宇宙開発利用部会 X線天文衛星「ひとみ」の異常事象に関する小委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成28年6月8日(水曜日)14時00分~15時35分

2.場所

文部科学省 科学技術・学術政策研究所会議室

3.議題

  1. X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」の異常事象の要因分析結果及び再発防止のための対策の妥当性の検証まとめについて
  2. その他

4.出席者

委員

主査  佐藤 勝彦
主査代理  木村 真一
専門委員  野口 和彦
臨時委員  横山 広美

文部科学省

研究開発局長  田中 正朗
研究開発局審議官  白間 竜一郎
研究開発局宇宙開発利用課長  堀内 義規
研究開発局宇宙開発利用課企画官  奥野 真

【説明者】
国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)
 理事  常田理事 佐久
 宇宙科学研究所宇宙科学プログラムディレクタ  久保田 孝
 統括チーフエンジニア  本間 正修

5.議事録

【佐藤主査】 それでは,定刻となりましたので,ただいまから宇宙開発利用部会のX線天文衛星「ひとみ」の異常事象に関する小委員会(第3回)の会合を開催したいと思います。
それではまず,事務局から本日の会議に関する事務的な事項確認をお願いいたします。

【奥野企画官】 委員の皆様におかれましては,御多忙のところ御参集いただきまして,誠にありがとうございます。お礼申し上げます。
 本日は,本委員会の所属5名の委員のうち4名の委員の皆様に御出席いただいており,運営規則に定める定足数の要件を満足しております。よって,本日の会議が成立していることを御報告申し上げます。
 次に,本日の資料でございますが,お手元の議事次第,画面に出ている議事次第の4ポツのとおり机上にて配付しております。もし過不足がございましたら,適宜事務方にお申し付けください。事務連絡は以上でございます。

【佐藤主査】 ありがとうございます。

(1)X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」の異常事象の要因分析結果及び再発防止のための対策の妥当性の検証まとめについて

【佐藤主査】 それでは早速,議題に入りたいと思います。議題は,X線天文衛星ASTRO-H「ひとみ」の異常事象の要因分析結果及び再発防止のための対策の妥当性の検証まとめについてでございます。前回の小委員会では,JAXAよりASTRO-Hに発生した異常事象に関して,要因分析結果と対策までを報告いただいたところでございます。今回は,報告内容全体のまとめについて議論を頂き,委員の皆様に御議論をお願いしたいと思っております。
 それでは早速ですけれども,JAXAの方から説明よろしくお願いいたします。

【JAXA(久保田)】より資料3-1,3-2に基づき説明を行った。

【佐藤主査】 ありがとうございました。修正事項を含めて御報告いただいたわけでございます。委員の皆様から御質問等お願いするわけでございますけれども,きょう御出席されておりません白坂委員からコメントを頂いておりますので,最初に白坂委員のコメントについて事務局より紹介いただきたいと思います。お願いいたします。

【奥野企画官】 それでは,事務局から御紹介させていただきます。本日白坂委員より,御欠席するに当たりまして2点コメントを頂いております。
 まず,1点目でございます。やるべきことの明示化,ルール化に対するテーラリング自由度の必要性についてでございます。文書化,手順化,体制などについて,やるべきことを明示化,ルール化し,規定することは重要である。しかし,一方で,宇宙研では研究者が高いモチベーションを持って先端的なプロジェクトを実施してきたという歴史があり,その良さは失うことがないようにする必要がある。そのように考えたとき,上記のようなルールは,最低限のやるべきことはやるという仕組みは整えた上で,宇宙研では大小様々な開発が行われるので,その特徴を理解して,ある一定の範囲でテーラリングをできる自由度を持つ等これらの両立を目指すための工夫ができるための仕組みも必要である。これが1点目でございます。
 2点目は,システム的人材の育成についてでございます。JAXAの報告書にあるとおり,ミッションと安全性のバランス,FDIR設計のバランス,設計だけでなく,製造,試験,運用までを含めてトータルシステムとしてリスクを考慮できなかったこと,つまり,全体観を欠いたことが原因の一因となっている。PIとPMが十分に機能するためには,それらを支えるために全体観,俯瞰力を持って技術を見ていくシステムマネージャのような人が必要となる。もちろん小規模プロジェクトでは,PMがそれを兼ねるようなテーラリングもあり得る。中長期的な取組となるかもしれないが,こういった人材を育成することに取り組んでいくことが必要である。
 以上二つの事項につきましてコメントを頂いております。

【佐藤主査】 どうもありがとうございました。
 それでは,常田さん。

【JAXA(常田理事)】 白坂先生の2点のコメントに宇宙研の方からコメントさせていただきます。まず先生の第1点のコメントの,今回の報告書でJAXAとしてやるべきことが書かれていますけれども,それについてのテーラリングが必要でないかという点であります。それで,これは最初から今のやり方の良いところをとって,そこを変えていこうとしますと,どうしても改革が中途半端になったりしますので,まず今回の報告書にあることを宇宙研としては確実にやっていくというところをまず押さえます。その上で,地球周回の衛星とか探査衛星,それらはかなりバスの設計も違ってまいりますし,それから,ASTRO-Hのような大型衛星,それから,イプシロンで上げるような少し規模の小さい衛星でも違ってまいります従いまして,まず先生おっしゃるとおり,やるべきことをはっきりさせた上でテーラリングをやるということ。ただし,そのテーラリングも,何をテーラリングするかということをやはりはっきりさせていくということが重要かと思います。
 それからもう一つ,大変有り難いお言葉で,宇宙研の良さを失わないようにというところがあったと思うのでありますが,このような改革を行うときに,宇宙研の内外から,宇宙研の良さがこの改革の中で失われてしまうのではないかという御心配を頂いて,大変有り難いこととは思うのですが,宇宙研の良さと言われていることと今回の問題を引き起こした原因がやっぱりかなり密にカップルして,良いことが逆,裏目に出るとこういう大きい事態になるという面もあるので,良さと一言で言われるものが何なのかをやはりはっきりさせて,そこを少し分析しなければいけないと思っています。その上で,良いところをさっきのテーラリングの中で活かしていくということが必要かと思います。
 それで,先生御指摘の二つ目の人材育成でありますが,これは,全体観を欠いているということ,今回の不具合も,そういう全体を見るシステム的なビューポイントを持っていなかったということがかなり問題を生じたかなりの原因を占めており,これは教育,人材育成とも十分絡んでいるのではないかという御指摘と思います。これは,最近,衛星の規模が大きくなってきて,十分な経験を積まないままプロマネとかそういうことをやらざるを得ないという状況,それから,打ち上げの機会も少なくなっていて訓練のチャンスも少ないという状況でそのようなことが生じている面もあります。宇宙研には観測ロケットとか大気球などに取り組む研究者もおりますので,そういうところを総合的に活用して,人材育成のところから我々のやり方を改善していかなければいけないと思っておりまして,先生おっしゃるとおりだと思います。ちょっとコメントさせていただきました。

