安全・安心科学技術委員会(第24回) 議事録

1.日時

平成22年9月14日(火曜日) 14時~15時30分

2.場所

文部科学省 科学技術・学術政策局会議室1

3.議題

  1. 安全・安心科学技術プロジェクト進捗状況の報告
  2. 平成23年度概算要求について
  3. その他

4.出席者

委員

板生 清 委員主査、岸 徹 委員主査代理、青木 節子 委員、四ノ宮 成祥 委員、土井 美和子 委員、橋本 敏彦 委員、札野 順 委員、堀井 秀之 委員、村山 裕三 委員

文部科学省

合田 隆史 科学技術・学術政策局長
渡辺 格 科学技術・学術政策局次長
常盤 豊 科学技術・学術政策局総括官
佐野 太 科学技術・学術政策局政策課長
大山 真未 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(推進調整担当)
新田 浩史 科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室長

5.議事録

【板生主査】 開会

【新田室長】 7月30日付人事異動の紹介

【板生主査】 議題紹介

【新田室長】 配付資料確認

 

<議題1.安全・安心科学技術プロジェクト進捗状況の報告>

【板生主査】 テロ対策分野、地域社会分野の両推進委員会の位置づけについて、事務局から説明をお願いする。

【新田室長】 資料1-1、1-2、4に基づき説明。

【板生主査】 最初にテロ対策分野の3課題について、岸推進委員長から報告をお願いする。

【岸推進委員長】 資料2-1、2-2に基づき説明。

【板生主査】 最初の2つは生物剤検知用の、しかもリアルタイムの検知システムという点では、基本的には目的は同じですね。アプローチや技術が異なるのですね。

【岸推進委員長】 そのとおり。

【板生主査】 最終的には大気中のパーティクルを集めて、パーティクルカウンターで計測する技術となると、どこかの段階で何か一緒になるというか、共通のものが相当あるような印象を受ける。そのあたりはいかがか。

【岸推進委員長】 研究成果が出た後の話であるが、大阪大学は、基本的に生物剤を検出するというところは非常にコンパクトにできており、いい物ができると考えられる。次に、東芝に関して言えば、実際検体を捕集するシステムを含めて開発しているので、東芝の捕集するところの後ろにこの大阪大学のものをくっつけるというのは、可能性はありえると考える。実は、大阪大学のほうも集塵を含めて装置全体を試作するという話があったが、やはり技術的なもの等を含めて、一番得意とする生物剤検知のところに注目して開発していただくという方向で研究が進んでいる。

【板生主査】 そういう内容をディスカッションする場についてはどこかにあるのか。

【岸推進委員長】 今のところはない。

【板生主査】 テロ対策の技術開発なので情報がクローズされているのですよね、当然ながら。

【岸推進委員長】 現在、それぞれの課題はそれぞれの機関で開発が行われている。

【四ノ宮委員】 大阪大学では、小型化が直ちには難しいという話だが、検出の部分だけはかなり小型化でコンパクト化できるという理解か。

【岸推進委員長】 はい、そういう理解で装置ができると思う。

【四ノ宮委員】 そうすると、現場に持っていって検出はできるけれども、そのサンプルを収集する段階でかなり問題があるということか。

【岸推進委員長】 そのあたりもあると思う。要するに空気中サンプルから連続的に計測するというのが技術的に難しいのかなという印象を受ける。

【四ノ宮委員】 この手の検出装置の場合はその場で検出ができて、すぐそこで警報が出せるとか、疑わしいというふうになるのが好ましいと思う。その辺の研究開発を込みで推進するようなシステムというか、少し他のシステムのいいところと組み合わせるということは、今後あり得るのか。

【岸推進委員長】 この課題を募集したとき、CREST(Core Research for Evolutional Science and Technology 戦略的創造研究推進事業)ではモバイル型の生物剤を検出するというテーマがあった。CRESTでは、例えば部屋の中で常時モニタリングをかけるとか、建物全体をどうかするかという話であった。大阪大学のほうは小さいものをつくって、建物のあちこちに置いてモニタリングをかけるというような発想から来ている。東芝のほうはどこかにポストを設けて常時モニタリングを行うという目的。リアルタイムということでの研究設定になっており、サンプリングから含めての研究開発となっている。

