資料2-2 量子科学技術(光・量子技術)の新たな推進方策(案)

※中間とりまとめの「3.推進方策の検討にあたって考慮すべき点について」、及び「4.その他(今後の議論の方向性)」を置き換えて「3.新たな推進方策について」とすることを想定。

 第5期科学技術基本計画では、人々の豊かさをもたらす「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するとしており、量子科学技術(光・量子技術)は、この中で、新たな価値創出のコアとなる強みを有する基盤技術の1つと位置づけられている。
 半導体やレーザーなど、量子論を応用した科学技術や光技術の進展により、これまでも産業や社会は大きく変革してきたが、近年の目覚ましい技術進展やサイエンスの深化に伴い、量子科学技術のフロンティアはさらに拡大しつつある。先端レーザーによる量子状態制御や、量子情報処理を可能とする物理素子の要素技術等が生み出されはじめ、サイエンスの進展のみならず、超スマート社会(Society 5.0)における産業応用を視野に入れた新しい技術体系が急速に発展する兆しがある。
 量子科学技術は、経済・社会の様々な課題が複雑化し、資本や競争優位が一瞬で動く中、 高度な情報処理から、材料・ものづくり、医療まで広範な応用があり、非連続に課題を解決(Quantum leap)する大きな可能性が指摘され、かつ、我が国の産学官が培ってきた強みをベースに、簡単にコモディティ化できない知識集約度が高い技術体系であることから、Society 5.0を実現し、我が国の競争力を強化するための根源・プラットフォームとなり得る。
 これらを背景として、官民研究開発投資の拡大に向けて平成30年度に創設することとされた官民研究開発投資拡大プログラムにおいて、光・量子技術を含む革新的フィジカル空間基盤技術が官民の研究開発投資ターゲット領域の1つに決定(※1) した。
 Society 5.0実現に向けた改革をまとめた未来投資戦略2017(本年6月閣議決定)においては、資本集約型経済から知識集約型経済に変化する中、知と人材の拠点である大学・国立研究開発法人を中核として、産業界も巻き込み、社会全体で優れた研究開発やベンチャーが自発的・連続的に創出されるイノベーション・ベンチャーのエコシステムを構築するため、我が国が強い分野への資源の集中を進めるとしている。
 米欧中で量子科学技術に係る産学官の研究開発投資や産業応用の模索がこの数年で拡大する中、官民投資を拡大し、他国の追随に対し、簡単にコモディティ化できない知識集約度の高い技術体系を構築することが重要である。


(量子科学技術の推進にあたって考慮すべき点について)
1 わが国独自の視点やアイデア
 我が国の限られた資源と、欧米等の投資規模や研究者層の厚さを考えると、我が国独自の視点やアイデアを生み出し、伸ばすことが非常に重要である。基礎研究や基礎理論における斬新なアイデアを重視し、それを国内で展開・実証しやすい環境にすることも、想像をはるかに超えた量子科学技術の進化に対応するための取組として重要である。

2 突出した点と点を繋ぎ、若手を含めた多様なアイデアを基に新しい領域を拓くハイブリッド型の研究推進
 我が国は、物理や材料分野における基礎研究、半導体等のデバイス製造技術に強みがあるとともに、世界的にも枢要なアイデア・要素技術を生み出している。また、我が国は、いずれ世界の国々が直面することとなる少子高齢化、資源・エネルギー問題などに真っ先に取り組まざるを得ない「課題先進国」の立場におかれているが、逆に課題先進国であることを強みとして、世界に先駆けて課題を解決することができれば、新たな成長分野で一躍世界のトップに躍り出るとともに、絶え間ないイノベーションにより、成長と格差是正の両立する世界に類を見ない社会を目指し、国連の新しい開発目標であるSDGs(Sustainable Development Goals) (※2)の達成にも貢献することが期待される。量子科学技術は、我が国が有する突出した点と点をつないで競争力を生み出す組み合わせがほぼ無限にあり、若手を含めた多様な研究者の多様なアイデアを基に新しい領域・成長分野を拓くような、ハイブリッド型の研究推進による競争力強化が強く望まれる。また、研究推進に多様な研究者が参加できる体制の構築が重要である。