【佐藤主査】ありがとうございました。
 ただいまの常田所長からの御意見等につきましてはいかかでございましょうか。白坂委員の指摘は,前回の委員会でも出たことではありますけれども,所長がおっしゃるように,まずはここに掲げたる改革を,それを着実に実行させた後で。昔の良さを取り戻すことで,本来の改革がおろそかになるということでは困りますので。
 はい,どうぞ。

【木村主査代理】 済みません,関連してコメントさせていただきます。白坂委員のコメントの特に前者については,まさに前回の委員会で議論になったポイントだと思います。
 まさにトップサイエンスを目指すような設計と安全性を両立させなければいけないと。これはもう皆さんの合意だと思います。
 それは確かにそうですが,それを実現する方法として,メーカーとの役割分担という形でここではお話をされていました。そのときに委員から出た意見として,そのように役割分担をにすることで,実際これまでのISASの宇宙開発において良かった点,トップサイエンスが非常に限られたリソースの中で目指せたという良い面をある面犠牲にしてしまうのではないかという懸念がかなり示されたと思うんです。今回,この部分の資料が追加されるかなと私は実は期待していたのですが,前回のお答えとしては,安全性とサイエンス要求のせめぎ合いの中でそれは答えを見つけますとおっしゃったのだと私は理解しています。
 その点について,実は前回の委員会以降,自分の中でずっと考えていますが,そこの部分がどうしても具体的に見えてこないでいます。この点は本当に難しい問題,課題だと思うのです。
 ここで対策として,今回起きた事象をもって対策とされたのを我々はある程度妥当かどうかということを考えなさいという宿題を頂いているわけですが,この点についてある程度具体的なレベルでどのような方策をお示しいただけないとなかなか判断が付かないのではないかなと思うんです。「せめぎ合い」という表現自体は論理的でなく,かつ具体的でもないですよね。そこが示していただけないとなかなか判断が付かないのではないかなというのが私の危惧です。
 例えばある具体的な案を出されたときに,それはより安全には寄っているかもしれないけれども,サイエンスにとってマイナスかもしれないし,むしろサイエンスの方に寄っているかもしれないが,安全性としてはまだ十分ではないかもしれないと,そういう判断をしなければいけないのじゃないかなと思うのですが,この点はいかがですか。

【JAXA(常田理事)】 非常に先端的なサイエンスの成果を満たすという科学者の要望と,それから,国際的な競争関係の中でそういうものをやっていくという宇宙科学の特性と,一方,だからといってリスクを負ってはいけないという安全性のところをどう調和するかと。これは両方を調和させるのが当たり前,そうあるべきなんですけれども,現場ではやはりぎりぎりのサイエンスを狙ってやると,どうしてももう一つの方に目が行かなくなるということが今回起きてしまったわけです。
 それの論点として二つあると思っています。一つは,さっき白坂先生から出た,やっぱり全体観。全体観というここでの意味は,サイエンスと安全性は両方見ていかねばならぬということだと思います。ただ,今,先生が御質問なのは,もう少し具体的にそれをどう担保するのですかというところだったと思います。お答えになっているかという点はありますが,ここで改善策の一つとして述べられています,プリンシパルインベスティゲータとプロジェクトマネージャを分離するということを提案しています。
 今までの宇宙研のやり方というのは,プロジェクトマネージャのリーダーシップが非常に強くて,そこにPIに当たる役割も果たしていた。すなわち,プロジェクトマネージャというのは,宇宙機について知り尽くしていて,仕様どおりのものを予算内で納期以内で造るという責任もあり,その学問分野の科学要求を満たすミッションを作って学問のリーダーシップも務めるということで,自分一人の中で先端的な科学要求と安全性を満たさなければいけないというものが入っていたと。それで,衛星の規模が小さいうちはそれが非常に上手くいっていて,ISASが成果を上げていた要因の一つだったと思います。一人の人の頭の中に全部入っていると非常に効率的な面もあったという面があります。
 ただ,それが今回,はっきり言って破綻いたしましたので,やはり先端的なサイエンスを狙い,学問分野を取りまとめるプリンシパルインベスティゲータと,衛星を確実に造るというプロジェクトマネージャを分けまして,その良い意味での牽制関係の中で先端要求と安全性を担保していくという,それだけではない面もあると思いますけれども,先端的な科学要求を満たしつつ安全性を確保する仕掛けの一つとして,やっぱりPIとPMの分離というのは大事な要素かなと思っております。
 久保田先生,何かほかの論点があれば,追加でお願いいたします。

