安全・安心科学技術委員会(第16回) 議事録

1.日時

平成20年11月25日(火曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省 7F1会議室

3.議題

  1. 地域の安全・安心の確保に係る研究開発について
  2. その他

4.出席者

委員

板生 清 委員主査、井上 孝太郎 委員主査代理、大野 浩之 委員、岡田 義光 委員、岸 徹 委員、土井 美和子 委員、
奈良 由美子 委員、堀井 秀之 委員、松尾 亜紀子 委員

文部科学省

泉 紳一郎   科学技術・学術政策局長
岡谷 重雄   科学技術・学術政策局科学技術・学術戦略官(推進調整担当)
西田 亮三   科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室長

オブザーバー

金氏 眞           財団法人大阪地域計画研究所 理事/鹿島建設株式会社土木管理本部 技師長
久野 譜也    筑波大学大学院人間総合科学研究科 准教授 
飯利 雄彦     警察庁捜査第二課 理事官
降籏 喜和男 警察大学校警察情報通信研究センター 基礎研究室長

5.議事録

(1)地域の安全・安心の確保に係る研究開発について

【板生主査】   前回の委員会では、安全・安心科学技術プロジェクトの今後の取り組みについて議論したが、本日はそのうちの地域の安全・安心の確保にかかわる課題について議論を深めてまいりたい。前回の議論と本日委員会の趣旨について、事務局から説明をお願いしたい。

【西田室長】  前回の委員会において、地域の安全・安心の確保に係る課題として、地域の医療・介護や自治体のインフラ管理、それから街頭犯罪への対応等を取り上げ、その解決に向けた取り組みとして、人間情報の計測・モニタリングシステムの医療・ヘルスケアへの適用、また自治体のニーズを踏まえた社会インフラの効果的検査・診断システムの開発、それから犯罪の抑止等に資するセンサ、情報システム等の活用による異常の検知や危機管理対応等といった例を取り上げた。本日は、これらの課題と取り組みに関する有識者をお招きしている。

 まず、社会インフラの管理については、自治体が管理するインフラの中で昨今老朽化した道路橋が特に急増しており、国土交通省も自治体向けに道路橋の修繕計画策定への支援策を打ち出している。しかし、点検・修繕の実施に当たり、多くの自治体で財政的、技術的課題を抱えている。こうした中で、青森県と共同で実施している点検・修繕の先進的なマネジメントシステムについて紹介していただきたい。現在は道路橋のみが対象になっているが、将来的には下水道等、他の社会インフラの管理にも適用が期待される。

 次に、地域における健康管理の取り組みについて、科学的なデータを活用した健康プログラムを自治体、保険組合等と共同して実施し、医療費の削減にも効果を上げている取り組みについて紹介していただきたい。

 最後に、犯罪対策の現場を担う警察から、我が国の犯罪状況の概観と課題解決に向けた技術ニーズに関して紹介していただきたい。

 そのうえで、意見交換を行い、安全・安心科学技術プロジェクトにおいて今後取り組むべき研究開発テーマ等について委員方からご意見をいただきたい。

 

<有識者ヒアリング1 道路橋の安全・安心を確保するためのブリッジマネジメントシステムについて>

金氏理事が、資料1を用いて道路橋の安全・安心を確保するためのブリッジマネジメントシステムについて報告した。

まず、背景理解のために、「荒廃する日本」としないための道路管理という国土交通省道路局が出している資料から引用の後、道路橋の安全・安心を確保するための課題にはどんなものがあるかという報告があった。構造安全性能、交通安全性能、第三者被害防止という3つが道路橋に求められる安全性能であり、この安全を脅かす3つの要因は、要求性能を満たさない古い橋梁、劣化・損傷、不十分な維持管理予算であり、これらに対する対策は、計画的な更新・補強、性能劣化防止、維持管理予算の確保である。どのような費用が将来必要になるかということを算定するために、橋梁データベースの整備とそのためのブリッジマネジメントシステムの開発が急がれている。

次に橋梁マネジメントをやっていく上での二つの視点である個別橋梁マネジメントと道路ネットワークマネジメントの視点、すなわち個別の事象と全体の事象を見ていく必要があるとの説明があった。その考え方に基づいて、青森県で既に3年前に開発、実用化されているブリッジマネジメントシステムについての紹介があった。

