GEOSS新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針(中間取りまとめ)

平成27年1月14日
科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
地球観測推進部会

目次

1.はじめに

2.現状認識

 1.地球観測の重要性及び「地球観測の推進戦略」について
 2.これまでの取組と成果
 3.推進戦略策定後の状況変化

3.今後の地球観測の取組に当たっての基本的考え方

 1.地球観測を通じて達成すべき目的
 2.地球観測の実施
 3.データ提供と利活用の在り方
 4.人材育成と普及広報
 5.地球観測推進部会の役割

4.今後10年間の具体的な実施方針

 1.課題解決への貢献
 2.観測基盤の維持・強化とイノベーション、データの利活用
 3.GEOSSへの貢献

附属資料

1.はじめに

 「地球観測の推進戦略」(以下「推進戦略」という。)は、平成26年度に策定後10年を迎え、地球観測事業の進捗状況の総合的な評価を行うタイミングとなった。このため、文部科学省の科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 地球観測推進部会(以下「本部会」という。)は、過去9年間の地球観測の取組全体の取りまとめを行った(「地球観測の推進戦略の見直しに向けた我が国の地球観測の取組状況についての報告」(平成25年8月29日)以下「本部会報告書」という。)。
  国際社会に目を移せば、現在、「全球地球観測システム(GEOSS)」の平成28年以降の新たな10年実施計画の検討が行われている。GEOSSの推進に当たっては、我が国が引き続き国際的に主導的な立場をとることが期待されている。観測の統合やデータ共有など優れた成果を上げているGEOSSを、課題解決や持続可能な開発のための情報を提供する統合的なシステムとして更に発展させるため、我が国の新たな地球観測の実施方針の策定が急がれる。
  このような背景から、内閣府政策統括官(科学技術・イノベーション担当)は、GEOSSをはじめとする地球観測に関する我が国の国際的な対応を検討する上で中心的な役割を果たしている文部科学省が中心となり、関係各省と連携して我が国の長期的な実施方針を策定することを提案した(「GEOSSの新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針の策定について」(平成26年8月29日))。
  そこで、本部会では、我が国の地球観測の取組に当たっての基本的考え方を明確化することで、今後10年程度の中・長期を見据えた実施方針の検討に着手し、今般、中間取りまとめを行った。
なお、総合科学技術・イノベーション会議(CSTI)は、本部会報告書を受け、推進戦略のレビューを実施することとしている(平成26年11月27日CSTI有識者議員懇談会)。本部会は、このCSTIのレビュー結果も踏まえ、「GEOSS新10年実施計画の検討に向けた我が国の地球観測の方針」を取りまとめる予定である。

2.現状認識

 1.地球観測の重要性及び「地球観測の推進戦略」について

 推進戦略においては、「地球観測」を「地球環境変動の監視・検出や影響予測等の地球環境問題への対応、気象・海象の定常監視、自然災害の監視、地図作製(地理情報の整備)、資源探査・管理、地球科学的な知見の充実等を目的として、大気、海洋、陸域及び地球内部の物理・化学的性状、生態系とその機能に関する観測を行うものであって、全球を観測対象とするもの、又は地域を観測対象とするが全球の現象に密接に関係するもの」と定義している。他方、推進戦略は、地球観測に対し、地球の理解に関わる研究者に必要な情報を提供するだけでなく、政府や地方自治体の施策決定に必要な情報や、産業界の経営基盤となる情報、一般社会の人々の生活に密接に関わる情報を提供することを求めている。これに鑑みれば、「地球観測データ」の議論に当たっては、これらの自然科学的なデータだけでなく、広く関連する社会経済データも含めて検討すべきである。
  このような多種・多分野にわたるデータを取得し、効果的に利活用していくためには、引き続き、推進戦略の下、国として統一した方針をもって推進することが必要である。これまで推進戦略の下策定してきた「我が国における地球観測の実施方針」の下では、各省庁における取組を網羅的に集約し、推進してきたが、今後は、社会からの要請(ニーズ)に応じた観測を行う観点から、我が国の強みを明示しながら観測から課題解決に至る道筋を明確に描いていくべきであり、それには、中・長期的な視点を持つことが欠かせない。
  これらの観点から、本中間取りまとめ及び今後策定される実施方針は、これまで毎年度策定されてきた「我が国における地球観測の実施方針」に代わるものと位置づけ、より中・長期視点に立った地球観測を推進するための方針としたい(※ア)。
(※ア) CSTIにおける推進戦略のレビュー状況も踏まえ、今後調整する。

