資料2-4 グループ討論の結果(その3:将来の環境創造への貢献)

「地球観測」新実施方針検討
「将来の環境創造への貢献」グループ

2015年5月30日
河野 健、甲斐沼美紀子、佐藤 薫、沖 大幹

1.新たに設定する分野1「人為的な気候変動に伴う悪影響の探知・原因特定」

 a) 「10年後の達成目標」について
    ・ 人為的な気候変動に伴う地球環境変動を探知し、その原因を低い不確実性で特定可能とする。その結果、気候関連の自然災害に対するロス・アンド・ダメージをめぐる議論に科学的な根拠が提供されると共に、持続可能な発展を阻害するような新たなグローバルリスクの検知やマネジメントが可能となる。

 b) 「実現するための道筋」について
    ・ 気温、降水量、風、湿度、CO2など大気中の微量ガス濃度、雲・エアロゾルと放射過程、海面の水温や水位、海氷・植生の分布や密度、海水温・塩分濃度やpHの立体構造、河川の流量・水位や水面面積の分布や割合、土地利用・土地被覆など地球規模環境変動監視の要となる地球物理量(Essential Climate System Variables; ECSVs)の継続的な観測を行うと共に、十分活用されていない古い地球観測記録の発掘やデジタル化を行って利用可能な時間的・空間的な拡大を進め、一方で、人為的な気候変動影響の寄与の定量的な推計を可能とする気候モデルのシミュレーション精度の向上とアンサンブル数の増大を推進して不確実性を減少させる。

 c) 「それらを実現するために必要な施策」について
    ・ 地球規模環境変動の監視の要となる地球物理量(ECSVs)の絞込み、国際的な分業・連携を含む長期継続観測体制の強化、衛星・地上・海洋・船舶・航空機などマルチプラットフォームの高度利用による両極を含むグローバルかつ高解像度の観測体制の構築、高精度・効率的な観測を可能とする技術のイノベーションの促進、GPS信号や高度計、重力計などに基づく地球観測手法の高度化の推進。
    ・ 発展途上国を中心とした国々の過去の観測記録のデジタル化や、古気候プロキシデータの体系的な収集と永続性・堅牢性のあるアーカイブシステムの構築、国際協調に基づくそうしたデータの統合やオープンデータ化と共同利用の推進。
    ・ 長期地球観測に基づく地球環境変動のメカニズムの解明、ビッグデータ技術を転用した未曾有の地球規模環境変動の早期探知技術の開発などの推進。
    ・ 多種多様な復元気候情報、主要地球観測情報、気候モデルのハイパーアンサンブルシミュレーション結果など膨大なデータを統合して人為的な気候変動に伴う地球環境変動を探知し、その原因を低い不確実性で特定可能とする技術開発と実証研究の推進。
    ・ 長期多種多様な地球規模環境変動観測情報を教育研究の現場や社会で生かせる人材の育成のさらなる推進。
    ・ 関係府省・機関間の観測協力体制と安定した観測予算計画の構築。

2.新たに設定する分野2「持続可能な活用のための長期海洋環境監視」

 a) 「10年後の達成目標」について
    ・ 人類は海洋から様々な恩恵を受けている。
    ・ 気候関連:膨大な貯熱源、二酸化炭素吸収源、貯水源
    ・ 食料供給源:水産資源
    ・ 生物多様性
    ・ 海運
    ・ その他(レジャー、資源、etc)
    ・ これらの機能を維持していくため、極域を含む全海洋の効果的かつ継続的な地球観測が必要。
   充分な時空間スケールで、必要とされる項目が全球海洋においてくまなく観測され、得られたデータが可及的速やかに公開される。その結果、人為的な気候変動に伴う海洋環境変動や生態系変動が速やかに探知され、原因特定のための研究に資するとともに、政策決定に科学的根拠を与える。これにより、海洋環境の維持と持続可能な利活用の方向性が定まる。

 b) 「実現するための道筋」について
    ・ 観測体制
      - 既存の観測網の整理と拡張
      - 整理の例:太平洋赤道域係留ブイ網(TAO/TRITON)からTPOS2020へ
      - 拡張の例:継続的な観測の深層への拡張(Deep Observation Strategy)
         海洋酸性化観測網の整備(GAO-ON)
      - 重要観測網の維持:Argo観測網
          ・ Emerging Issueへの対応:極域観測の強化
      - 国際協力、国際的枠組みの重要性:GOOS(IOC)、GEOSSなど
    ・ 観測イノベーション
      - 普及型のpHセンサー、CO2センサーの開発
      - 海洋深層を自動で平易に精度良く計測する技術
      - 生態系変動や生物多様性の示標を計測する技術

 c) 「それらを実現するために必要な施策」について
    ・ Essential Ocean Variables (EOVs)の策定
    ・ EOVsモニターのための観測網の維持・更新
    ・ これをインフラストラクチャーと位置づけ、sustainableにする仕組み作り
    ・ 自由なデータ流通の維持(外洋)と推進(沿岸域)
    ・ 海洋開発・利用を行う際の「環境維持経費負担」の仕組み作り

