平成21年7月3日
総合科学技術会議
環境プロジェクトチーム
総合科学技術会議は、我が国の地球観測への取組に当たっての考え方、戦略的に取組むべき重点課題・事項等を、「地球観測の推進戦略」(平成16年12月27日付け意見)にとりまとめた。ここでは、
と規定している。本フォローアップはこの規定に基づいて、総合科学技術会議 基本政策推進専門調査会
環境プロジェクトチーム(以下、「総合科学技術会議環境PT」と言う)が実施するものである。
平成20年度フォローアップの経緯は以下の通りである。科学技術・学術審議会
研究計画・評価分科会 地球観測推進部会は、平成19年8月27日に「平成20年度の我が国における地球観測の実施方針」を策定した。同実施方針及び「地球観測の推進戦略」に則り、平成20年度に政府において実施する観測事項をまとめたものが「平成20年度我が国における地球観測の実施計画」(以下、「平成20年度地球観測実施計画」と言う)である。地球観測推進部会は平成20年度末に、「平成20年度地球観測実施計画」に基づいて実施された関係府省・機関の地球観測等事業の進捗状況に関する報告をまとめ、総合科学技術会議環境PTへ報告した。これを受け、総合科学技術会議環境PTにおいて実施したのが本フォローアップである。
一方、政府は平成18年3月28日に「第3期科学技術基本計画」を閣議決定し、平成18~22年度に政府として実行すべき科学技術施策を提示している。地球観測の重要性は同計画においても認識されており、同計画・分野別推進戦略「環境分野」には『「地球観測の推進戦略」に従い、総合的な地球観測システムの構築に向けて、省庁横断的な取組が必要であり、各国の活動とも連携して、GEOSS(Global
Earth Observation System of Systems)10年実施計画の実施を目指す』と記述されている。総合科学技術会議は平成20年度に「第3期科学技術基本計画」フォローアップを実施し、その結果を第82回総合科学技術会議(平成21年6月19日)に報告した。「平成20年度地球観測実施計画」のフォローアップは、この「第3期科学技術基本計画」フォローアップの結果を受けて実施したため、地球観測推進部会への報告が本来のスケジュールよりも若干遅れたことをここに付記する。
連携拠点は、国内外の観測のニーズと進捗状況等に関する情報の集約や実施計画を作成し、緊急の課題に機動的に対応できる体制を確保することで、地球観測活動を効果的・効率的に推進することを目的としている。平成18年度に環境省と気象庁が中心となって「地球温暖化分野に関する地球観測連携拠点」を設置した。また、「地震・津波・火山分野」においては、文部科学省が連携拠点としての機能を果たしている。
「平成20年度地球観測実施計画」には連携拠点の記載が無いため、「平成21年度の我が国における実施方針」における記載事項に対する進捗状況のフォローアップを行った。
「地球観測の推進戦略」は、我が国の地球観測において、(1)国民の安心・安全の確保、(2)経済社会の発展と国民生活の質の向上、(3)国際社会への貢献の観点から、国として喫緊に対応するべきニーズを明確にした上で、ニーズに的確にこたえ得る重点的な取組を戦略的に行うことが重要であるとしている。
国による地球観測の推進において喫緊の対応が求められているニーズとして、(1)地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応、(2)水循環の把握と水管理、(3)対流圏大気変化の把握、(4)風水害被害の軽減、(5)地震・津波被害の軽減を例示している。
これらのニーズについて「平成20年度地球観測実施計画」で示された観測事業およびデータの利用状況のフォローアップを行った。
最先端の科学技術は、観測能力や観測データの利便性を向上させることから、利用ニーズ主導の統合された地球観測の構築に資するものである。また、関係行政機関が観測データを活用して施策を実施するためには、例えば、空間情報基盤、土地被覆に関する地理情報、土地利用及び人間活動に関する地理情報、地質情報などの共通基盤情報の整備が不可欠である。
このような観点から、観測技術及び情報技術の開発や共通基盤情報の整備について、我が国における基盤的研究開発の実施計画に示された項目及び利用状況についてフォローアップを行った。
「地球観測の推進戦略」で掲げる15分野のうち、喫緊のニーズに対応した重点的な取組の5分野(2.2参照)を除いた分野について、観測事業およびデータ利用状況のフォローアップを行った。
本連携拠点は、地球温暖化分野の地球観測実施計画の作成・報告、地球観測へのニーズ等の調査・集約、関係府省機関の調整及び情報の収集・分析等を行うものであり、平成18年に国立環境研究所内に事務局を設置した。
本連携拠点は、地球観測に関する関係府省・機関連絡会議(温暖化分野)の下で運営され、地球観測推進委員会(温暖化分野)による科学的助言を得つつ、(1)地球温暖化監視・予測のために必要な観測ニーズを踏まえて、関係機関による観測の実施計画を取りまとめ、(2)観測施設の相互利用及び観測データの標準化・流通の促進を図ることで、関係府省・機関間の地球温暖化観測の連携を推進している。
