資料6  関連する政府方針(「博士人材の産学を越えた活躍促進」関連)


関連する政府方針
(「博士人材の産学を越えた活躍促進」関連)

                1.第5期科学技術基本計画

                2.科学技術・学術審議会人材委員会における提言等

                3.中央教育審議会大学分科会における審議まとめ

平成28年7月13日



1.第5期科学技術基本計画

○「第5期科学技術基本計画(平成28年1月22日 閣議決定)」(抜粋)

第4章
(1)人材力の強化
  我が国からイノベーションが創出される可能性を最大限高めるためには、女性や外国人といった多様な人材の活躍を促進するとともに、分野、組織、セクター、国境等の壁を越えて人材が流動し、グローバルな環境の下での知の融合や研究成果の社会実装を進めていく必要がある。これまで、こうした取組は必ずしも十分でなかったことから、人材の多様性確保と流動化促進のための取組を強化する。
  これらの取組を通じ、我が国において、多様で優秀な人材を持続的に育成・確保し、科学技術イノベーション活動に携わる人材が、知的プロフェッショナルとして学界や産業界等の多様な場で活躍できる社会を創り出す。

2)人材の多様性確保と流動化の促進
[3]分野、組織、セクター等の壁を越えた流動化の促進
人材の流動性を高めることで、それぞれの人材が資質と能力を高め、また、多様な知識の融合や触発による新たな知の創出や研究成果の社会実装の推進等が図られる。しかし、我が国では長期雇用を前提に人材を育成・確保する考え方が基本となっており、多くの社会システムもその考え方に基づいて整備されていること等から、分野や組織、セクター等を越えた人材の流動性が高まっていない状況にある。
このため、若手からシニアまであらゆる世代の人材が適材適所で活躍できることを目指し、科学技術イノベーション人材の流動性を高めることのできる仕組みを構築する。(略)セクターを越えた移動の促進のためには、学生の段階から企業等の外部の研究機関で経験を積む機会を充実することも重要である。国は、こうした人材の流動性向上のための取組を促進するとともに、科学技術イノベーションを担う多様な人材を育成するための取組を推進する。また、科学技術イノベーション人材のキャリアパスを多様化し、研究機関のみならず、起業・経営、初等中等教育、公務といった社会の様々な場において、科学技術イノベーション活動で培われた知見や能力が活用されることを促す。

第5章 イノベーション創出に向けた人材、知、資金の好循環システムの構築
(1)オープンイノベーションを推進する仕組みの強化
  イノベーションを結実させるのは主として企業であるが、迅速な社会実装のためには、大学や公的研究機関との協働は欠かせない。グローバルな次元でオープンイノベーションを推進するためには、企業、大学、公的研究機関といった各主体がそれぞれの強みを生かし、その力を補完的に連携・融合させることのできる仕組みを構築していくことが重要である。
  このため、各主体に対し、オープンイノベーション推進に向けた取組の強化を促す。また、大企業、中小・ベンチャー企業、大学、公的研究機関に偏在する人材、知、資金の流動性を高め、イノベーションが興りやすい環境を整備するとともに、産学官の人材、知、資金が結集し、共創を誘発する「場」の形成を進める。
  こうした取組を通じ、我が国の企業、大学、公的研究機関のセクター間の研究者の移動数が第5期基本計画期間中に2割増加となることを目指すとともに、特に移動数の少ない、大学から企業や公的研究機関への移動数が同期間中に2倍となることを目指す。あわせて、大学及び国立研究開発法人における企業からの共同研究の受入金額が同期間中に5割増加となることを目指す。

2)イノベーション創出に向けた人材の好循環の誘導
  イノベーションを興すのは人であり、人が組織やセクターを越えて交流することで多様な知識等が刺激し合い、融合し、そこから新たな価値が創り出される。海外では、大学と企業間、又は規模や業種の異なる企業間で人材が移動する、あるいは複数の組織に兼務することが、迅速なイノベーションの実現に寄与している状況が見られる。一方、我が国では、研究者や経営戦略等を担う人材などが大企業、中小・ベンチャー企業、大学等に偏在し、組織間・セクター間の人材移動や兼業も雇用慣行の影響等によって限られた規模にとどまっている。このため、一人ひとりの人材の能力を社会として十分に引き出せる状況には至っておらず、イノベーション創出の妨げとなっている。
  イノベーションを迅速かつ効果的に実現するためには、大企業、中小・ベンチャー企業、大学、公的研究機関の人材が、セクターや組織、分野を超えて交流し、社会全体として適材適所の配置による人材の好循環を誘導することが必要である。
 このため、研究者や経営戦略等を担う人材が組織等を越えて能力を発揮することが可能となるよう、大学及び公的研究機関をはじめとする組織においては、クロスアポイントメントやインターンシップ、出向などの制度の積極的活用を図ることや、企業等における業務経験を積極的に評価する取組の実施などが求められる。国は、流動化の促進に向けた人や組織に対するインセンティブの付与の在り方について検討し、必要な措置を講ずる。


2.科学技術・学術審議会 人材委員会における提言等

○「科学技術と社会という視点に立った人材養成を目指して(第三次提言)」
                          (平成16年7月16日)(抜粋)

