情報科学技術委員会(第106回) 議事録

1.日時

平成31年1月9日(水曜日)13時~15時

2.場所

文部科学省3階特別会議室

東京都千代田区霞が関3-2-2

3.議題

  1. 今後の情報科学技術分野に関する研究開発課題の方向性について
  2. その他

4.出席者

委員

北川主査、喜連川委員、栗原委員、高安委員、瀧委員、土井委員、樋口委員、安浦委員、矢野委員

文部科学省

千原大臣官房審議官(研究振興局担当)、原参事官(情報担当)、邉田専門官、齊藤情報科学技術推進官

5.議事録

科学技術・学術審議会 研究計画・評価分科会
情報科学技術委員会(第106回)
平成31年1月9日


【北川主査】  それでは、定刻となりましたので、科学技術・学術審議会研究計画・評価分科会情報科学技術委員会の第106回の会合を開催いたします。
 皆様、あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願い申し上げます。
 本日は、有村委員、伊藤委員、上田委員、國井委員、辻委員、八木委員から欠席の御連絡を頂いております。
 引き続き、事務局から資料の確認等をお願いいたします。
【齊藤情報科学技術推進官】  それでは、資料の確認をさせていただきます。左上クリップ留めの資料でございますが、座席表をおめくりいただいて、一番最初に議事次第がございます。こちらの議事次第に配布資料の一覧を載せております。
 資料1として、一番最初の矢野委員の御発表資料、資料2として土井委員の御発表資料、資料3として瀧主査代理の御発表資料、それから参考資料といたしまして、事務局資料でございますが、「第103回及び第105回会合で提示のあった主な論点」という資料、参考資料2として、「追加での御意見の提出について」としております。また、黄緑色のファイルでいつもどおり机上資料を置かせていただいております。
 資料の不足や不備等ございましたら、事務局の方までお申し付けください。
【北川主査】  よろしいでしょうか。
 それでは早速、議事に移りたいと思います。今後の情報科学技術分野に関する研究開発課題の方向性についてということでございます。
 この件につきましては、前回に引き続いて、プレゼンをしていただいた後に御議論いただきたいと思います。103回では、JSTの研究開発戦略センターの木村様からプレゼンを頂き、また、前回の105回では上田委員、有村委員からそれぞれ話題提供を頂いて、それに基づいて皆様から御議論いただきました。今回は、矢野委員、土井委員、瀧主査代理からそれぞれの観点からお話を伺い、その後で議論を行いたいと思います。
 それではまず矢野委員からお願いいたします。プレゼンは15分程度で、その後、それぞれ20分ずつ議論していただくという形で進めたいと思います。よろしくお願いします。
【矢野委員】  こんにちは。矢野の方からプレゼンさせていただきます。
 まず、最近日程が合わなくて余り出れなかったので、趣旨に合っているかどうかちょっと心配ではあるんですけれども、15分ぐらいということでお話しさせていただきます。
 まず、こんな順序で、今この10年ぐらいの間に、私は日立で働いていますが、情報科学情報技術によって企業もすごく変わっています。私は、企業の立場でいろいろこういう方向性をお話ししてくれというお題であったので、そもそももう既にこの10年ぐらいにこんなふうに変わっていますよということをまず共有させていただいて、そこで今後この辺が重要なんじゃないかということで、今のいろんな中に出てきている概念ですとか兆しということと、それに向かってどうやっていくかということでお話しさせていただきたいと思います。
 私は昨年は、実はドバイに2回政府のお招きで行っていまして、2月にはワールド・ガバメント・サミットというアラブ版のダボス会議のようなもの、今年もやりますが、今回も招待されていますが、やっておりまして、今後の世の中の世界の方向、それから政府の働き、こういうことをドバイで議論する場で、昨年の一大テーマは人工知能で、人工知能の有名な先生の方々はほとんどドバイに2月に集まっていた状況なんですが、私もそこでお話をさせていただいて、その中の1人がケビン・ケリーさんという「WIRED」という雑誌を創刊された人ですが、the best time ever in human history to start new thingということをおっしゃって、私は非常に共感します。要するに、75年にビル・ゲイツさんがマイクロソフトを始めたときよりも、95年にベゾスさんがアマゾンを始めたときよりも今の方が大きいチャンスだと私は思うと。何か大きく社会が変わることは間違いないと。しかし、その姿はまだ誰にも見えていないので、誰にもいろんな大きなチャンスがあるよということで、割と日本の報道なんかは非常に自虐的なことが多いんですけれども、いや、そんなことはないということで。
 そもそも今大きく変わっていることの一番大きなところはここにあると私は思っています。100年ぐらい業務を標準化して横展開する、いわゆるテーラー以来そういうことをやって、業務の生産性が大体年率3%から5%、このくらいで上がった結果、100年の間に大体50倍ぐらい生産性が上がったと。で、こういう先進国経済ということで、肉体労働しなくても生きていける我々みたいな人間が生まれたということです。確かに、国の隅々まで標準化された必需品を同じように提供する、あるいはサービスを提供する、こういうことのためにこれは大変有効だったんですが、ここにいらっしゃる誰一人みんなと同じものを同じように欲しいなんて思っている人はいないわけです。需要の方が日々変化し、一人一人多様であると。明日欲しいものは今日欲しいものとも違うと。こういうことにきちっと向き合おうとすると、標準化して横展開するというルールをちゃんと決めて、こういう態度というのはむしろ妨げになっているということなのです。それが全然なくなるということではないですけども。
 で、変化の方はどんどん激しくなるというのは、いわゆるカーツワイルさんというシンギュラリティを言い出した人が非常に強く言っていることでありまして、要するに、変化は、技術というのは便利なものを生むだけではなくて技術の変化、進歩のスピードを速くすると。したがって、複利で指数関数的に変化は起きると。これは我々が素朴に思っていることとは大分違うことが起きるし、これまでもいっぱい起きているよと。例えば5年前に先ほど言ったドバイなんていうのは、今ではあらゆる発電手段の中で太陽光発電が一番安い発電手段になっているわけです。5年前にそんなことが地球上で起きる、まあ地球には優しいかもしれないけれども、太陽光発電なんていうのはコストでは火力とか原子力に勝てない、こういうことをみんな信じていたわけですね。これが指数関数的な変化ということで、パネルのコストがどんどん下がっているというようなことでこういうことが起きると。これは、ヒトのゲノム計画でも、様々なところにこのことが起きるということですね。
 で、こういう時代に、ベンチで作戦会議だけやっていても何も分かりませんよ、現場でバッターボックスに立たないとということなわけです。しかし、我々には責任があり、契約があり、ルールがあり、お客さんがいて、やってみる、バッターボックスにとりあえず立ってみるというわけにもいかないと。なので、だからこそ過去のデータを使ってコンピューター上でその実験を行うことによって、実際の実験はこれはゼロにできません。で、ここの確度を上げてより効率的にその未知の未来に踏み出していく、こういう実験場が今まさに起きている様々な言葉で言われていることの実態だと思うんです。これはAIという言葉だったり、データという言葉だったり、IoTという言葉だったり、これはみんな同じことを示しているわけです。
 まさに情報化技術が生み出したことでありまして、これはルールを決めてちゃんとみんなで守ることはいいことだという世界から、アウトカム、こういう結果を出しましょう、これはちゃんと決める。しかし、アクションは、状況に応じて変えることがいいことだ、合わせて。当たり前の話なんですが、さっきの標準化された世界観とは結構相当大きな変革があると。実はこういうことにまさにデータとかAIとかIoTとかいうのはぴったり合っている概念が、まあ時間がないので省略しますが、大事なポイントを一つだけ言いますと、データを使うという、まあ釈迦に説法ですけど、例えば皆さんの前に10枚写真があったと。1枚だけ奥さんなり旦那さんの写真が写っていると。それがどれが奥さんの写真か分かりますかと言われたら、これは誰でも答えられますね、当然。しかし、何でこの1枚が家族の写真でそれ以外がそうでないか、これを論理的に説明しろと言われたら、これは非常に難しいですね。こういう論理的に説明できないことというのはコンピューターが非常に不得意だったんですね。というのは、説明できれば、そのとおりプログラム書けばコンピューターはやるわけです。でも、そういうことはこの正解データの続いたデータを使うとできるようになったということですね。で、こういう変化が企業とかビジネスというのに物すごく変化を実は与えています。根本的に変えているということでありまして、我々も、こういうことをいろいろビジネスにしてきたわけです。
 考え方をもうちょっと、前この場でもお見せしたんですが、ちょっと違う側面で説明したいと思います。今申し上げたことをもうちょっとビジュアルにしようとしたのがこれでありまして、これは何かといいますと、この線の先にまさに実験と学習を愚直にやるエンジン、すなわちAIが付いていて、膝の曲げ伸ばしを制御して、とにかくブランコの振れ幅を大きくしなさいと。こういうことを与えると。で、最初、何の事前知識もないので、できることはやみくもに動くことぐらいしかできませんと。しかし、たまたまあるタイミングで膝を曲げると、あるいは伸ばすと振れ幅がちょっと大きくなったり小さくなったりと、常にうまずたゆまず学習していると、1分もたちますと、何か最初にちょっと振れ幅が大きくなったように見えますが、まだまだ全然ブランコに乗っているようには見えないと。しかし、このあくなきアウトカムの追求と実験と学習をうまずたゆまず、うまくいかなくてもやめないということをやっていますと、3分もたちますと、こんなふうに結構コツをつかみ始めまして、これをじっと見ていますと、何かこの姿がちょっとけなげに見えてきて、我が子が初めてブランコに乗っているのを見ている親の気分のようなものが何かふつふつと湧いてくるのが、我々この人型のものに思わず自分の思いを重ねてしまうという特性が見えていますが、そんなことを言っているうちにどんどん振幅が大きくなっていきまして、向こう側で膝を曲げて、こっち側で膝を伸ばしてという我々がブランコに乗るときのやり方を一切事前知識なしにできるようになったと。大事なのはここでありまして、ここで実験と学習をやめない。で、ここから更に1分ぐらいそういうことを続けていますと、更に振幅が大きくなっていきまして、これは何が起きたかということなんですけれども、向こう側で膝を曲げてこっち側でも膝を曲げるという1周期の中で2回膝を曲げ伸ばしするという新たなわざを生み出しまして、我々が行かない境地まで行きましたと。割とこっち側で膝を曲げるというのは恐怖心が先立ってやりにくいことなんですが、力学的に考えると極めてリーズナブルということで、もし皆さんが先ほどのこのブランコに乗っている人だったら、途中までちょっとうまくなったら何が起きますかということです。恐らく何か地位が上がってボーナスが上がって、部下が増えて、で、失敗が怖くなってくると。で、実験と学習をやめちゃうと。
 まさにそれが起きたのがAlphaGoというもので起きたことで、あれは非常に奇妙な、何か序盤のあたりから真ん中のあたりにバシバシ打つという普通ではやらない手を打ってきたわけですね。それは実はいい手で、今はプロもそういうことをやるようになったと。囲碁の千年の歴史の中で、恐らく最初のうちはいろんな打ち方をやっていたのに、実は序盤のあたりは周りの方から打っていく方が大体強いよということがある程度確立されてくると、いきなり真ん中に打つみたいなことはもう誰も人類全体で実験しなくなっているわけです。で、自分で壁を作ってその先をやらなくなると。こういうことを後押ししてくれるのがこういう技術であるというふうに私は捉えています。
