産業連携・地域支援部会 産学官連携推進委員会(第7回) 議事録

1.日時

平成23年9月16日(金曜日) 10時~12時

2.場所

文部科学省東館3階 3F1特別会議室

3.議題

  1. 科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築~イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策~(報告)
  2. 持続可能な科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて
  3. その他

4.出席者

委員

柘植主査、北澤委員、石川委員、高橋委員、森下委員、井口委員、宇野委員、常本委員、永里委員、羽鳥委員、藤本委員、牧野委員、三木委員、渡部委員

文部科学省

合田科学技術・学術政策局長、藤嶋国際統括官、池田産業連携・地域支援課長、木村地域支援企画官、橋爪大学技術移転推進室長、寺崎産業連携・地域支援課長補佐、寺坂地域研究交流官、石田大学技術移転推進室長補佐、井上大学技術移転推進室専門官 他

5.議事録

【柘植主査】  おはようございます。定刻となりましたので、ただいまから産学官連携推進委員会の第7回を開催いたします。
 本日は、「科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築~イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策~」、これは今までずっと作業してまいりまして、今日はこれを完成させて、行政のほうで有効に活用していただこうということがメインでございます。
 続いて、議論のテーマとしては、「持続可能な科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて」について議論をします。
 初めに、事務局より異動について紹介いただくとともに、配付資料の確認をお願いします。

【石田室長補佐】  冒頭でございますが、事務局の異動についてご報告申し上げます。
 科学技術・学術総括官でありました常盤 豊が9月1日付で異動いたしまして、後任に作花文雄が着任しております。
 引き続きまして、資料の確認をさせていただきます。先生方、お手元に議事次第があるかと思います。真ん中あたりが配付資料一覧になっております。この順に、確認をさせていただきます。
 まず、資料1、A4判縦長ですが、「科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築」という資料でございます。資料2-1、これもA4判縦長ですが、「持続可能な科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて」という資料でございます。もう1点、A4判横長、ちょっと厚目ですが、資料2-2「命題:沈み行く日本の新生に向けた科学技術・イノベーション面からのセンターピンは何か?」という資料になっております。資料番号が付されたものは以上でございます。このほか、先生方のお手元には、紙のファイルにとじて置いてありますが、参考資料を1冊、置かせていただいているところでございます。資料は以上でございますけれども、落丁等がございましたら事務局にお申し付けいただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【柘植主査】  それでは、本日の議事に入りたいと思います。
 1番目の議題「科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築」、副題として「イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策(報告)」です。これにつきまして、今まで何回も活発な議論をしまして、前回の委員会で、主査取りまとめ一任という形で完成するところまで来ました。ご議論いただいた内容を資料1に取りまとめましたので、事務局から報告をお願いします。

【橋爪室長】  それでは、事務局から、資料1につきまして報告をさせていただきます。先生方に4月以来、いろいろとご議論いただきまして、議論をいただいたことを取りまとめたものが資料1でございます。
 題名といたしましては「科学技術イノベーションに資する産学官連携体制の構築」、副題といたしまして「イノベーション・エコシステムの確立に向けて早急に措置すべき施策」ということでございます。
 まず、資料に沿いまして内容を簡単にご説明させていただきますが、1、「はじめに」ということで、平成23年8月19日に第4期科学技術基本計画が閣議決定されております。そこで科学技術政策を総合的かつ体系的に推進するとともに、イノベーションを促進する方針ということが示されております。こうしたことを踏まえまして、この産学官連携推進委員会の中でイノベーション牽引構造の見える化の強化、そして早急に措置すべき産学官連携施策についてご議論いただきまして取りまとめたという文書の位置付けを、まず述べております。
 2番目といたしまして、基本的な方針を述べていただいております。それは、イノベーション・エコシステムを構築していくこと、及び、それに資するイノベーション牽引構造の見える化の強化、これが必要であるということで、この基本方針に沿って、以下、幾つかの点について取りまとめていただいております。
 3で、まず、「政府資金(競争的研究資金)の必要性とその効率的運用」という点でございます。イノベーション・エコシステムの構築に当たりましては、大学等の研究成果が市場に結びつくことなく死蔵されてしまう、いわゆる「死の谷」を超える「明日に架ける橋」を築き上げることが必要でございます。このため、(1)ですが、科学技術イノベーション実現のための競争的研究資金制度の必要性ということで、基礎研究に関する支援だけではなく、基礎研究の成果を事業化につなげるための研究開発支援等が不可欠であるということを述べていただいております。
 続きまして、2ページ目ですけれども、このように、政府の研究資金で「死の谷」を超える部分についてもしっかりとやらねばならないということではございますが、(2)で、「さらにそれを効率的、効果的に活用していくにはどうすべきか」ということについて述べていただいておりまして、事業化に向けた政府の研究資金の効率的、効果的な活用を進めていくためには、民間資金を呼び込む役割を担うベンチャーキャピタルや公的事業投資機関とのさらなる連携の強化が重要だということを指摘していただいております。
 続きまして4でございます。「イノベーション・エコシステム拠点の構築と推進に向けて」ということです。科学技術イノベーションの創出に資する大学発研究成果の事業化については、企業やベンチャー等によってこれまでも取組がなされているというわけでございますが、特に日本では、リスクの高い新規マーケットへの事業展開がまだまだ十分に行われていないのではないかという現状がございます。これを、このような分野について事業展開を考えるに当たりましては、やはり、大学発ベンチャーの役割が重要でございます。しかしながら、大学発ベンチャーが担う技術はアーリーステージでございますのでリスクが高い上に、また実用化されるまでに長い時間を要するということもありまして、昨今の日本経済の停滞によって大学発ベンチャーに対する投資が敬遠される傾向にあるという状況でございます。
 このような状況を打破するために、大学発ベンチャーの起業前段階から政府資金と民間の事業化ノウハウ等を組み合わせることにより、リスクは高いがポテンシャルの高いシーズに関して、事業戦略・知財戦略を構築し、市場や出口を見据えて事業化を目指す日本版のイノベーション・エコシステムの構築が必要ではないかということでございます。
 そのための政府支援としましては、研究開発・事業育成の一体的推進に資する研究資金はもとより、これに加えまして、この政府資金を有効に活用し得る事業化ノウハウを持った人材、「事業プロモーター」でございますが、その関与が必要でして、このような人材に適切な権限を与えるとともに、既存の産学官連携の人材とも連携をした上で、こうした人材を育成していくということの仕組みが重要であるとしてございます。
 個別論ですけれども、まず、この事業化ノウハウを持った人材、事業プロモーターの資質ですが、いろいろと事業プロモーターには事業化経験、構想等を踏まえ、資金、成果をマネジメントする能力が必要であるということもございますが、特に、事業プロモーターは自らポテンシャルの高い研究成果を発掘すると同時に、単なるアドバイザーとしてではなく、プロジェクトに入り込んでいただいて事業を育成していくことが必要ではないかということでございます。また、研究成果の事業化に向けては、専門人材を結集して、チームのもとで事業育成を推進することが求められるということも指摘されております。さらに、我が国において、時間はかかるかもしれませんが、事業プロモーターの役割を担える人材を育成していくことが必要ということも指摘されております。
 (2)ですが、事業プロモーターに対する助言や評価を行う人材の必要性です。事業プロモーターのパフォーマンスを評価するだけではなく、コンプライアンス等をチェックしながら事業全体を総括する役割の人材、「スーパーバイザー」としてございますが、こういった人材も、この枠組には必要不可欠であるということが指摘されております。
 (3)です。地域性という視点でございます。現在、東京に一極集中しているリスクマネー等の事業化資金や人材などのリソースを地方へ誘引するようなシステムづくりによって地方の優れたシーズも育てていくというような視点が重要であるということでございますが、余りに地域が限定され過ぎるとシーズの広がりがなくなってしまうという可能性もありますので、地域性については緩やかな地域性ということの配慮も必要であるということが述べられております。
 (4)ですが、リスクの高いシーズの事業化に挑戦する仕組みとしまして、例えば、各事業プロモーターが複数のシーズを同時にマネジメントする、いわゆるポートフォリオの概念を導入することの有効性についても指摘されております。
 (5)で、利益相反の点についても指摘されております。事業プロモーターは、自らプロジェクトに入り込み事業を育成するケース等も想定されますので、スーパーバイザー等との権限を切り分けるなど、利益相反にも対応する仕組みを考える必要があるということでございます。
 こうしたシステムをつくり上げていく上では、研究者や事業プロモーター、スーパーバイザーだけでなく、大学等関係者が組織全体として取り組んでいくことが不可欠でございます。さらに、それとあわせまして、持続的なイノベーション・エコシステムの構築に向けて、各地域の大学等の役割・機能の在り方についても議論していくことが求められるということで述べられております。
 4ページ目の下段は、この新しいシステムの概念図でございます。
 続きまして、5ページ目ですが、5で、「イノベーション・エコシステムの基盤強化に資するリサーチ・アドミニストレーターを育成・確保するシステムの整備」ということでございます。リサーチ・アドミニストレーターにつきましては、平成23年度より「スキル標準」等を作成するとともに、5機関程度を対象としまして、その配置支援等を行うという現状でございます。大学等における、このリサーチ・アドミニストレーターの配置につきましては、まず、効果的、効率的な研究マネジメントの体制の確立、そして、次に、研究者が研究に専念できる環境の整備、さらには、若手科学技術人材のキャリアパスともなり得るというような効果があるということでございます。今後、リサーチ・アドミニストレーターの効果的配置、活用について、また、リサーチ・アドミニストレーターの位置付けや処遇、そしてキャリアパスの在り方についても検討する必要があるということが指摘されております。
 また、リサーチ・アドミニストレーターの役割、意義を踏まえますと、最終目標としては、やはり、将来は各大学等の自主的な判断でリサーチ・アドミニストレーターが配置、活用され、全国規模で定着していくということが究極では望ましい点でございますが、日本におきましては、未だそのリサーチ・アドミニストレーターの導入の初期の段階でございまして、その導入に当たっては、大学における研究推進体制等のシステム改革も必要となってくる状況でございます。こうしたことにかんがみまして、当面は、政府の支援によりリサーチ・アドミニストレーターの成功事例をつくっていくことが重要でございまして、今後も一定規模のリサーチ・アドミニストレーターの配置により体制整備を図る大学等を配置支援の対象としていく必要があるということを指摘していただいております。
 その配置支援の対象大学につきましては、5ページから6ページにございますけれども、ある程度のバリエーションを持たせ、多様性を確保していくということが重要であるということも指摘されております。
 そして、今後の配置支援に当たりましては、理想的な取組等の例についてさらに検証し、可能なものから可視化を図るなどの検討も必要ではないか。さらに、スキル標準や研修教育プログラムとの連携強化、そして、これらのプログラムを通じて徐々に形成されていくリサーチ・アドミニストレーターの階層性と、それらに求められるスキルの関連付け、さらには対応する能力認定の在り方、こうしたことも今後の検討課題であるということで指摘されております。
 最後に、リサーチ・アドミニストレーターの育成と確保につきましては、イノベーション・エコシステムの構築と強化に重要な役割を果たし、科学技術創造立国への投資効果を高めるというような意義があるということで指摘していただいております。
 以上、簡単ではございますが、この取りまとめの概要について説明させていただきました。

