安全・安心科学技術委員会(第18回) 議事録

1.日時

平成21年4月30日(木曜日) 14時~16時

2.場所

文部科学省 5F7会議室

3.議題

  1. 安全・安心科学技術の課題の整理について
  2. 安全・安心科学技術の今後の取組について
  3. その他

4.出席者

委員

板生清委員主査、岸徹委員主査代理、青木節子委員、奈良由美子委員、橋本敏彦委員、樋渡由美委員、札野順委員、
堀井秀之委員、村山裕三委員

文部科学省

岩瀬公一 科学技術・学術政策局科学技術・学術総括官
岡谷重雄 科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(推進調整担当)
西田亮三 科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室長

5.議事録

 事務局より、配布資料の確認と前回議事録案(資料1)の確認を行った。

【板生主査】  この委員会においては、国全体における安全・安心というようなことから広く方向づけをしていくということにしたい。

 前回の委員会では、特に安全・安心科学技術の課題等についていろいろな議論をいただいた。その中で、対象となる安全・安心科学技術の範囲、文部科学省の役割等についても議論があった。そこで、西田室長から、従来の経緯と整理について、簡単にご紹介をお願いしたい。

【西田室長】  資料2の安全・安心科学技術について(整理)に基づき、ご説明をさせていただく。

 まず、2ページ目で、安全・安心という定義、基本的な考え方については、平成16年4月に文部科学省の科学技術・学術政策局の中に置かれた懇談会、「安全・安心な社会の構築に資する科学技術政策に関する懇談会」において、報告書が取りまとめられている。安全については人及びその所有物に損傷・損害がない状態、安心についは個人の主観的な判断に大きく依存するという、ごく当たり前の定義がなされているが、この中で目指すべき安全・安心な社会の条件として、5つの項目を掲げている。1)事故防止に加え発生後の的確な危機管理、2)既知のリスクの対応に加え未知のリスクへの柔軟な対応、3)システムの安全に加え個人の意識・知識の醸成、4)安全の確保に加え安心の実感、5)正負両面を考慮した判断、である。

 安全・安心な社会に向けて取り組むべき課題ということも同時に取りまとめられており、課題を幾つかマトリックス式に整理をした。横軸に、「災害・事故からの社会システムの安全・安心」、「人の生存を脅かす問題からの安全・安心」、「人為的な脅威からの安全・安心」を、縦軸に、「新たに取り組むべき重点課題」、「着実に取り組むべき重点課題」、「安全を安心につなげるための重点課題」といったように、それぞれの取り組むべき課題を整理した。

 また、これらに「共通する基盤として取り組むべき重点課題」として、下のほうに被害予測のためのシミュレーション技術の研究開発や、異常を迅速に検知するための計測・センシング技術の研究開発といったようなことも、あわせて提示している。

 総合科学技術会議でも、平成18年6月に、「安全に資する科学技術推進戦略」が取りまとめられた。3ページ目にあるように、安全に資する科学技術推進の意義としてここに書いてあるような整理がなされた。一つには、「国民生活の安全確保への貢献」ということで、犯罪対策、情報セキュリティ、感染症対策、食品安全、重大事故というものが挙げられている。また、「国土と社会の安全確保への貢献」としては、地震・台風による被害の未然防止・大幅低減といったものが挙げられている。また、「我が国の総合的な安全保障への貢献」といった項目では、テロ対策技術などの技術安全保障を強化することが提言されている。また、その他の観点として、「国際社会の安全確保・我が国の地位向上に貢献」、「科学技術の未知性・不確実性への対応」といったものが、安全・安心の科学技術の意義ということで挙げられている。

 こうした提言の中で、安全に資する科学技術の取り組みの危機事態別・分野別の研究開発の推進として、大規模自然災害、重大事故、新興・再興感染症対策、情報セキュリティ、食品安全問題、テロリズム・各種犯罪対策、その他センシング技術などが分野としてまとめられている。

 総合科学技術会議では第3期科学技術基本計画に沿って分野別推進戦略が18年3月に取りまとめられたが、その中でデュアルユース技術による研究開発のあり方を他分野とも連携して検討する必要があり、防衛、警察、消防関係の科学技術についても積極的に民生技術を活用した研究開発の取り組みを推進するということが記載されている。

 4ページで、平成18年7月に、文部科学省の安全・安心科学技術委員で「安全・安心科学技術に関する研究開発の推進方策について」というものが取りまとめられた。この中で、安全・安心科学技術に関する文部科学省の果たすべき役割が整理されている。1)研究開発成果の社会・国民への還元、2)危機対応を行う関係府省のニーズと科学技術のシーズを連携させ、実効的な研究開発を推進すること、3)人文・社会科学的な知見をも動員した取り組み、4)関係機関が必要な科学技術情報を適宜適切に入手するための仕組みの構築、5)現場における真のユーザーニーズや対応府省の行政ニーズを把握し、それに応えていくような取り組み、6)研究者の育成や危機対応者をはじめとした人材育成や、マスメディアの能力強化、7)戦略的に諸外国との協力を実施するための国内外の連携、調整といったものである。

 平成19年7月に、同じく安全・安心科学技術委員会において「安全・安心科学技術の重要研究開発課題について」という報告が取りまとめられた。この中では、安全・安心科学技術の考え方と重要研究開発課題抽出の視点として、行動学的、心理学的知見をも活用した、人間行動や人間を取り巻く社会現象の把握といったものが挙げられ、安全・安心科学技術を支える基盤的研究としては、社会現象の計測研究、社会現象の予測・評価研究、社会的課題に対応した研究開発課題としては、災害情報通信システムの開発、テロ・犯罪などで使用される危険物の検知・処理、子どもや高齢者の危険状態検知・発報システムの開発、疾病予防・健康増進のための健康モニタリングなどが重要研究開発課題の例としてまとめられている。

 こうしたこれまでの委員会での報告書などを踏まえ、これまでの安全・安心科学技術の各種取り組みに反映している。具体的には、5ページの右側にあるように、21年度から戦略的創造研究推進事業の中で「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」を新たに立ち上げている。また、我々の担当である安全・安心科学技術プロジェクトとして、テロ対策技術などについて平成19年度から新たに立ち上げている。また、独立行政法人科学技術振興機構社会技術研究開発センターでは、社会技術研究開発事業として、これも19年から「犯罪からの子どもの安全」に取り組んでいる。

 こうした検討の中で、6ページのように、今、安全・安心科学技術分野の課題について、総合科学技術会議の中間フォローアップの中で指摘をされている。具体的には、安全・安心分野について官民の連携をもっと進めていくべきである、研究開発側とユーザー側の組織的な連携を促進するための取り組みについて検討する必要がある、テロ対策技術など市場が限られ、必要とされる技術の公開にも限度があるなど、民間参入のハードルが高い分野については、公的機関を含めたユーザーサイドと研究開発機関との連携と、海外先進諸国との研究開発協力体制の構築が重要である、といったことが課題として挙げられている。

