基本計画特別委員会(第4期科学技術基本計画)(第7回) 議事録

1.日時

平成21年10月16日16時~18時30分

2.場所

文部科学省第2講堂(旧文部省庁舎6階)

3.議題

  1. 社団法人国立大学協会からの発表
  2. 公立大学協会からの発表
  3. 日本私立大学団体連合会からの発表
  4. 大学共同利用機関法人・大学共同利用機関の今後の在り方等について
  5. 知の拠点-我が国の未来を拓く国立大学法人等施設の整備充実について
  6. 世界的教育研究・研究開発機関の形成について
  7. 科学技術・イノベーションの研究環境・基盤整備について
  8. その他

4.出席者

委員

野依主査、東委員、有川委員、安西委員、伊地知委員、大垣委員、長我部委員、門永委員、河内委員、黒田委員、小杉委員、小林傳司委員、佐々木委員、菅委員、立川委員、フクシマ委員、永井委員、西尾委員、二瓶委員、本藏委員、益田委員、丸本委員

文部科学省

坂田事務次官、森口文部科学審議官
(大臣官房)土屋総括審議官、西阪文教施設企画部長、奈良総務課長、藤原会計課長、坪井政策課長、岡文教施設企画部技術参事官
(高等教育局)河村私学部長、小松審議官、義本高等教育企画課長
(科学技術・学術政策局)泉局長、渡辺次長、小松科学技術・学術総括官、中岡政策課長、佐藤調査調整課長、川端基盤政策課長、柿田計画官
(研究振興局)磯田局長、倉持審議官、山脇振興企画課長、舟橋情報課長、勝野学術機関課長、山口研究助成課長、内丸基礎基盤研究課長、渡辺研究振興戦略官
(研究開発局)藤木局長、森本審議官、土橋開発企画課長、鈴木地震・防災課長
他関係官

オブザーバー

相澤総合科学技術会議議員、奥村総合科学技術会議議員、青木総合科学技術会議議員、金澤総合科学技術会議議員、小林公立大学協会副会長、金児公立大学協会副会長、黒田日本私立大学団体連合会高等教育改革委員会委員長、中島早稲田大学研究戦略センター所長

5.議事録

【野依主査】
 科学技術・学術審議会第7回基本計画特別委員会を開催します。
 事務局から、配付資料の確認をお願いします。

【柿田計画官】
 議事次第の裏面に記載の配付資料一覧のとおり、資料を配付しております。また、関連の参考資料や報告書等を配付させていただいております。不足等がありましたら、随時ご連絡いただきたいと思います。
 以上でございます。

【野依主査】
 本日の審議事項は、「世界的教育研究・研究開発機関の形成について」及び「科学技術・イノベーションの研究環境基盤整備について」です。
 議論に先立ちまして、大学関係団体として、国立大学協会、公立大学協会及び日本私立大学団体連合会から、第4期科学技術基本計画に向けた意見などをご発表いただきます。それぞれ5分以内で主要なポイントについてご発表いただいた後、まとめて質疑の時間を設けたいと思います。
 まず国立大学協会の副会長でもいらっしゃいます丸本委員からご発表いただきたいと思います。

【丸本委員】
 お手元に2枚刷りの資料があるかと思います。本委員会から国立大学協会に意見を求められたことを受けて整理したものです。
 今回、科学技術基本計画の策定に向けて、9項目ほど論点を挙げております。まず1番目が、科学技術基本計画策定における「学術」の位置づけの明確化ということで、学術の発展を基軸に位置づける、その時に、人文・社会科学、芸術などを含む学術環境のことをしっかり考えて、それらが「知の経済的・社会的価値、知的・文化的価値」の創造を実現するために必須である、そういうことが科学技術の振興を論じる際には必要ではないかという考え方を述べております。
 2番目が、「科学技術・イノベーション政策」の定義・意図・担い手の明確化ですが、科学技術とイノベーションを一くくりにして定義されているために、その意味があいまいになっているのではないかという指摘です。それから、特に下のほうですが、科学技術の基盤を支える基礎研究、及びそれを含めた学術分野の発展のための人材育成を担う大学の役割を明記するべきではないかという論点が一つあります。
 3番目ですが、すべての「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化―運営費交付金の拡充と施設設備、そういうものの整備の計画的実施を進めてほしいということを基本計画の中に明記してほしいということです。特に近年、競争的資金偏重の政策のもとで、教育研究の多様性の確保、それから、国全体での研究水準の維持・向上の点で大きな問題が生じているということで、国立大学の教育研究環境は非常に危機的な状況にあります。特に中小の地方国立大学は大変厳しい状況で、こういう「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化とそのための運営費交付金、それから施設設備等の整備費の補助金の拡充の方針を明記してほしいという要望です。
 4番目は、「基礎科学力の強化」に向けた投資戦略の構築と競争的資金の充実ですが、これはもうかなり議論をしていただいておりますので、省略させていただきますが、やはり科学研究費補助金その他の資金の拡充をお願いしたいということです。
 5番目が、科学技術・イノベーションの評価及びインセンティブシステムの構築ということですが、特にイノベーションの評価におきましては、イノベーションの多様性と価値を正しく反映すること、また、社会にどれだけ貢献できたかをきちんと評価すること等に配慮する必要があるのではないか。また、大学がイノベーションに関わる場合には、経済的価値の側面だけでは評価が難しいのではないか。もう少し多面的に大学が行っていることを支援できるように、健全な評価システムを構築すべきではないかという論点です。
 6番目が、学術情報の基盤整備の基本的戦略の明示ですが、特に近年、電子ジャーナルにかかる経費の増加が大学の運営を圧迫しており、電子ジャーナルをとるのをやめよう、といった大学もある状況です。そういうことで、電子的な学術情報資源の整備やオープンアクセスの推進などの学術情報発信の基本的戦略、それから、学術情報ネットワーク環境のさらなる向上等を、この科学技術基本計画に明記すべきではないかという論点です。
 7番目が、若手研究者育成のための支援策ですが、特に博士課程における人材育成、就学支援と就職先の確保、またポストドクターの処遇や転身、また若手研究者の確保、これらのシステム改革は大変喫緊の課題でして、これらを総合的にマスタープランとして打ち出してほしいという論点です。
 8番目が、研究支援体制の充実・強化の着実な推進ですが、これは欧米に比べて研究支援に関わるスタッフあるいは要員が非常に貧弱です。この辺をやはり将来充実していくべきではないかという論点です。
 9番目は、国民社会と科学技術・イノベーションとの関係深化です。これは読んでいただければ分かると思いますので、省略させていただきますが、最後に、すべての「科学技術・イノベーション」を育む基盤である国立大学の強化とそのための運営費交付金、それから施設整備、これは箱モノだけではなく、いろいろな機器更新も含めた施設の拡充や、研究費補助金をはじめとする「基礎科学力の強化」、これに向かった投資の拡充について明記をしていただきたい。それから、国立大学の人件費削減の政策をできれば撤廃していただきたいということを最後に申し上げまして、報告とさせていただきたいと思います。
 どうもありがとうございました。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 続きまして、公立大学協会副会長でいらっしゃる大阪市立大学の金児曉嗣学長、秋田県立大学の小林俊一学長からご発表いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【金児公大協副会長】
 それでは、私、金児のほうからご説明させていただきます。
 配付させていただいたパワーポイントの資料に基づいてご説明申し上げます。
 まず、第1点ですが、基本計画特別委員会の委員の顔ぶれを拝見いたしておりますと、国公私立大学の代表と言いながら、公立大学の代表が抜けています。常に公立大学は国立大学と私立大学の狭間に置かれておりまして、この第4期科学技術基本計画に向けての検討においてもそのような印象を受けます。公立大学も地域の多様性を生かした研究を推進しておりますので、公立大学の視座も必要なのではないかという気がしております。
 第2点は、イノベーションについてですが、今の時代、巨大科学を一国で先導していくという考えはもう捨てたほうがいいのではないかと思います。例えばアメリカもオバマ大統領の政権になりまして、共存共栄という方針を打ち出しております。これからの科学技術の探究には、国家同士の密なる協力、あるいは役割分担の仕組みが必要なのではないか。それによって、財政的な問題も解決できる機会があるのではないかという気がしております。
 それから、国全体として特定の分野を決めてイノベーションスタイルを画一化できるものではないと思います。地方圏では地域企業によるイノベーションの支援が非常に重要な産業政策となっており、地域企業の支援がなければ地域経済が崩壊します。国公私を問わず地方の大学はこういう状況にあり、喫緊の対応が求められております。
 それから、3番目に、研究開発投資の在り方について、拝見しておりますと、やるべき具体的なテーマがあって、それに対して予算をつけるべきところが、予算が先にあるような、そういう印象をどうも受けます。小規模な大学あるいは研究機関が門前払いになるような、そういうケースが増えているのではないかと思います。
 最後に、公立大学の立場から3点を記させていただいております。地域における共同利用施設の公立大学への設置をもう少し積極的に考えていただきたい。第3期科学技術基本計画の際にも公立大学の立場から申し上げたことですが、例えば、「物性」あるいは「高エネルギー」といった広領域のみを対象とせず、”small science”、狭いが普遍性がある学際的な、そういう特性を持つ分野も対象としていただきたいと思います。
 それから、もし科学技術を今後文化として社会に根づかせていくという方針をとるのであれば、国公私立大学の連携はもちろんのことですが、地域の公設試験研究所等の機関と公立大学が連携して研究を推進するという、そういう多様な方策が今後地域文化の振興の中で必要になるのではないかと思います。
 最後に、「三位一体の改革の論理」の中で、緊急性の高い国家政策等におきまして、これまで公立大学が除外されてきたという経緯がございます。大学というのは、設置者の如何を問わず、国家の財産、国の発展を支えるインフラです。国の政策を補うため、民間や自治体の資金を活用して大学を充実させてきたという、そういう公立大学の使命、役割もあります。そういうことからすれば、国公私を問わず、国家の包括的な支援は当然必要になるかと思います。従って、公立大学への支援についても、文部科学省の重要な施策として位置づけていただきたいと思います。
 最後に、参考資料として、幾つかの公立大学で地域産業、あるいは芸術・文化を中心とした教育研究に基づいて大学を活性化している、そのような事例を載せております。
 以上でございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 続きまして、日本私立大学団体連合会高等教育改革委員会委員長でいらっしゃる金沢工業大学の黒田壽二総長及び早稲田大学研究戦略センターの中島啓幾所長からご発表いただきたいと思います。よろしくお願いいたします。