平成20年度の活動状況は以下の通りである。
以上から、連携拠点としての活動は概ね順調に進捗していると評価できる。
今後は、地球温暖化影響の解明・予測に必要な長期継続観測を効率的に進めるために、大学等による研究観測と関係府省・機関による定常観測との連携をさらに進めていくこと、さらに「水循環の把握と水管理」、「風水害被害の軽減」分野との連携を検討することを期待する。
地震及び火山分野については、地震調査研究推進本部及び科学技術・学術審議会測地学分科会の事務局である文部科学省が連携拠点としての機能を果たしている。
地震・火山噴火予知研究については、平成20年7月の科学技術・学術審議会において、初めて地震と火山を統合した「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」の建議がなされた。地震調査研究推進本部が策定する新たな10年の基本計画「新たな地震調査研究の推進について-地震に関する観測、測量、調査及び研究の推進についての総合的かつ基本的な施策-」(平成21年4月決定)の中でも、火山に関する研究を考慮した効率的な観測点配置にすべきと明確に記述される等、地震及び火山分野の連携が強化された。
地震調査研究は、「新たな地震調査研究の推進について」、大学等における地震予知研究及び火山噴火予知研究については、「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画の推進について」がいずれも平成21年度から開始されることから、これらに基づく研究を推進していく必要がある。
地震及び火山分野においては、従来からの経緯もあり、関係行政機関等の連携・協力が図られている。今後も連携拠点の一層の機能強化を期待する。
「 地球観測の推進戦略」は、ニーズにこたえる戦略的な重点化が必要であるとし、「地球温暖化にかかわる現象解明・影響予測・抑制適応」「水循環の把握と水管理」「対流圏大気変化の把握」「風水害被害の軽減」「地震・津波被害の軽減」の5項目への取組を重点的に進めることが必要としている。
上述のように2つの分野に関しては連携拠点が設置され、活動を行っているが、残る分野についても、関係府省・機関によって連携拠点を構築していくことを期待する。
例えば、「水循環の把握と水管理」分野については、第3期科学技術基本計画の「分野別推進戦略」において、戦略重点科学技術「健全な水循環を保ち自然と共生する社会の実現シナリオを設計する科学技術」に指定されている。また、水循環の全球的な変動と流域・局所的な変動を統合した観測・研究技術開発をGEOSS
10年実施計画で定める期間に進めることが必要とされている。
平成20年度に実施された第3期科学技術基本計画分野別推進戦略の環境分野の中間フォローアップの議論においても水循環や水管理に関わる連携拠点設置の必要性が指摘された。今後、当該分野の関係府省・機関の連携拠点設置に関する検討を期待する。
温室効果ガスについては、関係府省機関による定常観測や民間航空機による観測が順調に進捗している。加えて、特に注目すべき点は、二酸化炭素とメタンの濃度分布を全球的に観測することができる温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」GOSAT(Greenhouse
gases Observing SATellite)の打ち上げに成功したことである(平成21年1月23日)。米国も同時期にGOSATと同様な炭素観測衛星OCO(Orbiting
Carbon Observatory)の打ち上げを行ったが失敗しており、今後GOSATによって得られる二酸化炭素及びメタンの全球濃度分布データは、現象解明など科学面のみならず緩和策・適応策など政策面への活用、さらに各国政府・研究機関への積極的なデータ提供による国際貢献の面でも活用が期待される。
陸域や海洋の生態系における二酸化炭素の収支や生態系純一次生産量に関連する観測、大気放射に関する観測、地球温暖化の影響予測に関連する観測については、ローカルからグローバルまで様々なスケールで観測が実施されており順調に進んでいると言える。今後は観測データの精度向上やさらなる有効利用に繋がる成果を期待する。
温室効果ガスのデータの利用も順調に進捗している。
以上のように、地球観測データの利用が進展した。一方、多種多様なデータが種々の機関で観測されているが、データの項目、内容、所在や利用可能性に関する情報源情報の整備が遅れている。データ利用をさらに促進するためにも情報源情報の整備を早急に検討する必要がある。
データ利用については、国家基幹技術として位置づけられているデータ統合・解析システムの開発・利用が進んでいる。今後は種々の地球観測データを政策に反映させ、国民にわかりやすく提示するなど、さらなるデータの利活用を期待する。
水循環の把握と水管理のための地球観測は、気象庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構の各機関が中心となり、概ね計画通り順調に進んでおり、データの提供や利用も積極的に行っている。