【柘植主査】  ありがとうございます。何回かかけてかなり中身の濃い議論を積み重ねてきまして、これが完成いたしました。これをもとに、これから行政においては、これを生かす施策をぜひ頑張っていただきたいという気持ちと同時に、我々、この委員のメンバー、それぞれの産学官の立場で日常の業務をしているわけですが、ぜひ、それにも生かして、これを普及していくのも我々、委員のメンバーの使命と感じております。
 そんな位置付けの中で、わずかな時間ですけれども、これを運用していくにおいて留意したほうがよい、注力したほうがよいと、もし、こういうご示唆がありましたらご発言いただきたいと思います。牧野委員、ぜひ、今後のこれを活用していく上でのサジェスチョンをいただけたらと思います。

【牧野委員】  議論の過程でいろいろ出てきましたけれども、やはり、大事なところは、この中にも書いてございますけれども、スキルの標準化といいますか、どういうものがリサーチ・アドミニストレーターであるかが明確にわかるような、そういう取組がなされるのが、今後、こういうものが発展していく上で非常に必要だというふうに思っております。
 それから、そういうものが、地方のほうをどうするかという意見も出ておりましたが、そういうところにも、ぜひ当てはまるような、発展的な施策を展開していくというのが大事ではないかと思っております。意見です。

【柘植主査】  おっしゃるとおり、ご指摘のところは、私も全く同感でございます。永里委員、どうぞ。

【永里委員】  大変よくまとまっていると思います。人材の面から、ここに書いてあるようなことを実現するのは大変難しいというふうに思います。
 それで、私がちょっと、言わずもがななのですが、リサーチ・アドミニストレーターについては、単なるポスドク対策みたいなことはやってほしくないと思います。あふれているポスドクというのは非常に分野が限られていて、ご存じのとおり、ライフサイエンス系が非常にあふれています。それは、むしろ、そこにポスドクがなぜあふれるかという基本的な、いわゆる、大学の教育、もしくは研究課程におけるところにあるのだろうと思って、そこは非常に専門的になっているがためにポスドクがあふれているのかどうか。そうなると、リサーチ・アドミニストレーターでそれを救うということとは違うような気がします。そういうことも考慮されるので、リサーチ・アドミニストレーターをポスドク対策というふうに考えないでほしい。それは、そう考えていらっしゃらないと思いますが、以上、蛇足でございます。

【柘植主査】  ありがとうございます。高橋委員、どうぞ。

【高橋委員】  このまとめ自体については、何ら文句を申し上げるところは無いのですが、問題の本質は、URAでも事業プロモーターでも同じだと思いますが、事業を実施していく際の具体的な目標、つまりこの規模の予算で、何を、どこまでやるか、というところを事業開始時点で明確にすることが大切だと思います。ここで書かれた文言を実現するために、現実的な判断を任されるのは、多分、各事業の評価委員とか運営委員とか、審査を担当する方たちで、その方たちと実際の事業の規模でどこまでを目的としていくかというところの落とし込みが非常に重要だと思います。この委員会での大所高所的な方針は何の問題も無いと思いますが、実際には、事業規模、事業実施者によってどこまで実現できるかというところが決まってきて、現実の制限が入ります。そこはぜひ、ご担当の課の方と、実際の個々の事業を審査したり運営したりする委員の方と、実際に事業を実施する当事者のコンセンサスをとることがとても重要だと思いますので、ご検討いただければと思います。よろしくお願いします。

【柘植主査】  はい、ありがとうございます。この中にも書き込んでいたと思いますけれども、まず、放っておいたら、このリサーチ・アドミニストレーター人材が根付くことはできなくて、政府が成功事例をつくっていくことが重要であると5ページにも書いてあります。今の高橋委員のご指摘は、まさにここのところが絡んでいると思います。
 どうぞ、藤本委員。

【藤本委員】  私は幾つかの組織の制度変革のときを調査させていただいたりしているのですけれども、今回、これはものすごく、さすがにすばらしくまとめていただいていて、これが運用されていく段階にどういうふうに、ということは思ったのですけれども、情報共有が、制度とか構造を考えられるところでその人たちの役割が終わって、運用する人たちのところにそれが伝わらなくて、情報共有のところで混乱が起こっていたりすることがこれまで多くありましたので、これを運用されるところが、例えば、事業プロモーターとかリサーチ・アドミニストレーターとかスーパーバイザーと、それから、その研究機関、企業との情報共有をどういう方法でやるかということを、支援を受ける側の人たちに具体的に考えてもらって、それを出してもらうくらいの運用方法の情報共有のことまで考えて申請していただいたほうがいいのではないかと思います。
 いつも、制度はすごくよくできているのだけれども、情報共有は個人の資質に任せて、それぞれの人がどういうふうにやるかということは見えないままで、担当者の人たちの個人的な努力によってすごくされているところと、こんなものかなという感じで、情報共有がそれぞれあまり行われないまま年月が経っていってしまってディスコミュニケーションが起こっているようなところもありましたので、ここのすばらしい構想をどう情報共有していくかというそれぞれの担当者同士の血液がどう流れるかをイメージしたことまで考えてほしいというメッセージを入れてはいかがでしょうか。