[1]  現状と課題
2  検討の視点
(2)「知」を創造し活用する社会の持続的な発展
  近年の急速な技術革新の進展、産業構造の変化に伴い、求められる能力が高度化・多様化する中、我が国が将来にわたり「知」を創造し活用する社会として持続的に発展していけるよう、その基盤となる人材の養成に向けた取組を強化していくことが重要である。
  具体的には、次代を担う子どもたちが、初等中等教育の段階から科学技術を学び・親しむ環境を人的・物的に充実するとともに、初等中等教育と高等教育との接続など、教育段階の連続性を活かす取組が重要である。さらに、「知」を創造し活用する社会を担う人材として、高度な専門能力を有する博士号取得者等が、その能力や適性に応じて、大学等の研究機関における研究者としてのみならず、民間企業の研究者や技術者、研究開発の企画・管理等のマネジメント、学校教員、行政機関や国際機関の職員など、社会の様々な場において、多様な役割を担い活躍することが重要である。

4 「知」を創造し活用する社会の持続的な発展
(2)博士号取得者等の社会の多様な場における活躍促進
  博士号取得者等の社会における活躍状況を見ると、米国においては、博士号取得者が大学等の研究機関に加え、営利企業や政府関係機関など多様な場で活躍しており、平成13年度(2001年)において、営利企業へ就職した者の割合は34%となっている。一方、我が国では、博士課程修了者数は増加しており、大学等の教員に加えて民間企業等へ就職する者も増えてきているが、卒業直後に未就職な者も多い。
  さらに、企業における博士号取得者等の役割としては、研究開発や製品の開発・設計、研究開発の企画・管理等のマネジメント、知的財産の管理運用など様々な場面が考えられる。しかし、研究者として活躍する博士号取得者等の資質に対する民間企業の意識をみると、「社会での経験に乏しく、企業のニーズに無関心であるなど、企業の研究者としての自覚に欠ける」を上げる企業が多くなっている。また、博士号取得者等の採用実績の高い企業でも、「成果の出やすい研究テーマを与えるなど、修学期間内での学位の取得を優先し、真の実力が身に付いていない。」を上げる企業が多くなっている。
  他方、我が国の民間企業では、博士及び修士課程修了者の初任給を学士で入社した同年齢の研究者より優遇している企業の割合は比較的高いが、博士課程修了者のみ学士や修士で入社した同年齢の研究者より優遇している企業の割合はわずか4.2%となっており、博士課程進学に伴う経済的負担や博士課程修了後の将来的不安等もあって、優れた資質や能力を有する人材が博士課程への進学を断念することが懸念される。
  このような状況下において、科学技術創造立国を目指す我が国社会において、その中心的な役割を担うことが期待される博士号取得者等が、その能力や適性に応じて、大学等の研究機関における研究者としてのみならず、社会の様々な場において、高度な専門能力を活かし多様な役割を担って活躍できるよう、大学院博士課程の教育機能の強化を図るとともに、博士課程進学に伴う経済的負担の軽減や産業界や行政機関などでの活躍を視野に入れた取組を強化する必要がある。

[2] 改革方策
2 具体的な改革方策
(3)「知」を創造し活用する社会の持続的な発展
2) 博士号取得者等の社会の多様な場における活躍促進
(具体的施策例)

ウ.博士号取得者等が社会の多様な場へ進出し、活躍できる環境の整備
(人材養成に係る産業界と大学院との連携促進)
  博士課程を修了した者が、その能力や適性に応じて、大学や研究機関はもとより、産業界等、社会の多様な場に進出できるよう、人材養成面における産学連携を促進することが重要である。
このため、既存の産学連携の場を有効活用するなど、分野特性等にも留意しつつ、第一次提言において指摘している、人材養成面における産学連携の機会を確保し、双方がニーズの理解及び意見交換を図りながら、具体的で実践的な取組を推進することが必要である。
(博士課程在学者の進路選択に係る適切な体制の充実)
  博士号取得者等の社会の多様な場における活躍が期待される中、博士課程在学者が社会の多様な場を視野に入れつつ、希望や適性に基づき将来の進路を選択できるよう、各大学院においては、分野特性等を踏まえつつ適切な体制を充実していくことが重要である。
(社会の多様な場における博士号取得者等の活躍促進に向けた取組)
  博士号取得者等の社会の多様な場における活躍促進に向けては、社会の多方面において、高度な専門能力を活かし中核となって活動している博士号取得者等の活躍事例を収集することが重要である。
  また、活躍の場である産業界等においては、博士号取得者等に対して広く公平な就業機会を提供し、個々人がその能力や資質、希望や適性に応じた職を得ることができるよう、人事が閉鎖的になることがないような取組が期待される。併せて、博士号取得者等に対して、その有する高度の専門能力に応じた適正な処遇が確保されることが重要である。
  さらに、博士号取得者等の有する高度な専門能力や分析力などは、正確な現状把握と分析に基づいた政策の企画立案や研究開発のマネジメントなどにおいて非常に重要であることから、行政機関や競争的資金の配分機関等においては、こうした能力を有する博士号取得者等の積極的な採用・登用に努めることが期待される。
  なお、我が国における中長期的視点に立った博士号取得者等の活躍促進に向けて、各大学院においては、博士課程修了者等の活動実態について、可能な限り具体的に把握できるような取組を検討することが必要である。


