安全・安心科学技術委員会(第11回) 議事要旨

1.日時

平成19年6月29日(金曜日) 10時~12時

2.場所

科学技術政策研究所会議室 三菱ビル9階964、965

3.議題

  1. 安全・安心科学技術について
    <有識者ヒアリング>
    ○ 近隣セキュリティシステムについて
     羽田 正一 品川区区民生活事業部地域活動課 生活安全担当主査
  2. 安全・安心科学技術について
    <有識者ヒアリング>
    ○ インターネット時代の子供達の安全について
     下田 博次 群馬大学社会情報学部 教授
  3. 安全・安心科学技術について
    <有識者ヒアリング>
    ○ 子供の被害防止の実証的基盤
     原田 豊 科学警察研究所犯罪行動科学部 部長
  4. その他

4.出席者

委員

 板生委員、井上委員、大野委員、岡田委員、岸委員、土井委員、奈良委員、札野委員、堀井委員

文部科学省

 森口科学技術・学術政策局長、袴着科学技術・学術政策局次長、吉川科学技術・学術総括官、井上安全・安心科学技術企画室長

オブザーバー

 羽田正一 品川区区民生活事業部地域活動課生活安全担当主査(有識者)、下田博次 群馬大学社会情報学部教授(有識者)、原田豊 科学警察研究所犯罪行動科学部長(有識者)

5.議事要旨

【板生主査】
 時間になりましたので、第10回安全・安心科学技術委員会を開催させていただきます。
 前回どおり、地球温暖化ということで、省エネルギーということで、軽装でお願いします。
 さて、配付資料の確認ですが、議事に入る前に事務局のほうから配付資料についての確認をお願いいたします。井上さん、よろしくお願いします。

【井上室長】
 本日の配付資料ですが、お手元の資料、一番上に議事次第がございます。その下に、(資料1)科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会安全・安心科学技術委員会運営規則、(資料2)近隣セキュリティシステムについて、(資料3)インターネット時代の子ども達の安全について、(資料4)子どもの被害防止の実証的基盤、(資料5)安全・安心科学技術の重要研究開発課題について(検討のまとめ)(案)、(資料6)安全・安心科学技術に対する主な意見、前回までのご議論の中でいろいろ出てきました意見のまとめ、がございます。以上でございます。

【板生主査】
 ありがとうございます。皆さん、よろしいでしょうか。確認をいただきまして、それでは、本日の議事に入りたいと思います。
 まず、委員会規則の変更がありますので、これも事務局よりご説明をお願いいたします。

【井上室長】
 資料1をごらんください。この安全・安心科学技術委員会、昨年の3月23日に設置されましたときに、お諮りした、この委員会の運営規則の案でございます。この裏面にございます第5条ですが、これまでこの委員会では、「議事概要」ということで、議事録を簡単にまとめたものを公開しておりました。しかし、国の委員会等はすべて、原則、議事録を公開しなさいということであり、科学技術・学術審議会においても、特段の支障がない限りその方針でやりましょうということですので、それに合わせまして、この委員会も「議事録」を公開することとさせていただければということでお諮りするものであります。
 なお、それぞれのコメントに発言した委員の先生方の名前というのは、これまでは基本的には出ていなかったのですが、議事録になりますと、それぞれの発言について、どなたがおっしゃったかという名前が出てくる、そこが最も大きく変わるところだろうと思います。以上でございます。

【板生主査】
 ありがとうございます。
 特段の支障がないとは思いますが、いかがでしょうか、よろしいでしょうか。
 それでは、こういうことで運営規則の変更をさせていただきたいと思います。
 それでは、本日の議事に進めてまいりたいと思います。本日はこの委員会も大詰めに来ておりまして、いよいよ結論めいた話になっていくわけでございますが、きょうのお三方のお話をいただきながら、最終的にはまとめて議論をさせていただきたいと、このように思っております。
 それでは、本日の有識者をご紹介します。品川区区民生活事業部地域活動課、羽田主査です。ありがとうございます。きょうはよろしくお願いします。

【羽田主査】
 おはようございます。品川区の地域活動課生活安全担当の羽田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【板生主査】
 それから、もうお一方は、群馬大学社会情報学部、下田教授でいらっしゃいます。

【下田教授】
 下田でございます。おはようございます。よろしくお願いします。

【板生主査】
 それから、もうお一方は、科学警察研究所犯罪行動科学部、原田部長です。よろしくお願いいたします。

【原田部長】
 科学警察研究所の原田と申します。どうぞよろしくお願いいたします。

【板生主査】
 以上、3人の先生をお招きしまして話を進めてまいります。ただ、下田先生は11時半をめどに退席されるということでございますので、できるだけお話を早目にお伺いしたいと思っております。
 それでは、順番でございますが、まず羽田主査から品川区の児童の登下校の安全を守る取り組みということについてお願い申し上げます。

【羽田主査】
 本日は発表の機会をいただきまして、ありがとうございます。品川区の子どもを守るシステム、近隣セキュリティシステムについて説明させていただきます。最初に、お手元の資料番号2の資料のほうで説明させていただきまして、その後、パワーポイントのほうで補足をさせていただきたいと思っております。
 まず、簡単に、品川区の状況ですけれども、品川区は東京都の南東部に位置しておりまして、人口約33万人、東海道品川宿が設置された歴史的な地域でもありますし、また大井町、五反田、大崎、天王州といった繁華街等も抱えております。また、古くからの工場地帯、あるいは住宅街等が混在している地域でありまして、人口のほうが43年をピークに減少しておりましたが、最近10年ほどはまた増加傾向が続いております。そして、この近隣セキュリティシステムの導入の経過ですけれども、既にご承知のように、平成15年が全国的に見ましても犯罪のピークと言われておりますけれども、そういう子どもをねらう犯罪が増える中で、品川区では早くから防犯対策に取り組みまして、小・中学生に対して防犯ブザーの配付等を行ってまいりました。また、平成15年には区民の安心・安全を守る専門の組織ということで、生活安全担当という部門を設置いたしまして、警視庁のほうから現職の課長さんをお招きして、また、警察OBの方々によります生活安全サポート隊という防犯パトロール組織を実施してきております。ちょうどそのころ、区内の民間企業の技術者が結束しましたNPO団体「ものづくり品川宿」のほうから、子どもの安全に寄与できるシステムを開発したいという要望がございまして、全庁的に、予算面ですとか、あるいは協力者体制等を検討した結果、ゴーサインが出まして、平成15年、16年の2カ年で開発をして、17年の6月からモデル実施を始めたということになっております。
 この近隣セキュリティシステムというのは、今ここに実物を持ってまいりましたが、これが子どもたちに配付しております、通称「まもるっち」といいます携帯端末でございます。このピンを引きますと、警報音、これは97デシベルぐらいの大きさですが、そういう警報音が鳴りまして、その警報音が区役所に設置してあります近隣セキュリティシステムセンター、センターシステムのほうに通報音が入ります。そうしますとオペレータが対応いたしまして、緊急の場合には、自動検索をして、あらかじめ協力者として登録しております発報付近の20名の方に自動的に通報がいきます。携帯メールですとか固定電話を通じまして連絡がいって、駆けつけるというシステムです。あるいは、先ほどお話ししました生活安全サポート隊が、毎日区内をパトロールしておりますので、その通報とともに生活安全サポート隊も駆けつけたり、また、「わがまちパトロール」という区民の防犯パトロール組織がございますので、そういう方々も駆けつけていただくというようなシステムになっております。
 平成17年6月から3校によるモデル実施を経まして、17年9月から公立小学校、40校ございますが、順次配付をいたしまして、12月から本格的に実施いたしました。現在まで1年半ほど経過しておりますが、19年3月末の数字ですけれども、緊急通報が12件ございました。また、誤報といわれるもの、誤ってこのピンを引いたとか、どこかに引っかけてしまったとか、そういうものが大変多くて、9,835件となっております。
 このシステムを支えていただく協力者の数につきましては、19年3月末現在で1万2,088名とありますが、現在、ちょっと増えておりまして、1万2,300名ほどになっております。そして、ページをおめくりいただきまして、当初は区内の公立小学校全部の児童に貸与したものですが、私立小学校、あるいは国立小学校等に通う保護者のほうから希望がございまして、18年2月からは、そういう私学等の通学者(希望者)にも無料で貸与しているところです。そして、協力者等の意識の高揚ということもあわせながら実施しておりまして、協力者研修会の開催ですとか、協力者通信等を発行して、常に意識をこちらのほうに向けていただくような、そういう工夫をさせていただいているところです。
 導入の成果ということですが、身の危険を感じて発信した事例が、これまで累計で12件ございます。昨年度、18年度は7件ありましたので、その7件の簡単な状況を次のページに記載しておりますので、またごらんになっていただければと思いますが、いずれの場合も、警報音が非常に大きなものですから、その警報音に驚いて不審者等が立ち去っているという状況です。また、生活安全サポート隊や協力者が駆けつける等、いずれの事案についても今まで大事には至っておりません。ちなみに、今年度はいまだそういう緊急のケースというのはございません。
 また、保護者等からは、この「まもるっち」を携帯しているということで、非常に安心感があるという声が多くて、また、いろいろなマスコミさんだとか、いろいろな方面から取り上げていただいている機会が多いものですから、そういうことで抑止力も高まっているという状況になっております。それと、あわせて、地域の中で子どもたちを見守っていこうという機運が高まっておりまして、地域防犯ネットワークづくりの形成にも寄与しているという状況になります。
 課題のほうになりますけれども、まず、モデル実施を実施したときに、やはり、誤報が大変多いという状況があらわれました。中には、勤めを休みながらも駆けつけていただいたのに誤報だったというケースがございます。そういうような声に対応しまして、極力誤報を少なくするようにひもの長さを調節したり、いろいろ工夫はしておりますけれども、なかなか誤報件数が減っていないというのが現状でございます。そのために、モデル実施のときには、通報がシステムセンターに届いて、すぐ検索で協力者に通報が行っていたのですが、現在はワンクッション置いております。センターのほうで常時オペレーターが2名対応しておりますので、オペレーターのほうで対応して、子どもと会話をしながら、緊急ケースの場合のみ通報しているという形に改めております。ただ、これも、本来の趣旨、目的からしますと、やはり、早く誤報件数を減らして、もう瞬時に協力者のほうに、あるいは警察、サポート隊、そういうところに通報できる仕組みにまた戻していきたいと考えているところです。
 それから、やはり、携帯電話機能を持っておりますので、通常の携帯電話と同じように、充電が不十分ですと、せっかく引っ張っても発報しないというような事象もあらわれておりますので、子ども達には充電を十分していくような指導等、携帯率もそうですけれども、きちんとそれが機能できるような指導を、教育委員会を通して実施しているということです。
 それから、どんどん先進技術が発達してきておりますので、これに伴いまして、さらにそういう先進技術の動向を踏まえた上で、今後どのようにしていくか、今、検討しているところですけれども、品川区の特色、あるいはこの近隣セキュリティシステムの特色というのは、その先進技術プラス地域コミュニティの力というのが大きな特色でございまして、地域の目というか、地域の方々の協力によりましてこのシステムが成り立っているということですので、今後さらに、不審者情報ですとか危険情報のメール配信等を実施しながら、協力者の方々の連携ですとか意識の高揚ですとか、品川区の場合、こういうシステムができ上がった背景には、当初から、やはりそういう地域相互扶助の風土というようなものも影響しているかと思いますが、そういうものもさらに今後深めていきまして、地域で自分たちの子どもを見守っていくという、そういうシステムを確立していきたいと考えております。
 それでは、ちょっとパワーポイントのほうで補足をさせていただきます。
 近隣セキュリティシステムということで、品川区の区民生活事業部産業振興課と、それからNPO法人「ものづくり品川宿」とで協働して開発しております。
 開発の趣旨につきましては、住民相互の協力による安心・安全のまちづくりということが大きな目的になっておりまして、生活安全サポート活動、そして、住民の防犯ボランティアであります「我が町パトロール」、そして、この近隣セキュリティシステム、これを組み合わせまして行っていくということです。近隣セキュリティシステムというのは、地域のコミュニティを生かしまして、地域住民の協力によりまして犯罪を未然に防いで安心・安全なまちづくりを実現していくというものでございます。そのために、協力体制と通信システムによります体制を整備して、技術の力と地域の力の連携をしながら、地域の安心・安全を守っていこうという、そういう仕組みでございます。
 近隣セキュリティシステムというのは、子どもが危険に遭ったときに、先ほどの「まもるっち」によりまして、現場近くにいる人たちに知らせて助けを求めます。そして、通報を受けた現場の近くの人たちは、現場に駆けつけていただきまして、犯罪の未然防止、救済につなげていきます。抑止効果を期待されるというようなシステムでございます。
 これは、ちょっと導入当時のPHSの当時のものですので、今と若干違います。現在では携帯電話機能を備えたものにより機能を向上しておりますので。通話料については、携帯電話として2回線まで利用可能です。これは、オプションですけれども、その通話料については自己負担、それから、所在地確認サービスも利用することができます。これは、いずれもオプションになっております。もちろん、緊急通報だけに限りまして、利用するに当たっては、区民の方々には一切負担等はございません。
 地域の協力者、PTAですとか町会、商店、事業者等が登録していただきまして、実際に現場に駆けつけるときには、一般の方々と区別をしてわかるように、緑色の「協力者」という帽子が配付してございますので、それをかぶって現場へ駆けつけていただいております。それから、自分の子どもからの緊急通報については、どんな場合でも、指定した保護者の固定電話や携帯電話、メール等に受信ができるようになっております。それから、生活安全サポート隊、あるいは所属小学校にも通報しまして、必要に応じて警察等にも通報しております。
 個人名については、保護者と学校だけに知らせているということです。ほかの場合は、小学校5年生の男の子がとか、そういう形で知らせております。
 これはイメージです。品川区のセンターシステムに連絡が入りますと、そこから小学校、生活安全サポート隊、それから自宅、保護者の固定電話、携帯電話、あるいは警察等に連絡等が入ります。そして、その方たちが現場に駆けつけて児童を保護するというような状況です。
 この近隣セキュリティシステム自体は品川区だけですけれども、携帯電話機能ですので、携帯電話の通信網でしたらどこでも通報はすることができます。夏休みに入りますと、北海道ですとか沖縄ですとか、そういうところから実際通報が入っております。
 近隣セキュリティシステムの運用時間ですが、午前7時半から午後8時です。これが有人対応の時間です。これ以外の時間につきましては、保護者にだけ通報がいくというシステムです。夏休み、冬休み、春休み等も何ら平常と変わりません。
 子どもたちに対しては、使い方の指導をしておりまして、必ず登下校時には、品川区の小学生はみんな、首から下げて登下校しております。また、いたずら等で鳴らさないというのはもちろんですけれども、ためらわずにひもを引っ張ってよいというようなことでも、学校のほうから指導しております。瞬時にひもを引っ張らないといけませんので、その辺の状況等に応じて対応していただくようにはお願いしてございます。
 それから、「まもるっち」につきましては、センターでしか一定時間、とめられません。1分後に自動的にとまりますけれども、それ以外はセンターでしかとめることができません。警報音は1分後に自動的にとまりますが、センターでとめるまでは、発報はずっとし続けているという状況です。
 それから、これは通信業者との有料契約ということで、大体3割ぐらいの保護者の方が有料サービスまで申し込みをされております。所在地確認サービスと、それから携帯電話機能、2回線までですけれども、そういうサービスにも登録をされているということです。
 簡単ですが、以上で近隣セキュリティシステムの説明のほうを終わらせていただきます。どうもありがとうございました。

