第4章 課題解決型の地球観測

第4章 課題解決型の地球観測

  第3章に述べた「活力のある社会の実現」、「防災・減災への貢献」及び「将来の環境創造への貢献」の観点から、今後の地球観測が貢献すべき課題として、「1.気候変動に伴う悪影響の探知・原因の特定」、「2.地球環境の保全と利活用の両立」、「3.災害への備えと対応」、「4.安定的な食料や農林水産物の確保」、「5.総合的な水資源管理の実現」、「6.エネルギーや鉱物資源の安定的な確保」、「7.健康に暮らせる社会の実現」、「8.科学の発展」を抽出した。1.~8.のいずれの課題も、広く「活力のある社会の実現」に貢献するものであるが、特に我が国が注力すべき分野やこれまでに強みとしてきた観測の更なる強化のためには、「将来の環境創造への貢献」として1.及び2.の課題に、「防災・減災への貢献」として3.の課題に対応した地球観測が重要である。

1.気候変動に伴う悪影響の探知・原因の特定への貢献

  今後の地球観測は、人為的な地球環境の変動の把握、気候変動対策の効果把握及び気候変動の予測精度の向上に貢献すべきである。

(1)人為的な地球環境の変動の把握への貢献

  気候関連の自然災害に対する損失と被害(Loss and Damage)をめぐる今後の議論に科学的な根拠を提供するとともに、持続可能な発展を阻害するような新たなグローバルリスクの検知やマネジメントが可能となることに貢献するべきである。
  そのため、今後、気候変動と人間活動に伴う地球環境変動を探知し、その原因を特定できるようにするための観測と、そのデータを詳細に解析する研究開発が必要である。例えば、成層圏オゾンや、気候変動、特に地球温暖化に関連する温室効果ガス及び短寿命気候汚染物質(黒色炭素、メタン、対流圏オゾン等)、エアロゾル(PM2.5等)等の物質の状態を、国際的な協調のもと、引き続き、包括的、継続的に観測し、それらの及ぼす影響と地球温暖化プロセス等の理解を深めることを目指すべきである。また、気候変動に伴う雪氷圏の融解による海面上昇についても、監視が必要である。さらに、気候変動が大気圏(対流圏・成層圏等)や地球表層圏(海洋、陸域、特に雪氷圏・高山帯・沿岸域等)、人間を含む生物圏の環境に与える直接的な影響を把握し、特に地球環境変動とその影響に対する人為的な関与を、観測に基づき実証的・定量的に解明することも引き続き必要である。

(2)気候変動対策の効果把握への貢献

  今後の地球観測は、グローバル及びローカルな気候変動対策(緩和策・適応策)の効果を定量的に評価し、その結果をよりよい環境の創造に役立てるために活用すべきである。
  そのため、(1)で述べた人為的な地球環境の変動の把握に関する知見も踏まえ、衛星、航空機、船舶、地上における温室効果ガス観測のような地球規模の環境変動の監視の要となる地球物理量の継続的な観測に引き続き取り組むとともに、観測データが不足している両極域を含むグローバルかつ高解像度の恒常的な観測体制を構築する必要がある。
 また、戦略的な大気組成改善や森林等の炭素管理を通じ、気候変動の緩和策等を的確に講じるためには、温室効果ガス、短寿命気候汚染物質及びエアロゾルに関して、特に温暖化の影響が顕著になりつつある北極域を含む地球規模での三次元大気観測及び地表での吸放出量の観測の実現や、衛星観測等による森林火災の監視、全球植生のバイオマスや一次生産力の監視が必要である。

(3)気候変動の予測精度の向上への貢献

  人為的な気候変動影響の寄与の定量的な推計には、観測に基づく詳細な予測を行うことで、不確実性の低い将来予測情報を創出する必要がある。このため、(1)及び(2)で挙げた観測データをはじめとする知見の蓄積を行う必要がある。また、気候変動の予測精度を向上させることが必要である。
  そのため、大気、海洋、陸域生態系等においてこれまでに構築された必要な地球観測網を維持するとともに、開発途上国を中心とした国々の過去の観測記録のデジタル化、古気候プロキシデータの体系的な収集、永続性・堅ろう性のあるアーカイブシステムの構築等を今後強化していく必要がある。あわせて、気候モデルのシミュレーション精度の向上とアンサンブル数の増大も必要である。

