3.今後の地球観測の取組に当たっての基本的考え方

1.地球観測の目的とあるべき姿

(1)基本認識

 地球観測は、大気、海洋、陸域及び地球内部の物理・化学的性状、生態系とその機能に関する観測を行うものであり、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のための基礎データを得るとともに、創出された情報が様々な意思決定に活用されることを目指すものである。また、我が国のみならず、人類の持続可能性の確保のため、今後の地球観測は、社会からの要請に具体的に応える責務があることを強く意識したものであるべきである。我が国が直面する課題には、地球規模の環境変動や大規模自然災害など世界共通の問題も多く存在することから、地球観測が国際社会において我が国が積極的な貢献を果たすための強力なツールとなる。
 本中間取りまとめでは、今後の地球観測の目的とあるべき姿を、課題解決のニーズに基づく地球観測の実施、科学的挑戦への貢献としての地球観測、国際貢献としての地球観測の3つの観点で整理した。

(2)課題解決のニーズに基づく地球観測の実施

 今後、国として取り組む地球観測では、社会からの課題解決の要請(利用者のニーズ)に具体的に対応することに留意し、その成果を社会のイノベーションや様々な意思決定をする際の基盤として活用すべきである。推進戦略においても、利用者のニーズ主導の統合された地球観測システムの構築が基本戦略の一つに掲げられている。
 その際、課題解決のニーズを有する者が具体的な観測項目を認識していない場合がある。また、異なる課題解決の対応を目的として取得した観測データを集積し、解析することで、意図されなかった新たなニーズや課題解決が生み出される(新たな価値の付加)ことは、「北東アジア地域海洋観測システム(NEAR-GOOS/WESTPAC)」が示したように、地球観測の重要な特徴の一つである。したがって、今後の地球観測の企画・実施に当たっては、co-designを意識し、ステークホルダーとの対話を踏まえ、「観測データの収集に対するニーズ」と「情報提供・解析に対するニーズ」の二つに分けて検討することも必要である。なお、今後、地球温暖化による影響が更に進行することが予測されていることを踏まえると、これらのニーズには、将来起こりうる潜在的な課題の発見、その影響評価と対応(リスク軽減)に対するニーズも含まれることに留意が必要である。

(3)科学的挑戦への貢献としての地球観測

 前述のニーズと同様、多様な目的で取得した観測データが集まることで新たな知見が生み出されることも地球観測の大きな特徴である。また、将来起こりうる潜在的な課題の解決には、変動の兆候を早期に発見するとともに、変化を予測し、将来の影響を想定した対応を取る必要があり、そのための観測データと科学的知見の蓄積が重要である。したがって、未知の現象の解明や新たな科学的知見の創出を目指した観測も、引き続き推進していく必要がある。
 健全な科学の発展、社会への貢献のためには、新たな課題や課題解決の糸口の発見につながる学術研究と、課題解決を目指す研究を戦略的に進めるべきである。地球の包括的な理解を目的とした基盤的な観測であっても、観測で得られる知見を社会に役立てる観点から、現在の利用者のニーズや、将来発生するニーズの想定等を可能な限り具体的かつ明確にした上で、科学的挑戦に取り組むことが望ましい。したがって、本中間取りまとめで言う「利用者」には、研究者や研究機関も含まれる。

