量子科学技術委員会(第9期~)(第11回) 議事録

1.日時

平成29年4月28日(金曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省 3階 3F2特別会議室(東京都千代田区霞が関3-2-2)

3.議題

  1. ロードマップ検討について(報告)
  2. 戦略的創造研究推進事業について
  3. 量子科学技術研究開発機構の取組について
  4. フォトニック結晶について
  5. トポロジカル量子戦略について

4.出席者

委員

雨宮委員、飯田委員、岩本委員、上田委員、大森委員、根本委員、平野委員、湯本委員

文部科学省

伊藤科学技術・学術政策局長、中川大臣官房サイバーセキュリティ・政策評価審議官、勝野科学技術・学術総括官、村上研究開発基盤課長、上田研究開発基盤課量子研究推進室長、吉川研究開発基盤課課長補佐、橋本研究開発基盤課量子研究推進室室長補佐

オブザーバー

瀬藤光利 浜松医科大学医学部細胞分子解剖学講座教授、野田進 京都大学大学院工学研究科教授、八木重典 科学技術振興機構戦略研究推進部プログラムマネージャー、宮下哲 科学技術振興機構研究開発戦略センターナノテクノロジー・材料ユニットフェロー、塚﨑敦 科学技術振興機構研究開発戦略センターナノテクノロジー・材料ユニット特任フェロー

