防災分野の研究開発に関する委員会(第50回) 議事録

1.日時

平成21年7月1日(水曜日) 10時~15時30分

2.場所

文部科学省 16F 特別会議室

3.議題

  1. 第4期科学技術基本計画における防災科学技術の在り方について
  2. その他

4.出席者

委員

濱田主査、天野委員、荒卷委員、今井委員、岡田委員、国崎委員、佐土原委員、重川委員、清水委員、武井委員、田中委員、中尾委員、林委員、松澤委員

文部科学省

田中審議官、増子地震・防災研究課長、渡邉防災科学技術推進室長 他

5.議事録

 (濱田主査)

 今日は長時間の会議となりますが、よろしくお願い申し上げます。

 まず、事務局から、お手元に配付された資料の確認をお願いします。

 

(事務局(富田))

 資料のご確認をさせていただきます。

 

-資料確認-

 

(濱田主査)

 本日の議題はただ一つでありまして、第4期科学技術基本計画における防災科学技術の在り方についてということで、事前に委員の先生方からご説明いただいて、全員で検討するということであります。今日は3時までと、それから、7月15日にもう一度開催して、9月に全体の取りまとめを行うということになります。

 大変お忙しいところ、資料をお出しいただきましてありがとうございます。それでは、早速でありますが進めたいと思いますが、事務局から進め方についてご説明いただきたいと思います。

 

(事務局(富田))

 では、簡単にご説明をさせていただきます。

 去る6月1日に皆様方にメールで資料作成の依頼を申し上げた、防災科学技術推進にあたっての理念及び中長期的視点に立った我が国おける今後の防災科学技術推進の方向性及び今後の防災科学技術の重要課題その他につきまして、本日は10名の委員の方にご説明をいただくことになっております。

 本日のヒアリングの進め方でございますが、各委員ごとにご説明は10分間、質疑応答は10分間の計20分で進めさせていただきたいと思っております。それぞれ時間ごとに鈴を鳴らす予定であります。10分で一鈴、20分で次のもう一回鈴を鳴らして、説明が10分に満たない場合は二鈴のみということになっております。午前は天野先生、岡田先生、国崎先生、佐土原先生、清水先生、午後は田中先生、中尾先生、林先生、荒巻先生、濱田先生のそれぞれ5名の先生方にご説明をいただきたいと思っております。

 

(濱田主査)

 前回ご欠席の委員の先生方はおられますか。それでは、恐れ入りますけれども、前回自己紹介をいたしましたので、簡単で結構でございますので、お願いしたいと思います。

 

(中尾委員)

 人間文化研究機構の中尾と申します。よろしくお願いします。

 

(濱田主査)

 それでは、早速科学技術基本計画における防災科学技術の在り方ということで、天野委員にお話を伺いたいと思います。資料を眺めながらお聞きしたいと思います。よろしくお願いします。

 

(天野委員)

 さきほど参考資料を配付させていただいていますが、10分間の説明のほうは、配布資料をもとにお話しさせていただきたいと思います。策定に向けた検討の視点という書類も含めて、前回いろいろ資料をいただきましたが、そこに書いてあることをまた書くのも何だと思いましたので、一応それを踏まえた上で、私がどんな問題意識を持っているのかというのを、まとめさせていただきました。6つあります。

 まず、東海・東南海・南海地震等の発災可能性が高まっている。これは危険だと言われてもう数年たっていますので、以前30年以内とかいうお話がありましたが、その30年以内がどのぐらい縮まっているのかというのは、普通の国民感情としてちょっと心配なところがあります。

 それと、大規模自然災害時の日本としての具体的な全体のシナリオ。これは後で具体的に述べさせていただきますが、国交省、文科省、内閣府も含めて、それぞれ個別に熱心にやられているのはとてもよくわかるのですが、いざ発災となったとき、日本全体としては具体的に一体どうなるんだというのがよくわからなかったものですから、書かせていただきました。

 そして、発災時に国が指揮をとるために中心となる情報プラットフォーム、これは非常に大切だと思います。国が指令を出す際には、確かな情報に基づいて、どのような指令を何時、誰に出すかを的確に行うことが、みんなが一丸となって国を守る上でとても大切ですし、これを可能にする上できちんとした情報プラツトフォームがぜひとも必要です。この情報プラットフォームが今どこにあるのかがよく見えない状態ですので、心配になって書きました。

 それと、この文科省は特にそうですが、理学系の研究を今までずっと積み重ねていらっしゃいまして、とてもすばらしいものがあると思いますが、防災対策までいくとなると、実用化研究の場が絶対に必要だろうと思います。もう第4期ということなので、ぜひこういうものは入れていただきたいと思っています。

 もう一つですが、若手の研究者が伸びない、育たない。これは当たり前だと思います。要するに、受け皿がない。この受け皿として民間防災ポテンシャルを活用する方法というものをぜひお考えいただきたい。民間は利益にならない部署はどんどんつぶしていきますので、これから先、民間に防災関連で利益の出る仕組みを作っていかないとどんどん若手研究者の民間サイドの受け皿というのは危うくなっていくのではないかという危惧を素直に感じています。

 最後ですが、国際防災ネットワーク構想がもう必要になっているのではないかということです。

 以上の問題意識を踏まえまして、理念を2つ書かせていただきました。

 大規模自然災害が発災しても、それを克服して日本の国の力を維持していくということがとても大切だろうと思います。これなくしては、日本国民は生きてはいけなくなります。

 2番目の理念は、国際防災ネットワークのリーダーを目指す。いろいろ調べさせていただいていますので、アジア防災センターというのがあるのはわかっています。これを拡大させるのがいいのではないかなということで、まずアジア圏の災害衛星都市構想みたいなものを立ち上げまして、防災情報の共有ですとか、人材育成、コミュニティの防災力向上、これはアジア防災センターの目的になっていますけれども、それだけでなくて、発災時の協力体制を日本主導でつくり上げてはどうか。これは、上のほうのお話ともちょっと関係するんですが、具体的に発災したときに、日本国であれば、内閣府を中心にして、いろいろな省庁がまず連携をとって、いろいろな情報を整理して、実務のほうに流さなければいけないということはありますし、アジア圏を考えたときにも、内閣府が日本になると思えば、それ以外のいろいろな国、特に韓国ですとか、中国ですとか、そういうところとどう連携していくかというのは、全く同じ話だろうと思います。まずは日本国内の中で一つのモデルケースをおつくりになるということをやった上で、国際的なネットワークをお考えになればいいのではないかと思います。

 中長期的な方向性ですけれども、まず災害情報の開示。これは、何をやるにしても、災害プラットフォームがしっかりでき上がらないことには何もできないかと思いますが、今いろいろなところで受け皿づくりが進んでいるなかで、うまく機能しているプラットフォームはないと思います。まず文科省が技術開発をされて、その成果で上げられているもの、これは重要なコンテンツとなるはずなので、これを大事にして、やはり内閣府さんと同調した上で、国の中心となる災害情報プラットフォームをおつくりになるのが良いのではないかと思います。そのときに、災害データベースの統合化手法というものをキーワードで書かせていただいていますけれども、これをぜひ技術開発していただけると良いと思います。実用化研究というのは、学術的なレベルの研究開発ではなくて、ほんとうに研究開発かと思われるようなものも全部実用化研究につながっていきます。具体化というところは、アカデミックなものとは外れるかもしれませんけど、それがない限りは絶対に防災対策にはいかないと思いますので、ぜひその辺のことをやっていただきたいと思います。

 このときに民間からのデータをぜひ吸収していただきたいと思います。鹿島建設にも立派なデータはたくさんありますが、どう出したら良いのか。ただ、民間でお金がかかっていますので、無料でお出しするわけにはいきませんが。そういう何か民間からのデータなり何なりを、そのポテンシャルを生かす仕組みづくりというのも一つの研究対象になり得るのではないかと思います。これはマネジメントのやり方次第だと思います。

 それで防災科学技術の実用化研究の場の創設ということが次の2ページに書いてありますけれども、現状はハードな技術開発とソフトな技術開発の仕組みというのが非常に乖離していると思います。開発された技術がほんとうに生かされていない。要するに、防災というのは非日常のことを対象にして、いろいろ対策技術なり技術開発されていると思うんですけど、この非日常を対象にした成果を日常的な仕組みに結びつけてこそ防災対策につながっていくと思いますので、この非日常の事象に関する研究開発成果と日常的な仕組みの連携というのがとても大切だろうと思います。

 次の2つ目に書いてありますが、実用化研究の場の創設の第一歩として、大規模自然災害時の日本としての総合的防災対策を含んだ具体的な全体シナリオ、日本としてのBCPのモデルケースを作成するワーキングをお立てになったらいかがかと。これは実務とは違います。実際に日本が発災したらどうなるかというものを、いろいろなこれまでの研究開発成果、それと、必要でありそうなものもイメージしながら、モデルケースをつくっていく。これは防災工学の一番重要なところだろうと思います。具体的には、発災時の時系列に従った、内閣府を中心とした各省庁・地方公共団体・民間を連携させた具体的な災害対応のシナリオになるかと思いますけれども、これまでの予測値とか解析ツールや何かを利用して作成していったらどうでしょうか。

 ただし、このワーキングというものは、ある意味、定量化されたプロジェクトをまとめるということになりますので、土木工学的なプロジェクトマネジメントのできるリーダーが、このワーキングには必要だろうと思います。具体的なものを、ある工期内でイメージをまとめ上げるというのは、土木工学の中のプロジェクトマネジメントの考え方と共通するだろうと思います。

 このワーキングを一度すると、どういう技術開発をおやりになったらいいかというのが、あぶり出されてくるだろうと思います。これは、実用化研究の第一歩だろうと思います。

 具体的な国の体制として、私が疑問に思っているのは、その下の注のところに書いてあるんですが、いざ発災すると、国交省のTEC-FORCE、海上保安庁の管区海上保安本部、それから警察庁の広域緊急援助隊、消防庁の緊急消防援助隊、自衛隊、厚生労働省のDMAT、これらが一体どの段階で、どう働いて、どういう役割をするのか明確でない。というのは、具体的な時系列を追ったシナリオがないと、それぞれの役割を明確にしていただかないと、それぞれの省庁でどういうことを整備されたらいいかというのがわからないと思うんですね。ぜひ文科省が日本のBCPのモデルケースとして、こういうものを組み上げていくということをやられたらいかがかなと思います。

 アジア圏の災害衛星都市構想の立ち上げということで、防災拠点となる防災研究、これはアメリカで28の大学の大学連合(CUREE)があります。その日本版というのは、ぜひおつくりになったほうがいいのではないかと思います。ぜひその辺をお考えください。

 大学だけではなくて、学会でも、中国の四川地震に対しては、地盤工学会が発案して、その後8学会が連携して中国に対応しているということもありますので、学会も利用されると良いと思います。都市に関しても同じです。

 ここで、災害データベースの統合化手法の見直しがまずあって、その後、実用化研究と言っても、皆さんよくわからないと思うんですね。これは例えばどういうことかというのを、参考資料に示す例でお見せします。

 これは災害時のマネジメントを行うのを支援するシステムで、道路ネットワーク状況の予測するシステムです。皆さん、防災のシナリオを考えるときには、状況をイメージしようとしても、いざ何がどうなるかというのを定量的に把握しないと全然わからないと思うのですね。例えば、これは、発災したら道路はどこが使えるのかまたは使えないのかというのを解析するシステムです。このようなシステムは、どういうものを積み上げていけばできるのかということを示しています。これ以外の考え方もあると思いますが、一つの例をお見せしました。

 このパワーポイントの1ページ目の下を見てください。個別建物の評価は建築系で行いますが、道路や、地域などの、建物の周辺の評価というのは土木系で評価するんですね。ここのところを明確にしておかないと、トータルのマネジメントシステムというのはなかなか難しいかと思います。まず道路に関しては、いざ発災した後、緊急輸送道路ですとか、避難路ですとか、道路はいろんな用途に使われるはずなんですけど、ではこの道路がどこが使えるかというのを予測するシステムをどういうふうに組み上げていくかを示す2ページ目の下を見て下さい。

 道路というのは、土木構造物が連続して成り立っています。橋があったり、トンネルがあったり、盛土や斜面などの土の構造物があったりして、全部土木構造物が連続しているのですね。この土木構造物を個別に簡易的に耐震診断して、どこで壊れるかというのをまず評価する。そしてネットワークがちゃんとつながるかどうかを評価する。皆さん、ハザード評価をよくやられると思います。土木構造物のネットワークの上に津波が来たり、火災が起こったり、液状化で土砂が崩れたり、道路周辺の建物が崩れて塞いだりというようなことがある。道路構造物としては耐震的には大丈夫でも、津波で水かぶってしまうと通れないとか、火の海になっていて通れないとかが起こります。そういうハザードを重ねることで最終的な道路ネットワークの評価ができるわけです。つまり、道路自体の耐震評価と道路周辺のハザード評価を全部組み合わせることで、道路ネットワークの評価になるということがわかると思います。こういう具体的な状況を予測することで、災害時のマネージメントをどのようにしたらよいかがよりイメージし易くなると思います。

 以上です。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 委員の先生方には防災の様々な分野から出席いただいています。このような形で防災の研究の在り方について議論をする場というのは、実はあまりありません。ですから、非常にいい機会だと思いますので、質問でも、コメントでも、何でも構いません。それから、官側からも言ってください。こんなことは既にやってきたん、けれどうまくいかなかったとか、そういうような話も非常に有益に思いますから、どうぞご自由にご発言いただきたいと思います。

 

(田中委員)

 賛同するところはたくさんありましたが、これはむしろ文科省にお伺いしたいのですが、この場の議論というのがどういう範囲を扱っているのか。もっと具体的に言うと、中央防災会議で議論する話と、ここで議論をする話と、やっぱりそこのフォーカスの仕方が違ってくるのかなと。例えば、天野先生のご発言の日本のBCPってすごく大事だと思うし、進めたいと思うのですが、科学技術基本計画の防災科学技術という中で、バックグラウンドとしては議論をすべきだけれども、表に出ないものなのかどうか。その辺を少しはっきりしていただけると。

 

(天野委員)

 先に私の考えを述べさせていただいてもよろしいでしょうか。

 私も防災系で文科省や国交省とお話を聞かせていただいたりするのですが、私の一国民としての感情ですけど、全体ストーリーを定量的にちゃんとお考えになっている部署は、今はないと思います。東大客員教授として、東大病院を災害拠点病院としてどう機能させるかということを考えたときにも感じました。この文科省のここに来て思ったのは、どうせだれもやらないんだったら、トータルに結びつけるのが難しければ、技術開発というスタンスから、一つの全体ストーリーにまとめてしまうことは可能ではないか、やらなくてはいけないのじゃないかというふうな気持ちがあります。

 

(濱田主査)

 我々は防災分野の研究者や専門家です。首都直下の地震など差し迫った災害に対して、どういう対策、施策を打っていくか、これが最初に念頭に置くべきだと思います。将来の災害をいかに軽減するかという視点での研究開発が重要です。

 文科省が所管しているのは、学術・技術研究の推進がだということです。防災分野の研究開発は他の分野の研究開発と異なった特徴をもっていると考えています。他の分野でしばしば要求されるように、こういう研究をすれば経済活動が活発になってなどという話ではありません。将来の災害をいかに軽減するかという議論がベースにあって、そのための学術・技術開発はどうあるべきかを考えることが必要です。

 ここでの議論はまず広範な視点より意見を出して頂きたいと考えます。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 他の分野の研究成果は、メーカー等が実用化に向けていろいろと作業をしてくれるわけですけれども、防災の分野というのはそういうところはあまりなく、成果の引き取り手がまさに中央防災会議であったり、地方自治体の防災部局であったりします。ある程度研究成果をそれらに渡せるぐらいのところまでまとめないと実用化せず、役に立たないものであるということになります。民間企業への展開が少ない分野であると思っています。すぐに対策としてできるようなものであれば、中央防災会議が実施すればよいと思いますが、研究が進んでいない要素が沢山あるのであれば、文科省が担当する部分も多分にあります。特にモデルケースをつくるというのは、研究としてやるべき部分が多く残っていると思います。

 

(重川委員)

 今、研究成果を出すというおっしゃり方をされましたが、天野委員も同じだと思うのですけど、私もそうなんですが、おっしゃっている範囲だけが研究だと思っていません。例えば、防災でいくと内閣府もありますけれども、自治体に強いのは総務省消防庁です。自治体の計画を動したり、防災の第一義的責任がある市町村の足腰をどう強くするかとか。あるいは、市民の防災意識をどう高めていくとか。そうすると総務省消防庁は、文科省よりはずっと影響力が大きいんですね。民間企業だったら、もう当然、国交省のほうが影響力が大きくなります。

 そう考えると、ここでやった研究成果を渡すのではなくて、それぞれみんな研究だと思っています。例えば、中央防災会議でやっている専門調査会も、あれもまだまだ理学、工学に偏っています。しかも、緊急対応ぐらいまでしかまだフォーカスされていません。研究という意味が、この場と私自身が考えている研究というのがちょっと違って、どういうふうに実社会に適用させていくかという泥臭いこともとても重要な研究で、狭い意味でアカデミックではなくて、いろんな立場の人が対等な研究者としてやっていくべき分野だと思っています。そこも含めて、こういう研究というふうに呼んでいただければいいのだと思っています。

 

(濱田主査)

 時間となりましたので、次に岡田先生にお願いします。

 

(岡田委員)

 理念から重要課題、その他に至るまで、3項目ずつにまとめてみました。

 まず理念についてですけれども、スローガンとして3つ掲げました。1番目は、これまで地震がクローズアップされることが圧倒的に多かったのですが、さまざまな自然災害が起こるわけですので、どんな自然災害が起きても社会の継続性、事業の継続性を保つような頑健な国づくりを目指すというのがスローガンの1番目かと思います。

 2番目としては、社会構造それから温暖化等、自然現象は刻々変化しておりますので、そういうものに呼応して、いつまでも古い課題に取りすがっているのではなくて、何をターゲットにするべきかというものについて柔軟に対応していくことが必要ではないかというのが、2番目の理念です。

 それから、3番目は、国際社会へ貢献し、日本の強みである防災科学技術を外交の一つの道具にしていくべきではないでしょうかというのが、3番目です。

 この3つの理念に基づきまして、今後の方向性として、ここも3つ並べてあります。

 1番目は、さまざまな自然災害に関して、バランスのとれた研究の発展を図ることです。これまでどちらかというと地震災害に非常に大きな比重がかけられていて、この委員会で行われる中間評価とか事前評価とか、ほとんど地震のプロジェクトばっかりだったかと思います。それ以外に、風水害、雪害、土砂災害とか、慢性的に毎年発生して累積被害が大きいものもありますので、そういうものをないがしろにしてはいけないということです。

 それから、2番目は、当たり前のことですが、防災に関して基礎科学を深化すると同時に、総合化によって実証するという方向を目指すということです。

 それから、3番目ですが、単に研究だけではなくて、それに基づいた政策提言や政策実現に結びつけるということです。実現そのものは防災の担当官庁の仕事なので、そういうものに貢献するということであります。例えば、耐震技術ですとか、防災情報システム、ものすごくたくさんいろんなプラットフォームがあるわけですが、科学技術としては既に存在しているのだけれども、それがなぜか流布しない、社会へ普及しない、これがどうしてかということを解決するという研究こそが必要なのではないかということです。

 今後の重要課題としては、その各々に対応するわけですけれども、1番目としては、地震災害以外の自然災害についても忘れずにやっていったほうがいいのではないかということです。風水害、雪害、土砂等もそうですけれども、ここ最近たまたま静かで忘れられているような火山災害についても、しっかり研究を忘れずにやっておかないと、いざ襲われたときに被害が拡大することがありますので、あらゆる自然災害に公平に目を配るべきではないかというのが1番目の意見です。

 それから、2番目として、具体的なアウトプットを提供するということが大事だということであります。第3期の期間では、緊急地震速報システムですとか、地震動予測地図といったふうなものを具体的なアウトプットとして世の中に出しましたので、今後もそういうふうに目に見える形のアウトプットをつくるというところまで研究を進めるということが必要かと思います。

 それから、3番目は、土地利用の制限などを含む抜本的防災対策を提言していくべきではないかということです。これは日本学術会議でも、地球・人間圏の分科会で提案していることですけれども、これまでもう嫌というほどいろんな自然災害の経験があり、それから防災科学技術のこれまでのさまざまな研究において、こんなところに住んではいけないよという研究成果はたくさんありますが、それが土地利用の提言とか政策などそういうものに結びついていかないわけです。危険なところにお金をつぎ込むよりも、もうそういう土地利用の制限を含めて提言するといったふうな方向を大胆に行っていくべきではないか、そういう研究成果を出していくべきではないかというのが3番目です。