【板生主査】
 ありがとうございました。
 ただいまの説明に対しまして、ご質問等がございましたら、どうぞご遠慮なくお願いいたします。よろしくお願いします。

【大野委員】
 大変興味深いプレゼンテーションでありがとうございました。
 ちょっと確認させてほしいのですが、この「まもるっち」というのは、どのぐらいの重さなんでしたっけ。

【羽田主査】
 80グラムです。

【大野委員】
 80グラムですよね。

【大野委員】
 それで、僕の携帯が120ぐらいなのですが、体重100キロの人間が120グラムをかけていても、やっぱり肩が凝るんですけど、ちっちゃい子にとっての80グラムは重くないですかという質問ですが。

【羽田主査】
 やはり、1年生などにとりましては、ちょっと負担かなという部分はございます。

【大野委員】
 体重が、例えば20キロだとすると、僕の5分の1ですから、逆に言うと、100グラムでしょう、500グラム相当で、ここの議論、願望かもしれませんけれども、これがこうかかっているわけですよね。それを聞きたかったのと、それを嫌がるような事例というのは、低学年でなかったのでしょうかという。

【羽田主査】
 嫌がる事例というのは、今までは。

【大野委員】
 ランドセルをしょうぐらいだから、首にかかっていても関係ないのか。子どもは肩を凝らないと、そういうことですね。

【札野委員】
 うちの息子、9歳ですが、携帯電話を持たせていますけど、やっぱり、遊びに行くときはだめですね。学校へ行く途中ぐらいは多分いいのかもしれませんが、遊びに行こうとしたときに、例えばサッカーをやるとか、何をやるとかって、首にそれがぶら下がっていると絶対嫌がります。自転車のかごに入れたりして忘れてしまうことがよくありますけれども、その辺の携帯性というのも考慮していただいたほうが、多分、これからはいいのではないかなと。

【羽田主査】
 そうですね。それと、保護者のほうから要望が出ておりますのは、どうしても水にぬれますと故障の原因になりますので、それに、今度は防水のカバーができないか、今、工夫をしているところです。

【大野委員】
 今、近接LANの技術が発達してきているので、多分、首からはタグだけをかけておいて、本体がランドセルの中で、30メーター以内でオーケーと、すぐなりますよね。

【羽田主査】
 そうですね。

【岡田委員】
 意地悪な質問になるかもしれませんけれども、品川区では抑止効果が高くなると思うのですが、犯罪者が隣の区に行って、その隣のほうは犯罪が増えるというようなことはありませんか。

【羽田主査】
 できれば近隣区にも広めていきたいと考えておりますけれども、いろいろ自治体さんのほうからも、視察等に来られるのですけれども、まだそういうのを実施しましたという報告は特にありません。

【板生主査】
 問題は誤報対策ですね。それをどこまでやるかということでしょうけれども、どんな検討がされておりますか。

【羽田主査】
 やっぱりいろいろなところに引っかけたり、遊んでいたりして引っ張ってしまうという例がほんとうに、半分以上を占めておりますので、重さもさることながら、そういう対策、調節ですね、その辺のところの工夫はして、より誤報が減るようにはしていきたいと考えています。

【板生主査】
 自分が、これは間違ったと思っても、とめられないようになっているという話でしたね。

【羽田主査】
 はい、そうですね。

【板生主査】
 その辺は何か改良できそうですね。細かい話になりますから、恐縮です。
 ほかに何か。

【井上主査代理】
 このシステムの導入の前後で、品川区の子どもに対する犯罪全体については、何か顕著な差は出ているのですか。

【羽田主査】
 不審者情報からとった数字ですけれども、不審者情報が、導入前の16年度は64件ございました。導入をしました17年度は30件に半減しております。そのほかに、具体的なそういう犯罪の資料というのは、警察さんのほうですので、なかなか詳しいことはいただけないのですけれども、そういう不審者情報が減っているということは、確実に効果として上げられております。

【井上主査代理】
 それはどこのデータですか。

【羽田主査】
 警察からいただいた…。

【井上主査代理】
 不審者情報は公開されているというか、あるわけですか。それ以外はわからないのですか。

【羽田主査】
 細かな部分については、ちょっと、こちらのほうでは公表できない部分でございます。

【井上主査代理】
 今の不審者情報というのは、必ずしも小学生だけではない…。

【羽田主査】
 小学生に限った件数です。

【井上主査代理】
 小学生に限った情報ですか。そうすると、これは「まもるっち」をつけて、警報は出なかったけれども、それ以外のものもかなりあったということで。

【羽田主査】
 はい、ありました。

【井上主査代理】
 それは、どういうことなのですか。

【羽田主査】
 基本的には、登下校時は必ず携帯するということなのですけれども、それ以外については、特に携帯を義務づけておりませんので、たまたま持っていなかったとか。

【井上主査代理】
 遊びにいったときとか、そういうときですか。

【羽田主査】
 そうですね。

【板生主査】
 住民の皆さんというか、子どもも含めてのこういうものを使うことに対する、また装着することに対する抵抗といいますか、むしろ逆に協力が大きいわけですか、どのぐらいのパーセンテージだと考えたらよろしいでしょうか。

【羽田主査】
 かなり保護者の方も協力的でして、例えば協力者になっていただいている割合が、4分の3が保護者ですね。区内の事業所だとか商店だとか、また、町会等の役員さんもそうですけれども、それ以外に、やっぱり保護者の力というのが非常に大きいということで、そういう保護者の意識というものもすごく高まってきているのではないかと思います。

【板生主査】
 子どもさんの装着率というのは、どのぐらいのものだと考えてよろしいですか。

【羽田主査】
 一応、携帯率は96パーセントです。

【板生主査】
 そんなにいってるんですか。

【森口局長】
 予算というか、経費は大体どのぐらいなのですか。

【羽田主査】
 区の負担だけで申し上げますと、開発経費が、15年度、500万、16年度、1,000万計上してございます。それから、17年度、モデル実施を始めたときからですが、17年度は2億3,000万、予算をいただいております。18年、19年と、ランニングコストですけれども、1億6,000万程度ですね。いずれも、子機の購入ですとか、あるいは子機の基本料金、通話料、通報料、そういうものが重立ったものになっております。それから、センターシステムのオペレーターの派遣等の料金もそれに含まれているということです。

【板生主査】
 ありがとうございました。時間ですけれども、きょうは、大変ユニークな取り組みについてご紹介いただきまして、ありがとうございました。
 それでは、次の話を、下田先生から、ネット上の有害情報から青少年を守る取り組みということでご説明をお願い申し上げます。

