平成27年4月14日(火曜日)15時00分~17時00分
文部科学省15F特別会議室
小林 傳司 主査、片田 敏孝 委員、河本 志朗 委員、田中 恭一 委員、田中 幹人 委員、奈良 由美子 委員、原田 豊 委員、藤垣 裕子 委員、三上 直之 委員、山口 健太郎 委員
川上伸昭科学技術・学術政策局長、片岡洋科学技術・学術政策局人材政策課長、神田俊一科学技術・学術政策局人材政策課課長補佐
説明者:科学技術振興機構科学コミュニケーションセンター企画・研究グループ 藤田尚史調査役、大阪大学コミュニケーションデザイン・センター 平川秀幸教授、科学技術振興機構社会技術研究開発センター企画運営室長 津田博司室長 オブザーバー:科学技術振興機構社会技術研究開発センター企画運営室 前田さち子調査役
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
安全・安心科学技術及び社会連携委員会(第7回)
平成27年4月14日
○開会の後、議題1及び議題2。人事案件のため非公開。
【小林主査】 それでは、委員会の発足に当たり、科学技術・学術政策局長から一言御挨拶を頂きたいと思います。よろしくお願いいたします。
【川上局長】 第8期の科学技術・学術審議会が始まったわけでございまして、安全・安心科学技術及び社会連携委員会、今期につきましても是非活発な御議論をお願いしたいというふうに思うわけでございます。
この中では、言ってみれば2つの話がありまして、1つは安全・安心科学技術。我々の武器としてはJSTのRISTEXの活動が中心になるわけでございます。それに加えて社会連携委員会という、いわゆる社会とどのように科学技術を進めていくかという、科学技術の政策で言うと新しい分野です。この分野について是非、発展をさせていくことを考えていきたいと思うわけでございます。
いずれにしましても、これから2年の期間でありますし、目前にありますのは第5期の科学技術基本計画になります。第5期の科学技術基本計画につきましては、第7期の間に総合政策特別委員会を作って中間取りまとめまで、第5期の在り方についてまとめているわけでございますけれども、最終報告を今年の夏から秋ぐらいにかけて作り、それも総合科学技術・イノベーション会議に向けて主張していきたいと思っています。そういう観点からすると、まずはクラウチングスタートで、夏ぐらいをめどに、何か考え方を具体化していただいて、それからまた、更に第5期科学技術基本計画が始まりまして、第5期においてそれを具体的にどう進めていくかという、何段階かの御議論を当面お願いすることになると思いますので、よろしく御協力のほどお願いをいたします。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、私からも一言御挨拶させていただきます。
今回の会議は第7回とはなっておりますが、第8期の一回目に当たるそうでございまして、第7期で皆様と御一緒したのは御記憶のとおりでございまして、そのときは堀井主査の下で私は主査代理をしておりました。そのときにはリスクコミュニケーションの推進方策についての御議論を頂いたと思います。そこで一応の成案を出して、研究プロジェクトの公募なども行うことができたわけですが、今回は、今、川上局長からも御説明がありましたように、科学技術基本計画の第5期を作るというタイミングと結び付いているわけでございます。そして、その中では、やはり社会との関係を強化して科学技術イノベーションを深化するというのは非常に重要なテーマになっているというふうに伺っております。また、海外でも、ヨーロッパのHorizon2020などを見ておりましても、科学技術のイノベーションというものが社会にとって極めて重要で、しかもそれがヨーロッパの文脈で言いますと、オステリティー(緊縮)とクライシス(危機)という言い方をしておりまして、緊縮財政と危機の中でイノベーションこそが道を切り開くための重要な方策であるという、そういう議論の下で科学技術政策がイノベーション政策として展開されています。
そして、もう一つの重要なポイントは、そのときに社会との連携というのが、これからの科学技術の研究にとっては極めて大事だということが強調されており、その意味では10年ほど前とは、社会との関わり方のニュアンスが変わってきたような気もいたします。その辺りはこの委員会できちんと議論をして、最近言われているオープンサイエンスとかにまで視野を広げたような議論をここでしていくことができれば非常に良いレポートができるのではないか、そして、それが基本計画に反映されればというふうに願っておりますので、委員各位、是非御議論をよろしくお願いいたしたいと思います。
以上でございます。
では、奈良主査代理からも一言お願いいたします。
【奈良主査代理】 失礼いたします。主査代理を拝命いたしました奈良でございます。どうぞよろしくお願いいたします。
私は、こちらの委員会が、まだ安全・安心科学技術委員会という名前であった頃から委員をさせていただいております。これまでの議論を振り返ってみますと、社会というキーワード、概念を用いて議論を行うことが非常に増えてきたなということを肌で感じております。これは現実を照らしてみると当然のことかもしれません。今、局長がおっしゃったように、また、主査がおっしゃったのですが、社会を論じるときには科学技術抜きには語れない。逆に、科学技術を語るときにも社会や国民の生活抜きには考えることができない。そういったことが非常に顕著になってきている。とりわけこの傾向は3.11の後、更に色合いを濃くしているように思います。
前回の第7期の安全・安心科学技術及び社会連携委員会では、リスクコミュニケーションについて議論を皆さんといたしました。今回の第8期では、更に社会というキーワードに重きを置いた議論になっていくかと思います。是非、皆様と有意義な議論ができればと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、次に議題の3に参ります。今後の調査検討事項についてでございます。事務局から安全・安心科学技術及び社会連携委員会の取組について御説明願います。
○資料3に基づいて事務局から説明。
【小林主査】 ありがとうございます。
それでは、ただいまの説明について御質問等ありましたらお願いいたします。
特にございませんか。
基本的に今回は社会と科学技術イノベーションとの関係深化に関わる推進方策というのがメーンディッシュといいますか、主として取り組むという位置付けで運営していくということで、御了解いただいたものといたします。ありがとうございます。
それでは、次に参りまして、もう1枚の紙です。議題の4、社会と科学技術イノベーションとの関係深化、今申し上げた今期の中心テーマでございますが、その関係深化に関わる推進方策についての議論を頂きたいと思います。議論を進めていくに当たり、委員の間での現状の課題などを共有するために、事務局からは科学技術基本計画の変遷、それからJSTの科学コミュニケーションセンターからは、科学コミュニケーションセンターのこれまでの取組、そしてその後、大阪大学の平川教授から、責任ある研究、イノベーションの考え方と海外動向について御説明を頂きます。
それでは、片岡課長、よろしくお願いいたします。
○資料4-1に基づいて事務局から説明。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、引き続いて、科学コミュニケーションセンターの方から御説明をお願いいたします。
【藤田調査役】 それでは、科学コミュニケーションセンターのこれまでの取組ということで、平成24年4月の設立から約3年間の取組に関しまして、簡単に御説明させていただきたいと思います。
2ページ目にございますように、平成8年、理解増進の文脈で始まりまして、扱う科学コミュニケーションが理解増進から公共的関与というふうな形に変わるにつれて組織としても変わり、平成24年4月1日、今までの科学ネットワーク部を改組するような形で科学コミュニケーションセンターが設立されております。
特に、第4期の科学技術基本計画のタイミングに3.11がございまして、その関係で科学技術イノベーションと社会の関係の深化ということが科学技術基本計画に描かれたということを受けまして、従来の組織に対してそうしたものも扱えるように調査・研究を加えた形で科学コミュニケーションセンターというような形になりました。
1枚めくって次のページで、3ページ目です。科学コミュニケーションセンターの主な事業の内容ということで、活動の場やネットワークを作ること、つまりプラットフォームを構築するということ、そして必要な科学コミュニケーション活動に対して支援をするということと、足りないものについては自ら実践を行うこと、調査・研究を行うということで活動を行っております。
4ページ目以降、大きく情報の発信・情報共有と対話・協働というふうな形がございますけれども、情報の発信関係につきましてはマル1にございますように、様々なウェブや科学教育誌『サイエンスウィンドウ』等を活用して広く情報共有をしております。
成果等につきましては5ページ、6ページを改めて御確認いただければと思います。
また、7ページ目ですね。マル2、科学コミュニケーション活動の支援ということで、各地で行われております科学コミュニケーション活動につきまして、支援活動を行っているということで、複数年の支援、単年度の支援という形で、展開を行っております。
7ページ目以降、8ページ目に具体的な取組がございますので、そちらにつきましては説明の詳細の方については省略させていただきます。
また、9ページ目、科学コミュニケーションの場の運営ということで、サイエンスアゴラということで、平成27年度、今年で10回目となりますサイエンスアゴラについても実施して、社会の多様なステークホルダー間の対話の場を提供し、科学技術と社会の関係性について深化させていくというふうなことを目途としています。
10ページ目につきましてはサイエンスアゴラの状況についての説明ですが、こちらにつきましても割愛させていただきます。
そして、新たに科学コミュニケーションセンターになったときに加わりました内容としまして調査・研究という事業がございます。調査・研究の方は、11ページにございますように、国内外の科学コミュニケーションを俯瞰し、重要課題を抽出する、全体を俯瞰して課題を抽出するというふうな形の基礎調査、それが一つです。その基礎調査を踏まえまして、更に重点的に推進すべき課題、優先度の高い課題につきまして掘り下げた検討を行うということで、課題研究、という形の2つに大きく調査・研究は分かれてございます。
