第6期情報科学技術委員会からの引継ぎ内容

1.文部科学省における情報科学技術のプロジェクト研究開発の役割について

情報科学技術分野は、研究開発と実用化が近く、民間部門の投資が活発であることから、ライフサイエンス等の他の研究開発分野に比べ、大学等が中心となった基礎領域のプロジェクト研究への公的資金の投入には理解が得られにくい。文部科学省は今後どのような研究開発を推進することにより、資源配分割合を増大させることができるか。

(社会から見える形での社会実験の必要性)

情報系の社会実験は単に情報系のある側面をあるフィールドで実施して、どのような問題があったかという話を明らかにするところで終わっており、跡が残らず社会から非常に見にくいのが課題。新交通システム等のように社会から見える形での社会実験を行うことが必要。

(社会生活がどう役立つのかという観点)

社会システム、社会インフラにITがどう役立つのかという観点が大事。例えば、災害に強いIT等は産業的な立場から見ると、すぐ利益が出ないが、災害の多い国はたくさんあるので、国際連携に活用できる。技術開発で出てきた新技術(dependability、レジデンス性等)が新産業の基幹技術になることも可能。

(ビジネスにならないが重要なテーマ)

ビジネスにはならないが重要なテーマを研究開発することが必要。その典型がHPCとかスーパーコンピュータで、メーカーにとって決してもうかるビジネスではないが科学技術全般から見ると重要。我が国でもずっと投資が行われているし、アメリカにおいても同様。

(コンセンサスの取りにくい研究への挑戦)

とがったところを研究しないと日本発のITは強くならない。大きなプロジェクトは多くの人のコンセンサスが必要。成功率は10事業のうち1事業くらいかもしれないが、あえて挑戦することが重要。

(研究開発のメリハリ)

今までの国家戦略は常にやることだけで、捨てることを考えてこなかった。何をやらないかを考え、研究開発のメリハリを付けることが必要。

(これまでの施策への振り返り)

今後何を研究開発していくかを検討するときは、まず振り返ることが必要。何が良かったからうまくいったのか、何が悪かったから成功しなかったのかというリーズニング。文科省の施策で正しくうまく行っていることも評価することが必要。また、日本のコンビニエンスストアをアメリカに逆輸出していることや、PASMO、Suica等、世界的に極めてとがったシステムを作った前例への着目も必要。

(情報インフラに生かすというスタンスの必要性)

HPC、ネットワーク、図書館等、情報課が持っているインフラに研究開発をうまく生かしていくことが必要。

(省庁連携の役割を果たす必要性)

情報に関する投資をしている省庁を見据えながら投資していくことは非常に重要。例えば、文科省は全体を俯瞰(ふかん)した上で初期投資して、種が出たらそれを経産省、総務省につなぐという省庁連携の役割を果たすことが必要。

(IT的な研究の進め方を見せる必要性)

様々な研究分野において、コンピュータやソフトウェアを用いて研究するようになり、研究の進め方が本質的に変化している。IT的な研究の進め方は、IT系の研究者等が説明しないと伝わらないので、施策上でも示すべき。また、ITシステムは、特に社会的なものを扱うものに関しては、応用エリアに関する基礎研究があり、このような分野についても基礎研究として支援すべき。

(他分野に対し重要性を主張し、研究すること)

他の領域、分野の方々にもITがどれだけ先導できるかということをもっと主張し、かつ我々がそれを研究分野としていくことが必要。

2.社会的課題の解決について

第4期科学委技術基本計画を踏まえ、情報科学技術委員会では、「情報科学技術分野の研究開発推進方策」を策定し、社会的課題の解決のための研究開発に予算配分を重点化してきたところである。これまでの研究開発プロジェクトの取組状況等を俯瞰(ふかん)して、残る計画期間中に、更に重点化すべき技術開発領域は何か。

(知のコンピューティング)

知のコンピューティングを今後最も押さえておくことが必要。

(デザイン)

「デザイン(広い意味でのデザインのことで、単なる設計から新しい着想によるものまで含む)」がこれからの技術開発の鍵。

(ソフトウェアに関する研究)

ソフト屋から見ると、人間相手の問題よりも機能安全のように、そのソフトウェアが適切に作成されていることをどう科学的にも技術的にも制度的にも担保するかが、日本の産業力にとって大きな課題。

(知識インフラ利活用の仕組み)

「知識インフラ」というキーワードで、様々な基盤が形成されているが、それらをビッグデータやクラウド上でどう利活用していくか、その仕組み(「知識インフラ」から情報を抽出し、意味理解を行い、フィードバックし、予測と結びつけて、問題を解決していくというメカニズム)をいかに強くしていくかがポイント。