2.地球環境の保全と利活用の両立への貢献

  今後の地球観測は、地球環境からの恩恵を最大限享受しつつも、その環境が正しく保全され、持続的可能な社会の構築に貢献するものとなるべきである。

(1)持続的な海洋の利活用への貢献

  海洋は、人類に対して水産資源をはじめとする様々な恩恵をもたらし、気候の調整機能も果たしている。このような人類にとっても自然環境にとっても重要な海洋を保護し、持続的に利用していくためには、全海洋の状況を把握するための効果的かつ継続的な観測が引き続き必要である。そして、地球観測が、人為的な気候変動に伴う海洋環境変動や生態系変動の速やかな探知・原因特定のための研究に資するとともに、科学的根拠に基づいた政策決定や海洋環境の維持と持続可能な利活用に貢献するものとなるべきである。
  特に、普及型のpHセンサーやCO2センサーなど各種センサーを始め、海洋内部を自動で容易に精度良く計測する技術、生態系変動や生物多様性の指標を計測する技術、極海域や深海域等での厳しい環境において各種観測データを得る技術の開発を、引き続き進めるべきである。また、既存の船舶、係留ブイ、漂流ブイなどによる全球海洋観測網の整理と必要な観測網の維持、生物化学環境観測への拡張及び北極海や深海域等の観測データが不足している海域での観測網の充実が必要であり、そのために引き続きGEO、ユネスコ政府間海洋学委員会(IOC)、世界気候研究計画(WCRP)等の場を通じた国際協力の推進も引き続き必要である。気候変動がもたらす北極海航路の利用可能性を視野に雪氷・海氷分布の常時把握や将来予測を実施するなど、環境の保全と利用(開発)を両立させ、豊かな社会づくりに貢献する地球観測を強化していくことも必要である。

(2)生態系・生物多様性の現状把握と保全への貢献

  地球の生物圏は、人間を含む多様な生物と環境の相互作用と、生物間の複雑な関係性から成り立っている。生態系と生物多様性は、人類に重要な資源と環境をもたらすとともに、地球システムの健全な持続のための基盤でもあるため、これらの現状や人間活動の影響による変化等を把握・予測し、その保全に資するための観測を強化することが必要である。また、これらの問題は国境を越えたものでもあるため、生物多様性条約(CBD)の「愛知目標」の達成に向けた取り組み、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学政策プラットフォーム(IPBES)の活動、及びSDGsの目標の一つである生物多様性の損失の阻止への貢献など、国際的な枠組みとの連携による地球観測が推進される必要がある。
  そのため、引き続き、適切な環境保全や利活用の取組を推進するため、多様な観測を相互に連携させつつ、陸上や陸水、沿岸、海洋などにおける生態系・生物多様性の状況及び生態系サービスの定量的な把握に資する地球観測を実施する必要がある。
  具体的には、各種生態系の機能(一次生産、栄養塩や水循環など)や動態、絶滅危惧種や生物間相互作用などの状況、生態系の成長と撹乱(かくらん)からの回復過程等について、気候変動や人間活動などの影響を含めて解明・予測する必要がある。例えば、サンゴ礁、マングローブ林、海草藻場などは、ローカルな生活に密接に関係する生態系であり、人口密集地域に隣接した沿岸域の富栄養化及び貧酸素化は、その生態系・生物多様性を大きく変えてしまうおそれがある。このため、沿岸域の生態系に関する定期的なモニタリングを今後強化していくことが必要である。
  これらの観測を更に進め、生態系・生物多様性と生態系サービス等の保全に効果的につなげるためには、研究機関や大学、観測ネットワークによる現地調査と、航空機や衛星によるリモートセンシングの分野横断的な観測の推進、データと知見の共有促進の強化が必要である。また我が国でこのような横断的観測を推進することは、アジア太平洋地域から地球規模の生態系・生物多様性の現状把握と保全活動に貢献する。