【下田教授】
 それでは、私のほうは、パワーポイントの配備がおくれまして、今、配備をしているところでございますけれども、レジュメのほうをまず簡単にご説明申し上げて、すぐにパワーポイントでご説明したいと思っております。
 まず、レジュメのほうですが、インターネット時代の子ども達の安全についてということで、テレビの時代とインターネットの時代、子どもを取り囲む情報環境の質が本質的に変わってしまうということを、きょうは特にご説明したいと思っております。とりわけ、案外、私どもの調査で知られていないのは、インターネットの子育て教育上のメディア効果ですね。子育て教育上、インターネットのメディアの機能のどこに気をつけなければいけないのかということについて、きょうは原理的な説明をさせていただきたいと思っています。
 実際に子どもの安全を脅かす事件も起きておりますけれども、その解析がなかなか進んでおりませんが、私どもの群馬県では、市民的な協力を得て、行政と対策会議というものもつくったりして、新しい時代に対応する努力を始めております。その辺については、きょうはあまりご説明できないと思いますけれども、最後のところで少し紹介したいと思っております。
 レジュメに戻りますと、1のインターネットのメディア効果と、それから、特にインターネットが人と物の流れを変える力を持っている。この「人」というのは、子どもの動きでございます。それから、子育て教育の、それが難しさにつながっているということをご説明したいと思っております。
 それでは、早速パワーポイントで説明したいと思いますが、日本の子どもたちのインターネット利用は、世界で最も進んでおりまして、モバイルインターネット、携帯電話からのインターネットが中心でございますけれども、パソコン、それから最近では、オンラインゲーム機がインターネット機能を持っておりますので、子どもたちはフィルタリングがかかっていないノーガードのインターネットを使っている割合が、多分、世界中で一番高いだろうというふうに我々は認識しております。
 きょうは、モバイルインターネットですね、ケータイ・インターネットともいわれていますけれども、ケータイ・インターネットというメディアを中心に、子どもに与えている影響についてお話をしたいと思います。
 まず、前提として、私どもの認識では、ケータイ・インターネットというメディア、つまりiモードタイプの携帯電話でございますけれども、これは、思春期の子ども、当初は高校生でございましたが、現在では中学、それから小学校高学年までを含むケータイ・インターネットのコアユーザーが広がっております。そういう思春期の子ども向けの商品であるという認識を私どもは持っております。そもそも大人向けに開発された商品ではございません。なぜ思春期の子どもがケータイ・インターネットに世界で最初に飛びついたかといいますと、子どもの安全ということから考えますと裏腹でございますが、子どもたちは親、教師の束縛から、子どもを守り育てる責任を持った人たちの束縛から自由になれる、そういう情報行動を促すメディアだというところが、言ってみれば、子どもたちの目から見たメリットだと。それは子育て教育上、逆にデメリットになる。安全を守れないということになってくる、そういうことを最初に申し上げておきます。
 さて、これからはパワーポイントでお話をますが、私は、警察庁の少年インターネット問題研究会の座長等を務めておりまして、過去、主に8年間、いろいろな事件、トラブルが、思春期の子どもたちのケータイ・インターネット利用によって、質が変わっている非行、新しい質の非行とか犯罪が生まれているということについて、皆さんもご承知だと思いますが、概略、お話をしたいと思っております。
 まず、学校の先生方からのいろいろなご相談、調査要求が最近広がっているのは、授業中の携帯電話利用が非常に高くなっているというふうに私どもは認識しておりまして、これは、一昨年末の調査ですが、公立高校で授業中に、携帯電話を「使わない」という、男女共学、2年生で、7.7パーセントであり、ほとんどの子が使っている。これはどういうことを意味するかというと、先生が、子どもたちが学校に持ち込んでいる携帯電話の利用を、授業中指導管理できないということでございます。これは、後ほどお話ししますが、ダイレクトコミュニケーションという、モバイルインターネットに特に強く働くメディア効果の影響です。
 誹謗中傷も、これは子どもたち同士の、傷つけ合うといいますか、子どもの世界の安全にもかかわるわけですが、誹謗中傷、それからいじめにつながるような、そういう書き込み、発信が簡単にできるというメディアの力を当然持っているわけです。そういうものを渡しているということです。いじめだけに関して言いますと、いじめをメディア論的に言いますと、身体を使った身体メディアの対面のいじめと、それから文字、従来の古典的な紙やノートや黒板等をメディアとして使った場合と、インターネットのEメール、チェーンメール、掲示板、ブログ、プロフ、新しいメディア機能を使ったいじめとでは、質的に全く違ういじめの被害者に対する被害度とか、いじめている子にとってのおもしろさといいますか、ある意味でのスリルが全然違います。その辺の認識が、まだ十分に学校関係者には行き渡っていないというふうに私どもは考えております。これも、子どもの安全な生活ということに関して言えば、不安要因として出てきているだろうと私どもは認識しております。
 これは、皆様ご承知だと思いますが、子どもたちが欲しがる携帯電話は、移動型電話機ではございませんで、インターネットとゲートウェイを通じて接続しているわけですが、こちらの側の情報世界の情報環境の内容が非常に問題であるわけです。いい情報ならいいのですが、有害情報が一斉に入っていくという仕組みが心配されているわけです。実際に、こういうところから事件やトラブルが多発しているというふうに言えます。
 これは、ほんとうは聞いていただくといいのですが、このモバイルインターネットという、携帯、インターネットという道具が出たことによって援助交際が広がっておりますが、これは、言ってみれば、思春期の子どもたちの性被害を拡大しているというふうに言うことができます。これは、私どもの研究室でつくっているラジオ放送でございますが、時間がございませんので、少女たちの証言を飛ばします。
 ちょっと原理的な説明をさせていただきます。従来の電話ですと、子どもたちがイエデンと言っている電話ですと、例えば子どもに近づけたくない危ない大人から、例えば親に、「お宅のお子さんを電話に出してください」と言っても、ここでブロックできましたが、原理的に現在はそういうことができません。パーソナルメディアの魅力といいますか、子どもたちにとっては、親の頭越しにいろんな情報をゲットできる。逆に言えば、子どもに近づけたくない大人の情報、メッセージが、声だけではなくて、写真でも文字でも何でも、子どものベッドの中でも入ってくるというメディアでございます。パーソナルメディアの力と言っていいでしょう。上の赤い線を、ダイレクト・コミュニケーションとアメリカでは呼ばれております。
 それから、子どもが見ず知らずの、会ったこともない、しかし、おもしろそうで危険な大人に、この情報から簡単につながってしまう。下のラインをコンタクトと呼んでおりまして、eメール等でどんな人か興味を持ったら反応して、そしてeメール交信、メル友になったりして、実際に出会ったりするという状況ですね。下の黄色いラインを、インターネットのメディア効果、コンタクトというふうに呼ばれています。
 私は、この全体について、バイパスチャンネルと呼んでいるわけですが、意味は、子どもを守るべき保護者、教員、教室の中でも子どもたちは携帯インターネットを持っていれば、かなりの逸脱行為ができます。授業中、従来であれば、隣にひそひそ話をしたり、メモを書いたりするぐらいの程度ですが、携帯であればメールで全く外部の人と交信をしたり、隣の友達とメールでコミュニケーションできたりする。授業中にという、つまり、それは、教員の頭越しに何でもできるという基本的な機能を持っているということを意味しているわけでございます。そういう、頭越しに行われている子どもの情報行動が見えなくなるチャンネルを、私はバイパスチャンネルと呼んで、注意すべきではないかということを申し上げているわけでございます。
 それから、従来のマスメディアの時代であれば、有害情報というものは、ダイレクトに届くことはございませんでした。地域の家族、それから先生、地域の、例えば本屋さん等も、子どもたちに有害情報を届かせない働きをしていたのですが、パーソナルメディアであるケータイ・インターネットは、有害情報の発信者から子どもにダイレクトに情報を届けることができるし、なおかつ、子どもがスパムメール等で有害情報を、思春期の子どもが興味深い、刺激的な有害情報をゲットしたら、それをお互いに携帯電話でネットワーキングできますから、こういうおもしろいものがあった。非常にわいせつな、あるいはグロテスクな画像も実際に出回ったりするという仕組みができてしまっているということに、私どもは注意をしなければいけないというふうに言っているわけです。マスメディアの時代と、このパーソナルメディアの時代が、全く質的変貌を遂げているというふうに私どもは理解しております。
 そもそも、インターネットというメディアがもたらす、子どもを取り巻く情報環境の本質が、まだ日本では十分理解されていないのではないかということを危惧しているわけです。それがわかっていたならば、ノーガードの、フィルタリングが入っていない携帯電話が、いわゆるケータイ・インターネットがここまで普及することはなかったろうと私は考えているわけですが、社会的に十分な理解がまだなされていないと。
 私は、ホワイトゾーン、グレーゾーン、ブラックゾーンというふうに、インターネットの情報世界全体をざっくりと規定して、その分析をしているわけですが、ブラックゾーンというのは、ダイレクトに非行、犯罪につながる、子どもの安全を脅かす情報といってもいいわけですけれども、健全な育成、安全といいますか、これはよく知られていまして、しかし、このあたりの認識は若干日本では弱いように思われます。インターネット全体でブラックゾーンは1パーセントだというような見解を公の席で言われていると、私はちょっとおかしいなと思っているのですけれども、実際にこのブラックゾーンは、大人ではなくて、最近は子ども自身が発信者になってここを増やしている形跡が十分ございます。
 問題は、子どもの安全に関していえば、子どもは生活の中で遊ぶという存在でございますから、このネットの遊び場が広がっております。インターネットの遊び場はいいとも悪いとも言えない、大きな判断が難しい情報層に属しておりますので、さまざまなインターネット上の遊び場に対する認識が、親御さん、教員の方々、薄いのではないかというふうに私どもは危惧しているわけでございます。英語でいえば、ウエブ・トラップと言われるものがさまざま仕掛けられておりまして、ここからいろいろな悪徳商法被害とか、詐欺とか、子ども自身ですら、従来被害に遭わなかった被害が発生しておりますし、出会い系サイトなんかもブラックゾーンに入っているものとグレーゾーンのものがありますから、そもそも、インターネット全体が掲示板とチャット機能を持っている限りは、出会い系に効果を発揮するわけですね。その辺の認識がまだ社会的に弱いのではないかと私は危惧しているわけです。
 情報だけではないということについて、PTAの方々に説明しているわけですけれども、保護者が子どもにせがまれるまま、携帯でインターネットを好き勝手にさせていると、子どもは従来買えないような有害なもの、思春期の子どもが買えないような有害なもの、アダルトグッズでも、それから改造ガンでも何でもいいのですが、売っているという情報を簡単にゲットできます。そして、その情報に基づいて行動を起こすことができます。オーダーができます。そして、そのものが便利な、いわば物流システムに乗って家まで運ばれてくるわけです。暴力的、わいせつなCD、本、ゲーム、薬物、凶器、何でも結構ですが、いずれも子ども自身がおもしろがってやっていますけれども、自分で自分の安全を脅かしているような行為をするわけですね。
 そして、自宅に送られてきて親に見つかると困る、学校に行っている間に危ないものが自宅に送られてきては困るというときは、コンビニでこれを受け取って決済するとか、駅止めにするとか、それから、友人の家庭で、しつけがちゃんとできていないところの家で受け取ってもらうとか、いろいろなことを子どもは考えるわけですね。これが、現実に起きているさまざまな事件、トラブルをこういうふうにまとめて、大体これで説明できるという、バイパスチャンネルを使った、親に知られない、知られぬ危険物の入手という概念図でございます。インターネットの子育て教育上の難しさというのは、単に情報の問題だけではないというところをもう少しくどく説明させていただきます。
 まず、情報がダイレクトに入ります。保護者が注意していなければダイレクトに入る仕組みに、日本の今の、特にモバイルインターネットの商品特性は持っております。そして、この情報に基づいてコンタクト、反応をして人間関係を形成する、この有害情報を発信している危ない大人につながるわけです。情報から大人につながる、人につながる。そして、この人と一緒に何かを共謀する、例えば危ないものを送ってもらったり、それから、一緒に共同で危ない非行犯罪をするような、これは危ない大人だけではなくて、従来の子育て教育上からいえば、友達にしたくないような子どもの友人も含みますけれども、いずれにしろ、1台のメディアで、こういう、いつでもどこでも相談ができるという、便利な機能を持っているわけですね。