基礎調査の方につきましては、先ほども申しましたように、情報共有としての「伝える」科学コミュニケーションと、対話・協働という形の「つくる」科学コミュニケーション、こちらにつきましては、今、隣にいらっしゃいます平川先生を中心に実施しました。また、それだけにとらわれない探索的な科学コミュニケーションということで、その3つの柱を立ててございました。
課題研究の方につきましては、個々の研究ということで1から4まで、こちらの方の研究につきまして行ってございます。こちらの内容につきましては、次のページ、12ページ以降で御説明をさせていただきたいと思います。
12ページの方で、まず基礎調査ですね。ポイントをかいつまんで説明させていただきたいと思います。基礎調査につきまして、特に、真ん中です。「つくる」科学コミュニケーションに関する基礎調査という中では、例えば大きく2段目にございますように、リスクコミュニケーション事例調査報告書という形で、リスクコミュニケーションの先行事例を調査・分析し、リスクコミュニケーションの分類枠組みを作成させていただいています。これは一昨年の第4回の本委員会で平川先生の方から御説明させていただいたと記憶しております。こちらにございますリスクコミュニケーションの分類枠組みに関しましては、対象を広げまして、科学コミュニケーションの分類枠組みというふうな形で今般、作成をしたところでございます。また、その段の下にございますように、文部科学省の「リスクコミュニケーションのモデル形成事業」と連携した形で一般社団法人日本リスク研究学会との共同研究等につきましても実施させていただいております。
次の13ページ目に課題研究につきまして述べさせていただいております。一番左側の研究者ソサイエティーと社会の連携に関する実践的研究、これにつきましては、研究者のアウトリーチという視点で始まった研究ですが、それの内容としまして、まず1つ、一番上にございますように、「研究者による科学コミュニケーション活動に関するアンケート」、こちらを基にして問題を明らかにしたということがございます。約12万人の研究者に対しましてアンケートを行いまして、7,908の有効回答数がございました。こちらの中で出てきた内容としまして、やはり、なぜアウトリーチ活動が行いづらいかというような話の中では、時間がないことであったり、資金がない、場作りが難しい、それに加えまして業績の評価というものが十分でないと、そういった問題点が明らかになっております。
また、一番下でございます。共創プラットフォーム「Life is Small」ということで、スマートフォンに装着できる顕微鏡を用いましてオープンサイエンスのプラットフォームを構築いたしました。今、お話に出てきていますように、オープンサイエンスということで世界各地でも場作りが行われているということで、天体望遠鏡とか双眼鏡とかということではやっているのですが、それに対して、今までなかった顕微鏡ということで、簡単にスマートフォンに装着できるもので、オープンサイエンスについて可能性を見付けていこうということを行いました。
1つ飛んで、右から2番目です。科学技術を巡ります参加型の議論の場を不断に創出するシステムの開発ということで、本会議の委員でございます三上先生にも参加いただきました。こちらの方で生物多様性に関しますWorld Wide Views(世界市民会議)を対象とした事例研究を行いました。こちらの参与観察を基にしまして、八木絵香先生を中心としまして対話の場のネットワーク展開ということで、対話が学校の場や科学館で簡便に行われるように、2時間程度の対話の実践ということを「さんかく△テーブル」という形で名付けまして、そちらの手法を開発、展開いたしまして、科学館やスーパーサイエンスハイスクール(SSH)校、大学等で実施を実際にしております。
また、科学技術リスクの協働的なメディア議題構築に向けた実践的研究ということで、こちらも田中幹人先生に参加いただきまして、メディア・トレーニング・プログラムの開発であったり、科学とメディアを媒介する実践の場の社会実装ということでサイエンス・アラートなどを通じた活動を行ってございます。
調査・研究の基礎調査と課題研究につきましては、以上でございます。
次のページ、14ページで、先ほどございましたように、今後のポスト第4期科学技術基本計画ということで御説明がありましたとおり、今の内容としまして、社会とともに創り進める科学技術、社会からの信頼回復という点がございます。科学コミュニケーションセンターとしましても、多様なステークホルダーが対話、協働し、価値競争を行う仕組みを強化し、科学技術と社会が真に向き合う場を創出していくという構成で考えてございます。
科学コミュニケーションセンターとしまして以上でございます。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、引き続いて平川先生から、責任ある研究・イノベーションの考え方と国内外の動向について御説明お願いいたします。
【平川教授】 大阪大学の平川です。それでは、私の方から責任ある研究・イノベーションの考え方と国内外の動向について報告させていただきます。
全体のアウトラインは最初の2枚目のところにあるとおりです。3部で、最初に考え方について、更に国内外の動向、また、今、科学コミュニケーションセンターの説明の中にもあり、総合政策特別委員会の中間取りまとめにもありますように、今後、RRIというのが日本のコンテキストの中でも推進課題になりつつあるという見通しもありますので、では、日本でこれを実際に展開していく場合にはどういうことが課題になるのだろうかということを最後にまとめさせていただきました。
最初に、責任ある研究・イノベーション、以降、ちょっと長ったらしいのでRRIというふうに縮めて言わせていただきます。Responsible Research and Innovation、これの考え方のポイントを幾つかお話ししたいと思います。かなり資料としては中身をそろえてきたのですけれども、全部お話しする時間は全然ありませんので、ポイントをつまんでお話ししたいと思います。細かいところはそれぞれ委員の皆様方、お読み取りいただければと思います。
最初に、RRIとはどういうものかということで、その始まりについて簡単に言いますと、これは基本的に、今から大体14年ちょっと前、2000年代前半からヨーロッパやアメリカで使われ始めたコンセプトです。特にアメリカではResponsible Innovationという言い方をしておりましたけれども、ヨーロッパの中ではここで更にResearchという言葉も入ってきて、RRIというふうに呼ばれてきました。また、日本では、レスポンシブルイノベーションという、アメリカと同じような表現が2007年の経済産業省の産業構造審議会の分科会の答申で登場しております。そうした、日本も含めて各国でこうしたコンセプトが持ち上がっているのですけれども、それについての定義、特にヨーロッパの議論でどんな定義があるかということをまとめたのが次の資料になります。例えば、von Schombergの定義、これが一番よくRRIの定義としては引かれているのですけれども、科学技術の発展が社会に適切に埋め込まれるようにするために、社会の様々なアクターや、また、イノベーターがイノベーションのプロセスと、更に市場化可能なその成果、それの倫理的な受容可能性、持続可能性、社会的な望ましさに関して、互いの見解について述べ合い、応え合う。そうした透明性のある相互作用的なプロセスというふうに定義しております。
ほかにも幾つかあります。先ほど言いました、経済産業省産業構造審議会での定義、これもその新しい技術というのを社会の中に的確に受容されていくようにするために、様々な規制とか制度を見直すなどして、安心・安全を担保しながら、その技術の還元、成果の還元を進めるという点で、基本的にはヨーロッパでの議論などと同じような考え方になると思います。
次が、少しポンチ絵が入っているのが、RRIを成り立たせる要件ということで、ヨーロッパの研究者がまとめた本の中で指摘されていたことが4点あります。一つは、この左下の方から行きますと、予見的であること。つまり、これは研究やそのイノベーションの成果というのが将来、社会の中でどういうふうに影響をもたらしていくのか。プラスの効果、それから様々なリスクとか倫理的な問題とか、そうしたマイナスの効果。その両方の効果、あるいはインパクトについて、研究開発の段階から随時予見的にどういうことが起こり得るかということを検討し、その結果を研究開発に反映させていくということがまず一つあります。
また、その下、予見をして研究開発に反映させるプロセスでは、例えば自己反省的であること、研究イノベーションの前提にある目的や動機、潜在的なインパクト等に関する問題、課題ということを検討しながら進める。更にこうした検討を行うことに関して、3つ目のポイントとして、熟議的であること、Deliberativeということで、単に研究者等だけではなく、一般市民なども含めた多様なステークホルダーとの様々な直接、間接のコミュニケーションを通じて、そうした幅広いパースペクティブを取り入れながら、そうした検討を行っていくということが3つ目です。
更にこうしたことを通じて科学技術の進み方、社会の中での展開のされ方に関して、いわばかじ取りをしていくということで、そういう意味でこれを応答的であること、Responsibleであるということに表現しております。
こうしたことがRRIにおいて非常に重要なポイントとして求められていくものです。
続きまして、RRI、さっき大体2000年代前半に始まったというふうに申し上げましたけれども、その前史として、特に近年、これが後で述べますようにヨーロッパなどでは欧州連合全体の科学技術政策の一つの柱になっているわけですけれども、それの前史としてどういう取組があったかということを簡単にまとめたものです。ここではポイントだけ、大ざっぱなことだけ申し上げますけれども、一つはテクノロジーアセスメントの伝統。特にその中でもコンストラクティブテクノロジーアセスメントとかリアルタイムテクノロジーアセスメントと呼ばれているもののように、研究開発のアセスメントとテクノロジーアセスメントのプロセスを統合して、アセスメントの成果、評価の結果というものを研究開発にできるだけ反映していくというようなスタイルというのが一つ、ルーツとしてあります。