 特にこういうものは状況が変わったときには特に必要だということで、これはブランコやっていたのに、今度は鉄棒やってねと言われて、いやいや、俺、ブランコだったら得意だったのに何で今さら鉄棒をやらせるんだと、まあこういうことを言っちゃだめだということでありまして、うまずたゆまずアウトカムを高めるべく続ければ、あっという間に、2分もたちますとコツをつかみ始めまして、こんなふうに上手になるということですね。で、3分もたちますと大変上手になるんですが、最初ブランコに乗っていたときとは全く違う動きをしているということが御覧いただけると思います。
 で、更に状況を変えて、足の曲げ幅をもっと広く動くように改造してあげたと。全く同じ実験と学習をやれというプログラムだけです。これは新たに与えられた自由度も、常にうまずたゆまず実験と学習をやっていると、これを使いこなしていくということで、これも3分もたちますと大変上手になって、こんなこともできるようになると。これは別に人工知能すごいよというつもりで作ったわけじゃなくて、実験と学習をうまずたゆまずやめない、これは我々はともすればすぐやめちゃうよ、こういうことがいかに大事か、あるいはそういうことをきちっとシステマチックに続けるための技術がこの情報化技術であるということだと思っています。
 我々はこういう技術を非常に様々な分野に活用していまして、倉庫でいろんな作業の効率を高めるべくスケジューリングを最適化するというようなことでトータルで8%生産性を上げたり、お店では人間と勝負させてみたと。データを使ってどれだけ1人当たりの売り上げを上げられるかで、コンピューターとかデータの方が圧勝であるということです。あるいは資源を有効活用するというところでも、日立はグローバルに鉄道の技術をやっていますけれども、最近の鉄道の車両から大量にデータをとっています。そこで、とにかく使う電気を下げろというようなことをやって14%下げたり、あるいは水プラントの電力を同じようにして6%下げたり。
 あるいは、我々の大きい買い物の一つが住宅というものですね。融資ということには貸し倒れというリスクが双方にあるわけです。それを避けるためにいろんなルールを作って守っているわけです。こういう人はちょっと今までの実績からしてお貸しできませんと。例えばシングルマザーの方には住宅ローンこの金額はお貸しできないんですよというようなルールを作って守っているわけです。でも、今だったらもっともっと正確に柔軟に判断できますよということで、いわゆるディープラーニングよりも、我々の技術は、43%高精度に珍しい現象を当てるというようなことが得意で、同じようなことが、この東京証券取引所で不正な取引を検出したり、Eコマースで正確に品物を届ける、あるいは毎日の株の取引の値段を正確にプライシングするというようなことだったり、まあ時間がないので省略しますが、いろんなところに使われています。
 ここだけちょっと言いますかね。需要と供給のマッチングというのはビジネスの物すごい基本なんですね。需要に合わせて供給量とか生産量を決めるって、問題は簡単ですね。ただ、実はやるのは結構難しくて、正確な未来が分からないからです。我々はこれを四つのAI、もともとは4人の人間が発注量を決めるという問題と、四つのAIがチームになって発注量を決めるというのを、四つのAIのチームを何十個も作って、その一番いいものを選んでくるというアルゴリズムでやった結果、これは人間が、かなり知的な人がシミュレーター上で何回も練習した後です。これは需要が安定しているときはよかったんですが、ちょっと需要が増えてくると、この辺に欠品、受注残がどんどん上流側に伝搬してきまして、これは工場ですけれども、この辺で工場の増産が始まりますが、本当の需要は誰にも分からないので、ちょっと作り過ぎるとあっという間に御覧のように在庫の山が起きてしまうんですね。全く同じ条件で、先ほどの勝ち抜き戦で最も賢かった四つのAIチーム、非常に安定して発注できているということで、トータルで大体4分の1ぐらいの損失です。
 こういうものをこの10年ぐらいの間に会社をかなり作り替えてやってきたわけです。日立って、別にほかのメーカーもみんなそうですけれども、基本的には製品をお客さんに納めるということで成り立ってきました。そのときの優位性はちゃんと技術力があるということだし、きっちり企画して設計して品質を担保してリニア型でウオーターフォールで納めると。内部のリソースで研究やったり、資源調達したりしていると。これだとさっきのような問題に正面から全く向き合いません。なので、この10年、15年掛けて、最初は小さい研究所のチームから、今は会社全体の組織の構造まで全部変えてこういう新しい形に、ユーザーの体験あるいはユーザーの先にある価値、ここからスタートして、そのためには技術ももちろん大事ですが、むしろどっちかというと人間の理解の方がよっぽど大事だと。で、答えが分からないので、ウオーターフォールじゃだめで、お客さんと競争する、それから基礎研究側のところも、大学に我々のメンバーが一緒になってより将来のビジョンを一緒に解いていくというようなことで、いろいろなことをやってきました。
 例えば、今までだって、こんないい製品できましたよといっていたものを、いや、世界ってこう変わるよね、あるいは一緒にこう変えていきませんかということからスタートしないとビジネスがとれないというか、我々の価値が発揮できない、こういうことです。こういうことのために我々は本も書きましたし、いろんな講演会だとかメディアなんかもうまく何とか使おうということで、全く慣れないような講演をやったり、メディアに出たり、本を書いたりいろいろやっているわけです。それから、そういうための方法論というのもきっちり作っていろいろなところに展開しています。
 共同研究の相手も、心理学とか社会学とか経営学、こういう先生、しかも非常に超一流のところとこの10年いろいろ組んでやってきました。同時に、人間とか社会、組織のデータを何百万日ととってこれを使っています。
 それから組織も、今までのいわゆる工場で設計してものづくりするという組織から、全く違う、30万人という人たちがお客さんあるいは社会の課題をお客さんと一緒に解くための、理想を言うとこの30万人が一つになってお客さんと一緒に問題を解決するという、そういう形にふさわしいもの、しかもお客さんが先で、現場で実験と学習が常にできるということをできなきゃいけないということで、これもまだまだ発展途上ですが、常に前進してそちらの方向に近付けています。
 研究所も、研究所の中に顧客競争の部署を大きく作って、それから先ほどのEmbeddedラボということで、東大、京大、北大、あと神戸にちょっとありますけれども、そこの中に大体30名から40名常に常駐して大学全体と、これまでは特定の研究室と個別技術でやるということが多かったのが、かなり違う形でやっています。
 最後にもう一回、資源というところは実は非常に大事なところで、これまではやっぱり内部の資源を何とか使おうということをかなり、それじゃうまくいかないということがいろいろあるので、出島化ということを今私は非常に重要視しています。特に日立なんかは30万人もいて10兆円も売り上げありますけれども、もちろんいいところはありますけれども、新しく事を起こすというのは非常に足かせが大きいわけです、いろんなルールも含めて。ここを半分出島にして、新しいところと早く資源も使いながら作ったり、あるいはジョベンを作ったりするというようなことをかなり力を入れてやっています。
 で、15年掛かりましたけれども、一応、まあ数え方にもよりますけれども、IoT関係、AIを含む事業は1兆円規模になりましたし、実は従来の製品事業よりもはるかに利益率は高くなっています。で、今までのプロダクトをそれぞれ売るんじゃなくて、プラットフォーム、あとプロントというお客さんの課題を解決するところの部署がどんと上に乗っかるようになったというのが一番大きいところです。
 これは先ほどのEmbeddedラボの話ですね。こんな本を出したりもしています。私自身もあれですけど、こんな本なんかも出して、外国語版も出して、海外からもそういう反響も頂くようになりました。実はこれなんかも、先ほどの1兆円ビジネスを作るのに物すごく生きています。単に本が何万冊売れたってそういうことじゃないということですね。一緒にこの本を書いた人と我が社の今後の未来を考えていきたいという答えをいろいろ頂いているということですね。
 で、あと、最後、今後ということで、もうこれは今既に起きていることです。もちろんここもまだまだ伸ばしていく必要はありますが、いろいろ新しいことがいっぱい起きていまして、先ほどのドバイ、UAEは、国のアウトカムというのをちゃんと決めたんですね。国のアウトカムは国民のハピネスであるということを首相が宣言して、本も書いて、実は3年前にハピネス・ウェルビーイング省というのを作って、ハピネス大臣を任命して、あらゆる法律はハピネス大臣による国民のハピネスに対するアセスメントをとらないと法律にならないという法律を作ってしまったということで、これは非常に新しい概念で、つまり、SDGsの上にそのハピネスがあるんだという。しかもそれを極めてシステマティックにやるというようなことをやって、国連自身もハピネスデーを作ったり、ユヴァル・ハラリさんという、「Homo Deus」という本がベストセラーになっていますけど、人類の二大アジェンダが人々の幸せということで、こんなに物質的に豊かになっても自殺者は多いし、鬱病が多いし、何か方向が間違っているということをいろんな人が言い出しますよということですね、それで実際そういうことになっています。
 若い人、イエール大学でハピネスという講座を去年作ったら、全学生の4分の1に当たる1,200名がたった5日間で登録してしまったという前代未聞なことが起きたということで、これはミレニアム世代、若い人がこういうことに極めて感度が上がっているということです。
 で、考えてみると、これはいわゆるマズローの階層です。下の方が満たされるとより上の願望が出てくるということで。従来の日立なんか、まさに生存にどうしても必要なもの、あるいは安全を確保するために必要なもの、これをきちっと納めて、これは100年ビジネスになってきたわけです。ここがある程度満たされてくると、結局承認とか帰属ということを人々が求めるようになって、ここでまさにGAFAがここで食っているということです。で、お客さんに近いより上位のところを持った方が、お金の価値はどーんとそっちに行くということです。下側は使われるだけになってしまうと。でもまだこれで終わりじゃないです。この上にまさに生きがいを感じるですとか、まあまあいろいろこういう場合、言葉はちょっと難しいんですが、より上位の目的というのがありますよねと。で、私の仮説は、これはやっぱりいわゆるスマイルカーブで、端っこが価値を見る、真ん中は中抜きされるということだと思っていまして、ここはまさにこれからですよ、ここはちょっと勝負にならないかもしれません、ここも入れたこのスマイルカーブでこちらとこちらをとっていくというのは日本の戦略でいいんじゃないかということです。
 こういうことをちゃんとやるために、今の一番変えなきゃいけないところを三つだけ私が思うことを最後に述べて終わります。
 やはり新しいことをどんどん仕掛けていく国にならなきゃいけないということで、国のプロジェクトを起こすというのは一種のカンフル剤でありますけど、サステイナブルにしていかないと、結局事業体を作るということをやらないとだめだということだと私は思っています。割と新しく、小さく始めるところでいうとスタートアップだし、そのための人材も必要ですし、今これは大分日本も前に比べればよくなってきましたが、まだまだですね。
 あと、そうはいってもリソースの人、物、金、みんな大企業側にまだまだありますので、これを使わない手はないということで、これはやはり従来の既存事業の利益を出しながらという株主なんかも説明しながらということなので、出島、半分出たような、少し自由に動かして外部の調達もできるような、こういうロールモデルの成功例を作って、こういうことをどんどん広げていくということで、この両者を併せていくことが必要かなと。
