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2.材料試験用原子炉の要件

 第1章で検討した材料試験用原子炉に対する需要を整理すると図2.1のようになる。材料試験用原子炉に対する需要は、軽水炉の燃料、材料の照射試験、大学による基礎研究、その他の原子力システム開発に係る材料等の基礎・基盤研究に加えて、産業・医療用アイソトープの製造、NTDシリコン半導体の製造など多岐にわたっており、材料試験用原子炉にはこれらの需要に幅広く応えられる原子炉としての基本性能、照射施設としての設備性能が必要となる。

図2.1 材料試験用原子炉に期待される役割

2.1 材料試験用原子炉が持つべき主要機能
 
(1)  軽水炉燃料照射に求められる主要機能
 燃料照射試験に必要な技術要素を表2.1に示す。MOX燃料を含む軽水炉燃料の高性能化のための研究開発には、貴金属添加や水素注入などの水化学を含めて軽水炉の水環境を模擬でき、出力増強などにも対応した条件で燃料の健全性を調べる通常照射試験ループ及び出力急昇条件や沸騰遷移条件などの異常過渡時の健全性を調べる試験装置が必要となる。特に、試験に基づき安全評価モデルの開発あるいはその妥当性確認を行うためには、オンライン計測及び照射後試験による燃料状態の詳しい評価が不可欠であり、燃料試料のキャプセルへの組み立てや再計装が容易にできる照射後試験施設が利用できることが重要である。

 
表2.1 燃料照射試験に必要な技術要素
照射条件 技術要素 仕様
異常過渡 出力制御 通常運転の2倍程度の高出力への過渡
流量制御 通常運転条件からの流量低下過渡
冷却条件 BWR及びPWR条件
オンライン計装 燃料中心温度、内圧、被覆管温度、変形など
照射後試験 詳細な試験前後の状態把握
燃料種類 ウラン燃料及びMOX燃料
通常照射 出力制御 通常運転条件
流量制御 通常運転条件
中性子スペクトル 軽水炉相当
冷却条件 BWR及びPWR条件
水化学 貴金属・水素注入等を含むBWR及びPWR一次系条件
バンドル照射 2かける2、3かける3、4かける4など
オンライン計装 燃料中心温度、内圧、変形など
照射後試験 詳細な試験前後の状態把握
燃料種類 ウラン燃料及びMOX燃料
(2)  軽水炉材料照射に求められる主要機能
 材料照射試験に必要な技術要素を表2.2に示す。材料の高経年化に関する課題の解決のためには、照射や水環境に係わるパラメータを制御した試験やき裂進展性評価のための照射下試験等を行う必要がある。環境制御照射設備等を用いた軽水炉材料の照射試験例を図2.2に示す。また、一度照射した試料に特殊な計装を付加してキャプセル組み立て等を行う必要があることから、材料試験用原子炉とホットラボが密接に連携できるということも重要な要件である。

(3)  基礎・基盤研究に求められる主要機能
 材料や燃料の基礎・基盤研究では、様々な実験条件、照射条件が必要とされ、基本的には、こうした要求に対応できる照射場の確保がもっとも重要な要件である。
 例えば、燃料照射挙動に関する基礎・基盤研究では、様々な環境を模擬した中性子スペクトルや中性子束を選択できるスペクトル調整機能のある照射施設、中性子照射された高富化度MOX燃料を取り扱える照射後試験施設等が必要となる。また、燃料集合体の総合評価試験には、水環境条件をパラメータとして評価できる水ループが必要となる。
 照射損傷に関する基礎・基盤研究については、数十年以上の中性子照射下で初めて起こる析出や粒界偏析などによって生じる照射劣化もあり得るため、長期間安定に照射できる設備も必要である。また、中性子照射量や温度を精度良くパラメトリックに照射ができる設備が重要で、さらに、近年その重要性が高まっている中性子照射下でのダイナミズム研究に関しては、照射環境を高精度に制御し、照射中に高度な計測、制御を行う必要があることからシュラウド型の照射設備も必要になってきている。
 高温ガス炉に関しては、耐熱性を向上させたSiC被覆燃料やジルコニア被覆燃料の照射試験やセラミック系構造材料の高温照射試験装置、核融合炉に関しては、ブランケットの炉内機能を調べるためのガスループ設備等が重要な要件である。核融合炉に関しては、ブランケット構造材のスペクトル効果、熱処理、微量添加元素をパラメータにしたスクリーニング照射試験や中性子照射下における計測機器等の動作確認を行えるような照射試験も出来ることも望ましい。