(3)森林の現状把握及び変化予測精度の向上への貢献

  地球温暖化の進行を抑制するため、森林の現状を精緻に把握するとともに、今後の気候変動や人間活動による森林機能の変化の予測精度の向上に資する観測を行うことが重要である。
  そのため、今後の地球観測では、山地から平野に至る広範囲での森林分布、樹種構成、森林構造、温室効果ガス(二酸化炭素、メタン)の吸収と放出、植物バイオマスや土壌への炭素蓄積、水土保全機能等の変化状況を気象環境と併せて継続的に観測するとともに、REDD+(※イ)の取組等を通じ、森林減少・劣化の抑制や森林機能の向上のための対策につなげることが、引き続き必要である。特に、今後の気候変動の下においては、二酸化炭素吸収や水・窒素循環などの森林機能に関する詳細な定点観測を多地点で実施するとともに、航空機や衛星による広域・長期反復観測と、モデル解析を組み合わせることにより、環境変動に対する森林機能の応答及びそれが大気二酸化炭素濃度など地球環境にもたらすフィードバック機構の解明を更に進めるべきである。
  これらの長期・複合的な観測をローカルからグローバルまで様々な規模で推進しながら、これらの森林生態系から享受する利益や、森林生態系が損なわれることで生じる損失を定量的に把握するための取組も今後強化することが必要である。そのためにも、前項と同様に、既存の観測ネットワークや研究機関、大学による分野・スケール横断的な観測・データ共有・知見創出の促進等が必要である。我が国におけるこれらの観測・分析体制の強化は、アジアから地球規模での気候変動緩和・適応策の提案・評価・再考プロセスの構築に貢献する。
(※イ)「REDD+」
国連の気候変動枠組条約下で行われている、開発途上国における森林減少・劣化の抑制等による温室効果ガス排出量の削減(REDD:Reducing emissions from deforestation and forest degradation in developing countries)に森林保全や森林経営等の積極的な炭素蓄積増強の要素を加えた取組。

3.災害への備えと対応への貢献

  国民及び国際社会を災害から守るためには、地球観測と災害を解析・予測・報知するためのシステムとの効果的連動、災害データと関連観測・予測データのアーカイブ、復旧・復興の監視等を重視すべきである。なお、以下の取組に当たっては、「仙台防災枠組2015-2030」や「仙台防災協力イニシアティブ」を踏まえたものとすべきである。

(1)災害発生の予測・予知への貢献

  今後は、災害によるリスクを低減させるため、災害を取り巻く社会要素も含め、現象が起こる又は起こりつつある場所の観測や、多様な観測データを効果的に組み合わせるシステムの確立が必要である。
  そのためには、地震、地殻変動、地形変化、火山活動、気象、海象等の観測の着実な実施が、引き続き必要である。また、今後は、実際に被災した地域及び今後被災する可能性の高い地域を抽出し、予防段階及び発災後の地球観測による監視を行うべきである。その際、災害リスクに関する情報を共有し利活用するため、災害に関わる自然現象や災害そのもののシミュレーションモデルを構築するとともに、観測データを確実にアーカイブしていくことも必要である。
  また、火山噴火に伴う災害では、災害発生直前までの地表の変動や温度変化などの履歴から火山活動の高まりを把握できる可能性が高い。このように、予兆現象の検出の研究のためには、災害発生前のその地域の観測データも重要である。防災分野で活躍する衛星による観測の継続、災害予測モデルの高度化により、予兆現象の把握や高精度の予測を引き続き推進し、地球観測と災害予測モデルを効果的に連動させるべきである。これにより、今後の早期警戒システムの実現にも貢献する。
  さらに、気象衛星「ひまわり」やXバンドマルチパラメータレーダ「XRAIN」等による詳細な観測データを防災・減災研究に役立てる取組を継続させる必要がある。また、高分解能のマイクロ波放射計による積雪量・降雪量観測や、複数衛星の降水観測データを統合して作成する全球降水マップ(GsMAP)の高度化、衛星データ等同化による予報モデルの高度化(数時間後までの降水予測等)といった、新たな観測機器の開発や観測・予測手法の高度化を、地球観測を実施する機関と利用する機関の連携を通じて、今後強化、推進していく必要がある。また、地球観測の成果を、国・地方自治体・個人が災害時に的確に行動するための判断(Behavior Decision Making)の材料として社会に提供する必要がある。

(2)発生時の緊急対応と復旧・復興への貢献

  今後は、災害が起ころうとするとき又は進行しつつあるときに被災範囲(人や社会の情報を含む)をリアルタイムに予測・把握し、これらの情報を早期警戒システムに活用するとともに、適切に観測データを処理・加工し、社会に提供することが重要である。このため、今後は、広範囲の情報を同時に観測可能な衛星観測や、狭範囲であるが高解像度の機動的な観測等の観測体制の充実と、予測モデルの構築・高度化が必要である。
  また、地球観測によって復旧・復興の状況を監視するとともに、「より良い再建(Build Back Better)」になっているかどうか(復旧・復興事業によって環境が悪化していないか、新たな災害リスクが発生していないかなど)を判定できる基準の策定に貢献する。このため、今後は、復旧・復興段階における「より良く再建すること」の典型的な実例の提示や判定基準策定に地球観測を活用する方法を検討する必要がある。その際、災害そのものや、災害後の復旧・復興の状況などを行政や被災者に対し情報提供することの重要性にも留意すべきである。