 それからその他ということで、背景にあたるようなことになりますけれども、共通基盤的な観測施設、それから実験施設など、これらを長期にわたって安定的に運用していくということです。これは目立ちませんが、我々の独法ですとか国立大学法人、特に施設を運営していくお金が毎年減らされていって、先が思いやられるということがありますが、これについてぜひ知恵を絞って、これまで以上に安定的な運用が図られるように工夫をしていかなければいけないということが1番目です。

 それから2番目は、研究人材の確保という非常に重要な問題であります。キャリアパスの形成につながるようなイメージをつくること、さらにアウトリーチ等の活動を通じて、こういう分野に人が入れるような環境整備を一方で進めなければいけないということです。

 それから3番目は、防災分野における国際交流です。既に我が国は防災分野のことについては高く評価されていると思いますけれども、さらにこのプレゼンスを高めていくために、国内の研究者に国際感覚を植えつけるということです。それから海外から留学生を受け入れるということとあわせて、例えば前回の四川の地震のように、何か災害があったときには積極的に日本から打って出て、災害調査を現地の人と一緒にやるといったことを積極的に推進していくという2つのことを同時並行的に進めていくことが必要ではないかと思います。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございます。

 国際貢献というようなことは、先ほどの天野委員の発表にも出てきましたが、私が感じているのは、日本で防災関係の教育を受けてアジア諸国に帰った人が多くいる。ところが、だれがどのポストについて何をやっているかよくわからないので、そういう人材バンクもきちっと作らなければならないと思います。先ほどの国際ネットワーク等を作るときでも、それはベースになります。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 国際担当部局の方では、今まで組織的にネットワーク化を行っていませんでしたが、そのようなネットワーク化を実現した方が良いということを最近発言し始めています。

もう少し政府として政策的・外交的なツールの一つとして使い得るような取り組みを行った方が良いのではないかと考えているようです。具体的な取り組みは、まだ行っていませんが、こういった研究と組み合わせるのも一つの方法だと思います。

 

(岡田委員)

 他庁になりますけど、国交省の建築研究所の国際地震工学研修を終えた人が千数百人もいて、そのネットワークができています。同窓会みたいなのを作ったり、中には副大臣になったような人までいて、もう既にそういうネットワークはあります。ただ、省庁の壁を越えると、なかなかそれが利用できないというのは大変おかしいと思うので、それは国全体として管理すればよいと思います。

 

(濱田主査)

 それから、もう一点、防災に関する政策提言のことです。学協会でも、日本学術会議でも、提言というものをよく行います。一生懸命書いて、それが書き終わると、それでもう一件落着みたいになって、大体宙に浮いている提言が多くあります。政治を動かす官僚や政治家と研究者の間で、常日ごろから連携することがないので、「こんな提言が出されました」と言っても、それだけで終わってしまう。だから、提言が生かされて行く仕組みも考える必要があるのではないでしょうか。要するに、研究成果を実際の政策施策に結びつけるためには、常に学界・官界および産業界の連携関係を構築しておかなければならないと考えます。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 研究レベルとして出すのであれば可能であると思います。逆に他の省庁に持っていくとすると、そこの行政全体の動きとの関係が必ず出てきますので、調整しなければならない部分が出てくると思います。政策提言も一つの方法だと思いますが、ここの成果を他の省庁に使ってもらうにはどうすればよいのか、よく考える必要があると思っております。

 

(田中委員)

 私もそのバランスのとれたというのは、とても大事だと思っています。やはり分野によって、ハザードの研究すら危うくなってきているところがある。そういう面では、特に火山なんかは、1700年ぐらいからおとなしくて、ひとたび大きい噴火があると、これは広域地震と匹敵するか、あるいはそれを超えてしまう危険性すらありながら、研究への力の入れ方が非常に弱いということがあると思います。そういう意味から、地震研の藤井先生から、地震と書かずに、地震・火山と絶対言ってくるようにと言われて来ました。

 それを見ているときに、実は地震でも火山でもそうだと思うのですが、地震・火山というハザードで見ると同時に、地質と地球物理の闘いがある。その中で長期評価は活断層の評価をきちんと地質的にも行いましょうという話があると思いますし、火山研究も地球物理と地質の両方が必要であると思います。逆に言うと、地質は地質で、お互いに火山・地震協力できる部分があるというハザードと同時に、評価のアクティビティで共通できる課題は何なのかということを整理しておくことも必要なのではないかという気がいたしました。

 

(山岡科学官)

 基本的にこれは第4期科学技術基本計画ということなので、ちょっと前に第3期が始まるときに、国交省でいろんな議論をしたこともあった。要するに、皆さんは科学技術基本計画に自分たちの分野をどう押し込むかということで結構苦労するわけです。だから、日本国の科学技術の振興と、国力を高めるために科学技術基本計画に防災をどう埋め込んでもらうかということが最も重要なことであります。それがかなりうまくいけば、あとは何でもなると言ってはいけないですけれども、そこをどう持っていくかということが、ここの重要な論点であると思います。

 それで、今の岡田先生の話は、非常にその辺がうまく、理念的にも包括的にもまとまっていて、さっきの天野先生の話もそうですけど、基本的にはやっぱりBCPであると思います。だから、日本の産業とか国力を上げるためには、日本の国のことを知らなくて一体何ができるのだろうかという部分がまず中心になって、産業を発展させて、国力を高めるためにはどういうことを知らなければいけないかということが重要であります。それを知らないと何が起こるかといえば、活断層のど真ん中に原子力発電所をたくさん置くようなことも起きるわけです。それは何もわからなかった時代にやったわけですけれども、そういうものがやっぱりきちっとわかって、国土のことがわかって、そういう研究を推進していくことが、日本の科学技術振興には重要であるという理屈が立つのが多分いいのではないかと思います。

 

(濱田主査)

 第4期科学技術基本計画に防災に関し書き込んでもらうというのが、この委員会の検討の主要な目標であります。ここでの議論は、文科省としてこれからどういう防災関連の研究を進めるかということです。科学技術基本計画には防災に関してそんなに長い記述は期待出来ません。おそらく数行でしょう。だから、インパクトのあるものを選んで、発信するということになるのではないでしょうか。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 科学技術基本計画ですから科学技術全体のことが書かれます。その中で我々の関連する切り口から見ると、やはり社会、国家としての継続性、BCPみたいな切り口は重要ではないかと思います。将来的には基本計画を踏まえた上で、さらに防災に関する研究をどうするかという議論も行いますので、今回の議論の成果というのは、そのベースとなるものになろうかと思います。やがては文科省として防災科学技術をどのように推進するかという方策にも組み込んでいければと思ってございます。

 

(濱田主査)

 林先生、BCPという言葉は、適切な用語でしょうか。

 

(林委員)

 アメリカ人は嫌います。ビジネスという言葉をやっぱり嫌がるので、公式的にはContinuity of Operation、それぞれの組織がやるべきことをちゃんとやる。だけれど、日本語の事業継続というのはすごくいい言葉です。だけど、BCPとやるのは、BCMがないと、つまりマネジメントできた一つの成果がプランですから、BCPと呼んでしまって、そこだけに食らいつくような形をすると、ちょっと木を見て森を見ずというか。やはりどうしてもビジネスという言葉の持っている民的な響きがある。天野委員が言うのは全然問題ないんですけど、国がかむようなというか、すべての組織を包含しようとすると、Continuity of Operationというほうが自然である。コープと書くんですよね、COOPだから。で、コープを言うとどこかと間違えるからだろうけど、クープ、クープと言ってます。

 だけど、何だかわからないところも多い。だから、岡田先生は「頑強な国づくり」と書くし、天野さんも、最初のところで「国力の維持」と書いてあるのですね。

 だから、そういうくらいのイメージにCOOPというものをとらえておかないと、下手をすると、認証の話と誤解される危険性が出てくるんです。

 今、イギリスはこれでまたもうけようとしています。

そういうものと、じゃ日本はどうするのだみたいな議論をするとまずいと思う。あんまり言わないようにしているのですが。今、お二人のやつを聞くと、共通している。さっき渡邉室長が言ってくれたこととかかわるのが、防災と言っているときに、どこまでのハザードを入れるか。つまり、地震だけじゃだめだよというのはみんな共通していて、いろんなハザードを考えましょうと。だけど、そのときに、自然災害だけをハザードに考える必要は必ずしもない。Continuity of Operationで考えていけば、それこそ事故もあるし、テロみたいなこともあるし、新興感染症のようなものもある。そこをかたくなに、「うちは自然災害です」というふうに言うのが良いか。あるいは、日本の中でいわゆる危機事案みたいなものに対して、総合的にいろんなものを展開して、人も物も知見もそろっている分野はほかにそうないわけですよね。そのスケール感から言っても、国家規模のものまで扱っているという、今までの日本の防災の研究とかプラクティスの実態を踏まえると、ハザードをあえて、プロトタイプとしてという意味で広げて考えていってもおかしくはないような気もする。

 だから、それは研究の在り方とか、今後考えていく上で大きな、どこまでをスコープに入れるかは、いつかちゃんと議論しなければいけないことになるのじゃないかと思います。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 ここの委員会では自然災害がスコープになって入りますが、今回、科学技術基本計画という大きな議論をするので、そういう周辺もある程度考えながら検討すべきであると思います。逆に、防災だけの話を持っていっても、受け入れてもらえないと思いますので、大きな周辺も巻き込んだような議論をして意見を打ち出せば、より反映されやすい、もしくは、良いものを出せるのではないか思います。

 

(濱田主査)

 よろしいでしょうか。

 それでは、次は国崎さんにお願いいたします。

 

(国崎委員)

 本当に学術的なところからかけ離れて、直感的なところで書いてしまったところがあります。特に最後のあたり、今後の防災科学技術の重要課題であったり、その他というところは、もうほぼつぶやきに近いようなところもあって。ただ、この中で、突拍子もないように思われるかもしれませんが、危機管理庁の設置というのは、防災研究の推進の場であったりとか、それから、今お話のあった自動計測計画であったりというようなところの中枢機能をどこかでやっぱり設置したほうが良いんじゃないかなと日ごろから思っていたことで、このような書き方になりました。

 今日中心にお話ししたいのは、2番のところです。ここに関して、まず理念としてものが3つあります。国民生活に密着した分野における防災科学技術の振興、2つ目に「環境と防災」分野の研究の発展、3つ目に防災文化の創造と継承の重視です。

 国民生活に密着した分野における防災科学技術の振興に関しましては、まず情報システムという切り口からお伝えしますと、私たちは現在高度情報社会環境という文明的環境の中で生活しております。その中で、災害時においてもまず多くの情報を必要としています。その環境に適応する災害発生前とか発災後の情報システム技術の発展と整備が、今やはり極めて重要であり、必要とされていると感じております。防災技術とこの情報システム技術がともに発展してこそ、減災に資すると思います。今、J-ALERTの整備が進んでいません。北朝鮮のミサイルのときにもあまり活躍できなかったというところもあるのでしょう。そういった現状であったりとか、現在検討していたり、実証していたりというところのシステムは、CBSを利用した災害情報、ワンセグ、地上デジタル放送、放送と通信の連携による災害情報の提供、アドホックネットワークシステム、安否確認システムなどであり、挙げられてはいても、いまだ実証実験段階であり社会実装になっていないシステムもたくさんあるわけですね。こういう部分は、早急に技術の進展が望まれますし、システムの整備が望まれるというふうに思っております。

 深刻な高齢・少子化社会において、健康の維持・増進や医療・福祉に関する課題は大変多くて、国民の関心が非常に高いです。科学技術は、本来国民が健康で安心して生活することに貢献するものであるべきという考えから、やはり防災科学技術においても、健康・医療・福祉関連、環境負荷の低減など、国民生活に密着した分野とのつながりを意識して、防災・減災対策に資する技術の研究開発の成果を速やかに地域社会に活用し、国民が速やかで安心して快適な生活を送ることができる、そういった社会の実現を目指していくべきだと思っております。

 あとは、防災・減災と叫べども、住宅や公的施設、ビルなどの構造物の耐震が十分に進んでいない現状を鑑みまして、やはり新たな手法や技術によって、低コストで効果的な対策を提供することが肝要であると思っております。その実現のためには、経済の活性化や国民の防災の質的向上を目指して、産業界においてもこの研究成果があまねく利活用される基盤づくりというものがやはり必要であると思っております。そういった基盤づくりのために、防災科学技術の成果を速やかに円滑に、社会が利活用するプロセスについても研究する必要があると思っております。どのように社会に導入されていくのかというところの部分について、このことが必要ではないかと思います。

 これについて具体的な例を申し上げますと、緊急地震速報が国民に提供されるようになって、それを見越して多くの民間企業が、企業も含めて一般ユーザーにそのサービスを提供できるように、端末機であったりとか、それをつなげるための通信システムを構築したりということで、大変参入したのですが、今現在、それを継続している企業がどれだけあるのか。しかも、品質は高品質を保ちながら維持している会社がどれほどあるのかというと、この数年の間に倒産したりとか、撤退したりという会社が多いのですね。彼らの中には、やはり開発費をかけてつくりました、つくった後にガイドラインができて、警報音はこうするべきとか、このように通信はこのラインを維持してくださいとかと、後から言われるものですから、またそこに開発費を出さなくてはいけないとかというような問題もあります。品質の問題も、基準がなかったものですから、本当に端末機を置いても情報が流れるのか、品質を確保できない面もありました。そこら辺で、社会がやはり混乱した面というのもあると思います。

 企業の中には、やっぱり防災に手を出すとリスクが高いというような教訓となってしまっているところもあります。せっかくの緊急地震速報の成果というものが、今一体何人の国民が、どのくらいの企業が、それを享受して、あってよかったと感じているのか。そういった意味では、ほんとうに課題が多くて、実際にはガイドラインの整備もそうですが、国が主体的にどこまで社会実装までに介入していく必要があるのかを十分に精査してから、ではご利用してくださいというように企業に渡していかないと。そうでないと、ビジネスとしては防災はリスクが大きいということが定着し、民間が持っている手法が防災に生かされない。だから国民もなかなかその情報を得ることができないというような悪循環になっているような気がします。そういった意味から、円滑に社会に導入されるための、利活用されるためのシナリオ、プロセスというものを研究するところがやはり必要ではないかと思っております。

 「環境と防災」分野の研究の発展については、現在、社会的、経済的豊かさを目指す人類は、その負の影響として、環境悪化というものを引き起こしております。その結果として、洪水、土砂災害、火災等の多くの自然災害があるわけなのですが、地球上の多くの生態系は、これにより本当に大きなダメージを受けています。安易に回復できないほどのダメージを受けているのですが、自然環境の適切な管理と災害抑制の関係の重要性について、いま一度やはり私たちが認識するような研究や運用というものが求められているような気がします。自然環境や環境管理の重要性に関する理解であったり、リスクマネジメントであったり、地域社会の備えとしてどうあるべきかという研究が、災害発生時の被害の軽減に大きく貢献するのではないかと思います。国土の荒廃、それが災害多発にもなり、復興とともに環境管理が必要になってくるところで、おそらく一連の流れというのがやはり防災につながっていると思います。そういう意味で、管理が必要であると思っております。

 ということから、包括的な環境管理というものが求められていて、さまざまな災害から、人命、生態系、環境へ及ぼす負の影響を軽減するために、今後の防災と環境に対する取り組みについて考えていく必要があると思います。プラス、やはり阪神淡路大震災以降、自然災害が起きた後に環境が悪化するということがあるわけですね。もちろん、ごみが増えるというのもあります。瓦れき。それから、ごみを処理するために野焼きをしたりということでダイオキシンが発生したり、そもそも壊れることによってアスベストが飛散してなんていうところもありました。通常の建物破壊の場合には、ちゃんとブルーシートで囲って、アスベストが飛散しないように水をまいたりとかやるのですが、水はないは、建物はたくさんあるはという中で、急いで復興していこうという中で、もうほんとうにアスベストがあちらこちらに飛散した。それで、今もなおぜんそくで苦しんでいる被災者の方もいます。そういったいろんな健康被害であったりとか、環境問題という問題がありますから、自然災害と環境問題というものも、やっぱりあわせて考えていかなくてはならないと思います。

 あとは、急速な都市化による農地の減少。それから、スマトラ島でも思ったのですけれども、環境に関係するのかなと思うのですが、林による防災効果というのもやっぱりあると思うんですね。今、緑々と叫ばれていますけれども、防潮林があれば津波の被害も軽減されるのではないか。では、その防潮林の幅をどこまで持っていくのか、それから密度はどうするのかなどという津波の変化などの研究もあるといいのではないかなと思います。

 最近頻発して起きている集中豪雨とか、ゲリラ豪雨とか、こういった気象変動、地球温暖化がもたらす被害が深刻化しております。今後さらに災害が去来していく懸念がある中で、災害が進化していくというふうに表現させていただきましたが、そういった進化していくプロセスの究明であったり、対策について調査・研究・開発が求められると、それが被害軽減に資するのではないかと思います。

 最後に、防災文化の次世代への継承ということで、国民生活において防災文化の定着と次世代への継承の問題の強化というのはやっぱり欠かせないと、私はこれまでの活動でも思っております。個人の財産、地域の財産、国の財産を守るためには、まずは国民の意識に防災意識を根づかせていく。そのための防災教育であったり、文化を構築していくというところの取り組みが求められると思っております。地域においては、地域特性や過去の災害史を踏まえた重要文化財を守るための対策があり、海外においても、たくさんの世界遺産があります。人類共通の財産として、それらを災害から守るための技術、それから防災教育を、日本がリーダーシップを持って推進していけたら良いいのではないかと思っております。次世代への継承には、やはりすぐれた人材の育成が欠かせませんので、多様な交流、連携を通じて、持続的・連鎖的に技術革新を生み出す環境を創出して、知的創造拠点の形成を目指していくことが必要ではないかと思っております。

 以上です。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 私自身も、緊急地震情報システムについては、現在はかなりの疑問を持っています。十分な効果の実証がなされないでスタートして、後で修正して行くというような説明をしていますよね。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 緊急地震速報は、現在気象庁でさらに高度化を図っています。

 防災科学技術研究所の研究成果なども取り入れてもらいながら高度化を進めています。実用化という意味では、防災分野の研究開発の目覚ましい成果の一つだと思っています。一方で、実用化のまでの進め方には、不慣れな点もあるのかもしれないなとご指摘の中で思いました。

 

(天野委員)

 流れとしては一緒だと思うのですが、民間会社の研究開発というのは、まず、基盤研究として、基盤的な、シーズを発生するような技術開発をやり、それとは別にプロジェクトのニーズに対応するような実用化研究というのをやります。これは、基盤研究は技術研究所だけでやるのですが、実用化研究というのは、全社的な体制でやります。設計の人間、工務の人間、もちろん研究の人間に加えて、お金とか実際の現象がわかる現場がわかる人間も入ってやります。その実用化研究というのは、最後の段階で、もちろんプロジェクトに適用するのですが、でき上がった成果を最初に適用した段階では、絶対悪さが出ます。なので、その悪さをまた取り込んで、それを良くするというのを仕上げの段階でやります。

 緊急地震速報については、基盤研究から実用化研究までいった初めての事例じゃないかなと思ったんです。プロジェクトに適用して、悪さを戻すという段階が次に必要だと思います。そういうシステムが今はないのではないか。多分、一度適用すると、今さら悪いと言えなくなってしまう。そういうことがあると、その成果は完成しなくなってしまう。別にけちをつけているのではなくて、本当に良いものにするためには、現状では、どういう悪さが出ているのかということを把握するのが大切だと思います。ただ、この現状の悪さを改善するということは永遠に行う必要はなく、現実的なところで妥協することも大切です。研究者は、自分のやっているものをより良いものにしたがる。だけど、あまりに良いものにすると、コストが高くなって、無駄なものになることが多い。ですので、実用化研究というのは、現実に何が起こっているか、というのを見るのが大切だと思います。その現状が、先ほどの国崎委員の発言のようになっているんだと思いました。そういう実情を把握されるということがとても重要なことだと思います。

 

(岡田委員)

 実際に役に立たなかったので売れなくなっているんですか。それとも、そもそも役に立つような大きな地震ってめったに起きないから、それで利益を回収する前にだんだん会社がもたなくなっているのか、どっちなんですか。

 

(国崎委員)

 開発に要した研究費というか、開発費がありますよね。それに見合うほど売れないというのがまず一つです。それから、在庫を抱えて、端末機を売ろうと思っても、もうこの端末では使えませんよというようなガイドラインができちゃったりするのです。この警報音つくったのに、この警報音じゃなくて、NHKさんの警報音を取り入れてくださいよというと、 そこでまた新たなコストがかかる。しかも、在庫が売れなくなるとか、いろんな難しさがでてくる。