 以上、これまでの議論の経緯等について、簡単に整理をさせていただいた。

【板生主査】  安全・安心科学技術委員会が発足してから、5ページのように、これまでの検討の中からテロ、犯罪に関する話をまず取りあげて、それが一つのアクションとして出てきている。さらに、今年の科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業に、「人間と調和する情報環境を実現する基盤技術の創出」が取りあげられ、安心というものを考えていこうということが、アクションとして動いてきていると言えるが、今後さらにどういうふうに提言していくかを抜本的な議論のもとで考えていきたい。

【堀井委員】  安全・安心科学技術とは何かとか、あるいは安全・安心科学技術委員会で取り扱うべき課題というのはどういうものなのかという今までの議論がまとまっているが、安全・安心ということに関しては当然所管する官庁があり、例えば国土交通省が所管している事柄に対してここで技術開発したものが果たしてどれだけ使ってもらえるのか、仕組みとしてかなり難しいところもあるだろう。そういう問題を抱えた中で文科省のもとでこの委員会で何をやっていくのか、よく考えなければいけない。

 それから、安全・安心社会を実現するためのシーズとしての技術の開発という意味では、文科省の中のほかの委員会とかなりオーバーラップするところがあり、ではここでは何をするのかという話になる。ほかであまりやられていないテーマを選ぶと、果たしてほんとうに重要なテーマが選ばれるのか。そういう意味では、2ページに安全・安心な社会に向けて取り組むべき課題という形で整理されているが、上の危機事態別・分野別の分け方の下に共通基盤として取り組むべき重点課題というのがあり、ほんとうはここの部分をもっともっと充実させて、中心的に考えるということがほんとうは必要か。この例として、解析・シミュレーション技術、計測・センシング技術という要素技術が挙がっているが、リスクマネジメントシステムや、安全・安心社会を構築するためにシーズ技術をどう使っていったらいいのかという、広い意味での安全・安心のための技術、あるいはそういう技術の設計・開発のための方法論の構築、そういうことがこの安全・安心科学技術委員会で取り組むべき重点課題なのではないか。そこは4ページ3)に人文・社会科学的な知見をも動員した取り組みと書いてある部分が本来は対応するべき部分だろうが、今言ったような取り組みなり課題についてこれまでほんとうにやってこられたのかどうか、それから、これからやろうとしていることに入っているのか。例えば5ページに、安全・安心科学技術を支える基盤研究として社会現象計測研究と社会現象予測・評価研究というのが入っているが、ほんとうにそういう意味でふさわしい例がここに挙がっているのか、これまでの各種取り組みに反映という部分にも、今、重要ではないかと考えたようなことがどれだけ挙がっているのかというのは検討するべきではないか。

 【板生主査】  今年の方向づけとしては、そちらをさらに目指していきたい。技術がベースではなくて、あくまで社会というものをよく観測して、社会からどういうものが必要とされていて、そのためにどういう技術を使うか。技術は目的ではなくて単なる手段でもあり、社会をいかに観測していくか、社会で何が問題になっているかというニーズをもっととらえていく仕組みをどうつくるかが大事ではないかと私も思っている。今年のこの委員会の議論は、そういうあたりのところまでさらに踏み込んでいって、国民にとって安全・安心って一体何なのか、どういう仕組みを考えればそれが機能していくのか、そういう大胆な提言ができれば非常にタイミングのいい話になるのではないかと考えている。

【西田室長】  資料3について、前回の委員会等の議論を踏まえて論点整理したまとめをご説明させていただく。

 論点1として、科学技術の成果を現場につなげる新たな研究開発のあり方である。まず全般論として、技術の出口側から見て求められる科学技術という観点からの取り組みが必要ではないか。

 そうしたものの研究開発フェーズとして、出口側の社会ニーズを踏まえた技術開発ニーズの絞り込みが必要ではないか。それから、生活者レベルのニーズ、国レベルのニーズのそれぞれのくみ上げと、技術シーズとのマッチング方法のあり方。これには、求められる技術と成果のずれの解消とか、あるいはもっと密接な連携の方策といったことが論点として挙げられるのではないか。

 また、成果実装フェーズについては、研究開発成果の実用化を阻害する規制等の緩和・見直しに向けた協力。それから、技術の普及を促進する政策的・制度的な取り組みへのサポートの強化。これには、成果を有効に生かすための社会技術的な研究や、国際協力の実施、技術の認証・基準等への取り組み、実フィールドでの社会実証試験の実施等への支援強化といったものが例示として挙げられるのではないか。また、初期需要の創出に向けた取り組みということで、公的機関の調達との連携の促進といったもの。

 論点2としては、国際的な協力活動の強化と技術情報の取り扱いで、国際的な協力活動の強化については、テロ対策技術などの効果的な研究開発のためには、機微情報を含む研究協力の国レベルの制度的な枠組みが必要ではないか。それから、我が国の安全・安心科学技術の途上国等への積極的な活用促進。

 また、技術情報の取り扱いの明確化として、安全保障貿易管理への対応。これは機微情報の取り扱い。それから、悪用可能な科学技術の取り扱いに関する課題。これは、ガイドライン、研究者への啓発が必要ではないかというような点。

 最後に、安全・安心科学技術に係る人材育成・普及啓発に関する取り組みとして、大学等での安全・安心分野の取り組み活性化を通じた人材育成の促進。また、一般市民向けの普及啓発。それから、安全・安心科学技術における研究者・運用者の交流、啓発、研修といったようなことを論点3として挙げた。

【村山委員】  論点1の新たな研究開発のあり方、これは、実は第3期科学技術基本計画をつくるときにこの議論も行った。平成17年6月28日に私的に「安全技術の開発方式について」という文書をまとめている。ところがこれは、表には出なかった。なぜそういうことになったかというと、安全の技術をいかに科学技術基本計画に入れるかという安全プロジェクトチームが総合科学技術会議にできた。一応考え方ができ、分野もわかり、重要さの認識もできてきて、これからはやっぱり開発方式がキーを握る、特に現場のニーズと技術のシーズをどう結びつけるか、その開発方式が一番重要なのではないかと説明をした。

 ところが、その後の議論が、重点分野の選定とか、お金の配分とか、そういうところへ行ってしまって、結局、この問題が十分に議論されないで、最終的に推進戦略のところで、シーズとニーズのマッチングが必要、デュアルユース技術が必要と、言葉だけ入った。言葉だけ入って、実際に研究開発方式が変わらなかった。ということで、以前のままで研究開発をやったのでいろいろな問題が出てきている。だから、まさに今、第3期科学技術基本計画のときの積み残し案件である新たな研究開発のあり方を議論しなければならないのではないか。

