参考資料2 社会と科学技術イノベーションとの関係深化に関わる推進方策の論点

1.基本理念

○近年、欧米の科学技術政策においては、「責任ある研究・イノベーション(Responsible Research and Innovation:RRI)」が積極的に推進されている。
 現代社会において、社会や個人の活動も科学技術の成果に依存し、その発展の影響を正と負の両面において強く受けるようになり、社会と科学技術の相互作用が強まっている状況がある。例えば、ナノテクノロジー、人工知能技術、合成生物学などの新しい科学技術を社会が受け入れる際に、科学だけでは解決できない倫理的・法的・社会的課題などの様々な課題が伴っており、これらの解決が、社会にとって有用な科学技術イノベーションを実現するためには不可欠である。 
 我が国においても「責任ある研究・イノベーション」を社会と科学技術イノベーションの関係深化に当たっての基本理念として認識し、これに基づいた施策の方向性を示し、推進していくことが求められているのではないか。


2.基本的方針

○単に一人ひとりの科学技術に対するリテラシーの向上や知識・情報の共有を図るだけではなく、これまで以上に、組織的機能や人材育成などのコミュニケーション基盤を充実させるとともに、多様なステークホルダーが対話・協働により科学技術に対する社会的課題を解決する「共創(co-creation)・共治(co-governance)」の仕組みを強化していくことが必要ではないか。

○その際、技術の開発・実装も含めた「知識創造」(研究・イノベーション)と、その成果と社会・人間との調和を図る「ガバナンス」、科学者・技術者、政策立案者、他の多様な社会のステークホルダーの間の「コミュニケーション」(知識・情報の共有、対話・協働)は一体的に考える必要なのではないか。

○科学技術イノベーションの推進に当たっては、共創・共治の仕組みは、傍流又はは末端的なものではなく、重要な基盤あるいは前提条件の一部であり、必須と考えるべきではないか。

○「責任ある研究・イノベーション」とは
学術的には様々な定義の仕方があるが、ここでは「責任ある(社会と共に歩む)研究・イノベーションとは、科学技術・イノベーションが生み出す成果が、社会・人間にとって持続可能性、倫理的受容可能性、有益性等において望ましいものとなるように、科学者・技術者、一般国民も含む多様なステークホルダーの間で意見やアイデア、知識を交換し、互いの期待や懸念に応えあう「共創」と「共治」を基盤にした知識創造とそのガバナンスのプロセスである。」と捉えることとしてはどうか。

○科学者や研究者だけでなく他のステークホルダーも科学技術の新たな価値だけでなく、科学技術の不確実性やその限界の両面を理解し、活用し、社会と科学技術イノベーションの関係深化に伴い生じる問題を、自分自身の課題として主体的に捉え、「自分ごと」として解決に取り組むことで、共創・共治の担い手のひとりとして、それぞれの役割や責任を果たすことが必要ではないか。


3.推進方策を進めるに当たっての基本的な視座
 
○共創・共治のための「エコシステム」の醸成
 共創・共治をより継続的・自発的に活発化していけるようにするため、対話・協働を支援する組織的活動、人材資源及び情報・知識基盤などの充実を図ることが必要ではないか。
エコシステムの要素例
・施設、設備等のインフラ(ワークショップスペースや協働の作業場、大学、研究機関の研究設備の共用化等)
対話、協働を支援する組織的活動(日本版サイエンスワイズ)
情報・知識基盤(データベース、論文リポジトリ、論文検索システム、図書館、GreenFacts等。)
大学、研究機関からのアウトリーチ
担い手(職業/職能としてのファシリテーター、コーディネーター、科学技術コミュニケーター)

○オープン化への対応
 多様なステークホルダーによる政策形成や知識創造への参画を促すため、研究データの公開、異分野・異業種の対話・協働などの充実を図ることが必要ではないか。

○具体的な社会的・個人的文脈への位置づけ
 政策形成や知識創造の「インパクト」や「実効性」を高め、有意義なものにするため、コミュニケーションやELSI、テクノロジーアセスメントなどが政策形成、社会的意思決定、合意形成、知識創造などの具体的な活動と結びつく形で行われることが必要ではないか。

○上記のオープン化及び文脈化のような活動を実効性あるものにするために、エコシステムを醸成することが重要であると考える。

4.今後の社会と科学技術イノベーションとの関係深化における具体的な取組例
※研究者コミュニティ内の自律的規範としての性格が強い研究公正(research integrity)や研究不正への対応等に関する国のガイドラインは、本推進方策では扱わない。

(1)多様なステークホルダーの対話
1 政策や研究開発における多様なステークホルダーの参画促進に関する機能を持つ対話支援の組織的な機能を充実。
2 社会の中で多様な対話の場をつくり、政策や研究開発への参画に対する意識の醸成、日常化、緊急時に向けた準備のため、科学館、公民館、図書館等の社会教育施設における対話ネットワークを構築。

(2)ELSIへの対応及びリスクコミュニケーションの強化のための取組
1 研究開発プロジェクトの事前評価において、ELSIなどを踏まえたインパクトに対する考慮を評価項目として設けるとともに、プロジェクトの中でELSI研究等の推進。
2 ELSI研究等に係る研究成果や政策提言等を関係する政府機関等に媒介するための組織的な機能の充実
3 ELSI研究等の取組の実績を考慮する研究者評価

※ELSIへの対応には、ELSIに関する人文学・社会科学的な研究(ELSI研究)だけでなく、テクノロジーアセスメントも含む。また、これらの取組とリスクコミュニケーションの活動を総称して「ELSI研究等」という。

(3)人文学・社会科学・自然科学連携型取組の推進

(4)社会と科学技術イノベーションをつなぐ人材養成及び確保
1 職業としての科学技術コミュニケーターの養成及び確保
2 職能としての科学技術コミュニケーション能力や研究者の社会リテラシーの向上

(5)科学技術コミュニケーション活動の推進
1 研究活動の内容や成果について国民との対話を行う(アウトリーチ)活動の推進や科学館、公民館、図書館その他の社会教育施設における科学技術コミュニケーションの推進
2 国民の科学技術リテラシーの向上
3 市民参加型研究(シティズンサイエンス)の推進

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