 
表2.2 材料試験に必要な技術要素
対象部位 照射利用分野と照射試験目的(注) 必要な技術要素 施設選択に係る基本因子
圧力容器鋼 60年供用に対応した高照射領域の脆化予測法の確立 照射済試験片のキャプセルなどへの装荷技術 照射能力(照射量、照射温度等)

照射条件の精密制御性(照射量、照射温度等)

各試験片の正確な情報が得られること(照射量、照射温度、中性子スペクトル)

良好な照射条件で十分な照射容量が確保できること

照射後試験設備の充実性、アクセス性
監視試験片による破壊靭性直接評価法の確立 破壊靭性試験用大型試験片の照射技術{例えば、1CT試験片(63かける60かける25ミリメートル)を複数個照射}
炉内構造物 低照射量域での応力腐食割れ(SCC)評価 水質・腐食条件の制御技術(BWR、PWR環境下での水化学等)
照射下き裂進展試験技術照射済試験片の再照射技術
照射誘起応力腐食割れ(IASCC)評価
ステンレス鋼の照射劣化評価 照射後試験施設(組織観察、破壊靭性評価)へのアクセス性
照射済試験片の再照射技術
大型試験片の照射技術
補修溶接部 補修溶接法の確立
(注)詳細項目は表1.1参照

図2.2 環境制御照射設備等を用いた軽水炉材料の照射試験の例

(4)  ラジオアイソトープの製造に求められる主要機能
 国内で生産しているRIのほとんどが短半減期のRIで、照射後の速やかな配付が必要であることから、ホットラボへのアクセスが良いことが求められる。特に、がん等の核医学診断薬に利用されている99mTcは、半減期が約6時間と短いために照射から頒布まで迅速に対応できる施設が必要である。また、緊急にRIが必要な場合に対応するため、運転サイクル中の途中取り出しができるRI専用の設備は重要である。熱中性子束としては、1〜3かける1018n/m2/s程度、数百cc(シーシー)程度の照射体積が必要である。

(5)  NTDシリコン半導体の製造に求められる主要機能
 今後大きな需要が見込まれるのは、直径8〜12インチのNTDシリコンであり、これらの大口径シリコンの照射に利用できる十分に制御された照射施設が必要である。NTDシリコンの国際的な市場競争力を考慮した場合には、経済性、効率性を重視する必要があり、照射装置は炉の運転中にシリコン試料の交換が容易に可能で、年間20トン以上のNTDシリコンが製造能力を持ち、照射済みシリコン単結晶の交換作業が自動的に行える設備とすることが重要である。加えて、照射したシリコン単結晶の放射能が減衰するまでの一時保管設備や汚染除去が容易にできることが求められる。具体的な照射条件としては、熱中性子束が3かける10の17乗n/m2/s程度、照射装置としては、直径8インチのシリコンを照射する場合、直径30センチメートル程度の炉内管が必要である。また、高速中性子による照射欠陥を少なくするため、高速中性子束は可能な限り低い方が望ましい。