【札野委員】  この委員会で議論してきたことは、実際に形にあらわれるときには技術のほうに行ってしまい、安心の部分、あるいは人文・社会科学系の知見を取り込んでいく、総合的に考えていくという意味では、理念としてはここで議論されるが、今までそういう領域があまりなかったこともあって、実際に具体的な方策として何をやるかといったことに関しては出てこなかった。このあたりのことを今年度はぜひ議論をすべきではないかというのが、1点。

 それと、科学技術基本計画の中に安全・安心な国をつくっていくということが柱として掲げられている以上、もっと議論を広く広げていいのではないか。技術系の学協会、社会科学系、人文・社会科学系でも構わないが、例えば機械学会にこの問題を投げかける。機械学会の中に委員会をつくっていただいて、議論をしていただく。そこで出てきたアイデアに関して、我々のほうでも検討をする。日本全体を取り込んだオールジャパン的な枠組みづくりということも、文科省の主導のもとに行っていってもいいのではないか、これが2点目。

【札野委員】  アメリカのナショナル・アカデミー・オブ・エンジニアリングという4つのアカデミーの中の一つが、21世紀のグランド・チャレンジズ・フォー・エンジニアリングとして、エンジニアリングのコミュニティが21世紀に解決すべき14の課題というのを掲げている。その14の課題の中には、サイバースペースにおけるセキュリティの問題とか、あるいはニュークリアテロをどういうふうに防ぐかとか、この委員会で議論をしてきたこととも関連することがある。そのあたりの情報を少し整理して、2番目の論点の国際的な協力活動にもかかわるが、文科省として、あるいは日本として何ができるかというのを考えてみることも必要なのではないか。

【岸主査代理】  前からシーズとニーズのマッチングという話がよく出ているが、今まではどちらかというと犯罪テロというと国レベルのニーズという形がかなり強かった。今回、資料3の中に生活者レベルのニーズということがあり、もう少しニーズというのを広く構えれば、いわゆる安全・安心という部分での科学技術の活用が開けてくるのではないか。難しいかもしれないが、一般にニーズを公募してみるのも一つの方法か。

【板生主査】  昨年も安心というのはどのようにすれば科学技術的に可能なのかというような議論もあり、それ以上に、安心を与える社会というのはどうなのかという、社会現象、または社会そのものの研究が大事であろうという議論も再三出ていた。しかし、最終的には何らかの形で手段を持たないといけないということから、技術委員会ということもあってか、技術がだんだん前のほうに出てきてしまうという傾向はあった。社会的な、人文科学的な知識、またはそういう手段を取り入れるということに関して、今年は人文系の先生にもたくさん参加していただいている。ぜひそちらのほうからの、技術のみではない議論を期待している。

【橋本委員】  ニーズとシーズのマッチングは、大変有効と思う。ただ、それをどういう形で旗振りするのか。実際に研究者にやってもらうときに、どういう枠組みが必要なのか。産学連携に関して、技術をよく知っていてニーズが来たときにそれに対して答えるようなセンターを大学に設ける話や、もう少しニーズの側に近い、プロデューサーのような人が具体的に責任を持って実現していく試みは既にある。そうした産学連携に対して、役所が旗を振る、推奨するという形は意義のあることだと思うが、具体的にはどのような取り組み・枠組みになるのか。

【西田室長】  資料4について、先ほどの論点整理の中の論点1の部分について、研究開発成果を現場につなげる新たな研究開発のあり方として、現状で、どういう課題があるのか、あるいは今後現場につなげるためにはどういった取り組みが考えられるのかというケースの想定等をまとめてみたので、ご説明させていただく。

 まず、科学技術の成果実装の隘路ということで、文部科学省の一般的な委託費の事例を、書いている。通常、文部科学省が研究開発機関に委託をして、研究活動を推進する形になっている。その過程の中で、当然、出口側関係機関の方も含め、助言等はいただいている。ただこれは、専門家という形で委員会、あるいは研究開発の会議にご参加いただいて助言等はいただいているが、必ずしも出口関係機関との組織的な連携が十分できているわけではない。

 また、研究開発に当たり、他省庁国研などからもいろいろな専門的な知見のアドバイスをいただくことがあるが、あくまでボランタリーベースの協力であり、文部科学省から他省庁へお金は出せないので、他省庁参画のインセンティブが必ずしも十分ではないという問題がある。

 また、研究開発の成果と実際に研究開発を政府調達する場合が必ずしも連携をしていない。これは、実際に使う側からすれば、今ある技術、既存にある技術を買うというスタンスであって、研究開発の成果と連携してどうこうという動きが今のところ十分ではない。

 成果実装の死の谷といったものがあり、出口側とのニーズのずれが解消されにくい、あるいは新規性の高いものへの投資リスクがあってなかなか民間の参入が進まないといったことが、問題として挙げられている。

 こうした隘路については解消のための努力を現時点でもしている。事例として安全・安心科学技術プロジェクトの生物剤検知技術を挙げているが、まず、文部科学省の研究開発部局と出口側関係機関との間で連携のための会合などを開いている。しかし、こういった連携は基本的には、情報の共有、あるいは研究開発の重複排除などの研究調整が主であり、出口側機関との協力のインセンティブという意味では、依然として専門家の助言というのが中心になっている。

 また、実際に研究開発機関が成果を実装するためには、例えば基準とか認証の検討とか策定とか、あるいは実際に輸出していく上では安全保障貿易管理との調整といった働きかけが必要になってくるが、こうした取り組みを行うに当たっての各種支援のためのメニューも少なく、やはり成果実装の死の谷で取り組みの限界がまだある。

 アメリカの国土安全保障省における、こうした隘路解消のための取り組みの事例を簡単にご紹介させていただく。

 まず、国土安全保障省では、爆発物対策、化学剤・生物剤対策、コマンド、コントロール、相互運用性の研究、国境管理、海上保安、ヒューマン・ファクター、インフラ防護、地球物理学などの観点を重点的な研究開発として位置づけており、それぞれについて、Basic Researchとして成果転用まで8年以上かかるもの、Innovative Capabilitiesとして成果運用まで2年から5年かかるもの、それから、Product Transitionとして3年以内に成果の移転をするもの、といったフェーズごとに研究開発を実施している。

 このうち3年以内に成果を現場に届ける短期のものについては、関係者間の協力の枠組みである共同製品化チーム(Integrated Product Teams、IPTsと言われている)を設置し、技術利用者のニーズ、プライオリティーを特定して、求められる課題の解決にダイレクトにこたえる研究開発を実施している。具体的な領域としては、12の領域を設定していて、国境警備、貨物の安全、化学・生物剤防衛、情報セキュリティ、運輸保安、手製爆発物対策、事態対応、情報共有、インフラ保護、相互運用性、海上保安、人のスクリーニングである。こうした分野でこういったIPTsというチームをつくり、実際に現場で求められる技術シーズと研究開発のすり合わせをやっている。

