資料4 核融合研究作業部会審議メモ(案)

一 核融合研究開発の意義と基本的方向性について

 核融合研究開発は、我が国のエネルギーの安定供給、地球環境問題への対応を目指した長期的な視野での研究開発計画の一環として、革新的エネルギー源の獲得を目的とするものである。

 我が国の核融合研究開発は、現在、自己点火条件の達成及び長時間燃焼の実現並びに原型炉の開発に必要な炉工学技術の基礎の形成を主要な目標とした「第三段階核融合研究開発基本計画」の下で「今後の核融合研究開発の推進方策について」(いずれも原子力委員会決定)に基づき進められている。

 具体的には、平成17年に原子力委員会核融合専門部会が取りまとめた報告書「今後の核融合研究開発の推進方策について」において、21世紀中葉までに実用化の目処を得るべく研究開発を促進する必要があるとした上で、以下の基本的進め方が示され、これに基づいて研究開発が進められている。さらに、平成22年6月のエネルギー基本計画でも、「長期的視野に立って、ITER計画やこれに連携した幅広いアプローチ活動をはじめとする核融合について着実に推進する。」とされており、低炭素化に向けたエネルギー源としての開発が求められている。

○ 研究が進展しているトカマク方式において、開発研究として、第三段階計画の中核であるITER計画を進め  るとともに、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉段階への移行の可否を判断するため  、トカマク方式の原型炉建設に必要な研究開発を進める。(原型炉は、定常炉心を実現し、同時にプラント  規模 での発電実証を一定の経済性を念頭において実現することを目標とする。)

○ 核融合に関する学術研究については、その重点化計画であるヘリカル方式とレーザー方式を中心としてチ ェック・アンド・レビューを行い、適切な時期に研究の展開の方向を定めるものとする。

 上記報告書の取りまとめから5年間が経過し、その間、本作業部会が平成20年に取りまとめた報告書「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」や、原子力委員会核融合専門部会が平成21年に取りまとめた報告書「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取り組みの基本的考え方の評価について」において、原型炉の実現に向け、我が国として確保、維持すべき技術を明確にした戦略的なロードマップを策定し、それを産学官で共有して全日本的な体制で取組を推進する必要性が指摘されているところである。

 このため、本作業部会では、従来からの基本方針や了解事項に基づきつつ、現在の第三段階における進展状況を踏まえて、原型炉に向けた課題を分析した上で、今後の核融合研究開発の進め方の審議を重ねてきている。本資料は、これまでの審議の状況について今後の検討の参考とするためその内容の整理を図ったものである。

 

二 核融合研究開発の現状と課題について

1.実験炉に係る進捗状況と課題

(1)ITER計画の進捗状況と課題

 現在、研究が進展しているトカマク方式について、ITER(国際熱核融合実験炉)計画は、開発研究として第 三段階の中核であり、燃焼プラズマ条件(エネルギー増倍率が10以上)の実現と燃焼プラズマ制御の見通し の確立、及び長時間燃焼(1000秒程度)の実現並びにシステム統合技術の確立と発電ブランケットに関わる 基本技術の獲得などを主要な目標とした実験炉段階として「第三段階核融合研究開発基本計画」における「 今後の核融合研究開発の推進方策について」(いずれも原子力委員会決定)の下で進められている。

 国際共同プロジェクトであるITER計画は、協定が平成19年10月に発効、ITER機構が発足し、平成22年7月にはベースライン文書に我が国を含む参加極が合意、今後その建設が進められることになっている。現在の 計画においては、平成31年(2019年)に実験を開始、さらに50万キロワットの熱を発生させる核燃焼実証が  平成39年(2027年)に見込まれている。我が国も積極的に推進しているこのITER計画から得られる知見は、 将来の「原型炉」開発において極めて重要であり、「今後の核融合研究開発の推進方策について」のチェック ・アンド・レビュー項目に基づいてチェック・アンド・レビューを行うことが今後の原型炉開発のために必要不可 欠である。

 