【柘植主査】  ご意見のポイントは、今年度の事業での審査が行われる中で、あるいは、それを踏まえながら来年に向けての展開の中で、情報を共有、ステークホルダーの参加者の間の組織的な情報共有の現状と、この中でどうやって強化するのか、こういうことをきちっとデザインして審査基準の中に入れるべきですよと、そういうご意見ですね。大変大事だと思います。
 時間の関係で、この第1の議題は終えたいと思います。
 それでは、次の本日の議題の2でございますが、「持続可能な科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて」に移りたいと思います。
 先日、お手元の資料の2-1と2-1をもとに、経団連において私が講演する機会がありまして、そこで「命題:沈み行く日本の新生に向けた科学技術駆動型イノベーションの面からのセンターピンは何か」について講演してまいりました。この内容について少し今からは、私は主査の立場を離れまして、一産学官連携の経験者として皆様に紹介しまして、議論に供したいと思います。
 それでは、40分ほど時間をいただきまして、資料2-1と2-2をもとにお話ししたいと思います。資料2-1が本文で、それから随時、資料2-2の図面集を引用したいと思います。まず、資料2-1をごらんください。表題が「持続可能な科学技術駆動型イノベーション創出能力の強化に向けて」ということでまとめております。
 この大きな命題は、一番上に書きましたように、あえて私は「沈み行く日本の新生」と書きました。それぞれ、教育も、科学技術政策も、イノベーション政策も、政府も、産業も大学も一生懸命にやっていますが、私の感覚では、あえて、今ではまだ復元力がない、「沈み行く日本」というふうにあえて挑戦的に表現いたしました。それを何としてでも新生せねばならないわけでありまして、それに向けた科学技術イノベーションの面からのセンターピンは何か。つまり、何を改革すればあとは自動的に残りの9本のピンが倒れるか、こういうことの議論に供したいと思います。
 論点を3つ書きました。まず、論点1は、日本の科学技術駆動型イノベーションの牽引構造を見える化すべきであると。菅前総理の「強い経済、強い財政、強い社会保障」つくりの基本構想図が見えない、現状の負のスパイラル構造を正のスパイラルアップ構造にする基本構想図を載せて、それを社会、国民も含めた会話にのせるべきだというのが提言1でございます。ごらんになっています図1、「強い経済・強い財政・強い社会保障」を実現するイノベーション牽引エンジンの構築、この赤い「強い公財政、経済、社会保障」と前総理はおっしゃいましたけれども、現実問題は900兆円の赤字、公財政。それから自然増の毎年1.3兆円の社会保障費。国の歳入も60兆円のいいときから今は40兆円を下回るところにまでなってきてしまっている。まさに、負のスパイラル構造の象徴的な数字と言えますが、これをプラスのスパイラルにするには、やはり強い経済、強い企業財政をしていただいて、初めて健全な雇用とか健全な国への納税があって、初めて幸せな生活ができてくるわけで、まさに、イノベーション、社会経済的価値創出を、経済、あるいは企業がしていただくことになるわけですが、そこの中で、やはり、イノベーション振興投資と科学技術振興投資と教育振興投資、まさに一体化して回していくことがイノベーション牽引エンジンの構築の基本的な考え方だと思います。それが我々、この産学官連携推進委員会の非常に大きな命題であるわけです。
 次に、資料2-1に戻りますと、2に書きましたように、「科学技術駆動型イノベーションプロセスの実用的な基本設計図がない」と思います。別な言い方をしますと、産学官のあらゆる場面でテンプレート的に共用できる基本設計図が必要である。例えば、提案された基礎研究企画、応用研究企画の社会経済的価値化に向けたプロセスにおける提案企画の立ち位置。いわゆるインプットとアウトプットがあるわけです。多分、ほとんどのものはほかのリサーチャーなり、ほかの成果物を活用してアウトプットも考えているわけです。そういう価値創造のプロセスの見える化とかフォローにもこの基本設計図は活用できるであろう。産学官連携推進委員会も関与しました、この23年度の「戦略的地域イノベーション推進プログラム」申請、これも提案者側の大学と審査側、双方にとっても共通の基本設計図が活用できるという視点であります。そして、各種の産学官連携にかかる制度設計が、こういう基本設計図に重ねますと、見える化もできるし、フォローにも活用できるということです。
 今、画面に出ています図2、これはまだまだ基本設計図になっていないと思うんですけれども、この図で、どこからどこまで、例えば、この絵は、ご存じだと思いますが、横軸が、いわゆる、学術で言うと、科学技術領域の広がり、言うならディシプリンの広がりです。縦軸が知の創造。これが基礎研究、「何のために研究するのですか」と問うてはならない、むしろ研究者の自由な発想に基づくものの段階がベースになっているわけです。しかし、やはりある目的を持った基礎研究もあるし、応用研究開発もあるし、さらに、これは産業側に主に担ってもらう、いわゆるイノベーションを創出するというフェーズ、こういう社会経済的価値創造のステップと、こんな単純な二次元だけではないかもしれませんが、時間軸とか別な価値が当然あると思います。
 ここで書かれたものは、これだけ議論すると1時間かかるのですけれども、ただ、申し上げたいのは、研究企画をするときにも、この、ある基礎研究をしますという目的ではないですと、単なる、認識科学的に掘り下げるのですと、こういう主張の研究の企画もあるし、一方では、目的、基礎に向けて、こういうプロジェクトAを行いますという研究企画がこの点まである。その場合でも、プロジェクトAが仮にうまくいったときにはどうするんですかという出口のイメージというのは、ある程度、描いたもので企画というのが見える化されるだろう。ある場合によっては、ある人が、実は、5年前に行われたプロジェクトAの派生技術、これは役に立ちますと、ある仮説で、ある社会的な価値につながるでしょうと、私のプロジェクト提案は、この派生技術を活用して、ある仮説で目的、基礎をやりますと、こういう話もあります。
 それから、これは新たな、「オープンイノベーション」という言葉でもよく使われていますけれども、横からの矢印なのです。これは、全く別な分野での研究成果を取り入れないと、今までのプロジェクトAは社会価値化できないという場面がある。したがって、ある提案では、こういうオープンイノベーション的なものの研究企画というものが、ここで見える化されるであろう。ここでは新たなプロジェクトの創成、いわゆる、研究領域AとBとを、こういうフュージョン、統合して新たなプロジェクトにする、こういう企画の主張があると思います。その場合でも、それが終わったときに、どこに渡すんですかと、ある程度の構想は持っていないといけないと思います。非採用技術という話も、ここのところの企画提案もあると思います。
 非常に大事な話は、やはり、産業というか、マーケットのほうから、シーズの見直し、よかれと思ってきたシーズを、ニーズにマッチングしていこうとすると、なかなかそうはいかないということでシーズの見直しのメカニズム。それに伴いまして、いわゆる、マーケットから知の創造、大学等が主に担っている知の創造にバック・ツー・サイエンス、このメカニズムなども、やはり誘発するような企画もあると思います。他の技術の取り込み、融合、それから派生技術による新しいイノベーションの創出、それから、知の創造への立ち返り、大きく分けるとこういうものの中で研究の企画は見える化できるのではないかと思います。
 その中に、第4期の基本計画では「人材育成」と書いていますけれども、私はずばり「教育」という言葉を使ってほしいのですが、教育が、やはり、大学が研究するならば、必ず伴ってくるべきだと思います。そういう意味で、教育と科学技術とイノベーション政策の一体化というのも、見える化の非常に大きな重要要素だと思います。
 また、本文のほうに戻っていただきますと、1ページの一番下に提言2が書いてあります。産学官連携に参加する皆が共用して使える「駆動型イノベーションプロセスの実用的な基本設計図」をつくるべきだということです。
 2ページの上のほうに行きますと、論点1の3でございます。日本のイノベーション牽引エンジンの脆弱性を、今、画面に出ております図で示しております。これを説明しますと、これは、左側がアメリカの変化で、アメリカの中央研究所時代、もう古いわけですけれども、ベル研とか、IBMのワトソン研究所とか、こういうものが今はアメリカの大学と大学を取り巻くベンチャー企業と、それを支えるベンチャーキャピタルが、ほんとうにこういう三重点を持てるくらいのエンジン構造になっていて、その中で、かつ、教育も研究とイノベーションのエンジンの中に組み込まれているという構造であります。
 日本も同じように、中央研究所時代の終えんという形が起こったわけですが、現状、あえて右のような絵をかきました。大学自体もまだ国際基準レベルまで成長していない。研究開発法人も、一生懸命頑張っていますけれども、教育と研究連携が脆弱ではないでしょうか。企業の研究所も、一時期の基礎研究を担ってくれるような底力もなくなってきております。この3つ、あえて破線で、かつ、この破線が三重点を持たない、こういうことで、一番下に書きましたように、「日本のイノベーション・パイプライン・ネットワークは脆弱」であるということを、この図では訴えまして、本文の2ページの上に書きましたように、ぜひ、産学官と国民が現状の認識の共有化、いわゆる、スウォット分析になるでしょう、それと、産学官連携の進化に向けた共通の基本概念図をつくるべきであるという提言が3でございます。
 2ページの4に行きますと、日本の特色を活かした科学技術駆動型イノベーション牽引基本構想図をつくり、産学官が共有すべきであるということで書きました。これは、活用としては、1つは、日本の大学の国際基準レベル化への強化策に産学官で共用する。それから、政府の大きな課題であります研究開発型の独立行政法人の強化策にも活用できる。そして、当然、産学官連携強化、我々、本委員会の産学官連携強化策の制度設計の見える化にも活用できるであろうということであります。
 そんなことで、この図4を提案しています。この図4は、先ほど申し上げたイノベーション・パイプライン・ネットワークの上に重ねてみました。やはり、この科学技術領域の広がりと社会経済的価値のステップの中で、大学は当然、この立ち位置を堅持しているわけです。研究開発法人も、楕円は、右上に少しずれるかもしれませんが、基本的には、知の創造と目的を持った基礎研究、あるいは応用研究をやってくれているわけです。産業のほうは、当然、イノベーションを起こしてもらって、適切な雇用と適切な納税をしてくれる力をつけていただかなければいけないわけですけれども、牽引エンジンの基本構造図の中で非常に大事な話は、いろいろな価値があると思います。いわゆる学術的な価値と、社会経済的な価値と、二分するとさまざまな価値があるわけです。さまざまな人材、先ほどのユニバーシティ・リサーチ・アドミニストレーターという人材が必要であるということを含めて、価値と人材、その両方ともキーワードは「フロー」と「インターフェイス」だと思います。
 シリコンバレーに行くと、1時間に何回「インターフェイス」という言葉が使われるか。日本で「インターフェイス」という言葉が1時間に何回使われるだろうかというくらい彼我の差があります。まさに、価値と人材のフロー及びインターフェイスの制度的強化が必要であります。そのためにも、先ほど言いましたように、融合場、融合拠点、府省連携、イノベーション政策、これは今までもやってきているわけです。ですから土台があるはずなのです。土台が必ずあると思うんですけれども、やはり、価値と人材のフローをインターフェイスの制度的強化という視点でこれからやるべきではないか。新しいことではない。くどいようですけれども、教育という、特に、私が引っ張っています工学教育というのは、この中に組み込まない限り工学教育は実質化できないと私は確信しております。そういう意味で、くどいようですけれども、「教育・科学技術とイノベーション政策の一体化を」ということです。
 さて、また本文に戻りますと、2ページの論点2です。「第4期科学技術基本計画は『持続可能なイノベーション牽引エンジン』の設計になっているか?」です。その下に1に書きました、科学技術政策とイノベーション政策とがつながっているかという点検と対策が必要である。第3期科学技術基本計画策定においても、基本構想としてはそう記述していたわけですが、実際には入り口と出口を結びつける制度設計ができていなかった。これが今、ご覧になっています図5でございます。いわゆる、ご記憶にありますように、5年前に立てた第3期の基本計画でも大政策目標、中政策目標12、そして個別の政策目標という、言うならば、イノベーションの出口をイメージした政策を設定して、そして入り口としては、重点4分野、推進分野と、こういう形で投資したわけですが、結局、このスパゲッティ状の構造に対しての構築が十分ではなかったというのが第3期の反省点として第4期の計画の冒頭にも書かれております。
 本文、2ページの1のところに戻りますが、第4期基本計画の実行においても、第3期基本計画の轍を踏まないために、今の時期にフロント・ローディングを総合科学技術会議は産学官連携のもとで今、力を入れるべきであると思います。
 何を次の7ページに書いたかと言いますと、これは、今、反省してみますと、知の創造を社会経済的価値に結合する統合推進役が不可欠であるというふうに反省されます。第4期における注力点であると思います。これはもうご存じで、第4期で書かれたことの基本認識、反省が書いてあります。それから基本理念もご存じだと思います。第4期の新機軸も書いてあります。これはもうご存じですので飛ばします。
 その中で、基礎研究の抜本的強化と、科学技術を担う人材の育成等々のことが書き込んであるのはご存じのとおりであります。課題は、「真の産学官連携の深化の実現に向けて、教育・科学技術・イノベーションの三位一体的推進機能をいかに強化するか?」ということが、今現在、課題としてあるわけです。
 同じように、先ほどのイノベーションのネットワークに今の論点を重ねてみるとこういうことが言えるのではないでしょうか。「科学技術・イノベーション・教育の一体的推進の重要性」ということで、やはり、知の創造段階は、当然、教育と科学技術が不可分なわけです。それから、目的、基礎から応用においても、やはり「人材育成」という言葉になるかもしれませんが、科学技術と表裏一体であります。そして、最初にイノベーションの場合も、当然、人材育成というのは不可分であるのは確かでありまして、こういう1つの循環が行われず。そういう意味で、この三位一体的推進の仕組みの構築がいかに大事かということも、このイノベーションのパイプライン、ネットワークの中に重ねてみることができると思います。
 これが本文の2ページの論点2の2に書いたことでございます。この持続可能なイノベーション牽引エンジンの設計には、教育と科学技術とイノベーションの三位一体的な推進の構造が必須であって、あえて私はここには「日本だけができていない」と。私はやはり、アメリカ、ヨーロッパ、中国、韓国、ほかの国も含めて、この三位一体は陰に陽にできていると思います。あえて私は、「日本だけができていない」と。これが産学連携の深化の道ではないでしょうか。
 さて、この次に書きました人材育成については飛ばします。ただ一言、言いますと、フロントランナー型イノベーション創出に必須な多様な人材像を育てなければならない。その中で、Type-D型とかType-E型の人材育成には科学技術政策は注力して、これは非常に大切なことでありますけれども、イノベーションを実際に社会的な価値と具現化するType-B型の人材、あるいは、フロントランナー型のイノベーション構造、この三角形であらわしましたものをほんとうに社会経済的な価値にするという、ここではあえて、Typeシグマ型人材、この人材を含めた多様な人材を育成しなければならないということをこの絵では示しております。こういうイノベーションのネットワークの中では、こういう役割があるということで示しております。
 既に申し上げたように、この科学技術とイノベーションと教育の一体推進政策の戦略的策定体制の構築の必要性を提言として、これをまとめていますが、今日の本論ではございませんので、飛ばします。
 これも私の提案の総合開発会議の改組でございますが、飛ばします。
 大事な話は、イノベーション文化の国民への浸透に向けた活動も必要だということであります。その司令塔も必要である。当然、初等・中等教育も含めた全方位の視点が必要であるということです。当然、「教育はイノベーションのためにだけあるのではない」と、これはもう正論があると思います。そういう部分もあると私は思いますが、こういう正論に対して、正面から議論の場をつくって、その議論が学校とか、家庭における会話にまで及ぶ国民的な合意形成に向けた司令塔の機能が日本にはない。それを強くしましょうと言っております。当然、第4期の計画でも訴えていますように、アジア全体で考えるべきだということです。
 実は、我々の委員会の親委員会であります科学技術・学術審議会は、5月31日に、「東日本大震災を踏まえた今後の科学技術・学術政策の検討の視点」ということで、今、申し上げたことの方向を決めております。そこに私はあえて副題をつけました。「実践型科学技術リーダー育成は喫緊の課題」、これは柘植の表題であります。
 科学技術・学術審議会が決めたことは、2で見ますと、「課題解決のための学際研究や分野間連携」ということで、読ませていただきますと、「社会が抱えるさまざまな課題の解決のために、個々の専門分野を超えて、さまざまな領域にまたがる学際研究や分野間の連携がなされているか。特に自然科学者と人文・社会科学者の連携がなされているか」、これは古くて新しい命題です。さらに、「社会が抱えるさまざまな課題を的確に把握するための方策は何か」。我々、産学官連携推進委員会としては、これが大事です。「課題解決のための学際研究や分野間連携を行うためにはどのような取組が必要か」。まさに、産学官連携の推進の根本的な視点です。さらに、「これらを支える人材育成のための方策としては何が必要か」、こういうことをきちっと科学技術・学術審議会の基本的な検討の視点を、言うなれば、社会にコミットしたわけであります。
 さらに、この視点は、3に、「研究開発の成果の適切かつ効果的な活用」ということをコミットしております。さまざまな研究開発の成果が、適切かつ効果的に結集され、社会が抱えるさまざまな課題の解決に結びついているか。また、研究開発の成果が課題解決のために適切かつ効果的に活用されるためにはどのような取組が必要か。これはまさに、私なりの言葉で言いますと、「イノベーション牽引エンジン」です。それから、それを引っ張ってくれる、表題に書きました「実践型科学技術リーダー育成は喫緊の課題」ということを私なりに視点を焼き直して表現をしました。
 時間が押しておりますので、3ページ目の論点3に移りたいと思います。本文の3ページ目をごらんください。論点3は、日本の理工系大学の国際基準レベル化への進化、それを実現するセンターピンは何かと、少し違った、むしろ教育のほうからの課題設定であります。
 1、「技術系高等教育の実質化を妨げる障害のセンターピンは何か」。柘植の論点は、大学院生は教育を受ける立場であって、研究やイノベーションへの参加は、教育の質と量の面でマイナス効果があるという、この教育界、あるいは教育行政にも、この論理はあるのではないかと私は思いますが、この論理は間違っていると思います。社会でイノベーション創出に貢献する実践型の理工系人材の育成においては、生きた実学教育を受けるために、教育は研究とイノベーションとの一体的教育であるべきだというのが私の論点でございます。
 それでは、2に書きましたこと、「大学院教育研究に『活きたお金』の構造の組み込みを」というのも私の主張点です。単なる生活費補助というようなパン代ではなく、そのお金自身が活きた教育研究を実現するものになるということで、柘植の論点を書きました。上記1の日本の大学院における活きた教育改革をすれば、自然とこれは実現をすると。例えば、私も産業におりましたときに一緒に活動しましたMITの日本版を、まずは特区的につくるべきだと。社会で活躍するリーダー的人材を修士・博士課程で育成することの社会の要請は切羽詰まっているということであります。まさに、これは、永里委員も経団連のご意見としていつも言われていることでございます。
 3ページは済みました。今ご紹介した科学技術・学術審議会の設定した課題解決に向けた設計図は、大学と行政だけでは策定が困難であり、産業側とともに、産学官協働で設計図をつくり、その設計図をもとに総合科学技術会議や各省庁及び大学・研究機関におけるPDCAマネジメントに活用される行動が必要であるということで、最後、ここに結びました、今のこの話、この結びをここに書かせていただきました。
 まさに、1点目は、科学技術駆動型イノベーションプロセスの全体構造図。そして、それを牽引する牽引エンジンの基本設計図が欲しい。イノベーションを創造する多様な人材像、技術者教育も忘れずに。第4期の基本計画も、技術者ということは随所に出てくるのですが、どうしても研究者教育ということに重点を置いていると思いますが、研究者の育成は、もちろん大事であり、不可欠ですが、技術者育成も忘れずに、多様な人材像の見える化、それを教育現場へルールモデルを示す、こういうことを主張しております。CSTPの改組の話は、ちょっと今日は飛ばしまして、以上でございます。
 今まで私は一参考人として発言をさせていただきました。
 せっかくの機会で、今日は前半の1の議題で、当面の本委員会の果たすべきものをまとめましたので、残りの時間、少し時間がかかる作業でございます、持続可能なイノベーション創出能力強化に向けて、これから少し時間が出てくるのではないかと思いますので、そういう視点で、今日の参考意見を踏まえながら、また別な視点で結構ですので、持続可能なイノベーション創出能力の強化に向けてのご意見を各委員、ぜひ、一言ずついただきたいと思っております。
 それでは、また私、主査に戻らせていただきます。どなたからでも、どの視点でも、石川委員、どうぞ。

