基本計画推進委員会(第3回) 議事録

1.日時

平成24年1月24日(火曜日)10時~12時

2.場所

文部科学省16F特別会議室

3.議題

  1. 科学技術・学術審議会の各分科会等における議論の状況について
  2. 「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」に関する基本的考え方について(有識者からのヒアリング)
  3. 最近の科学技術政策の動向について(文部科学省の平成24年度政府予算案について等)
  4. その他

4.出席者

委員

野依主査、野間口主査代理、有川委員、井上委員、大垣委員、國井委員、黒田委員、佐々木委員、平野委員

文部科学省

森口事務次官、藤木文部科学審議官
(大臣官房)田中総括審議官
(科学技術・学術政策局)土屋局長、渡辺次長、阿蘇計画官、藤原計画官補佐
(研究振興局)吉田局長、森本審議官

オブザーバー

(有識者)
杉山滋郎北海道大学教授、田中幹人早稲田大学准教授

5.議事録

【野依主査】 
 それでは、時間でございますので科学技術・学術審議会第3回基本計画推進委員会を開催させていただきます。
まず事務局から、資料の確認をお願いいたします。

【藤原計画官補佐】 
 それでは、資料の確認をさせていただきます。お手元の「議事次第」という一枚紙がございますけれども、その後ろに資料の一覧が書いてあります。配付資料ですが、本日は資料としまして、資料1-1から資料5まで全部で7点、御用意してございます。また参考資料が、参考資料1から5まで、組織図からこれまでお決めいただきました様々な諸資料、それから参考資料5といたしまして、前回の推進委員会の議事概要を二、三枚にまとめたものを作成して配付してございます。それから、机上資料ですけれども、メインテーブルのみですが、科学技術基本計画の白い表紙の冊子、それから、資料2-1の参考資料としまして、全部で4冊の冊子が机上にございます。委員の先生方には、お手元に1人1冊ずつ、それ以外のテーブルは机に1組ということになっております。最後に白表紙で24年度の予算案の概要でございます。
 以上でございます。不備がございましたら、お手数ですが、事務局までお知らせください。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、文科省の人事異動で、新しく幹部に就任された方々を御紹介いただきたいと思います。

【阿蘇計画官】 
 それでは御紹介いたします。森口文部科学事務次官でございます。

【森口事務次官】 
 森口でございます。よろしくお願いします。

【阿蘇計画官】 
 土屋科学技術・学術政策局長でございます。

【土屋局長】 
 済みません、遅れて参りました土屋でございます。よろしくお願いいたします。

【阿蘇計画官】 
 吉田研究振興局長でございます。

【吉田局長】 
 吉田でございます。よろしくお願いいたします。

【阿蘇計画官】 
 田中総括審議官でございます。

【田中総括審議官】 
 田中でございます。よろしくお願い申し上げます。

【阿蘇計画官】 
 森本大臣官房審議官でございます。

【森本審議官】 
 森本でございます。よろしくお願いいたします。

【阿蘇計画官】 
 藤木文部科学審議官は、おくれて参ります。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、議題(1)「科学技術・学術審議会の各分科会における議論の状況について」に入ります。第1回の基本計画推進委員会におきまして、この委員会は「第4期科学技術基本計画全体に関わるような議論や新たな視点に立った推進方策について各分科会等における検討状況を把握した上で、必要に応じて追加的な議論、分科会等への助言等を行う」ということにいたしました。これに基づきまして、前回の委員会を開催いたしました11月22日以降の各分科会等の開催状況について、まずは事務局から報告をしていただきます。

【阿蘇計画官】 
 それでは、資料1-1になります。お手元をごらんください。各分科会等の検討状況を御報告いたします。11月22日以降に進捗のあった箇所、青い字で太字にて記載しております。
 まず、研究計画・評価分科会ですが、本日の午後、開催予定の第39回分科会におきまして、課題対応型「研究開発方策(仮称)」の取りまとめに向けた検討体制や検討事項について、審議・確認することとなっております。また、傘下の研究計画・評価分科会研究開発評価部会では、この1月20日に開催をいたしまして、科学技術戦略推進費、科学技術振興調整費による実施プロジェクトの中間・事後評価を実施しております。
 続きまして、2ページ目です。学術分科会の研究環境基盤部会、学術情報基盤作業部会では、昨年の12月6日に開催いたしまして、「日本の学術情報発信機能を強化するための科学研究費補助事業の活用等について」を取りまとめております。
 それから、続きまして、3ページ目です。同じく、学術分科会の脳科学委員会では、昨年の12月13日、それから昨日、1月23日に開催をいたしまして、脳科学研究の進め方について研究を行っておりまして、平成24年7月ごろを目途に推進すべき脳科学研究についての審議を取りまとめる予定となっております。
同じく学術分科会の人文学及び社会科学の振興に関する委員会では、今、有識者からのヒアリングを行っているところですけれども、同じく、今年の7月ごろを目途に人文学・社会科学の振興について審議を取りまとめる予定となっております。
 続きまして、3ページ目から4ページ目にかけてですけれども、測地学分科会でございます。測地学分科会では、1月31日に傘下の部会委員会、こちらは観測研究計画推進委員会、それから地震及び火山噴火予知のための観測研究計画再検討委員会で取りまとめられました「地震及び火山噴火予知のための観測研究計画」の一部見直しについて1月30日に審議する予定となっております。
 続きまして、5ページ目をごらんください。技術士分科会です。技術士分科会では、昨年12月22日に開催をいたしまして、東日本大震災の復旧・復興への技術士の貢献という観点から公益社団法人日本技術士会より技術士の活動状況について報告を受けて審議を行っております。
 続きまして、先端研究基盤部会です。先端研究基盤部会では、研究開発プラットフォームの構築について検討を行っておりまして、今年の夏までに傘下の委員会、具体的には、研究開発プラットフォーム委員会などからの報告内容を踏まえまして、研究基盤政策の推進方策にかかる報告を取りまとめる予定となっております。
その研究開発プラットフォーム委員会の先端計測分析技術・機器開発小委員会ですけれども、こちらにつきましては本日の午後に開催される予定となっております。
 続きまして、6ページ目をごらんください。産業連携・地域支援部会です。産業連携・地域支援部会では、第3回を昨年の12月19日に開催いたしまして、新たに地域科学技術施策推進委員会の設置について審議を行いまして承認されております。今後、産学官連携推進委員会、新しく設置された地域科学技術施策推進委員会におきまして今後の施策について検討を実施する予定となっております。
 また、同じく6ページ目ですけれども、国際委員会です。国際委員会におきましては、これまで中間的取りまとめの検討を行っておりましたけれども、2月を目途に中間取りまとめを行う予定となっております。
 それから、本日、柘植先生は御欠席ですけれども、7ページ目、人材委員会です。人材委員会では、昨年12月20日に開催をいたしまして、若手研究人材のキャリア開発支援について検討を行っておりまして、文部科学省の公的研究費により雇用される若手の博士研究員の多様なキャリアパスの支援に関する基本方針を取りまとめてございます。
 以上、昨年の11月22日からの各分科会、委員会の開催状況を御報告いたしました。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、次に、研究計画・評価分科会における検討状況につきまして御報告いただきます。分科会長の大垣委員、よろしくお願いいたします。

【大垣委員】 
 分科会の会長をしております大垣でございます。資料1-2の「研究計画・評価分科会における課題対応型の『研究開発方策(仮称)』の作成について」をごらんください。この資料について御説明をいたします。
 先ほど事務局からございましたように、実は、本日の午後、分科会が予定されておりまして、その分科会での資料でございます。昨年11月、この委員会では、北澤分科会会長代理から研究開発方策を取りまとめるに当たり四つの課題領域ごとに検討を進めることや、海洋開発分科会や先端研究基盤部会と連携して検討を進めることを報告いたしました。本日は課題領域ごとの検討体制について事務的な調整が進んでおりますので、この資料1-2をもとに御報告をいたします。
 資料1-2の1ページの一番下をごらんいただきたいと思います。四つの課題領域の上に主査連絡会を設けておりますが、これは当分科会における各委員会の主査を中心に構成されるグループであります。当分科会は20名を超える大所帯ですので、分科会で研究開発方策を取りまとめる前に、各委員会の主査等が集まって検討したほうが効果的、効率的であろうという判断で設けるものであります。この点については、昨年7月の分科会で決定をしております。
 この四つの課題領域の検討体制については、資料の2ページ目以降をごらんください。2ページ目以降、課題領域、1ページごとにまとめてございます。まず、2ページですが、課題領域1は、環境・エネルギーであります。ここに例示された課題については、これまで環境エネルギー科学技術委員会や原子力科学技術委員会、航空科学技術委員会など、各分野別委員会でそれぞれの所掌の観点から検討され、推進方策が求められてきました。今後、当分科会にて課題対応型の研究開発方策を取りまとめるに当たっては、各分野別委員会の推進方策をもとに課題領域全体をふかんした検討を行う必要があると思っております。課題領域1については、課題への寄与を考えると、環境エネルギー科学技術委員会を中心に、関係する委員会の主査、あるいは議論に必要な専門家も参加して検討することが適当ではないかと考えております。
 次に3ページをごらんいただきたいと思います。課題領域2でありますが、医療・健康・介護についてであります。これも課題領域1と同じ考え方で、ライフサイエンス委員会を中心に、課題領域2、全体をふかんした検討を行うことが適当ではないかと思います。
 4ページをごらんください。課題領域の3であります。「安全、かつ豊かで質の高い国民生活及び震災からの復興・再生」についてであります。この領域には幅広い内容の課題が含まれておりますので、関係する委員会等の主査、あるいは専門家等で構成される連携調整グループというものを立ち上げまして、領域3全体をふかんした議論を行うことにしたいと考えております。また、この領域では、海洋開発分科会や測地学分科会にもグループに参画をいただけるよう、各分科会事務局に事務的な調整を進めてもらっているところであります。
 次に、資料の5ページをごらんください。課題領域4「科学技術基盤」についてでありますが、分野を特定することができない幅広い重要課題を含んでいますので、新フロンティア開拓のための科学技術基盤の構築等について検討を行っている海洋開発分科会や科学技術の共通基盤の充実・強化について検討を行っている先端研究基盤部会といった他の分科会や部会と連携して、最終的には、委員会の主査がそろう主査連絡会にて課題領域4全体をふかんした検討を行うべきであろうと思っております。
 最後ですが、研究開発方策としての四つの課題領域全体を取りまとめる時期につきましては、連携する分科会等との調整や課題領域ごとの検討の進捗にもよりますけれども、6月を予定しております。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。大垣委員からの御報告で、海洋開発分科会、先端研究基盤部会に加えて、新たに測地学分科会との連携について御発言がございました。各委員から何か御質問、御意見はございますか。この検討体制にある課題領域1から4どなたか主導される方がいらっしゃるのでしょうか。

【阿蘇計画官】 
 私は研究計画・評価分科会の事務局を務めておりますけれども、今、事務局のほうで人選中でございます。

【野依主査】 
 よろしくお願いします。
 ほかにございませんか。それでは、大垣委員、何かつけ加えられますか。

【大垣委員】 
 つけ加えますと、各領域ごとに、特に1、2あたりは中心となる委員会を決めておりますので、そこのところの関係者が取りまとめるという感じになるかと思います。