(2)BA活動の進捗状況と課題

 ITER計画と並行して原型炉の早期実現に向けた技術基盤の構築及びITER計画の支援並びに補完的研究 を目的とした研究開発プロジェクトである幅広いアプローチ活動(BA活動)は、日欧間のBA協定が平成19年6 月に発効、平成22年3月には国際核融合エネルギー研究センターが青森県六ヶ所村に完成し、 今後、その 活動が本格化していく見込みである。このBA活動は、ITER計画の効果的・効率的な推進に資するとともに、 実験炉であるITERの次の発電実証を行う原型炉に必要な技術基盤を確立するための先進的な研究開発等 を日欧間で行い、原型炉実現に向けて世界をリードするためのプロジェクトである。この活動は、大きく次の3 つのプロジェクト、すなわち、国際核融合エネルギー研究センターに係る事業(IFERC)、国際核融合材料照  射施設に関する工学実証及び工学設計活動に係る事業(IFMIF/EVEDA)及びサテライト・トカマク計画に係る 事業(STP)からなっている。

 IFERCについては、原型炉の早期実現に資するため、原型炉の概念設計や必要な材料や発電のための研究開発(R&D)あるいはこれらに関連するシミュレーションを平成24年から実施する予定である。また、    IFMIF/EVEDAは将来のIFMIFの建設に向け、工学設計を行うとともに、IFMIFで必要となる強力な重陽子イオ ンビームの加速器や液体リチウムのループについての工学実証試験を行うプロジェクトである。日本原子力 研究開発機構大洗研究開発センターのリチウムループ設備の設置が進展しており、さらに平成24年度に原 型加速器関連の機器が青森県六ヶ所村の施設に搬入される予定である。これらIFERC及びIFMIF/EVEDAか ら得られた知見、技術あるいは設備は原型炉開発に向け重要な基盤となるものである。

 サテライト・トカマク計画(STP)は、ITER計画を支えつつ、将来、実験炉から原型炉に進むための先進的プ ラズマ研究を切り拓くもので、既存の臨界プラズマ試験装置JT-60を超伝導装置に改修したトカマク実験装置 JT-60SAを活用して、経済性にすぐれた原型炉についての研究を進めようとするものである。

 このJT-60SA計画は、BA活動のサテライト・トカマク計画(STP)と、わが国のトカマク国内重点化装置計画 の合同計画であり、国際計画であると同時に原型炉に向けた国内トカマク研究計画の中核としての役割を担 っている。このJT-60SA計画は、ITER計画の技術目標達成のための支援研究と原型炉に向けたITERの補  完研究を行なうこと、また、これらの研究を進めることによってITER計画や将来の原型炉開発を主導する人 材を全日本的に育成することを目的としている。ITER計画の支援研究については、臨界条件クラスの高性能 プラズマを長時間(100秒程度)維持する実験をITER計画に先行あるいは並行して実施し、その成果によって ITER計画をより効率的に進めようとするものである。一方、ITER計画の補完研究については、原型炉におい て実用化に繋がり得る一定の経済性についての見通しを得るために、ITER計画では行うことが難しい「原型 炉で必要となる高出力密度を可能とする高圧力プラズマの長時間維持」を実現し、将来の原型炉の運転手  法の確立を図ろうとするものである。このため、全日本的に着実に取り組むことが必要である。

 

2.原型炉に向けた研究開発の現状と課題

 平成17年の原子力委員会核融合専門委員会報告書においては、核融合エネルギー早期実現のための開発戦略として、トカマク方式において、一定の経済性を念頭においた原型炉に向けての開発研究をITERと並 行して進めることが妥当であり、ITERの基本性能の達成を受けて原型炉の建設を進めることが望ましいこと から、ITERの主要な基本性能が達成される時期までに原型炉の建設段階への移行の可否を判断するため 、原型炉建設に必要な研究開発を総合的に進める必要があるとされた。