 2.これまでの取組と成果

  推進戦略の下では、(a)国民の安心・安全の確保、(b)経済社会の発展と国民生活の質の向上、(c)国際社会への貢献の3点を踏まえ、国として喫緊に対応すべきニーズが明確にされた。それを踏まえ、府省連携等や各省の努力により観測が維持され、観測データの提供や公表、観測データの統合・融合に向けた取組が進み、着実に成果を上げるとともに、国際貢献も進展した。これまでの成果の概略は、本部会報告書を参照されたい。
  一方、毎年行われた総合科学技術会議のフォローアップの中で、課題として、長期的な観測体制の構築、観測システムの更新の必要性が掲げられたほか、観測データの提供・公表が進むのに伴い、より一層のデータ統融合、積極的な情報発信、課題解決への貢献のさらなる必要性が指摘された。

 3.推進戦略策定後の状況変化

 (1)社会状況の変化と科学技術・イノベーションの進展

   推進戦略の策定以降、地球温暖化による影響が更に顕在化し、また気象災害や、地震災害、火山災害等が頻発する中、これらの現象を把握し、対応を検討するための基盤となる地球観測の重要性は増大している。この間の主な状況変化としては、以下の5点があった。
   ○日本企業の海外進出を始めとするグローバル化の進展
   ○開発途上国の発展に伴う環境影響の顕在化
   ○観測技術、情報通信技術の高度化、政府におけるオープンデータ推進などの動き
   ○異常気象の多発、気候変動による影響の顕在化、巨大地震・津波災害を引き起こした東北地方太平洋沖地震や御嶽山における戦後最悪の火山災害の発生
   ○民間主導の地球観測データの利活用の進展

 (2)国内からの要請

   国内においては、「宇宙基本計画」(平成25年1月)、「海洋基本計画」(平成25年4月)が策定され、環境の保全、資源の利用、国の安全保障・防災、地球環境変動などの全地球的課題への対応といった観点で、地球観測の重要性が指摘されている。また、「地理空間情報活用推進基本計画」(平成24年3月)、「防災基本計画」(平成26年1月)、「国土強靱化基本計画」(平成26年6月)では、地震災害、津波災害、風水害、火山災害、雪害等に関する研究及び観測の推進等の必要性が指摘されている。さらに、「環境基本計画」(平成24年4月)では、地球温暖化に関する科学的知見の充実に関する課題として「地球環境の観測や、科学的知見の幅広い情報収集を継続していくことが重要であり、そのための基盤を整備していくことが必要である。」と指摘されている。また平成27年度には政府の「適応計画」(仮称)や「水循環基本計画」の策定が予定されるとともに、平成28年度には第5期「科学技術基本計画」が開始される予定であり、科学技術の発展や、地球環境の把握や水循環の総合的管理等の観点において、地球観測がこれらの計画に貢献できる。

 (3)国際社会からの要請

   国際社会においては、GEOSSについて、2014(平成26)年1 月の地球観測に関する政府間会合閣僚級会合で採択された「ジュネーブ宣言」において、地球観測データに基づくよりよい意思決定を可能とさせるための技術革新、政策決定者を含むステークホルダーとの連携及び協力の拡大、及びGEOSS の引き続きの発展と機能に必要なリソースの維持が掲げられている。
   一方、地球環境研究におけるシームレスな学際的・統合的研究を進めるため、平成24年の国連持続可能な開発会議(リオ+20)において、「フューチャー・アース」構想が提案された。この構想では、地球環境研究の成果を社会に実装し、最終的に社会変革に結びつけるという目標を達成するため、分野の壁を超えて企画段階よりステークホルダーとともに立案・協働し、相互理解を深めながら研究開発を推進(co-design)して地球の変動を包括的に研究することが想定されており、地球観測もこの分野での貢献が期待できる。
   さらに、国連では「持続可能な開発目標」や、「兵庫行動枠組み」に続く2015(平成27)年以降の新たな防災の枠組みの検討が進められているなど、複数の新しい国際的なイニシアティブが具体化に向け検討されている。