【黒田私大団連高等教育改革委員会委員長】
 本日、私立大学団体連合会を代表いたしまして、私からは総括的な意見を述べさせていただいて、詳細については、中島教授から説明をさせていただきたいと思います。
 お手元の資料3-1と3-2ですが、私からは3-2で、要点を説明させていただきます。
 ここに書かれていますのは6項目あります。これまで、まず第1期~第3期にわたって科学技術基本計画をお作りいただき、日本の教育研究の基盤整備にご尽力されてこられたことに対して、まず敬意を表したいと思います。今回、特に科学技術・イノベーションのための研究環境・基盤整備ということについて議論をされるということについても、私立大学として敬意を表したいと思います。
 特に学術研究とイノベーションの創出ということは、世界的な研究拠点の整備ということと併せて、総合的に我が国としては推進していく重要な課題であると考えております。この基礎研究の成果というものを具体的にイノベーションに結びつけていく実用化環境の整備ということが、特に今後必要になってくるだろうと思います。「資源の乏しい我が国において、科学技術立国ということで、科学技術というものが我が国の将来を担うんだ」ということをよく言われます。そういう中で、グローバル社会の中で国際的に日本の地位を高めながら、競争力をつける、それを維持するということは、今後とも不可欠なことであり、ここに係る人材養成ということが大変重要な鍵を握ることになると思います。
 この人材養成についてお話ししますと、大学というのは、特に我が国の場合は8割を私立大学が占めており、ここで培われる人材というのは非常に重要な大切な資源であると考えます。従って、国立大学だけに目を向けるのではなく、私学で学ぶ学生たちをどう将来の後継者として育成していくかが、非常に重要だと思っております。特に、最近よく言われていますが、学部段階からの教育というのが、大学院へつながる一つの足がかりになる。研究者の養成というのが重要な課題ですので、学部段階の教育と併せて、大学院の教育に結びつける施策を是非とっていただきたいと思っております。
 併せて、先ほども話が出ていましたが、大学院、特に工科系は大学院の後期課程へ進む学生が非常に少ないわけであります。殆どが就職してしまうという状態になっている。この原因は、大学院後期課程で生活を立てるということが非常に難しい状態になっていることなので、大学院の後期課程で十分に研究能力を発揮できるような施策、インフラ整備を是非お願いしたいと思います。
 また、若手研究者に対しても、これも先ほど出ていましたが、若手研究者が色々な立場で自由に研究のできる体制づくりが必要と思いますので、その支援策もお願いしたい。
 それから、私立大学には女性研究者が非常にたくさんいるわけですが、女性研究者を処遇する在り方というのがいまだに不十分であると思います。女性に十分に活躍していただける体制というのを是非作っていただきたいと思います。
 それから、もう一つは、国際的枠組みの中で活躍できる人材を養成しなければならないと思いますので、日本人学生を外国に留学をさせたり、研究者を日本に連れてくることが必要になります。その時に、やはり日本で今一番貧弱なのはインフラ整備だと思います。研究者が日本に来て十分に活躍できる、そういうインフラの整備というのが必要である。その点をお願いしたいと思っております。
 第3期科学技術基本計画まではある程度国家の戦略として重点的な整備を行っていると思いますが、これからは、それに加えて、裾野の広い、幅の広い学術研究に対する振興策をとっていただきたいと思います。
 基盤整備についてですが、研究基盤の整備は、今まではどちらかというと国立大学重点で配分をされており、国立大学、私立大学の格差というのはどんどん広がってきている状態です。できれば私立大学の中にもそういう国家戦略的な施設をつくれるように、ぜひお願いしたいと思いますし、また、私立大学に籍を置く研究者が、気軽に自由にそういう研究拠点を使えるようにしていただきたいと思っております。
 それから、地域の話も出ていましたが、地域における科学技術の振興というのは非常に重要でありまして、各地域が今疲弊している状態の中で、イノベーションというのは地域経済の活性化につながるものでありますので、地域とのバランスを考えた施策をとっていただきたいと思っております。
 それから、もう一つは、人文・社会科学との調和についてですが、科学技術と人文・社会科学との調和というのは、これから欠かせない課題になります。是非、人文・社会科学にも目を向けていただきたいと思います。
 最後ですが、日本の高等教育にかけられている投資というのは、世界のOECD比較で見ても非常に低いわけです。是非、平均値の1%まで持っていくように努力をしていただきたいと思います。
 併せて、研究費の内容を見ますと、大体8割が民間投資で賄われているのが現状です。そういうことを考えていきますと、国と産業界の共同出資の格好で、イノベーション創出のための国家戦略的な研究について基金を積み上げていくというのも一つの手ではないかと思います。日本の企業は、どちらかというと、日本の大学にお金を出すよりも、外国の大学へお金をどんどん出しているというのが現状ですので、そういうところの施策の転換をしていただくということが非常に重要になると思います。
 以上で概略の説明を終わります。

【中島早稲田大学研究戦略センター所長】
 資料3-1で簡単にご説明申し上げます。
 今、黒田先生がほとんど網羅されたことを、資料ではエビデンスも含めて示しております。まず見ていただきたいのは、6ページ、7ページ、費用対効果をもう少し考えていただきたい。ある程度以上もう飽和しているところにつぎ込んでも、出てくる成果は限られております。それに比べて、まだ初期投資がされていないところにほんのわずかでも投資をしていただくと、それは即、論文数の増加等につながります。日本の海外との論文数の比較では、もう中国等に負けようとしております。
 8ページ、9ページを見ていただきますと、若手、あるいは女性に対してまだまだ手当てが足りないということを述べようとしております。今、黒田先生がおっしゃいましたように、学部の学生あたりからもう準備をしておかないと、ポスドクになってからでは遅いということです。
 7番目です。施設整備についてはデータもございますが、私立大学は残念ながら圧倒的に遅れており、相当なハンディを持っていながら、競争という意味では、国公立大学と肩を並べて闘わなければいけないというところがあります。
 最後、まとめと、それから参考資料は幾つかありますので、ご覧いただければと思いますが、私立大学は、時代の転換点でいろいろな重要な役割を担ってまいりました。右肩上がり、あるいは延長線上をやっているときには、無視されているとまでは言いませんが、それなりに放っておかれたかもしれません。こういう時代こそ、私立大学をうまく活用していただければ、最も費用対効果が高く、タイムリーに様々な役割を担えるだろうと思います。それをもって第4期科学技術基本計画にも貢献できることになるのではないかと思っております。
 裾野というお話を黒田先生はされました。これは分野だけに限らず、研究の担い手としての裾野をどう充実させるか、それが国力でもございます。もちろん、頂点をきちんとキープして、引っ張っていくということは大事ですが、それに加えて裾野の高さとその面積で総合的な科学技術力が決まってくると思いますので、ご配慮いただけるとありがたいと思います。
 以上でございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、ただいまの各大学協会、日本私立大学団体連合会からのご発表に対して、ご質問等のある方は挙手をお願いします。

【河内委員】
 今ご指摘がありましたように、産業界から見て、やはり大学に期待するのは基礎研究と質の高い教育だというのは間違いないわけです。特に今日は教育がテーマということですが、大学院の教育で、従来から議論されているのですが、きちっとした教育のカリキュラムを作って、それを世の中にオープンにする必要がある。産業界もできるだけ協力させていただきたいのですが、そういうものを早く整備していくということが非常に重要だろうと思います。この課題は色々なところで議論されているのですが、大学の中での実態がどうなっているのかわかりません。この委員会で議論されている中でも、結局、大学自体の努力でできるものと、政策的なことが必要なものと、やはり区別して議論していく必要があると思います。大学内部で教育のカリキュラムをつくっていくというのは大学自身でできることだと思うのですが、そういうのが今どういう状況になっているのか、聞かせていただきたいと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 私が座長を務め、この基本計画特別委員会の委員の方々にもご助力いただいた、基礎科学力強化委員会から「基礎科学力強化に関する提言」を8月に文部科学省に提出させていただきました。その委員会でもやはり大学院のカリキュラムの問題が議論され、問題点として、今の大学院の教育がともすれば後継者養成に偏っているということが指摘されました。実際は80%、90%の学生が修士を終えて産業界に行くという実情があり、そのような学生の教育、養成については、やはり産業界等からもご助言いただき、カリキュラム作成や授業にも参画していただくなど、積極的に社会総がかりで養成していくことが必要ではないかという議論がなされました。

【有川委員】
 カリキュラムについては、シラバスも含めて、最近ではかなり充実してきていると思います。例えば、私どもの九州大学では、他大学でも似たようなことをやっているところもありますが、産業界のことも十分意識して、経団連等と共同で新しい大学院のコースを作るなど、相当努力をしているところです。
 なるべくカリキュラム、シラバスをオープンにして、どういった授業、教育がなされているかということが外から分かるようにするということを行っております。その際、ホームページやOCW(Open Course Ware)といった国際的なものも使いながら、なるべく自分のところで使う教材をオープンにしようということを一生懸命やっているところですので、徐々に成果は上がってくると思います。

【安西委員】
 今、有川委員が言われたような努力が必要というのは、そのとおりなのですが、マクロに見ると、やはり若手研究者の育成人数よりも、いわゆる大学のポストの方がはるかに少ないですね。そのことはやはりここではっきり理解しておく必要があります。人数がどうだからということではないのですが、若手で本当に優秀で意欲もある人たちが、特に産業界で働く場ができていくべきだろうと思います。ただ、産業界から見ると、やはり大学院の博士課程卒業者というのは、ある意味で非常に狭くて、新しいことをなかなかやれない、知識も狭い、あるいは、問題を見つけて自分でやっていく能力が云々ということになっていくわけです。やはり、経済界と大学、学界が一緒になって、博士課程の新しいモデルを作るということが必要だ、ということが基礎科学力強化委員会で、野依主査で提言がされたと理解しております。

【大垣委員】
 基礎科学力強化委員会の中で大学院教育の話が出ましたが、先ほどの産業界からの要望に関しては、工学系の場合は、今大学の方は随分努力をして、変革をしてきていると思います。これからはむしろ若い人が大学院を出て、今ご説明ありましたように、就職が幅広く様々な可能性がある社会を作ることが重要ではないかと思います。

【佐々木委員】
 大学・研究機関の努力でできる範囲と、先ほど野依主査が言われたように、総がかりでという言葉があったように、やはりデザインを明確にした上でやらないといけない。そして、結局は、国の人材政策というものが果たしてあるのかどうかという問題とも関わるのではないかというような観点から、その意味で、非常に焦点のはっきりした議論ができたのではないかと思っております。

【野依主査】
 ありがとうございます。
 ほかの観点から、発表に対するご意見はありますか。

【小林(傳)委員】
 公立大学協会で準備していただいた資料の6ページに、「物性」や「高エネルギー」といった広領域を対象とせずに、”small science”とか、狭いが普遍性があるとか、”interdisciplinary”な特性を持つ分野を対象とするべきと書いてあります。これは、何かもう少し具体的なイメージ、研究共同利用施設としてそういうものを作るというイメージなのでしょうか。もう少し具体的に教えていただけますか。