【青木委員】 NIRの容器内の検知技術について。 テロリストなどに持ち込ませないようにすることは、すべての場所では難しいけれども、装置性能の向上によって検出が完全になればペットボトルを航空機内に乗客が持ち込みやすくなると思う。今はペットボトルに限らず、一定量以上の液体を持ち込めないように航空機会社の協定等があると思うが、将来的に、日本としてあるいは航空機会社として、規制をやめる、廃止するという事か。もし技術が完全になって実用化された場合、日本の作ったペットボトル等の液体物判別機器を売り込んでいくための将来的な手続き・仕組みについての話し合いというのは、何か進んでいるのか

【岸推進委員長】 規制等については、例えばアメリカではTSA(Transportation Security Administration 運輸保安庁)という航空関係の保安をやっているところがある。あるいは世界全体であれば、 ICAO (International Civil Aviation Organization 国際民間航空機関)という機関がある。ある程度こういう液体爆発物の検査をする機械を検討しましょうという話は出ていると思う。実際にそれをいつどの時点までというのは、私も把握していない。

【青木委員】 早目に仕組みができれば、日本として世界に売っていけるのではと思う。

【板生主査】 このテーマを採用する時点で私も選考委員長をやっていたが、そういった議論がたくさんあった。最終的にこれが実用化されたときにどうなるのか、というような話、今の青木委員の意見に関しても、実はその見通しをまだ持っていない場合もある。しかし技術的にはどうしても必要であろうから、提案することを考え、技術だけは準備していきたいという意見があった。その後、多分いろいろな活動の中で、国際的に実装していけるような状況に持っていくというようなことを努力目標としながらやっているというのが現状だと思う。社会実装について、その実装ということを強く目指してやっていくということにおいては変わりはないと思うので、ぜひよろしくお願いしたい。

 

【板生主査】 次に地域社会分野の3課題について、堀井推進委員長から報告をお願いする。

【堀井推進委員長】 資料3-1、3-2に基づき説明。

【札野委員】 3課題とも大変興味深い成果が出ていると思うが、それぞれ中核となっている機関が大学ということで、それぞれの課題にどれくらい大学院生や若手の人たちが加わっているのか。文部科学省のプロジェクトだから、前々から議論している安全・安心科学技術に関する人材育成ということでは、こうやって地域の方々や行政の方々と共同で仕事をしていく経験を持った若い人が、どんどん育っていくということは重要だと思う。推進委員会の先生方からみて、人材育成ということに関しては、何らかの体系的な取り組みがなされているのか。

【堀井推進委員長】 推進委員会の中で、必ずしも人材育成という観点からどうされているのか、というような聞き方はしていない。けれども、例えば熊本大学の事例で実際にワークショップをやるとか、住民の方と一緒に歩くとか、システムの説明をするとかいうのは当然学生の方であろうし、システムの説明をするのも若手の研究者が中心だと思う。どの課題もそのように住民の方とのやりとりや、あるいは行政の方とのやりとりということが中心になっている。若手の学生、研究者の方がそういうところに携わっているというのは、大学の中とは全く違った経験をしていると思う。ただし、先生がおっしゃられた視点というのは非常に重要だと思うので、次回の推進委員会ではその点について少し質問し、もし可能であれば今後大学としてどういう形で課題を進め、どういうふうに人を育てていくのかというような観点で、少し質問していきたい。

【板生主査】 特にそれに関連して、実際に世の中に役に立つ技術を開発していくということは非常に大事なことであるが、よく私も質問を受けることが多いのは、「それで論文が書けますか?」と、「学生は育ちますか?」という質問である。「システム開発をやれば必ず論文を書きますよ」という話をしており、私はそういうことを確信しているから大丈夫だと思っているが、堀井先生から見てその辺に関して何か、人材育成との関連ではどうか。

【堀井推進委員長】 多分いろいろとご苦労はあろうかと思うが、推進委員会のほうからは、プロセス技術という言い方をしている。いわゆる予測システムとか評価システム等のソフトウエアや機械をつくるだけではなくて、今度はつくったそのシステムを実際の社会の中に実装していく。そのプロセス自身が研究対象になり得るものであるし、それは非常に大切な方法論を構築するための研究であり、1つの学問分野になり得るものだと。推進委員会ではそこをしっかりやることによって、学術的にもそういった社会実装型の研究が学術的な知見を生み、成果に結びつくと。そこで人が論文を書き育っていく、研究者が育っていく、そういう形が望ましいのではないかなと考えている。