【JAXA(久保田)】 今,説明がありましたのはプロジェクトの中でということで,もう一つ,メーカーと宇宙研との役割分担を明確にしてということに関しては,メーカーがモノを造りますので,確実に動くモノを造らなくてはいけないわけです。そうすると,安全第一で考えていきます。一方,宇宙研はやはり最先端の科学をやりたいという要求を出していきます。
 なので,そういった部分懸念があるかと思いますけれども,最初の基本設計の段階では多分,やはりこういう科学ミッションを達成したいという要求の下に宇宙研とメーカーが知恵を出し合って概念設計から作っていかないといけないと思いますけれども,そこで見通しが出た後はメーカーが責任を持ってそこを造り上げていくということになるのだと思います。そのせめぎ合いというところがどこのフェーズから分けるかというのもありますけれども,最初の概念設計,基本設計等は一緒に作って,とにかく一流のサイエンスを達成する衛星を造り上げていくのだという観点で作っていくと思うのです。その中には,技術的にこういう難しいことがあるというようなことは議論の中で潰していくんだと思います。
 一方,設計が固まって造り出したときに,例えば要求を満たさないものが出てきたら,そこは知恵を出して解決しなくてはいけないということと,もう一つ,この前,更なる要望というようなことがありましたけれども,設計が進んでいく中でまた更に追加があったときには,そこはきちんと議論して,できないものはできない,あるいはこうすればできる,あるいはこういうリスクがあるというのをきちんと明確にして,必要があれば舞い戻ってレビューし直してということになるのだと思いますけれども,基本はやはり一流のサイエンスをやるために難しいチャレンジをしますから,最初の段階では一緒に考えていく。最初の段階から役割分担してしまったら,恐らく難しいだろうとは思っています。そういうやり方を作っていくのだろうと考えています。

【木村主査代理】 なるほど。私の理解が正しいかどうか確認したいのですけれども,どちらかというと,概念設計のフェーズから,むしろメーカーとか,具体的な設計,物を造るところまでの人たちを入れて検討を進めていきましょうという,そういう理解でよろしいですか。

【JAXA(久保田)】 はい。今までもそうやってきてはいるのですけれども,その辺のフェーズをもう少し明確にしたいと考えています。いわゆるワーキンググループという形で,将来こういうミッションをやりたいということで集まっていろいろな研究を進めていく段階がまずあります。その後にミッション提案をして進めていく段階で,今,宇宙科学研究所では,フェーズA1という,ちょっと新しいフェーズを設けて,特にフロントローディング,システム検討を早めに行って,技術の成立性を早めに見極めようと。それを見極めた段階でプロジェクトにしていこうという,そういうことを進めていくところは,むしろメーカーと密にやって成立性を高めていくフェーズがあると思います。一旦設計が固まった後は,これはメーカーに責任を持って良いものを作ってもらおうという,そういうところが一つ出てきます。
 それから,最後のインテグレーション段階においても,今までは機器を納入した後の試験につきましては宇宙研が責任を持ってということでメーカーは支援という形でしたけれども,その中身をもう少し明確にするということと,性能については,これ,機器によりますので一概に明確にはできませんけれども,その辺の責任分担を明確にするということで,全部任せてしまうというわけではないんですけれども,その辺が曖昧になっていた部分が,最終的なトータルシステムという観点での抜けが生じていたかと思います。
 ですので,トータルシステムの観点というのは,メーカーに責任分担をお願いする部分と,プロジェクトの中にも,システム全体を見る,先ほど白坂委員の方からシステムズエンジニアリングだというふうな話もありましたけれども,システム全体を見るマネージャをきちんと置いて,今お話ありましたように,プロマネとPIと,もう一つ,システム担当者がしっかり,三権分立じゃないですけれども,三者がそれぞれの責務を果たすようにしていくということを今は考えています。

【木村主査代理】 分かりました。ありがとうございます。先ほど常田所長がおっしゃっていただいたPMとPIの分離という話は,割とそういう意味では明快に書かれているのに対して,メーカーとの関係というのが,読んだときに,そこが具体的にどういうことをされたいのかなというのが,余り語られていないように思われましたので,そこは是非追加された方がよいのではないかなと思いました。