 マネジメントシステムのPDCA(plan-do-check-act)サイクルとは、点検・健全度評価をし、このデータをもとに劣化予測をし、ライフサイクルコスト(LCC)という長期の予算計画に必要なコストを算定する。今度は重要度に応じて維持管理シナリオを選定し、予算シミュレーションを行い、中長期の予算計画を立て、それが決まると、中期の事業計画、進捗管理、事後評価・フィードバックで、PDCAサイクルを回していくというシステムである。

 それぞれの橋梁に適したシナリオ、管理水準を選んでシミュレーションをした結果が青森県の事例である。我々のシステムは、点検結果をもとにしてすべての作業が行われ、維持管理シナリオという管理水準、管理目標を決めることによってマネジメントをするというスタイルになっている。

コスト縮減効果については、青森県の事例で、更新を前提として橋梁の維持管理をしていくと2,600億円かかるのに対し、予防保全型で管理をすると745億円ということで、1,855億円の差が出る。あるいは事後保全で後回しにしていくのに比べても505億円のコスト縮減効果がある。

 道路ネットワークの管理体制というのは、国交省の直轄、高速道路会社、地方自治体、道路公社等になっている。道路管理者ごとに異なる点検マニュアルがあり、今現在地方自治体間ではいろいろとブリッジマネジメントシステムの開発競争が展開されているが、いずれは淘汰されてくる可能性が高いのではないか。したがって、今後の技術開発課題については、いろいろな点検マニュアルで収集したデータをブリッジマネジメントシステムに適用する際のインターフェースを開発して、一つの大きなデータベースシステムをつくれるような形になればよいと考えている。

【板生主査】  点検支援システムについて、センサーを使ったりしながら自動的に、どのぐらいのコストでやることが可能かを教えて欲しい。

【金氏理事】  モニタリングをする場合には、ある物理量、変位をはかる、あるいは何かの事象をピンポイントではかるということになるが、橋梁というのは非常に大きなものなので、どこで何が起こるかはわからない。例えば明石大橋といった大きな橋梁で変位を計測しながら全体の健全度を調べるといったモニタリングは行われているが、全国の68万橋の橋梁一つ一つにそういう設備をつけるというわけにはいかない。定点観測のためにモニタリングをするということは、多分有効だろう。また、重要なポイントがあって、そこで何かを計測することによって全体の健全度がわかるといった仕組みになっているものについては有効である。

【板生主査】  新しく建設する場合に、メンテナンスコストまで考えて、センサーなどを入れてモニターしたほうが、ちょうどバランスするところがあるのではないか。

【金氏理事】  センサーの寿命と橋梁の寿命とがどちらが長いかということになると、橋梁の寿命のほうが非常に長い。鉄筋の腐食が始まったかどうかを検知するシステムを埋め込んでも、40年間そのセンサーそのものが生きているかどうか。センサーの寿命を考えると、一番大事な使い道は、かなり劣化した危ない状況の橋については、危ないポイントが幾つかわかっているので、その信号をとらえるのは非常に有用だと思う。

【井上主査代理】  科学技術でできることは、点検、健全度評価、それから劣化の予測だと思う。しかし劣化の予測のところの誤差が現状では結構幅があるように、精度の問題がある。

また、点検、健全度評価、劣化予測にどれくらいの費用が使われているのか、十分やったとしてどれぐらいかかるのか。新たな自動モニタリング、もっと簡易な手法を開発するなどの科学技術によってどのくらい費用が下げられるのか。

精度を上げられるのかという問題と、費用は下げられるのかという問題で、何か検討されたことはあるか。

【金氏理事】  精度については、例えば一つの橋梁でも、ばらつきがあるのでピンポイントですべてを予測するというのは非常に難しい。点検結果でそれぞれ見ていった場所の数値を入力して自動修正する。それがどのような影響を与えるかというと、すべては予算措置だと思う。

【井上主査代理】  費用の予測も大事だが、物理的な意味での劣化の予測精度を上げる方法や点検の簡易化、あるいは特に古いものでコンクリートと鉄筋の両方の劣化を見る技術、といったものはまだ開発の余地があるとお考えなのかどうか。

