3.当面の具体的な取組

(1)各研究機関や企業等に期待される取組

<ポイント>

  • 若手研究者が活躍できるポストや機会の確保等の環境整備を中心とした、ポスドクから中堅、高齢研究者までを含めた戦略的な人材の活用方針の策定。
  • 研究機関以外への進路も含め、多様化するポスドクのキャリアサポートについて、個々の研究者任せにするのではなく組織としてのキャリアサポートの取組に期待。特に、企業等とポスドクの関わる機会の充実が必要。
  • 研究プロジェクトの企画・マネージメント能力など、大学等の研究機関でも産業界等でも通用する実力を身につけられるような大学院教育の充実。

1 若手研究者の活躍機会の確保

 「第3期科学技術基本計画における重要政策-知の大競争時代を先導する科学技術戦略-(中間取りまとめ)」(科学技術・学術審議会基本計画特別委員会)においては、研究者を目指すポストドクターをテニュア・トラックの前段階と位置づけることとしている。
 各研究機関においては、特に若手研究者の活躍機会の充実に主眼を置きつつ、ポスドク段階から、中堅・高齢の研究者までを含めた、人材の活用や流動化促進などに係る戦略的な方針を策定することが期待される。
 特に、ポスドクや任期付の若手研究者については、主体的に活動できるポストや機会の確保等の環境整備を行い、その先のキャリアについての道筋を明らかなものとする等の努力を、研究機関の長のリーダーシップの下に積極的に進めることが求められる。
 このような観点から、例えば以下のような取組について、それぞれの機関の事情も踏まえつつ積極的に対応することが期待される。

- いわゆるテニュア・トラックの導入による採用過程の透明化
- 新規採用者や国内外の研究機関等から異動してきた研究者に対するスタートアップ支援
- 能力給の導入等給与体系の工夫や、任期を付していない高齢の研究者を外部資金を活用した任期付ポストに起用する等による、若手の常勤ポストの拡充
- プロジェクト雇用型のポスドクについて、自分で研究費を獲得し自立した研究者となっていく道筋をつけられるよう、雇用する側の配慮や各種制度の適切な運用
- 研究と子育ての両立などに係る支援体制の構築

2 ポスドクの多様化に対応した組織的な支援

 我が国の研究活動の質的変化が進む中、科学研究費補助金や21世紀COEプログラム等の競争的研究資金により雇用されるポスドクが約半数を占めるようになり、処遇のばらつき、身分の不安定化につながっている。また、ポスドクの活動実態も多様化しており、自立した研究者を目指すポスドクのほか、研究補助的な業務を主とするポスドクも相当数存在しているとの指摘もある。さらに、ポスドクとしての雇用・支援期間終了後、再度ポスドクとなっている場合も少なくないと見られる。このような雇用状況・活動状況の多様化に加え、自らの進路についての個々人の価値観も多様化しているという指摘もある。
 これらの点を踏まえた上で、各機関におけるポスドク等の処遇の在り方の改善や任期後の進路等に関する支援などを行うことが必要である。
 現状としては、ポスドク等の雇用は事実上研究プロジェクト単位で行われており、大学等の研究機関単位での対応が行われていない。このことは、ポスドクのキャリアパスの不透明さ、多様な分野へのポスドクの進出が進んでいないことの一因になっていると考えられる。ポスドクに関する問題を、研究プロジェクト内の課題から研究機関の組織としての課題へと転換していくことが必要である。

〔1〕キャリアサポートの推進

 人材委員会第三次提言で提言したように、公的な研究機関以外の多様な場でポスドク等博士号取得者が活躍することが期待されている。研究者を目指すポスドクのみならず、専門的な研究支援者等として研究に従事していくポスドク、アカデミア以外の道へ進むポスドクも対象として、それぞれにふさわしい進路へ進むための支援(キャリアサポート)を行うことが必要である。
 現状としては、このような支援を一部の「面倒見のいいリーダー」だけが担っている場合が多い。今後はキャリアサポートを組織的に推進していくよう、各研究機関の関係者やポスドクを雇用するチームリーダー等の意識改革も必要である。
 各研究機関においては、他の研究機関や様々な主体との連携のもと、例えば以下のようなことに取り組むことが期待される。

