参考資料1-7 研究開発計画(一部抜粋)

平成29年2月
(最終改訂 平成29年8月)
 科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会 

目次

研究開発計画の策定に当たって
第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化
 第2章 環境・エネルギーに関する課題への対応
 第3章 健康・医療・ライフサイエンスに関する課題への対応
 第4章 安全・安心の確保に関する課題への対応
 第5章 国家戦略上重要な基幹技術の推進
A.大目標
 1.大目標達成のために必要な中目標(航空科学技術分野)
 2.大目標達成のために必要な中目標(福島第一原子力発電所の廃炉やエネルギー安定供給・原子力の安全性向上・先端科学技術の発展等)
 3.大目標達成のために必要な中目標(原子力分野の研究・開発・利用の基盤整備について)
B.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策
第6章 研究計画・評価分科会における研究開発評価の在り方

研究開発計画の策定に当たって

我が国の科学技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本方針を示す第5期科学技術基本計画(以下「第5期基本計画」という。)が、平成28年1月22日に閣議決定された。
研究計画・評価分科会では、主に第5期基本計画の第2章及び第3章に関する研究開発課題に対応するため、今後10年程度を見通し、おおむね5年程度を計画の対象期間として、本分科会下の各委員会における議論を中心に、今後実施すべき「重点的に実施すべき研究開発の取組」及び「推進方策」について、委員会の枠を超えて検討し、「研究開発計画」を取りまとめることとした。
  また、文部科学省では、第5期基本計画に掲げられた諸課題に対応するため、文部科学省政策評価基本計画において定められる「文部科学省の使命と政策目標」(以下「政策評価体系」という。)の見直しを行った。見直しに当たっては、1)第5期基本計画の政策・施策体系、2)文部科学省における政策評価体系、3)科学技術・学術審議会等が策定・実施する計画・評価体系を可能な限り整合させることで、効果的なフォローアップの実施が可能となるようにされたところである。
このことを踏まえ、本計画は、政策評価の体系に合わせた構成とすることとした。
  なお、第5期基本計画では、政策の4つの柱として、世界に先駆けた「超スマート社会」(Society5.0)の実現を目指した1)未来の産業創造と社会変革、2)経済・社会的な課題への対応、3)基盤的な力の強化、4)人材、知、資金の好循環システムの構築が示されている。超スマート社会の実現には、人材育成、オープンサイエンス、オープンイノベーション等のこれまで以上の推進が欠かせず、組織やセクター、さらには国境を越えて、人材、知識・技術、資金を循環させ、多様なステークホルダー間で対話と協働により共創していくことが重要である。
 研究計画・評価分科会では、本研究開発計画の策定に当たって、研究開発に携わるすべての個人・組織は科学技術と社会との関係がこれまで以上に重要性を増していることを踏まえ、研究開発は、社会からの信頼の上に成り立っており、社会との価値観の共創が重要であることを認識しつつ研究開発を推進することに留意することとした。具体的には、1)社会との関係深化の前提となる研究公正(論文作成の過程のみならず、研究に対する信頼性の醸成の観点から)を確保した上で、2)当該研究開発がどのような社会変化をもたらすのか、またどのような課題を伴うことがあるのかについて自ら考えるとともに、3)社会・国民から研究開発や政策立案へのインプットないしフィードバックを活(い)かすための方法論や、人文社会科学の役割・連携の強化、4)基礎研究の重要性についての認識や、研究開発の将来成果に対する期待や懸念について、適切に社会と共有すること、⑤研究開発に携わるすべての者が、人文社会科学分野との連携などにより、国民と対話・協働するために必要なコミュニケーション能力の向上を図ること、その上で、研究開発と人文社会科学、ステークホルダー等との橋渡し人材※等の育成と活用を行うことなどである。なお、これらの留意点を踏まえ、各計画を策定しているところであるが、経済・社会の状況は日々刻々と変化を続けており、その変化に適宜対応することが必要である。
※ここでは、研究者、国民、メディア、産業界、政策形成者等の多様なステークホルダーを対話・協働を通して結び付けるとともに、人文社会学的視点も踏まえた研究開発の実施や成果普及方策の創出を促す能力のある人材を指す。