【石川委員】  こういった議論を、本来であれば、もっと前からやられるべきであるし、かなりの部分、私は非常に同感できます。教育と研究のイノベーションの三位一体化とか、基本モデル、あるいはテンプレートの必要性、こういったモデルが日本だけできていないということは非常に共感を持って受け入れております。
 そこで、もっと内容を濃くするための3点だけ指摘させていただきたいと思います。
 1つは、冒頭にお示しいただいたテンプレートというのは、あれは、我々が大学の中で教員に説明するときに、ああいう図を何度も書こうと努力したんですが、大体汚い図になる。それはなぜかというと、技術面が多様化しているので、1つのモデルで全部を説明し切れない。多分、柘植先生は、これは自覚があっておっしゃっているような気がするんですが、この図で全部を説明しようとすることは多分無理なのです。これをどうほかのテンプレートをうまく体系化していくかということが必要です。
 特にこの図は、実は、材料系の図なのです。材料系の方はこれでいいと思われるのですが、情報系にすると、こんなのはだめなのです。リニアモデルにしがみついているなんて、今そんなことをやったら、情報系は、とてもとても大学間、あるいは世界で闘えませんので、この図を情報系に持っていった瞬間に目の前で破かれてしまうと思うんです。それは分野間の特性をきちんと理解した分野ごとの必要性がある。柘植主査がおっしゃる三位一体化という基本構造は絶対に必要なので、それに合わせて分野ごとにつくっていく必要があるのではないかということが1点であります。
 2点目は、教育との連携というお話で、これも絶対的に必要な案件で、総論に関しては間違いないのですが、現場の我々にとって難しいことが2点あります。1つは、仮に人材を育てたとします。例えば、MITのようなジェネラリストを育てたとしても、日本の企業が本当に採ってくれるのでしょうか。我々、育てて、野に放たれてどこも採ってくれないという学生を育てるわけにはいかないのです。それをきちんと採るということを企業側が本当に腹をくくってくれないと、我々、教育ができないのです。使われない人材を出すわけにはいかないのです。そこの点をどういう構造を持ってやっていくか。これ、実は、問題というよりは、やればできる話です。だから、経済界と教育界が本当に話し合ってどうするかを見る。人数の比が今、ずれているのは確かです。余っている分野、足りない分野があるというのは確かなのですが、このジェネラリストというのは、実は非常に難しい。日本の企業も、実はアメリカのMBAをあまり採っていないのです。ということは、我々がジェネラリストを育てても、日本の企業は採ってくれないだろうという予測ができてしまうのです。
 それから、現場で教育と研究、特に共同研究などの一体化を図ろうと思ったときに、そもそも論になってしまうのですが、最大の問題は、学生の立場が日本の法律の中で、教育基本法と学校教育法の中でかなりの形、共同研究と合わない。例えば、「秘密保持契約をやりましょう」といったときに、従業員ではない学生に対してどうやってやるかというのはなかなか難しい問題になります。学生の権利の保護というものと、教育の平等という問題になります。それを現場サイド、運用でもいいのですが、法律をどうやって解釈し、運用していくか、あるいは、法律をもって変えていくかという問題がどうしても来ます。今の法律の中でやろうとすると問題は非常に大きい。
 例えば、企業の方が「この共同研究をやるので秘密保持を学生にまでかけろ」と言われますと、これは無理です。義務的にかけることは無理ですので、学生側の意識、学生の発意をもってかけることは可能なのですが、こちらから義務をかけるのは無理ですし、ましてや、一部の企業は、卒業後何年間の秘密保持契約まで取るというような企業もあるわけで、これは学生の権利、今の日本の学校教育法と教育基本法の中では無理な話ですので、それをどうするかという話だと思います。
 3番目は、課題解決という話があったのですが、いつも課題解決型、すなわち、課題を解決する側で何か考えましょうというのがあるのですが、それも足らないのですが、もう1つ足らないのは、課題を生み出す力というのが足らない。課題解決よりも前に、もう1つ、課題を生み出す課題提案、課題探索、ここの力を日本はもう少しつけなければいけない。これも分野によって大分違うのですが、情報系は、何もないところにこれをつくるという論理思考が日常化していますので、何にもないところにつくるという場合に、課題はどこにもないんです。課題がどこかから降ってくるとか、探せばあるという話ではないのです。そうすると、課題提案なり探索、課題創造みたいなことをやらないとできないので、解決のほうばかりにあまり力点を置かずに、つくるほうにも力点を置いていただければと思います。
 最後に感想なのですが、第3期科学技術基本計画の反省は確かに正しい反省だと思うんですが、これは、我々もよく考えなければいけないのは、こういった施策というものの階層構造があって、総論、一ランクブレークダウンしたもの、その一ランクブレークダウンしたものが、総体的にコンシテントにつくられていなければいけない。それから、具体論がきちんと総論に対して合っていなければいけないという構造ですので、先ほどの、今、まとめようとしているこの施策の、先ほど来、疑問になっていたものも、この層間でコンシテントでなければいけないのですが、この下の層と上の層とが合っていない。先ほど来、何人かの先生方から出ているように、下のほうをどうつくっていくかをきちんと決めていく必要があるのではないかと思います。以上です。