○「多様化する若手研究人材のキャリアパスについて(検討の整理)」
                          (平成17年7月20日)(抜粋)

2.ポストドクター等若手研究者の現状と課題
  第1期、第2期の科学技術基本計画を通じて、我が国の研究水準の向上の成果が上がりつつある中、ポスドクが我が国の研究活動の活性化のための大きな原動力となっていることは評価すべきである。
  その反面、ポスドクや任期付の若手研究者のその後のキャリアパスが不透明であるという指摘がある。ポスドクの実態調査の結果や研究人材の需給見通しから考えると、研究人材は、中長期的には、質的にも量的にも需要の高まりが予想されるものの、現実にはポスドク等にとって希望する職が得られにくく、活躍の機会が十分に与えられていないという、需給のミスマッチが生じていると考えられる。また、研究人材に限らず、社会の多様な場における博士号取得者の活躍促進についても、期待感の高まりはあるものの、未だ明確なキャリアパスが開かれているとは言い難い現状にあり、さらなる推進方策が求められている。時期的に見ても、第1期科学技術基本計画によって拡充された支援を受けてきたポスドクの世代が、第一線での活躍が期待される年齢になってきており、先送りのできない問題となっている。
  博士号取得者のキャリアパスが不透明であることにより、優秀な人材がポスドクを経て研究者をめざす道を敬遠したり、博士課程への進学を避けたりすることになれば、我が国の科学技術関係人材の質と量の確保に関して深刻な事態になりかねない。さらに、産業構造の変化や少子高齢化・人口減少に伴い、今後我が国が直面していく様々な問題に対応するために、博士号取得者が社会の多様な分野に活躍の場を広げることが強く期待されている。このため、ポスドク等のキャリアパスの問題に対して、早急に手を打たなければならない。

3.当面の具体的な取組
(1)各研究機関や企業等に期待される取組
2) ポスドクの多様化に対応した組織的な支援
  我が国の研究活動の質的変化が進む中、科学研究費補助金や21世紀COEプログラム等の競争的研究資金により雇用されるポスドクが約半数を占めるようになり、処遇のばらつき、身分の不安定化につながっている。また、ポスドクの活動実態も多様化しており、自立した研究者を目指すポスドクのほか、研究補助的な業務を主とするポスドクも相当数存在しているとの指摘もある。さらに、ポスドクとしての雇用・支援期間終了後、再度ポスドクとなっている場合も少なくないと見られる。このような雇用状況・活動状況の多様化に加え、自らの進路についての個々人の価値観も多様化しているという指摘もある。
  これらの点を踏まえた上で、各機関におけるポスドク等の処遇の在り方の改善や任期後の進路等に関する支援などを行うことが必要である。
  現状としては、ポスドク等の雇用は事実上研究プロジェクト単位で行われており、大学等の研究機関単位での対応が行われていない。このことは、ポスドクのキャリアパスの不透明さ、多様な分野へのポスドクの進出が進んでいないことの一因になっていると考えられる。ポスドクに関する問題を、研究プロジェクト内の課題から研究機関の組織としての課題へと転換していくことが必要である。

〔1〕キャリアサポートの推進
  人材委員会第三次提言で提言したように、公的な研究機関以外の多様な場でポスドク等博士号取得者が活躍することが期待されている。研究者を目指すポスドクのみならず、専門的な研究支援者等として研究に従事していくポスドク、アカデミア以外の道へ進むポスドクも対象として、それぞれにふさわしい進路へ進むための支援(キャリアサポート)を行うことが必要である。
  現状としては、このような支援を一部の「面倒見のいいリーダー」だけが担っている場合が多い。今後はキャリアサポートを組織的に推進していくよう、各研究機関の関係者やポスドクを雇用するチームリーダー等の意識改革も必要である。
各研究機関においては、他の研究機関や様々な主体との連携のもと、例えば以下のようなことに取り組むことが期待される。

 - 研究機関、産業界や学協会、学校、科学館、NPO、人材関係事業者等の様々な主体が集いネットワークを作り、
  情報交換やキャリア形成に関する相談などを行う場の構築
 - 学協会やNPO等が行う、流動化やキャリアパスの多様化に資するような講習、研修会

〔2〕企業等とポスドクの接する場、機会の充実
  産業界から見ると、学生に比べ個々のポスドクと関わる機会が少ないという指摘がある。企業を含めたキャリアパスの拡大のためには、人材委員会第三次提言で打ち出された、学部・大学院段階でのインターンシップや産学共同研究への参加の推進に加え、ポスドクと企業が接する場や機会の充実が必要である。産業界との交流も含めた「一回異動の原則」の奨励、産学連携の中でのポスドクの活用を進めることが重要である。
  また、企業等と研究機関が、求める人材像などについて積極的な対話を行い、協力関係を築いて人材の養成・活躍促進に取り組むために、企業等からポスドクに関してアクセスするための対応窓口的なものを設置し、ポスドクと企業が恒常的に交流を行う場や機会の構築に取り組むことも期待される。