 実際にプランをし、実行することができるということでございます。行動が変わります。援助交際なんかは、これで典型的に説明できるわけですけれども、そういうメディアであるということが、日本の子どもの、特に小学校高学年からの思春期の子どもたちの安全に対して危惧すべき情報環境ができていると私どもは認識しているわけです。
 いずれにしろ、子どもたちは被害者だけではなくて、加害者にもなっているわけですけれども、被害からいきますと、例えばプリクラとかゲームサイトでの実質的な誘拐事件、まあ、おびき出しと言ってもいいわけですが、ネット誘拐被害と言っておりますけれども、このようなものを一つ考えてみましても、非常に子どもを守る親の立場から、防止がしがたい、そういう事案が、私どもは増えているというふうに見ております。
 従来の子どもの安全ということで、もう一つお話をしたいのは、今まで子どもを危険な人物に近づけない、遠ざけるというようなことを原則にして今までも考えられてきたわけですが、例えば一つのコミュニティ、町の中に、危険なところ、子どもには行かせたくないし、入っていけば子どもは追い返されるようなところ、歓楽街等ですね。私どもは社会通念上、ここに線引きをしてきたわけですね。現在もそうですけれども、未成年の子どもたちが入っていってはいけないようなところ、そこには、そういう子どもの健全育成にとって好ましくない人物や情報や物がそこに集積しているという認識があったと、現在もあると思うのですけれども、インターネットというメディアを媒介にしますと、このボーダー、線引きが原理的にきかなくなる情報行動を子どもがとってしまうということについて、私どもは憂慮しているわけでございます。
 例えば、日常的生活空間で、文教地区で家を建てて、そして思春期の子どもに携帯、インターネットで好き勝手にさせている。調子のいいときで、教育効果のある情報層、ホワイトゾーンだけ使っていればいいのですが、子どもはそういうわけにいきません。ネット上のグレーサイト、ブラックゾーンにアクセスをすると、ここの情報がマッチング機能をこの中で機能しますので、危ないものに実質的につなげてしまうわけですね。そして、こちら側に集積されているいろいろなものが宅急便で送られてきたり、人そのものが越境してきます。これが現実の出来事ですけれども、高校生等で、最近は性体験を早くしたい、皆がしているのに自分はおくれているのではないかというような妙な考えが広がっているようなのですけれども、そういうような生徒に対して、こちら側から、女性が誘いをかけて、ネット上でマッチングをして、そして入っていく。GPSで待ち合わせ場所をつくったり、近くの公園に来ているからといってメールを送ったりして、夜、子どもが出ていく、あるいは子ども自身が、こちら側から、従来は知り得なかったもの等を売っていることを知ってこっち側に入っていくというように、この境界線の線引きの効果がなかなか原理的にきかなくなる。そういう情報環境、従来の、テレビとは違う性格のメディアの情報環境、子どもたちの情報環境の出現に私どもは注意をしなければいけないというふうに申し上げているわけでございます。
 ネット上の遊び場について少しお話ししたいと思っておりますが、いろいろな遊び場が、夏休み、冬休みのためにどんどん増えておりますけれども、きょうは幾つか、プリクラ遊びというものについてお話をしたいと思います。このカフェスタというのは、佐世保の少女の殺人事件の舞台になったアバタウンの遊び場でございますが、きょうは時間がございません、プリクラ遊びに関してのみ少しお話をしたいと思っております。
 プリクラというのは、皆さんご承知のように、プリクラボックスで顔を知った友達同士、クラスの友達、見知っている友達同士がお互いにかわいい写真を撮って、そして交換して遊ぶという遊びでございますが、オンラインプリクラというのは、この従来のプリクラボックスの遊びとは違った刺激的な遊びであるわけです。まず、写真交換をする相手そのものが、地理的空間に限定されているわけでは決してございません。むしろ、それを超越するところにおもしろさがある。つまり、全国どこからでも、自分の写真に興味を持っている人を探すことができるわけでございます。インターネット上に顔写真をそのまま掲載すること自身について、もうここで問題があるわけですけれども、日本の社会には、個人情報をさらすということについて、きちんと子どもたちをしつけるという常識が薄いように私どもは憂慮しておりますが、いずれにしろ大流行しているわけです。
 そして、これは、最終的には出会いにつながります。現実のプリクラボックスでも、一緒に撮りにいく、一緒にボックスに入って写真を撮ることに意味があるわけですけれども、遠い地区の人と知り合って、そしてメル友になって写真を交換したら、今度は現実に会って、そして、同じ、例えば群馬の子と東京の子が、東京の駅前のプリクラボックスで会って写真を撮るという、そういうおもしろい遊びの発展になっているわけですね。この例で言えば、自分は小学生だけれど、大阪で年上のお姉さんとメル友になって、そして写真交換やプリクラ遊びをしたいなという発信があるわけですね。
 現実にこういうプリクラ遊びの遊び場に対しては、原理的に危険性があるということを申し上げていたわけですが、私が知っているだけでも4件、新聞でよく知られている件数としても2件、もう既に起きておりまして、長野県では、昨年10月に起きた小諸市の小学6年生の女の子の誘拐事件がその典型であったわけですが、実際にこの長野の事件は、小学6年の女の子がプリクラサイトで自分の個人情報、顔写真や、それから実名、学校名を出して発信して、それを見た31歳のペドフィリア、小児性愛愛好者といいますか、援助交際をしていた、少女を買ったことがある大人が誘いをかけて、そして、31歳の男性のほうは、高校3年生と装って彼女にネット上で近づいたわけですね。もともとプリクラ遊びというのは、個人情報を出しているわけですから、少女のほうは、自分は小学校6年生と正直に書いて発信し、できれば同年の男の子とメル友になりたいと言って、さらにつけ加えて、年上でも高校3年生の男子生徒、お兄さんであれば友達になりたいと言ったわけですね。そこに目をつけて、31歳の男は高校3年生に成り済まして、彼女が好みそうな写真を張りつけて、そして、彼女をリモートコントロールする、動かすことができる、管理できる決定的な力を持った情報を探してゲットするわけですね。
 そして、いろんないきさつがありますけれども、家出をしたいという痛切な彼女のメッセージを見て、この家出をするという情報を得たことで、彼女をおびき出すことができるというふうに確信したわけです。そして、家出を助けると。実は自分は31歳であるということで、彼女は家から出ていって、そのやりとりそのものがバイパスチャンネルになっていますから、保護者には見えなかったわけですね。これは最終的には誘拐ではないというふうに言われていますけれども、私は、これは情報による誘拐だというふうに考えるべきであると考えております。腕力による誘拐、筋肉の力による誘拐と、それから情報の力による誘拐、それはある意味で同じであるというふうに考えたほうがいいのではないかと考えているわけですけれども、その1カ月後に山形で、教師が同じ遊び場で少女をおびき出し、事件になっているわけです。
 今日は、最新の遊び場、私どもが頭を痛めていますのは、子どもたちをネットで遊ばせるビジネスモデルができておりまして、これが大変利益を生むということで、次々と新手のものが出てくるわけです。警察もこの状況をなかなか追いにくいということも分かっておりますが、一番保護者がしっかりしていただかないと、このインターネットはいけないわけです。そういうメディアなんですけれども、いずれにしろ、プロフというメディアについて少しお話をしたいと思っております。
 プロフというのは、従来、紙のプロフィール帖といって、自分のことを紹介してよく知ってもらうためのメディア遊びを子どもたちはしていたわけですが、この紙のプロフィール帖の面白さを、さらに魅力的にマジカルにしたものとして、ネット上のプロフ遊びという遊びが出てきて、ここに子どもたちが入っていくわけですね。大量に子どもたちが参加しています。これは、何でもないプロフィールの発信なのですが、部活動に自分は入っているということで、自分の写真だけではなくて友達の写真も、全部顔写真も出して、学校名も出したりしています。このこと自体、もちろん問題でございます。
 ちょうど先週、ちょっと画像をつくるのが間に合わなかったのですが、こんな事件がございました。このプロフの遊び場で、私ども、それを見ている市民のお父さん、お母さんたち、市民インストラクターという人材養成をしておりますが、そのお母さんから聞いた話です。前橋市内の中学、実際の中学、七中と言いますけれども、そこの女の子が実名を出したプロフを発信しておりまして、そして、その子は、これは友達と一緒の写真ですが、一人だけ、自分の写真をここに出して、そして、親が、そんなところで遊んでいるとは思わないようなところで遊んでいることを、例えばカラオケでビールが出てくるような場面ですが、そんなようなものを発信しているわけです。これは、ちょっとその子の写真ではありませんが、これはカラオケで、こういう食べ物を食べたり、これはお酒が入っていますかね。友達と遊んでいるということを、親や教師は見ていないだろう、知らないだろうというふうに思い込んで発信しているわけです。
 こういうような遊びをしている一人の女の子に対して、そのプロフの発信を見た男性が書き込みをしている。よかったらつき合ってくれというようなことをこの子に対して呼びかけて、そして、自分はすてきな車を持っているので車で迎えにいくというようなやり取りをしているのを、その当の保護者ではなくて、私ども群馬県で養成している市民インストラクター、子どもたちのネット上の遊び場を見る訓練を受けたお母さんが気づきました。そのお母さんは、ご自分のお子さんの同級生がこういうことをして誘われていることを知って、そして、誘いに乗らないようにその親御さんに注意をし、子どもにこの発信をやめさせたといういきさつが、ちょうど1週間前に、私どもの市民インストラクターの報告でありました。
 いずれにしろ、こういう新しいネット上での遊び場は、調べていきますと、実は、子どもたちにただでいろいろな、子どもの2ちゃんねる遊び、プロフ遊び、させているわけですが、させている業者はネット風俗業者で、例えば学校の掲示板に、ただで遊びなさいといって子どもたちに提供している、この掲示板に貼られている広告は、出会い系アダルト性風俗に関するネット広告が圧倒的に多い、こういう環境の中で思春期の子どもたちが遊んでいる、この情報環境が拡大していることについて、私どもは大変憂慮しております。
 最終的には、対策をしなければいけないということで、私どもは、今年更に、こういう子どものネットの生活、遊びを理解し、その中でやってはいけないことについて、ちゃんと具体的に、例えば料金を使い過ぎないでねとか、電車の中でスイッチを切るのよとか、そういうマナーとかモラルをさらに超えた、リスク回避のための具体的な注意を教えています。子どもはそういうことを知りたがっているわけです。なかなか注意してくれないものですから、おかしいとは思っているのですが、そういうことがちゃんと注意できる地域の市民を育てたいというふうに私は考えております。そして、注意して、パソコンインターネット、ケータイ・インターネットをさせる、ゲームからインターネットをさせる場合に、注意が守られているかどうかを見守りし、子どもが事件に巻き込まれそうになった場合には、それに対して介入する、あるいは誹謗中傷のやりとりが掲示板で盛り上がりそうな兆候が出たら介入する、わいせつ情報発信を子ども自身もしますから、そういうときはやめさせるとかというような指導もできるという、そういう活動を何とか展開しようとしております。
 市民のこのような力が地域で強まれば、学校は大変助かるだろうということは段々はっきりしてきました。学校側は、今、子どもたちの、言ってみれば殆ど無軌道な、注意も指導もない携帯、モバイルインターネット利用に悩まされていると言って過言ではございません。私どもに来ている相談件数等からいいますと、急増しております。明らかに学校は困り始めています。授業中の逸脱行為も含めて、放課後の生活の乱れ、あるいは危ない遊び、ネット遊び、そこからつながっていく性被害とか様々な犯罪被害、それに対して、いずれにしろ学校は危機感を持っておりますので、学校と家庭が連携をして、そして、例えばプロフ遊び等も、生徒指導とPTAがそれについて認識して、相談をして予防できる、そういう体制を早くつくらなければいけないと、その芽になるようなプロトタイプモデルを私どもは作っておりますけれども、現在のところは、まだしっかりとしたものになっておりませんが、そういう社会的仕組みが必要になってくるだろうと認識しております。
 少し時間をオーバーしてしまいました。ありがとうございました。