(材料とデバイスの連携)

スピントロニクス等、いわゆる材料とデバイスの連携を強めて、基礎研究を進めるべき。

(e-Justice)

山のようにある社会課題に対し、当該社会課題のどの部分を解いていって、国民の理解を得るのかということをITがサポートする時代(今ヨーロッパでは、これを「e-Justice」と呼んでいる。)。

(低消費電力コンピューティングの実現)

産業界が競争力を維持するには、低消費電力化が鍵。スマートフォンでもEV車でも低消費電力化が必要。低消費電力コンピューティングは取り組むべき課題。

(シナリオデザイン・サイエンス)

災害時のロジスティックスの研究は、日本では余り例がない。かつてのプロセスエンジニアリング(プロセスのようにワークフローを作る)よりは、もっとフレキシブルにリソースの組合せのシナリオについて、どうデザインすればどのようなことができるかを、シナリオデザイン・サイエンスとして研究することが重要。

(エッジヘビーデータ)

エッジヘビーデータといわれる、現場、センサーに近いところで爆発的にデータが増えている。センサーと近いところで価値を生むような研究開発があるのでは。

(エネルギーの伝送制御等に関する技術開発)

エネルギー問題では、風力、太陽光発電等、多様なエネルギーの研究開発が必要で、更に蓄電と送電の技術開発も必要。
特に送電は全世界を意識して、例えば、太陽が出ている側(がわ)から太陽が出ていない地球の反対側に電気を送るための仕組みや制御等、今後情報科学技術が受け持つ分野が大きくなるのでは。

(ビジネス性がすぐに見えないが、着手が必要な分野)

大規模システム、デバイス開発等、ビジネス性がすぐには見えないが、手をつけておかなければいけない分野に関して、力を発揮することが必要。

3.国際戦略について

欧米においては、戦略的に情報分野への研究開発投資を行い、各国の情報産業の国際競争力を強化している。我が国としても同様に効果的に研究開発投資を行うべきであるが、その際、どのような国際戦略をもとに情報科学技術分野の研究開発を進めるべきか。(国際的にみて協調・連携すべき分野や重点化すべき技術はあるか。)

(研究開始段階から国際共同研究を積極的に推進)

情報科学技術は完全にグローバル化しているので、グローバリゼーションが必要。例えば、研究開始段階から国際共同研究を積極的に進める等、徹底的な国際化が必要。

(海外のトップレベルの研究者と共同研究できる組織、仕組み)

海外のトップレベルの研究者と共同研究できる組織や、コラボレーションできるような仕組みを作るべき。ガラパゴスが悪いとは決して思わないが、何も知らないガラパゴスはまずくて、いろいろな国際連携する中でガラパゴスすること自身は日本の強み(Suica、スマートフォン、プラグインハイブリッド自動車等の分野)。その強みをどう活用するかは国際連携することで初めて見えていくのでは。

(アジアを意識した研究開発)

韓国、台湾、中国だけでなく、シンガポールとインドといった国にも目を広げて研究開発することも今後の方向性としていいのでは。

(アカデミアの活用)

情報の世界はプラットホームの争いになるので、文部科学省だけで収まる話ではないが、アカデミアは中立的な立場からの研究開発をしている、あるいは中立的にしているふりをするのによく使われるので、そういう使い方をすればいいのでは。アカデミアをうまく入れると、まとまらないものもまとまる可能性がある。

(競争領域は自国で技術開発することの重要性)

オープンなように見えて秘密は守って、競争領域はその国の競争力のために出してくれないので、いつでも海外から安く買ってくれば日本の製品が強くなるわけではない。やはり守らなければいけない技術は日本で育てていくことが必要。?

4.情報科学技術による社会システム・サービスの改革について

情報科学技術分野については、個別の技術開発課題(デバイス、ソフトウェア、ネットワーク等)の解決のみならず、社会システム・サービスを改革し、社会的課題を解決することへの期待が強まっている。従前のような研究室単位での研究を越える課題が増えているとの指摘がある中で、大学等にはどのような貢献が求められるか。

(自治体、シンクタンクを含めた学際的なチームでの取組)

欧米では、例えばネットワーク関係で、大学と民間企業、自治体、シンクタンクを含めて、仮に大学が何か研究の種を持っていると、それをシンクタンクがうまくコーディネーションし、自治体に適用して、最後は民間が継続したビジネスに育てていくという、良いフォーメーションが組まれている。学際的なチームで問題に当たることが必要。