(2)国が果たすべき役割
  前述のように、若手研究者の活躍促進やキャリアサポートの推進については、各研究機関が主体的に取り組むことが期待される。国は、各研究機関が行う若手研究者の活躍促進についてのインセンティブの付与や、キャリアサポートのためのモデル的な取組について財政的に支援するなどの施策を講じ、効果的な取組が他機関等へも波及し、我が国の研究人材全体の活性化につながるようにすることが必要である。
   さらに、財政的な支援に加え、キャリアサポートに関する事例や情報などを幅広く収集し、キャリアサポートを行う機関や個々のポスドクに向けて提供する等の施策を講じることも、国の役割として必要である。例えば研究人材の求人・求職情報などキャリアサポートに関連する様々な情報のポータルサイトを設置すること、キャリアサポートに関する取組事例や留意点をまとめたガイドブック的な資料の作成などを行うこと、キャリアサポートに関わる人材のための研修の実施などが考えられる。

4.今後の検討について
  キャリアパスに関する問題については、画一的な方策のみによっては解決することが難しいと考えられる。これまでとりまとめた基本的な考え方を元に、ポスドクが現在直面している課題への速やかな対処という観点と、今後10年、20年先を見通した人材養成という観点の双方を踏まえた上で、より実効性ある施策の実施に向け、国や関係機関において、「博士課程を修了したら全員が大学の研究者になるのが当然」というような価値観に縛られず、キャリアパスの多様化に対応した改革を進めることが強く望まれる。
  知の大競争時代にあって、科学技術に関わる多様な人材を養成・確保すること、特に優れた若手人材の多方面での活躍を促進することは、我が国が直面している喫緊の課題として社会全体で認識されなければならない。このため、業種や分野等の枠を超え、大学等の研究機関、産業界、学協会等の関係者が幅広く集い、我が国の持続的な発展のためにどのような科学技術関係人材が求められているか、そのような人材をいかに養成し、活躍を促進していくかを協議していくこと等により、様々な主体が相互に協力して取り組む機運を醸成していくことが重要である。

○「知識基盤社会を牽引する人材の育成と活躍の促進に向けて」
                        (平成21年8月31日)(抜粋)

はじめに
3.少子化が急速に進んでいる我が国が、高度の専門性が求められる知識基盤社会における国際競争を勝ち抜くためには、高度の研究能力を有する博士号取得者を育成、確保していくことが喫緊の課題である。現在、博士号取得者が社会の各般から期待されていることは、大学や公的研究機関で研究者として自立して研究活動を行うだけでなく、企業、行政及び教育機関も含めた社会の多様な場でより一層活躍することである。
5.科学技術関係人材の中でも、博士号取得者は、社会と技術を俯瞰し、社会の多様な場で優れた牽引者となる人材であり、産学が協働して、その活躍を促進していく必要がある。

第2章 社会の多様な場で活躍する人材の育成
  科学技術と社会の関わりが深化・複雑化している現在、博士号取得者は、自ら設定した研究課題に対し、課題を解決するために十分な情報収集力・分析力、さらには円滑な研究成果の社会還元に必要な情報発信力等を備えていくべきものと考えられる。こうした素養・能力は、社会の多様な場でリーダーとして活躍するために必要な素養・能力でもある。
  しかしながら、現状の日米における博士号取得者の雇用部門別の分布状況を比較すると、我が国は民間企業で活躍する博士号取得者の割合が低い。その背景として、大学が輩出する人材と産業界が必要とする人材との間に生じている質的・量的なミスマッチ、教員等の人材育成に対する意識の問題等が考えられる。実際の博士課程修了者の進路としては、アカデミア、産業界に各々2割強が就職しているが、今後、博士号取得者のキャリアパスを確立するためには、産業界との間に生じている人材のミスマッチを解消することが特に重要と考えられる。
  知識基盤社会において、大学が輩出する人材は国力の源泉であり、特に博士号取得者については、知識基盤社会の牽引者としての役割が期待されている。我が国の各分野から求められている優れたリーダーを確保するためにも、博士号取得者の育成については、その活躍の場がアカデミアのみにとどまらず社会全体であることを踏まえ、体系的に取り組む必要がある。

1.博士号取得者の社会の多様な場における活躍の促進
  修士課程(博士前期課程を含む。以下同じ。)の学生にとって、博士課程への進学を検討する際に、博士号取得者のアカデミアや産業界における雇用の増加が重要な判断材料となっているが、博士課程修了者の就職率は6割から7割程度で推移している。また、博士課程修了者数が大学の教員採用数を大きく上回る状況が続いており、アカデミック・ポストの不足が明らかとなっている。このような状況もあり、修士課程学生が、博士課程修了後の就職を懸念しているとの指摘もある。
  博士号取得者が社会の多様な場で活躍し、社会全体の牽引役として認知されることは、博士課程へ進学することの魅力を高めることにつながっていく。したがって、教育研究の質を向上させ、大学が輩出する人材と産業界が求める人材との間にある質的・量的ミスマッチを解消するための施策に取り組むことが不可欠であり、国は、大学院における優れた教育研究への支援を強化すべきである。一方、産業界は、高度な専門知識・技術に見合った待遇を保証するなど魅力あるキャリアパスを博士号取得者に示すことが期待される。
  また、研究費には様々な特性や目的があるが、我が国では、多くの研究費を実験設備等の物件費に充てる傾向にあり、人材育成のために使うという意識が希薄であるとの指摘もある。このため、大学は、人材育成の意識を教員等に持たせるとともに、教員の自己研鑽機会の充実を図るなど、多様な工夫に取り組むことが求められる。

