安全・安心科学技術委員会(第7回) 議事要旨

1.日時

平成19年5月15日(火曜日) 16時~18時

2.場所

文部科学省 M3会議室(三菱ビル地下1階)

3.議題

  1. 安全・安心科学技術について
    <自然災害対応に関する有識者ヒアリング>
    ○ 河田 惠昭 京都大学防災研究所巨大災害研究センター長
  2. 安全・安心科学技術について
    <自然災害対応に関する有識者ヒアリング>
    ○ 一ノ瀬 良尚 前宮崎県宮崎郡清武町長
  3. 安全・安心科学技術について
    <自然災害対応に関する有識者ヒアリング>
    ○ 角本 繁 独立行政法人防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター チームリーダー
  4. その他

4.出席者

委員

 板生委員、井上委員、大野委員、岸委員、土井委員、奈良委員、原委員、堀井委員

文部科学省

 森口科学技術・学術政策局長、袴着科学技術・学術政策局次長、吉川科学技術・学術総括官、戸渡科学技術・学術政策局政策課長、井上安全・安心科学技術企画室長

オブザーバー

 河田 惠昭 京都大学防災研究所巨大災害研究センター長(有識者)、一ノ瀬 良尚 前宮崎県宮崎郡清武町長(有識者)、角本 繁 独立行政法人防災科学技術研究所地震防災フロンティア研究センター チームリーダー(有識者)

5.議事要旨

(1)河田センター長より資料2「巨大災害と減災」について説明した後、質疑応答が行われた。
 ○委員 △有識者

委員
 広域対応を可能とする危機管理体制、社会システムとの組み合わせ、戦略を持って対策を練ることの必要性という非常に重要な課題を指摘いただいたが、そういった課題に対処するためにこれから、どのような科学技術を開発していかなければいけないのか。

有識者
 災害規模が大きくなると、システマティックな情報を駆使した対応が必要だが、私どもでは、サイバー防災システムと呼んでいる、センサリングから判断まですべて自動化できるようなシステム設計にいろいろな付与の条件を入れていくようなシステムを開発しようと考えている。また、地方によって日本の危機管理対応システムというのはばらばらで、例えば、首都直下地震が起きた場合、情報システムすら相互乗り入れできない状態であるために、東京都と神奈川県が連携して対応することが非常に難しくなってしまう。

委員
 資料には、「防災・減災の主役は誰か」ということで「市民」とされていますが、毎年の町内会の防災訓練は、何十年と同じように行われており、例えば、消火器の訓練をしても、どこで役立つのかが分からない。いろいろな災害に遭う可能性があるのに、全体として有機的に考えられていない。

有識者
 例えば自主防災組織の一番大事な役割は、一人一人がけがをしないこと。特に、高齢者の方は、地震が起こると慌てるため、負傷する方が多い。能登半島では、阪神大震災と比較して、2.8倍の負傷者がでた。
 その次に、瓦礫の下敷きになっている人を助けなければいけない。阪神大震災では2万7,000人が家に閉じ込められたが、公的な機関が遺体も含めて、出したのは約8,000人であり、残りは、近所の人が助けた。どこに寝ているかというのがわかっているのは近所の人である。
 消火器については、背丈以上の火は消せないことを知らないまま使い方を学んでいる人も多い。訓練の中身を変えていただかないといけないと思う。
 災害が起こると一番大事なことは家族の安否確認ですが、地震が起こってから伝言ダイヤルがちゃんと機能する保証はありませんので、例えば台所の横にホワイトボードをぶら下げていただいて、家族全員のその日の行動をある程度知っている。そうすると、起こった時間帯によっては安否確認を必ずしも早急にやらなくてもいいような生活をやっていただく。これが文化。
 技術については、例えばインド洋大津波のときに、明かりを探知するアメリカ海軍の軍事衛星DMSPからデータをいただいて、どこに何人住んでいるかがわかり、津波のシミュレーションでどこまで津波が来たかがわかるため、何人ぐらい亡くなっているかが1時間ぐらい後にはわかっていた。そういう技術は非常に役に立つと思う。

(2)一ノ瀬前町長より資料3「清武市地域防災システムの構築-IT活用による減災に向けた取り組み-」について説明した後、質疑応答が行われた。

有識者
 少ない役場の人でうまくやっており、職員一人一人の方の意識というのは大変高いのではないかと思う。町長さんは行政のプロであっても、災害のことを判断するプロではないので、職員の方が専門研修を受け、町長が間違えた場合、誰かがストップできる体制、参謀体制を整えたほうがよい。コンピューターが判断できればいいのですが、自然現象であるため、なかなか難しい。鳥インフルエンザのようなものは、予測ができないため、意思決定をするのに大変ご苦労なさったと思うのだが。

