| 1. |
指針の目的 |
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本指針の目的は、日本神経科学学会の会員が研究・教育・試験のために動物を飼育し使用するにあたって、動物を科学的かつ人道的に取り扱い、動物福祉のために飼育環境、実験方法の質的向上をはかると共に、実験および飼育管理に従事する者の衛生と安全を確保するための目安となる基準を示すことである。
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| 2. |
神経科学研究の社会的意義と動物実験の必要性 |
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| a) |
神経科学研究の社会的意義 |
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神経科学の研究の目的は、脳・神経系の構造と機能について科学的理解を深めることにある。この目的を達成することよって、脳・神経系を侵す病気と障害のメカニズムを解明し、診断・予防・治療の方法を開発することができる。また、老年痴呆、ストレス、学習障害など現代社会が抱える問題の多くは、脳・神経系の機能と密接に関係しており、その解明が急がれている。さらに、脳内の情報処理機構の解明は、ヒトや動物が行う優れた情報処理の仕組みを取り入れた人工知能やロボットの開発の基礎となっている。これまでの神経科学の研究によって得られた知識は、すでに多くの成果をあげ、社会に著しく貢献してきた。しかし、脳・神経系にはまだまだ未知の謎が多く、また原因不明で治療の困難な神経系の病気も多い。従って、人類の将来の生存と発展のため、脳・神経系の構造と機能について基礎的な研究の進展が今後とも不可欠である。
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| b) |
動物実験の必要性 |
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脳・神経系においては、数多くの機能性物質が神経細胞を形成し、さらに多数の細胞が有機的に集合して複雑なシステムをつくっている。そこで営まれる機能は、ヒトが日常行う認知、記憶、推論、判断、行動選択等の機能のみならず、精神現象、そして心に関わる深遠な働きの舞台となっている。したがって脳・神経系を理解するには、まず脳を形成する物質や細胞をとりだし、その構造と作用のしくみを詳細に調べる必要がある。次に脳は複雑な神経回路が協調して働くことによってその機能を発揮するので、実際に働いている脳を対象として、脳が全体として働くときの動作原理を知る必要がある。そのためには、行動する動物の脳を対象にし、脳の中に立ち入ってその働きの実態を解析することも必要である。ヒトを被験者とする実験については、非侵襲が原則で、臓器や組織、細胞に立ち入って、働きを詳しく解析することができない。従って、上記のような研究においては動物実験が必要不可欠である。動物実験によって初めて、ヒトの脳の理解、ヒトの脳を対象にした医学が進み、診断や治療の有効性と安全性が確認されるのである。 |
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| 3. |
動物福祉の重要性 |
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実験に使う動物の生命を尊重し、実験に伴う苦痛やストレスを最小限に抑え、飼育施設を整備して快適な環境で飼育するよう最大限の努力をするべきである。その結果、動物実験の再現性も向上し、よりよい研究を行うことができる。また動物実験を補う方法があれば積極的に取り入れ、実験計画を綿密に立てて、できるだけ少数の実験動物で有効に科学的成果を生むように努力することも重要である。
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| 4. |
実験者・飼育技術者の衛生と安全 |
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動物の飼育管理と実験の全体を通じて、実験者・飼育技術者にとって安全で健康的な職場環境を維持することが必要である。動物による咬傷等の防止、感染の防止に努め、特に人獣共通の感染症に対して検疫と感染防止に万全を期することが重要である。
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| 5. |
動物実験の適正な実施 |
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以上の観点から、日本神経科学学会は以下のような指針を定めて会員にその遵守をうながし、会員が動物を飼育し実験を行うに当たっては、わが国の「動物の愛護及び管理に関する法律」(法律第221号、平成11年12月22日)、「実験動物の飼養および保管等に関する基準」(総理府告示第6号、昭和55年3月27日)、その他の関連法規を遵守する事はもちろんのこと、各研究機関等に設置された動物実験委員会にあらかじめ動物実験計画書を提出して承認を得なければならない。なお、学会内に動物実験委員会を設け、動物実験の質の向上と動物実験に伴う諸問題の解決に努める。 |
| 1. |
動物の入手と搬入の方法 |
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すべての動物は法規に従って入手しなければならない。野生動物を実験に使用する場合は、自然保護を考慮し正規の手続きをとって取得したものに限る。輸入動物を使用する場合は、自然保護のためのワシントン条約を遵守する。動物の搬入に当たっては、実験者および飼育技術者への感染および動物間の感染を防止するために、獣医師など専門的知識を有する者が必要に応じて動物の検疫を行う。特に人獣共通感染症については綿密な検査が必要である。
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| 2. |
動物の飼育管理 |
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| 1) |
建物・設備 |
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動物は、動物実験施設で清潔で安定した環境で飼育することを原則とする。やむを得ず、動物実験施設以外で飼育する場合には、逃亡、盗難に対しト十分な対策を講じ、騒音・臭気等を防止し、感染予防策を講じた注意深い飼育管理が必要である。
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| 2) |
動物の飼育環境と飼育管理 |
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動物を飼育するケージは、動物種と個体の大きさに応じて快適に生活できる広さが必要である。ケージとその周辺は清潔に保ち、換気、照明、温度、湿度のコントロールを行う。飼料は嗜好にあった、栄養学的に適したものを与え、新鮮な水が容易に得られるようにする。さらに動物種特有の行動や運動が出来るように配慮し、動物の不安やストレスを軽減するよう心掛ける。遺伝子操作により得られたトランスジェニック動物については、文部省が定めた「大学等における組換えDNA実験指針」「組換えDNA実験に準ずる実験及びその安全確保をはかるために講じなければならない措置」に従う。
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| 3) |
疾病管理 |
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動物の健康状態は定期的に調べ、動物種の特性に応じた疾病対策を行う。病気の動物を発見したときには、速やかに獣医師など専門的知識を有する者の助言を受けて、感染拡大の防止等のために適切な処置をとらなければならない。