 で、この両者ともより上位の目的、先ほどのスマイルカーブ、あそこから発想できるような視野の広い人材だとか、そのための連携だとか、こういうことに行く必要があるし、そういう形に、まだまだいろんなところがさっきの一つ前の時代の製品や製品の中に組み込まれるビジネスということを前提にしていろいろなことが出来ているので、これを毎日毎日、うまずたゆまず変えていく必要があるなというふうに思います。
 以上です。
【北川主査】  ありがとうございました。それではただいまの矢野委員の御発表を踏まえまして御議論いただきたいと思います。どなたからでも結構です。はい、瀧委員。
【瀧主査代理】  なかなか含蓄のあるお話でありがとうございました。どんどん世の中が変化していくと。それに対していろんな形で対応できていかないと今後はしんどいですよと、そういうところが非常に見えてくるところなんですが、変化の方向というのは、実は非常に多様な方向に広がっていきますよね。ただ、投資する資源というのは有限ですから、どういう変化に対応できるように見ていくかというのも一つ重要かなと。特に日本でどこに注力するのがいいのかなというのが出てくると思うんですね。それにお答えいただくというのは多分難しいと思うのですが、情報の観点からいうと、その情報関係のビジネスではそういう変化で、先ほどの上位モデル、上位の目的のところにアタックするには、何かヒントとなるようなキーワードがあればお願いします。
【矢野委員】  それこそまさに、若い人にきっちり力を与えて提案させて権限を与えるということだと私は思います。あと、若い人の足らないところはちゃんと我々みたいな人がサポートするということですが、余り何か国がこういう分野が重点だよねというような、大きくマクロには今のようなところはあります。しかし、やはりそこは相当、生物なんかもまさにおっしゃったようにいろんな試行錯誤を40億年やって、こんなに多様な生態系を作っていますが、目的として生き残り、生存ということは全て共通していますけれど、その手段は物すごく多様なわけです。鳥なら鳥なり、魚は魚なり、人間は人間なり、ウイルスはウイルスなりに、生き残りを懸けていろんな戦略でやっているわけで、そういういいものを残して、そうでないものを早く次のものへやっていくということをどんどんできるような仕組みを作っていって、どんどん若い人に挑戦させるということじゃないかなと思います。今の仕組みの中にさっきのルール思考というのも色濃くいろんなところに、ルールと計画ですね、計画できないことも計画立てろと随分いろいろ言わざるを得ない今までの風潮がありますので、やってみないと分からないことをやってみなきゃ分からないですと言い切れないんですよね、世の中で。この辺は変えていかないといけないです。
【瀧主査代理】  ありがとうございました。
【北川主査】  じゃあ高安委員。
【高安委員】  先ほどのお話で、そういう企業の変化に伴って大学もいろいろ貢献したいと思っているわけですけれども、産学連携の在り方もいろいろ改革を進めておられて、もはや1対1の研究室同士のではなく、もっと包括的にうまく、その方が生産性があるよみたいなことをちらっとお話しされたんですけど、どんな規模でどのぐらいのことが。
【矢野委員】  そうですね、それもいろいろあると思いますけど、もう既に我々がやっていることで余り抽象論を言ってもということで言うと、この東大・京大・北大ラボというのを作りまして、大体それぞれ10名ずつぐらいです。で、実はテーマとか向かっている方向もそれぞれの大学の特性に合わせて、我々がその大学に期待するということに合わせてかなり違うベクトルで、ある種のポートフォリオでやっていまして、例えば私がこの中で一番関わったのは京大ラボですけれども、京大ラボはまさに山極総長と握って、京大が持っている基礎研究力とか基礎研究に対する非常に様々な知見と、日立が持っているある種のビジネスや社会とのつながりのものを併せて、2,050年ぐらいまでを考えたときの様々な社会、それからツールとしての生物に学ぶ人工知能やデータの活用の仕方を作ろうという、割と大きいことを、しかも特定の先生というよりは、あそこの産学連携の窓口の先生が非常によくそこのリーダーシップを向こう側で見ていただいていまして、そこのバックアップで山極先生もいろいろサポートしていただいて、割と包括的に、でも包括的というと抽象的になってしまうので、次はここだよねということはかなり日々議論しながらやらせていただいているというやり方ですね。その中に、この前もちょっと報道されていましたけど、これからの未来のシナリオは、社会ってこういう分岐点があって、ここで一つ地方が滅びるのか、大都市に集中するのか、そういうことのシナリオを見出すというようなテーマで、最初の方は割と目指す成果が出てきたので、これからどんどん更にこういうモデルがいいかなとは思っていますけど。まだまだこれも発展途上ですし、試行錯誤中です。
【北川主査】  それでは、喜連川委員お願いします。
【喜連川委員】  どうもおもしろいお話ありがとうございます。これはやっぱり文部科学省なので、多分矢野様の資料でいうと一番最後の、ある意味で情報科学の説明べきというここがやっぱり施策上一番議論していくべきところだと思っているんですね。先ほどおっしゃった前の前の御質問と結構似ているわけですけど、そのときに、若い人にいろいろやらせるとおもしろいというのは、それはそのとおりなんですけど、これはノーベル賞を取った大隅先生も梶田先生も原則は同じことをおっしゃるんですよね。そうすると、それは別に情報科学でも何でもなくて、ある意味で全ての学問分野そのものになってくるので、そうではなくて、もうちょっとナローワイズした空間の中で我々はどっちを向くべきかというか、一定程度の方向感。やっぱり米国が2000年の頭ぐらいからマシンラーニング、エブリウェアといっていたその流れの中でこういうものが順繰りに前半のお話なんかが育ってきたという、大きないわゆるサイエンスポリシーというか、いわゆるEBP、エビデンスベースのポリシーメーキングというのがやっぱり何となくは効いているだろうと。それが極度にクリティカルに効くかどうかはまた別問題として。そうすると、コンピューターサイエンスの大きな流れの中で、前半の話というのは、ある意味でいうと、昔IT化をやったときのシナリオと結構似ていますよね。で、今度はもうちょっとそこにラーニングが加わったと。じゃあその次は何なんだというところら辺が、文部科学省の情報化として見ると、ある意味でのフォーカルポイントになってくるんじゃないかなというのが、我々がみんな、大学の先生が考えているところなんです。
 それに対して矢野さんがどんなふうなイメージ感を企業として、学術の世界はこんなふうなことも視野に入れてほしいというようなメッセージって何かあると、おっしゃっていただけるとありがたいかなみたいな話なんですけれども。
【矢野委員】  まあ、ちょっとそこに十分答えるのはなかなか難しいんですが、ここに書いたこと、そこに何とか少しでも今の時点で答えられることというつもりでひねり出したことではあるんですけど、これはちょっとばくっと上位目的を起点とするといっているので、非常に抽象、曖昧的に聞こえるかもしれませんが、これっていわゆるお題目で、いろいろ実際はこういう技術をやっているんだけど、何かそのイントロのところに何か上位目的みたいなのを書いておくみたいなのと大分違う意味で、本当にそれを解くために何でも必要なことはやるという意味合いで、さっきのこういう世界を作ろうというようなことを真剣にやるというのは私は非常に今まではないと思います、そういうことをやろうというのは。何かこういうことをやっていたらいつかそういうことに役立つよというのはあったとしても。本当にこういう世界。
【喜連川委員】  そこら辺が本当にここで議論すると結構有益じゃないかなと思うんですけどね、某大学の総長が課題先進国という言葉を言ったものですから、課題を見付けてきては解く、課題を見付けては解くという、ある意味で言うと入試問題みたいな感じなんですね。問題が出てきたら解く。じゃあこれでオートファジーができたのかというと、多分できなかったと思うんですね。つまり、課題を解くというのは物すごく簡単な思考プロセスみたいなもので、我々はもっと本当に根源的なところをやらないといけないのかもしれないなという気もするんですね、情報科学においては。そこら辺、全部が全部じゃないんですよ、もちろんポートフォリオを組まなきゃいけないと思うんですけど、そういうものは日立におられると考えにくいのかもしれないんですけど、すいません、ここはやっぱり文科省なので、ちょっと視点を変えたとすると、企業サイドでどういうことを、何か期待みたいなものというんですかね、そういう視点が、さっきドバイの話も出ましたけど、あれだけお金出したら全員来るのは決まっているので、あれ自身おもしろくないんですが、そういう中からいろいろお話されているうちに次へのヒントみたいなものがもしあったら御紹介いただけるとありがたいなと思います。
【矢野委員】  うーん。何というかな、さっきの答えとちょっと似てしまうんですけども、例えばここの目的からスタートするというのと、何か技術からスタートするみたいなものって、かなり態度も仕事の仕方も、組織の在り方も全く違うんですね。何かをやっていても目的ありますよねというのと、目的があって目的のために本当に必要なことをやるというのは。で、これをちゃんとやろうとすると、さっきのある種の事業としてサステイナブルにするところまでやらなきゃいけなくて、それは自分がやらなくてもいいかもしれません。先ほどのいろんな薬を作っても、いろんな企業と組んでやってもいいでしょうけど、そういうやっぱりある種の事業体を作るというところまで、何かトータルで見る形にしないと、そこを何か文科省だけがやるというよりも、企業も一緒にだと思いますけど、何かそこはできるように試行錯誤を我々も、こうやればできますよみたいなことはそんなに安直に当然あるわけがないので。
【喜連川委員】  どうもありがとうございました。
【北川主査】  視野の広い人材の育成と書いてあって、まあそのとおりですけど、まあちょっと、これ自体は昔から言われていることかなという気もするんですが、最初に、実験と学習を繰り返すことが大事だと、非常に大事なことを言われたんですが、その辺がここに対する何かヒントになるとか、そういうふうにお考えなんでしょうか。
【矢野委員】  そうですね、これも言葉がすごく、今言ったように昔から言われているような話と同じように聞こえるかもしれませんが、ただ、その視野の広さのレベル、求められているものが大分今もっともっと大きくなっていますし、逆に広げるつもりになれば広げやすいところもあるんですね、情報はもう物すごくいっぱいありますし。壁を作っているのはむしろ自分の関心だったり、行動するかしないかというところなので、以前に比べると広げようと思えば非常に広げやすいと思うんです。そこは結局意欲だったり、ある程度の能力で決まってくると。
【北川主査】  では、樋口委員。
【樋口委員】  喜連川先生の質問に同種の質問で答えづらいかもしれないんですが、この最後のスライドなんですけど、もうちょっと答えやすくなるような質問をさせてください。企業人から見て、大学4年の間に基礎学力として何を勉強してほしいというふうに思われているんでしょうか?R&D等々で必要とされているエッセンスについては、おっしゃるのはそのとおりだと思います。じゃあ大学で何を基礎学力として勉強してほしいのかという質問です。
【矢野委員】  まず基本として基礎学力として一番大事なのは、今までとは非常に違うところは、常に学び続けるという能力じゃないですかね。先ほどの、今までブランコをやっていたのに鉄棒やれと言われたら、俺は鉄棒屋じゃなくてブランコ屋だったんだけどなというようなことを思わせるような教育を今までしてきたと思うんです。それはイマイチですね、これからは。その人本人にとっても幸せじゃないと思います。
【北川主査】  じゃあ安浦さん。
