基本計画推進委員会(第5回) 議事録

1.日時

平成24年7月24日(火曜日)14時~16時30分

2.場所

文部科学省3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について
  2. 「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について(有識者からのヒアリング)
  3. 最近の科学技術政策の動向について(科学技術白書について、総合科学技術会議における議論について 等)
  4. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、有川委員、井上委員、國井委員、黒田委員、佐々木委員、柘植委員、平野委員

文部科学省

森口事務次官、藤木文部科学審議官
(大臣官房)田中総括審議官、徳久政策評価審議官
(科学技術・学術政策局)土屋局長、渡辺次長、阿蘇計画官、藤原計画官補佐
(研究振興局)吉田局長

オブザーバー

印刷博物館館長 樺山紘一氏、科学ライター 松永和紀氏

5.議事録

【野依主査】 
 ただいまから科学技術・学術審議会第5回基本計画推進委員会を開催いたします。
 本日は、大垣委員が御欠席となっております。また学術分科会人文学及び社会科学の振興に関する委員会の樺山主査、それから科学ライターの松永さんにおいでいただいております。
 それでは、事務局から資料の確認をお願いいたします。

【藤原計画官補佐】 
 それでは、資料の確認をさせていただきます。
 机上にクリップどめの資料があるかと思いますが、その中に配付資料と参考資料がとじてございます。まず1枚目に議事次第がございますが、その後ろをごらんいただきますと、資料の一覧がついてございます。本日、資料多数になっております。議題の1に関連しまして、資料の1-1、それから1-2、それから資料1-3は、カラーのA4、1枚紙と報告書の2点になっております。資料1-4の関係が3点、パワーポイントの横判資料と、それから雑誌を抜粋したもの、それから同じく資料の1-4-3としてパワーポイントになっております。その次、資料2-1、こちらもパワーポイントを印刷した資料になってございます。資料2-2が2点、2-2-1、こちらもパワーポイントの資料で、2-2-2は雑誌の切り抜きになってございます。資料2-3はA3の1枚でございます。資料3、議題3関係ですが、資料3-1がA3の1枚、それから資料3-2ということで、パワーポイントを印刷してとめたものになってございます。
 その後ろにゼムクリップでとめた形になっておりますが、参考資料が束ねてございます。一番上が基本論点になっております。そのほか、机上には、机上配付資料といたしまして、第4期科学技術基本計画の白い冊子と、平成24年度の「科学技術白書」の冊子を置いてございます。
 以上でございますが、もし不足などございましたら、いつでも結構でございますので事務局までお申しつけくださいませ。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、議題1の「科学技術・学術審議会の各分科会における議論の状況について」に入ります。前回委員会を開催いたしました4月17日以降の第4期科学技術基本計画の推進に関する各分科会の審議の状況について、事務局から御報告いただきます。あわせまして、研究計画・評価分科会における研究開発方策の検討状況につきましても御報告いただきたいと思います。大垣分科会長が御欠席ですので、事務局からお願いします。

【阿蘇計画官】 
 それでは、まず資料1-1をごらんください。こちらは各分科会の検討状況でございます。前回4月17日の基本計画推進委員会以降の開催状況を斜体の太字で記載してございます。中身は個別には御説明いたしませんけれども、各分科会、委員会におきまして審議の取りまとめに向けた議論などを進められているところでございます。
 また、1ページ目をごらんいただきたいのですが、研究計画・評価分科会に宇宙開発利用部会が7月12日付で設置されておりまして、7月19日に第1回の会合を開催しましたので、御報告いたします。
 資料の1-2をごらんください。こちらは研究計画・評価分科会でこれまで分野ごとの委員会で検討されてきました推進方策の取りまとめをもとに、課題領域ごとに関係するほかの分科会、例えば海洋開発分科会、測地学分科会などと協力いたしまして、研究開発方策の検討を行っているところでございます。資料1-2はその検討状況を中間的に取りまとめたものでございます。1から4までの課題領域ごとに四つのグループに分けて検討しているところです。課題領域1は環境エネルギー、課題領域2は医療・健康・介護、課題領域3は安全かつ豊かで質の高い国民生活、2ページ目、お開きいただきまして、課題領域4は科学技術基盤となっております。
 例えば35ページ目のA3の1枚紙をごらんください。これは、課題領域3の検討ですが、ここでは防災・減災を中心に議論をしておりますけれども、一番上の「災害から社会を守る」、「災害から人の命(と健康)を守る」というような大きな課題から、それを達成するために必要な課題を細分化して分類分けを行いまして、関係する他府省の取組も含めて整理を行い、分野間連携を図るべきところはないか、また新たに取り組むべき課題はないかというところにつきまして検証を行っているところでございます。
 また、最後のページをごらんいただきますと、これもA3の1枚紙ですけれども、このほかに領域4の科学技術基盤におきまして、研究開発プラットフォーム構築に向けたシナリオマップというものを作成いたしまして、全体をふかんしながら検討を進めているところでございます。
 研究計画・評価分科会では、さらに作業を進めまして、8月に取りまとめたいと考えております。また次回のこの基本計画推進委員会の場で進捗を御報告いたします。
 資料の1-1と、それから資料の1-2の御説明、以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、各委員の皆様から何か御質問ございますか。よろしいでしょうか。
 それでは、ありがとうございました。研究開発方策につきましては、ふかん図を作成するなど、工夫がされていて、わかりやすくなっていると思います。これは阿蘇計画官の大変な労作ですので、感謝したいと思います。
 それでは引き続き、各領域において取りまとめに向けた検討をお願いします。
 次に、学術分科会人文学及び社会科学の振興に関する委員会における検討状況です。現在、同委員会で取りまとめをされている報告書案につきまして、樺山紘一主査から御報告いただきます。
 第4期科学技術基本計画は、重要課題への対応がポイントとなっております。2月に総会が取りまとめました、参考資料1基本論点において、社会の要請を十分に認識する必要性を指摘しているところです。この委員会では、学術への要請と社会貢献といった観点での検討もなされているということですので、本委員会の議論にも大変参考になると思います。
 それでは、樺山主査、よろしくお願いいたします。

【樺山主査】 
 はい、承りました。樺山でございます。よろしくお願い申し上げます。
 お手元の資料1-3-1及び1-3-2をごらんいただければと思います。リスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について、報告の案について概要を御説明申し上げます。
 なお、この括弧の中に「案」とございますが、実は本来ですと、明日私どもの分科会におきまして最終的な討論をいたしまして、最終の報告とする予定でございましたが、本日と日程が逆転いたしましたので、本日につきましては報告の案を御紹介申し上げるということになっております。よろしくお願い申し上げます。
 まず本報告案について、これまでの検討の経緯を御説明申し上げます。人文学及び社会科学の振興に関する委員会は、当初、前期の学術分科会の審議経過報告「学術研究の推進について」を踏まえ、社会事象の省察、既存の社会システムへの批判、新たな制度設計の提示を行う人文学・社会科学の振興の在り方について調査することを目的として設置されました。
 調査検討を開始する直前の平成23年3月、東日本大震災が発生し、5月には科学技術・学術審議会総会において、東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点が決定されました。
 本委員会では、これらの動向を踏まえ、平成23年5月に第1回を開催して以降、専門委員や有識者からのヒアリングを行いつつ、今般の震災や今後憂慮される災害を背景としつつ、社会の安寧と幸福に貢献すべき学術として、人文学・社会科学は今後どのように人間社会等に向き合い、研究活動を行うべきかという視点から議論を進めてまいりました。計9回にわたって会議を開催し、資料にございますようなリスク社会の克服と知的社会の成熟に向けた人文学及び社会科学の振興について、現段階では報告案でございますが、取りまとめた次第でございます。
 先ほどの座長からのお話もございましたとおりに、私ども人文学及び社会科学に対しては、ほかの科学分野と同じように、現段階にあってこの防災等々の問題について十分な思考をめぐらせ、しかるべき貢献を行うべきであるという強い要請もいただいておりますので、私どもはこれを受けて議論を進めてきた次第でございます。
 それでは、報告書の報告案の構成について申し上げます。1-3-1、もしくは1-3-2の目次をごらんいただけますでしょうか。どちらでも結構ですが、1-3-1のほうが簡単でございます。本報告案は、大きく3部構成となっております。第1部では、現在の我が国における人文学・社会科学の振興を考える上で最も重要だと思われる三つの視点について提起し、また第2部におきましては、戦略的に人文学・社会科学研究を推進する上での四つの課題を論じております。そして第3部においては、当面講ずべき五つの具体的方策を提言しております。
 この三つの構成部分はそれぞれ問題を理解するための仕組みに対応しているとともに、3部はそれぞれ、主には長期的・中期的・短期的な時間尺度にも見合ったものであると考えております。
 まず第1部、人文学・社会科学の振興を図る上での三つの視点について御説明いたします。平成23年5月、科学技術・学術審議会総会において、東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点が決定されました。第1部の人文学・社会科学の振興を図る上での視点は、この決定を念頭に置きながら、我が国の人文学・社会科学の振興を考える際に意識しなくてはならない三つの視点を提起いたしました。
 第1の視点は、諸学の密接な連携と総合性であります。ここでは、我が国の人文学・社会科学が急速に進む専門化を優先させた結果、過度の細分化に陥り、知の統合や分野を越えた総合性への視点が欠落しているのではないかという問題意識のもとで、分野による方法論や価値観の違いが存在することを相互に理解しながら、しかしかつお互いに補完し合えるよう、十分に議論を行いながら研究を進めることが大切である旨、提起してあります。
 第2の視点は、学術への要請と社会的貢献であります。ここでは、今般の災害や社会の高度化・複雑化を背景に、研究の社会的機能の発揮が期待されているという現状認識のもとで、研究者と社会との双方向のコミュニケーションから社会的要請への積極的な応答を試みることの必要性、あるいはまた社会的貢献を目指す研究を行う際の目標設定の重要性を提起しております。
 また、第3の視点は、グローバル化と国際学術空間であります。これは人文学・社会科学は母国語特性に固執するあまり、外国籍の研究者や外国由来の活動に対して消極的な対応をすることもまれではなかったという反省から、単に受け身の形でグローバル化に対応するだけではなく、日本由来の学問領域を国際交流の場に引き出すことを責務の一つとして考える必要があるとの旨、提起しております。
 次に、第2部について御説明いたします。第2部の制度・組織上の課題では、前期の学術分科会における審議のまとめ等を踏まえて、戦略的に人文学・社会科学研究を推進する上での四つの課題を抽出いたしました。
 第1の課題は、共同研究のシステム化であります。ここでは属人的な触れ合いから生起することが多かった共同研究の発展の在り方を検討し、安定的・継続的に事業を運営し研究成果を社会実装につなげていくための、支援事業の枠組みを越えたプロジェクトの展開といった、共同研究のシステム化の必要について述べております。
 第2の課題は、研究拠点の形成・機能強化と大学等の役割であります。ここでは、人文学・社会科学においても多数の研究者の組織的な参画を求めるべきテーマがあることを指摘し、大学等の拠点の機能の活性化や拠点間の相互連携が不可欠である旨、述べております。
 第3の課題は、次世代育成と新しい知性への展望であります。ここでは、内向き志向などの課題の克服を目指す次世代育成に向けて、実社会と学術との関連性を追求する教育プログラムを実施することや、適正な評価制度に基づく人材育成の重要性について述べております。
 第4の課題は、成果発信の拡大と研究評価の成熟であります。ここでは、分野間で成果や評価の視点が異なることに留意しつつも、研究評価の視点として、実社会からの視点を意識することの必要性や、成果が出るまでに長い時間を要する研究への挑戦も一定の適正な評価を受けるべきである旨、述べております。
 最後に、第3部について御説明申し上げます。第3部の当面講ずべき推進方策では、第1部、第2部での議論を踏まえ、当面の具体的な推進方策を提案しています。
 第1の推進方策は、先導的な共同研究の推進であります。ここでは、第1部の領域開拓、実社会対応、グローバル展開、という三つの視点を目的とした共同研究を支援する枠組みを構築し、長期的な視点で支援を行うことについて提言するとともに、共同研究の課題として設定すべき研究領域を例示しております。
 また現在、独立行政法人日本学術振興会で実施している課題設定による先導的人文・社会科学研究推進事業のプロジェクトの成果が自然科学にも取り入れられ、貢献するならば、より実装段階に近い共同研究へ波及していくことも有益であること、あるいはまた、科研費の新学術領域研究等において適切に評価し、さらなる展開へつなげていくべきことを求めております。
 第2の推進方策は、大規模な研究基盤の構築であります。ここでは、拠点化への支援の必要性とともに、研究者コミュニティーの合意や計画の妥当性等を踏まえ、日本語の歴史的典籍のデータベース構築等の大規模計画について、社会や国民の幅広い理解を得ながら推進することを提言しております。
 第3の推進方策は、グローバルに活躍する若手人材の育成であります。ここでは、すぐれた資質を持つ若手研究者の海外派遣、若手研究者の多様なキャリアパスの確立、学生の留学促進のための環境整備、産官学にわたるグローバルに活躍するリーダーの養成の取組などを提言しております。
 第4の推進方策は、デジタル手法等を用いた成果発信の強化であります。ここでは、国際情報発信力強化のための取組の評価や、オープンアクセス誌の刊行支援に向けた科研費の制度改善を提言するとともに、大学等における機関リポジトリの積極的な整備と研究者の理解促進を求めております。
 第5の推進方策は、研究評価の充実であります。ここでは、レビューの在り方について議論を深めつつ、人文学・社会科学の特性を踏まえて、評価の視点を増やしていくことが必要である旨、意見をまとめております。
 本報告案につきまして、私からの説明は以上でございます。委員の皆様からの活発な御意見、御批判等を承れば幸いでございます。ありがとうございました。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 自然科学と人文・社会科学の密接な連携、あるいは課題達成を目指した研究の推進など、多岐にわたる重要な御指摘をいただいたものと思っております。
 次に、柘植委員から御発表いただきますが、総会で取りまとめました基本論点の実践に向けてということで、今の樺山主査の御報告に関連した内容もあると思いますので、質問の時間は柘植委員の御発表の後、まとめてとりたいと思います。
 それでは、柘植委員、お願いします。

