資料2-2 グループ討論の結果(その1:活力のある社会の実現)

新実施方針目標案の検討(たたき台)
(活力のある社会の実現)

1.目指すべき将来像

 「現在及び将来にわたって、発展途上国・先進国の区別なく、人類全体が安心して豊かな生活を営むことができる社会を構築する」をキーワードに考えると、今後重視すべき分野は、以下のとおり。
  ・食料や水資源に関するセキュリティの確保
  ・エネルギーや海底鉱物資源に関するセキュリティの確保(再生可能エネルギーの利活用、海洋の開発など)
  ・環境と調和した社会の実現(生態系サービスの享受、気候変動の緩和と適応など)
  ・健康に暮らせる社会の実現(感染症の予防、熱中症対策など)

2.10年後に実現すべき社会像

 目指すべき将来像を念頭に、10年後に実現すべき社会は、以下のような姿をとると考えられる。
 なお、国が定める各種基本計画等(中間とりまとめで列挙された基本計画のほか、本年3月に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」や今後策定される基本計画等も含む)が目指す社会のあり方にも、十分配慮されたものとすべきである。
  ・気候変動にも適応した形で、世界の食料(特に農産物)や水資源が安定的に供給される。
  ・我が国の農林水産業の生産性が向上し、品質の高い生産物が安定的な供給が可能となることで、地域が活性化される。また、日本の食料自給率の向上や、農水産物の輸出等による経済発展にも貢献する。
  ・再生可能エネルギーの利用が進み、化石燃料への依存度が低下することで、温室効果ガス排出抑制(温暖化の緩和策)の取組が進む。これにより、我が国が国際社会に対する責任を果たす。
  ・メタンハイドレートやレアアース等の海底資源の賦存量が明らかとなり、生物多様性や環境保全に配慮した確保・利用に向けた取組が進み、多くのエネルギーや鉱物資源を輸入に頼る我が国が、「資源大国」への転換に向け本格始動する。
  ・生態系サービスを定量的に把握することにより、適切な環境保全や利活用の取組が進む。
  ・気候変動に伴う自然災害の影響が評価され、適切な防災・減災が実現される社会となる。
  ・REDD+の取組みにより、途上国の森林減少・劣化が把握され、その抑制や森林増加につながる経済的メカニズムも含めた対策が講じられることで、温暖化の進行が抑制される。
  ・北極海航路の開拓など、気候変動の影響をプラスにとらえた適応策を講じ、豊かな社会づくりに活用する。
  ・適切なモニタリングに基づき、大気汚染状況の把握、対策推進を図ることにより、グローバルな問題も含めて健康被害が低減され安全・安心な暮らしが確保される。また、感染症の発生・伝播過程を予測することで、世界的な感染症拡大が抑止される。
  ・食料や資源の争奪や、北極の開発(航路の構築等)に伴う利権の確保など、将来の環境変化に伴い想定されるグローバルな課題に対し、未然に対策が講じられることにより、これらの課題の顕在化・深刻化が回避される。
  ・上記のような取組を我が国が先導して実施し、海外においても積極的に取り組むことにより、我が国が国際社会への貢献を果たしてポジションを高めるとともに、日本全体、ひいては世界全体が豊かになる。