【野依主査】 
 はい、ありがとうございます。よろしいでしょうか。
 それでは、次に参ります。「課題達成型」の第4期基本計画を推進するためには、分科会等の枠を超えて議論することが大変効果的であると考えております。他の分科会等におきましても、今後、必要に応じて連携を御検討いただければと思っております。他の分科会等から御報告事項はございますか。この委員会は、各分科会等の長にお集まりいただいておりますので積極的に検討状況を御報告いただき、情報共有を図るとともに、考え方、あるいは課題を共有して各分科会等の今後の審議にお役立ていただきたいと思っております。
 何かございますか。どうぞ。

【有川委員】 
 非常にいい方向を示していただいていると思っております。実際に私自身は、2ページにある研究環境基盤部会の学術情報基盤作業部会で、最近、かなり具体的な提案をしております。これは、研究成果公開促進という観点で、古いイメージがある定期刊行物について、この時代に合ったやり方が必要ではないかということで、研究費部会に対して提案をさせていただいております。
 それから、この四つの課題領域に関することで、資料2の課題領域4について大垣先生からございましたように、先端研究基盤部会としましても、ここは非常に様々なところに関連いたしますので、連絡会等をつくっていただいて効率的、効果的に議論を進めていきたいと思っております。また、私が主査をつとめている情報科学技術委員会も全ての領域に関係しておりますので、そういった面からもしっかり議論させていただきたいと思っております。

【野依主査】 
 ありがとうございました。何かございますか。どうぞ。

【井上委員】 
 今、大垣先生から御報告のあった、いろいろ課題があるところに、宇宙開発関係のことでいろいろかかわることがあります。今、新しい体制が考えられていると思いますが、これからいろいろなことを、宇宙開発に関わることも一緒に考えていけるように考えていただければと思います。
 それとちょっと関連するのですけれども、他府省でかかわっている部分もここに随分いろいろあると思いますが、その辺はどんな考え方、どんな構造が工夫されているのでしょうか。

【阿蘇計画官】 
 各省との連携ということなのですけれども、今のところ、研究開発方策を、まず、個別の傘下の委員会でまとめております。その個別の各施策の中で、他の産学官連携、あるいは各省との連携という形で推進方策をそれぞれつくっておりまして、施策ごとにそれぞれ連携が、必要に応じて進められているという状況で、それを今後、各分野間での横串ということで、さらに調整をしていくという作業手順になっております。

【野依主査】 
 ありがとうございました。課題の達成に向けて必要な資源を集約し、同時に、機能を集約していくことが大変大事です。しっかり推進していただきたいと思います。大垣委員、どうぞ。

【大垣委員】 
 はい、そのとおりでありまして、上の新たな主査連絡会等をつくっておりますが、それがまた各分科会や委員会に返っていくという循環が起きなければいけないと思っております。

【野依主査】 
 よろしいでしょうか。では、黒田委員。

【黒田委員】 
 1点だけ確認させてください。委員長のおっしゃった課題対応型の研究開発方策を練るというのは、各分科会でお考えいただきたい課題だと思うのですが、各分科会で何を課題にしているのかが見えないのです。何を課題にしているかということから、こういう改革をすべきだという筋道につながるのだと考えています。科学技術が何を担うべきか、ということを検討いただくのが一番よくて、それによって、いろいろな分科会の連携が生まれてくるということだと思います。

【野依主査】 
 具体的に課題を明示して、達成目標をきちんと定めてやることが大事だろうと思います。よろしくお願いいたします。
 ほかにございませんか。それでは、次に参ります。
 議題(2)「『社会と科学技術イノベーションとの関係深化』に関する基本的な考え方について」です。本日は科学技術コミュニケーションに関しまして、北海道大学の杉山滋郎教授と早稲田大学の田中幹人准教授にご発表いただきます。このテーマに関する現状や課題、それから人材養成に関して杉山教授に、また、インターネット等の新しいメディアを通じた科学技術コミュニケーションなどについて田中准教授に、それぞれ御説明いただきます。
 まず最初に、北海道大学の杉山教授です。杉山教授は、科学史、科学技術コミュニケーションを御専門とされておりまして、現在、北海道大学科学技術コミュニケーション教育研究部門(CoSTEP)の代表もお務めです。それでは、20分程度で御説明いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【杉山教授】 
 御紹介いただきました北海道大学の杉山と申します。配付資料もございますが、そこにはない動画などもごらんいただきたいと思いますので、基本的にスクリーンのほうをごらんいただければと思います。
 タイトルにありました「CoSTEP」ですが、これは英語での名称を略して「CoSTEP」と言っております。北海道大学では2005年に科学技術振興調整費により科学技術コミュニケーターを育成する教育プログラムがスタートしました。その後、2010年度からは大学の一組織として、長いので「CoSTEP」と省略しておりますが、振興調整費のときとほぼ同じ規模、内容で事業を継続しております。私はこの間、合わせて7年間、この代表を務めてまいりました。
 CoSTEPの教育スタッフは専任8名のほかに兼任で私、それと学内の協力教員4名で、このほかに講義科目を中心に学内外から非常勤の先生もお迎えしております。先ほどの専任スタッフには、コミュニケーションにかかわる実務経験が豊富なスタッフを取りそろえております。かつ、若手の教員です。例えば、ここに書いてありますのは前の職ですが、NHKの科学番組のディレクターをしていた者がCoSTEPではサイエンスをテーマにした映像作品の制作を指導しております。また、わかりやすくて興味の沸くようなストーリーづくりを指導する教員、あるいは、魅力的なイベントのつくり方を指導する教員、デザインを通して科学技術コミュニケーションを指導する教員、あるいはまた、写真には写っておりませんが、難解なサイエンスを親しみやすい文章で表現する方法について指導する教員といったぐあいです。
 振興調整費が終わった後、大学の一組織になりましたが、ミッションとしては三つあります。その一つ目が振興調整費時代と同じく科学技術コミュニケーターを育成することです。育成対象者は、大学院の正規の課程に受け入れるのではなくて、別枠で、いわば大学の公開講座の受講者のような形で受け入れております。したがって、受講者には大学院生、あるいは教職員だけではなくて、大学外の社会人も含まれています。ここにCoSTEPの教育プログラムの大きな特徴があります。
 二つ目のミッションは、大学院の各研究科のカリキュラムの中で、科学技術コミュニケーションに関する教育を担当する。それから、学部生、留学生、教職員のファカルティ・ディベロプメントの講習会なども担当しております。
 三つ目は科学技術コミュニケーションに関する研究です。
 以下では、科学技術コミュニケーターの育成という一番上のことを中心にお話ししていきたいと思います。
 私どもでは、科学技術コミュニケーターというのは、決して、これでご飯を食べている人、これを職業にする人に限らないと、もちろんそういう人がいてもいいのですが、それに限らない。むしろ、科学技術コミュニケーションを主導的に、例えば、会社の社員でありながらオフタイムにそういうことをするという人も含めて構わないのだというふうに理解しております。養成人員は、7年間でここにありますような数になっています。
 CoSTEPでは、本科と選科と二つの種類を設けておりまして、本科は講義、演習、実習、これは全部、札幌の教室で学びますが、選科の場合には、講義に関してはe-learningでも構わないということにしております。その結果、受講生の居住地は、お手元の資料では色が出ておりませんが、上のほうが本科です。当然、教室に通うわけですから、基本的に札幌市近郊になりますが、選科になりますと、ごらんのように、関東、あるいは関西の地域が増えております。海外からの受講生もおります。
 どういう職業の人が受講生かと言いますと、本科の場合は北大の院生、それと会社員がかなりの数を占めます。お手元の資料ですと下のグラフですが、選科の場合には、必ずしも毎週毎週教室に通う必要がありませんので多様な方が受講されるということになっております。
 教育プログラムは、多彩な講師陣による多面的な講義、年27コマプラス実習と講義とをつなぐ演習です。実習の場合、CoSTEPでは、実践を通して学ぶ、かつ、アウトプットは社会的にプロがやったものに決して遜色のないものを出すということを心がけております。
 具体的な例を幾つか紹介しますと、お手元に冊子が4冊あると思います。そのうちの一つ、つい最近出たものですが、ここにありますような『ニュースの科学用語、これでわかった』というものを書店に並ぶような本として出しております。それから、これは昨年4月に、3月の福島の事故を受けて1か月後に出した電子書籍で、『もっとわかる放射能・放射線』という電子書籍でインターネット上で、だれでも無料で、こうやって放射能・放射線の基本を学ぶことができるというものを公開しました。
 それから、大学の広報誌を制作しております。これがこれまで制作した2年分です。この2月に出る次号、これは「震災特集」としまして、左下に「北大と震災」と出ておりますが、北海道大学が震災に対してどういうふうに取り組んでいるかということをテーマに、企画から取材、編集全てをCoSTEP、この受講生が編集委員会と手を携えて制作するということをやっております。