 (1) 大学における人材育成の強化
(大学における進路指導体制の強化)
  大学は、就職情報窓口を一本化するとともに、修士課程学生に対し、博士課程に進学することの意義について説明し、課程修了後の進路について適切な指導を行うべきである。また、大学は、博士号取得者の進路等を把握し、社会の多様な場における活躍振りを広く学内外に示すとともに、自らの教育研究の質の向上に活かすことが重要である。このため、大学は、これらの情報の継続的な把握に努めるべきである。
  大学と産業界の双方向の連携と学生の積極性も不可欠である。大学は、産業界と協働して、長期のインターンシップの実施、共同研究等を通じた実践的な議論の場の提供等を一層活発化し、学生や博士号取得者に対して就職機会等の情報を提供すべきである。また、学生や博士号取得者自身は、自らのキャリアパスは自ら切り拓くとの意識を強く持ち、常に広い視野で進路の方向性を考え、情報の把握や能力向上等に努めることが不可欠である。

(2)産業界による博士号取得者の受入れ
  大学教育の改革や後述する大学教員等の意識改革だけでなく、産業界の意識改革も必要である。最近の企業の採用実績を見ると、企業は博士号取得者を積極的には採用しておらず、その採用状況もほとんど変化が見られない。その原因としては、企業が博士号取得者に求める素養・能力を明らかにしていないことや、企業側に素養・能力を適切に評価できる体制がないこと、さらには博士号取得者が企業の期待する素養・能力を満たしていないこと等が指摘されている。博士号取得者の産業界への就職率が伸び悩んでいることは、博士課程への進学希望者の減少や、博士課程学生や博士号取得者が産業界への就職活動を躊躇することにもつながっていると考えられる。
  博士号取得者が、その素養・能力を向上させることは、キャリアパスの一つとして産業界を明確に視野に入れることができるようになるとともに、これまで博士号取得者の採用に必ずしも積極的ではなかった企業等による受け入れを促進する観点からも重要である。
  さらに、大学が大学院教育の改革を進めるためにも、産業界は、必要とする博士号取得者像について明確化することが不可欠であり、産業界として、博士号取得者が備えるべき素養・能力を具体的な形で大学や学生に示す必要がある。その際、産業界は、博士号取得者が企業内研究者としての能力にとどまらず、組織のリーダーとして求められる企画力、マネジメント力、幅の広い技術分野の統合力等も視野に入れ、多様な場で活躍できる人材としてどのような素養・能力を身に付ける必要があるかを、学・官の協力も得て具体的に検討すべきである。こうして明確化された多様な博士号取得者像を具現化するため、産業界は、大学からの要請に応じて、産業界のニーズを踏まえた教育研究カリキュラムの作成に積極的に参画するなどの貢献を行っていく必要がある。なお、産業界においては、大学の教育研究に支障をきたさないよう、採用活動の時期の適正化に真摯に取り組むことが期待される。