それから2つ目としては市民参加、ステークホルダーの参加の伝統。これはテクノロジーアセスメントの中でも参加型テクノロジーアセスメントというのが80年代後半にデンマークに始まり、その後、ヨーロッパ各国、世界各国に広まっていったものがあります。日本でも行われておりまして、例えば小林主査もかつて農林水産省が行った、遺伝子組み換え作物に関する会議でファシリテーターを務められた経験がございます。
更に2004年ぐらいから、そうした取組というのを研究開発の早い段階からやっていこう、アップストリームの頃からやっていこう、いわば川の流れにたとえて上流の段階からやっていこうということで、Upstream public engagementという考え方が出てきております。これは次のスライドに簡単にまとめてありますけれども、例えばRoyal SocietyとRoyal Academy of Engineeringがナノテクノロジーに関する報告書の中で、ナノテクに関して従来の技術とは違って、先んじて先見的にこうした取組をやっていくのだということを述べています。更にこれは政治学なんかの議論ですけれども、予見的ガバナンス論というものもRRIの理論的な前提としてありました。
今、言いかけましたUpstream public engagementに関しては、報告書でRoyal Societyなどの報告書があったほか、民間のシンクタンクでもDEMOSというところが報告書を同じ2004年に出し、更にそれにつながる形で幾つかナノテクノロジーを特にテーマにして、実際に社会との、パブリックとの対話と、更にテクノロジーアセスメント的なものを取り入れた取組ということを社会実験的に行ったのが2000年代半ばぐらいになります。これが大ざっぱなRRIの前史ということになっております。
こうしたことをヨーロッパでは結構進めておりまして、それを踏まえてヨーロッパではEUの政策展開におけるRRIということで、次のスライドにありますが、キーコンセプトとして、そこに並んでいるような様々なコンセプトがありまして、また、欧州委員会の科学技術基本計画でありますFramework Programsの中でも2002年からの第6期、また、2007年からの第7期、そして昨年度から始まっていますHorizon2020の中でScience with and for Societyという大きな枠組みの中で、それのキーイシューとしてRRIを進めるということが盛り込まれております。
では、こうしたRRIの取組がなぜ求められるのか。これは様々な論点はあるのですが、非常に簡潔にまとまった指摘がありましたので、次のところに書いておきました。これはJack Stilgoeというユニバーシティ・カレッジ・オブ・ロンドンの若手の教授ですけれども、彼があるローマでのRRIに関する会議で指摘していたのが、一つは萌芽的な科学技術、Emerging technologies、例えばナノテクノロジーとか再生医療とか、まだ研究開発段階で、これから10年、20年、30年後の社会に大きなインパクトを与えることが予想される技術。そのインパクトというのはプラスの面でもマイナスの面でも、どちらの面でもまだまだ不確かさがたくさんある。したがって、できる限り現段階から分かることについてはあらかじめ対処できるような体制を作っていくべきである。
また、大いなる挑戦。これは要は人類社会が直面している様々なエネルギーや環境等の問題に関して社会から科学技術というのは挑戦を受けていると。それに対してちゃんと応えるためには社会のこと、また、人類社会のチャレンジに応えるということを明確に意識した研究をすべきである。そのためにRRIというコンセプトが重要だということです。
更に公衆についての誤解という言い方をStilgoeはしているのですけれども、要は、従来であるとパブリックというのは科学技術が社会に浸透するときに何か抵抗を示す存在、問題としてのパブリックという見方が強かったのですが、そうではなく、むしろ科学技術を共に作る、我が国の基本計画のコンセプトである、共に創り進めるという、そのパートナーとしてのパブリックということが重要なのだというのが3つ目のポイントです。
次はちょっと理論的な話なので飛ばします。
その次のポンチ絵が入っているものが、「交差点」としてのRRIです。RRIというのはどういうものかというのをちょっと因数分解してみると、大きく分けて2つの軸があるのかなと考えられます。一つは価値のレベルで、経済的な価値。先ほど小林主査もヨーロッパなど、ほかの国々もそうですけれども、切迫する財政の下で社会の反映を進めていくためには、やはりイノベーションが重要であるという要求。それと同時に、そうした経済発展、経済成長をしていくときに同時にやはり社会正義とか倫理的な問題などに関してもちゃんと関心を払っていかなければいけない。そうした社会的価値の追求という面、これを両方統合するものとしてのRRIというものが一つ軸としてあります。
もう一つはガバナンス、統治という点で考えますと、大きく分けて科学技術コミュニティの内側からと外側からの両方の視点があるというふうに考えられます。一つは、内側からのものとしては、いわば自治ということですけれども、例えば総合政策特別委員会の中間取りまとめの中でも社会からの信頼回復という中で強調されております研究不正の防止ということで、研究構成、リサーチインテグリティーであったり、リサーチエシックス、また、通常の科学研究におけるピアレビュー、そうしたものを通じて研究の成果に対するプロダクトの品質管理、さらには研究活動、研究行動、コンタクト・オブ・リサーチに関する責任ある在り方というのをつかさどっていくような自治の取組と、更にそうしたものだけではなく、社会からの様々な求め、期待、場合によっては逆に懸念、心配というもの、ニーズというもの、そうしたものに対して応えていく応答責任という形での統治の在り方、ガバナンスの在り方もあります。この両方が組み合わされた形でRRIというのがあるというふうに考えることができるかと思います。
次の3つの円が重なっているものは、研究・イノベーションというもの、先ほど共創という言葉が総合政策特別委員会の中間取りまとめの中でありましたけれども、Co-Creation、共に創り進めるということです。さらに、ガバナンスという視点も入れると、共に治めるとなります。共治、Co-Governanceという観点、これが要はリサーチとイノベーション、知識を生み出すという活動と、あと、それのかじ取りをする、ガバナンスという活動、また、それらを巡ってコミュニケーションをするという、この3つが重なるところにRRIがあるのだというのがこの図が表しているものです。
続きまして、国内外における動向について簡単に述べたいと思います。
まず、先ほどから申し上げておりますように、ヨーロッパではRRIの取組というのが、特にHorizon2020という、去年から始まった新しいプログラムの枠組みの下で進めておりまして、その中では、Horizon2020自体は科学技術と社会ということだけでなく、様々な側面での科学技術、イノベーションのプロモーションということをやっているのですが、それ全体を通じてのクロスカッティングイシューなのだという位置付けでRRIを捉えております。
推進のポイントとしましては、そこに5つ、ちょっと英語のまま書いておりますけれども、engage society、これは国民参加、市民参加や、ステークホルダーの参画ということがイメージされております。increase access to scientific resultsというのは、いわばオープンサイエンスの一環です。研究成果に対して社会からのアクセスを高めることです。それと、ジェンダーの平等性ということも非常に重要なテーマとして挙げられています。また、倫理的な問題、科学教育というものも入っております。
これらに関連して大きく予算枠としては、次の表にありますように4つの領域がありまして、それぞれ2014年、2015年度で合計約4,500万ユーロ前後の予算がこのRRI関連だけでついております。50億ぐらいですか。
また、こうしたRRIの取組が去年から始まったところで、ある種の立ち上げ的なカンファレンスというものが昨年度の11月にローマでありました。このローマでは、RRIに関してローマ宣言というのがありまして、それの大ざっぱな内容を、その次からの幾つかのスライドに日本語に直してまとめております。細かいことはちょっと飛ばしますけれども、いずれにしてもこうした基本原則とか、また、基本認識に立っていっていくということが述べられています。特に基本認識、これまでの知見というところで強調されているのが、優れたマーケティングだけでは技術の受容というのは達成できないということとか、また、研究イノベーションにおける多様性やジェンダー、先ほどジェンダーということが重視されていると申し上げましたけれども、そのジェンダーの観点というのは、クリエーティビティーや科学的な質の向上に不可欠であるという認識があります。
また、早期からの継続的なステークホルダーの関与、エンゲージメントというものは持続可能で望ましく、受入れ可能なイノベーションにとって本質的であるということです。逆に言うと、後から、新しい技術が出て、何かパブリックに関して不安を喚起したり、疑いを持たれたりして関係がこじれてしまった後から幾ら対話的なことをやったり、何か関係修復的なことをやろうとしても、大抵はうまくいきません。ヨーロッパは特にBSEとか遺伝子組み換えで経験していますので、そうしたことを今後の科学技術に関して繰り返してはならないという認識がここに示されています。
以上から、今日の卓越性、よくサイエンスエクセレンスと言われるようなこととは、単に画期的な発見を行うこと以上であり、オープンネス、責任、知識の共同生産(co-production)まで含むものであるということを述べています。
あと、国際的な取組として、ヨーロッパ以外、アメリカでも幾つか、特に研究者レベルで行っているものが幾つかありまして、特にその中でアリゾナ州立大学のCenter for Nanotechnology in Societyというところが一つの大きなハブ組織になっておりまして、こちらでは単にアメリカだけではなくて、世界各国の関連するRRIに取り組んでいる、関連の活動や研究教育に取り組んでいる機関を横につなぐ形で、バーチャルなインスティテュート、Virtual Institute for Responsible Innovation、VIRIという組織を発足させています。これには日本からは私と小林主査がおります阪大・京大の政策のための科学の「公共圏における科学技術・教育研究拠点」が参加しております。