【板生主査】 ぜひそういう方向でお願いしたい。

【村山委員】 プロセス技術という考え方は、非常に社会実装では重要である。やったことを残しておいて、それで実際にやるときにどういう知見が生きてくるかというのは、非常に重要であり、それプラス、実装はこういうふうにしてこういうメカニズムでやればできると。そこまでは非常によくわかるが、ビジネスの視点からすると、その後が結構大変になる。それは何かというと、コスト負担は誰がするのかという問題。だから安全・安心のためのコスト負担という問題で、これは行政がやるのかユーザーがやるのか、あるいは学校がやるのか。特に東京工業大学の課題は非常にその辺をうまくクリアしているが、いかがか。

【堀井推進委員長】 東京工業大学ではコスト削減まで提示している。

【村山委員】 山梨大学だと、この課題ではPC端末に機能を持たせるわけですね。そのときに「端末のコストはだれが負担するのですか」とか、そこがいつももめてしまって、社会実装に行かないことがある。だからその安全・安心のためのコスト負担ということも、何かメカニズムというか、こういう場合はこうだとか、そういうことも考えていければ、より実装がスムーズに進んでいくという印象である。

【堀井推進委員長】 おっしゃるとおり。3課題ともそこは非常に苦労というか工夫をしているところだと思う。いずれにしても住民に対するインセンティブと行政に対するインセンティブと、どちらも必要だと考えている。インセンティブさえ適切に生み出すことができれば、そこは税金で払ったもので行政サービスとしてやるのか、いろいろ形はあると思う。そこをどうつくり込んでいくのかというところが大きな課題である。先ほどのプロセス技術の中には、そういうインセンティブをうまく生み出していき、人々にそれを認識してもらい、コスト負担については合意形成ができるというような形を目指すだろう。それが大きな自治体なのか、小さな自治体なのか、それからリスクの高い地域なのか、低い地域なのかということによって、やり方が少しずつ違ってくるが。常にビジネスとして回すという意識を働かせるということが、うまく持続的に継続的に進んでいくためには必要だということだと考えている。

【岸主査代理】 どれぐらいの自治体の規模を考えるかということになるが、いわゆる危機管理システムという概念から考えた場合に、どの程度の規模のものがやりやすくて効果的かというのは、何かこういうところから出てくるのか。

【堀井推進委員長】 多分、扱っているイシューにもよると思う。いずれにしても比較的参加型、住民の方が参加されることによってうまく機能するような防災システムという、それの組み合わせということになれば大きくなる。一番小さな単位というところでいうと、やっぱり消防団の単位とかが考えられる。地域コミュニティーみたいな単位が中心になるであろう。だからそのぐらいのサイズで人々が共通の認識を持ち、一緒に対応できるようなそういう地域コミュニティーをつくっていくというのは、どの事例でも多分大きな課題になるだろうと思う。

【板生主査】 この地域社会の話はいずれにしろ、国がやるからには他地域への波及というか展開が行われる必要があると思う。ある意味では 1つのモデルケースをやっていただいて、さらにそれが汎用的に使えるものにしていくことが必要である。なかなか現実的にはローカル色が強くて、いろいろあるだろうと思うが、そういったモデル化して展開していくことに関する問題点は、どういうふうにお感じになっているのか。

【堀井推進委員長】 地域によって関心事というのが違っていて、そこをどう個々の成果を伝えて関心を持ってもらうということが、結構重要だろうと思う。でもそこはうまくやれば、例えば熊本に、ほかの自治体の人が見学に来ると、どうやっているのですかと見に来るようになる。そういうふうになってくれれば多分成功だろうと思う。そのときの説明の仕方として、事例は水害で熊本だけれども、そこでの知見なりシステムなりというものが違った対象、違った特性を持った地域にとっても、こういうふうに役立つという、うまい宣伝の仕方ができていくと普及につながっていくと考える。

【札野委員】 この3つの課題にかかわっている方が、横に連携をするという機会は今まであったのか。

【堀井推進委員長】 そこは非常に大切だと考えており、推進委員会では、年度末にやる評価だけは個別に行うが、それ以外についてはオブザーバーとして参加していただき、その推進委員と実際のやりとりや注文も各課題にお互いに聞いていただいている。そういう意味では、この 3課題間の意見交換は非常にうまくやっているというのが、私の印象。