3.上記の社会像を実現するために必要なこと

 上記の社会像を目指すため、地球観測の観点で今後10年間で必要な取組は、以下のとおり。
  ・定常的な観測の継続(地球の現状をありのままに把握すること、開発に伴う環境保全を監視すること、観測のための機器の継続的な開発と維持・管理など)
  ・自然環境の価値の定量的把握手法の開発
  ・広範囲の情報を正確に把握するための衛星の活用、海洋内部の観測を可能とするグライダーやアルゴスブイなどによる観測網の構築と維持
  ・気候変動メカニズムの解明、予測精度の向上
  ・開発途上国における全国レベルから地域レベルの森林の現況・減少・劣化状況が、毎年あるいはシーズン単位で定期的に把握すること
  ・北極海や南氷洋など、海運等の実務利用に関わる雪氷・海氷分布を常時把握すること
  ・市民参加型の観測(スマートフォンなどの情報端末の活用など、専門の機関のみならず事業者や市民の手で観測を実施することが可能となる(農家や漁業者など、情報のユーザー自身が観測者となることで、観測者とユーザーの間の距離が縮む))
  ・様々な観測で収集されるデータの精度をチェックし、ビッグデータとして再構築するシステムの開発と運用。
  ・地球観測データをビックデータと見なして、ディープラーニング等も生かした情報抽出による高次情報の抽出と利活用
  ・データのリアルタイムな共有と提供(あらゆる人々へのデータ・情報の提供、そのためのオープンデータの推進)
  ・観測データを課題解決に結びつけるシステムづくり(モニタリングからモデル化、対応策へのフィードバックサイクルの確立、システムの社会実装)
  ・高齢化社会や地域の衰退など、国・地域レベルの課題に対する地球観測の貢献のあり方の明確化
  ・科学技術外交・国際協力への地球観測の貢献のあり方の明確化
  ・広義の安全保障の考慮(我が国が実施する地球観測と言う観点から、まずは日本の利益に資する地球観測が必要であるが、日本の利益は世界の平和と安定と共にあるべきことから、世界に目を向け、我が国を取り巻く社会との良好な関係を築き上げるための地球観測も、我が国の広義の安全保障の観点では必要である)
  ・より実効性の高い人材育成と理解増進

4.具体的に必要な地球観測

 上記の取組を支える、具体的な地球観測は、以下のとおり。
  ・共通基盤的観測として
   ⇒大気、気象・水象、海洋、土地被覆・利用情報、地図情報、地殻・地形情報など、地球環境の現状を正確に記録することで、過去から現在に至る変化過程の把握、将来予測のための初期値の作成など、多様な課題解決に至る基礎的な情報を得るための観測を実施する。
  ・食料生産に関わる観測
   ⇒農産物の品質向上と安定的な確保、農業の生産性向上などを実現するため、農地利用・作付体系、農業生産量、農業基盤の整備・管理、食料の流通(輸送と販売など)などを把握する。
   ⇒水産物の安定的な供給を実現するため、水産資源の量や分布、漁場環境、有害生物などを把握する。
  ・水循環・水資源に関わる観測
   ⇒効率的な治水・利水、効果的な水災害削減を含む、健全な流域水循環と水資源の安定的な利活用を実現するため、治水・利水施設の管理、河川流量、地下水井や揚水量、土壌水分量などを把握する。
  ・エネルギー・鉱物資源に関わる観測
   ⇒風力発電や太陽光発電などの再生可能エネルギーの安定的確保を実現するため、風況、日射量などを把握する。
   ⇒我が国のエネルギー・鉱物資源の現状を把握し、これらの開発に結びつけるため、資源の賦存量、海底下の地質などを把握する。
  ・生態系サービスに関わる観測
   ⇒環境と調和した社会を実現するため、森林の現状、生物の生息環境などを把握するとともに、これらの生態系から享受する利益や、生態系が損なわれることで生じる損失を定量的に把握する。
  ・気候変動の緩和・適応に関わる観測
   ⇒正確な森林現況や過去から将来にわたる森林減少・劣化状況を把握するため、森林分布、樹種構成、森林劣化等の変化状況を経年で把握する。また、北極海航路の運用のため、雪氷分布状況を短周期に把握する。
  ・健康に関わる観測
   ⇒健康と安全・安心な暮らしを確保するため、大気汚染物質の実態などを把握する。
   ⇒感染症の伝播経路を特定し、感染拡大を防止するため、感染症の発生状況、媒介生物の出現状況などを把握する。
  ・観測の利活用を推進する体制整備
   ⇒欧州Copernics(旧GMES)を参考に、利用プロジェクト単位で、官民連携で観測・解析・利活用を一貫して行う体制を整備し、アプリケーション開発と現業ユーザへの普及を促進する
   ⇒とくに官庁ユーザーの実務において、既往手法を地球観測手法に転換することを促進する事業枠を設けるなど、政策誘導により地球観測の利活用を推進する施策を講じる。


用語説明
REDD+:国連の気候変動枠組条約下で行われている、開発途上国における森林減少・劣化の抑制等による温室効果ガス排出量の削減(REDD:Reducing emissions from deforestation and forest degradation in developing countries)に森林保全や森林経営等の積極的な炭素蓄積増強の要素を加えた取組み

以上

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研究開発局環境エネルギー課

メールアドレス:kankyou@mext.go.jp

(研究開発局環境エネルギー課)