【柘植委員】 
 柘植でございます。資料の1-4-1に、今、野依主査からお話のあった東日本大震災を踏まえた科学技術・学術政策の基本論点の実施に向けた提言をさせていただきます。
 この要旨に書いてございますように、今日もこの添付資料、参考資料の1にも添付されていますが、今年の2月29日の審議会総会の資料で検討の論点がまとめられております。それを実施する際に、教育の現場、研究の現場、それから私も産学連携推進委員会をやっていますが、産学官連携の現場、あるいはファンディングの審査とか評価の現場において重視すべき、実施すべき、実行すべき視座を提言したいと思います。
 今からの話は、どうしても私は工学分野ですので、工学以外、例えば理学等ほかの分野から見ると少し違和感を覚えられることがあるだろうということは十分認識した上でお話しさせていただきます。
 まず参考資料1にも書いていますとおり、視点1の1の社会の要請ですが、これはいろんなスペクトルがあると思いますが、工学的に見ますと、「沈みゆく日本の新生」という言い方で、私はとらえました。もうご存じのとおり、日本は今まさにぜい弱な社会経済体質をいかに再生するか。教育の面でも、先ほどの報告でも触れられましたけれども、私は科学技術分野の人材育成が、初等から中等、高等教育にわたりまして負のスパイラル構造に残念ながらまだある、それを復元せねばならないと思います。それから、やはり日本の新生に必要なのは、まさに持続可能なイノベーションのけん引エンジン設計、その司令塔機能です。総合科学技術会議が科学技術とイノベーションというものの司令塔の強化を今、図ってくれていますけども、まさにそこに、不幸なことに東日本大震災と原発事故による国難の遭遇であります。そういう意味での国力の減衰の危機的様相からの復興と復元力の強化という面が、この社会の要請の非常に大きな要因だと私は思います。
 そういう面で、まさに科学技術創造立国の正念場だと思います。社会のための科学技術への期待にこたえねばならない。詳細は省きますが、まさに今、政府が努力してくれています強い公財政、強い経済、強い社会保障というプラスのスパイラルを目指すと同時に、赤で書いたように、むしろその公財政の赤字の増加とか、社会保障の自然増とか、税収の減少とか、負のスパイラル構造をいかに正のスパイラルにするかについては、このイノベーションの振興政策と科学技術振興投資と教育投資を一体化していくことで、持続可能なけん引エンジンにしていく。このような教育と科学技術とイノベーションの三位一体推進が本当に不可欠だということを、この絵で訴えたいと思います。
 したがって、もう待ったなしの短期的政策と同時に、今述べたような視点での中長期施策、教育もリンクした中長期施策の推進をすべきというのが、視点の1に答える政策であります。
 一方で、ちょっと話が続きますが、この日本の新生と課題解決を支える人材育成の強化ということは訴えられているわけですけども、先ほども触れられましたが、縦割り型の学術ディシプリンということの制約から、イノベーション創出の視点からの教育が弱体化しているということを認識せざるを得ません。特に工学分野の視点に偏ってしまうのかもしれませんけども、イノベーションのプロセスに不可欠な「専門性を持ちながら統合型の能力も持つ人材」、私は数学の総和(サンメーション)の意味から、「シグマ型」と名づけておりますが、こういうΣ型統合能力人材の育成のメカニズムが教育と研究の現場で崩壊しているということが今、現状です。世界ではむしろ、まさに科学技術と教育とイノベーションの一体的推進戦略というのが進んでおりまして、日本が非常に遅れている焦眉の課題だと思います。
 そういう意味で、視点の1点目に対しては、科学技術・学術、特に工学の社会的使命の視点に立ちました原点回帰が日本新生への喫緊の課題であること。繰り返しですが、「生きた教育と研究とイノベーションの一体推進能力の強化」、その司令塔機能の強化、それから教育現場での実践ということが視点の1として非常に大事でございます。
 視点の2で、課題解決のための学際研究や分野間連携ということがうたわれております。これは日本学術会議の科学と学術に対する一つの考え方で、認識科学(あるものの探究)と、設計科学(あるべきものの探求)というものです。私の場合は、どちらかというと工学分野ですので、認識科学に立脚した設計科学である工学として、いかに教育あるいは研究及び社会貢献できるかということを主張してまいりました。今、工学界としては、工学は認識科学に立脚した設計科学だけで社会的使命を果たせるかという命題に取り組み始めております。
 これは、別な言い方をしますと、X軸が、今申し上げた認識科学で、Y軸が課題解決型の研究としての設計科学としますと、従来、このA点を工学研究とか教育のドメインとしてとらえてきたわけです。私はそれが主軸だと思いますが、どうもやっぱり今度の東日本の問題を考えますと、技術の社会技術化科学というZ軸をやはりY軸にプラスしないといかんのではないかと。B点ですね。まさにこれが社会のための工学という面でのドメインではないかというとらえ方で今、工学の仲間の中で研究を始めております。
 設計科学と社会技術化科学の重要視点についても、今の研究の中で、どうしてもやはり科学者、技術者の視座からの設計科学、それから社会の需要の視座からの社会技術化科学というものの両輪でやらないと、一つの軸では無理であります。言いかえますと、人文社会科学との共同をいかに工学もやっていくかということが原点になってくるのではないかと。
 もう一つ、ちょっと話が発展しますが、設計科学と社会技術化科学で非常に大きな違いが考えられますのは、確率論的に考えて良い失敗と、設計科学はこれを一つのベースにせざるを得ないのですけれども、社会学的には絶対に犯してはならない失敗とをしゅん別して考えて、社会システムの創成と設計基準に実践することというのも一つの重要な視点であると思います。
 もう一つ大事な話は、科学技術への信頼回復であります。まさに国民のリスク・リテラシーと科学研究者・技術者の社会リテラシー、この両方向の振興を行うことが重要であります。
 視点4では、社会への発信と対話ということが訴えられておりますが、その2にリスク・コミュニケーションの在り方と国民のリスク・リテラシーの向上がうたわれております。これを言いかえますと、科学技術への信頼喪失復元へのかなめであると同時に、我々市民としては科学技術リベラルアーツの振興の勧めとなるということが提言できると思います。
 これは、ご存じのように科学者、あるいは技術者の話は信頼できるかということです。震災以前と以後につきましては、「信頼できる、どちらかというと信頼できる」という意識調査の数字が本当に落ちてしまった。まさに、科学技術創造立国日本の重大危機であります。この科学者と技術者に対する落ちた信頼の復元のためには、きのうも政府のほうから報告ありましたけれども、事故調査検証に求められる視点でありますけれども、やはり福島第一原子力発電所事故の本当の原因というものを、何段階ものなぜ、なぜの深掘りによって、きちっと我々が、国民がわかるようにしなければならない。
 もう一つ大事な話は、立派に地震と津波に耐えた女川原発や新幹線等の事例の調査。どうしてそれが耐えたのか、だれがそういうことをきちっと考えていたのかということの本当の理由の見える化をしていくということも2番目です。
 そして、それは当然、いわゆる産業界、学術界、行政が学ぶべき教訓の一般化が求められると同時に、やはり市民に向けた透明性ある説明と国民的議論の誘発が不可欠であります。基本的には、家庭でのお父さんとお母さんと子供の会話でも、「そうだったのね」と、こういう会話がされて、まさにそれが科学技術リベラルアーツの振興につながるものであります。これを避けては、科学技術への信頼の復元もできず、ましてやリスク・コミュニケーションも、さらにはエネルギー・環境等、日本の将来の選択肢の議論も意味がないと言っても過言ではないと思います。
 視点の1の3では、日本の科学技術のシステム化の必要性を訴えています。それから視点の2の1、2、課題解決のための政策誘導及び学際研究・分野間連携と教育・人材育成と、それから視点3では、研究開発成果の適切かつ効果的な活用ということを訴えられております。これはまさに一言で言うと、日本の強みを生かした持続可能なイノベーションけん引エンジンの構造、それからオープンイノベーション・パイプライン・ネットワークの構築と強化が大事であるということを提唱したいと思います。
 これは日本のイノベーションのけん引構造のぜい弱性をアメリカと比較しております。アメリカの場合、企業の中央研究所時代が崩壊した後、大学を取り巻くベンチャー企業とベンチャーのキャピタルとか、本当に生きた教育と研究とイノベーションの三位一体が非常に強固になっているということです。日本の場合も、やはりかつての企業の中央研究所時代、あるいはNTT等の国研等が衰退しました。こういう形で、破線であえてかきましたように、教育と研究とイノベーションの連携がぜい弱な状態、まさに日本のイノベーションのけん引構造がぜい弱であるという認識に立ちまして、まさに知の、日本のイノベーションけん引構造の強化が必要だということを申し上げたものです。時間がないので中身は省略いたしますが、非常に簡単にまとめています。
 横軸が科学技術領域の広がりです。縦軸が社会経済的価値創造のステップであります。ここに書かれていることは、イノベーションというのは、確率論的に、あるいは非線形的なプロセスで今まで起きてきたというものが実績であって、派生技術の活用とか他技術の取り込みがなかったら、イノベーションは起こらなかったかということです。大事なことは、いわゆる研究領域の融合、あるいはやはり産業側や社会からのシーズ、あるいはバック・トゥー・サイエンスと、こういう非常に不連続的なネットワークの存在が、今までのイノベーションの成功事例を一般化していることです。まさに教育研究・基礎研究と、それから研究開発の人材育成と、それから産業側のほうが主に担っておりますイノベーションの創出、当然、人材育成、この三つが非常によくつながっているときに成功事例が得られたと、こういうことです。こういうものをやはり日本のイノベーションのけん引構造エンジンの強化の視点として持っていくべきです。
 最後になりますが、そういう視点で、各段階の価値創造のフローとインターフェース、この青でかきました、この橋渡しの明確化という視点が、研究開発をどのポジションでやるにしても大事だということを提案したいと思います。各段階というのは、まさに大学が主として担います知の創造と、それから産業が担いますイノベーション、その途中にある目的、基礎研究とか応用の研究、あるいは開発、といったことです。まさにその中では、教育と科学技術とイノベーションの一体振興の重要性、価値のフローとインターフェースの重視、こういう形のものをこの提言の中にはぜひ含めていくべきだと考えております。まさに先ほどの破線で結んだ大学と産業と研究型の法人のものは、こういう価値と人材のフローとインターフェースの制度評価、この強化を伴わないと、なかなか融合、融合と言っても実体を伴わないのではないか。
 と同時に、やはり、こういう視点での司令塔の機能の強化を伴わないと、なかなかかけ声だけでは実行に移らないのではないかと思います。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、委員の皆様、何か御質問、御意見ございますでしょうか。
 平野委員、どうぞ。