 それから、ラジオ番組も毎月1回、北海道大学の研究者の研究成果を紹介するというラジオ番組をインターネットで配信しております。それから、科学イベントを多くの人に知ってもらうための広報チラシの制作もグラフィックデザインを学びながらやっております。もちろんサイエンスカフェも開催しております。2か月に1回くらいのペースで、とりわけ、国民との対話の重視が言われてからは、競争的資金を取っている人たちの社会的責任を果たすという意味で、その人たちの広報発信を積極的に支援しております。
 こうやって実践を重視して学んだ修了生たちが実際にどういう活動をするのか、一例をごらんいただきたいと思います。
(映像開始)
 CoSTEPを受講しているときは、サイエンスカフェのポスターを主につくっていました。修了後、こういった本の中の挿絵、専門的な内容を詳しく解説するような挿絵の仕事を幾つかやらせていただきまして、その後、今はこういった大学や学会のポスターなどを作成したり、ウェブサイトをつくったり、そういうものをデザインする仕事をしています。そうですね。自分が理系にいたので、研究の手法ですとか、ある程度、専門的な内容を理解できるので、先生の言っていることを理解して、それを要約してアウトプットするというところは評価していただいているのではないかと思っています。
(映像終了)
 今のデザイナーの話にありましたけれども、普通、サイエンスに関する何か広報チラシをつくるときには、専門学校でデザインを学んだ人につくってもらうといったようなケースが多いと思うんですが、こういう形で科学技術コミュニケーターを育成していくことによって、サイエンスの中身をきちんと理解した人物が広報の現場にタッチすることができるというふうに考えております。ほかにもいろいろ事例がございますが、それはお手元の資料の一番最後のページにほかの活動形態も書いてありますので、後ほどごらんいただきたいと思います。
 私がこの場でお話ししたいのは、科学技術コミュニケーションを活性化していくためには、それにかかわる人たちが全ての人たちにとってメリットがあるような形にしていく必要があると思います。科学技術コミュニケーションを学ぶ人、それでコミュニケーションしてもらう研究者の側、それから、そういう組織を運営する大学にとって、それぞれメリットがある形にする必要がある。実は、CoSTEPの場合には、学生が研究者の成果を社会に発信していく広報活動を支援するという形になっています。逆に研究者の側は、学ぶ人たちに対して実践的な学びの機会を提供する。もう一つ強調したいのは、受講生の中に社会人が含まれているというふうに申し上げました。そうしますと、社会の家庭の主婦の人とか、会社の人、教育現場の人、そういった人たちが大学の広報発信の在り方に対して口を挟むといいますか、コミットするということになります。ひとりよがりではない科学技術コミュニケーションが達成できるというふうに考えております。
 なおかつ、大学の中にこういう組織を持つということは、タイムリーな情報発信に貢献することができる。その一例ですが、10月6日に鈴木章先生がノーベル化学賞を受賞されました。その1か月後には電子書籍で発行することができましたし、そのまた1か月後、受賞発表から2か月後には、お手元にありますようなこういう本を大学の出版会から出版するということを実現しております。
 これまでは、科学技術コミュニケーションでは、内容をいかに正確にわかりやすく伝えていくかというコンテンツ制作のところを中心にお話ししましたが、もう一つ、「対話の場」をつくり出すということも科学技術コミュニケーションの重要な役割だと考えております。これはつとに「科学技術白書」などでも指摘されているところであります。
 サイエンスカフェももちろん対話の場なのですが、もっともっと社会的なコンフリクトがあって対応が難しいというところにも積極的にコミットしていく必要があると思います。その一つの手法として近年注目しているものに討論型世論調査というものがあります。これは世論調査に討論、市民のディスカッションを組み合わせるというものです。実際これは昨年の秋にBSE問題をテーマにして、私どもCoSTEPで北海道大学で開催いたしました。討論型世論調査は、アンケートを3回やります。ただし、1回目と2回目の間には、そのBSE問題についてわかりやすく解説した情報冊子を対象者に送ります。これがお手元にあります資料のA4判の大きいものです。これを読んでいただいた上で2回目のアンケートに答えていただく。ただし、この場合には会場に集まって答えていただきます。当然、理解が深まっていますから1回目とは意見の分布が変わるはずです。さらに2回目と3回目の間には、ビデオを観て市民同士でディスカッションし、かつ疑問な点を専門家に質問する。より一層、理解を深めてもらった上で3回目のアンケートに答えていただくということをやります。そうしますと、1回目は「BSE全頭検査は必要だ」という意見に当然「賛成」という意見が4割くらいを占めておりますが、2回目になりますと、このように変わっていきます。3回目になりますと、一番右端の「わからない」というのがなくなって、全体的に、完全に反対というところまでの意見は変わりませんが、「必要だ」という意見がかなり減少していきます。このような質問を30個ぐらいを3回繰り返しまして意見の変容を見ていくわけです。
 実際の様子をごらんいただきたいと思います。
 この中で、科学技術コミュニケーターがどういう役割を果たしているかにも御注目ください。
(映像開始)
 北海道大学の会場に、「みんなで話そう食の安全・安心」と題した討論イベントを開催しました。参加してくださったのは150人余りの札幌市民です。(早送り)
 さて、会場では、アンケートへの回答が終わりビデオの上映が始まりました。冊子の内容を10分ほどにまとめたものです。と畜場で牛を解体するときに、この特定危険部位を取り除いてしまいます。「BSE全頭検査のこれからについて、あなたはどう思いますか」。いよいよグループ討論です。情報冊子を参考にしながら90分間、市民同士で自由に討論します。その後、大きな会場に移動して全体会です。各グループの代表者が順に専門家に質問します。(質疑応答)
(映像終了)
 このように対話の場をつくるという場面で科学技術コミュニケーターが重要な役割を果たすということがごらんいただけるかと思います。ファシリテーションがそうですし、そもそも、こういう討論型世論調査という対話の場をつくるということもコミュニケーターの役割です。もちろん、そこで使われる情報資料、ビデオ、コンテンツの制作、これも科学技術コミュニケーターの重要な役割となります。注意していただきたいのは、この二つが密接にリンクしているということです。
 もちろん、このほかにコンセンサス会議という、もう少し人数を絞って、さらにディープに議論するというやり方もあります。日本でも、ここにありますようなテーマに関して、これまでコンセンサス会議が実施されてきました。私どもが実施した一番近いものは、ナノテクを食品に応用することが是か非かという問題をめぐって実施しました。これで研究者、それから、それを開発している企業の人たちにとっても、こういう形でディープな議論をするということは非常にメリットがあるということをごらんいただきたいと思います。
(映像開始)
 いろいろ糾弾されるかと心配していましたけれども、きょうのように興味のある方々が集まってこられて、いろいろと聞かれているのはほんとうにおもしろいものであると。大体、100じゃないにしても、7割、8割のポイントを理解していただいた上で、いろいろな議論をちょうだいできたというのは、ある面では、自信を持って進めると。それから、何となく今まで、一般の人はどうお考えになっているのかなということに自信が持てなかったところ、こういう考えで、まあ、初めてではないですけれども、少なくとも、意識の高い方の集合体という形で御意見が聞けたというのはほんとうに参考になりますね。情報がきちっと届く機会を与えてもらうというのはありがたいです。これを製品の中に書いてくださいというのは、もう無理がありますので。そうなれば、主要な次元できちっとした、ほんとうの意味でのコンセンサスがとれるということはすごく歓迎したいと思います。フィードバック的な意見も、私に直ではなくて、ああいう提言をまとめるという中でいろいろな発言をバックヤードで聞いていると、ああ、それがもう伝わったのだなというのがわかります。もちろん、二、三十分でしたから、それで全てが伝わるほど技術も底の浅いものではありませんが、ただ、たった1回、それもファーストコンタクトで、これだけ伝わるならば、これはあと二、三回かけたら、きょう参加された市民の皆さん、間違いなくセミプロにはなるのではないかという感覚もありました。
(映像終了)
 実際、これは今のものは専門家のほうですが、討論型世論調査のデータですけれども、参加した市民にとっても非常に満足感が高い対話であるということに御注目いただきたいと思います。このように、私の考えます科学技術コミュニケーションというのは、いわゆるリスクコミュニケーションと言われているものも含むものである。とりわけ、コンテンツの制作のほかに、対話の場の創出という側面があって、このコンテンツの制作と二つをリンクさせた形で科学技術コミュニケーションを展開していく必要があるのではないかと考えております。
 その観点から、以前いただいた資料にこのような図があって、科学技術コミュニケーションのほうが左のほうにありまして、右のほうに別立てで「国民参加」とか「コンセンサス会議」などがあるのですが、これは横軸に「政策への国民参加」を取っているので切り離されたのかもしれませんが、むしろ、これ全体を含むものとして科学技術コミュニケーションをとらえたほうが現実に即しているのではないかというふうに考えます。
 以上をまとめますと、科学技術コミュニケーションをやる上では、それにかかわる人たち全てにメリットがあるような運用の仕方を工夫していく必要がある。その一つの方法として、人材の育成と実践活動とを有機的に結びつけていくのがいいのではないかということです。
 もう一つは、科学技術コミュニケーションをリスクコミュニケーションなども含むようなものとして幅広くとらえていったほうがいいのではないかというふうに考えます。
 以上です。