例えば、(独)海洋研究開発機構は、ユーラシア及び東南アジア地域における気象水文観測、同位体、GPS(Global
Positioning System)、ゾンデ、レーダー等による観測データの入手、解析を進めるとともに、ホームページ等でデータを公表している。また、独立行政法人農村工学研究所は、アジア地域における水循環変動が食料に及ぼす影響評価・予測を行うため、観測データを活用して分布型水循環モデルや水循環-食料モデルを構築した。
今後は、一層の観測データの精度向上や地域レベルのモデル解析に観測データを役立てることを期待する。水循環の把握や水管理分野における観測とデータ利用を促進するにあたって、連携拠点の設置を期待する(3.1.3参照)。また、関連する「地球温暖化」分野や「風水害被害の軽減」分野との連携も期待する。
熱帯降雨観測衛星(TRMM: Tropical Rainfall Measuring Mission)に搭載された我が国の降雨レーダ(PR:
Precipitation Radar)や、米国の地球観測衛星Aquaに搭載された我が国の改良型高性能マイクロ波放射計(AMSR-E:
the Advanced Microwave Scanning Radiometer – Earth observing system)による観測データは、気象予報や洪水予測の精度向上などに大いに貢献している。TRMMは平成9年度から運用を開始し、現在では寿命が尽きつつあるため、TRMMに代わる降雨観測システムとして、全球降水観測/二周波降水レーダ(GPM/DPR:
Global Precipitation Measurement/Dual-frequency Precipitation Radar)の開発を着実に進める必要がある。
対流圏大気変化の把握については、化石燃料の燃焼に伴う大気汚染物質の放出量の増大に対する懸念や酸性降下物の越境輸送等に関する問題に対処するため、大気中のエアロゾルなどに関する観測等を実施している。
特に、国立環境研究所辺戸岬大気・エアロゾル観測ステーション、独立行政法人海洋研究開発機構によりアジアに展開されている観測網、その他関係機関の観測施設で実施されている大気中のオゾン、エアロゾル等に関する観測データについては、対流圏大気質シミュレーションの検証等に利用されている。また、欧米諸国、日本、中国などの研究者が共同で執筆する「半球規模大気汚染物質輸送(HTAP)タスクフォース2007中間報告書」に引用されるなど高い成果をあげている。
データの利用に関しては、地球圏-生物圏国際協同研究計画(IGBP: International
Geosphere-Biosphere Programme)のコアプロジェクトの1つである地球大気化学国際共同研究計画(IGAC:
International Global Atmospheric Chemistry Project)や国連環境計画(UNEP: United
Nations Environment Programme)が進めているABC(Atmospheric Brown Clouds-Asia)プロジェクトに協力しており、辺戸岬観測ステーションで得られたデータの利用を準備している段階である。なお、利用促進策の一環として、同ステーションでは既に独自のホームページを開設し、データ提供を開始している。
今後は、研究・観測費用の確保、観測に従事できる人材の育成と確保により、継続的な観測体制の維持・強化を図っていく必要がある。
気象庁、独立行政法人防災科学技術研究所、及び独立行政法人土木研究所により風水害被害の軽減を目的とした観測が計画通り実行されており、災害などの予測技術に利用されている。
今後は局所的な災害予測精度向上のための一層の観測の充実および関係機関相互の連携、および関連する「地球温暖化」分野や「水循環の把握と水管理」分野との連携を期待する。
(独)防災科学技術研究所は、2台のマルチパラメータレーダーと中央大学等の3台の研究用レーダーをネットワークで接続して、降雨・強風連続観測を実施するとともに、豪雨強風監視アルゴリズムの改良を進め、500mメッシュの雨風のリアルタイム監視技術を開発し、適用することにより、局所的な豪雨(ゲリラ豪雨)の監視に有効であることを実証した。今後降雨・強風の短時間予測、浸水被害危険度予測、土砂災害危険度予測手法の高度化を期待する。
データ利用については、発展途上国などの水文情報が乏しい地域において洪水警報システムを構築するため、(独)土木研究所水災害・リスクマネジメント国際センター(ICHARM:
International Centre for water HAzard and Risk Management)が国際洪水ネットワーク(IFNet:
International Flood Network)や民間企業9社との協同研究により、人工衛星による降雨情報やグローバルGISデータを利用した総合洪水解析システムを開発した。このシステムについては、WMOの水文委員会でも紹介され、WMOとしてもこの開発・普及を支持することとしている。今後は、引き続きこのシステムの改良を行うと共に、具体的な適用事例を積み重ねることにより、この分野における国際的貢献に資することを期待する。