【柘植主査】  ありがとうございます。ぜひ、これは、今日は議事録をとって、今後の議論の中にまた整理しておきます。今のことに関連してでも結構ですし、関連していなくても結構ですので、ぜひ、ご発言をお願いいたします。永里委員、産業側として、先ほどの人材の話なども含めてご意見をお願いします。

【永里委員】  今の石川委員のご発言は非常に貴重なのですが、我々、素材型から見るとこういうふうになってくるのですけれど、情報系から見るとこれとは全然違うというのは、これは非常に貴重だと思います。それで、実は、2011年5月に「科学技術システムの課題に関する代表的研究者・有識者の意識定点調査」というのがありまして、科学技術分野の課題に関する第一級研究者の意識定点調査が発表されていまして、日本の科学技術の国際水準というのを出しています。そうしますと、アメリカとかヨーロッパに比べて、テクノロジー分野、材料分野は高いのですが、情報通信分野が弱い、劣っているんです。それで、ここはどうやって強化したらいいかというと、結局、大学教育がここではあまり行われていないというふうに僕らは思っておりまして、ここを強化する、すなわち、石川先生がおっしゃったようなことを大学教育で強化していかないといけない。日本はこれから特に、産業構造がソフト化してきまして、ものづくりはソフトを含むものづくりに今はなりつつあるわけで、非常に重要です。そうすると、新たな、石川先生の、そういうお考えとか、人材をどう強化するか、外国から持ってくるのか、あるいは産業界からピックアップしてくるのか、その辺のことをやってほしいと思います。
 それから、柘植先生に質問です。結びのところ、司令塔を強化するというような話は途中に出てきていたのに、この結びにないのはなぜなのですか、これは質問です。

【柘植主査】  資料2-1のほうですか。

【永里委員】  2-2ですね、結びです。

【柘植主査】  お手元の4に、「CSTPの改組は教育も入れた」と。

【永里委員】  おっしゃるとおり、4の話なのですけれど、あそこにはあそこで、もう行数が少ないから書かれなかったということですか。

【柘植主査】  何をですか。

【永里委員】  「司令塔を強化する」とか、途中の説明でございませんでしたか。

【柘植主査】  パワーポイントで言うと、今日の本題ではないので飛ばしてしまったのですけれども、14ページのような組織で私としては司令塔強化を、今、総合科学技術会議が毎月1回、集まっているので、この場に、まさに常勤、非常勤も入れた、非常勤のところを見ていただきますと、科学技術・学術審議会の会長、イノベーションのほうは産業構造審議会の会長、教育は中央教育審議会の会長に出ていただいて、中央教育審議会の会長は、教育のこの部分については、もうイノベーションと一緒に汚染されては困るから外すとか、そういう宣言もしていただきたいわけです。一方では、イノベーションと非常に関連のある教育というものを、この場でやはり議論をして、毎月毎月、大きく議論していただくと、この司令塔の機能ができるのではないかということです。

【永里委員】  ありがとうございます。そういうことを飛ばされたというふうに私が解釈したわけです。この説明を私は柘植先生から聞いていたものですから、今日のお話の中でこれは飛ばされたわけですね。

【柘植主査】  はい。

【永里委員】  わかりました。実は、柘植先生は経団連に来られてこの話をなさったので、私はよく覚えていたものですから。結局、イノベーションが起こって、そして投資が行われて、雇用が行われて、成長になってくるわけで、このイノベーションが非常に重要なのですけれども、そこを国として、ほんとうに首相に認識してもらうためには、この強力な司令塔が必要なのだろうと、今、発表なさっていますけれども、そういうことが重要ではなかろうかと思っています。

【柘植主査】  はい、ありがとうございます。どうぞ。

【常本委員】  大学にいる立場で、ちょっと教育の話をさせていただくと、私も、先生がここに書かれた「沈み行く日本」とまでは言わなかったのですけれども、「このままの教育をやっていると日本は沈むぞ」ということを発信させていただいています。1つは、私は、大震災が教育を変えるチャンスだというふうに思っていて、現在の学生、我々は、内向き志向とか待ち受け志向という形で評価していますけれども、大震災に向けて学生がボランティアで動いたり、いろいろなところで発言をしているのを見ると、決して彼らは内向き志向ではなくて、我々がつくっている制度が内向き志向の対応の教育をしてきたのではないかという反省もしなければいけないと、そんな思いもあって、やはり、これから産業界の協力も得ながら、自立活動型の学生に切りかえていく。これは学部の学生、修士ぐらいまでそうなのですけれども、そういう教育体制をとって、次はやはりイノベーションはドクターコースで発生させなければいけないにもかかわらず、今、日本のドクターはどんどん減少ぎみにあるという状況なものですから、ここは、産業界と大学間のミスマッチをもう1回、見直していただくということで、よく、大学人はアカデミアを育てよう、企業人はリーダーを育ててほしいと、そこのミスマッチをもう一度やはり見直して合意しながら、将来のイノベーションにつながる人材育成を協働で、三位一体で行っていただくというような体制を、ぜひ、こういう提言の中から、また一歩進めていただきたいという感じがいたしました。

【柘植主査】  私がこのパワーポイントの17ページに引用しました、科学技術・学術審議会の政策、これを今、常本委員は教育も含めてチャンスだと、こういうふうにとらえろと言われました。この科学技術・学術審議会の検討の視点も、クエスチョン型になっていますけれども、やはりチャンスというふうにとらえていると思います。ただ、課題は、この科学技術・学術審議会のこの課題設定を、誰が執着心を持って探究してくれるか。それは、大きく分けると教育界であるし、科学技術の研究会でもあると思うんです。では、科学技術・学術審議会の中の各委員会ができていますか。その委員会それぞれに落とし込んで、例えば、私は今、もう1つ、人材委員会のほうの主査を承っていますけれども、我々の今のこの場は産学官連携推進委員会、それぞれがやはり、これにずっとこだわり続けて答えていくことが必要だと思います。
 今、この政策をもとに、科学技術・学術審議会の中でも基本計画推進委員会を野依先生が引っ張っていただいていますので、そこに上げていくとか、そういう意味で、この産学官連携推進委員会の場も、これの実現にかなりこだわり続けて、我々の活動が結びついているかということを絶えず議論して、不足しているものはどうやって直すのだという議論も、今後、この委員会でしていきたいと思っています。

【常本委員】  よろしくお願いします。

【柘植主査】  ほかにいかがでしょうか。羽鳥先生、それから井口先生ということでお願いします。

【羽鳥委員】  大変すばらしい取りまとめで、そのうち特に、人材育成、教育とおっしゃっていました。ここのところで、質問になりますが、昔に比べたら、日本の大学、私がいるところでも、理工学部とか、将来の産業界に出ていく人たちをどんどん、教育、育成しているわけで、昔よりは大分意識は変わっていて、例えば、昔は電気工学科とか機械工学科とか、そういった細かいディビジョンだったのですけれども、もっとブロードになっていて、ほかの単位もどんどん取りやすくなっているとか、学際領域みたいな意識が入ってきたり、知財教育をしてみたり、ビジネススクールみたいな総合科目で取り入れたり、昔に比べたらいろいろな改革が進んでいると思います。
 他方で、先ほどの議論の中で、むしろ、イノベーションを創造する、課題解決ではなくて創造する人たちをいかに育てるかという議論もあったような気もしますが、そういった、これから何を変えたら先生がおっしゃるようなことになっていくのか。それは、意識みたいな、受け身ではなくて、どんどん積極的に、創造するような、そういった抜本的な考え方を変えるというのか、あるいは、もっと、さっき言いました、例えば、何かをやらせた場合にビジネスプランまで考えてしまうような、そういった単なる研究だけではなくて、産学連携に結びつくようなところまで考える人を育てるというのか、どの辺がポイントなのでしょうか。

【柘植主査】  そうですね。この絵はまだ市民権を得ていないのですが、柘植としては、この4種類の多様な人材を同時に育てていかなければならないということで、羽鳥委員のご質問は、これをどう育てるのだと、特にシグマ型統合能力人材の育成です。これは、結論は、私は、各大学は建学の理念なりを持っているわけで、各大学の建学の理念に基づいた教育に委ねるべきだと思っています。それは、大学によっては、Type-D型を目指しているとか、いると思います。あるいは、B型に徹して学部教育に徹している大学もあるし、まず、そういう大学ごとの教育の考え方に、しかし、全体の国が求めている全体像というのは共有すべきだと。しかる中で、うちの大学はこうすると。
 一方、ちょっと脱線しますが、私は、文部科学省が指導している「大学の機能別分化」という言葉は、そういう面では危険性を持っていると思っています。あれは、大きく分けると、研究型と教育型というような分け方をしていると思います。私は、今日の議論は、そういうふうに分けられるところもあるけれども、私の焦点は、教育と研究と社会貢献は分けられないという、そうなったときに、機能別分化の中で損なわれてしまう話というのは、やはり見える化をして対策を打たないと、あえて「危険がある」という言葉まで使わざるを得ないんです。
 井口委員、それから三木委員、お願いします。