【安浦委員】  ちょっと違う質問です。その二つ前の三角形がございましたけど、ちょっと私は違和感があるんですけど、GAFAが承認・帰属で稼いでいる今の状態は、それは認めますけども、ただ、承認とか帰属というのはその前は国家あるいは企業、そういったものがそういうものを担っていた、あるいは自治体とかそういう社会基盤自身が大きく情報技術で変わっているという、ただそこだけじゃないかと思うんですね、通貨にしても。たまたまそれでもうけているかもうけていないかの差でGAFAが目立っているだけであって、本質的には余り新しい話でもないし、その上の自己実現、超越利他、これはもうお釈迦様の時代から言われていた話ですよね。そこにどういうふうに情報技術を持っていったら、日立さんとしてはビジネスになるか、本当にビジネスにするのがいいのかどうかというのもこれは分からないわけで、宗教団体というのは今でも見事なビジネスをやっているわけですから、そういうところと比べたときに、じゃあ情報技術というのはどこに本質的に刺さるのかという、そこをどういうふうにお考えかをちょっとお聞かせいただけたら。
【矢野委員】  今、安浦先生がおっしゃったことと私が申し上げたかったことは、私は同じだと思っていまして、まさにそのとおりです。マズローは別に情報技術のことを言っているわけじゃなくて、こういう構造になっているよということを言っているわけですね、いろんな観察から。ただ、これは大昔から必要だったことで、ここにテクノロジーがどういう形で入ってくるか、あるいは情報というのはどうやって入ってくるか。まさにGAFAなんかはこの承認・帰属のところを非常にテクノロジーの力でやりやすく、あるいは広範囲にある種のインフラを作ったので、そこが非常にお金も回る仕組みになっているということですね。ここはまだそうでもないわけです。ここにもっとシステム、いろんな意味での情報技術は当然私は入ってくると思っていますし、情報までいかずにビジネスとしてこういうところをやるのは、まさにさっきの宗教法人だったり、ちょっと宗教と全然違うアプローチだとある種のフィットネスだったり、あるいはライズアップみたいなところがこの中のはしりのビジネスで、こういう領域で何かもうけているというか価値を生み出しているというようなことが少し出てきているわけですね。だから、テクノロジーや情報技術がどうやってここでやるかということを考えていく、それ自身が研究だと私は思っていますけれども。
【北川主査】  どうもありがとうございました。まだちょっと御質問あるかと思いますけれども、あとお二人話題提供していただきますので、一応ここで次に移りたいと思います。
 それでは次は土井委員からお願いいたします。
【土井委員】  それでは、頂いたお題がヒューマンインターフェースの観点も踏まえてということだったのですが、少し幅広に考えてもよいということだったので、幅広に考えてお話をさせていただきたいと思います。
 CPS(サイバー・フィジカル・システム)のちゃぶ台返しと書いてあるんですけれども、ICTの未来をどう考えるか、今、矢野さんのお話にもありましたけれども、今、CPS、Society5.0ということで、CyberとPhysicalが、今ではCyberの方が少しまだ大きいんだと思いますが、そこでデータを集めてもうけていくということで、GAFAあるいはBATが牛耳っている世界になっているんですけれども、本当にそれが正しいのかということを考えてみると、私が考えるに、やっぱりどう考えても実世界の方がいろいろ考えなきゃいけないことというか、まだ分かっていないことも多いという意味では、情報の世界として扱うものは、これからはどんどん実世界へ移るべきではないかというのが一つあります。
 ここに掲げておりますのは、情報通信研究機構がやっておりますNICTERが、ダークネットのところにハニーポットを仕掛けて、そこに来る攻撃をずっと観測しているものであります。下のグラフを見ていただきますと、2005年から観測を始めて今2017年まで、1IP当たりのパケット数を示していますけれども、2013年、2014年ぐらいから少しずつこの値が上がっています。その理由は、ここにありますこの青いところですね、23/TCPとかというポートになります。これはセンサなどに代表されるものですね、マシン・トゥ・マシンのものになります。1台のWebカメラが感染して、それがほかのところに伝搬していってという形で、今急激にこの攻撃が増えて感染しているものが増えていくというところにはIoTの機器の感染がありまして、それが2016年では半分にいっていなかったのが、一気にもう半分以上を占めるようになってきているというのがあります。
 一方、そうやってMtoMだけではなくて、皆さんのスマホとかそういうところの資源も実は奪われていますというのがこのデータなんですけれども、ハニーポットを使って調べると、555/TCPポート宛ての通信内容を見てみると、デバッグが有効化されていて、Androidの端末が使われていますよと。何に使われているかというと、仮想通貨のマイニングに実は使われていたというのがこういう統計から分かるようになっています。これもCyberの世界の中の一つだと言ってしまえばそうなんですが、実際にはこれが通貨となり、あるいは先ほどのIoTの端末のように、実際の世界を観測しているということでいえば、やっぱり実際のデータというのが非常に大きいというところに来ているのではないかと思います。
 今振り返って見ますと、コネクテッド・カーということで車が連結されていくわけでありますし、ドローンとか農業用の機械などそういうものが結ばれていく、で、工場とかビルとかそういうところの監視カメラとか、あと、作業ロボット、掃除ロボットなどといったものもどんどん増えてきます。人も、人口72億人ですから、1人当たりゲノムが30億塩基対ありますし、腸内細菌は3万種で100兆から1,000兆個と言われていまして、最近ですとこの腸内細菌が非常に重要であるという話も出てきていますし、また、内臓脂肪のように、今までは邪魔なものだけだと思われていたものが、きちんと信号を脳に送って、満腹になったら食べてはだめよということをやっているというような、脂肪でさえインタラクションしているということも出てきていますので、結構人間の中だけでもいろいろなデータがたくさんある。一方、家畜とかミツバチとか、そういう意味では、人間というか社会の中できちんとデータを見て観測して制御することが必要あるいは制御はできないとしてもリスクを予防するようなことが必要というものがたくさんあるというのが現実であるというふうに考えます。
 そういう実世界の中で、それぞれが単体で動いているわけではなく、インタラクションし合って、相互に影響を与え合って実はこの社会、世界が成り立っているわけなので、そういうものを支えるアーキテクチャーが必要ではないかというふうに考えます。人間はタブレットとかそういうものを使っていますが、それに対して腸内細菌とかそういうものを調べるようなナノロボットみたいなものも出てきますし、そういう総体として人間が住んでいる家があり、移動するためのモビリティーがあり、そのモビリティーを使ってやっていく。こういうインタラクションを、その一つ一つで生産性を高めるということも重要ではありますが、総体としてきちんと生産性を上げて、生産性というか、お互いにとって、先ほどの矢野さんの言い方でいうとハッピーというのですか、継続ができていく、サステイナブルな方向に持っていくというのが重要であると思います。
 そういう意味では、今までの考え方だと、ROE(Return on Equity)なんですが、そうではなく、ここでいうCompanyというのは仲間ということなんですが、CompanyあるいはCommunityということでReturn on Company、Return on CommunityというROCというものを考えて、実際に経済活動あるいは生存活動を含めたものを維持していくという考え方、アーキテクチャーが必要になると思います。
 そこで、じゃあ実際にそこに情報として何を考えたらいいかというところで、私の専門でありますヒューマン・インターフェースのほかにもう一点、今ここでデータということにも絡んでデジタル・トランスフォーメーションというのを考えなければいけないというふうに思っております。特に研究開発におけるデジタル・トランスフォーメーションとヒューマン・インターフェースの観点から考えてみたいと思います。
 いつも文科省から出てくるところで、日本の論文の数が落ちているという話がありますが、一方で働き方改革と言われていて、民間企業では家に帰ってから海外の学会の人たちとやりとりしようとすると、自分たちの会社のメールアドレスを使うことは禁止されているというような信じられない事態もあります。そういう意味ではコミュニケーションをしてはいけないと言われて、それで世界の研究者とどうやって協調し合って戦っていくかという、非常に今奇妙な状態にあるんだと思います。なおかつ人手不足でテクニシャンもいないというようなところで、本当に戦えるような研究開発環境が今の日本にあるのかというのは、非常に私は疑問だと思っています。
 やはりデジタル・トランスフォーメーションをきちんとやって研究環境をよくして雑務を減らしてあげるというのは非常に重要かなと思います。先ほど、現実のデータが重要と言いましたけれども、そのデータをきちんと集める環境がそれぞれの研究のところにあるのかということです。だから、計測機器はクラウド接続してデータ保管とかそういうのはもう自動化するとか、あと、瑣末なことではありますが、国のお金を使っていろいろやろうとすると、細かい証憑をたくさん紙ベースで集めて、何かやらないといけなくて、この手間って非常にばからしいんですけれども、もうそんなことはせずに、みんなデジタル化して保存すればいいとか、もっとデジタルにしてそんな証憑を一々集めなくてもいいようにするとか、これは別に文科省だけではなく、会計検査院が自分たちのタスクを減らすためにも考えてもいいのかなと思いますが、とりあえず少なくとも、もっとデジタル・トランスフォーメーションをして雑務を減らしてあげて、本当に世界の研究者と伍して戦えるような環境にしないといけない、そういうことにきちんとお金を投じるべきだというふうに思います。
 あとデータも、みんな自分たちはデータあると言っていて、結局死蔵しているわけです。いろいろなところで植物のなんとかを持っているとか言っていますけれども、結局そういうものをきちんとお互いに生かすということをしていません。なので、こういうようなデータをきちんと生かすということを考えないといけないと思います。それを日本の国内だけでやってもだめなので、例えば欧米とかいろいろなところと国際間でデータマッチングをして、そういう意味では目利きがこういうデータの組み合わせがやってみたいというようないろいろな集めたものを見て、そこにお金を投じるような、そういうことを考えて、研究で得たデータで自分たちの研究がそのまま継続できるような、そういうエコシステムを考えるようなことというのもそろそろ行っていく必要があるかなと思います。
 二つ目のヒューマン・インターフェースなんですが、ヒューマン・インターフェースには三つの視点がありまして、かつてワープロとかでやっていたように、紙と鉛筆でやっていたことを当たり前にデジタルでやるというものと、あとはマイナスの面、今ですと、サイバーセキュリティに対してそれをプラスゼロに、その危機をなくしてあげる、そういう安心感を与えるという面、で、最後がゲームのようなわくわくするようなそういうものというこの三つの観点があります。で、当たり前にするために当たり前の品質があるわけですし、わくわくさせるところでは魅力品質というのがあります。今、研究のところである多くの指標は、ある意味、論文を出して当たり前という、その論文の数が少ないといって怒られているわけですけれども、じゃあ一方で、その研究が本当に将来にわたって価値があるのか、本当に魅力ある研究になっているのかということに関しては余り重点が置かれていない、これは非常に問題だと思います。研究者が自分たちの研究にわくわくしていない、だったらいい研究ができるはずもないですし、そこで若手が育つはずもない、ここは非常に問題であると思います。