【小林公大協副会長】
 例えば、加速器のように、国のビッグマシン、ビッグプロジェクトというのは大変に重要であることは十分に承知していますし、公立大学のような小さいところもそれらに参画するようにというお誘いが多くあることも承知しております。ただ、やはり地域貢献型の公立大学が、例えば、加速器を全国で使うというようなプロジェクトに国立大学等と対等な立場で参画するということは、人材的にも、あるいは財政的にも大変難しいことであります。では、それを踏まえて、公立大学あるいは地域大学についてはどのような在り方が、この科学技術基本計画の中であるべきかということを考えた時に、もう少しローカルな、けれども大事な問題というのを見つけていくべきではないかという意味で、このように書かせていただきました。
 small scienceの例を挙げますと、例えば私の大学は秋田県立大学ですが、そこでやろうと思って手を広げて、しかも同志を募りたいと思っているプロジェクトは、例えば、バイオエネルギー、汚染湖沼の浄化というようなものです。これらは、超ハイテク、超最先端という訳ではありませんが、このようなプロジェクトにも十分な目配りを科学技術基本計画でしていただけると、大変ありがたいと思っています。

【二瓶委員】
 先ほど私立大学団体連合会からのご意見として、資料3-1の6ページ「日米の大学別公的研究費の比較」において大きな差異があり、是正すべきであるとのご指摘がありました。すなわち、米国において10位から80位の大学でもトップ大学の1/3から1/10程度の研究費の配分を受けているのに対し、日本ではトップ大学の1/8から1/80しか配分されていない点についての指摘です。つまり、日本の上位から中位の大学は、米国の同クラスの大学と比較すると、トップ大学との比率で、1/3から1/8の配分比率となり、大変冷遇されているという指摘です。その図のとおり、この格差を解消すべく「ここを充実させるのが急務」というご意見は大変重要であると思います。
 ただし、この問題は多くの場で議論されていることですが、どうやってこれを実現させるかというのがなかなか難しいところです。例えば、科研費で言えば、「比較的小額な研究種目への予算配分割合をもっと増やすべし」という議論があります。これは多分有効だと思いますが、中島教授、何かご意見がおありでしょうか。

【中島早稲田大学研究戦略センター所長】
 今、二瓶委員が仰ったとおり、日本は、他の諸国に比べて大型プロジェクトと言いますか、個人に対して巨額の資金を渡しすぎているように私は思います。一般的に、個人も機関もそのような傾向があるのですが、ある程度以上資金が超過しますと、その資金をどうしても使い切る方向に研究の体制が進んでしまいます。それは研究者にとっても、国にとっても決して幸福なこととは言いがたい場合が一般的かと思います。
 従いまして、もう少しその粒度をうまく配分して、いろいろな環境に置かれている方でも投下された資金が成果を容易に生み出しやすいように、機会を増やすということは、是非第4期科学技術基本計画でチャレンジしていただきたいと考えております。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 ただいまの議論につきましては、本委員会におきましても今後の検討にあたり、参考にさせていただきたいと思います。
 続きまして、文部科学省の審議会等における審議報告をいただきます。
 まず、「大学共同利用機関法人・大学共同利用機関の今後の在り方」等について、勝野学術機関課長から説明していただきます。

【勝野学術機関課長】
 それでは、資料4-1と4-2についてご説明申し上げます。
 いずれも科学技術・学術審議会のもとの学術分科会の部会において現在行われている議論の途中経過報告です。資料4-1の18ページ、19ページに要旨がありますので、これをご覧いただければと思います。
 大学共同利用機関については、個別の大学では出来ない大型の装置等を整備して、全国の研究者の共同利用に供し、共同研究を行っている機関です。平成16年に16ある共同利用機関が4つの機構法人のもとに再編され、新しい法人のもとでスタートしました。平成22年度から第2期中期目標・中期計画期間に入るという節目の時期を迎えており、これまでの機構法人化の検証を行いながら、今後の在り方について検討しているというのが、部会における議論です。
 現在までの議論におきまして、その下にありますように、4つの柱で議論が整理されてきております。
 まず1つは、これからの方向性ですが、1の1つ目のマルにありますように、我が国の学術全体の基盤を支え、学術研究展開を目指す上で非常に重要な役割を果たしているということから、今後ともこの制度を充実させ、中核的な研究機関としてのCOE性を高めていくことが重要であるといった議論が出ております。その上で、特に大学との関係におきましては、より密接な連携を推進するという基本方向のもとに、研究資源の着実な整備や、あるいは異分野の研究者の交流の場の拡充などを通じまして、大学の研究者の受け入れとそれによる研究環境の整備を進めていく必要があるという議論が出ております。
 それから、19ページは、具体的な組織の運営、研究活動、教育活動についての議論です。まず、2の組織の運営については、先ほど申し上げたように、4機構法人のもとに再編されたということで、各機関間の連携が徐々に進みつつありますが、さらに法人としての一体的な運営体制の強化が必要であるという議論が出ております。また、社会や国民に対する情報発信等を通じて、学術研究、あるいは共同利用機関に対する理解・支持を得ていくことの重要性、それから、大学全体の教育研究を支えるという役割の重要性に鑑みまして、財政支援の充実が必要であるといった議論があります。
 研究活動については、4機構化の際の大きなねらいである、新しい学問領域を創成するということについて、さらに具体的な取組を進めていく必要があるということ、それから、そのためにも、最適な組織を目指した不断の検討が必要であるということ、また、将来的には、各機構法人の構成や、大学共同利用機関がカバーする領域の見直しといったような検討も必要ではないかという議論が出ております。
 それから、4番、教育活動についてですが、現在も大学院教育を一部担っておりますが、「教育・研究一体型」の大学院教育が非常に有意義であるという観点から、その一層の充実が必要であるという議論です。
 引き続き、資料4-2をご説明いたします。
 10ページ、11ページ、「学術研究の大型プロジェクトの推進について」ということで、これも要旨を付けております。現在、高エネルギー加速器研究機構の「Bファクトリー」や、国立天文台の「すばる」といった、いわゆる学術研究の大型プロジェクトが幾つか進められているわけですが、今後のその推進方策について検討を行っている部会の審議経過報告です。
 1では、こういったプロジェクトの推進の意義をまとめておりますが、3つ目のマルにありますように、今後とも社会や国民の理解を得ながら、一定の資源を継続的に投入することを学術政策の基本として位置づけていくことが必要であるという議論です。
 それから、具体的な推進方策としては、これまでは、例えば大型の装置の整備を前提としたプロジェクトが中心でしたが、例えば、大型の装置は伴わないが、多数の研究者の参画を要するものや、あるいは、複数の施設がネットワークを形成して行うようなプロジェクトといったものも今後大型プロジェクトとして柔軟に検討する必要があるのではないか、というのが2番です。
 3番では、具体的な方策ですが、11ページに参りまして、特に今後、科学的な評価に基づく戦略的・計画的なプロジェクトの推進を図るという観点から、分野ごとに大型プロジェクトの将来構想をロードマップという形でまとめ、そのロードマップを基本としつつ、学術上の意義や波及効果、財政支出への影響、国際協調、そういった観点を総合的に勘案し、透明性の高い評価を行った上で、具体的なプロジェクトを推進していくことが必要であるという考え方がまとめられております。
 今後の課題として、日本学術会議を通じて、具体的なロードマップの策定の要請等を行い、さらにこの部会としての議論を進めていく予定です。
 資料4-1と4-2については以上です。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 続きまして、「今後の国立大学法人等施設の整備充実に関する調査研究協力者会議の報告」について、菱山文教施設企画部計画課長からお願いします。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 それでは、資料5-1と5-2に基づいてご説明申し上げます。
 資料5-2が、この協力者会議の中間まとめということで、8月にまとめたものです。資料5-1が、それをパワーポイントの形で簡単にまとめたものですので、5-1に沿ってご説明したいと思います。
 まず1枚めくっていただきますと、1. 国立大学法人等施設の役割というのがありまして、国立大学法人等の使命・役割については、もう皆様ご存じのとおりです。そして、その下の四角ですが、国立大学法人等施設の役割ということで、この国立大学法人の使命を果たすための教育研究等を支える重要な基盤で、単なる箱モノではなく、学生や研究者に教育研究の環境を提供するものであるということです。
 その次のページですが、第2次国立大学等施設緊急整備5か年計画の検証ということです。これは現在の第3期科学技術基本計画を受けて、このような5か年計画を策定しております。右側の四角にありますが、進捗状況であります。5か年計画では、老朽再生、狭隘解消、そして大学附属病院の再生、この3本が柱でして、そのうち、平成21年度末の見込みということで、大体75%程度の整備目標に達して達成度ということが予測されております。
 次のページは、国立大学法人等施設を取り巻く現状と課題ということです。まず最初の棒グラフを見ていただきますと、老朽施設というのは、左半分ですが、かなり未改修の老朽施設を国立大学法人では抱えているという状況です。それに対して、右側にありますように、これはポスドクですが、このような若手研究者が増えているわけです。これに対して、左下の写真、耐震性が劣る老朽施設、あるいは非常に狭い研究施設、そういったものがあるという状況です。また、右下のグラフですが、CO2のマクロの推計ですが、大学のCO2の排出がかなり大きいので、これに対して対応していかなければいけないということです。
 その下のページですが、予算額の推移を見ていただきますと、10年ほど前はかなり大きかったのですが、これは補正予算頼みということです。現在も補正予算でかなり積んでいるという状況で、計画的な遂行のためには、当初予算できちんと施設の整備ができるようにしたいと考えております。また、減価償却のグラフですが、大体これは緑色の棒が病院で、橙色、左側が普通の大学の施設と考えていただきまして、大体1,000億から2,200億ぐらいが減価償却費ということですが、だんだんと減っているという状況です。また、右側のグラフは、先ほどのご説明にもありましたようなものと同じですが、OECDの平均と比べて低いといったものです。
 次のページ、4、5ですが、4が今後の国立大学法人等施設の目指すべき姿、5が対応方策ということです。4にあるように、これは詳しくは本文にありますが、教育機能の発展、研究機能の発展、産学官連携の強化、地域貢献の推進、国際化の推進、地球環境問題への貢献、キャンパス環境の充実、こういった項目について、それぞれこういう姿にすべきだというのを書いたものです。例えば、国際化の推進ですが、大学も留学生や外国人研究者を引きつけるようなものでなければいけないと思いますが、現在では欧米どころか、近隣のアジア諸国の大学に比べても若干見劣りがするようなところも出てきているということです。
 また、今後の対応方策ですが、それについては、長期的視点に立ったそれぞれの大学の計画といったものをきちんと立てていこうということや、あるいは、空きスペースがないように、効果的な整備による価値の向上をしなければいけない。あるいは、施設マネジメントもしっかりしていこうといったこともあります。また、4番目にありますように、国費だけではなくて、民間企業、あるいは地方公共団体、そういったところとも協力して、多様な財源を活用していこうというものです。
 最後の6ですが、中長期的な対応方策として、これは中間取りまとめですが、3つのSということで、まず一番下ですが、安全・安心な教育研究環境の確保ということでSafety、これは耐震化をはじめとした安全をしっかりしていこう、これは最低限確保すべきだろうということで。真ん中のSustainability、これは地球環境に配慮した教育研究環境を実現しなければならないというものです。そこまでが最低限、さらにゼロというところでございますが、さらにその上に立つものとして、教育研究環境の高度化・多様化を戦略的に進めていこうということで、Strategyというものであります。そこに3つの箱がありますが、教育研究を活性化する「知」を発信し、交流する教育研究環境の整備や、あるいは国際競争力のある拠点、また先端医療や地域医療に対応した病院の整備、そういったことを進めていかなければならないというものです。
 簡単ですが、以上です。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、今のご説明に引き続きまして、本日の審議事項である「世界的教育研究・研究開発機関の形成」及び「科学技術・イノベーションの研究環境・基盤整備」について、事務局から資料の説明をお願いします。