3.新たに設定する分野3「グローバルな地球環境(炭素循環)変動に対する人為的な関与の実証的解明」

 a) 「10年後の達成目標」について
    ・ 気候変動、特に地球温暖化に係る温室効果ガス及び関連物質の状態を、国際的な協調のもと、包括的、継続的に観測し、地球温暖化プロセスの理解を深めることにより、気候変動の将来予測の不確実性を大幅に低減する。また、気候変動が大気圏や地球表層圏(海洋、陸域、特に雪氷圏・高山帯・沿岸域等)、人間を含む生物圏の環境に与える直接的な影響を把握し、特に地球環境変動とその影響に対する人為的な関与を、観測に基づき実証的・定量的に解明する。これらの知見は、気候変動の現象解明と影響予測の高精度化に不可欠であると同時に、グローバル及びローカルな気候変動対策(緩和策・適応策)の効果を定量的に評価し、将来のよりよい環境の創造に貢献するために不可欠である。

 b) 「実現するための道筋」について
    ・ 全球的に取り組む課題と道筋
      - 既存の地球観測プラットフォーム(温室効果ガスの地上・航空機・船舶・衛星観測、海洋・陸域の炭素循環と生態系の観測、雪氷圏・高山・沿岸域等の気候変動に脆弱な地域での観測)の活用により、恒常的な地球観測を確立する。
      - GOSAT(2009~)、GOSAT-2(2018~)で実施中の全球温室効果ガス観測の継続に必要な後継衛星(GOSAT-3)の開発と運用を行う。
      - 雲・エアロゾル、及びエアロゾルの重要な前駆物質である人為起源・自然起源の揮発性有機化合物(VOC)の発生と輸送に関する観測を継続する。
      - 人為起源のみならず、自然起源の温室効果関連物質(もしくは気候汚染物質、例えば火山噴火によるSO2等)の動態の長期監視、並びに国別インベントリデータの精度評価を可能にする観測を継続する。
      - 地球観測データのリアルタイムに近い迅速な収集と流通に基づき、地球環境(全球炭素)監視システムを確立する。
      - 各種の地球観測プラットフォームで収集される観測データを統合利用し、地球環境変動への人為的関与を定量評価する解析手法を確立する。
    ・ 地域的に取り組む課題と道筋(特に、国内及びアジア太平洋域)
      - 温暖化に正のフィードバックをかける可能性のある現象を検出し(永久凍土帯等におけるメタン放出の急激な増加、大規模な泥炭火災等)、将来の気候変化予測の精度を向上させる。
      - 衛星観測では雲の影響により深刻な観測空白域となっているアジア(特に熱帯)域において、航空機・船舶・地上(温室効果関連物質の濃度、フラックス等)の観測を戦略的に強化することにより、アジア太平洋における高密度な地球観測体制を構築する。
      - 衛星観測・地上観測・航空機観測等のデータを統合的に解析するシステム(高時間・空間分解能化されたインバージョン解析等)により、国レベル、地域(都市)レベルの温室効果関連物質の収支を評価する手法を確立する。
      - 各国の大都市域においてローコストで多地点高密度に展開可能な観測技術の確立(スマートメータとの連携等)によりデータ整備を行い、都市レベルでの温室効果関連物質の排出量を高時間分解能で把握する。
      - 国レベル、地域(都市)レベルでの温室効果関連物質の排出量をインベントリデータと比較・検証する。高い時間・空間分解能を有し、精度検証された排出量データに基づき、各種気候変動対策の効果を評価する。
      - アジア地域で特に地上観測による地球観測体制を戦略的に強化し、温室効果ガスと大気汚染物質(SLCP)の削減による地球環境保全に資するデータを提供する。
      - 産業界との連携(例えば民間航空機や船舶観測との連携)による技術開発を促進する。
      - 衛星観測による(熱帯林・シベリア北方林等)森林火災の監視、全球バイオマスの監視、それによる温室効果関連ガスの排出量推定を実施する。
    ・ 特に必要とされる課題および技術開発
      - 以下の組み合わせにより、温室効果ガスや気候汚染物質の、地球規模での三次元大気観測を実現する。
          ・ 全球規模での航空機観測ネットワークの充実
          ・ 簡易FTIRの開発・高精度化・普及(ガス種を選ばず地球環境変化に重要な物質の濃度を高度別に測定可能)
      - 化石燃料起源のCO2排出量を、14Cの測定によって推定する手法を確立する。
      - 地上観測-衛星観測連携によるグローバルな土壌炭素への温暖化影響の評価を行う。
      - 地球規模での気候-炭素循環フィードバックを監視する。