【佐藤主査】 白坂委員のコメントにということで話を始めましたけれども,一般的に。
 野口先生。

【野口専門委員】 前回欠席しまして,どうも済みませんでした。私はシステム分析という観点で御意見申し上げたいと思います。実は,宇宙機器の事故がどのようにして起こるかということに関しては,ハードシステムと,プロジェクトとして組織運営も含めてプロジェクトを完遂するシステムというのは実は分析の仕方は同じなんです。そういう意味で,今回お作りいただいたFTAを見たときにあっと思ったことがあってですね。今回のFTAは,あくまでも目的は,何が起きたかという分析するためのFTAとしてお作りになっていると思っています。その点に関しては,今回どこが原因で起きたかということに関しては十分に分析できていると思っております。
 ただ,これをリスク分析として見たときにちょっと困ったことがあります。例えば衛星破壊ということに対してOR事象がこれだけ羅列されているということはどういうことかというと,この衛星は,1か所でもトラブルがあると破壊してしまうという,そういう構造を示しているわけです。FTAから見るとそうですよね。でも,本来はそんなことはあり得なくて,必ず何かに冗長系とか緩和系が付いているから,先端科学システムというのは成り立っているわけですよね。
 何を言いたいかというと,実は同じようにその面で,この5.2章のいろいろな運営に関する課題分析を見たときに,二つお考えいただきたいことがあります。一つは,メカニズムの分析は,やっぱりプロでいらっしゃるので,このFTAの下にもなぜなぜ分析をやられて,2段階,3段階に原因系の分析をやられているのですが,運営に関しては,1段階の分析で終わっているのです。例えばどれでもいいんですけれども,たまたま僕,今開いているのが5.2.1で,設計担当業者及びそれぞれの所属する研究者と担当者の役割分担と責任関係が不明確なまま開発を進めたと。だから,なぜこういうことが起きたかという原因は分析していただいているわけです。でも,なぜこんなことが放っておかれたのか,なぜこういう状況で進んだかということは,これを見ても分からないですね。
 ほかのところもみんなそうで,なぜ今回の事象が発生したかということは分かるのですけれども,その体制がなぜ今までその状況で行っていたのか,逆にいろいろなチェック機構がありながらなぜすり抜けたかということは相変わらず分からないんです。しかも,このことをFTA流にいうと,全部OR事象がずらりと並んでいるんです。ということは,対策として何をやるかというと,全てのことに関して改善しますということがずらりと出てくるわけです。本当に可能ですかという疑問があります。
 しかも今までの,これ,実はJAXAさんとか宇宙機器だけの話じゃなくて,先端技術システムの事故が起こるとみんなこういう分析になっていて,何が起こるかというと,気付いた問題点を全部潰しますという格好で対策・対応をとにかくたくさん打っていくという構造をとるわけです。無理です。前言ったとおり,新たな対策は別のリスクを生み出しますから,恐らくこういうやり方でやっていて,今回の再発防止の答案としては一つの形だと僕は思っていますが,先端技術システムをちゃんと作って運営するということには,このやり方には無理があると思います。本来こういう運営組織というものは,あるところでミスをしても,そこをどこかの時点でチェックして見つけるという,こういう構造系を持っておかないと,あらゆる状況を各担当者がしっかり頑張らないと,1人でもミスをするとどこかで抜け落ちるというシステムは恐らくまずい。
 白坂委員の意見に僕も賛成なんですが,今までのこういうやり方は何が行われてきたかというと,問題が発生すると,「やっぱり責任が不明確でした,誰がやるかということを明確に決めて,そこはしっかりやります」という,こういう構造の対応をとってくるんです。メーカーでもそういうやり方をとる場合もあるんですけれども,それができているのは,やるべきことの工程が決まっていて,繰り返し繰り返し製造する大量生産品の製造過程においてはそれは非常に有効なんですが,先端技術のように研究開発,常に新しいものを入れてくるものというのは,実は役割が明確に定まらないまま移行していくものもあるんです。逆に役割をきちっと決めて各担当者がやるというものの落とし穴はそこにあるわけです。
 そうすると,基本的にはそういうやり方をとりつつも,やっぱり新しい技術開発,研究開発ということに対して常に,白坂委員がおっしゃったとおり,全体としての問題点を見るという,そういうシステム構造が必要ですし,しかもこういう先端技術というものは,新しいトライをするわけですから,あらゆる機能・部品が要求どおり動くわけはないわけです。研究,技術開発ですからね。
 ただ,やっぱり重要なことは,先端技術開発といえども,ある条件が満足できなくても,致命的なトラブルになるという構造は二重三重にも食い止めなければいけない。そうすると,こういうシステムとして,運営システムとしてそれを組み上げるやり方も,ロケットの製造においても,あらゆるトラブルを全部延べ板的に潰そうとするというやり方は,実は先端技術の巨大システムに関しては若干問題があって,むしろ仮にところどころ不具合が出てきても,少なくともまず致命的にならないというところから順番に押さえ込んでいくという,こういう体系的なリスク構造的なアプローチが必要なのではないかと思っています。
 ただ,これをJAXAさんにこの場で言うのもちょっと酷だなと思っていろいろ悩んでいたんですが,これは実は先端科学研究の共通の悩みです。それが今まで普通の工業製品を扱う若しくは作り出すように,個別の問題を一個一個取り上げて,とにかくその問題を解決するというやり方をとる。出てきた問題に対して常に管理を重層化するみたいなことで乗り切れると思っているところに,やっぱりこういう先端科学,しかも巨大システムへのアプローチの課題が残っているのだと思います。
 やはり日本はこういう先端科学技術システムを開発するところですから,マネージングのやり方とか,保守管理,運営マネジメントのやり方も実は研究開発をしないといけない。それがやはり対象の科学技術に関しては研究開発費は付くけれども,保守,運営とかテストとか,逆に言うと組織のマネジメントということに関しては,ちゃんとやればできるだろうという中で何とか来ていて,そこの無理がやっぱり出てきている。これはロケットだけじゃないです。いろいろなところにそういうところがあってですね。
 余りここで問題を大きくしてもと思っていますけれども,「ひとみ」で起きた事故に対してなぜこれが起きたのかということに関しての分析は,私は妥当であると思っていますが,ただ,これも再発防止に留まらず,同じような次の宇宙開発に対して,まだ経験していないようなリスクも含めて改善していくというためには,もう少し問題の階層化ということをやらないと,JAXAさんやることがどんどん増えていくわけですね。やっぱりそこのところも問題がある。
 それから,やっぱり今までの日本人の反省としては,すり合わせの技術という非常に得意なものがあって,全体的なことを決めていかなくてもその場でその場でうまくやれるという非常に強いところがあった。ただ,それは,この前も申し上げたように,自動車ぐらいまでで,実は10万点を超える部品に関しては,もうすり合わせの勘が利かない。やっぱりシステム的なアプローチに変えていかなければいけないのは確かなのです。ただ,今のシステムアプローチというのは,やるべきことを要素分解するところまではできるのですが,その要素分解を個々の管理というレベルに任せておけば,自動的に全体が上手くいくというふうに思いがちです。要素に分析して要素はちゃんとやるんですけれども,この要素をいかに整合的に組み上げるかという,いわゆるマネジメントのところが全く議論されてなくて,担当者の管理強化ということで乗り切れると思っていますけれども,そうはいかないです。
 そこはやっぱり文科省における先端科学開発における一つの大きな研究課題であるというふうに思っているので,余り今回の「ひとみ」に関してJAXAさんにだけおんぶに抱っこというか,手法の改善を押し付けるつもりではありませんが,でき得れば,今出されている課題を,FTAの考えで全部OR事象の羅列で全て同じ重みではなくて,実はこの構造によってここの部分をカバーできる,いわゆるFTAでいうAND事象の格好で,どれか一つ駄目になれば駄目じゃなくて,どれか一つでもこのチェック機能が生きていると致命的なものは防げるという,そういう構造的な仕組みを作っていただかないと,やっぱり先端科学,しかも実験,開発を含んだものに関しては,なかなか正解には至らないのではないかと思います。以上です。