【金氏理事】  対策方法にはかなり改良の余地はある。それから、事象解明、劣化予測には定点観測、データ蓄積が一番である。

【板生主査】  科学技術を使って安全・安心をどうつくろうかということがここでの議論の主題だが、鹿島建設さんの中ではその辺はどうなのか。マクロに見れば、今のブリッジマネジメントのやり方はすばらしいが、その次のステップにどのようにアプローチしていくかということが、これから求められるのではないかと思う。

 

<有識者ヒアリング2 地域の健康づくりの支援システムについて>

久野准教授が、資料2を用いて地域の健康づくりの支援システムについて報告した。

第一次予防をメインに取り組んでいる。例えば検診で病気が見つかったら早く治そうというのは第二次予防だが、病気そのものにならないように、いかに高齢化の社会の中でQOLを維持していくかを第一次予防としてやっている。

 高齢化・人口減社会の到来、国民保険制度の破綻の懸念といったドラスティックな変化状況が背景にある。そういう中で、健康というのは、個人や家族だけの問題ではなく社会との両面がある、80歳、90歳になっても地域で普通に暮らせることが目標であり、それそのものが社会貢献なのだという考え方が一般的になっている。健康維持努力をすることは個人と社会双方にとってメリットである。死亡原因の3分の2、医療費の3分の1が生活習慣病関連なので、生活習慣、ライフスタイルをどのように変化させていくのかということに関して、科学技術がどう貢献できるかということが大きなテーマになると考えている。

 現在の具体的な健康づくりの課題を4点挙げる。まず1つ目は、今自治体等で行われている健康づくりは、科学的根拠よりは経験・イメージ優先に基づくサービス・指導がなされている。企業においてもそういうことを理解している人が非常に不足しており、大学教育を含めて一つの課題である。

 2番目は、自治体の首長や企業の経営者も、住民や社員の健康は大事だと必ずおっしゃるが、具体策が見えていない。危機感が弱いということと、成功像が見えていないので、どう取り組んでいいのかがはっきりしていない。

 3番目は、多くの国民が健康づくりの実施と継続を可能とする望ましい社会環境が開発されていない。それから、健康づくりを何とか起こそうというインセンティブのある制度というものも開発されていない。

 4番目は、健康づくりをしていない人たちで、調査結果では「わかっていてもできない」「忙しい」という理由が毎年必ず上位にきているが、依然として解決されていないという現状である。

 それから、運動や食事のプログラムは、安全性の問題もあるので個別プログラムが基本である。しかしながら、市町村の9割が個別プログラムを実施できておらず、理想はわかっているが、実態が伴っていない。

 そういう中で、我々の研究成果を大学からより社会還元するため、7年前に大学発ベンチャーのつくばウエルネスリサーチという企業を立ち上げた。問題点を解決するためには、IT技術をいかに使うかということであるので、いろいろな自分の情報について、評価を受けながら進めていく、e-wellnessシステムを開発した。基本的な考え方は、数万人や数十万人規模でも個別対応を可能とし、科学的根拠に基づいたプログラムが全国どこでも受け取れるようにすること。成果を出すための条件としては、科学的根拠、評価に基づく個別プログラム、継続支援のコンテンツ、地域コミュニティーをどうつくっていくのか、専門職の高度化とそれに見合った賃金ということがポイントになる。

 今後の課題ということでは、メタボ対策、減量で全国で間違った指導がなされているという実態がある。また、メタボ予防になかなか国民が参加してこない。健康づくりをやっているのは比較的健康な人たちで、問題がある方々はほとんど入っていない。ここの行動を変えていくようなものをシステム化していかない限り、問題が解決していかない。運動や食事の指導というのは、ライフスタイルをうまく変える支援をしなければいけない。地域に自分に合ったプログラムや支援を受けられるような場所をどうつくれるか。

 健康投資社会実現に向けての課題ということでは、日本ではまだどこも成功していないB to Cモデルを入れていかないと、多くの国民が参加することができない。B to Cモデルでの展開を可能とする健康サービス提供システムというものをどう成立させていくのか。その前には、科学的コンテンツと消費者のニーズをマッチングしたサービスサイエンスに基づく健康づくりコンテンツの提供ということが重要であろう。それから、身近ないろいろなところでコンテンツが受けられるような、ウエルネス・ステーション構想と呼んでいるが、どう実現していくのか。最後に、健康の維持・増進に努力したくなる社会制度や風土の確立と、それを可能とするシステムの開発が重要である。