有識者
 おっしゃるとおり、地方の行政だけではなかなか難しい。宮崎大学あるいは地元のIC関係の企業に相談している。今後、行政とミックスした協議会の設置ができればと考えているところ。
 また、防災科学技術研究所というのを知ってから初めてわかったことだが、すばらしい技術を研究所で持っている。地方ではそういった技術を知らないので、ぜひいろいろ広報して使わせていただけるような体制ができるといい。そういった研究機関とか大学とかと一緒に連携ができると、すばらしいものができると思う。

(3)角本チームリーダーより、資料4「安心・安全な国から品格のある(質の高い)国を目指して-快適な社会を実現する為の情報基盤の提案-」について説明した後、質疑応答が行われた。

委員
 ご紹介いただいた総合防災情報システムはかなり完成度が高いと思うが、科学技術の開発としてどんな必要性があるのか。科学技術としてはある程度もう完成の域に達しているのか。

有識者
 達成していないと思っている。サーバーという大型の計算機があって、それにクライアントがぶら下がるという、今までのコンピューター技術は、平常時には使える大規模なシステムであって、災害時には非常にもろいシステム。また、セキュリティーという問題に対しても答えを持たないような仕組み。災害時に動くためには自立分散の情報協調ということが必要。1台1台で動いて、情報のやりとりができ、異なる仕組みの中の情報共有ができるということ。ソフト的な情報自体もつなげられるといった情報共有ハブという技術が必要。自立分散というのは、災害時にも強いと同時に、いわゆる情報セキュリティーということにおいても非常に強い仕組みになる。この技術というのはまだ新しい技術。ひとつのキーである時空間情報システムもまだまだ十分に確立しているというものではない。それから、今の携帯電話や防災無線に頼らない通信網をつくる必要がある。新しい技術がこれから必要だと思う。

委員
 一番いいのは、個人が皆何らかの情報発信ができるような形を持つものだと思う。経済性の原則を考えると、平常時には健康状態を管理するなどの機能を持ち、連続的に動いているが、異常な事態のときにはそれが発揮できるというシステム設計がいいのではないか。

有識者
 コンセプトは言われるとおり。今、清武で動かそうとしているのもそういう仕組み。平常時にはネットワークにつないで処理をし、緊急時には、1台ずつでもちゃんと動き、2台あったら2台をつなぐと情報が共有化できる仕組み。今のサーバーを使ったコンピューターシステムは、コンピューター屋さんがつくりやすいシステムで、銀行などには向くが自治体には向かない仕組みであると感じる。

(4)ヒアリングを踏まえ、自然災害対応について、意見交換が行われた。

有識者
 例えば京都での鳥インフルエンザが発生した際に、GISシステムでカラスの行動を評価するというプログラムを京都府に持っていったが「要らない」と言われ、模造紙の上で地図を書いて昔ながらの図上演習をやっていた。いいシステムがあっても、防災に携わる人をトレーニングしないと、それがいいという判断ができない。
 それから、災害が大きくなればなるほど現場からの情報は出てこない。世界の巨大災害の例をみても、現地へ入るよりも周りにいるほうがいい情報が実はあるというのが現状。インターネットで研究者がどんどん発信するので、それをどのようにとってくるかという技術のほうがとても大事。例えばソロモンでの津波に対して、いきなり現地に入っても何もわからない。外から地震計とか津波計で、あるいはシミュレーションをした、はるかに被害の総体はわかってくる。特に災害の規模が大きくなればなるほど周りからの情報共有による支援が非常に大事。

委員
 自治体で新しいITやデバイスを導入したとしても、使い勝手の問題がある。

有識者
 科学技術はどんどん進歩するので、こういったシステムもどんどん古くなるので、基本的にどこまでできたらいいのかというターゲットを示さないと、どんどんお金をかけてやらなくてはいけないというジレンマに陥る。

委員
 本当の必要最小限の情報武装というのは一体何なのかということが、ユーザー側から見て提案ができるようになれば、もっと単純なシステムの中で実際に役に立つものというのがあるはずだと思う。あくまで使う側がそれに適したものを仕様を提示して商業ベースの人たちと一緒にシステム設計をしていくことが必要なのかもしれない。汎用的な押しつけられたものを買うのではなく。

有識者
 私は自治体のシステムを25年前からやっているが全部失敗した。阪神大震災を契機に神戸市役所の中に入り込んでやったのだが、できあがったものは当時考えていたものと違うものになった。今度の現場のニーズに基づいてつくったシステムは非常に単純。自治体の業務は昔から変わっていないので、高度なシステム、違うシステムは必要がない。変わるのは数値とか式が変わるぐらいの話。的を射たシステムを提供すると、今回の鳥インフルエンザの事例でも、自治体の職員さんがみんな臨機応変に使っていて、トレーニングなんか特に要らない。そういうシステムは実現可能であり、他の町に持って言ったときも、全然違う業務にどんどん使っていた。だから、何をつくるべきかということをきちんと把握して確実に使われるものをつくる、これからはこういうことが可能だと思う。