3.今後の地球観測の取組に当たっての基本的考え方

 1.地球観測を通じて達成すべき目的

 (1)基本認識

  地球観測は、大気、海洋、陸域及び地球内部の物理・化学的性状、生態系とその機能に関する観測を行うものであり、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のための基礎データを得るとともに、創出された情報が様々な意思決定に活用されることを目指すものである。また、我が国のみならず、人類の持続可能性の確保のため、今後の地球観測は、社会からの要請に具体的に応える責務があることを強く意識したものであるべきである。我が国が直面する課題には、地球規模の環境変動や大規模自然災害など世界共通の問題も多く存在することから、地球観測が国際社会において我が国が積極的な貢献を果たすための強力なツールとなる。
  本中間取りまとめでは、今後の地球観測の目的とあるべき姿を、課題解決のニーズに基づく地球観測の実施、科学的挑戦への貢献としての地球観測、国際貢献としての地球観測の3つの観点で整理した。

 (2)課題解決のニーズに基づく地球観測の実施

  今後、国として取り組む地球観測では、社会からの課題解決の要請(利用者のニーズ)に具体的に対応することに留意し、その成果を社会のイノベーションや様々な意思決定をする際の基盤として活用すべきである。推進戦略においても、利用者のニーズ主導の統合された地球観測システムの構築が基本戦略の一つに掲げられている。
  その際、課題解決のニーズを有する者が具体的な観測項目を認識していない場合がある。また、異なる課題解決の対応を目的として取得した観測データを集積し、解析することで、意図されなかった新たなニーズや課題解決が生み出される(新たな価値の付加)ことは、「北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS/WESTPAC)」が示したように、地球観測の重要な特徴の一つである。したがって、今後の地球観測の企画・実施に当たっては、co-designを意識し、ステークホルダーとの対話を踏まえ、「観測データの収集に対するニーズ」と「情報提供・解析に対するニーズ」の二つに分けて検討することも必要である。なお、今後、地球温暖化による影響が更に進行することが予測されていることを踏まえると、これらのニーズには、将来起こりうる潜在的な課題の発見、その影響評価と対応(リスク軽減)に対するニーズも含まれることに留意が必要である。

 (3)科学的挑戦への貢献としての地球観測

  前述のニーズと同様、多様な目的で取得した観測データが集まることで新たな知見が生み出されることも地球観測の大きな特徴である。また、将来起こりうる潜在的な課題の解決には、変動の兆候を早期に発見するとともに、変化を予測し、将来の影響を想定した対応を取る必要があり、そのための観測データと科学的知見の蓄積が重要である。したがって、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出を目指した観測も、引き続き推進していく必要がある。
  健全な科学の発展、社会への貢献のためには、新たな課題や課題解決の糸口の発見につながる学術研究と、課題解決を目指す研究を戦略的に進めるべきである。地球の包括的な理解を目的とした基盤的な観測であっても、観測で得られる知見を社会に役立てる観点から、現在の利用者のニーズや、将来発生するニーズの想定等を可能な限り具体的かつ明確にした上で、科学的挑戦に取り組むことが望ましい。したがって、本中間取りまとめで言う「利用者」には、研究者や研究機関も含まれる。

 (4)国際貢献としての地球観測

  世界全体が持続可能な社会を構築するため、我々人類が直面する課題には、地球規模の環境変動をはじめとした国を超えた共通の問題も多く存在する。グローバル化が進展し、世界経済の相互依存性が高まる中、我が国としても、他国の災害は決して他人(たにん)事ではない。推進戦略においても、国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮が、基本戦略の一つに掲げられており、これまでも、我が国の地球観測能力を生かした観測により、違法伐採監視や自然災害による被害状況の把握など、世界各国における社会問題の解決に貢献している。今後も、我が国が国際的リーダーシップを発揮し、かつ、世界から信頼できる国と認識されるためにも、戦略的に地球観測を推進すべきである。
  観測における国際協力は、科学技術発展の目的のみならず、科学技術外交の観点からも重要である。国際協力により、我が国単独では得られない観測データ、研究成果が得られるとともに、長期観測に向けた体制の整備が可能となる。「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」等の枠組みを活用するなど、諸外国と連携し、途上国への観測技術支援や観測データの品質管理・品質保証の取組において我が国がリーダーシップを発揮することにより、戦略的に地球観測データを取得していくべきである。
  さらに、GEOSSやフューチャー・アース等の動きに対応し、国際的な連携の下、地球規模の課題解決やその基盤となる地球システムの理解においても地球観測を通じた貢献を果たしていく必要がある。