5.議事録

【雨宮主査】  それでは、定刻になりましたので、第11回量子科学技術委員会を開催します。 本日は、お忙しい中、御出席いただきありがとうございます。
 本日は、8名の委員に御出席いただいております。岩井委員、城石委員、早瀬委員、美濃島委員は御欠席です。
 本日の議題は、1番目が「ロードマップ検討について(報告)」、2番目が「戦略的創造研究推進事業について」、3番目が「量子科学技術研究開発機構の取組について」、4番目が「フォトニック結晶について」、5番目が「トポロジカル量子戦略について」、この5つです。
 本日の会議ですが、委員会の運営規則に基づき、公開という形で進めさせていただきたいと思います。
 それでは、事務局より、配付資料の確認等、お願いいたします。
【吉川補佐】  事務局の吉川です。お手元の資料を御確認ください。議事次第にございますように、資料1から5-2を机上配付しております。資料に不備等ございましたら、事務局まで御連絡ください。よろしいでしょうか。
 それでは、本日、御発表いただく有識者を御紹介させていただきます。まず、浜松医科大学医学部細胞分子解剖学講座、瀬藤光利教授。本委員会の委員でもいらっしゃいます量子科学技術研究開発機構、平野俊夫理事長。科学技術振興機構戦略研究推進部、八木重典プログラムマネージャー。科学技術振興機構研究開発戦略センター、ナノテクノロジー・材料ユニット、宮下哲フェロー。科学技術振興機構研究開発戦略センター、ナノテクノロジー・材料ユニット、塚﨑敦特任フェロー。
 また、議題(4)のフォトニック結晶の議論に参加していただくために、京都大学大学院工学研究科、野田進教授にもお越しいただいております。
 本日は皆様、お忙しい中ありがとうございます。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございます。
 それでは、早速、議題(1)に入っていきたいと思います。議題(1)「ロードマップ検討について」の報告です。
 事務局より御説明、お願いいたします。
【上田室長】  資料1を御覧ください。ロードマップ検討につきましては、前回委員会の4月10日に、検討作業の概略等をお示し、御議論いただくとともに、主査の方とリエゾンの方を御確認いただきました。
 その後、関係の有識者の方々からの御知見を頂いたり、意見交換を経て、検討グループが固まりましたので、御報告いたします。
 1ページ目は、「検討について(案)」の案が取れて、必要な表記を一部修正したものです。
 2ページ目、これも前回書いてございましたが、留意事項をそのまま記載してございます。
 3ページ目以降が検討グループでございます。3ページ目が量子情報処理(主に量子シミュレーション)に係る検討グループです。主査のほか、専門有識者の方々の御協力を頂けることになりました。また、リエゾンは大森委員と根本委員に務めていただくことになります。また、必要に応じ、さらに、外部有識者の知見を得て検討を行うこともあり得ると思います。
 同様に、4ページ目が量子計測・センシングに係る検討グループです。主査の荒川先生のほか、専門有識者の方々から御協力を頂けることになりました。リエゾンは上田委員と早瀬委員にお願いしております。
 5ページ目が極短パルスレーザーです。主査は緑川先生、専門有識者の方々から御協力を頂けることになりました。岩井委員にリエゾンをよろしくお願いします。
 6ページ目が次世代レーザー加工です。主査は安井氏にお務めいただき、専門有識者の方々に御協力を頂けることになりました。リエゾンは湯本委員にお願いしております。
 以上でございます。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 これについて、何か御質問、御意見がありましたら、お受けしたいと思います。
【上田室長】  少しよろしいですか。この検討グループの開催は、連休明けの5月以降と思いますが、我々事務局も同席して御議論いただき、結果についてはまとまり次第、本委員会に報告するということになると思います。
【雨宮主査】  検討グループを作り、四つの項目についてこれから検討いただくと。そして、その検討の内容は本委員会で報告されるという形で進むことになりますが、特に御質問等なければ、この検討グループで今後検討を進めるということで確認したいと思います。よろしいでしょうか。
 それでは、次の議題(2)の方に入っていきます。議題(2)は、「戦略的創造研究推進事業について」ということです。
 事務局より、趣旨説明等、お願いいたします。
【上田室長】  前回の委員会で、平成29年度からJSTで新たに始まります量子と生物学、生命科学との関係の新たな戦略目標を御紹介いたしました。その後、4月12日より、さきがけの公募が開始されております。
 本日、研究総括に御就任された瀬藤先生にお越しいただいて、領域の概要等、御発表いただきたいと思います。
【雨宮主査】  それでは、瀬藤先生から10分程度御発表いただいて、その後5分程度、質疑の時間を設けたいと思います。
 それでは、さきがけの「量子技術を適用した生命科学基盤の創出」ということで、御発表をお願いいたします。
【瀬藤先生】  それでは、よろしくお願いします。浜松医科大学の解剖学の教授ですが、国際マスイメージングセンター、それから、昔の光量子医学研究センターを兼務しております瀬藤です。
 これ(資料2、2ページ目)は文科省のホームページに載っております平成29年度戦略目標「量子技術の適用による生体センシングの革新と生体分子の動態及び相互作用の解明」という目標です。この目標は、お恥ずかしながら、我々生物、医学生物系が少し遅れているおり、光技術、量子技術の基礎研究は世界をリードしており、世界をリードする技術シーズが生まれているということです。具体的には、量子センサ作製技術は我が国の機関が国際的にも高い技術を有しており、海外研究グループからも、材料提供の依頼を受けているぐらいです。それから、量子もつれ光を用いた顕微鏡というのが我が国発の技術です。それから、量子ビームの高度利用というのも、特に超精密構造・機能解析等で世界に先駆けた研究を創出しています。
 これらの技術は、当然ながら、生命科学への応用も期待されており、海外では強く推進され始めているという状況を我々は認識しているのですが、我が国においては非常に分野間の壁が高くて、もちろん量子技術というのは非常に最先端でありまして、生命科学も、生命科学の中では最先端の分野ではあるわけですが、これらの交流が遅れているのではないかと思います。そのために、このままでは生物、生体、医学、医療への応用が十分進んでいかないのではないかということです。
 せっかくの技術をアメリカ等が先に生物利用に応用して、産業化してしまうというのが今までよくあるパターンですが、日本でまた同じようにならないように、もうトップダウンの基礎研究を通じて、量子技術と生命科学の融合を促進しようということです。そのために、日本の優位性を保持しつつ、統合的に生命科学のフロンティアを開拓していき、最終的には、新規治療や診断への応用や計測装置・機器による産業展開も想定できるだろうということです。
 (3ページ)繰り返しになりますが、量子科学が発展しており、量子技術というのが進展著しく、それを生命科学に応用できるはずだということです。しかしそれが遅れており、そこには、我々、生命科学研究者の苦手意識や抵抗感があるということです。
 (4ページ)本領域の位置付けですが、昨年発足しているCRESTの「量子技術」領域、それから、さきがけの「量子機能」領域においても、生物応用の提案は是非ということであったわけですが、蓋を開けてみると、やはりそういう課題はありませんでした。もちろん量子技術そのものをけん引していかなければいけないこれらの領域において、生物の方に目を向けてくれといっても難しいということで、今回、生命科学系に特化したさきがけを発足したということです。
 少し図にすると、5ページのような形になります。これまでの物理学系よりも、より生命科学系に少し寄ったところで、個人型をやるということです。
 (6ページ)とはいえ、今、それほど分野があるというわけでもございませんので、これから人材を育成していくという観点も必要だろうと考えております。そういったことから、ハイリスクなテーマにも積極的に挑戦していただきたいと考えております。
 (7ページ)現在、一部の機関、京都大学若しくは理研、東大等で、応用の萌芽が見られますし、このように捉え直してみると、NMR等もそうだということで言えば、ないわけではない。ダイヤモンドNVセンタを使ったセンサ技術、もつれ光を使った生体のイメージング、そのようなものが一部、日本でも始まっております。
 (8ページ)募集課題については、量子とライフの異分野融合になりますと、特に生物系だと、自分がそれに該当するのかということがもう少し説明しないと分からないということで、三つに少しかみ砕いております。生命現象を解明することを目的として、量子技術を導入するもの。それから、生体計測技術そのものの開発を目的にしてもよいですよというもの。それから、生命現象の中に量子的な現象があるのかといった議論がございまして、そういったところを深掘りするような研究というのもいいでしょうと。
 (9ページ)生命現象の解明は、主に現在、医歯薬学、農学、生物学の研究分野で研究をしている方々が、そのツールとして量子技術を導入するというものです。
 次の(10ページ)量子生体計測技術の開発については、分野としては、応用物理学や化学、薬学の一部等もそうかもしれません。そのようなところで、生命科学に応用可能な計測技術を開発する、量子技術を用いて開発するというものです。量子技術から見ると、原理的には当たり前だろうというものになるかもしれないのですが、それを実際に生物、生体、医療に応用しようと思うと、そこは実は相当な試行錯誤が必要ではないか、そのようなことを支援したいと考えております。
 最後は(11ページ)、平野委員がまたお話しになるかと思いますが、生物ももちろんものですので物性があるわけですが、その自明な意味ではなく、非自明な形で、量子科学的な効果があるという議論が昔からあるのですが、最近、少し証拠も出てきていると。ただ、そこはまだまだ議論のあるところですが、理論生物や計算化学から、特にシミュレーション等を使って、そういった研究をしている方々というのが一部おられまして、ここは展開するのであれば、もちろん支援したいと考えております。
 (12ページ)さきがけは個人で実施するものですが、今回の量子とライフということになりますと、少しCRESTのように、異分野が協力しないとなかなか難しいのではないかということもございまして、協力してやるのはもちろん構わないとしています。そのときに、どっちが代表で出すのだということでもめてもいけませんので、両方が若手だった場合、連携した提案も可能にしております。これは新しい取組だというふうに伺っております。もちろん、従来どおりの個人での応募も可能です。
 (13ページ)領域の運営体制としては、アドバイザーは量子に詳しい方、ライフに詳しい方、もちろん両方詳しい方、化学、分光に詳しい方等そろえておりますので、採択された研究者を皆で育てていこうという形です。この場合には、場合によっては、領域内のマッチングやアドバイザーとのマッチングや解析拠点の整備ということも視野に入れています。
 (14ページ)アドバイザーは案ですが、皆さん、御内諾いただいておりまして、今、機関の承認を待っている方が一部いらっしゃいます。石川先生、井上先生、岡田先生、小澤先生、菊地先生、笹木先生、城石先生、竹内先生、田中先生、原田先生、ここにもおられます平野先生、三木先生、水落先生、宮脇先生ということで、光・量子の方が結構多いですが、それに限っているわけではございません。
 (15ページ)採択の方針といたしましては、斬新で挑戦的なアイデアを広く募ります。さきがけは3年半で終わりますので、そこだけで評価するのではなく、追跡して評価して、その後、飛躍的な成果を上げるような研究者を是非選んでいきたいと考えております。
 以上です。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 今の御説明について、何か御質問、御意見がありましたら、お願いいたします。
 これまでのさきがけと違って、個人研究だけど、ペアでというところが少しユニークなところですか。
【瀬藤先生】  はい。そのように考えております。自由電子レーザーとかSPring-8とか、少し大きな装置やNMRを使わないとできないような、研究が出てくるのではないかと考えていまして、そのときに、装置を実際に日々動かしている若手の研究者が、自分が応募したいというときに、他の方がその装置を使って一緒にやりたいという場合に、日本にそんなたくさんありませんので、片方は出せなくなってしまうという状況というのを勝手に先に心配して、そういう場合は是非連携して、どちらも出すことができるような形になっています。
【雨宮主査】  ほかに何か御質問。よろしいでしょうか。
【飯田委員】  飯田です。さきがけでペアやチームで出せるのは非常に画期的だと思います。以前の委員会での議論を踏まえての試みと思いますが、量子とライフそれぞれの提案のクロスする部分をどういうふうに描くかが重要なポイントと思われます。例えば量子研究者、ライフ研究者自身が共通の目的を目指して技術的に全く違うアプローチで解決を目指していくイメージを持てばよいでしょうか。