【井口委員】  今日の委員会のまとめ、それから、今の柘植主査のお話は非常に参考になって、すばらしいものにまとまってきたなと思っております。
 先ほど17で議論になっている人材育成ですが、ここに書いてある「自然科学者と人文社会科学者との連携がなされているか」、ここが非常に重要だと思っています。私も現場にいて、いわゆる文系の先生、理系の先生にお話をすると、「私たちは無関係ではないか」と、言われるのです。学問の名前でも人文科学、社会科学、また、総合科学技術会議でも、ちゃんと「科学」が入っているではないでしょうか。と答えています。今、研究・教育・社会貢献の機能別分化だけではなくて、従来型の先生方のディシプリンは、ほんとうは変わっていかなければいけないし、特に国立大学が法人化になった今は大いに変わっていかなければいけなくて、トップのリーダーシップを取る必要と思います。ところが、なかなかとられていないと思います。この委員会は委員構成も内容も、素晴らしいと思いますが、文科省の中で、もっと横の連携をしていただきたいと思います。本来的な、「多様な人材像、技術者教育も」ということで結びの3番に柘植主査に書いていただいているように、人文と社会科学、さらにそこに産業界との連携が重要と思います。
 実は、私が地域にいると、人材は非常に払底というか、先生も忙しい。産業界からの寄付講座も大きい大学ではないと不十分です。私の足元で、寄付講義を企画すると、なぜ産業界からお金を貰ったり、講師を連れてこなければいけないかという意見が出て、カリキュラム委員会で基礎講義ですが、投票し否決されました。産学連携は難しいです。ですから、この素晴らしい施策を、どう実行するか、地域の大学でも実行できるシステムを、ぜひ、文科省で構築して欲しいと思います。実は大学評価で明らかに出ているのです。そうすると、何でこんな評価をされなければいけないかという基本的なことを忘れて、瑣末な議論になってしまうのです。
 実は、私は、国立大学の監事をやっています。平成20年夏に、国立大学、研究機関等の監事の法律が閣議決定されながら、流れました。私はそんなにめげないのですが、「監事の権限はどこにあるのか」、「法律的裏付けはどこにありますか」と言われるのです。文系の先生は、特に厳しいです。もちろん、法律は企業の監査役と並んだような法律だったのでだめだったのですが、国大協が賛成できるレベルで、文科省側も再度、お考えいただきたいと思います。外部の人が多いわけですから、いろいろな意見が反映できると思います。経営協議会は、外部の人が半分以上ですが、国立大学法人で機能しているか疑問です。第4期科学技術基本計画を進めていく上に、あるレベルでは、足かせというわけではないのですが、十分に機能していないとの感想です。
 是非、今日のまとめと、今、柘植主査が言われたことを、いかに実行し、実践し、そして、少し経過した時、評価できるシステム構築が必要です。そして、イノベーション・エコシステムがほんとうに機能するかが重要であると思います。ちょっと長くなりましたが、よろしくお願いいたします。

【柘植主査】  三木委員から渡部委員、森下委員と。

【三木委員】  先ほどのご説明をお伺いして、若干感想めいたことになるかもしれませんけれども、現在の日本をどう見るかという視点に立つと、人材、それから研究、イノベーション、いろいろな立場で見て、要素別に分解してみると、それぞれ機能はあるし、機能は高まっていると、そういうふうに思うんです。現場力は向上している。ただし、この前の大震災でわかったように、民力も現場力も高いのだけれども、マネジメント、アドミニストレイティブな力、ここに問題があるという印象を非常に持っています。
 そういう意味で言いますと、今回、産学連携から研究面でRAのお話、それから事業化プランナーの話、こういった、マネジメントとアドミストレイティブな仕事ができる方が強化されるということは日本にとっては非常に大事なことだと思います。
 もう1つ、人材育成面で見ると、そこはどうなっているのかということです。これは、アドミニストレイティブな機能が、それぞれの現場に近いところでの機能はそれほど高くないのではないか。ここは、国全体としてもう一度、どういう形にするのか、大学の今の国立大学法人のスタイルであれ、どういうスタイルであれ、人材育成に関しての機能は、まあ、とりあえず、そういう役員がいて、ただし、何を目指して、どういうビジョンに基づいて進めていくのかというところについては、まだまだ現状の問題点に対応するというところで精いっぱいになっている、そういう印象を持っています。そういうふうにマネジメント能力が弱いところで、例えば、いろいろな投資を入れても、投資は生きないと思うんです。ですから、基本的に現場マネジメントの力をどうやってつけるようにするかということが非常に大きな課題ではないかというふうに思っています。
 それから、もう1つ、柘植先生の資料の15ページに「アジア教育・科学技術・イノベーション研究圏構想」と、非常に私は興味を持っておりまして、今までの日本がキャッチアップ時代は、ある面で言いますと、技術をキャッチアップして、その中で人が育っている。フロントライナーになっていきますと、人がすべてになってきますので、その人をグローバルに動かしていくということが今からの時代なのだろうと思うんです。
 そういう中で、日本の施策は、今まで産学連携・イノベーション施策も基本的に自前主義の施策だと思うんです。これを、アジア、非常に教育効果が高そうな方々がいっぱいおられます。そういった方が日本に定着していかれるようなシステムとか、全体で考えていくことが今から必要で、そのためには、グローバルオープン型の産学官連携のイノベーション特区みたいな、いろいろな法的な制約がないようなものを日本でつくるぐらいの、そういうようなことをしないと、日本だけにとじておいていいのかなと。そういう意味で、この「アジア教育・科学技術・イノベーション研究圏構想」というのに私は非常に興味を持ちましたので、何かご説明いただけるのであれば、少しお伺いしたいと思っております。以上です。

【柘植主査】  第4期の科学技術基本計画では、このアジアの科学技術・イノベーションの視点での構想というのを打ち出しております。しかし、その中には、「教育」という言葉は書かれていないのです。もちろん、別なところに「人材」とありますけれども、だから、ここのところは逆に、第4期基本計画で、アジアの科学技術イノベーションというものの共同作業の中に、教育ということ、それから「人材育成」という言葉に変わってもいいから、入れていくことは、私も政府に訴えて、総合科学技術会議にも提案していきたいと思いますし、ご賛同される委員は、ぜひとも声を大きくしていただきたいと思います。そういうことで、答えになっていないのですけれども。
 それでは、渡部委員、それから森下員、お願いします。

【渡部委員】  今日は柘植先生の隣なので、隣だと何となくしゃべりにくいなという感じです。別に反対意見を言うわけではないのですけれども、3つぐらい、ちょっと感想に近いと思います。
 3ページの柘植先生の絵をつらつら見て、これは、何か丸い球がじょうごの中に入って、この丸い球はおそらく知識とか技術とか、そういうようなイメージなのかもしれません。この絵は、2003年にヘンリー・チェスブロウがオープンイノベーションでかいた絵、これは、境界があって、真ん中に球がいろいろ書いてあって、それが、より今まで以上に外に使うようにして、外の資源を、より今まで以上に使うようにすると、そういう絵に多少似ていると思いつつ見ておりました。チェスブロウの場合は、ここの境界は組織の境界でありまして主には企業です。主張としては組織の境界を超えて知識を活用するというところに力点があって、それを活かすようなビジネスモデルが重要ということが、2006年の本にも書いていますけれども、そういうことだったと思います。
 これを比べてみたときに思ったのは、ここでのじょうごの境界は一体何なのだろうと。この1つ1つの球は、知識であれば、それは個人に帰属して、アカデミアの研究者であれば、ほとんど組織の影響というのはあまり受けないけれども、ここの下に境界が書かれている。分野という話がありました。分野、あるいは文科系と社会科学系と理科系、そういうところに何らかの境界があるから、きっとそこはこういう絵になるのかなと思いつつ、上のほうに行きますと、おそらくこれはほんとうに組織の境界になってくるのだと思いますが、一体どういう境界があることでこういう機能がうまくいかないと考えているのかということを整理するようなことが大切なのかなと思って見ておりました。
 あるいは、1つ1つの球がうまく融合しないのは、これは知識ですから、タシットな知識もありますし、あるいは、その知識を活用しようと思うと、その吸収能力が欠けていれば、それは使えないわけです。そういうような問題かもしれません。そういうようなところを、ここで境界として書かれているものが、一体具体的にどういうものであって、それはどういうふうにしていけば、ここに書かれている融合だとか、シーズの見直しだとか、そのようなことが進むのかということを整理することは必要なのではないかと思っております。
 多少それと関係するのが、この4ページになりますが、ここの絵は、おそらく、これはベンチャー企業と書いてあって、これは組織の話であると思います。これが、アメリカみたいになかなかベンチャーができない。日本の場合は、これをやってもそういう構造にならないということは、一方で、この背景に日本の技術の特徴があると思うんです。日本の企業の技術というのは、非常に集積的で、相互依存関係が強くて、そういう技術を精緻に磨いて発達させていることが日本企業の特徴であり、強みである。そういうところにベンチャーの技術を簡単に取り込む、あるいは、産学連携の知識を簡単に取り込むというのは統合コストがかかるので、なかなかそれがうまくいかないというのがベンチャーとの連携がうまくいかない背景です。
 じゃあ、それは、インテグラル的な技術体系がよくないのかというと、これは今までの日本企業の強みなんです。そこのジレンマというのが、これは企業の方から話してみますと非常に悩みが深い。実際、これからどういうふうな技術構造をとることが望ましいのかという話です。実は、その点の悩みがこの背景にあって、では、今のそのインテグラル的な技術の体系とのインターフェイスを精緻につくるようなイノベーションシステムをつくると、世界的に言えば、おそらく非常に特殊なものになるだろうと思うんです。そういう方向がいいのか、あるいは、もう少しグローバルに見て違う構造を考えたほうがいいのかというのは、これは産学連携といっても、経済、産業の技術構造の議論と深く密接にかかわっているなということで、この4ページの背景には、そういうことがあると思います。
 これは、人材採用の話にも通じていて、世界的に見て、日本の企業は、新卒の人をこれだけ採ってくれる、非常にありがたい企業だと思うので、就職は難しいです。海外だと、大学を最初に出て就職というのは、やはり非常に難しいわけですけれども、日本企業は、これは終身雇用だから、一生いてもらうために非常に長く観察して、インターンとか何かもやっていただいて、さらに入ってから半年ぐらい教育してくれるという、非常に珍しい。冗談で言うと、うちの留学生は、世界的に見れば、最初の就職は日本でして、それからしばらくして人材育成をしてもらってからやめて、ほかに即戦力で給与の高いところへ行くのが一番いいと、これは冗談ですけれども、ほんとうにそれぐらいだと思うんです。
 これもやはり、先ほどの技術構造とも関係していて、日本の強みなんです。その強みと、先ほど、大学で欧米型の人材をつくっても、なかなかそこからインターフェイスがつくれない、採ってくれないという問題も裏腹の部分があって、そういうことを、この裏に、悩みがあるところに切り込んでいって議論をしないといけないのではないかというふうに思います。
 そのときに、先ほど三木先生も言われましたけれども、日本だけでほんとうに閉じてイノベーション・エコシステムを完結できるのかというのは、もうやはり、かなり疑問だなと思っています。エコシステムの部品つまり資源がやはり足りないと思うのです。そうしますと、もう少し広げて、この絵の中に、外国、国の境界を超えたプレーヤーとの連携みたいなものを考えていかないと、今の財政の厳しい中で、資源も機会も少なくなってしまうのではないか。そういう視点は、今後、最も重視すべきではないかと思います。
 以上3点、述べさせていただきました。