 これまで述べてきたように、ITER計画やBA活動においては、将来の原型炉開発に向けた基礎的な研究が 徐々にではあるが、進められている状況にある。

 なお、ここにいう原型炉とは発電プラントとしての技術的成立性の実証を目指すものであり、閉じ込め方式 によらず原型炉に求められることとしては、

1) 核融合エネルギーによる発電を実用化に繋がり得る技術において実証すること、 2) 実用化に繋がり得  る一定の経済性についての見通しが盛り込まれていること、

がある。このために、原型炉において、高いエネルギー増倍率で定常・連続的な炉心プラズマの運転ができ 、発電を行いつつ、トリチウム燃料の自己供給が可能で、かつ材料についての基本的な課題が解決され、実 用化への見通しがついていることが求められる。

 平成17年の報告書においては、最短でITER運転開始後約7年程度経った2020年代初頭において主要な基本性能が達成され、原型炉段階への移行を行い、速やかに原型炉の建設を進めることができれば、2030年 代から連続的な発電、安全性と経済性、運転信頼性の見通しを得ることを目的として原型炉による試験研究 と改良を進めることが可能となること、その結果として、今世紀中葉までに実用化の見通しを得ることも可能 であると判断されていた。   

 現在の核融合研究については、平成15年の「今後の我が国の核融合研究の在り方について」(科学技術・学術審議会核融合研究ワーキンググループ)で重点化等の方針が示され、平成17年には、ITER建設に向けた具体的な取組の開始以降の第三段階核融合研究開発基本計画を示した「今後の核融合研究開発の推進方策について」(原子力委員会核融合専門部会)が示され、平成21年に「原子力政策大綱等に示している核融合研究開発に関する取組の基本的考え方の評価について」(原子力委員会核融合専門部会)が示されて以降、その基本方針に沿って核融合研究開発に関わる施策を進めているが、その後、ITER計画やBA活動が進捗したこと、あるいはトカマク方式のみならず、重点化を図ったヘリカル方式、レーザー方式の研究も進展してきている。また、改めて発電技術の実証を行う原型炉段階への移行の合理的な可否判断を可能とするために、原型炉の開発に向けた具体的道筋を整理し、原型炉という目標に向け、ITER計画・BA活動を始めとする研究開発とそれ以外の学術研究を統合させる戦略を構築することが必要となっている。

 一方、核融合エネルギー研究開発は、太陽中心核の10倍という超高温の世界で起こる様々な未知の現象を、実験的・理論的に解明していくという学術研究とともに進展してきたことから、今後の原型炉の本格的な概念設計及び工学設計を行うための収斂の過程においても、学術的に多様で新しい研究の展開と大型研究開発計画とを相補的かつ合理的に一体化した戦略の構築が必要である。さらに、原型炉開発の最終段階となる原型炉建設に直結する開発段階では、それまで広角的に展開してきた研究開発を巧みに収斂させ、人材と研究資源の集中化を図ることが必要である。

 

(1)トカマク方式による研究開発について 

1)ITER計画及びBA活動の研究成果の活用と原型炉に向けた研究開発

 すでに、述べたようにITER計画から得られる核燃焼実証等に係る知見は、将来の「原型炉」開発において極めて重要であり、決定的に重要な課題ごとに、チェック・アンド・レビューに基づいて、それぞれが持つ意義・必要性を明確にすることが「原型炉」の開発のために必要不可欠であることはいうまでもない。

 また、BA活動についても、IFERCについては、原型炉の早期実現に資するため、原型炉の概念設計や必要な材料や発電のための研究開発(R&D)あるいはこれらに関連するシミュレーションを平成24年から実施する予定であり、IFERC事業が順調に進展すれば、それから得られる研究成果は、原型炉の開発のために有効なものになることが期待される。

 さらに、BA活動の主要な事業であるサテライト・トカマク計画(STP)では、ITERを支えつつ、将来の原型炉に進むために必要な先進的プラズマ研究において、機動的なトカマク実験装置となるJT-60SAを活用して、経済的な原型炉についての研究が進むものと期待される。

 

2)ITER計画及びBA活動以外の活動からの原型炉の研究開発に向けたインプット(主要な技術的諸課題について9項目)