【瀬藤先生】  おっしゃるとおりです。
【飯田委員】  ありがとうございます。
【瀬藤先生】  あと、連携しているものは同じタイトルである必要はないというか、同じタイトルでない方がいいと思います。
【飯田委員】  なるほど。
【瀬藤先生】  その広い意味で、この分野のこの戦略目標を目指しているという意味では、同じものを目指しているということでございます。
【飯田委員】  分かりました。ありがとうございます。
【雨宮主査】  ほかに。上田委員。
【上田委員】  連携をエンカレッジする観点で、先ほど、心配の観点からのエンカレッジメントというのがあったのですが、むしろ、サイエンスをハイブリッド型で進めるという観点からの連携をエンカレッジしたらどうかと思います。
【瀬藤先生】  ありがとうございます。
【上田委員】  どういう意味かといいますと、以前、日本学術振興会で、連携探索型数理科学というプログラムがありまして、そのときには、数学者が中心なのですが、ほかの分野との融合を狙ったプログラムで、数学者を中心にしながら、ほかの分野、例えば、化学、物理、情報との連携によって初めて生まれるようなアイデアを提案してくださいという趣旨でした。そうすると、提案の段階から若い方が集まって、こういうシーズがなければとても出会わなかったような若い方が出会って、提案の段階から一生懸命いろいろと考えて、非常に面白い提案がたくさん出てきました。
 今回はまさにこのハイブリッド型ですよね。生命と量子を狙っているので、例えば生命の方が中心になりながらも、例えば量子の最先端のことで、そこに関心のある方が一緒になって面白い提案をしていただくということをむしろエンカレッジしてはどうかと思うのです。
【瀬藤先生】  おっしゃるとおりだと思います。既に、東京大学先端科学研究センターとか、大阪大学の産業科学研究所等の若い人で、これに提案したいので、自分が実際にやっていることの、特に量子的な側面を周りの若い人たちと、一番たくさん出てくるのはどういうところかという議論をしているのを目の当たりにしているので、少なくともこの公募だけでもそういうことのエンカレッジが始まっているのですが、今後ますますそのような観点で皆応援していきたいと、盛り上げていきたいと思います。ありがとうございます。
【雨宮主査】  ほかにいかがでしょうか。よろしいでしょうか。
 それでは、どうもありがとうございました。
 次の議題に移りたいと思います。議題(3)に関して、まず、事務局より趣旨等の御説明をお願いいたします。
【上田室長】  量子科学研究開発機構(量研機構、量研、QST)につきましては、昨年4月に発足されました。1年がたちまして、改めて、量研機構の取組や今後の方向性について、御発表いただければと思っております。
 以上です。
【雨宮主査】  それでは、平野委員より、15分程度で御発表いただいて、その後、10分程度の質疑応答の時間を設けたいと思います。
 それでは、「量子科学技術:量研(QST)の取り組み」ということで、よろしくお願いいたします。
【平野委員】  ただいま御紹介に預かりました平野でございます。皆さん、量子科学技術研究開発機構について余り御存じないと思いますので、本日は、量研(QST)の御紹介に加え、その中で、我々の新しい取組として、出口を見据えた医学的な研究と基礎的な量子生命科学への取組の二つに焦点を当ててお話ししたいと思います。
 量研は、放射線医学総合研究所と日本原子力研究開発機構の核融合研究部門と量子ビーム部門が再編統合され、昨年4月1日に発足した新しい国立研究開発法人であります。その結果、青森県の六ヶ所村から兵庫県の播磨まで、全国に五つの研究所を含む七つの研究拠点があります。さらに、フランスでは、ITER協定に基づいて、核融合実験炉の建設を進めています。
 (資料3、6ページ)このような研究所ですので、エネルギーから生活、命まで幅広く研究開発に取り組んでいます。エネルギーに関しては、核融合の研究開発でありますし、生活に関しては、次世代燃料電池用の高性能電解質膜の開発や水素貯蔵材料、更にスピントロニクス用デバイス等の開発や高強度レーザーの研究開発といった材料・物質科学研究であります。さらに、もう一つはこの命に関わる研究であります。
 また(7ページ)、3部門による統合効果を最大限に発揮するためには、まず理念と志を構成員が共有することが必要であると考え、昨年10月に「QST未来戦略2016」を策定いたしました。理念は「量子科学技術による調和ある多様性の創造」により、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献するということであります。
 この理念には2つの意味がありますが、1つは多様性の壁を乗り越えて、世界に平和をもたらすという意味と、多様性によりイノベーションを起こすという意味であります。また、QST内にも様々な壁がありますので、その壁を乗り越えて、QST内に調和ある多様性の創造を実現し、新しい融合分野を発展させていくという意味も込めています。
 (9ページ)この理念のもとに、「量子エネルギー理工学」、「量子材料・物質科学」、「量子生命科学」、「量子医学・医療」、そして、安心・安全を支える放射線影響研究等の分野で世界を先導し、世界トップクラスの量子科学技術研究開発プラットフォームの構築を目指し取り組んでおります。
 (10ページ)我々の強みというのは、例えばJ-KARENのような高強度レーザーやイオン照射施設であるTIARA、さらには重イオン加速器のHIMAC、SPring-8の専用ビームライン等のこのような量子ビームのインフラを最大限有効利用するということと、これらに基づいて培ってきたそれぞれの専門性を更に強くするだけではなく、更なる融合研究を促進できる環境にあるということであります。
 また(11ページ)、財務、人材育成の観点からも、未来を見据えたポジティブサイクルを樹立していきます。そのためには、産業界や大学、あるいは、他の国研に対しても開かれた研究所にならなければならないですし、社会へは積極的に情報発信をしていきます。そのような取組を通じて、先ほど言いました理念と志を成し遂げようということであります。
 そのための様々な施策を実行しています(12ページ)。1)戦略的理事長ファンドにより若手研究者を対象に萌芽的研究や創成的研究を推進しています。 2)QST未来ラボを作りました。これは例えば、後でお話しします量子生命科学とか、ある一つのキーワードでもって、各拠点、全国にばらばらになっている研究者のうち、このキーワードに興味がある研究者、例えば量子生命科学に興味のある人を集めてバーチャルラボを形成して融合研究を推進しています。将来の芽を育んでいくという発想の未来ラボであります。これはバーチャルな研究組織ですが、研究が進めば将来は研究所の再編を介して現実の研究所に発展することを期待しています。3)大学との連携も推進していきます。QSTの研究拠点があちこちに散らばっていますが、各研究拠点が設置されている周辺の大学とまずは包括協定を締結し、大学との人事交流や共同研究を推進しています。例えば大阪大学であれば、大阪大学のレーザー科学研究所と量研の関西光科学研究所が連携してレーザー研究開発の世界の拠点になるべく共同研究や人事交流を進めていきます。4)企業との連携としては、イノベーション・ハブというものを構築しています。例えば量子ビームを利用した革新的機能材料の研究開発というようなテーマの下に、それに興味のある複数の企業に参画していただいて、コア技術を開発していくという、そういう発想であります。
 これらの取組によって、融合研究の推進であるとか、社会に開かれた国立研究開発法人として、量子科学技術のプラットフォームを構築していくということです。
 (13ページ)このような量研における取組の中から、本日は出口が明確な医学研究である量子メスと呼んでいます次世代重粒子線がん治療装置の開発と、先ほど、瀬藤先生から話がありました、これは全くの基礎的な研究でありますが、量子生命科学の二つの取組を例に取ってお話ししたいと思います。
 量研の放医研では、量子イメージングによる、例えば認知症や鬱病等の診断・治療研究開発を行っております。これらは、次世代のPETプローブの開発やMRI造影剤を開発するということも含めて、あるいは、MRIやPET機器の最適化も含めた総合的戦略で量子イメージングの分野を推進しています。また、アルファ核種とドラッグデリバリーを結合した薬剤を注入して内部からがんを照射する標的アイソトープ療法や重粒子線によるがんの治療研究開発などを推進しています。これらと放射線防護・放射線被曝医学医療を総合して、我々は量子医学・医療という新しい切り口から研究開発を推進していこうとしています。
 (14ページ)この中で、量子メス研究開発に関してお話ししたいと思います。これは戦後、アメリカの物理学者のウィルソンが、加速器で加速された原子核をがんに照射することによりがんを治療しようという発想を提案し、それに基づいてアメリカは粒子線によるがん治療装置の開発を試みたわけですが、失敗に終わりました。
 一方、放医研は1984年から始まった「対がん10カ年総合戦略」の一環としてこの開発に取り組み、1993年にHIMAC、すなわち医療用の重粒子線がん治療装置を世界で初めて開発に成功しました。その後、放医研において、既に1万人を超える各種がん患者の治療をしてきました。
 (16ページ)この重粒子線治療の特長は、腫瘍への効果が非常に高く、正常組織の被曝量が小さい放射線治療法であることです。X線やガンマ線は体表面で最も線量が高くなり、深部に行くほど線量が小さくなります。これに反して、重粒子線や陽子線は、ブラッグピークを有しており、腫瘍部に線量を集中することができます。さらに、陽子線に比較して重粒子線は横方向への散乱が少ないという利点があり、X線や陽子線と比較しても生物効果が高く、放射線抵抗性の腫瘍にも効果があり、腫瘍の種類を選ばないという利点があります。
 (17ページ)X線や陽子線によるがんの治療は通常20から30回照射する必要がありますが、このような重粒子線の利点を活かすことで照射回数を減らすことが可能であることがわかってまいりました。例えば第1期の肺がんでは重粒子線を1回だけ照射することによって、外科手術と同等かそれ以上の成績を収めています。すなわち、入院する必要もなく、働きながらのがん治療が夢ではなくなりつつあります。
 (18ページ)我々は、「がん死ゼロ」健康長寿社会実現のための条件として6条件を考えています。1)原発腫瘍を制御する、2)転移腫瘍を制御する、3)免疫機能を温存する、4)免疫機能を活性化する、5)QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の維持、例えば働きながらのがん治療が可能、6)普遍性・経済性の6条件です。1から4はがん死ゼロの条件であり、5と6は健康長寿社会実現の条件です。
 (19ページ)重粒子線治療は、この6条件のうちの4条件を高いレベルで満足できると考えています。我々は重粒子線治療と、分子標的や標的アイソトープ療法、更に免疫制御療法を組み合わせることにより、「がん死ゼロ」は実現できると考えています。さらに、このような治療法というのは副作用が少なく、高いQOLの維持が可能であり、多くのがんの治療を行うことが可能です。
 (20ページ)このように、すばらしい重粒子線治療装置でありますが、現状では克服すべき問題があります。非常に装置が大きく、高価である点と、更に高性能化を図る必要性があります。QSTの統合効果を最大限利用して、小型化と高性能化を実現していきます。核融合の超伝導技術を取り入れて、シンクロトロンの直径を小さくするとともに、レーザーによるパーティクル加速を取り入れます。最近、我々のデータでも、陽子線であれば43MeVまでの加速ができていますし、鉄イオンも16MeVまで加速に成功しています。
 (22ページ)もし、全部レーザー加速に置き換えれば、これは極端に小さくなるわけですが、まず入射機をレーザー加速で置き換えるという試みであります。
 (23ページ)また、現在の重粒子線治療では、炭素イオンだけ使っていますが、炭素イオンだけでは腫瘍塊に満遍なく高い生物効果を発揮することができないため、これをマルチイオン化することにより克服します。すなわち、腫瘍の中心は例えば酸素イオン、その周辺は炭素イオンにし、更に腫瘍塊の周辺はヘリウムイオンを使用するといったものです。このようにマルチイオン化することによって、がんの種類を問わずがんを死滅できるようになるとともに、ほぼすべてのがんで1回照射による治療が実現すると考えています。
 (24ページ)これが実現しますと、働きながらの治療が可能となり、医療費も安くなるということで社会に普及させることが可能になり、健康長寿社会への貢献ができると考えています。(25ページ)このような発想で、去年12月、住友重機、東芝、日立製作所、三菱電機の4社とQSTで包括協定を締結し、量子メス開発プロジェクトを開始しました。