あと、日本での展開に関しては、そこに資料がありますのでごらんください。基本計画や基本白書、また、先ほどの総合政策特別委員会の話など、様々なものが実は日本でもRRI的なコンセプトというのは常にあって、重視されてきています。また、この後、御説明いただきますRISTEXの取組というのはいわば日本版のRRIの研究助成プログラムとしてもう10年以上前からずっと展開されているということを述べておきたいと思います。
最後に、推進をしていくに当たって幾つか課題ということで簡単にポイントだけ述べさせていただきます。これはまた後で別のところでも出てくるかと思いますけれども、まず基本認識として強調しておきたいのは、先進国はないということです。この問題に関して模範となる先進国はなくて、どこもが同じような問題で悩んでいて、同じようにソリューションを探すのにもがいているという状況であるということで、我が国の場合も、必ずしもこのRRIというコンセプトを使ったからといって、後追いするのではなく、同時にフロントランナーに立つという認識が重要かと思います。
そして、基本となる課題としましては、そこに挙げました一体性、エコシステム、オープン化、文脈ということを強調しておきたいと思います。一体化というのは、先ほども絵にも示したような形で、知識の創造、リサーチとイノベーション、それからガバナンス、コミュニケーションということを一体的に考えるということや、また、文理、自然科学・工学と人文・社会科学の一体性ということです。
また、エコシステムというのは、こうした活動をちゃんと持続的に、かつ展開が広がっていくようにするためには、施設、設備等のインフラや資金調達の仕組みとか情報知識の基盤、また、担い手のキャリアなどが社会の中で様々なところで醸成される必要があり、さらに、こうした活動を支援するような、対話や協働を支援するような組織的な活動も必要であろうということが、このエコシステムのポイントです。
そして、オープン化に関しては、しばしばオープンサイエンスというと、単に情報公開、アクセスの強化だけで終わりがちですが、実際にはオープンサイエンスということで言われている、日本も含めて実際に行われているような活動というのは、単にプロがやった研究成果を公開するだけではなくて、一般市民も含めて様々な人たちがその研究活動に参画する。自分自身の研究テーマを追求するということも含めて、参画という要素もあるということを強調したいと思います。
また、文脈付けということでは、社会的な文脈です。こうした活動というのをちゃんと社会の中で生かすためには、例えば政策や、研究イノベーションの意思決定においてちゃんとこうした取組が生かされるようなことをしていくことや、あるいは研究者以外の人が関わるときに、問題を自分事として捉える、オーナーシップとして捉えて、ある種の責任を担っていくというようなことなど、そうしたことでの文脈的な位置付けも必要だということを最後に述べておきたいと思います。
ちょっと時間オーバーしましたけれども、以上です。
【小林主査】 どうもありがとうございました。
大変情報量が多くて、1回聞いただけで頭に入るかどうか不安になるほどボリュームのある、充実した御報告を頂きました。ありがとうございました。
質疑応答といいますか、いろいろ質問や確認等ございましたら、是非この機会にお願いしたいと思います。
【藤垣委員】 1つよろしいですか。
【小林主査】 はい、どうぞ。
【藤垣委員】 3枚目ですけれども、責任ある研究・イノベーションの定義のところです。von Schombergの定義は、一応、受容可能性と持続可能性と社会的な望ましさに関して互いの見解に応え合うという、相互的な定義になっていますけれども、それに対して経済産業省の方の定義は、社会受容性の確保と社会に対する安全・安心を担保しながら還元ですから、どちらかというとかなり一方向的な印象があるのですけれども、これは同じものと考えてよろしいのですか。
【平川教授】 むしろ御指摘のように、経済産業省のこの審議会の方がやや狭い感じはします。ただ、実際にこういうことをやろうと思うと、双方向的にやらないと何が受け入れ可能なのかということは一方的には分からないですので、実際にこれを実行しようと思えば同じ話になると思います。
【小林主査】 よろしいですか。
【藤垣委員】 はい。
【小林主査】 ほか、いかがでしょう。
【奈良主査代理】 今の御発言、御質問とも関連があるかもしれないのですけれども、よろしいでしょうか。
【小林主査】 どうぞ。
【奈良主査代理】 Responsibleについて、この責任の主体は誰かというのが多分重要なことになってくると思うのです。例えば、経済産業省の定義だと、やはり省庁にあるというか、専門家にあるというふうに読めてしまうような気もいたします。そうではないとした場合、責任ある研究・イノベーションを推し進める過程において、互いに、つまり市民を含めた、それに参画したみんなが責任を持つ主体なのだと考えた場合に、そのことについて国民の皆さん、市民の皆さんに、理解・納得していただくというのは、意外に難しいかもしれないと思うのです。欧米では、この責任を共有するということに対する抵抗のようなものというのか、何かそういう事例はあるのでしょうか。それとも、責任ある研究・イノベーションを推し進めるのであれば市民もこれを当然一緒に担うのだ、という考え方はすんなり受け入れてもらえているのでしょうか。
【平川教授】 ちょっとその辺りについては、まだ実例としてそういう話があるというのは見たことがないです。ただ、責任という言葉自体が、日本語で我々が通常考える責任と、Responsibleという言葉が欧米の文脈で意味するのはちょっとずれているというか、向こうの方が広い感じがします。何となく日本語だと、責任というふうに言うと、責任を問われるとか、後から結果責任を問われるみたいなイメージが強いと思うのですけれども、その辺りが多分、奈良委員が懸念されるような、国民から見たときに何か抵抗を示されるようなところに関連するのかもしれないのですけれども、もう少し、例えば共に誰もが世の中の未来に対して責任を負っている、自分たちの子供、孫の世代に対して責任を負っているという幅広いものや、あとは責任と同時に権限もあるわけです。単に結果責任だけ負わされるわけじゃなくて、自分で選択する、あるいは自分で意思決定に関わる権限も持たされている場合に、それと引換えということであれば、またそれは違ってくるのかなと思います。
あとは、単に責任ということではなくて、先ほど文脈と、最後の方で申し上げましたけど、自分事として考える、オーナーシップという観点も重要なのかなと思います。
でも、その辺り、実際、向こう、ヨーロッパの文脈で、まあ、ヨーロッパでも国によって多分、政治、文化が違うのでケース・バイ・ケースだと思いますけれども、実際どういう議論があるかというのは少しちゃんとフォローしてみたいと思います。
【奈良主査代理】 ありがとうございます。
【小林主査】 どうぞ。
【藤垣委員】 RRIの前史というところに、予見的ガバナンス論というのがあります。これは要するに、不確実性下の意思決定みたいなことが関係してきて、科学技術でも予見不可能な事柄に関してのガバナンスになってくるわけですよね。そうしますと、不確実性下の情報公開の在り方についてということになって、この第7期の委員会の中でも、例えばラクイラの地震のときに、本当は科学技術者はどうあるべきだったのかということを議論しました。そこと関係してくるわけなので、実は、もし前史に予見的ガバナンス論を加えるのだとすると、日本での取組というところに、我々のその第7期の議論は入るはずだし、それから、日本学術会議でも、3.11の反省から、その不確実性下の情報公開の在り方について科学技術者が人文・社会科学系の部会と協力しながら、あのとき本当はどうあるべきだったのかというのをかなり真剣に議論しています。ですから、そういうこともきちんと参照しながら作っていった方がいいかなと思いました。
【平川教授】 ありがとうございます。
【小林主査】 よろしゅうございますか。
最初に事務局から、科学技術基本計画の変遷を示していただいて、これを見ると、なかなかにやはり日本もそれなりに一歩ずつ進んできたのだなという印象を持ち、しかもそれはヨーロッパの悩みと非常によく似ているわけです。第1期科学技術基本計画のときは皆さん、科学技術に関心持ちなさいというふうに言っているわけです。第2期は、科学者は誰のために研究しているか考えなさいと言ったわけです。第3期は、科学者は考えているだけでは駄目で、それがちゃんと社会からサポートされて、支持されていないと駄目だというように言って、ついに4期では、一緒に研究するんだというトーンが出てきたわけです。そして、次に第5期ということになるわけです。
どこかで基本計画というのは理想を掲げるという機能があって、現実の科学者の意識というのがその期間の間にその理想に全部きれいに染め上げられるなんていうことは普通ありませんタイムラグが常に出てくるのだろうという気はします。それは日本でもヨーロッパでも同じだとは思うのです。
こう見てみますと、本当にヨーロッパと日本がほとんどシンクロナイズしているという意味で、先進国がどこかにあって、それをまねするというのではないという平川先生の説明のとおりだと思います。恐らく第5期で次に掲げる理想というのが、今のところRRIというものなのだという、大ざっぱな認識はできつつあるのですが、それを具体的に政策として展開するときには、やはりいろいろ考えなくてはいけないことがあるだろうと思います。そういうこともここで少しでも具体的な議論ができればと思っています。
特にこの件、また、今回に限らず、議論の中で確認をしたり共有したりする機会はあると思いますが、今すぐに特になければ次のステップに進んでいきたいと思いますが、よろしゅうございますでしょうか。
次は、では、今後の検討の進め方ということで、社会と科学技術イノベーションの関係深化に関わる推進方策の論点という、資料4-4というのがございます。これ、事務局の方で原案、たたき台として取りまとめていただきましたので、御説明をお願いいたします。
○資料4-4に基づき事務局から説明。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、この今までの、ちょっとたくさんの情報量ですけれども、これまでの説明を参考にして、この委員会あるいは場合によっては作業部会なども含めたような形での意見をいろいろと交換したいと思います。
