適応策の立案・推進に貢献するため、国における気候変動研究の蓄積を活かし、地域を支える共通基盤的な気候変動影響評価・適応策評価技術を開発する。


<本課題が関係するアウトプット指標>

  気候変動影響評価・適応策評価技術の研究開発に参画した地方公共団体等の数


年度

平成26年度

平成27年度

平成28年度

11

11





<本課題が関係するアウトカム指標>

  気候変動影響評価・適応策評価技術の開発の成果を活用し、気候変動適応に関する計画や対策の立案・検討・実施を開始した地方公共団体等の数


年度

平成26年度

平成27年度

平成28年度

11

13




3. 評価結果

(1)課題の進捗状況

  プログラムの進捗は、種々の課題を抱えているものの、全体としては良好である。
  本プログラム全体としての最終目標は、気候変動の影響への適応計画の柱の一つである「地域における適応の促進」において求められている「地方公共団体における気候変動影響評価や適応計画策定、普及啓発等への協力等を通じ、地域における適応の取組の促進を図る」という方針を受けて、気候変動の適応策の検討・策定に当たり共通的に必要とする基盤技術を確立し、地方自治体等が主体的に適応策の検討・策定を行うことが可能な手法を創出すること。また、本プログラムの終了後についても、引き続き本課題の成果や知見・データを活用できる手段を確立することとともに、その結果として、一つでも多くの地方自治体が本プログラムの成果を活用し適応策の検討・策定を行う、といった社会実装に置かれている。
  事業3年目に当たる中間評価時点における大きな目標は、地方公共団体等からのニーズを基に、技術開発機関における今後の技術開発方針を定め、必要な種々のデータセットの創出及びそのデータセットを活用した影響予測・評価の準備を整えることにある。
  また、環境省においては、「地域適応コンソーシアム事業」(各地域のニーズに沿った気候変動影響に関する情報の「収集・整理」を行うとともに、地方公共団体、大学、研究機関などの地域の関係者との連携体制を構築し、具体的な適応策の検討を進めるもの)が今年度8月より3年間の予定で開始され、当該事業から本プログラムにおいて創出したデータ提供が強く求められており、社会実装を最終目標とする本プログラムにとって、社会的な環境も時宜を得たものとなっている。
  このような中、PD及びサブPDはプロジェクトの多数かつ多様な研究者・機関をまとめるためにガバナンス強化を推し進め、その主導の下、社会実装機関はプログラムのマネジメント機関として、適応策に対する認識や理解不足から来る具体的なニーズ不足に対して、技術開発機関とも協力し、ニーズの掘り起こしや先鋭化、確度の向上に徹底して取り組み、昨年度末から今年度初めにかけ、技術開発の基本方針を取りまとめた。さらに、現在もその方針の詳細化について、PD、サブPD主導により取り組んでいるところである。
  また、技術開発機関は、上記のとおり技術開発方針の策定が遅れはしたものの、データセットの作成開始を限界まで遅らせるなどにより対応し、何とかこれらの方針に沿って技術開発を進めている。現在、技術開発機関内における課題2と課題3の協働による研究の設計(co-design)及び知識の生産(co-production)により、創出するデータセットを拡張しつつ、データセットの創出に力を注ぎ、また、影響評価・予測に必要なモデルを仕上げつつある。
  なお、文部科学省も、円滑な事業運営と成果の創出・活用の拡大に向け、プロジェクト運営にも積極的に関与しPD、サブPDの支援を行うとともに、本プロジェクト内外の関係機関との連携の場を設定するなど、積極的に関与している。
  これらに加え、昨今の気候変動の影響を受けた異常気象と思われる台風等の発生に伴う社会的な適応策への関心の高まりと合わせ、地道なアウトリーチ活動の成果により本プログラムの取り組みが知られるにつれ、プログラム当初から参画しているモデル自治体(茨城県、埼玉県、長野県、岐阜県、鳥取県、佐賀県、徳島県、愛媛県、香川県、高知県)に加え、新たに大阪市、京都府、北海道がニーズ自治体として本プログラムに参画しており、着実な適応策の関心の広がりと共に、SI-CATの成果の社会実装へ向けた可能性は広がりつつある。
  他方で、昨今の財政状況を踏まえ、各技術開発の必要な予算のピークをずらす(データ創出を事業期間前半、影響予測・評価を後半に重点化し、一部事業を凍結。)ことにより、何とか研究開発体制及び研究課題を維持している状況であり、今後も、事業課題の一部中止を含めた整理を行う可能性があることに留意する必要がある。