 (26ページ)もう一つ本日御紹介させていただくのが、基礎的な量子生命科学です。先ほどの瀬藤先生に関係することですが、生命科学というのは歴史を振り返りますと、新しい計測技術の発展と非常に関連しています。例えば16世紀に顕微鏡が発明されましたが、そのことによって何が起こったかというと、今までは個体レベルの生命科学だったのものが、細胞レベルへと移行したわけであります。その後、19世紀から20世紀にかけて技術が進み、例えばX線結晶解析や放射性同位体標識、あるいは電子顕微鏡などが実現しました。その結果、細胞レベルから分子、遺伝子レベルへと発展し、分子生物学は過去60 年ほどの間に非常に発展しました。
 そうしますと、量子科学技術を取り入れた計測技術を生命科学にもっと大々的に取り入れることによって、今まで見ることができなかった現象が分かってくる可能性が出てきました。更に分子レベルや遺伝子レベルの研究から量子レベルの研究へのパラダイムシフトがおこる可能性があります。そのことによって、生命の本質が明らかになるのではないかとも考えています。そこで、QSTという組織ができたわけでありますから、理工系と生物・医学系を融合しようという発想で、量子生命科学を推進しようということになりました。
 (27ページ)ジム・アル・カリーリ氏とジョンジョー・マクファーデン氏の共著である「量子力学で生命の謎を解く」には、量子生命科学でどのような問題を解くことができる可能性があるかということが記載されています。例えば鳥の磁気コンパスや臭覚の機序の解明が考えられます。あれほどの感度のよい臭覚というのは分子レベルでは多分説明付かないだろうと思います。量子レベルのメカニズムがあるのではないかとか、あるいは、酵素反応や光合成がなぜ効率よくいくのかとか、あるいは、遺伝情報がなぜ正確に伝わるのか、突然変異で生じるメカニズムは、あるいは、意識とはとか、あるいは、生命とは何か、こういう問題は分子生物学では永久に解けないだろうと思いますが、こういう問題を量子レベルで研究すると解けるかもしれないという期待があります。
 我々QSTは放射線生物学の研究に強みを有していますので、放射線によるDNA損傷やその修復機構などに焦点を当て、量子レベルでの研究をQSTとしてはやっていきたいと考えています。
 (28ページ)量子力学を樹立した貢献者の一人でありますシュレーディンガーが、『生命とは何か』という本を70年以上前の1944年に書いています。
 古典力学というのは結局のところ「無秩序から秩序へ」の世界であり、アウトプットは平均的な振る舞いを見ているだけであります。各分子というのはアットランダムに動いているわけで、平均的な振る舞いからのずれというのは、大きさに関係する粒子の個数の平方根に反比例するはずです。無秩序から秩序の原理が生命に当てはまると仮定したときに、遺伝の正確さを果たして古典力学で説明できるか。仮に遺伝子の大きさの一遍を300オングストロームと仮定すると、その中に入る原子の数は約100万個と推定されます。100万個の平方根は1,000なので、ノイズは0.1%になるわけです。ところが、実際のエラーというのは10億分の1以下なので、幾ら修復過程があるとしても、恐らく「無秩序から秩序へ」という古典力学では遺伝の正確さを説明できないだろうと。このような考えに基づき、シュレーディンガーは、遺伝子は量子力学に支配された「非周期的な結晶」であるということを予測したわけです。これはワトソン、クリックによるDNA二重らせん構造の発表の10年前にこのようなことを予言しているわけです。さらに、絶対温度、マイナス273度のような条件下でしか働かないような量子的な現象が37度という高温で働いていることが、それこそが生命の本体ではないかというようなことを書いているわけです。
 非常に忠実な遺伝の伝わり方が、時々突然変異が起こるわけです。化学変異物質や放射線を当てなくても、ある頻度で起こる突然変異は量子ジャンプで説明できるのではないかということも記述されています。
 (30ページ)我々は、昨年1年間いろいろ勉強会を開いてきました。そして、量子生命科学の未来ラボもQST内に作りました。(31ページ)本年4月12日には、全国から参加者を募り、初めての量子生命科学研究会を開催しました。(32ページ)さらに、有志の賛同を得て、量子生命科学研究会を設立することを決めました。現在は25人のメンバーしかいませんが、将来的には学会設立を目指しています。(33ページ)また、今年7月25日、26日には、外国から12名、国内から9名の研究者を招いて、第一回のQST国際シンポジウムを、「量子生命科学」をテーマとして開催いたしますので、もし御興味のある方は、参加していただければと思います。
 ということで、引き続きよろしくお願いします。どうもありがとうございました。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、御質問、御意見がありましたらお願いいたします。
 次世代の重粒子線装置という、そこのポイントはやはり小型化というところですか。
【平野委員】  小型化とマルチイオン化による高性能化です。
【雨宮主査】  マルチイオンですか。
【平野委員】  はい。小型化するためには、今言いましたように、各種の要素技術が要るわけです。例えばレーザー加速というのも、それ自身が研究者にとっては非常にトピックスです。このように出口を明確にした上で基礎的な研究を推進していきます。
 小型化というのは非常に重要な要素です。例えば健康長寿社会を作るためには装置が普及しないといけません。今の重粒子線装置は、放医研にあるオリジナルの装置では120×60mですし、第3世代と呼ばれている装置は60×40mです。これでは普及しようがありません。一部の人しか恩恵が受けられない。だから、小さくすることは非常に重要です。
 もう一つはさらなる高性能化です。炭素イオン、酸素イオンやヘリウムイオンなどをうまく組み合わせることによって、腫瘍塊を満遍なく照射可能になると考えています。
 その結果、様々ながんが1回照射で済むということになり、これは非常にすばらしいことだと思います。働きながら治療が可能となり、入院する必要もなくなります。恐らく医療費も抑制されると思います。
【雨宮主査】  マルチイオンというのは、今までは、例えばイオンを変えて、別々には照射できるけど、それを一遍にやろうという話ですか。
【平野委員】  そうです。ミクスチャーです。そのためには、レーザー加速というのは非常に適しています。レーザーを薄膜に照射することにより、いろいろなイオンが出てきますから、それをうまく制御すればいいわけです。
【雨宮主査】  分かりました。
 では、根本委員、お願いします。
【根本委員】  小型化をすることが非常に重要だということはよく分かるんですが、全てのがんを1発で殺すことができるとおっしゃっていたと思うんですが、スライド17ページのがん照射の画面を見ると、どこにがんがあり、どこに消えたのかが分からないです。新しい装置でがんへの効果があるということは、病気が治り、その生存率や転移率で見えてくるのは分かるのですが、もっと細かく、何が起こったのかが分からないといけないのではと思います。細胞レベル、分子レベルでどうなったのかをキャプチャーできるような計測技術はいかがでしょうか。
【平野委員】  それは既にCTやPET、あるいはMRIがありますから、それらで計測します。
【根本委員】  そうすると、このレベルよりもっと細かいレベルで計測するような技術はお考えではないということですか。
【平野委員】  はい。現状ではこれで十分、臨床レベルでは問題ないと思います。
【根本委員】  いや、臨床レベルではなくて、もっと解明という意味でお伺いしているのですけれども。
【平野委員】  解明というレベルがどういう意味で質問されたか、少し私も理解できないですが、例えばX線治療であるとか、陽子線による治療、あるいは、重粒子線による細胞レベルや遺伝子レベルの作用の仕方がどう異なるかというレベルの研究は行っています。
 例えば、重粒子線というのはDNAの二重鎖切断を起こしてしまいますので、回復不能な状態までになってしまいます。一方、X線や陽子線というのは、間接的にがんを破壊するので抵抗性のがんがあります。このようなレベルの研究は行っています。
【根本委員】  臨床レベルではそうだと思うのですけれども。
【雨宮主査】  上田委員、どうぞ。
【上田委員】  この量子科学生命研究会、量研機構が主催して、新しい研究分野を立ち上げると、大変エキサイティングな話だと思いますが、こういうとき通常は、例えばキーパーソンをピックアップして、そこに芽が出るまで集中投資するということが重要ではないかと思うのですが、何か施策があるのでしょうか。
【平野委員】  全国的なレベルは、先ほどのさきがけのようにこの分野への科学研究費の配分が重要だと思います。我々QSTの中でできることといえば、やはり人材も限られていますので、今できることは何かということを、理工系と、放射線生物学・医学の研究者の研究交流会を開催して、融合研究の可能性を検討しています。
 一つあえて言えば、ダイヤモンドNVセンタを使って、細胞内の磁場の変化であるとか温度変化というのを観察していこうと考えています。このように、個々のことはありますが、現時点で何かこれが特別秀でたというのはありません。
 我々だけでは力不足なので、量子生命科学研究会のような全国的な組織を、我々が一応主導して作って、全国的なコミュニティを作っていこうと考えています。このコミュニティの中から将来この分野をリードできるような優秀な研究者が出てくることを期待しています。
【上田委員】  非常に面白いと思うのですが、こういう新しい分野を立ち上げるためには、ビジョンを持ったリーダーを立てないと、本当の意味でのオリジナルな研究の芽にならないと思うのです。おっしゃるとおり、そういう方はほんの少数しかいないかもしれませんが、日本全国になると少数はいらっしゃると思います。先ほど大学とのクロスアポイントも含めた連携ということをおっしゃっていましたが、そういうことを利用して、まずは芽を出させるための施策が大切だと思います。一たび芽が出ると、その周りにワッと広がっていくので。
【平野委員】  全くおっしゃるとおりだと思います。そのための私たちの受皿としては、QST内に量子生命科学の未来ラボを作りました。これはバーチャルラボですが、QST内で閉じたものではなく、そこには様々な大学の研究者をクロスアポイントなり、あるいは、兼任で参加してもらうように働き掛けています。特に若手をエンカレッジしたいと考えています。
【上田委員】  そうですね。
【平野委員】  国際的なシンポジウムもあえて開催するのですが、これも開催することによって、この領域に一人でも多くの研究者が興味を示すきっかけになればと期待しています。
【上田委員】  先ほどのさきがけの新しいプログラム等も含めて、うまくコーディネートして、国全体としてこういう新しい分野を立ち上げるということがうまくできると、すばらしいのではないかと思います。
【平野委員】  ありがとうございます。
【雨宮主査】  どうぞ。
【瀬藤先生】  もう今の上田委員と平野委員の議論のおっしゃるとおりで、私も平野委員のところに馳せ参じてやっていくと、勝手に名乗り出ています。そういう人がぽつぽつ出てくると、協力してその分野を開拓していくということだと、おっしゃるとおりだと思いました。
【雨宮主査】  どうぞ。
【飯田委員】  DNAの二重らせんと遺伝の正確さに関する量子レベルでの研究の話題がありましたが、私自身は、DNAの二重鎖形成などの生化学反応の光誘導加速に関する研究をしておりますので興味を持ってお聞きしておりました。平野委員のお話の中で、紹介されていたシュレーディンガー先生の『生命とは何か』という本は私も授業で使わせていただいています。正に、遺伝情報がなぜ正確に伝わるのかという問題を量子力学的に解明していくというのは非常に基礎的にも重要だと思いますが、実際、QSTの中に、そういった研究をされている方はいらっしゃるのでしょうか。
【平野委員】  いや、そこまでまだ突っ込んでやっている人はいないです。もちろん、放射線生物学で、先ほど言った例えば重粒子線でDNA二重らせん切断がどのように起こるかとか、そういう分子生物学的なレベルから研究をしている人はいます。だから、こういう方に、特に若い人に興味を持ってもらって、理工系と生物系が一緒に共同研究ができる環境を整えたいと考えています。このような異分野融合というのはやはり難しいですね。英語と日本語でお互いが話しているような感じになり、お互いが理解できないということがあります。
 だから、私のような組織の運営をしている者からすると、このような異分野融合が進むような環境をトップダウン的に作るということです。その中で、芽生えるかどうかというのは、やはり研究者本人次第です。そのために、未来ラボを作ったり、あるいは研究会を立ち上げたり、国際シンポジウムを計画したりしています。このような機会を研究者がどのように感じて、それぞれの人がどのような問題解決をするかは本人の知的好奇心に任されているわけです。もちろん、臭覚とか、鳥のコンパスとか光合成とか、研究のターゲットは様々です。QST自身としてはまずはDNAがターゲットだろうと考えています。
【飯田委員】  物性物理の分野ではDNAの電子状態計算をされている方もいらっしゃるので、そういった人材を組織的に取り込んでいかれると良いかもしれませんね。
【雨宮主査】  では、大森委員。
