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1.材料試験用原子炉の役割

1.1  軽水炉に係る利用
 原子力政策大綱の基本的考え方に「2030年前後から始まると見込まれる既設の原子力発電施設の代替に際しては、炉型としては現行の軽水炉を改良したものを採用する」と記述されていることから、我が国の原子力発電の主力は、今世紀半ば、あるいはより長期に軽水炉が担うことになるとの見通しが示された。その上で、軽水炉の長期利用に伴う構造材料の健全性や燃料(MOX燃料を含む)高燃焼度化などの経済性の向上等に係る課題、現行軽水炉の高経年化対応、MOX燃料を含む軽水炉燃料の高性能化及び安全評価、軽水炉技術の高度化等の開発等に関し、今後海外炉も含めて照射が必要な研究開発課題を検討した。

 
(1)  軽水炉の燃料照射
 軽水炉燃料の燃料に関する照射試験としては、経済性の向上と使用済み燃料の低減という観点からの高燃焼度化を目的とした課題がある。ウラン燃料の高燃焼度化に伴い被覆管の腐食や水素吸収に伴う脆化などが進むため、異常時に対する安全裕度を担保するための破損しきい値などのデータの取得が必要となる。また、耐食性を高めた新合金被覆管の導入も継続的に行われており、ウラン燃料については、BWR、PWR(図1.1)の新型燃料の導入のように、今後も段階的に高燃焼度化のための技術開発を進めることが計画されている。特に、現状では燃焼度制限が低く設定されているMOX燃料については、ウラン燃料と同程度の高燃焼度化を目指した研究開発が今後の重要課題となる。
 燃料の高燃焼度化の開発では、定常的な燃焼条件下において高燃焼度時の燃料の健全性が保たれることを確認すること、また、出力増加や水化学条件の変更などの使用条件の変化が燃料の健全性に及ぼす影響の確認が必要となる。図1.2は、燃料の高燃焼度化のために必要な試験項目と想定される必要な照射試験の期間であり、それぞれの試験項目ごとに数年から10年程度の照射試験が必要になることを示している。また、図1.3は、燃料照射試験が必要となるBWR、PWRそれぞれの燃料開発課題とそれに係る規制(国)側の課題を整理したもので、異常時の健全性を調べる異常過渡試験や高燃焼度化を目指した通常照射試験がある。

 
図1.1 加圧水型原子炉及び沸騰水型原子炉の概念図

図1.2 燃料開発に必要な試験項目と予想される開発期間

*原子力学会のロードマップ課題番号については付録2を参照のこと。
出展:日本原子力学会「発電炉の安全に関する研究開発ロードマップ検討」特別委員会報告書、平成17年3月。

図1.3 燃料開発・規制に関する課題

(2)  軽水炉の材料照射
 我が国の軽水炉は、間もなく運転期間が40年以上に達する高経年化の時代に入る。同時に、今後は60年程度の長期利用も想定されており、これに対応した構造材料の健全性の確認技術の開発、経年劣化に関する規格・基準など施設の健全性を評価するための包括的な照射試験データが必要となる。
 具体的には、軽水炉の圧力容器鋼については中性子による高照射領域での脆化を精度よく予測するための方法を開発すること、シュラウド等の炉内構造材については応力腐食割れについて照射環境、水化学条件、力学的条件などの複合条件を考慮した評価手法を確立すること、照射補修部の健全性を評価するための手法と基準を確立することが必要になる。
  図1.4は、初期の軽水炉の運転期間が2010年頃には40年、2020年頃には50年に達するため、それに対応した技術開発や維持基準等の基礎データを集積し、発電プラントの高経年化に対する安全性や信頼性を評価することが必要になることを示している。表1.1は、軽水炉の高経年化に関して必要とされる構造材の照射課題をまとめたものであり、これらの課題に対応するためには、数年から10年程度の長期の照射試験を含む研究開発が必要となる。