【野依主査】 
 ありがとうございました。質問は後ほどまとめて時間を取りたいと思います。
 それでは、引き続きまして、ウェブメディアや科学ジャーナリズムを御専門にされております早稲田大学の田中准教授から20分程度で御説明をお願いいたします。

【田中准教授】 
 それでは、お話しさせていただきます。早稲田大学の田中幹人と申します。杉山先生と同じくというか、杉山先生は主催された側ですけれども、2005年からの振興調整費の早稲田大学で行われました科学技術ジャーナリズム養成プログラムというところに参加してより、この分野に参りました。それまでは普通に科学者としてのキャリアを進んでおりまして、ポスドクをやっていたのですが、その一方で、学費を稼いだりするために、学部時代からライターとしても活動していたという経験を、買われてと思っておりますけれども、科学とジャーナリズムという問題を扱うようになって現在に至ります。
 私のほうでもう一つ、サイエンス・メディア・センターという社団法人をやっておりまして、震災後に幸いにも高い評価をいただきました。科学ジャーナリズム研究というものを含めて私たちが取り組んできたのは、科学技術の議題構築のためには何が必要かということで、これはサイエンス・メディア・センターのコンセプトにもつながっています。専門家というものは、多様な、例えば、ここに青、緑、赤と示したような意見がありますけれども、コアのところでサイエンスというものを共有しているはずです。それに対して、メディアが、その芯を外して報道してしまうと科学者の側に非常に不満が残る。では、芯を外さずに、このように議題を選んでくれたならば、科学者はそれほど不満が残らない。青い意見を持っている人は、「ちょっと違うんだけどな」と言いながらも、「まあ、ああいう見方もあるか」と納得できる。赤の意見を持っている人は、自分の意見はほとんど拾えてもらったと思える。逆に、この芯を外して赤にかかるように議題を設定された場合には、「おれはこんなことを言っていない」と言って、赤の全ての科学者は怒るわけです。一方で、このフレーム選択というのはジャーリスト側の権利で、これを科学者が侵害しようとし始めるとおかしなことになるということも、また事実だと思います。
 専門知ということに関して人文的な研究をずっとやっているわけですけれども、私が震災以降、科学者とジャーナリストの間をつなぐためにずっと働いておりましたなかで、その間、つねに脳裏によぎったのが、このCollins&Evansの『Rethinking Expertise』という本の中の冒頭に掲げられている言葉で、「科学が真実をもたらすことができるとしても、政治に求められるスピードでもたらすことはできない」、これはもはやほとんどの方に納得いただけるのではないかと思います。そしてまた、専門家とはだれか。ネット上などでも盛んに震災後に言われていました不満は、マスメディアで流れた「専門家が語るには」「専門家が言うには」ということばに対して、「専門家ってだれだよ」という不満でした。実は、専門家たちはあまり自分で専門家と名乗るわけではなくて、社会的に構成されるわけです。だれかから、あるいは社会から、三人称として「何々の専門家」と名指しされるわけです。BSE問題とかMMRワクチンの問題などを通じて、例えば、英国では「信任の危機、crisis of confidence」ということが言われました。これはこれまで「信頼の危機」と訳されてきたのですけれども、僕は現在の日本でも起こっていることを踏まえると「信任の危機」のほうが、より正確なニュアンスを伝えていると思いまして、こちらで訳しております。要は「専門家だけには任せておけない」という市民意識の高まりです。
 その一方で、「実際、社会は専門家の知見に頼っているではないか」という意見もあります。確かにそのとおりですが、ことメディアに関して考えた場合、メディアに出て語る専門家が、、社会の議論の論点を提供しているわけでは、必ずしもありません。社会的な議論を観察しやすいネット上での議論を分析していると、人々は科学的な「論点」を託しているのではなく、信頼を託して、つまり「信任」を行って、敵か味方か、という議論を行っています。市民同士のあいだでも、実質上は、あの人を支持する以上は敵だ、あの人を支持するのは味方だという論争が起こってしまっているのです。
 また、私たちは、研究者からコメントを取ってジャーナリストに流すということのお手伝いをしようと試みたのですけれども、ポリティカルな問題となってしまった科学の問題に対して、専門家が語るのは非常に困難であるということを常に痛感しております。どんなことを言っても何らかの派閥を利してしまう。事態を何とか「科学的に」解釈しようとしても、政治的文脈の中で再解釈されてしまうのです。専門家は、そのことを非常に嫌がって、結局は語ることができなくなる。震災後の混乱した状態では、何も状況やデータがわからないので私は語りたくないと、みんな引き気味でした。その中で勇気を出して前に出てきて語っても、後からデータが出てくると、「あいつはあんなふうに間違えたじゃないか」、「あいつは御用学者だ」とか、いろいろ言われてしまうわけです。その結果、ますます、こういった言い方は語弊があるかもしれませんが、真摯な科学者ほど萎縮する傾向があって、結果として、大きくギャンブルをして、「こうにちがいない」と、あまり科学的ではない意見を述べてくれる人が結局目立っていってしまう。そして、テレビ局とか新聞とかは、コメントをくれないとどうしようもないので、そうした状況に対して、悪貨が良貨を駆逐していくスパイラルが起こってしまったということを痛感しました。私たちは裏で科学者たちとすごくたくさん交渉していたのですけれども、みなさん、真摯に悩まれた結果、「ごめんなさい、どうしても無理です」という回答をいただいていた、ということです。
 その点で非常に異なるコミュニケーション位相を考慮する必要があると思います。先ほど、杉山先生は「科学コミュニケーション」というタイトルでお話しされましたけれども、後ほどお話しするように、杉山先生たちは、実に「リスクコミュニケーション」ということをきちっとやっていらっしゃると私は考えております。
 一方で、日本独特の「科学コミュニケーション」という言葉があります。私自身も科学コミュニケーションを掲げた振興調整費で養っていただいたのですけれども。諸外国も科学コミュニケーションというものを掲げてきましたが、このことは、本来は科学と社会の関係を改善するための方向性を持っていたはずなのです。ジャーナリズムにおいては、ジャーナリズムとレポーティングと分けるべきだという意見が最近は多いです。つまり、科学の問題を考えるためのきっかけを与えるのか、科学の発見や成果を伝えるのかということです。
 先ほど言いました信任の危機の時代を越えて、欧米は反省の時代に入りました。この段階になると、リスクやクライシスと科学コミュニケーションをどうつなげるか、ということが一つのテーマになってきます。このように三つの位相を考えた場合、リスクと重なり合う部分、クライシスのときも重なり合う部分がありますが、これをどうつなげるかということを考えてきたと思います。ただ日本では、当初の理科離れ対策というような当初の傾向から離れられず、まずは単なる啓もう思想のままにいる部分が多いと考えています。それが悪いというわけでは全くないのですが。
このスライドの写真は、左側が欧米のサイエンスカフェの様子、「Cafe Scientifique」と言われるものですけれども、右側の二つは日本のサイエンスカフェです。そうした場合、左側はだれが専門家なのか非常に判別しにくいことがおわかりいただけるかと思います。つまり、大体5分間ぐらいフリートークの時間を専門家は与えられ、その後は座ってしまって、みんなでお茶を飲みながらずっと議論する、それを「サイエンスカフェ」と言っているわけですが、日本の場合は、いわゆる講義形式です。ただ、これにもニーズがあります。つまり、生涯学習的なもので社会人が来て、難しい話を聞きたいというニーズがあるので講義形式になっていくのです。これが必ずしも悪いとは思いませんが、場の形式としては、なかなか自由な議論をしにくいものです。私もいろいろなところでサイエンスカフェに参加するのですけれども、欧米では禁止とされている事項が普通に行われている。例えば、カフェの最初に「皆さん何々を知っていますか」、とカギとなるような知識を聴衆に問いかけること。これは本来、科学コミュニケーションでは絶対にやってはいけないこととされています。つまり、それは知識の流れる方向を一定にしてしまうからです。反論しにくくなるからやってはいけないといいますけれども、大体日本のサイエンスカフェは、「皆さん、何々を高校で習ったのを覚えていますか」という話から始まっていくということです。この形式でも、少なくとも、講師である専門家は、わかりやすく話すことは学べるのですけれども、議論の始まりの場には必ずしもなっていないという問題があります。
 もう一つのコミュニケーション位相、クライシスコミュニケーションのほうを先に説明します。こちらも非常に難しい部分ではあるのですけれども、この辺はもう次の基本計画のところで入ってきていると思います。震災後の事例としては、「津波てんでんこ」とか「トリアージ」という問題があります。いずれも事前に「ELSI」と言われる倫理的、法的問題を考えてルールややり方を決めておいて、そして、その場ではそのとおりやるしかない状態が、クライシスコミュニケーションです。また、こうした取組のやり方は、事後に検討・改訂される必要があります。東大地震研の大木さんが非常に悔恨を込めて話されていますけれども、「科学的な」ハザードマップに従って避難された方が、ハザードマップの境界領域でたくさん亡くなられたという地域があります。引っ越してきたばかりで右も左もわからなくて、とりあえず山の高いところに逃げた人だけが助かったという地域があるわけです。そうしたときに科学が判断した「クライシス」のラインをどう考えるかというのは非常に難しい問題です。
 そして、トリアージは、ご存じのように、実際に医療物資が足りていない状態で優先順位をつけて助ける。これは、はっきり言って命の切り捨てですが、医療リソースの不足から、そんなことを行わざるを得ない状況というのが確かにある。そうした状況下で平等な治療をやっていたら100人が100人死んでしまうかもしれない、不平等にすれば100人中何人かが助かるかもしれないというときに、トリアージといった医療優先行為を適用する。もちろんその後で、その仕組みは正しかったのかと検討する必要がある、これがクライシスのフェーズだと思います。
 一方で、リスクのフェーズというのが一番の問題になってきます。トランスサイエンス、もうさんざん出てきていて皆さんご存じだと思いますが、Weinbergが1972年に述べた「科学に問うことはできるが、科学には答えることができない問題」という領域です。トランスサイエンス・コミュニケーション、ポストノーマルサイエンス・コミュニケーションとも言えるのですけれども、トランスサイエンス問題としてのリスクをコミュニケーションのなかでどう扱うか。そもそも、科学技術を受容するのか、拒否するのかという社会的合意のためのコミュニケーションです。
 また、リスクそのものはリスク関数として科学的に評価可能ですけれども、そもそも、検出技術などが発達すると、それまで知られていなかったリスクがどんどん発明、発見できるようになります。特にわかりやすいのは今回の放射能で、僕自身が、放射線取扱者免許を持って生物実験等もやっていた人間ですけれども、食品中のあんな小さな単位がはかれるのだと思いました。数ベクレルというものがはかれるというのは、メガベクレル単位の放射性物質を扱っていた僕にとっては結構驚きでした。それはさておき、ここまで細かく測れると、逆にマップとして可視化することができる。それによって、ある意味では不安というものが発生するということがあります。
 こうした場合に、リスクコミュニケーションといったところがまだまだ共有概念として出てきていないと思います。後ほどお話ししますけれども、「リスク」という言葉自体に非常にぶれがあります。きょうは、データに基づいてお話しするようにという指令をいただきましたので、ちょっと簡単に私たちがやっている研究をお話しします。「市民は科学を理解できなかったから混乱したのだろうか」ということを今の話につなげて申しております。
 まず、リスクをコミュニケーションするときの一つの大きな罠があります。これは、「Advocation(唱道)のジレンマ」というふうに私たち科学社会学の研究者の間では言っておりますけれども、科学的事実の説明というものは、それを聞くオーディエンスの側は意見と区別がつかず、また話者もその境界を気づかず踏み越えてしまうということです。これはもう震災後のツイッター上の会話を分析すると非常に明らかなのですけれども、非専門家が専門家に、「何々ってどういうことですか」と聞くのに対して、「何々ということです」と専門家は答えます。そうすると、すぐに「それは今の状況でどういう意味を持つのですか」ということを尋ねられるわけです。ところが、実は質問者は「科学的な」知識の意味を知りたいのではなくて、これは、会話を見ればわかりますが、知識が文脈の中で持つ意味を知りたいのです。つまりは「今はどういう判断をすべきか」という判断を仰いでいるのです。それに対して、科学者はときに我に返って「私は事実を与えただけなので、あなたが自由に判断しなさい」と科学者は思っているし、そう振る舞おうとするのですが、多くの場合は、実は、意見ではなくて指示をしようとしてしまう。
 先ほど、なかなか表立ってメディアに語りたがらなかったと言いましたけれども、それはこういう事情を察知している専門家、そういうことがわかっている専門家ほど語れなかったのです。「私は、科学的事実を語るつもりだけれども、それは何らかの指示になってしまう」という悩みです。それは、例えば、「福島から逃げろ」「そのまま住め」という何らかの指示をする形にテレビ局などで誘導されてしまうのは困るとか、あるいは、オーディエンスは単なる知識として受け取らないかもしれないということがあります。そして、実際には、「でも語る必要がある」と、あえて矢面に立った専門家もたくさんいました。ところが、戦術的な失敗をした例もたくさんあります。
 本論に入る前にもうひとつ、先ほど申しましたリスクコミュニケーションというもののすれ違いを申し上げます。「リスクコミュニケーションが大切だ」と今回の基本計画にもありますし、多くの研究者が語っておりますが、「リスク」というものに私がこだわって見ていると、文脈によって使い方がずれています。ハザード、つまり、実際に起こった被害というものと、それが起こる可能性、プロパビリティを考えたもの、工学的な考え方を「リスク」と言っている人もいるし、リスクをハザードと曝露量、それが実際どれくらい曝露しているかということを考える、医学・理学的な考え方でリスクを言っている人もいる。一方で、社会科学やサイエンスコミュニケーション的な観点から言うと、リスクというのは、ハザードと感情とを組み合わせたものであって、実は、確率も曝露量も関係ないのだということが社会心理学的には知られています。