【佐藤主査】 ありがとうございました。

【JAXA(常田理事)】 今の野口先生のおっしゃる話というのは,身に染みて今,良く分かっているつもりでございます。それで,技術的な原因の方は,精緻なFTAが出来ていまして,これは短期間でここまでまとめるのはかなりの多くの人の努力が要ったわけですけれども,でも,技術的なことなので割とスムーズに行きました。ところが,本報告書の5章の要因とか改革のところをどうまとめていくかというところでやはり非常に手間が掛かったというのがあります。
 それで,先生のおっしゃるとおり,1段目の分析があって,その更に2段目がここにはまだ十分でないという認識があって,2段目がないと,それでは,ポイントを突いた改革をしていくのにどうしていいか分からないので,網羅的になってしまうというようなお話だったと思うんです。そこのところは,2段目に行くと,やはり技術だけじゃない,そこに関わっている人間とか,宇宙研の歴史とか,何に価値を置いているかとか,そういうところが全部関わってくるもので,人間の数だけビューポイントがあるようなところに入ってきます。ただ,そういうふうに言ってもいられないので,今の先生のコメントを基に,6章のところについても問題の階層化をもう少ししないと,これだけ読むだけでは,本当になぜこうなっていたのか分からないという御質問に応えられないというのがあります。それがコメントの一つです。
 もう一つ,では,そこまでやらないと,もう少し深掘りしないと,今回の不具合に対応した改革が何もできないかと申しますと,今回の報告書に書いてありますように,起きたことというのは割とプリミティブなところでしくじっているということがありまして,やはり長年の宇宙研のやり方の中でやれると思っていたのが,規模が大きくなっていて,あるスレッショルドを超えてしまって,できていないと。だから,規模のせいにするのも少々問題かと思うのですが,我々自身の基本動作ができていないところがあるので,それはもう割と,こことこことここはできていませんというのは明らかに見えているところがあります。そこは精緻な的確な分析をやるのと同時に,やはり基本動作のところは,どんどんミッションは動いていますので,改善の策をとらせていただいて,また機会があれば御報告させていただくという,短期的なことと,少し長いことといいますか,同時並行的にやらないとという印象を持っております。

【野口専門委員】 そうですね。分かりました。

【佐藤主査】 ありがとうございました。2段目と言いましょうか,体制の問題,どういう順番で実行するかということはまだまだ出発点であって,PMとPIを分離するとか,メーカーの契約とかを超えて,野口委員から指摘ありましたように,大型科学ミッションの大きな課題だと思います。
 この辺りはNASAとかESAとか,有人ミッションを特にやっているところは本当に失敗は許されないところですから,マネジメントは随分経験を積んでいるわけですよね。確かに野口委員のおっしゃるとおりで,なかなか正解には至らないのではありますけれども,そういうところはまだ学ぶところもあるとは思うのですね。

【野口専門委員】 そうですね。マネージャの仕事というのが,日本ではマネージングを管理と訳すのですね。実はマネージャの仕事は管理だけではなくて,そこにある種の判断とか運営とか経営とかということが大事になるわけです。当然その中で一番重要なことは,どのリスクとどのリスクに対してどういう優先順位を付けて,どの程度で収め込んでいくかというこのバランス論があるし,ミッションに関しても,どのミッションのレベル,要求水準を上げて,例えばNASAでも,有人機の場合は,ミッションが成功するという確率は実は100%ではなくてもっと低くて,その代わり,人命だけは生きて戻ってくるという,そのミッションに関しては非常に高い目標で設計されていますよね。そういうふうにして,あらゆるものをみんな上手くやろうというのがどうも日本の考え方の中にあるんですけれども,技術マネージャの仕事としては,そこら辺のミッションの目標をきちっと設定するという,そういうこともあるわけです。そういった点を管理としてしまうと,与えられた目標というのは全く変えることができなくて,ただみんながその目標に向かって粛々と努力をするというのがマネージングになっているのですけれども,そろそろやっぱり管理からマネージングということに少し変えていかないと難しいような気がします。

【JAXA(常田理事)】 今,佐藤先生がおっしゃった,NASAとかESAでは超大型の先端的ミッションを連続して成功させているというのが参考にならないかということだったと思うんですが,ASTRO-Hなんかは国際協力ミッションで,NASAの貢献が非常に大きい状態であります。今回も事故が起きた後も非常に親身になっていただきまして,いろいろな協力をする用意があるというのを再三言っていただいております。
 その中でこれからやっていきたいことの一つは,我々がこういう改革をするときに,NASAから見て,ある種のチェックポイントとして妥当なのか,そうじゃないのかというのを意見交換するというのは貴重な機会だと思っています。例えば個人レベルですけれども,「PIとPMを分離するというのは,それはNASAはとうの昔からやっています。その理由はこうこうで,大変良い方向じゃないですか」という,即座に返事が返ってくるという状況があります。今後,NASA,ESAとは協力関係がありますので,そこは割とディープな会話をしないと見えないところですので,やっぱり紙ではなくて会話によって意見交換をしていきたということが一つあります。
 もう一つ,NASAとESAはやっぱりすばらしいシステムを構築しているところがあるんですけれども,予算規模とかいろいろな体制が10倍とか違ってきますので,何もかも取り入れれば良いというところでないところもあるので,その辺の見極めも大事かなと思っております。

【野口専門委員】 今NASAのお話しされたので,当たり前ですけれども言っておきますと,NASAは確かに非常に多くの成果を出して成功も続けていますが,同時に多くの失敗も重ねています。こういう先端科学技術で大切なことは,一つの失敗に懲りないということがとても大事で,同じことを繰り返すのは最も駄目ですけれども,やっぱり常に次に進む意欲だけは持ち続けるということをやらないと,失敗したトラブルだけ捉えてやるのは,僕は違うと思っています。そこはやっぱり科学技術をどこまで推進するかという,一つのある種の国民としての物事の考え方をきちっと採っていかないと,起きた問題だけに目を向けるということであると,逆に言うと,NASAのようにはなれないということです。

【佐藤主査】 そういうことで,ISASの方から提出していただきました対応,対策はまず第一歩であって,これからも学ぶこともあって,より深めていくことが必要であるということでございますね。
 はい,どうぞ。