 当たり前感の創出ということに関しましては、例えば仮名漢字変換では同音異義語があったわけで、そこをきちんとユーザーとのインタラクションで学習したというところが、今皆さんが当たり前のように計算機の上で日本語を使うことができるようになったというのがあります。そのために何をやったかといいますと、新聞で頻度順の同音異義語の候補の表示を行い、ただそれだけですと、そのユーザーに合わないわけですね。なので、そのユーザーは選択をします。選択をすると、それを学習して、次はユーザーが選択したものから順番に出てくるというふうになっていくわけです。ここで学習を行ったというのが一つのポイントでありますし、インターフェースとしてはそのメカニズムが分かるようにホワイトボックス化してあげるということをいろいろな面で行ってきたわけです。
 今の機械学習、人工知能、みんなそうなんですけれども、そういう意味ではインタラクションが余りないんですよね。ビッグデータから学習してそれで正解ですって、それが合っている、間違っているというだけで終わってしまって、不正解だったらば、本当はユーザーが正解を入力してあげて、それを学習して次のビッグデータで正解を決定してあげるというような、そういうインタラクションが必要ですし、あるいは実際に例えば天気予報などもそうですけれども、過去の天気図から学習するだけではなくて、今のリアルタイムのIoTからのデータを得て、それを基に学習してやるとか、そういうことをやっぱり繰り返していかないといけない。過去のデータと現実のデータ、リアルタイムのデータをどう組み合わせていくかというそういうリアルタイムなビッグデータというのは、非常にインタラクションすることが重要だと。そこをインタラクションできるようにするためには、今のままのブラックボックスではだめで、きちんとホワイトボックス化して、どこにどういうふうにインタラクションをするとよくなっていくかということがきちんと分かるようになっていかなければいけない、そういう突き詰め方、データあるいは人間とのインタラクションのところでどういうふうにモデル化すべきところはモデル化する、ホワイトボックス化していくということが非常に重要だというふうに考えます。
 あともう一点の、安心感とわくわく感なんですが、ここは今ボーダレスになっていると思います。一つはわくわく感ということで、ゲームをやり過ぎるとゲーム依存症になるということで、マイナスの面もあるわけです。もちろん、プラスとしてはEスポーツのようにちゃんとそれで商売ができる人が出てきているというのもあるんですが、ここはそういう意味では、今までのようにお金を投じればそれだけその人を幸福にしたかというと、必ずしもそうではない負の面もあると。ただそこに関しても、これ以上ゲームやり過ぎたらだめだとか、こういうゲームのストーリーはいけないとか、何らかの規範があるわけで、それは人間の脳の反応を見ながら調整するような、そういう技術というのを今の情報科学技術、これから突き詰めていけばできると思います。
 更に、今は義足、義手を付けてパラリンピックの選手が健常者と同じような記録を走り幅跳びなどで出せるようになっています。そういう意味ではテクノロジーによる身体拡張というのができるようになってきて、障害者と健常者との違いがなくなっていくということもあります。ただ、これをやると、誰でもいい成績が出せるようになると、これはある意味の情報ドーピング的なものになってしまって、マイナスの側面になってしまう、これもこれで問題になるわけで、ただ、そういう情報ドーピングにならないように、ただ人間にとって健全というか望ましい記録の出し方、スポーツの在り方ということを考えていくというのも非常に重要なわけです。
 あるいは、最近、体操とかそういうところを画像処理してきちんと回転しているかとか、フィギュアスケートとか、そういうのを見るような技術が出来ていますが、そういう技術を基にして、更に美的なところ、人間しか判断できないところは一体何なのかとか、機械というか情報処理でできる部分と、人間がやって更にもっと高めていける部分というのをやっぱりここはインタラクションしつつ考えていくというのが重要です。そういう意味ではわくわく感を失わないように、かつ公平性を担保してやるために情報科学の技術をどうやってうまく役立てていくかということを考えるというのが、スポーツなどいろいろな側面でこれからは問われてくるというふうに考えています。
 以上です。ありがとうございます。
【北川主査】  ありがとうございます。それでは、ただいまのお話に関連しましていろいろと御議論いただければと思います。いかがでしょうか。じゃあ瀧主査代理。
【瀧主査代理】  非常に人間との関係というのが見えるようなお話も頂きまして、ありがとうございました。そのゲーム依存症なんかで今世の中で話題になっているのが、ギャンブル依存症というのがあって、今後日本にIRをたくさん導入すると。IRは、いろいろなああいうギャンブルの機械ですけれども、中身は実は情報機器だと思うんですね。そういう機器に対して、例えばわくわく感は残すけれどもギャンブル依存症が出ないような、そういう技術をインタラクションによってうまく解決するような、そういう技術についてはどういうふうに考えたらいいでしょうか。
【土井委員】  情報通信研究機構でも、CiNet、阪大のところにあるセンターでは、別にギャンブルに限っているわけではですが、いろいろな脳内の活動を見て、ツイッターと組み合わせて、鬱傾向がある可能性があるというようなことを判断するようなこととか、一方で、例えばサッカーのネイマール選手の脳を測って、一般というか日本のJリーグの選手と脳の活動がどう違うかというようなことを計測するということをやっています。ただ、それは今まだファンクションMRIの中に入って映像を見つつやるというレベルなので、本当にギャンブルなんかしながら計測していくというところまではまだ技術が追い付いていません。なので、そういうところをきちんとやっていくというようなことも非常に重要になってくるかと思います。ですから、ただ脳波を測ればいいということだけではなくて、そのコンテクスト、今何をやっているかという状況に合わせて判断をできるような、そういうところをきちんと作っていくというのが一つ重要だと思います。まだこれからやるべきことはたくさんあると思います。
【北川主査】  それではほかの方、お願いします。はい、栗原委員。
【栗原委員】  いろいろと多面的なお話ありがとうございました。研究開発におけるDXとかとおっしゃっているので、私も何か発言しないといけないのではないかと思いまして。今回非常に高度な話が多いところで私が現実的なことを言うと申し訳ないのですけれども、例えば計測機器のネットワークサーバへの接続のような、非常に現実レベルの話なのですが、私ども、研究室が発足したときからの生データが全部データベースに入っているのですが、それは研究室の中のサーバーに機器をつないでいるのです。でも大学の中で今そういうことをやろうと思うと、建物が違うところのネットワークが違ったり、結構すごく大変な思いをしながらそれをやってきているのです。ですが、そういうところをネットワークを越えても、私たちは外へ出たくないわけですよね、中でやりたいのに出なくちゃいけないとどうしたらいいかとか、最終的には何とか解決しているのですけど、手間がすごく掛かっていると。なので、少しそういうような視点で、現場のいろいろなファシリティーとか、もう少し普通の人たちが簡単に使えるような形があるといいと思っています。いろいろあると思うんですね。今後、持っているデータをよりデータベースとして活用できるようなフェーズが来たときに、いいデータを研究者が持っていられる、デジタル化したものがあるという状態はすごく大事だと思うので、まあ少し基盤的なところだけれども、そういうようなことを考えて、少し状況がよくなるといいのではないかと思います。持っているデータを新しい視点で再解析するとか、そういうようなことも結構やっていますので、そうしますと、手間の掛かる測定の場合はやり直すのはすごく大変なのですけれども、データを突き合わせるとか、そういうことがある意味での再現性の担保にもなるし、研究の全体の質の向上ということでも、非常にベーシックなことだけれども、実験科学としたらそれぞれの研究室の質の担保にもなると思います。なので、今の高所的なところからすると、非常に現実的な話で申し訳ないのですけれども、先生にせっかくデータ保管の課題を出していただいたので、今後の情報を使うような研究の推進のベースとしては大事なことかと思いまして、コメントさせていただきました。ありがとうございました。
【土井委員】  ありがとうございます。そういう意味では、全ての実験機器を一斉につなぐというのは難しいと思うので、新しいプロジェクトを立てるときに、機器を購入するときには、例えば数%クラウド化のための予算をプラスするとか、そういうことをしていかないと、今のように施設は一度ぽんとやって、それっきり、使いっきりみたいな、そういう形ではなく、やっぱりデータをきちんと保存していくためにどういうふうに大学とか独法とかそういうところの仕組みを変えていくかというのは非常に重要だと……。
【栗原委員】  今の測定機器はそういう意味では非常にそういうものには向いているようになっていて、つなぐのにはむしろ大学などの全体のインフラストラクチャーの方が問題なことが多いと感じます。
【土井委員】  一応今、企業では、これは矢野さんの方の御専門だと思うんですけれども、工場の中の機器の無線化が課題になっていて、やはりその意味では無線でつながりにくいところとかあるし、あと、その無線を建物から外に出すときに、そこで漏れては困るから、そこで暗号化して、解析もそのまま暗号化してやりたいとか、そういう動きもあって、それに合わせてアライアンスも出来たりしていますので、そういうところの技術が育ってくれば、それを大学のところで使っていくということもできるので、ただそれはもう物すごい世界中の争いにレッドオーシャンのところになるので、標準化というのですか、それのやり方がどこが押さえてやるかというので非常に大きな今喫緊の課題だとは思いますが、それが大学とかそういうところにも簡単に入っていくような形になっていくというのが望ましいし、そういうところできちんと集まったデータをNII、山地先生たちのところでみんなが使えるようになってくれればいいですよね、喜連川先生。
【北川主査】  はい、安浦委員。
【安浦委員】  せっかく栗原先生が現実の話にしていただいたので、本当に大学のCIO、CISOを私は11年もやっていますと、ここのところにめちゃくちゃエネルギーを掛けざるを得なくて、その上にオープンデータというものがのし掛かってきています。問題は大きく二つありまして、一つはそのオープンデータの中でのデータの獲得、保管、閲覧、これの日本全体の仕組みをどう作っていくか、これは是非文科省の方でも真剣にサポートをしていただきたい部分で、実行部隊を喜連川先生のところがやっていただくんでしょうけれども、大学も一生懸命頑張りたいと思います。
 もう一つ大きな問題は、機器にコンピューターが付いているんですけど、大学では機器をそんな3年とか5年ごとに買い換えられるような研究室というのはよっぽどリッチな研究室で、10年、15年前のものを使っているわけです。ところが、10年、15年生きているOSはないんです。そんなものをネットにつながれたら、CISOとしては切ってくれとしか言いようがない、これが現状なんですね。そこのつなぎをどういうふうにこれだけテクノロジーが進んでいるのになぜ替えられないのかと現場の人たちからは我々情報屋が責められるんですね。じゃあ買い換えてくださいよと言ったら、じゃあその金おまえらが出してくれるのかという、そういう話になります。一方でセキュリティをちょっとでも破られたら運営費交付金をカットされますし、もう本当にやってられないというのが正直なところなんですね。こういうところにもやはりしっかり文科省としてサポートをしていただくということが日本の研究力の底上げにじわっと効いてきますので、是非よろしくお願いします。
【北川主査】  ありがとうございます。じゃあ喜連川委員。
