資料3-1 研究開発計画(案)(ナノテクノロジ―・材料科学技術委員会作成分)

全体の目次

はじめに

  • 第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化
  • 第2章 環境・エネルギーに関する課題への対応
  • 第3章 健康・医療・ライフサイエンスに関する課題への対応
  • 第4章 安全・安心の確保に関する課題への対応
  • 第5章 国家戦略上重要な基幹技術の推進
  • 第6章 研究計画・評価分科会における研究開発評価の在り方

ナノテクノロジ―・材料科学技術委員会作成分  目次

  • 第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化
    1. 大目標
      • 2.大目標達成のために必要な中目標(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)
        • (1)中目標達成状況の評価のため指標
        • (2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組
          • 1.未来社会における新たな価値創出に向けた研究開発の推進
            • ア.未来社会としての「超スマート社会」を実現する機能性材料・構造材料研究
            • イ.新たな研究開発手法の開発
              • (1)社会システムを俯瞰した材料開発
              • (2)データ駆動型の材料設計手法の開発
              • (3)材料開発に資するプロセス技術の開発
              • (4)先端材料計測解析技術の開発
            • ウ.新たな技術領域・未来社会を切り拓く挑戦的な基礎・基盤研究の強化
          • 2.広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進
            • ア.エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化
            • イ.資源の安定的な確保と循環的な利用
            • ウ.世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成
            • エ.効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策/国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現
            • オ.ものづくりの競争力向上
            • カ.更なる社会課題への対応
    2. 研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策
      • (1) 人材育成
      • (2) オープンサイエンスの推進
      • (3)オープンイノベーション(産学連携)の推進
      • (4)知的財産・標準化戦略
      • (5)社会との関係深化
        • ア.ナノテクノロジーにおける人文社会科学的視点の導入
        • イ.情報発信・アウトリーチ
      • (6)ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化・活用
        • ア.最先端の研究施設・設備の整備・共用・活用等
        • イ.知的基盤としてのデータプラットフォームの整備・利活用
      • (7)国内外の研究ネットワーク構築の強化
      • (8)戦略的研究テーマ等の提案力の向上
      • (9)分野融合の推進

第1章 未来社会を見据えた先端基盤技術の強化

1.大目標

 ICTを最大限に活用し、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)とを融合させた取組により、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会」を未来社会の姿として共有し、その実現に向けた一連の取組を更に深化させつつ「Society 5.0」として強力に推進し、世界に先駆けて超スマート社会を実現していく。このため、国は、超スマート社会サービスプラットフォームの構築に必要となる基盤技術及び個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する基盤技術について強化を図る。

2.大目標達成のために必要な中目標(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 ナノテクノロジー・材料科学技術分野は我が国が高い競争力を有する分野であるとともに、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として広範な社会的課題の解決に資するとともに、未来の社会における新たな価値創出のコアとなる基盤技術である。また、革新的な技術の実現や新たな科学の創出に向けては、社会実装に向けた開発と基礎研究が相互に刺激し合いスパイラル的に研究開発を進めることが重要である。
 これらを踏まえ、望ましい未来社会の実現に向けた中長期的視点での研究開発の推進や社会ニーズを踏まえた技術シーズの展開、最先端の研究基盤の整備等に取り組むことにより、本分野の強化を図り、革新的な材料を創出する。

基本的認識

ナノテクノロジー・材料科学技術を巡る現状認識

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、資源・エネルギー制約等の問題や、社会インフラの老朽化対策等の社会的課題の解決に資する鍵として、大きな期待を背負う国家基盤技術であるとともに、エレクトロニクスや自動車、ロボット等の我が国の基幹産業を支える要であり、高い国際競争力を有している。
 また、広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から、異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵として、科学技術の発展に向けた新たな可能性を切り拓き、先導する役割を担っている。
 さらに、ビッグデータやIoT(Internet of Things)、Converging Technologyの台頭といった経済社会の新たな潮流を踏まえた革新が期待される。
 このような現状を踏まえ、第5期科学技術基本計画においては、人々に豊かさをもたらす「超スマート社会サービスプラットフォーム」の構築に必要となる基盤技術及び個別システムにおいて新たな価値創出のコアとなり現実世界で機能する基盤技術に位置づけられ、革新的な材料開発力強化に向けて一層の強化を図ることが求められている。また、基盤技術の強化にあたっては、研究開発をリニアモデルで進めるのではなく、社会実装に向けた開発と基礎研究が相互に刺激し合いスパイラル的に研究開発することが重要である。