【横山臨時委員】 恐れ入ります。今のお話にも続くかと思うんですが,PMとPIの分離について,少しほかの分野からの参考例を御紹介したいと思います。おっしゃるように,大型化していって,安全面を全体的に見る方とPIは分けるべきであるという御提案は本当に必要かと思いまして今までお話を伺っておりました。
 私は加速器を中心にほかの分野の大型科学をずっと見させていただいておるんですが,もう一つ,規模が大きくなりますと,PIの方も1人で全体を見ていくというのが規模によっては難しくなってくるかと思います。加速器の分野で既によくやっておりますのは,PIの共同代表という名前で,研究所内のPIと,あと,大学を代表するPIを2人並べて共同代表とするというやり方をしております。例えばヒッグス粒子を見つけたアトラス実験は,科学者だけで3000名のコラボレーションです。全体の代表のほかに,各国で代表がおり,日本代表は,高エネ研の中に1人,東大に1人で,研究所の視点と大学の視点を併せて持って貢献しています。
 もちろん素粒子実験と一意に比較することはできませんが,今後規模が大きくなると,コラボレーションとしてまとめていくに当たり,PIを更に補足的に2人するという考え方もあるかもしれません。
特に大学とのせめぎ合い,あるいは国際コラボレーションの取りまとめというのはかなりの重労働で,それを1人でやるのも宇宙研としての負担も非常に重く,しかしながら,当然のことながら,宇宙研が全体を引っ張っていく役割も持たねばいけないと思いますので,一つの提案として,今後もし更に大型化していくときには,PIを研究所内と大学に1人ずつ置くということも御検討されるとよろしいかもしれないという一つの御提案でございます。
 もう一つ違う観点から,宇宙研が大学共同利用拠点であることです。主体的にやっている研究と,全国の大学研究者を支える側面とのバランスというのが,ほかの分野と比べると少し違うのかなという印象がございます。
 研究面で非常に活発な御活動をされていて,多くの若い研究者の憧れの場所になっているということは非常に重要なことなんですが,一方で,大学共同利用機関の大型施設は,割とマネジメントに徹して,研究者を支えていく組織として存在しているというような側面もあります。そのバランス感覚を,悪い方向に行かないように,宇宙研らしく良い方向に持っていっていただきたいんですが,やはり大型化ということの共通点から見ると,ある種の何かスレッショルドがあるのかもしれなくて,ほかの分野も比較しながら共同利用研としての在り方も是非御検討いただくとよろしいかなと思った次第です。
とりあえず2点です。ありがとうございます。

【JAXA(常田理事)】 先生が指摘された二つの点,いずれも根本に関わる大事な点です。最初のPIについてですけれども,そのPIをどういうふうに誰が担うかというところは非常に大事で,今,PIとPMを分離するだけでもかなりの議論になっていて,その先の話だということで特に報告書等には書いていないのですが, 宇宙研の場合,ほとんどが国際協力プロジェクトになっていまして,例えばNASAの方から非常に最先端のものを供給して一緒にやるというのが日常的になっています。そういう時に観測機器のレベルでは日本のPI,米国のCo-PIといっていますけれども,そういうものがジョイントで立つ場合もあるんですが,今回の事故の範囲にあるように,先端観測機器と衛星バスというのが分かち難く結び付いていて全体システムが問題の対象になる場合は,やはりミッション全体のPIというところに外国機関の代表が入っていただくとか,これは一つのアイデアで,そういう方向に議論が進んでいるというわけではないんですけれども,検討すべきことの一つにそういうことがあると思います。
 一方,何人も立ち並ぶと責任の所在が曖昧になるというところがありますので,そのメカニズムと併せて,PIの数をマルチにするというのは一つの方向性だと思います。外国機関の方がPIに入ることによって,やはりよりスムーズにNASAとかESA,先人の知見を取り込めるというメリットもあると考えております。
 それから,2番目の大学共同利用システムを採用している宇宙研,すなわち,教授,准教授,助教という構成になっていて,研究成果を上げることが期待されている組織の宇宙研と,300億円のプロジェクトを絶対失敗しないで行う宇宙研の矛盾というのが,やはり大きくなってきています。教員の側面に目を向けますと面を当てますと,やはり宇宙研の先生は研究者なのであるから,いわゆる純粋的な研究で成果を上げなければならないと。評価システムにおいて周りもそう思うし,本人の先生もそう思うと。一方,こういう大プロジェクトにコアとして関わると,5年10年すぐ,もうほとんど100%にそういうプロジェクトに関わらなければいけないということです。それが先端的な機器の開発だとまだそれは学術的な面があって両方満たせるんですけれども,全体システムを見るとか,衛星バスを確実に担当するとかいうところになりますと,非常に重要な仕事なんですけれども,やはり少し学術面と違った能力が要るようになります。
 そういう方を評価するという姿勢は,宇宙研は一般の大学共同機関よりその辺はやられていると思うんですが,やはり股裂き状態といいますか,そういうところがあって,先生が御指摘になったところは,宇宙研だけじゃなくて,日本の大きなプロジェクトをやっている学術機関にいる教員の共通の悩み,個人の教員から見ても悩みでありますし,組織運営から見ても非常に大きな課題だと思っております。
 これをどう解決するかということと,さっきの改革ですね,さっきの報告書にも,プロマネを教員がやる場合は専任化しなさいというのが書いてあるのですけれども,その専任化というのは,ほかのいろいろな業務的なことを専任化するのは簡単なんですけれども,教員としてのアイデンティティを捨てなさいということとニアリーイコールだと,その先生にとって何かが失われてしまうという思いがあって,そこもちょっと注意深く扱わなければいけないところかなと今思っております。