 
図1.4 構造材料の経年劣化に関する試験研究と年次展開

表1.1 材料高経年化に係わる構造材照射試験課題
対象部位 照射利用分野と照射試験目的
<軽水炉材料の研究開発-材料高経年化への対応>
原子力学会
ロードマップ課題番号(注)
圧力容器鋼 60年供用に対応した高照射領域の脆化予測法の確立
  照射速度の影響評価
照射脆化メカニズム解明
M1
監視試験片による破壊靭性直接評価法の確立
  試験片寸法効果の評価(マスターカーブ法)
破壊機構の解明
M1
炉内構造物 低照射量域での応力腐食割れ(SCC)評価
  放射線分解水質下でのSCCき裂進展への影響評価
低照射速度、低照射量域でのSCC発生・進展挙動の照射影響評価
炉内腐食環境(水質・腐食条件)評価技術の高度化
M2
照射誘起応力腐食割れ(IASCC)評価
  照射下SCC発生・進展挙動評価(評価手法の高度化を含む)
照射下・照射後SCC試験における応力・水質変動の影響評価
M3
ステンレス鋼の照射劣化評価
  照射による靭性低下とスエリング挙動評価
照射劣化に及ぼす照射速度・中性子スペクトルの影響評価
加速照射の妥当性評価とメカニズム検討
M4
補修溶接部 補修溶接法の確立
  高照射量部材の補修溶接部健全性評価
照射溶接部の健全性評価手法の確立
M5
(注)原子力学会のロードマップ課題番号については付録2を参照のこと。
出展:日本原子力学会「発電炉の安全に関する研究開発ロードマップ検討」特別委員会報告書、平成17年3月。

1.2  材料・燃料に係る基礎・基盤研究利用
 
(1)  大学等の基礎科学
 JMTRには、運転開始当初から東北大学金属材料研究所附属材料試験炉利用施設(2004年4月に「量子エネルギー材料科学国際研究センター」と改称)が付置され、大学や研究機関の全国共同利用施設として、幅広い材料科学の研究に使われてきた。図1.5に示すように、近年では年間平均約1,500人・日の照射後試験が実施され、2000年〜2004年の5年間で430編の学術論文の成果を生むとともに、6大学で24名の博士号取得者を輩出するなど、原子力材料分野の人材育成にも大きな役割を果たしてきた。
 大学を中心としたJMTR利用は、原子炉材料挙動評価の応用研究から地球・宇宙年代測定、格子欠陥物理などの基礎研究からアクチナイドの研究に至るまで幅広く行われ、科学技術の向上と優れた人材育成をとおして、我が国の科学技術の発展と産業を支えている。
 照射による材料特性変化に関する研究は、原子レベルの微細組織変化を中心とした照射効果の機構論的解明により、照射試験によって取得できる材料特性データの内挿、さらには外挿の精度を高め、精度の高い寿命予測に基づいた合理的な維持基準を策定する際の基礎となるものである。さらには、材料科学に関する基礎研究は耐照射性の向上を目指した材料開発や予期せぬ材料劣化事象の解明、前述した軽水炉の燃料・材料に係る諸課題の解決を支える基礎を担っており(図1.6)、量子エネルギー材料科学国際研究センターは、現在、この分野の世界の中心拠点の1つとなっている。

(2)  原子力システム等に係る基礎・基盤研究
 軽水炉の中長期的な有効利用、核燃料サイクル技術の高度化等を目指すためには、幅広い基礎・基盤研究が必要である。とりわけ、原子炉材料や燃料に係る基礎工学研究、材料の照射損傷にかかる基礎研究等は、軽水炉等の安定利用を担保するための基盤である。また、今日原子力発電所で起こっているトラブルの多くは、材料に係る事象が極めて多く、基礎・基盤研究分野は、こうした予期せぬ事象に適切に対処するための知見と人材を提供しているという重要な側面もある。
 材料や燃料に係る基礎・基盤研究は、民間による技術開発や国の安全規制と合わせて、我が国の原子力利用の発展と安全を支える柱であり、これらの研究を実施するためには、様々な照射環境を模擬できる材料試験用原子炉が必要となる。