 一方、研究開発の評価については、第5期基本計画の策定を受け、国の研究開発評価について基本的な方針を定めた「国の研究評価に関する大綱的指針」が平成28年12月に改定された。本指針では、政策立案者や推進する主体等の行動及びその結果について評価を行う「研究開発プログラムの評価」のさらなる推進等が示された。研究計画・評価分科会における評価は、これまで当分科会所管の個別の研究開発課題の評価にとどめていたが、今後、研究開発計画に掲げた中目標単位で研究開発プログラムとしての評価も実施することとし、新たに第6章として研究計画・評価分科会における評価の在り方を盛り込むこととした。
  本計画は、政策評価とともに、「企画立案(Plan)」「実施(Do)」「評価(Check)」「反映(Action)」を主要な要素とする政策のマネジメントサイクルが効果的に回り、第5期基本計画が掲げる科学技術イノベーション及び社会との関係深化が効果的に進むよう、必要に応じて適宜見直されるべきものである。

第5章 国家戦略上重要な基幹技術の推進

A.大目標
 航空・原子力科学技術については、産業競争力の強化、経済・社会的課題への対応に加えて、我が国の存立基盤を確固たるものとするものであり、更なる大きな価値を生みだす国家戦略上重要な科学技術として位置付けられるため、長期的視野に立って継続して強化していく。
 原子力科学技術については、安全性・核セキュリティ・廃炉技術の高度化等の原子力の利用に資する研究開発を推進する。さらに、将来に向けた重要な技術である革新的技術の確立に向けた研究開発にも取り組む。
 東日本大震災からの復興の障害となっている放射性物質による汚染等への対応が求められている。

1.大目標達成のために必要な中目標(航空科学技術分野)
 航空科学技術について、我が国産業の振興、国際競争力強化に資するため、社会からの要請に応える研究開発、次世代を切り開く先進技術の研究開発及び航空産業の持続的発展につながる基盤技術の研究開発を推進する。

(1)中目標達成状況の評価のための指標
  ■アウトプット指標
  1)航空科学技術の研究開発の達成状況(JAXAが実施している共同/委託/受託研究数の観点も含む)
  2)航空科学技術の研究開発課題数(実施計画以上の実績があった研究開発課題数)

 ■アウトカム指標
  1)航空科学技術の研究開発における連携数(JAXAと企業等との共同/受託研究数)
  2)航空科学技術の研究開発の成果利用数(JAXA保有の知的財産(特許、技術情報、プログラム/著作権)の供与数)
  3)航空分野の技術の国内外の標準化、基準の高度化等への貢献

(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
  1)社会からの要請に応える研究開発
   世界市場の伸びを大幅に上回る「超成長産業」を目指し、完成機事業の継続・発展、国際共同開発における分担率の拡大や、装備品産業の育成を図る必要がある。以下の研究開発に取り組み、現在、民間航空機に求められている、安全性・環境適合性・経済性において、他国よりも優位な技術を早急に獲得する。

   ア.安全性向上技術の研究開発
   我が国の航空機事故で大きな割合を占める乱気流による事故を防止するとともに、我が国にとって急務である装備品産業の育成に貢献するために、装備品メーカ、機体メーカと連携し、航空機前方の晴天乱気流を検知してパイロットに警告する技術と乱気流遭遇時の機体動揺を低減させる技術を組み合わせたウェザー・セーフティ・アビオニクス技術を、飛行実証等を通じ確立する。
   乱気流以外による主な事故要因として挙げられる特殊気象(雪氷・雷・火山灰等の航空機に影響を与える気象)等の外的要因及びヒューマンエラーに対して、それらの影響を予知・検知・防御する技術の研究開発を進め、安全性の向上を図る。
   さらに、災害時における航空機(無人機を含む)と衛星を統合した安全で効率的な救難航空機統合運用システムや、ヘリコプターの高速化等により、より多くの要救助者の救助を可能とする技術の研究開発を行う。また、無人機の目視外運用技術等、無人機の利用拡大に資する技術の研究開発を行う。
   イ.環境適合性・経済性向上技術の研究開発
   エンジンについては、国際競争力強化のため、ファン及び低圧タービンの軽量化、高効率化を進めるとともに、JAXAに実証用エンジンとしてF7エンジンを整備し、国内メーカが次の国際共同開発においても設計分担を狙えるレベルまで技術成熟度を高める。また、次世代エンジンの鍵となるコアエンジン技術として、低騒音化技術、低排出燃焼器技術、耐熱材料技術等、将来産業界が分担率の拡大を狙える技術について実用性の高い技術開発を行う。
   機体については、空港周辺地域の騒音低減のボトルネックになっている高揚力装置及び降着装置の低騒音化技術の研究開発を行い、将来の旅客機開発並びに装備品開発に適用可能となるように技術成熟度を高める。また、乱流摩擦抵抗低減技術等の機体抵抗低減技術の研究開発を進め、飛行実証等の技術実証を行う。さらに、複合材を初めとした各種材料を、それぞれの特性を活(い)かして機体に適用する等、材料開発から機体構造設計までをつなぐ技術の研究開発を行い、機体重量の飛躍的な軽量化を目指す。
   運航技術については、拡大を続ける航空輸送需要に対応するため、交通量や気象条件に合わせて最適な運航を行うことにより、空港容量の拡大と環境適合性の向上が両立する管制支援技術等の研究開発を行い、高密度運航の実現を目指す。

