科学技術・学術審議会(平成25年2月19日)における野依会長の発言の概要について

 この会議は、科学技術・学術審議会であるが、人文・社会科学を含む学術一般の動向とその水準に関わる議論は、ほとんど議題にならない。日本文化の礎であると共に人材育成の要であり、問題なく順調に推移していると察するが、もし問題があれば、この審議会でも取り上げたい。
 一方、科学技術の指標が低迷していることは明白。これについてはこの審議会にも一定の責任がある。科学論文の量、質、費用対効果は芳しくない。突き詰めれば、個人の生産性、創造性の低迷。特に主力である国立大学の指標の停滞が影響している。もはや個々の研究者や機関の奮起では間に合わず、大幅なシステム改革が不可欠。優れた若手、女性、外国人の思い切ったリーダーへの登用が必要。現行の体制でがんばってもV字型回復はない。また、アカデミアは、伝統的な意味での学術の発展、深化に貢献しなければいけないが、現実社会からの要請にも応える必要がある。
 一般社会は、アカデミアの論文指標には興味がないだろうが、看過できないことが3点ある。

  • 国費による科学論文発表活動の費用対効果が国際ベンチマークから見て低い。ファンディングエージェンシーとも連携した検討が必要。今までのファンディングの仕組みでよいのか。
  • アカデミアのイノベーションへの貢献度が低い。英、米、独、仏に比べても、研究開発投資の効率が低いというデータがある。日本は、官の投資が少ないことは憂慮すべきであり、アカデミアの活動もこれと無関係ではない。アカデミアが経済成長に直接的に関与することは少ないが、いかなる形であれ、アカデミアは自身の特質を活かした上で実社会への貢献が求められている。また、研究活動に対して論文指標以外の評価法の確立が不可欠。
  • 人材養成における需給のミスマッチ。いっこうに改善される気配がない。学際活動、産業界、グローバル環境に適応できない状況が長く続いている。高等教育、特に大学院教育の抜本的改善を中教審とも連携して真剣に考えていくべき。

 これらについて、各分科会で真剣に検討いただき、日本の再生に資してゆきたい。アカデミアでできることは限定的で、行政、政治、経済界総がかりで取り組まなければならないことが多い。欧州では国境を越えてこれらに取り組んでいるが、日本は国内でも多くのことが縦割りであるのは残念。あるべき姿を提示し、実行していかないといけない。深刻な現状を直視しつつも、悲観的になるべきではない。日本社会の潜在力は大きい。「東日本大震災を踏まえた科学技術・学術政策の在り方について」の建議は、震災に関わることだけではなく、現在の様々な科学技術・学術にかかわる問題が含まれており、是非、この内容を実現したいと思うので、各分科会においても、具体化のための方策を積極的に御議論いただきたい。

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-- 登録:平成25年05月 --