【平野委員】 
 常々、私は樺山先生も大変重要なところを御指摘くださっているなと思っております。以前、このところに関係します基本問題の検討委員会で文理融合を含めて、いろいろずっと各大学が、対応してきたのだけれども、重要だということを理解しながら、本当にどこまでそれが達成できているのだろうかという疑問も含めて、発言させていただきます。
 私も振り返ってみると、昔、国大協で、蓮見先生が国大協の会長をやられていたときなのですが、教養部がなくなってきた後、教養教育が各大学で危機感を持たれて、どういうふうにリベラルアーツといいますか、一方では教養教育と別な意味なのですが、どう再構築するかという議論がありましたが、それが結果的にあんまりできないまま、長く来てしまったと思います。
 これが、一方では科学技術の中でも縦割りになり、樺山先生が言われた文系の中だけでなくて理系と文系がもっとうまく、本当の意味の融合ができなかったということが今度の震災のときに、いろいろニュースなどでも出てきている大きいところかなと思います。長い話になって恐縮なのですが、もう一度やっぱり大学教育の基本になるリベラルアーツの部分、それがリテラシーにもつながってくると思いますので、そこを国としてきちっと対応するようなシステムづくりが求められると思います。それからもう一つ、一番うまくいっている例があるとしたら、各大学でどこがうまくいっているのかというのを、文部科学省で調べていただいて、ここではなくて、多分それは高等教育だと言われるかもしれませんが、そういう縦割りじゃなくて、やはりきちっと対応することが重要な時期に来ていると思います。
 かけ声を何回かけてもうまくいきませんし、私もそれは大学学長として務めた上での責任ではあるのですが、中に組織はつくるのですが、どうしてもうまく、本当の意味の融合まで行きません。その仕掛けをこういうところでも議論して、提案ができることが私は重要かと思います。ぜひその面でまた話が進めばと期待しております。
 よろしくお願いします。

【野依主査】 
 ありがとうございました。有川委員、どうぞ。

【有川委員】 
 樺山委員からの報告をいただきまして、これまでいわゆる人文社会学に対する期待、あるいは要望等がいろいろあったかと思うのですけど、そういったことが非常にわかりやすく整理されていて、そしておそらくこういったことに従ってやっていけば、相当振興が進むのではないかというような期待感を持ちながら聞かせていただきました。
 その上で、一つだけ。先ほど平野先生がおっしゃいました、例えば融合であるとか統合とかということが、特に人文社会科学系とのことで、これまでもよく言われていますし、今後もまた言われると思います。もしかしたら震災などもそうだったのかもしれませんけれども、今、これまでに経験していないような問題が科学技術といいますか、そういったところで起こってきていて、その問題の解決にどういう方法論があるのか、どういう科学哲学でもってやっていったらいいのか、要するに第4のサイエンスと言われる、今のところ手のつけようがないような非常に新しい問題が起こっています。
 これはビッグデータという言い方でお聞きになっていると思いますけれども、例えば経営的なこと、ファイナンスなんかも含めまして、計測観測機器、センサー関係など、とてつもない量のデータがあるという状況があって、そこは宝の山のはずなのですけれども、そこにどうアプローチしていったらいいか本当にわからないわけなのです。
 それをうんと小さくすると、単位でいいますと二つの単位ぐらい、つまり10の6乗ぐらい縮めて考えれば、現在の技術あるいは理論である程度はわかるかもしれませんけれども、ゼタと言われているような10の21乗ぐらいのレベルになりますと、これまでの考え方というのはほとんど通用しないのではないかと思うわけです。いろいろ考えてみても、どうしようもない。何をもってわかったとするのか、何をわかろうとするのかということさえわからないというようなことが一方で起こってきている。
 融合とか統合とか、既存のものをうまく使っていったらできるだろうというようなことでは対応できないような新手のものが出てきているということも考えなければいけない。つまり、歴史などからも学ぶことができないような、これまでと全然違った問題が起こりつつあるということです。これは絶えず、時々起こってくるのだろうと思うのですが、おそらく哲学のような分野にリードしていただく必要があるのかなということを感じている次第でございます。
 それからもう一つは、このまとめの裏面のほうにあります3ぽつの(4)のデジタル手法というところでございますけれども、このオープンアクセス、あるいは機関リポジトリにつきましては、研究環境基盤部会のもとにあります学術情報基盤作業部会での審議の最終的なまとめがあした出る予定でございまして、かなり踏み込んだことになっているかと思います。
 それから、直前に出しましたまとめもございまして、それと先生御指摘のこととは整合していると思います。
 少し余計なことを申し上げましたかもしれませんが、一つの期待感ということでお聞きいただければと思います。

【野依主査】 
 私も今、有川委員のおっしゃったことで、樺山先生に一つお伺いします。先生がおまとめになった報告書案は、今後とも人文学あるいは社会科学を学術としてボトムアップで取りくんでいこう、その中に様々な新しい道を見つけていこうと、こういうことですね。
 自然科学、あるいは工学は、大学等で学術的な研究も大いに取りくんでいますが、もう一つ、国の戦略として、国がイニシアティブをとってやっているものもあります。例えば宇宙開発や新しい資源の開拓、あるいはスーパーコンピュータを開発するとか、これらはトップダウンのイニシアティブがあって初めてできるのです。大学で学術研究として取りくんでもできないものですね。
 今後、社会科学が社会のためにあるには、国がとは申しませんが、トップダウンのイニシアティブがあって、やるべきことがあるのではないか。今、有川委員おっしゃった、ビッグデータをどうするかということもです。世界中にとにかくあふれるような情報、あるいは個別のデータがある。それらを、どこかがイニシアティブを持って統合し活用するというようなプロジェクト研究あるいはプログラムをやらないと、個々人が学術研究をどんなに懸命にやっていても本当のことはなかなかわかってこないのではないでしょうか。そういう動きは、樺山主査の分野では、アメリカあるいはヨーロッパ等で行われていないんでしょうか。
 いわゆる学術の振興と科学技術の振興は振興の方法が少し違うと思います。

【樺山主査】 
 よろしいでしょうか。ありがとうございます。今の平野先生及び有川先生からの御指摘等をいただきまして、私ども、さまざまに考えておりましたことと大変共通する、そこに通底する問題を御指摘いただきまして、ありがとうございました。私ども、まだ十分に気がついていない問題もございますけれども、今後ともそうした御指摘を十分に考慮に入れながら、今後とも考えていきたいと考えております。
 今、座長からいただきましたこの問題でございますが、お手元の資料1-3-1からちょっとごらんいただけますでしょうか。その人文学・社会科学の振興を図る上での三つの視点というのを三つ掲げておりますけれども、そのうち、とりわけ2番目の部分、つまり「学術への要請と社会的貢献」とございます。この場合の学術の要請及び社会的貢献は、無論、社会一般からの要請もしくはそれに対する貢献という意味もあり、また同時に政府もしくはそれに準ずる地方自治体その他ございますけれども、こうした公のパブリックな主体から寄せられる様々な要請という事柄も含んで考えようではないかというのがこの報告の趣旨でございます。
 御承知かと思うのですが、これまで人文学及び社会科学は、研究者の主体的な発想の側から求めるべきものであって、よそからもたらされるべきものではないという考え方が極めて強くございました。私どもは、その考え方が誤っているわけではないけれども、しかし同時に、今御指摘がありましたような様々な側面で、現在あるいは将来にわたって政府あるいは自治体その他、場合によっては社会の様々な主体から私どもに寄せられるいろいろな要請、あるいは宿題というものがある、それに対していかにこたえるかという、この問題もまた極めて重要な意味を持ち始めていると考えております。これは現在の大震災も含めまして、今後そのことのウエートが極めて高まっていく、その際に、私どもはどういうチャネルを通して、どういう姿勢でそれを受けとめ、私どもの研究活動、あるいは実践活動に結びつけていくかという、そういう問題が存在するのだということを、とりわけこの1の(2)学術への要請と社会的貢献の中でもって強調したつもりでございます。
 まだまだ私どもとしては十分に感受性を磨いているとは考えられませんけれども、今後ともその方向で努力したいと、そんなふうに考えております。ありがとうございます。

【野依主査】 
 わかりました。
 野間口主査代理。

【野間口主査代理】 
 私も3人の先生方のお話、大変感銘を受けました。第4期の科学技術基本計画で、目指すべき国の姿というのを5項目に分けて議論しまして決めましたけども、私はこれが大変いい国の姿を提示できていると思うのです。そこで単なる物質的な尺度だけでない、新しい社会づくり、国づくりみたいなことの必要性が行間にあふれているような気がして、非常に期待しているわけですけども、有川先生が御指摘になったような視点は、いわゆるナチュラル・サイエンスだけでは無理で、やはりソーシャル・サイエンスとの連携があって初めて可能になると思いますので、是非このような視点を高めていただきたいと思います。
 あの基本計画は、すぐれて野依委員会の大きな貢献によって決まったと思っておりますので、是非実りあるものにしていただき、今後の期間に持っていくためにも、よろしくお願いしたいと思います。

【野依主査】 
 ありがとうございました。

【國井委員】 
 ありがとうございます。1-3でまとめられたことは、情報サービス産業から見てもまさに社会科学だけではなく、情報学に対しても全く同じ項目が挙がってくると思っています。三つの視点、四つの課題と、それから推進方策。
 そこの中で、一つお伺いしたいのが、これは、評価の中に入っているのかもしれませんけれど、ファンディングの問題というのは挙がっていないのでしょうか。ここは、私どもは非常に重要な項目だと思っております。
 あともう一つは、若手研究者の話が出てくるんですけれど、多様性というところで、もっと女性の研究者とか、多様な考え方を持った研究者というところも非常に重要だと思うのですけれど、キーワードとしてまとめのほうには入っていないので、この点についてはいかがかと思います。

【樺山主査】 
 よろしいでしょうか。

【野依主査】 
 どうぞ。

【樺山主査】 
 まず前者、つまりファンディングの側面ですが、私どもとしては、基本的には、今御指摘がありましたとおりに、3の最後5、つまり研究評価の部分のところでもってメンションいたしましたけれども、これまでいずれかといいますと、研究者、とりわけ人文系、社会科学系の研究者のほうは、ファンディングという事柄について幾らか鈍感である、あるいは緩やかに考えてきたというのが事実としてあります。
 これは、平たく申しますと、自分たちはあんまりお金は要らないんだと、ちょっとのお金があって、不自由がない程度にお金があればという、こういうことを率直な感想として漏らす方が極めて多くおありになります。そのことは否定できないのですけれども、しかし他方ではファンディングを必要とするような大規模な研究も現在、進行しつつありますので、その組織の在り方、あるいはそれに伴うファンディングの在り方については今後ともその問題を開拓していかなければならないということをこの部分でもメンションしておりますので、御指摘の事柄につきましては、もう少し私どもも踏み込んで考えたいと思っております。ありがとうございます。
 続きまして、女性研究者の件ですが、これはもちろん女性研究者だけではなくて、若手の研究者の育成であるとか、これまでいずれかというと後ろに退いていた問題が、現在では極めて重要であると、これはそればかりではなくて、外国からおいでになる研究者も含めた多様な研究者の育成が必要であるということは、とりわけこの研究者の育成、次世代の育成という部分でもって考えてまいりました。
 御指摘のような点、もう少し踏み込むことができるよう、今後とも考えていきたいと思っております。ありがとうございます。