 c) 「それらを実現するために必要な施策」について
    ・ 既存の観測プラットフォームを活用し、観測の時空間分解能とカバレッジを向上させ、恒常的に主要な地球観測を実施する体制の強化
    ・ 民間および公的研究機関に対する新規的観測に対する装置や解析システムの開発予算の助成強化
    ・ 人材育成、特に、研究者・技術者に対する長期的に地球観測に貢献できるポジションの確保、開発途上国の研究者・技術者に対する能力開発
    ・ 地球観測を担う関係府省・機関や大学等の連携を促進する体制の確立(国内外の連携を促進する拠点の確保)
    ・ 地球観測のビッグデータ化に対応する、データの収集・保管・利用促進を行う体制の確立と強化

4.新たに設定する分野4「新たな知見の創出を目指した地球科学観測」

 a) 「10年後の達成目標」について
    ・ 地球システムを構成する固体地球、陸面、海洋、大気、電離圏・磁気圏の相互作用及びフィードバック、太陽地球系の結合過程の理解を深める。この分野の観測および研究の推進は、地球システムの包括的理解に必要な基礎的知見を与えるものであり、未知なる新たな知見を創出するものである。
    ・ 具体的目標は以下の通り
      - ジオスペース環境観測の高度化・広域化と、これによる太陽地球系結合過程の研究基盤形成。
      - 大型レーダーネットワーク観測による対流圏から熱圏・電離圏にいたるグローバルな大気結合過程と気候影響の解明
      - 持続的かつ機動的な南極観測・北極観測による地球環境変動研究の実施
      - 海洋底・地殻内部・表層堆積物(氷床を含む)の掘削と採取資料に含まれる時間変動情報の解読による全地球システム変動の解明
      - 高感度ミューオン検出器を用いたリニアアレイ観測による火山ダイナミックスの解明
      - 海底地震・地殻変動観測網の整備による地震及び火山現象の理解の深化と、地震・火山噴火ハザードの予測研究の推進
      - 航空機による機動的広域的大気観測システムの確立と、地上・衛星観測を組合せた雲・エアロゾル・降水相互作用、温室効果気体の変動と循環、越境大気汚染、台風・集中豪雨等メソ降水システム機構の解明
      - 多元的自動観測網と研究船を用いた機動的広域的海洋観測システムの確立による、海洋物質循環や、生物資源の変動メカニズムの解明。
      - 衛星による次世代全球地球観測システムの開発と継続的な観測維持。水循環・放射収支・炭素収支に関わる重要気候変数の観測精度向上、雲・降水レーダの高機能化によるエアロゾル・雲・降水過程の総合的理解、森林バイオマス推定の高精度化による全球規模の炭素循環把握、対流圏の短寿命気候汚染物質の全球規模監視、サブミリ波観測による成層圏オゾン層変動に関わる各化学種の監視、干渉型合成開口レーダ技術による海面高度観測の実現。

 b) 「実現するための道筋」について
    ・ 科学観測の健全な策定および評価
    ・ 適切な規模および時期での予算化
    ・ 新たな知を見出し高めるための継続的な観測予算と研究助成
    ・ 次の研究展開に生かすための取得整備されたデータの適切な管理

 c) 「それらを実現するために必要な施策」について
    ・ コミュニティ形成とコミュニティにおける計画策定のスキーム作り。「提案」⇒「審査」⇒「策定」⇒「実現」⇒「評価」の機能。コミュニティから出された審査・公認するための組織体制作り
    ・ 新しいがリスクも高い観測技術開発に対する予算措置の方策。研究者・技術者の人材育成、企業を含む高度技術の継承。
    ・ 安定した観測体制の確立(継続的観測維持のための運用費)と研究推進助成。
    ・ データのアーカイブ、利用促進を図るための体制の確立と強化

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(研究開発局環境エネルギー課)