 
図1.5 量子エネルギー材料科学国際研究センターにおける大学関連の研究開発

図1.6 原子レベルの挙動を考慮した照射劣化・脆化の解明

1.3  その他の産業利用
 
(1)  ラジオアイソトープ製造
 JMTRやJRR-3では、現在、各種ラジオアイソトープ(RI)の製造が行われており、製造されたRIは、工業用の非破壊検査や医療分野での治療や診断等に利用されている。RI製品は、長期にわたって品質の高いRIを定常的に供給することが不可欠であるため、複数の原子炉を併用し、安定した製造ができるシステムを保持することがRI製造のための基本的要件である。現在、我が国のRIの相当量はカナダ等から輸入されているが、国外からの供給には様々な不確実性があり、基本的には国内での供給、それを補う海外からの輸入という体制を有することが望ましい。こうした観点から、より柔軟な照射ができるRI製造機能を付加することと合わせてJMTRに対する期待は大きい。
 表1.2は、がんの診断・治療薬等に使われている特に重要なRIを示したもので、中性子束の大きいJMTRの更新によって、より多くのRIの製造が可能となる。

 
表1.2 がんの診断・治療薬等の医療分野で重要な放射性同位元素
核種 半減期 生産方法 用途・特記事項
モリブデン99テクネチウム99エム 66アワーズ毎6アワーズ ウランエヌエフモリブデン99モリブデン98エヌガンマモリブデン99 核医学診断薬、テクネチウム99エムジェネレーター原料、液体燃料炉利用PZCカラムの開発
ストロンチウム89 50.5デイズ ストロンチウム88エヌガンマストロンチウム89 疼痛軽減薬強ベータマイナス:1.495MeV(メガ電子ボルト)(100パーセント)
タングステン188レニウム188レニウム188 69.4デイズ毎17アワーズ17アワーズ タングステン187エヌガンマタングステン188 レニウム188ジェネレーター、MAB標識がん治療薬強ベータマイナス:0.965MeV(メガ電子ボルト)(25.6パーセント),2.12MeV(メガ電子ボルト)(71パーセント)
ストロンチウム90イットリウム90 28.7イヤーズ毎64アワーズ ウランエヌエフストロンチウム90 イットリウム90ジェネレーター、MAB標識がん治療薬強ベータマイナス:2.28MeV(メガ電子ボルト)(100パーセント)
ヨウソ125 59.4デイズ キセノン124エヌガンマキセノン125右矢印ヨウソ125 前立腺がん治療用線源
(2)  NTDシリコン半導体製造
 現在、JRR-3やJRR-4において、中性子ドーピング法を利用して高品質のシリコン半導体の製造が行われている(図1.7)。中性子ドーピング法によって製造された均一性の高いシリコン半導体は電力制御特性に優れている。特に口径の大きい8インチから12インチのNTD−シリコン半導体は、ハイブリッド電気自動車や燃料電池自動車等の制御回路の基板として利用され、自動車産業の国際競争をも左右する重要な素子である(図1.8)。ハイブリッド電気自動車は今後5年間で3百万台に達すると見込まれており、これに必要なシリコン半導体は年間60トン程度と見積もられるが、現状では、JRR-3やJRR-4から供給できるシリコン半導体は口径が6インチ以下で、供給量も年間5トン以下である。現在、我が国の大口径シリコン製造技術は、国際的に圧倒的な地位を有しているが、一方ではNTDシリコン製造には、世界中の研究炉、試験炉が活用されているのが実情である。今後、国際的にも需要の大幅な増加が見込まれることから、国内に8〜12インチのNTDシリコン半導体を生産できる施設と体制の整備が希求されている。

 
図1.7 NTDシリコン半導体の特長

図1.8 NTDシリコンの生産量と需要見通し


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