(4)国際貢献としての地球観測

 世界全体が持続可能な社会を構築するため、我々人類が直面する課題には、地球規模の環境変動をはじめとした国を超えた共通の問題も多く存在する。グローバル化が進展し、世界経済の相互依存性が高まる中、我が国としても、他国の災害は決して他人(たにん)事ではない。推進戦略においても、国際的な地球観測システムの統合化における我が国の独自性の確保とリーダーシップの発揮が、基本戦略の一つに掲げられており、これまでも、我が国の地球観測能力を生かした観測により、違法伐採監視や自然災害による被害状況の把握など、世界各国における社会問題の解決に貢献している。今後も、我が国が国際的リーダーシップを発揮し、かつ、世界から信頼できる国と認識されるためにも、戦略的に地球観測を推進すべきである。
 観測における国際協力は、科学技術発展の目的のみならず、科学技術外交の観点からも重要である。国際協力により、我が国単独では得られない観測データ、研究成果が得られるとともに、長期観測に向けた体制の整備が可能となる。「地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)」等の枠組みを活用するなど、諸外国と連携し、途上国への観測技術支援や観測データの品質管理・品質保証の取組において我が国がリーダーシップを発揮することにより、戦略的に地球観測データを取得していくべきである。
 さらに、GEOSSやフューチャー・アース等の動きに対応し、国際的な連携の下、地球規模の課題解決やその基盤となる地球システムの理解においても地球観測を通じた貢献を果たしていく必要がある。

2.地球観測の実施

(1)地球観測の実施体制

 利用者のニーズを踏まえた観測データの効率的な取得・提供のためには、利用者及び観測者のより一層の相互連携を図る必要がある。特に、衛星から地上、海洋、海底下に至る、空間的にも、観測項目においても多種多様な地球観測システムを連携して、効率的・多面的に地球を理解するという観点から、観測対象や観測項目等が類似する観測については、省庁や分野を横断し、関係者が協働して観測体制を構築することが重要である。推進戦略の策定をきっかけに環境省・気象庁を中心として設置された「地球観測連携拠点(温暖化分野)」を始め、関係省庁・機関の連携の場が、今後ますます重要となろう。また、研究分野の連携や、戦略的な観測体制の構築の観点では、観測研究者と様々な研究領域の研究者の連携も重要である。
 実際の観測に当たっては、データの使用目的や観測機器の精度等が観測システムごとに異なる場合がある。このため、多様な実施主体による協働に際しては、国際的な標準を踏まえた、観測手法、必要な観測データの精度、データ取得の頻度、観測に係るメタデータ等の仕様を明確にし、観測データの品質管理・品質保証の実施体制を確立することにより、効率的な観測を実施すべきである。

(2)国際的な地球観測

 地球規模の観測や、我が国がアジア、オセアニア、アフリカ、中南米等において国際協力の一つとして実施する観測に当たっては、GEOSS新10年実施計画や国連の枠組み、国際研究プロジェクト等の国際動向や、対象地域の特性等を踏まえ、戦略的な観測を実施する必要がある。その際、co-designに結びつく取組や、世界的な課題解決に貢献しうる科学的に意義深い取組は、我が国の国際貢献や科学技術外交の強力なツールとして、国際社会との協調を図りつつ、積極的に推進すべきである。前述のSATREPSを始め、独立行政法人科学技術振興機構、独立行政法人国際協力機構(JICA)や世界銀行、アジア開発銀行等が、既に地域の技術支援及び能力開発プロジェクトにおいて、地球観測データの活用を進めていることを踏まえ、これらの機関との連携を図る必要がある。
 これまでも、我が国が特に優れている衛星や船舶等による地球観測は、アジア・オセアニア地域等との連携を図る上で必要不可欠な役割を果たしており、これらの取組は、我が国の科学技術外交の強力なツールとして、今後も継続が必要である。

(3)長期的な地球観測の維持

 地球温暖化の把握等を目的とした地球観測は、長期的な時間スケールで生じる地球環境変動を的確に把握するとともに、変化を予測し、将来の状況を想定した対応を取るために不可欠な基盤情報である。日々の生活で活用されているデータや、長期観測が実現されている観測項目についても、観測頻度の改善や、均質・高精度で、かつ観測の空白域と空白期間の少ない観測が求められている。したがって、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解のためには、観測環境をできるだけ維持した上で、観測基盤の堅持と長期継続的観測の実現が必要である。
 また、長期的には、研究開発を目的として開始された観測が、定常的な観測に移行することも想定される。このような場合には、研究開発機関から定常運用を担う機関への引継ぎが必要となる。地球観測の継続性を考えた場合、このような機関をまたいだ観測業務の受渡しについても、配慮が必要である。