- 研究機関、産業界や学協会、学校、科学館、NPO、人材関係事業者等の様々な主体が集いネットワークを作り、情報交換やキャリア形成に関する相談などを行う場の構築
- 学協会やNPO等が行う、流動化やキャリアパスの多様化に資するような講習、研修会

〔2〕企業等とポスドクの接する場、機会の充実

 産業界から見ると、学生に比べ個々のポスドクと関わる機会が少ないという指摘がある。企業を含めたキャリアパスの拡大のためには、人材委員会第三次提言で打ち出された、学部・大学院段階でのインターンシップや産学共同研究への参加の推進に加え、ポスドクと企業が接する場や機会の充実が必要である。産業界との交流も含めた「一回異動の原則」の奨励、産学連携の中でのポスドクの活用を進めることが重要である。
 また、企業等と研究機関が、求める人材像などについて積極的な対話を行い、協力関係を築いて人材の養成・活躍促進に取り組むために、企業等からポスドクに関してアクセスするための対応窓口的なものを設置し、ポスドクと企業が恒常的に交流を行う場や機会の構築に取り組むことも期待される。

3 キャリアパス多様化に対応した教育

 英語のプレゼンテーション能力、研究企画書の作成等を含めた研究プロジェクトの企画・マネージメント能力などは、大学等の研究職でも、産業界の研究職以外の職業でも、必要とされる力である。初等中等教育段階からそのような力の基礎となる力を育む教育を行うとともに、大学院において体系的な教育プログラムを通じてそのような力を身につけることが大変重要である。
 また、科学技術コミュニケーションの素養を身につけたり、あるいは知的財産活用のための知見を身につけることは、研究活動の役に立つばかりでなく、研究者以外の道へ進むことにつながると考えられる。これらの教育については、大学院だけでなく、他の研究機関や科学館のような現場での実習も有効と考えられる。
 中央教育審議会「新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-(中間報告)」においては、上記のような内容も含め、大学院の教育機能の実質化について包括的な提言を行っており、この提言に沿って大学院教育の充実を関連機関と連携しながら進めていくことが期待される。
 このほか、次代を担う中学生・高校生等に対しても、将来のキャリア設計を考えるための様々な情報を提供することも重要である。さらに、科学技術分野への女性の進出を促すという観点から、女子生徒等に対して、具体的なロールモデルを提供する等の取組にも大きな意義があると考えられる。

(2)国が果たすべき役割

<ポイント>

 第三次提言までの施策を着実に推進しつつ、各研究機関等のキャリアサポートの取組のうち優れたものへの支援、各機関や個人の役に立つキャリアサポートに関する情報提供を実施。

 前述のように、若手研究者の活躍促進やキャリアサポートの推進については、各研究機関が主体的に取り組むことが期待される。国は、各研究機関が行う若手研究者の活躍促進についてのインセンティブの付与や、キャリアサポートのためのモデル的な取組について財政的に支援するなどの施策を講じ、効果的な取組が他機関等へも波及し、我が国の研究人材全体の活性化につながるようにすることが必要である。
 さらに、財政的な支援に加え、キャリアサポートに関する事例や情報などを幅広く収集し、キャリアサポートを行う機関や個々のポスドクに向けて提供する等の施策を講じることも、国の役割として必要である。例えば研究人材の求人・求職情報などキャリアサポートに関連する様々な情報のポータルサイトを設置すること、キャリアサポートに関する取組事例や留意点をまとめたガイドブック的な資料の作成などを行うこと、キャリアサポートに関わる人材のための研修の実施などが考えられる。
 人材委員会第三次提言は、「科学技術と社会」という視点から、初等中等教育段階から、大学、大学院、社会人にいたる各段階を通じた俯瞰的な人材政策の実施が不可欠であることを打ち出し、第3期科学技術基本計画においてもその趣旨を踏まえたものとなることが期待されている(参考資料「人材戦略」参照)。国は、上記のような施策に重点を置きつつ、第三次提言までに打ち出された施策について、引き続き着実に推進することが期待される。

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科学技術・学術政策局基盤政策課

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