【柿田計画官】
 ただいまご報告のありました大学共同利用機関また大学の施設・設備の充実に関する審議内容等をもとにいたしまして、事務局として、本特別委員会において第4期科学技術基本計画に向けて、大学等及び研究開発法人の在り方、また、研究環境や研究基盤の形成に向けた取組の在り方についてご議論いただくための資料として、資料8-1、8-2、9-1及び9-2の4点を用意しております。
 まず資料8-1の1ページから2ページにかけまして、大学等及び研究開発法人を取り巻く現状及び課題を整理しておりますが、資料8-2のデータ集で、これらに関連するデータを幾つかご覧いただきたいと思います。
 まず大学の財務状況に関するデータですが、資料8-2の2ページには、我が国の高等教育機関に対する財政支出が低いという現状、また、3ページから4ページにかけては、国立大学等に対する基盤的経費の削減が続いているという現状、また、個々の大学に属さない大学の共同利用の研究所である大学共同利用機関に関しまして、10ページから共同研究の実施状況、内外からの研究者の受け入れ状況、さらには14ページの大学院教育への貢献の状況等、機関の特徴を生かした取組の状況について示しております。
 16ページからの研究開発法人の関係につきましては、別途ご説明いたします。
 28ページですが、世界トップレベル研究拠点プログラム(WPIプログラム)です。現在5拠点選定されておりますが、29ページに、在籍する外国人研究者の人数・割合を示しております。平成20年度の実績で、外国人の割合が50%を超える拠点もあるなど、その登用が進んでおります。また、30ページには、関連する研究分野の学術誌に投稿された論文の著者等、著名な研究者に対するアンケート結果において、WPIの認知度が50%を超えていること、また、拠点への参画に関しても高い関心があることが示されております。このような世界トップレベルの研究拠点形成に向け、国の取組のさらなる拡充が必要であると考えられます。
 また、35ページの先端融合領域イノベーション創出拠点の形成事業です。産学等のマッチングにより、新産業創出等に向けた成果の創出を目指した研究及び拠点形成が進められておりますが、こういった取組みを引き続き推進していくことが重要であると考えられます。
 次に、資料8-1の5ページです。以上の様々なデータ等による現状認識を踏まえつつ、今後の世界的教育研究機関、また研究開発機関の形成に向けた取組みの在り方ですが、一つには、大学等の教育研究力の強化が必要であり、中教審で進められている審議も踏まえた上で、これらの強化に向けた取組みを進めていく。また、大学共同利用機関についても、他の研究機関との関係も踏まえつつ、COEとしての機能強化を進めていくことが必要と考えられます。
 次に、9ページから、研究開発法人の機能強化の関係です。これについては、中岡政策課長からご説明いたします。

【中岡科学技術・学術政策局政策課長】
 中岡でございます。研究開発法人に関するご説明ですが、データ集の資料8-2の16ページからご覧いただきたいと思います。
 研究開発における国際競争の激化に伴い、我が国におきましても、研究開発力の強化を図るために、昨年10月に研究開発力強化法が施行されております。この法律の中で、研究開発等を行う独立行政法人の中でもとりわけ重要な32法人について抜き出しが、研究開発法人ということで、さらなる研究開発力強化を促しているわけです。
 この32法人の中で、文部科学省所管法人は10法人あるわけですが、そこにありますように、運営費交付金が、10法人中7法人で減少しているという状況です。
 次のページが、研究開発法人のうち29法人の財務構成をまとめたものです。左側のグラフが収入ですが、運営費交付金が約7割、国からの競争的資金等の収入が2割、国以外の民間等からの収入が7%という状況です。
 次の18ページ、ここは職員構成ですが、左のグラフにありますように、研究者が約43%ですが、この中でも常勤の者が、これは任期付も含めますが、約85%を占めております。しかしながら、右のグラフにありますように、常勤が減少して、非常勤が増加するという状況にあります。
 次の19ページ、総人件費改革ということで、人件費削減が行われておりますが、研究開発力強化法の施行と並行いたしまして、例えば、国の委託費等で雇用される任期付の研究者だとか、そういったものにつきましては、総人件費改革の対象外とされるような措置をされておりまして、その制度を利用した削減対象外の範囲は増えているという状況です。
 20ページをご覧いただきますと、外部からの研究資金の獲得状況があります。先ほど収入構図でご説明申し上げましたが、決して多くはありませんが、平成19年度の獲得額は前年度より9%ほど増加しております。また、次のページにもありますが、知財収入も増加しておりまして、ある程度知的財産の活用が活発化しているという状況です。
 次に、23ページをご覧いただきたいと思います。今後の研究開発法人の在り方についての検討についてですが、ご覧のとおり、研究開発法人は、国の研究開発のミッションを背負っておりますので、そのミッションを確実に果たすように、着実な研究開発は進められなければならないわけです。昨今では、米国のNSFの予算倍増のように、諸外国において様々な研究開発機関の強化がされている状況がありますが、研究開発力強化法におきましては、その中で法律施行、これは昨年の10月ですが、それから3年以内に必要な見直しを行うとされています。これはあくまでも総合科学技術会議の検討を踏まえてとなっておりますが、あと2年の間ということになります。また、さらに、法律成立時の附帯決議をそこにも載せておりますが、総合科学技術会議での検討におきましては、最も適切な研究開発法人の在り方についても検討するということが書いてあります。
 右側の24ページにありますように、研究開発法人は、現行制度上、独立行政法人の枠組みに入っております。国の研究開発のミッションを確実に達成しなければならないという一方で、実際に研究開発に関わる研究者組織に対する人件費削減等の要請についても、定型的な業務遂行を行う他の独立行政法人と横並びでかかっているわけです。そういった状況を踏まえまして、資料8-1の9ページをご覧いただきたいと思います。
 資料8-1の9ページですが、そこで研究開発法人の機能強化の在り方はどうあるべきかということで、そこに基本的な考え方を整理しております。ご覧いただくように、研究開発法人は、現時点ではリスクが高い研究開発とか、あるいは長期的な視点に立った先行投資が必要な研究開発等々の役割を負っており、我が国の科学技術・イノベーション推進において、極めて重要な役割を果たすわけです。
 しかしながら、研究開発法人につきましては、様々な試行錯誤だとか、あるいは研究開発の進展によって、新たなフェーズに関わっていくという、いわゆる非定型的な業務にあるわけですが、他の独立行政法人と同一的な業務遂行を迫られているわけです。そういったことを、研究開発という特殊性を踏まえた法人制度の在り方について検討していくことが不可欠ではないかということを書いております。
 それで、今後、総合科学技術会議における検討ということになるわけですが、早急に対応策を検討していかなければいけないということです。
 次のページをご覧いただきまして、研究開発法人の機能強化に向けましては、この研究開発法人の在り方についての検討と、研究開発法人の機能強化の2つに分けて書いております。11ページ目に、研究開発法人の在り方についての検討ということで、あくまでもこれは論点の例ということで書いておりますが、例えば、国の計画等に基づいて行われる研究開発業務の特殊性に応じた国の関与の在り方というものを考えていかなければならないというようなこと、あるいは、研究開発の特性に応じました柔軟な財政措置の在り方、極めて長い研究開発期間の中で、中期計画期間を超えるようなケースだってあるわけですので、そのような柔軟な予算執行の在り方、あるいは、府省横断的な研究開発推進の在り方ということで、例えば、宇宙とかライフサイエンスのように、多くの省庁にまたがっておるとういようなものもありますので、府省横断的に研究開発を実施できるような仕組みを考えたらどうかということ。下にありますように、また、研究開発の特性を踏まえた目標管理、評価の在り方ということで、研究開発業務につきましては、より長期の目標設定を可能とするようなこととか、あるいは、研究開発の観点から、より専門的にふさわしい体制で評価をするべきではないかと、様々な論点があろうかと思いますが、その論点を挙げております。
 次の12ページは、研究開発法人の機能強化ですが、1つ目は、財政措置を確実に行うということ、2つ目は、外部資金の導入を一層促進するということ、3つ目は、産学官連携のための場の形成等々の取組みを強化するということ、4つ目は、研究開発活動全体のマネジメントを行う専門的人材の養成・確保等々の取組を強化するということが整理してございます。
 以上、簡単でございますが、研究開発法人に関する説明を終わります。