文部科学省、国土地理院、気象庁、海上保安庁、独立行政法人防災科学技術研究所、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所や大学により地震・津波被害の軽減のための観測が計画通り実行されている。
各機関で得られたデータの提供や利用が進んでいる。具体的には以下の通りである。
今後は、対象とする災害のあらゆる予測精度向上のための一層の観測の充実および関係機関のより一層の連携を期待する。
文部科学省、経済産業省、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所の各機関が観測能力や観測データの利便性を向上させるために利用ニーズ主導の統合された地球観測体制の構築に関して計画通り進んでいる。
その中でも「データ統合・解析システム」は、多種多様なデータの統合により、データを科学的・社会的に有用な情報へと変換し、地球環境問題等の解決に貢献することを目的としており、観測データを社会の利益につなげる重要なツールである。様々な利用者のニーズに応えることが出来るよう、今後の取組の進展を大いに期待する。
また、GOSATについては、今後のデータ利用を通して、我が国がこの分野で世界をリードすることを期待する。
国土地理院、独立行政法人宇宙航空研究開発機構、及び独立行政法人産業技術総合研究所により空間情報基盤、土地被覆に関する地理情報、土地利用及び人間活動に関する地理情報、地質情報などの共通基盤情報の整備が計画通り進められている。
世界の180の国・地域の協力を得て我が国が主導する地球地図プロジェクトにおいては、統一規格の下、全球陸域の植生(樹木被覆率)及び土地被覆データを地球地図第1版として公開するなど、地球の現状の把握に重要な役割を果たしている。
平成17年度より地表面状態の観測を実施しているALOSのデータは、各省庁が必要とする様々な空間データや国外における災害・環境問題に対して利用されており十分な成果を生み出している。
取得されたデータについては、地図の維持・整備(国土地理院)、みどりの国政調査の植生分布(環境省)、農耕地把握(農林水産省)、災害状況把握(内閣府、警察庁、自治体等)、地殻変動量や地表面変化抽出による噴火前把握(火山噴火予知連絡会)、オホーツク海の船舶航行安全性(海上保安庁)、地震活動による地震変動や断層面の把握(地震調査研究推進本部)など種々の分野において利用されている。
また、岩手・宮城内陸地震、新潟中越沖地震や中国四川省大地震、ミャンマーのサイクロン「ナルギス」等、国内外での災害発生時に、ALOSによる緊急観測を実施した。観測データを国内の防災機関や国際災害チャータ(International
Charter)やセンチネルアジア(Sentinel Asia)等を通じて国外の防災機関に提供し、国際的にも大きく貢献した。さらに相手国政府機関と協力したブラジル、インドネシア等における森林減少の監視や、名古屋大学や北海道大学等と協力したブータンでの氷河湖監視、インドネシアでの泥炭火災検知等でも利用され、観測データ利用の新たな展開があった。
今後は、このような高度空間情報を持続的・効率的に提供および利用するための内外の各機関との有機的な連携を推進する必要がある。
大気環境に関しては、気象庁、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、及び独立行政法人国立環境研究所により観測が計画通り進められている。特にアジア地域の対流圏大気変化把握のための辺戸岬観測ステーションの共同運用の貢献は大きい。
一方、海洋環境に関しては、水産庁、気象庁、海上保安庁、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人水産総合研究センター、独立行政法人産業技術総合研究所により、多くの項目の観測が順調に進められている。
陸域生態系に関しては、独立行政法人森林総合研究所、独立行政法人産業技術総合研究所により精力的に観測が進められている。データ利用や国内・国外の研究者間の連携については既に取り組んでいるが、今後、より一層の強化を期待する。
また、海洋生態系に関しては、水産庁、独立行政法人水産総合研究センター、独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所により計画通り観測が進められている。今後も継続的に観測が進められることを期待する。
独立行政法人森林総合研究所による生物多様性に関する調査についても計画通り観測が進められている。これについても、今後の継続的な観測を期待する。
大規模火災に関する観測については、独立行政法人森林総合研究所により、アメリカ海洋大気庁(NOAA: National Oceanic and Atmospheric Administration)が運用する衛星や中分解能分光放射計(MODIS: MODerate resolution Imaging Spectroradiometer)などを複合的に利用した森林火災早期発見・通報システムが平成18年度に既に開発されており、平成19年3月よりこれらの情報が公開、運用されている。