ナノテクノロジー・材料科学技術の推進に向けた基本的な考え方

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、情報通信、環境、ライフサイエンス等広範な分野の先端を切り拓くために必須であり、その広がりを意識した研究振興方策を取るべきである。特に、我が国が高い国際競争力を有するナノテクノロジー・材料科学技術の強みを最大限発揮するため、戦略性を持った研究開発を推進すべきである。
 そこで、以下を基本的な考え方としつつ、個別の研究テーマに応じた推進方策は今後より詳細な検討を進める。

<1>未来社会における新たな価値創出の推進

 「超スマート社会」の実現や超スマート社会における我が国の競争力向上に向けては、我が国が学術的にも産業的にも強みを有するナノテクノロジ―・材料科学技術を活用するという観点を持ちながら、研究開発を進めることが重要である。これにより、「超スマート社会サービスプラットフォーム」を高度化し、多様なニーズに的確に応える新しい事業の創出を促進するとともに、このプラットフォームや個別のシステム※3に我が国ならではの特長を持たせ優位性を確保していく。

  • ※3 科学技術イノベーション総合戦略2015で定められた超スマート社会の実現に向けて先行的に進める11のシステム(エネルギーバリューチェーンの最適化、地球環境情報プラットフォームの構築、効率的かつ効果的なインフラ維持管理・更新の実現、自然災害に対する強靱な社会の実現、高度道路交通システム、新たなものづくりシステム、統合型材料開発システム、地域包括ケアシステムの推進、おもてなしシステム、スマート・フードチェーンシステム、スマート生産システム)。
<2>広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進

 ナノテクノロジー・材料科学技術は、これまでも社会的課題の解決に資する基盤技術として重要視され、推進されてきたところであるが、近年、その高度化とともに広範な分野で普遍的に用いられるようになった。そのため、これまでにない応用先を開拓し、エネルギーの一層の効率的利用や医療分野への応用、社会インフラの老朽化対策等、近年顕在化した社会的課題や、昔から認識されていつつも未解決な課題・命題に革新的なアプローチを提供し、解決に導くことが期待される。

<3>研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策

 上記に関する取組を実施するに当たっては、以下の観点も踏まえながら推進することが重要である。

  • 人材育成
  • オープンイノベーションの推進
  • 分野融合の推進
  • 国際的な知的財産・標準化の戦略的活用
  • ナノテクノロジーにおけるELSIおよびEHS
  • 研究動向調査及び情報発信・アウトリーチ
  • ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化
  • 国内外の研究ネットワーク構築の強化

戦略的研究テーマ等の提案力の向上

(1)中目標達成状況の評価のための指標

 中目標達成状況については、ナノテクノロジー・材料分野の研究開発を主目的とした事業を中心に以下の指標も活用しつつ、総合的に評価を行う。なお、当該指標は文部科学省において中目標を達成するための進捗を把握するために定めるものであり、これらの指標の数値そのものが自己目的化され、本来の目指すべき状況とのかい離や望まざる結果を招かないよう、留意が必要である。

  • アウトプット指標
    • 1.ナノテクノロジー・材料分野に関連する事業の活動状況(技術支援件数、参画研究者数、共同研究の取組状況等) 等
  • アウトカム指標
    • 2.ナノテクノロジー・材料分野の発展状況(優れた材料の創出事例 等)
(2)中目標達成のために重点的に推進すべき研究開発の取組

 第5期科学技術基本計画を踏まえ、本研究開発計画では、未来社会の実現のためにより長期的な視点に立ち、社会の変革等に先見性を持って戦略的に進めていく研究開発と、我が国及び世界が持続的に発展していくために顕在化している様々な課題を解決するための短中期的な研究開発という、2つの時間軸で研究開発の取組を整理することとし、具体的な内容について以下に示す。

1.未来社会における新たな価値創出に向けた研究開発の推進

 我が国が高い国際競争力を有するナノテクノロジー・材料科学技術は広範で多様な研究領域・応用分野を支える基盤であり、その横串的な性格から異分野融合・技術融合により不連続なイノベーションをもたらす鍵である。
 このような特徴を踏まえ、ナノテクノロジー・材料科学技術は、第5期科学技術基本計画において、サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」の実現のためのコアとなる基盤技術として位置づけられた。そこで、「超スマート社会」を実現するために必要となる機能性材料・構造材料の研究開発やデータ駆動型の材料設計等の新たな研究手法の開発等を推進する。
 また、ナノテクノロジー・材料分野が「超スマート社会」を超えた全く予想だにしない新しい未来社会をもたらす可能性があることを踏まえ、新たな技術領域・未来社会を切り拓く挑戦的な基礎・基盤的な研究開発も進める。