  2)次世代を切り開く先進技術の研究開発
   我が国の航空科学技術を長期にわたり高めていくために、社会に飛躍的な変革をもたらす可能性のある以下の先進技術の研究開発を推進する。

   ア.静粛超音速機統合設計技術の研究開発
   これまでの研究開発で培った国際的優位性を拡大させるために、飛行実証された抵抗低減設計技術や低ソニックブーム設計技術を核として、超音速機の実現成立性を実証することを目指す。このために、想定されるソニックブーム基準と強化された空港騒音基準を満足し、かつ経済性にも優れた超音速機実現の鍵となる技術の要素技術研究開発を進めるとともに、個別要素技術を実機システムへ適用して有効性を確認するシステム設計研究を行い、低ソニックブーム/低抵抗/低騒音/軽量化に対する技術目標を同時に満たす機体設計技術を獲得する。これらの技術については飛行実証も視野に入れた技術実証構想を産業界と連携して策定する。あわせて、民間超音速機実現の鍵となる陸地上空の超音速飛行に必要な国際民間航空機関(ICAO)における国際基準策定に貢献する。
   イ.革新的技術の研究開発
   国際航空輸送協会(IATA)が掲げる「2050年までにCO2排出量半減」という目標を達成するために期待される革新的技術として、ソフトウェアとハードウェアの両面から、モーター技術、電源技術、ハイブリッド推進技術等の電動航空機技術の研究開発を進める。また、水素等の代替燃料の利用も視野に加えたエミッションフリー航空機技術、極超音速機技術等の研究開発を行う。これらの革新的技術の研究開発を行うことにより、将来国際的に優位性を持つキー技術の獲得を目指す。

  3)航空産業の持続的発展につながる基盤技術の研究開発
   我が国の航空産業の持続的な発展に向けて、我が国が得意とする数値流体力学(CFD)等の数値シミュレーション技術を飛躍的に高めるとともに、試験・計測技術、材料等の評価技術等の基盤技術を維持、強化していくことが重要である。
   特に、航空機開発の高速化、効率化、高精度化に貢献する航空機設計技術の確立を目指し、非定常CFD解析技術をベースに空力、構造等の多くの分野を統合した解析技術(例:統合シミュレーション技術)等の開発を行う。


2.大目標達成のために必要な中目標
 (福島第一原子力発電所の廃炉やエネルギーの安定供給・原子力の安全性向上・先端科学技術の発展等)
 「エネルギー基本計画」において位置づけられているとおり、原子力は重要なベースロード電源であり、資源の乏しい我が国にとって重要なエネルギー源の一つである。また、地球規模の問題解決や放射線利用等による科学技術・学術・産業の発展に寄与するための重要な役割も担っている。さらに、東京電力福島第一原子力発電所事故をはじめとするあらゆる原子力に関する事故の再発の防止のための努力を続けていく必要がある。
 文部科学省においては、こうしたエネルギー政策や科学技術政策等を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、廃炉や放射性物質による汚染への対策等に必要な研究開発を推進すること、及びエネルギーの安定供給や原子力の安全性向上、先端科学技術の発展等に資する研究開発成果を得ることを中目標として設定する。