【板生主査】 そういう意味では先ほどのテロ対策のほうも、そういうふうにやっていったらどうか。

【岸推進委員長】 そういう意味では文部科学省でいわゆる研究発表会のような形をとられているときに、他の 2つの課題の方が参加し、発表を聞いているということはある。

【新田室長】 国際的な展開というのは重要だという話の中で、私から先ほど発言してなかったことが 1点。文部科学省のほうで去年、DHS(U.S.Department of Homeland Security 米国国土安全保障省)を訪問し、この安全・安心プロジェクトの研究成果として課題のプロジェクトリーダーの方に発表していただいた。そういう形でできるだけ、こういうテロ対策技術を日本が持っているということを、いろいろな場で発信している。そういう意味においては文部科学省としても、先ほど言われたような、国際的な部分にしっかりと技術を認識させて、最終的にはいろいろな形で実装のほうにつながるべく、できるだけの活動をしようという方向で考えている。

【板生主査】 テロ対策技術の開発はアメリカ、イギリスが進んでいるという言い方もあるが、それが必ずしも全部日本で適用できないとか、いろいろなことがあるから、交渉のカードとしては自分で持っていないといけないということが相当あるのですね。何か標準化していかないと、世界的に出ていかれないし、また大きなシステムだと日本だけローカルに採用してもしょうがないというのもある。この辺のところが行政と非常にかかわりが深い。国土交通省や警察庁など全体的に国際的に動いていくことと関係して、文部科学省ではそれをさらにコーディネートしていくことが必要。

【新田室長】 はい。そういう意味では、安全・安心科学技術プロジェクトでは、これ以外にも調査委託研究ということで、研究会などを開いている。海外の行政の方を招聘し、国内の行政の方にも参加いただいて意見交換をするなど、そういう形も文部科学省が音頭を取って行っている。

【村山委員】 先ほど出たDHSとの会議について、あれは四、五年前に、枠組みができましたね、日米間でテロ対策の。技術を共同でやっていこうと。その枠組みなのか。

【新田室長】 そちらはどちらかというと、バイオテロ中心でまた別途シンポジウムが動いている。

 

<議題2.平成23年度概算要求について>

【板生主査】 テロの関係については既に昨年、科学技術振興調整費として1つの項目を持っており、地域社会分野については社会の安全という分野も置かれ、そういう項目ができようとしている。その辺について事務局から説明をお願いする。

【新田室長】 資料5に基づき説明。

【村山委員】 安全・安心絡みは今までの継続案件と、新規がこの危機管理システムになるということか。

【新田室長】 そういうことではなくて、安全・安心プログラムは今年度立てさせていただいたが、これについては引き続き来年度も新規募集をするということ。

【村山委員】 危機管理システムに関しては新規募集するのか。

【新田室長】 するという方向で今、考えている。概算要求が通ればという条件がつくが。自治体の意思決定を支援するというものが、サブプログラムとして立つというイメージになる。

 

<議題3. その他>

【板生主査】 その他ということで、安全・安心について何か一般的、全般的なことを、ご意見がありましたら、ぜひいただきたい。
  ちょうど6月30日だったか、前々回の親委員会(研究計画・評価分科会)があり、そのときの議論をちょっとだけさせてもらうと、私が意見を申し上げたことの 1つに、文部科学省は科学と技術を一生懸命やるのはいいけれども、社会実装ということに関してもう少し力点をおいていただきたい、ということがあった。「科学・技術・社会実装」という 3段階が、「ホップ・ステップ・ジャンプ」に対応するぐらいでやっていくことが必要ではないかというような話をした。それについて、安全・安心という分野に関しては、ある意味で縦割りの技術開発の話と同時に、横串を通すような技術開発というのが、やはり必要であるという議論が活発に行われた。
 そんな中で今日の委員の皆様に報告しておきたいのは、この安全・安心科学技術委員会で扱う話は、技術のみでなく社会実装も主体であること。学術成果としての出し方がやや難しいと大学人は心配されるが、会社の方はむしろ社会実装が一番大事だと思っておられると思う。そのような課題について、この委員会としては、どういうふうに考えるかというようなことを少し議論していただくとありがたいと思う次第である。あくまで安全・安心について技術をベースにしてやっていくかということが、この委員会の中心課題でもあることは間違いない。非常に幅が広いから、この委員会の中でもいろいろな考え方があると思うし、分野的にもいろいろあると思うので、その辺何かご意見があれば、どうぞ教えていただければと。
 四ノ宮先生あたりはいつもお考えになっているデュアルユース問題とか、そういう話についてはいかがか。