その前に、まず事務局の方から、作業部会の設置について、少し御説明いただけますでしょうか。
○資料4-5に基づいて事務局から説明。
【小林主査】 ありがとうございます。
資料6にもございますように、こういう作業部会を作っての検討を5月、6月にしたいと考えています。これはリスクコミュニケーションの議論をした昨年のときも同じようなやり方をいたしましたが、今回も先ほど局長からも説明がありましたように、最終報告を7月、8月にまとめるという、そこに間に合わせる形で少しでも我々の意見を取りまとめて反映できればというふうに思っておりますので、それから逆算いたしますとこういうスケジュールになるということでございます。
まず、この委員会の設置については御了承いただけますでしょうか。推進方策のための作業部会の設置についてはよろしゅうございますでしょうか。
(「はい」の声あり)
【小林主査】 ありがとうございます。
メンバーに関しては、後で事務局の方から御連絡をするということにしたいと思います。
では、その作業部会でもう少し緻密な議論はそちらの方にお願いすることにはいたしますが、やはりその作業部会での検討に資するような、皆様委員の御意見をできるだけ今日は幅広く伺えれば、作業部会での検討にも役に立つと思います。
事務局の説明、それから科学コミュニケーションセンターの説明、そして平川先生の説明、そして論点案について、この4点の資料を基にして、どのような切り口でも結構でございますので、御自由に御発言をお願いしたいと思います。質問でも確認でも何でも結構です。
【山口委員】 ここの具体的な取組例に挙げられているような、それぞれの対話ですとか、コミュニケーションですとかが行われたとして、どこにどういうふうに、それらの結果がフィードバックされていくのでしょうか。例えば、「これこれこういう技術の開発においては、社会に負の影響を与えないように、こういう観点について留意すること」といったような、一種の指針みたいなものが出て、それに基づいて、技術者なり研究者なりが安心して開発を進められる、というようなフィードバックになるのでしょうか。対話やコミュニケーションが行われた後の社会の姿が、今とどう違うのか、もう少し見えた方が議論が進むかなと思うのですけれども。もし、その辺りのイメージや具体的な事例があれば、どなたか教えていただければと思います。
【小林主査】 いかがですか。この対話とか共創というふうなものの結果の使い方とか出口。
【三上委員】 今の点は、まさにResponsibleということは応答可能な開発とか研究とかイノベーションをやっていくということなので、やっぱり誰が誰に対して応答するのかということが問題になると思うのですけれども、恐らくそれ自体が一つ、検討課題なのかなと思ったのです。だから、そういった、ここで多様なステークホルダーの対話ということが1番目に挙がっていて、それはもちろんとても大事だと思うのですけれども、そういう対話の中でいろいろな新しい見方だとか知識だとか、そういうものが生み出されたときに、それに責任を持って、じゃあ、誰がどういう形で応答するのか、それは多分、いろいろなパターンがあり得るのだと思います。どういうパターンがあって、どういう場で例えばそういう対話によって知識の共創みたいなものが行われて、どういう形のものに対して、誰がどういう責任を持って応答するのかという、いろいろなパターンがあるので、そういうことを少しワーキンググループで議論しないといけないのかなと思いました。
【小林主査】 ほかにいかがですか。
【河本委員】 今の御指摘は、例えば開発すべき科学技術ごとに、ものによって当然、ステークホルダーが変わってきますし、その中で解決すべき問題、議論すべき問題が変わってくるので、そういうパターンを作っていく、イメージしていくということなのでしょうか。
【三上委員】 そうです。すっきり類型化といいますか。
【河本委員】 難しいでしょうけれど。
【三上委員】 このタイプの技術であればとか、こういう段階にある技術であれば、こういう応答の仕方なりが可能、このステークホルダーがこういうことが可能であるみたいな整理がすっきりできればいいのだろうなというふうにちょっと思いながら聞いていたのですけれども、そこまで行かないにしても、幾つかの可能なパターンを例示するというようなことができると、ちょっと議論が前に進むのかなというふうに思いました。
【小林主査】 恐らく一つの例は、ヨーロッパのStilgoeのスライドにあったように、Emerging technologies、つまり今、生まれつつある科学技術に関しては割といろいろな議論が行われているようで、最近だと人工知能とかAIとか、ああいうものが研究開発をしている人たちも不安になっているそうですね。こんなことができるようになる、あんなことができるようになるというので、面白いからいっぱいばんばんやっているけれど、これって社会に使っていって本当にいいのかな、自分たちがいいと思っているだけで使っていいのかなというような不安を研究者の側(がわ)も持つようになってくると、誰かに相談したいっていうときに、やっぱり社会に相談せざるを得ないので、そういう構造はあるのかもしれませんね。
【河本委員】 誰かがインパクトアセスメントのようなことをして、出てくる課題に対してどういうステークホルダーがあり得るのかということを模索していってということですか。
【小林主査】 そうだと思います。ですから、昔だと、テクノロジーアセスメントと言っていたのですけれども、もうわざわざそう言わなくても同じようなことをやっているのでしょう。そういうことは出てきていると思います。
【三上委員】 関連して、多様なステークホルダーという言葉が繰り返し出てくるのですけれども、今、話題になっていたようなエマージェントなテクノロジー技術の場合は、やっぱり、そもそも誰がステークホルダーなのかということ自体もよく分からないということなのだろうと思います。それで、さっき平川さんの御報告の中で、ナノテクノロジーに関する、それはパブリックエンゲージメントの話がありましたけれども、私もナノテクノロジーの食品への応用に関するアップストリームエンゲージメントというのはどういうふうに可能なのかということをしばらく考えていた時期があって、そうすると、参加型TAみたいな枠組みで考えると、ある種のステークホルダーがその問題に関していて、そういう人が集まって何か議論をして、論点を構築していくみたいなことをすぐ考えるのですけれども、一体そういう技術が生まれてきたときに、本当のステークホルダーというのは誰になるのかということ自体が、まだ技術が社会の中で萌芽してきている段階にあるので、よく分からないということがあったりするわけです。
なので、恐らく、もうこの今日のペーパーの中に含まれていると思うのですけれども、5のかっこ1マル1というのがありますよね。対話支援の組織的な機能で、これは非常に重要になってくると思うのですけれども、こういうのを考えるときに、もう既にその問題についていろいろ発言したい人がいて、話し合いたい人たちが話し合えるようにサポートするというようなイメージでは多分なくて、そういう問題に関して潜在的に誰が例えばステークホルダーになり得るのかということについてアンテナを張って、議題が出てきたときには、そもそもこういう議題が出てきそうだと、こういうステークホルダーがいて、こういう議題が出てきそうだというようなことを例えばある程度ウオッチしているようなイメージなのだろうと思うのです。だから、そこら辺のステークホルダーの性格というのも作業部会の中で議論ができるといいのかなと思いました。
【小林主査】 それ、多分、アンティシパトリーガバナンスみたいな話とつながってくるのです。
【三上委員】 きっとそういうことになってくるのです。アンティシパトリーにそういうステークホルダーの在り方というのをウオッチしていくような。
【河本委員】 どういう問題があり得るのかということをまず模索しないと、誰がステークホルダーになるのかって決まらないという、行ったり来たりみたいな話です。そうすると、誰がその問題を思い付くのかという、誰に聞いたらいいのかという議論にまた戻ってしまうわけです。
【小林主査】 そうですね。
【片田委員】 ちょっと1点いいですか。
【小林主査】 はい、どうぞ。
【片田委員】 安全・安心科学技術及び社会連携ということで、このキーワードの中で今の議論を聞いていると、もちろん全部その枠に入る話だなと思います。例えば、リスクそのものがよく分からない。生命科学、これはどうなるやらみたいな、本当にこれやっていいのみたいな、ステークホルダーは誰なのみたいな、問題の構造そのものが未知で、ここの中におけるリスクの扱いそのものがよく分からないという種の問題から、私のやっているような、めちゃくちゃ明確なのですよね。リスクの構造も分かっている。その中での社会対応がうまく行っていない。特に社会対応、社会連携がうまく行っていないという、ここの部分で大きな問題を抱えている問題まで、バラエティーに富んでいる問題をここは扱うのだろうと思うのです。
私のような者がここに座っているのは、今言った、後者の、問題めちゃくちゃ明らかという、ステークホルダーも明らかで、ただ、うまく行っていませんと。ただ、今、我々、研究者として社会の負託を受けてリスクに向かい合う研究をやっている者とすれば、社会の関心として今、防災分野は明確なリスクに対してどう向かい合う日本社会であるべきなのかと。特に巨大災害が言われる、どこまで向かい合えばいいのかみたいな、こういう、もうめちゃくちゃクリアなのですけれども、対処の方向も議論もされていないと。何かこの問題の扱いというのはここの会議の中でどうなるのですかと。何か非常に高度な、研究者の大好きな複雑な問題にチャレンジするみたいな議論がなされているけれども、何かもっと社会はベタなところで関心事として大きな大きなリスク認知ができているわけですよね。この問題は、今の議論から全然外れちゃっているなという感じがして、国民の関心から言うと、恐らくそちらの方が大きいのじゃないのかとすら思えるのです。この辺りの議論は、ちゃんと議論できる枠組みを作っていただきたいなというのが思います。
【小林主査】 どなたかレスポンスされますか。