(1)中目標達成状況の評価のための指標
  ■アウトプット指標
  1)原子力分野における査読付き論文の公開数
  2)原子力分野における研究成果報道等発表数

 ■アウトカム指標
  1)除染や廃炉に必要な研究開発の取組の進捗状況、廃止措置に資する研究の推進に関する取組の進捗状況
  ・特許等知財
  ・除染効果評価システムの自治体等ユーザーへの活用件数
  ・国際共同研究棟等拠点の整備状況
  2)東京電力福島第一原子力発電所事故を踏まえた安全性向上のための研究開発の取組の進捗状況 
  ・関係行政機関、民間を含めた事業者等からの共同・受託研究件数、及びその成果件数
  ・特許等知財
  ・学会賞等受賞
  3)独創性・革新性の高い科学的意義を有する研究成果の創出状況等
  ・特許等知財
  ・学会賞等受賞
  ・安全基準作成の達成度
  ・試験研究炉の運転再開に向けた取組状況(定性的観点)
  ・必要な研究基盤の検討、整備状況(定性的観点)
  4)高速炉の研究開発等の進捗状況
  ・国際会議への戦略的関与の件数
  ・特許等知財
  5)独立行政法人通則法に基づく主務大臣による業務実績の評価結果のうち、標準評価(B評価)以上の評価を受けた項目の割合
  6)原子力システム研究開発事業や英知を結集した原子力科学技術・人材育成推進事業における中間評価及び事後評価での評価のうち、計画通りの成果が挙げられ、又は見込まれるとされたA評価以上の課題の件数割合

(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
  1)福島第一原子力発電所事故の対処に係る、廃炉等の研究開発
  東京電力福島第一原子力発電所の廃炉等世界的にも前例のない困難な課題が山積しており、これらの解決のための研究開発の重要度は極めて高い。エネルギー基本計画等に示された福島の再生・復興に向けた取組を踏まえ、東京電力福島第一原子力発電所の安全な廃止措置等を推進するため、東京電力、国際廃炉研究開発機構(IRID)、原子力損害賠償・廃炉等支援機構(NDF)とも連携・協力をしつつ、国内外の英知を結集し、安全かつ確実に廃止措置等を実施するための研究開発や人材育成を加速する。また、環境モニタリング・マッピング技術開発や環境動態に係る包括的評価システムの構築及び除染活動支援システムの開発等を進める。
  2)原子力の安全性向上に向けた研究
  東京電力福島第一原子力発電所事故を受け、原子力の利用においては、いかなる事情よりも安全性を最優先する必要があることが再確認された。また、エネルギー基本計画に示されているとおり、原子力利用に当たっては世界最高水準の安全性を不断に追求していく必要がある。そのため、軽水炉等の安全性向上に資する燃材料及び機器、原子力施設のより安全な廃止措置技術の開発に必要な基盤的な研究開発を実施し、関係行政機関、原子力事業者等が行う安全性向上への支援等を実施する。また、原子炉施設の規模に合わせた適切な安全性の確保手段として、軽水炉以外の施設に関する安全対策に関する研究についても重要である。
  3)原子力の基礎基盤研究
  核工学・炉工学・燃料工学など原子力の推進に必要な基礎基盤研究及び幅広い科学技術・学術分野における革新的成果の創出につながる中性子利用研究等の推進は重要である。特に、原子力分野の研究には大規模・特殊な施設の利用が不可欠である。例えば、基礎基盤研究の推進に当たっては、高速中性子による燃料・材料開発が実施できる高速実験炉「常陽」、中性子利用のためのJRR-3、及び中性子照射による治療等に資するKURをはじめとした施設が必須である。研究炉の再稼働や核燃料使用施設等のその他施設を含めた新規制基準への対応や、高経年化対策に着実に取り組むことが必要である。また、今後必要となる原子力研究基盤として機能を果たす研究施設の具体化が必要である。加えて、エネルギー基本計画を受けて、固有の安全性を有し、水素製造を含めた多様な産業利用が見込まれる高温ガス炉に係る研究開発を国際協力の下で推進することも重要である。
  4)高速炉の研究開発
  エネルギー基本計画に基づき、核燃料サイクルを推進するとともに、高速炉の研究開発に引き続き取り組む。高速増殖原型炉「もんじゅ」については、原子力関係閣僚会議において、原子炉としての運転は再開せず、今後、廃止措置に移行し、併せて今後の高速炉研究開発における新たな役割を担うよう位置付けるとの「『もんじゅ』の取扱いに関する政府方針」が決定されたことから、安全確保を前提に、本方針に基づく作業を進める。高速増殖炉「常陽」については、原子力関係閣僚会議において決定された「高速炉開発の方針」を踏まえ、再稼働に向けた取組を積極的に進める。