4.食料及び農林水産物の安定的な確保への貢献

  現在及び将来にわたって、開発途上国・先進国の区別なく、人類全体が安心して豊かな生活を営むことができる社会を実現するため、気候変動にも適応した形で食料及び農林水産物の安定的な確保を可能とすることに貢献する地球観測を実施すべきである。
  そのため、農林水産業の生産性の把握とともに、これまでの推移を基に将来の変化を予測することにも役立つ地球観測としていくべきである。なお、この観測データを有効に活用することで、安定的な食料供給、農林水産業を核とした地域の活性化、地域政策の検討、経済発展にも貢献できる。
  具体的には、1)農業においては、農地やその周辺における土地利用・作付け体系、農産物の生産量、有害動植物や病害虫による被害の実態及びその推移、農業生産を支える環境(水や基盤施設等)の実態及びその推移の高頻度、短周期の観測、2)林業においては、森林の分布、樹種、森林蓄積量と成長量、3)水産業においては、水産資源の量や分布、漁場環境、有害生物などの把握のための地球観測が、引き続き必要である。特に、広い空間領域の変化を把握する必要がある森林や水産業等の分野においては、観測空白域を減少させるため、衛星データの活用、温室効果ガスフラックス等に関する既存の観測ネットワークの維持とデータ活用、自動計測技術及びデータ同化技術の開発・高度化等が必要である。また、農業は、農地や家畜・家畜排せつ物から発生するメタンや一酸化二窒素などにより、温室効果ガスの主要な排出源の一つとなっていることから、地球観測・予測データに基づいた排出抑制策の評価が今後必要である。

5.総合的な水資源管理の実現への貢献

  今後の地球観測は、気候変動にも適応した形で、世界の水資源が安定的に供給される社会の構築に貢献するものとなるべきである。そのため、効率的な治水・利水、効果的な水災害の防止を含む、健全な流域水循環と水資源の安定的な利活用の促進が重要である。とりわけ、モンスーンで特徴付けられる世界で最も大規模な水循環の場であるアジアには、世界の約6割の人口が集中しており、活発な社会経済活動が展開されている。アジアモンスーンはこれらの人口や社会経済活動を支える豊かな水資源を提供するが、同時にその大きな季節変動や年々変動によって生じる洪水や渇水による人的、経済的被害は大きい。また、急激な都市化に伴う水環境の劣化も深刻である。さらに、気候の変化はこれら河川、水資源管理を一層困難なものとしている。アフリカではこれらの問題に加え、貧困や越境河川管理という課題を抱えている。これらの諸課題に対応するため、近年「ネクサス」という考え方が国際的に導入され、GEOSS等において、水と食料、エネルギーとの連鎖系を対象とした統合的な観測や計画、管理が提案され、その範囲は健康や生態系サービスなどへも展開され始めている。
  このため、降水量、河川流量、地下水位や揚水量、土壌水分量、水質などを地上観測ネットワーク、衛星観測と数値モデルの統合利用によって把握し、治水・利水施設の操作・管理に利用するための地球観測が引き続き必要であると同時に、食料、エネルギー、健康、生物多様性などとの統合的な地球観測の実施とデータの統合的利用手法の開発が重要である。