【野依主査】 
 それでは、予定した時間になりますので、次に移らせていただきます。樺山主査、柘植委員、ありがとうございました。
 8月1日に予定されております科学技術・学術審議会総会では、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」に基づく審議結果の中間取りまとめを予定しておりますので、今ございました議論も参考にさせていただきます。
 他の分科会からの御報告事項はございますでしょうか。
 それでは、議題2の「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的な考え方についてに移ります。
 今日はお二人から御意見を伺うことにいたします。先にお二人の御発表、その後、質疑応答の時間をまとめてとりたいと思っております。
 まず黒田委員から、経済の専門家として自然科学者と人文・社会科学者の関係の在り方に対してのお考え、あるいは客観的な根拠に基づく政策形成の必要性などについてお話しいただきたいと思います。
 よろしくお願いします。

【黒田委員】 
 どうもありがとうございます。黒田でございます。私に与えられた課題は、本日、今まで議論されてきたことと大いに関係がございまして、自然科学と人文・社会科学の連携ということが一つの大きなテーマになってきます。私は経済学が専門なものですから、経済学の観点から、連携の在り方、本当に具体的に連携ということを突っ込んでいこうとしたら、どういうところが課題なのかということを含めて、少し感想を述べさせていただきたいと思っています。
 この第4期基本計画が野依先生のもとでまとめられましたときに、私も委員会に出席させていただいていまして、私には初めての基本計画の委員会だったのですが、政府のR&D支出をGDPの1%にしたいという目標が数値目標として挙げられていました。非常に素朴な疑問で、「どこからこの1%という数字が出てきたんですか?」という御質問をぶしつけに野依先生にいたしました。本来、科学技術というのは最も科学的な分野なわけで、したがってその基本計画を立てるということ自身が本来、科学的でなければいけないと。そのはずなのに、このGDPの1%というのは、何となくアメリカが全体で民間合わせて4%で、アメリカの場合は政府支出が防衛も含めて3%なんですけれども、日本はそれに負けてはいけないので、政府のR&Dを1%ぐらいにしようじゃないかと、民間合わせると、トータルで大体アメリカ並みの4%になるんじゃないかという程度の非常に直感的な議論からそのGDPの1%というのが出てきたということを、出席しているうちにだんだんわかってまいりました。
 これはやっぱり科学技術イノベーションの基本計画をつくるという中では、もう少し科学的にできないものだろうかということを言ったことがありまして、口は災いのもとで、その結果として、科学技術イノベーション政策の科学というものを推進する委員会をやらなきゃいけないということで、首を突っ込むことになったわけでございます。
 やってみると、なかなか大変です。今日いただいた10分間の時間でどれくらいお話ができるかあんまり自信がないのですけれども。もうマーバーガーが2005年に言っていることですけれども、非常に経済、社会がコンプレックスでダイナミックに動いていると、そのグローバル化の中に対応できるようないろんな政策を打つ、特にサイエンス・ポリシーをやろうとすると、社会科学との連携がどうしても必要だと。今まで皆さんのおっしゃったことです。この議論の出発点である基本論点にも、先ほど柘植先生のお話の中にもありましたけれども、幾つか科学的にそれをやるための方策、方針が決められて、論点となっているわけでございます。
 特に視点の3-1には、人文・社会科学と自然科学の連携ということが言われているわけですけれども、社会的ニーズを把握し、それを研究課題への反映をさせて、科学技術イノベーションを振興させると、それをいかに科学的にやるか、その中で自然科学と人文・社会科学の連携がどうしても必要だということだと思います。
 実際にそれがどうやったらできるのかということが大きな問題で、視点の4-1には、科学的な助言の在り方ということで、複数の政策オプションを提示することによって、それを踏まえて政策決定プロセスに反映させていかなければいけないとかかれています。こういう基本的な論点が既に明示されているわけですけれども、これを具体的にやろうとすると、どうやればいいかと。当然、その政策、実践ということが非常に中心課題になりますので、ただ科学技術のための政策の科学を深化させるというディシプリンを立てるだけではなくて、それを実際に動かしていく必要があるわけで、その結果、それが本当に社会の課題解決に結びついたかどうかということも評価しなければならないということになります。
 現在、CRDSに私はおりまして、CRDSの中で、この図は吉川センター長が最初に書かれたものを、だんだん話をしているうちにデフォルメをしながら進んできたものですけれども、現実の社会、そして自然の動きがあると、その動きに対して現在どんなことが課題になっているのだろうかということを発見する観察者が必要で、その発見した観察に基づいて、その問題を解決するためにはどういう政策オプションがあり得るかということをつくっていくことになる。
 さらに、その政策オプションを国民等々の合意形成のもとで意思決定の最終決定者たる政治家がデシジョンをして、それを行動に移していくと。それがまた社会、自然を動かしていくということで、このぐるぐるめぐりがスパイラルのような形で政策科学が深化して、それを政策として実施し社会を変えていくということが、政策を科学的にやっていくということだろうと思います。
 そのときに、いろんな観察、エビデンスが必要なのですけれども、一体、エビデンスという、ここで言っているものは一体何だろうかと、どういうエビデンスがあれば、本当にこのサイクルがうまく回っていくようなことになるのか、またその結果として、反省することもあって、そのサイクルをどのように補正していくことができるのかといったことが最大の課題になるのだろうと思います。
 少し理想めくのですが、けさも有本CRDS副センター長とメールでやりとりしまして、あんまり理想的なことばっかり言ったって実際に、経済学者は本気でやる気があるのかないのかということを言われました。本当にそのとおりで、経済学者がやる気がなかったら、こんなこと言ってもしょうがないねと言っていたわけです。やはり経済学者は相当、反省しなきゃいけない部分、これから申し上げますが、あると思います。
 政策立案をずっとやっていくときに、今のプロセスをもうちょっと分解してみますと、第1番目に、やっぱり政策を立案するときには当然、将来、日本をどうするか。先ほど野間口委員がおっしゃいましたけれども、政策のビジョンがあるということがスタートです。そのビジョンに対して、ある種のコンセンサス、それで行こうということが必要になってくると思うのですけれども、その政策ビジョンを構築して、そのビジョンに基づいて達成したい社会像ができますと、そこで今、解決しなければいけない政策課題が出てくる。第4期の基本計画にはこういう文言が間に入っていますけど、ここにははっきりと持続的な社会をつくっていくためにはどういうことをやらなければならないか、そのときの科学技術がどういう役割をはたすべきかいうことも既に明記されているわけです。
 ただ問題は、このビジョンをつくるときに、現実の社会をどう認識するかについてはやはりエビデンスが必要で、そのエビデンスにどういう構造を持っていくか。おそらく、先ほどから出ています、今、大変な変革の時代であるということですけれども、世界の人口構造、動態構造も変わってきている、それから世界の要素や資源の賦存状態もどんどん変わってきている、それから環境問題も大きな問題になってきている。これ自身は、今までかつてないほど巨大な科学技術が人類を動かしてきた結果として、起こってきたいろんな問題でもあるのですけれども、それを将来どういう姿の国に、もしくは世界に持っていくのかという政策のビジョンをつくることが非常に重要でございます。
 そのときには、一つは、やり方はいろいろあると思いますけれども、その現状のままでもし推移したら、一体どんな社会が来るのかという一つのシナリオを書くことも必要かもしれない。それがBAUシナリオと我々経済ではよく言いますけれども、Business as usualなシナリオとして、今何もしなければこんな世界が生まれるよということを頭に置きながら、じゃあ、そういう世界になることが政策の立てたビジョンからほど遠い世界であるとしたら、一体どういうところに政策の課題があるのかということを初めて抽出できるだろうと思います。  そのビジョンを実現する、政策課題を実現するためには、政策の目標設定があって、第4期基本計画には、この四つぐらいの目標が既に定められていまして、これを実現させる。問題は、このときに、この目標を定める上で科学的にやるためには何が必要なのかというと、今、いろんな政策がこのサイクルを回るわけですが、科学技術イノベーション政策に限ってということで前提にしますと、今までのサイエンス・テクノロジー・イノベーション・ポリシーがいかに行われてきたか、その成果がどういう形になって、どういう形で今、問題を招来させているかという現状をきちっと把握する、評価することが必要です。そういう過去の科学技術政策のフォローアップが数量的なベースを踏まえてエビデンスとしてとらえられる形にしておくためには、これは大変なデータベースをつくらなきゃいけないわけで、まさにビッグデータそのものだと思いますが、そういうものを蓄積していくということがまず必要だと思います。
 そうすると、過去こういうことをやろうと思ったのだけど、現状ここができていないとか、ここに問題がある、ここに穴があるということがわかってくる。それが人材の問題かもしれないし、リソースの問題かもしれないし、ファンディングの問題かもしれませんが、そういう問題がわかることによって初めて、この目標達成に対して現在の科学がこうなっているから、これをどうしなければいけないかという研究分野等々の特定ができるのだろうと思います。
 その結果として、今度はそれを変えていくわけですから、将来、科学技術がどうなるかということについてもある種の知見を集約しなければいけない。これはもちろん経済学者をはじめ、人文・社会科学だけでできるわけではございませんので、自然科学の先生方とコラボレートすることによって、科学の深化のロードマップをつくっていくということが必要です。ここもまたかなりのビッグデータになると思います。
 その中で、そのロードマップに従って何を実現すれば目標が解決できるかというためのいろんな政策オプションの選び方があって、それはファンディングを含めたいろんな科学技術政策のやり方もあるでしょうし、社会システムをいろいろ変えなきゃいけないという方策もあるでしょうし、いろんな形のオルタナティブな手段が考えられる。その政策手段を実現したら、最初のBusiness as usualがどう変わったかということを示すのが政策オプションということになるのだろうと思います。
 このオプションは、この選択されるいろいろな政策手段についてできますので、その選択された手段によって、この政策オプションの中身は変わってくるはずです。その結果を国民が知り、そして学者が議論することによって、このサイクルを回って、政策オプションの提言というところまで参りますので、そこから次のステップに動いていくために、合意形成の場に至るプロセスがまたあります。ここにもまたある種の合意形成の科学がそこに必要とされるのだろうと思いますけれども、そういうことを繰り返しながら、スパイラルを動かしていかなきゃいけないということになると思います。
 今までの三つのフェーズをまとめますと、こういう形になって、片方、政策としてやっていくフェーズと、科学としてデータベース等々、そのときのエビデンスをどう蓄積するかというフェーズがいろいろ相乗りすることによって、全体の政策オプションという発想のものが出てくるのだろうと思います。
 それに対して経済学は何ができるかということが一番問題で、今の経済学というのは、果たして本当にこれにこたえられるような知見を持っているのだろうかということが問題です。幸か不幸か、ここには経済御専門の方は少ないような感じなので、少々乱暴なことを言いますけれども、私は、経済学というのは本来、社会のシステムデザインをすることが目的だと考えています。アダム・スミス以来、社会システムのデザインであったわけですけれども、アダム・スミスからパレートぐらいまでの時代は、現実の経済というものとノーマティブな社会が描いている帰結というもののかい離かい離というものを頭から認めておりまして、したがって、ノーマティブな帰結に近づくためにはどういうデザインをすればいいかというのが一つの課題になっていました。
 それが、新古典派、リカーディアンが出てくるころになると、だんだん現実の経済もノーマティブな世界と同じ形で動いているなという夢想が始まってまいります。その夢想が始まることによって、本来であればノーマティブな帰結を出す根本の原理がきちっとしたエビデンスを踏まえたものでなければいけないにもかかわらず、そのエビデンスとノーマティブな帰結を導くための根本命題とがだんだんかい離かい離していってしまった。それが非常に大きな問題で、そのことを痛烈に批判したのが、ノーベル賞経済学賞を受賞したレオンチェフという学者です。レオンチェフは、産業連関表という統計表を創ったのですが、1941年、ちょうど僕の生まれた年ですけれど、”Structure of American Economy”という著書を書いていまして、それは、General Equilibrium Analysisという、今までノーマティブな世界で考えていた一般均衡理論というのをエンピリカルなものにするということに非常な使命感を感じさせるものでした。レオンチェフはもっと現実の実証的な技術、科学の知見の構造的把握を、経済の分析体系に入れることができないかということで、産業連関表というものを提案いたします。
 これは非常に大きな実験だったと思うのですけれども、これは参考資料というかたちで幾つかの図表を発表資料に加えましたが、産業連関のことは詳しく申し上げる時間がないのですけれど、全体をコモディティー(商品)というものを中心にして分けて経済現象を体系的かつ定量的にとらえようとしました。コモディティー、現在の日本の産業連関表では、1国を450とか500ぐらいのコモディティーに分けて、そのコモディティーの生産に係る投入の技術構造をとらえて、それがその商品の産出の構造にどう結びつけるかというマトリクスをその時代の1国の経済を律する技術の把握として描いています。その投入産出の構造の一つ一つに、その時代の技術の構造が入ってきます。これを時代を追って並べてみると、何枚かの経済構造と捉える断層写真を見ているようなもので、そのとき、そのときの経済局面でとって、その断層写真をずっとつなげることによって、技術の構造の変化とそれを受けた商品の産出の構造の変化を追っていくことができるとレオンチェフは考えたわけでございます。
 そういうものを使いながら、技術の相互連関ということを産業連関というツールで初めて把握しようとするのですが、残念ながら今の経済学では、このレオンチェフ等々の発想がどんどん後退いたしました。これはアメリカの戦後の大きな不幸ですけれども、マッカーシズムというのが旋風で起こりまして、マッカーシズムの中で、レオンチェフの発想したこのInput-Output Tableは、計画経済の道具であるというレッテルを張られてしまいまして、そして今もアメリカの経済学部ではほとんどInput-Outputを教えるところがありません。若干、新古典派に形を変えたものを教えるところはあっても、ほとんど産業連関というものを学問として教えるところは非常に少ないのが現状です。
 ただ、この表でも、現代の複雑な科学技術の構造を経済構造の把握に反映させようとすると、もちろん十分ではなく、改良すべき点も多々あります。しかし、現状の経済資料としては、この産業連関表というのは、日本はわりときちっとデータをつくっていまして、昭和30年から始めて、5年おきに、比較可能なデータをつくっています。昭和30年のころのつくった人の話によりますと、もう当時関係された方は、ほとんどなくなっているわけですけれども、半年かかって、当時はコンピューターがまだありませんでしたから、そろばんで膨大な資料を整理して、我が国初の産業連関表をつくったということで、奥様に半年は帰らないという離縁状を突きつけて、国家のためだというのでその表をつくり出したとのことでした。
 それが戦後の経済復興の中では非常に役立ちまして、日本の産業構造を政策的に実現する産業政策の一つの決め方として、傾斜生産方式という産業政策が最初に戦後、間もなくとられますけれども、その傾斜生産方式の産業政策のもとになったのは、その日本の産業連関表が利用されたと聴いています。
 それから5年ごとに、定期的に作成していますので、世界の中ではデータベースとしては冠たるものなのですが、問題は、これから今、複雑な科学技術の実態を可能な限り正確に捉えて、経済構造への反映を議論しようとしている現代の政策課題への対応のためには、いままでのような構造の産業連関表はまだまだ不十分だということです。一つは、いろんな考え方があると思いますけれども、今の社会の構造、複雑な、先ほどのマーバーガーの話ではないですが、コンプレックスな形を描写しようとすると、科学技術イノベーションという政策がつくり出してきた無形固定資産というものをどうしても評価しなきゃいけない。従来は設備投資であるとか物的な建物、設備というのは産業連関表できちっと評価されていたわけですけれども、残念ながらR&D投資比率を高める施策を行って、その結果、出てきたノウハウ、それからパテント、ライセンス、それからブランド、商標、そういったものは全て無形固定資産でございまして、無形固定資産の充実、それが知的資産として、実物経済の構造を規定し、経済活動の連鎖を発生させているわけです。
 そういう無形固定資産をどうやって入れていくかというのが非常に重要な問題で、今、各国がOECDをはじめとしてマニュアルをつくりまして、R&Dという無形固定資産から派生するいろんな無形固定資産をどう評価するかということをやり出しているところでございます。
 もう一つ、これに加えたいのは、もう一つの無形固定資産である社会的リスクです。社会的リスクというのは、今まで、リスクですから当然、リアライズするリスクもあれば、実現しないリスクもあるわけですけれども、科学が進歩することによって、いろんな不確定な要素がたくさん出てきている、それから人々の価値観も多様化していて、いろんな社会構造を動かしている、そこから発生するシステミックなリスクをどうとらえるかというのは非常に重要で、無形固定資産というよりも、無形負債かもしれないのですが、そのロス側のリスクをどうとらえるかということも新たな課題として考えていかなければならない。
 そういうR&Dのプラス面と科学技術進歩がもたらすマイナス面を、先ほどの産業連関表のレオンチェフの発想にくっつけることによって、無形固定資産がどのように実物経済に関係して、それを動かすサービスがどういう形で変化するかということを構造的にとらえることが、まず経済学者としてやらなきゃいけない一番喫緊の課題ではなかろうかと思っています。
 生産性の分析は、もう時間がございませんのでやめまして、そのR&Dについては、日本も非常にすぐれた統計があります。科学技術研究調査というのが数年前に調査が開始されましたが、OECDが提案したフラスカティ・マニュアルというR&D活動についての統計をつくるマニュアルをベースに日本ではかなり精巧なものをつくっています。それをもう少しブラッシュアップしなきゃいけないところはあると思いますけれども、ビッグデータにしていく基礎を提供できると思っています。それを過去にさかのぼって、過去のR&D支出がどういうふうに、無形固定資産としてのライセンスを生み、どういうふうにパテントを生んで、どういうふうに論文を生んだかというネットワークも含めてリンクしていくような過去の評価と、これからの技術がそこにどうインストールされるかという知見とを結びつけることによって、科学技術政策を先ほどのサイクルで回していくことが非常に重要なのだろうと思っています。
 まとめに入りますけれども、経済学というのは、最初に申し上げましたように、デザイン学ですから、そのデザイン学をどうやっていくかということは非常に重要な課題になります。そしてそのデザインをするときには、頭から何か現実離れした基本の命題を置いて、そこからノーマティブな形をつくるという論理思考ではなくて、その一つ一つの根本的な要素というのはどれくらい実証的なエビデンスを踏まえてやっているかということを踏まえた形での、そこからのノーマティブな帰結を出していくということが非常に重要だろうと思います。
 そういう意味では、ポジティブなエコノミクスというのをまずきちっとやって、そしてノーマティブな帰結をそこから導いていくという姿勢が非常に重要なんじゃないかと思います。そういう形での、最終的には市場デザイン、その結果をどう押さえていくかということが重要ですし、そういう形で市場機能を押さえていくことによって、新しい規範をつくっていって、市場デザインをするということだと思います。
 先ほど来、原発の事故の後、科学者の信頼を失ったという話がありましたが、これも有本さんと今朝お話をしていたら、経済学者はリーマン・ショックも予測できなかったと、今回のEUの信用不安も解決できていないと、もう経済学者は最初から信頼を失っているのではないかと言われるわけですけれども、まさにそう言われてもしょうがないくらい、ある意味では非常に経済社会が複雑になって、経済の構造を追いきれなくなっています。
 なかなかその複雑なものにチャレンジするというばか者みたいな経済学者は少ないのですけども、それをやらないと、やっぱり経済学は自律したものにならないと思っていまして、そういうところから自然科学と人文・社会科学、経済学との融合ということをぜひやっていただきたいと考えております。そして、先ほど御指摘のありましたように、ビッグデータというのは非常に重要な課題だと思います。これは一経済学者がつくれるものではないので、自然科学との連携において、国が施策としてつくっていき、その中でITをいかに使っていくかということを考えていくというのがこれからの科学としては非常に重要だろうと考えております。ちょっと時間超過しましたが、御清聴、ありがとうございました。

