4.今後10年間の具体的な実施方針

1.課題解決への貢献

 推進戦略においては、ニーズに応える戦略的な重点化として、(a)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応(※イ)、(b)水循環の把握と水管理、(c)対流圏大気変化の把握、(d)風水害被害の軽減、(e)地震・津波被害の軽減が挙げられ、また15分野の分野別戦略が整理されていた。上記2、3を踏まえ、GEOSS新10年実施計画をはじめとする国際的な活動への貢献も重視しつつ、引き続き推進戦略に基づいた地球観測を実施していくべきである。このため、本方針では、課題解決への貢献や、我が国がこれまでに注力し強みとしてきた観測の更なる強化の観点から再整理し、以下の(1)~(3)の観点で、今後10年間に実施すべき取組を取りまとめる。これらに加え、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出を目指した取組についても、下記の観点を踏まえ、利用者のニーズや、将来発生する課題解決のニーズの想定等を可能な限り具体的かつ明確にした上で実施することが望ましい。
(※イ)「抑制適応」は現在、「緩和と適応」と言い換えられる。

(1)活力のある社会の実現

 水資源や、エネルギー・鉱物資源、森林資源、農業資源、海洋生物資源等の資源の確保・利用、健康等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、水環境の保全や持続可能な水管理の実現の基礎となる流域・地域の状況の把握、再生可能エネルギーの導入や安定的管理のための気象の観測・解析・予測、食糧安定供給のための農業気象や農業生産環境の把握、健康被害や農作物への影響が懸念される大気汚染物質の監視などが挙げられる(※ウ)。
 これにより、土地の利活用や保全、生活の質の向上、経済社会の活力向上及び持続可能な発展など、現在及び将来にわたって人類全体が安心して豊かな生活を営むことができる社会の実現に貢献する。なお、今後の活力のある社会の実現に当たっては、自然環境の価値(自然資本)を定量的に把握し活用する重要性も指摘されており、この観点において生態系サービスなどに関わる観測も必要である。
(※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

(2)防災・減災への貢献

 地震災害、津波災害、火山災害、風水害、雪害等に関する課題解決のため、即時性の高い情報を含め、基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、極端な気象による災害の監視・予測システムの確立、災害発生メカニズムの解明や予測技術向上のための地震・火山・地殻変動の調査・観測、諸外国・国際機関等とも連携した観測網の充実・災害監視などが挙げられる(※ウ)。
 これにより、災害発生の予測と、被害防止・軽減、危機管理につながる恒常的な地球観測や監視等を実施することで、国民及び国際社会の安全・安心の確保に貢献する。あわせて、「国際災害チャータ」や「センチネル・アジア」等を通じ、国外の災害対応にも貢献する。
(※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

(3)将来の環境創造への貢献

 地球温暖化や地球環境の保全等に関する課題解決のための基礎的な情報を収集・提供する。具体的には、温室効果やオゾン層破壊に関係する物質の分布・循環の観測、特に全球炭素収支の高度な把握、気候変動の兆候を捉えるための中・長期のモニタリング、地球温暖化に対し、脆弱(ぜいじゃく)な地域(極域等)の監視、気候変動メカニズムの理解と気候変動予測の高度化のための観測、不確実性の定量的評価や低減のための観測データの取得、生態系・生物多様性の変化の把握、生態系保全対策とその有効性評価のためのモニタリングなどが挙げられる(※ウ)。
 これにより、複雑な地球環境変動の把握に貢献するとともに、将来世代にも及び得る新たな課題を発見あるいは予測し、影響を軽減する等の適切な対応の検討に活用する。その際、ニーズを踏まえた観測という前提に立ちつつ、観測の空白域や空白期間をなくし、品質管理された観測データの配信を行う取組にも配慮すべきである。
(※ウ)実施内容については、「観測データの収集に対するニーズ」を考慮しつつ、実施方針の策定時に更なる具体的な検討が必要である。

2.観測基盤の維持・強化とイノベーション、データの利活用

 1.の課題解決に貢献するためには、必要なデータを必要な時に取得し、提供できることが求められる。必要十分な観測精度や観測頻度、観測網の展開・観測地点の適切な配置を考慮し、地球観測を長期にわたり安定的に実施する。また、今後新たに発生する課題解決にも対応しうる質の高いデータを提供していくためには、安定的な資金を確保の上、観測基盤を維持し長期にわたり安定的に観測データを取得するとともに、そのための観測機器類の開発を進める取組も重要であり、以下の点に留意しつつ、引き続き本方針の下で推進していく。

