核融合エネルギー開発の推進に向けた人材の育成・確保について(案)

資料2

第13回核融合科学技術委員会

平成30年3月28日(水曜日)


核融合エネルギー開発の推進に向けた人材の育成・確保について(案)

 

はじめに

 核融合エネルギーの実現には長期に亘る一貫した研究開発が必要であり、そのためには連続的かつ長期的な人材育成・確保が必須である。原型炉は核融合エネルギーの早期実現に欠く事ができない重要なステップであり、本報告書では特に原型炉段階へ移行するために必要な人材を育成・確保する上での課題と、必要な施策・取り組みについて取りまとめる。


1.本提言書の背景

  我が国の核融合原型炉に向けた研究開発は、平成17年10月に原子力委員会核融合専門部会が策定した「今後の核融合研究開発の推進方策について」[1]を基本的指針とし、平成29年12月18日には最新の研究開発状況を反映させた「核融合原型炉研究開発の推進に向けて」[2]が核融合科学技術委員会にて策定された。それらの中で人材育成の重要性が指摘されている。

  これ以前の「核融合エネルギーの技術的実現性、ITER計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」[3](平成12年5月17日、原子力委員会核融合会議開発戦略検討分科会)、「今後の我が国の核融合研究の在り方について」[4](平成15年1月8日、科学技術・学術審議会 学術分科会・基本問題特別委員会 核融合研究ワーキング・グループ)においても、それぞれの時代背景の下、ITERを始めとする核融合研究開発を担う人材像の分析や確保方策の提示と見通しの評価などがなされた。ITER機構が発足し、幅広いアプローチ活動が開始された平成19年には、「ITER計画、幅広いアプローチをはじめとする我が国の核融合研究の推進方策」[5](平成19年6月27日、科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 原子力分野の研究開発に関する委員会 核融合研究作業部会)として、ITER計画1-1及びBA活動1-2に対する我が国の推進体制の構築と国内の重点化研究の推進について方策が取りまとめられ、その中で幅広い学術・技術を有する人材の必要性と、国内研究の一層の強化とそれを通じた人材育成の重要性が示された。人材育成については、「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」[6](平成20年7月、核融合研究作業部会)にて更に検討が深められ、短期・中長期に分類した課題と行うべき施策がまとめられた。

  核融合コミュニティにおいては、平成18年、平成28年に核融合ネットワークによって大学での核融合研究の動向が調査され、「核融合分野人材育成に関するアンケート・集計結果(以下、「人材育成アンケート」)」[7]として、学生や教員数、研究・教育の実態について報告されている。平成19年にプラズマ・核融合学会によって「ITER時代」での学術研究の意義と役割について、「核融合を発展させる学術研究のあり方(アピール)」[8]がまとめられ、人材育成に対するコミュニティや学会の役割が述べられている。平成20年6月には、文部科学省研究開発局からの依頼により、核融合エネルギーフォーラムITER・BA 技術推進委員会下にロードマップ等検討ワーキンググループが設置され、ITER計画、BA活動、トカマク原型炉を進めるための人材育成や確保に関して、当時の各研究分野の人員数や年齢構成、及び将来必要とされる人員数が調査・分析され、人員確保計画が検討された「トカマク型原型炉に向けた開発実施のための人材計画に関する検討報告書」[9]がまとめられている。

  平成20年の「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」策定後、ITER計画及び、BA活動が着実に進展するとともに、新たな課題も浮き彫りになってきている。平成27年6月には産学官のオールジャパン体制により原型炉開発の技術基盤構築を進めることを目的とした「原型炉設計合同特別チーム」が結成され、原型炉設計がオールジャパンで本格的に開始されて新たな人材像と実施体制が求められている。それらの人材育成の起点となる大学での核融合研究について、平成28年2月の人材育成アンケートでは、平成18年度に実施したアンケート結果と比較し、博士課程進学率の低下や教員の高齢化、大学での核融合研究へのウエイト低下に対して警鐘が鳴らされるとともに、大学間を横断した教育プログラムの提案などがなされた。これらの背景の下、核融合科学技術委員会は最新の研究開発状況や要請を考慮し、人材育成・確保に関する課題と実施が望まれる施策まとめるべきと判断し、ドラフトチームを組織して提言書を作成することとした。ドラフトチームでは作成に当たり、原型炉開発総合戦略タスクフォースに依頼して、原型炉開発研究をアクションプランに沿って進めるために必要な人員数を評価するとともに、大学や研究開発法人等の研究機関や産業界に対し核融合研究開発に関わる現在の教員数、研究者数、技術者数、学生数、及びその研究分野と年齢構成について調査を実施し、今後育成・確保すべき人員数を認識した上で施策を検討した。