(4)最新の技術を活用した地球観測

 これらの観測の継続に当たっては、観測精度の向上や観測の安定性の確保、低コスト化に向けた技術開発に取り組んでいくことが重要である。例えば、フェーズドアレイレーダーを搭載した熱帯降雨観測衛星など、斬新な着想に基づく新たな観測手法の開発や、新たな地球物理量の観測は、科学にブレークスルーをもたらすと同時に、新たな社会貢献や問題解決が図られる可能性を秘めている。国として推進すべき地球観測は、社会からの要請に基づくべきものであるが、そのために必要な技術開発(観測イノベーション14ページ参照)も同時に推進し、観測の精度・効率の向上を目指すとともに、新たな課題解決の要請に備えていくべきである。
 また、データ同化技術の進歩により、観測データを用いたシミュレーションモデルの精度向上や、逆にシミュレーションモデルを用いることで、地域的に偏在し、観測頻度にも差がある観測データの不足を補ったり、効果的な観測網の設計を行ったりすることが可能となっている。今後も、観測データと数値モデルの両面から、地球の現状や将来予測に対する包括的な理解を進めていくべきである。

3.データ提供と利活用の在り方

(1)関係機関の連携等

 課題解決型の地球観測の推進には、観測データの体系的な収集、合理的な管理、データの統合や情報の融合が重要である。特に、地球観測システムの統合による観測データの共有・統融合の推進は、地球観測データを科学的・社会的に有用な情報に変換する上で不可欠なものであり、既存の取組を進展させるなどデータの利活用を促進する取組を強化する必要がある。また、分野を超えた大規模かつ多様なビッグデータは、新たな科学的発見や社会的・経済的な課題の解決につながる新たな知見や洞察をもたらす可能性を有している。
 これまでは、推進戦略の下、府省連携等や各省の努力により観測が維持され、観測データの提供や公表、そして観測データの統合・融合に向けた取組が進んでいる。上記のような、社会からの要請に対応するためには、観測に係るメタデータを整備した上で、利用者と観測者との連携や、分野横断的な取組が一層求められる。また、「データ統合・解析システム」や産業利用に向けた衛星情報配信システム等のデータ基盤を整備し、データの利用と共有の促進を図る必要がある。さらに、今後も増加が続いていく相当な容量のデータの保管・提供方法や、観測したデータの品質管理の在り方について、提供者だけではなく利用者の視点にも立って検討していく必要がある。
 一方、観測データに正確な空間情報や時間情報を付加することは、多様な観測情報を統合しより活用しやすい情報として提供するために必要な作業である。この観点で、地理情報システム(GIS)等との連携にも配慮すべきである。
 さらに、co-designに基づく課題解決に当たっては、人々の活動に関わる様々な社会経済データを、自然科学的な観測データに統融合する必要も想定される。この観点から、今後は社会経済データの収集と活用にも配慮が必要である。

(2)データ共有の在り方

 GEOSSにおいては、新10年実施計画の検討に当たり、「データ共有原則」の検討が進められており、地球観測による社会利益はデータ共有なしには成し遂げられないとして、GEOSSで共有するデータ等を「オープンデータ」として原則無償かつ無制限に共有する方向性が提案されている。また、「データ管理原則」として、データのアクセス、フォーマット、メタデータ、品質管理、保全等の望ましい在り方が示されている。
 国内においても、公共データの活用促進として「オープンデータ」の取組が進められている。平成24年7月には、「電子行政オープンデータ戦略」が取りまとめられ、国として積極的に公共データを提供していくことが示されるとともに、平成25年6月に閣議決定された「世界最先端IT国家創造宣言」において、公共データの民間開放及び公共データを自由に組み合わせての利活用が可能な環境の整備を早急に推進する必要性が指摘されている。
 このような国際・国内の動向を踏まえ、今後地球観測において取得するデータについても、オープンデータのような広く利用可能な状態で、積極的に公開・提供する取組が求められる。ただし、地球観測で得られるデータには、機密性の高い情報や、観測値等の取扱いに注意が必要な情報も含まれる可能性があることから、個々のデータの公開可否の判断においては、慎重な見極めが必要である。特に、機密性の高い情報については、その取扱いに関するルール作りが必要である。