(ミッション・ドリブンなプロジェクト)

ミッション・ドリブンな形で、大きな社会問題や自然問題を持ってきて、その課題を総合的に、いろいろな道具を総動員して解決するためのシステムを促進することが有効。

(技術面と法制度がセットで議論できる場)

社会システムの再設計では、技術面だけではなく、法制度に多分に影響されるので、そことのセットで議論がしていけるような場が必要。

(基盤技術を社会課題の解決まで一貫して執念を持って進めること)

ITのすばらしい基盤技術を開発した、それが単に精度を何%上げた等、性能の向上に、社会的にどのようなインパクトがあったというところまで、執念を持って進めるのが社会課題解決型の研究開発。特に社会デザインは、社会に試しに適用して問題点があれば解決するところまでが研究開発であり、その後、定着の見通しが得られれば、企業がビジネスで実施することが可能。大学の先生や文科省は基盤技術で終わるのではなくて、一人の人が最初から社会の課題を解決する、基盤技術をそこに適用するところまで、一貫して執念を持って進めることが必要。

5.新たな課題への対応について

例えば、サイバーセキュリティ、データのオープン化など、情報科学技術が関連する新たな課題について、大学等を中心としたプロジェクト研究によりどのように課題解決に貢献していくべきか。

(大学等の高等教育機関は実験フィールド)

大学等の高等教育機関を実験のためのフィールドとすることが1つのアプローチ。単に知識を探し出してくるのは、中学校・小学校レベルとすると、どう問題解決するのか、ダイナミズムが問われるのが高等教育レベル。意欲的なシステムをつくる等、具体的に問題を考えていくことができる場。

(世界でやっていない日本発の新技術開発)

公的資金の半分は世界のトレンドを追うのに使うとしても、残りの半分はとがったところ、世界でやっていない日本発の新技術開発をするべき。IT関連政策の立案に当たっては、ボトムアップの研究も大事にしつつ、目利き力をもってどうやるかが大事。

(e-Educationのレベルでの検討の必要性)

隣国との問題、あるいはサイバーアタックの問題があるが、これは原則人が起こしているもの。全世界の人々の知のレベルを底上げし、世界の人々が仲よくなる、あるいは戦争を起こさなくなるような教育を根本的なレイヤーから考え直すことが必要。アメリカ、ヨーロッパでは、ITで何ができるかを懸命に検討している、e-Learningをもっと超えたe-Educationのレベルでの検討が必要。

(システム・デザインが理解できる人材の育成)

『オープンなシステム』や『デザイン』がしっかりと理解できている人材を育成することが必要。例えば、アメリカは、データサイエンティスト、データキュレーターが足りないため、インサイト・フェローシップ・プログラム等の新プログラムを実施している。そこにおいて、情報学に携わった者が、『オープンなシステム』や『デザイン』ができる人材になっているかを深く考えていくことが必要。

6.その他

(東日本大震災の記憶が薄れつつあるのではないかという危惧)

東日本大震災にどう情報技術として対応するかをいろいろ議論したが、あれから二年が経過して、当時の悲惨な記憶が薄れつつあるのではないかという危惧。

(外国製のソフトウェアで研究することへの危機感)

研究に使うシステムソフトウェアの多くが、現状欧米から来ている。コストが高いだけではなく、何を発見できるかということもそれに依存。外国製に頼ってできる研究は、自国の人にプライオリティーがあるのは当然で、非常に国家的危機と捉えることが必要。

(メッセージ、文化力)

「メッセージ」というキーワードが弱くなっている。21世紀は、文化力を世界にメッセージとして出してもいいのでは。

(違った視点から物事を開発するとらえ方)

研究開発していくときには、リバース・イノベーションのように、違った視点から物事を開発していくようなとらえ方も必要ではないか。

(死の谷を越えるための目配せ)

「死の谷」で討ち死にしていく技術もあれば、うまく伸びる技術もある。そこへの目配せが必要。研究者やエンジニアといった人材、あるいは投資をどう進めていくかは、実は非常に困難。

(委員が施策を説明できるようなキャッチフレーズ)

文科省として何を取り組むのかというときに、委員会委員も説明ができるように、委員が例えば近くの人に説明できるようなキャッチフレーズをここで議論していくことも大切ではないか。

お問合せ先

研究振興局参事官(情報担当)付

電話番号:03-5253-4111(内線:4286)

(研究振興局参事官(情報担当)付)

-- 登録:平成25年09月 --