2.核融合エネルギー開発とそれに求められる人材

2.1.原型炉の開発

-現在最も開発段階の進んだトカマク方式を原型炉の炉型として、実現に必要な技術課題の達成がコミュニティ全体の共通目標として定められている。


-アクションプランに示された技術課題を達成し、原型炉に向けた技術基盤を構築するためには、ITER計画・BA活動を大きな柱としつつ、オールジャパン体制にて総合的に研究開発を推進する事が必要である。

-一方で、研究開発の加速と技術の深化には、開発研究と並行して、それを要素還元して体系化・普遍化する学術研究が重要であり、更には開発研究と学術研究の融合を図り、炉設計の信頼性を高める「知の循環システム」を構築することが重要である。


2.2. 求められる人材

-核融合炉で必要となる技術は、高度でかつ広範囲に及ぶ。核融合炉は様々な技術を有機的に統合させた巨大で複雑なシステムである。そのため、個々の技術を開発する基礎力と課題解決に導く高い専門性、及びそれを実践する技能を持つ幅広い分野での人材が求められる。また、核融合炉としてのシステム構築をするため、全体を俯瞰する広い視野を持ち、個々の技術を統合する能力も求められる。


-ITER計画・BA活動はいずれも国際プロジェクトで実施されており、またこれ以外にも多くの国際協力の枠組みがある。さらに原型炉開発も一部国際協力で行われることが想定される。研究機関・大学、産業界の人材に、国際プロジェクトでリーダーシップを取ること、創造的な仕事が遂行できるための国際共創力を有することが求められる。


-核融合が国民に選択され得るエネルギーとなるためには、社会との連携活動を強力に推進する必要があり、社会への分かりやすい説明を行うアウトリーチ能力、科学技術・リスクコミュニケーションを含めた対話能力、及び社会の情勢を的確に分析する人文社会科学の知見を持つ人材が不可欠である。


2.3. 人材育成を取り巻く環境

-原型炉開発総合戦略タスクフォースの見積もりによれば、アクションプランを実施するには、学術研究、ヘリカル形式、レーザー形式をも含む現在の核融合研究者総数の数倍の人員が必要である。産業界でも、将来必要とされる人員数と、現在主に核融合開発に携わる人員数には大きな隔たりがある[10]。


-平成18年、28年に実施した人材育成アンケートにより、現在プラズマ研究全体の修士課程学生総数は増加傾向であるものの、博士課程学生総数は横ばいからやや微減傾向にあることが報告されている。博士課程進学は、修士課程学生との比でみると、平成18年調査では6~7人に1人であったものが、平成28年では10人に1人と低下したことが示されている。


-人材育成アンケートでは、大学での核融合研究の動向も調査されており、プラズマに関する研究室・研究グループにおける核融合研究のウエイトは、28年調査では18年調査よりも低下している。28年にはウエイトが20%未満である研究室・研究グループが全体の3割程度に上っている。雑誌掲載論文数は年間500~600件でほぼ横ばいであるが、核融合分野の割合は18年調査から引き続き28年調査でも低下傾向を示し、6割を割り込む年もあった。一方、プラズマ応用の論文が増加傾向にあり、大学でのプラズマ研究に占める核融合研究のウエイトは減少し、他分野での研究にシフトする傾向がみられる。


-産業界での人材育成は、実際の核融合施設建設で技術開発して経験を積む、On the Job Training(OJT)が中心となる。開発した技術はLHD2-1やJT-60SA2-2の建設、ITERの技術開発に関わった技術者から、新規の装置建設や原型炉に向けたR&Dを通して次の年代へOJTで継承することになる。産業界での人材育成は、大型装置からの継続的な発注によってなされる。