 あと、通信の問題もあって、気象庁から発した情報が一般ユーザーの端末機に行くまでに、ちゃんと横の連携がとれていなくて、気象庁から出された情報を、通信は総務省、端末機はだれも管轄していない。横の連携がとれていないので、品質が一定でない。ちゃんと受信できる端末機もありますが、受信できなかったり端末機でも平気で売られています。そういうところの部分で難しさがあるというのはあります。企業としてもちょっとリスクが大きいという。

 あと、幾ら高精度化とか、津波は今度やりますよと言っても、同じ道をたどってしまう。高精度化は良いんですけど、それをまた端末機に生かすためには、またバージョンアップとかに開発費がかかるわけです。

 

(岡田委員)

 思想はいいんだけど、実用化の段階で、いわゆる死の谷というところにトラップされてしまうということですね。

 

(重川委員)

 今のお話にもかかわるのですが、今、総務省で公共無線システム高度化委員会というのがあります。テレビのVHSがデジタルになるので、周波数帯があくのを公共無線に使うことを協議しています。メンバーの方は、通信の専門家ばかりで、私ひとりぽつんと全然部外者です。この前、初めて会合があったんですが、先生たちはすごく盛り上がっていて、通信業界ではもう一丁目一番地のビッグプロジェクトであり、無線にこのVHSの周波数帯を使えるなんてすごいとかって盛り上がっているのです。これはやはり公共無線だから防災に使おうという話になっていて、もう既にポンチ絵なんかができています。それを拝見すると、災害現場にカメラを持っていって、撮って、その周波数帯に乗せて、それを、自治体や指定公共機関が使う。ということは、結局、今テレビで見ているものと何も変わらない。すごくそういう技術的にビッグプロジェクトとなり得るようなものに対して、いわゆる防災研究とか防災の実務にかかわっている人たちの貢献というか、かかわりが全然ない。というか、そういう機会がなくて、せっかくのチャンス、これも防災の実社会の実装ということで言えば、一丁目一番地的なチャンスであるにもかかわらず、ほとんどの人が知らなくて、でき上がっちゃったらそんなものだというふうになりかねないです。

 ですから、色々な省庁で、色々な分野で色々なプロジェクトをやっているんだけれども、すごく縦割り過ぎる。色々な人がもっともっとアンテナを張りめぐらす努力をしていないと、それぞれの分野で良いと思ってやっていることが、いつまでたっても社会の貢献には結びついていかない。チャンスがあるのに生かせていないということをすごく感じました。

 

(濱田主査)

 ほかにいかがでしょうか。

 よろしければ、次に移りたいと思います。次は佐土原先生、お願いします。

 

(佐土原委員)

 私のほうでは、かなりポイントを絞ってまとめております。今、国崎委員のほうから環境と防災を関連づけて取り組むことの重要性の話がありましたけれども、そこのところにポイントを絞っております。

 まず、科学技術の推進に当たっての理念ということですけれども、複合性とか多面性を有する科学技術の推進ということで、これまでの科学技術がいろいろ専門分化して、それぞれが進化して、なかなか横の結びつきが難しい状況にあるという状況です。けれども、現在の直面している問題というのは、非常に大きく社会が変わっていくということで、人口減少とか少子・高齢社会、あるいは安定成長ということで、できるだけコストパフォーマンスが良い科学技術、  多面的な利用可能性があるというものを開発していくということが求められていると考えております。

 それから、非常に複雑なこういった環境状況ということで、多岐にわたる問題、課題があるので、多分野の連携、問題解決型でのアプローチが必要であり、多面性というようなことにつながると考えております。一方で、ICT技術で大量の情報が処理できるという状況になってきまして、かなり努力すれば色々な分野の連携を支援するという技術も、それに特化していけば非常に出てくるのではないか。ということで、それぞれの分野で行っているものの周辺がある程度俯瞰的に見えてきて、自分たちの役割が明確になるような基盤をきちっと提供する。そういったそれぞれの科学技術が横に連携していけるような環境づくりというのが必要だと考えます。こういうことで、繰り返しになりますけど、複合的・多面的な有用性を発揮する科学技術の重要性というのが、これからの一つのポイントとして考えていくべきではないかと思います。

 こういう点に立った場合に、一つ非常に重要なこれからの推進の方向性としては、防災と環境というものを融合した科学技術の推進があります。地球環境の問題の深刻化ということと、色々な災害現象が起こっているということの関連性というのは、実は非常に密接にある。あるいは、環境問題とか災害現象というふうにこれまで分けてとらえてきたものですが、これは実際には人間の生存をおびやかすリスクとして統合的にとらえることができるのではないか。このリスクのあらわれ方が、非常に短期間に急激に顕在化するものと、長期にわたってゆっくり起こるものというあらわれ方の違いであるとか。あるいは、そもそも環境問題というのは人間起因でとらえていますが、人間起因の災害もあります。そういった発生の元のメカニズムのようなところのとらえ方というのが災害と環境で違ったりするという面もありますが、これらを、やはりこれから生存をおびやかすリスクとして統合的にとらえていくということが重要ではないかと思います。

 人口減少や高齢社会、あるいは都市集中というのが、これから国際社会の中で進んでいく中、コンパクト化が進んでいく中山間地の過疎化が同時進行する。こういうことで、かなり放棄地とか放棄林、自然環境の荒廃というのが進んでいく。こういうことを念頭に置いて、どういう技術を開発していくかということを一体的に考えていく。ということで、防災科学技術の一つの方向性としては、国土管理のために防災対策と低炭素社会、生物多様性保全などの地球環境の取り組みを融合する科学技術、技術開発が挙げられると思います。

 では、具体的にこれをするためにどうしたら良いか、そのための重要課題は、防災と環境を融合した技術の開発や評価を支援するデジタル情報基盤をきちっと構築するということだと思います。これまで個々の技術の集合体としていろいろ開発されているものを、具体的な施策展開での重要性が高く防災と関連が深い環境分野というものに体系的に整理する必要があると思います。これらを概念的に整理した上で、具体的なフィールドに当てはめ、定量的に把握していくためには、精度の高い、種々の検討をしていくためのデジタルな情報基盤が有用だと思います。今日、デジタルデータの国土基盤、時空間情報の整備というのは進んでいますので、そういった環境をうまく生かして、具体的な対象エリアに関して、地面の下から水の流れ、あるいは空気の流れ、そこの上にすむ生物や人間活動という5圏を統合して、デジタルの防災と環境の情報基盤というのをつくり上げる。それを防災面から見る、あるいは環境面から見るという多面的な評価や技術の開発に生かしていく支援ツールとしていく。防災・環境というのは、人間側のとらえ方の問題で分けられてきている面もあります。そこで、こういった5つの圏の種々の特性がある実態について、情報の基盤をきちっとつくり上げながら、それを防災に適用する、環境に適用する、あるいは、そのほかの技術に適用するという、ちょっとアプローチを変える。実態から逆に適用先に反映していくようなアプローチで技術開発をしていくということが重要なのではないか。情報技術を使って、そういう基盤をつくっていくということが重要課題として挙げられると思います。

 以上です。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 佐土原先生のご報告に関しまして、ご質問、コメント等ありましたら、お願いいたします。

 

(山岡科学官)

 昔、静岡大学の小山先生に指摘されたのと同じような話なのですけれども、要するに、タイムスケールが短いと我々は災害と言って、長いと環境問題と言ったりする。だから、人間が対応できる時間、タイムスケールよりも速く自然現象が動くと、それはいろいろな問題になるというようなイメージと僕は理解しています。例えば、地震・火山だと、1日、1週間、1月、風水害も同じぐらいで、環境問題になると、10年、100年という問題になる。ただ、問題は、そこにタイムスケールのギャップがあるようにも思います。そこが連続すると、もうちょっとこの辺がうまく説得力が出るかなと思うんですが、そんな感じはしませんでしょうか。

 確かにそのとおりなのだけれども、うちの大学の研究科も防災と環境に分かれていて、メーンスケールが10年、100年ぐらいと、ちょっとギャップがあるのかなと思っています。そこがうまく埋まると、これは連続できるし、そうすると、環境の一部と防災を、一緒にすることはメリットがあると思うんですけどね。

 

(佐土原委員)

 実際、分野が分かれて発展してきたというのは、その辺のとらえ方の違いとか、緊急にやらなければいけない、そういう短い時間でやることと、少し長期的に取り組むとか、そういったことのアプローチの違いとかというのはあると思います。ただ、その現象を生じさせている対象というのは一体化されているわけです。ですから、そこに立ち戻ったところで、何かいろんなヒントが出てくるのではないかととらえ、研究をやっていくということが、一つは重要ではないかと考えています。

 

(岡田委員)

 今のタイムスケールの問題なのですけど、確かに災害が起こるのは瞬間的かもしれません。けれども、防災と環境は決して仲の良い世界ではない。例えば、水害が起こるということを理由にしてダムをつくります。それは何十年に一度のことを視野に置いてつくるわけでしょう。で、ダムをつくったことによって周辺の環境が随分悪化しているということで問題になる。国交省がああいうものをつくるときには、いつも防災を錦の御旗に立てていくんです。けれども、我々、防災の側からは、ああいうときに対する反論なりコメントなりが出ないのはいつも歯がゆいなと思っています。本当にそのダムが必要かとか何か、まさしく環境と絡む問題です。提言にそういう分野のことも我々は発言してよいのじゃないかなといつも思います。

 

(濱田主査)

 環境に関する研究開発と防災分野の研究開発の融合の必要性ということが言われているわけですけど、森林の荒廃と風水害の多発などは密接に関係しています。例えば、日本の森林の状況に関するデータも、十分じゃないのでしょう。

 そういう意味で、最後に「地域防災環境情報システム」というのは、まず現状がどうなっているかということを把握するという趣旨ですよね。

 

(林委員)

 よろしいですか。環境と防災をどう連携させるかって大変重要なことですが、どちらかというとハザードサイドの話だと思うんです。ハザードサイドでやると、僕は絶対的に防災の人は負けると思っている。数からいっても。

 もう一つやっぱり考えておかなければいけないのは、環境でも、基本的にはハザードの研究者が主である。彼らが言うのは、最終的には低炭素社会に代表されるように、CO2を減らしましょうと。英語で言うとmitigationしましょうということになるのです。防災ではもう一歩進んでいて、そういう環境変化が起こっているなら、それに合わせて人間社会を適応させましょうという、adaptationということをもっと強く考えなければいけない。

 山岡委員がタイムスケールという話をしたけど、例えば、今、日本は雪が降る量が増えたり減ったり、ちょっと時間がずれるだけで商売あがったりになる人がいっぱい出てくるわけです。防災がスコープしているのは、どっちかと言ったら、そういう部分の社会の安定性なのではないか。それは、100年かけて2度上がってくれるぐらいだったら、平坦にいくなら何とでもできるかもしれないけど、そのトレンドの変化の中に、ものすごく大きな分散が発生するわけでしょう。それが干ばつになってみたり、豪雨になってみたり。あるいはタイミングがずれて、もうかるべきときに仕事ができないみたいなことも起こるというところを、環境の人たちはカバーしないので、そこをこちらがとる。そういう意味で言うと、国崎委員が言った、国民生活の中では何を指すかになる。例えば、人の生活とか、さっきのCOOPみたいなものを中心に据えた中の環境インパクトみたいなものをやっぱり考える。ハザードについて、確かにGISを使って統合的に可視化することはすごく良い技術だと思うんですけど、それは本来は環境の人たちがやっぱり一生懸命やるべき。あるいは、彼らが持っているスケールよりももっと細かくしていったときに、大縮尺にして、人間の生きざまが見えてくるところまで解像度を上げたときに、初めて防災屋さんというか、社会の安心・安全を守る側の領域になってくるのじゃないか。だから、GISを同じ使うのでも、極めて解像度を上げましょうとか、それが引き起こす環境変化によって、自分たちはどう新しい適応を迫られるかを考えるんだみたいなところを売りにしていく必要があるんじゃないかと思います。

 

(中尾委員)

 今、環境のほうも結構そこまで来ていて、つまり、環境側も人の顔が見えるところまでおりてきているので、結構そこの仕切りというのは難しいような気がしますね。

 

(林委員)

 でも、このままやっていると、また全部とられちゃうみたいなことになるので、これは科学技術だとか書き込むのも含めて、こちらは環境を無視しているわけではなくてという、どういうスタンスかを明示したほうがいい。

 

(濱田主査)

 最近、adaptationという言葉が多用されているわけですが、人によって解釈が違っているのじゃないかという気もします。今までやってきた我々のハード対策、ソフト対策およびその複合による対策と何が違うのかということがそれぞれ人によって異なっているようにも見えます。

 では、午前中最後のご報告を清水先生、お願いします。

 

(清水委員)

 資料に沿って最初に理念ついてですが、理念はどういうことを書いたら良いのかよくわからなかったんです。一応参考資料等読ませていただきまして、安心・安全というキーワードというのは非常に重要で、それが5年や10年でそう簡単に変わるものとも思えませんでした。私、ここに「安心・安全が実感できる社会の実現。~すべての地域・国民が活用できる防災科学技術の推進~」と書きましたが、これは安心・安全はもちろん重要なのですが、それが応用、活用されないと意味がない。これはもう当たり前の話です。

 ただ、実際の私の身の回りの人間、あるいは、地域の防災の担当者等に、最近数年間で防災に関係して防災科学技術でどんな進展があったかとか、どういうことが役に立つかというような話を先日したんですが、ほとんどわからないというんですね。地域の防災担当者であっても、せいぜい知っているのは緊急地震速報。政府の地震調査委員会から出されている地震動の強震動の予測地図とかは知っておりました。そういったものは比較的わかりやすくて、それで利用もしやすい形で提供されているわけですが、それ以外には、なかなか具体的な成果が見えにくい。

 今後、それがわかりやすい形で提供される。あるいは、先ほど来から色々な委員の方からも意見が出ていた、色々の社会構造の変化、都市、地域の色々の問題に対して、それぞれの地域に対応した形での情報提供なり防災科学技術の提供というものがない。実際に住んでいる人たち、あるいは防災の担当者が、いわゆる成果を実感できない。ということで、今後はわかりやすく活用できるという方向性を持った防災科学技術の推進というものが重要ではないかということを書かせていただきました。

 それから、2番目以降の中長期的視点に立った防災科学技術の方向性とか、そのあとの重要課題につきましては、実は今日の岡田委員のご意見に私の言いたいことはほとんど全部含まれております。ただ、岡田委員は非常に大所高所から書かれておりましたが、私はそういう広い範囲での学識がないので、自分の専門である火山ということに限定し、少し狭い視点から、具体的に書かせていただいております。

 2番目の中長期的視点に立った今後の方向性ですが、これは理念でも申し上げましたが、より実効性のある防災科学技術の推進ということになると、当たり前のことなんですが、分野の共同、融合による一体化したプロジェクトの推進を、今後、今まで以上に重点的に行っていくべきであろうと思っております。今までももちろん連携はされているわけですが、どうしても最初に理学の研究、自然災害、自然現象を理解するということがあって、それに基づいて技術が開発されて、それを社会にいかに適用するかというような、そういう流れなんですね。だから、連携も、どちらかというと、そういう一方向の流れが主であったろうと思うんです。今後は、例えば、ニーズに基づいて、最初から分野共同によるプロジェクトを実施する。プロジェクトによっては長期もあるし、中期もあるし、短期もあるかもしれませんが、そういうプロジェクトを立ち上げて、推進するというようなことが今後必要であろうと思っております。一つ肝要なことは、そういうプロジェクトを立ち上げるにあたっては、人材の育成というものも視野に入れる必要があるだろうと思っております。

 それから、融合してやるということはもちろん重要なんですが、そうは言っても、それを支える一番基礎になるのは、防災分野の基礎的な研究、例えば、災害予測科学の研究なんです。これの着実な進展なくして、防災はないと思っております。ですから、現状は理学偏重ではないと思っているんです。ここには、火山に特化して書いていますが、例えば、火山の噴火予知研究は災害予測科学研究の一つでありますが、長期にわたっての観測に立脚して行うべき研究といったものが大学の法人化以降、弱体化しております。ですから、理学的な研究も万全ではなくて、非常に今弱体化していると危機感を持っております。測地学分科会の火山部会でもそういう危機感を持っており、今検討しております。その検討結果等が公表されておりますが、今後、やはり国として、そういう基盤的な観測研究というのをどうやって維持していくのか。これは短期的、中期的なプロジェクトではなくて、ほんとうに長期的に国として責任を持って支えていくということを真剣に考える必要があるだろうと思っております。

 それから、そういうふうにいわゆる融合的に分野横断でやるのと、基礎的な部分というのは、これは車の両輪で、これらを両方バランスをとって推進することが一番肝要だと思います。その推進に際しては、A)低頻度ではあるけれども国家存亡の危機につながるような大規模災害の研究、それから、B)地球規模の課題への取り組みといったものを取り入れて積極的に取り組む必要があると思っております。

 3番目に、今後の重要課題ですが、これについても私の専門分野である火山に限定して書いています。火山についても、やはり先ほど理念等で上げたように、役に立つ、それから皆さんに利用されやすい、そういうアウトプットが必要です。一例は、全国の活動的な火山における噴火シナリオの作成。これは、実は今年から始まっている噴火予知計画。地震と噴火予知は今年度から一緒になりましたが、その予知計画の中でも一つの課題として取り上げております。今、特定の火山における噴火シナリオのプロトタイプを作成する研究に着手しておりますが、これをもっと組織的に行い、全国の主要活火山全部について長期的、計画的に噴火シナリオを作成していくべきと思います。これはもうちょっと大きな体制での取り組みがどうしても必要になると思っております。言ってみれば、地震調査研究での活断層の長期評価みたいなものです。例えば、現在、地震については主要98活断層について長期評価をしておりますが、それと同じように、それぞれの活動的な火山について、今後噴火活動があった場合にどういうような活動になるのかということをあらかじめきちっと整理をしておく。これが、いざ噴火が始まりそう、あるいは始まったときに、非常に参考になるだろうと思っております。

 それから、2番目、噴火シナリオに基づくハザードマップの作成と書きましたが、これもある意味当たり前と言えば当たり前です。地震調査研究では強震動予測地図のようなものに該当するのではないかと思います。より定量的な予測を行うために、シミュレーション等を実施して、それぞれの火山についてハザードマップ、想定される災害といったものを整理し公表する。それを利用しやすい形で、ハザードマップという形で公表するということが今必要なのではないかと思っております。現在でも定量的な予測は、火山については難しい。しかし、定量的なシミュレーション等も徐々にできるようになっておりまして、先ほどの岡田委員のおられる防災科学技術研究所でも、今取り組みが始まっていると伺っております。こういうものをさらに積極的に行って、ハザードマップの作成を目指すべきではないだろうかと思います。

 それから、3番目ですが、これもちょっと変なタイトルになっていますが、火山のホームドクターに代わる火山防災対応システムの研究。これは何のことだと言われるかもしれません。実は今まで、最近の大きな噴火、雲仙とか有珠山とか、起こった場合に、実際にその火山に対する地域での防災対応といったものが、噴火予知連絡会という組織はございますが、組織としてよりも、そこの地域にいる個人の研究者に負う部分が非常に多かったということです。ただ、最近の大学の置かれた状況等では、大学にホームドクターを期待することは非常に難しくなっており、そういったものに頼らない火山防災システムを考える必要があります。そこで、ホームドクターはいなくても、実際に危機管理なり防災対応が有効に機能するためのシステムの構築に関する研究を行う。これは、当然、理学だけではできませんので、人文科学、社会科学も含めてプロジェクトを立ち上げて、今後取り組んでいく必要があるだろうと思っています。

 4番目の大規模カルデラ噴火、これは破局噴火の研究ですが、これは「低頻度ではあるが国家存亡の危機につながるような大規模災害」の一例として取り上げてございます。先ほど来、委員の方の発言にもありましたが、大規模な噴火というのは、近年はないんです。カルデラを形成するような大きな噴火というのは、大体過去10万年に10回ぐらい起きていまして、平均すると1万年に1回。一番最近は、約7300年前の鬼界カルデラを形成する噴火。これはもう東北、北海道のほうまで灰が降っております。2万年以上ぐらい前にさかのぼると、いわゆるシラスを堆積させた姶良カルデラを形成するような大規模噴火がある。こういう破局噴火が一たび起きると、これはもちろん国家存亡の危機にもなるわけです。これは、日本だけではなくて、全世界に影響し、しかも長年にわたって気候にも影響を与えるということで、いわゆる環境問題にもなります。こういう非常に頻度は低いが大規模な噴火災害に対して、国として分野横断で取り組むべきだと思います。過去の事例を整理し、どういうことが起こり得るのか、どういう災害になるのか、どういうふうに国として対応していくべきなのかということを、そろそろ検討しておく必要があるのではないかと考えております。