【柿田計画官】
 続きまして、ご説明させていただきます。
 13ページからの世界トップレベルの研究開発拠点の形成については、データ集をもとに説明させていただいたとおりです。
 資料9-1に移りまして、研究環境・基盤整備の関係についてご説明いたします。
 資料9-1の1ページから、研究環境・基盤整備の現状、課題について整理しております。
 まず、研究活動を効果的に推進するための体制として、諸外国と比べて、研究支援を専門とする人材が少なく、研究者が十分な研究時間を確保できていないという現状があります。資料9-2の2ページから4ページをお願いいたします。大学教員の活動時間数の変化を示しておりますが、それぞれ調査の対象が異なる部分もありますが、全体的な傾向としては、近年、研究時間が減少し、一方で、社会サービス活動や組織運営に関わる時間が増加する傾向にあります。また、5ページには、主要国の研究者一人当たりの研究支援者数の比較がありますが、我が国は一人当たり0.28人と非常に低い水準です。
 また、13ページからは施設・設備の関係ですが、先ほど菱山課長からご説明したとおりです。研究施設の共用の関係につきまして、29ページですが、大型放射光施設、大強度陽子加速器施設等の共用による利用状況を示しておりますが、いずれも増加する利用ニーズに対応し、リソースを充実させていくことが求められております。研究用材料等の知的基盤の整備につきましては、34ページのデータにありますように、各種の知的基盤について、整備計画に基づく整備が順調に進展しております。一方、先端計測機器につきましては、国内市場における外国製品のシェアが依然大きく、我が国の先端計測機器の開発について、ユーザーの視点を踏まえるなど、開発・普及に関する課題が残されております。
 研究情報基盤の関係では、39ページの図書館運営費のデータですが、この経費が横ばいないしは減少傾向にある中で、40ページの電子ジャーナルにかかる経費、これが増加傾向にあるなど、大学図書館の管理運営に関する課題として、42ページのデータで示されておりますように、外国雑誌や電子ジャーナル購入経費が大きな課題となっております。
 以上の現状を踏まえまして、資料9-1の5ページです。今後、すぐれた研究環境・基盤整備を進める上で、まず人材の観点から、多様な専門人材の確保による研究活動の効果的な推進体制を整えていくということと、大学等の施設・設備の整備、また、世界最先端の研究施設の整備、さらに知的基盤をはじめとする基盤の整備を着実に進めていくことが重要です。
 このため、7ページですが、研究活動を効果的に推進するための体制整備として、研究者のみならず、研究活動のマネジメント、知的財産管理、施設の維持・管理等、多様な専門人材が活躍し、全体として効果的な研究活動が推進される環境を作っていくということが大事になります。
 また、9ページからは、施設・設備の整備及び共用の促進です。1点目は、大学等の施設整備についてですが、11ページから14ページにかけて、高度化・多様化する教育研究活動や環境対応等の社会的要請にも対応しつつ、長期的視点に立って計画的に整備を行うための安定的・継続的な財政支援、また、大学等の研究施設・設備等について、特に学術研究の大型プロジェクトについては、ロードマップを作成した上で、着実に推進していくことが必要であるということとともに、大学等の研究施設・設備を用いた共同利用・共同研究を促進していくということが必要であると考えられます。
 2点目に、先端研究施設・設備については、15ページになりますが、大型放射光施設等の世界最先端の施設・設備を整備・運用し、すぐれた研究成果の創出や人材育成の観点も含め、共用を促進していくということと、また、最後に、研究の基盤を支えるものとして、17ページの知的基盤ですが、先端的な計測機器の開発も含めて、ユーザーの視点や質的な充実に向けた取組を進めていく、強化していくということと、19ページの研究情報基盤につきましては、ライフラインとも言える基盤的インフラで、19ページの一番下に米印で説明しておりますが、今後のe-サイエンスと言われるような新しい展開も見据えつつ、ネットワークの整備、あるいはオープンアクセスの推進に向けた取組を進めていくことがポイントになると考えられます。
 説明は以上でございます。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 それでは、以上の説明を踏まえて、議論に入りたいと思います。
 議論は前半と後半に分け、まず前半30分程度で「世界的教育研究・研究開発機関の形成」について、後半30分程度で「科学技術・イノベーションの研究環境・基盤整備」についてご議論いただきたいと思います。
 まず前半の「世界的な教育研究・研究開発機関の形成」についてご意見のある方、挙手をお願います。

【門永委員】
 前半のテーマの2番目の研究開発法人の機能強化に関してですが、私は、文部科学省の独立行政法人評価委員会の座長をしておりますので、その観点から、幾つか申し上げたいと思います。
 評価の現場から見ると、特に研究開発法人、文部科学省の場合は10法人ですが、先ほどもご紹介あったように、5年の中期目標、それから毎年の目標に対する評価で、成果が出ているか、社会に貢献しているか、コストが下がっているか、効率が上がっているか、という標準的な軸で見ていきます。評価される側もする側も、なるべくこれに合わせるように相当な努力をしております。
 ただ、研究開発の特に上流の方になると、この枠組みだとちょっと窮屈かな、というところがあります。例えば、非常に大事な研究だけれども、やってみないとわからない、軌道修正をしながら進めていく、というものもありますし、それから、ハイリスク・ハイリターン、多分大丈夫だろうと思うけれども全然駄目かもしれない、しっかりと仕込みはしているのだけれども結果は出ないかもしれない、例えば、宇宙開発や海洋開発などについてはそういう部分があります。それから、もう少し時間がかかるものもありますので、評価上、その辺のやりくりしているのですが、窮屈感がある。
 そういう観点から、先ほど研究開発法人の在り方について、おそらく評価の仕方も含めてだと思いますが、あと2年の間に見直しをしていくべきというご提言がありましたが、これはぜひとも進めていただきたいなと思います。これが1点です。
 その中で、在り方と言ったときに、論点の例には入っていなかったのですが、独立行政法人がどういうテーマ、どういうものを対象にしてやっていくかという中身についても、相当メリハリをつける必要があるかなと感じております。
 これは私見ですが、色々なプロジェクトとかテーマを見ると、3つぐらいに分類されるのだと思います。1つ目は、非常に意味のあること、独立行政法人だからこそできること、ここでしかできない、こういうテーマがあります。これは、人材の面、設備・インフラ、資金等、色々な意味があります。それから、2番目として、ここでもできるというものも散見されます。それに関しては、ここでやるのか、他でやったほうがいいのか、そこは在り方の議論の中で考えていただく。それから、3番目は、そんなに数があるわけではないのですが、この法人も何かやって世の中の仲間に入りたい、こういうテーマも時々あります。往々にして予算の額は小さいのですが、額が小さいので何とかニッチをねらって世の中のワン・ノブ・ゼムになりたいと、こういうアスピレーションでやっている部分も少しあるようです。
 それぞれにきちんと目標を立てて、資源を配分してやっていくと、どうしても配分が薄くなってしまう。こういう現状が幾つかあるかなと思います。
 これをもってばらまきと言うのは多分適切ではないでしょう。ばらまきというと何も考えていないようなニュアンスがあるのですが、色々考えた結果、英語ではspread thinと言いますが、配分が薄くなってしまって、ものによってはクリティカルマスに達していないとか、スピードが上がらないとか、この規模・予算ではいい人は集まらないとか、そういうものも幾つか出てきていると思います。
 ですから、在り方を見直すときには、本当に独法として税金を使って、ここだからこそできる、ここしかできないということに絞り込むというのも検討の範囲に入れていただきたいなと思います。絞り込んで、そこに集中的に投資をすれば、当然、成果のインパクトも上がるでしょうし、それから、スピードも速くなるし、人材も集まるし、世界一になれる可能性も出てくる。そうなってくると、実際に国のお金でやっているということのレゾンデートル(存在意義)がはっきりしてきますので、そういう、何をやるかという観点からの在り方の議論もぜひぜひ進めていただきたいと思います。

【立川委員】
 独立行政法人のJAXAの理事長を務めている経験から、今のお話に関連して発言させていただきます。私もこの独立行政法人に来て、仰るように、これはやっぱり目的意識を明確に持ってやるべきだろうと思っております。多分、位置づけとしては、これは民間でもできないし、大学でもできない、国としてしかできないものを多分やるところだろうと思います。そういう認識で考えてみると、独立行政法人の存在価値は結構あるのかなと思います。それによって研究開発が推進できればいいかなと思います。位置づけとしては、やっぱり国でないとできないようなものを担う格好になって、それは1つには、大規模で、かつ共用的なものが多いということになるのだと思います。したがって、これは意味があるかなと思います。
 その時に、大学との切り分けは、大学はもう少し自由な研究ができる機関として存在していいんじゃないかなと思います。今日、大学の先生からの意見の出た、イノベーションとの区別をしたほうがいいというのは、僕も賛成で、研究機関にあんまりイノベーションを押しつけられるのはいかがなものかと思います。なぜなら、イノベーションというのは、理解が色々あるのでしょうが、新しいアイデアをいかに出すかという問題であって、それは既存の技術を活用してもいいわけですから。シュンペーター流に言えば、新しいスキームをつくるという話ですから、色々な人がアイデアを出していいのではないかと思います。研究機関だけがイノベーションではないような気もしますので、むしろ国として見たら、イノベーションはあらゆる人から募集すればいいくらいの話で、公募的に扱ってもいいような気もするわけです。国として金を出す場合には、やはり大学や国の研究機関には基礎的な研究と大規模な研究を主体的にやってもらうように、ぜひお願いをしたいと思います。
 したがって、独法の位置づけをそう明確にしたら、私が独法で一番困っているのは、「研究費は増やすけど人件費は減らせ」とか、本末転倒な話が来ることです。やる仕事が増えたら人件費が増えるのは当然だろうし、それを、一律削減だということで、人件費は減らしなさいということになるわけですね。そうすると、結局どうするかというと、いわゆる定員を切る格好にするということは、非常勤の職員を雇うか、よそから借りてくるかという逃げ道で対応せざるを得なくなって、これはちょっと本末転倒ではないかなという気がしますので、そういう点をぜひ独法の在り方のときには検討いただきたい。
 もう一つ、驚いたのは、施設をどんどんつくるのだけれど、維持をすることをあまり考えてくれていないということです。だんだん使いものにならなくなってきても、改修費も出ないということになるわけです。民間だと減価償却引当金がちゃんと用意されていて対応していくことも考えますし、当然維持費は予算に計上していくわけですが、独法にはそういう考えがあまりなく、補正予算が来ないと施設整備ができないというようなことになっているのは、ぜひ改めていただきたいなと思います。多分、新しい研究をやったほうが、古いものを維持するより興味が多いし、価値があるということでそうなっているのでしょうが、古い設備も維持しながら新しい研究ができるような体制をぜひつくってもらいたいと思います。

【大垣委員】
 特に研究開発法人の推進方策に関しては、基本的にはここに書いてあることは大賛成で、特に資料9-1で述べられている研究開発の支援人材の充実ということに関して大賛成です。
 資料8-1の11ページの推進方策に掲げる主な論点の例という中で、例ですから挙げていないものもいっぱいあると思うのですが、例えば、現在の独法での人事管理の在り方とか雇用の方式というのは、国家公務員の制度が援用されています。この人事管理の在り方と、それから人の評価の仕方等は、もう少し自由度のある研究開発独法の独立の評価が必要です。そういうことから、この推進方策の主な論点の例の一つに、人事管理、あるいはその評価の仕方というものを挙げていただけると、今後の研究開発法人の展開にいいのではないかと思います。

【フクシマ委員】
 もしご説明の中で聞き逃しておりましたら大変申しわけないのですが、このWPIのプログラムは大変すばらしいプログラムで、ぜひこういったものをもっとつくっていく必要があると思いますが、その場合に、世界のトップレベルの定義が何かということが重要だと思います。私のように、この領域について知識が無い者は、トップレベルって一体何なのだろう、何をしてトップレベルとしているのかが分かりませんし、こちらの資料の32ページに諸外国におけるトップレベル研究拠点形成に向けたプログラム例を挙げてくださっているのですが、例えば、こういったものと、WPIの現在進行中の4つのプログラムは、どういうところが違っていて、どの辺をどう良くするとトップレベルというところまでいけるのかというところが不明です。そのあたりの定義を教えていただけますでしょうか。