(4)博士号取得者のキャリアパス多様化の促進
  博士号取得者は、高度の専門性が求められる研究能力とその基礎となる豊かな学識を身に付け、その素養・能力を活かしつつ、適性に応じて産業界における研究開発リーダーや科学技術と社会をつなぐ科学技術コミュニケーター、科学技術政策の立案者等として、社会の多様な場で先導的な立場で活躍することが期待されている。このため、国は、博士号取得者の産業界や教育界等へのキャリアパスを確立するための施策を積極的に推進すべきである。また、国や地方自治体が、博士号取得者の採用を増やすことも期待される。
(産業界へのキャリアパスの確立)
  産業界は、博士号取得者の採用に際し、研究の成果のみならず、課題設定・解決力や幅広い科学技術的素養等を評価し、適性に応じて、研究職以外にも事業・経営等の各部門において活躍することも期待している。したがって、博士号取得者の産業界での活躍を促進するためには、博士号取得者が、マネジメント力や複数の専門分野にまたがる様々な問題への応用力など、チームワークに優れたリーダーやイノベーション創造の担い手に求められる素養・能力を身に付ける必要がある。
  博士号取得者の就職状況を見ると、規模の大きな企業ほど採用されやすい傾向にあるが、こうした企業では、博士号取得者に対し、組織や研究開発チームの中核を担うリーダーとしての役割を期待している。
  他方、博士号取得者の高度な研究能力は、研究開発型のベンチャー企業等においても相応の需要がある。こうした企業で活躍する博士号取得者は、新たな産業分野等に果敢に挑戦し、新規事業・サービスを切り拓く起業力や知的財産の管理・活用力等を身に付ける必要がある。また、産業界で活躍できる博士号取得者の育成に当たっては産学の協働が不可欠であり、国は、産学協働による人材育成の取組を積極的に支援すべきである。
(高度な専門知識を必要とする大学職員等へのキャリアパスの確立)
  我が国は諸外国に比べ、大学等における教育研究支援体制や事務体制が脆弱との指摘がある。大学は、これらの強化が重要なことは十分把握しているが、基盤的経費及び総人件費の削減への対応として、教育研究の主体者である教員を優先的に確保することで教育研究体制を保ってきた結果、支援体制が脆弱化している。大学等は、博士号取得者をリサーチアドミニストレータや高度技術専門人材等に登用するなどして、博士号取得者の高度な専門性を活用することが期待される。このほか、博士号取得者の活躍の場としては、知的財産関連職、産学連携コーディネーター、国際的な研究協力に関する調整など国際業務専門職員等の専門性を必要とする職種が考えられるが、国は、こうした専門性を持った職員の育成について大学が行う取組を支援すべきである。
  なお、博士号取得者の活躍の場を広げるに当たって、モチベーションの維持とモラール向上のため、高いステイタスと適切な処遇を付与する必要がある。また、大学における事務・技術職員と教員の連携強化にも留意すべきである。
(理数系専科教員等へのキャリアパスの確立)
  子どもたちが理科や算数・数学に興味・関心を持つためには、教員の役割や影響が大きい。しかし、小学校の教員は約6割が理科の指導を苦手にしているという調査結果がある。他方、博士号取得者には、理数系教科・科目を得意とする者も多いことから、子どもの教育に意欲を有する博士号取得者が、理数系専科教員等として活躍する場を設けることが考えられる。また、国は、大学が都道府県教育委員会と連携して、意欲ある優秀なポストドクター等を理科教育人材として発掘し、特別免許状の授与を含めた積極的な活用のためのシステムを構築することを支援すべきである。

(5)ポストドクターに係る課題の解決に向けた取組
  ポストドクターは、雇用資金の目的や特性によって位置付けが多様化しているほか、企業からの転職者などポストドクター自身の経歴が多様な事例もある。また、ポストドクターの任期を満了した後、他の機関でポストドクターを累次に亘って繰り返す者が少なくなく、ポストドクター後のキャリアパスが不透明であるとの指摘があり、いわゆる「ポスドク問題」への対応を進める必要がある。

(「ポスドク問題」の解消)
  「ポスドク問題」は、アカデミアにおけるポスト不足が原因の一つである。また、多くのポストドクターの専門分野は、産業界で人材需要の高い分野ではなく、産業界に活躍の場が少ないことも原因と考えられる。ポストドクター自身も、専門分野以外の社会の多様な場で活躍できるだけの素養・能力を必ずしも十分に身に付けてこなかったことや、ポストドクターを繰り返すうちに高年齢化してしまったこと、ポストドクターを雇用した経験のない企業はポストドクターの採用を躊躇する傾向にあることなどが、この問題を一層深刻にしている。
  「ポスドク問題」を解消する有力な方策の一つは、アカデミアのポスト不足を緩和することであり、大学等が、准教授・助教等の若手研究者ポストを拡充することが望まれる。特に国立大学法人においては、総人件費の抑制に留意しつつも、若手の准教授や助教のポスト増に積極的に努め、現在の年齢構成の逆ピラミッド化の解消に努力していくことが望まれる。このため、例えば、教授が定年に達した時点で教授のポストを廃止する代わりに助教を採用することなど、積極的に「ポスドク問題」の解決に努めることが期待される。また、ポストドクターがアカデミアにおけるキャリアパスを切り拓くために、第3章に詳述するテニュア・トラック制を普及・定着させることも重要である。
  他方、ポストドクター自身が産業界等へ主体的に進出していくことを意識すべきであり、研究職以外の職も含めたアカデミア以外の進路も選択できる素養・能力を身に付け、そのキャリアパスが多様化するよう、産学官が密に連携して一体的に支援を進めていく必要がある。ポストドクターが、社会の多様な場で活躍するために必要な異分野に対応する力や実践的な技術開発力を身に付けられるよう、ポストドクターの目的や専門分野に応じて、例えば、企業等における長期インターンシップ等の受け入れの促進など、国は、アカデミアと産業界等の連携強化を支援していく必要がある。
  大学等においては、自機関に所属するポストドクターの情報を把握してデータベースを整備するなど産業界に発信できる体制を整えるとともに、そのキャリアパスを確保するため、雇用期間中にキャリア開発のためのトレーニングを受ける機会を提供することが期待される。

(ポストドクターの進路選択)
  ポストドクターの期間が長期化し、高年齢化が進むと、その後の進路の選択の幅を狭めることになりかねない。ポストドクターの雇用者は、最終的な進路選択を検討しているポストドクターに対して、適切な指導を行い、その後のキャリアにポストドクターの経験が活かせるよう留意すべきである。また、国は、進路を選択する必要のあるポストドクターに、その後の進路についての判断を促していく必要がある。例えば、ポストドクターを対象としたフェローシップでは、支援対象を博士号取得後5年未満の者に限定している。
  ポストドクターの雇用者は、ポストドクターとしての経歴が長い者をポストドクターとして雇用する際、その後のキャリアパスに特に配慮して、進路指導やキャリア開発の機会を設けるべきである。