 その他は省略しますが、推進体制をきちんと整備してほしいということです。

 以上です。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 清水先生のご報告に関しまして、何かご質問、コメントがあれば。

 

(山岡科学官)

 巨大噴火、破局噴火というのは、いろんな現象の死者数を見ると、それを凌駕するのは、もうほとんど隕石の衝突ぐらいしかない。隕石衝突はとりあえず置いておくとして、巨大噴火がもし九州で起きると、死者1000万人。その次ぐらいが多分インフルエンザで、日本で100万人かちょっと少ないぐらい。その次は地震で、せいぜい10万人ぐらい。だけれども、巨大噴火は1万年に1回ぐらいである。そういう性質を持っている。

 これが、もし起こったときに何をしようかと思うと、起こったら逃げるしかないわけですね、結局。逃げて、起こった後に、結局、都市も全部壊滅して、すべてシラス台地の下になってしまう。そのためにはどういう研究が必要かと考えると、今後100年間ぐらいのうちに起きるか起きないかというレベルにまで予測精度を高めるというか、そういうぐらいの予測ができるような研究を進める必要がある。

 ただ、これはなぜ今かというような理屈がどこかで必要になるかと思います。だから、こういうのってめったに起こらないからまあいいやと思って、何となく目の前から消し去っているのが現状なんだけれども、やっぱりどこかでやらないといけなくなるのかなと思うんです。

ある意味で、1週間後に起きることが予知できてもしょうがない問題であり、長期的な予測ができるようなレベルまで。

 

(清水委員)

 もちろん、破局噴火は周期性があるわけではないですが、ただ、最後の破局噴火からもう7000年以上たっているわけです。これは日本国内だけで見て、平均で1万年に1回ぐらいの頻度でやっているわけです。全世界で言えば、もっと頻繁にあるわけです。だから、この問題は、日本としては取り組む必要があるのではないかと私は思っています。かなり時間がかかる作業だとは思いますが、そういうものに取り組み始める必要はあるのかと思います。

ちょっと楽観的かもしれませんけど、破局噴火というのは、三宅島のような小規模なカルデラではなくて、ほんとうに阿蘇のカルデラを形成するような大噴火ですので、これはちゃんと観測すればかなり事前に兆候はあると思います。ただ、どのくらいの規模にまでなるかということは、なかなか現時点では難しい。しかし相当な兆候は出る。だから、寝耳に水は絶対ないというふうに私は思います。

 

(濱田主査)

 ほかにいかがでしょうか。

 お話の中に、分野共同による一体的な研究プロジェクトの推進というご説明があったかと思います。分野横断的な研究がうまく行われている場合とそうではない場合があると思います。例えば、社会学とか理工学とか共同で行っているプロジェクトなどをレビューしてみる必要があります。分野横断的研究がうまく行っていない場合は、その原因を分析する必要があります。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 首都直下地震防災・減災特別プロジェクトを実施しています。

それぞれの分野ごとの成果は出せるものとして進めていますが、各分野が連携した上でのまとまった総合的な成果が出せるように事務局の方でも努力しています。

 

(濱田主査)

 学際的研究の必要性はしばしば指摘されている所ですが、実際には難しい場合が多い。土木学会と建築学会は分野が近いのですがなかなか共同研究というのが進まないのが実体です。

 環境とか防災分野は、本来学際的に取り組む必要があります。今までの事例があれば、何がまずかったのか、そういうものをよく調べてやっていかなければいけないと思います。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 実は首都直下地震防災・減災特別プロジェクトの先行プロジェクトでは、研究の成果がばらばらだったという反省があります。今回は各プロジェクト内のリーダーの先生方にお集まりいただき、連絡会を開催しながら進めているところです。

 

(濱田主査)

 ほかにいかがでしょうか。今日、午前中、5人の先生方からご報告いただきましたけれども、全体を通して、同じような課題が出てきたのではないかと思います。どの委員の先生方の御報告に関してでもご意見をいただければと思います。

 

(岡田委員)

 最初の天野先生のときに聞けばよかったんですけど、災害データベースの統合化というのは、よく聞く言葉なんですが、ここでおっしゃる災害データベースというのは、過去の災害データを集めた、そういうアーカイブしたものではなくて、今災害が起こったときに、その情報をどう集めて、どうマネジメントするかという、マネジメントシステムみたいなものですよね。

 

(天野委員)

 そうです。

 統合化の手法と書かせていただいたのは、きちんとマネジメントに反映されることをイメージして、データベースというか、プラットフォームみたいなものを作るときに、例えば、数字のフォーマットと言ったらいいんでしょうか、そういうレベルに関しても、実際に使える範囲でどういうふうに並べるかというようなことも、全部盛り込んだものです。この災害情報プラットフォームができ上がると、ある意味、マネジメントシステムのひな形ができ上がるはずです。逆に言うと、マネジメントシステムがないと、きちんとした災害情報プラットフォームはできない。まず、その前にあるのは、災害シナリオだと思います。災害シナリオがあって、それは具体的にどういうことをやったらいいかというのがあって、やっぱり最後にはプラットフォームに集約されると思います。やはり、災害時の対応を考えた場合、一番大切なのはマネジメントに直結した災害情報プラットフォームだと思います。

 

(岡田委員)

 ご存じのとおり、私どもの研究所でプラットフォームの名前のついたプロジェクトが今始まっているんですけど、ご期待に添えるものなのかどうか、いまだによく見えない。それから、これ以前にも、いろんな省庁でプラットフォームという言葉のついたプロジェクトはたくさんあるんです。本当に1番線から何番線までたくさんプラットフォームがある。うちみたいな小さな研究所ですら、そういうプラットフォームのプロジェクトとはまた別に、EDMのグループがラーミスコンセプトを使って日常から非日常へスムーズにするというふうな時空間GISのシステムを提案しています。これも、私、非常にすばらしいと思っているのですが、この2つのグループですらなかなか融合できない。担当者にどうしてなのだと聞くと、研究者が色々なシステムを提案し、最後はユーザーが選ぶんだと。勝ち残った者が残るんで、それで良いじゃないかという感じなんです。それでいいんでしょうか。

 

(天野委員)

 いや、だめだと思います。正直言いまして、今あるものはデータベースだと思います。でも、プラットフォームというのは、マネジメントを意識したものです。なぜ実際にうまくいかないのかというお話もありましたが、それは具体的なニーズというか、落としどころが見えていないというところがあると思うんです。だから、どうしてもシーズ型でばーっと寄せ集めても、それはどこでどう落としどころをつけていいかわからないのでいろいろなものが乱立してしまうのだと思います。具体的なストーリーなり、最終の成果物のイメージが具体的にあった場合には、そこに向けてちゃんと情報というのは集約される。核となる具体的な災害シナリオがあれば、現在のデータベースのシステムも、ある意味、ストーリーに乗って、いざ発災というときにちゃんときちんと順番に使えるようなものになっていくはずだと思います。

 皆さん一生懸命やられているのは、非常によくわかるんです。でも、やっぱりシーズ寄せ集め型に近いんじゃないかなと私は思います。ニーズつまり発災時の国としての具体的な災害シナリオを意識しないとだめだと思います。

 

(田中委員)

 私もその防災科研のプラットフォームに巻き込まれている一人でありますけれども、例えば、岩手・宮城でF-netが使われなかったですね。そういうのに典型的にあらわれるように、実際に使う場面で、入力する人がいないんですよね。でも、その実態をすべて無視して、技術要素的に、これは良いいう善意でシステム開発を幾らしたって、最終の市町村に入力を要請している限り、どんなシステムを使ったって動くわけはないんです。そういう面では、多分、林先生がフォローされていました。

 で、人と防災センターなのか、京大の院生か知りませんけど、もう災対本部に入力する人まで連れていって、初めてシステムを立ち上げる。やっぱり実際の、ニーズって非常に言葉が美しいんだけれども、そういう現場でたたき上げられるシステムにならない限り難しい。

 ただ、そうは言いながらも、そういう面で、社会科学と、工学と理学の連携というのはとても大事になるわけですが、最終的には要素技術ってやっぱり基礎研究からしか出てこない。それがブレークスルーするわけですよね。そのコーディネーションをだれがどういう形でできるのかという仕組みをつくらないと、大変難しいことだと思うんですね。

 

(中尾委員)

 ちょっと関連してお聞きしたいんですけど、例えば、この予測図が出ていますね。これをデータとしてどう使うという想定なんですか。そのマネジメントとの兼ね合いは。

 

(天野委員)

 これは鹿島建設自身のBCPをつくるときに使っています。事業継続計画ですね。例えば、発災時にどういうメンバーが、例えば夜、自宅にいるときには、1時間以内に、どの拠点にだれがどのぐらい来られそうかと。そのときには、実際の指揮をとるチームを、来られそうなメンバーの中からリーダーになる人を決めて、それはある程度、だれがどう指揮をとるかをイメージしている。他に、道路啓開を要請されている場所に重機をどのルートで運ぶかということなどにも使います。これは真値では絶対ないはずなので、一種のイメージの一つのツールではあると思います。けれども、そういう具体化計画をつくるための支援システムです。これをまず自分の会社で使って、客先から依頼があれば、それを使ってやるというような感じですね。

 

(中尾委員)

 多分、自治体なら自治体も、同じようなのがあったら、持ち込んでだりするんでしょう。

 

(天野委員)

 まだ、自治体さんからお願いされたことはないです。やっぱり民間ですね、私たちがお願いされるとすれば。

 それで、ちょうど鹿島建設を日本に置きかえていただきたいと思っているんです。先ほど、先生がニーズは美しいけどとおっしゃったんですが、美しいものというよりはもう具体的にしなければいけないものだと思います。その大もとのニーズは、いざ発災のときの日本の事業継続計画のモデルケースだと思います。具体的な災害シナリオですね。だから、いざ発災したときに、情報は、例えば、TEC-FORCEが取ってくるとか、その後、被災者を助けにいくのは総務省の方が行くとか、そういうような時々刻々変わる流れの中で、現象と情報を時系列的に並べる。その時に、だれがどういうふうにやったら、どういう情報があれば、それが実際にマネジメントできるのかというイメージがあって、その規定化されたものが盛り込まれるのが災害情報プラットフォームだろうと私は思います。違うイメージもあるかと思いますが、一応私の意見として申し上げます。

 

(濱田主査)

 災害時の道路ネットワークの維持というのは、重要な問題だと思います。例えば、首都圏に災害が起こったときに、今の計画では、緊急物資、人員を高速道路を使って運ぶという計画になっているけど、本当にそれが可能なのか、よく分らない所があります。

それから、外国からや他府県からの緊急物資を東京湾の防災拠点に海上輸送するという計画ですが、東京湾に船舶が入れるのかとか、いろんなことがありますからね。色々な対策が個別に余り連携なく計画されています。

 

(天野委員)

 別にこのシステムを開発しろと言っているわけではないですよ。例えば、こういう地域防災計画をお立てになるときには、一つの支援システムの例としてお見せしました。この他にも、色々な支援ツールがあるはずだと思います。その支援ツールを開発するためには、ハザード情報、それと、各構造物のいろいろな研究結果、耐震レベルとか、それを判断する基準とか、それらを積み上げることが必要ですし、このような支援ツールを色々使いながら、具体的な計画を立てていくことが必要でしょう。

その中に研究課題が、実用化研究としてたくさんテーマがあるでしょうということを申し上げたかっただけです。

 

(松澤委員)

 天野先生にちょっとお聞きしたいんですけど、鹿島の例というのは、プロトタイプとして非常に参考になると思うのでお聞きしたいんですけど、シナリオとしてはいろんな地震が考えられますよね。それの場合に、どういうふうに対応されているんですか。

 

(天野委員)

 参考資料にあるように、場合に応じて、地震ハザードで考えた地震とか、シナリオ地震とか、過去の被害地震とか、総合的に検討しています。災害シナリオを考える場合に対象とする地震については、これまで文科省でいろいろ調べたことを基にして、「日本の全体のストーリーはこの地震を考えましょう。」というような提案を、地震調査推進本部からしてもいいんじゃないかと思うんですよ。

だから、東海・東南海・南海の場合や、首都圏の場合とかについても、地震調査推進本部というか、文科省の成果として、こういう地震を想定しましょうという提案をしても良いのではないかと思うんです。

 

(松澤委員)

 シナリオと言ってもすごく大事だと思うんで。一方で、シナリオにならない、何か突然ぼーんと一つの都市から連絡が来なくなった、そういうような場合ってあり得ると思うんですよね。シナリオによらない、そういう対策というものも考えておく必要があるんじゃないかという気がするんです。その辺のバランスがすごく難しいなと思うんですけどね。

 

(天野委員)

 そうですね。なので、いろんなことを考えなければいけないんですけど、まずばらばらになっている情報を一つのストーリーにまとめることが大切だと思います。ちょっと強引でも良い。土木工学的なプロジェクトマネジャーの人が必要だと言ったのは、具体的なストーリーにまとめるためには、ある意味、割り切りが必要なはずなんです。割り切りながらもとにかく具体的なストーリーをつくるということは、理学の方たちにはなじまないのではないかと思います。とにかく最低でも一つ具体的なイメージを作ると、いろいろ研究課題がでてくるんじゃないかと思います。

 

(濱田主査)

 それでは、もうそろそろ時間ですから、午前中の分はこれで終わりにします。5人の先生方、どうもありがとうございました。

 

 

( 休憩 )

 

 

(濱田主査)

 それでは、引き続き、午後は6人の方々からお話を伺って、質疑を行いたいと思います。

 まず最初は、田中先生、お願いします。

 

(田中委員)

 今までのお話も含めて、申し上げたい点は、3つだけ言わせていただこうと思っています。

 ここではフォーマットがほかの方と全く違って申しわけございませんが、1つ目は、防災全体を考える中で、いろんな災害のバランスというところはやはりどうしてもあるだろう。その中で、具体的に一番書きやすいのは、多分、地球温暖化の適応策の議論のところだと思い、そこを挙げておきました。その中で、一つ気になっていたことは、地球温暖化の適応策の議論のときに、確かに気象の予測というのは非常に大事だということは事実だと思うんですけれども、これがアジア全体の国際貢献を考えたときに、どれぐらい雨が降って、それがどれぐらい河川にどんな影響を与えて、それが結局被害となって住民にどう影響していくのかという、一連の流れ全体が実はぶつ切りになされていて、あまり国際貢献としてうまく寄与していないケースもあったのではないかというような気もいたしました。そういう面では、ここでやはり川上から川下と書かせていただきましたが、被害軽減策に至るまでの一連のモデルとして、ワンパッケージで研究を進めるようなことをしないと難しいのではないかという気がしていました。

 あと、もう一つ、これは事例の部分なんですけれども、特にこういう分野の中で、台風と集中豪雨の議論というのが、やはりまだかなり研究としてすることがたくさんある。特に太平洋の日本の近海とインド洋、サイクロンも含めて、熱帯低気圧全体に対してもうちょっと動きを見るという研究が必要だと。それから、特に今、進路予想なんていうのは、24時間でまだかなり悪いですね。そういう進路予報をする上で、やはり海水面と影響をもっときちんとできるようなこともする必要があるのではないかというようなことも指摘されたので、少し補足させていただきたいと思います。

 2番目は、これは別に私が言う話ではなくて、武井先生が言っていただければいい話なんですが、社会科学の立場のほうが言いやすいだろうと思って、地震観測の話を挙げさせていただきました。ここは、すいません、「地震・火山観測」にしておいていただければと思いますが。いろんな意味で観測は整ってきているところはあるわけですが、やはり大きなインパクトがあったときに、そのインパクトを基礎研究にきちんと把握できる観測体制はとっておく必要があるだろうという気がしています。そのことがかなり基礎研究のブレークスルーを担保する可能性があるので、そういう面で、ここでは早期検知技術だけではなくて、発生メカニズムを解明できるような観測体制をやっぱりきちっととっておく必要があるだろうということを言わせていただきました。ここでは、特に東南海・南海を含めて考えると、やはり海域での稠密な広帯域地震観測網というのはまだまだ弱いところがあって、これをやれば緊急地震速報あるいは津波予報の高精度化にかなりかかわるはずなので、ここはひとつ具体的にやってもいいのではないかという気がしていました。

 3番目が、多分、私が一番考えなくてはいけなくて、言わなければいけない部分だと思うんですけれども、これは必ずあちこちから、理学・工学・社会科学の連携という話が出てくると予想いたしました。現実問題として、財政制約が大きいわけですから、被害軽減に直接結びつく社会実装ということ、そういう社会的要請が求められるのは事実だと思います。そのためには、理学・工学・社会科学の連携という繰り返されてきた主張というのは動かせないことなんだろうというふうに理解をしています。これは2番目のところで言うべきだったのかもしれませんが、ただ同時に、要素技術開発のブレークスルーというのは圧倒的に大きいわけで、ここなしには防災の画期的な進展はない、だから基礎研究の萌芽を積極的に支えるべきであろうということは、社会科学者だから言いやすいかなと思って言わせていただきました。

 ただ、問題は、もう1970年代からずっと言われているんですね、理学・工学・社会科学の連携。ところが、一部の領域を除いて、ほとんどうまくいってきたかと言われると、かなり疑問符がつく。それは、やはりきちんとなぜなのかという議論をするべきだと思っていますけれども、社会科学の研究者の立場から見ると、テーマ設定がやはり川上から来ているために、社会科学系の研究者の研究実績あるいは関心と全く合っていないという側面があるのではないかという気がしています。例えば、私から見ますと、首都直下地震とか東南海・南海地震が起きたときに、先ほど何人かの方もおっしゃっていましたけど、日本どうなるのというシナリオを書くということは、もうこれは社会科学が最終的には一番最後の分野を扱うことになります。ところが、では日本の経済がどうなるのかということに対して、経済学者が関心を持てるかというと、あまりおもしろいテーマではないんだと思うんですね。つまり、理論モデルとして、経済学的に認められる分野かと言われると、必ずしもそうは言えていないという部分がある。そういう面では、彼らが半歩出てくれるような研究テーマの設定をしないと、実は社会科学系の研究者との連携というのは難しい。つまり、そのテーマ設定をかなりきちんとしておく必要があるのではないかということで、工学にせよ、社会科学にせよ、研究領域から半歩踏み出すテーマ設定、そこを設定する必要があるのではないかという気がしています。

 あとはもう圧倒的に社会科学系の研究者の不足というのははっきりしていることで、多分、社会学で災害をやっているという人は、10人いないと思うんですね。そういう層から考えると、その層の薄さというのはどうカバーしていくのか。これは、こういう場ですから言わせていただければ、圧倒的にポストがないですから。今、多分、社会科系で防災という看板でポストを持っている人って、数人いるかいないか。矢守、林、私……であります。まだチンが鳴らないので言わせていただくと、大体大学院生をとるときには、固有の研究領域を持て、でも災害もできるよという形にしないと無理だということを言っています。

 それぐらいということがあるので、やはりそういうポストの話も含めていかないと、なかなかここは難しいなという気がしました。ただ、そうやると全部人に責任を転嫁しているばっかりでございましたので、3番目に、これはちょっと具体的過ぎるところもあったんですけれども、こういう領域であれば研究者の顔を浮かべながらできる分野があるよねということで、6つほど挙げさせていただきました。

 一つは、先ほどプラットフォームの議論でも出ましたけれども、やはり意志決定システムって、いろんなところでいろんなことをつくっているんですが、実際にそれがどう使われるかというゼロックス的な開発というのはほとんどなされていない。そういう面では、ユーザーフレンドリーな意志決定システムの構築というのは、これは矢守先生の顔を浮かべながらできるかななんて思いながら挙げておきました。

 それから、理学的研究成果の普及と利用を推進する多目標意志決定主体を前提としたモデル構築ということで、これは理学研究をどう普及するかという議論はさんざんなされて、防災教育というのも、多分、国崎先生のところにもあったと思いますが。ただ、現実問題として、人間って多目標ですから、ここにいる人間というのは防災のことしか考えていませんけれども、普通、防災の比率って低いんですね。そういう人たちに対して、そういう多目標な主体に対してどう伝えていくのかということは、これはかなり工夫が要ることになってきます。これは環境問題でも随分議論がなされている話で、セット研究も含めて、これは議論できる人がいるだろうという気がします。