2.2  国内外の材料試験用原子炉の状況
 前節で検討したように、軽水炉の燃料や材料は中性子等の放射線と応力や腐食等の相乗的な影響を受けることから、これらの複合環境を模擬した照射試験、あるいは実機よりも過酷な条件での加速試験も含めた照射試験を行うことが必要とされている。こうした照射試験を行うためには、空間的に広い一定の中性子束が必要であり、また中性子スペクトルが実軽水炉の条件を近似し、加えて加速試験が出来るためには、実機の中性子束より相当大きな強度を有する照射場が必要となる。
 アイソトープ製造やシリコン照射に関しては材料試験用原子炉のほか研究炉も使われているが、中性子束が大きく、照射場が大きいことは利用の柔軟性を確保できるため有利である。
 なお、中性子照射のできる施設としては、研究用原子炉の他、加速器中性子源もあるが、中性子強度が小さく、かつ照射場の体積も小さいため、軽水炉の燃料や材料照射には適していない。特に、加速器中性子源の場合は、中性子束の指向性が強く、照射試料のサイズも数ミリメートル程度と空間的にも限られたものとなり、加えて中性子エネルギースペクトルの条件が必要な条件を満たすことができないため、材料試験用原子炉の代替えとはなり得ない。

 
(1)  国内の材料試験用原子炉の現状
 材料照射用原子炉としては、我が国ではJMTRが唯一である。JMTRは動力炉国産化技術の確立と国産動力炉などの発展に寄与するため、原子炉用燃料、材料の照射試験及びRIの生産を行うことを目的とし、旧日本原子力研究所大洗研究所に設置された国内唯一の材料試験用原子炉で、原子炉とホットラボが隣接(直結)しており、照射後試験や再照射試験が容易にできる世界的にも他に類を見ない特徴を有する材料試験用の原子炉施設である。
 JMTRのあゆみと主な照射利用を図2.3に示す。現在までに約9千件の各種照射試験が行われ、我が国の軽水炉利用を支える基盤施設としての役割を果たすとともに、大学等の基礎研究等にも広く利用されてきた。
  図2.4は、1969年のJMTRの供用開始から2004年度までの軽水炉関連の照射利用の状況である。JMTRにおける近年の軽水炉関連の照射利用は、軽水炉の経済性向上や高経年化に関する課題が中心であり、図2.5に示すように2000〜2004年度の利用の約45パーセントである。ただし、設備利用率として見た場合は、十分に利用されているとは言えず、我が国の海外炉需要をJMTRに取り戻すこと、アジア地域を中心に海外の需要を喚起するなど、今後、利用率向上のための一層の努力が必要とされている。

 
図2.3 JMTRのあゆみと主な照射利用

図2.4 JMTRでの軽水炉関連の照射利用(1969〜2004年度)

図2.5 JMTRでの最近の照射利用状況

(2)  国外の材料試験用原子炉の現状
  表2.3は、JMTR及び国外の代表的な材料試験用原子炉の利用目的を整理したものである。いずれの試験炉も現行軽水炉の寿命延長のための炉内構造材のIASCC試験や原子炉圧力容器材の照射試験、MOX燃料を含めた軽水炉燃料の高性能化のための照射試験、軽水炉燃料の事故時等における挙動評価に関する照射試験、改良型軽水炉等の開発のための照射試験が行われており、軽水炉を支える基盤施設と位置づけられている。
  表2.4は、これら材料試験用原子炉の状況についてまとめたものである。2005年現在、世界で稼動している研究用原子炉は288基あるが、多目的な材料照射に対応できる材料試験用原子炉は10基以下である。加えて、これらのほとんどが初臨界から30年以上経過しており、多くは相当規模の更新等を行い、需要に応じている状況にある。
 こうした状況を踏まえて、原子力発電の先進国であるフランスは軽水炉の長期利用を展望し、サックレイ研究所のOSIRIS(1966年初臨界)の後継炉として、高性能の材料試験用原子炉ジュールホロビッツ炉(JHR)の建設を国策として具体化しつつある。JHRは、原子力プラントの高経年化対策、安全性及び経済性向上等の発電炉の技術的支援、現行炉や新型炉のための燃料、材料開発、放射化分析及びRI生産等に供される予定である。

 
表2.3 材料試験用原子炉の利用目的

表2.4 材料試験用原子炉の状況


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