【大森主査代理】  最近、生命における量子効果という話が再び脚光を浴びている背景に、量子の研究者が生命現象の量子効果に着目して、様々な研究をやり始めたということがあると思うのですが、本当に量子と生命の研究分野が融合するためには、例えば医学の研究者や、生命を昔からやってきた生命科学の研究者側からのアプローチも両方ないと、なかなか盛り上がっていかないと思うのですが、実際問題として、例えば瀬藤先生がおられるようなソサエティで、医学者の方でこういった量子効果が大事だと考えられている先生方というのは結構いらっしゃるものですか。
【瀬藤先生】  私が答えてよろしいですか。
【大森主査代理】  ええ。
【瀬藤先生】  私はそういう非常に変わった者で、岡崎統合バイオサイエンスセンターの永山研の准教授をしていましたので、医学部の助手をした後に物理系の准教授をしていました。そういうことにもともと興味があり、それをやってきたつもりですが、そういう分野やポジションがあるわけではないので、職としては全然違う職に、違わないですが、解剖学で計測という、NMRやCT等も使っているので全く関係ないわけではないですけど。
 そういう人は周りにもいます。だけど、そういう予算がないから、科研費もそれで取るわけではないし、そういう具体的なソサエティとしてはまだ全然なかったのですが、今回、平野委員が旗立ててくれたことによって、発掘される素地というのは実は結構あると思います。
【大森主査代理】  そうですか。
【瀬藤先生】  あと、今の時代は、再教育というか社会人教育というのがすごく重要な、特に医学部の場合も重要で、ダブルディグリーとまでは言いませんが、違う背景を持っている方が、工学部や薬学部にいた人が医学部に入り直すとか、医学部を出た後に私のようにまた別のことを勉強するという方が、人生は長いので、社会人になってからもう一回また勉強するという時代で、可能性はあるのではないかなと思っています。
 具体的に、こういうので自分も出したいが、みたいな形で連絡してくる医学部の人は結構おります。
【大森主査代理】  それは医学者の方でおられるのですね。
【瀬藤先生】  はい、そうです。
【大森主査代理】  ありがとうございました。
【平野委員】  医学部の人は結構好奇心が強いので、新しい計測技術ができると、それを使おうと思うわけです。それが量子力学に基づいていようが何であれ、新しい計測技術があれば、それを使ってみようと思うわけです。その結果、分かったことが、別に量子力学に基づいていない現象であったとしても、それは今まで観察したことがなかったことが観察されるので、何らかの進歩や発見があるはずです。そのうちに、量子力学の考え方が生命科学に深く入り込む可能性があると思います。
【大森主査代理】  私が聞きたかったのは、計測という面ではなくて、最後に言われた、生命における量子効果そのものに興味を持たれている医学者の方が今どれぐらいおられるか、ということが気になったのですが。
【瀬藤先生】  平野委員がおっしゃったような方だと、たくさんいると思います。
【大森主査代理】  それはそうだと思います。それは分かりやすいのですが、そこではなくて。
【瀬藤先生】  量子論そのものを勉強していて、これは本当にあるのかなというように思い興味を持っている人というのは、実は循環器内科をやっているけどそういうのに興味があるとか、神経内科をやっているけど興味がある、という方はそれなりにおります。
【大森主査代理】  そうですか。ありがとうございます。
【雨宮主査】  まだあるかと思いますが、少し時間が押してきたので、次の議題に入りたいと思います。議題(4)「フォトニック結晶について」です。
 事務局より、趣旨説明をお願いいたします。
【上田室長】  フォトニック結晶につきましては、第7回の本委員会で御発表がありました。本件につきましては、光格子時計のように、トピックス的に取りまとめることも考えられると思われますが、今回はユーザー側、産業界側からの御意見や期待を本委員会でお聞きするのがいいのではと思われましたので、八木PMにお越しいただき、ユーザー側の声も感じていらっしゃるとお聞きしていますので、お話を御提供いただければと思います。
 以上です。
【雨宮主査】  それでは、八木PMから、15分程度で御説明いただいて、質疑の時間を10分取りたいと思います。それでは、よろしくお願いします。
【八木先生】  企業でレーザー加工機やレーザー発振器の開発をスタートのときからやらせていただいておりまして、以来30年以上、このレーザー加工機、今は光製造といいますが、その分野で前半は直接的、後半は間接的に支えてきたという経験を踏まえまして、野田先生が進めておられるフォトニック結晶への産業界の期待ということをお話しさせていただきたいと思います。
 お話ししたい内容は(資料4、2ページ)、初めにフォトニック結晶とその開発の歴史、これは野田先生が以前にお話しされたものをピックアップしてお話しさせていただきます。
 今一番実用に近いところに来ているのが「フォトニック結晶レーザー」というもので、それについてお話しして、光製造への応用で社会実装への展望はどうかをお話しします。それから、このフォトニック結晶レーザーの関係で、今まさにやっている他の研究の発展がどうかということで、加工以外への応用についての展望もお話しします。それから、新たな熱に対する制御、新しい科学による光メモリ、転送への展開ということをお話しさせていただき、最後に産業からの期待を申し上げます。
 (3ページ)深い理解はしていないのですが、フォトニック結晶というのは光の波長程度の周期的な屈折率分布を持つ人工的な構造です。そこに、光が入ることもできない、入ってしまったら出ることもできないというバンドギャップという構造を作ります。そこで様々なことができるということで、人為的な欠陥を入れることによって、発光制御ができるとか、完全3次元フォトニック結晶の提案と実現を1990年代初頭からされております。
 それから、いろいろと大きな進展があり、2次元のフォトニック結晶によるフォトニック結晶レーザーで実際に光を出したというのが『Applied Physics Letters(APL)』に1999年、それから実に様々な進展があり、最近では熱輻射として黒体輻射自体も制御できるということを見つけておられると。この結晶の分野の進展は、ほとんど野田先生の進められたところで、応用物理学会でその分野が一つの大きな固まりになっているという状況を目の当たりにしております。
 フォトニック結晶レーザーというのは、面発光の半導体でございまして、4ページ目の図のここが電極、活性層がここにあり、ここに電流を注入して、そこに光がとじ込められるわけですが、このとじ込められた光がエバネセント波といって、電界がしみ出す数十ナノの領域がありますが、そこにこの周期的な、この場合は正方格子で、屈折率分布を持たせます。具体的には真空層を作って、媒質との間に屈折率の差を持たせる。そうすると、ここの結晶による回折を感じて、この中に光があるという状態になることを利用するものです。
 (5ページ)それが波長程度の格子を並べると、全面が一つのモードで共振する状態を作る設計ができ、面積を広げても、完全な単一モードになるということが考えられたわけです。そうすると、それぞれのところは皆同じ位相ですので同じ位相の光が出る、ということがホイヘンスの原理で、結果的に一つの完全な波になります。これにより、面の垂直方向に高収束性の光を放射するというレーザーの原理としては実に独創的な発想のものでございます。
 (6ページ)半導体レーザーは、御存じのように、普通のものはFabry-Perot Laser Diodeといいまして、活性層が導波面になっていて、上下方向にはいいモードになるのですが、水平方向にはものすごく多モード化してしまうということで、出力を上げようとしても、どうしても異方性もあるし、収束性もないビームになってしまいます。
 ところが、やはり面発光にすると非常にいいということがあり、東工大の伊賀先生が独創的に進められて、一部プリンターの光源等にも使われているVCSEL(Virtual Cavity Surface Emitting Laser)は結構進んでおり、産業で使われているのですが、収束性は理想としつつ実現できていないという状況です。
 それに対して、このフォトニック結晶レーザーは、同じような面発光レーザーでありながら、シングルモードで広がらないため、半導体レーザーの分野で革命を起こすというようなもので、それを大出力の方向までやろうというのが、今力を入れているところでございます。
 7ページ目ですが、これがNHKで報道されたもので、レーザーはここ(右下)に置いて、紙を持ってくる。これだけでも小出力のバイオとか医療用、センシングへの応用が期待されるものですが、高出力化すれば本格的な加工に使えるのではないかという、非常に大きな期待があります。
 8ページ目ですが、大面積コヒーレントのフォトニック結晶レーザーを実現すると、ワンチップで究極的には100Wぐらいまでのレーザーができるだろうという、ある前提における計算が既にありまして、それを合わせて1kW超級の出力も可能になるだろうという見通しがあります。
 今、JSTで実施しているACCELプログラムは、実際に加工に使えるようなレーザーとして、イノベーションを起こす手前のところまでやろうとしております。最近は本当にそれができるのか、それはどこまでいけばそう見えるのかという意味では、POC(Proof of Concept)という言い方をしておりまして、数値は公開していないのですが、単素子では10W、合波で100Wのモジュールをデモンストレーションして、そこから本格的なイノベーションにつなげていこうということで実施しております。今、その最終段階に入っているところです。
 (9ページ)少し横道になりますが、私は高出力レーザーをやっていて、産業用に使おうと思うと、とにかく大出力化が絶対必要ですが、高出力化は常に収束性の劣化との戦いです。ガスレーザーの場合は、古典的な構成で、ミラーを置いて、そこにモードを立てるわけですが、光軸から離れると、モードが乱れますので、少しもったいないですが、光軸から離れたところはアパーチャで遮って、いいところだけ切り出すという使い方をします。
 最近増えているのは、ファイバーレーザーでありまして、ファイバーのコアとその周辺に屈折率差がありますから、それ自体が全周導波路になり、光軸に対する近軸とじ込めをするというものです。ファイバーレーザーは、このように収束性も余りよくなく、異方性であるややこしい半導体レーザーを、とにかく集めてコンバイナーという、これが非常に秀逸なアイデアなのですが、それによりファイバーに入れて、励起してやろうということで、とにかくガーッと集めて入れ込めば、何とか作ることができるし、しかも、ユーザーから見ると、一般にレーザーのミラーはアライメントというか光軸合わせが物すごく難しいんですが、アライメントの呪縛からユーザーを開放するという非常に原理的なよさが好感されて、今伸びているものです。
 それで、フォトニック結晶レーザーというのは、それを一発でやろうというものでございます。できたときのイメージは、単体は冷却手段を持たせたものになりますが、合波で光を束ねるという意味合いは、イメージの一つとしては、フォトニック結晶を2次元アレイ上に並べて、コリメートして集光して、一発で集光点まで持っていこうということです。
 ですから、従来これに近いところでは、レーザーダイオードを合波集積するDDL(Direct Diode Laser)があったのですが、これはファイバーレーザーのもう一つの競合技術として、いろいろと各社、世界中で開発しているのですが、なかなか難しく、やはり光学部分が非常に大きくなるということであります。
 しかし、DDLにより相当程度市場開拓はしておりますので、それをまず完全に置き換えることができるだろうと。更に高出力化すると、まず、CO2レーザーはコンパクト性と効率性により置き換えられ、更にファイバーレーザーも置き換えることができるだろうと思われます。
 もう一つ中間的なものとしては、ファイバーレーザーの励起に、先ほど説明した従来のややこしいレーザーダイオードをたくさん入れ込む部分を置き換えられ、ものすごく簡単になり、ファイバーレーザー自体も追い掛けるのではなくて、追い越すような革新ができるだろうと、そのような期待があります。
 それで(10ページ)、レーザーのベンチマークをしてみますと、従来、製造に一番強く影響を与えるのは、とにかく数が多い金属加工のところなのです。金属加工のところは、横軸がレーザーの出力で、100Wぐらいから10kWぐらいの辺りです。そして、レーザーの収束性が縦軸に書いてあり、収束性が一番いいところから下に悪くなるんですが、斜めの傾き1の線は両方対数ですのでちょうど輝度が一定という、加工の現象としては類似のところです。出力が大きくなれば加工規模が大きくなるというところです。
 これまでCO2レーザーが金属加工の代表選手でしたが、CO2レーザーが図の赤い菱形です。ファイバーレーザーができて、図の青い菱形がファイバーレーザーです。単体でものすごく収束性がいいのですが、金属加工をやる場合には、このぐらいの収束性にします。収束性が落ちますと、まだいろいろあるということですが、最終的にそこに躍り込むようなものを作ろうということです。