-わが国はITER計画において「準ホスト国」であると同時に、LHDやJT-60SAなど大型核融合実験装置の製造・組立・運転における最新の技術・経験を有し、ITER組立に必要不可欠として、国際的に大きな貢献が期待されている。ITERは原型炉に向けた人材育成の最大のプラットフォームであるが、ITER機構における日本人職員数割合は、約4%という低い割合に留まっている。


-多くの人材が核融合開発研究に参画するためには、長期ビジョンを示すロードマップの提示が必要である。ロードマップは産業界の核融合研究開発への参画計画、人材育成・確保計画を立てやすくする。核融合科学技術委員会 原型炉開発総合戦略タスクフォースでは、平成30年2月27日より原型炉開発ロードマップの策定について審議を開始した。


3.望まれる人材育成・確保環境と課題

-長期的な計画に基づいて原型炉開発を進めるためには、それを担う人材を継続的・安定的に育成・輩出し、その人材を確保してさらに育成する環境を整えなければならない。

・大学・大学院には、核融合及びその関連分野を専攻する人材を育成し、研究開発機関や学術界、産業界など各界に輩出することが求められる。この改善のために、学生の興味と進学意欲を喚起する取り組みを実施し、それによって博士課程学生数を増加させることが求められる。その上で、大学教育・研究を活性化して、高度な人材を育成することが必要である。そのためには、大学における核融合研究のための基礎研究環境の維持・充実を図らなければならない。

・国家プロジェクトとして進行中のITER計画やBA活動などの国際的開発研究は、国内の学術研究や民間も含む技術開発研究とも連携させ、知の循環システムとして互いに発展させることが重要である。また、これらの活動は人材育成の面でも極めて重要なプラットフォームであり、大学・研究開発機関・産業界いずれからもそれを有効かつ戦略的に利用すべきである。

・核融合研究開発に関与する人員の増加及び継続的・安定的な人材輩出を実現するためには、子供を含む広い世代で、核融合研究開発への興味の喚起と研究の重要性の理解を広く促すことが必要である。将来核融合研究を担う人材の潜在的確保、他分野からの人材参入の促進、他分野への波及効果に繋がり、コミュニティの維持拡大上でも重要である。これはコミュニティ全体の課題であり、アクションプランに示されたアウトリーチヘッドクォーターを設置し、産学官の組織の枠を超えて具体的な対策を講じる必要がある。


-これらの人材育成・確保の環境を整える上の課題として、

i.【大学院教育】人材育成の起点として、また基礎研究環境の維持・充実を図る観点から、総合工学である原型炉開発を牽引するため、広範で多様な専門分野を習得する大学院教育プログラムや、ものづくり・システム統合を経験するための産学の連携

ii.【人材流動性】知の循環システムを創生する観点から、ITER機構を含む、産学で広範囲な人材流動性構築と、魅力的なキャリアパスの確立

iii.【アウトリーチ】即戦力、及び将来の人材を確保する観点から、アウトリーチなどの社会連携活動

が挙げられる。


4.課題解決のため期待される具体的な取り組み 上記のi から

iiiを小課題に分類した上で、それらを解決するために実施が期待される具体的な取り組みを以下に示す。喫緊で取り組むべき小課題及び早期に開始するものの長期的に取り組む小課題として、それぞれ(喫緊)及び(長期)と記す。また、実施が期待される主体も記す。

i.【大学院教育】

i -1. (喫緊) 柔軟な履修制度等による、一専攻や一大学に留まらない分野横断的で全日本的な大学院専門教育。システム工学などへの産業界の寄与。

[具体的な取り組み]

-大学間で連携した総合的な核融合教育システムの構築(大学)

日本では世界的にも第一線の著名研究者が各大学等に在籍する一方、それらの大学等が日本全国に分散しているために各大学等の核融合研究・教育は比較的小規模に行われていることが多い。そのような状況の下でも、各大学等で強みや特色のある研究教育を打ち出し、これまで多くの人材が輩出されてきた。しかし、原型炉は総合工学であるため、その開発を牽引する人材は核融合技術を俯瞰的に見ることが、これからは必要となってくる。そのような幅広い知見の基礎となる大学院教育を実施するには、各大学等の強みや特色は活かしつつ日本全国の研究者が連携して実施する、質の高い総合的な核融合教育システムの構築が期待される。