 ところが、この分野の専門家は日本では非常に少なく、先ほど申し上げましたように、研究者の大半は、気づかぬうちに啓もう的発想に陥って、自分たちの周辺でしか通用しないリスク概念を押しつけようとしてしまうという側面があります。では、正しいリスクコミュニケーションを行えば市民は受容するのだろうかということで、これは、Covelloという研究者が昔から出している「リスク比較表現の受容性」というランキングです。第一ランクから第五ランクまで、どれくらい受け入れられるかというリスクランキングがあるのですけれども、例えば、今回多かったのは、今回の放射線量はこれくらいだ、これくらいは喫煙をしたときと同じくらいだからという喫煙との比較がありました。ところが、これは、表では喫煙は一番下に入っていますけれども、今回の場合は放射線であれ喫煙であれ、もたらされる結果は「がん」と同一ですので、第四ランクの表現です。喫煙によってがんになる率と放射能によってがんになる率を、同一の病気やけがをもたらすほかの特定要因との比較をしているわけです。これはあまりよろしくない比較とされています。
 そういう前提を踏まえ、結局わたしたちが何をやったかといいますと、震災後3か月の全国紙4紙の第一面、第一面がネットでもよく出てきますから、それらの専門家の発言を片っ端から抽出しました。それを先ほどのランキングに従って分類して、その発言の掲載日から3日間のツイッター上での発言に対する反応、それらの専門家発言に対してどういう感情的な反応をしているかということを拾っております。これを、ポジティブな感情からネガティブな感情まで拾う。ここに関して、もちろん有意差もとっておりますし、人間が官能評価するわけなので、複数5人でやって、5人の一致率等を確認してきちんとしたデータをとっております。
 そうしますとこうなります。予想どおりというか、横軸が「よりよい」というランキングで、左側の1が一番いいとされる表現、右が5の一番悪いとされる表現で、縦軸が、上が肯定的、下が否定的な反応です。大体、そもそも、問題について語ろうというときに肯定的に語る人はあまりいませんので、ツイッター上での反応は、ちょっとガタガタはありますけれども、きれいに左上がりになっています。もちろんこれは相関にすぎず、因果ではありませんが、「よりよい」とCovelloが分類した表現のほうが人々に冷静に受け入れられている。なるほど、科学的状況説明とは、こういうことなのかと受け入れられているということです。この結果が示しているのは、社会心理学的な研究結果をリスクコミュニケーションで参照する価値はあるということです。アメリカのCDCや日本の農水省などはこのコミュニケーションを非常にプッシュしていたのですが、それがどれくらい浸透していたかというのは今後の検討課題です。
 もう一つだけコメントをすると、第1ランクの振り幅が多い理由を見てみますと、当初、ICRPの解釈は専門家内で相当幅があったのです。僕から見て、正直申し上げて、読んでいないのに「ICRP基準では」と言っているのではないかという専門家も結構いました。すると、本来は基準というのは専門家の意見の軸足になるはずで、こうしたリスク比較表現はより受け入れられるはずなのですが、その専門家のあいだの解釈のすれ違いがあると、「この人はこう言っているのに、別の人はぜんぜん違うことを言っているじゃないか」、ということになります。そうすると、だれか英語が読める人が読みにいって、そして、「この専門家はどう考えてもおかしい解釈をしている」と言って怒り出すのです。それによって振れ幅が出てしまったのだろうと考えています。第4ランクが出たのは、ある意味、スケープゴートにされたともいえる科学者がいらっしゃいますが、この方が第4ランク表現を非常に頻繁に用いていたために、彼に対して「あの人は信じられない」と、感情が集中するのです。それによって第4ランクが特に低く出ているというふうに私たちは解釈しています。
 まとめとして、結局、専門家が社会の議論に資するためには、支援が必要だということが今、申し上げたいことです。研究者の本分は研究であるはずなのですが、こういった状況においては専門知をもとに社会に助言せざるを得ないのです。しかしそこには支援と、そしてまた保護が必要です。保護というのは、例えば、何かメディアに意見を出したときには、抗議の電話などもバンバンかかってきます。そこに対していなす人たちも必要になってくるし、また、組織的に防衛することが必要です。組織的に禁止するのではありません。東大がかん口令を出してしまって有名になってしまいましたが、かん口令を出すのではなくて、組織的に、「私たちの組織は、それぞれの構成員が科学者の矩(のり)を変えない限り、彼らの言論を守ります」ということをやったところは非常に少なかったということです。それは問題だと思います。
 Interactional expertiseというのがそこで非常に重要な概念だと思っているのですが、こちらは省きます。
 一方で、リスクコミュニケーションについて、ある意味では先進国となっているイギリスではどういうふうに落としどころを見つけているかといいますと、ここに書いた、当時の王立協会長の言葉が参考になるかと思いますが、「科学技術が社会に提示する選択肢に関して、どの扉を開き、どの扉を閉じたままにしておくかを決定する権利は、科学者ではなく市民に委ねられる。しかし、選択者は、これらの決定を正確なバランスにのっとった情報に基づいてなさなければならない」ということです。人文科学の人たちは、この言葉には、まだまだ不満な部分があるのだと思いますけれども、科学サイドからは、これくらいが落としどころだと思います。
 もう一つ、「科学的意見が統一されなかったから市民に混乱が起こった」のかどうか。これは非常に大きな問題だと思います。民主主義社会、ここにいらっしゃる方は、おそらく全員が民主主義というものを信じていると思いますけれども、民主主義の基本命題というのに、多様性を確保しつつ、どう統一した意思決定をするかという非常に大きな問題があります。つまり、統一された見解と自由な議論のあいだにはジレンマがあります。これは結構見過ごされがちなのですが、科学の決定不全性といったものに対して、例えば、東大の松本三和夫さんが言われているのは、第一種の決定不全性と第二種の決定不全性があるのだと。第一種の決定不全性というのは、科学そのものが決定不全である。つまり、科学内部でいろいろな議論がありながら、その中で、もやもやとした中でコンセンサスができてパラダイムがシフトしていく。それに対して、社会自体がその問題に対して、いわゆるトランスサイエンス問題に近いもの、「科学的なリスクはこうですよ、あとの選択は自由にしてください」と言われたときに、降水確率くらいだったらみんな日常生活でやっていますけれども、放射能のときに、さあどうしようとなるということ、その決定不全性があるということです。その中で多様性は重要だろうと思うわけです。
では、メディア言論空間において多様性は実際にどうだったのかということです。本題に入る前に、生態学で中程度かく乱説というのがあります。つまり、全くの自然状態というのは、実は何らかの一つの生物層が優先的になって支配してしまったりするんです。この場合だと、アレチウリが優占して、多様性というのは実はぐっと下がった状態になる。あるいは、人間が手を入れ過ぎた人口林、杉林をつくりますと、杉林の中は、杉のリグニンなどによって地表が抗菌されますので生物層が非常に貧困になる。それに対して適当にかく乱が入ると…これは人間の手だけとは限りません。台風が来たりとか、適当にかく乱が入ると、非常に多様な生態系が維持されるという現象があります。
 これが言論の世界にも言えるのではないのかと考えています。もちろん、政府発表、学会声明というものは、バッと、こうだという意見を出さざるを得ないという部分があります。その一方で、それだけになってしまうと独裁です。権力者に都合のいい意見以外消滅します。反対側で、全ての言論を等価とみなして、どんな不満も封じた場合、声の大きいものが勝つという弱肉強食の言論空間になる。
一方で、では、相互作用の専門知、こうすべきだというような、ある種の規範や意思を持って介入やかく乱が適度に入る、外部から、野放図な状態ではなくてかく乱が入るほうが、言論空間は問題の解決能力が高い状態にあるのではないか。多様性が高いということは、外から来た騒乱に対して抵抗力も回復力も強いのです。要するにロバストな社会になる、しなやかな社会になるということです。では、こうなっていたか、ということが次の課題になります。
 この問題に関し、私たちはVoakes’s Diversity Indexというものが援用できるのではないかということで、報道の中の意見分布を調べました。多様性が大だと1に近づきまして、小だと0に近づくという指標です。これは、要するに、先ほど申しましたように、生態学における種の多さと種の均等差というものを、言論の種類と言論のバランスというものから見ているわけです。
 もしこれで啓もう的科学観、大衆はパニックを起こし混乱するので上流が意思決定すべきだという前提をとるのだったら、上流から下流に向けて多様性が増大していくわけです。そうではなくて、民主的な科学観、多様性が、ある程度いじるほうが、介入して専門知を投入し続けるほうがいい、情報が十分にあることが大切だといった場合には、大衆は十分な議論弁別能力があるとすると、先ほどの生物多様性みたいなグラフになるはずだということで、では、震災後どうなったのかというと、市民は混乱していないというのが一つの結論です。
 赤は「全体として何を語っているか」ということで、右のほうが高くなるのは何かというと、震災のことは嫌で、スポーツとか芸能ニュースを語る人たちが多いからです。ところが、震災の何を語っているかという部分だと、実は、新聞は発表報道に堕したというのは、ある意味、事実です。しかし、震災の中で、津波のことも原発のことも、いろいろなことを語っているというバリエーションが高い形になっている。その一方で、原発をどう語っているかという問題は、情報が一方向から来ません。従って、あまり多様性は高くない。この点で、発表報道に陥っていたと言えます。
そして、世の中は混乱していると言われたけれども、実はそんなに混乱していない。逆に言うと、派閥に分かれてしまったとも言えるのですけれども、多様性は右のほうで下がっていく。
 もう一つ、これは、「原子力政策」が青で、「食の安全」をオレンジで示しています。これはちょっと、食の安全をどう解釈するかというのはなかなか難しくて、一つは、原子力政策に関しては先行研究がいっぱいあって、原子力に対する態度は極めて多様なのです。ギャムソンとモディリアニという先行研究を使いますと7分類くらいできる。7分類くらいの態度になるといろいろなバランスがあって、こういうふうに、新聞からブログ、Togetter、ツイッターという形でバランスが、ちょうど多様性を持つ空間になるのですが、食の安全に対しては、はっきり言うと、食べるか食べないかの二択なので非常に多様性は低いのです。なので、結果的には、これは健全な言論空間と解釈できると思います。新聞はいろいろな選択肢を出していた。それに対して人々は、「じゃあ、私は食べる」「私は食べない」というふうに選択していったということで、ある意味では健全な状態だったと言えると思います。
 まとめですけれども、先ほど言いましたように、専門家が必ずしも適切にリスクコミュニケーションができていないという部分があります。そして、市民はどうふるまったか。いわゆる、大衆社会論的な見方というものは、やはり必要はないだろうと。これは50年以上かけてマスコミュニケーションが、大衆社会論というものはそれほど正しくないということを言ってきました。しかしいま、ツイッターとか、逆に、人々の意見が可視化されたことによって、やはり大衆社会なのではないかという意見があります。ところが、やはり、データをとってみると、いや、そうでもないよと。大衆社会とは言えず、人々はやはりきちんと弁別能力があるだろうということです。
 チェルノブイリが20年かかってやっと被害認定されたことを思うと、まだまだこれから日本においてもいろいろなことが起こります。問題は、例えば、今ではだれでも知っている、放射線汚染が小児甲状腺がんの原因になるというような話は、最初は少数の症例報告から始まっています。現場の症例報告から始まっていくので、当然、最初のうちは、「ウソにちがいない」みたいな疑う視点もあるわけです。今でも放射線汚染で鼻血が出たというような意見もあります。つまり、そういう「飛ばし」とか、こうではないかという、科学的にはきわめて不確かだけれども怪しいニュースも流れるはずです。問題は、その中に疫学的に実証しうる本物が混じっている可能性があるのです。その本物を見捨て続けると、水俣のときに起こったような失敗を繰り返してしまう。そこのバランスをどうしていくかということが非常に難しいことだと思います。
 もうまとめにしますけれども、その中で、一つは、Agenda Building(議題の構築)、つまり一方的な押しつけであるAgenda Setting(議題の設定)という言い方から発生したわけですが、そういう言い方ではないAgenda Building、どうやって社会議題を構築していくかということがあります。そして、先ほど申しましたAdvocationという問題と、Alternativeの選択肢をどう提供するかということが、情報において社会的な課題になっていると思います。
 最後の最後につけ加えたのですけれども、実は先日、あるグラントの、どういう設計をするかという会議に参加させていただいたのですけれども、ELSIについては基本計画に書かれましたが、おそらく多くの科学者には知られていません。座長を含めて、そのグラントの議論の場では「人文社会学も含めた融合した科学技術を設計する」というようなことが掲げられていたのですが、僕が「ELSIの項目はどこにあるのでしょうか」と尋ねたら、「何ですか、それは」という話になりました。それはリスクに関する技術開発のためのグラントだったんです。それで説明したら、「そんなことを入れたらうまくいかないから入れないほうがいい」と言われてしまいました。まだまだ、「ELSI的発想をシステムに組み込んだほうがうまくいく」という発想に、科学技術者は大半はなっていないと思います。
 そのことは、車のアクセルに対してはブレーキが必要で、両方がないとガバナンスによるハンドリング、技術のハンドリングができないはずなのです。SPEEDIの失敗をどう考えるか。社会学的に言うと、それを支持する法制度、単に技術的な問題だけではなくて、どう運用するかということに関するELSIの検討が足りなかったために動かせなかったという見方ができると思います。
 こういった環境の整備はまだまだ進んでいない。例えば、司法の場では、「科学は一点の疑義もないものでなければいけない」というようなルンバール判決が出ておりまして、いまいち、うまく動いていない部分があるという問題があります。まだまだ、このELSIという概念の浸透を含めて課題は多いと思います。
 以上、わざとオープンエンドにしてしまいましたけれども、以上です。失礼いたしました。