【野依主査】 
 大変、力の入った御発表をありがとうございました。
 それでは、引き続きまして、科学ライターの松永和紀さんに御発表いただきます。松永さんは、新聞記者を経て科学ライターとして特に農業、食品、環境などについて情報発信をされております。本日は、これまでの御経験を踏まえまして、食の安全に関する事例を用いて消費者の目線からリスク・コミュニケーションの考え方、国民とメディアと行政の間のコミュニケーションの在り方等について御発表いただきます。基本論点でも、視点4「社会への発信と対話」が記述されており、このような点でも松永さんの御発表は参考になると思っております。
 それでは、20分程度で御説明いただきたいと思います。よろしくお願いします。

【松永氏】 
 御紹介どうもありがとうございます。科学ライターの松永和紀と申します。どうぞよろしくお願いいたします。
 今日はリスク・コミュニケーションの実践の場でのお話をしようと思っております。今までの先生方のお話と打って変わって、私、地をはうようなリスク・コミュニケーションをしていますので、何かその中で少し見えてきたというようなことをお話ししようと思っております。
 先に簡単に自己紹介いたしますと、私は京都大学で農芸化学を学んでおりまして、実は最初は研究者になりたいと思いまして大学院まで行ったのですが、途中でちょっと不向きだなと思いましてドロップアウトしまして、それから新聞記者になったという経緯があります。新聞記者になって10年ほどたちましたところで、新聞記者というのはなかなか自分の専門分野を持てない、科学記者であっても専門分野を決めてそれをずっと取材して書いていくということがなかなかできないという問題もありましたので、思い切ってフリーの科学ライターになりまして、おそらく珍しい科学ライターだと思いますが、かなり分野を限っています。先ほど御紹介いただいたような食の安全とか、食の環境影響というようなところに自分で決めまして、そこを深化させていこうというようなことを今、一生懸命しています。
 通常は雑誌に書いたりインターネットで書いたり、それから一般市民向けの講演を年間で多分四、五十回くらいしています。そこから市民の声を聞いて、市民の必要とする情報を提供していくというようなことをしております。ですので、今日は食の安全という事例からのお話ということになりますので、ちょっと今までの先生方と違う部分もあると思いますが、重なるところも多いのかなというような気がして、聞いておりました。
 さて、食の安全、食の科学というようなところから見てみますと、私から見るとこんなふうに見えるなということで、図にしたものがこういうものです。
通常、ハザードを特定して、リスク特定して、キャラクタライゼーションすると、それからベネフィットのほう、その技術を用いることでどんないい点が得られるかというところ、それをもとにして、それぞれ暴露量が関係してきますので、それでリスクとベネフィットとキャラクタライゼーションして、比較をして、ここまでが評価なわけですね。その後に、実用化していかなくちゃいけないですので、ここでリスク管理というような話が出てきまして、かなり経済とか文化とか感情とかも入れてリスク管理をするというような整理になっていると。今の食品安全委員会とか厚労省、農水省の仕組みではそうなっています。
けれども私から見ると、いやいや、そうでもないよねと、むしろリスク評価の段階から、実は科学と言われているここから多分、感情とか文化とか絡んでくるのではないかなと。どのリスクから検討するかという優先づけからして、既にかなり感情が入ってくるわけですね。ベネフィットも、何がよしとして開発するかというところで、やっぱり政治的な動きとかいうようなところから無縁ではないと。
 リスク評価の時点から、科学ではないいろんな別の要素が絡んできて、カオス状態で実用化管理されているというのが、多分、今の食の状況であろうと私は思っています。
 そうすると、どうしても科学的な安全と、それから感情とのかい離かい離というのが出てきてしまう。やっぱりカオスの中で人々がきちっとリスクを認知できなくなっているというところがあるわけですね。食品のリスクというと、やっぱり食中毒で死亡する人数というのが一番端的な数字としてあると思いますけれども、これを見ると、戦後、2,000人近く亡くなっていたのが、一気にぐっと下がってきているわけですね。順当に下がってきているというところがあるわけですが、一方で、いろんな事件が起こって、感情としては安心できないわけですね。
 こういうのをよくよく見ると、かつての状況から比べると、随分改善してきていると。
BSE、いわゆる狂牛病ですけれども、BSEのときに、社会が大混乱に陥りましたけれども、BSE、実は世界でこれまでに通算、死亡者が200人強くらいですね。でも食中毒の人数とか、それからほかの様々な食のリスクによる人数、例えば日本の国内で食品で窒息死しておられる方は年間4,000人いらっしゃるわけですね。それに比べると、BSEの死亡者が世界で200人というのは、リスクの感覚からいうとそれほど大きくないわけです。しかしBSEが発生して、非常に動揺してしまう、混乱してしまうというような状況があると思います。
 さて、この実際の安全と、それから心情のかい離かい離というところですけれども、最初、食の先生方のリスコミの中では、やっぱりきちっと理解していただこうと、とにかく安全と安心は違うものだから、安全をきちっと理解してもらわないといけないよということで、情報提供が一生懸命、行われたというふうに思います。しかし、どうも違うなということがだんだんわかってきまして、おそらく今、食の現場ではそういうリスコミをしている方は、科学者はまだそういうリスコミをしておられる方がいらっしゃいますが、それ以外の実務者とかは、多分そこからは抜け出しているだろうと私には思えます。
 このあたりは、リスク認知の心理学というところでかなり研究が行われていまして、そもそも違うと。本当のリスクをそのまんま受けとるほど、人間の心理というのはそんなに単純ではないよということがありまして、今、心理学で言われているのは、恐ろしさ因子とか未知性因子というようなものがリスク認知をかなりずれさせているというようなことが言われています。
 それから、感情面がかなり大きいと。感情に揺り動かされるのが人間であるということがわかってきていまして、人類が歴史上、いろんな形で経験していたものに基づく感覚的な行動というのが、分析的なシステムよりも優先されるという、これが人のリスク認知であるというようなことが大分、研究が進んできているようです。
 その中で、同志社大学の中谷内一也先生という方がおっしゃっておられるのは、きちっと情報を理解していただくには、信頼が重要であると。科学的な正しさというのもありますけれども、実は信頼感というのが一つのキーワードではないかと。その信頼感を醸成するのは、一つは情報発信者の能力というのがあると。それから動機づけ、どのくらい誠実にそれに臨んでいるかというようなこと、それから、価値類似性と言いますが、共感できるかどうか、情報の発信者と受け手とどのくらい価値、同じような価値を持っているかというようなことが重要で、それをもとに、情報の受け手は信頼感を得て、信頼できるから、少しこのリスク、きちっと把握していこうというような動きになるのではないかというようなことがリスク心理学で言われてきています。
 これは、おそらくリスコミを実践している人たちにとっては、大いに納得できる話でありまして、どうもその科学的な情報だけじゃだめだよねと、もっと違うことを提供しないとだめなんだよねということが、多くの方たちの認識として出てきていると思います。
 こういうことを踏まえまして、私が個人的に思っているのは、暮らしに地続きの科学ということを意識してもらうということが非常に重要ではないかということですね。リスク評価やベネフィット評価は、先ほどの図で科学だと言いました。確かに科学なのですけれども、ここに感情とか文化とかいろんなものがかかわると。これが暮らしであり、科学なのですね。どうもそこを抜きにして今までの情報提供というのが感情、文化、いろんなものを抜きにして語られ過ぎてきたのではないかと。一番当初ですと、ベネフィットだけが語られてしまったというところがありますね。この技術はこんなにいいんだというようなお話です。これだけで使ってもらおうとした、理解してもらおうとした。
 その後にリスクという概念が出てきて、リスクも一緒に合わせて振り返るということになりますが、これもやっぱり科学の世界であるというような理解だった。ここに感情、文化いろんなものを踏まえて説明することによって、市民、消費者が当事者としてどうかかわるかという具体性が出てくるのではないかと。それから、市民、消費者の責任はというみずからに対する問いが出てくるのではないかと。一方的に情報を受け取って、それに従うとか、納得するのではなくて、じゃあ、自分たちに何ができるの、自分たちは何をすべきなのというようなことにつながるわけですね。そうすると、いろんな科学情報というのが生きたものになるというわけです。
 それを暮らしに地続きの科学というような言い方を私はしているわけですが、やっぱり市民、消費者に、自分たちだから果たせる役割があるというところまで思っていただかなくちゃいけないということです。
 今、実践中なわけですけれども、科学コミュニケーション最前線でのその関係深化ということで、五つほどポイントを挙げました。もちろん御説明すべきことはかなりたくさんあるわけですけれども、一番大事なところで、私個人というよりは、実践している人たちがおそらくこの五つについては共通して問題意識として持っているのではないかなというようなところを選んで出してきました。
 一つ目が、まずは科学情報のアクセスが、実はこの10年ぐらいで激変しているという問題があります。以前は科学情報というのは科学者とか行政組織のものだったわけですね。市民、消費者は、ある意味、教えていただく側にあった。情報の欠如とか、恣意的に選択された情報伝達、これが市民を苦しめたという思いは非常に大きく市民の側にはあると思います。現在、一変しまして、情報公開が進展しました。それから科学者組織の説明責任というのがやはり明確化したと思います。実際に学術情報のオンラインデータベース化、グローバル化で、だれでもアクセスができるようになりました。逆に情報がはんらんして、それが市民を惑わせているという面が出てきています。一方で、政治的判断による隠ぺい等というのもまだまだ残っているというような、非常に混乱した状態にある。情報はたくさんあるのだけれども、どうしたらいいかわからないというような状況に市民が置かれていると思えます。
 そのはんらんしている情報の中で、実はちょっと矛盾するようですけれども、その中で今、出てきているのは、やっぱり適切な情報、グローバルな情報を伝えるルートが実は少ない、細いという問題です。これは日本特有かもしれませんけれども、科学教育の問題があります。それから英語の壁というのが意外に大きいのかなというような気もいたします。
 そういうことがもろもろあるわけですけれども、今、情報公開されている、例えば東日本大震災後の原発事故後の放射能汚染だったりすると、検査数値は山ほど出ているわけですね。全部公表されている。それは充実したものです。ただ、数値が出ている、それをなかなか説明してくださる方がいらっしゃらないわけですね。それで、数値を見ろと言われるのですけれども、その数値を市民がそしゃくできないというようなところがたくさんあります。とにかくこの東日本大震災後、科学情報はたくさん出たけれども、その中で、そのあふれる情報の中、どうしていいかわからなくなっている。
 私は一般市民に対して講演するときには、「今、情報災害にあるんです」という言い方をわざとしています。「はんらんする情報は、災害にも近いんです」と、「その中で識別する力を皆さんつけなくちゃけないんです」という言い方をすることで、自分たちの置かれた位置が一般市民の方にも伝わっていくというような面があるように思います。
 そういう状況で、情報の交通整理をする者はだれなのか、そもそも必要なのか、だれがそれを担うのかというところが混乱しているわけですね。日本の場合には、国が科学技術をコミュニケーションするポジションというのを置いていないという問題があります。アメリカですと、大統領とか、それから国務長官付で科学顧問というような方がいらして、その方が玄関口といいますか、いろんな質問に対して、とにかく徹底的に説明していくというような役割を担っているわけですけれども、日本の場合は、こういう方たちがいないというわけですね。なので、ちょっとどうしていいかわからないというようなことに一般の方というのは陥っているのではないかなと思います。