 それから、復興というのが今までほとんど研究として、これは国際的にも弱い分野なんですね。ただ、このごろ大分進んできているところがあって、阪神とかワールドトレードセンターの話を含めて、結構進んできているところがある。その中で、実は直後の対応とか、それから、どういうような防災教育、mitigationするべきなのかということも含めて考えると、実は最終的に、どういうふうに円滑に迅速に復興できるか、そのためにはどういう役割分担が要るのかということはやはりきちんと議論をしておかないと、ほんとうは最終のニーズにならないんだと思うんですね。そういう面では、復興戦略に関する地域社会学的な研究というのがあるだろう。

 あと、経済波及、これはぜひやってほしいなと。

 それから、避難生活支援モデル。これはやはりいろんな面で復興にもかかわるような話として、こういうことをやっている人はたくさんいるよということでございます。

 これは、最後は何を書こうとか、ちょっとよくわからないところもありますが、被害状況というのが今非常に情報を集めにくいところがあるので、それを効率的にやるための収集システムというのは、多分、これは社会科学と理学・工学が共同でできる部分ではないかという気がしているところであります。

 以上でございます。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 それでは、ご質疑をお願いしたいと思います。いかがでしょうか。

 

(松澤委員)

 質問ですが、例えば、富士山が噴火したら円がどれぐらい下がるだとか、そういう研究とかはなされていないんですか。そうした場合に長期的にものすごく大ダメージを日本がこうむる可能性もあるということでしょうか。

 

(田中委員)

 単純な話をすると、首都直下地震で、今、間接被害も含めて112兆円というような予測であります。今、金融資産残高は7000兆ぐらいあるんですね。それで、円安に5%動くと、112兆をはるかに超える損失が出るんですよね。だけど、どれだけ下がるのか、あるいは上がるのかというのは、これは素人では全く判断がつかないんですけれども、そういう分析って、多分、なかなかやりたがらない。当時の首相がどういう言い方をするかに依存してしまう、そういう答えが返ってくるというところですね。でも、ものすごく大きいと思いますよ、現実問題としては。

 

(濱田主査)

 ただ、最後のところに大規模地震災害による経済被害波及に関する理論モデルの構築というのは重要課題だとご指摘になりましたけど、それは可能なんですか。

 

(田中委員)

 つまり、できる範囲とできない範囲があるはずですね。できる範囲のことしかもちろんできないわけですが、そのときに、どういうふうに経済屋さんその問題に関心を持ってもらえるのかということだったんですね。だから、理論モデルという言い方をしたのは、通常の経済モデルは外層的に過去のデータからずっといくわけですね。それが突然、ある特定のインパクトでがくんと視線が変更になったときに、そこから先どういうモデルが発生するのかというのは、これは理論的にはとてもおもしろいはずなんですね。

 何人かに議論しても「ふーん」とか言われているんですが、例えば、発展途上国なんかが、突然どこかでテイクオフをしてばーっと経済的に伸びていくんですね。その不連続なモデルのある意味で逆かもしれない。だから、そういう経済屋さんが関心を持ちそうな理論的な問いかけをしていかないと、キャリアパスを考えると、なかなか乗ってこないんじゃないかなと思うんですね。

 

(濱田主査)

 でも、そういう理論モデルみたいなものは構築可能で、シナリオによっていろいろ変わるだろうけど、この中に収まりそうだぞというようなことはできるんですね。

平常時の経済予測であんまりうまくできないんだから、災害時に十分な精度でできるかというのは、難しい問題でしょうね。

ただ、そういうものが出てこなければ、じゃあ災害に備えてこの国をどう経営していこうかというのは出てこないでしょう。

 

(田中委員)

 そのクリティカルポイントだけは言えると思うんですね。これをやっちゃだめだよと。

ただ、サブプライムの問題で出てきたあの額って、半端じゃないんですよね。でも、経済はもっているんですよね。だから、実態経済への影響って、けたがというよりは、インパクトは5分の1ぐらいになっちゃいますから、そうすると、何とかなりそうな気はするんですけど、ちゃんと自信を持ってだれも教えてくれないという。

 実は、それは我々が今研究のセンターの使命として、それを広げていきたいと思っているんですけど、なかなかうまくいかない愚痴を書かせていただいたというところがあります。コストパフォーマンスが出てこないんだと思うんですね。

 

(山岡科学官)

 研究課題マップを半歩踏み出したという、この研究課題マップって、例えば、つくるのにどのくらいかかるか。例えば、田中先生がすっと1日ぐらいでできるものなのか、それとも、これそもそもが研究課題なのか。

 そういうふうなものを提示していって、そういうところを担う研究者を増やしていくと同時に、受け皿も増やしていくというようなことを考えたいというような。

 

(田中委員)

 要するに、防災の全体の研究というのはどんなものがあって、その中でどういう位置づけにあるのかということなんだと思うんですね。

 だから、防災科研に何人か雇っていただくとか、そういうことも含めてしていかないと、社会科学との連携というのは言葉に終わるだろうないう。

 

(山岡科学官)

 そのあたりは、いつも理学系というか、測地学分科会なんかだと、要するに、我々のシーズ側からつくっていって、社会科学との連携が必要であるというところまでしか書けないんですけれども、こういうのはどういう人たちがやるのが一番いいんですか。やっぱり出口のほうからと言ってはいけないんだけれども、先ほどの応用的なところからやるのがいいのか、どういう組織が必要かとか。要するに、今はそういう母体がないのかとか、いろいろ問題があると思うんですけど。お題目はあってもできないというのはよくある話なので。

 

(田中委員)

 そこも、多分、一回巻き込む仕組みが要るんだと思うんですね。私一人のイメージではとても枯渇をしますし、実際に政治学者と話をしていると、「おう、社会科学者も防災でやることがあるんだね」なんていうことをおっしゃる人もいて、知らないということもあるんだと思うんですけどね。

 

(濱田主査)

 ほかにご意見はいかがでしょうか。

 それでは、次のご報告に移りたいと思いますが、中尾先生、お願いします。

 

(中尾委員)

 私も最終的に基本的に言いたいことは、今最後の議論になった、そこのところだけです。

 まず、そこに出しましたものでは、理念は、「安心・安全は国の責務。その実現・確保のための総力を挙げた取り組み」と書きましたけど、これ、ポイントは総力です。つまり、その下にちょっと書きましたように、各分野、従来考えられているディシプリンがやるのはやっぱりおかしいと意味で、これは多分この委員会もそうでして、名前が防災科学技術何とかというのは、僕はこれは最初から気にくわないんですけど、防災をやるのに科学技術だけで解決できるのかというのがありましてね。これは、親の科学技術何とか会議ってありますね。あれももともとは文部省と科学技術庁が仲が悪かった時代のあれのつながりで、つまり、科技庁が科学技術会議というのをつくって、それを今の名前が引きずっているのであって、従来の科学技術庁は、社会科学とか人文科学を含んでいなかったんですよね。そのときの科学技術庁の防災室が見ていたのがこのごろ変質してきた、文部科学省になってもう10年近くなるから、入れ子になっておられるのかもしれませんけど、基本的にはまだ科学技術庁のあれを引っ張っていて、さっきから話が出ているのも、社会科学との連携とか、つまり、こっちが中心にあって、こことも一緒にやりましょうという、そのスタンス自身がもともとおかしくて。つまり、何か防災しようというときには、そういうところからスタートするのではなくて、必要なのが何かというので、必要な人たちを集めるというので、テーマあるいはプロジェクトというのをつくらなくてはいけないので、そこからしてちょっと違うなという気がしています。

 それから、2番目の中長期的視点に立った我が国における今後の防災科学技術推進の方向性。そこにも書きましたけど、「災害は人と自然との関わり方によって生じる」。かかわりというのは双方向でして、つまり、そこに書きましたけど、人間がいるところに対して、自然が大きく変動する。地震なんかもそうでしょうし、あるいは火山なんかもそうでしょうが、そういう人間が対応できないぐらい急激な変化が来たときに災害は起きるわけですけど、同じように、自然変化というのは、日常的に季節変化をただ繰り返しているだけであっても、人間社会が変わっていれば、そこで一種の社会の強さみたいなものが弱まるということによって災害が生じる。要するに、2つの側面があるという。特に前者のほうは、従来の防災の仕事で、ある意味では、そういう方向ではずっとやられてきていたので、言うとすれば後者をやるべきであるということを常に声を大きくして言わなければいかんかなと思って書きました。

 基本的に災害というのは、人がいるから災害であって、例えば、どんな大規模な火山でも、南極で起きたらだれも災害とは言わないんですよね。人がいないところで起きたら。そういうものですから、結局、人とかかわるということによって災害というのが起きます。それから、前の3月の最後の雑談会のときにも言いましたけど、僕は雪崩のことはちょっとかかわったことがあるんですけど、雪崩というのも結構いろんなところで起きるんですけど、そこに人が進出していったら災害になるんですよ。しょっちゅう起きていたって、人が住んでいないところだったら何も問題にもならない。それが、リゾート開発が起きるだとか、スキー場開発をやるとかいうことによって災害化するわけであって、つまり、それが後者の例なわけですね。それから、最近で言えば、冬山登山でよく死んだりとかあるんですが、あれも高齢化とか言ってますけど、あれも基本的に、そういう意味では温暖化とかありますけど、急に最近自然が猛威になったわけではなくて、年寄りが登るようになったから年寄りの被害が増えたというだけであってという、そういう後者のことに対する研究というのは、どちらかと言えば、今まで非常に弱かったなという気がしますので、それをやったほうがいいだろう。

 それから、その次、これはもう大分前から言われているんですけど、つまり、災害のメカニズムを研究して、そのメカニズムのどこかをストップさせて災害が起きないようにしようとか、それをあらかじめ予知しようとかいうのが、これも、僕はやるなとは言っていなくて、それは従来どおりやる必要がある。それは従来、ある意味ではよくやってきていたんですが、災害は起きるんだということを、もうある意味では所与のものとして前提にして、つまり、起きたときの災害をどうやって少なくするか、あるいは、それからの回復をどうやって助けるか、一種の、高橋先生はリジリエンスと書いておられましたけど、そっちのほうの研究というのは、やっぱり従来非常に弱かったので、そういうところに力を注ぐべきではないかという気がします。特に今言ったような研究では、田中先生が言われたような、社会系の人が中心となるようなテーマ設定が非常にやりやすいというか、そういうテーマが、多分たくさん転がっているのではないかという気がしております。

 それから、そういうたぐいで、例えば、ハザードマップなんかも午前中の話でも出ていたんですけど、ハザードマップが出てきて、それを、こういうところは危ないですよと、それをオープンにすることで防災の仕事が終わったと思うのは大間違いで、それをどう使うかということをちゃんと研究する必要がある。それは、午前中、渡邉さんがはいと渡せばいいとおっしゃったのは、誤解しているかもしれないけど、それではやっぱりだめで、ハザードマップを、こういうのがあるときに、それをどう住民に浸透し、それから、それを、ここは住んではいけないという規制をどの程度かけ、どの程度はいいよと目をつぶり、それは、結局、その地方地方のことが非常によくわかっている、つまり、自然科学系ではない研究者が、きちんとそこの人心を把握しながら、あるいは、そういう地方自治体と組んだりしながら新たに研究する必要があって、それが午前中重川さんもおっしゃったと思うんですけど、そういう研究というのが従来は手薄だったという気がしています。

 それから、もうちょっと自然系のほうで言っても、予知というのは、それは確かに未然に防ぐために重要で、それは今までたくさんやられているんですけど、と同時に、もうちょっと、予知のうち、いい日本語はよく知らないですけど、ナウキャスティングとよく言いますけど、現在こうなっているのではないかという研究を、予知よりもそっちのほうがはるかに実現性が高くて、つまり、100年後に予知ができるようになるよりも、3年後か10年後にナウキャスティングがちゃんとできるほうが、もっとバランス上必要ではないかなという気がします。予知のことをしなくていいと言っているわけではないんですけど、研究のどこにウエートを置くかという、バランスという意味で申し上げておりますけれど。

 それから、今後の重要課題というのは、これは地震とかではなくて、私がある程度考えられそうな中からだけ拾ったんですが、そこに「温暖化に伴う災害の地域変化に係る研究」と書きましたけど、これはたまたまですが、今年の2月、千歳空港がかなり長期にわたって閉鎖されたのを覚えているかもしれないんですけど、あのとき、私、たまたま北大で研究会で2泊3日の予定で行ったんですが、結果的には4泊5日の旅になったんですけどね。あの千歳空港、僕はちゃんと調べたわけではないですけど、聞いた話によると、千歳空港が初めて経験した湿雪被害なんですよね。つまり、北海道の空港って、今までみんな雪が乾いていて、つまり、水が絡んで凍るというふうな害は今までなかったのが、今年初めて発生したと聞いたんですが、そういうことで、つまり、空港が持っていた、それに対する適応力というか、いろんなシステムだとか、持っているんですけど、それが、これは温暖化のせいとは言いませんけど、例として申し上げると、温暖化が進行することによって、従来我々が築き上げてきたインフラが役に立たなくなるような変化がある意味では生じる可能性があるので、つまり、そういうことを念頭に置いた研究というのは今からやっておく必要があるのではないかという気がしています。

 それから、その次の、これはさっき言ったことともちょっとつながるんですけど、「社会の変容に伴う災害の発生」と書きましたが、これはどなたかのあれにも書いてあったんですが、特に中山間地での治水の問題、さっきも話に出ましたけれども、あれは過疎化とか、それから話が出て、山が荒れるとか、ああいうたぐいで災害が非常に発生してきているのではないかと言われているんですが、基本的に因果関係も今ほとんどそんなに調べられていないと思います。これは、ある意味では、社会が変化したことによって、我々の防災力が低下しているかもしれない例なんですが、そうだとはまだ今は言えないんですけど、それは多分そういう研究がなされていなくて、つまり、さっき言ったような視点で、社会が変化することによって災害が増えるという視点での研究にもう少し力を入れたら、こういうのは当然のことながら、多分やられることになるのではないかなという気がしています。

 それから、その他のところに書きましたのは、これは前の3月のときにもちょっと申し上げたんですが、特に国際交流の場でなんですけど、岡田さんのにもありましたように、例えば、日本の防災科学技術のレベルは高いというのは、多分そうだと思うんですが、さっき言ったようなディシプリンでのレベルは高いかもしれないんですが、つまり、それを社会に適用して持っていくというところは、日本が特に強いわけでもなければ、逆に、さっきから申し上げているように、どちらかというとやっていなかったから弱い。かつ、それは、国が違うともう事情が全然違っていて、ですから、ハザードマップを何かで調べてつくってあげます、はいとあげるところまではできるかもしれないけれども、それをどう生かすかというのはあんたら勝手にやりなさいという立場で書いてきちゃいますので、苦労していろいろやったわりには、なかなか評価が高くない。それはやっぱり現地の事情の情報をきちんと、社会のシステム、それから、社会だけでも進まないという気がするんですけど、それこそ、そこの宗教とか、そこでの人々の考え方とか、そういうところもある程度加味した上でじゃないと、それをどう適用すればいいかという制度設計なり、あるいは、そういうのを提案とか、あるいは実際に行うのを手助けするというようなことはなかなか難しい。これはやっぱり今まで防災にかかわっていた人たちが、さっき科技庁の流れと言いましたけど、そういう人たちだけでやっているものだから、そういう社会の、特に国際社会、ここでは地域研究者と書きましたけど、そういうのにたけた人と一緒に作業をやっていないんですよね。ということが、多分、大きな原因ではないかという気がしています。

 もう時間になりましたので、最後ですけれど、さっき田中先生も言われましたけど、やっぱり理学・工学・社会科学って、僕は人文も入れたほうがいいと思うんですけど、共同と言いますけど、これが中心にあって、やっぱり社会科学とかなんかも入れなきゃいけないよねという考え方も完全にやめて、全部でやらなきゃしょうがないというところから、テーマを設定する段階でそれを考える必要があるのではないかと思います。ちょっと田中先生の応援演説をすると、防災科研、田中先生は数名とおっしゃいましたけど、僕、防災科研は二、三十名こういう方をとったらいいんじゃないかと。つまり、バランス上です。研究のウエートのバランスとして、防災研の98%ぐらいがいわゆる基礎研究のシーズ型の研究の人で、そっちにかかわる人は1~2%、もうちょっと多いのかもしれませんけど、よく知らないで申し上げているんですが、バランスはやっぱり相当欠けているのではないかという気がします。

 以上です。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 岡田先生、何かコメントはございますでしょうか。

 

(岡田委員)

 定員は確かに2名しかいないんですけれども、契約研究員みたいな人は結構いまして、今は10人ぐらいの規模になっています。

 

(山岡科学官)

 総合科学技術会議とか科学技術基本計画の中で、人文とか社会との連携というのは、要するに、科学技術に役立つ人文・社会の連携というふうな言い方になっているんですね。一方、文科省の中で別に人文・社会の振興のための予算と言うと、圧倒的に小さな予算しか出てこないというのが、どうも今の日本の現状である。そう言ってもしょうがないので、とりあえず防災のことを考えたときに、大学のサイドで言うと、そういうことを目的として教育をするとか研究をするような組織があんまりないというか、ほとんどないんじゃないかなと思うんですが。要するに、先ほど田中先生がおっしゃったように、人材を育成して、ちゃんと受け皿になるためには、ある程度目的を絞ったような教育組織と、それをちゃんと受ける、例えば、防災科研で半分やるか何か知りませんけど、そういうものと両方必要なような気がするんですが、いかがですか。要するに、今、すべてのところがうまくいっていないので、確かに人文・社会が必要だと言うけれども、なかなかうまくいかない。中尾先生のところで少し広げるとか、そういうようなことができるといいのかなと思うんですが。だから、例えば、ハコモノで大きなお金をかける部分のちょっとに、そういう人材のためにお金をかけると、少しうまくいくようなことがあるかもしれないし、と思うんですけどね。いろいろと、まだ答えはないんですけど、そんな気はして、少しお金のかけ方まで含めて、メリハリをつけたらいいかなと。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 予算で施策を立てるという視点で見ると、ものをつくるということは一番わかりやすい。まず、できましたと言えばいいので。また、研究にしても、こういうデータがとれましたと言えばよいので。人材育成というのは、成果物としてあらわれるのがなかなか難しいところがあります。これは防災分野のみの問題ではなく、文部科学省では教育部門も含めての問題だと思います。人材育成は重要だと言われますが、その成果をどう見せるのかを考えないと難しい面があると思っています。

 

(中尾委員)

 よくはわからないんですけど、やっぱりポストをつくるというのが一番早いじゃないかという気がするんですよ。

 

(田中委員)

 一つは、やっぱりポストって大きいんですけど、ただ、やっぱり今難しいですね。その中で、今、防災研究者自体が、僕は減ってきていると思っているんですね。都市交とか建築の防災って、ほとんどいなくなってきているんじゃないんでしょうか。そういう面で見ると、防災科研というのは大きいウエートを占めていると同時に、新潟とか、静岡とか、愛媛とか、いろんなところはセンターをつくってきているんですよね。だけど、そこがうまくお互いに連携しているとは思えないので、そこのネットワークをうまく使うというのは、一つのやり方かなと。

 例えば、さっき復興という言い方をしたのは、関学に復興制度研究所ってありますけれども、これはかなり社会科学というか、社会福祉系ですけれども、そこに対してお金が落ちてくるということはないんですよね。それに対して、結構社会的ニーズがあって、お金が入ってくるよということが見えると、人はつけなくても活性化するかもしれない。それは、新潟大の田村先生とか、それなりにうまく使えばいいだろうし、というので、今、防災のセンターって、東北大もあるし、結構あるんですよね。

 

 

(山岡科学官)

 防災研究所は、防災に関する共同研究、共同何とか拠点と言っているんだから、もう少し防災研もコアとして頑張るようなことはできないんですかという、けんかを売っているわけではないんですけれども。

 

(林委員)

 どういう立場でしゃべるかによるんですけど、こういう大所高所の議論をしているときはいいですが、だんだんに現場になってきて、配当されている金の奪い合いになれば、マジョリティが勝つんです。絶対に僕らのプロジェクトなんてあてませんもの、中で。それは何と言うかというと、科学じゃないとおっしゃるんですよ。だから、今、新潟何とかと言ったけど、現場で聞いている話は、それのもっとミニマムなスケールで、もっとコンサーバティブな闘いみたいなことまで実際起こっているわけで、その部分ではやっぱりちょっと難しいかもしれないな。

 でも、全体を見ていて思うのは、理念は先行しているけど、実態がやっぱりまだ見えてないよなという。

 それから、あとは、やっぱり最終的には多勢に無勢ですから、丹下左膳だって何だって、必ず捕方にはとられちゃうわけだから、1人で10人捕方をやっつけたって、100人いれば負けるんですから、そういうサイズデメリットというのがやっぱりあって、それは上で幾ら分野連携と言ったって、それはそうは人は踊らないぜというのは現実ではないでしょうかね。