(重点的に推進すべき研究開発の取り組み)
1 ネットワーク型研究拠点を通じたSociety 5.0関連技術の横断的強化
 量子技術と光技術は密接な関係にあり、情報通信、ナノテクノロジー・材料、ライフサイエンス、環境・エネルギー等の重点的に推進すべき分野を横断する基盤的分野である。大変革時代を先導し、新しい価値やサービスが次々と創出される「超スマート社会」を世界に先駆けて実現するための、新たな価値創出のコアとなる強みを有する基盤技術であり、革新的な計測技術、情報・エネルギー伝達技術、加工技術など、様々なコンポーネントの高度化によりシステムの差別化につながるものである。
 様々なコンポーネントの高度化によって、我が国の優位性を確保しつつ、国内外の経済・社会の多様なニーズに対応するためには、量子技術と光技術を更に糾合して推進する必要がある。理論、基礎物理、材料、物性、デバイス計測、分析化学及び生命科学などの異なる分野、基礎研究や実用化といった異なる技術段階の間での対話、融合及び流動を推進するため、ネットワーク型研究拠点により推進していくことが適切である。
 今後、「量子」のポテンシャルを最大限引き出し、解き放ち、今後の量子科学技術の進展を先導するとともに、将来にわたって国民・社会に広く裨益していくためには、以下の観点を踏まえたネットワーク型研究拠点を通じた研究開発を推進していくことにより、Society 5.0関連技術を横断的に強化していくことが重要である。


ア.トップダウン的なアプローチによる研究開発推進
 領域によっては、実験研究者、物性理論研究者や潜在的ユーザーと一緒になって、一定の目標を定め、課題に取り組むような、トップダウン的な開発アプローチも必要となる。このようなトップダウン的なアプローチが必要な領域としては、科学技術・経済・社会に与えるインパクトが相当程度期待されるとともに、中長期にわたるインパクトを見据えつつも、5~10年で国民の目に見える進展が期待される研究・技術領域を対象とすることが適切と考えられる。
 本委員会では時間軸とともに研究・技術がどう進展して何が実現されうるのか等を示すロードマップを以下i)~iv)の研究・技術領域において策定した。ネットワーク型研究拠点においては、これらの研究・技術領域の研究開発を、明確な研究開発目標等の設定及びきめ細かな進捗管理により行う、言わばフラッグシッププロジェクトを中核として推進しつつ、フラッグシッププロジェクトを支え、様々な挑戦的課題に取り組むことで持続的にサイエンスエクセレンスの創出を図る基礎研究及び基盤研究に併せて取り組むことが重要である。これにより、フラッグシッププロジェクトで得られる知見が、基礎研究及び基盤研究に人材育成面も含め良い刺激や影響を与え、逆に、基礎研究及び基盤研究で得られる知見が、人材育成面も含めフラッグシッププロジェクトに好影響を与えたり必要に応じ反映されたりといった相乗効果が見込まれる。
 1) 量子情報処理(主に量子シミュレーション)
   (ロードマップに基づき記載を充実)
 2) 量子計測・センシング
   (ロードマップに基づき記載を充実)
 3) 極短パルスレーザー
   (ロードマップに基づき記載を充実)
 4) 次世代レーザー加工
   (ロードマップに基づき記載を充実)


イ.量子科学技術を支える共通的な基盤技術の長期的視点に立った研究開発の推進
 光学・フォトニクス技術や加速器・計測技術等は歴史的に、科学の進展や経済・社会的利用のフロンティアを常に切り拓き、「量子」研究を支えてきた。例えば、光周波数コムやレーザー冷却等の技術は、複数の研究・技術領域に共通する基盤技術であり、それらの進展に大きく貢献するとともに、広い分野に波及効果をもたらす可能性がある。Society 5.0関連技術を横断的に強化していくためには、ア.i)~iv)の研究・技術領域のみならず、これらを支える理論を含めた基盤技術の研究開発を長期的視点に立ち、推進することが重要である。


2 新たな技術シーズの持続的創出を支える戦略的な基礎研究の継続的強化
 「量子」のポテンシャルを最大限引き出すためには、1で示したネットワーク型研究拠点の形成に加え、国内外の研究動向を踏まえ、将来社会に大きな影響をもたらす新たな技術シーズの創出を目指す戦略的な基礎研究を併せて進める必要がある。このような戦略的な基礎研究を推進するのに適した領域としては、例えば、量子技術と生命科学との融合により、細胞内の生体分子が有する機能を量子レベルから統合的に理解し、制御することを目指す量子生命科学や、物質が持つトポロジカルな性質を利用することで新しい技術的枠組みによるデバイス革新を目指すトポロジカル量子などの研究領域が考えられるが、これらに限らず、量子科学技術の進展や国際動向を踏まえ、適時適切に研究領域を設定し、戦略的な基礎研究を継続的に推進することが重要である。