【板生主査】  育成者、指導者をどうやって育てるかということに関して、さらに何かあるか。

【久野准教授】  よい指導者を育てるためには、日本において健康サービスそのもののビジネスモデルが成立しないと難しい。指導者がきちんと職業化していないということで、なかなか人材が入っていかないという現状がある。ビジネスモデルを含めた指導者の育成がポイントになる。

 もう一つは、よいコンテンツ、よいサービス、あるいはセンシング技術が発達して、すぐに情報などがきちんととれる。日本の企業というのは、機器のほうの開発は非常に先進的だが、機器とサービスの一体化がされていない。機器と一体化したサービスの技術開発というのが、結果的にそういう指導者の育成にもつながっていくだろう。

【堀井委員】  コミュニティー化が大切だというが、ウエルネス・ステーション構想とコミュニティー化というのは何か結びつくのか。

【久野准教授】  100世帯にPC、エアロバイクを配り、保健センターとネットで繋ぎ、全部ITで家庭でできるというものと、従来的なコミュニティー型、週に1、2回教室でやるのと比べたところ、1年後の継続率は全部ITにしたほうが20%ぐらいで、一方コミュニティーをつくったほうは80%以上だったという経験を持っている。だから、全部IT化は健康づくりに関してはだめで、必ずどうコミュニティーをつくっていくかということがポイントだろう。家庭に入れずに、あえて買い物のついでなどに地域の特定の場所に行ってデータを入れて、その場で指導者と対面する中でコミュニティーをつくっていく。

【堀井委員】  インセンティブをつくる上では、保険料の割引などがあると一番効果的かと思うが、検討されているか。

【久野准教授】  こういう健康づくりは定量化できるのでポイント化して、それを例えば保険料の一部に充当するようなことができないかと検討した。結果的にこれは医療支払い料の割引につながるので、総務省や厚労省から、法律的には問題はないかもしれないぐらいまで引き出したが、それのビジネスモデルができなかった。一度始めたら永久につなげないといけないので、そのポイントをどう管理していくかといったあたりができず、スタートの一歩手前までいったが、断念したという経緯がある。今は生活習慣病の方々にまじめにやっている方が保険料を払っているような構図ができているので、フェアな保険状態になっていない。

あともう一つの可能性は、保険付健康プログラムというもので、民間の医療保険の中であり得るだろう。非常に頑張った方にインセンティブで幾らか戻るとか、あるいは保険料が割引される。これは、たばこなどでは実現化しているが、ライフスタイルを変えるというところは世界的にもできておらず、大きなテーマだと認識している。

 

<有識者ヒアリング3 最近の犯罪情勢及び振り込め詐欺の現状と課題>

飯利理事官が資料3を用いて最近の犯罪情勢及び振り込め詐欺の現状と課題について報告した。

国民的な課題になっている生の振り込め詐欺被害の実態といったものを中心に報告する。

振り込め詐欺という類型の犯罪については、街頭犯罪・侵入犯罪総合対策により抑止することは困難である。街頭犯罪・侵入犯罪と振り込め詐欺というのは異質なものであり、必ずしも対策がマッチするものではない。街頭犯罪・侵入犯罪が少しずつ減っていく一方で、振り込め詐欺のほうはどんどん増えていく。

 諸々の対策により、平成17年、18年、19年は増加傾向に歯止めがかかったものの、依然として高止まり状態で推移し、平成20年になってまた堅調な増加傾向を示し、このままのペースで推移すれば過去最悪の被害が出てくるという状態になって現在に至っている。

 そういった状況を踏まえ、本年7月、警察は法務省と共同して「振り込め詐欺撲滅アクションプラン」を打ち出している。検挙の徹底、 ATM周辺における対策の徹底、匿名の携帯電話と口座の一掃、被害予防活動の徹底である。しかし人海戦術に頼らざるを得ないものもあり、そうした対策を長期継続するには限界がある。