<1.研究開発体制>

  本プログラムの研究開発体制は、PD(全体統括)、サブPD(社会実装担当、技術開発担当各1名)の指示の下、地方公共団体や民間が持つ気候変動への適応ニーズをプログラムのマネジメント機関たる社会実装機関が収集・明確化し、そのニーズに合致した技術開発方針を技術開発機関に提示して、技術開発を進めるというものである。
  プログラム開始初期においては、社会実装機関のニーズ収集の結果、ほとんどの地方公共団体において、自身の適応策策定の発端・強い動機付けとなるような先鋭化された明確なニーズを持ち合わせておらず、民間に至っては更にニーズが不明瞭・希薄であることが判明した。また、人文社会研究者、気候研究者、影響評価研究者、影響評価結果利用者(地方公共団体等)を一気通貫でプログラムに取り込み、相互に協働させて、上流から下流への成果の活用から社会実装への道筋を想定していたが、気候研究者と影響評価研究者間、また気候研究者と影響評価結果利用者間の研究への認識・考え方の違いから来る技術開発方針に相当程度の差があったこと、さらに本プログラムが公募事業であり、契約段階で大まかな技術開発方針が定まってしまうことと相まって、それぞれの研究者・参画機関において、各技術開発プロセスにおけるアウトプット/インプットの合意が取りにくいという状況にあった。
  このため、事業開始直後においては、事実上社会実装機関がニーズをベースとしたマネジメントを行うことが困難となり、参画機関・研究者の研究開発への取組・連携体制の構築に極めて大きい影響を及ぼした。しかしながらPD、サブPDのイニシアチブや社会実装機関のニーズ掘り起こしに向けた努力、参画者の粘り強いco-design及びco-productionに向けた努力により、時間はかかったものの、何とか当初計画されていた研究開発体制の構築に成功し、プロジェクトとしての調和的な動きができ始めている。今後は、いかに現在のよい流れを維持・強化し、最終的な成果の創出と展開につなげられるかが鍵となっている。

<2.研究開発の進捗状況>

課題1【気候変動適応技術社会実装プログラムにおける社会実装の着実な推進】

  本課題では、本プログラム成果の社会実装の推進を最終目標に置いている。中間評価時点での進捗状況は以下の通りであり、順調に進捗している。

〇 「地方公共団体等のニーズの掘り起こし及び先鋭化による技術ニーズの的確な把握と技術開発機関への提示」
  提供可能となるデータセットにより何が分かるのか、何に活用できるのか等の具体例の提示、技術開発機関とモデル自治体との協働により、ニーズの掘り起こしや先鋭化を行い、「SI-CATにおける気候シナリオ」として技術開発方針を年度当初にまとめている。技術開発機関はこれに従い、データセットの拡張(RCP2.6への対応、モデル数の増加等)に取りかかっている。
〇 「全国の地方公共団体が本プログラムの成果を用いて主体的に気候変動適応策の策定を行うことが可能な手法の構築」
  地方公共団体等のステークホルダーを対象とした聞き取り調査の結果を踏まえた、適応策の導入シナリオプランニング(叙述的社会・経済シナリオの検討含む)の設計や学習型ニーズ形成手法の構築などを行い、広く自治体を対象とした「地域適応白書」の発行や「適応自治体フォーラム」の開催を通じて、自治体間での本研究成果の共有・展開を図っている。これにより、「適応」に関する自治体における基礎的なキャパシティービルディングから、現実の適応策策定及びその実行に至る取組手法までを網羅している。これらにより、本プログラム参画自治体の適応に対する先駆的な取組や本プログラムの技術開発の成果が、本プログラム参画の有無を問わず広く自治体に活用される取組を進めている。
〇 「成果の情報基盤整備」
  現在までに基本設計については完了しており、全国汎用的なデータの可視化領域(温暖化及び影響評価)と、データ本体及びそのハンドリング機能とに分割し、前者は、気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)との連携による展開を、後者は「データ統合・解析システム(DIAS:Data Integration and Analysis System)」への実装の方向で調整を進めている。なお、開発自体は課題2及び3の技術開発機関が担当している。
〇 「広報」
  波及効果の高いテレビ・新聞等のメディアへの露出増加を目的とし、SI-CAT関係機関が報道発表等を行う場合の基本的手順を作成し、手順に基づき報道発表を行っている。また、時宜を得た報道発表内容となるよう、成果の発表タイミングについても戦略的な対応を行うべく技術開発機関と調整している。