(オープンサイエンスの推進)
 国際的に基礎研究の成果としてオープンな研究交流: 諸外国は量子科学技術の推進に関する政策を強力に推進し、その研究開発に対して政府及び民間企業が大規模な投資を行っているが、大部分の研究においては、一国に閉じた開発が可能であるとは考えられておらず、国際的な協力のもと多くの課題が推進されている。そのため、国際的な研究協力や共同研究といったオープンな研究交流を通して、新しいアイデアを常に取り入れながら、相乗的に技術を向上させ、時宜に応じた政策的な対応を図るような国際化への対応が求められる。
 海外の研究グループとの積極的な研究ネットワーク構築: 欧州では研究者が国境なく往来して共同研究を実施しており、一国当たりの研究者数は限られていても、欧州全体として見ると多くの研究者が存在している。我が国の研究環境を改善することで、欧米との研究協力や共同研究を促進し、相乗的に技術を向上させるような国際化への対応が重要となりうる。また近年、中国やシンガポールといったアジアの研究グループも急速に力を付けてきている。アジアの研究グループとの積極的な研究協力や共同研究を含む研究ネットワークの構築についても検討すべき時期に来ている。

(人材育成)
 理論や実験など、各分野のレベルが高度化している中において、分野間の協力や融合努力を積極的に評価する視点や、基礎物理からシステム開発まで見通せる人材を育成する観点が必要である。異なる分野及び基礎研究や実用化といった異なる技術段階の間での連携や流動性が重要で、このような広がりに跨がるような基礎研究や人材育成が重要である。これにより、オープンイノベーションをリードしていく人材の育成が期待される。例えば、異分野の若手研究者同士の協力関係を加速するための中規模の研究費の枠組みや、各々の研究費を合わせて大きな研究開発に展開できるようなフレキシブルな枠組み、異分野の一流のシニア研究者が若手研究者に対して支援・アドバイスを行う体制などの工夫により、一層の分野を超えた連携や流動性が期待できる。また、多様な視点や発想を取り入れることは、研究活動を活性化し、創造的な研究成果の創出に資するものであり、量子科学技術分野における女性研究者の人材育成に取り組むことが重要である。

(イノベーション・ベンチャーのエコシステムの構築)
 量子科学技術のポテンシャルを最大限に引き出し、Society 5.0を実現していくためには、想定ユーザー(潜在的ユーザーも含む)との共同研究・産学連携やベンチャー創出の促進等により、経済・社会の多様なニーズに取り組んでいくことが重要である。異なる分野及び基礎研究や実用化といった異なる技術段階の連携によりプロトタイプを示す進め方は、可能性を明確化し異分野融合を促進するためにも有効である。また、想定ユーザー(潜在的ユーザーも含む)と対話しながら、段階的に、着実に量子科学技術を向上させる取組も効果的である。その際、技術シーズ側とニーズ側両方の言葉を理解して通訳できる、両者のコーディネーションができる人材の育成が必要であり、大学や研究機関と産業界両方を経験できる人材流動性や、両者と対等にコーディネーションできる立場を確保する枠組みをいかに構築するかを検討すべきである。経済・社会の様々な課題が複雑化している不確実性の時代において、アントレプレナーシップ(起業家精神)を持つことも、非連続に課題を解決し得る量子科学技術の実用化を加速する上で重要であり、大学や国立研究開発法人のインキュベーション力の強化やベンチャー・キャピタルを始めとする起業関係者とのネットワーク形成等を通じ、イノベーションが自発的・連続的に創出されるイノベーション・ベンチャーのエコシステムの構築を目指すべきである。

(知的財産・標準化戦略)
 国際競争の観点からも、産業界を含む大きな体制での研究開発が必要であり、その中で、人材育成、知的財産確保、標準化も進めることが重要である。なお、出口としてのアプリケーションが明確に決まっている場合には、ノウハウ等の成果情報の取扱いについて留意が必要である。

(社会との関係深化)
 量子科学技術のような基盤技術に対しては、長期的視点に立った継続的な研究が必要である、そのためには、技術がどのようなレベルにあるのか、その進展によってどの様なポテンシャルや可能性があるのか、どの様に社会に役立ち世界が開けるのかを国民と企業に分かりやすく発信することが重要である。


(※1)平成28年4月21日総合科学技術・イノベーション会議決定
(※2)SDGs:貧困に終止符を打ち、地球を保護し、すべての人が平和と豊かさを享受できるようにすることを目指す普遍的な行動。「すべての人に健康と福祉を」、「エネルギーをみんなにそしてクリーンに」、「産業と技術革新の基盤をつくろう」など、17項目の目標が掲げられている。

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科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室

(科学技術・学術政策局 研究開発基盤課 量子研究推進室)