【野依主査】 
 ありがとうございました。
 それでは、何か御質問はございますか。30分ぐらい時間をとってあります。平野委員、どうぞ。

【平野委員】 
 お二人の先生、大変有意義なお話をいただきましてありがとうございます。田中先生の今のお話の中で、ちょっとお聞きしたいことがあります。ある委員会で、歴史的史実をきちっと見ながら科学技術と良い対応をとっていかなければいけないという議論になっております。お話なのですが、その歴史的事実の中の記録という点において、インターネットに出ている記録というのはなくさないように整理して大切に対応していかなければいけない、という議論になっておりました。
 その中で、ここで多様性という大変重要なパラメーターについてお聞きしたく思います。。どの議論でも極論に言うと、二派に、あるところで分かれながら、時にはこれが対峙して
来るのですが、正しい、正しくないというのは別にして、どこをもって政策といいますか、軸として考えればいいかということです。総体的には、あの図中のピーク値のあたりを見ることを推奨されますか、どちらを見られますか、お伺いしたいと思います。

【田中准教授】 
 それに関しては、やはりすごく皮肉なことだったのですが、今回の震災のツイッターの分析をしていると、人々が震災後の原発の状態が一番落ち着いたのが、残念ながら国内ではなくて、イギリスのベディントン卿がイギリス大使館向けの情報を出したときに非常に落ち着いたのです。あそこのシステムがやはり参考になると思うのです。結局、あそこのシステムは、皆様ご存じだと思いますが、おもしろいのは、科学者が第一種の決定不全性の中で決定して、こうだと進言する。そうしたときに、政府はそれに従う必要がない。つまり、ある意味では、多様性の中で一番ピークだというところを科学者の中で話し合って決めるのですけれども、それに従う必要がなくて、政府的には、こういう理由で拒否するとか、そういう判断ができるということが、まず一つ。
 もう一つ、僕のジャーナリズム研究の視点からして重要なのは、あの委員会の人たちは、実は自由に取材を受けることができるんです。ですから、ありていに言ってしまうと、イギリス側のシステムだったら小佐古さんはやめる必要はないと。「私はあくまで最後まで反対したけれども、集合の意思としてはああいう結論になった」ということ自体を、トランスペアレント、透明性を高めておくことで、逆に「なるほど、科学者のあいだではこういう議論だったのか、その上がっていった意見に対して、政府はこう判断したのか」ということが全て見える。そうした場合に、人々はそんなに愚かではなくて、もちろん大激論になると思います、大激論になるけれども、いろいろなはかりにかけた上でそういう判断もあるだろうということは人々が受け入れるというのは、実際上、私たちのネットワーク分析等を含めても同意している結果です。
 実は、統治システムを完全に変えるという意味ではなくて、そこの透明性を担保しつつ、その意思決定のシステムをはっきりさせる。手続公正性といいますけれども、手続公正性の確保と、その可視化が一番重要な点だと思っています。

【平野委員】 
 ありがとうございました。

【野依主査】 
 ありがとうございました。野間口主査代理、どうぞ。

【野間口主査代理】 
 お二人の先生に大変有益なお話をいただいたと思います。私は、リスクや科学技術コミュニケーションと言えば、科学技術の良さや、楽しさを理科離れ防止にもなるようにいかにして魅力的に伝えるべきかという点にとらわれがちだと思っておりました。長年、企業にいて技術者や研究者と接してきた経験から言いますと、科学技術の進歩は、いい話ばかりではないのです。科学技術は、リスクへの対応等をよく検討した上で社会に使われることが必要です。科学技術コミュニケーションは、リスクコミュニケーションや、クライシスコミュニケーションを含むものであるということを、ぜひ広く知らしめていただきたいと思います。
 最後のほうに第4期科学技術基本計画の話がありました。その計画の中にレギュラトリーサイエンスというのが盛り込まれています。第4期になって初めて出てきた問いかけですが、レギュラトリーサイエンスの方法論の一つとしても非常に重要なことに思われるので、ぜひ、先生方のような活動を続けていただきたいと思います。
 質問ですが、意識の高い人をコミュニケーションの場の中に引っ張り込んでくるのは割と簡単だと思います。一方、そうでない一般の人たちを対象にするにはどのような課題があるのでしょうか。例えば、テレビの視聴者の大半は、後者の方で、それが一種の世論をつくっているところがあります。そのような背景を鑑みて、より一般化するような努力をしていただきたいと思います。お二人の先生から、そのための策についてお考えがありましたら教えていただきたいと思います。
 また、「リスク=ハザード×確率」、それから「ハザード+感情」というような話がありました。科学技術をハザードベースで考える場合、リスクベースで考える場合、この考えが日本社会にはまだ成熟していないと思われます。この点を啓もうしていただきたいと思います。これは特にメディアの方が先生方の教室で考え方の訓練をすべきではないかと思います。先生方の生徒さんにメディアの人は何人ぐらいおられるのか、教えていただきたいと思います。
 以上です。

【杉山教授】 
 二つ目の御質問の、メディアの人が何人くらいいるかですが、今まで、北海道新聞社の記者、もしくは元記者で、今、編集制作部門に回っているという方も含めて5人ぐらいの方が、皆さん文系のご出身なのですけれども、地方紙の場合、あらゆるジャンルをカバーしなければならないので、大丈夫かなと思いながら記事を書いていたので、これを機会にぜひ勉強したいということで学ばれました。ですから、潜在的に非常に関心が、科学技術コミュニケーション、ないしは科学技術そのものも含めていいのですが、学びたいという意欲は高いです。ただ、なかなか、会社から仕事を、勤務時間を割いて来るわけですので、そういう制約が非常に大きいと思います。
 それから、一つ目の御質問ですが、科学技術にそもそも興味を持たない人たちも含めていろいろなコミュニケーションをしていかなければいけないと。一般的には私もそう思うのですが、それが行き過ぎると、ちょっと違うのではないかと。というのは、専門的な知識を要する問題に我々がほんとうに全て知っているかというと、知らないだろうと。例えば、私は経済学の分野は全く知らない。お金をどうやって運用するかみたいなことを考えたときに、デリバティブとか、何かいろいろなものがありますけれども、そんなのはわからないから、やはり信頼できる証券会社に頼んで、みたいな形で生きています。
 家を建てようと思っても、建築をゼロから勉強し直して、ほんとうに安全かどうかを自分で判断して家を建てようとは思わないで、やはり信頼できる人に頼る。おそらく、科学技術もそうであって、特に問題が起きない限りは、多くの人たちにとっては、やはり、信頼する人に任せる、そうしないとこの社会は生きていかれないと思います。ただ、一旦信頼が崩れたときには、それを再構築しなければいけない。そこで科学技術コミュニケーションが必要になるのだろうと思います。科学技術が社会に受け入れられていないので、科学技術リテラシーを高めて、全ての人が自分で基礎的なことをみんな学んで、理解した上で国民に判断してもらおうというような論調が時たまありますが、それは私は間違いだというふうに思っています。
 だから、先ほど田中先生の話で信任ということがありましたが、信任をいかにつくっていくかというところで科学技術コミュニケーションが大事になるだろうと。その信任が崩れたところに対しては、関心を持たない国民はほとんどいないと思います。例えば、原子力の問題なんかは、今はもう関心を持っていない人はだれもいないと思うんです。そういうところを重点的にきちんと、時間はかかるかもしれないけれども、丁寧に議論を積み重ねていくことで、結果的に科学技術総体に対する信頼、信任も高まっていくのではないかと考えています。

【野間口主査代理】 
 私も信任が崩れた後の話をよくします。信任が崩れた後でも科学技術に対して非常に積極的な人が、残ると思うのです。そのすそ野を広げることが、非常に重要であると思います。

【杉山教授】 
 一つだけ申し上げますと、先ほど御紹介しましたBSE問題の話で、実は、札幌市民、20歳以上の成人が150万人ぐらいだったでしょうか。その中から3,000人を無作為抽出して「参加しませんか」というふうに申し上げました。そうしたら回収率が60%くらいだった。かつ、「丸一日使って市民同士でディスカッションをする場に来てくれませんか」と申し上げたら、その中の4割の方が手を挙げてくださって、お手元にもあると思いますが、情報提供誌送ったら皆さん、読んでくださった。さらに、ネット等を使って調べたという方も6割ぐらいいらっしゃるのです。それは無作為抽出ですから、その意識のある人たちだけではないと思うんです。ですから、うまく関心の高い問題に適切な情報を与えて、適切な場をセットしてあげれば、非常に参加率も、議論の中身もいいもの、濃いものができるということを体験から申し上げることができると思います。

【野依主査】 
 では、國井委員、どうぞ。

【國井委員】 
 お二人の先生の討論型世論調査と多様性はきわめて重要だと思います。特に、教育の中で重要だと思います。やらせとかあるなか、信任が崩れてきた。これに関して、手続公正性、そこを仕組みとしてきちんとつくっていき、また、ディスカッションをする国民性を、教育の中でもっと浸透させないといけない。ここら辺がうまく機能するだろうか。実際やられたところでうまくいっているというお話ですけれど、今回はうまくいったのかもしれませんけれど、必ずしもディスカッションがうまくいっている場面だけに遭遇しない。あまり意見が出てこない場合もありますし、出てきても、それこそ、やらせじゃないかとか、ネット上でもいろいろな操作が、実際できてしまうので、そのあたりをどうしていったらいいのか。教育も法律も整備していかなければいけないのではないかと思うんですが、その辺、御意見はいかがですか。

【杉山教授】 
 おっしゃることはごもっともだと思います。やはり、対話の場をつくるための大事なことは、ルールをきちんと明示することだと思うんですね。それで皆さんの了解をとった上で、そこで参加していただくということが一つの大事なポイントだと思います。
 もう一つは、その場に仮に集まっていただいた方に、何にも手持ち材料はなしにディスカッションしましょうといっても、それはしょせん無理なわけであって、何の問題について、どういう観点から議論をするのか。それについては、そもそもこういういろいろな意見があって、どことどこで論点が食い違っていますというような見取り図を与えるようなことをあらかじめした上で、それを共通の土台にしてディスカッションしていただくといったような工夫を、例えば、討論型世論調査の場合もやっているんです。
だから、そういう、科学技術コミュニケーションをやっている人間からすると、海外も含めて、既にいろいろな手法が開発されていますので、それを、ある場面は日本風に合わせる必要があるとは思うんですけれども、せっかくこういう分野で手法が開発されていますので、それを多くの人たちに知っていただいて、使っていただきたい。使うに当たっては、先ほどファシリテーターと申し上げましたけれども、場をうまく回していくというのは、やはり専門的なスキルが必要なわけです。なので、そういう科学技術コミュニケーターとして養成された人材をうまく使っていただけるような仕組みをつくっていただくといいのかなと思います。