【佐藤主査】 ありがとうございました。最後にお話になった共同利用研としての問題ですけれども,私,自然科学機構の機構長をやっていましたけれども,それはまさに超大型プロジェクトを進めている自然科学機構の国立天文台でも核融合研でも同じで,その中での評価のシステムは本当にプロジェクトをやっているときはそれが主で評価になるべきだしそうなっていました。研究者は自分のミッションを上司と相談しプロジェクトのマネジメントが何割,科学論文になる研究が何割とか,自己申告なりで定め,それに基づいて自分は仕事をして評価されるのだというようになっていました。それをちゃんとしておけば可能だと思うのです。
 しかも,今おっしゃっていただいたような,プロジェクトの責任者になるということは,教員であるか何かとか,プロフェッサーか何かとか職名に関係ない,大事なミッションであって,もし評価のシステムが定められたミッションに対して行われるようになっていないとすれば大きな問題だと思います。体制の問題は研究機関の評価のシステムまで関係するんじゃないかと思います。体制,今後の対応と言っても,より深く深めることが,まさにそういうところも必要かと思います。

【JAXA(常田理事)】 先生のおっしゃるとおり,プロマネということが,教員がそういうことに当たる場合,評価がないということは全くなくて,それは十分な評価があるシステムに今はなっていると思います。ただ,やはり教員であるということと,長年そういうことに割かなきゃならないということの,個々の教員にとってのある種のジレンマはあるかと思いますけれども,そういうことを言っている場合ではないと。

【佐藤主査】 心情としては全くそのとおりだと思いますが,大きなプロジェクトを進める責任ある立場だということを自覚することが必要ですね。

【野口専門委員】 今のお話で,やっぱり人というのは,全体の大きな評価の枠組みの中で自分を見るというふうにやるんですね。そうすると,やっぱり宇宙研の先生にだけ「革新」というのも大きな無理があって,今の学自体が,ややもすると論文数とかインパクトファクターとかそういうもので全部序列を付ける傾向があると,どうしてもやっぱりそういうものの中に引っ張られていく。
 特に日本で必要なのは,やっぱり科学技術の研究成果をどういうふうな成果でちゃんと評価してあげるのかというところが余りにも学会寄り。それをもう少し社会の目で見る。社会といっても別に,経済性に反映できたかどうかじゃなくて,やっぱり世の中が必要としている研究をどう評価するかという,実はそこのことをちゃんとやらないと,宇宙研の先生だけプロジェクトで評価を高くしますよも,ちょっと無理かなというふうには思っています。済みません,これは一般論。
 次に,もうちょっと戻って,私がこの「ひとみ」の問題で一番気にしていることを一つ言います。それは,僕は今回の「ひとみ」の問題で一番ショックを受けているのは,衛星が壊れたということです。先端技術というのは,先ほど申し上げましたように,技術としてはいろいろ実験的なものもあるし,最先端のものをやればやるほど実は信頼性が悪いとか機能しないということがあって当たり前です。
 ただ,やっぱり先端技術開発でやってはいけないことは,ある一線を越えた事故,トラブルだけはどうしても防ぐという,これは開発段階からやっておかないと,大きな影響を持つほど起きてしまって,済みません,次は頑張りますというわけにはいかないんですね。やっぱりそこのところを押さえ込む技術がどうしても先端科学技術を出すためには必要で,そこが,僕が言っている物事を見る順番というところです。それをいろいろな信頼性とか機器トラブルのものと面一で見ていただくとそこに問題があって,やっぱり本当に先端科学技術システムは,機能と同時に,越えてはいけない事故・トラブルのベースは必ずあるので,そこだけは何としても越えないという,その視点でのチェックとか研究開発を並行してやっていただきたい。
 今回も別に壊れてさえいなければ,この前の「はやぶさ」みたいにリトライが利いた可能性があるわけです。やっぱりそこのところを,物事を見る優先順位をもう一度,先端科学技術であればあるほど,致命的な事故を起こさないという,この1点を強くやっていただきたいというのが私の希望です。

【佐藤主査】 こういう先端の大型科学プロジェクト全体を進めるためのシステムの体制の設計,それを今後深めていくことが必要とは思います。今回JAXAの方からまずは提案していただいていますので,それで進めていただければ十分だと思いますけれども,その後,やはりそれを深めること,しかも本当に先端大型科学プロジェクトの進める体制そのものの設計をするのだという思想でより深めることが必要だと思います。
 はい,どうぞ。

【木村主査代理】 先ほどの御意見すごく賛同しているというところは一つコメントした上で,少し細かい点について質問させてください。先ほど処遇とか専任化という話をされました。プロジェクトをマネジメントとすることを処遇しなければいけないとか,評価しなければいけないということが需要である点については賛成です。その一方で,キャリアとして,順次小さいものから訓練をしてそのレベルにしていくんだというような育てていく過程があるとおっしゃいました。どちらも僕は正しいと思うし,非常に重要なことなんだと思うのですけれども,それを両方並べて考えたときに,その人はキャリアパスとして,要は,マネジメントに専従するような人としてずっと歩んでいくようなことを考えられているんですか。
 というのは,先ほどの大学機関としての宇宙研というのと,そこの中で非常に優秀な方が,だからこそ集まるという性格がありますね。その中でずっと,例えば大型プロジェクトだと10年専従すると。その前にはそのレベルに行くための期間があってということになる。相当長いこと,あるいは,その人はマネジメントとしてずっと専従する事をキャリアパスとして固定する,そういうことをお考えなんでしょうか。