 化学・生物剤防御の例を挙げているが、これはDHSの保健部門とインフラ保護部門が共同して取りまとめているとともに、DHSの他の実務者、現場で動かれる方々の参加も得て検討をしている。IPTのプロセスの最初の1年で50以上の技術課題を抽出して、それに合わせた研究開発を進めている。

 研究開発の取り組みの例として、新しい生物学的脅威の検出システム、動物疫病のブレイクアウトを検出し緩和するツール、屋外、屋内での特定を可能とする国家規模の検出システムといったものが挙げられ、研究開発が進められている。

 こうした形で取り組まれた研究開発については、実際に出口側機関が課題選定、テーマ選定の段階からかかわっており、成果が円滑に現場に実装されるような枠組みになっている。研究開発段階において、研究開発部局と技術利用者側で、研究開発目標、製品の仕様等を明確化し、期待された成果が得られた場合の調達については事前に文書で合意することにより、効率的な研究開発と計画的な調達という両面で効果を上げている。具体的にDHSの各運用部門の中で実際に使われている。

 国土安全保障省という非常に巨大な組織の中では研究開発部局と利用する部局が一緒にあるが、例えば我が国でこうした協力をするということになると、研究開発部局とそれを利用する行政機関との間で連携をしていく必要があるのではないか。

 現状の課題として、例えば文部科学省等の研究開発部局においては、運用側との連携のための資金的手段がない。それから、研究開発成果の実装へのつなぎの部分の施策が不十分である。それから、参入リスクが高い分野での民間参入を促すインセンティブが不在している。

 一方で、実際に技術を使う側の行政機関でも課題があり、例えば、運用側のニーズに適した研究開発の不在。基本的にあるものを買い上げるスタンスで、装備費、整備費はあるものの、それを使った研究開発はなかなかできないような仕組みになってしまっている。そもそも課題解決に先端的な科学技術を活用するという指向がなかなかできにくい現状がある。

 こうした課題を踏まえ、研究開発の成果を現場につなげる取り組みの強化として、従来、科学技術の出口にいたユーザーサイドと研究開発部局が初期段階から共働して、国民の安全・安心確保に求められる科学技術の推進と成果の実装を国が主導する取り組みが必要ではないか。科学技術の出口側ニーズを出発点とした研究開発の取り組み、関係機関との連携の促進、それから、成果の実装に向けて柔軟で総合的な支援が必要ではないか。

 これの具体的なやり方として、7ページに、横軸として文科省、出口側機関、研究開発機関、他省庁国研、他の行政機関等、縦軸に各フェーズに分けたマトリックスを書いている。

 例えば出口機関を含んだ研究開発推進チームを置くことによって、テーマ選定段階から出口機関を巻き込んだ協力の枠組みをまずはつくっていく必要があるのではないか。それとともに、出口側機関の行政ニーズにも対応した取り組みへの支援によってインセンティブを向上させる。例えば技術運用のための調査研究、実証技術の評価といったような、彼らが必要とする部分への支援により、研究開発に対する出口側機関の各段階での取り組みの強化が期待されるのではないか。その結果、調達の時期や仕様等を合ったものへと反映していくことにより、研究開発成果が実際につながるようにつなげられていくことが期待される。

 また一方、研究開発機関のほうに対しても、研究開発本体の部分の経費だけではなく、成果を実装するための総合的な取り組みについて支援できる。例えば基準の検討への取り組みや、技術動向に関する国際調査や共同研究、他省庁国研等に対し技術の試験や評価の依頼といったことも含め総合的な支援をすることによって、死の谷を緩和していくことが、今後の科学技術の成果と現場をつなげる取り組みの例として考えられるのではないか。

 最後に、当然、すべての科学技術の分野でこういった取り組みが必要ということではなく、安全・安心科学技術の中でこうした現場につなげる取り組みが必要なものとしては、例えば、国民の生命財産保護のために重要な科学技術、国産技術が望ましい科学技術、民間主導ではなかなか普及が難しい科学技術といったものについて、国が主導的な役割を果たす必要があるのではないか。

 【板生主査】  ニーズというものをどう吸い上げるか、いかにしてニーズとシーズをマッチングさせていくかが大事であることに変わりはないが、今の体制の中でそういうことができるのか。それとも、米国の国土安全保障省のような非常に巨大な組織があって、それでようやくそういうことができると考えるのか。安全・安心という、こういう比較的小さな組織の中でどこまでができるのか、また、理想的な状態を考えたらどうあるべきなのか。

【村山委員】  社会のニーズと技術のシーズのマッチングという話だが、これは新しいことのように感じられる方もおられるかと思うが、実は戦後の日本はこれをずっとやってきた。それはどういう分野かというと、通信、防衛、宇宙である。

 ところがこの開発体制は、いわゆるファミリー体制である。通信の場合は電電ファミリー、宇宙の場合は宇宙ファミリー、防衛の場合は防衛ファミリーで、関係した人たちだけ集まって、ターゲットがあって、それに向かってやってきたシステムだった。キャッチアップの時期はそれで成功したが、今はこのシステムがほとんど崩壊して、機能しなくなっている。その中で安全のこういう問題が出てきた。

 なぜ機能しなくなったかというと、一つは、ターゲットがよくわからないという問題。それから、ファミリー体制であったので、ほとんど国内のシステムづくりだったが、グローバル化の中で海外とずれたものをつくってもだめだという状況になってきた。

 それからもう一つは、ファミリーの弊害として、ファミリー外に新しい技術ができたらどうなるかという問題。いろいろなところで民生技術はいいのができているので、それを取り込むようなシステムをつくらないと研究開発システムがうまく機能しない。だから、明らかにファミリー体制にかわる新しい研究開発体制を安全に関してはやらなければならない。そこはチャレンジで、社会ニーズと技術のシーズを今のこの時点で最良の開発方式で日本は一体どうすればいいかということを考えなければならない時点だと思う。だから、システムを崩壊して、それをまたつくり直さなければならない仕事も今まさにある。

【板生主査】  そういう意味でこの国土安全保障省のような取り組みは、どうお考えになるか。

【村山委員】  実は、国土安全保障省の前に、アメリカはこれをずっと真剣にやっていて、この原型になっているのがDARPA(国防高等研究計画局、Defense Advanced Research Projects Agency)である。国防総省の研究機関であり、先ほどプロデューサーの話があったが、目ききを選定するのである。その人は、その技術の分野の最先端で、一番わかっている人である。その人がシーズを見つけてきて、そこにお金を与えて、1年1年投資している。ある程度でき上がったら、それを使うところに技術移転する。技術移転するところまでその人が面倒を見るというシステム。研究開発をやったら終わりではなくて、それをちゃんとニーズのところにつなげるまでの仕事をやる。だから、まさにプロデューサー的な仕事をしている人がいる。