【原田委員】 私も実は片田先生と同じような感想を持っておりまして、自分が一応、専門分野としてやってきたのが防犯、犯罪被害防止ということで、これも要するに世の中でどんな犯罪が起こっているとか、そういうのはかなり明らかなのですけれども、例えば去年も子供が被害に遭うという事件ですね、我々が今、一番力を入れてやっているやつですけれども、倉敷で事件が起こったときに、車のナンバーを捜査しているような人がいて、お母さんがそれを見て、気にしていた。だけどそのことが同じ地域のほかの、例えば警察とかいうところに伝わっておらず、それこそ共有されないままにああいう被害が起こってしまって、いわゆる無事保護されたということではありましたけれども。
そうこうしているうちに、今度は9月に神戸の事件が起こり、これは本当の最悪の結果になってしまった。それから、更に年明け早々だったでしょうか、川崎で集団暴行を受けて子供さんが亡くなった。これも地域でいろいろな目撃証言が後知恵のように出てくる。学校の先生たちもそういうことを、長期欠席しているということを把握しているのだけど、それが対応に結び付かないといったような、今ここのイノベーションとの関係で言われている社会連携っていうのとはちょっとニュアンスが、文脈が全然違うのでしょうけど、でも、それはそれでかなり大きな問題として現に我々の目の前にあるような気がするのです。
ですから、せっかく、片田先生もそうだし私自身もかなりベタな形で、こういう世の中の現実問題に向き合っているような面があるので、そういう部分のニュアンスみたいなものを是非この委員会の中にも部分的でよろしいので、一つ目配りしていただけるようだととてもうれしいと思いました。
以上です。
【小林主査】 次の議題がそういう話になっておりますので、ちょっとお待ちいただきたいと思いますけれども、結局、今ちょっとここで議論しているものは、イノベーション政策とのつながりで議論になっているという、そういう、より大きな政策のフレームワークがあって、これはやはりヨーロッパでも日本でも実は同じですね。日本の場合も失われた10年といって、やはり科学技術によるイノベーションでもう1回日本を元気に、という文脈は非常に強いものですから、その中での社会との関わりというフレームになっているのはおっしゃるとおりだと思います。
ただ、多分、もう既に片田先生、実際におやりになっている事柄を、ちょっと気取った言い方をすると共創とか共治ということをなさっているわけですよね。つまり、具体のステークホルダーである地域住民と、それから専門家である片田先生が一緒になって議論をして、一緒になって知恵を出していくというような研究スタイルみたいなもの、これは先ほどの共創、共治という言葉遣いでイメージしているものと実は同じで、といいますか、そもそもこういうタイプの研究の手法というのは医療で生まれてきた考え方で、つまり、ドクターと、それから看護師とか、そういうふうなコメディカルと、それから患者さんと患者の家族、これが協働しないと治療というのはこれからできなくなってきていると。昔のように医師が全てを仕切るという構造ではなくなってきているというモデルがあるのだそうですけれども、それって片田先生がやっておられることと非常によく似てくるわけで、こういうタイプの研究スタイルが、実は地球環境問題に関しても必要だという議論が最近は出てきておりまして、そういうのを含めて、社会との関わりという枠組みで捉えるという形で言えば、実は同じものなのだというふうには私は扱えると思っております。そして、そういう文脈で後ほどRISTEXからの報告が一つありますけれども、そういう意味ではつながっているという理解は可能かと思います。
事務局の方で何か補足されることございませんか。
【片岡課長】 特にございません。ありがとうございます。
【小林主査】 よろしいですか。
確かに、不明確なリスクのエマージェントテクノロジーの議論が一つのパターンだと思いますけれども、それとは別に、社会で具体的に有効性のある政策的な部分も含めたような知識の創造のやり方というのも、この社会連携の枠組みの中で議論は当然できるというふうに思っております。
【田中(幹)委員】 よろしいですか。
【小林主査】 はい。
【田中(幹)委員】 1つ、余り入っていない視点かなと思うのは、最近、ヨーロッパの方でこの点の議論に参加していると、デジタルヒューマニティー、つまり人文科学の方もこのイノベーションの中でかなり方法論の変容を迫られているということです。例えば、コンピューターの発達によって、これまで人文科学が占有してきた暗黙知みたいなものは電子化されるだろう、あるいは民主的決定過程みたいなものは全てアルゴリズム化されていくということを人文科学側はどう考えるのか、という再帰的な視点は余り含まれていないように思えます。それは意識的に含めないということも戦略だろうと思いますけれども、何となく、まだ人文科学の側(がわ)は科学に対して従属的に、持っている知見を何とかして科学技術に組み込んでいくという視点にとどまっているように思える。人文社会学の方にもデジタルヒューマニティーの時代に対応した変化も必要である、という視点は少し加えてもいいのかなという気がしました。その方が、科学のみならず人文科学側にもイノベーションを起こすでしょうから。
【小林主査】 ありがとうございます。
それは確かに今、起こっています。今まさしくオン・ゴーイングで起こっています。まだ日本でそれほど皆さん、それにアンテナを張っている人が多くはないような気がしますけれども、確かにヨーロッパやアメリカでそういう議論が進んでいるのはたしかですね。この間、CRDSでのワークショップのときにそういう話題がイギリス人から出ていました。と聞いています。
この枠組みの中でも、人文社会科学の活用という形というか、協力という議論は当然入っているのですが、今おっしゃったように、何となく文系の人たちの倫理的な感覚とか研究蓄積を理工系の人に協働で与えるという、そういうイメージから超えていないのではないかという御指摘ですね。この部分は是非、分科会の方で一度議論していただければと思います。
あと、いかがでしょう。この際なので、こんなことも考えろというのを是非言っておいていただけると、作業部会としては作業の役に立つと思います。
【三上委員】 すみません、よろしいですか。先ほどの片田先生の御指摘をちょっと受けて、行ったり来たりみたいになってしまって申し訳ないのですけれど、やはり本当におっしゃるとおりだなと思ったのは、かなり差し迫った課題ですよね。防災のこともそうですし、それから原田先生がおっしゃった犯罪の対象ということもそうですけど、これはかなり関心も高いし、差し迫った問題があるのだけれども、ただ、お話を伺って私が理解したのはそこに十分な例えば資源が振り向けられていないだとか、多くの人の注意がそこに向けられていないという問題があるということかなと思うのです。
【片田委員】 プラス、能力が達していないというのが。
【三上委員】 そうですね。能力が達していないということもあるかなと思うのですけれども、社会として対処する能力が達していない。そう考えると、それは例えば資源をどういうふうに分配するのかということでしょうし、それから、注意が足りていない部分に関して注意をどう高めていくかということでしょうし、能力が足りていないのであれば、その能力をどう社会として高めていくかということかと思うので、これはやっぱりここで挙げていただいた基本方針の1番目に、これは小林先生がさっきおっしゃったことの繰り返しになりますけれども、まさにやっぱりいろいろなステークホルダーが対話をして、共創、共治とここに書いてありますけれども、そういう問題なのかなというふうに思いましたので、それはやっぱりそういう問題も含めて、かなり差し迫った問題も含めて議論できる枠組みというのでしょうか、把握できる枠組みが必要なのかなというふうに思いましたので、そういう萌芽的な技術のガバナンスという話と見掛けはかなり違うのですけど、それはやっぱり両方含めて考えられるような枠組みを見ていかなければいけないのかなと思いました。
【片田委員】 何となく防災の現場っていうのは明確なわけです。その日、そのとき、ちゃんとみんなが命を守るっていう、これ以上明確な目標はないわけです。ただ、それがうまくいっていないという現実が確かにあって、そこを模索しながら何とか改善するという取組をやるというのが防災だろうということです。何となくやっぱり暗黙知をみんなが持っていて、暗黙知を何とか形式知にして広めたいというふうに思うのですけれども、それがうまくいかないわけです。そんなことをずっと繰り返してきて、その中で何となくよかれと思うことを実践知としてやってみて、それは地域の方々とか社会連携の中でやってみて、その中で更に暗黙知が補強されていくみたいなところがあって、暗黙知の蓄積というのがその場においてされていって、そこから何となくあふれ出てくる、若しくは収れんしていく形式知みたいなものが出てきて、それが社会に普及されていくという、そんなことをやりながら、社会連携をやりながら、現場をすごく大事にしているのは社会連携の中で何となくみんなが持っている暗黙知を持ち合うこと、そしてそれを実践知として協働で展開することによって暗黙知の共有化が図られ、何となく形式知化していくみたいなところをずっとやり続けているような気がするのです。
今おっしゃった、今の枠組みの中に入っていくのではないかっていうのは、まさにその過程を振り返ってみてもそうだなというふうにも思いますし、冒頭、あんな物言いをしましたけれども、同じ枠の中で議論できる枠組みはあるのだろうという気はいたします。
【小林主査】 それはそのとおりだと思います。
ありがとうございました。いろいろやはりまだまだ考えなくてはいけない論点が出てきたと思いますので、今日頂いた意見は是非、作業部会の方で反映させて、そしていわゆるエマージェントテクノロジーに閉じたような議論ではなくて、できるだけ幅広く、新しい知恵の生かし方、社会の中での知恵の生かし方全体を眺めるような、そういう観点から整理するようなことをしていきたいと思いますので、分科会の方ではお願いしたいと思います。
作業部会の委員の委嘱につきましては、本委員会の運営規則第2条の第2項で主査が指名することとなっておりますので、後で事務局を通して個別にお願いすると思いますので、よろしくお願いいたします。
それでは、最後に第5の議題でございます。戦略的創造研究推進事業社会技術研究開発における新規研究開発の方針について御議論いただきたいと思います。本議題につきましては、平成27年度の社会技術研究開発における新規研究開発において、JSTの社会技術研究開発センターから新規領域の提案がありましたので、提案内容について説明を頂きたいと思います。資料5-1及び5-2をごらんくださいませ。それでは、お願いいたします。