3.大目標達成のために必要な中目標(原子力分野の研究・開発・利用の基盤整備について)
 原子力に係る人材の育成・確保、核不拡散・核セキュリティに資する活動、国際協力の推進、電源立地対策としての財政上の措置などを通じ、原子力分野の研究・開発・利用の基盤整備を図る。

(1)中目標達成状況の評価のための指標
  ■アウトプット指標
  1)原子力分野における査読付き論文の公開数
  2)原子力分野における研究成果報道等発表数

  ■アウトカム指標
  1)放射性廃棄物減容化研究開発等の推進の進捗状況 
  ・高レベル放射性廃液のガラス固化処理本数、プルトニウム溶液の貯蔵量(未処理分)
  ・原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理処分の計画的遂行状況(定性的観点)
  ・高速炉及びADSを用いた核変換技術や地層処分技術等の研究開発成果の創出状況(定性的観点)
  2)原子力施設に関する新規制基準及び安全確保対策等の取組の進捗状況
  ・原子力施設に関する新規制基準への対応状況等(定性的観点)
  ・事故・トラブルの件数
  3)独立行政法人通則法に基づく主務大臣による業務実績の評価結果のうち、標準評価(B評価)以上の評価を受けた項目の割合。
  4)丁寧な対話活動等を通じた社会の理解度の状況

(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
  1)放射性廃棄物の処理・処分に関する研究開発等
  エネルギー基本計画に示されているとおり、原子力利用に伴い確実に発生する放射性廃棄物について、その対策を確実に進めるための技術が必要である。また、資源の有効利用、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の観点から、我が国の基本方針である核燃料サイクルの推進を支える技術が必要である。このため、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減の研究開発を実施する。また、高レベル放射性廃棄物処分技術等に関する研究開発を実施するほか、原子力施設の廃止措置及び放射性廃棄物の処理・処分を計画的に遂行する技術開発等に取り組む。
  特に、核燃料物質や大量の廃棄物を抱えた高経年化施設の安全の確保のための維持管理には莫大(ばくだい)な費用が必要となる。このため、研究開発に伴い発生する廃棄物(RI廃棄物を含む)の処理・処分や計画的な廃止措置は、研究開発に必須の事項であり、そのための長期の取組に係る計画が必要となる。
  2)原子力施設に関する新規制基準への対応等、施設の安全確保対策
  原子力規制委員会の定める新規制基準に対応するために必要な改修・整備等を行う。新規制基準については、原子力機構が持つ高温工学試験研究炉(HTTR)やJRR-3等の試験研究炉、大学が持つ研究用原子炉のみならず、高レベル放射性廃棄物の減容化・有害度低減等の研究開発に必要な施設や使用済燃料や廃棄物を安全に貯蔵・管理するために必要な施設など業務の遂行に必要な施設・設備について多岐に亘(わた)りその特性に応じた対応を進める必要がある。また、原子力施設の安全を確保するため、高経年化対策等安全確保対策を行う。
  3)核不拡散・核セキュリティに資する技術開発等
  将来の核燃料サイクル施設等における計量管理技術や核拡散抵抗性向上に資する技術開発を実施する。また、核セキュリティ・サミットのコミットメントである国際的な核不拡散・核セキュリティへの貢献の観点から、国際及び国内の動向を踏まえつつ核物質の測定・検知、核鑑識等、核不拡散・核セキュリティ強化に必要な技術開発や核不拡散・核セキュリティ分野の人材育成等を行う。