エネルギー・鉱物資源については、(独)産業技術総合研究所により高性能光学センサー(ASTER: Advanced Spaceborne Thermal Emission and Reflection Radiometer)やフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダー(PALSAR: Phased Array type L-band Synthetic Aperture Radar)を利用した観測が進められている。
森林資源に関する観測については、林野庁と都道府県により、全国の4キロメートルメッシュ交点の森林状況を統一的に把握する森林資源モニタリング調査として、樹木や下層植生などの地上計測が計画通り実施されている。今後は、これら観測データを森林の温室効果ガス吸収量の算定や検証に利用する必要がある。
農業資源に関する観測については、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、独立行政法人農業環境技術研究所、及び独立行政法人国際農林水産業研究センターにより、国内外のフィールドにおける地上・衛星観測が計画通りに進められている。今後は、現在既に取り組んでいる、観測されたデータの公開および利用を一層推進する必要がある。
気象・海象に関しては、気象庁、海上保安庁、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人海洋研究開発機構、及び独立行政法人宇宙航空研究開発機構により計画通り進められている。今後も効率的、持続的な観測の実施が必要である。
地球圏宇宙空間(ジオスペース)環境の観測の高度化・広域化に関しては、独立行政法人情報通信研究機構により、東南アジアにおける電離圏の観測が計画通り進められている。また、極域における大気に関する観測に関しては、独立行政法人情報通信研究機構、独立行政法人国立極地研究所により、アラスカ、南極(昭和基地)、北極、アイルランドにおけるオーロラ、電離層等の観測が予定通り実施されている。
極域及び海底・湖沼における堆積物に関する観測に関しても独立行政法人海洋研究開発機構、独立行政法人産業技術総合研究所、及び独立行政法人国立極地研究所により計画通りに進められている。超深度環境における地球内部に関する観測に関しては、独立行政法人海洋研究開発機構により計画通り進められている。今後は、関係機関との連携とそのための研究体制の構築が必要である。
「平成20年度地球観測実施計画」に基づいた関係省・機関の施策・事業の実施およびデータ利用は、着実に進捗している。
(1) 連携拠点による活動が進展している
地球温暖化分野、地震および火山分野における連携拠点では、連携の効果が発揮され、成果が上がってきた。今後さらに「水循環の把握と水管理」分野などの喫緊のニーズ分野における連携拠点の設置を期待する。
(2) 観測データの提供や公表が進められている
データ利用の点から、それぞれの観測においてデータの利用や公表を念頭において観測研究や施策・事業が行われるようになり、データ利用も概して進んでいる。
また、データの統合的利用に向けてのデータベース化やシステム開発が進んでいる。例えば、観測データと社会経済データ等を統合し解析して活用するデータ統合・解析システムの開発が進み、温暖化影響・適応、水循環解明・水資源管理、食料生産や生態系保全などのいくつかの分野で問題解決型の適用事例が検討されている。
(3) 幅広いユーザーのニーズにこたえる基盤が整備されつつある
大気化学の分野では、辺戸岬観測ステーションの共同運用を通じて、研究機関や大学が研究観測を続けるなど、観測の共通基盤(プラットフォーム)が構築され、その運用が進んでいると共に、得られたデータによる新たなデータベース構築が進んでいる。こうした観測データは研究者間で共有されるとともに、国際的な観測ネットワークにもデータ提供されている。
(4) 気候変動対策など環境問題の解決に必要な施策として、ニーズに対応した地球観測とデータ統合の重要性が更に増している
例えば、科学技術外交強化の一環として、地球観測衛星の観測データや災害関連情報等、我が国の優れた環境技術の成果を開発途上国のニーズに応じて積極的に提供することにより、国際的な貢献が進むとともに、国内における衛星観測データの利用も多様化してきた。アジア・オセアニア地域における衛星観測データ利用についても、連携を強化するなど、GEOSS10年実施計画への我が国の貢献を期待する。
今後も、「地球観測の推進戦略」に基づき、ニーズ主導の地球観測システム構築とそれに向けた各省・機関間の効果的な連携をさらに推進すること、地球観測の成果を社会に広めていくことを期待する。
多くの分野において研究観測および定常観測が進み、観測データの利用も進んでいるが、今後の課題を以下に記す。
研究開発局海洋地球課地球・環境科学技術推進室