【柿田計画官】
 WPIのプログラムは、まず、その研究分野で世界的に見て顔となるような研究者を機構長として据えるということが、一つ大きな特徴と言えます。28ページにプログラムの概要がありますが、世界中の研究者から見て、この研究者の下で研究をしたいと感じるような魅力のある機構長を据えております。31ページに、特に、一例ですが、東京大学の数物連携宇宙研究機構について、アンケートの回答者の殆どは海外の研究者だと思いますが、村山機構長率いる日本のすぐれた研究機関で研究したいという意向が高いという調査結果が出ております。
 このようなことから、トップレベルというのは、世界の第一線で活躍する研究者がそこに行きたいと思うような魅力ある研究機関として、国際的なブレインサーキュレーションの中で高い水準を伴って確固たる位置を築くに相応しい水準ということかと思います。

【野依主査】
 今のご質問についてですが、先ほどから議論になっている研究開発型の独立行政法人には、国の戦略に基づいて、特定の分野の世界最先端の研究拠点が相当できています。現在、WPIの一つも独法が担っておりますが、大学の中にも世界に冠たる拠点をつくる必要があるという文部科学省の考えもあって始まったのがこのプロジェクトです。大学では、今までの経緯や予算、今までの枠組みの中でこういうものを作るというのは、非常に難しかった。それに研究開発独法等も協力して、経験を生かすということをやっています。このプロジェクトは平成19年度から始まって、3年程になるものです。このプロジェクトで、世界の冠たる研究者をアメリカから呼び戻したり、40%、50%の研究者が外国人であるという拠点もあります。言うならば、大学の中に特区をつくる、そのようなものかと思います。

【フクシマ委員】
 以前、沖縄にそのような大学院を作りましたよね。あれは一体どうなっているのかと思っております。なかなか先生や研究者が集まらないというお話を伺ったのですが、現在どのようになっているのでしょうか。

【小松審議官】
 現在の状況は、研究所を先に立ち上げたいということで、まず人材集めをずっとやっております。研究所の整備は一応できており、その出来具合を見て、今後学生を受け入れて、研究所から大学に切りかえるという形になるかと思います。従来の予定では、平成23年度に学生を受け入れることを目指しているという状況です。

【野依主査】
 お尋ねのところは、このWPIとその沖縄大学院大学との関係、あるいは相違は何かということですね。

【フクシマ委員】
 はい、そうです。

【小松審議官】
 大学院大学整備については、WPIとの関連づけでは行っておりません。その実績によって、当然重なってくる部分はあり得ると思いますが、大学という概念、あるいは独法という概念とWPIは、必ずしも同じではありません。沖縄大学院大学については、実際の展開が行われ、あるいは人員がそろって、WPIのようなものに応募するということはあり得ますが、現時点でこの大学をWPIとしてつくるとか、そういった特異な関係を考えているわけではありません。

【野依主査】
 沖縄大学院大学についてはやはり成功させなければいけないと思っております。日本の今まで伝統的な大学の中にこのような異質のものをつくって、そして成功させる。それを梃子にして各大学が大いに国際化し、研究教育の拠点になっていけばと思います。そういう意味において、このような大学を今までの大学の中につくるというところに、私は意味があると思っています。

【西尾委員】
 我々の大学にもWPIの拠点がありまして、今の野依主査のお話を少しだけ補足させていただきます。
 WPIは、もちろん世界トップレベルの研究業績を有している拠点なのですが、日本の国内の大学、研究機関に世界のトップレベルの拠点をつくるとしたらこうあるべきであるという典型例の構築を目指している意味もあります。ですから、グローバルな拠点として、まず、拠点で使用される共通的な言語は英語であり、事務組織も全部英語でなされることを前提としています。それから、例えば、先般来議論されております国際化ということを考えます時に、日本においては生活環境が問題になります。例えば、日本の大学の中で国際的な研究拠点をつくるとしたら、海外から卓越した研究者が来られたときの宿舎はどうするのか、また、その奥様の勤務先の問題、それから子供達の教育に関わる受け入れ先の学校の問題など、さまざまな問題を解決していかなければならないでしょう。そのための一つの先例的な拠点として位置づけられているのがWPIです。したがって、WPIの研究者は、研究費については研究者自ら獲得しなさいとなっていて、国からの資金は、主に、海外から卓越した研究者を雇用するためとか、先に述べたような国際的な拠点形成のためのシステム改革のための経費として手当てされています。

【有川委員】
 少し戻りますが、先ほど立川委員が、定員削減や人件費削減に関することを言われたと思いますが、一方で、博士の優秀な人材を大量に育成しなければいけないということがあって、これについて議論し出すと会議が数回必要かと思いますが、やはり整合がとれていないのだと思います。つまり、ドクターを持った人材をたくさん育てなければいけないと言いながら、一方で、その人たちが安定して働ける場所をどんどん削っていってしまっているわけです。この矛盾を何とかしないと、いくら若者とはいえそういったところに一回きりの人生をかけようとはしないのではないかと思います。
 これは相当ゆゆしい問題で、先ほど国大協からの発表の3つ目で、人件費削減に関しては、できるなら撤廃というご発言でしたが、むしろ増やすぐらいの勢いでやらないといけないと思います。これから科学技術立国とか、あるいは知識基盤社会とか、イノベーションとかいったことを言うのであれば、ここのところは非常に大事で、メッセージを出さなければいけないと思います。
 実際には、ポスドクの方々は、例えば3年の任期付きなど様々な資金源で結構働いていらっしゃるわけです。ですから、トータルとして見れば、あまり変わりはないのではないかと思います。しかし、メッセージとして安定性ということを何とか出さないと、ドクターを取ってポスドクで3年とか5年の任期付きで働くよりは、企業等でしっかりした安定した職場があればそこに行きたい、研究開発ができなくてもそちらの方がいいというような判断をしている学生が相当いるのではないでしょうか。それは大学に入学した時点でもそうではないかと思います。ですから、第4期科学技術基本計画では、思い切って、その辺まで踏み込んでもいいのではないかと思います。

【野依主査】
 やはり、若い人に希望を持たせるような社会のシステムをつくっていく必要があると思います。

【益田委員】
 今日の話題の、世界的教育研究機関、大学の形成ということですが、日本の中に世界的教育研究大学を一体幾つぐらい考えればいいかということをよく思います。先日の『ザ・タイムズ・ハイアー・エデュケーション』では、日本の大学がトップ100の中に6校、トップ200に11校入っています。ですから、5つから10、その程度、世界的な教育研究の拠点となる大学があってもいいかとも思います。最近あるデータを分析していて気にかかったことがあります。前回か前々回の本委員会でも、一部の大学に研究資金が集中しているという話がありました。私が、気になったのは大学院後期課程において、トップレベルの優秀な学生がごく一部の大学に過度に集中していることです。現在、優秀な大学院後期課程学生が、もっとも激しく競争して応募するのは、学術振興会の特別研究員DCです。月に20万円の支援が受けられます。
 今日の私立大学団体連合会の資料3-1にも、そのDCの私立大学の割合が少ないとありました。私が今年のDCのデータを調べてみたところ、DC1、DC2の採択者が全部で2,006名ですが、そのうち東京大学と京都大学だけで780名となっています。全体の40%近くを2大学で占めています。DCは将来のトップレベルの研究者になる可能性が高い有力候補者です。そのような研究者の卵が特定の2大学に極めて集中している状況と言えます。前回か前々回の本委員会での研究資金の集中の議論においては、トップ10ぐらいにかなりシャープに集中していて、それも妥当かとも思いましたが、研究者人材となる可能性がある優秀な若者がさらに顕著に特定2大学に集中しているとなると、これはやはり考えないといけない問題ではないかと思います。優秀な人材の過度な集中は、将来の人材育成を考えたときに、トータルとして決していい効果を生み出さないと思います。
 世界的な教育研究大学を5つとか10程度つくろうと思いますと、若い優秀な人材の分布が、多少の偏りはあっても、八ヶ岳的な構造になっている必要があると思います。では、この問題をどのように解決すればいいかというと、いつも申し上げているように、優秀な学生の流動性を醸し出す方向に持っていくことです。大学院後期課程において、優秀な学生が、東京大学と京都大学の2つの大学に抜きん出て集まる、トップ5や10の中でまたピラミッドをつくってしまうのは好ましくない現象です。このような状況を解消するためにも、やはり優秀な大学院学生の流動性を何らかの方法で高めることを考える必要があるのではと思います。

【野依主査】
 仰るとおりだと思います。数が幾つかということについては、それぞれご意見あると思います。いずれにしても、その中でお互いに動き得る、そういう状況が必要ではないかと思います。

【益田委員】
 それがないと、外国からも本当に優秀な学生が来ないと思います。

【野依主査】
 ご意見ありがとうございました。
 委員の皆様方に、ご議論いただきましたが、特に研究開発法人の機能強化に関しましては、研究開発力強化法、また、その附帯決議がございます。これは総合科学技術会議を中心に検討し、平成23年10月までに必要な措置を講じるとなっております。しかしながら、政権交代により民主党のマニフェストが実行されると、独立行政法人はすべて見直しということになっています。私は時間が大変逼迫していると思っています。本日の議論において、検討の主な論点、あるいは方向性は出されていると思います。総合科学技術におかれましては、本日の議論も踏まえ、速やかに、そして具体的な検討作業を進めていただきたいと思います。本日は、総合科学技術会議の相澤議員、奥村議員、青木議員及び金澤議員がご出席ですので、お願いしたいと思います。
 続きまして、「科学技術・イノベーションの研究環境・基盤整備」につきまして、ご意見のある方は挙手をお願いします。

【本藏委員】
 先ほど施設整備のご説明をいただきましたが、私も大学で施設を担当していたことがありますので、その観点から発言します。
 施設整備、特に最近の老朽化建物の改修・耐震化というのは順調に進んできていまして、かなりの大学で進展は見られるものの、まだ未着手の建物が25%程度あると、先ほどのご説明にありました。これはぜひとも着実に整備をしていただきたいと思います。
 このように、老朽化建物の改修は進んでいますが、一方、最近の色々な特別のプログラム、例えば、WPI、以前ありましたスーパーCOE、グローバルCOE、それからテニュア・トラックプログラムなど、これらを実際に実施しようとすると、新たなスペースが必要になってくるわけです。これについては、大学でも最近の施設マネジメントはかなり向上しており、例えば、学長裁量スペースというような形で、スペースの有効活用が図られています。ただし、研究アクティビティが高まれば高まるほど、実際にはスペースが不足してきます。アクティビティの非常に高い教員、大型の外部資金等で質の高い研究をしている教員等からも、スペース面でのサポートが非常に手薄で、このままでは研究アクティビティを本当に維持できるのかというような厳しい意見をよくいただきます。
 その一方、施設マネジメントにつきましては、例えば、我々の大学では、耐震化改修に際して建物の機能強化を行っています。ただ単に改修するのではなく、機能強化というものも盛り込んでおります。例えば、化学実験室の機能を高めるなど、改修に際して、設計の段階から研究者に参入してもらい、そういう実験室に適した仕様にするなどの色々な工夫を行っております。ただ、スペース不足だけはそのような工夫ではどうにも対応できないという状況があちこちにあります。これについては、老朽化施設の改修だけではなくて、スペース不足を解消する手立てを何とか進めていかなければいけないのではと思います。