【板生主査】
 どうもありがとうございました。
 最後のところが気になるのですが、ご質問等がございましたら、どうぞお願いいたします。

【岸委員】
 先生のお話の、この手の話というのは、日本固有の話なのですか、それとも世界的に、何かそういうことが起こっているのでしょうか。

【下田教授】
 モバイルインターネットに関して言えば、日本固有と言って過言ではありません。

【岸委員】
 こういう話って、例えば日本の国内でいうと地域性というのはあるのでしょうか。

【下田教授】
 インターネットは、一応、原則的には地域性、マスメディアの場合は地域性があったのですが、パーソナルメディアのネットワークであるインターネットは、地域性は基本的にはありません。ただし、例えばメル友を欲しがる子どもたちの割合というのは、都市部より田舎のほうが、地方のほうがその願望は強いし、実際にメル友獲得行動は高いということが私どもの調査でわかっております。プロフ発信とかブログ発信のニーズも、場所によって微妙に違うこともわかっております。

【大野委員】
 聞きながら思ったのですが、例えば昔だと、ブラックリストとかつくってプロテクトしようとしたけど、向こうのほうが上なので、相手のほうが手を替え品を替えするので、なかなかブラックリストが効かないような気もするのですが。

【下田教授】
 それは大人の業者ですか。

【大野委員】
 そうです。要するに、これはパソコンでもそうなのでしょうけれども、携帯でも、よくないサイトのリストを作って排除しようとしても、相手が次々とサイトを変えていったり、新手のサービスが出てきたりして、なかなか思ったようにプロテクトできないという事情が前からあるように思うのですが。

【下田教授】
 ですから、フィルタリングは万全ではありません。

【大野委員】
 ですよね。思ったのは、フィルタリングは万全ではないけれど、どこを見たかというのは記録として残せるわけですよね。

【下田教授】
 ええ、そうです。

【大野委員】
 それをもとに、例えばポイント制にして、ある程度、そういうサイトを見たら翌月課金が高くなるとか、つまり、未来のことはわからないけれども、見ちゃうかもしれないけど、それが翌月にひびく。

【下田教授】
 ただし、スパムメール等が勝手に入ってきますから、そういうのもカウントすると、ちょっと、それはなかなかできませんね。

【大野委員】
 そうですね。でも、ちょっと、もちろんこういう問題というのは技術で解決する問題ではなくて、運用で解決していく、あるいは環境で解決する問題だとは思うのですけれども、例えば、何かそういうことをしたがる携帯だけ反応を遅くするとか、何か技術的にもできるような気がしたのですが。何かありますか。

【下田教授】
 実験的には、子どもが意図的、あるいは意図せざる事情で有害情報と接した場合は、こんな情報を子どもは、与えた携帯から見ていますよという通報を親にするという、そういう仕組みはやろうと思えばできます。コスト的にどうかわかりませんが。

【大野委員】
 親がそれに対応し得なければ、それで終わってしまうのですよね。

【下田教授】
 もちろんそうですね。最終的には、コンピュータによるフィルタリングシステムと、わかりやすく言えば、私は人間フィルタリングと言っているのですけれども、さまざまな善悪の判断と、それから、子どもの指導能力を持った親がセットにならないと、インターネット時代の子育て教育は難しいというのが、私の結論です。

【板生主査】
 ありがとうございました。

【井上主査代理】
 日本特有の現象だということであれば、これは文化の違いなのか、あるいは規則、制度、そういうものの違いなのか。

【下田教授】
 文化の違いというのは、どこかで聞いているかもしれませんが、少なくとも、単純に、インターネットというメディアが未成年者にどのような影響を与えるメディアであるかを、テレビとその点どう違うのかというようなことを、日本の社会が十分に理解していなかったというのが、1つは原因だと思います。メディア理解の不足といいますか。理解できていれば、携帯電話からインターネットにできるときに、フィルタリングがプリセッティングされているべきだろうと私は思っているのですけれども、現在もその辺の理解が不十分である。そこが問題の根源ではないかと思っております。

【井上主査代理】
 これだけ被害がはっきり、いろいろ指摘されていて、防がれていないのですよね。

【下田教授】
 そう思います。

【井上主査代理】
 本当は、これはどうしたいのかということで、まず合意形成しないといけないですね。

【下田教授】
 「どうしたいのか」というのは、どういうことでしょうか。大人が、子どもがですか。

【井上主査代理】
 保護する側がです。

【下田教授】
 大人が、要するに子どもを守り育てる側が。

【井上主査代理】
 何を防ぎたいのか。そうすれば、次にその手段はどうだというロジックができてくると思うんですよね。

【下田教授】
 その通りです。

【井上主査代理】
 その辺の話が非常に貧弱だなという感じがするのですが。

【下田教授】
 少なくともインターネットの議論に関しては、大人と子どもの区別のない議論がいまだに進んでおりますので、子どもを守り育てるべき立場からインターネットというメディアのビジネスのあり方について、見識を私どもは形成しなければいけないというふうに思っております。

【板生主査】
 米国の常識というのは、使わせなくてはいけないメディアということになっている、そういう話でしょうか。

【下田教授】
 基本的には、インターネットというのは成人向けメディアという認識がございまして、したがって、クリントン政権以来ですが、フィルタリングに関する国民的な合意を、普及に関する、それが完全にできているとはとても思えませんけれども、少なくとも、社会的コンセンサスはつくられているというふうに私どもは判断しています。

【板生主査】
 そちらのほうの運動といいますか、そういうものに対する取り組みというのは、どういうふうにやればいいかというふうに先生はお考えですか。

【下田教授】
 日本でですか。ちょっと難しいのは、パソコンからのインターネット利用と、モバイル、携帯電話からのインターネット利用を分けて考えなければいけないのです。パソコンから子どもにインターネットを利用させる一つのガイドラインといいますか、基本的なものは、アメリカから私どもは十分学ぶことはできると思うのですが、モバイルインターネットは、極端なことを言いますと世界中で日本の子どもだけです。韓国がそれに近くなってきましたけれども、でも、基本的には日本だけですね。ですから、子どもガイドラインをつくるということは先例がないので、私どもは、ちょっと大変だろうと思いますが、やらなきゃいけないだろうと思います。