 2.地球観測の実施

 (1)地球観測の実施体制

  利用者のニーズを踏まえた観測データの効率的な取得・提供のためには、利用者及び観測者のより一層の相互連携を図る必要がある。特に、衛星から地上、海洋、海底下に至る、空間的にも、観測項目においても多種多様な地球観測システムを連携して、効率的・多面的に地球を理解するという観点から、観測対象や観測項目等が類似する観測については、省庁や分野を横断し、関係者が協働して観測体制を構築することが重要である。推進戦略の策定をきっかけに環境省・気象庁を中心として設置された「地球観測連携拠点(温暖化分野)」を始め、関係省庁・機関の連携の場が、今後ますます重要となろう。また、研究分野の連携や、戦略的な観測体制の構築の観点では、観測研究者と様々な研究領域の研究者の連携も重要である。
  実際の観測に当たっては、データの使用目的や観測機器の精度等が観測システムごとに異なる場合がある。このため、多様な実施主体による協働に際しては、国際的な標準を踏まえた、観測手法、必要な観測データの精度、データ取得の頻度、観測に係るメタデータ等の仕様を明確にし、観測データの品質管理・品質保証の実施体制を確立することにより、効率的な観測を実施すべきである。

 (2)国際的な地球観測

  地球規模の観測や、我が国がアジア、オセアニア、アフリカ、中南米等において国際協力の一つとして実施する観測に当たっては、GEOSS新10年実施計画や国連の枠組み、国際研究プロジェクト等の国際動向や、対象地域の特性等を踏まえ、戦略的な観測を実施する必要がある。その際、co-designに結びつく取組や、世界的な課題解決に貢献しうる科学的に意義深い取組は、我が国の国際貢献や科学技術外交の強力なツールとして、国際社会との協調を図りつつ、積極的に推進すべきである。前述のSATREPSを始め、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人国際協力機構(JICA)や世界銀行、アジア開発銀行等が、既に地域の技術支援及び能力開発プロジェクトにおいて、地球観測データの活用を進めていることを踏まえ、これらの機関との連携を図る必要がある。
  これまでも、我が国が特に優れている衛星や船舶等による地球観測は、アジア・オセアニア地域等との連携を図る上で必要不可欠な役割を果たしており、これらの取組は、我が国の科学技術外交の強力なツールとして、今後も継続が必要である。

 (3)長期的な地球観測の維持

  地球温暖化の把握等を目的とした地球観測は、長期的な時間スケールで生じる地球環境変動を的確に把握するとともに、変化を予測し、将来の状況を想定した対応を取るために不可欠な基盤情報である。日々の生活で活用されているデータや、長期観測が実現されている観測項目についても、観測頻度の改善や、均質・高精度で、かつ観測の空白域と空白期間の少ない観測が求められている。したがって、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のためには、観測環境をできるだけ維持した上で、観測基盤の堅持と長期継続的観測の実現が必要である。
  また、長期的には、研究開発を目的として開始された観測が、定常的な観測に移行することも想定される。このような場合には、研究開発機関から定常運用を担う機関への引継ぎが必要となる。地球観測の継続性を考えた場合、このような機関をまたいだ観測業務の受渡しについても、配慮が必要である。

 (4)最新の技術を活用した地球観測

  これらの観測の継続に当たっては、観測精度の向上や観測の安定性の確保、低コスト化に向けた技術開発に取り組んでいくことが重要である。例えば、フェーズドアレイレーダーを搭載した熱帯降雨観測衛星など、斬新な着想に基づく新たな観測手法の開発や、新たな地球物理量の観測は、科学にブレークスルーをもたらすと同時に、新たな社会貢献や問題解決が図られる可能性を秘めている。国として推進すべき地球観測は、社会からの要請に基づくべきものであるが、そのために必要な技術開発(観測イノベーション14ページ参照)も同時に推進し、観測の精度・効率の向上を目指すとともに、新たな課題解決の要請に備えていくべきである。
  また、データ同化技術の進歩により、観測データを用いたシミュレーションモデルの精度向上や、逆にシミュレーションモデルを用いることで、地域的に偏在し、観測頻度にも差がある観測データの不足を補ったり、効果的な観測網の設計を行ったりすることが可能となっている。今後も、観測データと数値モデルの両面から、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解を進めていくべきである。