 と、やっぱり中尾先生おっしゃるように、制度化しちゃって、これでやるんだと言って、そういうものを走らせてみて、5年ぐらいでばんばん改変するようなこと、5年ではほんとうはきついんだけど、もやっぱり要るでしょうね。それから、もっと言えば、今、小金がいっぱい振りまかれているんですよ。だけど、若手を育てようとしたら、ポストはほんとうに理想だけれども、そこに行くまでにやっぱりテンポラリーなポスドクポジションぐらいなものをつけようとすると、やっぱり1人の人に1000万円は、そこに固定費として給料と研究費をつけたらかかりますから、それを含むようなプロジェクトとしてとなると、せいぜい3000とか、そういう規模のものが必要になるはずなんだけど、今3000以上のプロジェクトの数で防災なんてやったら、ほとんど皆無ですよね。だから、そういう意味で、実質、若い人たちを雇っていくようなチャンスがなかなか与えられないことも事実です。それは全部の分野について言えることですけど。

 

(濱田主査)

 ポストも研究費も非常に重要なファクターだとは思うんですが、若い研究者がこの分野で減ってきているというのは問題です。また、防災研究の全体像が見えていないというのも問題です。それぞれの研究者・専門家が個々の研究の中に埋没していいます。個々の研究が総合的にどう役に立っていくんだということを常に考えていなければならないと思います。

 次は、林先生にお願いします。

 

(林委員)

 いかに私は世間からずれているのかということがよくわかってしまったんですけれども、皆さんはちゃんと理念から始まって、中長期的な方向性とか、枠組みがあった中で論が展開しているんですけど、僕は何となくこの前の濱田先生の、「おれはニュートンだから勉強したいんだ」という、その言葉だけが妙に耳に残っていて、じゃあニュートンじゃないやつはどういう姿かというのを少し見せないといけないなという、それだけしか考えておりませんで、全くストラクチャーを無視したお話をすることを、まずお許しをいただきたいと思います。

 それで、しようがないから、脱「ニュートン力学型防災学」とはどんな構成をするべきかということをお話ししたいと思います。

 1ページ目の下に絵がかいてございますが、これは防災ってこんな格好をしているだろうと思っているものです。いろんなところでお話しするから省いてもいいんですが。実際には被害があって、その後、対応しなければいけない。ここをなるたけうまくするというのが防災の目的だろう。ですから、第1の防災の目的は、被害を出さないことですし、万が一起きたら、その後の対応を効果的にして、もとに戻すということをする。そのためには、やはり被害の発生メカニズムということを知らなければいけませんから、当然、ハザードの研究もあれば、社会の防災力、あるいは、そのひっくり返しで言えば、Vulnerabilityの研究も要る。地球温暖化に代表されるように、今、ハザードは激化してくる方向にありますし、地域の防災力は、どちらかというと劣化していく方向にあるので、こういうのを正しく評価する必要がある。そういう認識に基づくと、ハザードについての、僕らは残念ながら理解までしかいかないでしょうけど、そこにかかわる学問と防災力の向上にかかわる学問があるというのが基本です。それが線でつながっていますから、それを継続的にやって、かつ、過去から未来に行く矢印なので、経験科学的にやらざるを得ない、一般方程式はないというものであります。それを字にすたものが次のページでする。

多分、ニュートン力学の皆さんは、一般方程式がなかったら、すべては混沌としているのかという不安感に多分さいなまれておられるんだろうと思いますが、答えは、それでもかなり混沌とはしていますが、各分野を統合するようなコンセプトは用意されている。それを21世紀的に言えば、「リジリエンス」という言葉で呼んでいる。

 リジリエンスって、あえて片仮名のままにしてありますけれども、いろんな分野で使われていると思います。一番意外だったのは、「これ、形状記憶合金のこと?」と言われたときは、「そうです」としか言いようがなかったです。ある形を持っていて、外から力が加わって変形するんですけれども、またもとへ戻れていくという、そういう力を、ある種のしなやかさを持って外力を受けとめて、復元できるような力というのをリジリエンスと言っております。それの評価指標として、午前中ちょっと話がございました「事業継続」というのがある。あえてここではContinuity of Operationと書いてあります。

 では、そのリジリエンスというのを少しイメージとして書かせていただくというので、これは理学・工学の方でも使う概念であるというんで、米国の防災工学の研究センターであるMCEERが使っている絵をそのままパクって使ってあります。通常は100%機能しているものが、災害によって被害を受けることで機能低下をして、それをできるだけ短い時間で戻すんだというのが基本的なモデルで、それで生まれる三角形、これが脆弱性になりますから、そいつを極小化することがリジリエンスを高める、そのためにいろんなことを考える。当然のことですが、被害を出さないようにするという抑止力の向上も重要なことですし、いや復帰を早くするんだということも同じように重要ですが、できれば総合的にやることが一番いい。これは中尾先生がおっしゃったのと同じであります。

 では、これをどういうふうにして実現できるのかというのは、その次の絵です。先ほど災害を規定する要因としてハザードと社会の防災力がありますから、誘因サイドが横軸、素因サイドが縦軸になっている。これは6段モデルとして見ていただいたらと思います。

 一番上の段に、ハザードを同定するというステップがある、自分たちにとって守るべき対象にする、あるいは、備えるべき対象とするハザードは何かを考えるという課題がある。ここでは、素因の側はあんまり関係していませんから、ある意味では、純理学的に、自然現象としてどういうハザードがかかわるのかを検討することになる。ただし、対象となるハザードをできるだけ幅広にとらえないとまずいだろう。自然災害だけではなくて、人類にとって考えられ得るすべてのハザードというような広さが要るだろう。

 それから、それ以降のものは、素因との関数になる。いいかえれば、すべて私たちとのかかわりの中で問題になってくる。その左側にあります事業継続をしたいという、その主体は、しくみを持ち、資産を持ち、資源を持っているわけですから、それをうまく変換して事業継続にしている。そのしくみの理解なしに、ハザードが幾らわかっても何もならない。じゃあ、自分たちのしくみがわかって、ハザードとどういうふうに向かい合うかといったときに、リスク評価の問題が出てくる。リスク評価をしたときに、大きなリスク、小さなリスクというのは当然出てきます。それから、残念ながらわからない、未知のリスクも当然あるはずです。それらに対する対策の基本は、大きなリスクをできるだけつぶす。それが安全性を高める、あるいは安心を高める一番基本ですから、大きなリスクについて予防、被害抑止の対策をする。それで、取りこぼしの面積をできるだけ小さくするというのが第一手だろう。これが被害抑止の部分です。しかし、それだけではなくて、実際の被害軽減についても、つまり応急対応、復旧・復興についても同時に備えておく必要がある。なぜならば、自分が抑止しようと思ったものでも抑止しきれない場合もありますし、当然、抑止を放棄したたくさんのリスクもありますから、そうした事態が起きる可能性があるし、未知のハザードに襲われることもある。

 今日、岡田先生のプレゼンの中に、自然現象としてと、社会現象としてと書いていただいのは大変うれしかったんです。僕は、理工学とか人文社会学という分け方はあんまりしたくなくて、自然現象としてアプローチできるものと、社会現象としてアプローチしなければいけないものはあるんだと考えています。それがグレー系とオレンジ系の区分です。オレンジ系は、社会現象としてアプローチするんだというふうに理解をいただいたらと思います。

 この絵の読み方はというと、地震の研究を例に取ると、一生懸命ハザードとして精緻にやっても、安全安心のための科学技術としてカバーできるエリアは非常に少ない。伝統的な理工学連携の研究では、ハザードがわかったものをリスクに変換して、その被害抑止策を考えるんだというところまでで止まっていたのかもしれません。地震災害の場合にはそれだけでも随分大きなエリアのように感じるかもしれません。例えば、新興感染症みたいなことを考えていただくと、もともと地震の被害抑止のような形の強力な抑止がありませんから、結局は応急対応、復旧・復興のほうをうまく整備するという戦略を立てざるを得ない。似たようなことは、実は情報セキュリティの議論を読んでいると、非常に同じようになります。ハザードによっては、被害抑止をメインに立てるものもあれば、立てられないものもあるということもご理解をいただくことが必要ですが、リジリエンスを高めるためには、この全部のエレメントを改善していく必要があるんだと考えています。ハザード同定についての今後の研究、リスク評価についての今後の研究、大きなリスクについての被害抑止の研究、それから、応急対応や復旧・復興について、それぞれバランスよくやらなければいけないと思います。

 とりあえず第4期については、やっぱり地震以外に防災研究を集中すべきハザードはないのかという見直しは要るんじゃないか。当然、温暖化の問題はありますので、それに伴う災害の激化、ゲリラ化、頻発化への社会適応対策というのを考える。

 それから、リジリエンスを高めるというためにリスク評価をするとすればどういうのかというのも、新しい問いになるのではないか。今までのリスク評価、被害想定というのは、どっちかというと、施設整備のための設計外力を可視化しているようなニュアンスが強いので、もっといわゆるビジネスインパクトの分析を考慮することが必要になるわけですが、業務フローを理解して、その中でどういうリスクがあるのか、どうやってつぶせるのかというような形のリスク評価方法を考える必要があるのではないか。

 それから、予防できるハザードは限られていますが、それでも、その中で最大の効果をどうやって生むかということを考える。それに加えて、予防しにくいようなものもある、未知のものもあるという認識を持って、それらに対する備えをどうすればいいのかということを考えてほしい。

 それから、起こってしまったことで言えば、限られた資源の制約の中で、どう効果的な対応を展開するのかということもやらなければいけない。命を守る社会のフローを維持・回復させるストックを再建するというような対策がありますから、それの効率化、それから組織間連携、それから、その前提となる状況認識の統一、そのための情報処理システムの構築、それから相互応援を可能にするような業務研修・訓練システム、そんなものも多分要るだろう。

 それから、もう一つは、できるだけ早い業務再開をどう可能にするのか。ステークホルダーの間での合意形成・協働というのがやっぱり不可欠になりますから、そういうものの理論モデルも要るでしょうし、実際の計画の立て方、その前提要件も要るだろうし、実際の指標群、復興しているビジネスが継続できているという指標も多分要るだろう。

 それから、最後は、こういった全体の枠組みを理解できるような、そして、それを実現できるような高いリジリエンスを持つ人材をどう増やすか。防災教育というと、何となくこれまでの延長という印象があるので、MOTの枠組みに乗った抜本的な見直しとして、むしろリジリエンス教育体系の整備が必要であると思った次第であります。

 あとは、質問にお答えしたいと思います。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 最後の高いリジリエンスを持った人材というのは、防災分野の研究や技術の現状をよく理解して、マネジメント能力を持った人材だと、そういう意味ですね。

 

(林委員)

 そうです。まさしく、さっき冒頭、天野さんが言っていただいた、プロジェクトマネジメントをするという意味です。しかし、必ずしも土木工学の素養がなくてもなれると言いたい。

 

(濱田主査)

 防災のための適正な投資額というのを、リスクと効果を比較して決定するというような方法があります。こういうもので比べるんですよね。このような考え方だけで適正な投資額を決定する場合、陥り易い結論があります。兵庫県南部地震が神戸にまた起こるのは、地震学の方に聞くと1000年だとか2000年だとかいうことです。そうすると、確率が非常に小さいから、リスクというのは、想定される被害総量に確率を掛けたものですが、リスクが非常に小さい値になる。コストと比べると、コストのほうが大きくなるので、何もしないほうがいいよという結論になることがある。それは非常に乱暴な結論です。

山古志村は、村民あたり幾ら投入したか知りませんが、相当な公的資金を投入してインフラを復旧した。三宅島は、1人2000万位を使って復旧したと言われています。

 そのような多額の投資をするのは不適切だと言う人もいるけれども、それはそうではないだろうと私は思うんですよね。というのは、国土を維持するということはどういうことか。山古志村や三宅島を放棄していいのか。なかなか難しい議論ですよね。その辺は、例えば、社会学的に、そういうことをいろいろ議論することはあるんでしょうか。

 

(林委員)

 それは、社会学的にしているわけではないけど、リジリエンスを考えていく上では、どういうふうに考えるべきか。やっぱり防災戦略の問題だと思うんですよね。戦略の議論の中で、当然出てくるだろうと。だから、神戸で震度7があったから、震度7に耐えるように建物をつくらなければいけないと直後におっしゃられた土木の先生がいっぱいおられましたけど、それは要らないというふうに僕は思います。

だけど、やっぱり耐用年数を考えていったときに……。いや、僕はそのとき同時に思ったのは、ノースリッジが1年前にありましたね。あそこでシルマーの変電所がやられて、それは63年にもやられて、シルマーは63年の地震のときにやられてどうしたかというと、復旧しかしていないんです。同じものをそのままつくって。だから、同じ強度しかないから、またぶっ壊れている。だけど、彼らの計算は、それでいいと。確率も含めて考えたら、むしろ発注を確実にして、納期を短くするんでもいいんだという考え方もあるんですよね。

だから、それは立場だけど、でも、そういう意志決定を皆さんいろんなレベルでされているわけだけど、それが耐震性だけが向上ではなくても、全体の最適化ということを考えて、それでも当然リスクを負うんですよ。だけど、一発短期で待てないというのが現実だろう。地震だけ考えていればいいわけではなくて、やっぱりいろんなことを考えて、多目的に生きているわけだから、そこにできるだけ使えるような知識体系にしておかないと。

 

(濱田主査)

 目的が地域によって異なるし、国全体としての目的というものもあります。そういうものをどう調整していくかですよね。

 

(林委員)

 ここで多目的と言っているのは、対ハザードです。

 その人その人によって、あるいは、その地域その地域でやっぱりハザードの特性は変わりますし、それから、一回イベントが起これば、やっぱりハザード特性はがらっと変わるわけで、その前後ろは関係あるだろうと。

 それから、一人の人生で言えば、ライフステージによってイベントは全然持つ意味が違ってくるだろう。そのハザードも、それに応じて取捨選択されてしかるべきだろうというような、そこら辺のところにやはり論理的にできれば、一人のレベルでちゃんとある種の論理的な判断があるし、そういう判断を為政者なり何かがやったときに、みんなが納得してもらえるような理解の枠が育っていくことが必要なんじゃないかな。被災者になったから何でもしてもらえるというのでもありませんので。

 

(濱田主査)

 それでは、次に移らせていただきますが、次は荒巻さん。

 

(荒巻委員)

 横浜市では、様々な計画を策定するにあたりまして、可能な限り具体的に表現することを心がけております。それは抽象的に表現しますと、とかく市民から「何をどうしたいのかよくわからない」と言われますことから、誠に恐縮でありますけれども、計画の表現を具体的にするという観点で、意見を述べさせていただきます。

 1点目の理念につきましては、理念というよりも、理念の考え方に含めるポイントとしてご理解いただければと思います。防災・危機管理の目的は「damage control」と考えられております。また、国民及び地方自治体等は、防災科学技術推進に大きな期待を寄せている一方で、国民等の評価は相当厳しいものがあると考えるのが必然だと思います。このことから、大規模災害のダメージ・コントロールを図るためには、具体的なビジョン、目標像の明確化、例えば、大規模地震の場合は、被害想定に対する減災の数値的な目標値、括弧で書きましたけれども、人的・物的被害想定の何%削減、特に被害想定額の何%削減など、こういったコストパフォーマンスなどを示すことはできないでしょうか。この数値的に具体性を持たせることによって、研究開発費の増額と書きましたけれども、予算の確保なり、費用対効果、即ち投資効果などの裏付け根拠、この裏付け根拠という部分では、国民への強いアピール効果、あるいはメッセージ効果があるのではないかと考えます。さらに、研究成果は、結果的に国として、「最高水準の安全・安心サービスを国民に提供することを目指している」と明確にすべきと考えます。この国民に提供する最たる事例は、緊急地震速報ではないかと考えております。

 なお、防災科学技術の研究成果を生かすシステムを確立するというのが重要なのではないかということで書かせていただきましたが、この部分でちょっと補足させていただきたいのが、消防防災分野でも様々な研究開発を実施しておりますけれども、連携できれば研究成果を一層生かせるのではないかというふうに思います。

 また、地方自治体の多くは、厳しい財政状況を背景とした行財政改革の中で、予算編成上等で優先度が低く位置づけられやすい防災関係の研究開発、あるいは調査研究の予算や部署の縮減等が続いているという側面がございます。こういうことから、この計画の中で、減災の投資の必要性というものがわかるようになってくると、地方もそういった予算の獲得がしやすいのではないかというふうに考えております。

 2点目の方向性といたしましては、これは地方の立場、横浜ではやはり地震という部分、日本人の宿命災害である地震、これにつきましては、諸々の災害危険要因が潜在しています。このことに根本的に対応できれば、各種災害の防災・危機管理対策に通じますので、今後ともマクロ的に地震対策を中心に推進すべきではないかと考えています。その参考としては、横浜市では、過去の大規模地震災害発生時における大都市の災害危険要因と災害抑止要因というものを区分しております。これは危険エネルギーというものでございますが、危険エネルギーというのは、横浜市の防災アセスメント、災害危険度評価の調査結果報告書でございます。

 具体的には、次に書いてありますけれども、危険要因として、第1次災害危険要因から第3次、それから人的災害危険要因、これらが段階的に互いに絡み合って、災害が連鎖して大規模に拡大し、発災からおおむね1時間程度に災害が凝縮していると考えております。一方で、抑制要因としては、人的抑制、情報的抑制、消防水利的抑制、防災都市的抑制等が、その被害を軽減し得る災害抑制要因と考えております。

 これらのことから、特に地震の「研究開発分野間の連携を図る」ためには、研究開発分野を体系的に整理して、全体的な位置づけ及び分野別分類の中で、評価・確認ができるようにすれば、研究開発の重要度・進捗度・充実度などによりわかりやすくなるのではないか。要は、研究開発の全体像、あるいは現状というのが、国民のレベルだとわかりにくいというのが、正直なところございます。それと、特に「防災科学技術の国家基幹技術等への位置づけ」を勘案しますと、日本の確固たる耐震技術をもとに、耐震技術の国際的な認証技術の開発だとか、あるいは認証制度の創設というものを戦略的に推進したらどうかという部分でございます。それ以外に、緊急地震速報の精度向上、最終目標の明確化という部分では、国民に直接情報を提供すること。あるいは、私ども一番問題になるのは、各種情報通信ネットワークシステムの安全性向上ということがあると思います。それから、想定地震に対する震度分布予測法の技術向上というのもあるのではないかなど、その部分はちょっと記載しておりませんけれども、そういうことも考えられます。

 それから、3点目の重要課題でございますけれども、国家存亡の危機につながる大規模地震、括弧書きのイコールで、世界的な大規模経済災害に直結ということを書かせていただきました。大規模地震の発生が切迫している中で、今現在までの研究成果をしっかり生かせるシステムを早期に確立することが緊急の課題ではないでしょうか。また、地球温暖化の影響により、様々な異常現象が発生しておりますので、地球温暖化など環境問題を踏まえた防災・減災対策研究の充実が必要であると考えております。

 4点目のその他としては、やはり私どもとすれば、防災・危機管理対策の本質は、災害の危険度を知ってこそ確立いたしますので、今後とも防災科学技術の充実・強化を大いに期待しておるところでございます。

 参考資料として、先ほど申し上げました「危険エネルギー」の関係を、ざっと私どもで区分しているものを書かせていただきました。この中で、1の(1)の3、地上構築物ということで、建築物を書いていますけれども、私ども一番問題にしているのは、2005年11月に公表された建築物の耐震強度偽装問題よりも、本質的には1971年以前の高度成長期時代に建築された中高層建築物が非常に問題ではないか。このことをどうするのかという研究をすべきではないかなということもあります。それから、4の交通施設という部分では、防災面から道路網の充実というのも非常に重要なのではないかと考えております。

 最後のページで、別紙3のところで先ほど、国家存亡の危機につながる大規模地震ということで括弧書きを書かせていただいた、その理由というのが、これは随分以前に、日本火災学会の「火災誌」の中に取り上げられていた記事ですが、関東大震災のときに約55億円の被害を受け、当時の政府当初予算が13億7000万円であったことから、その約4倍発生しています。その一方で、復旧に多くの物資が輸入されたため外貨は底をつき、政府は復興のために震災手形を振り出しましたが、その震災手形の回収ができずに、最終的には1928年の金融恐慌のきっかけの一つになったということも言われているという部分で、田中先生もおっしゃられましたけれども、やはり経済災害ということを非常に意識した研究も必要なのではないかということで、こういうふうに書かせていただきました。

 非常に雑駁な説明でございましたけれども、以上でございます。

 

(濱田主査)