【板生主査】
 ありがとうございました。ためになる話をいただきました。時間がちょっと迫ってきましたので。
 それでは、次に原田部長からのご説明をいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【原田部長】
 それでは、私のほうからは、子どもの被害防止の実証的基盤という、仮につけた題ですけれども、このような内容でお話をさせていただければと思います。準備できるようでしたら、パワーポイントを使ってお話しさせていただきたいと思います。
 最初に、子どもの被害の防止ということに関しまして、私どもは科学警察研究所の犯罪行動科学部というところに所属しておりまして、いわゆる心理学とか社会学とかいった行動科学の観点から犯罪問題、あるいは少年の非行問題についての実証的な研究をやりまして、何らかの対策に結びつければということで仕事をさせていただいているつもりになっておりますが、これまでも少しずつ子どもさんたちの犯罪の被害からの防止、あるいはその実態をどう見るかということについて、少しずつの調査、研究、分析などさせていただいているつもりでいるのですが、若干の私どもの経験を踏まえていって、私たちなりの観点で、現状、幾つか比較的根の深い問題があるように思いましたので、それを最初にざっとまとめさせていただいたのが、このスライドです。
 つまり、子どもの被害防止ということをどういうふうに進めていくかということに関して、幾つか基本的なところで、どうもよく分からない、あるいは、分かるための方法が十分確立されていないところがあるのではないかという気がするわけです。その第一ですけれども、そもそも実態把握、子どもさんたちの、いわゆる被害というものは、警察で言うところの犯罪、事件になるものと、あるいはそういう形には至らないものまで含めて、かなり雑多なものが子どもの被害ということで論じられているような気がするわけでありまして、いわゆる追いかけとか、あるいは声かけとか、そういったもの、不審者という言葉も、しばしば曖昧なものだということでコメントが出てくるときもあると思うんですが、そういったものが、言葉が曖昧であるということは、それは一体、声かけというものに相当するのか、それはよくない種類の声かけなのか、あるいは、町の子どもたちに出会ったらあいさつしましょうという意味での声かけとか、ちょっと、変なことをやって、危ないことをやりそうな子どもに対して、「君、君、ちょっと、そういうのをやっちゃだめだよ」と、これも声かけですので、そういうものと一体どういうふうに切り分けていくのかといったようなところ、一番広く言えば、それぐらいのところまで含めて、子どもの被害とはどういうものなのか、それをどういうふうにはかるのかということが、あまり詰めた形で論じられることが案外少ないのではないかという気がしています。
 当然、こういったことに関して、警察の立場から犯罪の被害であるというように、いわゆる警察において犯罪だと認知した、その結果としての警察の統計というのは氷山の一角である、ほとんどその中に含まれているものというのは極めて限られているということは、もう周知の事実であるわけなんですが、では、それ以外に、どのような形でそれをはかるのか、それにかわる指標というものが、実はあまりきちんとした形でつくられていない、もしくは、それをつくろうという形の動きというのがあまり活発ではないのではないだろうかという気がしております。
 それから、子どもさんたちの被害から守るということに対して、あるいは犯罪防止全般に関しても、ここ数年間にわたって、ほとんど倍々ゲームのような形で、自主防犯活動に取り組んでくださるボランティアの方とかNPOの方々、増えているわけなのですけれども、そういった方々の活動が、例えば防犯パトロール一つとってみても、それぞれのグループの方がそれぞれに動かれているということなので、ある地域において、それが全体的にどれぐらいの方々がどれぐらいの範囲をカバーして活動されているのかということがきちんとつかまれているかというと、どうもそうでもない場合も多いような気がします。このような、実態把握の面でどうなのだろうかというのが1点、感じるところです。
 あと、もう1点は、今度は、そういうことをやったことによって、対策を立てたことによって、あるいは色々な活動をやったことによって、どのように実際に被害が減ったのか、あるいはどういう活動がほかの活動と比べてより役に立つのか、これも、どうもあまりはっきりしていないのではないかという気がします。1つの根本的な理由ではないかと思いますのは、最初の実態把握のところと、多分つながってくると思うのですが、つまり、実態を把握するための、ある程度信頼性、妥当性のある測定尺度がないということは、当然、何かをやって効果をはかるということに関しても、それをはかる尺度がないということになるのではないかという気がいたします。
 それから、さまざまなことに関しての、例えば薬品の効果、あるいは副作用などに関しては、二重盲検検査といったような、極めて厳密なデザインによる評価研究を行うことが、もう本当に前提となっておりますけれども、こういった形の評価研究が、子どもの被害防止ももちろんですけれども、犯罪防止活動そのもの全般に関して、日本でなされた例というのは極めて少ないという気がいたします。そもそも、そういうものが必要だという認識、これ自体も、どうも不十分なのではないかという気がするのでありまして、その結果、我々が近いところにいるような研究の面では、いわゆる評価研究として厳密なデザインによる研究というよりは、新しい高度なテクノロジーを使った、でも、評価研究という意味では実証実験という形の、ある意味地域限定的な、ケース研究的なものに、何となく偏りがち、これは私の偏見かもしれませんけれども、そのような気がしなくもないと思います。
 それから、実践の場面では、これは現場に近い方の、幾つか個人的にお話ししたりした中で聞いたところなのですが、色々な方が色々と熱心に取り組んでおられるのですが、それが実施される主体によって内容がまちまちであって、おっしゃることもまちまちであって、例えば学校の先生なんかは、いろいろな方を呼んできて話していただくと、その方々がそれぞれ違うお話をされる、違うことが望ましいというふうにおっしゃるので、全体として学校はどうすればいいのだろうと迷ってしまうというようなお話を聞いたこともあります。
 あれやこれやということで、いろいろ問題なのではないかと思うところはあるのですが、何となく、もう一つその裏にあるところで、もしかすると一番大きい問題なのかもしれないのは、そもそも犯罪の問題とは、あるいは犯罪を未然に防止するとか、そういうのって難しいよね、犯罪をはかる、被害をはかるのは難しいですよね、だから、この分野でできることって、まあこんなもんじゃないでしょうかねというようなところで何となく話が済んでしまう、という部分が何となくあったのではないだろうかという気がするのです。
 そこで、お手元の資料1ページ、繰っていただければと思うのですが、実は、私が幾つか外国で行われている研究とか、その他教科書みたいなものも含めて、見る機会があったところと照らしてみると、必ずしもこの分野の実証研究というのは、こんなものばかりではないという気もするのであります。最初のところで、「犯罪学の教科書に・・・」というような書き方をしてありますけれども、これは、絵のこまの下のところに書いてありますように、1986年の当時、たまたま私、このころ2年ほど時間をいただいて、アメリカのペンシルベニア大学というところで勉強させていただいたのですけれども、そこで、文字どおり、学部の学生の教科書に使われていた犯罪学のテキストブックなのです。これの全体のチャプタースリーというところ、第3章が、Measuring Criminal Behaviorということで、犯罪行動の、文字どおり、測定というチャプターがここでつくられている。その中で、これはほかの教科書もみんな同じなのですが、アメリカの、あるいはイギリスでもそうですが、犯罪の測定指標、Measures of Crimeというふうに言いますと、一番上に書いてあるOfficial Statisticsというのは、いわゆる官庁統計ですが、これは3つある大きなMeasures of Crimeの中の1つに過ぎないというふうに言われています。それ以外の2つというのは、まず第1がVictimization Surveysというふうに言われておりまして、これは要するに、犯罪の被害をあなたは受けましたかという、犯罪被害者調査のことです。アメリカでもイギリスでも行われているのですが、例えばアメリカの場合でしたら、全国規模の犯罪被害調査というものが、全米からの世帯単位で、きちんとサンプリングされた世帯数で、4万3,000の世帯に住む7万7,750人、年によって違うのですが、要するに何万人、4万世帯とか7万人、8万人、これぐらいの規模で、半年ごとにこれを入れかえたりするのですが、毎年このような被害調査が行われていて、それが1973年から行われている。既に30年以上の歴史がある。すなわち、犯罪被害調査を追うことによって、犯罪実態の社会的なトレンドを追うことができる、そこまでの蓄積が既にあるということです。
 それから、その下にSelf-report Surveysというふうに書きましたが、これは、実際に調査員を戸別訪問してもらって、サンプリングした家庭の、そこで、子どもたちに標準的な質問肢を見せて、君はこの1年間、次のような行為をしたことがありますかというのを自己申告させる、そのような種類の調査です。これに関しても、その方法論とか、あるいは質問肢としてどういうものを標準的に使うのかということに関しての、かなりのノウハウが蓄積されています。
 次のページをまた繰っていただければと思うのですが、例えば、先ほど第2番目に挙げました全国的な犯罪被害調査というものも、その結果が既にオンラインでもって、これはアメリカのDepartment of Censusですよね、の中にあるホームページという形で、既にインターネットで公開されているというぐらいのところまで来ているというところなのではないかと思います。
 一方、評価研究のほうに関してですけれども、これについては、2002年にアメリカでかなりまとまった本が出ています。このタイトルそのものも、Evidence-Based Crime Preventionというタイトルでありまして、要するに科学的な根拠に基づく犯罪予防というタイトルなのですが、これは単独の評価研究をやったものということではなくて、その下のところに、2つ目の三角印あたりで見ていただければと思うのですが、英語圏がどうしても中心になるんですけれども、600以上、既にある防犯施策の評価研究、これを、一定の方法論に関する基準を立てておりまして、そこである程度そこそこの水準だろう、それ以上だろうというものに絞って、それで600以上あるということなんです。これに関してレビューをやりまして、7つほどのジャンル、例えば家庭の中でとか、学校においてとか、それから警察は何ができるかとか、そういう7つほどの、領域別にどのようなことが有効であるか。これについてはWhat worksという言葉がキーワードのように使われています。What works、何が有効であるか、それから、What's not、何が有効でないか。それから、3番目のカテゴリーとしてWhat's Promising、有望なものは何であるかというような形に、一種ランキングづけをするというような形で、様々な評価研究の知見をまとめていくというような本が、既に2002年に出版されております。
 この中で、当時この第一著者であったローレン・シャーマンというのは、メリーランド大学におりまして、現在はペンシルベニア大学に移っているのですが、当時、メリーランド大学にいたころにつくった研究方法の厳密性に関する尺度、ランキングというものを作りましたので、当時いた大学の名前をとってメリーランド式というふうに呼んでいるのですが、レベル1からレベル5まで、数字が大きいほどクオリティ的には高いというふうに位置づけているのですけれども、御覧いただいて分かるとおり、レベル5というのは、完全なランダム割りつけ実験であります。レベル1というのが、1回の調査でAという変数とBという変数、多変量的な関係とかを考慮に入れたとしても、いずれにしても、相関に基づく研究というのは、全部レベル1ということになるわけで、日本で行われている殆どの研究はレベル1の段階から上にはいかないのではないか、私どものやってきた研究もそうなのですが、それぐらいのランキングということになっているのではないかと思います。先ほどの本では、大体、この中のレベル3ぐらいから上のものだけをセレクトしているのですが、それでも600ぐらいの数が出てくるということになっていたわけです。
 それから、この本で行われていたような評価研究の、クオリティによるセレクションであり、それから、それに基づいて、何が役に立つかということをレビューしようという考え方が、西暦2000年のころから、さらにもう一歩先に向かうという動きに変わってきておりまして、これは、名前からいいますと、アメリカの心理学者なのですが、その人の名前をとりましてキャンベル協同計画というふうに呼ばれています。これは、医学の世界でコクラン協同計画という名前でもって、いわゆるエビデンス・ベースト・メディスンのための国際的な協同活動ということで、その分野で大変よく知られているというふうに聞いておりますが、それに範をとるという形で、要するに、医学における治療と同じような、これは大体社会政策についてキャンベル協同計画というのはターゲットにしておりますので、いわゆる政策的、あるいはケースワーク的な介入、これの効果を、どれぐらい効果があったかということを、系統的レビュー、システマティック・レビューの方法でもってこれを評価する。世界中から洗いざらい、出版されていないものも含めて文献を洗い出して、できるときにはメタ分析を行うという形で系統的なレビューを行いまして、その結果をインターネットで公表する、そういう活動です。これが、インターネットのサイトとしては、オーストラリアにある国立犯罪学研究所のサイトがベースになっておりますけれども、そういう形で世界に情報発信をしているという段階になっております。
 ここで取り扱われている登録済みのプロトコルというのは、現在、このシステマティック・レビューが継続中というものでありまして、これは多分、2005年ぐらいの段階で引っ張ってきたので、もう幾つかある程度完了に近づいているものもあると思うのですが、ここに挙げましたような、我々が防犯対策といったときに、しばしば念頭に浮かぶようなものというのが、一体何が、どういう場所で、どういう条件のもとでやると効果があるのかというようなことについて、実証的な評価研究事例というのが着々集められているという段階かと思います。
 そのうちの1つで、いわゆる街頭防犯カメラについての犯罪防止効果というのが、これも、現在継続中のシステマティック・レビューの1つですけれども、中間的なものとして、2002年にイギリスの内務省から出版された資料があります。この中で、幾つか、どのような場面、状況にこれを置いたときに効果があるのかどうなのかということの検討もやっておりますけれども、全体的にいいますと、この絵の中の右上に近いところに書きましたように、駐車場のようなところにおいて、車関連の犯罪、自動車窃盗とか、あるいは車上ねらい、こういうものを防止するときに防犯カメラというのは一番有効である。それ以外の場面に置いたときには、必ずしも効果があるという形にはならないというような結果が出ているというようなことも報告されております。
 このようなことが、外国での、ある意味、犯罪研究という意味での、犯罪研究そのものに関しての先端的な動向ということになるのではないかと思いますが、さて、翻って日本の状況を考えてみると、こういった研究そのものという形での厳密な方法論によったものというのは、最初に申しましたとおり、かなり少ないのではないかと思うんですが、ただ、幾つかの、これまでに報じられた事件、あるいは事例の報告、それから既存のデータみたいなことから、例えばどんな犯罪対策がどんなふうに有望であるかというようなことについて、幾つか言えそうなことはあるような気がしています。
 例えば、その1つは、これは2001年の年だったと思いますが、大阪の池田で起こりました、小学生8人の方が亡くなった痛ましい小学生の児童殺傷事件ですけれども、この事件が、この後、詳細なレポートが、学校の先生方の協力でつくられておりまして、非常に印象的な、日本では非常に数の少ない詳細な事件の経過報告書になっています。その中で、事件が一体何分間の出来事だったかということが大変印象に残っているのですが、犯人が通用門から学校に入ったのは朝の10時15分だったそうでして、これが最終的に取り押さえられたのは10時19分ぐらいであるというふうに報告されています。その間、約5分弱ということでありまして、ただ、その中で警察や救急への通報が非常に遅れたということは、この事件の大きな反省点ということで、先生たち自らがお書きになっています。ただ、この間の、取り押さえられるまでの時間が5分だということになりますと、これは、全国平均なのですが、警察が通報を受けてから現場に駆けつけるまでのレスポンスタイム、これは平均六、七分というふうに言われておりますので、そうだとすると、いわゆる通用門などにモニターカメラがあって、そこから即警報が警察に飛んで、警察が急行したとしても、子どもさんが刺されるという事態は避けられなかったのではないかという気もするわけでありまして、その避けられたかどうかということよりも、むしろ、このような事件の場合だと、如何にして被害が起こってしまってから後の人命救助を迅速的確に行うかということのほうが、結果としての人命が失われるということを避けるために、むしろ、より注目するべきことだったのではないかという気がしております。
 また、もう一つ、当時も思ったことなのですが、この頃というのは、いわゆる、子どもの安全というのは、もっぱら学校の中での安全という文脈で語られていたわけでありまして、今、その部分がどの程度、こういったような、当時から既に報告書の出ていた事実を踏まえて、どんな形で改善されているのかということも気になるところですし、一方、このごろ、そっちの学校の中のほうの話というのが、少し耳にする機会が少ないような気もするわけでありまして、学校の通学路の問題に関心が大きく集中しているようなのですけれども、子どもさんたちの日常活動全体ということの中で、その辺の、少し広めの視野を持つというところについて、改めて思いをいたしてみる必要もあるのではないかという気もしています。
 それから、これは全く違う種類の、同じ西日本なのですけれども、何か子どもさんたちが急な危険な事態に直面したときに、すぐに駆け込んで通報することができるようなための施設、それを支えるボランティアの活動ということで、「子ども110番の家」というものが作られています。ただ、「子ども110番の家」が、どうの様に分布しているのか、どこにどれだけあるのかというのは、最近、幾つかそういう調査をなさっているという話も耳にするようになりましたけれども、全国的に見ますと、まだそれほど沢山、実際に調査されているという例は多くはないような気がいたします。たまたま私どものところに、そういう調査をやったのでデータの分析をしてもらえないだろうかという依頼をいただいたことがありましたので、仮にですけれども、例えば小学校を中心として、私どものほうでしばらく前から手がけております地理情報システムを使った、地理的な分析を使いまして、半径500メートルの範囲の中に、何軒、こういった「子ども110番の家」があるかということを小学校別に集計してみたことがあります。その結果がこのグラフでありまして、御覧いただいて分かりますように、横軸の方向が一つ一つの学校で、たしか、全部で20校ほど、公立の学校がこの地域であるのですが、同じ500メートルの圏内ということで検索をかけて、「子ども110番の家」をカウントしていきましても、多いところだと100軒とかそれ以上というところもあるかと思えば、中には4軒とか10軒とか、それぐらいのところもあるということで、大変大きなばらつきがあるということが、調査をやってみると見えてくるということだと思うんです。そういう意味で、こういう、結果としてあれあれと思うような結果であったとしても、やはり実態を知るための調査をやるということはとても大切なのではないかと思いますし、実際、この自治体においても、私どもの手伝わせていただいて行った分析に基づいて、「子ども110番の家」の指定のし直し、それから、その後の再調査ということも考えているので、またよろしくということで、おっしゃっていただいているところです。
 さて、それから、最初に申し上げたような、子どもさんたちの犯罪の被害そのものの実態、これを知るということについても、もう少し系統的に考えていく必要があるのではないかという気がしておりますので、私どものところでは、まず1つの試みとして、欧米で行われている、先ほどちょっとご紹介しました大人向けの犯罪被害調査、それから、それを子どもたちに聞くような形でやっているのも、数は少ないのですが、幾つかありますので、そういうものを参考にしながら、小学生の子どもを対象にした犯罪の被害体験、あるいは犯罪に至らないが怖い思いをしたという危険な体験、これの調査をやってみたことがあります。こういう調査を少し細かくやろうと思いますと、大変にボリュームの大きな調査表になってしまいますので、欧米で行われているようなやり方に倣う形で、最初に粗いくくりのスクリーニング的な質問で、単にあり、なしだけ聞くというものをやりまして、それで、これがあったときには次に飛んでくださいという形で、二段構えの質問肢を作るというやり方、これでも十分に複雑でありまして、小学生のお子さんに1人では到底やっていただけないので、お父さん、お母さんと一緒にやってくださいねということでお願いしているわけなんですが、こういうような調査表をつくる。
 それから、子どもさんたちが危ない目に遭っているということも、一体どんな場所で、どういう状況で、そういう経験があるのかということについても調べていきたいと思いましたので、GISを使ったA1判の大きな白地図をオリジナルで作りまして、そこに手で書き込んでいただく、こんな形の地図ですね、白地図なので色が薄くて絵が見えにくいと思いますので、大変申しわけないのですが、少しズームしてみますと、例えば、ここ、ちょっと名前出ておりますけれども、協力いただいた学校の、ここが皆さんの行っている自分の学校ですよねということがわりと分かるように、その辺を少し大き目の字で書いて目立たせるようにするということをやりまして、なるべく周囲の目標物をたくさん書き込んで、地図そのものはゼンリンの住宅地図なんですが、大縮尺の地図と、できるだけたくさんの目標物を入れるということで、少しでも書きやすいようにという多少なりの工夫をしまして、そこに手でもって、赤えんぴつとかで書き込んでいただいたという形で、子どもさんたちの放課後の行動経路について教えていただき、かつ、それと、先ほど、最初にごらんにいれた、犯罪の、あるいは危険な体験の調査の、一応全体の方に同じ質問をするという意味での標準化された質問肢を使って調査を試みています。
 これは、現在分析中なのですけれども、ごく大ざっぱな結果、概略だけご紹介しますと、小学校以来今までということで、これは、調査、1年生から6年生まで全部やっておりますので、お子さんの学年によって、全くカバーするレンジが違うという意味で、非常に粗っぽいくくりなのですけれども、こういう雑駁なくくりでありますが、ざっとくくってみますと、大体1割から2割ぐらいの方が、犯罪とか、それから、ここに書かせていただいたように、それは、犯罪そのものということよりももっと、追いかけられたとか、跡をつけられたといったような、より広いくくりのものも入っておりますので、こういうものを含めてトータルで1割から2割ぐらいの経験率ではないかというような結果になってきています。
 それから、子どもさんの犯罪の被害というのは、やはり、どうしても1人でいるときに起こることが多いわけなのですが、子どもさんたちが、小学生がいつ1人になることが多いのかということを、ここでは、あえて学校からの下校時、家に帰るまで、それと、一たん家に帰ってから、ランドセルなどを置いて遊びにいってからというところと分けて棒グラフにしてあるんですが、これで見まして、棒グラフの左側が下校時ですね、右側が帰宅後ということで、2種類の棒グラフ、2通りのものですから全部で4本棒ができておりますが、いずれの見方をしても、いったい家に帰って、おそらくランドセルを置いてもう一度出かけていく、遊びに行く、友達の家に行く、そのときのほうが1人でいる時間が長いという、1人で歩いている距離が長いということになりますので、やはり、一旦帰宅してからその後ということの、あるいは休日の間とか、そういった時点での子どもさんたちの行動をどのように見ていくのかということが、今後の子どもさんたちの安全を守る取り組みということで、やはり、より従来以上に注目していかなければならない局面なのではないだろうかという気がしているところです。
 このような形で、どうしても現状では、いわゆる欧米の先進的な動向、それと、我々の身近な、日本の国内での研究状況、比べると、ある意味その落差というものに情けない思いをすることが多いのですが、ただ、だからといって、外国ではこうだったというのを、結論だけ持ち込むというのは、どう考えても、犯罪というのは社会現象ですので、それは危険なのではないだろうかと思うわけでありまして、やはり、我々にとって必要なのは、欧米で、ある意味広く標準的に用いられているような方法論、むしろ、この方法論にしっかり学びながら、我々自身のデータを使って、我が国では何が有効なのかといったようなことを、自分たち自身の実証的な評価研究として行っていく、あるいは、実証的な実態分析として行っていく、それによって、いわゆる子どもさんたちの安全を守る取り組みということに、実証的な基盤に基づいて、それを踏まえて行われていくということを是非とも目指していくことが必要ではないか、というふうに強く考えている次第であります。
 私のほうからのお話は、以上で終わらせていただきたいと思います。