【津田室長】 JST RISTEXの津田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。本日はお時間を頂きましてありがとうございます。
本日は平成27年度新規研究開発領域の検討の経緯ということで御報告をさせていただきます。1枚資料をおめくりいただきますと、RISTEXの全体の説明が記載されております。平成27年度予算に関しましては17億円の予算を頂きまして、本事業を含めましてほかの領域も含めてお仕事をさせていただいているという状況でございます。社会技術と申しましても、これは戦略的創造研究推進事業の一環として行っているものでございまして、この戦略的創造研究推進事業というのは、いわゆるCRESTとかさきがけという事業と同じ傘の中でこの社会技術もやっていると、そういう位置付けになっておるものでございます。
社会技術とは何ぞやというところは、この左側に書いてあるとおりでございますけれども、本日時間もございませんので少し省略させていただきますと、基本的には社会技術研究開発の特徴というのは4つ挙げられると思っております。まず1つ目は問題解決型である、社会的問題の解決に資する研究開発を行うというのが1点目でございます。2点目としては、ステークホルダーとの協働を研究実施者には求めるというところがあるかと思います。3点目は自然科学と人文社会科学の双方の知見を活用して研究開発を進めていく、それゆえに問題解決に資する研究開発ができるというふうに認識しております。最後は社会実装を求めるというところでございます。単に研究成果を出して論文を発表して、若しくは特許を出して終わりというだけではなく、成果を必ず社会に適用してください、実装してくださいということを研究者の方々にお願いしていると、そういう特徴を持ってございます。
右側にRISTEXの組織を記した絵が描いてございますけれども、我々、既存の領域を幾つかやってございますけれども、今日はこの一番上に書いてございます、公/私の空間・関係性の変容に応える安全な暮らしの創生、これはまだ仮称でございますけれども、この領域を本年度から立ち上げたいという御報告でございます。
1ページめくっていただきますと、ぐるっと描いた絵が描いてございます。これはRISTEXの全体のオペレーションを記した絵になってございます。1から5までございますけれども、最初に社会的問題の探索・抽出というものをRISTEXでやってございます。そこで我々として取り組むべき社会的課題が何なのかというようなものを俯瞰いたしまして、その中から一番のホットイシュー、今、取り組むべきイシューはこれだというところを抽出する作業を行います。続きまして、それを研究開発領域というところまで昇華させるという作業を行っております。この研究開発領域を立ち上げた下で研究開発推進、すなわち、我々JSTはファンディングエージェンシーでございますので、さきがけ、CREST等と同様に、我々RISTEXもこの研究開発領域の下でファンディングを行うと。研究を公募し、プロジェクトを推進するということをやってございます。
先ほど、社会実装というふうに申し上げましたが、研究プロジェクトには是非問題解決に資する成果、すなわちそれはプロトタイプというふうに私どもはここでは申しておりますけれども、課題解決の方法論であったり、解決のためどんな必要条件があるのかとか、それから、そのための合意形成はどういうことをしたらいいのかと、そういった一連の成果をプロトタイプというふうに申しておりますが、それを各プロジェクトには最終的なアウトプットとして出してくださいということをお願いしております。
最後が5のフェーズになってございますが、これは実際、そのプロトタイプを社会に実装してくださいということで、社会実装のフェーズというふうに認識しております。このサイクルをぐるっと回して初めて社会技術研究開発が完結されるというふうに私どもは認識しておるところでございます。今日はちょうどこの1の問題の抽出から、2の領域の設定という段階が今日御報告するもののフェーズとなってございます。
1ページおめくりいただきまして4ページ目でございますけれども、我々RISTEXでは社会的問題、いろいろ世の中には問題があるわけなのですが、特に26年度からは少子高齢化、それから災害、情報、環境、この4つの、我々カテゴリーというふうに呼んでおりますけれども、この4つのカテゴリー、問題のカテゴリーに関してある種フォーカスをしてやっていこうということを決めました。特に災害というところに27年度はフォーカスしておりまして、災害という事象を少し俯瞰するとこんなような絵が描かれるかなと思ってお示ししているのがこの4ページ目のところでございます。我々は24年度からコミュニティがつなぐ安全・安心な都市・地域の創造という領域を立ち上げまして、ここでは主に自然災害、まさに地震、津波等々でございますけれども、そういったものを対象とした領域を進めておるところでございます。今年度、27年度はこの左上の自然災害以外のハザードを対象とした領域を立ち上げたいと考えてございます。
実は、RISTEXでは、以前、犯罪からの子供の安全という研究開発領域をやってございまして、それを更にまた発展、拡大した領域というような位置付けになっておるところでございます。
具体的な領域の説明といいますか、検討の経緯を5ページ目に記してございます。これは平成26年度の4月から始めておりまして、主に文献調査、それから有識者に対するインタビュー、この有識者というのは専門家、それから現場の方々、いろいろな方にインタビューを行いまして、それで我々がやるべきことは何なのかというものを抽出してきたところでございます。そういったインタビュー等々の調査結果を踏まえまして、ワークショップを3回行いました。実は今日午前中、そのワークショップをやったところでございまして、その結果を踏まえて、今日御報告をさせていただくという状況でございます。今日の御報告の後、来月でございますけれども、この領域の中身に関しまして公開フォーラムという形で、世の中に少しお披露目をしようと考えてございます。その場でまた列席者の方々等々からまた御意見、コメント等を頂きまして、それをまた領域の設計にフィードバックをしたいと考えております。できますれば、最終的には6月ぐらいに領域を立ち上げて、また公募の開始というものを6月ぐらいにしたいと考えておるところでございます。
具体的にじゃあどういう領域かというものを最後にお示しさせていただきます。ちょっと中身が細かくて大変恐縮ではございますが、1枚紙となってございます。「公/私の空間・関係性の変容に応える安全な暮らしの創生」というのが今、仮の領域の名前となっております。このポンチ絵はどこから見たらいいかと、ちょっと悩むポンチ絵になっているのですけれども、まず右上をごらんいただきますと、刑法犯の認知件数は御案内のとおり減っておるところでございますけれども、例えばストーカー、DV、児童虐待、それから家庭内事故、それからサイバー犯罪というようなものは増えている傾向にございます。こういった社会背景を踏まえまして、私どもが考えているところがこの左上の「本領域が注目する社会背景」というところに記されております。ここで5点挙げさせていただいておりますが、こういったストーカー、DV、家庭内の虐待というようなものは、いわゆる私的空間というところで起こる事象でございます。こういった私的空間・関係性、これを社会学的には親密圏という呼び方をするそうでございますけれども、こういった親密圏における暴力に対して関心や介入が高まっていると。この介入というのは、国、それからいろいろな公的機関からの介入というところを意図してございます。そういった状況が高まっていると。一方で、高齢者の事故・犯罪というのも増え、養育・介護における社会的孤立が暴力を引き起こしているという背景もございます。
また、公共圏、いわゆる親密圏とは相反するものという位置付けになるかと思いますが、公共圏における犯罪事故は減っている状況ではございますが、高齢者、子供が家庭内で事故に遭うというようなケースは増えていると。
こういった状況の中では、公と私の関係性が変容し、その境界が曖昧になっているのではないかと思っております。それをやはり促進しているのがICTの進歩というところでございまして、ある意味、公共圏と親密圏の地続き化が進んでいるのではないかというふうに認識しておるところでございます。今後、この状況は多分変わらないだろうというふうに読んでおります。やはり世帯が小規模化しているというのは恐らく今後とも進んでいくであろうし、高齢化も進むということで、それによってまた親密圏が変わってくるだろうということが予想されます。また、自己責任の拡大というものが言われておりまして、それと、いわゆる親密圏と公共圏の間というもの、つまりグレーゾーンと言われているものだと思いますが、そういったところでの問題解決というのが必要になってくると思っております。また、介護、防犯、交友など、親密圏へのICTの利用が更に発展していくのではないかというふうに思っておるところでございます。
こういった状況を踏まえまして着目する問題といたしましては、親密圏の変容・弱体化に着目をし、発見・介入しづらい空間・関係性での危害・事故というところを着目したい問題として捉えております。例えばDV、虐待、それからいじめ、サイバー空間での加害、被害、それから家庭内事故といったところに焦点を当てたいと考えております。
本領域の目標が青いところに書いてあるところでございますけれども、発見・介入しづらい空間、関係性において生じる危害、事故を低減するための支援機能(発見・介入・予防・アフターケア)を強化して、安全・安心な社会の進展に貢献すると。これをアウトカムとしたいというふうに思ってございます。そのためには2つの視点を重視して、社会実装を目指した研究開発を進めようというふうに思っております。その2つの視点の1点目は、ICTを活用した既存の社会システムの機能の増強、それからICTを活用したことによって新規の新しい社会システムが提案できるのではないかと。また、発見・介入しづらい空間・関係性への配慮の行き届いたアプローチ、これはいわゆるプライバシーの問題は本件に関しましては避けて通れない課題というふうに捉えておりますので、そういったプライバシーの問題も重要視しながら研究開発を進めていくべきだろうというふうに認識しております。