【喜連川委員】  何か会議の趣旨が大分変わってきているような気がするんですが、ちょっと本来の御発表の質問をしますと、私はこのタイトルがとてもキュートでいいなと。ただ、これは、ずっと聞いていたので、一体どこでちゃぶ台がひっくり返っているのかがよく分からなかったんですが、何をもってちゃぶ台返しなんでしょうか、というか、メッセージとして。
【土井委員】  メッセージとしては、インタラクションですね。今まではどちらかというと集められたデータを使って、それでやっているだけで、そこに対してユーザーあるいは現実世界がフィードバックをするというところがない。
【喜連川委員】  いや、フィードバックするために集めている、CPSというのは。
【土井委員】  だから、今だと、集めて深層学習して、その結果を出すというそこで終わっていますよね。
【喜連川委員】  終わっているというか、ですから、前半の矢野さんの御発表のように、ビジネスプロセスを変えるというのもそうですし、医療画像処理でしたら、お医者さんのビジネスモデルがどんどん変わる。だから常にリターンはありますよね、リターンパスがループ――そこで終わるということは……。
【土井委員】  そういう意味でのビジネスプロセスは変わっていると思うのですが、ただ、その結果に対して、今もらったデータだと今の状況に違うから直してほしいとか、何か条件を変えたいとか、まだユーザー側とか、あるいはその地域地域でリアルにデータを入れて、モデルを変えるとか、そういうところまでは行っていませんよね。ギブンで、それに対して、それに合わせてビジネスの形を変えていくということですよね。
【喜連川委員】  いや、それは――まあ余り時間もあれなので、僕はフィットビット付けていますけれども、それを見てフレールを予防しようという行動変容をみずから起こそうとしていて、実際、若干ではありますが起こっていますし、例えば安浦先生がリアルタイムに学生さんの学習進度を見ていて、教師は学生さんにあほかと言うんじゃなくて、こういうふうに遅れているけどどうしたのと優しくおっしゃる。だからまあそういう意味では本当に授業中にそれを見ながらフィードバックを掛けているわけですから、介入はどんどん起こっていると思うんですよね。
【土井委員】  すいません、人間側に介入はしているけれども、それが合っているときはいいんですけれども、合っていないときにモデルを替えたりとか、介入したことによってまたモデルが変わったりしますよね。そういうことはないですよねという。
【喜連川委員】  そこでいうモデルって何なんですか。
【土井委員】  だから、例えば一度ビッグデータを使って学習したような、ニューラルネットワークをもう一度再学習その場でするとか、そういうことはまだないですよねという、そういう意味です。
【喜連川委員】  それはもう十分起こっていると思いますけどね。要するにどんどんインクリメンタルにデータが来るので、そのスライディングウインドウにする、まあ時間が掛かりますので、変化はリアルタイムでは戻らないですけれども、まあ、結構ですけど、何かもうちょっとそこら辺分かりやすいメッセージでまとめていただけると。とりあえず通信がしにくいというのはNIIではなくて、通信しか研究することがないNICTに文句を言っていただければと思います。
【北川主査】  DXとHIというのを中心にお話しされて、DXの方で何にすべきかというのは大体よく分かるかと思うんですが、HIの方は、これは日本の文科省の政策なんかを考えるときに比較的中長期的に、あるいは一点突破でやるべき課題としてこの辺は取り上げるべきだという御主張と考えてよろしいんですか。
【土井委員】  はい、一応そのつもりですけれども。
【北川主査】  はい。ほかの方で何か。はい、矢野委員。
【矢野委員】  今のところとすごく関係するんですけど、UX的なもので非常に大きいビジネスを作ったのはアップルが有名ですよね。あのiTunesとかiPodから始めて最後はiPhone、今に至るんですけど。でもあれも決してiTunesがその当時非常にすばらしく使い勝手がよくて、あそこは勝てたよといって何かあれを売っていても、全くああいうビジネスは起きなかったということで、要するにUXというのは大変大事なんですが、それだけをやっていてもだめですよねという。大きな話にするには、その周りに、その背後にある非常にいろんなものも併せてやっていかなくてはいけないくて、だからその辺はどう考えているかを土井さんにお聞きしたいと思います。
【土井委員】  そういう意味では、今の研究のやり方でいくと、基礎研究のところは文科省でこうやります、何はしますと、今までどおりの省庁縦割りという形なんですけれども、やはりインタラクションしている、人間の一つの体の中でもそうですし、人間とほかの人間、あるいはコネクティッド・カーと環境といったような、そういうことを併せてどういうアーキテクチャーでインタラクションしているところを捉えてデータを学んで完成システムに持っていくかというところは、まだSociety5.0という名前はあるけれども、そのために具体的にこういう形でできますみたいなところが見えてないですよね。データの取り方とかそういうこと一つとってもまだばらばらになっているので、そういうあたりをもう少し統合した形、横断したような形でプロジェクトを組むようなことができるようになると、よりSociety5.0という形での実生活にリアルタイムにフィードバックできるようなアーキテクチャーが出来ていくのかなと思うんですが。なかなかデータの絡みになると、すぐ話が動かなくなってしまって、日本のやり方だと、全部データをきれいに集めてからやりましょうという形になって、なかなかいつまでたっても進まないので、何かあるターゲットを見付けてやっていくということが重要なのかなと。具体的なターゲットを作ってやっていくことが重要なのかなと。そういう中で、ユーザー・エクスペリエンスとして新しい価値も具体化されていくんだというふうに思います。なので、先ほど矢野さんの御発表の中であった、京大とやっている中で幾つかのシナリオ、未来のシナリオを選んだみたいなお話があるんですけれども、そういうところを使って横断的なプロジェクトを作るとかいうことを試してみてもいいのかなというふうに思います。
【北川主査】  ありがとうございました。時間もちょっと予定を過ぎておりますので、次に移りたいと思います。
 3番目は、瀧主査代理です。よろしくお願いします。
【瀧主査代理】  主査の方から私がお願いされたのは、ちょっと技術寄りの方がいいじゃないかということを聞いていましたので、かなり技術寄りの話をしたいと思います。本当はもっと大所高所の話をしたかったのですが、ちょっと時間的にお願いされてから短かったので、よく分かるところだけに絞っています。
 最初、やっぱりこの情報科学技術の将来の動向とか、今後どうしていくのかというのを見るときに、昔の人は何を考えていたのかというのをちょっと見てみました。20年前、大体どんなことが言われていたのかをまず見てみます。
 これは人工知能学会の大会のときに、立花隆さん、この頃、テレビのどこのチャンネルをつけても立花隆というそういう時代だったと思いますが、彼はいろいろな本を書いていたりいろんなことを広く見ているので、何かいいことを言っていないかなというのをちょっと見てみました。当時彼がよく言っていたのは、世界マシンという単語をよく言っていまして、「エネルギーとか資源とか人間とかから成る、複雑で大きな世界を動かすのには人工知能はこれから重要ですね」ということを言われていました。あと、脳の研究に関するところも彼はよく調べて本に書いていたのですが、そういう中で一つ言っていたのはハイブリッド進化、脳の進化と人工脳の進化、これはインターフェースをとって進化していくというような話が出ていました。それからあと、人工知能のところでは、当時やっぱりルールベースのシステムなんかを作っていたりして、なかなか人工知能のシステム自身が自分で発展するというような時期ではなかったので、自律的に学習するようなものが出てくるといいですねというようなことを言っていました。
 今振り返ってみますと、確かにこの頃、こういうのがあればいいなというのは今見えてきていると思います。次が、やはり同じ頃に、これはどっちかというと、当時皆さんメーカーにいた方が中心で同じような座談会をされているのですけれども、人工知能冬の時代のときです。冬の時代のときの方が真面目に物事を考えたりします、どうしたらいいかと。当時はやっぱり知識ベースシステムを作って人工知能のシステムを作るという記号処理の時代だったので、知識獲得ボトルネックというのがやっぱり大きいということで、いろいろな対話も言語のコーパス、事例ですね、そういうものを集めるというのになってきています。
 それから、小さいシステムで物事を考えていたので、Massive Computingの方法論が要りますねとか、それから現実の世界と人工知能が扱う情報のギャップであるとか、五感が必要だとか、スケーラビリティーを前提とした計算アルゴリズムとかですね。まあ、ダイレクトには言っていないですけれども、大規模データの活用とかIoTのセンサー活用というところまでは話は行っていないですが、そういう方向性につながるような議論はされていたのかなと。
 それから、やはり同じ頃、いろんな先生がAIマップというのを、自分の観点でAIの関連するような情報についていろいろ述べるというのがありまして、当時九州大学だった有川先生が機械学習から機械発見へというのが書かれています。ここでちょっと私が注目したのは、正のデータからの帰納推論です。機械学習というのは、普通、正のデータと負のデータから学習します。正のデータだけだと過剰一般化というのを起こしてしまうます。今、グーグルが猫を見せて猫を学習するというのをやっていますけれども、実はその猫の範囲というのは、その見せられた範囲のどこまで超えていいかというのは実は分からないですね。犬を見せてこれは猫じゃないよと。トラを見せてこれは猫じゃないよと。象を見せてこれは猫じゃないよというのは従来の方法だったのですが、今は正の例からだけ学ぶようになっています。それで、この頃から正の例から学べるクラスがあるというのが見つかってきています。それで、当時やはり記号処理中心だったので、今後は、数値データを対象にした機械学習の基礎を確立する必要があると20年前に言われています。今それが出てきています。
 それから、これらの技術で、大規模なデータと機械学習が統一的に扱えると、全く違った学習技術が登場するに違いないと、ディープラーニングを待望するようなことを当時東工大、今は阪大の沼尾先生が言われています。
 それで、次がやはりAIマップの話ですけれども、AIにおける科学革命というようなことを書かれているのがあって、この頃流行っていたのがトーマス・クーンの「科学革命の構造」でのパラダイムシフトというのが流行っていましたので、それにちなんだお話になっていると思いますが、ここで北野さんが言われているのは、古典的な記号システムから統計的な記号システム、また、更に量子的なものというのが出ているのですけれども、ここで強調されたのは二つですね、統計的な話と、それから教師信号ない強化学習、当時、強化学習という単語でなく、違う言葉が使われていたのですが、そういうのが重要だなと一応言われています。あと、低次機能のモジュール化で高次機能を実現しようというMinskyの「心の社会」に相当するような話も出ていました。
 ということで、皆さん、こういうのがあったらいいなということがちょこっと出てくるのですね。それをうまく集めると、実は未来を皆さんうまく予測できていたなと思います。
 ここでちょっと狭い範囲に入らせていただきますけれども、今の情報科学技術の中の人工知能が認められるようになってきたのは、やはりここ数年で、やはりディープラーニングの影響が非常に大きいので、世の中がディープラーニングに資源集中していますので、そこをもう一回見直しておこうというのが今日の話になります。