【柘植主査】  ありがとうございます。1点目のところだけ、なぜ、私が参考人として今日の話題を出したかというと、渡部委員がおっしゃった1点目ですが、ちょっと加えさせていただきたいと思います。
 すなわち、これは、資料2-1の論点1、日本の科学技術駆動型イノベーション牽引構造を見える化すべきだということで、図の1を参考としたのですが、まさに、これはもう古くなりかかっていまして、まさに、ヘンリー・チェスブロウのオープンイノベーションが出版されてみんなで議論したときに、やはり、あれだけでは、コンセプチュアルだけれども、どうも実用的ではないと。少し実用化しようではないかということで書いたものが、この絵なのですが、これもまだ実用的ではないです。
 その端的な例は、我々、審査しましたイノベーション推進拠点とかプログラム、あの審査をするときに、我々は共通の審査するイノベーションプロセスの設計図が、どの設計図に照らして、応募はそれに合っているとか、間違っているとか、応募側も持っていない。実は、今日は北澤委員もおられますけれども、JSTもイノベーション・エコシステムの研究レポートを出してくれているのです。あの中に使える絵がないかと思うのですけれども、あれも、ヘンリー・チェスブロウのオープンイノベーションの絵よりは、少しましと言ってはおかしいのですが、具体的になっているんですが、やはり、使えない。この絵も使えない。そして、我々、推進委員会の前期の委員が2年前に出しました「イノベーション・エコシステムの構築に向けて」と、あの報告の中にも絵が1枚あります。あれも、はっきり言って使い物にならない。つまり、少なくとも、私が勉強した範囲では、どうも地球上には、このイノベーション牽引エンジンを、産学官を含めて、設計図というのが、どうも使い物になるものがない。
 先ほど石川委員がおっしゃったように、まさに、それは1枚の絵では無理なのだと、分野型とか、あるいはイノベーションのパターンとか、そういう形に分けていくことが現実かなと。
 今日出したのは、ぜひ、この推進委員会で、喫緊の課題を乗り越えた後、そういう絵を、パターンA、パターンBでも結構ですので、何かつくっていきたいという思いで出したわけであります。
 そうしたら、森下委員、お願いします。

【森下委員】  先ほど来の議論に関して特に問題点はないといいますか、私も非常に賛成するところなのですが、一方で、大学の現場にいると、科研費が今年まだ70%しか使えなくて、最終的に残り30%が来るかどうか非常に不透明です。来年はもう30%の削減がほぼ決まったといううわさが聞こえてくる中で、復興のエンジンは科学技術と言いながら、そのエンジンの燃料が減るという状況で、しかも、今、約束されたものが来ないという状況だと思うんです。
 こうした環境の中で考えると、やはり、短期的に、もう少し効率のいいシステムを早急につくらないと、非常に息切れが始まるのではないかと。もう既に息切れ気味ではあるのですけれども、より状況は悪化したのではないかという思いがあるのです。日本の産学連携は、成果が出ていないかというと、実は、バイオベンチャーで言えば、既に上市している商品も2商品ぐらいあります。あるいは今、臨床実験に入っているものも4つか5つあるということで、来月もバイオベンチャーが2社ぐらい上場します。先日のユーテックの話もありましたけれども、ある程度、成功例が出始めています。数が少ないので何となくインパクトは弱いのですが、ただ、もともと千に3つの世界なので、そういう意味から行けば、大学発ベンチャーが1,500社できて、5社、6社、ある程度、成果を出してきているというのは、まあまあ悪い数字ではほんとうはないのではないかと思います。一番問題なのは、そうした仕組みが、ある程度、動いている中で資金が途絶えてきて、かつ、全体的に定常的な状態というか、0パーセント成長に陥っているというのが問題なのではないかと思います。そうしますと、今後、0パーセント成長を、より上に上げるためにシステム改革が要るのではないか。
 本日も、イノベーション・エコシステムの中で、特に最初のところのベンチャーキャピタル的な役割を含めたようなエコシステムをつくるという話において、これは大変いい話ですし、ある意味、これで少しプラスに行くのかなと思います。が、足りないところは何かと考えると、1つは、大学のシーズをいかに実用化に持っていくかというところのシーズの球出しがちょっと弱いのではないかという気がいたします。これは、ある程度、引っ張ってくれれば先ほど来の仕組みが動くと思うんですが、大学の側から、産業界や実用化に向けてほんとうにシーズを出すような仕組みが大学の中にあるかと思うと、弱いと思うんです。とりあえず、特許を出したら終わりと。その特許を誰かが見てくれて、それを評価してくれればいいと。いろいろな橋渡し研究等もできていますけれども、それ以降の仕組みというのはそれほど効率がいいとは私は思えないので、ここはやはり1つ、システム改革が要る場所かなという気がします。
 もう1点は、ある程度、ベンチャーが出たとして、それを企業へつながるところの仕組みがうまくいっているか。先ほども柘植先生が出された中に三位一体とありましたけれども、現在は三位一体ではなくて、リニアモデルでしかないと思うんです。もう少し、アメリカみたいに混然一体としたような三者一体の開発スタイルがとれないと、これは速くならないだろうと。中国、韓国、シンガポールがいいかどうかという問題はありますが、少なくとも、そこに関しては、彼らは非常に三位一体的な要素が強くて、彼らのようにならないと今の日本の厳しい「沈み行く」というところの解決につながっていかないのではないかと思います。産業界を巻き込んだ仕組みをもっと大学の側に広げるようなシステム改革が必要なのではないかという気がいたします。
 そういう意味では、イノベーション、これは大学のシステムのイノベーションも入れていかないといけない。人材が育つというところも、ある程度実践型というか、現場でいろいろなそういう例が出ないと育たないと思いますので、ぜひもう一度、システム改革のところの議論が必要ではないかという気がいたします。
 それから、海外との連携の話、あるいは大企業との連携もそうなのですが、実際、私ども、いろいろな大企業なり、海外と話していますと、正直、10年前と比べると大企業が興味を示す割合は非常に高まっていると思います。10年前はほんとうにお客さん扱いというか、「話だけ聞いておきます」というのが非常に強かったのですが、今は企業の方も真剣に探しているというのがよくわかりますし、実際に大学発ベンチャーが技術を、大手の企業に導出、あるいは共同研究が進んでいるケースは多分、飛躍的に増えていると思うんです。
 そういう動きが出てきている中で、もう少し、先ほどもちょっと言いましたが、効率的に動かすような仕組みをぜひ考えるような議論というのが要ると私は思いますし、ちょっと息切れ状態になりかかっていると思いますので、その辺の議論もする必要があるのではないかと思います。

【柘植主査】  ありがとうございます。今のシステム改革、今日、あえて話題提供したキーワードで、この資料2-2に書きましたけれども、「センターピンは何か」と。つまり、今、1点目に、シーズの球出し、あるいは産業への橋渡しという仕組み、システム改革が必要と言いましたけれども、そのセンターピンの視点が必要なのではないか。今まで必要な施策は結構やってきたと思うし、今もやろうとしているわけですが、その施策の進行をさせながら、論点の階層化といいますか、一番大事な論点を押す、これはセンターピンだと思いますけれども、ぜひそれをこの産学官連携推進委員会の場でも続けていっていただきたい。そうすると、今、森下委員のおっしゃった話に答えが出てくる。一方では、短期的に効率のよいシステムが必要と、このカンフル剤の話と、それをどう両立するかというのは、これはぜひ皆さん、提案していただきたいと思っています。

【柘植主査】  では、高橋委員どうぞ。

【高橋委員】  では、手短に。イノベーションを起こすために科学をどう使うかという観点で我々は多くの議論をしてきたと思うんですが、私は、企業や社会的課題と研究者の間を埋める実務を毎日している中で、違う視点を今後、論点として上げていただければと思います。何かというと、科学にとってイノベーションはどういう意味を持つかというところです。簡単に丸めて申し上げてしまうと、研究者にとって、イノベーション的な研究開発活動は、ほんとうにやりたい研究とはちょっと違うところで、時によって、やらされているという感覚をお持ちの方は実際にいると思います。
 その中で、多くはないものの、やはり、自分の研究にとって、こういうイノベーション的な活動というのがプラスになるという方がいると思います。例えば、エンジニアリングに近い発想を持っている研究者というのは、今理論物理に代表されるような基礎に近い研究をやっていても、具体的な研究開発課題の中に自分の研究にとってプラスとなるヒントがあることを体感していると思います。
 先ほど石川先生がおっしゃった課題の探索というところが、漠然とですが、多分そのフェーズに当たるのではないかと思っております。つまり、世の中のニーズをどう課題として抽出していくかというプロセスは、おそらく科学者にとって、自分の科学を進めるために、いい刺激になると思っています。この委員会は産学連携の部会なので、イノベーションを起こすための科学に加え、科学に刺激を与えるイノベーションという観点もあっていいかと思いました。以上です。