 それともう一つ、CIAでも同じようなことをやっていて、In-Q-Telという方式がある。CIAがノンプロフィットのベンチャーキャピタルのようなものをつくる。その人は、お金を持って投資するだけだから、それが製品化されるまで責任がある。最後まで責任を持たせるような形で製品開発をやり始めるというのが、アメリカのやり方である。

 日本の場合はどうしても、振興調整費など、何年間かやってお金が切れて、技術移転のメカニズムがなくなって、プロトタイプだけできて終わりという世界である。だから、そこをどうしてつなげるかというのがまさに大きな問題で、アメリカは一生懸命そこはやってきたという歴史はあると思う。

【板生主査】  最近は、科学技術振興機構でも次のバージョンアップをしていくステップの資金を出すというようなプログラムができているようだ。

【村山委員】  研究開発だけではなく、それを社会に生かすためにもお金をつけることが重要。

【板生主査】  現実的な解としてどういうふうに考えていくかというのと、理想的にどうあるべきかという、2つの議論があるべきだと思う。今おっしゃったような形の目きき、プロデューサーを置く形で、新しいシーズと技術を合わせた開発をやっていく、そういう体制をつくることをこの中で提案していく考え方が一つあるだろうし、さらにもっと大きな考え方に立つ例もあると思う。ここら辺のところをもう少し議論していただけますか。

【堀井委員】  市場流通する技術の話と、そうでない技術の話は、やはり分けて考えたほうがいい。

 例えば死の谷の議論というのは市場流通する技術の話であって、安全・安心の技術には、市場流通するものもあるけれども、多くのものはそうでない。国土安全保障省でやって各省庁で使っている技術というのは、市場流通のメカニズムで使われるようになっているということではない。予算が大きいか、小さいかという話よりはむしろ、国土安全保障省という組織ができるときに各省庁の予算・リソースを集めてつくり、権限を与えたわけだから、ちゃんとやれば、それは使われるようになるという話。だから、国土安全保障省の取り組みは日本ではあまり参考にならないのではないか。

 日本で政府の研究開発成果と政府調達が連携してないという問題点があるというお話だが、例えば厚生科研の成果は活用されているのではないかと思うが、そこは調査をされたか。

【西田室長】  厚生科研費の場合は、確かにご指摘のようにかなり連携にはつながっていると思う。というのは、厚生科研費という形で研究開発をする側と実際に使う側を規制する厚生労働省がともに同じところなので、厚生労働省で研究した成果が現場で使われるような規制の緩和といったところがうまく連動されている。

 一方、我々文科省のようなところは、研究開発をする側と実際にそれを使う側を規制する所管の省庁等が分かれているので、そういったところと連携し、あるいはつなげて成果が現場に生かせるような取り組みを強化していかなければいけない。

【堀井委員】  ニーズを持ったところが研究開発予算を持ち、その予算を使うというのであれば、本来使われるべき技術開発に対してお金が投資され、ちゃんと成果があれば、それは使われるというメカニズムで、比較的わかりやすいと思う。それを、ニーズをくみ上げる、あるいはシーズとニーズをマッチングするという、そういう方法で果たしてほんとうに機能するのか。私の感覚としては、それはそもそもノーで、むだな努力をしようとしているのではないかという気もする。

【岡谷戦略官】  まず最初に、市販かどうか。我々は市販でないものを想定してやっている。国土安全保障省をモデルにしているのは、市販でないものをターゲットに、政府調達を前提にして考えている。

 それから、実は我々はもともと科学技術庁というところにおり、要するにファミリー体制でやってきたわけだが、そうではなくてということが今後必要なのは、まさにそのとおりだと思う。企業もインハウスの研究開発からアウトソーシングの技術フィッシングにどんどん移行してきている。先ほど、シーズと技術のマッチングについて、厚生科研の例をとられたが、あれはある程度インハウスである。そうではなくて、我々はアウトソース。要するに、文部科学省がやっている一つの意味は、技術のソースになるところは非常にブロードなベースにあるのではないかと。それをどのようにしてニーズのところに結びつけるメカニズムをつくることができるのかという、ある意味ではファミリー体制から抜け出た新しいメカニズムをここでつくろうということがねらいである。そういう意味で、資料4の1番(科学技術の成果実装の隘路)と2番(科学技術の成果実装の隘路解消のための努力)に限界があったのは、本来ならばこのほかに3番、インハウスでやったところの限界例というのがあるはずである。それを、この4番で、ブロードな技術ベースにあるものをいかにしてニーズであるところにつなげていくか、これをどうやって連携させるのか。文部科学省は単に技術のフィッシングをするだけではなく、連携するグルー、のりのような役割で、例えば振興調整費というのは、他省庁にもお金を配れる仕組みである。そういうグルーの役割を果たしてニーズ側とシーズ側をマッチングさせる、インハウスであるシーズとニーズのマッチングでなく、外にあるシーズとほんとうのニーズとをマッチングさせるメカニズムとして、この7ページはほんとうにうまくファンクションするかを先生方にお伺いしたい。

【堀井委員】  3期でそういう社会への実装ということを掲げて今までいろいろ努力をしてきたが、文科省の研究開発事業として、社会への実装というところにフォーカスを当てて取り組むのが、ほんとうに文科省の取り組みとして適切なのか。総合科学技術会議がそう言ったからそれは正しいという考え方もあるかもしれないが、文科省がそもそも目指すべきことと違っているのではないか。

【岩瀬総括官】  今、文科省でも、次の基本計画に向けて科学技術政策全体の議論をし始めていて、安全・安心の話はその中の一つである。実装、イノベーションと第3期でも言葉として出てきたが、ほんとうにイノベーションをどうやるかというところについては、議論、あるいは施策は十分ではなかったと私は理解している。したがって、第4期で初めて、科学技術政策ではなく、科学技術・イノベーション政策を議論する必要があると私どもは思っている。

 それで、文科省だけでやる議論の中でそこまでできるのかといったときに、答えは簡単でできない。科学技術、イノベーション、だんだん広くなるわけだが、文科省は科学技術の狭いほうの中心的な役所であって、イノベーションまで入れて文科省の中でできるか。できないのは明らか。どこの役所の中でもできない。しかし、科学技術・イノベーション政策は日本の国全体としてやらないといけないものだから、文科省としては、科学技術の中の一番大きい役所として、それに対して提言をちゃんとしないといけない。科学技術・学術審議会で、我々文科省がやる部分だけではなく、日本全体として科学技術・イノベーション政策というものをそれなりに整理して、省庁越えて枠組みをちゃんと議論しないとできないという提言はしたい。

 したがって、文科省でできないことは当然入っていると思う。それをあえて承知の上で、ほかの省も含めて、どんなことをやれば日本全体として動くのか、そこまでご議論いただくとありがたい。