-大学院教育と国内外の大型装置との連携促進(大学、研究機関、JADA)

LHDやJT-60SA、激光XII号4-1などの国内大型装置や、ITER等の海外大型装置と大学の連携促進を期待する。NIFSでは大学共同利用研究員制度4-2、連携大学院制度4-3、大阪大学レーザー科学研究所は共同利用・共同研究拠点としての制度が既に整備されており、必要に応じてより有効に利用されるための制度の見直し・拡充を実施することが望まれる。QSTでは共同研究、実習生や連携大学院生の受け入れなどの制度があり、これらを通じたさらに柔軟な大学院受け入れのための環境整備が望まれる。これら装置では、共同利用のほか、学生の実習受け入れ等も貴重な経験の機会となる。また、卓越大学院構想4-4等による大学・研究機関の枠を超えた強固な連携の枠組みを構築するための制度整備を全日本的に推進することが望まれる。ITER計画では学部学生、修士課程学生、博士課程学生それぞれに応じたインターンシップ制度があり、定期的に大学生・大学院生への周知を行い、積極的な利用を促すべきである。


-大学院教育や大学での若手育成と連携した原型炉開発研究(国、研究機関、大学)

現在、原型炉設計合同特別チームを中心に原型炉設計が行われており、公募型の共同研究が始まっている。共同研究は大学院生や大学の若手研究者が原型炉設計に携わる格好の機会となるため、大学からの応募や採択後の共同研究がより効果的・効率的に実施できるよう、ファンディングや実施体制などを柔軟に見直すことが重要である。なお、大学からの参画を促すためには、大学で評価される公募テーマ設定や予算執行制度に留意が必要であるとともに、大学での評価項目を見直す必要があるかもしれない。


-産業界と連携した大学院教育(大学、産業界)

企業でものづくりを経験した技術者らによる大学院教育への協力と、企業側にもメリットがある仕組み作りを行うことが期待される。具体的には、原型炉設計を進めるにあたり、現場経験が豊富なメーカーの技術者、またはOBをクロスアポイントメントなどで雇用するなどし、大型プラントの設計から建設に至る工程や個別の要素技術開発及びそれらの統合技術など、システム工学をメーカーの視点から大学院生が学ぶことができるカリキュラムを設けることが望ましい。これにより、講義や演習などを通し、大学院生がメーカーでの仕事を理解して博士号取得後に産業界へ進むきっかけとしたり、キャリアパス検討の支援、相互交流によって就職の機会となったりすることも期待できる。産業界の人材を大学で雇用するについては、協力関係を継続的に維持するためにそれぞれの事情を考慮した雇用形態が必要であり、柔軟な制度設計を行うことが望ましい。


-学生・若手向けの研究会等の企画(学会、大学、研究機関)

プラズマ・核融合学会夏の学校や総研大夏の体験入学、NIFSプラズマフロンティア研究会、QST若手科学者によるプラズマ研究会など学生向けの各種研究会を利用した、実習を含む様々なトピックを受講するような機会の創出が期待される。このような企画に対しては、様々な分野の研究者が所属する学会の果たす役割が大きい。これまでの活動に関して学会を中心に連携強化を図り、必要に応じて発展的に統合させつつ、学会による全日本的学生教育を活性化することが期待される。


-企業・大学院生のマッチングの機会創出(学会、大学、研究機関、産業界)

核融合の博士号取得者が、核融合分野だけでなく広い分野において産業界でも活躍できることは、核融合の博士課程への進学者数を増やす上で重要である。博士号取得者が企業で採用されるためには、両者のマッチングが最も重要であるが、現在はマッチングを探す機会が極めて少ない。そのため、学会や核融合エネルギーフォーラムが企業と学生のマッチアップの場を提供するとともに、学会などが中心となり、ITERやJT-60SAの機器製作受注企業での核融合機器開発等へのインターンシップを企画し、企業と学生のマッチアップの機会を作ることが期待される。これは企業での研究開発の場を知る上でも有益と考えられる。


i-2. (長期) 大学と研究機関・産業界が連携した大学院教育による人材の安定輩出の仕組み構築。国内外の研究機関の大型装置、ITER計画・BA活動も有効利用することも期待される。核融合を専攻した学生が研究機関や企業にて核融合分野で活躍するとともに、総合工学の強みを活かし、より広い分野で活躍して我が国の科学技術を向上させるための裾野の広い出口戦略。