課題2【信頼度の高い近未来予測技術の開発と超高解像度ダウンスケーリング技術の開発】

  本課題では、「近未来課題」として、数年先から十数年程度先の信頼度及び汎用性が高い近未来予測情報の創出を可能とする近未来予測技術の開発を行うとともに、この技術を用いて、2030年近辺を対象として極端現象を含めた確率情報付きデータセットを作成する。さらに、作成した大容量のデータセットを有効活用するために、極端現象イベントの確率的変化(イベント・プロジェクション)といった発展的な予測情報や類似イベントの検索等の機能を付加した近未来気候予測データベースとして構成・提供するための、特徴抽出手法や機械学習等などの改良を含む情報技術を開発することを最終目標に置いている。
  また、「ダウンスケーリング課題」として、汎用的なダウンスケーリング技術として統計的ダウンスケーリング技術を用い1km解像度にダウンスケーリングしたデータセットを作成する。さらに、モデル自治体等のニーズに応じて領域気候モデル等を用いた力学ダウンスケーリングによって詳細な気候変動情報を創出し、モデル自治体等への提供を行うことを最終目標に置いている。中間評価時点での進捗状況は以下の通りであり、順調に進捗している。

〇 「近未来課題」
  全国20km解像度アンサンブル予測データセット(d4PDF(地球温暖化対策に資するアンサンブル気候予測データベース)の2℃実験版)は現在ほぼ完成しており、引き続き観測データを用いた検証やバイアス補正を進め、今年度末までに、DIASを通じ公開予定である。また、海域10km解像度アンサンブル予測データセットを作成するためのモデル開発が完了し、現在気候における再現実験を通じた評価により、数値モデルは近未来予測に用いることができる十分な性能であることが確認された。この結果を受け、現在海域10km解像度アンサンブル予測データセット作成を開始しており、今年度末までに完成予定である。引き続き、予測データセットの評価を行っていく。
  さらに、これらの大容量データセットのハンドリング技術(切り出し・抽出機能等)に関しても、プロトタイプが完成し試験利用を開始するとともに改良点の抽出を行っている。これらの技術についてもデータセットとともに、DIASに実装される予定である。
〇 「ダウンスケーリング課題」
  汎用的なダウンスケーリング技術として統計的ダウンスケーリングを用いた、気温・降水に関する1km解像度の全国版データセットが完成し、課題内での利用を開始している。また、日射量等が含まれる農業向けに拡張されたデータセットや防災向け極端豪雨データセットについても今年度末までに完成予定である。
  また、モデル自治体等におけるニーズを踏まえた力学的ダウンスケーリングの詳細な仕様を決定し、計算を開始している。また、これに先行して作成した5kmメッシュ本州域のデータセットも完成しており、地形の影響を再現した高解像度の情報が得られている。これらモデル自治体とのco-designでは、各課題とも自治体職員との議論を通じて、適応策の検討・策定におけるニーズを具体化した。加えて、モデル検証のための観測データの整備をするとともに、近未来予測モデル、領域気候モデルとの比較を行うことにより、適応策の検討・策定に向けた情報の創出を行った。


課題3【気候変動の影響評価等技術の開発に関する研究】

  本課題では、ダウンスケーリング予測結果を気候シナリオとして用い、必要に応じて社会実装機関から提供される社会・経済シナリオも考慮して、数年先から十数年先(2030年近辺を想定)の1km程度の解像度で、適応策の効果を考慮可能な気候変動影響評価情報を創出する総合的手法を開発することを最終目標に置いている。中間評価時点での進捗は以下の通りであり、予算の大幅な削減を受け、情報基盤の整備を凍結するなど、個別の技術開発への影響を可能な限り回避したこと等により、ほぼ順調に進捗している。