【田中准教授】 
 私のほうから申し上げますと、私もアメリカ式の教育を受けているのですけれども、海外と比べたときに、確かにディスカッションが下手だということがある一方で、例えば、普通のシンポジウムで、おかしな質問をする人が必ずいます、自分語りを始めてしまう人とか。そのときのいなし方のうまい、下手があるんです。圧倒的に日本は下手だと思います。もちろん、ご隠居様で、自分の昔語りから始めてしまう人もいます。それをバサッと切ってしまうのか、そうではなくて、「うん、わかった、わかった、こういうことだよね」という感じでうまく着地させて、スッと議論に回収できるかというところのスキルが、やはり、平均的には向こうのほうがうまいなということは感じます。
 同じことは、社会の議論の中でもかなり言えて、よほど科学技術的におかしな、とんちんかんな意見を言いながら支持を集めている人たちをどういなすことができるのかということと同じことだと思うんです。そこで、先ほど、ちょっとハードルが高くなってしまいますが、教育というのは、おっしゃるとおりですし、私たちのところでは、そういうふうに教育を試みています。
それは、具体的に何かというと、私の講義の中ではジャーナリストの卵に原著論文を読ませるのです。というのは、海外のジャーナリストと比べたときに、圧倒的に足りないのはそこの差なのです。向こうの人たちは、アブストラクトぐらいならサッと読めるので、サッと読んで質問するのですが、日本のジャーナリストはほとんどそういう人はいません。まず、科学的知識が日常語に翻訳されたブルーバックス等を読むことから始めるんです。向こうの人たちはダイレクトに、アブストラクトはそんなに難しいことは書いてないですから、こういうことがわかったくらいしか書いてないですから、それをサッサッとスキャンできる能力がある人が多い。そこで私のところでは、科学技術のジャーナリズムを指向する学生にはそういうふうに読ませる訓練をしているのですが、かといって、そういう人たちがまた科学技術ジャーナリストになれるわけではないというところも日本の制度的な問題だと思います。そういう卒業生が今回の震災でも活躍しましたけれども、大半は本当の前線の現場で活躍していました。必ずしも科学の議論の場に配置替えにはなりませんでした。そういうところが今後の問題だとは思います。

【杉山教授】 
 一つだけ補足いたします。先ほど教育の問題というのがありましたけれども、これはしょせん、私の感想でしかないのですが、私は30年余り大学でずっと教員をやっていますが、ひところ、総合的学習の時間というのを中等教育などで取り入れられました。あれを終えて出てきた生徒たちが大学に入ってきたころから、私は、大学で授業をやっていて、何かえらく活発にみんなが意見を言うようになったなと、ディスカッションするようになったなという印象を持ちました。印象論でしかないのですが。

【野依主査】 
 先ほどからイギリスなど海外の例が出てきますが、イギリスは、長い歴史のなかで科学に対する信頼があって、社会に対する科学的批判精神が、随分あると感じます。私が友達の家を訪問すると、親と子どもたちが、BSEについて、あるいは、宇宙の話など、家族で科学を話題にしているのを耳にします。日本は、少なくとも、私の家でそういうことはしません。反省を込めて申しているのですけれども、学校教育だけではなく、社会や家庭においても科学の本質というものを、浸透していく風土が大事ではないかと私は思います。
 今おっしゃった、一般社会と専門家社会の対話や交流は大切ですが、双方とも原理主義者がいると、対話が成立しません。我々が反省するところは、科学者、専門家、研究者たちの社会リテラシーがあまりにも欠けていることです。つまり、これは入学試験偏重に始まると考えていますが、とにかく勉強だけをして、そして研究だけをしてということで偏狭な世界しか知らず、いわゆる一般社会にかかわるリテラシーがあまりにもない。論文は書けるけれども普通の文章は書けないというようなことがあります。このような原理主義をなくすことが大事ではないでしょうか。つまり今の教育制度あるいは職業制度が時代に適合していないのではないかと思います。
 もう一つ、メディアについて、いろいろなメディアがあると思いますが、メディアは正義かというと、必ずしもそうではない。メディアにも、やはりある種の原理主義があって、世論を扇動することもあり、信用ならないところもたくさんあるのではないかと思います。今の政治の混乱も、それは政治家にも一因があるわけですが、メディアが足を引っ張って拍車がかかっているところもあると思います。なかなか、なにが真っ当かというのは難しい。感想です。

【田中准教授】 
 よろしいですか。実は、2009年に研究資金をいただきまして、イギリス、アメリカ、ヨーロッパ、あちこちに調査に行きました。実は、野依先生が言われたことを、僕は、ロイヤルソサイエティの人間に、「さすがファラデー以来の伝統がある国は違いますね」と、半分、皮肉に言ったわけです。そうしたら、「違う」と言われたのです。1985年のボドマーレポート、よくご存じだと思いますけれども、いわゆる啓もう型のサイエンスコミュニケーションは、どうも失敗したということで、2000年のサイエンスアンドソサエティという上院報告書になって大分やり方を変えたと。要するに、試行錯誤を繰り返して20年たったわけですが、その間、20年の試行錯誤で育った世代が、今、上に上がってきて、ジュニアPI、シニアPIになってくると大分雰囲気が変わったという言い方をされたのです。
 なので、日本のサイエンスコミュニケーション元年をいつに置くかによりますけれども、我々は先行の失敗事例等を学びながらその時間を短縮すればいかれると思いますし、例えば、ここにはいないですけれども、同じ振興調整費の東大のプログラムから出た、サイエンスコミュニケーションの訓練を受けたジュニアPIぐらいが今、助教とかになっています。あの人たちは結構、今回のときに積極的に私たちにアプローチして、「この先生に話を聞くとジャーナリストも期待に応えてくれそうだ」とか教えてくれるんです。そういうネットワークが広がっていくと、先ほど先生が言われた、原理主義者ではない科学者、語る意思のある、そして語るための訓練も受けている科学者が、ある一定数出てくると大分状況が変わるのではないかというのが期待です。
 もう一つは、マスメディア、おっしゃるとおり、ジャーナリズムと言葉を分けているのは、余り細かく言い始めると時間がないので省いたのですけれども、先ほどAlternativenessを最後に説明しませんでしたけれども、要するに、権威に対しての反発をするというのがジャーナリズムの機能ではあるのですけれども、それだけが目的になっていく人たちがいて、反対のための反対ということ、そのものが目的になっていくと、そこも含めてメディアとしてしまうとあおっているだけではないかと見えてしまいます。
 反対しているということは、基本的には、実は、科学者の側からは、「あんなことを言っているものがいる」と言いますけれど、問題なのは、大手メディアが言った場合ですが、どちらかというと、実は少数派が叫んでいるのです。相当過激なことを言っているのは。実は、その場合はあまり気にする必要がなくて、大手が少数派の科学的な意見を取り出しておかしなことを言い出したならば、そこは強く、科学者として「違う」と声を上げるべきだと思いますが、そこの生態系のバランスの介入のさじ加減というのが、多分あるのだと思っております。

【野依主査】 
 ありがとうございます。井上委員、どうぞ。

【井上委員】 
 大変意味深いことを教えていただいた気がするのですけれども、お二人ともおっしゃったことの一つは、私の理解では、サイエンスの専門家が社会の課題にかかわっていくところには、ある種のスキルが要ると言うことだったと思います。科学の立場からの考え方の示し方もあるでしょうし、いろいろな社会の問題を適切に理解し、対応の取り方にも配慮が必要だと言うことだったと思います。ということは、我々、科学者が、ある時期、そういうものを学んで行くことが、CoSTEPの取組というのは、それをなさっているのかなと思うのですが、もっと広がる必要があるのだろうと思います。そういう意味で、必要な人材を作る面をどういうふうにお考えになっているのでしょうか。大学院生が科学の専門家になろうとして大学院に入ってきて、その中でそのような方向性を知って、その道にも進めるというような、例えば、CoSTEPでは、そういう教育のシステムをつくっておられるのでしょうか。そういうものがいろいろな大学につくられていくことが、広がりをつくっていくとお考えになっているのでしょうか。
 それから、そうやって、その道に踏み出した人たちが、今度は社会で大いに活躍してもらえる体制が必要だと思うのですけれども、そのあたりは、今、多分あまりいいシステムがないように思います。その辺はどんなふうにお考えでしょうか。

【杉山教授】 
 私どもがやっているCoSTEPの場合ですと、全ての大学の研究科の共通授業、大学院の教養科目みたいなものとして科学技術コミュニケーションの授業を3種類くらい用意しております。けれども、それは、たかだか半年くらい。何かやったからといってスキルが身につくとは思っていませんで、科学技術コミュニケーションという領域があって、そこで専門的なスキルを持った人たちが社会の中にいるんだよということを知ってもらって、かつ、将来、自分が研究者になったときに、いざとなったらそういった人たちとどういうふうに連携しながら社会に対して発信していけばいいのかという、いわばコミュニケーションのマインドを持ってもらうということを目的にしております。
 一方、社会人も受け入れて1年間かけてやっているCoSTEPの本体のほう、こちらは本格的にそれで飯を食う、もしくは、それで飯は食えないにしても、企業に入ったら広報セクションに言ってCSR活動をやりたいみたいな、そういった人材に対して集中的に、いわばプロを育てるものとしてやっています。ですから、全ての理系の研究者にコミュニケーションのプロになってもらうような教育は必要ないと思っていますが、そういうマインドは持ってもらいたい。その2階建ての構造で考えています。

【野依主査】 
 森口事務次官どうぞ。

【森口事務次官】 
 ちょっと実践的な質問で田中先生に1点だけ、時間もないので簡単に御質問しますが、文部科学省は原発事故でいろいろモニタリングをして、公表して、放射線のリスクについていろいろ説明してきているのですけれども、先生の説明されたリスク比較表現の重要性は、参考になったのですけれども、2点、質問します。1点は、我々は喫煙のリスクと比較しておりまして、喫煙は大体2,000ミリシーベルトなのです。それに対して、今、議論しているのは1ミリシーベルトの世界です。確かに、たばこはリスクベネフィットといいますか、吸っている人はベネフィットも感じているので2,000ミリシーベルトでも受容していますが、喫煙していない周りの人が喫煙によって得る受動的なリスクが100とか200ミリシーベルトと言われています。要するに、全然関係ない人も200ミリシーベルトなんですよと。このような説明はあまり効果がないのかどうかということ。
 あと、もう一つは、自然放射線を出すカリウムが、例えば、食品にもたくさん入っているわけです。牛乳50ベクレル/kgというのが暫定値ですけれども、それとの比較、これもやはりだめなのでしょうか。その2点だけお伺いします。

【田中准教授】 
 比較そのものは全くだめじゃなくて、もうほとんど修辞学、日本語で言うレトリックではなくて本来のレトリックである修辞学に近いレベルの話だと思うんです。例えば、報道の仕方がすごく象徴的だったのですけれども、日本での報道は「基準値の何倍」という言い方ばかりだったのです。私は、アメリカの第一報はどう来るかなと思って気になっていたら、プルームが到達したときにどうやったかといったら、「基準値の何倍、健康被害が明確に確認されている量の何分の一」という言い方をしたんです。もう、それはその瞬間に、読み手には、ある種の明確なスケールが頭の中に浮かぶわけです。それは危険とも、安全とも言っていなくて、ある意味では、リスクを提供するためのわかりやすい一文だったと私は思っています。
 先ほどの点で言いますと、例えば、同志社大学の中谷内先生が提唱しているのは、彼は「本文の中では表示しないで、横に表だけ載せるべきだ」という言い方をしているわけです。つまり、本文の中に入れると説得的になってしまう。先ほど言われたように、要するに、どうやっても、どう語っても、ガタガタ言うな、大したことはないと言おうとしているのかどうかと、疑われてしまう。そうすると、「そう言われても、おれは不安なんだ」という人は、そこに対して反発を覚える。だったら、いっそのこと、淡々と表を出すだけにすると。その表を、有事が起きてからつくると説得的な表だと思われるんです。放医研の表が非常に反発されたのは、「説得しようとしている表じゃないか」という反発を受けたのです。そこで平時から、もうちょっといろいろなリスクのバリエーションを、健康に対してのリスクのバリエーションを含む表をつくっておいて、それをいつも、いつも使っておくことが必要です。いつも使って物差しにして人々にイメージをつくってもらって、「今回のリスクはこれくらいです」という言い方をするのがいいのではないかというのが中谷内先生の提案で、そういった対応策があるのではないかと思います。