 3.データ提供と利活用の在り方

 (1)関係機関の連携等

  課題解決型の地球観測の推進には、観測データの体系的な収集、合理的な管理、データの統合や情報の融合が重要である。特に、地球観測システムの統合による観測データの共有・統融合の推進は、地球観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換する上で不可欠なものであり、既存の取組を進展させるなどデータの利活用を促進する取組を強化する必要がある。また、分野を超えた大規模かつ多様なビッグデータは、新たな科学的発見や社会的・経済的な課題の解決につながる新たな知見や洞察をもたらす可能性を有している。
  これまでは、推進戦略の下、府省連携等や各省の努力により観測が維持され、観測データの提供や公表、そして観測データの統合・融合に向けた取組が進んでいる。上記のような、社会からの要請に対応するためには、観測に係るメタデータを整備した上で、利用者と観測者との連携や、分野横断的な取組が一層求められる。また、「データ統合・解析システム」や産業利用に向けた衛星情報配信システム等のデータ基盤を整備し、データの利用と共有の促進を図る必要がある。さらに、今後も増加が続いていく相当な容量のデータの保管・提供方法や、観測したデータの品質管理の在り方について、提供者だけではなく利用者の視点にも立って検討していく必要がある。
  一方、観測データに正確な空間情報や時間情報を付加することは、多様な観測情報を統合しより活用しやすい情報として提供するために必要な作業である。この観点で、地理情報システム(GIS)等との連携にも配慮すべきである。
  さらに、co-designに基づく課題解決に当たっては、人々の活動に関わる様々な社会経済データを、自然科学的な観測データに統融合する必要も想定される。この観点から、今後は社会経済データの収集と活用にも配慮が必要である。

 (2)データ共有の在り方

  GEOSSにおいては、新10年実施計画の検討に当たり、「データ共有原則」の検討が進められており、地球観測による社会利益はデータ共有なしには成し遂げられないとして、GEOSSで共有するデータ等を「オープンデータ」として原則無償かつ無制限に共有する方向性が提案されている。また、「データ管理原則」として、データのアクセス、フォーマット、メタデータ、品質管理、保全等の望ましい在り方が示されている。
  国内においても、公共データの活用促進として「オープンデータ」の取組が進められている。平成24年7月には、「電子行政オープンデータ戦略」が取りまとめられ、国として積極的に公共データを提供していくことが示されるとともに、平成25年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」において、公共データの民間開放及び公共データを自由に組み合わせての利活用が可能な環境の整備を早急に推進する必要性が指摘されている。
  このような国際・国内の動向を踏まえ、今後地球観測において取得するデータについても、オープンデータのような広く利用可能な状態で、積極的に公開・提供する取組が求められる。ただし、地球観測で得られるデータには、機密性の高い情報や、観測値等の取扱いに注意が必要な情報も含まれる可能性があることから、個々のデータの公開可否の判断においては、慎重な見極めが必要である。特に、機密性の高い情報については、その取扱いに関するルール作りが必要である。

 (3)産業への貢献

  平成26年に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2014」では、政策課題解決への視点とした「持続可能な社会の実現に寄与するためのモニタリングとその利活用」は、世界的にも我が国の有する先進的な地球観測研究等を加速することで、将来にわたり持続可能な社会を実現し、我が国の産業競争力の強化に貢献するものであるとした。この観点から、地球観測データの民間における利活用を促進し、新たな付加価値を創造することにより、産業の芽を育てることも重要視すべきである。また、今後我が国の環境関連の技術を国際的に展開するためには、これら技術の国際標準化を目指す必要がある。国際標準の設定には、客観的な計測と評価が必要であり、我が国の地球観測データの貢献が期待できる。