 将来の原型炉開発にあたっては、ITER計画やBA活動から得られる知見のみでは解決できない課題が種々存在する。このため、原型炉に必要十分な開発技術を我が国でも立ち上げておくことが必要であり、そのための綿密な開発戦略を持つことが必要であるが、これについては研究者コミュニティにおいて、精力的に検討がなされているところである。核融合エネルギーフォーラムにおいては、ITER・BA技術推進委員会報告書「核融合エネルギー実用化に向けたロードマップと技術戦略」(平成20年6月)として、トカマクで原型炉を実現する場合を想定したケーススタディーの上に、ITER計画及びBA活動以外に原型炉開発に際して必要となる技術開発9項目への取組の必要性を指摘している。この9項目とは、以下のとおりである。

1.ITER-TBMの開発及び原型炉用ブランケットの開発

2.ITER用超伝導コイルの性能を越える原型炉用コイルの開発

3.原型炉用ダイバータ

4.Li-6の濃縮・量産技術ならびに初期装荷トリチウムの入手方法の検討

5.冷却系のトリチウム管理技術

6.メンテナンス手法開発

7.核融合炉の規格基準検討開始

8.環境安全性評価手法の開発

9.国内重点化トカマク装置

  

3)工学設計段階への移行のためのチェックポイント

 トカマク方式では基本的諸元を想定した概念設計を進めつつ、ITERとJT-60SAによるプラズマ閉じ込め性能の同定及び電流駆動、ディスラプション制御の課題を見極めることができる時期が、原型炉の工学設計開始の是非を決定するチェックポイントとなると考えられる。

 

(2)学術研究としてのヘリカル方式、レーザー方式の原型炉への貢献について

 重点化の方針が示されて以降、学術研究として、ヘリカル方式、レーザー方式による研究が進められ、それぞれ着実に研究成果を上げてきているが、原型炉の概念設計から工学設計へ、さらに建設へと進む判断を適切に下していく上においては、今後も、これらの方式による研究から得られる成果の重要な知見のインプットが非常に重要であり、方式の違いを超えて、原型炉開発の前に立ちはだかる課題を解決し、原型炉開発の可能性を高めるためにも、着実に推進していくことが必要である。特に、炉心プラズマの炉心プラズマの非線形性、非平衡性、自律性といった特徴は現代科学の諸分野を横断するキーワードであり、これらに関する高度な理解は、今後の原型炉開発にあたり「選択と収斂」を行う際の根本的な判断基準を与えるものである。また、原型炉開発にあたっては、重点化施策の一つである炉工学についても、総合的な知見が必要となることから、今後どのように基礎学術研究の知見を蓄積、あるいはそれらをうまく統合し、活用していくかが極めて重要である。原型炉の設計にはこれら研究成果を適宜反映する必要がある。

 

1)LHD計画(ヘリカル方式)による核融合研究の現状と課題

 ヘリカル方式は本質的に定常運転に優れた概念である。超伝導コイルを有した大型へリカル装置(LHD)という実験設備と、実施主体である核融合科学研究所の大学共同利用機関としての共同利用・共同研究という手法の特徴を活かして、特に、プラズマの定常性に関わる学理の構築を図っている。JT-60SAの稼働までは、国内唯一の大型実験装置であり、我が国の磁場閉じ込め物理研究における国際的リーダーシップと人材育成を確保するために果たす役割は極めて大きいものがある。LHDを用いた研究によって原型炉開発の可能性を追求するためには、より核融合条件に近い高性能の定常プラズマを実現することが必要であり、今後、ダイバータ改造による熱粒子制御の向上や重水素の使用のための実験設備の拡充と定常及び安定性に関する学術的に重要な課題の解明に一層の努力を払う研究展開が必要である。また、ヘリカル方式のみならずトカマク方式をも包含する環状プラズマの総合的理解を深め、炉型式によらない学術体系としての知的ベースをITERやJT-60SAの事前検討から第四段階へ進む判断のために提供することが求められる。

 

2)レーザー方式による核融合研究の現状と課題

 レーザー方式では、米国のNational Ignition Facility(NIF:国立点火施設)においてエネルギー増倍率Q=10以上の核燃焼が、両3年の間に実証されると予測される状況にある。