ア.未来社会としての「超スマート社会」を実現する機能性材料・構造材料研究

 第5期科学技術基本計画において、「超スマート社会(Society5.0)」を実現するためには、様々な「もの」がネットワークを介してつながり、それらが高度にシステム化されるとともに、複数の異なるシステムを連携協調させることが必要である。そのために個別のシステムの開発を先行的に進めるとともに、それらの個別のシステムの高度化を通じて連携協調を進めていくことが求められている。このようなシステムの高度化及び超スマート社会の実現には、エネルギー、インフラ、健康医療等を支える機能性材料や革新的構造材料の開発を推進し、それらを適用したコンポーネントの高度化によりシステムの差別化を実現するナノテクノロジー・材料科学技術をより一層強力に推進することが必要である。
 そこで、機能性材料においては、個別システムの実現のために必要な機能の高度化やその原理・原則の究明により、機能の飛躍的な向上を目指すとともに、未だ見いだされていない新たな機能の探索・顕在化等の取組を進める。
 また、構造材料については、社会活動の基盤を支える材料として、国及び国民の安全・安心確保のために長期にわたって安定に性能を発揮することが求められている。そこで、精緻な特性評価技術や組織解析技術等を活用して材料の劣化機構の解明を進めるとともに、その知見に基づいた構造材料の高信頼性化・高性能化を進めるなど、総合的なアプローチを行う。
 これらの取組により個別システムの高度化とともに「超スマート社会」の実現に貢献する。なお、実施に当たっては、後述する「イ.新たな研究開発手法の開発」によって得られた知見を最大限活用しながら取り組む。

イ. 新たな研究開発手法の開発

(1)社会システムを俯瞰した材料開発

 持続可能な未来社会を実現するためには、既存の研究開発の延長ではなく、「ズームアウト」の視点による社会システム全体を俯瞰した目標設定と、「ズームイン」の視点による要素技術課題へのブレークダウンの双方が必要である。研究開発に当たっては、未来社会のニーズと材料シーズの適切なマッチングを図るため、理論・計測・材料創製を融合した材料研究とライフサイクル設計やデバイスシミュレーション等の活用による社会システム全体を俯瞰する取組との協働により、サイエンスが今後どのようにデバイス化・システム化するかという、階層構造を把握しつつ、社会と材料開発をつなぎながら研究開発を行うことが重要である。このような新しい研究開発スキームの有効性を実証すべく、技術シーズの源泉となる基礎基盤研究を強化し、出口課題の実用化に向けた研究開発を推進する。

(2)データ駆動型の材料設計手法の開発

 新たなデータ駆動型の材料設計技術「マテリアルズ・インフォマティクス」は、物質・材料分野における膨大なデータ群に、最先端のデータ科学・情報科学の手法を組み合わせることにより物質・材料の研究開発を飛躍的に加速させ、材料の開発手法にパラダイムシフトをもたらす可能性を持つ。本研究領域の開拓は、国際的な潮流の観点からも、我が国の物質・材料研究の発展にとって重要であることから、様々な研究を通じて蓄積された膨大・高品質なデータを産学官で共有・利活用を行うためのデータプラットフォームを構築し、これを活用した材料開発に積極的に取り組む。
 データプラットフォームの構築にあたっては、様々な研究機関からデータを集めるための制度設計や体制整備等に取り組む。

(3)材料開発に資するプロセス技術の開発

 材料を開発し、社会実装へと繋げるため、スマート生産システムへの対応や経済合理性等を考慮した製造(プロセス)技術の開発等に注力する。これらの開発を一体で推進することにより、機能発現の本質と製造プロセスに用いられる要素反応・要素過程の理解を同時に進め、その知見に基づき高機能材料を開発する。

(4)先端材料計測解析技術の開発

 革新的な機能を持つ材料の開発には、その機能発現メカニズムの根源的かつ効率的な解明が重要であるため、情報科学等も活用しつつ、ナノより更に小さな領域から様々なスケールでの計測技術、実使用環境下(オペランド)での計測技術・解析システム等を開発する。