 政治家や役所はその機能を果たしていない。それから研究者は、やっぱり多くの方がみずからの専門領域にとどまってしまっている。マスメディアには能力がない。マスメディアの問題は後でちょっと御説明しようと思います。結局、何が起きているかというと、情報はたくさんある、だけれども空洞化が起きているというような状況じゃないかなと思っています。
 さてその中でどうするかということですけれども、やっぱり一つは感情を踏まえた情報提供と共有、交換というようなことをきちっとやらなくちゃいけないのではないかということです。これは、先ほど御説明したことと同じことになりますけれども、感情や文化等を無視した啓もう主義というのは、よしあしではなくて、現実的ではないなというのが、今、食のリスコミにかかわっておられる方たちのおそらく一致した思いであろうと思います。
 その中で、暮らしに直結する科学であると、現実、経済とかいろんなところにつながっているんだということを、今風の言葉で言うと、「気づき」みたいな形で提示しなくちゃいけないのだろうと。その際には、やっぱり信頼感の構築が必要である。そうすると、単純化された話とか、スケープゴートを仕立てて、それからそれが次々に変更されていくというような今の状況の問題点とかを意識することになっていく。トレードオフも視野に入れたふかんの目の構築というようなことに市民が挑もうということになっていくのであろうと思います。
 放射能汚染にしても単純化というのが日々ありましたし、スケープゴートというのもやっぱりそうですね。だれが悪いということで、国を悪者にし、東京電力を悪者にし、研究者を悪者にしというような形で、次々に変わっていくわけですね。そういうことってちょっとおかしいよねというようなことが、暮らしの中で、現実の中でそう単純じゃない話に日々向き合っているということを意識していただけると、少し考えを変えていかなくちゃねというような感覚というのが多分、出てくるのであろうと思います。その際には、不確実性を提示する。それから、選択肢もきちっと提供する。それから個としての解決と社会の解決というのは区別しなくちゃいけないよねというようなことを意識していただくということが、多分、市民においては重要であろうと思います。
 ここでよく言われるのは、一般市民はゼロリスクを求めているという、そのゼロリスク論ですけれども、私もゼロリスクを志向する市民というようなことにちょっと怒りを覚えることもありますけれども、よくよく考えると、市民は実はゼロリスクとは思っていないのではないかなという気がします。自分たちがどういうふうに暮らしているかというと、いろんなところにリスクがあって、ちょっとしたことで事故に遭ったりとか、いろんな問題を引き起こしたりということは、日々感じているわけですね。その中で、だれかに何かをやってもらうことでリスクゼロが実現するということは、実はそうは思っていないと。しかし、企業などがゼロリスク志向というのをわりと打ち出すと、それがメディアに受けるとか、それから一般の市民というよりも、一部の市民がわーっと喝采したりするものですから、何かそこで混乱してしまっているのではないかなという気がします。
 ですので、かなり複雑なんだよと、単純化しちゃいけないよというようなことをきちっと市民に情報提供しますと、ゼロリスク志向というのは、わりとすぱっと消えていくのではないかなというのが私の実感ですね。ですので、私のやっていることは多分、市民のある意味、健全な常識力というか、非常にバランスのとれた暮しに根差した常識力という感覚を呼び覚ますみたいなことなのであろうと思っています。
 今まで定義せずに、市民とか消費者とか言ってきました。実は本当はこの市民、消費者、ここのスコープとか定義とかプロファイリングをしないまま、行政組織は使っているんです。それで想定する市民向けの科学情報提供というようなことに実際はなってしまっているわけですね。その市民って何なのと考えますと、実はいろいろであると。リスク・コミュニケーションに来る市民、これが一般の市民かというと、全然そうではないわけですね。わざわざ自分の時間を使って来るわけですから、全く意識が違う。デモも多分、違いますね。それから審議会等の委員として出席する市民団体、消費者団体、多分かなり大きく違うわけです。そのほか、アンケート結果にあらわれる市民というのも、市民自身が理想と思う形ということでアンケートには多分、出てきますので、やっぱりずれがあるわけです。このあたりをきちっと整理しないまま、市民への科学情報を提供するというようなことを今までずっとやってきましたし、私自身もやっているときもあるということがあります。
 そこが、やっぱり大きな一つの問題としてあるのではないかなと。一部を全体像としてとらえていないか。結局、この中にはサイレント・マジョリティーというのは出てこないわけですね。多分、関心がない、行動に移さない、こういう人たちがなかなか見えてこない。サイレント・マジョリティーにいかに語りかけ、参画を促すかが重要であります。
 その上で、それぞれに合ったきめ細かなコミュニケーションをどう行うのかというお話です。いろいろお話ししてきましたけれども、その際に、一つ大きな支障、メディアの問題があります。情報伝達というと、メディアがある程度の役割を果たさざるを得ないのですが、マスメディアの情報伝達、何とかならないかというのは、リスク・コミュニケーションを実践する人、それから消費者、みんながだれもが思っていることであろうと思います。
 私から見ると、マスメディアにとって情報は商品なんですね。いかに売れるように加工するかということを考えているものですので、バイアスがかかっているといっても、ある意味、しょうがない部分があるのかなというような、ちょっとあきらめ、怒られますけれども、あきらめの部分が私には正直言ってあります。
 それと、日本のマスメディアの構造的な問題として、専門記者を育てないというところがあります。それから一部の目立つ科学者に依存してしまうということです。メディアは正義感がある意味、非常に強いですので、そこで一過性の暴走する報道があるというようなことがあります。
 こういうお話をすると、科学者の方々は非常に喜ばれる。喜ばれるって、語弊がありますけれども、「そうだよね」「マスメディアはとんでもないよね」とおっしゃるわけです。しかしあえて申し上げると、私から見ると最近はメディアを利用しておられる科学者の方がやっぱり目立つかなと思います。社会的に脚光を浴びると、研究費がつきやすいとか、いろんな利点が出てきています。独法の研究組織でも、評価の一つの指標として、マスメディアにどのくらい取り上げられているかと、広報できているかというようなことが一つの指標になっていますので、そこら辺の問題を考えると、研究者、科学の世界とマスメディアとはある意味、互いに共依存しているところはあるのかなと思います。
 その中で、グーグルとかヤフーで検索して、上のほうにいる研究者にコメントをとるというようなマスメディアの報道がテレビのニュースショーとかで普通に行われているというような状況です。
 問題を五つだけ挙げましたけれども、こういうことを踏まえて、現在の科学コミュニケーションの担い手が食の分野ではかなり広がってきているというのが私の印象です。科学者、研究組織だけではなく、国だけでもなく、いろんな方がやっていますが、実は最前線で企業のお客様相談室の方が、「実はこれの科学的なリスクはですね」というような形で客に説明していたりします。もちろん市民、消費者団体、個人もいらっしゃいますけれども、一つ存在意義が大きいのは、生活協同組合ではないかなというのが私の個人的な意見です。
 お手元に資料、記事を配りましたが、それはコープネット事業連合という、コープとうきょうとかさいたまコープが入っている生協の情報誌の中の記事です。そういう形で情報提供を生協はしているのです。昔は生協もやっぱり、あれが悪い、これが悪いと、排除すればいいんだというような流れで動いてきてましたが、90年代くらいから少しずつ変わってきまして、きちっと伝えていこうということになっています。
 生協は商品開発もしますし、販売者でもあります。流通団体でもあります。多様な側面を持っている組織ですので、リスク・コミュニケーションはまじめに取り組まざるを得ないということで、そういうような記事が出ています。お手元の記事、コープネット事業連合の広報誌というのは、実は160万部、出ています。その中で、160万の組合員さんに読んでいただく。
 生協の広報誌というのは、実はレシピだらけというか、いろんな料理のつくり方とか食材の説明とかがいろんな形で行われていて、その中にリスクの話がぽんと入っているのです。その中で、ほかのレシピとか、いろんな情報と等価な形で科学を伝える、リスクを伝える。リスクだけではなくて、経済とかマスコミの情報の読み取り方とか、そういうことをひっくるめて伝えようというのがその取組です。
 それは私が書いていますけれども、私が1人でやっているわけではなくて、生協の関係者がみんなで寄ってたかって意見を出してくるわけですね。もちろん組合員さんからも、あれがわからなかったとか、これがいいとかいうような意見が来ます。生協の職員が自分たちのリスコミのノウハウを提供してくれて、その中で、「いや、この言葉は組合員さんの感覚に合わないからやめておきましょう」とか、「今こそマスメディアを批判するときですよ」とか、いろんなことをしんしゃくしながら情報提供しているというのが一つのやり方としてあります。
 それからもう一つが、私は消費者団体を今やっておりまして、科学的根拠に基づく食情報を提供する消費者団体というのをやっています。これはマスメディアのようなビジネスベースではないです。ビジネスベースですと、情報という商品を加工して、とにかく売れるようにしようとしなくちゃいけないわけですね。そうせざるを得ないわけです。そうではなくて、市民団体としてやれることがあるのではないかということで、こういう活動をして、ウェブサイトでいろんな情報を発信しています。
 これ、運営資金は、個人の方や企業の方からいただいています。食品企業の方も多くあります。一部の企業は、「これで何の得があるの」というふうな言い方をされますけれども、情報提供自体が社会のレベルを上げるんだ、科学情報、食の情報に対する理解を上げるんだということを理解していただいて、活動資金というのを提供してくれる企業があります。その企業を私たちが批判しようとも、それでいいですと、そういう姿勢を貫いてくれるし、私たちも実際に批判するというようなこともやっています。そのくらいレベルが上がってきているというようなことは、食のリスコミの実践として言えると思います。
 まとめますと、私たちの活動というのは、適時に平易な科学解説をします。それから大事なことは、情報源の提示をします。それと科学、感情、文化、経済、いろんなことのカオスを整理して提示するということですね。その中で、選択肢を提供するということです。現実におきる最適解は多分、人によって違いますし、個人と社会でも異なる、違うんだということをきちっと示すということが大事で、そこから選ぶ力を消費者、市民につけていただくということが大事だろうということです。そうすると、やっぱり重要なのは平時の繰り返しでありまして、科学情報を提供して、市民の情報しゅん別能力を向上していただく。
 それから個と社会の区別ということをきちっと理解していただく。個と社会の区別というのは、例えばBSEだと、日本人だったら、リスクは1億2,000万人中の1人もない、死亡リスクって0.1~0.9人とされていますが、個々のお母さんたちにしてみたら、自分がそのたった1になったら、自分にとっては1分の1であると、社会政策としては1億2,000万分の1であると、そこの矛盾というのがなかなか当初は気づけないわけですね。そこできちっと説明すれば、一般の方たちはわかると。ちょっと区別して、改めて考えなくちゃいけないよねということが多分、理解していく。それは暮しのいろんな経験から、それぞれの市民の知の力として持っているだろうと思います。そこをきちっと分けて説明してあげるということが大事であろうと。それで行動し、その行動の反省を受けて、また科学情報を提供するというようなことをしています。
 振り返ってみますと、例えば先ほど生協の誌面を御紹介しましたけれども、生協の多くは本当に今、この七、八年で大きく変わって、今はリスクを理解して、きちっと公平なリスク管理というところに立って、一生懸命、動いておられるわけですね。この七、八年のこの大きな変化というのを見ますと、やっぱりきちんと説明することが市民の理解につながりますし、それからレベルアップ、次のステップへということにつながるんだということで私は信じてやっているというような状況です。
 以上です。済みません、ちょっと長くしゃべり過ぎてしまいまして、申しわけありませんでした。ありがとうございます。