B.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策

(1)人材育成
  1)航空科学技術分野
   第5期科学技術基本計画においても、科学技術を担う人材の育成が謳(うた)われているところであり、航空科学技術を担う人材を育成する必要がある。
   このため、我が国の航空科学技術の研究開発の中核機関であるJAXAと、産業界、大学・学協会が連携し、特に航空分野を目指す学生等に対し、魅力的で実践的な教育機会を提供することが重要である。具体的には、共同研究、公募型研究やクロスアポイントメント、連携大学院制度及び技術研修生制度等のツールを活用し、航空科学技術を担う人材の育成を推進する。
  2)原子力科学技術分野
   原子力分野における人材の育成・確保は、原子力分野の研究・開発・利用の基盤を支え、原子力施設の安全確保や古い原子力発電所の廃炉等の課題の解決のために重要である。大学や原子力機構が持つ研究用原子炉を用い、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉や運転中の発電炉の安全確保を支えるとともに、中性子を用いた科学研究等の原子力に係る研究開発を通じた人材育成に加えて、産学官の関係機関が連携し、人材育成資源を有効に活用することによる効果的・効率的・戦略的な人材育成取組の支援により、原子力人材の育成・確保を行う。

(2)オープンサイエンスの推進
  1)航空科学技術分野
   航空科学技術分野については、オープン・アンド・クローズド戦略及び知的財産の実施等に留意し、JAXAの研究開発で得られた協調領域における研究/試験データ等について、データベース公開に向けた取組や学協会との連携活動を強化する。
  2)原子力科学技術分野
   国内外の原子力科学技術に関する学術情報を幅広く収集・整理・提供し、産業界、大学等における研究開発活動を支援できるよう努めることが重要である。この際、発信を行う対象をそれぞれに意識し、公開や説明の仕方に十分な留意が必要である。特に、東京電力福島第一原子力発電所事故に係る研究情報は国内外からの関心も高く、国内外の研究成果、参考文献情報、政府関係機関等が発信するインターネット情報等について、関係機関と連携の上、効率的な収集・発信を行うことや、原子力情報の国際的共有化と海外への成果普及を図る観点から、国内の原子力に関する研究開発成果等の情報を国際機関を含め幅広く国内外に提供することには意義があるため、例えば、原子力機構「福島アーカイブ」の整備・拡充・発信等によって、成果を社会還元させるとともに国内外の原子力に関する研究環境を充実させる。

(3)オープンイノベーション(産学連携)の推進
  1)航空科学技術分野
   国際競争が激化している航空産業では、産業界、大学、公的研究機関との間の連携が行われているものの、持続的にイノベーションを生み出す環境を形成するため、産学官の人材、知、資金を結集させることは重要である。
このため、JAXAは、オープンイノベーションに適した知的財産及び人事制度の仕組みを活用することで、イノベーションを誘発する人材の流動化を推進する。特に、航空分野における協調領域に関しては、コンソーシアムの構築等を通じて、産学連携、異分野異業種も含むオープンイノベーションの体制を強化する。また、JAXAが技術的な強みを有する分野については、JAXAが中核となって、国内外の人材・英知を結集し研究活動を実施するなど、社会実装への橋渡しを意識した活動を推進する。
  2)原子力科学技術分野
   成果を広く国民・社会に還元するとともに、イノベーション創出につなげるため、産学官の連携強化を含む最適な研究開発体制の構築等に戦略的に取り組むことが重要である。例えば原子力機構では、東京電力福島第一原子力発電所事故の対処など国家的・社会的な課題解決のための研究開発において、研究開発の計画段階からニーズを把握し、成果の社会実装までを見通した国際共同研究棟での研究を実施するなど、産学官の効果的な連携とそのための適切な体制を構築する。また、基礎研究分野等においては、創出された優れた研究開発成果・シーズについて、産業界等とも積極的に連携し、その成果・シーズの「橋渡し」を行う。さらに、J-PARCやJRR-3等の研究施設については、産業界や大学等との供用により、新たな先進的研究の萌芽(ほうが)となる幅広い研究分野の研究者間の相互交流を促進する。