ウ.新たな技術領域・未来社会を切り拓く挑戦的な基礎・基盤研究の強化

 研究者の自由な発想による研究を格段に発展させる学術研究や、将来のプロジェクトの芽を創出するような探索型研究、国内外の研究動向を踏まえ、組織や分野の枠を超えた研究体制の下で将来社会に大きな影響をもたらす新技術シーズの創出を目指す戦略的な基礎研究、更には社会経済や科学技術の発展、国民生活の向上に寄与する研究成果の実用化を見据えた研究等を進める。また、従来技術の延長では実現し得ないナノ構造の自在制御による新規材料創製技術の開発にも取り組む。
 上記のような取組を通じて、ナノテクノロジー・材料分野の新たな技術領域を切り開くとともに、当該分野の発展によりどのような新しい未来社会が創り出されるかについて検討を進め、必要な措置を講ずる。

2.広範な社会的課題の解決に資する研究開発の推進

 第5期科学技術基本計画も踏まえ、エネルギーの一層の効率的利用や医療分野への応用、社会インフラの老朽化対策等、近年顕在化している社会的課題への解決の鍵となるナノテクノロジー・材料科学技術分野の研究開発を、実用化も見据えつつ推進する。
 具体的には、第5期科学技術基本計画に掲げられている13の重要政策課題のうち、特にナノテクノロジー・材料分野として大きな貢献が見込まれる以下の課題を中心に、その解決を実現すべく、必要な取組を推進する。また、これまでに解決できていない課題や新たな課題等、応用先の開拓にも取り組む。

ア. エネルギーの安定的な確保とエネルギー利用の効率化

 再生可能エネルギーの活用と、エネルギー貯蔵、輸送システムの革新によるエネルギー利用の効率化は、資源の少ない我が国にとってエネルギー安全保障上重要であるとともに、地球温暖化抑止に向けた低炭素社会の実現と持続可能な社会の構築にも大きく貢献する。そのため、多様なエネルギー利用を実現するための研究開発として、システム化・デバイス化を念頭に、太陽電池や燃料電池、エネルギー変換・貯蔵等のための材料開発を行うものとする。また、最終システムを意識しつつ、エネルギーの高効率変換等に関わる大きなブレークスルーに繋がる次世代の技術シーズを探索する。
 さらに、低環境負荷社会に資する高効率・高性能な輸送機器材料やエネルギーインフラ材料の開発を推進する。

イ. 資源の安定的な確保と循環的な利用

 レアアース等の材料の高性能化に必須な希少元素の世界的な需要急増や資源国の輸出管理政策により、深刻な供給不足を経験した我が国では、資源リスクを克服・超越する「元素戦略」が必要不可欠である。特に、ナノレベル(原子・分子レベル)での理論・解析・制御によって元素の秘めた機能を自在に活用することが、新たな高機能材料の創製や希少元素代替・減量の実現、ひいては産業競争力の鍵となる。そこで、希少元素を用いない、全く新しい代替材料の創製等に取り組む。

ウ. 世界最先端の医療技術の実現による健康長寿社会の形成

 我が国はすでに世界に先駆けて超高齢社会を迎えているため、我が国の基礎科学研究を展開して医療技術の開発を推進するとともに、社会への展開を通じて医療関連分野における産業競争力の向上を図り、我が国の経済成長に貢献することが期待される。このような期待に応えるべく、生体材料の開発や基盤技術としてのナノテクノロジーの活用を推進し、医療分野の研究開発に貢献する。

エ. 効率的・効果的なインフラの長寿命化への対策/国及び国民の安全・安心の確保と豊かで質の高い生活の実現

 国民生活や経済・社会活動を支えている公共インフラはその多くが高度経済成長期に建設されているため、高齢化が進んでおり、重大事故の可能性が上昇するとともに、維持補修に必要な経費も増大していくことが大きな社会的課題となっている。また、我が国は、地震などの大規模な自然災害に対して、国民の安全・安心を確保してレジリエントな社会を構築することが課題となっている。そのため、公共インフラの効率的な維持管理・更新や、国土強靭化に資する社会インフラ材料の高性能化・高信頼性化のための基礎・基盤技術の開発等を推進する。