【野依主査】 
 どうもありがとうございました。
 それでは、先ほどの黒田委員のお話と合わせて、質問はございますか。柘植委員、どうぞ。

【柘植委員】 
 ありがとうございました。この松永さんのパワーポイントの9ページで、リスクのベネフィットとその管理コミュニケーションの中の四つ目の点、単純化、スケープゴートの発見、変更と、それから特にふかんの目の構築と、まさにこれが科学技術がこれだけ社会に浸透して、私たち市民が生きていくとすると、こういう視点の素養を我々自身が持つことが必要だなとかねがね思っております。学術会議では、こういうのをいわゆる従来の伝統的なリベラルアーツに対して、科学技術リベラルアーツという言葉を導入し、始めております。
 そういう面も、いわゆる市民が小学校から、幼稚園から大人になるまでこういうのを身につけるつけ方について、現場感覚から見たときに、どんなイメージというか、構想をお持ちかというのをお聞きしたいと思います。

【松永氏】 
 ありがとうございます。確かに教育の場でいろんな取組をする中で、このふかんの視点というようなことを構築するというのはとても大事だと思いますけれども、私の中では、一般市民に対しても具体的な事例を提供することで理解していただけると。それはいつの時代も決して遅くはないというのが私の感覚ですね。
 例えば1事例申し上げると、昨年の秋、福島に取材に行きましたときに、酪農家のお年寄りの方に少しお話をお伺いして、酪農の今の状況はどうですかというようなことを取材しましたが、そのときに、その酪農家のお年寄りの方がぽつと見せてくださったのが、野生のキノコでした。イノハナ、コウタケというそうですけれども、それを見せて、「今年はこれ、食べられないんだよね」と、「野生のキノコはもう出荷制限かかっていて、食べちゃいけないんだよね」とおっしゃられたのです。その次の言葉にびっくりしたのは、「わしがちょっとだけ食べる分にはどうってことないんだけどね」というふうに言われたのですね。
 つまりは、お年寄り、もう70を超したような方が、きちっと量的なリスクの変化とか、自分たちがどう管理していくかということをきちっと理解しておられるわけです。それで、ああ、やっぱり情報をきちっと提供する、福島の県の方とか、あそこでの科学者の方々の取組のまさに成果だと思うのですけれども、今まではリスクとか量的な変化というようなことを意識したことがおそらくなかった方たちでも、すっと入っていって、そういうことをおっしゃると。やっぱり暮しにいかにつながった形で、そのリスクの概念を、リスクという言葉は使っていないのかもしれないですけれども、伝えていくことが重要で、それができれば、いつの時代も、いつの年齢になっても遅くない。そうすると、やっぱり科学者がいかに感情も踏まえた中で暮しにつながった事例を見せて、説明していくかということがやっぱり問われるのではないかなというような気がしています。

【柘植委員】 
 ありがとうございます。

【野依主査】 
 科学者が説明すると警戒されるというところはありますか。

【松永氏】 
 そういう言い方もありますが、多分、私は違うのではないかな、もう少し市民はきちっと見ているというふうに思います。先ほど申し上げた能力とか、それから誠実さ、価値類似性というようなところまで見ているんですね。
 今までだと、能力だけで科学者はどうのこうのというようなことはありましたけれども、実はどういう事例を説明していただけるとか、どういう言葉を使っていただけるかとかいうようなところで、その人というものを市民は見ています。科学者が情報提供するときに、科学者はわりとシャイな方が多いので、あえて能力だけで勝負しようというような感覚が私はあったというふうに思います。いや、そうじゃないんだよということを意識していただくということが実はかなり大きく違ってくるのではないかなという気がします。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 ほかに。井上委員、どうぞ。

【井上委員】 
 大変貴重なお話をありがとうございました。黒田委員の資料の5ページにサイクルが書いてあって、そこに「構成者」という、政策に対応する、政策の研究をするなりコミュニケーションするなりする主体がかかれています。一方、柘植委員の書かれた資料のところにX、Y、Z軸というのが書かれて、そこにも新たなZ軸としての「技術の社会技術化科学」という表現があります。多分それぞれが考えておられる場が違うので違う表現をされているのだと思いますが、結局同じようなことを考えておられるのだと思います。松永さんの話された市民との関係というようなところも、まさにこういうような部分がいろんなことを考えていくべきところだとすると、やはりそこが今、世の中にないのではないかと思うわけです。
 それで、やはりまずは学というところがベースにあって、それと官なり産なりと結びつくその間のところに、まさにこういうものがつくられていくべきだと思います。どうしたらいいか成案はありませんけれども。そういう意味で、今日は非常にいいプレゼンテーションがなされて、ここをよく考えるべきだということが整理された気がいたしました。