○課題(i)気候変動に関する分野別影響・適応策評価技術の開発

・サブ課題a: 水災害・土砂災害リスクマップの高度利用技術開発及び地域詳細型高潮・水土砂災害適応策評価モデル開発
流域災害予測モデルの開発及び高精度化を実施。
・サブ課題b: 適応策評価のための森林生態系適域推計モデル開発
森林生態系の優占樹種を対象とした既存適域・推計モデルを基盤とした高解像度化等を実施

・サブ課題c: 主要作物影響・適応策評価モデル開発

我が国のコメを対象とした、影響・適応策評価手法の開発を実施。茨城県を対象とした水稲品質(白未熟粒発生)予測モデルの開発は完了。長野県を対象としたレタスの適域判定モデルを開発中。また、気候変動が果樹生産適地に及ぼす影響と適応策評価モデル開発を実施。また、果樹に関する気候変動適応策経験知抽出ツール開発及び気候変動に伴う沿岸環境急変現象の変動と影響評価モデル開発を実施。
・サブ課題d: 適応策評価のための気候変動に伴う河川流況及び水資源量影響評価モデル開発
個別のダムの操作実績データを元に、日本全域水資源モデルの中のダム操作モデルを改良し、木曽川、信濃川で検証を実施。さらに日本全域計算も開始。
・サブ課題e: 適応策評価のための暑熱環境・健康影響モデル開発
平成28年度以降は予算減額のため、モデルにおける「温暖化ダウンスケーラ」の改良を減らし「熱中症対策評価スキーム」の開発を中心に実施。

○課題(ii)気候変動に関する総合影響・適応策評価技術とアプリケーション開発

・サブ課題a: 総合的な気候変動影響・適応策評価技術及びSI-CATアプリ開発
研究計画を前倒しし、情報基盤のコンセプトの提示と試作を完了。
・サブ課題b: 経済影響評価:被害・政策マトリックス開発及び気候変動による環境経済的な影響の推定
アンケートの実施など必要情報を収集し、各項目の環境経済評価を実施。

○課題(iii)自治体における気候変動適応の推進体制構築及び汎用的な影響・適応策評価技術開発支援

・サブ課題a: 茨城県における農業を主とした気候変動適応の推進体制構築及び汎用的な影響・適応策評価技術開発支援
茨城県農林水産部、茨城県農業総合センターと共に、またSI-CATの参加機関とも連携し、研究・支援を実施。
・サブ課題b: 岐阜県における防災を主とした気候変動適応の推進体制構築及び汎用的な影響・適応策評価技術開発支援
課題2担当技術開発機関と協働し、水害・土砂災害・雪害リスク評価を実施中。また、岐阜県庁内に35部局からなる連絡会議を設置し、気候変動適応計画の検討体制を整備。
・サブ課題c: 四国における水資源・防災・林業を主とした気候変動適応の推進体制構築及び汎用的な影響・適応策評価技術開発支援
高知県高知市及び徳島県石井町と政策協議会を設置し、水防法改正に対応した政策立案をSI-CATで開発した被害予測モデルで実施。今後の防災政策の具体化の道筋を付けた。
・サブ課題d: 長野県における農業・防災・生態系を主とした気候変動適応の推進体制構築及び汎用的な影響・適応策評価技術開発支援
長野県内の適応ニーズに基づき、各分野の影響評価技術の開発を技術開発機関と連携して実施。適応策検討の場を新たに構築し、関係者間で気候変動やその影響の情報を共有。