 データ中心の学習をするわけですけれども、そのバックグラウンドに従来の人工知能の記号処理の莫大な研究データがありますから、それとの関係はどうなっていくのかなというのがあります。それで、ディープラーニングの特徴は多い事例、多いデータから学習します、それからバイアスが不要であること、正例のみで学習できるということです。従来の記号処理的な帰納推論の特徴は、少ない事例で学習できる、背景知識としてバイアスが必要であること、正例と負例の両方が要ることです。これをちょっと覚えておいていただいて、これに対してディープラーニングは今どうなってきているかというと、データ量をうまく集められない分野に対しては、後でちょっと説明しますけれども、GANというのが非常に伸びてきています。それから、負の例が精度を非常に向上させるので、これもGANがうまく使われていると思います。一番今後私も注目しているのは、記号処理分野へのディープラーニングが伸びてきていることです。これは予想と違った伸び方をしているわけです。そこにちょうどWord2vecと書いていますけど、ちょっとその辺は、後で説明します。
 GANというのは、よく知っている方にとっては釈迦に説法ですけれども、正のデータを入れてラーニングで識別するというのを作るのが普通のディープラーニングですが、これはそうではなくて、訓練例というのと、それからその訓練例に似たにせものを作るジェネレーターというのがあります。で、そこに識別機というにせものと本物を識別する機械というのがありまして、識別機はにせものと本物を識別するのに一生懸命になる。すると、だんだんにせものと本物をきっちり分けられるようになる。ジェネレーターの方は、どんどん本物に似せたにせものを作る。どんどん識別しにくいにせものを作っていく。これを繰り返しやると、ジェネレーターがだんだん本物と同じものを作れる、識別機は識別する能力が非常に上がる、この枠組みを使って、要するに事例が少なくても学習できる。それから負の例に相当するジェネレーターのようなものがあるということで、従来の記号処理でやっていた(正例と負例から学習する)という方法が(精度面で)有利だったものもGANが凌駕してきているというのがあります。
 最近私一番注目しているのが、ディープラーニングが完成したというふうに見てしまうとちょっと寂しいのですが、それはパターン認識の分野ではもうほぼ非常にうまくいっているわけです。ただ、パターン認識以外のところで、ディープラーニングはまだこれからということになっていまして、これはちょうど今年のNIPSのチュートリアルからとってきているのですが、自然言語処理がどういうふうに発達してきたかというと、その途中に、2013年にword2vecという研究があります。それからその後、2018年にBERTというのが書いてありますけれども、この辺ちょっとだけ簡単な説明をします。言語処理というのは、今までは、まず単語を認識する。単語の品詞を決める。品詞が決まると構文解析とか統語解析というのをして、文の構造を見る。主語、動詞、述語、形容詞とか、そういうのを見て文章を理解していくというのが正当な記号処理だったわけです。ディープラーニングが出てきてもその世界は変わらないだろうなと多くの方は思っていたのですね。ただ、事例を使って翻訳しようという努力が始まってからいろんなことが出てきました。それは、一つの文章、例えばこれを見ますと、「cat」というのがその前後にあるような文章との距離がありますよね。これをいろんな文章から出てくるものを見るとベクトル化できるというのがありまして、記号処理の論理関係ではなくて、単語間の関係をベクトルで処理する。例えば「兄」というのと「男」、「女」というそれぞれのベクトルがあると、それを足し算引き算すると、例えば「姉」が出てくるとか、「エッフェル塔」というベクトルから「フランス」を引いて「日本」を足すと「東京スカイツリー」が出てくる、そういう感じで単語を扱うということができる。
 その下、ちょっと余りいい絵じゃないのですが、兄と姉に関するベクトルと弟と妹に関するベクトル、父、母のベクトルが同じ方向を向いている、そういう形で単語間の関係をベクトルで表現するというのが出てきました。
 次に、更に最近進んできているのが、我々は、今もお話聞いていても、時々単語が聞き取れなくても文章が分かるのです。そういう形で考えると、文章の一部が抜けていてもそこに入る単語というのは実は有限です。しかも文脈を考えると、そこに出てくる入る単語の種類というのも更に有限になる。これを学習するということで、一般的な文章から基本的な言語モデルを作ります。その基本的な言語モデルを使って専門的な分野の言語モデルを作っていくというのがあります。例えばそこのインプットで、その男の人が何が欲しいか、彼はどのぐらいミルクを買ったかということです。これは<MASK1>と<MASK2>に何が入るかということが知りたいわけです。いろんな文章を事前学習しておくと、ここはstoreだとかgallonだとかというのが入るとわかります。これが一番すごいと思うのは、グーグルはこれ(BERT)をオープンソース化していますので、誰でも使えるというふうになっています。
 もう一つが、ディープラーニングは、入力があって出力がある、猫の画像を見せると猫だと分かる、基本はそういう構造のものだけなのです。これを一般的なシステム化して人工知能として使っていくには、基準とか価値の違うラーニングしたネットワークを組み合わせないといけないですね。これを一度に学習するとなると、多分精度が落ちます。これに対応するために、価値や基準の違うものを統合するような技術というのが今後必要になってくるでしょう。例は後で出します。
 それから複数のIoTのデータも精度、表現、時間、空間、全然違いますから、片やフローティング(浮動小数点)表現で入ってくる、別のセンサーは絶対値で入ってくる。片一方は秒単位で、片一方は時間単位でしか入ってこない、これをどう合わせて、統合するのか。また、明るさが入ってくるとか、移動距離が入ってくるとか、いろんなものが入ってくるのをどうやって扱うのかとかですね。
 それから、既存のシステムあるいは記号処理のシステムとディープラーニングのシステムを併せて大きなシステムを作るときどうするのかという話があります。一つは、よく価値の違うものを統合して判断するとき使っているAHPというのがありますよね。これはAHPを使えという意味じゃなくて、AHPのようなものを考えないと、ディープラーニングを統合するときに苦労するでしょうという意味です。まあ例として書いているのは、例えば車を選ぶ(購入する)ときにスタイルで選ぶのか、用途で選ぶのか、サイズで選ぶのか、価格で選ぶのか、納期で選ぶのか、それぞれ(価値基準)ばらばらだと困ります、じゃあどれを選ぶのかというときに我々はどうしているかです。サイズとスタイルだったらサイズの方に倍の点数を付けるとか、価格は重要だから10倍の点数を付けるとかですが、このようなときの意思決定にAHPというのを使っていますよね。
 自動運転でよく出てくる意地悪問題があります。このまま行くと歩行者が傷付いてしまう、でもそれを避けようとすると運転者が傷付く、じゃあどうするのかを判断する。そういうときにも判断処理できるようなメカニズムが要ると思いますね。これは人工知能にだけに問うのは実は酷で、あなただったらどうするのというのに答えられる人は少ないと思います。
 それから、ロボットのところでよく使われていたBrooksのサブサンプションアーキテクチャーというのがあるのですが、これは、従来、信号があって、信号を認識して、その信号のモデルを作って、行動のプランニングをして、タスクを計画して実行する。システム構成において、どこかの処理、例えば、認識が失敗したら全く動けない。ですから、低レベルの認識と高レベルの認識とがばらばらにあって、高レベルの方で答えが出ればそれを優先する。実は、これは私、昔、企業にいましたので、エアコンはこの仕組みで昔から作っています。エアコンのコンプレッサーが壊れないように、一番下はエアコンのコンプレッサーが動くが、壊れない構造になっている、そういう制御をしています。壊れないのだったら更にその上のもの(省エネ運転をするなど)を作ろうと。また、更に上のもの(快適性を出すなど)を作ろうというシステムになっていて動いています。
 あと、他の分野との連携の話が重要ですが、ここはちょっと消化不良(私の分析が完全でない)で十分なお話ができないのです。シミュレーションとの連携の話は前回上田委員から出ていましたが、AI学会なんかでも物理学との連携という話がたくさん出ているのですが、まだまだ消化不良(始まったばかりでこれから)かなと思います。
 脳科学との連携のところもまだちょっと消化不良かなと。ただ、今後、非常に重要なので、ディープラーニングの学習構造が人間の脳の認識の構造を模倣していると言えますので、どんどん人間が脳の中でどういうふうに物を統合して考えているかというのが分かってくれば、それも使えるだろうと思います。
 それから社会システムの方では、最近その社会に有用なAIとは何かというのが非常に議論されていますので、社会に有用な情報科学とは何かというようなものについては重要かと思います。
 あと、やはりグーグルが出しているKnowledge Graphというのを使っている研究者が非常に増えてきまして、これと先ほどのBERTの自然言語処理を引っ付けると、従来とは違った意味処理のできる情報処理、自然言語を使ったシステムというのが今後出てくると予想されます。この辺は重要かなと思います。
 それから、この委員会等でも関係ありますけれども、量子コンピューターが非常に研究されていますが、今朝か昨日のニュースでもIBMが単体で動くノードを出したというのがありますけれども、それをもうちょっとうまく使う、使う側の研究とか技術についても重要かなと思っています。
 脳科学との連携については、今日は省略します。
 それで、やはり最近情報科学が進展してきたのは、ハードウエアの計算量が上がってできることで、「できることがが変わった」ということが重要です。今後もこれ(ハードウェアの処理能力の進化)は重要だなと思います。できることが変わるというのが重要です。それから通信速度も無線通信も5Gになりますし、SINETも非常に速くなっていますので、分散処理でできるものももっと今後考えていかないといけないなと思います。で、将棋ソフトですが、これは複数のパソコンを使って動かす将棋ソフトがありまして、これはお昼になると強いです。お昼は計算機が遊んでいますので、たくさん使えるので強いというのがあるので、分散処理についてはもっと考える必要があるなと思います。
 それから、これは非常に重要だなと思っているのが、今、京コンピューターでもAIにも使えますよ、16ビット単精度もできますよといっていますけれども、グーグルが作っているプロセシングユニットは8ビットです。GPUを使うよりも相当速いスピードでディープラーニングできるようになっていまして、グーグルは、これを持っていることによって自分たちの作っているいろんな処理、テキスト処理とか、先ほど囲碁の話も出てきましたけれどもAlphaGo ZeroというのはTPU4ユニットでやっているというのがありますので、我々、京コンピューターも必要ですけれども、こういうTPUについても何か考えておかないといけないんじゃないかという気がします。
 まとめですが、シーズとニーズと両方考えないといけないなと思います。今日はニーズ(社会のニーズ)の話も大所高所からあったと思いますが、シーズ(技術シーズ)もやっぱり押さえておかないと、両方で日本が後れをとるでしょう。当面はディープラーニングの基本的なところはマイナーな改良ですが、それを組み合わせたアーキテクチャー系、新しい学習アーキテクチャーだとか新しい人工知能のアーキテクチャーというのはどんどん出てくるだろうと思いますので、そこに注力する必要はあるだろうと思います。ニーズのところも、ディープラーニングだけではなくて、多分、企業の方は非常にいろんなこと(人工知能の応用)をやっていると思いますが、いろんな探索問題とか組み合わせ問題とか計画問題とか、そこはディープラーニング以外の技術をまだまだ使っていますので、そういうところの技術もちゃんと押さえておく必要があると思います。それから、VR、ARも更に進むと思いますし、それから、世の中で皆さんがお金を出さないでもデータが集まるインスタグラムとかYouTubeとかのようなもの、先ほどご講演のわくわく感のあるもの、そのような情報システムというのが日本発でも出てくるといいなと思います。自然言語の理解にはブレークスルーが間もなくやってくると私は見ております。