有識者
 阪神大震災の後に全く進んでいないのがデータベースの統合。どの自治体でもいろいろなデータベースを持っており、統合化などは基本的にはできない。各部局ではずっとそれを使っており何にも支障がない。こういう壁というのは非常に強い。これをつなげる統合データベースをつくらなければいけないとみんな言うが、現状では、どこにもない。

委員
 今お話があった、実務で使えるようなシステムをつくるということは非常に大切、有効だが、安全・安心科学技術の研究開発では何を行わなければいけないのかという問いに対する答えではない。今おっしゃられたことではないところで、安全・安心のためにどういう科学技術の研究開発が必要かということで少し議論が必要なんじゃないかと思う。

委員
 いわゆるシナリオをどう考えるかというのが多分一番大事だと思う。例えば最悪のシナリオを考えた場合に、電気も来なければ電話も通じなくなってしまって、やはりそういうものにかわる通信方法に関する科学技術が必要だといったことにもなると思うが、いわゆる最悪シナリオになったときにどうしても困ってしまうといったことに関する科学技術というのは何かということではないか。

有識者
 最悪シナリオではこうだろうといったときに、お手上げではなくて、戦略として、歩留まりをどこに持っていくのかということに科学技術は使えると思う。これは、一つは予測・予知につながっていくが、一番の問題は社会的なところを科学技術でどうするかということ。科学技術を人間の側で活用する、そのインターフェースが今は非常に遅れている。情報を知恵に持っていき、行動に結びつけていくつながりが見えていないというのが現状。

委員
 日頃から使えていないシステムは緊急時には使えないから、日頃から使える技術を使うことについては、そのとおりだと思う。
 緊急時に一番使えないのは人間だと思う。予想外の事態に巻き込まれたときに冷静に判断することは、かなり訓練していないとできない。経験があるのとないのとでは随分違うと思うので、何かシミュレーターで経験する、ある程度一定のカリキュラムでトレーニングを義務づけるなど、その辺、経験値をあげることが必要だろうと思う。
 また、例えば、金沢では登下校の学校単位のシステムが残っているなど地域ごとにいいメカニズムが残っているケースがあって、一元的なものを全日本的にバッとばらまくのではなくて、地域に特化した使えそうなメカニズムは割と小まめに拾い上げて生かしたほうがいい。カスタマイズ。例えば、東京などでは絶対に隣の人の顔は全然わからないので、隣と連携した何とかというのはあまり現実的ではないかもしれないが、金沢ではそういうのがまだすごく生きていて、そういう地元で使えそうなメカニズムがあるときはそれを拾って、一元的な標準化されたメカニズムとうまく合わせていくということをする必要があるようにも感じている。

委員
 技術というものが実際にどの程度人間の役に立つのか。インフラ的なものに関しては絶対必要だが、人間の行動そのものについての情報があまりにも少ないため、技術に何もかも期待しても難しいところがある。技術がほんとうに役に立つのかというところまで、場合によっては疑問を持たないといけないかもしれない。

委員
 私なりにざっくりまとめると、一つは、自治体を含めた社会全体の設計・運営の現状、それから将来どうあるべきかという問題。もう一つは、住民の意識の問題あるいは行動を誘導する訓練も含めて、住民の能力に関する問題。それから、最後には個人と個人レベルでの情報の伝達の問題。個人が情報を把握すると同時に、その個人の行動とかが行政のほうへ伝わる情報システムをどうするか。以上のように課題が幾つかある。
 例えば最後のところで言えば、今一番使えるのが携帯で、それの進化形というのが考えられないか。

有識者
 JRの福知山線の事故で、線路を挟んで50メートルの間に2つできた災害対策本部の消防署間でさえ、別々の消防署が入ったので、携帯電話で連絡をとれなかった。大阪府の救急救命隊がトランシーバーを5台持っていたので、それでやりとりした。大きな災害になったときに、携帯電話は便利だが、番号がわからないと使えないという問題がある。

委員
 例えば緊急時には、情報は出せることとするなどの改善があり得るのではないか。

有識者
 今言われている話には、同報性というキーワードが要る。1カ所から発信すればみんなに聞こえる仕組みというのはまだ携帯電話の仕組みではない。そういう機能を持たせることとその技術の保障が今の企業活動と合うかどうか。我々が清武でやろうとしていたのは、ボタンが1つついていてそのボタンをたたけば役場から応答があって、「どうしました」と問いかけが来るというもの。必要な通信手段とは、例えば高齢者はみんないつでも首からぶら下げておくといった格好で普及されるということで、そのような無線等の使い方というのは、これから非常に大きな新しい技術が要ると思う。またカスタマイズということは絶対に必要で、地域によってみんな要求が違うので、それに合わせたものをつくらなくてはいけない。