 一つの考えとして、振り込め詐欺の電話がかかってきた時点で、その電話が振り込め詐欺かどうか、何らかの形でそれを感知して周りの人に伝えて、電話がかかってきた高齢者の方に対して注意喚起をする、そのような仕組みが技術的に可能であるならばいいのではないか。

 また、振り込め詐欺というのは、ATMの周辺に犯人があらわれる。ATMで現金を引き出す役割を「出し子」と言うが、そうした者がマスクで変装してもその者を何とか特定できないか。歩き方などで犯人であるかどうかの特徴を確認するといったことが技術的に可能ということであれば、画像認識技術を高度に駆使して、犯人の特定に役立てることはできないか。そういった観点から我々の検挙対策あるいは予防対策に何らかの形で貢献する技術的な対策をお考えいただけないかというのが我々捜査側の切なる願いである。

【板生主査】  振り込め詐欺に関しては、技術の問題もさることながら、システムの問題、社会の問題、いろいろあると思うが、ここでは安全・安心科学技術ということに限定して、何ができるかということを議論したい。情報システムとして、何か対応する方法はあるだろうか。

【大野委員】  システム自体がつながっていない、不連続面で起きている。人が必ずお金をとりにいかなければいけないとか、携帯電話を不正に使うとか、向こうはシームレスのあるシステムの不連続面をうまくついてきているわけで、そういう意味では不連続面に弱い人がねらわれている。不連続面がある限り、システムづくりの難しいところである。

 防ぐという意味では、相手の特徴をつかんで、そいつを確実に捕まえるという流れが一つにはあると思う。二度と「出し子」に同じことをさせないという意味では、生体認証が有効かと思う。また、口座のビヘイビアの解析は重要だろう。しかし、ここでお話を聞いたぐらいですぐにアイデアが出るようだったら、もう解決されているだろう。

【井上主査代理】  2ページの「最近の治安情勢」で、平成元年ぐらいに検挙件数が激減している。なぜこういうことが起こるのかわかっているか。統計データのとり方を変えたのか。

 それから、増加原因というのは何かあるのだろう。対策をとるとポンと減って、またスーッと上がっていく。そういう増加傾向の予測がある程度つけば、何か対策がとれるかもしれない。

【飯利理事官】  最初の質問については、別の担当者から後ほどご説明申し上げたい。後者については、この種の犯罪というものが犯人側にとってみれば非常にやりやすい、あるいはやったときにリターンが大きいということが、大きな理由の一つだろうと考えている。

 一般の犯罪全般、刑法犯全体としては、3割ぐらいの検挙率である。振り込め詐欺は、他の犯罪の検挙率が上昇している中にあって、取り残されている状況にある。これは、振り込め詐欺が「匿名犯罪」「成り済まし犯罪」であるところが大きく響いている。携帯電話の名義人、口座の名義人を捜査しても、直ちに犯人に結び付かず、犯人を探すために、かなり膨大な捜査を要する。それが、検挙率が非常に低いということの一つの要因になっている。

 例えば常習のすりなどはプロの犯罪だが、振り込め詐欺というのは、必ずしもプロである必要はない。若い人たちが安易にアルバイト感覚で入ってきているという状況がある。そうすると、振り込め詐欺の中核の連中は、全く顔を外界にさらさずに犯罪を繰り返していける。非常にうまみのある犯罪であるということが大きな動機になっている。

【岸委員】  犯罪の場合、あることがあったらそれに対策を立て、その対策を立てるとまた新しいタイプの犯罪が出てくるというような形でいく。新しいタイプの犯罪が出てきたときに、今までだったらこれだけの対策期間がかかるのが、科学技術によってもっと短くできるというような、科学技術に期待する何かがあるだろうか。

【降籏室長】  携帯電話など電話系が使われるので、そのポイントで、「振り込め詐欺」特有のキーワード的なものを拾い、あわせて脈拍などの生体情報から「パニックになっている」という心理状態を組み合わせれば、精度の高いアラームが出せるのではないでしょうか。また、そのキーワードを随時変更すれば、犯行の手口の変化に対応可能と考えている。

