内田委員プレゼンテーション資料

京都大学こころの未来研究センター
内田 由紀子

1 リスク議論を可能にする文化的基盤の形成

可能性を述べるリスク情報は、発生してしまった危機であるクライシス情報とは異なっている。しかし、特に日本においてはリスク情報=クライシス情報と誤解して、過剰な反応をする、あるいは、リスクについて語り合うことが許されないという文化・社会的な土壌がある。このような土壌の変化なしに、リスクコミュニケーションは成り立たない。特に企業や政府自治体などには常設的な「リスク管理」チームを形成し、リスク情報の発信を行うことを積極的に促すことで、あらたな文化・社会的な基盤の形成を進めてもらう必要がある。一方で、現状の日本社会に適合した日本型リスクコミュニケーションのあり方について検討を進める必要がある。借り物のスタイルではうまく機能しない可能性がある。

2 リスクファシリテーターの育成

リスクの分配等についての「手続き的公正」を考慮して発信できるファシリテーターの人材育成が重要。特に、リスク情報の受け手が、リスク情報の送り手に対して、事実を正確・中立的に、かつ、受け手に配慮しながら伝達をしていると認知することが重要であるとされている。リスクファシリテーターは、専門的知識の提供のみならず、コミュニケーション能力および様々なステークホルダー間の連携調整を行うコーディネーター機能を有する専門化手段であることが望ましい。

3 リスク情報判断の難しさに対する配慮の土壌形成

意思決定を個人に任せることも必要ではあるが、一方で意思決定は純粋に「個人の客観的判断」にはなりえず、ともすればセンセーショナルな情報に流され、判断の客観性を見失ったままに群衆的行動を招く事態もある。リテラシー教育も重要であるが、それだけではなく、マスメディア等との連携も必要である。特に複雑な事象については、理解の難しさゆえ、言い切り型(1か0か)の専門家の意見に左右されることにつながりかねない。グラデーション的リスク情報受け入れのリテラシー形成とともに、ともすれば言い切り型な意見を取り上げてしまいがちなメディア関係者との連携基盤の醸成が待たれる。また、直接的なリスク情報の入手可能性が低い(公式発表も部分的にしか報道されず、フィルターがかかる)という状況の改善も必要である。

4 最終的に目指す意思決定についての議論

リスク情報に対峙し、何らかの意思決定を行う際にそれをどのような手続きで行うか。多数決的判断が正しいとも限らないし、そのときの判断の成否が後に問われることもある。合議的な意思決定の際のゴール(どうあるべきか)についても日常的に議論しておく必要がある。

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