【野依主査】 
 私は、単なる記述と表現は違うと思っています。だから、今、森口事務次官がおっしゃったことについては、科学的な事実としては、必要とする時に正確に記述されていればいい。しかし、それをもって、いいとか、悪いとかいう解釈が生じる場合の表現は少し工夫がなされるとよろしいのではないでしょうか。

【野間口主査代理】 
 よろしいですか。田中先生の資料を本当に感心しながら拝見させていただきました。やはり、科学者が説得的になってしまうのはよくないでしょうが、勇気を持って発言する必要もあるのではないかと思います。先ほど申し上げましたリスクとハザードの話を、混乱して報道されることがよくあります。その違いをはっきり説明せずに、ただ、幾ら事実だといって報道しても、一般視聴者は混乱するだけだと思います。科学者は、科学者としての見解を勇気を持って発表すべきだと思います。原発のことをインヴォルブされていた東京電力とか、原子力委員会の先生方が言うのは問題だと思いますが、専門分野の科学者が、見解を発表するのは当然であると思います。
 先ほどから私がこだわっているコミュニケーションのやり方ですが、リスクとハザードの違いを整理した表は、もっと啓もうしていただきたいと思います。野依先生が原理主義とおっしゃいましたが、これまでの日本で規制や規格などが、どちらか一方に振れて、ものすごい高コスト社会をつくってしまっている要因に、合理的な判断ができるような土壌が整っていなかった面があると思うので、そのような考えを提唱すべきだと思います。ぜひ頑張っていただきたいと思います。

【野依主査】 
 はい、では、有川委員。

【有川委員】 
 非常にいい話を聞かせていただきましてありがとうございます。本日のテーマは科学技術コミュニケーションということですが、例えば、社会科学コミュニケーションというようなものも当然あっていいのだろうと思いますが、この辺はあまり議論されないのです。先ほどの最後のほうのお話などは、そういったところに実は深く関係すると思います。その辺はどのようにお考えでしょうか。

【田中准教授】 
 はい、あると思いますし、また、科学技術の問題を扱う中で、実は、そういう形、サイエンス・メディア・センターという組織の中でそういうことはちょっとどうしても入ってくるのです。私たちが扱っている問題は、社会科学的なものを介して、実は自然科学に戻ってきているんです。そうした自然科学と社会科学の問題を、全く切り離すことは不可能でした。
例えば、山古志村の復興を社会学的に調査された方は、その直後の対応を間違えると復興がうまくいかなくなるキーポイントなどを教えてくださいました。そのことを、例えば、ジャーナリストに、科学技術情報とセットで伝えたりしていました。もちろん、そういうところとは密接な関係があると思います。

【有川委員】 
 そういう点では、例えば、重要な政策をどの時期にやるのか。つまり、冷静さを失っているようなときに今後100年のことを考えていいのか、そういった問題もあると思います。そういうことなどを考えますと、科学技術だけではなくて、人文社会系も含めまして、そういったコミュニケーションなどが大事なのではないかと思います。

【野依主査】 
 ありがとうございました。ほんとうに有益なお話を伺うことができました。杉山教授、田中准教授、科学技術コミュニケーションに関して、これまでのご経験、あるいは最新のご研究の知見に基づき、大変貴重なご示唆をいただきましたので参考にさせていただきたいと思います。
 本委員会においては今後とも「社会と科学技術イノベーションとの関係深化」について検討を進めてまいりたいと思います。
 事務局には別途、「社会と科学技術イノベーションとの関係」に関する概念整理や現状分析をしていただくように指示しておりますので、本日おいでいただきました杉山教授、田中准教授には、ぜひ、有識者のお立場から事務局の検討を御支援いただきたいと思っておりますので、よろしくお願いいたします。
 続きまして、議題(3)です。「最近の科学技術政策の動向について」です。土屋局長から御説明していただきます。よろしくお願いします。

【土屋局長】 
 ありがとうございます。研究開発法人、世界の第一線と闘うための研究開発を行う新たな法人制度について御報告させていただきます。
これにつきましては、きょうお集まりいただいている先生方、野依先生をはじめ何人かの先生方にもこれまで御議論に参加していただいたわけですが、平成20年に超党派で成立いたしました研究開発力強化法に基づいて、先ほど申し上げたような国際競争力を持った世界の第一線の成果を上げるための法人制度はいかにあるべきか。国として担うべき研究開発活動をどうすべきか、ということで御議論いただきました。
 その結果として、研究開発の特殊性を踏まえて、世界標準、グローバルスタンダードの運営が行われるような法人制度、例えば、ブレインサーキュレーションに対応した給与制度、処遇制度でありますとか、予算の繰り越し等のフレキシビリティを持った制度でありますとか、評価においても、国際評価、外国人を入れた評価の実現といったようなことの議論をしていただき、案をつくったわけでございます。それを議論してきた中で、今、お手元に配付させていただいております資料が、これは全く別の行政改革、行政刷新ということで、独立行政法人制度の制度・組織の見直しということが政府の中で行政刷新会議を中心に検討が行われてきました。これは現在103ある独立行政法人について、効率的運営、あるいは行財政改革の観点から議論が行われて、実は、先週金曜日に改革の基本方針が閣議決定されました。それが今、お手元にある資料でございます。
 またポンチ絵がついているのですが、これについては、従前からの議論で、とにかく効率的運営を求めるガバナンスの強化ということが議論になっていきました。民主党の選挙前のマニフェストにおいては、独立行政法人については全て廃止して民間、あるいは国に戻すというものが基本方針だったわけですが、そういう基本方針も踏まえながら議論が行われました。その結果として、ポンチ絵がありますが、独立行政法人を二つの類型に分けて、成果目標達成法人、これは実は研究開発型等も入っているわけですか、これと行政執行法人、例えば、造幣局とか、そういったようなイメージ、それを指しております。さらに国に移管するようなものということで、文部科学省の場合、教員研修センターがこれに該当いたします。
 話を元に戻しまして、研究開発型が、実はこの成果目標達成法人となっているわけですが、この議論の過程の中で、文部科学省としては、もちろん税金を使う以上、効率的運営を行うためのガバナンス、これは各法人共通的に入るわけで、研究開発においても、聖域ではなく、それを当然、準用するという主張はいたしました。これと同時に、研究開発の特殊性を踏まえて、先ほど申し上げたようなグローバルスタンダードによる運営が行われる、そういう法人体制を求めたわけでございますが、結果においては、独立行政法人も、その枠の中に、現在まだ残っております。
 ただ、実は、お手元の閣議決定の資料を見ていただきたいと思いますが、ずっといろいろ文章が書いてありますが、3ページ、4ページが、研究開発型の法人についての記述があります。この中で、今、申し上げたような研究開発の特殊性を踏まえた部分が4ページの2の文化振興型の直前のところにあるぽつのところに書いてあります。「ブレインサーキュレーション促進等々」が書いてあるわけですが、こういうガバナンスについて、一応、ここを明らかにしていこうということになったわけでございます。ただ、書きぶりが微妙でして、「関係部局とも協議し、法制化も含めた必要な対応を行う」と。どこまで法的、制度的に明らかになるかというところが不明でございまして、基本方針が固まったわけでございますが、これからこの具体的な法律が検討される中で、先ほど申し上げたような、世界の第一線と闘える世界標準の運営のできる法人体制の実現を目指して、文部科学省としては引き続きこの課題について取り組んでいきたいと思っております。
 それから、この閣議決定の際に、同時に具体的に各独立行政法人についての統廃合等が議論されております。102あるというふうに申し上げた制度全体の法人が65で、大体半分くらいになるわけでございます。この数合わせではないか等々の議論があったわけですが、研究開発につきましては、文部科学省の関係部分でございますが、18ページに書いておりますが、物質・材料研究機構から始まりまして、防災技術研究所、科学技術振興機構、JSTです。理化学研究所及び海洋研究開発機構、この5法人を統合ということになっております。これにつきましては、法律自身は来年の通常国会に出すということで、これから1年間をかけて議論するわけですが、単純に束ねる、ホッチキスということであってはならないというふうに思っております。それぞれ今、研究機関がやっております、いわば、縦型の分野別の活動、これも大事だと思うのですが、本委員会で御議論いただいていますような、いわゆる課題対応型、課題達成型の研究活動を行うために各研究機関の予算でありますとか、人材を組み合わせながら新たな法人体制を実現するように、これから検討していきたいと思っておりますので、また、この委員会でも進捗に応じまして御検討いただければと思っております。
 ちょっと長くなりましたが、概要は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。図の見た目は横形に書いてありますが、まだ研究開発型法人同士は各省の縦割りですよね。

【土屋局長】 
 省を超えたという意味ですか。

【野依主査】 
 そのための議論はされているのですか、されていないのですか。

【土屋局長】 
 議論はありましたが、そこまでは行っていないですね。

【田中総括審議官】 
 ないです。議論はされました。

【野依主査】 
 議論は終わったのですか。それともこれから考えていくということですか。

【田中総括審議官】 
 まあ、された結果がこういうふうに。

【野依主査】 
 そうですか。ありがとうございました。
 ほかに何か御質問がございますか。
 それでは、ありがとうございます。議題(4)「その他」となります。今後の委員会の日程等、事務局から説明してください。

【阿蘇計画官】 
 済みません。先ほどの議題の(3)の関連なのですけれども、資料3と資料4につきまして、予算関係の資料を配付しております。資料3が平成24年度文部科学関係予算案について、資料4が、平成24年度の政府予算案におきます科学技術関係経費の速報値を配付してございますので、ご参考にしてください。また、資料5ですけれども、昨年の12月に取りまとめられました科学技術イノベーション政策推進のための有識者研究会の報告書を配付しております。この研究会では、科学技術イノベーションの政策推進体制の在り方について検討が行われまして、科学技術イノベーション政策推進の司令塔を設置することや、中立的な立場で科学技術イノベーションに関する助言を行う科学技術イノベーション顧問を設置することなどが盛り込まれております。配付資料のほうの御説明は以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。ご参考になればと思います。
 それでは、今後の委員会の日程について、よろしくお願いします。

【藤原計画官補佐】 
 はい。それでは、次回の日程につきましてご案内をさせていただきます。第4回の基本計画推進委員会につきましては、少し先になりますけれども、4月17日午後4時からを予定しております。会場等、詳しいことにつきましては後日、ご案内をさせていただきます。
 また、本日の議事録につきましては、後ほど事務局から皆様にメールでお送りいたしますので、ご確認のほう、よろしくお願いいたします。また最後になりますが、本日、冊子等、大部になっております。郵送させていただきたいと思っておりますので、郵送ご希望の資料をお帰りの際に封筒に入れてお名前をご記入いただければ後日、郵送いたします。
 以上でございます。

【野依主査】 
 ありがとうございました。それでは、本日も長時間ありがとうございました。これで第3回の基本計画推進委員会を終了させていただきます。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

(科学技術・学術政策局計画官付)