 4.人材育成と普及広報

 観測データの取得から利活用までには、多数のプロセスが介在するが、いずれの場面においても、データを適切に取り扱い、目的に応じたデータの加工・利用に当たる専門の人材が必要である。若手人材の減少等により持続的な人材確保が困難となるおそれがある中、長期的な地球観測の維持の観点から、地球観測分野の人材育成について不断の努力をもって継続していくことが必要不可欠である。特に、多様なデータを収集・統融合し、課題解決に至るまでの研究を一貫して実施するためには、ビッグデータをはじめとする情報通信技術の活用、高度な統計処理・データ解釈・解析能力等に秀でた、分野横断的な研究開発能力及び利用者のニーズを的確に把握することから具体的解決策までを体系立てて組み立てる能力を有する人材の育成が必要である。さらに、地球観測データ利用者の裾野を広げるためのオープンソースツールの開発・提供などの取り組みも必要である。また、本章で述べた基本的な考え方は、データを取得する者からデータを利用する者まで、地球観測に関わるあらゆる関係者で共有し、理解を醸成すべきである。また、地球観測に関して、重要性や有効性が国民に広く理解される必要もある。そのために関係者の対話や、幅広い普及広報活動も重要である。

 5.地球観測推進部会の役割

 本部会は、推進戦略に基づき、地球観測に対する利用者のニーズや国際的動向を的確に踏まえ、地球観測の広い領域にわたる俯瞰(ふかん)的な観点から、関係府省・機関の緊密な連携・調整の下、地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等について方針を策定するための統合的な推進組織として設置されている。前述のとおり、省庁や分野を横断し、関係者が協働して観測体制を構築することが重要であることや、国としてオープンデータを推進していく流れを踏まえれば、本部会が率先して、地球観測に関する省庁横断的な連携について推進することが必要である。
 地球観測データの収集から情報提供に当たっては、ニーズの集約、施設設備の相互利用、共同運用、民間活力の活用、人材育成など、これまでも連携を推進してきた。今後は、潜在的な利用者のニーズの掘り起こしや、社会からの要請があった際にニーズ側と観測側を橋渡しする機能の強化や、観測シーズと社会のニーズをマッチングさせるような場が必要である。
 今後、本部会においては、課題解決の要請と観測シーズとの対応を明確にし、適切なレビューを行いながら地球観測を推進することで、観測から課題解決に至るまでの取組を総合的に俯瞰(ふかん)し、推進する機能を強化すべきである。

4.今後10年間の具体的な実施方針

 1.課題解決への貢献

 推進戦略においては、ニーズに応える戦略的な重点化として、(a)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応(※イ)、(b)水循環の把握と水管理、(c)対流圏大気変化の把握、(d)風水害被害の軽減、(e)地震・津波被害の軽減が挙げられ、また15分野の分野別戦略が整理されていた。上記2、3を踏まえ、GEOSS新10年実施計画をはじめとする国際的な活動への貢献も重視しつつ、引き続き推進戦略に基づいた地球観測を実施していくべきである。このため、本方針では、課題解決への貢献や、我が国がこれまでに注力し強みとしてきた観測の更なる強化の観点から再整理し、以下の(1)~(3)の観点で、今後10年間に実施すべき取組を取りまとめる。これらに加え、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出を目指した取組についても、下記の観点を踏まえ、利用者のニーズや、将来発生する課題解決のニーズの想定等を可能な限り具体的かつ明確にした上で実施することが望ましい。
(※イ)「抑制適応」は現在、「緩和と適応」と言い換えられる。

 (1)活力のある社会の実現

  水資源や、エネルギー・鉱物資源、森林資源、農業資源、海洋生物資源等の資源の確保・利用、健康等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、水環境の保全や持続可能な水管理の実現の基礎となる流域・地域の状況の把握、再生可能エネルギーの導入や安定的管理のための気象の観測・解析・予測、食糧安定供給のための農業気象や農業生産環境の把握、健康被害や農作物への影響が懸念される大気汚染物質の監視などが挙げられる(※ウ)。
  これにより、土地の利活用や保全、生活の質の向上、経済社会の活力向上及び持続可能な発展など、現在及び将来にわたって人類全体が安心して豊かな生活を営むことができる社会の実現に貢献する。なお、今後の活力のある社会の実現に当たっては、自然環境の価値(自然資本)を定量的に把握し活用する重要性も指摘されており、この観点において生態系サービスなどに関わる観測も必要である。
 (※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