【板生主査】  要するにATMから引き出せないようにすればいいので、人間が動揺しているときに、ATMがそれを感知するというシステムをどうつくるかということだろう。そこで久野先生の話と結びつくので、ふだんは健康のためにいろいろな機器を持っている。自分の状態をセンサーで常に健康情報として持っている。そういう人がもしATMの前に立つと、多分相当心拍は動揺して、人間の状態がかなりアブノーマルになっている。将来的には脳波でもできるようになる。それは、普通の健康状態のときは健康を守ってくれて、異常な状態のときは、といったシナリオを書けばできるかと思う。ただそれは、今すぐ明日からやれと言われたら、どこまでできるかという感じはする。

【降籏室長】  逆に犯人をセンシングする場合は、振り込め詐欺ではサングラスをしているとか、帽子をかぶっているとかで、人相のセンシング自体がもうできない。

【板生主査】  犯人ではなく、被害者の状態をセンシングして、ATMが金を出さなければいい。

【松尾委員】  犯罪がビジネスモデルとして成り立っているようなご発言だったが、そういう犯人のネットワークがあり、それに素人が常に新規参入するようなものなのか。

【飯利理事官】  犯行ツールとなる携帯電話、口座、名簿、そういったものを調達する者が中核におり、彼らは組織として振り込め詐欺を繰り返し業として行っている。いわばビジネスのようなものである。そういう趣旨で申し上げた。構成メンバーについて言うと、例えば現金を引き出す役割を担う「出し子」は、アルバイト感覚で集まってくる。そういう人を雇う人件費みたいなものも当然彼らは頭の中に入れながらコストを計算している。そういう意味で、非常に企業的というか、ビジネス的であると我々は感じている。

 

【板生主査】  3人の先生方にも同席していただき、最後に、この3件のご報告と議論を踏まえて、安全・安心科学技術プロジェクトにおける地域の安全・安心ということの取り組みについて、またプロジェクト全体をどのように持っていくかということも含めて、全体を通してでも結構なので、議論をいただきたい。

【堀井委員】  地域の安全・安心ということで、やるべき課題というのは山ほどあるが、この安全・安心科学技術委員会ですべて取り扱われるわけではない。どういう地域の安全・安心をやっていくのかということをある程度絞り込む基準のようなものが必要だろう。科学技術の活用が有効なものが資料1に挙がっており、それはそのとおりだろうが、科学技術の活用が有効ならば何でもいいのかというと、多分そうではない。安全・安心の本質的な要素とは何かということだが、安全だから安心だという形の課題というのは少し排除したほうがいいのかと思う。例えば、防災のようなことを念頭に考えると、公助・共助・自助ということで整理がされている中で、公助というのは、何もこの安全・安心科学技術委員会でやらなくても、それぞれの分野でやられている。だから、共助とか自助とかという部分を支援するような地域のコミュニティーと連携する、そのような取り組みというのがこの安全・安心科学技術委員会で取り扱うには有効なのかなと思う。そういう意味では、今日2つ目にお話しいただいた地域の健康づくり支援システムというのは、非常にいいサンプルというか、例になっていたのではないかと伺った。

【岡田委員】  最近任天堂のWiiというのがすごくはやっている。継続することは力だと言われており、ある程度楽しみというか、エンターテインメントの要素があるということが一つ大切なことかもしれない。単に科学技術だけというのではなく、そういう人間臭いものも取り入れるということも必要だと思う。

【久野准教授】  まさしく我々が足りないのはそこだと思っている。企業はマーケティングをやっているが、ビジネスモデルだけで彼らは考えてしまう。我々からすると、もうかればいいという話ではなく、安全で効果が出て、そこも保障された上で人間臭いものを取り入れるようなことがどうマッチングしていくか。そこがまだできていないのが大きな課題だと思っている。

【井上主査代理】  どういう課題をここで取り上げていくかということに関連するが、先ほどの健康の問題で、よかれと思っていることが必ずしもよくないというお話があった。例えば、食事制限と有酸素運動というのは、これはよく奨励されることだが、筋力から見るとよくない面があるとのことだった。だから、何がいいのかという科学的な根拠、あるいはそれを解明していって、今度は個々の人に処方せんをつくっていかなければいけない。その辺のことはどれくらいできているのだろうか。あるいはまだこれは研究の余地があるのか。