オ.ものづくりの競争力向上

 安価な生産コストを武器とした中国等の新興国の追い上げや、インダストリー4.0 等の国家イニシアティブを掲げる欧米諸国における製造業の徹底的なICT化といった世界の動向に対し、我が国の製造業が更なる競争力・収益力の強化や新市場の創出等を実現するためには、これまでの我が国の強みであるフィジカル関連技術のさらなる進化に加え、それらとIoTやビッグデータ、AI等のICTとを融合させることにより、新たなものづくりシステムの開発することが課題である。
 上記の課題解決のため、ナノテクノロジー・材料分野においては、前述の材料設計手法を構築するとともに、戦略的イノベーション創造プログラム「革新的構造材料」マテリアルズインテグレーション領域とも連携し、国際的な競争の中でいち早く材料から部材までの一貫した開発を行う。

カ.更なる社会課題への対応

 前述した課題に加え、今後次々と顕在化してくる新たな社会課題に対して常に注意を払いつつ、速やかに解決することが重要である。これに鑑み、幅広い領域の物質・材料研究を継続的に進めていく。

2.研究開発の企画・推進・評価を行う上で留意すべき推進方策

(1)人材育成

2.ナノテクノロジー・材料科学技術分野

 激しい国際競争が行われる中、世界に先駆けて革新的な材料開発を行うことが求められており、その担い手となる人材の育成が急務となっている。ナノテクノロジー・材料科学技術が分野横断的であるという特徴を活かし、一つの専門分野で論文を執筆できる能力が十分に備わっていることに加えて、広範な分野の基礎的素養を身に付け、俯瞰的視野を持った上で研究を推進できる人材や社会的価値への展開を戦略的に推進するリーダーを育成することが重要である。
 そこで、クロスアポイントメントや等の制度の活用による研究機関間の交流の促進や、産学官連携等を通じた研究者の多様なキャリアパスの確保、優秀な若手研究者が能力を発揮できる環境の整備を図る。また、国際的な研究者ネットワークへの参画等を促進し、グローバルに活躍するリーダーの育成を目指す。
 さらに、ナノテクノロジー・材料科学技術の多様な研究活動を支える上で、高度な分析、加工等の専門能力を有する技術者が極めて重要な役割を果たしていることを踏まえ、技術者の養成と能力開発等に着実に取り組む。

(2)オープンサイエンスの推進

2.ナノテクノロジー・材料科学技術分野

 オープンアクセスと研究データのオープン化を含めたオープンサイエンスの概念は、オープンイノベーションの重要な基盤として世界中で注目されている。このような現状を踏まえ、「(6)ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化」に掲げるオープン/シェア/クローズド戦略も踏まえつつ、適切な産学官連携・国際連携により新たな価値の創出につなげるデータプラットフォームを構築することにより、オープンサイエンスを推進する。

(3)オープンイノベーション(産学連携)の推進

2.ナノテクノロジー・材料科学技術分野

 企業や大学、公的研究機関等の人材、知、資金が結集する産学官、グローバル拠点の形成や、全国の研究機関のネットワーク化等を通じ、人材育成や分野融合を促進するとともに、我が国全体の材料開発力の強化を図る。具体的には、世界最高水準の研究開発成果を創出し、イノベーションシステムを強力に駆動する役割を果たす国立研究開発法人を中核として、大企業や中小・ベンチャー企業のニーズの把握や「オープンにする価値」と「クローズのままのリスク」についても検討しながら「協調領域」と「競争領域」を設定し、我が国全体の革新材料開発力強化に向けたオープンプラットフォームの形成とその活用を推進する。また、成果の展開に向けて、共同研究や事業化に向けた取組等、個別の産学連携も推進する。

(4)知的財産・標準化戦略

2.ナノテクノロジー・材料科学技術分野

 日本再興戦略等で掲げられている「GDP600兆円経済」の実現には、経済的波及効果の大きい社会システムに関連し、国際的な競争が激化しているナノテクノロジー・材料分野においては、研究の対象材料が有する特徴や関連産業の国内外動向等に応じた適切な知的財産・標準化活動が重要となる。

(5)社会との関係深化

2.ナノテクノロジー・材料科学技術分野

ア.ナノテクノロジーにおける人文社会科学的視点の導入

 ナノテクノロジー・材料科学技術分野は、横断的・複合的な分野であるり、社会との直接的接点が見えにくいため、今後の取組について個別具体の進め方を検討する際には、人文社会科学的視点を導入し、社会との直接的接点をより強固にすることが重要である。
 例えば、ナノテクノロジーに関する環境・健康・安全面(EHS:Environment, Health and Safety)の課題や倫理的・法的・社会的問題(ELSI:Ethical, Legal and Social Issues)対策については、研究開発の状況と人文社会科学的視点や産業界の視点も踏まえながら検討を進める。