2.大学教員等の人材育成に係る意識改革
  博士号取得者がアカデミア以外の多様な場に進むためには、大学教員等による進路指導も重要であるが、指導すべき立場にある教員自身に、企業等に関する知見や経験が乏しく、博士課程学生や博士号取得者への情報の提供が不十分との指摘もある。社会が求めるリーダーとして博士号取得者を育成するためにも、大学教員等の意識の改革は重要であり、若い時期から指導者としての自覚を持ち、十分な経験を積むことが必要である。
  現在、教員の採用・昇任のための人事評価については、研究成果が第一義的な指標になっていることが多い。このため、研究成果に重きを置いたままでは教員の意識が変わらないとの指摘もある。教育や社会貢献等をこれまで以上に重きを置いて評価するなどして、大学自らが意識を改革し、トップダウンで取り組む必要がある。

(1)大学教員等を対象にした取組の推進
  全ての大学教員には、アカデミアであるか否かを問わず社会の多様な場で活躍できる人材の育成に向けた指導力が求められる。しかし、博士課程学生は将来アカデミアで活躍すべき者である、という前提で指導に当たる教員が多いとの指摘がある。
  このような教員の意識を変えるため、教員が大学の外に出る機会を増やすことが不可欠であり、教員自身の企業派遣実習(教員インターンシップ)の実施、教員が学生と共に企業等へ出向いて参画する実践的な課題解決型演習の導入促進、教員の企業への出向や企業との兼務等が考えられる。また、企業研究者の大学教員への登用や企業人によるキャリア指導研修の実施等、大学に外部人材を積極的に招へいすることにより、教員や学生等が企業人と接する機会を増やすことも考えられる。
  このような取組を通じて、教員が産業界のニーズに直に触れ、産業界の求める人材像を把握するとともに、その経験を踏まえ、大学が育成する人材像を明確にして大学教育に反映させる取組が強化されることが期待される。また、国は、このような産学の柔軟かつ双方向の人材交流を支援すべきである。

(2)大学教員等の評価等を通じた教員の意識改革
  大学教員の人事評価は、教育、研究及び社会貢献等の多面的な活動を総合的に評価する必要がある。大学教員に対する人事評価や評価結果が受け入れられる文化の醸成、それが処遇等に適切に反映される評価等を通じて、組織のイニシアチブの下、人材育成に関する教員の意識を高めていくべきである。その際には、大学教員が大学院生の適性に応じ、適切に進路指導を実施しているかなど、教育者としての側面がこれまで以上に重視された評価となることが期待される。
  また、教員は、博士課程学生を指導するに際し、学生個人の素養・能力に応じて、多様なキャリアパスがあり得ることを念頭に置くとともに、ポストドクターについては、単なる研究の支援者や補助者としてではなく、研究活動に参画する研究者として認識する必要がある。
  さらに、大学等は、博士課程学生や博士号取得者の就職支援のための取組、大学教員や研究者の流動性を確保するための取組、後述する女性研究者の採用割合等についての目標設定及び多様な教員や研究者を確保する取組等を通じて、大学教員や指導的立場にある研究員の意識改革に資する取組に組織的に対応することが期待される。

(3)組織に対する競争的な支援制度等における対応
  ポストドクターの多くは、競争的資金等の外部資金により雇用されている。研究資金配分機関は、個々の競争的資金制度間の整合性を図りつつ、その目的や特性に応じて、組織に対する競争的な支援制度の審査項目に、キャリア教育の設定や過去の人材育成の実績等を盛り込み、これらを採択の一指標として評価することが必要であり、こうしたことは、大学教員等が、人材育成に対する意識を高めることにもつながっていくと考えられる。
  大学等は、博士課程学生やポストドクターに対する経済的支援の重要性に鑑み、組織に対する競争的な支援制度において、個々のポストドクター等が従事すべき任務を明確にし、RAやポストドクターの雇用経費等に充当する割合をより高めていくべきである。
  同時に、ポストドクター自身が一定期間、自立的な研究やキャリア開発のための活動に専念できるよう、プロジェクトの目的や特性に応じて、職務専念義務に関する現行の考え方の見直し等を検討する必要がある。
  さらに、競争的資金が世界をリードする研究人材を養成する上で重要な役割を果たしていることから、国は、基盤的経費を確実に措置した上で、競争的資金の拡充を図りつつ、研究者本人も含め、競争的資金から人件費を充当できる範囲を拡大していくことについて検討すべきである。

おわりに
4.また、教育(人材育成)、研究(知的価値の創造)及びイノベーション(社会的価値や経済的価値の具現化)の有機的連携の視座のもと、大学等の教育研究の成果を評価する際には、社会の多様な場における輩出人材の活躍状況も対象とする必要がある。大学等は、優れた人材を輩出するという社会的使命をこれまで以上に認識し、そのための人事の在り方の見直しや、教育研究支援体制や事務体制の充実等を通じた教育研究環境の整備に努めるべきである。産業界についても、求める人材像を示し、人材育成の実践の場を幅広く提供するなどの協力が求められる。