【有川委員】
 少し似たような話をさせていただこうと思います。
 今の本藏委員のご意見に全く賛成ですが、もう一つ大事なこととして、先ほどの文教施設企画部の資料5にあったのですが、“大学等の施設を「箱モノ」扱いすることはやめていただきたい”と思います。実際に大学に新しい施設を作ってみると、作った途端に満杯になって、すぐ狭くなる、こういった状況です。このような状況にある大学の施設と、作ったけれどもがらんとしている一般的な「箱モノ」とは全く違うものであるということを強調したいと思います。ですから、文教施設関係の「箱モノ」も含めて、全てを「箱モノ」とくくってしまうのは、この時期に極めてメッセージ性がないと私は強く思います。
 それから、施設整備で、第1次、第2次と緊急整備5か年計画がなされまして、様々な資金等も活用しながら、かなり整備が進んできました。それは非常に結構なことだと思うのですが、その際のキーワードが、仕方のないことなのですが、老朽再生とか、自然災害があってからの耐震補強とか、そのように後追いのような格好になっています。一方で、留学生30万人計画や、国際化等の取り組みが色々なされていて、言うならば、学生や、若手研究者を国際的に競争して奪い合うという状況にあるわけです。そのような観点から考えると、日本の大学の、これは国公私立を問わず、施設整備が本当に大丈夫でしょうか。非常に狭隘な施設、古い施設が数多くあります。世界的に立派な研究をしておられる先生で、競争的資金も当然獲得し、設備は買えるのですが、設備を置く場所は極めて乏しく本当に体を斜めにして通らなければならない。このような状況で、外国人研究者に来ていただくのが恥ずかしいと仰る先生もいらっしゃいます。また、新しい施設の場合であっても、先ほどの説明にもありましたように、その施設には様々な形での研究者がたくさんいらっしゃるわけです。そういった研究者のことは基準面積に算定されていませんので、結果として全体が非常に狭くなるわけです。この辺も考えて、もう少し積極的に打って出ていただきたいと思います。
 それから、資料の中にあります減価償却についてですが、先ほども別の委員からもありましたが、これは国立の場合についてですが、その引当をやりますと大体2,200億ぐらい必要なのです。この辺もちゃんと手当をしておかないと、ツケがどんどんたまっていきます。ところが、実際の措置はあまりにも低いところにとどまっている。そのような状況にありますので、他の施策として留学生30万人、国際化、グローバリゼーション等を言うのであれば、それに見合う施設もきちんと措置する必要があると思います。これは、国立大学から始めて、公立大学・私立大学に対しても先導していくという姿勢が必要だと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 先ほど事務局から説明がありましたように、公的財政支出のうち、資本的支出が非常に少なく、OECDの平均9.5%に対して、国立大学法人等は4.9%、半分程度になっています。この違いが施設費に相当するのでしょうか。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 野依主査のご指摘の点ですが、そもそも高等教育機関に対する公財政支出が低いという状況です。さらに、その中でも、いわゆる資本的支出というのは、これは施設に相当しますが、さらに低いというのが、このグラフです。

【永井委員】
 先ほど建物、研究スペースの狭隘の話が出ましたが、私は臨床医学系におりまして、臨床医学系の論文が伸びないとか、世界ランキングでもかなり低いということはやはり問題だろうと思います。これは、サイエンスと社会ということを考えた時に、臨床医学の研究をどうするかということは大きな問題だと思います。
 施設整備に関する資料の中で、大学附属病院の再生ということで、随分取り上げていただいているのは非常にありがたいと思います。ただ、大学附属病院というのは、実は財政投融資、あるいは自己資金で建てられる部分が多くて、国からの支援がほとんどないのです。それから、大学附属病院の臨床研究のスペースというものがやはり必要だということです。実は、私もつい最近まで知らなかったのですが、例えば、助教について言うと、講座の助教と病院の助教の2種類ありまして、全体の9割は病院の助教なのですが、彼らの基準面積は、実はゼロなのです。ですから、「ただひたすら診療して借金を返せ」というような身分に置かれているわけです。でも、実際には彼らは科研費も獲得できますし、大学院生の指導は彼らに依存しているのですから、臨床医学系の病院助手の基準面積も、ぜひこれから考えていただきたいということをお願いしたいと思います。

【丸本委員】
 病院の施設のことが出ましたので、それに関して、ひとつお聞きしたいと思います。実は各大学で病院の改修が進み、耐震も大分よくなってきました。ところが、大学が独自にもう少し建物を建てたり改修したりしたいという時に、大きなお金が要るわけですが、ほとんど財政投融資の資金を借りるしか手がないわけです。しかし、一度改修の済んだところが再度改善や新築の計画を出そうとすると、大学病院にも順番がありますから、順番を待たなければいけない。そういう時に、大学の計画がきちんとしていれば、民間の銀行等からでも、融資を受けて施設整備を実施できるという制度も検討していただく必要があるのではないかと感じています。いかがでしょうか。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 確か政令を改正して、民間からの借り入れは出来るようになっているかと思います。今、手元に資料がありませんが、基本的には民間から資金をお借りして建物を建てるという道は開かれているかと思います。

【丸本委員】
 ありがとうございました。

【野依主査】
 狭隘の問題については、実験系の施設はいつも気になります。企業等では、研究員一人当たり何平米なければいけないという基準があるのですが、大学、大学院の場合、大学院生というのはどのように数えられていますか。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 大学院生については、一人当たりの平米数は決まっています。

【野依主査】
 それは、労基法等との関係で整合性があるのですか。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 学生ですので、労働基準法の対象にはなりません。

【野依主査】
 それが問題だと思います。大学院生を研究員と数えるか、学生と考えるか、二面性があります。確かに、教育を受ける学生ですが、同時に、研究にも関わっている。これからは外国人の大学院生も増えます。国際的にどうなっているのか、はっきりしなければいけないと思います。

【菱山文教施設企画部計画課長】
 分かりました。それについては調べますが、いずれにしろ大学院生は面積の対象で、かつ、実験室と講義室の両方使いますので、両方に数えられているはずです。

【小林(傳)委員】
 2点申し上げます。
 1点目は、今回のこの資料で研究支援人材の強化というのがはっきりと書かれているということで、これは今までの議論の中でも出てきた、非常に大事なポイントだと思います。これは、いわばパイロットと飛行機と燃料があれば飛行機が飛ぶかというのと同じであります。地上の職員や、整備士、さらに管制官等、そういうものが一体になって初めて飛行機が飛ぶわけで、研究も実は同じ構造のはずです。ところが、ともすればパイロットにばかり焦点を当てたような議論になりかねないのですが、実は研究というのは、そういう支援人材も含めた総合的な力として考えるべきであると思います。そういう意味では、この研究支援人材が国際的にも手薄であるということが指摘されて、それが強調されるのは大変結構なことだと思います。
 ただ、大学にこのようなものを組み込んでいこうとしたときには、少し問題がありまして、大学は大学設置基準によって動かされておりまして、教員と事務職という二元体制の人事配置構造になっています。だから、そこの部分との整合性を考えておかないと、どちらかに振り分けられてしまうという形で、本来の研究支援がうまく機能しなくなる可能性があるので、総合的に考えていただきたい。これが1点目です。
 それから、もう1点は、これは、世界的研究拠点の整備について先に議論をするという今日の議事の流れから仕方ないとは思いますが、今議論しているのは、科学技術・イノベーションの研究環境の基盤整備についてです。ところが、やや先端研究とか世界トップ級研究というところ等に引きずられているような感じがします。科学技術とかイノベーションというのは、今回の第4期科学技術基本計画では公共政策としての科学技術政策という議論をしましょう。そして、これは民間だけではできないのだ。そして、イノベーションについても、テクノロジーイノベーションではなくて、社会的なスキームの開発というレベルのイノベーションを考えようという議論になってきていたと思います。
 そうすると、そのようなイノベーションも含めたような議論をするときには、いわゆる先端研究だけに目を向けるのではなく、それはもちろん大事ですが、前に永井委員も仰っていたと思いますが、既存の知識でも、社会とのつなぎ方とか、そういうところで色々問題が起こっているという場面もかなりあります。「アイデアは研究者だけではなくて、広く社会から取ればよろしい」と立川委員は仰いましたが、そういうところにも目を向けておかなければ、科学技術・イノベーション政策のための研究環境・基盤整備としてはやや弱いのではないかという気がします。
 つまり、small scienceというように先ほど公立大学協会からのご議論でもありましたが、そんなに大きなお金は要らないのだけれど、あるきめの細かさによって解決できるようなタイプの問題があります。それは裾野的と言えば裾野的ですが、地域とつながっているとか、科学技術の文化として社会にもつながるという面を持っています。そして、科学技術に対する憧れを持つ少年たちは、野依主査のようなノーベル賞研究者に憧れを持つというのも一つのあり方ですが、それだけではないと思います。もっと身近なところでの科学技術を見て憧れを持つ、そういう人材育成も含めた構造を政策的に考えるべきではないか。そういう点を議論されたらいいと思います。

【西尾委員】
 今の小林傳司委員のご意見に私も賛成です。
 その上で、科学技術基本計画を考える時に、現在、科学の方法論が大きな転換期に来ているという事実を考えるべきではないかと思います。先程の報告で、e-サイエンスという言葉が出ておりましたが、高速ネットワーク上で研究資源や研究成果としてのソフトウェア、論文、データ、さらに研究プロセスそのものも統合して研究を推進するための手法がe-サイエンスです。従来、科学の方法論は、最初は経験科学、それから理論科学、次に計算科学、これはシミュレーション科学とも言いますが、そのように遷移してきました。そして、今、科学の第4の方法論として一番重要視されつつある方法論が、このe-サイエンスという方法です。例えば、国内でも、小林・益川理論が正しいことの検証をうまくできたのも、このe-サイエンスの方法論のもとで行われました。ですから、科学技術についての方法論として、今後e-サイエンスに対してもう少し光を当てる、あるいは、今後の科学の発展のなかできちんと位置づける必要があるのではないかと思います。
 その上で、その方法を強力に推進するためには、今日さまざまなお話しがありましたように、いわゆるサイバーサイエンス・インフラストラクチャー、つまり、学術情報基盤の整備をきちんとしていくことが肝要です。再度申し上げますと、e-サイエンスを発展させるために情報基盤整備を強力に行っていくというシナリオが大事ではないかと思います。
 もう一つ、先ほど来施設の話が出ておりますが、現存する建物だけを維持・管理するだけで年間2,200億円要るというお話でした。それに対して、現在では、当初予算で必要金額の40%を下回る金額しか配分されておらず、補正予算を積み上げても必要金額に到達しないというような状況です。最近、私はアジアの国に行く機会がありましたが、例えば中国等の大学と比べても、日本の大学の教育研究環境の方が劣悪な場合がより増えております。このような状況は、海外の卓越した研究者の方々、また、グローバル30のようなプログラムのもとで対象としている海外の学生達にとって、日本が現状のような研究教育の環境であることを知ったときに、日本に対して果たして魅力を感じるかどうかに大きな影響を与えると思います。
 一方、今後の大きな課題である低炭素社会を考えた時に、大学のキャンパスそのものが低炭素社会を実現する諸施策、諸技術のショーケースとなり、学生達自らがキャンパス内で、低炭素社会の構築、さらには、先ほど説明がありましたサステナブルな環境を構築するには何をしていかなければならないのかというようなことを、直に学んで世の中に出ていくことは重要だと考えます。その意味からも、サステナブルな環境をキャンパス内で構築することは非常に重要だと思います。