【久野准教授】  ようやくデータベースが出てきたところで、そのデータベースをもとに具体的に人々が行動をどのように変えればいいのかというのは、まだほんとうに研究の緒についたばかりの段階だと考えている。行動をどう変えるのか、科学的に正しいからといって国民はやってくれないので、そのあたりをマッチングしながら、行動を変えていただけるものをどうつくるかという研究が今後一番重要だと思う。

【井上主査代理】  何がいいのかという知識の問題と、ほんとうにやるかどうかというのは、分けて議論したほうがいい。

【久野准教授】  分けて、両方必要で、それを融合化した部分も必要と感じている。

【板生主査】  その辺の研究そのものがまだそんなにわかっているわけではない。その中でやらなければいけないというところが難しい。

【久野准教授】  センシング機器の発達とリンクしてくると思う。

 

【井上主査代理】  振り込め詐欺の対策について、振り込む人あるいは引き出す人の不審行動の認定には、片方でプライバシーの問題があるから、厳格な人物認証や行動パターンをいろいろセンシングするのも問題になることもあろう。一般の何の犯罪にも関係ない人が非常に面倒くさいシステムになっても困る。その辺のどこまでが許容されて、どれくらいのことができるだろうかという検討はされているのか。

【飯利理事官】  少なくも振り込め詐欺では実際に相当な被害が発生しているということを国民に説明することによって、社会の利便性や企業の利益、プライバシー等の権利等と、振り込め詐欺を如何に抑止していくかということをてんびんにかけた場合に、犯罪対策をする上で多少我慢する部分が必要なのではないかという雰囲気ができてきているのではないかという認識を持っている。例えば、振り込め詐欺の「出し子」の写真を公開するということを始めたが、これに対する世論の反応は、むしろ必要なんだということだった。また、銀行に非常にコストをかけるATM対策についても、千葉銀行が、携帯電話をATMの周辺で使えなくするという資機材を設置するということで総務省とも協議し、今試験運用の段階に入っている。これだけの被害があって、ATMが実際に使われているという実態を社会的存在である企業の側が看過することができない状況になってきている。そういった点は非常に期待していて、今後犯罪抑止の重要性に対する国民の認識をしっかり促していきたい。

【井上主査代理】  銀行側の付加価値が出るといいのかもしれない。

【飯利理事官】  犯罪抑止に貢献することで、企業の社会的な信用が高まるというメリットが出てくればいい。

【大野委員】  例えば「出し子」が来たときに、「しばらくお待ちください」と言って、いきなりATMがメンテナンスモードになってしまう。「ちょっとごめんなさい、あなたが悪いんじゃないですよ」と言っていると、多分「出し子」はびびって出ていくんじゃないか。そうすると、それで逃げていくやつというのは「出し子」の率が高い。隣に行ったやつは「出し子」ではない。けれども、ガチャガチャといっていて、カメラもピカピカしていたりすると、「出し子」はやばいなと思って出ていくので、実は何かそんなすごく単純なことで「出し子」が暴けるんじゃないかという気がする。というのをちょっと思いついた。

 

【板生主査】  この地域の安全・安心という分野をどういう形で進めるかということについて、ほかに何かないか。

【土井委員】  どう選択するかというところで言うと、今日お話しいただいた内容は、文部科学省だけではなく、他の省庁とも連携していると思う。健康とか、橋梁、下水道のインフラ管理というのは、今までもそれぞれの担当の省庁で結構やってきて、科学予算として投じてきたのに、それが何でうまくいかないかということをよく考えてやらないと、また文科省でこのお金を投じました、けれども実際の運用としてはうまくいかなかったということになる。では健康のところでサービスサイエンスをやるべきなのか、センサーをやるべきなのかという話もあり、橋梁のところでは、古いものはセンサーでできないんだとしたら、新しい科学技術というか、別の観点でやらなければいけないのかとか、そういう意味で従来やってきたもので何が一体だめだったのかというところをよく考えていかないといけない。

【板生主査】  指導者というか、何かそういう者を育成しない限りはシステムは機能しないと言われたのは、一つの意味だろう。

【土井委員】  そうだとすると、科学技術でやるよりはそういう人材育成をやったほうがいいという話になるので、一体何を今やるのが一番効果的なのかというのをよく考えないといけない。