6.エネルギー及び鉱物資源の安定的な確保への貢献

  今後の地球観測は、再生可能エネルギーの利用が進み、化石燃料への依存度が低下することで、温室効果ガス排出抑制の取組が進む社会の構築に貢献するものとなるべきである。また、我が国周辺の海底資源の賦存量を明らかににし、多くのエネルギーや鉱物資源を輸入に頼る我が国において、生物多様性や環境保全に配慮した海底資源の確保・利用に向けた取組が進むことにも貢献するべきである。一方、人口の多い新興国のエネルギー・鉱物資源需要の拡大は更に進んでいる。また、非在来型資源の開発、海域でのCO2地中貯留事業のなども進展しており、幅広く環境リスク低減に対応できる地球観測が必要である。このため、再生可能エネルギーの利活用に資する風況、日射量、海況等の観測や、海底資源等の確保に資する資源の賦存量、海底下の地質などを把握する観測が引き続き必要である。
  また、陸域においては、地熱などの再生可能エネルギーや、レアメタル・レアアース等の資源ポテンシャルの評価情報等を広く把握し、資源の安定的確保に貢献することが引き続き重要である。そのため、衛星観測情報や地質情報の整備を進め、環境・災害リスク考慮した健全な資源開発がなされるよう、国際連携も含めた地球観測の推進が必要である。なお、アジア及びアフリカ地域では、広範囲に小規模鉱山開発が進むなど、適切な管理が困難な場合もあるが、これにより環境・災害リスクや健康リスクが増大している。これについては衛星観測による開発の監視が有効であり、我が国が国際的に貢献できる課題であると考えられる。

7.健康に暮らせる社会の実現への貢献

  今後の地球観測は、健康に影響を与える環境因子の状況を把握し、グローバルな問題も含めた環境に由来する健康リスクの低減に貢献すべきである。そのためには、健康に直接・間接的に関わる環境因子を同定するとともに、その適切なモニタリングに基づき、疾患の発生や伝播(でんぱ)過程を予測し対策を推進することが必要である。これに当たっては、データ提供者と利用者の連携強化が必要である。
  具体的には、大気汚染物質の濃度やヒートアイランドの実態の把握、感染症の発生状況、媒介生物の出現状況などの把握のための地球観測に引き続き取り組むことが必要である。特に、大気汚染状況の把握等に当たっては、公衆衛生分野では地表付近の状態の把握が必要であることから、地上観測網の整備や大気汚染物質の鉛直方向の分布を明らかにすることが重要である。また、現在、感染症の発生状況や媒介生物等の出現状況を直接観測することが困難であるため、地形、土地利用、土地被覆、水質等の環境因子を観測することで、感染症の発生や媒介生物の出現が見込まれる場所を予測・同定する必要がある。また、データ利用者となる疫学者や現場の公衆衛生担当者との連携により、利用者が必要とする環境因子に関する情報を共有し、適切な空間・時間分解能で観測・予測データを提供することが必要である。

8.科学の発展への貢献

  将来起こりうる潜在的な課題の解決には、変動の兆候を早期に発見するとともに、変化を予測し、将来の影響を想定した対応を取る必要があり、そのための観測・予測データと科学的知見の蓄積が重要である。したがって、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出が進み、我が国と世界の科学が健全に発展する将来を目指すため、科学的挑戦への貢献としての地球観測(科学観測)も、現在の利用者(研究者や研究機関を含む)のニーズや、将来発生するニーズの想定等を可能な限り具体的かつ明確にした上で、引き続き推進していく必要がある。
  具体的には、エアロゾル・雲・降水相互作用等をはじめとする気候変動のメカニズムや、地球システムを構成する固体地球、陸面、海洋、大気、電離圏・磁気圏の相互作用及びフィードバック、太陽地球系の結合過程等の理解を深め、地球システムの包括的理解に必要な基礎的知見を蓄積するための地球観測に、引き続き取り組む。また、広範囲の情報を正確に把握するための衛星の活用、海洋内部の観測を可能とする観測機器や観測網の構築と維持等が重要である。
  また、地球システムの包括的理解のためには、科学観測の計画が適正に策定され評価されるよう、今後は、科学観測の提案から、審査、策定、実行、評価まで、一貫して推進する機能を確立するべきである。その際、取得されたデータや創出された知見の社会での活用を重視することにより、科学的に重要とされる地球観測と、課題解決や政策的な観点から重視される地球観測を結びつける。
  さらに、人類共通の科学的知見の蓄積・深化を目指すには、これまで科学的理解に至っていない現象の科学過程を明らかにすることを目的とした観測研究が必要である。なお、データの集積・標準化や統合によるモニタリングとの連携を通じてこの観測研究を強化することも必要である。
  挑戦的でもある新たな科学観測に対し所要の予算を措置し、安定・継続した観測体制の確立や新たな観測技術の研究開発を強化し、推進するとともに、次の研究展開に生かすために取得・整備された観測・予測データの適切な管理を継続的に行うことも必要である。

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研究開発局環境エネルギー課

メールアドレス:kankyou@mext.go.jp

(研究開発局環境エネルギー課)