 レーザーダイオードを見ますと、図の黄色の丸、四角、菱形が世の中のレーザーダイオードなのです。ものすごく収束性のいいレベルに行っておりますが、これが10Wになりますと、まさに世界最高輝度のレーザーという話になります。ですから、可能性として100Wまでいけるということは少し恐るべき話でして、波及効果が非常に多いからとにかくやってみようと、そういう話でございます。
 11ページの図で光製造の世界市場の状況を見ますと、金属切断、半導体の露光、また、スマホ等ができているのは、多層プリント基板の穴あけによるところですが、このようなところが基盤的成長分野で、実は日本勢が強いです。CO2レーザーについて、世界の3分の1以上が日本のメーカーです。また、半導体露光のレーザーたるや、半分以上が日本のメーカーで、この多層基板の穴あけでは8割以上が日本のメーカーとなっています。ですから、今のスマホ時代は、このようなものがなければ実現しなかった、あるいは普及がもっと遅れただろうと言われております。
 一方で、普通の半導体レーザーをベースとしたファイバーレーザーが、もう少し小出力のところや、従来余り行っていなかったところにどんどん入っていき、欧米のレーザーが頑張っており、欧米が優勢で日本の各社は残念ながら少し遅れているという状況であります。
 12ページですが、フォトニック結晶レーザーができて、それを合波すると、この侵食されつつあるところを救済するというのと、既に普通のファイバーレーザー、若しくは、ディスクレーザーという普通のレーザーダイオードで励起されて相当進んだところをそっくり入っていけるだろうということで、レーザーは基本分野ですから、基本的なところがあると、波及効果は相当多いだろうということです。様々な統計データを見ると、予想されており、切断用途において、2015年がこうだから2025年はこうなるだろうというところで、この中はどのくらいを取れるのだろうか、ということを対応できる加工機で見ますと、大体50%はいきそうだという予想です。溶接、マーキング、各種応用等の分野にも、2025年にこれぐらいになるだろうということですが、50%ぐらい入るだろうと。特にDDLでやっているところは、出始めたらすぐ置き換えられるのではないかという気がして頑張っております。
 (13ページ)先ほどの説明がフォトニック結晶レーザーのハイパワー、高輝度化についてでしたが、実は、今もon goingのところが実にすばらしいことがたくさん展開しておりまして、実証もしつつあるということで、まず、普通のレーザーへの応用で波長変換や励起ができます。
 それから、これがすごく面白いんですが、変調フォトニック結晶レーザーと称しておられますが、格子構造にある変調を掛けると、ビームの形状を変えたり、ビームのポインティングを変えたりでき、スキャンもできるというものです。
 波長領域も、今はとにかく高出力、高輝度化の基礎を作るということで、一番手慣れている920nm、近赤外のところでやっておりますが、ガリウムナイトライドでフォトニック結晶を光らせたという実績がありますから、それからものすごくパワーを上げたものをやろうということで、これはNEDOのプログラム、高輝度・高効率次世代レーザー技術開発に採択されて、既に始まっております。
 それから、レーザーを使うものとして、パルスにより時間制御を行い、光エネルギーを使えるということがあります。それでも、生半可なパルスではなく、sub ns(サブナノセック)のパルスでやりますと、今、NEDOのプログラムでやろうとしている、IoTのベースに様々な微細加工をして、全てのものにインターネットの情報が入る、そういう状況の基本ツールとしてやれるのだろうということで、これは本プログラムのサイドで可能性を検証するという先導研究の中に入れていただいて、既に実施しております。
 このon goingも含めて、フォトニック結晶レーザーの今後の進展で、産業界としてどのように期待できるのか、ということを調べておく必要があるだろうということで考えてみました。
 (14ページ)まず、先ほどの幾つかを申し上げますと、波長変換についてですが、この図は波長変換結晶の中にレーザーを入れて出しているところですが、スペクトルが狭いということ、結晶内で偏光が維持されるということと、結晶内でずっと最小径に近いビームが維持されるということでないと、波長変換効率は上がりません。
 一般のレーザーダイオードでやろうとしますと、収束性が悪いし異方性があるから、ものすごく複雑な光学系で、なおかつ、余り効率は上がりません。それに対して、一発でくっつけるだけで出る。これも論文にしているから、既に実施した実績のことであります。
 (15ページ)同じようなところで、固体レーザー媒質に入れて共振器で出すということでも、極限まで光学系が単純化されるという効果があります。
 (16ページ)格子を変調することで、実は様々なものができるというのが既に実証されておりまして、ドーナツ状のビーム、それから、そのドーナツ状が複数あるような、これは焦点に、光にこういうドーナツ状の分布がありますと、光のグラディエントのところで、誘電体が補捉されるという性格、これは光ピンセットといいますが、これが環状になっていると、中側に金属もトラップでき、バイオ応用などにも相当使えるということで、興味を持たれております。
 それから、この(下図)ように縦長のビームにもでき、光学手段なしでできますので、これを更にやりますと、線状スキャンの光源になるとか、新しい応用が広がるだろうという期待があります。
 (17ページ)ビームスキャンですが、これは出射方向を変えた電極にくっつけたフォトニック結晶をずらずらと並べてやるということで、機械手段なしに電気的にできますので、ものすごく産業界から注目されております。右図は『nature photonics』誌の表紙を飾ったもので、実は変調された格子構造なのです。
 (18ページ)2次元にもできるということが既に発表されておりますので、結局、XY方向にできるということで、ライダーやセンシングへ使えるだろうと。(19ページ)車の周辺に配置しておきますと、セキュリティセンサーになります。少し前方に配置してライダーとして使いますと。これは交通、人の認知ができますし、もっとビャッとするとレーザーヘッドライトも可能になります。このセンシングは、特にスペクトルがものすごく狭いので、検出のSNがものすごく上がります。なおかつ、光学系がほとんどなく直進できるので、センシングにはものすごく可能性が高いということです。
 on goingの開発内容と、力を入れて進展しているハイパワー化も含めた将来について、シンクタンクの協力を得て委託研究として実施し、その判断資料は我々が作り、いろいろと聞いてきました。それぞれの情報・エレクトロニクス、ライフサイエンスから、これは計測まで、企業は10社、研究機関は2機関ということで、12か所にいろいろとお聞きしてまとめました。
 (20ページ)加工以外への応用ということですと、評価が二重丸のものはそのままほとんど適用可能になります。脱毛治療、これはコスメです。波長を少しチューニングする必要が出てくるかもしれないが半分ぐらいは取れるだろうと、この判断はシンクタンクが第三者として実施したものです。
 レーザーセキュリティセンター、車載ライダー、これについてはほとんどいけるのではないかという話でした。評価の丸は条件付で適用可能になりますということで、出力がもっと上がればとか、一番大きいのはコストだという話です。それから、短パルス機能でどういうことが要りますかと。これはもう実施しておりますし、波長域も拡大して、450nmができれば、あと3原色に展開するということは蛍光も使えばできる話です。
 (21ページ)2次元フォトニック結晶の中の熱輻射の話です。熱というのは、このように広い黒体輻射でスペクトルを持っており、反応も遅いし、なかなか難しいものですが、これを面内で共振状態を作るようにしますと、見事に入れた熱に対して非常に狭いスペクトルになり、これを太陽電池の発電に一番効率のいいところにチューニングすると、太陽電池発電自体がものすごく高効率になるだろうという見込みです。
 それから、これがまた恐るべき話ですが、超小型のフォトニック結晶により、熱領域の共振状態を作り、バイアスをゴンと下げると、一遍に止まったり出たりします。普通の熱的なセンサはどうしても100Hzぐらいが限度ですが100Hzから、何と1M(メガ)ですね。1万倍程度の高速化ができることが実証されています。
 (22ページ)あとは、フォトニック結晶の格子構造に一部欠陥、ライン欠陥を作れば、光が通るようになりますし、欠陥部分を領域にしますと、そこで光がとどまります。光として、電磁波としての誘導環境をうまくやりますと、こっちから入れた光がポンと入る、逆もしかりということで、入った光と出た光が同じだということ、それを積極的に使い、ナノ共振を作った状況で反射鏡をやりますと、出てくる波が、屈折率を変えてやりますと、光路長を変えられるので、ある光路長になったときに、ポンと出ていくということで、光メモリーと光による転送ができ、新しい光チップになるだろうという期待であります。
 これ(23ページ)もまた『nature』系の、『nature photonics』誌の表紙を飾ったものの元ですが、立体構造の中に線欠陥を作って、段階的に立体的に欠陥部分をつないでいきますと、ここから入れてここから出るという、立体の光導波路ということで、新しい3次元光チップができるのではないだろうかという期待があります。
 そろそろまとめに入ります。レーザーに関わる産業界にいた経験と、特に応用市場の調査で、各分野の産業界の人と会話をして、この(24ページ)ようにまとめました。
 産業界からの期待としては、フォトニック結晶の研究は今まさに世の中に活用される時代になりつつあります。ワンチップで高ビーム品質、高出力レーザーを実現しますと、半導体レーザーとしては革命になりますが、光製造の革新、モノづくりニッポンの旗艦技術に成長するのではないかと思います。それから、ビーム走査やセンサー機能などの新しい機能を備えた半導体での応用が出てくると思います。
 それから、熱への制御というのは非常に関心が高いので、これから応用に向けて頑張っていただけると思います。
 サイエンスとしては、先ほどの光の捕捉等により、光量子情報処理のためのプラットフォームを形成する一つの技術になるだろうと。
 様々な興味深い展開が更に期待されて、深みと広がりをもってますます進展するというように思います。
 最後になりますが(25ページ)、今、JST-ACCELプログラムマネージャーであることに加えて、かつて産業加工用のレーザー事業で指揮をとっていた企業人として、是非、単体デバイスで100Wまで、合波によって1kWまで研究は続けてもらいたい。さらには、このレーザーが持つ多彩な機能をますます高めていただきたいと思います。
 この技術は、我が国が誇る独創技術として、今も質的な進歩をしながら、科学のフロンティアを開拓しておられます。ですから産官学として、官と産が支える価値は大きいと思います。
 御清聴、ありがとうございました。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、今、八木PMのお話に対しての御質問、御意見がありましたら。あと本日、野田先生にも御参加いただいておりますので、あわせて、野田先生への御質問でも結構ですので何かありましたら、よろしくお願いします。どうぞ。
【湯本委員】  非常に楽しみでこれからも期待しているのですが、例えば波長域、450nmというお話がありましたが、ガリウムナイトライドもやられているわけで、300nm近くまでいくというのはどうなのでしょうか。
【野田先生】  ダイレクトにその300nmへ出そうと思うと、窒化ガリウムの紫外化が必要になってくるので、その辺りはまだ材料開発が必要だと思います。なので、恐らく600nmか、あるいは、その倍を出して、2倍、4倍の高長波でいく方がいいかなという、現時点ではですね。最終的には、今、窒化ガリウムの世界も紫外へ向けてどんどん進んでいますので、それが可能になると、あとは、この基本構造をそこに組み込めば、基本的には同じことが起こるのではないかなという気はします。
【湯本委員】  そうですね。材料次第ということになるのですね。
【野田先生】  そういうことです。まずは、600nmぐらいで作るのは一つの方法かなという気はします。2倍なら、かなり効率が上がりますので。
【湯本委員】  分かりました。例えば逆に、630nmのところを直接というのはどうですか。
【野田先生】  それは可能だと思います。
【湯本委員】  それは問題ないですね。
【野田先生】  ええ。それは赤色のインジウムガリウムリン系を使うと、可能だと思います。
【湯本委員】  それと少し気になっているのは、日本は、こういうシリコンもそうですが、世界のトップを走ってきたが、いつの間にか気が付いたら、アジア勢がどんどん伸びてきていると。そういう技術的な、他との差を保ったまま進めていくような、そういう技術的な特徴、あるいは、方策というのはあるのですか。
【野田先生】  実際これ、本日は八木PMにうまく済んだ点をお話しいただいたのですが、その裏では、結構いろいろと試行錯誤しています。例えばそのパワーを出そうと思うと、素直に一つの格子点に1つの孔だけでは動かないです。そこにもう一個孔を足すとか、しかも、その孔の形状を非常に緻密に設計しないといけないです。