 どうもありがとうございました。

 ご質問をお願いしたいと思います。非常によくまとめていただいて、ありがとうございます。

 横浜ですと、横浜港の持っている機能がどうなるかということも重要な問題になると思います。経済の問題にも影響するだろうし、非常用物資の輸送・調達にも大きく影響することになると思いますか。

 

(荒巻委員)

 一応横浜の場合は、地震をしっかりと想定してまいりましたので、耐震化を港湾の施設もしておりまして、耐震化は相当進んでいると思います。今後さらに進められていくと思っています。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 国民の評価は非常に厳しいというご意見がありましたが、何に対しての意見だったのでしょうか。耐震化のレベルが期待される領域に至っていないと言うことでしょうか。

 

(荒巻委員)

 いや、レベルというよりも、わかりづらいというのが一番ではないかと思いますね。要するに、わからないから、どちらかというと、厳し目のことしか言わないんだと思うんですね。緊急地震速報なんかもそうだと思うんですよ。これだけの技術レベルに達するというのは、非常に大変なご苦労があったはずにもかかわらず、どうも報道で先行されるのは、地震が揺れてから速報が後から来てたとか、そういったところばっかり取り上げられてしまう側面があるじゃないですか。それが、結局、厳しいものの意見になりやすい、助長させている部分があると思うんですね。そのためには、あらかじめどんどん情報を出していくという姿勢を持ったほうがいいんじゃないかというスタンスでございます。

 横浜でもできるだけ情報をあらかじめどんどんお出しするようにしています。出してもいろんなことは言われますけれども、出さないよりも、ご意見はもっといいレスポンスが出てくるんですね、抽象的なものではなくて、具体的にこうすべきではないかというご意見も出てきたりですね。

市民へのいろいろな説明会等においても、防災の部分については、非常に関心があるのは間違いないはずなんです。しかし、日本人の体質的に、どちらかというと、自分は大丈夫という人が結構いまだに多いんですよね。「私は大丈夫。そんな細かいこと言わないでよ」というのが多いんですね。ですから、私どもがいろいろと防災講演等をやっても、同じような人が結構おそろいになるんですね。

 ただ、私どもは防災訓練もやっていくと、どんどん輪は広がっているなというふうには感じています。輪が広がっているときに、また次もということをわかっていただけるようにしていかなければいけないんだと思っているんですね。一度来たらもう懲りちゃったということにならないように、その部分は、今、一番注意を払っております。

 

(国崎委員)

 その他のところで、災害の危険度を知ってこそ確立しますというところは、ほんとうにもっともだなと思うのですが、私自身も長きにわたり横浜に住んでいて思うのですが、まず横浜に住んでいる人たちが、山下公園の成り立ちを知らないというのはあるんですね。あのとき関東大震災で横浜全土が建物が崩壊して、その後焼かれてという中で、大量に出た瓦れきをどうするのかという問題があって、埋め立ての歴史がある横浜は、いの一番に埋め立てようとしたわけです。それで、埋め立ててできた公園が山下公園の成り立ちであるというところの部分を、市民の方が、私が知る限り、多くの方は知らないんですね。で、幼稚園のころから写生に行ったりとか、遠足で行ったりというようなことで親しみはあるものの、そういう意味では、実際には災害の危険度、過去の災害も含めて、横浜はほんとうに人口が多くて、関東大震災以降にもすごく危険度というのはいろんな意味で増していると思うんですが、そういった危険度に対しての周知というのは、こういった研究成果もそうなんですが、絡めて、横浜市ではどのように考えているのかというところを教えていただきたいんですが。

 

(荒巻委員)

 情報発信はしているんですけれども、なかなか情報を聞いていただけないというのが一番問題なんですね。ですから、今私どもが言っているのは、情報を取りにきてください、取ってくださいということを一番強調しているんです。

 取るためには、ではどうするかといったら、ミニコミ誌だとか、そういった細かいところまで情報を提供していくのが一番いいなと。特に消防署長になってから一番感じているのは、大新聞で書かれたものよりも、地域に根ざしたミニコミ誌があるんですね。この視聴率というのはものすごく高いんですね。これは、特にお年を召した方は確実に見ますね。一般的な新聞の中に、折り込みと同じように入ってくるミニコミ誌なんですけどね。ですから、そういったものまで、あるいはチラシの類までですね。また、チラシの配り方も、新聞販売店さんにお願いをして、大量にある広告の中で、必ずとじ込みの部分に消防防災関係のものを活用していただけるように調整をするなど、ありとあらゆる工夫はしております。

 

(山岡科学官)

 人的・物的被害想定何々%と、こういう具体的な数字が出て、それで見える化をしていくというのは、結構いいことですよね。例えば、今ふっと思ったんだけど、全国の強震動予測地図というのが出るので、例えば、あれの結果がそのまま日本国の今後30年間の被害想定幾らみたいな数字に出ていって、それが減っていくような何か対策というような、評価というところまで含めて技術に含められるといいのかなと思ったりしますが、それは結構難しいんですよね。だから、あの数字ってどこまで信頼性があるかよくわからなくて、半ばどこかお手盛りもあるような気もしなくもないし、ほんとうはよくわからないんですけど、例えば、そういうものの信頼性を高めるようなことまで含めてやっていくと、国民への、最近はやりの見える化というところに対応できるような気がしますが。

 横浜市さんは、多分、自前でかなりしっかりと被害想定をされているので、あんまり国に頼らなくてもその辺はできると思いますけど。

 

(荒巻委員)

 そうですね。防災分野ではそういったものを出していないですけど、例えば、横浜ではごみの関係で、G30というのをやっています。要するに、ごみの量を30%カットするということです。それから、あと、CO-DO30と最近は言い出しまして、要するに、地球温暖化に対応して、脱温暖化のために資源等をとにかく30%むだ使いをやめようということです。ですから、火災件数についても、30%カットという言い方をしたりする場合もあります。そういった言い方をしていくことによって、一番は、先ほどの首都直下地震の被害想定額121兆円ということですけれども、そういった部分で、仮に10%でもこれを削減できると言えば、12兆を投資にかけるだけの裏付けになるんじゃないか。極端な言い方ですけれども、そういう考え方ができるのではないか。そうすれば、国民も、もっとやってくれというふうになるのではないかという発想です。

 

(濱田主査)

 もう一つ、自治体がいろいろそういう被害予測をやるときに、例えば、石油会社とかいろいろありますね、横浜に。そういうところへ情報を出してくれと言うと、出しますか。

 

(荒巻委員)

 情報提供されています。あくまでも時と場合ですけどね。というのは、内容によっては、危険要因というのは、テロとの絡みというのも意識しなければいけないんです。危険度情報になりますので。ですから、危険度情報というのはあらゆる側面もちょっと計算しなければいけないものですから、時と場合といいますか、ほんとうに関係者と情報を共有していくという形になります。

 

(濱田主査)

 ほかにいかがでしょうか。

 なければ、最後は私の番なんですが、私のほうから少しお話をさせていただきたいと思います。

 まず最初にこれからの防災のための基本コンセプトとして「安全・安心な社会の構築へのパラダイムの変換」を挙げさせて頂きました。安全・安心社会の構築というのは、前から使われている言葉ではありますけれども、それにパラダイムの変換とつけさせていただきました。安全・安心社会の構築という考え方が国民全体に浸透してきているかというと、どうもそういうことではないんじゃないかというふうに思います。もう一度、この安全・安心社会の構築というのを、国や自治体の政策、それから、国民一人一人の基本的な思考のベースにすべきであるということで挙げさせていただきました。

 言うまでもございませんけれども、都市部への一極集中、地方の切り捨てによる過疎化等によって、国土構造や社会構造が脆弱化しているというのは、先ほどからお話があったとおりでありますが、どうも私から見ますと、短期的な経済重視、何でも東京へ集めたら効率がいいぞというような観点から国が運営されていたんじゃないかというふうに思います。もう一度、この安全・安心社会の構築ということを最重要課題としたパラダイムの変換を図るというのが基本理念になるべきであると思います。

 それから、2番目の中長期的視点に立った我が国における今後の防災科学技術推進の方向性ですが、将来の地震災害を軽減するという場合に、現在行われている理学分野の地震調査研究と、理工・工学・人文科学・医療科学等の地震防災研究が両輪になるということは、申し上げるまでもないと思います。現状を見ますと、地震調査推薦研究本部というものはありますけれども、地震防災を中心に行う国の組織というのは、現在のところ存在していないと考えられます。中央防災会議は行政組織でして、防災研究をする組織ではないということです。将来的には地震調査研究推進本部に対応するような、防災研究の中核組織を国につくるべきであると考えます。

 3番目の防災科学技術の重要課題ですが、先ほどからいろいろ出ておりますが、私のアイデアは、スーパーコンピューターによる巨大災害の統合シミュレーションということを提案したい。地震防災の個別の分野の専門家、例えば、断層の専門家、地震動の専門家、それから各種構造物の応答を計算される専門家、ライフライン関連の技術者、それぞれの分野でいろんな研究をされて、それなりの成果は上がってきたというふうに思います。そういう地震防災に関する研究全体を統合したときに、地震災害軽減のレベルがどこまで達しているか、これは先ほどから盛んに議論になったところであります。それがよくわからないということではないか。私自身も、もう40年ぐらい工学の地震災害の研究をやっていますが、何かやっぱり手詰まり感がある。全体がよく見えていないというのが実感です。そういう状況を打破するために、理学から始まって、工学、それから経済学、社会学、すなわち社会とか人に与える影響等も含めたシミュレーションを行うことにより、ある程度災害の見える化というのができて、防災意識の向上が図られ、我々の研究で足りないところは一体何なのかというようなことも浮き彫りになってくるのではないかと思います。一度これをやる必要があるんじゃないかと考えています。先ほどの議論とつながってくるかと思います。

 それから、(2)に、国土構造と社会構造の災害脆弱性のサイドの徹底的な洗い出しと対策と書いてあります。これは研究ということではありませんが、災害軽減ということを考えたときに、非常に重要だと思っております。再度というのはどういう意味かというと、今まで、例えば、中央防災会議とか自治体の防災会議等で、建物や、ライフライン施設の被害予測を行っていますが、なかなかきちっとした情報が出てこないというのが現状かと思います。ライフライン企業の方に聞きますと、兵庫県南部地震の後いろいろ勉強して、いろんなことをやったから大丈夫ですよというような話しか出てこない。実態がよくわからない。弱点はあるでしょうと言っても、なかなかその弱点を社会に公開するようなことはない。例えば、地下鉄なんかも、水の問題ですね。地震のときに隅田川からの水がどうなるんだというようなことを聞きますと、それは両岸にゲートがちゃんとあるから大丈夫だと言って、そこで議論が終わってしまう。脆弱性を今のうちにもう一度洗い出しておかないと、ほんとうに大災害につながるのではないか。企業等の情報の管理がありますから難しいわけですけれども、ぜひともやらなければいけないと思います。

 その中で、例えば、道路・鉄道を含めた都市のライフラインが重要だろうと思います。それから、復旧・復興のための緊急輸送網(東京湾)と書いてありますが、東京湾が災害直後に海上輸送の手段として使えるかを心配しております。東京湾の埋立地というのは、江戸年間から埋め立てられまして、昭和30年代前半には埋め立てが完了しております。我々が液状化現象をはじめて工学的に経験した昭和39年の新潟地震以前にほとんど埋め立てられていますから、対策はほとんどとられていない。護岸構造も液状化の影響を考えてない。その港湾の近傍に危険物施設がある。神戸で大きな被害が出ましたけど、神戸のときには貯槽類は倒れなかったんですね。それは地震動の継続時間が短かったことが一番の大きな原因だろうと思いますが、首都直下地震を考えた場合には、倒壊して内容物が海上に流出する恐れがある。国は川崎市の扇島に防災拠点をつくって、そこに海外からの緊急物資、他府県からの物資を集結するということになっていますが、専門家の意見では、東京湾はまず2カ月ぐらいは閉鎖することになるということです。油を回収するのにそれだけ時間がかかるというんですね。このようなことも災害対策の見落としの例だと思います。我々の対策というのは埋立地の護岸まではいくんですが、その先の海どうなるのという検討は、どこもやっていない。そういう見落としのチェックをもう徹底的にやるべきだと思います。

 中央防災会議の計画では、緊急輸送物資を高速道路で運ぶ計画になっています。中央高速道路、皆さん通ると何ともないんですが、あれは下から見ていただくと、大変なところに道路をつくっています。土地がないところへつくって、斜面に張りつけてありますから、今回の四川とか、それから宮城県でもありましたが、そういうものを考えますと、どういうことが起こるかというのは非常に心配です。ただ、それを国としては使うんだとただ言っているだけで、検討はされていない。

 災害に脆弱な住宅地も問題です。臨海部の埋立地や丘陵の造成地ですね。それから、低耐震家屋・建物の耐震補強の問題です。兵庫県南部地震のときの最大の人命の損失の原因というのは家屋建物の倒壊です。耐震補強は現実には進んでいない状況です。それから、老朽化しつつある防災基盤施設。例えば、将来の我々が予想しないような降雨に対して、堤防、ダム、こういうものが十分に機能するかというようなことがあるのではないかと思います。今の時点でこういうものをすべて洗い出して、手を打つということが必要であろうと思います。

 その他として、防災分野の国際支援ということを書かせていただきました。これも皆さんからいろいろお話を伺いました。地震災害があって、私は海外の被災地に出かけることがありますけれども、我が国に対する期待感、この防災分野の期待感ということは極めて高いと思います。これにこたえることが我々の使命であろうと思います。防災支援ということを国の海外協力の基幹に据えるべきだと思います。

 わが国の防災分野の国際支援に関して若干苦言を呈したいと思うんですが、国交省、外務省、文科省、もうそれぞれプログラムをお持ちになっておやりになっているのですが、連携が不十分でないかと思います。府省庁の枠組みを超えて国際支援をできるような統一的な仕組みをつくっていただきたいと思います。

  以上でございますが、私の報告につきまして、何かご質問。

 

(天野委員)

 先ほど私が言ったモデルケースというのは、まさしく今濱田先生が言っていただいたようなことなんです。だから、実際に発災したときに、こういう社会基盤系とか何かが、今ある状態がどういうふうになるのかということを、首都直下に限定してでもいいと思いますので、検討するべきでしょう。それで、濱田先生のお話を聞いていて、とても今心強く思いました。そういうことをやることで、研究課題がたくさん出てくると思います。実用化研究としてとても大切なことだと思います。

 

(田中委員)

 先ほど言われた経済学とか、そういう方を巻き込む一つの手立てにはならないことはないと思うし、経営学的な人だと関心を持つと思うんですけどね。実は今似たようなことをやっていて、細かいところで見れば見るほど、いろいろあるんですよね。ボトルネックは当然あり得るんですが、例えば、これは地震ではありませんけれど、高潮で伊勢湾台風並みで、とりあえず東京湾はもつんですけど、ところがアン中州がみんなやられちゃうんです。そうすると羽田空港は使えないじゃないですかとか、結構妙なところにボトムアップが出てくる可能性はあると思うんですよね。これは、だけど、相当首都直下でもやられていますけれども、かなり時間がかかるというか、綿密にやっていく必要があるんだと思いますけどね。

 これは私も同感だということを前提に議論を吹っかけますが、経済効率型の社会から安心・安全へと。そのときに、それをほんとうに国民として納得してもらえるのかな。今、派遣で切られて、明日食べられないという人に、30年先の首都直下知るかという論理は、やはり必ず出てくると思うんですよね。そこは一度、ほんとうはきちんと議論をしておいたほうがよいという印象があって、個人的には、災害って起きると弱い人をもっと弱くするんですよね。だから、ある意味では、安心・安全の社会の構築の中で、例えば、そういう弱い人に対しての最後のセーフティネットとしての防災なんだという言い方のほうがまだ通るのかなと思ったりして、こういう一つ一つの言い方をどうしていくのか。

 安心・安全の構築と言われてもぴんと来ないけど、先ほど荒巻委員がおっしゃっていたのは、最良のでしたっけ。要するに、世界的に見て一番いい安全・安心をやるんだと。

 

(天野委員)

 私、こういう防災系の成果というのは、最終的には予算化計画だと思うんですよ。それで、さっき濱田先生が経済的にとおっしゃいましたけど、ストーリーをつくったときに、それがどのぐらい被害が出て、どこからどういうふうにあらかじめ対策を立てていけば、その対策費用はどのぐらいかかってどの程度の効果があるのか見えてくると思います。それと、費用対効果をバランスさせたときに、まず日本の国としては絶対やらなきゃいけないものというのが見えてくるはずだと思うんです。ハード的な、事前の対策としてはですね。あと、人的なソフトのマネジメントに関しても、こういうことをちゃんと皆さんにアナウンスしておこうとか、そういうのがやっぱり出てくると思いますし、重みづけのための指標は、仮かもしれませんけど、経済的評価、投資対効果の話だと思います。その結果として出てくるのは、対策って皆さんおっしゃっていますけど、私は予算化計画だと思います。

 

(濱田主査)

 経済と防災というのは相反しているものでは決してないですよね。むしろ、例えばアジア諸国なんか見たら、いわゆる貧困と災害、これが負のスパイラルになっていますよね。

 私、ここで短期的な、過度の経済的効率の追求、この発想が問題だと思います。何でもかんでも東京に集めろという時代がありましたよね。あれは適正な国土形成の観点からまずかったと思いますよ。だから、過疎地域が増加した。それによって、国土構造がおかしくなった。

 

(田中委員)

 もう懇談の時間に入ったような気もするので、ちょっといいですか。

 今のお話を伺っていても、実は冬の2月の東北に行ったんですよ。そうすると、救急車で病院に行くのに2時間かかるんです。要するに、2時間の救急車の搬送に耐えられない患者さんは、もうそこでトリアージなんですよ。お産もそうなんですね。それから、農業所得が年間40万。「これ、子供に継がせられますか」と言われた瞬間に、実は日本の国土ってものすごく偏在しているんですね。その中で、東京に集めようとするもしないも、そこはもう状況として厳しすぎるんですよ。だから、政策的な誘導もへったくれもなくて、今も現状そういう状況になっている中での最低限の安心・安全社会って何なのかということを言ってあげないと、ちょっと東京に住んでいる人の発言に思われてしまうという気がちょっとしましたけどね。生きていけない。

 

(濱田主査)

 その前に戻すべきではないんでしょうかね。

というのは、もう今、例えば、農業もだめで、森林がだめで、こんなところに住んでいられないと出てくるような状況になっちゃったわけですけど、それそのものが問題だと。国土の有効利用という観点から。だから、その前の段階に戻す努力が必要だ。

それが国の政策になるでしょうね。

 

(田中委員)

 だからこそ、山古志にあれだけの巨額をつけて戻そうとしたというのはありだと思いますけどね。

 

(濱田主査)

 もう全体を通して、少し懇談という形にしたいと思いますが、先ほど来出ていたテーマで大きいのは、横断的な取り組みとか、統合化、連携化とか、そういう話が出ていましたね。まずそんなところから議論をお願いします。ご意見があれば御発言下さい。

 

(佐土原委員)

 今の濱田先生の統合シミュレーションとかでもそうなんですけど、まずどういうふうに全体を構成するのかというところから、社会科学と工学と理学と、いろんな分野の人がもうパラレルで参加して、ある程度具体的なフィールドについて、その関係性をしっかり整理するということをまず着目してやっていく必要があるのではないかと思うんですね。

 そのときに、ただ、ある分野の人たちが一緒にその場を共有するというだけで、話し合っているだけではなかなかその接点が見出しにくいわけですけれども、問題の起こっている現象をある程度、どういうプロセスで、何が原因で、どういうことが結果として起こっているかというようなことについて、ある程度のフロー図できちっとあらわして、それがいろんな分野の視点からそれをあらわしていったときに、それを、ある場を共有して具体的なフィールドが決まったときに、どこが接点になるのかというようなことをきちっと話し合っていくような、そういう取り組みで、ある程度概念的なモデルで整理をきちっとした上で、今度は具体的な場所の定量的ないろんなデータに落として、先ほどのシミュレーションができるようなプラットフォームみたいなものをつくっていて、そういう概念の整理と実際のモデルで定量的にやるものと行ったり来たりしながら、具体的に深めていくというようなプロセスみたいなことが、具体策としてはイメージされるということで。

 

(濱田主査)

 それは、でも、ワーキングというようなものではできないと思いますよ。国全体として専属のチームを作って、かなりの時間をかけてやる必要がある。

 

(林委員)

 首都直下地震によって発生する問題構造の見える化をやっているんですけど、2年やってまだ終わらないですよ。みんな今議論になったことを踏まえてやってくれているんですけど、やっぱりそう簡単にはいかない。