【四ノ宮委員】 大学人としては、研究活動をして、特に学会発表とか論文(を書く)というふうなものを、やはり第一に念頭に置いていると思う。安全・安心ということに関しては、これはあくまでも社会に根づいたいろいろなそのニーズとか、いろいろなその現象をとらえて、それを的確に科学技術のほうから反映させていくというふうな側面がある。そういう意味でいろいろな技術の開発は非常に重要だけれども、片やいろいろな対テロとか、あるいはいろいろな対災害というところは、どうしても行政とかいろいろな政策というところが絡んでいる。私(の専門)は医学、自然科学のほうだが、自然科学系と社会科学系の融合のような分野というか、学術的にも 1つ新しい、それぞれ社会科学と自然科学に分かれているのではなくて、それを融合させたような新たな分野というのを作成、新たに創造していくというふうな芽があると考える。そういう面で自然科学系の研究者と、それから社会科学系の研究者が同じような志の中で、違う役割を分担しながらやっていけるようなプロジェクトというのも、今後 1つ重要ではないかと思う。
 それからデュアルユースのことを今まで何回か話させていただいたが、これはいろいろな科学技術の最先端技術が善悪両方に使われるということである。もちろん我々はいい方向に向かってやろうということでやっているけれども、片やテロのようなそれを逆手にとって社会を不安に陥れるということがある。それに対して我々がまたそれに対する対抗策を考えていくということになっている。対抗策のみならず少しそれを防止するという観点から、なかなかこれはテロの防止は実際にはテロリストがやるとなると防ぐのは難しいけれども、それを社会としてじんわりとやりにくい環境をつくり出していくということで、それは基盤の技術であったり教育であったりという地道な作業がある程度必要。うまくシステム的に開発して、いろいろな人材を育成するとか、いろいろな人々の雇用を安定してもう少し安定的な方向に社会全体を持っていくということが大切。ちょっと漠然とした言い方だが、ざっくり全体的にまとめたような形でいろいろな方向性を我々が考えていく必要があると思う。ちょっと漠然としているけれども。そのように考えている。

【札野委員】 私自身は技術者の教育というところにかかわっており、これからの技術者がどうあらねばならないかということがやはり今後、重要だと思っている。その上で参考になるのはアメリカの National Academy of Engineeringというところが、「西暦2020年のエンジニア」という報告書を 2004年に書いて、そこでは幾つかの将来のシナリオがあり、そのシナリオの中でエンジニアがどういう仕事をしなきゃいけないか書かれている。そのシナリオの 1つが、世界が不安定でテロも含めた形での不安の状況の中で技術者がどんな仕事を、どういう能力を持った技術者でなければいけないかということだった。
 昨年そのNational Academy of Engineeringが Grand Challenges for Engineeringという、21世紀にエンジニアが解決すべき 14の課題を設定している。その中に核テロを防ぐことと、安全な社会をつくっていくことが、解決すべき課題として掲げられている。これを、例えばアメリカの大学だと、機械だとか電気とか原子力だとかそういう専門領域にとらわれて教育をするのではなくて、その 14の課題を解決するためにじゃあ機械工学者は一体何ができるのか、原子力を学ぶことによって何ができるのかといったような教育のやり方に変えていっているところがある。
 なかなか日本だと、専門分野領域を超えていくということは難しいけれども、そのエンジニアの育成のあり方そのものを変えていくため、安全・安心科学技術がやっていることは、 1つの足がかりになるのでなはいか、と私は大きな期待を持っているわけです。

【堀井委員】 今、非常におもしろい話だと思ったのだけれども、そのための教育プログラムとして、実際のアメリカの大学の中で、別に何か横断的なプログラムがあるのですか?