 この辺りの計算と、それから、実際それを加工して作製しなければならない。ここまでを全てできる機関というのは、恐らく今、世界には、これは少し大変手前みそで申し訳ないんですが、我々のところしかないのではないかと思います。これをすぐ追い付こうと思うと、今から始めて最低でも5年はかかると思います。なので、常に5年先を行けるので、大丈夫だと。
 ただ、1点だけ心配なのは、研究室に海外の様々な方々が来られますので、その方たちが卒業していったときに、これはよしと考えるべきだろうと思うのですが、そこからの技術は流れていくことはあるかもしれません。
【湯本委員】  そうですね。そこは、逆にアメリカは、アジアの留学生を多く採るのです。そこから中国なりが盛り上がったというのはありますから、そこはもう痛しかゆしのところがあって、教育と産業というのはある意味で裏腹のところがどうしても出てきてしまうというのは分かります。
【野田先生】  そうですね。
【雨宮主査】  ほかにいかがでしょうか。では、岩本委員。
【岩本委員】  合波という技術がやはりこれから重要になってくると思うのですが、フォトニック結晶レーザーを使うことによって、ほかのレーザーも合波をいろいろとやられていると思うのですが、いいことというのは何かあるのでしょうか。期待できる効果というか。より簡単になるとか、何かそういうのがあるといいなと思いますね。
【八木先生】  まず、異方性がないというのがものすごく大きいです。今、ダイレクトレーザーということでやっているのも、とにかく異方性との戦いで、見掛けで異方性がないようにするために、ものすごくややこしくやっているが、それがまずなくなるというのと。もう一つは、究極は、チップ状に全部付けちゃうと、究極的にはそうなり得るのではないかと思います。
【岩本委員】  一つのチップに幾つかの結晶レーザーがあってという意味でしょうか。
【八木先生】  合波するべきものを全部一つのマスクの上にという意味です。
【岩本委員】  なるほど。より小型化が期待できると。ありがとうございました。
【雨宮主査】  ほかにいかがでしょうか。どうぞ。
【根本委員】  最後(24ページ)に、産業界からの期待をまとめていただいたのですが、3つのうち、最初の2点と最後の1点で大分開きがある気がするのですが、なかなか新しい部分というのは産業界の期待というのを出しにくいとか、そういう御事情があるのでしょうか。
 まとめを見ていただくと、最初二つ出していただいて、その説明は非常に多く、非常に分かりやすい説明を頂いたと思うのですが、最後のところに「光量子情報処理のためのプラットフォームの実現」となっていて、そこだけ話が切れているといいますか。
【八木先生】  これは野田先生が書いておられたのを実は写しただけです。申し訳ないです。情報のところで光コンピュータとかのイメージでどうこうというのは、私にはちょっとわからないです。
【根本委員】  非常に大切なところだと思うのですが、もしそれを入れるのだったら、それ以外にも周辺の産業界の期待があるのかなという気がしたので、少し伺ったのですが。
【八木先生】  なるほど。産業界でいろいろと聞いたのは、先ほどの高出力化とon goingでやっているものでこういうようなことができそうだから、どのような市場感を持っておられますかというヒアリングをしたので。その最後の光情報に関わるところはヒアリングの対象にしておりませんでした。
【野田先生】  一つだけ少し。22ページの左側の図は、最近いろいろと産業界の方とも話しますと、非常にコンパクトに波長情報を空間情報に変えられるので、使いやすい小型の分光器として考えているという話があります。
 ただいま御質問があった量子情報までいくと、これはやはり少し産業界で直接、量子情報に取り組んでいる会社が少ないですので、もちろん、全くないというわけではないですが、こういう光を使ったものが少ないところもあって、やはり時間を掛けて、この量子委員会もありますし、その次の次へと持っていくべき大事に育てていくものかなというふうに思っております。
【雨宮主査】  では、簡単に。
【飯田委員】  それでは手短に。パルス化のところに非常に興味がありまして、現状フォトニック結晶レーザーでどこまで時間的に短くできるのかを御教示いただければと思います。将来的には例えばフェムト秒オーダーまで肉薄できるのかを少しお伺いできれば幸いです。
【野田先生】  これはよくやる手ですが、フォトニック結晶の中に可飽和吸収領域を設けて、自ら可飽和、その吸収体を飽和させて、パンッと発振させると。今、この計算を進めていまして、現時点で数十ピコ秒は出てくるだろうと。その繰り返しを取っていけば、平均パワーも結構上げられるだろうということが分かっています。
 フェムト秒まで持っていこうと思うと、もう一工夫が必要ではないかなと思います。まだそこまでの検討は行っておりません。
【飯田委員】  もし、フェムト秒でハンディな光源ができるときっと革命が起こりますね。
【野田先生】  そうですね。そこは是非また将来見ていきたいと。
【飯田委員】  ありがとうございます。
【雨宮主査】  まだあるかと思いますが、少し時間も押していますので、次の議題に移りたいと思います。5番目の「トポロジカル量子戦略について」、事務局より、趣旨説明をお願いいたします。
【上田室長】  前回の委員会で、岩本委員からもキーワードの一つとしてトポロジカルというのがありましたが、ちょうどJST CRDSで、この春に戦略プロポーザルをまとめられています。この委員会の調査検討とも大いに関係するものですので、御紹介いただきたいと思っております。
【雨宮主査】  それでは、宮下フェローと塚﨑特任フェローから、併せて15分ほど御説明いただいて、10分間質疑ということで、よろしくお願いいたします。
【宮下フェロー】  JST CRDSの宮下です。よろしくお願いします。皆様のお手元に、3月末に発行しました戦略プロポーザルを配付させていただいていますが、本日はこちらの内容について紹介させていただきます。私の後に、CRDSの特任フェローをしていただいている塚﨑特任フェローから補足の説明をしていただきます。
 タイトルは、「トポロジカル量子戦略」という名前を付けていますが、提言のポイントとしましては(資料5-1、1ページ)、背景として、超スマート社会実現に向けてコンピュータの能力増大が必須の状況になっているかと思います。その中、既存デバイス・技術では限界が見え始めているところだと思いますので、新しいパラダイムシフトが必要ではないかと感じております。
 一方、アカデミアの世界では、トポロジーの概念を用いた新しい量子力学が生まれつつありまして、今、物性物理学を中心に世界で研究が活発化しているところです。
 物質が持つトポロジカルな性質を利用することで、従来のエレクトロニクスの技術的枠組みを超える新規な概念を導入することができるのではないか、例えば超低消費電力デバイスや量子コンピューティングデバイス、又は光デバイスなどのデバイスに革新が起こせるのではないかということを提案しています。
 そのためには、工学応用技術開発と、それを支える学術基盤の一層の強化が必要だということと、今は基礎研究フェーズだと思いますが、それを一段上げて、ギアチェンジをして新しい研究ステージに上げるべきだろうということを考えています。
 当然、イノベーションにつなげるためには、産業界を巻き込む仕組みも必要ということを考えています。
 2ページ目は、今回の提案を1枚でまとめた図ですが、今は一番下にある物性物理が中心ですが、当然、トポロジーは数学の概念ですので数学、また、素粒子の概念も入ってきますので素粒子物理学との協働が必要になってきます。加えて、やはり重要なことは工学を巻き込むこと、これら4者の連携を密にすることによって、基礎研究フェーズから応用開発フェーズに進むのではないかということを考えています。応用の出口としましては、今のところは、スピントロニクスや量子計算、フォトニクスといったところが考えられているところですが、ほかにもいろいろ展開するのではないかということを考えています。
 3ページにある目次のとおり、説明を進めていきます。
 まず(4ページ)、学術的背景について簡単に説明しますが、量子力学が1900年初頭に誕生して以降、物性物理、素粒子物理という形で進んでいますが、物性物理の中では、特に1980年の量子ホール効果をきっかけとしてトポロジーという概念が脚光を浴びたのではないかと考えています。2005年に理論提唱された量子スピンホール効果においては、スピン軌道相互作用という相対論的効果が重要になっていまして、このことがトリガーになって、今のトポロジカル絶縁体を中心とするトポロジカル物質・物性というものが発展したという理解をしています。
 トポロジカル物質には、先ほど言いましたように、数学の概念が入っていますし、素粒子物理が得意とする相対論的効果が重要になっている、物性物理の中でも、超伝導や強相関効果といった現象も全て絡んでくるということで、既存の枠を超えた新しい量子力学の展開があるのではないかということで、今回は主に三つの応用に関して、どういう展開がありそうかということを説明したいと思います。
 トポロジーというものは、そもそも数学における位相幾何学という分野です。これは何らかの形を連続変形したときに、保たれる性質に焦点を当てたものですが、5ページの右にありますように、例えばコーヒーカップとドーナツというのは、穴が一つありますので、実はこれ、連続的につながると。ただ、更に右にあるあんぱんは穴がありませんので、これはトポロジー的には異なるということになります。
 このように、ある特徴量、今は穴の数がそれに相当しますが、これをトポロジカル数と呼びます。こういった概念を物質系に展開したものがトポロジカル物質ですが、その代表例であるトポロジカル絶縁体におきましては、物質のバルクは絶縁体ですが、表面は金属という特殊な状況になっています。
 このとき、こういう絶縁体内部におきましては、電子の波動関数の位相にねじれが1回生じているということで、先ほどのドーナツとあんぱんでいうと、穴が1個ある状態に相当します。なので、バルクではトポロジカル数が1であると。一方、物質外部の真空や通常の物質には位相のねじれがありませんので、これはトポロジカル数が0という状態です。トポロジカル絶縁体においては、トポロジカル数が異なる境界である表面で面白いことが起こるということです。
 その特徴の一つとしましては、この表面状態では、外界からの擾乱、例えば不純物等からの散乱を受けにくいロバストな電子状態が実現していると言われています。
 それについて少し説明しますが、このトポロジカル絶縁体の表面におきましては、例えばアップスピン電子は右にしか進めず、ダウンスピン電子は左にしか進めないという状況が実現しています。通常の物質におきましては、例えばアップスピンが右向きに進んでいる場合に、不純物があると、後方散乱を受ける可能性がありますが、トポロジカル絶縁体におきましては、アップスピンはそもそも右向きにしか進むことができませんので、不純物があっても左向きに散乱されにくくなり、あたかも不純物をよけて進むようになるということで、結果として散乱を受けにくいということになります。
 もう一つのトポロジカル物質の特徴としては、仮想磁場というものです。皆様御存じのように、電子の波動関数は一般的には平面波の形で書かれるわけですが、例えば外部磁場があると、位相部分に変調を受けるということがよく知られています。トポロジカル物質におきましては、既に位相にねじれ、すなわち変調が生じているため、外部磁場がなくても、実は例えばこのスキルミオンでいいますと、外部磁場を掛けなくても、既にこの中には数百テスラ級の磁場があることと同じ状況になっているといわれています。
 このような新しい性質が、トポロジカル物質にはあるというように言われています。これらの性質を用いることで、新しい応用展開があるという話を後半でします。
 (6ページ)トポロジカル物質は、仮想的なものではなくて、実際に様々な物質が見つかっています。トポロジカル絶縁体や、先ほど言いましたスキルミオンのほか、トポロジカル超伝導やワイル半金属、トポロジカル強相関物質、量子スピン液体と、このような様々な物質系に全てトポロジーが絡んでくるということで、今、研究が盛んに進められているところです。
 では(7ページ)、このトポロジーという概念が、物理学にどういう影響を及ぼしたのかということですが、皆様御存じのとおり、19世紀から20世紀にかけて量子力学が新しく生まれたことで、現代の半導体エレクトロニクスが発展したということがありますが、従来の量子力学ではなかなかこれは理解しにくかった現象、例えばKosterlitz-Thouless転移状態や量子ホール効果というのが、このトポロジーという概念で説明できると。実はこれら個々の現象の説明だけではなくて、トポロジーというものがかなり広い範囲でいろんなことが統一的に説明できるのではないかということがここ10年ぐらいですごく分かってきていまして、新しい物理学への扉を開いたのではないかというように思っています。したがって、このような新しい概念が生まれると、もしかすると、今後、想定外の新しい応用領域に発展するのではないかということを期待しています。