 7ページは、例えば振興調整費という特定の予算を使ってやる具体的なモデルを考えたらという非常に特殊な場合の絵がかいてある。一般論としてこうだということはない。特定の文科省の予算だが、ほかの省庁にも、科学技術の少し外側で使ってもらえるかもしれないというお金まで文科省が出すとしたら、どんな絵がかけるのかというのを一つかいてみた。それ以外のやり方もいろいろあり得て、すぐできるかどうかわからないが、日本全体でこんなことができるのであればワークするというのがあれば、ぜひ知恵を貸していただきたい。

【堀井委員】  だとするならば、7ページはとりあえずつくられたわけだが、もっと抜本的な連携のあり方をここで議論してつくるべきだと思う。

【板生主査】  我々の安全・安心科学技術委員会というのは特別な委員会である。従来、技術関連の話はいろいろあるが、それに比べて、縦型ではなく横型、言ってみれば技術をベースにしているが、技術を活用して社会とのインターフェースをどうつくっていくかというのが安全・安心科学技術委員会で扱うべき課題であり、そういうような研究開発、またはそういうものを実現する手段、またはそういうシステムというものをどういう仕組みで国民的なニーズにこたえるものをつくってやっていくのかが、非常に大事なところへ今来ていて、我々の安全・安心のこの委員会が一番最初に直面しているのではないか。我々としては、まず国の開発はどうあるべきかという議論をして、なおかつ安全・安心はどうだという話になるだろう。

 したがって、広げていかないと答えが出てこないかもしれないのでその辺の議論をして、最終的にはやはりニーズとシーズのマッチングという話が具体的にはっきりわかりやすい話になると思うので、それを実現するためのシステム、技術はどうあるべきかと。オープンイノベーションのように、オープンに技術を調達していく、またはそういう知恵をお借りするという形をとっていかないと解決しない領域に達しており、そのような実現をするための方策というのはどうあるべきかを議論していくのが大事なポイントではないか。

【樋渡委員】  アメリカの場合はテロ攻撃を受け、二度とそれを起こさないためにはどうしたらいいかと、それは真剣なわけである。だから、こういう技術の開発、イノベーションも含めて、こういうことが起こったら困るとか、こういうことをしたいというニーズを持っているところが推進力になる。それに対して政府がどういう形で枠組みをつくってという、そういう介入の仕方、どういうふうに政府が推進するものをつくろうという考え方自体に基本的に疑問がある。

 それから、今、内閣府でも安心・安全と言ってやっている。ここでもそういうことをやっていて、何か日本全体が国防以外の安心・安全をどんどんやっていくというイメージを私自身は持っている。今、安心・安全で一番何が問題で、こういうことをやりたい、やらなければ困ると言っているところはどこなのか、そこにお金がどーんとつくような形にするのが先決問題ではないか。

【板生主査】  日本の社会はお金がどんどんつくということがない。だから、そこをどういうふうなシステムにしていくか。

【樋渡委員】  であれば、日本の政治制度、予算制度のあり方から何から全部根本的に再検討するという、それくらいやらないと、ここで枠組みをつくって、こういうふうにやったらうまくいくというレベルの話ではないのではないか。

【奈良委員】  私は安全・安心の中でも、安心にかなり近いところで、つまり生活者にかなり近いところで仕事をしているので、そういう立場の人間からすると、前回の議論を踏まえて事務局でまとめた論点整理の方向性の3つは、とてもいい。非常に歓迎している。

 ただ、論点の1番目について、科学技術の成果を現場につなげるやり方については、2つのレベル、タイプがあると思う。一つのタイプ、レベルというのは、専門家のニーズを専門家の持っているシーズとマッチングするやり方で、多分これが専門家を出口側と表現されている国土安全保障省のモデルに近いと思う。つまり、専門家たちがエンドユーザーである国民のニーズ、特に安心を把握しているという前提で、専門家としてニーズを出してきて、それをまた別の領域の専門家が持っているシーズでもって手当てしよう、そのマッチングをしようというモデルである。

 もう一つのレベル、タイプというのは、専門家ではなく、素人、つまり、生活者とか、市民とか、消費者と呼ばれる人たちが持っているいわゆる生活者レベルのニーズと専門家のシーズをうまくマッチングさせるというタイプであって、そのモデルが出てきていないので、議論がまじってしまっていると思う。

 一つ目のタイプが国土安全保障省モデルに近いとすると、2つ目の素人のニーズを専門家の技術とマッチングさせるというタイプのモデルは、今、科学技術振興機構社会技術研究開発センターが行っている「犯罪からの子どもの安全」のやり方がかなり近いと思う。つまり、ほんとうに当事者である地域で困っている人たちが研究開発の中に入ってきていて、ニーズを言って、それに大学の教員が協力者として入ってきて、ともかく解決のためにそこにお金をつけるというやり方である。

 申し上げたいことは、この2つのレベルを混同しないで、モデルを分けて議論をするほうが、すっきりしていい。一つにできるモデルがあればいいのかもしれないが、無理であれば、別のモデルをつくるということで、2つ目のタイプのニーズとシーズのマッチングに対しては、文科省の中でやるより、それこそ科学技術振興機構社会技術研究開発センターで個別具体的にやっていただくのがいい。一つ目のレベルのニーズとシーズのマッチングは、省庁の連携、大きな企業との連携になるだろうから、本省でやったほうがいいと思うが、そういうことを区別してやっていくといい。

 もう一つは、どちらのタイプのモデルをつくるにしても、人がどんどんかわると、面倒を見られなくなる、お金も途中でなくなるという話で、マッチングを担う人を3年くらいでころころかえずに、長くいてくださるような制度改革をしていただけると、かなり安心して生活者はニーズを言えるし、専門家はシーズをさらにニーズに合わせて開発していけると思う。

 それから、論点3も、とてもありがたい。というのは、私は放送大学の学生にいつも触れ合っていて、彼らは、生活者、つまりエンドユーザーであると同時に、専門家でもある。意外と論点3のニーズが転がっているので、これを吸い上げるということも、大事なことかと思う。

【岸主査代理】  シーズとニーズの話で理想論と現実論というのがあると板生先生のお話があったが、現実的なことを考えると、現在でも、文科省と警察庁で科学技術に対する取り組みをしているとか、あるいは国交省が安全・安心でつくっている機材に対して興味を持たれていること等があるので、そういうところを民間企業に任せるのではなく、文科省が間をとって、その種を膨らませていくような形をとっていけば、少しずつ連携がとれてくると思う。理想的にはもっといい話があるかもしれないが、現実的にはそういうところが必要だ。

【村山委員】 今までの日本の場合、国がサポートした科学技術政策の一つの欠点は、議論の重点が予算全体の大きさに集中するということ。もう一つが重点分野の選定に集中してしまうこと。そこまではみな一生懸命やるのだが、そこで議論が終わってしまう。それは非常に大きな欠点で、実はお金を出す仕組みをしっかりしないと、イノベーション政策というのは動かない。どういう仕組みでやれば結果が出るのかというのをお金を出すときに考えなければならない。