(4)知的財産・標準化戦略
  1)航空科学技術分野
   経済的波及効果が高い航空産業は、国際競争が激化しており、国際標準化の対応の遅れは国際競争力低下に直結するため、世界と協調し、産業界と連携した迅速かつ的確な国際標準化戦略が重要である。
   このため、特にアビオニクス関連技術をはじめとする航空装備品の認証については、JAXAは、産業界と連携して関連する技術開発を進め、我が国で最新の国際標準を満たした機能・性能要求から検証までのプロセスが迅速に完了できるよう支援を強化する。また、超音速機技術など国際的な標準が確立していない分野についても、国際標準化に貢献するため、JAXAは、関係機関と連携の上、研究開発の成果をICAO及び国際標準化機構(ISO)等に対して積極的に提案する。
   また、知的財産戦略は、知的財産を活用してイノベーションの創出に一層つなげていくことが重要である。このため、JAXAは、研究開発成果の価値を最大化するため、協調領域/競争領域を踏まえた権利化と秘匿化を適切に使い分けるオープン・アンド・クローズド戦略に留意し、知的財産の取得、管理、活用を推進する。
  2)原子力科学技術分野
   産業界、大学等と緊密な連携を図る観点から、共同研究等による研究協力を推進し、研究開発成果を創出することが必要である。創出された研究開発成果については、その意義や費用対効果を勘案して、原子力に関する基本技術や産業界等が活用する可能性の高い技術を中心に、例えば、原子力機構が精選して知的財産の権利化や有効活用を進めることが重要であり、また、技術交流会等の場において保有している特許等の知的財産やそれを活用した実用化事例の紹介を積極的に行うなど、連携先の拡充を図る。

(5)社会との関係深化
  1)航空科学技術分野
   航空科学技術を推進する上では、幅広いステークホルダーとの対話による関係深化は重要である。具体的には、JAXAは、シンポジウム、タウンミーティング、研究開発施設等の一般公開等のイベントを通じて、研究開発成果の発信・普及、対話を推進する。
  2)原子力科学技術分野
   我が国の原子力利用には、原子力関連施設の立地自治体や住民等関係者を含めた国民の理解と協力を頂くことが必要である。そのため、安全や放射性廃棄物、放射線の人体への影響など国民の関心の高い分野を含めた積極的な情報の公開や対話、学校教育の場などにおける放射線等に関する教育への取組支援及びアウトリーチ活動等の強化による社会からの信頼確保に取り組む。また、研究開発成果の社会還元や、社会とのリスクコミュニケーションの観点を考慮しつつ、丁寧な広聴・広報・対話活動等をフィードバックを受けつつ進め、立地地域からの信頼を得る。

(6)国際連携
  1)航空科学技術分野
   急速にグローバル化が進む航空産業及び航空科学技術の裾野の広がりを踏まえ、国際的な互恵関係を効果的に構築し研究開発に取り組むことも重要である。JAXAは、アメリカ航空宇宙局(NASA)等の世界の公的航空技術研究開発機関で組織される国際航空研究フォーラム(IFAR)等への主体的な参画とともに、NASA等との研究協力を通して、効率的な国際的互恵関係の構築及び我が国の航空科学技術のプレゼンス向上を図る。
  2)原子力科学技術分野
   効率的な研究開発の実施、原子力開発に係る我が国の優位性の確保、国際貢献等の観点から、原子力利用先進国やアジア諸国等との間で、二国間協力、経済協力開発機構/原子力機関(OECD/NEA)、国際原子力機関(IAEA)、第4世代原子力システム国際フォーラム(GIF)、アジア原子力協力フォーラム(FNCA)等を活用した多国間協力を通じて、目的を明確にした国際共同研究、人材交流、意見交換等を実施する。特に、東京電力福島第一原子力発電所の廃炉に向けた協力、高速炉や高温ガス炉等の次世代原子炉にかかる協力や人材育成活動等を積極的に推進する。

(7)大型試験設備の整備(航空科学技術分野)
   国際競争力を持った航空機開発を行うためには、基礎から技術実証までの一貫した研究開発を実施するために必要な試験設備を整備することが重要である。一方、大型で高性能な試験設備(風洞、実証エンジン試験設備、スーパーコンピュータ等)については、大学や民間企業が独自に整備するにはリスクが高く、我が国の航空科学技術の研究開発の中核機関であるJAXAが整備・維持・運用するとともに、外部にも供用することが効率的である。
   そのため、大型試験設備については、JAXAのみならず産学からの要望を考慮し、戦略的な整備・維持・運用(最先端の試験・計測技術等の獲得、機能向上、老朽化対策等)を行い、最大限の利活用に努める。



お問合せ先

研究開発局 原子力課