【札野委員】 そうです、私が具体的に知っているのはパデュー大学です。パデューの場合は非常に大きな工学部を持っているが、大学に入ってきた段階で専門は決めず、まず、エンジニアリングデザインという、ものを設計する教育を行う。今までは各学科が、例えば機械工学科を出るとこういうキャリアがありますよ、というような説明をしていたのですが、今は、先ほど申し上げた Grand Challengesを提示することによって、機械工学を学ぶことで、この課題を解決するためにあなたは貢献できますよ、という説明に変えている。ですからもちろん専門的なことを学ぶわけですけれども、学んだ次に何をやるのかということについては、社会が今必要としている課題を解決するために仕事をするのだと、工学部全体としてやろうとしている。

【堀井委員】 何か共通講義のようなものがあるのか。例えば機械なら、機械の専門性を身につけながら、それを生かしてその 14の課題に貢献するということに導くために、何かこう分野を超えた科目とか。

【札野委員】 それが1年のときにやるエンジニアリングデザイン。

【堀井委員】 そうすると、上に行くと、だんだんと専門性は分かれていくのか。

【札野委員】 やはりある程度は分かれる。最近はアメリカで Aspirational Ethicsという動きが出てきている。今まではPreventive Ethicsといって、あれをやってはいけない、これをやってはいけないということが強調されていが、Aspirational Ethicsでは、エンジニアとして一体何をすべきなのか、という方向に倫理の教育を変えていこうというもの。

【村山委員】 四ノ宮先生のおっしゃられた、自然科学と社会科学が融合しないとこの分野はだめだというのは、まさに私も思う。自然科学のほうは、安全・安心について体系的にやられてこられたと思う。問題は社会科学のほうで、全く安全・安心について体系化できていない。私はリスクマネジメント的なこともやっていますが、そういう体系しかないわけです。社会科学で、安全・安心をどうとらえるかということを、きちんとうまくまとめて体系化できないと、融合というのはある意味であり得ない。だからまず、社会科学のほうがもう少し頑張って、もう少しまとまりのある専門家が育つような環境で人を育てていって、そういうマインドを持った人が自然科学の人とうまくやれば、何かができそうな感じがする。社会科学のほうを、人材育成という面できちんとやっていかないと、なかなかまとまりがつかなくなる印象を持っている。

【板生主査】 その辺が日本の教育においてかなり弱いところだと、私も常に思っている。いきなり専門化されていますから。専門の職人ばかりどんどん増える。これはもう非常に大きな問題になってきますので、そういうことを常に意識しつつ、この委員会は全体の中で 1つ、ユニークな形でやっていければと思う。

【橋本委員】 先ほどの地域の安全・安心のお話で、地方自治体と住民の方という二元的な中でしか何か話が広がらないなというのが、ちょっと不満な部分です。例えば企業では、地震があったときどうしましょうというような話をかなり真剣にやっていて、自分たちのところは自助努力で直しましょう、という計画をきちんと持っている。プラス、住民の方の助けにもなろうというようなところまで動いている。そういうところとの連携がないと、実際の社会は本当に立ち直っていかないのではないか。二元的なものだけでなく、企業も含めての考え方のもとで、こういうシステムを持っていった方がいいと思う。

【堀井委員】 そのとおり。例えば警察、消防という組織が果たしている役割を、企業がどこまで何をできるのかという話と、かなり近い部分がある話だと思う。そうはいっても、もう少し自由度を持ち得るだろうし、どこまで行政の責務たる行政サービスをアウトソーシングできるのかとかいう話もあるだろう。けれども、いずれにしてももう少しフレキシビリティーを高めたほうが、より良いソリューションがあり得る可能性はあると思う。実際の社会にあてはめたときに、現状ではこういう枠組みのもとで考えているということですが、将来的にはもうちょっと色々なことがあり得ると思う。

【橋本委員】 実際に新潟や、実際に被害に遭われて対応されたというところ、それに対して企業がこういう形で協力しましょう、という話が出てきているので、やはりそういう話をもっと聞いて、例えば企業に何を期待できるのかとかいう話も含めて、もう少し立体感のあるシステムを考えていただけるといいと思う。

【堀井委員】 そうですね、そのとおりだと思います。

【板生主査】 それでは大体よろしいでしょうか、皆さん。
 どうもありがとうございました。それでは以上で第24回安全・安心科学技術委員会を終了します。

──了──

 

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電話番号:03-6734-4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

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