 続いて、社会的な背景ですが(8ページ)、冒頭に少し申し上げましたように、今、もうムーアの法則の限界が近づいていたり、CMOS発熱問題や情報爆発といった問題があるかと思いますので、何かしら新しいパラダイムシフトが必要になっているのではないかということが言われています。
 9ページの図は、我々CRDSがよく使っている図ですが、将来のデバイス・コンピューティング技術に向けた技術潮流としては恐らく三つあるのではないかというように我々は考えています。一つ目は、3次元集積化といったような新規実装技術の流れ、二つ目は、そもそもデバイスや材料を新しいものに置き換えてしまいましょうという新規デバイス・新材料の流れ、三つ目は、ニューロコンピューティングや量子コンピューティングなど新規アーキテクチャの流れです。今回の提案においては特に上の二つに注目して、新しいデバイス革新が起こせるのではないかということを考えています。
 では(10ページ)、応用領域で今どのような問題点があるかということですが、例えば超低消費電力デバイスにおきましては、不揮発性の磁気デバイスが期待されていますが、素子間の磁気干渉の問題や、高速動作がなかなか難しいといった問題点があるのではないかと考えています。
 量子コンピューティングデバイスにおきましては、AIの中核機能を担うのではないかというように期待されており、当然、有効性は証明されていますが、エラー発生率が高くて、誤り訂正が不可欠だと。この誤り訂正のために、膨大な量子ビットが必要であるということが問題点ではないかと考えています。
 三つ目のフォトニクス、光デバイスにおきましては、先ほど、野田先生や八木PMからお話がありましたが、光の散乱をどう抑えるのかという問題、欠陥や表面凹凸の影響を避けたいという問題があるのではないかと考えています。
 では(11ページ)、こういった問題点に対して、トポロジカルな性質を用いれば、どういう解が得られるかということですが、まず、一つ目の超低消費電力デバイスに対しては、先ほど申し上げました二つの性質のうち、仮想磁場という効果を用いればいいのではないかと考えています。例えばトポロジカル反強磁性体というものは、反強磁性体ですので、外部に磁場漏れはなく、仮想磁場を用いることで、MRAMができるのではないかということが言われており、少しずつ研究も始まっているところです。当然、仮想磁場の効果を用いると、スピントロニクスデバイスだけではなくて、超高感度磁気センサや熱電素子にも展開できるのではないかということを考えています。
 (12ページ)二つ目の新概念に基づくロバストな量子コンピューティングデバイスに対しては、トポロジカルな性質と関連が深いマヨナラ粒子というものを利用します。このマヨナラ粒子というものは特異な性質がありまして、その特異な性質を用いることで、誤り訂正が大幅に低減できる量子コンピューティングが実現できるのではないかということが言われていまして、今、研究が活発に行われているところです。従来の誤り訂正の方向も当然重要です。ですが、こちらは一発逆転を狙える技術として、例えば今、マイクロソフトのステーションQというところで、世界的な取組が行われているという状況になっています。
 (13ページ)三つ目の光デバイスに関してですが、先の二つまでは電子系の話をしましたが、電子系のトポロジカルな概念を光子系へ拡張したものがこのトポロジカルフォトニクスと呼ばれる分野になります。こちらもロバスト性というのを用いることで、光の散乱を抑えることが可能になるのではないかということで、光の特定空間への長時間とじ込めや、大角度での偏光可能なビーム生成とかが実現できるのではないかということが言われています。
 今、応用の話をしましたが、当然それらを実現するためには、理論や物質創製・制御などの基盤技術、若しくは、計測・評価技術をより強化・高度化することが必要になります。
 15ページの図は、今申し上げた課題をまとめた図になっております。こういう研究開発をするとどのようなうれしいことがあるのかといいますと、物性物理、素粒子物理、数学という分野が融合した新しい領域が生まれると。融合領域が生まれると、当然、新しい概念が生まれるのではないかということが期待されます。また、このトポロジーの概念を工学応用に結び付けることで、新しい技術的な概念も生まれるのではないかということを考えています。当然、人材育成にも繋がります。
 (17ページ)このような研究は、今は基礎研究フェーズで工学応用に結び付けるにはリスクが高いものだとは思いますが、例えば量子コンピューティングにおきましては、D-Wave社がいきなり実用化したように、この分野はもしかすると、非常に短期間で実用化してしまう可能性がありますので、我々としては、向こう10年程度がこの分野の勝負を決める境目ではないかということを考えています。
 そのためには、初めに言いましたように、産学連携を意識した場を作ったり、あとは、競争的資金や拠点などの研究開発を進めて、例えば15年後、20年後には企業に引き渡すような技術に、実用化に持っていくようなことができればいいかなというように思っているところです。
 以下の資料は、国内外の研究動向を書いています。時間がありませんので詳しくは述べませんが、今、世界的な状況を見てみますと、まだ工学応用へ向けた本格的な研究プロジェクトは世界ではそれほど進んでいないように思いますので、日本としてここで手を打っておけば、世界をリードできるのではないかということを考えています。
 では、続いて、塚﨑特任フェローに補足の説明をお願いします。
【塚﨑特任フェロー】  東北大学の塚﨑です。JST CRDSにお手伝いして、トポロジカル量子戦略の立ち上げ、若しくは、選定に協力しています。
 短い時間ですので、世界的な現在の盛り上がりを全て今ここでお伝えするのは無理ですが、私自身のここ1、2年感じてきたことをお伝えできればと思います。
 物質の分類では、金属と半導体と絶縁体というものを普通の方々はお考えになると思うのですが、トポロジカル絶縁体というのは、簡単に申しますと、そこに一つのものがあるだけで、内部は絶縁体、でも、表面は金属という性質を持っています。したがって、ものが一つ大気中や真空中にあるだけで、従来のものの分類とは異なる物質学、物質の観点という見方ができます。さらに、その物質を覆っている表面の特徴が、グラフェンのようなディラック電子と呼ばれる非常に特徴的な電子系を持つということから、物質科学の中で非常に広く研究が今進んでいるところです。
 特にこの10年、物質が開発されて以来、様々な物質展開と物性科学が進んでおります。本日お見せするのは、資料5-2の1枚目のスライドが昨年の私の参加した会議で、2枚目は、JST CRDSで昨年12月に開きましたワークショップで発表を頂いた内容と、それをトポロジーという一つの観点で結び付けることができるのではないかというような図の説明になります。2分ほどですが、御説明をします。
 ムーアの法則というシリコンのトランジスタの法則を予言された方ですが、そのムーア財団が現在、アメリカで、Emergent Phenomena in Quantum Systemsというプロジェクトに5年75億円のプロジェクトを支援しています。これは財団助成です。アメリカの中でのクオンタム・マテリアルズ、量子物質、特にトポロジカル絶縁体だったり、トポロジカル現象に関わる著名な研究者、及び、若手PIたちが若手グラントとして、非常に強いサポートを受けています。
 昨年、そのプロジェクトにサポートされる会議がニューヨークであり、100名以上で海外等々からも多くの招待講演者を呼んで、非常に活発な議論がなされました。中心課題は、やはりトポロジカル絶縁体物質の探索、それから、ARPES等を使った評価、及び、超伝導特性、マヨラナに対する評価等々でした。
 3月のAPSでも、APSの中で全750セッションあるのですが、その中で、トポロジカル物性等に関わるセッションというのが現在おおよそ80セッションあります。それぐらい、物質探索、スピントロニクス、フォトニクス、超伝導、理論等々で現在、非常に盛んに研究がされているところです。
 日本の現状におきましては、新学術領域研究が一つ立ち上がっておりまして、京都大学の川上先生が代表をされています。私もメンバーの一人でやらせていただいておりますが、そのトポロジカル絶縁体に関する国際連携ワークショップも、新学術を中心に非常に盛んに行われている状況でして、日本の中でも多くの研究者が参画しています。現在、物質及び評価の研究が進んでいて、それをどうにか将来的な量子コンピューティングやフォトニクスというところに発展させていきたいというように現在考えているところです。
 現状は、やはり物理学会での学会発表等々新しい研究が多いのですが、それを応用物理学会でこの秋、シンポジウムを開催することで、半導体技術、若しくは、企業の参加者の方々に何かしら、我々物理学者というのは余り用途、若しくは、次にどこに使いたいから作るということではない場合が多いので、出会いの場を見付けると。要するに、こういうような用途を求めていますとか、そういう接点をどんどん広げていきたいと考えておりまして、物理学会と応用物理学会、若しくは、そういう場を作っていきたいと考えています。
 2ページ目ですが、これは少し雑多な図で申し訳ないですが、先ほど宮下フェローからも発表がありましたとおり、スピントロニクス、エレクトロニクス、量子コンピューティング、若しくは、フォトニクスということをまずもって今見える新しい、これまでの従来の物質ではできないような新しい機能として使える領域ではないかと考えています。
 しかしながら、実際にはもっとそこの想像を超えるような物性というものも隠れていると考えておりまして、素粒子科学であったり、数学の分野と更に物質科学者が連携することによって、基礎学理の構築等々をトポロジーという1点で結んでつないで広げていきたいというように考えています。
 ちなみに、このワークショップでフォトニクスに関してお話しいただいたのはこの部屋にもいらっしゃる岩本委員にも御協力いただいておりまして、アメリカでは非常に盛んに進んでいます。先ほどの野田先生のフォトニック結晶の技術等々が使われて、光を一方向伝搬させるとか遅延させるとか、そういうことを、光の領域でもアメリカでは非常に盛んに進んでいます。現在、岩本委員の研究室からも発表がありましたが、昨年3月の応用物理学会で発表が増えてきているというように私も感じておりまして、本委員会であれば、もちろん量子コンピューティングですが、それだけではなくて、このフォトニクス、量子コンピューティングとエレクトロニクス等々においても、これからどんどん広がっていくものと確信しておりますということをお伝えして、おしまいにしたいと思います。
 どうもありがとうございます。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 それでは、今、御説明に関して、御質問、御意見あれば、お願いします。非常に進展のある分野で。
 少し確認です。仮想磁場というのは、言い換えれば、ベクトルポテンシャルという言葉ですね。それを仮想磁場と言っているわけですね。
【宮下フェロー】  はい。
【雨宮主査】  御質問等あれば。
 非常に国内でも盛り上がっているし、世界でも盛り上がっていると。
【塚﨑特任フェロー】  はい、そうです。応用先をこれから探していくと。特にJSTで現在、今回の領域プロポーザルとして策定するという形まで行ったわけですが、科研費でやっていることと、じゃあ、どうやってそこからJSTとして、これからの戦略として、どう広げていくことが国にとって重要か、若しくは、世界との競争でどう勝つかということの視点で、現在はプロポーザルをまとめています。
 量子コンピューティングの分野、この中にも書いてありますし、宮下フェローの資料にもあるのですが、アメリカとか海外では量子コンピューティングに関して非常に大きな支援が企業から入っています。やはり新しい計算、若しくは、量子もつれ等々をやっていく上での本当の意味での量子計算ですね。D-Wave社が古典モデルなのかどっちなのかという議論がありますが、新しい量子計算としてこのトポロジカル絶縁体がいいチャネルだということをアメリカでは考えられていて、マイクロソフト等の投資があると。
 それに対して、日本はどういう形で取り組んでいくべきかということを考えたい。光技術等々に関してもそうですが、基礎からやはり応用に展開するには、JSTであったり、国としての先導というものだったり、若しくは、出会う場所だったりというものが必要ではないかと感じていまして、基礎からの、まだまだ全然基礎ですが、発展していけたらなというように考えているところです。
【雨宮主査】  どうもありがとうございました。
 もう時間も来ましたので、全体を通して、何か御意見あれば、いかがでしょうか。
 特になければ、事務局の方から、伝達事項をよろしくお願いいたします。
【上田室長】  次回の委員会の開催は5月30日午後を予定しております。本日の資料について、郵送御希望の方は、封筒に入れておいてください。不要な資料等については机上に置いたままにしていただければと思います。
 以上でございます。
【雨宮主査】  では、以上をもちまして、第11回の量子科学技術委員会を閉会します。本日はどうもありがとうございました。

―― 了 ――


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