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| 4) |
外科的処置 |
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動物に外科処置を行なう時は、術前管理、滅菌、消毒、感染予防などの配慮をし、動物の苦痛を取り除くために術前・術中の投薬と麻酔、術後の投薬と介護を十分に行なわなければならない。 |
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| 3. |
動物実験の計画と実施 |
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| 1) |
実験計画の立案 |
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動物を用いた実験および教育用の実習を計画するにあたっては、以下のことを明らかにしなければならない。実験目的と結果が科学的に価値が高く、動物を使うことが必要不可欠であること。実験手技は、動物に無用な身体的あるいは精神的苦痛を与えないように動物福祉の観点から洗練されたものであること。なるべく少数の動物で目的とする科学的成果が得られるような計画であること。実験者および飼育技術者が動物から危害や感染を受けないよう予防的処置を行なうこと。また関連法規を遵守すること。
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| 2) |
実験計画書の審査 |
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実験者は、動物実験に先立ち、動物実験計画書を各研究機関に設置された動物実験委員会等に提出して審査を受け、承認を受けなければならない。
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| 3) |
動物実験ファイルの作成と保存 |
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実験者は、動物実験の実施状況を記載した動物実験ファイルを作成し保管しなければならない。動物実験ファイルには、承認された動物実験計画書のコピー、健康上の問題および事故が生じた場合の対応と経過の記録、研究成果と発表方法を含むものとする。
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| 4) |
実験者の資格 |
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実験者は、実験手技と実験動物の取り扱いに習熟していなければならない。十分な経験のない実験者は、必ず熟練した実験者の指導の下で実験を行わなければならない。
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| 5) |
疼痛や苦痛の除去、軽減 |
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動物に苦しみや痛みを与えないように、特に実験中は最大限の努力をしなければならない。動物の身体を拘束する場合は、十分に適応させてから実験を行なう。給水、給餌の制限をする場合には、動物が苦痛を感じない範囲で健康状態をチェックしながら行なう。 |
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| 4. |
実験終了後の処置 |
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実験終了後に動物を処分する時には、動物福祉の観点にそった安楽死処置をしなければならない。安楽死処置とは、疼痛や苦痛を伴わずに速やかな意識消失と死を誘導する行為をいう。一般的には、総理府告示(法律第403号、平成7年7月4日):「動物の処分に関する指針」に準拠し、麻酔薬の過剰投与などでこれを行なう。
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| 5. |
動物の飼育および実験実施状況の監視 |
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各研究機関の動物実験委員会は、動物の飼育と実験が人道的に動物の福祉に配慮して行われているかどうかを監督する任務を負っている(資料1)。所属する研究機関に動物実験委員会がない場合は、本指針を遵守するとともに、日本神経科学学会動物委員会の審査および助言を受けなければならない。ただし、この代行は例外的・過渡的なものであり、動物実験を計画する会員は、原則として、当該研究組織にあらかじめ動物実験委員会を設置しなければならない。
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| 6. |
実験成果の公表 |
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会員が日本神経科学学会の学術集会および学会雑誌(Neuroscience Research)に発表する研究は、各研究機関の動物実験委員会、またはそれに代わる委員会の審査を受けて承認された実験によるものとする。
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| 7. |
神経科学学会動物委員会 |
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会員の所属機関に動物実験委員会がない場合には、指針発効後5年間に限り、動物実験計画の審査を日本神経科学学会動物委員会が代行する。神経科学学会動物委員会の構成および審査については、添付資料1における動物実験委員会に準ずるものとする。 |
本学会が標準と考える動物実験の管理や組織等について、添付資料として記載する。なお、各研究機関における動物実験管理組織についての基本的概念を記したものであり、管理組織の具体的任務・構成について指定ないしは要求を行うものではない。
| 1. |
NIH/ILAR:Guide for the care and use of laboratory animals、Institute of Laboratory Animal Resources Commission on Life Sciences National Research Council、1996 鍵山直子、野村達次訳:「動物の管理と使用に関する指針」(第7版)ソフトサイエンス社、1996 |
| 2. |
実験動物飼育保管研究会編集、内閣総理大臣官房室監修:「実験動物の飼育および保管等に関する基準の解説」株式会社ぎょうせい、昭和55年 |
| 3. |
日本実験動物学会:「動物実験に関する指針」解説、社団法人日本実験動物学会編、ソフトサイエンス社、1991 |
| 4. |
「京都大学霊長類研究所のサル類の飼育管理および使用に関する指針」、1986 |
| 5. |
国際疼痛学会(IASP)のガイドラインEthical standards for investigations of experimental pain in animals。 Pain 9、141-143、1980 |
| 6. |
Preparation and maintenance of higher mammals during neuroscience experiments: U.S, Department of Health and Human Services, Public Health Service, National Institutes of Health, Publication 94-3207, 1994 |
| 7. |
「動物の処分方法に関する指針」(総理府告示第40号)、1995 |