【板生主査】
 ありがとうございました。
 時間が押していまして、今日お話をいただいて、登下校の問題と、それからネットでの犯罪と、2つに大きく分けることができますが、今日の、今の原田部長さんと、それから最初の羽田主査のお二人のお話は、いずれにしろ、学校の登下校を中心に、どういう対策、また、どういう現状であるかという、また、それに対してどう対策すべきかというようなお話がありました。そういうことで、今日、下田先生はお帰りになりましたが、全般的に3人の今日のお話をもとにして、子どもの安全・安心という分野についての視点からどう取り組んでいくかということについて、少し委員の間でディスカッションをさせていただきたいと思います。
 特に、今の原田さんのお話に対して、何か気になる点がありましたら、一言、二言のご質問はお願いしても結構かと思いますが、いかがでしょうか。

【札野委員】
 先ほど、アメリカでは学部で、クリミノロジーといいますか、犯罪学の教育が行われているということでしたけれども、日本では、こういう領域の研究をなさる方、あるいは調査をなさる方の人材育成というのはどういうふうになっているのでしょうか。

【原田部長】
 日本では、犯罪学という学部の中の科目、学科というのは殆どありません。それに一番近いのは、おそらく刑事政策というところになると思います。ただ、刑事政策というのは、伝統的に法学部の中に設置されておりますので、犯罪の実態の研究、あるいはその原因の分析とかいうことよりは、どちらかというと刑事司法システム、その制度の研究、それを法律論的に論じるということが多かったような気がします。そういう意味で、行動科学としての犯罪学というのは、例えば、最近ですと、心理学とか社会学、一部教育学などの中で、少しずつ関心を持っている一人一人の先生方が出てきたぐらいの程度のような気がしております。

【札野委員】
 ありがとうございます。

【井上主査代理】
 原田さんのお話というのはすごくすっきりしていて、私もかねてから、こういう犯罪だとか被害、こういうものについては、状況についての定量的なデータが必要だと思うんです。それから、先ほど品川区のお話もありましたけれども、これから、こういうシステムをいろいろ導入していくときに、その効果がどれぐらいあるかという予見と、その実証、これが必ず要ると思うんです。例えば街頭カメラの話、先ほどアメリカの例がありましたけれども、日本でも本当にこういう効果についてデータがとられているのか。その辺はどうなのですか、こういうデータを集めるところというのはあるのでしょうか。

【原田部長】
 街頭防犯カメラに関して言いますと、そのためのオリジナルな被害の調査をやるという形のものまでは、まだ、私、見たことがありませんが、警察に認知された事件だけに関していうと、実はこれはまだ、ペーパーにしていないので非常に恥ずかしいのですけれども、我々のところで、警視庁からお借りしたデータに基づいて試みの分析をやったことがあります。モニターカメラというのは、どうしても見える範囲も限られてきますので、それによって犯罪が減ったかということと並んで、設置したところでは減っても、そのすぐ周辺のところにそれが、いわゆる散らしただけではないかと。これは犯罪の拡散というふうに、クライム・ディスプレースメントという言葉になっているのですが。

【井上主査代理】
 さっきのデータも、ちょっとそれに近いような。

【原田部長】
 そういったことも含めて、地理情報システムを使って見ていくと、例えば、そこでは減ったけれども、周囲では増えたかどうかということも含めて見ていくことができますので、そういった分析を一部やってみたことがあります。
 概略の結論だけ申しますと、一応、約1割から2割前後の防犯カメラを設置した地点、それはその場所1カ所だけなのですけれども、1カ所で1エリアだけなんですが、台数的には50台ぐらいあるんですけれども、そこでは、約1割から2割前後ぐらいの犯罪の減少は見られたのではないかという結果です。それから、それが周囲に流れ出ていく、犯罪のディスプレースメントが起こるというのは、若干の兆候は見られますけれども、それによって全体の効果が打ち消されてしまうほどではなかったというような、仮分析ですけれども、そのような結果は出しています。

【板生主査】
 GIS等を使って犯罪の拡散とか、そういうものを測定するというようなときに、必要な技術という点で、まだこれが足りないというのは、どういうふうにお考えになりますでしょうか。

【原田部長】
 一度データがきちんとした形で揃えば、それを、例えば犯罪の拡散ということがトピックであれば、現状の技術でもできることはかなりあると思います。ただ、その拡散がどれぐらい起こったかというのを、それをインデックスにするような、その程度をあらわす標準的なスケールのようなもの、これは、今、欧米の犯罪学でも提案段階でありますので、そういった先行研究を踏まえながら精緻化していくことはあるかと思います。
 ただ、むしろ、そこで問題になるのは、犯罪が起こったということ、それがどこで起こったのかということを、従来以上に正確に知るための方策ができるかどうかということでありまして、現状では、いわゆる刑法犯認知表というものに、何丁目何番地先路上みたいな形で、手書きで発生場所を書いていますので、どうしても位置の精度に関して大きな限界がありますので、そのあたりのところを改善していくというのは、テクノロジーの問題ではないのかもしれないですが、かなり難しい、厄介で、かつ本質的な問題ではないかと思います。

【板生主査】
 世間では、よく、GPSを使えばどこでもすぐわかるのだなというのが、非常に誤解が大きいですね。

【原田部長】
 そうですね。

【板生主査】
 これは全く誤解でありまして、実際には、東京都の中を見たって3割ぐらいしか捕捉されない、地下に入ったらおしまいとか、こういうことがもう少し、ちょっと国家的な意味で、インフラ的に補強していかないかんというようなことを、警察のほうからもどんどん言っていただく必要があるのではないかと私は思うんですけどね、いかがでしょうか。

【原田部長】
 おっしゃるとおりだと思っていまして、今現在、科学技術振興調整費をいただいているのですが、幾つかの機関で共同研究をやらせていただいているプロジェクトの中で、GPSと、それからICタグとか、そういうものを使った位置測位の高度化、精密化と、それを踏まえた安心安全の確保ということで研究させていただいておりまして、その一環で、子どもさんにGPS機能つきの端末を実際に持っていただいて、約2週間ぐらいに、トータル延べ60人ぐらいに歩いていただいて、それをデータでとるというのをやってみています。今、分析にかかろうとしているのですが、ちょっと分析のやり方に困るほど、やはり誤差が出ておりまして、まずは誤差の度合いがどれぐらい大きいか、どれぐらいそれがシリアスなものであるかということについて、それのデータをまとめるということは、ぜひこの機会にやってみたいと思っております。