(3)産業への貢献

 平成26年に閣議決定された「科学技術イノベーション総合戦略2014」では、政策課題解決への視点とした「持続可能な社会の実現に寄与するためのモニタリングとその利活用」は、世界的にも我が国の有する先進的な地球観測研究等を加速することで、将来にわたり持続可能な社会を実現し、我が国の産業競争力の強化に貢献するものであるとした。この観点から、地球観測データの民間における利活用を促進し、新たな付加価値を創造することにより、産業の芽を育てることも重要視すべきである。また、今後我が国の環境関連の技術を国際的に展開するためには、これら技術の国際標準化を目指す必要がある。国際標準の設定には、客観的な計測と評価が必要であり、我が国の地球観測データの貢献が期待できる。

4.人材育成と普及広報

 観測データの取得から利活用までには、多数のプロセスが介在するが、いずれの場面においても、データを適切に取り扱い、目的に応じたデータの加工・利用に当たる専門の人材が必要である。若手人材の減少等により持続的な人材確保が困難となるおそれがある中、長期的な地球観測の維持の観点から、地球観測分野の人材育成について不断の努力をもって継続していくことが必要不可欠である。特に、多様なデータを収集・統融合し、課題解決に至るまでの研究を一貫して実施するためには、ビッグデータをはじめとする情報通信技術の活用、高度な統計処理・データ解釈・解析能力等に秀でた、分野横断的な研究開発能力及び利用者のニーズを的確に把握することから具体的解決策までを体系立てて組み立てる能力を有する人材の育成が必要である。さらに、地球観測データ利用者の裾野を広げるためのオープンソースツールの開発・提供などの取り組みも必要である。また、本章で述べた基本的な考え方は、データを取得する者からデータを利用する者まで、地球観測に関わるあらゆる関係者で共有し、理解を醸成すべきである。また、地球観測に関して、重要性や有効性が国民に広く理解される必要もある。そのために関係者の対話や、幅広い普及広報活動も重要である。

5.地球観測推進部会の役割

 本部会は、推進戦略に基づき、地球観測に対する利用者のニーズや国際的動向を的確に踏まえ、地球観測の広い領域にわたる俯瞰(ふかん)的な観点から、関係府省・機関の緊密な連携・調整の下、地球観測の推進、地球観測体制の整備、国際的な貢献策等について方針を策定するための統合的な推進組織として設置されている。前述のとおり、省庁や分野を横断し、関係者が協働して観測体制を構築することが重要であることや、国としてオープンデータを推進していく流れを踏まえれば、本部会が率先して、地球観測に関する省庁横断的な連携について推進することが必要である。
 地球観測データの収集から情報提供に当たっては、ニーズの集約、施設設備の相互利用、共同運用、民間活力の活用、人材育成など、これまでも連携を推進してきた。今後は、潜在的な利用者のニーズの掘り起こしや、社会からの要請があった際にニーズ側と観測側を橋渡しする機能の強化や、観測シーズと社会のニーズをマッチングさせるような場が必要である。
 今後、本部会においては、課題解決の要請と観測シーズとの対応を明確にし、適切なレビューを行いながら地球観測を推進することで、観測から課題解決に至るまでの取組を総合的に俯瞰(ふかん)し、推進する機能を強化すべきである。

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研究開発局環境エネルギー課

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