 以上です。
【北川主査】  どうもありがとうございました。時間が残り少なくなってきたんですが、ただいまの御講演につきまして何か御議論いただければと思います。
【矢野委員】  大変まとめていただいてありがとうございました。私もニューリップス参加したんですけれども、先ほどちょっと消化不良とおっしゃっていた物理学との連携は何かものすごいことが起き始めているなという印象を私は持ったんですが、幾つかありましたけれども、実際、ニューラルネットのいわゆる縦積みのところを微分方程式に置き換えるですとか、演繹的な知識を微分方程式に入れて、機能的なところをニューラルネットでやって、それを全く融合してしまうみたいな技術も出てきていましたし、今まで帰納一本槍だったものが非常に両者で融合、単にシミュレーターと二つ併せてどこかでつなげるとかいうんじゃなくて、すごく一体化してきたなという印象を私は受けたんですが、どうでしょうか。
【瀧主査代理】  そういう形の融合というのはまだまだこれからどんどん進むと思いますね。物理学の方のいわゆる微分方程式で物事を考えるというのは、数式の連続系の方が実は計算量が落ちますね。で、式も変形したりいろいろできますので、離散系になるほど実は計算量が増えたりしますので、そういうところの関係というのも非常に重要かなと思います。
 で、消化不良と言ったのは、日本でまだまだそこまで行っていないかなという、それが一つだと思います。それから、ベースになっている技術というのは、実は制御理論というのを私はずっとやっていまして、それは微分方程式ばかり扱いますが、微分方程式で扱う世界というのは、もういわゆる相当いろんなものが出来上がっていますので、それを取り込むのはまだまだ、先ほど言われましたように、今後もっと増えてくるだろうなと。今は始まったばかりかな、そういうふうに見ております。
【北川主査】  安浦委員。
【安浦委員】  どうも幅広いまとめをしていただきましてありがとうございます。最後の方でシーズの話も重要だというお話があって、ハードをやっていた側から見ると非常に心強い話なんですが、一方でポスト京の話を今ワーキングでやれと言われてやらせていただいています。その中でポスト京には先ほどおっしゃったように16ビットの浮動小数点は付けたということで、AIにも使えますということをうたい文句に一応しているんですよね。ただ、その次の、じゃあポスト・ポスト京があるのかどうかというような議論もやはり我々はそろそろ考え始めないといけなくて、そういうときに10年前、15年前は日本の産業にシーズ側のハードを作るメーカーがあって、そこにも波及効果があるというロジックが組めたんですけど、今はそのロジックがほぼ組めない。設計までは日本でやりますけれども、ひょっとしたらこの次は組み立てまで外に投げないといけないという時代になるかもしれない、そういう中で、日本としてこういうシーズ側、それからニーズ側への対応でどこに情報科学技術の研究投資をやるのが重要か、そこのポリシーがある意味問われていると思うんですね。その辺について先生の御意見を少しお聞かせいただければと思いますけど。
【瀧主査代理】  大変難しい質問だと思いますが、東日本大震災が起こるまでは、CPUの割合というのは日本が圧倒的だったと私は思っています。というのは、家電製品に入っていたり、車に入っていたりしているCPUの絶対数は日本が圧倒的でした。その震災の後、ルネサスの工場が壊れまして、今は外国製のCPUが大体の車にも利用されています。ということで、情報技術の全体的なところで、どこに焦点を置くかということで将来注力すべき技術が変わってきます。重要なものが一つありまして、エッジコンピューティングで考えたときには、エッジコンピューティング向きのプロセッシングについては日本のメーカーもかなりまだ供給できるのではないかと思っているわけです。ですから、そういう面で日本のコンピューターメーカーなんか、あるいは半導体メーカーを支援するという意味であれば、エッジコンピューティングに向いた情報科学技術というのはあるのかなというふうに思います。メジャーなところはもうインテル、AMD等に押さえられておりますし、それからネットワーク系の機器についても、日本はまだNECさんとかが頑張っていると思いますけれども、メジャーなところは押さえられているかなというふうに思います。
 ただ、技術も相当変わってくる可能性がありますので、そうなると、メジャーをとれるかもしれません。私はGPUが出てきたときに、これは少し変わるなというふうに思いましたけれども、確かにかなり変わった(様々なものに利用された)わけで、今、残された領域というのは、私はDSPだと思っています。DSPはデジタル・シグナル・プロセッシングですけれども、出てきてからあまり進化してないと思いますね。それで、あの辺(DSP)は日本が得意かというとそうでないかもしれませんけれども、DSPプラス何かでエッジコンピューティングというのは日本が主導権をとれる可能性はあるのかなというふうに思います。個人的な感想で申し訳ございませんけれども。
【北川主査】  それでは、もう1名ぐらい。樋口委員、お願いします。
【樋口委員】  先生が途中御紹介されたGANの技術、その結果をいろいろ実際に再現しようとすると、パラメーターのチューンナップとか結構難しいし、そもそも物量作戦的に大量の計算機パワーが必要になります。また、知識の観点から、論文とかがアーカイブを通して日々アップデートされるという物量作戦的なやり方が非常に有効に機能するような時代で、限られた予算でどういう人工知能に関する研究をしていったらいいか、その戦略性について先生のお考えがあればお願いします。
【瀧主査代理】  それも非常に難しいお話で、GANは例としてお話ししたつもりになっておりまして、一つは、GANについても中はディープラーニングのモジュールの組み合わせになっておりますので、いわゆるモジュール化したものをいかに組み合わせて新しいアーキテクチャーを作っていくかというところにあるのかなと思います。皆さんが資源集中しているところに入ると、同じように消耗戦になりますので、そこはちょっと離れて見た方がいいかと思います。まあ、勝負する人は勝負していただいた方が良いんですけれども。
 それで、何か新しいアーキテクチャーが考えられるかとすると、一つは、今までの記号処理で出てきていて、パターン処理の世界で使われていない技術というのが重要かなというふうに思っています。ディープラーニングが出る少し前の画像処理の人たちが言っているのを私が聞いていて思ったのは、人工知能の方の記号処理では事例ベース推論というのが相当昔はやりまして、事例ベース推論は、我々(人工知能分野の研究者)はもう終わったと思っていました。それが四、五年前に画像処理屋さんが事例ベース事例ベースと急に言い出して、その後、SIFTというのが出てきました。これは画像が持っている特徴をヒストグラム化してみた画像かどうか見るという、今のディープラーニングのちょっと手前ですね。あれが出てきたときも位置情報というのを全て捨てていて、特徴情報だけになっています。ディープラーニングになったときも画像の位置情報を全て捨てちゃって、全てじゃないですね、ほぼ捨ててあって、特徴だけにしているというので、その流れで出てきているなというのは分かりますが、まだ従来の記号処理等で出てきていた考え方でディープラーニングに取り込まれていないものはたくさんありますから、そういうところは使えるかなというふうに思います。この委員会とも多分いろいろ関係してくる、量子コンピューターをもっとうまく使うアプリケーションを考える、それで日本が先行するというのがあるのかなと思います。
【栗原委員】  似たようなことなのですが、先ほど物理学との連携というようなところともオーバーラップすると思うのですが、シミュレーションのポスト京とか京の利用活用においても、コンピューターのいわゆる機械的な計算速度と実際的な計算できる速度との間にはすごく大きなギャップがあって、やはり計算の手法とか考え方をどう組んでいくのかがすごく大事だというふうに聞いています。それで能力は何倍も違うということなので、もちろんハードという意味でのシーズはあると思うのですけれども、今先生がアーキテクチャー、情報においてもおっしゃっていて、このあたりはシミュレーションもあるいは情報も非常に類似点が今後開発すべきところにあるかと思いますし、私はなるたけ対象としていいサイエンスを作ることにも使えたらというふうな意見も申し上げているし、期待もすごくしているんですけれども、そういうようなところで方法論としての伸びがまだまだあるのではないかと期待するんですけれども、いかがでしょう。
【瀧主査代理】  特に並列コンピューターを使うときには、並列性のあるところとないところが混在しているので、並列性のないところをいかにうまく少なくして速くするかというのは出てくると思います。ですから、今までの計算だと必ず順序立てて計算するというようなことをしていますけれども、今後ひょっとすると、見込み計算をしたものと最初に計算したものと合わせるとか、見込みが外れていれば捨てちゃう、合っていればすごく高速化されるとか、例えばいろいろ今までにない考え方のアルゴリズムというのは要るかもしれません。
【北川主査】  よろしいでしょうか。はい、まだまだあるかと思いますけれども、時間が大分オーバーしておりますので、一応これで打ち切りたいと思います。どうもありがとうございました。
【瀧主査代理】  ありがとうございました。
【北川主査】  それでは、事務局の方からこれまでの議論等のまとめをお願いします。
【齊藤情報科学技術推進官】  本日は御議論どうもありがとうございました。過去2回の委員会での皆様の御発言のうち、主なものにつきまして、まだプリミティブなものでございますが、事務局の勝手な判断で分類して参考資料1として取りまとめております。こちらはまだまだ不十分な点もあると思いますので、こういう論点もあったんじゃないかとか、ここの発言は実はこういう意味だ、意味が違っているとかいうところがありましたら、メール等で御指摘いただければと思います。
 また、こちらをベースに本日頂いた議論の結果も付け加えまして、次回1月29日、今期最後の会合で取りまとめに向けた議論を行っていただきたいと思っております。過去3回の議論で言い足りなかった御意見ですとか追加の御意見を頂戴できるようでしたら、参考資料2として意見提出の様式等も作っておりますので、こちら、後ほどメールで送らせていただきますが、適宜このような様式も使っていただきながら、取りまとめのお時間もございますので、大変短くて恐縮ですが、1週間程度をめどでメール等で提出いただくようにお願いいたします。
 以上でございます。
【北川主査】  特にプレゼンしていただかなかった方はいろいろ言いたいこともあるかと思いますので、是非紙に書いて御提出いただければと思います。
 本日の議題は以上を考えておりますが、もし特に御発言があれば、よろしくお願いしたいと思います。
 よろしいでしょうか。それでは、事務局から次回の予定等をお願いします。
【齊藤情報科学技術推進官】  次回委員会は1月29日火曜日を予定しております。研究開発課題の方向性について、これまで頂いた議論の取りまとめに向けた議論を行いたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
 本日の資料につきましては、そのまま机上に置いていただければ、後ほど事務局より発送させていただきます。よろしくお願いいたします。
【北川主査】  それでは、これで閉会とさせていただきます。本日は3名の委員の方に御講演いただきまして、有効な、大変有意義な議論ができたと思っております。どうもありがとうございました。

―― 了 ――

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