<3.研究開発の成果及びその波及効果>

  本事業は、成果の社会実装を主眼に置いており、このため、モデル自治体や関連する地方自治体との協働体制を取っている。また、本プログラムにおける技術開発及び成果は現状に置いても、これまでになく精緻かつ過去例を見ない極端現象を含むデータセット等も創出しており、社会に還元できる成果の創出が十分に期待されるものとなっている。このため、本プロジェクトは科学的・学術的な成果を通じて、気候変動への適応に対する種々の問題を解決するための大きな一歩となることが期待される。
  また社会実装を主眼としたプログラムではあるが、一方で、成果の対外発信も盛んである。国内向けにはシンポジウム、講演、セミナー等の開催・参加はもちろん、これらのイベントに併せ、地方紙などからの取材等も多い。国際向けには、Journal of Climate、Journal of Geophysical Research、Oxford Research Encyclopedia of Climate Science等の気候変動や気象学、気候学に関連する国際誌やアメリカ地球物理学連合大会、ヨーロッパ地球物理学連合大会等の国際的な研究発表集会において成果発表を積極的に行っており、プロジェクト全体での論文発表数は既に100本を超えている。さらに、既にIPCCの1.5℃特別報告書の一次ドラフトへの本プログラム成果の引用や、国際的なダウンスケーリングのプロジェクトCORDEX(Coordinated Regional Climate Downscaling Experiment)の一環として、アジア域における統計ダウンスケーリングに関するプロジェクト(Pan-Asia ESD group)を本プロジェクト参画メンバーが先導しているなど、国内外に成果が展開されており、今後の更なる展開が大いに期待できる。


(2)各観点の再評価

  「気候変動の影響への適応計画」の策定以降、気候変動の影響を受けた異常気象と思われる台風の発生等に伴う国内外の適応策への関心の高まり等から、本プログラムの必要性、有効性が著しく高まっていることは疑いようがない。また、環境省においては地域適応コンソーシアム事業が、3カ年の計画でこの8月より開始されるなど、創出した成果の活用先、社会実装先は広がっている。現実にSI-CATにおいて創出した気候シナリオが当該コンソーシアム事業において提供可能なシナリオとして提示されており、文部科学省も当該コンソーシアム事業に、農林水産省、水産庁、国土交通省、気象庁と共に関係省庁として参加している。
  また、効率性については、データ提供の観点では、DIAS側との調整が着実に進んでおり、API(アプリケーションプログラミングインターフェース)連携の形で結実しつつある。また、マネジメント体制についても、ニーズ収集や研究者・機関のそれぞれの技術開発プロセスのアウトプット/インプットの溝が、PD、サブPD及びプロジェクト参画者の努力により解消されつつあることから、現在の動きを関係者それぞれが大事にしていくことが、今後の円滑なプロジェクトマネジメントに必要不可欠である。


【参考:当初設定された、必要性、有効性、効率性】
<必要性(当初)>
  気候変動に関する政府間パネル第5次評価報告書では、改めて温暖化影響の顕在化が指摘され、適応策の重要性が強調されている。 我が国においても気候変動適応に対する取組を政府全体の「適応計画」としてまとめる取組が続けられており、今後、国や地方公共団体レベルで、総合的な適応計画の策定・実施が見込まれる。また、数年スケールの近未来気候予測が可能となれば、地方自治体において農業などに対する施策を立案する際にも直接的なインパクトがあることから、本プログラムで開発される技術が社会実装されることにより、社会全体に大きな利益がもたらされることは疑いがない。このように、策定される適応計画に科学的根拠を与え、地球環境が直面する諸課題に効果的に対応する手段の一つとして社会に定着させるため、本プログラムの必要性は高いと評価できる。


<有効性(当初)>
  適応策は、気候変動の影響の解明を基礎として講じられるべきであり、本プログラムで開発する技術はこれに必要不可欠なものであることから、本プログラムの有効性は高いと評価する。一方、近未来予測や確率情報の創出は発展途上の技術であることなどから、事業を推進する上では以下の点に留意する必要がある。
1. 近未来予測技術については、予測期間を適切に設定するとともに、季節から数年レベルの予測技術をシームレスにつなげ、適応策の検討に必要な情報を創出する。
2. 超高解像度ダウンスケーリングについては、シミュレーション結果に生じる不確実性の取扱いに留意しつつ技術開発を進める。
3. 適応策間の相互作用に関する影響評価技術にあたっては、基礎となる個々の適応策が科学的に裏付けられたものである必要があることに留意し、先行研究で得られた知見や技術も踏まえ、必要に応じ個々の適応策自体やそれらの相互作用に関する研究をあわせて行う。
  一方、本プログラムは、創出した最先端の基盤情報や育成された人材を、出口である社会実装へと確実につなげることを到達点としており、社会的貢献の観点からも有効であると評価できる。 開発された技術を真に社会実装するためには、経済開発や防災に関する既存の政策等を踏まえ、それに対しどのような科学的知見が必要か、見定める必要がある。また、簡便で有用な手法を開発するなど、適応策を実行する主体(自治体や企業等)が自らの手で計算できるようにするなど、将来の継続性も考慮した、実用面での工夫等も進めるべきである。さらに、グローバルな気候変動適応の観点では、我が国全体としての適応策検討や、海外での適応策への応用も視野に検討すべきである。