【二瓶委員】
 知的基盤整備について意見を申し上げたいと思います。
 先ほど来、建物、床面積等の基盤の話がでております。一方、大学における本当の基盤は、まさに知的基盤、私は知識創造基盤と呼んでおりますが、その充実こそが、基礎科学であれ、応用科学であれ、イノベーションであれ、すべての根本、基礎であるということをもっと広く理解していただきたいと考えております。
 例えば、イノベーションですが、先ほど立川委員から、アイデア勝負でどなたでも参加できるというお話がありました。確かに、イノベーションの一つのモデルは、リニアな成長拠点がさらにネズミ算的に増えていくことを必要としますから、より幅の広い波及効果をもたらすスキーム、これが全ての素なのですね。
 そういう意味で言いますと、大学院教育で、大学院学生が自分のやりたいことはこういうことだという課題提案をしたときに、今の大学の知的創造基盤でどの程度実現できるのかということが問題になります。これはかなり重要な問題で、日本の大学は必ずしもレベルは高くない。例えば、ものづくりで言えば、大学の中で、世界にない、ただ一つの道具をどのぐらい作れるか、その能力を考えていただければ分かると思います。
 このような知的創造基盤について言えば、より波及効果の大きい、そういう研究分野の重要性をもっと強く意識して、科学技術政策を推し進める必要があるだろうと思います。本日の資料で言いますと、資料9-1の17~18ページ、(3)知的基盤の整備のところでかなり書いてありますが、効果的・効率的な研究開発活動を支える知的基盤整備をぜひとも重視していただきたい。これは研究情報基盤だけではなく、建物はもちろんですが、設備・機器ですね。先端的な実験機器、これは実験科学の基礎であり、また新しい発見・発明の創造基盤であります。そういう点の重視をリマインドしていただきたいと思います。

【有川委員】
 研究成果の発信や流通に関することですが、例えば、国大協からの発表で、電子ジャーナルのこと、あるいはオープンアクセスのことなどが触れられています。電子ジャーナルについては非常に難しい問題を抱えています。それとは直接関係はないのですが、オープンアクセス、あるいは、第3期科学技術基本計画から第4期科学技術基本計画にかけての間に非常に大きな広がりを持ちました機関リポジトリの整備というのがあるのですが、この辺について、少し踏み込んでおいたほうが良いのではないかと私自身は感じております。
 それは、例えば、国公私立ということで言いますと、科研費等の公的な税金に基づく研究資金を使って行った研究成果を発表するときには、納税者がだれでもアクセスできるようなところに必ず置いておくということが必要なのではないか。
 そして、この委員会が始まった頃も発言いたしましたが、第3期科学技術基本計画においては、そういった意味で、「誰でもアクセスできるようなことが望ましい」あるいは「期待される」という表現だったのですが、その後、例えばNIHとか、イギリスでもそうだと思いますが、義務化、あるいは半ば義務化しているようなところもあります。税金でやっている研究については、誰でも結果を見られるようにしなければならないと義務化するぐらいのことに踏み込んでもいいのではないでしょうか。もしそこまで踏み込むのであれば、国としては、先頭を切ることになると思います。これは、それほどお金が要ることではなくて、そういったことを先導して、学術情報の発信から流通の在り方、根源的なところを変えていくことができるのだと思います。
 今、グーグル等で図書館の資料をデータベース化して公開するという話がありますが、そのようなことにも関係する、実はこの時代に極めて大事な情報基盤の整備につながっていくと思っております。

【野依主査】
 私も今のお話に関心を持っており、日本からの情報発信の相当部分が海外の出版システムに依存しているということを、大変憂慮しております。これは学術情報の本質に関わる問題だと思っています。国立国会図書館法の前文に、「真理がわれらを自由にする」と書いてあるそうですが、誰がその真理なるものを記述するか、記述してきたかということは、大変大事なことです。真理の記述は、必ずしも客観的に行われない、極めて主観的なものです。したがって、やはり我が国に基盤を置く発信、受信の拠点がなければならないと考えています。これは学術、学問の基本的な問題だと思います。
 次に、自然科学、あるいは技術の論文審査に不透明な取り扱いのプロセスがあるということも聞こえてきます。つまり、日本は大きな知財を失う危険にさらされている。スポーツで言うと、アウェイで戦う方が、ホームで戦うよりもさまざまな不利を招いているということからご想像いただけると思います。
 それから、第3は、やはり経済的な問題です。民間からは、学校の先生が論文を書いている程度だからたいしたことではないだろうと思われるかもしれませんが、そのようなことはありません。数年前の統計ですが、日本の自然科学論文のシェアは世界の12%で、相当大きくなっています。そして、実は、この80%が海外の学術誌を通して発表されています。現在、世界の学術情報出版の市場規模は、実に6,000億円に上っています。本来、日本においてその12%、720億円の国際的な出版事業があってしかるべきだと思います。しかし、実際は、おそらく100億円以下のレベルだと想像します。これは大変理不尽なことです。国立大学の運営費交付金1.2兆円、それから私学助成3,000億円、そして2,000億円の科研費を投じて、それが全部とは言いませんが、ほとんどが海外の出版社を利する形になっています。
 大変恥ずかしいことですが、私ども理化学研究所では年間4億円ぐらいの図書費を使っていますが、和光のキャンパスでは、海外雑誌のために2億5,100万円使っています。一方、国内雑誌に投じているのは、わずか100万円です。こういう状況にあるのです。様々な理由があるのですが、文部科学省を中心とする研究評価システムがこれに加担しているのです。例えば、文部科学省は『ネイチャー』の論文は高く評価する一方で、日本物理学会や化学会の論文は評価が低い、このような現実があります。大変残念ですが、それは事実です。
 私は、80%の海外論文発表、これが悪いと言っているわけでなくて、これは大変に世界に貢献している。問題は、前回の本委員会でも申し上げましたが、国際関係における輸出入の不均衡があるということです。つまり、日本の中で発表している20%をもとにして、80%に相当する海外の論文を呼び込む。そして、日本に海外でも通用するような出版事業がなければならないのではないかと思います。これは日本の学協会の反省が必要ですし、それから商業出版社の力量のなさがこの現実を呼んでいるわけです。
 日本に有力誌をつくって、それが世界的に魅力あるものでなければいけない。そのためには、日本でビジネスモデルをつくらなければいけない。そして、何よりも、こういう活動に関する人材を養成する、養成できなければ海外から呼んでくる、確保するということが必要だと思います。
 いずれにしましても、これは学問の本質、さらにイノベーションに向けた非常に本質的な問題と思いますので、国の意志をはっきりさせる必要があるのではないかと思っております。

【伊地知委員】
 科学技術・イノベーションのための研究環境・基盤整備、あるいは、それを維持していくための資金配分のためのタクティクスに関係することです。今日の資料でもいろいろな案が示されていますが、他国での経験というのが、もしかしたら今後の日本での参考になるかもしれないということで、情報提供させていただきます。
 研究を持続可能にする、そのベースを維持・発展させるために各国も苦労しているようです。例えば、イギリスの場合は、研究は非常に進むのだけれども、やはり施設・設備が老朽化するということがあります。その反省から、研究費のいわゆる直接費部分、(直接費に基づく一定割合の間接経費という意味での)間接費だけではなくて、実際に施設でかかった部分、それから支援をする人材、そういった本当に研究にかかった部分まできちんと計算をして、資金を申請する機関の側は、その部分をちゃんと見積もって申請してくださいという、フルエコノミック・コスティング、全部経済原価計算という仕組みを取り入れています。EUの中でも似たような仕組みが取り入れられているということで、他の国はこのような経験をしています。
 それから、それにあわせて、別の取り組みも始まっています。その取り組みはまだ始まったばかりです。国によってどのように計算するかが違っているわけですが、しかし、国際的に研究活動が進む中で、同じ研究費を、例えばイギリスの研究者に出す時とフランスの研究者に出す時で金額が違っていたりすると問題がありますから、その調整を図るための国際的な協調、協力が進んでいます。日本も研究活動をさらにグローバライズ、あるいはインターナショナルにしていくためには、研究運営面でもそのような取り組みとも関わっていくと良いのではないかと思います。

【長我部委員】
 先ほど二瓶委員からご発言のあった知的基盤整備についてです。バイオリソース、データベース、計測機器、あるいは大型の共用施設の問題ですが、文部科学省の調査によりますと、ここ数年で、施策によって、数は飛躍的に伸びており、グローバルに見ても遜色ないところになっているということです。今後の課題は、それを知の創造とか、あるいはイノベーションにどうやって活かすかというところに重点が移ります。問題は、それらのリソースを管理している研究機関に対して、リソースをメンテナンスする、更新するというモチベーションや、費用といったものがなかなか行き渡らないという構造です。先ほどの支援人員にもつながるのですが、こういった基盤を担う、人的、金銭的措置、これをぜひ科学技術基本計画の中に明記していただければと思います。
 本来、こういうことをやるためには、評価をして、知的創造やイノベーションがどれだけできたかというPDCAのもとに財政出動すべきなのですが、基盤的な施設というのは、なかなか数値になりにくいところもあって、科学技術基本計画の中で明示していただければと思います。

【野依主査】
 ありがとうございました。
 本日いただいたご意見を踏まえて、事務局で整理をお願いします。
 最後に、今後の委員会の日程について、事務局から説明してください。

【柿田計画官】
 資料10に今後の予定を記載しております。次回は11月19日木曜日15時より行わせていただきます。詳細なご案内は、別途事務局よりご連絡させていただきます。
 また、議事録は、後ほど委員の皆様方にご確認いただいた上で、ホームページに掲載させていただきますので、よろしくお願いいたします。
 また、資料については、机上に残していただければ、事務局より郵送いたします。

【野依主査】
 以上で、科学技術・学術審議会第7回基本計画特別委員会を終了します。

お問合せ先

科学技術・学術政策局計画官付

電話番号:03-6734-3982(直通)

(科学技術・学術政策局計画官付)