委員
 安心・安全というのは、技術をどのように考えていくのか、技術そのものが必要なのかどうかといった非常に根源的なところまで含めて議論していく必要があると思う。

委員
 技術と社会とのかかわりの中で最も本質的な科学技術の開発は何かということについて、あまり今すぐ役立つことに目を向けると、他のところで予算化するので、何もここでやらなくてもいいじゃないかという話になると思う。例えば、どのような技術があったら防災が画期的になるかという点について、要するに完全に防ぐことはできないわけだから、危機対応能力を高めることが求められることであり、私は、何が起こるのかという予測能力を高めることが本質的に危機管理対応能力を高める上で必要なのではないかと思う。現状は、今どういうことが起こっているのかという情報を共有できるようにするということが求められていて、それは通常の今ある技術でかなりできる部分。けれども、社会の対応あるいは行政の対応、人々の危機管理の対応みたいなものまで含めて、何をすればどうなるのかということを予測する能力を高めることがもしできるとすると、本質的に危機管理対応能力を変える可能性があって、そういうテーマは、かなり長期的でもあるが非常に基礎的であって、安全・安心科学技術というところで取り上げる意義があるという気がする。

委員
 危機管理を体験できるロールプレイングみたいなことを、例えば、シュミレーションゲームを若いころからやってみるとか、そういうことをするだけでも意識は変わるような気がする。すごく心配している人と関係ないと思っている人の意識を縮めることも効果があるのではないかと思う。

委員
 今のシミュレーションという話はすごく重要だと思う。シュミレーションする際に、今つくっていただいている時空間のデータベースで、そのデータをちゃんと生かしていくようなことを考えていくというのが大事。
 もう一つ大事なのは、カスタマイズ。中越地震のときに、電話は通じなかったかもしれないが、だれがどこに住んでいるというのはちゃんと把握されていたため、助けに行けるということがあった。都市で隣がだれかもわからないという、コミュニティーとしての成立がきちんとしていないところ、都市と地方では災害時の対応の仕方は全く異なっていると思う。社会のコミュニケーションの量と、どのようにカスタマイズすべきかをうまく明らかにしていく事ができると、今やっているものの生かし方が少し見えてくる。

委員
 神戸の震災のときも、私の会社の関西の研究所がやられたが、近くの工場から応援の物資を船を使って出すということができた。日頃からこういうときにはどうしたらいいというのを地元の人は知っている。中央から行っているスタッフ部門の人はよくわからなかった。今までにためていただいている時空間データベースという中にそういう知恵がもう随分生きてきているのではないかなと。だから、それをもう少し掘り下げられるといいんじゃないかと思う。

委員
 やっぱり今回の科学技術の適用対象はどこにあるのかというのが一番気になる。企業とか地方行政というレベルで考えるのか、末端の生活者レベルで考えるのか、整理はしなければいけない。もし生活者レベルで考えると、例えば防災であれば、避難勧告と避難指示の違いすらわかっていない生活者が多い。なぜ人々が何かを受け入れないかというと、あまりにも不確実性が高いから。まず機能、仕組みをきちんと説明できて、その結果こんなにいいことがある、あるいはそれに従わないとこんなに悪いことがあるということを、メディアを使い分けるなどして、説明できるようなことができないと、人は動かない。データベースをちゃんと整備して、シミュレーションの精度をもう少し上げて、こんなことになるであろうということを言えれば人は動かせるかなと思う。そのあたりにも科学技術の適用の可能性はあると思う。

委員
 この問題の答えはそう簡単には出ない。どのように攻めていくかを考えると、安全・安心に対して科学技術はどのような役割を果たすことができるのかという根源的な問題になる。基本的に安心とは一体何か、科学技術によって安心がどうやって実現できるかというときに、その対策の以前に、人間そのものの行動が実はよく分かっていない。自然科学は観測手段をもっているが、人間の観測手段としていろいろな科学技術が導入されなければいけないのではないか。社会現象はどのようにして起こっているのかということが、個々の人間の行動が理解されていないとなかなか説明がつかないところがある。そういうところはセンサーを使ったりしながら人間そのものを観測することも非常に大事な基盤技術なのかもしれないなという感じがする。
 今日は災害といった観点からいろいろな事例、特にインフラの整備、情報処理、個人の情報の管理などについて課題を伺った。
 全体の安全・安心というものを科学技術によってどう実現するかということを次のステップで考えていければと思う。

以上

お問合せ先

科学技術・学術政策局政策課安全・安心科学技術企画室

(科学技術・学術政策局政策課安全・安心科学技術企画室)