具体的なこの領域のアウトプットを右側に箱にして書いてございます。アウトプットとしては3点、A、B、Cと挙げてございます。配慮の行き届いた介入・支援のための社会技術、それからICT利活用による新たな支援機能、社会システム・制度の創生・伝承というアウトプットを掲げまして、個々研究開発を進めていこうというところでございます。
具体的には、そこに内容とテーマ例を書いてございますが、例えばAの社会技術の開発に関しましては、やはり親密圏と公共圏の間というものに着目いたしまして、そこをどう新しく創生するか、若しくはその間というものをどう増幅させていくかと、そういったところを重要な視点というふうに捉えて研究開発を進めたいと考えております。
それから、公的機関とのつなぎ、これもある意味、間と言うことができると思いますけれども、既に警察、それから児童相談所、学校、いろいろな公的機関がこの問題には絡んでいるかと思いますが、そういった機関間の連携を何か橋渡しするような間というものも非常に重要ではないかと考えておるところです。
また、ICTの活用に関しましては、今、IoTとかという言葉もいろいろ出てきている状況ではございますけれども、こういった進化したICT環境の中でいろいろなことができ得る状況にあると。先ほど田中先生からもお話がございましたけれども、サイバー空間でのいろいろな犯罪が起きる傍らで、サイバー空間によっていろいろな解決できる問題もあるのではないかというふうに考えてございます。
最後がやはりプライバシーの問題を非常に重要視しているというところでございまして、やはり親密圏と公共圏が変化していると。ある種、ダイナミックプライバシーという言葉も言われているようでございますけれども、動的変化を起こすプライバシーの概念というものをどう捉え、それをどう管理、制御していくかといったところも非常に重要な研究テーマになり得ると思っておるところでございます。
非常に簡単ではございますが、説明は以上です。
【小林主査】 ありがとうございました。
それでは、今、説明がありました提案内容につきまして御質問等あれば是非お願いしたいと思います。
【藤垣委員】 1ついいですか。具体的な問題でちょっと考えたいのですけど、ついこの間、川崎であった事件は、LINEでつながっていた被害者と、それから主犯格の19歳の少年と18歳の少年はLINEでつながっていたということですが、親は全くLINEにおける親密空間を知らなかったということです。だからこそああいうことが起きてしまった。それで、その種のことを考えなければいけないという状況なわけですよね。そうすると、要するにサイバー空間が、ああいう技術があるからこそ発生してしまった事件というふうに考えることもできるわけですが、この領域はそれに対して別の形でICTが、つまりサイバー空間がサポート可能なんじゃないかっていうふうに捉え直すような、そういうものなのですか。
【津田室長】 両方あり得るなというふうに思っておりまして、今、例で藤垣先生に挙げていただいたところに関しましては、サイバー空間で起こり得る事件に関して、やはり何らかの手立てをしなければいけないであろうと。多分、それは孤立化がある種の一つのキーワードになるのかなと。つまり孤立化しているという親密圏というものがあって、実はつながっているようでつながっていないのではないかというふうに考えております。つまり、LINEではつながっているけど、それ以外のことでつながってはいなかったのではないかというふうに思っておりますし、それは家庭の中でのつながりっていうのも多分、考えられ得ることかなと思っています。
一方で、サイバー空間といいますのはむしろICT技術と言った方がいいかもしれませんが、ICT技術でいろいろセンシングができるようになっているというのはあると思います。例えば、それは今後、いろいろな在宅介護等が出てきたときに、もしかしたら高齢者が在宅介護によって介護者が来たときに何らかの事件に巻き込まれる可能性があると。でも、それは例えばいろいろなセンサーとかいうICT技術を使うことによって、もしかしたら予防できるかもしれない、センシングできるかもしれないということで、その正負をいろいろ使い分けていくということが非常に重要かなと思っています。
【小林主査】 ほか、よろしいでしょうか。
【原田委員】 2点ほど御質問をさせていただきたいと思うのですが、私、これの以前の「犯罪からの子供の安全」という研究開発領域に自分自身が参加させていただいておりまして、現在でもそれの社会実装を総合的に支援するという統合実装プログラムというのにも参加させていただいているのですが、1点目は、以前の「犯罪からの子供の安全」の研究領域を発展、拡大させたという御説明だったと思うのですけれども、具体的にどの辺りをどのように発展させ、拡大させ、どのような連続性を考えておいでになるのかということが1点目になります。それから、もう1点は、今、現に統合実装プログラムということで、「犯罪からの子供の安全」だった研究領域、現在は「犯罪からの子供の安全」という部分が非常に薄れているという私は認識なのですが、その部分の統合実装を行っていくということで、もう既に平成27年度は3年目になっているのですけれども、今、統合実装の中でも問題になっているのは、統合実装のプログラム、既にこれは実装支援のプログラムなのですけど、それが3年間終わった後で、もともとの5年か6年の「犯罪からの子供の安全」の研究領域の研究成果、それから更に統合実装という形で実装支援という形で3年間続けていった。それが今、終わろうとしているこの時点で、要するにそこで作り上げたものを誰がどのように費用負担して、今後、メンテナンスしていくのかということがまだはっきりしていないのではないかという私は認識なのですけれども、今回の新しい研究開発領域を始められるということについて、この領域が終了後の世の中に実装するときの費用負担とか、それから一体それがどれぐらいのランニングコストの規模になるのか、それを一体誰がどのように負担できる可能性があるのか、こういったところについてどんなふうな検討をこれまでになされてきたのか、この2点についてお伺いしたいと思います。
【津田室長】 まず1点目の子供領域を発展、拡大したというふうに申し上げましたけれども、単純に申しますと、子供領域は子供ということと犯罪ということにフォーカスしていたと思います。それが今回、当然、子供以外のものも対象にするということもありますし、また、犯罪以外の事故であったりとか、そういったものもかなり対象にするということにしてございます。やはり、特に発展、拡大というふうな言葉がいいかどうかは別にしますが、今回はかなりICTという部分を意識している設定になっているかと思います。当然、子供領域をやっていたIT環境と現在では全然違っていると思っておりますし、また、来年、再来年に向けて情報というものの取扱いもだんだん変わってくるのではないかと思っております。そういった時代の流れに沿った中身にこの領域自体も変容していく必要があるのではないかと思っておりますので、そういった意味では、よりダイナミックにやっていく必要があると思っておるところでございます。
それから、統合実装も踏まえた上での終了領域の今後の費用負担等のお話でございますけれども、まだこれは検討中の領域でございまして、具体のプロジェクトというのは、もう少しこれから検討をして見えてくるのかなというふうに想定し得るプロジェクトでございますけれども、それは見えてくる状況かなとは思っておりますけれども、やはり最終的には今、原田先生にやっていただいているような、統合実装というような形で複数の成果をパッケージ化した上での実装ということは念頭に置いた作りにしたいというふうに考えております。
現状においては、今の制度が続く限りは領域終了後3年間の統合実装プロジェクトの費用の確保はしていきたいと考えておるところでございます。
【小林主査】 よろしゅうございますか。
【原田委員】 余り長くなってもいけないのですけど、結局、統合実装というものも3年間で終わってしまします。まさに我々はそれに今、直面しているわけですから、やはりその更に後の今回の議論の中にもあった、持続可能性エコロジーじゃなくて、何とかっていうのがありましたよね。そういう部分がやはり、それこそ日本版RRIということを目指すからには本当の意味で、要するに3年間、4年間、5年間の領域があり、その後、3年間の統合実装支援があり、だとしても結局、都合7年ということですから、その先どうするのだということになります。それから、特に、自分なんかがやっているのは防犯であるし、それから恐らく介護みたいなところも、ごく一部ビジネスとして展開しているところも、まあ、一部というかたくさん世の中にはあるわけですけれども、それ以外の新しいところでやるということになると、要するに防犯なんか特にそうですけど、ほとんどみんな手弁当でやっている世界です。その自治体で何かのそれに対する、例えば防犯のチョッキ、ベストを配るとか、その程度の予算規模でこれまで回ってきているわけです。
それに対して、例えばICTを大々的に活用して、みたいなものがプロトタイプとして出てきたとしても、それに対してそれを持続的に文字通り社会に実装するということの間には極めて大きいハードルがあるというのを、今、現に我々は統合実装というあの枠組みの中で直面している問題だと思うのです。ですから、そこの部分を是非スタート地点の、それこそアップストリームの段階から、どう手当するのかということをしっかり織り込んでいただければと思います。
【津田室長】 分かりました。
【小林主査】 ありがとうございます。
確かにICTというのは数年単位でムービングターゲットとしてがらがら変わっていくので、なかなか扱いが難しいところがあります。しかもその割に、おっしゃるように実装のところまで行くとお金も掛かるということがありますので、その辺りちょっとRISTEXの内部でも是非、御検討いただければと思います。
原田先生、どうも貴重な御意見ありがとうございました。
【原田委員】 ありがとうございます。
【小林主査】 それでは、今の御説明になった社会技術研究開発の27年度の新規研究開発を了承するということでよろしゅうございますでしょうか。
(「はい」の声あり)
【小林主査】 どうもありがとうございました。
これで準備した議題に関しては終わっておりますので、今後の日程等については事務局の方から説明をお願いいたします。
○事務局より事務連絡
【小林主査】 それでは、以上で第7回安全・安心科学技術及び社会連携委員会を終了いたします。どうもありがとうございました。
── 了 ──
科学技術・学術政策局人材政策課