イ.情報発信・アウトリーチ

 得られた研究成果を新たな価値創造に結びつけるため、成果の社会における認知度を高め、社会還元に繋げていく。また、産学官連携による研究情報の蓄積・発信体制の強化を図り、我が国における研究情報の好循環と戦略的な社会実装を促す。

(6)ナノテクノロジー・材料科学技術を支える基盤の強化・活用(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 先端計測等のナノテクノロジー・材料科学技術の研究開発に当たって基盤となる技術に関する研究開発を推進するとともに、最先端の計測・加工設備の共用及びデータプラットフォームの戦略的利活用を両者の融合を図りながら推進する。データプラットフォームの構築にあたっては、材料科学のみならず、システム工学や情報科学等の人材とも連携し、様々な研究機関からデータを集めるための制度設計や体制整備等に取り組む。

ア.最先端の研究施設・設備の整備・共用・活用等

 我が国の部素材開発の基礎力引上げとイノベーション創出に向けた強固な研究基盤を形成するために、ナノテクノロジーに関する最先端設備の有効活用、今後を見据えた更新・導入、及び相互のネットワーク化を引き続き促進する。運用に当たっては、産業界を含め幅広い利用者のニーズに応じて、共用機関ネットワークの強化等を行う。また、施設共用の視点のみにとどまらず、研究施設及び設備を共用する際の多様な支援形態に対応可能な研究者及び技術者の育成やイノベーション創出に寄与する次世代の若手利用者の育成にも貢献する。これらの共用の活動を通じて、我が国のナノテクノロジー・材料研究の研究開発投資効率と成果最大化に資する。
 この他、大学共同利用機関法人や共同利用・共同研究拠点、Spring-8やスパコン「京」等の大型共用研究施設・設備等、他の共用のフレームワークも一層積極的に活用し、材料分野の研究開発を推進する。

イ.知的基盤としてのデータプラットフォームの整備・利活用

 科学研究活動の効率化と生産性の向上を目指し、オープン/シェア/クローズド戦略の下、適切な産学官連携・国際連携により、新たな価値の創出につなげるデータプラットフォーム拠点を構築する。この際、企業や大学が積極的にデータベースを活用する仕組みの構築やセキュリティの確保に努める。

(7)国内外の研究ネットワーク構築の強化(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 公的研究機関の橋渡し機能を強化する仕組みを整備することにより、地方の優秀な研究者との共同研究等を推進し、日本における人的ネットワークを構築する。これにより、例えば地方大学の研究者と企業の出会いの場を積極的に作り出すなど、新たなイノベーションの創出を誘発する環境作りを進める。
 また、世界中から優秀な人材を確保・育成することを通じ、海外研究機関との連携を構築・強化するとともに、その人的・機関的ネットワークを活用することで、更なる人材交流やモノ・資金が集まるような仕組み作りを進める。
 さらに、我が国の優れた研究成果を世界に発信することも視野に入れ、諸外国や地域と連携した国際共同研究等により、我が国の競争力の源泉となり得る科学技術を発展させる。

(8)戦略的研究テーマ等の提案力の向上(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 政策立案や戦略策定に向けて、科学技術シーズや技術動向、特許動向、社会的ニーズ、経済社会・国際情勢を分析するとともに、政府全体の政策動向の調査を行い、未開拓の領域や真に求められる研究開発領域の把握に努める。この際、現場の実際の研究活動を通じて得られる内外の研究動向や各種動向調査からの情報も活用する。また、産学官のオープンイノベーションの取組や研究施設・設備の共用、データプラットフォームの整備や、地方・海外とのネットワーク構築等を通じて得られたデータ・知見を集約する。
 これらの取組を通じて得られた知見等を最大限活用し、世界に先駆けた材料開発を推進するための戦略的な研究テーマの設定や研究課題の解決のための提案力を強化することで、我が国全体のナノテクノロジー・材料開発力の向上を図る。

(9)分野融合の推進(ナノテクノロジー・材料科学技術分野)

 幅広い分野の基盤技術となるナノテクノロジー・材料科学技術は、他分野との融合を図ることで新たなブレークスルーをもたらす可能性がある。また、分野融合による新たなイノベーションの創出に当たっては、若手研究者のフレキシブルな発想、能力を十分に活用することが肝要である。これに鑑み、他分野連携が実現しやすくなる環境作りについて検討を進めるとともに、その実現に向けて必要な措置を講じる。

お問合せ先

研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付

(研究振興局参事官(ナノテクノロジー・物質・材料担当)付)