【JAXA(常田理事)】 宇宙機のプロジェクトマネージャ,これは宇宙機じゃなくても,我が国の大型プロジェクトのプロジェクトマネージャは皆さん大変だと思うんですけれども,宇宙の場合は,今先生からお話があったように,壊れて直せないという状況がありますので,非常に高い能力が必要とされます。それで,その高い能力が,教科書を読んだり,論文を書いたり,シミュレーションをしたりして身に付くかというと,それは,自分の経験に基づくことになりますけれども,なかなか難しくて,やはり基礎的な知識の下で現場経験を積んで初めて大きいプロジェクトのリーダーがやれるということになります。
 そうすると,若い頃は小さいプロジェクト,それは観測ロケットか気球か小さい衛星かというのはあると思うんですけれども,そこでやはり責任者をやってみて,それで1回やるともう山のように経験が積まれますので,その上でより大きなプロジェクトに行っていただきたい。これはスタンダードなやり方だと思います。やっぱりそういう小さいプロジェクトをやるときは,学術という面とマネジメントというのが分かち難くありますので,それの良い面もあって,全体システムを見てもらって,より大きいものに行くのが適当だと思います。
 それで,さっき言いましたように,それが最近,打ち上げ機会が大型化のために非常に減ってきたり,観測ロケットではなかなか良い研究ができなくなったりと,研究の高度化によるわけですね。そういう機会が少なくなったことによって,マネージャになるべき人の経験が積めないという課題があります。それは宇宙研は比較的いろいろな飛び道具がありますので,これからその辺を意識して,今のような理想像に近付くようにもう1回考えなければいけないというのがあります。
 それからもう一つ,先生が後半におっしゃった,そういう経験を積んでいって,最初は学術イコールマネジメントだったのが,より大きいプロジェクトに行ったときに,そのイコールがもうなくなってしまって,やっぱりマネジメントを中心にやるか,PI的な方でいわゆる学術研究をやるかというのはどこかで分かれるんだと思うんです。それを両方やろうとするという研究者の気持ちと,実際はやはりそれぞれの役割がかなり違ってくる中で,1人のキャリアパスとしたときにかなり分かれていかなければいけない面もあって,そこの識別といいますかあれが非常に,個人のレベルにおいても,組織のレベルにおいても,まだめり張りが付いていないといいますか,議論されていないというか,意識されていないというか,そういう面があると思います。
 多分先生がお聞きになったことはそういうことで?

【木村主査代理】 そうです。ありがとうございます。そうなると,だから,ある程度,先ほどの処遇の問題とかプロジェクトの専従の10年とかそういう範囲を超えて,そういう人を育てるというような仕組みみたいなものまで含めて,ある1人の人を見たときに,非常に長い期間を考えたものにならないといけないということですね。

【JAXA(常田理事)】 そうですね。

【木村主査代理】 分かりました。

【佐藤主査】 ありがとうございました。
 ほかはいかがでございましたでしょうか。
 一応92ページでまとめというのでまとめていただいておりますけれども,これをベースにして私たちのこの委員会としてもまとめはしませんといけません。1回目,2回目,かなり具体的なことに突っ込んでの議論もありましたし,きょうはまさに大型科学ミッションプロジェクトの進め方の本当により深いところについての議論もできましたし,小委員会として取りまとめの材料は大体そろっているのではないかと思うのですが,更に何か言っておきたいとかいうことがありましたらお願いしたいと思いますが,いかがでございましょうか。よろしゅうございましょうかね。
 それでは, 3回の小委員会を開催したわけでございますけれども,これまでの審議を通じて,JAXAが行ったASTRO-H異常事態に関わる異常発生メカニズムとその要因の分析につきまして,JAXAより子細な解析,データや背景まで踏み込んだ調査結果の提出を受けました。また,委員からの質疑にも丁重に真摯に御回答いただいております。十分な検討が行える合理的な説明もなされたJAXAの報告の内容は,基本的には妥当であるということではないかと思っております。
 また,本件の直接原因の対応をするための水平展開につきましては,本件に関する事項のある関係する4つのプロジェクトについても,開発分野に対する留意事項を明確にするとともに,その他の人工衛星については開発・運用への影響はないということも確認していただいております。小委員会としては,本件に対するJAXAの対応は妥当であると思われます。もちろん再発防止に関しましては,きょうまさに議論ありましたようなことが今後の大きな課題であることを十分認識して,それを求めることが我々の委員会としても必要だと思っております。
 ISASのプロジェクトマネジメント体制の見直し,ISASと企業との役割・責任分担の見直し,プロジェクト業務の文書化と品質記録の徹底,審査,独立した評価の運用の見直し,これらの四つの対策をJAXAの方から提示いただいたわけであります。背後要因,分析も踏まえて合理的な対策となっているとは思います。その内容についても,第1段階としては妥当なものという印象でございます。これはよろしいでしょうかね。
 これをもって小委員会としては,JAXAの報告内容の妥当性を一応確認できたと,大筋では,親委員会である宇宙開発利用部会の方にその方向で報告したいと思っております。
 なお,JAXAに対しては,今の審議においても,高度化する科学要求を受けたシステムの大型・複雑化への対応に当たって,開発及び運用の全体を通じた検証の結果,事業の運営の問題が明らかになってきたわけでございます。それがASTRO-Hの運用を断念という,極めて残念な結果になったわけでございますけれども,この責任を直視して,今後そのような事態が起こることのないように,得られた知見と報告書に掲げた対策を組織全体の資産としてこれを確実に実施し,宇宙開発の業務全体に亘って更なる信頼性と技術力の向上に努めることを強く望む次第でございます。
 次回の宇宙開発利用部会におきましては,ただいま申し上げた内容を,JAXAの報告書と併せて私の方から報告させていただきたいと思っております。提出資料の作成につきましては,主査の原案を作りますので,預かりとさせていただきたいと思っていますが,よろしゅうございましょうか。

(「はい」の声あり)

【佐藤主査】 もちろん作成した後,委員の皆様方に査読していただきまして,フィードバックをお願いするわけでございます。
 もしこれでよろしければ,この小委員会,終わりにしたいと思っております。ありがとうございました。
 では,JAXAにおきましては,本日まで真摯に対応していただきましたことに感謝申し上げたいと思います。報告を頂きました対策,水平展開内容につきましては,確実な実施をお願いしたいと思っております。

(2)その他

【佐藤主査】 それでは,事務局の方から連絡等ありましたら,お願いしたいと思います。

【奥野企画官】 事務局よりの連絡事項でございます。会議資料と議事録の公開につきましては,従前同様,文部科学省のホームページの掲載の方式をとらせていただきます。なお,議事録につきましては,公開に先立ちまして,委員の皆様に御確認いただくことになろうと思いますので,その点御協力よろしくお願いいたします。以上です。

【佐藤主査】 ありがとうございました。
 では,いろいろな委員の皆様,大変御苦労さまでございました。ありがとうございました。これで閉会とさせていただきます。

以上

(説明者については敬称略)

お問合せ先

研究開発局宇宙開発利用課