[具体的な取り組み]

-興味やテーマに応じて、大学院生が民間企業も含めて組織横断的に研究を実施しやすい雰囲気を醸成し、大学院生の教育や研究テーマの選択肢になりやすいようにすることが重要である。そのためには実施例を増やし、かつ成果を挙げることが必要となる。

-核融合原型炉のプラント建設には多彩な人材が必要であり、各個人も特定な専門スキルだけでなく、幅広い能力が求められる。アカデミアやメーカーでの核融合関連部署ではなく、他分野に進んで活躍することを想定したカリキュラム内容の設定が望まれる。


ii.【人材流動性】

ii-1. (喫緊) ITER機構日本人専門職員数の増大

[具体的な取り組み]

-階層ごとの人材派遣制度の設計(国、研究機関)

大学院生からシニアに至るまで、ITER計画に短期及び長期で参画する多様な仕組みをQST・NIFSを中心に制度設計を行う必要がある。制度設計には、建設期・運転期で求められる人材が異なることに留意して、大学院生、若手、中堅、シニア、OBとで階層毎の戦略を立てることが重要である。大学院生はインターンシップ、若手はpostdoctoral fellowship、中堅はITER Project Associate4-5、シニアはITER Scientist Fellow4-6など、現在ITER機構が整備している制度を最大限利用してITER計画に参画することを促すとともに、その後ITER機構の職員採用へ応募するような働きかけも行うべきである。ITER建設をリードする様々な人材を確保する観点から、OBも含む経験豊富なメーカーの人材の活用も検討すべきである。


-国内ポジションを維持するなどの柔軟な派遣制度(国、研究機関、産業界)

上記人材派遣制度を検討する上で、本人と所属機関に不利益にならないための支援措置を講じる必要がある。建設段階の現在のITER計画では、特にプラント設計・建設などに習熟した、経験豊富なメーカーの技術者が必要とされているものの、日本の雇用形態では任期があることから本人も所属機関にとっても参画しにくい。そのため、国内所属機関でのポジションを維持しながら派遣するなど、技術者が参画しやすい柔軟で多様な制度設計を進める必要がある。任期終了後のキャリアパスに配慮することは、ITERで得た貴重な知見・経験を国内の原型炉設計を始めとした我が国の核融合開発研究にスムーズに活かす上でも重要である。


-ITER機構職員公募の効果的な広報(JADA)

他分野の即戦力を利用するためには効果的な広報が必要であり、ITER機構職員の公募を国内に広くアナウンスするとともに、多くの人の興味を引く発信に努めることが期待される。

ii-2. (喫緊) BA活動や原型炉設計活動への大学、NIFS、産業界の参画促進

[具体的な取り組み]

-クロスアポイントメント制度等の整備(大学、研究機関、QST)

現実的で使い易いクロスアポイントメント制度4-7の整備や協定締結などにより、国内外の機関間で研究者や技術者の流動性を高め、BA活動や原型炉設計活動への参画が促進されることが期待される。炉型が異なっても原型炉設計は共通点が多いため、特別チームへ産学が参加し易い連携体制を構築し、オールジャパン体制での人材活用を図るべきである。


-特別チームに参画する企業の拡大(国、QST)

原型炉建設のためには、実用時における適切な経済性の見通しが提示されなければならない。従って、原型炉では現実的なコストを意識した設計をする必要があり、そこには重電重工メーカー、プラントメーカー技術者の直接の寄与と経験・知見を十分に取り入れることが不可欠となる。そのため、特別チームに参画する企業の拡大を図る必要がある。


ii-3. (喫緊) 他分野と核融合分野間での流動性の促進

[具体的な取り組み]