【板生主査】
 場所によって相当違うと思いますね。

【原田部長】
 そのように聞いております。

【板生主査】
 田舎というか、そういうところですと、高いビルがないですから、結構とれるのですけれども、実際に東京都内ですと相当問題があって。

【原田部長】
 通り1本、2本ぐらいは簡単に変わってしまうようです。

【板生主査】
 そのほか、皆さんのほうからご意見を。どうぞ。

【堀井委員】
 科学技術による問題解決というのも、確かに大切だと思うのですが、私はむしろ、地域コミュニティの再生みたいなこととかなり関係する問題ではないかなと思っているんです。外国の物まねは不可というのはその通りで、やっぱり社会特性みたいなものを考えないと、最適な対策というのは生まれてこないんだと思うんですけれども、そういう意味で、根拠に基づく対策ということで、社会特性と犯罪との関係、ソーシャルキャピタルと、例えば犯罪との関係とか、そういう研究というのも既にされているのですか。

【原田部長】
 地域の特性と犯罪というテーマは、例えば犯罪社会学という分野ではとても古くからの主要なトピックの1つだったと思います。ただ、割合長い期間にわたって、地域の特性と犯罪、非行といったときに、地域の特性というのは、それが、よくない地域というので、非行少年とかが生まれ育ってくるので、それをどう改善するか、そのためのコミュニティの改善とかいう文脈で語られることが多かったような気がします。
 最近は、そういうことと並んで、要するに、どこか外から犯罪者がやって来たとしても、パトロールをやることによって、それをはね返してしまおうというような、犯罪抑止そのものというか、そういう面での地域コミュニティのあり方の重要性というのが認識されてきたような気がしますので、そういう観点というのは、実は、割合新しいような気がしますので、その辺についての実証的な研究というのはまだまだこれからなのかなという気がしています。
 ただ、その場合に、そのときの地域コミュニティの力とか活動をどういうふうにはかるかとか、それをどうコンセプトにするかとか、そういうことについては、やはり日本でまだこれから、その辺のところを諸外国の先行研究に学びながら自前でつくっていく必要がこれからあるのではないかという気がしておりまして、この辺のところも、ある意味ではテクノロジーの問題というよりは、むしろ、そういうコンセプチュアライズをどうするかとか、メジャーメントをどうするかとかいうような、行動科学とか社会科学の点で、むしろ、そっちのほうの立ちおくれが目立つというふうに、自分も、実は社会学ですので、大変恥ずかしいのですけれども、そのように思います。

【堀井委員】
 ありがとうございました。

【板生主査】
 そういう意味では、今、品川区でおやりいただいていることが、ある意味では1つの実際のモデルといいますか、そういうものをどう社会学的に計測して、さらにそれを、ある意味で行動科学していくというようなことができれば、非常にすばらしいことですね。

【原田部長】
 そうですね、全くおっしゃるとおりだと思います。

【板生主査】
 他に、何かありましたら、どうぞおっしゃってください。

【奈良委員】
 今日のご発表のレジュメの2ページ目なのですけれども、アメリカではMeasures of Crimeに3種類あると。特に上の2つについて非常に参考になるなと思うのですけれども、この委員会の大きな目的は、安全だけではなくて、安心も充足しようということなので、その安心を阻害する大きな要因として犯罪についていえば、ダークナンバー、暗数が随分大きい、その暗数の大きさそのものも、国民の不安に、つまり安心の阻害につながっていると思うんです。
 日本でいうところの認知件数の把握に該当するOfficial Statisticsと、それから暗数がある程度反映されているであろう、このVictimization Surveysの、この実際の差というのはどれぐらいあるのかということがまず1つお伺いしたいことと、もう一つは、日本でも体感治安を把握するための世論調査なんかはされていますよね。ここ10年ぐらいでどれぐらい危なくなったと思いますかとか、そういうざっくりしたものではなくて、こういうVictimization Surveysのようなものを、日本でも導入することの可能性というのはどれぐらいおありだというふうに、あるいは課題はどういうものがあるとお考えですか。この2点をお伺いしたいと思います。

【原田部長】
 後の点から先にお答えしますと、実は法務省の法務総合研究所で、まだ、これは2回ぐらいなのですけれども、これは第1回の報告書です。西暦2000年の年に報告書の出たものなのですが、これがようやく実現したというのが、西暦2000年の声を聞いてからでありまして、それより前に、幾つか民間の財団法人都市防犯研究センターというのがあるのですが、そこで行われた調査などが2回、3回ほどあります。国の機関として行われた犯罪被害調査というのは、この法務省の2000年のものが最初です。ただ、これは、サンプル数が3,000であります。ですので、日本の犯罪率が、そもそもアメリカなどと比べて非常に低いということを考えれば、アメリカで、対象者の数でいうと8万でやっているわけですから、それを日本で3,000でやるということは、これでとれるデータの規模というものは、極めて大きな限界があると思います。ただ、一応役所としても、こういうものが、これは法務総合研究所、当時いた、その後スピンアウトしちゃったのですが、その若い研究職員のイニシアチブでつくられたものですので、こういったものが、より若い個人の研究者の獅子奮迅の活躍で行われるということではなくて、ある意味国家プロジェクトみたいな形として、やはりアメリカ、イギリスに匹敵する規模で行われるように日本でならなければいけないのではないかという気がします。これは回覧していただければと思います。
 それから、その中での暗数の度合いというのですが、犯罪の種類によって、これはかなり変わってきます。窃盗系の犯罪ですと、むしろ通報されるのが2割とか、そんなような指摘も聞いたことがあります。で、それを調べる方法ですが、公的な犯罪統計と、こういった被害調査を比較するというのも一つの方法なのですが、実は、被害調査の中そのものに、たしか、この調査でもやっていたと思うのですが、あなたはそれを警察に通報しましたか、通報しないとすればそれはなぜですかという質問を含めるというやり方があります。ですので、これをやることによって、より直接的に通報率というものをはかっていくこともできると思います。
 我々、子どもさんの被害の調査をやるときに、それを親御さんに聞く項目を入れているのですが、そうしますと、実は、この調査、我々のやった調査を受けて初めて、そんな被害に子どもが遭っているのを知りましたと答えられた親御さんが、これもまた類型によって随分違うんですが、ものによると2割ぐらいいるとか、そんなような形にもなっておりました。

【板生主査】
 どうもありがとうございました。
 ちょっと時間が、もう12時になってしまいまして、これからまだ議論をいろいろさせていただきたいところでございますが、どうしてもというのがあれば、30秒ぐらいはあれですけど、よろしければ、今日の子どもに対する犯罪に対するいろいろなご意見をたくさんいただきましたことを我々踏まえまして、さらに次のステップに進みたいと思います。本日はお二人ともありがとうございました。

【原田部長】
 ありがとうございました。

【板生主査】
 それではもう少し時間を、申しわけございません、5分間だけ延長していただいてもよろしいでしょうか、皆さん。よろしければ、5分間延長していただいて、今日配られております資料5のところを井上室長がお話をして、そして、次回が最終回になりますので、そのときまでにいろいろなご意見を用意しておいていただいて、次回たっぷりと議論させていただくというような形をとりたいと思いますが、そういうことで、資料5のほうの説明を、井上室長、お願いいたします。

【井上室長】
 (資料5)安全・安心科学技術の重要研究開発課題について(検討のまとめ)(案)ということで、事務局のほうで案を出させていただきました。
 「1.検討の背景」でございますが、これまで、昨年来この委員会におきまして議論してまとめていただきました報告書のポイント等、経緯を書いてございます。説明については省略いたします。
 1枚ページをめくっていただきますと、「2.安全・安心科学技術の考え方の整理と重要研究開発課題抽出の視点」があります。この2.と「3.重要研究開発課題」、この2つが、いわばこの委員会で皆さんからいただいたご意見をまとめたポイント、肝のところでございます。詳しい説明は省きますが、特に、2.について、2番目のパラグラフからが重要だと思います。
 特に「安心」の確保についての科学技術が、安全に比べれば遅れている要因としては、「安心」が定量的な評価が難しい人間の主観的な感情に拠るところが大きいことが挙げられる。このため、「安心」の確保のための科学技術の検討にあたっては、まず「人間」に着目し、行動学的、心理学的知見も活用した人間行動の把握を行うことと、人間を取り巻く社会環境の把握を行うことが必要となる。また、そのような現象の把握を行った上でリスクアセスメントを行い、これを踏まえた、人間が不安感を持たないようなシステムを構築することが重要である。
 加えて、安全・安心な社会の構築のための科学技術には、人文・社会系等多様な分野の知見を動員するとともに、常にユーザーの視点を取り入れ、地域や環境による差を考慮することが求められる。また、開発された技術を実際に使用するにあたっては、リスクコミュニケーションを初めとしたユーザーへのフィードバックも重要な要素となる、と書かせていただいております。
 それを踏まえまして、重要なポイントとしまして、1.、2.、3.と、現象の計測フェーズ、予測・評価フェーズ、システム化フェーズということで書かせていただいております。
 その上で、「3.重要研究開発課題」について書いております。ここは、大きく2つに分けております。「(1)安全・安心科学技術を支える基盤研究」、「(2)社会的課題に対応した研究開発課題」であります。(1)の基盤研究というのは、まさに2.の1、2の部分でございます。現象を計測し、予測・評価するという部分でございまして、2つ、社会現象の計測研究、社会現象予測・評価研究について、こういう研究については、まさに安全・安心科学技術を支える基盤的な分野であり、息長く継続的に行う必要があるということで書かせていただいております。
 (2)につきましては、より実際の社会的課題に対応した分野ということで、これまで、この委員会におきましてお呼びした有識者の方々のご意見、あるいは、文部科学省内においても、いろいろな分野で研究開発を進めている部署がございますので、そういう部署の意見等々を踏まえながら、9つ課題を挙げてございます。
 その後、「4.結語」と、このような構成になっております。以上でございます。

【板生主査】
 ありがとうございました。時間が少なくなって申しわけございません。本当はここから1時間ぐらい議論したいところでございますが、本来、これをきちんと、さらにもっと皆さんのご意見をいただきながらまとめていきたいところでございますが、今年は、今もお話がありましたように、昨年が安全・安心の中でも、安全を中心にして、何が問題であるかということを、かなり突っ込んで、犯罪と子どもの安心・安全、それからテロということにかなり限定した形での答申をさせていただいたわけですが、今年度の中では、やはり安心という問題が、昨年はあまり議論されていなかったというか、非常に難しい分野でございますので、社会現象まで伴う人文的なところでございます。そこを中心に、どうやったらまとめられるか、どういうふうなことを提言すれば、一番それは効果的であるかというようなことを、今年はそういう形でまとめるということができればというふうに思っております。そういうことで、次回の、ちょうど17日に行いますところで、最終的なとりまとめの議論をさせていただければと思います。よろしくお願いいたします。
 それでは、事務局のほうから何かございましたら、お願いいたします。

【井上室長】
 それでは、最後に、次回の委員会でございますが、既にメールでご連絡しておりますけれども、7月17日の16時から18時ということで予定しております。一応、今ご議論いただいています重要研究開発課題についての検討は、次回で最終回ということで考えております。また、本日時間がとれませんでしたけれども、きょうの資料5について、お読みいただいて、いろいろご意見ございましたら、例えば電子メール等で事務局のほうに、次回の委員会までにもどんどんお寄せいただければ、そういうものも踏まえた案を、次回、この場にご提出させていただきたいと思います。以上でございます。

【板生主査】
 それでは、ありがとうございました。ちょっと延長しまして申しわけございませんでした。本日はありがとうございました。

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科学技術・学術政策局政策課安全安心・科学技術企画室

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