【札野委員】  科学技術・イノベーション政策といったときには、結果が出てくれば、結果の評価というのはそれなりにできる。どれだけの新しいアイデアをつくり出すことができたか。ところが、安全・安心の科学技術といったときには、何をもって政策を打ったことの結果を測定・評価するのか、どう結果をはかるかというところも視野に入れておかなければいけないと思う。この点でも、今までの形が見える結果が出るような政策と違うところは、安全、特に安心のところにあると思う。だから、特に生活者の安心というのをどういう尺度で判断していくか。単に世論調査をすればいいのか。その辺のところは人文・社会科学的な知見を生かしていくというところに反映させるべきではないか。

【板生主査】  安全と安心が混在して議論をしているから、いろいろなことが混乱するのだと思う。安全は科学的には取り扱いができそうな話だが、安心というのはなかなか純科学的には取り扱えない。かなり融合的な知識・要素が要るということと、さらに、もっと複雑系であって、もっと非線形な世界になっているので、その複雑・非線形なものに対して、どういうふうに答えが出せるのか。2つ大きな、線形性的なものと非線形性的なものを抱え込んで、それを一緒になって解決しようということにどだい無理があるのかもしれない。この辺のところは、何回か議論はしているが、少しずつ整理をしていければいい。危険物を検知するとかいうような国家レベル、社会的なレベルで危機管理をきちっとやっていこうという安全の話と、生活者がほんとうに安心できるシステム、これは非常に難しいが、いろいろな情報を開示するようなこと、情報技術によって安心を与えるような技術開発、またはシステム開発があるかもしれないので、この辺のところをある程度分けて最終的に議論することになるだろう。7ページはどちらかというと危機管理のほうのケースといえる。

【橋本委員】  7ページの図は、これはすごい力作だ。安全・安心というのは、シーズが一つではない。ニーズはあるけれども、市場性があまりない。そういうものに対して、研究開発をどういうふうに進めていったらいいか、その枠組みをつくろうという意欲があらわれている、すごい力作だと私は思う。成果というのは、例えばどのぐらいのスパンで見るかで評価が分かれるが、7ページのような提案は教育的な面で高い成果が期待できると思う。大学の先生方にこういう形でプロデューサー的なことをやってもらう、あるいはだれかに任せてやってもらうことでそういう人たちが育っていく、教育的な意味で大きいと思う。

 ここで議論をしているように、たとえコンシューマーレベルで欲しいと思っている安心・安全のシステムなり技術なりであっても、マーケットがすぐには大きくならないものは多い。そういうものに対して、技術者、あるいはプロデューサーになろうという人たちが目をつけて、この仕組みだったらやってみようと思う――そういう仕組みづくりを用意するのはまさに文科省が進めるべき話なので、枠組みづくりをあまり否定しないほうがいい。この会議の中で、こういうものを提言していくということがむしろ同省としてユニークではないか。

【板生主査】  全部を解決するような図というのはかけないと思う。一つのケースに関してはこう、このケースに関してはこうというような形の提言はできるのではないか。

【堀井委員】  7ページの図は、これまでに比べればはるかに工夫はされ、力作だと思う。村山先生が予算を出す仕組みが極めて重要だとおっしゃったが、これはそういう意味では、技術運用のための調査研究や実証技術の評価のような予算を文科省が出して、出口側の関係機関がそれを使って実施するということなので、これまでに比べればかなり進歩しているが、抜本的な連携が図れるとしたら、例えばマッチングファンドのように、出口側関係機関が半分お金を出し、文科省が半分出し、両方が一緒に公募内容を検討し、両方が一緒に審査するとか、そういうことができればよい。

【村山委員】  今の堀井先生のやり方というのは、一つの独立した方法としてあると思う。それをCSR(Corporate Social Responsibility)方式と呼んでいるが、NPOや大学が協力して、企業、経済団体がこういうところにニーズがあるという形でプロジェクトを立ち上げる、それを選定して、国の安全・安心にとって重要だということであれば、国もマッチングファンドをそこにいれて、開発をしていく。そうすれば、企業は最初から企業主導でやっていけるので、おそらく実現までいける可能性があると思う。企業も、直接利益がなくても、CSRのためにこんなことをやりましたということで、会社にとってもいいわけである。だから、こういう形でおそらくいろいろなやり方があると思う。

【板生主査】  どういうふうなスキームにしたら、社会の、生活者のレベルから国民にもよく見えるような形にビジブル化できるのか、いろいろなケースを想定していければと思っている。ぜひそういうスキームに関するご提案もいただければありがたい。

【青木委員】  こういう仕組みがということを申し上げることはできないが、国家レベルが最終的な利用者になる場合と、素人が最終利用者になる場合の仕組みというのはやはり違うと思う。素人のところでは安全とともに安心が非常に重要になってくると思う。難しいのは、安心と、それに似ているけれども違う、諦念、あきらめによって心の平静を保っている場合、これをどういうふうに区別して考えたらいいのか、ということだと思う。例えば、安心を追求するというところでますます要求を強くすると、その人が持つ、こういう技術が欲しい、こうでありたいという解像度が高くなるから、もっともっとといってかなり難しい状況にもなるのかもしれない。安心というときには、倫理観とか、リスクをどうとらえるのかという問題もあわせて考えていかなければいけないと思う。抜本的な解決ではないが、素人の安心、ニーズを伝える側と、技術を持っている側との間の通訳に当たる専門家の育成、うまく言語化できないところを言語化する役割を持つ人たちを科学技術者と同等の地位を持つ人として養成していくことが必要ではないか。

【板生主査】  安心を実現するためのいろいろな考え方はあるが、そういう考えを整理する人を養成する。

【青木委員】  例えば子どもの安全では、素人は、今どういう技術が可能なのかということがわからないので、自分の不安を明確化し、それに対してこういう科学技術での対応ができたら助かるということをうまく説明できない。例えば最先端の技術がある人との間で会合があったとしても、うまくできないかもしれない。実はこの人がほんとうに欲しいものはこういうものなのだというところを同定していく専門家。ITの世界などでは結構できていることをもっと広い範囲でできるかと思う。

【板生主査】  日本では一部の情報が先行して蔓延し、大変だ、大変だと大きくなる。そういうことに対して権威のある人がいて、これはそんなに大した話ではないから安心してくださいとか言う人がたくさんふえることが大事だ。人材というか、そういうものを実際にわかる専門家を育てるということ。

【村山委員】  資料4の8ページの図で、両用技術というのが出てくるが、位置づけをどうしたらいいのか。横の点線の部分があるが、おそらくここに両用技術が来ると思う。だから、テロ対策とか、そういうところにも使えるし、民生用にも使える。安全・安心というコンテクストで両用技術を見ると、まさにテロ対策にも使えるし、民間のこういうところでもお金もうけできる、それが両用技術である。だから、両用技術を利用すると、上と下をいかにうまくフィードバックで連携させるかということが重要となる。例えば政府がお金を出して、テロ対策の機器を開発する。その技術が下におりていって、防犯というところにも使える。その防犯の部分でまた技術開発が起こって、それが上に上がって、政府レベルでも使える。そういうふうに両用技術はうまく回るものである。だから、位置づけとしては、この間に両用技術を入れたほうがわかりやすいと思う。