【柘植主査】  ありがとうございます。関連で何かありますか。

【永里委員】  井口先生のお話でちょっとショックを受けたのは、社会科学の先生が社会科学が必要でないような、科学技術に関して、例えば、震災に関しましては、特に原発の事故に関しては絶対に社会科学が必要なのに、そういうことについて社会科学者はあまり参画しないようなご意見が出たのはショックでした。これは私の感想です。いつでも先生と一緒に説得に上がりますので。
 それから、4ページ目の図の3なのですけれども、これを私が見たときに、単純化するためにこう書いてあるというふうに思いました。そして、森下先生もおっしゃっていたので、これは、オープン・イノベーションシステムについては、どうも、柘植先生のお話だと、わかった上で書いていらっしゃらないということのようですけれど、ダウ・ケミカルその他、オープン・イノベーションシステムによってイノベーションをスピードアップしている、研究開発をスピードアップしているという事情があります。日本の会社でも、そういうところがありまして、やはり、どうしても大企業や中央研究所だけでは研究開発のスピードが遅いので、大企業のほうがみずからネタを出して、こういう研究をやりたいからみんなやってくださいと。世界中からそれに対して応募があるそうです。そうなるとスピードアップするそうなので、やはり、米国の変化の中に、今もオープン・イノベーションシステムというのは大きな会社ではやっていると思われます。そういうことをちょっとつけ加えさせていただきます。

【柘植主査】  ありがとうございます。確かに、企業から見ると、こういう話は放っておいて、地球規模でみんな動いていますね。

【永里委員】  そうですね。

【柘植主査】  はい。そういう意味では、おっしゃるとおりで、この絵には、その大事な実態があらわされていないと。 では、藤本委員、よろしくお願いします。

【藤本委員】  私もこの絵なのですけれども、アメリカのように外部労働市場の社会では、大学で勉強したことをそのまま企業で生かすというような専門性を磨くことが就職につながってというふうなローテーションになっていると思うんですけれども、日本の場合、どうしても、研究に日の当たっているときばかりではないとすると、柔軟に自分の分野に固執しない人たちがいいということで、どうしても修士が圧倒的に多くて、研究者のドクターコース、ポスドクは2割ぐらいしか採っていない企業が多くなるとすると、長いスパンで考えて、その人たちが終身雇用のほうを選んでしまうということを考えると、先ほどの石川委員とか渡部委員がおっしゃったことと重複するのですけれども、そういう意味では、企業側のほうが、その人たちを制度として解雇しにくいということがあると、終身雇用を採るのだったらこういう人ということになるとすると、研究者、技術者という専門職でさえ、内部労働市場の中で動かないといけないような、もちろん、東京にはそういうベンチャーもあって、外資もたくさんあるので中途採用というのはあると思うんですけれども、首都圏を一歩出ると、なかなかそれが難しいとなると、大企業も、多国籍企業は、現地ではローカルでは単年度更新とやっていても、国内では終身雇用タイプで日本人を雇用していることが多いとすると、研究者の労働市場の問題が、ものすごくここの背景に大きくあると思うのです。そうすると、若い人たちに、こっちにチャレンジするのだといって一生懸命、研究費とかのパスを見せても、その後、「僕が40歳になったときにどうなるんでしょう?」ということになると、ふっと縮こまってしまう、安全なほうの選択をする人たちが多くなっても、どうしても無理もないようなところもあると思うので、その人たちに、こういう、いろいろなパスもあるのだというような、どういうメッセージをその人たちに投げかけて、こっち側のすばらしいイノベーションシステムに入ってきてもらうかということも考えなければいけないのではないでしょうか。

【柘植主査】  ありがとうございます。時間がだんだん迫ってきましたので、北澤委員、お願いできますか。

【北澤委員】  柘植主査から、日本の現状に対してすごく危機感を持っておられるということは切実に伝わってきたのですけれども、ご自身がおっしゃるように、いろいろなプランというのは、これがザ・ベストというやつはない。ただ1つで表現することはなかなか難しいということも事実だと思います。こういう会議を何度も続けた上で、最もまずいのは、何にも決まらないということで、何かをやる。それで、その何かをやるというときに、どういうやり方があるかというのが、各国の工夫のしどころだと思うんですけれども、アメリカの場合には、例えば、科学、サイエンスだったら最終的にサイエンスアドバイザーのジョン・ホルトレンのところにそれが任されるという面があるわけです。
 それで、例えば、日本でも総合科学技術会議にしろ、あるいは、法人化された大学、それから、独立行政法人も、その長にどれを選択するかというのは法律的には任されているわけです。ですから、経営協議会が何にも決められないというのは法律的にはないわけで、それをやる勇気が学長にあるかどうかということだけだと私と思います。なぜかというと、法律がそれを保証しているわけでありますから、それをやらないということによって何にも決まらずにちゃんとしたことができない。私も独立行政法人の長になって毎日やっていることは、みんながワーワーいろいろなことを言って、最後にA、B、Cで、「じゃあ、Cで行こう」ということを決めると、その役割が最大の役割であります。それをやらなかったら独立行政法人なんて動いていかない。そのためのことなのです。
 ほんとうは国もそうなのです。ところが、柘植主査の言っておられる心配の中に、例えば、総合科学技術会議の議事録を見てみると、みんながいろいろなことを言うだけで、最後、何が決定したのかがよくわからないと、そういうことになってしまう。こういう審議会もそういう面があるわけです。その意味で、私は、どうせ人間のやることですから、これがベスト、ザ・ベストとただ一つをなかなか選べないというときに最後にどうやって選ぶかという、その方式だけを決めておく。そして、しばらくはその方式で行ってみる。そして、もしもだめだったら、そこで軌道修正をする。軌道修正することができるようなシステムにしておく。そういうことで、おそらくこういう会議も、最後は主査が預かって、それでみんながいろいろ言った意見を勘案した上で、こういうふうにしていこうということを最後は預かっていただくと、そういうやり方が最もベストなのだと思います。
 そのための信頼感を醸成するための場というのが、こういう形で存在していて、何か強い意見があるときには、もう、こういう時間の外でも主査に働きかけたりして最終案をうまく決めていってもらう。それで事務局と話し合って、その中のザ・ベストプランをつくる。それで、これは必ずしも正しいとか、正しくないという観点からは一通りではないわけですから、それをみんなで認めてしばらくの間はとにかくやっていってみてもらう。それにみんなが協力するという形でやっていかざるを得ないと思います。
 柘植主査が科学技術、イノベーション、教育、三位一体型の推進機構が必要だというふうに言われているわけですけれども、これが通るかどうかは、これはもう首相のリーダーシップしかないのだと思うんです。ですから、首相をちゃんと説得してやっていかれるように、そういうふうにできるかどうか。これは文部科学省全体と経産省とか、いろいろな省庁にまたがる、そういう決断を誰かしなければ、これはできないわけですから、国家戦略会議みたいなところだけでは、やはりうまくいかないということが今までわかってきたわけで、どうしても首相のリーダーシップにアピールしなければできないので、それをぜひやっていっていただくという形で、みんなで盛り上げていくというのがいいのではないかと思って聞いております。そんなことで、これをみんなで盛り上げていきましょうということであります。

【柘植主査】  ありがとうございます。時間が参りましたので、そろそろ閉めにしたいと思います。今の北澤委員がおっしゃったことが総括だと思いますが、少し反すうしてみますと、今日の話題、資料2-1、2-2で出されました「持続可能な科学技術駆動型イノベーションの創出能力の強化に向けて」、この命題は多分すべて合意されていると思います。これは何とかしなければいけない。一方では、今、それぞれの委員がおっしゃったことの本質的な、あるいは現実的な問題、例えば、イノベーション牽引エンジンの設計図というのは1枚では書けない、そういうむだはよしなさい、もうちょっと現実に即したものと、このようなご指摘問題含めてありました。ですから、まず、今日の議論をきちっとまとめることが必要だと思います。
 一方、先ほど森下委員がおっしゃったのですが、短期的な話も対応してくれないと現場のほうが白けちゃうよと、こういう話も含めて、じゃあ、現実問題、短期的な話と中長期的な話にどう命題を落とし込んでいくかという話も、一種の設計図として必要だなというのが今日の大きな話です。
 その端的な例が、今日の第1の議題でありました、資料1の早急に措置すべき施策をこれから実行していく。これは行政に、予算取りも含めてかなり頑張っていただくことになります。予算取りをされた暁には、魂を入れていく作業の中にも、非常に短期的に、あるいは中長期的にリンクした命題であったわけです。
 もう1つは、今の北澤委員が総括された話につながる話の視点、我々の産学官連携推進委員会の視点としては、実は、我々の親委員会である科学技術・学術審議会は、9月に基本計画推進委員会というものを発足いたしました。この趣旨は、第4期の科学技術基本計画がいよいよ実行になるに当たりまして、科学技術・学術審議会として、それに対してどう参加、貢献、意見を具申していくか、こういう機能を基本計画推進委員会が持つということになりました。
 この間、第1回のキックオフがあったときには、基本的には、その基本計画推進委員会の持つ命題は、それぞれの委員会、我々で言うと産学官連携推進委員会なり人材委員会、それが受け持ってきちっと具体的に掘り下げて施策に落とし込んでもらうということを基本にして、そして、基本計画推進委員会では、全体の横串といいますか、全体を俯瞰的に何が欠けているかという視点では、この基本計画推進委員会で掘り下げようということでございます。したがいまして、我々の産学官連携推進委員会も非常に重要なミッションを持つ。そのミッションが、まさに、その資料1で決めた、早急に措置すべき施策の実行と、同時に、資料2の1で投げかけられました、いかにそれを持続可能なイノベーション創出能力にするかと、こういう命題の、必ず私は両方に落とし込まれると確信しております。
 そういうことで今日の議題2の話はまとめて、また今後の包括した議論の土台にしていきたいと思いますので、事務局のほう、そういう論点の階層化、整理も含めて、次回の継続課題に供するような形にまとめていただきたいと思います。
 時間が来てしまいましたので、議題2を終えまして、事務局、その他も含めて何か報告をお願いいたします。

【橋爪室長】  本日もありがとうございました。まず、主査からもございましたが、資料1で早急に措置すべき施策ということでおまとめいただきましたので、事務局といたしましても、この方針に従いまして取り組んでまいりたいと思いますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。
 また、議題2のほうでは、先ほど主査からもございましたけれども、多岐にわたるご議論、論点をいただきましたので、少し事務局のほうで整理させていただきまして、また、主査とご相談しながら今後の進め方を検討してまいりたいと思います。
 次回、皆様のご都合の合う機会、なるべく早い段階で進めさせていただきたいと思います。どうぞよろしくお願い申し上げます。

【柘植主査】  はい。それでは、本日の委員会を閉会といたします。どうもお疲れさまでした。

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科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室

(科学技術・学術政策局産業連携・地域支援課大学技術移転推進室)