<効率性(当初)>
  本プログラムでは、技術開発終了後の自立的な社会実装を進めるため、マネジメント機関が適応策立案に関するニーズを有する機関や技術シーズを有する機関と連携・協力して技術開発を行うシステム設計を行うこととしており、創出した最先端の基盤情報等を、 出口である社会実装へと確実につなげるための、効率的な実施体制が設計されていると評価できる。適切なマネジメント機関の選定が、本プログラムを円滑に進めるためには必須である。本プログラムでは、DIASと連携し、データや知見の蓄積、提供等ができる仕組みを構築することで、研究開発成果の着実な蓄積、活用と、その社会実装を推進すべきである。また、多様なステークホルダーを巻きこみ、技術の普及と社会実装の後押しには、社会的にも認知される仕組みの構築も必要である。


(3)今後の研究開発の方向性

本課題は「継続」する。

理由:
  本プログラムの政策的・社会的意義は、プロジェクト開始時に比して、著しく高くなっていることは疑いようもない。本プロジェクトの成否は、今後残された期間内において、技術開発と社会実装が統合されたプログラムとして創出した研究成果を、いかに適応策策定における科学的根拠として社会実装という形で昇華させるかにかかっている。また、今後のプロジェクト実施に当たっては、技術開発プロセスのアウトプット/インプットの溝の解消や予算の減少に伴う事業課題の一部ないし大幅な見直しの可能性等の懸念材料に、柔軟かつ適切に対応する必要がある。
  このため、今年度末の次年度研究開発計画の策定に際しては、これまでの成果をベースに、モデル自治体課題等の成果事例の各地方自治体への展開を見据え、より社会実装に近い技術開発課題かつ活用の裾野が広い技術開発課題を中心に据え、課題の中止・変更を含めた見直しを行うことにより、環境省との連携も十分視野に入れ、プログラム成果の社会実装とその後の一層の成果利用の拡大に向け、徹底した最適化を行うべきである。
  また、「適応」に取り残される自治体がないよう、これら研究課題の成果を踏まえ、具体的な事例として見える化し、地域ごとの実情に即した適応策の策定に結び付くよう、引き続き社会実装への取組を図っていくべきである。具体的には、課題2、3の進捗に伴う技術開発の具体的な事例に、シナリオプランニングやコデザイン等、各種の社会技術を組み合わせることによる可視化・手法の提示や、自治体における各政策担当部署へ働きかけていくことにより、自治体における防災、農業や健康等の各施策に適応の観点が組み込まれ、適応策の策定に結び付けていくことが重要である。
なお、これら社会実装を図る際には、気候変動の影響・インパクトの側面に偏ることなく、その不確実性について注意を払いつつ、適応の重要性・必要性を強調することが重要である。
  これらに加え、これまでの技術開発で得られた人文・社会学者、気候研究者、影響評価研究者、自治体関係者等の協働によるトランスディシプリナリー研究の手法については、今後も多様な課題解決に科学技術が貢献していくためにますます重要になることから、その知見について着実に蓄積することを望みたい。


(4)今後の研究開発の方向性

  環境省との連携については、本プログラムの成果の国内外への活用先の拡大も視野に入れ、関係省庁間連携のモデルケースとなるよう、地域適応コンソーシアム事業に対するデータ提供等に引き続き努めるべきである。また、本プログラムの成果であるデータセット等の企業等も含む利活用の拡大に向け、公開するデータセットのデータポリシーの明確化、利用手引きの充実など、着実な対応が望まれる。これらと平行して、都市開発等の適応に関心を有する民間企業等への働きかけについても進めるべきである。

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研究開発局環境エネルギー課

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