-関連分野、関連プロジェクトとの連携(大学、研究機関) 関連する大型プロジェクトと共同研究を実施し、それを通じて他分野から核融合研究への参画促進が図られることが期待される。また、放射線や安全基準策定などで多くの共通点がある原子力分野との人材交流を実施し、核融合分野へ経験者や即戦力となる人材の参入を促すことが期待される。


ii-4. (長期) 多様なキャリアパスの提示

[具体的な取り組み]

-キャリアパスの追跡調査(学会、大学、研究機関、産業界) 個人がキャリアを選択する際には、先人がどのようなキャリアパスを通ったのかが重要な判断基準になると考えられる。上記喫緊の取り組みにより人材流動性が促進されると、多様なキャリアパスが創出されることが期待できる。キャリアパスの追跡調査を行いデータベース化して提示することで、キャリア選択時の判断に資することが期待できる。


iii.【アウトリーチ】 iii-1. (喫緊) 戦略的なアウトリーチ活動の展開

[具体的な取り組み]

-アウトリーチヘッドクォーターの設置と活動推進計画の立案(国、研究機関、大学) 従来大学や研究機関が個別に行っていたアウトリーチ活動を統合して、核融合研究開発全般に関するアウトリーチを行うアウトリーチヘッドクォーターを創設し、活動推進計画を立案する。ヘッドクォーターは関係機関や学協会と連携して、独自の企画で国内研究やITERなど、核融合研究の進展を広く社会にアピールすることを期待する。推進計画の立案では、SNSの利用や双方向のコミュニケーションなどの選択肢も含め、現代に合ったアウトリーチの在り方を検討すべきである。


iii-2. (長期) 社会への広い興味の喚起と、将来核融合研究開発に携わる人材と成り得る母数の拡大

[具体的な取り組み]

-アウトリーチ活動の推進と社会連携活動の実施(国、研究機関、大学) 推進活動計画に基づき、幅広い世代が興味を持つコンテンツを拡充してアウトリーチ活動を推進することを期待する。そのため、関係機関だけでなく、広告会社などの利用や科学コミュニケーターの雇用も検討すべきである。核融合人材となる確立が高い、大学学部、高専、特にスーパーサイエンスハイスクール(SSH)高を始めとする高校での個別の広報活動を更に活発化させることも期待される。


-教科書や副読本へ核融合エネルギーの掲載の働きかけ(大学) 大学選択時、及び研究室配属時に核融合が選択されるため、初等~高等教育の教科書や副読本へ核融合エネルギーに関する掲載を働きかけることが期待される。


出典

[1] 「今後の核融合研究開発の推進方策について」(原子力委員会核融合専門部会、平成17年10月)http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/kakuyugo2/siryo/kettei/houkoku051026/index.htm

[2]「核融合原型炉研究開発の推進に向けて」(核融合科学技術委員会、平成29年12月18日)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/074/houkoku/1400117.htm

[3]「核融合エネルギーの技術的実現性、ITER計画の拡がりと裾野としての基礎研究に関する報告書」(原子力委員会核融合会議開発戦略検討分科会、平成12年5月17日)

http://www.aec.go.jp/jicst/NC/senmon/old/kakuyugo/siryo/siryo136/siryo2.htm

[4]「今後の我が国の核融合研究の在り方について」(科学技術・学術審議会 学術分科会・基本問題特別委員会 核融合研究ワーキング・グループ、平成15年1月8日)

https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu4/toushin/1213875.htm

[5]「ITER計画、幅広いアプローチをはじめとする我が国の核融合研究の推進方策」(核融合研究作業部会、平成19年6月27日)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/017/gaiyou/1286888.htm

[6]「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」(核融合研究作業部会、平成20年7月)https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/017/gaiyou/1286893.htm

[7]「核融合分野人材育成に関するアンケート・集計結果」(核融合ネットワーク) 平成18年:http://f-net.nifs.ac.jp/061226.pdf 平成28年:http://f-net.nifs.ac.jp/20160408_001.pdf

[8]「核融合を発展させる学術研究のあり方(アピール)」(プラズマ・核融合学会、平成19年6月8日)

http://www.jspf.or.jp/news/file/appeal07.pdf

[9]「トカマク型原型炉に向けた開発実施のための人材計画に関する検討報告書」(核融合エネルギーフォーラム、平成20年)http://www.fusion.qst.go.jp/fusion-energy-forum/files/member/iter_ba/4_jinzai.pdf