【野依主査】 
 ほかにございませんか。佐々木委員、どうぞ。

【佐々木委員】 
 樺山委員をはじめ、皆さんから大変刺激的なお話をいただいたと思っております。非常に難しい問題ですね。特に主査の野依先生が言われた国の政策として、システム的にワークするようなものは何か、人文・社会科学系からしてそういうものはあるのかという。そうはないかもしれませんし、あんまり大きな声では言えないものの一つが、やっぱり国防問題というのはあります。
 これは昔から厳然としてあったわけで、今でも、程度の差はあれ、あらゆるサイエンスの領域というものはそれと非常に不即不離の関係にあるし、井上先生のところの宇宙なんかもそういう問題とおそらく関係されているところがあるのだろうと思いますね。ただここの領域は非常に取り扱いが難しいものですから、そういうことをおそらく今、どうこうしようという話ではないかと思いますけれども、伝統的にはそういう領域もやっぱりあったということは、私は事実だろうと思います。
 そこで、今日の話にかかわるのですが、これは前からやっぱり気になっていることなのですけど、このイノベーションというのが何をイメージするのかということが、結局、今の日本社会では、そこが非常に混乱というか、多様性というのか、いろんなイメージが交錯していて、何か像を結びにくいような状態になっていはしないだろうかというのが私の直観的な感想ですね。
 そして、その上でさらにその多様性というのか、非常に方向づけが一義的にできないという話と、さっき松永さんが言われた情報を中心としたカオスの問題が上からおっかぶさっているようなところがあるような感じがしておりまして、そして、先ずはカオスを整理しなけりゃいけない。政治は今、カオスになっているわけでありまして、そういう意味で、柘植先生が言われたスパイラルもあるのだけど、いろんなスパイラルが相乗しながら、非常に今、マネジメントが難しい状態にやっぱりなってきている。
 こういうときは、一つは科学技術というものを、言い方は変ですけど、いかに守るかということも、ある意味では非常に大事なテーマになってきて、妙なカオスに巻き込まれていって、何かわけのわからない話に連れ込まれてしまうようなことはやっぱりないようにしなければいかんという面があります。それから、しかしやはり着実かつ堅実にこういう成果を上げていくということができるのだという点では、黒田さんが今日何度も強調されましたデータの蓄積のようなものをやはり同時に着実にやっていくという視点も必要ではないかなと。
 人文・社会系の人間としては、一緒にやるということについては大賛成ですが、これは理系もそうだと思いますが、やっぱり向き不向きと、関心の強弱があるのは仕方がありません。しかしその中で一つグレードアップしていくということは、ぜひ我々の場としてメッセージを発したいと思っております。
 以上です。

【野依主査】 
 大変いいまとめをしていただいたと思います。イノベーションに対するイメージは、人により、国によりみんな違うと思います。時代とともに社会は変わらなければいけない、社会を変えるための新しい価値、あるいは経済的な価値の創造をイノベーションというふうに定義されていますが、イメージは人によっていろいろ違うと思いますね。
 ですから、科学技術、あるいは学術というもののマネジメントを国としてどうやっていくのか。その場合に、もちろん科学技術・学術ですから、ボトムアップは基本であっても、国としてどういうふうに全体をマネージしていくか。科学技術や学術の自律だけで十分かどうかということですよね。それに対して、文部科学省としてどう関与するかということではないかと思います。
 先ほど軍事のことをおっしゃいましたけれども、社会科学は今までおそらく、基本的にはボトムアップでやってきた。人文学なんてもっとそうではないでしょうか。そこに新しい社会形態の中で、トップダウンのイニシアティブが何らかの助けになれることがあるのか、ないのかということです。具体的には、先ほどから出ている、ビッグデータをどう扱うかということに対して、国がいろいろ指図するというのではなく、ボトムアップの動きがある中で、国として何らかのイニシアティブ、あるいは何かをつくっていくことは、いいのか、悪いのか。もちろん社会科学の方々が嫌だとおっしゃるのに無理にやるということではなく、相当の方々が必要だと思っていらっしゃるのであれば、文部科学省としても何らかの施策をとることができるか。
 まだ結論を出す必要がないと思いますので、何かお考えがありましたら、私ども、承りたいと思っておりますが、よろしいでしょうか。
 國井委員、どうぞ。

【國井委員】 
 よろしいですか。アメリカでパルミサーノ・レポートが出て、サービス・イノベーションが21世紀のイノベーションのキーになるということを言っています。社会をデザインするというのがサービス・サイエンスにつながるところなわけです。それについて、日本でも、文科省さんが研究予算を少しつけていらっしゃるので進み出したとはいえ、サービス・サイエンスは、統合的なサイエンスとして、社会科学も、特に経済学なんかは非常に重要なわけですけれど、そういうものを取り込んだサイエンスの取組がまだまだ始まったばっかりです。ドイツだとかアメリカに比べたら、仕組みも体制もでき上がっていないという状況ですから、そういう観点での取組も必要かと思います。

【野依主査】 
 柘植委員が最後におまとめになりました産業、国、研究開発の大学の三位一体の協働政策が大事だということですが、これもそれぞれのセクターがインセンティブを持たなければいけない。だれがイニシアティブをとって、インセンティブを与えるのか。もちろん三者が自立的に統合するように向かうことが望ましいですが、もしそうでないとしたら、時間はどんどん過ぎていきます。どこかでだれかがイニシアティブをとる必要があるのではないかということです。
 柘植委員。

【柘植委員】 
 今の問題、確かに学術の世界のレッセ・フェールというか、放任でいった場合には、私のこのパワーポイントの資料の16ページをごらんいただくと、大学と研究開発法人とイノベーションの担い手である産業とは、こういう重なり合うようなものにはならないと思います。こういうのは、学術の自然の摂理という言葉を使っていんでしょうか、どうしても学術の世界だけのレッセ・フェールですと、大学単独となってしまいます。やっぱりこういう16ページの絵のように重なり合うことで生じる価値と人材のフローとインターフェースにある程度関心を持つ学術界に対しては、政策的に支援するメカニズムを付与しないと。これがトップダウンという言い方をすると語弊があるかもしれないですけれども、そこが日本には欠けているのではないかと思います。

【野依主査】 
 これが全部、縦割りですよね。このそれぞれの丸の中が縦割りになっていて、それぞれを所掌するところの役所も縦割りになっている。例えば総合科学技術会議が司令塔としてのイニシアティブを発揮できればいいのですが、そこにはお金も必要だろうし、権限も必要だろうと思います。ありがとうございました。
 黒田委員。最後にさせていただきます。

【黒田委員】 
 一つだけ。今のどこかの主体がイニシアティブをとるべきかという話、これは非常に難しい問題だと思いますが、私は枠組みをつくることと、それぞれの政策なりビッグデータのコンテンツを精査するということは分けたほうがよいと思います。コンテンツは、人文・社会科学者だけではなくて、自然科学者も含めて科学者が精査しなきゃいけないのですが、そのコンテンツが合意されたときには、やはり国が枠組みはサポートするという体制はあってもいいのではないかという気がします。
 それで国がサポートするときに、そこに危険な要素があるとすれば、やっぱり政治家、科学者、それから市民、全ての人の行動規範が奪われるわけで、それをどうやって成熟させていくかということしかないのだろうと思います。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 松永さんからも、今日は今までの御経験、あるいは具体的な事例について貴重な御示唆をいただいたと思っております。それから委員の皆様方におかれましても、本当に今日は実りある議論ができたと思っております。
 昨年11月の委員会におきましては、事務局に対して、社会と科学技術イノベーションの関係について、有識者の知見を活用し、概念整理などをするようにお願いしました。これについて、これまでの検討の状況について、簡単に説明をお願いします。

【阿蘇計画官】  それでは、資料の2-3、こちらのA3の1枚紙です。簡単にこれまでの意見、有識者の先生方からいただいたいろいろな御意見をA3の1枚紙に整理したものです。こちら、御報告いたします。
 まず上段の四角のところですけれども、先ほど来、御指摘いただきましたように、東日本大震災の変化や、これからの社会を踏まえまして、客観的根拠に基づく政策形成を行って、社会の要請にこたえていくという科学技術イノベーション政策を推進するということが必要であって、そのためには、国民、行政、専門家の間の関係の深化を目指した対話の充実を図っていくことが重要であるという基本的な考え方のもとに、下の段のところでは、国民、行政、専門家間の関係深化に関する主な意見という形で、下の段でまとめてございます。
 主な意見としましては、これまで科学技術の不確実性、トランス・サイエンスの存在の認識をということですとか、あるいは個人の価値と社会全体の価値を同じ次元で考えられる環境の提供が必要ではないかというようなこと、あるいは、先ほど御説明ありましたリスク・リテラシーが必要ではないかというお話、さらに本日、松永先生からもお話しいただきましたけれども、リスクは心理的・組織的な影響も加味されることも踏まえて、適切な対話が必要であるというようなこと、また情報公開の観点から、全ての情報を公開すべきではないかという意見がある一方で、またその公開すべき内容や公開方法を戦略的に判断すべきではないかという御意見もありました。また、全体に係る事項といたしまして、対話に関する社会実験を行っていくことが必要であるというような御意見もこれまでいただいております。
 さらに、以上がこれまで基本計画推進委員会で有識者から出された意見と、あるいは事務局のほうで個別に有識者から聴取した意見を整理したものでございますけれども、本日ちょうだいした御意見も踏まえてまとめて、今後、11月までに基本計画推進委員会として基本的な考え方を整理していきたいと考えております。
 御報告、御説明は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。これまで委員会にお招きいたしました有識者、あるいは事務局が行った有識者ヒアリングから出された意見を整理してもらいました。
 「これからの社会における科学技術イノベーション政策の意志決定について」としてまとめてもらいましたが、追加すべき論点など、御意見がもしございましたら、お願いしたいと思います。よろしいでしょうか。どうぞ。

【有川委員】 
 非常によくまとめていただいていると思います。例えば一番右端にある、今、説明がありました対話に関する社会実験というようなことは非常に新しいやり方、切り口だと思いますが、こうしたものを導入するときに、やはり社会科学的な、あるいは人文科学的な考察が少しなされていて、やろうとしていること、あるいは適用しようとしていることが、どういうところが危ないか、それで十分なのかといったようなことを少しでも検討しておく必要があるのではないかと思います。つまり思いつきのような格好でやっても、まずいのではないかというようなことをいろんな機会に感じております。そういった視点をどこかに入れられないものかと思います。
 今日松永先生にお話しいただいた非常に大事な点というのは、感情の重要性ですね。いろんなプレゼンにしても、科学者はもちろんそうですけど、政治家も含めて、あえて言わなかったのだと思いますが、それを表に出されたのはすばらしいことだと思います。そうしたことも踏まえて、最終的には冷静な判断でないといけないわけですから、その手法をとるときに、そういった考察も一つ加えておくというようなことが大事ではないかと思います。

【野依主査】 
 ありがとうございました。よろしいでしょうか。
 では、ありがとうございました。それでは、次回の委員会でも議論を続けたいと思います。事務局は引き続き取りまとめに向けて作業をお願いします。
 続きまして、議題3、最近の科学技術政策の動向についてとなります。
 事務局から資料を説明してください。

【阿蘇計画官】 
 続きまして、資料3-1と3-2、合わせて御説明いたします。
 資料3-1をごらんください。こちらもA3の1枚紙ですけれども、去る6月19日に科学技術白書が閣議決定されました。第1部は「強くたくましい社会の構築に向けて~東日本大震災の教訓を踏まえて~」と題しまして特集を組みまして、震災により顕在化した科学技術に関する様々な課題や教訓を明らかにしまして、強くたくましい社会の構築に向けた科学技術イノベーション政策の方向性について示してございます。一言御報告いたします。
 それから、続きまして資料3-2ですけれども、こちらは7月19日に開催されました総合科学技術会議第5回科学技術イノベーション政策推進専門調査会の資料でございます。この第5回の専門調査会におきまして、科学技術重要施策アクションプランが策定されまして、また重点施策パッケージの重点化課題取組の取りまとめが行われておりますので、御報告いたします。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、続いて議題4のその他です。今後の委員会の日程等について説明をお願いします。

【藤原計画官補佐】 
 本日は2時間を超える会議でございましたけれども、ありがとうございました。次回、第6回の基本計画推進委員会でございますけれども、先生方から御予定を伺いまして、9月26日、1時から3時という時間で開催させていただきたいと思ってございます。改めまして、先生方には御案内をさせていただきますけれども、よろしくお願いいたします。
 それから、本日の議事録につきましてですが、後ほど事務局から皆様にメールで議事録の案を送らせていただきます。皆様に御確認いただいた上で、文科省のホームページに掲載させていただきたいと思いますので、こちらのほうもよろしくお願いいたします。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 何か文部科学省からおっしゃりたいことはございますか。

【土屋局長】 
 特に。

【野依主査】 
 ないですか。

【土屋局長】 
 はい、ないです。

【野依主査】 
 それでは、大変長時間、ありがとうございました。これで科学技術・学術審議会第5回基本計画推進委員会を終了させていただきます。どうもありがとうございました。

 

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)