【堀井委員】  そういう意味では、ここで言っている両用技術は、軍民両用技術とは違う。

【村山委員】  安全・安心のコンテクストで両用技術を考えたほうがいい。

【岡谷戦略官】  同じ両用技術という言葉を使っていいかどうか。私たちはここでは軍民両用のことを言っていて、先生がおっしゃっているのは、民生のパフォーマンスのほうか。

【村山委員】  安全・安心の分野で両方使えるような意味である。違う言葉を使うほうがインパクトがあってよいかもしれない。

【板生主査】  この資料の8ページの整理は、もう一度やっていただきたい。

 この資料を基本にして、技術はこういうふうになってやられているということに関していろいろなものが全部説明できるようにしたい。

【岸主査代理】  安全・安心というのは次々に新しい問題が起こるものであるから、7ページの図では、調達の調達時期、仕様等への反映というところで終わってしまうような形になっているが、これをフィードバックして、また新しく研究開発する、そういうイメージが研究開発の実際に合ってくると思う。

【堀井委員】  資料3で論点1、2、3とあって、論点というよりは、ここで取り上げるテーマ、課題ということだと思う。論点1はどちらかというと、現場に成果がつながるという、非常に短期的で、かつ現場ということが言われているから、ある程度分野別の特定分野の話。分野横断的というか、基盤技術として安全・安心社会にとって大切な技術があるはずで、そこは人文・社会科学の知見が必要であり、安心対策とは何かというのはそういうところで議論をするべきことである。多分、特定の課題の中でもそういうことは議論するだろうが、むしろ安全・安心のテーマであれば、どこの分野でも必ず必要になる基盤的な技術というのがあるはずなのに、それが論点には挙がっていない。論点3も一応人材育成ということで、どこかに入れようと思えば入るのかもしれないが、集中と選択ということもあるので、ここでは取り上げないというメッセージか。

 ここでの予算は使えないかもしれないが、例えば科研費の特定テーマなり、複合領域なり、本来どこかに安全・安心にかかわるものがあって、人文・社会科学の人がかなり参画できるような領域で、長期的な視野で研究を行うというようなことがあるべきだと思う。どういうふうにしてそこでテーマをつくっていくのかとか、どういう研究がそこでなされるべきかのようなことをここで議論するのは、金のかからない話だし、ほかにないわけだからやったらいいと思う。そういうのも視野に入れていただけるといい。

【板生主査】  そういう分野をどう考えるか。現時点でどう考えるかというのを、前にも出していただいたが資料を出していただくとありがたい。ケース1、2、3ぐらいにして、それぞれどういうものがあるか。分けていくと、安全と安心がかなり分離する可能性もあるし、それから国家的なレベルの話と生活のレベルの話とあるので、2次元か、3次元、4次元の、それぞれに関してどうだという議論をしたほうがいいのかもしれない。結果的には一つにまとめられれば一番いいが、その辺を次回あたりに少し議論させていただければと思う。

 とにかく、総論というか、そういうものがきちっとあって、各論としてこういうものがあるというような形で、いろんな形で取りまとめができるというか、そういう議論ができればありがたいと思う。

【西田室長】  資料6の安全・安心科学技術委員会のスケジュール(案)について諮らせていただく。基本的には前回の会議でお配りさせていただいた資料とほとんど同じだが、今回、8月から秋ごろ、第22回以降に、重要課題の検討というのを追加している。これは、6月以降、新たに特別委員会というのを立ち上げて次期科学技術基本計画に向けた検討が始まる予定であり、それにあわせて各分野別の委員会でも重点課題等についての検討が始まる。当安全・安心科学技術委員会においても、安全、安心科学技術分野における重点課題・重要テーマ等について、今回に引き続き、検討をしていただければと考えている。

 資料5は、現在、総合科学技術会議の社会基盤プロジェクトチームで分野別推進戦略の中間フォローアップを検討しており、その途中段階のものをご参考までにお配りさせていただいた。

 構成は、社会基盤分野の研究開発全般をめぐる近年の情勢ということについて概述した後、各分野別の課題と今後の対応のあり方ということで中身をまとめている。集中豪雨への対応でとか、地震調査・観測、犯罪防止・捜査支援のための研究開発、社会基盤の維持・管理、道路交通事故の削減、あるいは人材育成といった個別の課題を挙げて、検討をしている。

 今回の安全・安心科学技術委員会の中で議論をしていただいた現場につながる研究開発のあり方については、この資料の2.3.3の対応方針として、科学技術の成果と現場をつなげる新たな研究開発の仕組みの必要性といったことを報告書の中でも提言している。

【板生主査】  効果的な社会システムとして構築するというあたりは、どういうふうに持っていくのか、考えないといけない。

【岩瀬総括官】  村山先生のご発言の中で、前回の基本計画のときに途中から重点分野の議論に行ってしまってという話があったが、戦略重点科学技術とかいう言葉を使ってそれなりにアプローチを改善したことになっているが、結局、サプライサイドの研究分野からの重点化だった。それは重点化のやり方としてはベストではないのではないか。まさにこの安全・安心でやっていただいているように、こんな課題、こんな問題を解決することが社会として重要だ、国家として重要だと、そういう軸でむしろ重点化すべきではないかという議論があり、私どもも次の基本計画ではそういうふうに方法・プロセスが変わるということを期待している。この委員会はまさにそういう議論を先導してやっていただくのにいいところと思っているので、重点化というところでも、ニーズのイシューから重点化をこんなふうにしたらいいのではないかというような議論もしていただくとありがたい。

【岡谷戦略官】  きょうご議論いただいたものは主に論点1の話だったと思う。論点2については、どなたもおっしゃらなかったが、国際的な協力活動の強化及び技術情報の取り扱いには、オールジャパンで非常に悩んでいるところなので、次の委員会のときにはぜひいろいろご助言いただければと思う。

【板生主査】  きょうは論点1を中心にしたので、2、3は次回ということでお願いしたい。

委員会の進め方等についても、何かご注文があれば、ぜひ。自分はこう思うという資料を持ち込んでいただいて、こうだと説明していただくと、4次元ぐらいになりそうなので、ケース1、2、3、4ぐらいまでつくれればいいだろうか。

【西田室長】  次回は5月下旬に第19回の会合を開催させていただきたい。今回、論点1を中心にご議論いただいたので、それを再度整理してお諮りするとともに、論点2、論点3について順次、各論として議論を深めていただきたい。

 

―― 了 ――

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