[10] 「原型炉開発に今後必要な人員数と現在の人員数の比較」https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu2/074/shiryo/__icsFiles/afieldfile/2017/12/28/1399735_008.pdf

用語集

[1-1] ITER 計画 ITER 計画は、核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するために、 2025年の運転開始を目指し(2016年6月ITER理事会で決定)、日本・欧州連合(EU)・ロシア・米国・韓国・中国・インドの 7 極により進められている大型国際プロジェクト。参加各極が機器を分担して製作し、ITER機構が納入された機器を統合して核融合実験炉ITERを建設する物納方式を採用。現在、フランスのサン・ポール・レ・デュランスで建設が進められている。

  [1-2] BA 活動 幅広いアプローチ(Broader Approach:BA)活動の略。2007 年、日欧はBA協定に署名し、ITER 計画を補完・支援するとともに原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的研究開発プロジェクトを BA 活動として開始。BA 活動では、国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業及び国際核融合材料照射施設の工学実証及び工学設計活動(IFMIF/EVEDA)事業が青森県六ヶ所村にて、サテライトトカマク(JT-60SA)計画事業が茨城県那珂市にて行われている。

※正式名称は、「核融合エネルギーの研究分野におけるより広範な取組を通じた活動の共同による実施に関する日本国政府と欧州原子力共同体との間の協定」

[2-1] LHD 大型ヘリカル装置(Large Helical Device: LHD)は、自然科学研究機構核融合科学研究所のヘリカル方式の超伝導プラズマ閉じ込め実験装置である。定常高温高密度プラズマの閉じ込め研究を行い、将来のヘリカル型核融合炉を見通した様々な視点から学術研究を推進している。 [2-2] JT-60SA JT-60SAは、量子科学技術研究開発機構核融合エネルギー研究開発部門那珂核融合研究所にて建設を進めている超伝導トカマク装置である。国際熱核融合実験炉(ITER)計画を補完・支援する幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライトトカマク計画と、トカマク国内重点化装置計画の合同計画である。

[4-1] 激光XII号 激光XII号は、大阪大学レーザー科学研究所にある大型レーザー実験装置であり、1983年の完成後、従来の方式よりも効率が良い高速点火方式を始めとするレーザー核融合研究や、高エネルギー物理研究が展開されている。

[4-2] 特別共同利用研究員制度 国内外の大学院学生を対象に、大学院学生の所属する大学院研究科からの委託を受けて、一定の期間、特定の研究課題に関して研究指導を行う制度。

[4-3] 連携大学院制度 学術交流協定に基づき、研究所職員が各大学に出張して集中講義等を実施する制度。

[4-4] 卓越大学院構想 新たな知の創造と活用を主導し、次代を牽引する価値を創造するとともに、社会的課題の解決に挑戦して、社会にイノベーションをもたらすことができる博士人材を育成することを目的とした制度。

[4-5] ITER Project Associate ITERプロジェクトアソシエイトは、ITERにて参加極から幅広く専門家を受け入れる制度であり、任期は概ね4年以下となっている。

[4-6] ITER Scientist Fellow ITERサイエンティストフェローは、ITERでの特定のテーマの専門家を募集し、ITER機構と参加国の合意を得て指名される制度である。

[4-7] クロスアポイントメント制度 クロスアポイントメント制度とは、研究者等が大学、公的研究機関、企業の中で、二つ以上の機関に雇用されつつ、一定のエフォート管理の下で、それぞれの機関における役割に応じて研究・開発及び教育に従事することを可能にする制度。

※上記の用語集は、個別に出典を明示したもののほか、以下のホームページの情報を参考にさせていただきました。 ・ATOMICA ・一般社団法人プラズマ・核融合学会 ・経済産業省 ・核融合科学研究所 ・量子科学技術研究開発機構 ・大阪大学レーザー科学研究所

お問合せ先

研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付

石原、類家
電話番号:03-6734-4163
ファクシミリ番号:03-6734-4164

(研究開発戦略官(核融合・原子力国際協力担当)付)