 (2)防災・減災への貢献

  地震災害、津波災害、火山災害、風水害、雪害等に関する課題解決のため、即時性の高い情報を含め、基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、極端な気象による災害の監視・予測システムの確立、災害発生メカニズムの解明や予測技術向上のための地震・火山・地殻変動の調査・観測、諸外国・国際機関等とも連携した観測網の充実・災害監視などが挙げられる(※ウ)。
  これにより、災害発生の予測と、被害防止・軽減、危機管理につながる恒常的な地球観測や監視等を実施することで、国民及び国際社会の安全・安心の確保に貢献する。あわせて、「国際災害チャータ」や「センチネル・アジア」等を通じ、国外の災害対応にも貢献する。
 (※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

 (3)将来の環境創造への貢献

  地球温暖化や地球環境の保全等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、温室効果やオゾン層破壊に関係する物質の分布・循環の観測、特に全球炭素収支の高度な把握、気候変動の兆候を捉えるための中・長期のモニタリング、地球温暖化に対し、脆弱(ぜいじゃく)な地域(極域等)の監視、気候変動メカニズムの理解と気候変動予測の高度化のための観測、不確実性の定量的評価や低減のための観測データの取得、生態系・生物多様性の変化の把握、生態系保全対策とその有効性評価のためのモニタリングなどが挙げられる(※ウ)。
  これにより、複雑な地球環境変動の把握に貢献するとともに、将来世代にも及び得る新たな課題を発見あるいは予測し、影響を軽減する等の適切な対応の検討に活用する。その際、ニーズを踏まえた観測という前提に立ちつつ、観測の空白域や空白期間をなくし、品質管理された観測データの配信を行う取組にも配慮すべきである。
 (※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

 2.観測基盤の維持・強化とイノベーション、データの利活用

 1.の課題解決に貢献するためには、必要なデータを必要な時に取得し、提供できることが求められる。必要十分な観測精度や観測頻度、観測網の展開・観測地点の適切な配置を考慮し、地球観測を長期にわたり安定的に実施する。また、今後新たに発生する課題解決にも対応しうる質の高いデータを提供していくためには、安定的な資金を確保の上、観測基盤を維持し長期にわたり安定的に観測データを取得するとともに、そのための観測機器類の開発を進める取組も重要であり、以下の点に留意しつつ、引き続き本方針の下で推進していく。

○観測基盤の維持及び長期継続的観測の実現
 観測に対するニーズを的確に把握することで我が国が長期継続すべき観測項目、観測精度、観測頻度及び適切な観測網を特定し、重要度の高い観測項目については必要に応じて関係府省・機関の連携の下で実施する等の取組を通じ、地球観測の長期継続性を確保する。
 また、地球観測を安定的に実施し、長期継続的な観測を実施するためには、観測機器の整備・維持等への継続的な予算が求められるとともに多くの研究者・技術者等の関与も必要である。このためには、長期的な展望をもって計画を検討し、着実に進捗するよう戦略的に取り組む必要がある。

○「観測イノベーション」の推進
 観測精度の向上や観測の安定性の確保、低コスト化に向けた技術開発に取り組んでいくことが重要である。また、新たな課題解決や科学的発見への道を開くためには、斬新な着想に基づく新たな観測手法の開発や新たな地球物理量の観測等が求められることもある。このような、「観測イノベーション」の推進を今後更に強化する。特に、衛星による地球環境観測や船舶等による海洋観測等は、我が国が特に強みとする分野であり、そのための観測機器や衛星システム、探査機、広域物理探査技術等の開発を重視していくことが望ましい。

○ニーズにつなぐための技術開発と人材育成
 観測データを活用し、社会に生かすという点では、特に、地球観測データは現象のモデル化やシミュレーションを介して気候変化の予測や実社会の課題解決等に適用されることが多く、地球観測データとモデルやシミュレーション結果をつなぎ、課題解決のニーズを持つ者が使いやすい形の情報に変換する技術開発とそれを担う人材育成を促進する。また、社会のニーズにつなぐため、研究者と利用者の連携を橋渡しするコミュニケータ、ファシリテータのような人材育成も推進する。

○データの共有と利用の促進
 情報技術の高度化やビッグデータサイエンス等の動向を踏まえ、紙媒体に記録された歴史的観測データのデジタル化の推進等を含め、観測データを適切にアーカイブし、統融合し、その利活用を促進する。そのため、データ統合・解析システムや産業利用に向けた衛星情報配信システム等のデータ基盤を整備・維持・運用し、課題解決に必要な情報を創出する取組を支援する。その際、課題解決に当たって有益な社会経済データを収集し、活用を支援する取組も重視すべきである。
 さらに、民間主導の地球観測データの利活用が進展している状況に鑑み、官民協働による地球観測の実施やデータの利活用について検討すべきである。