○観測基盤の維持及び長期継続的観測の実現
 観測に対するニーズを的確に把握することで我が国が長期継続すべき観測項目、観測精度、観測頻度及び適切な観測網を特定し、重要度の高い観測項目については必要に応じて関係府省・機関の連携の下で実施する等の取組を通じ、地球観測の長期継続性を確保する。
 また、地球観測を安定的に実施し、長期継続的な観測を実施するためには、観測機器の整備・維持等への継続的な予算が求められるとともに多くの研究者・技術者等の関与も必要である。このためには、長期的な展望をもって計画を検討し、着実に進捗するよう戦略的に取り組む必要がある。

○「観測イノベーション」の推進
 観測精度の向上や観測の安定性の確保、低コスト化に向けた技術開発に取り組んでいくことが重要である。また、新たな課題解決や科学的発見への道を開くためには、斬新な着想に基づく新たな観測手法の開発や新たな地球物理量の観測等が求められることもある。このような、「観測イノベーション」の推進を今後更に強化する。特に、衛星による地球環境観測や船舶等による海洋観測等は、我が国が特に強みとする分野であり、そのための観測機器や衛星システム、探査機、広域物理探査技術等の開発を重視していくことが望ましい。

○ニーズにつなぐための技術開発と人材育成
 観測データを活用し、社会に生かすという点では、特に、地球観測データは現象のモデル化やシミュレーションを介して気候変化の予測や実社会の課題解決等に適用されることが多く、地球観測データとモデルやシミュレーション結果をつなぎ、課題解決のニーズを持つ者が使いやすい形の情報に変換する技術開発とそれを担う人材育成を促進する。また、社会のニーズにつなぐため、研究者と利用者の連携を橋渡しするコミュニケータ、ファシリテータのような人材育成も推進する。

○データの共有と利用の促進
 情報技術の高度化やビッグデータサイエンス等の動向を踏まえ、紙媒体に記録された歴史的観測データのデジタル化の推進等を含め、観測データを適切にアーカイブし、統融合し、その利活用を促進する。そのため、データ統合・解析システムや産業利用に向けた衛星情報配信システム等のデータ基盤を整備・維持・運用し、課題解決に必要な情報を創出する取組を支援する。その際、課題解決に当たって有益な社会経済データを収集し、活用を支援する取組も重視すべきである。
 さらに、民間主導の地球観測データの利活用が進展している状況に鑑み、官民協働による地球観測の実施やデータの利活用について検討すべきである。

3.GEOSSへの貢献

 GEOSSにおいては、災害、健康、エネルギー、水、農業、気候、気象、生態系、生物多様性の9つの社会利益分野(Social Benefit Areas)を設定している。近年、GEOSSにおいては、海洋をテーマに「Blue Planet Initiative」が進められているほか、水、農業、エネルギーの相互連関を扱うことにより包括的な問題解決策の検討に取り組む「Water-Food-Energy Nexus」などの提案もある。今後は、これら分野間の連携活動を促進し、包括的な問題解決に取り組むことが重要とされている。これを踏まえ、我が国がGEOSS新10年実施計画の検討・実施に向け引き続き主導的な役割を果たしていくためには、1.の課題解決に対する貢献も念頭に、以下の点に留意する必要がある。なお、課題対応型の取組と地球システムのさらなる理解、現象解明への取組を別個に行うのではなく、人類社会に対しいかに貢献するかの観点で検討し、両者のバランスを持った観測活動が推進されることが望ましい。

○課題対応型の取組
 顕在化した課題に対する直接的な対応を目的とした観測は、利用者との連携で進めている「センチネル・アジア」や、「アジア水循環イニシアティブ」のような我が国の取組をグッドプラクティスとして示しつつ、このような活動を後押しすることで、GEOSSの更なる発展を目指す。

○地球システムのさらなる理解、現象解明への取組(科学的な取組)
 人類共通の科学的知見の蓄積・深化を目指すには、これまで科学的理解に至っていない現象の科学過程を明らかにすることを目的とした観測研究(いわゆるプロセス観測)が主体となるが、現に地球にどのような現象が起こっているかを知るための観測(いわゆるモニタリング)との連携をデータの集積や統合を通じて強化することも必要である。これらの取組を通じ、国際社会や多様なコミュニティが協調して世界的な課題の解決に貢献することを示しつつ、主導国との間の科学技術外交の側面を意識しながら、GEOSSの更なる発展を目指す。

お問合せ先

研究開発局環境エネルギー課

(研究開発局環境エネルギー課)