でも、多分、今年の暮れぐらい、来年の2月ぐらいには結構格好いいことが発表できるんじゃないかと、内心期待しているんですけど。

 しかし、そういうシミュレーションには相当な幅があります。不確定な要素がいっぱいありますので。だから、今までのシミュレーションの概念というよりは、どっちかというと、シナリオプランニングに近いようなイメージだと思っていただけたらいいかと思います。この国が滅亡するところから、発展するぐらいまでのレンジで話が展開していくような形で。

 

(佐土原委員)

 いや、そうなんですけど、そこがメーンになるというか、実際、首都直下の中ではかなりメーンな形でということだと思うんですけど、ほんとうにそこにフォーカスを当てることについての広いコンセンサスを得て何かやっていくということが非常に重要だと思っています。

 

(林委員)

 2月にデッドラインを設けて追い込まないと、みんな忙しくて動いてくれないんで、ともかくデッドラインを先に設定しています。

 

(濱田主査)

まず全体を統括する統合シミュレーションがあって、その下で個別の研究が推進される。E-ディフェンスもその一つだと思うんですよ。E-ディフェンスの活用の方法も、そういうところから出てくるんじゃないですか。

 

(岡田委員)

 E-ディフェンスの究極の目標は、その数値震動台をつくるということなんですけれども。

実際に破壊をして、どういう条件になったら壊れるかというファクトデータをとって、それをコンピューターに入れ込んで、最初は建物を壊すところから始めるけど、最終的には都市をコンピューターの中につくって、まさしくそのシミュレーションをやろうということですが、それには多分20年、30年かかるかもしれませんね、実用レベルのものは。非常に簡単なものとしてデモンストレーション的なものは既にやった例はあるんですけれど、まだとても現実的なものではありません。

 

(濱田主査)

 分野横断的連携をしてやっていかなければいけないということは、これはもう皆さんの全員の合意だと思いますが、そのための方策は何なのかということでご意見があれば、お出しいただきたいと思いますけど。

 

(松澤委員)

 やっぱりさっきの話に戻りますが、先ほど、私、ちょっとヒステリーぎみに言いましたけど、とにかく一つのシナリオでいいから走ってみて、全部川の水を流してみるという意味ではないですけど、すべてのレスポンスを計算した上で何ができてくるのかというのをやられているようなことは、一つでも出てくると、やっぱり随分変わってくると思うんですよね。それは、その経験を生かして、また次の別の地震とか別の災害に適用していくということがだんだん積み重なっていって。最初から全部をパラに万全にやろうとしても、多分、何から手をつけていいかわからないし、とりあえず一つプロトタイプ、先ほどおっしゃったかもしれないですけど、そういうことをやっていただければ、すごくうれしいなと思います。

 

(田中委員)

 首都直下を今攻めていらっしゃるんですけれども、要するに、今松澤先生がおっしゃったことって、期待はあるんですが、ありとあらゆる被害想定が、建物の被害、それに付随した人の被害で終わっているんですよね。つまり、そこから先に行ける、先ほどの言葉を変えれば、一般方程式はないんですよね。

 だから、そこはやっぱりなぜ被害想定がそこから先へ行けないのかというのは、一種の卵と鶏みたいなところがあるんですね。やっぱりやっていてもわかりますけど、アイデアがない。結構アイデアねえな、想像力ねえなと思いますけれども、その想像力をどう突破していくのかというところは、僕はかなり大変だと思います。

 

(中尾委員)

 そういう問題設定が出たというのだって、一番大きな成果なんでしょう。つまり、こうやってこうなるとなると、もう研究というか業務なわけですから。研究というのは、見えないところをやるところに意味があるわけでしょう。

 

(濱田主査)

 災害の実体の「見える化」を図って災害認知社会を構築するのは極めて重要な課題だと思っています。

 

(田中委員)

 と思いますけど。ただ、それで、さっきから山岡先生とかに振られたのに、おれの責任かとか思いながら、結構大変だなという言いわけをしているだけなんですけれども。

 私の目から見ていて、今までの防災の中で川上、川下という言い方をさせていただいたのは、一つは、例えばハザードマップもまさにそうなんですね。あれって、我々から見ると、あんなもの配ったってしまわれるに決まってるじゃん、だって、あんな大きな地図を張る壁ないもんとか、そもそもそういう素朴なところからないんですよね。では、どういう仕組みでやればいいのかという発想が実はなくて、カラーがどうのこうのとか、明るい話題を入れたほうがいいとか、そういうところに行っちゃうんですよね。やはりそこは、どうしたら伝えられるかというところから入っていっているための限界はそこに幾つかあるんだと思うんですね。

 あとは、実は防災意識の話もそうなんだけど、防災意識を上げれば耐震化が進むか、ということはないんですよね。ないとは言いませんけれども、意識と行動ってかなり、意識から行動に踏み出すには相当ステップが要るんですね。わかりやすい言い方をすると、私、たばこが体に悪いことは重々知っています。でも、全然禁煙していないんですね。それから、おそらくこの中にも人を殺したいと思ったことがある人はいらっしゃると思いますけど、だれも殺していないはずなんですね。つまり、ある意図と行動って実はものすごいギャップがあって、そこを埋める要因は何なのか。

 いや、これ、ちょっと極端な言い方をしましたけど、実は環境問題でそこは相当やっぱりやられたことがあって、意識を幾ら上げてもだめだ、別のファクターが効いちゃっているということが出てきているんだと思うんですね。そういう部分というのが、実は川上に上がっていっていない部分もあると思うんですね。

 

(中尾委員)

 今おっしゃったところは、どちらかと言えば、人文学の世界だと思うんですよ。つまり、意識と行動との関係とかいうのはね。さっき社会問題プラスで人文も入れる必要があるんじゃないかと、ちらっと言ったと思うんですけど、結局、そういう問題に踏み込んで個々の人たちがどう対処するかというときには、そこのところが問題、例えば、こういうハザードマップがあって、例えば、あなたの住んでいるところはこの上に建っていますよ、だけど金がないから引っ越せないとか、そういう経済問題と比べて、ご先祖様はここにどれだけ住んでいるから動くのは嫌だとか、そういうのまで踏み込まないと、実際の人の顔が見える災害対策までいかないと思うんです。

 日本なんかはどちらかというとあんまり大きな違いはないけど、特に途上国なんかへ行ってそれをやるときには、全然違う習慣、宗教とかなんかの背景のもとでやるので、さっき申し上げたのはそういうことを言ったつもりなんですけど。

 

(天野委員)

 ちょっと話を戻します。さっき松澤先生がおっしゃったように、やっぱり何か無理やりでもいいから、上流から下流まで一本ストーリーを流すことは必要だろうと思って今日は繰り返し発言させていただいています。災害シナリオを考える場合、途中まで考えたら、それより先が越えられないことがあるはずです。越えられないというか、越えられるはずがないんですね、現状では。なぜかというと、そういうところに新たな研究課題があるわけですよ。それを、私、さっき割り切りという言葉で言わせていただいたんですけど、無理やりにでも、ここに研究課題ね、じゃここはこういう方向性にして、とりあえず次行こうというような感じで、無理やり上から下まで流してみると、こことここに穴があって、これが研究課題だよねみたいなのが見えてくるのではないかなと思っています。全部流せたら、これは研究課題はないんだと思います。だから、やっぱりそういう課題を探すということは、どこに穴があいていても、そこは穴があいているけど、とにかく飛び越しちゃおうというような割り切りをしながら、さっきワーキンググループでは大変かもしれないとおっしゃっていましたけど、私はあんまりがっちりしたものでなくていいと思うんですが、とりあえず一回流してみるということが必要なのではないかなと思っています。

 

(山岡科学官)

 そういうふうに、理屈でわかるところは理屈で押さえます。ここは経験則で押さえます。経験がなかったら、えいやと直感でみたいな形でとにかくつくっちゃいますというのが重要です。そうすると、全体像がわかって、問題点がわかって、そこをバージョンアップすると全体がまたよくなるというイメージですよね。

 

(天野委員)

 そんな感じです。

 それで、例えば、1年と割り切って、もう割り切ってやれる方にリーダーをおまかせするのが良いと思います。少々無責任な言い方で申し訳ありませんが。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 次はそういうタイプの研究開発課題を立ち上げてみようというのは、考え方としてあると思います。現在は、各省庁でそれぞれの分野で独自に実施してきたものを無理やりつなげようと試みています。その作業の中で問題点を洗い出して研究課題を立ち上げれば理想的だと思います。そのなかで一歩一歩ずつですけど進んでいけば、よりよいものになっていくと考えています。

 

(濱田主査)

 この学際的というか、連携というか、そういう問題についてはこれからの委員会でも議論して行きたいと思います。

 

(林委員)

 方向性だけ申し上げておくと、さっきのやり方で、やっぱり1年半ブレークスルーできなかったんですよ。というか、みんな一生懸命、専門家と称する人が集まってやっても、混乱でした。結局、ブレークスルーは何かというと、実はブレークスルーできたんですけどね。レイヤーモデルをつくったことでした。今皆さんが議論しているようなものを、全部一つの平面で議論できると考えていたのが失敗でした。議論が果てしなく発散してしますのです。そこで、全体を大きく3つのグループのレイヤーに分けて、さらにそれでサブレイヤーを3つずつ持たせるレイヤー構造をつくって、レイヤーに分けて議論すると結構うまくいくんですよ。

 今度、7月28日に、虎ノ門パストラルでわれわれチームのワークショップをやりますので、それを見学に来ていただくと、2年間議論するとどんなところまで整理がつくかがわかる。そこから予定を考えたほうが、投資効率が高いと思います。

 

(濱田主査)

 時間的な余裕があれば、現在進行中のプロジェクトの概要をこの委員会でご説明いただいてください。それをベースにして、またご意見をいただく。ワークショップは、もちろん、時間のある人は行っていただきたいと思います。

 横断的な研究の推進によって成果が上がっている例をお示し頂ければ、議論のステップになると思います。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 首都直下地震防災・減災特別プロジェクトの話を理学・工学・社会科学を一緒に束ねようとして四苦八苦しているプロジェクトの例として紹介した方がよろしいでしょうか。

 林先生には必要に応じて補足していただければと思います。

 

(濱田主査)

 是非、お願いします。

 では、引き続き審議を進めます。

 

(林委員)

 もしよろしければ、幾つか。今日お聞きした中で今後の論点だと思ったことを申し上げたい。一つは、事業継続というのを何人かの方が言われていて、それを今後の中心概念に盛り込んでいくべきかどうかというのは、やっぱりある全体の議論は要るんだと思うんですね。

 それから、2つ目は、防災と言ったときに、地震だけに限らないようにしようということはコンセンサスだと思いますが、どこまでそれを広げていくか。一つは、テロとか、新興感染症とか、事故とかといったほうへの広げ方と、もう一つは、環境との連携とかすみ分けというような、そういうのがある。

 それから、3つ目のポイントは、社会構造そのものが大きく変化している中で、これが持っている新しい問題点というのを解明せずして、ハザード側だけ解明していてもやっぱりだめなので、実際に災害とか被害とかに出てくる前提になっている、そういう大きな社会構造変化ですね。人口減少、少子・高齢と言われているような、そういうものをどうするか。

 それから、統合の中で、これは全部の方が言っていたわけではないけれども、濱田先生が言われたことを技術的に解消しようとすると、佐土原先生が言われるようにGISの上にレイヤーを重ねて見える化をするという技術を、どのぐらいのウエートで見せていくかというね。

 多分、このマルチハザードのなかから、環境を特出しして別の項目として置くかどうかも入れるとすると、このくらいが今回の中でのポイントだと思います。もちろん、国際貢献はもう一つ入れてもいいですが、それは割合総論的なところだから、中のそういう問題を片づけたときに、今の在り方が変わって、国際貢献の在り方もまた変わるみたいな議論になるんじゃないかと思います。

 

(濱田主査)

 次回にもう一度10名の委員の方々にご意見を伺い、検討を進めたいと思います。この委員会の目的は、それを踏まえてこの第4期基本計画に文科省からどう反映させるか、またその文書を作成することでよろしいですか。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 全部分野横断的に第4期基本計画をどうすべきか検討する特別委員会が省内に設置されています。そちらの方に防災を中心とした重要な課題をプレゼンテーションしますが、各分野が発表しますので、その場ではある意味競争となります。次回の柱としてふさわしいのはどれか、課題としてはどれが重要であるのかという議論が行われます。

 

(濱田主査)

 これだけ時間を費やしてやっているので、ここでの議論を集約して、今後の防災研究の方向性というようなことで、小冊子でまとめるということも考えて下さい。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 ご指摘のとおり何らかのアウトプットをとりまとめることを考えております。

 科学技術基本計画が決定されると研究開発の理念や方向性が提示され、今度は逆にそれらが細分化していって、各分野での計画が作成されるようになります。その中では、今回の議論から重要な視点が出されますので、今回の議論の内容を踏まえてまとめていくような形にしていければよいと思います。

 

(濱田主査)

 冒頭申し上げたように、ここの場はいろんな分野の方が出てこられている。国の機関として、こういう防災の研究の方向性、これを議論する場所というのは、多分ここしかないだろうと思う。

 ここの議論をまとめて、今後2年間ですか、委員会活動をやるわけだけど、それの基本にしましょうよ。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 まだ結論が出ているわけではないですが、事業継続のようなテーマは、今後の国全体の理念として、掲げるべき課題であると思っています。それはテロや環境なども含め得るような概念として必要だと思っており、これからも議論していくべきと考えています。

 さらに、具体的な研究事項として、今度は環境との連携なども、政府全体で考えていくべきだと思います。

その中でもある程度具体的な課題を焦点化し、統合して結果を出すような研究方法を採用するのではないかと思います。

 

(濱田主査)

 それでは、今の話の結論として、第4期基本計画に文科省から出す書類の中に、ここの議論を踏まえてつくっていただくということと、それから、先生方からご報告があって、議論をしましたから、それをもとに今後の防災研究の進め方というようなことをまとめる。そのまとめるときに、どういう方向でまとめるかというようなことを文科省にお考えいただいて、次回にでもそれをお示しいただければありがたいと思いますけど。

 

(松澤委員)

 これは、前、平成15年、あと3年後の平成18年に出ていますね。また3年後の21年に出すのかと思ったけど、そういうわけではないんですね。それを見直すということは、第4期の科学技術基本計画が出た後で行うのですか。

 

(渡邉防災科学技術推進室長)

 ほぼ同時になります。科学技術基本計画の内容が見えてきたら、その中身を踏まえながら、今度は分野別の推進方策の策定に着手することになると思われます。

 

(濱田主査)

 全体を通してご意見があれば、おっしゃっていただきたいと思います。

 

(国崎委員)

 全体ではないんですが、よろしいでしょうか。

 先ほど濱田先生のお話の中で、まずは徹底的な脆弱性の洗い出しというところがありまして、私自身もほんとうにこういう部分というのは重要だと思っております。ただ、一方で、もう簡単に予測ができるぐらいすごいことが起きるというのは、おそらく国民も感じている部分だと思います。「きっとこの高速道路だって危ないよね」とか、「この橋も危ないよね」というのは、多分感じているところだと思うのですが、何が問題かというのは、洗い出しをして、その結果をシミュレーションで出した場合、あきらめにつながるような情報しか出せないというような気がするんですね。例えば、「家屋の耐震化をやったところで、火災をもらったらだめじゃない。結局、私たちはどこに避難したらいいの」というところがあると思います。その中で、液状化もあって、火災もあってという中で、安心して逃げ込める場所がない。中央防災会議でも、避難所があふれ返ってということで、逃げようと思っても受け入れてくれないような状況の中で、一体私たちはその中で防災防災と言うけど、どうやったら生命を維持できるのかというところの安心情報が、今現在、阪神淡路大震災以降も国民に示されていないと思うんですね。

 それは、一つに、災害拠点と呼ばれるところの施設の貧弱さがあると思います。学校にしてもそうなんですけれども、小中の公立の学校の耐震性だって、まだすべてが進んでいない、完全でないなんていうような状況もあり、ほかの公共施設においても、自治体の市役所においても、もう横浜市なんてかなり危ないんじゃないかと思うような、今改築もしていますけれども、危ないじゃないかと職員の方もあきらめちゃうような建物に対策本部があるなんていうところも、まれではありません。そういった国民にとって心休まる情報が示せていないというのが、やっぱり問題ではないかなと思うんですね。北朝鮮のミサイルが飛んできて、どこに逃げたらいいのってよく聞かれますけれども、私もわかりません。一体どうしたらいいのと。先ほどの、頻度は少ないかもしれないけれども大きな火山の活動があった場合には、そんな大量の降灰があった場合に、どこに逃げたらいいのというのもわかりません。

 そんな中で、国が、この場合にはここに逃げてください、この場合はこうですよと、そこで完全に国民全体を受け入れてくれるような……。「あふれちゃうから先着順ね」みたいな感じの部分が現状あるんですね。そういった中で、私たちはどのように安心な情報を出せるのかという中で、研究を進めていく課題であるのかなと思います。例えば、地盤情報から、どういう施設を地域でつくっていくのか、防災拠点となる施設をつくっていくのかというところの部分であったりとか、まずはハード面で、いざ国民が避難しよう、生命を維持しよう、自分の力では、家はつくったけど火災が来ちゃった、火災旋風が来ちゃったなんていう場合には、必ずここにいれば命が守れるよみたいな部分を示すことができない限り、安全・安心なとうたう部分というのは、かなり実現が難しいのではないかと感じました。

 特に荒巻委員が横浜市においての危険要因を出していただきましたが、このバランスを見ていただいてもわかるとおり、抑制要因が圧倒的に少ないんですね。このバランスを見ていただいても、日本の防災に対する、減災に対する体制の不十分さというのが明らかになっているなと思います。

 本日の産経新聞の朝刊に、国家存亡の危機というところで、人口問題が挙げられていました。30年後の2039年には、毎年100万人がいなくなるというような結果が出ておりました。つまり、仙台市並みの人口が毎年なくなるということなんですね。そういった国家存亡の危機にあたり、少子化、子供をどう守っていくのかというのも、やっぱり国の対策としてやっていかなくてはならないのではないかというのはあります。

 もうほんとうに防災に対して考えていく課題はたくさんあるのですが、ひとつそのような安全な情報を示せるようなハード的な体制という部分も研究材料の中にあればいいのかなと思いました。

 

(濱田主査)

 我々の目標は一つだと思うんですよ。将来の自然災害を軽減する、そういうことへ向かっているわけですよ。そのために、まず研究の現状を把握することが重要です。研究の全体像を明確にする。

 

(山岡科学官)

 安全と安心で、多分、これは本当に人文の先生に考えていただきたいんだけど、安全だということは科学的に評価できるだろう、けれども、それで安心と思うかは、多分違うんじゃないかなと思っていて、例えば、原子力安全委員会なんかで地元説明会に行っても、「これが不安です」「これが不安です」と幾らでも出るんですね。結局は、安全であることを積み重ねて、やっと安心につながる。だから、逆に言うと、安全でなくても、何となく何事も事故が起きなければ安心して車を運転しているようなものであるというところがあるので、今おっしゃったのは、安心という問題でアプローチされた。ここはわりと安全という問題でアプローチしていると思うので、そのギャップをどう埋めるかというのも、多分、どこかで問題になると思います。というのが僕のコメントで、答えは……。

 

(松澤委員)

 私も同じことを考えていて、安全は我々は与えているかもしれません。日本って結構安全な国だと思うんだけど、安心かと言われると、30年ぐらい先のことを考えると、結構不安になっている人は多いと思うので。それは、でも、安全は理工学の分野である程度できるかもしれないけど、安心は多分絶対無理で、そういう意味で、人文科学、社会科学の人たちが加わるというのは、やっぱり安心な社会をつくるために連携するんだということは何となく……。

 

(荒巻委員)

 ちょっと横浜の話題が出たものですから。実は次の作業部会のために持ってきていたものですけれども、これ、減災行動のすすめということで、つい最近でき上がった資料です。安全と安心というキーワードの部分がございますけれども、安全を提供して、安心感を持つためには、やはりしっかりと自分たちで行動してくださいということになります。先ほどの国崎委員の発言で耐震化しても火災が出たらという部分では、耐震化することによって火が出にくくなることは間違いないです。ですから、そういう方向性を、今、とにかく減災という行動をしていただくご理解をしていただけるようなパンフレットをつくってあるということで、参考にお配りさせていただきました。

 

(濱田主査)

 ほかにいかがでしょうか。

 ございませんようでしたら、本日はこれで終了したいと思います。

どうもありがとうございました。

 

以 上

 

お問合せ先

研究開発局地震・防災研究課防災科学技術推進室

(研究開発局地震・防災研究課)