 3.GEOSSへの貢献

 GEOSSにおいては、災害、健康、エネルギー、水、農業、気候、気象、生態系、生物多様性の9つの社会利益分野(Social Benefit Areas)を設定している。近年、GEOSSにおいては、海洋をテーマに「Blue Planet Initiative」が進められているほか、水、農業、エネルギーの相互連関を扱うことにより包括的な問題解決策の検討に取り組む「Water-Food-Energy Nexus」などの提案もある。今後は、これら分野間の連携活動を促進し、包括的な問題解決に取り組むことが重要とされている。これを踏まえ、我が国がGEOSS新10年実施計画の検討・実施に向け引き続き主導的な役割を果たしていくためには、1.の課題解決に対する貢献も念頭に、以下の点に留意する必要がある。なお、課題対応型の取組と地球システムのさらなる理解、現象解明への取組を別個に行うのではなく、人類社会に対しいかに貢献するかの観点で検討し、両者のバランスを持った観測活動が推進されることが望ましい。

○課題対応型の取組
 顕在化した課題に対する直接的な対応を目的とした観測は、利用者との連携で進めている「センチネル・アジア」や、「アジア水循環イニシアティブ」のような我が国の取組をグッドプラクティスとして示しつつ、このような活動を後押しすることで、GEOSSの更なる発展を目指す。

○地球システムのさらなる理解、現象解明への取組(科学的な取組)
 人類共通の科学的知見の蓄積・深化を目指すには、これまで科学的理解に至っていない現象の科学過程を明らかにすることを目的とした観測研究(いわゆるプロセス観測)が主体となるが、現に地球にどのような現象が起こっているかを知るための観測(いわゆるモニタリング)との連携をデータの集積や統合を通じて強化することも必要である。これらの取組を通じ、国際社会や多様なコミュニティが協調して世界的な課題の解決に貢献することを示しつつ、主導国との間の科学技術外交の側面を意識しながら、GEOSSの更なる発展を目指す。

以上

 

附属資料

「地球観測推進部会」における本件に関する議論の経過

第1回 平成26年9月3日

 ・地球観測に係る最近の動向と今後の予定について
 ・今後10年の我が国の地球観測の基本的な考え方について

第2回 平成26年10月30日

 ・中間取りまとめに向けた検討について

第3回 平成26年12月10日

 ・中間取りまとめ骨子について

第4回 平成27年1月14日

 ・中間取りまとめについて

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会 地球観測推進部会 委員名簿

 部会長

 小池 勲夫

 東京大学名誉教授

 部会長代理

 大垣 眞一郎

 公益財団法人水道技術研究センター理事長、東京大学名誉教授

 

 東 久美子

 情報・システム研究機構国立極地研究所研究教育系准教授

 沖 大幹

 東京大学生産技術研究所教授

 甲斐沼 美紀子

 独立行政法人国立環境研究所社会環境システム研究センターフェロー

 河宮 未知生

 独立行政法人海洋研究開発機構統合的気候変動予測研究分野長

 小池 俊雄

 東京大学大学院工学系研究科教授

 杉本 敦子

 北海道大学大学院地球環境科学研究院教授

 高村 ゆかり

 名古屋大学大学院環境学研究科教授

 寶 馨

 京都大学防災研究所教授

 瀧澤 美奈子

 科学ジャーナリスト

 佃 栄吉

 独立行政法人産業技術総合研究所理事

 中澤 高清

 東北大学大学院理学研究科客員教授

 中静 透

 東北大学大学院生命科学研究科教授

 深澤 理郎

 独立行政法人海洋研究開発機構執行役

 藤谷 徳之助

 一般財団法人日本気象協会顧問

 堀川 康

 独立行政法人宇宙航空研究開発機構技術参与

 安岡 善文

 東京大学名誉教授

 和気 洋子

 慶應義塾大学名誉教授

 渡邉 紹裕

 京都大学大学院地球環境学堂教授

 

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

メールアドレス:kankyou@mext.go.jp

(研究開発局環境エネルギー課)