 レーザー核融合は、最先端のレーザー技術と極限状態の物質科学に基づくことから、新たな学術分野と先端産業を切り拓きながら核融合実用化に至る、磁場閉じ込めとは異なるスタイルのエネルギー開発研究である。炉心プラズマについては、わが国の高速点火 実証実験第1期(FIREX-1)での点火温度への加熱と、米国立点火施設NIFでの点火 ・燃焼の実証により、核融合炉心プラズマへの見通しが概ね得られる見込みである。また、炉工学技術については、炉用レーザー材料であるセラミッククリスタルの透明化と励起用レーザーダイオードの長時間運転に成功するなど、わが国発の大きなブレークスルーがあり、炉用レーザー開発の見通しが得られつつある。これらの成果に基づき、レーザー核融合原型炉の設計を検討できる状況になってきている。併せて、次段階のFIREX-2を原型炉の前駆的研究と位置づけ、そこから得られる新しい知見を原型炉開発に柔軟に取り入れていくことが構想されており、この段階への移行の判断として、FIREX-1に対する適切な評価をまず行う必要がある。  

 

三 原型炉開発に向けた今後の検討・推進体制の在り方について

1.国内における総合的な検討を行うための今後の体制について

 核融合の研究開発戦略のロードマップとは、いわば原型炉開発のための「地形図」すなわち諸学の総覧の上に、開発目標へ向かう進路を大まかに示すものである。改めていうならば、全体計画が目標達成可能であるための必要要件を洗い出すとともに、多様に展開する研究との有機的な連携と統合に向けての方向付けを行うことが目的である。また、現段階では未決定の事項について、どの時期にどのような基準で判断を行うかの手順を示すものとなる。

 このため、最終的には、総覧・分析した全体計画を「ロードマップ」としてダイヤグラムにして示すこととしている。また、それぞれの研究計画・プロジェクトのつながりを「チェックポイント」を介して示し、原型炉に至る研究開発の「流れ」を明示するものとする予定である。このロードマップが単に策定に留まらず、実際にその実現が図られるためには、我が国の核融合研究全体が整合性や合理性を持って効率的に推進される必要があり、そのための検証、推進体制並びに研究を支える幅広い支援体制の構築が図られる必要がある。

 核融合エネルギーフォーラムや核融合研究者コミュニティである核融合ネットワークにおいては、核融合研究開発全体から原型炉の炉形式を問わず、今後必要となる研究開発の課題について検討がなされてきている。

 そこでは個別の研究課題をITERの建設期・運転開始期・燃焼実験期、原型炉の設計時期・建設開始時期・運転開始時期をマイルストーンとし、必要な課題、設備、規模等についての課題の整理が行われてきている。 ここでの総合的な検討の中で意義づけられた決定的な課題に対しては、解決を図るための研究計画が研究者コミュニティから企画・提案され、その具体化が国の支援を得て図られることが望まれる。

 

(1)研究推進の整合性と合理性に関する留意点

 第四段階(原型炉により技術的実証と経済的実現性を明らかとする)への移行を判断するに至るITER計画及びBA活動を含む工学研究の整合性、合理性、完備性など、全体的な進展に関する検討・検証を進捗に応じて適切に行うことができる体制を整備することが必要である。

 また、我が国の核融合研究が国際的にトップの水準であるためには、核融合に関連する広範な学術・技術の重厚な知的ストック及び諸分野との有機的な融合を維持・発展させることが必要である。このためには、未開発の可能性にチャレンジする独創的研究や、成果を他分野へ転換する重層的な学際的研究を振興、支援する体制を核融合コミュニティの中で強化していくことが求められる。

 