【奈良委員】  考え方の一つとしては、共助と自助を厚くするようなことが防災の面でも医療の面でも重要と思う。少しずつ確実なコストを地域に投げて、そこで地域でその知が創出されて、人が育って、地域の企業が何か開発してというぐあいの仕組みをつくっていって、持続可能に地域で安全・安心に対応できる、地域のニーズを地域で解決するといったことをほんとうにやっていかないと、繰り返しになる。そういう切り口でおそらくたくさん出てくるであろうプロジェクトを見ていくというのが一つの考え方かと思う。人材育成もここに入ってくる。

【板生主査】  特にインフラの話も、実際にはこれから先、地方において、すごく重大な不安材料になってくるのではないかと思われる。メンテナンスを国土省にしても何にしてもやることが明確になっていれば、我々が不安と言わなくてもいいが、どうなのか。手はちゃんと打っているというように聞こえたが。

【金氏理事】  私どものブリッジマネジメントシステムというのはかなりうまくいった事例である。各地方自治体それぞれに自分のところのオリジナルでいろいろやられているが、そのうち行き詰まるというのが目に見えていながらなかなか変えられない。私どものシステムをご披露すると、ぜひ移りたいとは言っても、一度走り出したデータベースをなかなか方向転換できない。我々としては、それのインターフェースみたいなものをサポートできるような仕組みでいい事例が出てくると、今までのデータが無駄にならずにやっていけるかと考えている。

 

【板生主査】  ご意見をいただいたうえで、今後の取り組み方といったことについて、最終的に事務局でまとめていただくことになる。

【西田室長】  安全・安心科学技術プロジェクトの来年度の取り組みについては、現在、予算要求しており、その状況も踏まえつつ、必要なテーマを絞り込んでのテーマ設定を検討したい。安全・安心科学技術プロジェクトの今後のスケジュールについては、資料5で予定を示している。

また、安全・安心科学技術委員会については、第4期の今回の委員会の任期は来年1月末までである。次回第5期の安全・安心科学技術委員会については、2月ぐらいに新しく設置される予定で、3月以降新たに開始させていただきたい。

 

【板生主査】  今回の委員会が今期としては最後となる。事務局には今後の検討に当たり、いただいた意見を反映させていただきたい。

【泉局長】  この安全・安心科学技術委員会は、科学技術・学術審議会のもとに置かれ、先生方には2年の任期ということでお願いしており、第4期は、この委員会でご会合いただくのは今回が最後なので、区切りということで、一言申し上げたい。

 まず、第4期の委員としてご審議、ご尽力いただき、改めて御礼申し上げたい。今日のご議論を拝聴しても、今の第3期の科学技術基本計画の中で、科学技術政策で目指す理念というものの中に、健康と安全を守る、安全で安心で質の高い生活のできる国の実現に向けて、だれもが元気に暮らせる社会の実現、暮らしの安全確保といった目標が挙がっており、今日の3人の先生方のご説明の中でも、現在まさにホットイシューになっていることをお話しいただいたのではないかと思う。ではこれを科学技術政策としてどのようにとらえて取り組みをしているかということは必ずしも容易ではないが、個々の状況を踏まえた研究開発課題を設定していくということももちろん、さらにより広く、いろいろな科学技術分野のこれまでの成果をもう少し違った形でアプライできないかとか、ある種の技術のあっせんのようなことも、科学技術全体を一応ウオッチしている科学技術・学術審議会という立場からはできるのではないか。いろいろとご審議いただきたい。

 4期の区切りではあるが、おそらく多くの先生方に引き続きまたご指導いただくことになるのではないかと思う。引き続き、この安全・安心科学技術というのは、日本の科学技術政策の中で3つの大きな目標の1つをなすということは間違いないし、これまで文部科学省が取り上げてきていた科学技術よりはもう少し現場の社会ニーズに密着した領域により近いところなので、各省との連携も含め、非常に重要な分野と思っている。ますます先生方のご指導が必要で、今後ともよろしくお願いしたい。

 

―― 了 ――

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室

原山 清香
電話番号:03-6734-4049
ファクシミリ番号:03-6734-4176
メールアドレス:an-an-st@mext.go.jp

(科学技術・学術政策局安全・安心科学技術企画室)