(2)進路決定の仕組みづくりとそのサポート体制について

 核融合エネルギー研究開発は、国の長期的戦略のビジョンに基づいて推進される必要があるとともに、核融合研究開発に携わるコミュニティの協力と支持、さらには、この分野の研究開発に対する幅広い社会からの理解と賛同を得ることが必要である。一方、長期計画が固定化・硬直化しないために、全体計画の方針作りと研究開発最前線・現場の状況とが、常に綿密なコミュニケーションによって整合化されるための体制が必要である。また、判断のプロセスは、研究開発に携わるコミュニティの協力と支持を受けるものである。このためには、大型プロジェクトの実施主体となっている日本原子力研究開発機構と核融合科学研究所を中心とした大学及び産業界との連携の強化と、核融合エネルギーフォーラム及び核融合ネットワークなどによるコミュニティの合意形成が鍵となる。

 

2.産学官民一体となった推進・支援体制の構築

(1)核融合研究に係る技術の継承及び人材育成の在り方

 原型炉に向けた収斂とともに、核融合研究から生まれる学術や技術の知が新たな展開と循環を継続的にもたらすことによって、研究の加速や技術の継承及び革新、基盤の強化、長期にわたる人材の育成が可能となる。

 本作業部会では、これまでも国際協力を軸とした大規模プロジェクトの推進と、一方で我が国の研究開発を担い、国際的な研究のリーダーシップを取れる人材育成の在り方について具体的で詳細な計画を議論してきたが、平成20年7月の「核融合研究の推進に必要な人材の育成・確保について」で分析したように、今後より多くの人材を投入する必要があることから、この分野の研究開発が孤立化するのではなく、境界領域を一層幅広くし、他分野との連携や融合による機動的な人材確保が必要である。

 ITER計画・BA活動の経験者が学術界及び産業界に戻り、その経験を生かして活躍できるキャリアパスの確立が必要である。また、BA活動では、平成23年から原型炉設計活動が、日本原子力研究開発機構、核融合科学研究所、大学、産業界などの協力の下、全日本的なチーム体制の整備を図りつつ、開始される予定であり、人材の育成も期待されるところであるが、チーム体制の充実や活動の強化を今後も図っていく必要がある。併せて将来の原型炉開発を見据え、優秀なコアとなる人材が集まり、将来にわたって中核的な機能を果たす組織について検討していく必要がある。

 こうしたことから、ITER計画及びBA活動に対する学術コミュニティの意見、知見が一層広く反映されるため、また、産業界との円滑な連携協力の一層の強化を図るための方策や体制について検討する必要がある。

 

(2)核融合研究の成果の発信及び社会、産業への波及効果

 長期的ビジョンに基づいて、核融合研究開発を円滑に進めるためには、社会からの幅広くかつ継続的な支持がその基盤となる。こうした核融合研究を後押ししてくれる継続的な支持基盤を構築するための戦略も必要である。核融合という用語はまだ社会一般に浸透・定着していると言える状況にはないが、近年プラズマという用語は一般の人々も次第に見聞きするようになってきていることから、今後国民の間における核融合研究への関心や理解を高めていくためにも、まずは核融合に関わるプラズマ等について正しい理解が得られるような取組も必要である。

 なお、継続性の観点からいえば、展開させるべき研究を競争的資金のみに依存することは、原型炉を含む核融合研究開発全体のリスクとなることから、ポートフォリオとして一定規模の継続的な支援措置が必要である。こうした継続的な支援を得るためにも、まずは、科学技術全般における核融合研究の位置づけをいかにして上げ、いかにして社会・国民の理解と支持を得ていくかについて戦略的に考えていく必要がある。

 核融合研究については、我が国の研究レベルは世界最先端レベルにあり、その優位を保っているが、国際競争極めては厳しくなってきており、中国や韓国が国をあげて核融合研究に取り組み始めており、決して安閑としていられない状況にもあることからこうした競争に打ち勝つためにも核融合研究に対する支持・支援基盤の拡大、強化は大変重要となってきている。

 核融合研究については、基幹技術としての波及効果を有する。21世紀をリードする戦略的な基幹技術としての波及効果を有するものとしては、例えば、高熱負荷材料、低放射化材料、イオンビーム・マイクロ波・レーザーの技術があるが、こうした産業への波及効果についても核融合研究が社会に利益をもたらし、我が国の経済や産業の活性化にも貢献するものであることを示す例となることから、適切な形で社会にその成果を発信していく必要がある。

 

 

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