○「第7期人材委員会提言」(平成27年1月27日)(抜粋)

4.今後の施策の方向性
(2)我が国の研究開発力強化のための人材育成の在り方
 [1]科学技術イノベーション人材育成のための環境整備
(大学・独立行政法人改革との連携)
○ 博士号取得者については、研究活動を通じて体得した、自らの研究分野という「一つの専門性を究めた」という経験を強みとして、アカデミアだけではなく、産業界や公務員、NPO、国際機関など社会の様々な分野で活躍されることが期待されており、大学等においては、企業等での活躍を志向する博士人材を育成していくためにも、学部・修士(博士課程(前期)を含む。以下同じ。)・博士課程(後期)段階を通じ、専門知識をベースとしつつ、幅広い視野と課題発見・解決能力、起業家精神の養成等の教育を実施すべきである。

 [2]分野の特性に応じた施策及び機関横断的な取組の推進
○ 理・工・農・医などの各分野によって、取組の進展状況や課題が異なることも明らかになっており、今後は、各分野の状況に応じた、きめ細かい人材育成施策を推進していくことが望まれる。その際、特に、以下のような点が指摘されていることに留意が必要である。
- 民間企業における博士号取得者の採用割合については、化学系企業では比較的高いが、サービス業などの分野が低い
- ポストドクターはライフサイエンス分野に多く、特に、女性のポストドクターがライフサイエンス分野に多い
- 博士号取得者数と民間企業における博士号取得者の採用人数との間には、需給ギャップが存在するが、その状況は分野によって異なる

 [3]個別課題及び施策の方向性
ア.若手研究者の活躍支援と流動性の高い人材システムの構築
2) 第4期科学技術基本計画中の主な取組と成果
【博士号取得者のキャリアパス多様化】
○ 平成18 年度より、「イノベーション創出若手研究人材養成」(平成18年度~)、「ポストドクター・インターンシップ推進事業」(平成23 年度~)及び「ポストドクター・キャリア開発事業」(平成24 年度~)を通じて、ポストドクターのキャリアパスの多様化に係る各研究機関の取組を支援してきた。
○  これらの取組の結果、平成20~25 年度において、支援機関(全38 機関)において長期インターンシップを経験した者(1,580 人)のうち約半数(654人:41.4%)13が民間企業等へ就職するとともに、その内訳についても、化学系や電子機器など専門知識を直接活いかすことのできる業種に加えて、サービス業への就職が全体の約15%(654 人中98 人)を占めるなど、多様なキャリアパスの開拓につながっている。
○  また、非研究開発職への就職については、ポストドクター全体の進路状況調査においても、平成21 年度においては、全体の1.0%(151 人)であったところ、平成24 年度調査においては、1.4%(199 人)に微増している。本調査については、今後、科学技術・学術政策研究所において、雇用財源の情報に基づく分野分類を試みる予定であり、ポストドクターの研究分野ごとの雇用状況について、更なる詳細分析が期待される。

3) 今後の施策の方向性
(博士号取得者のキャリアパスの多様化)
○ 前述したように、博士号取得者については、社会の様々な分野で活躍されることが期待されており、大学等においては、学部・修士・博士課程(後期)段階を通じ、専門知識をベースとしつつ、幅広い視野と課題発見・解決能力、起業家精神の養成等の教育の実施が重要である。
  特に、修士・博士課程(後期)においては、高度な専門性に加え、俯瞰力と独創性及び社会的視野を備え、国内外、産学官にわたり活躍することのできる人材を育成するため、専門分野の枠を超えた体系的な大学院教育を確立していくことが引き続き求められる。その際、博士課程修了者が多様な場において活躍促進していくためにも、社会の構成員となるための自己評価を適切に行う機会を博士課程学生に与えるとともに、産学官の参画により国内外の一級の人材を結集し、国際性や実践性を備えた現場での研究訓練などに取り組むことが望ましい。
  また、博士課程に進学する際や博士課程修了後にポストドクターとして研究を継続する際などには、自らの責任の下で、その後の研究者としてのキャリアを継続するか否かを選択することが重要であり、各研究機関においては、そのための機会を各研究者に適切に与えるべきである。
○ 加えて、博士課程学生に対しては、2~3か月以上の中長期研究インターンシップやワークプレイスメント(有償型就業体験制度)、共同研究講座等大学キャンパス内での産学の交流を通じて、社会のニーズを把握するとともに、多様な経験を提供することが重要である。
  また、企業側においても、博士課程教育カリキュラムの構築段階からの参画や講師・メンターの派遣、インターンシップ等の受入れなど、大学における前述の取組へ協力するとともに、博士課程学生の能力を適切に評価し、採用や処遇に反映させることを検討する必要がある。これらの機会を通じて、産業界側のあらゆる業種において、これまで以上に積極的な博士号取得者の採用・活躍促進につながることが期待される。
  なお、産学共同研究に当たっては、産業界側は事業部門において事業化がなされることを踏まえ、大学の知をイノベーションにつなげるためには、大学側は、民間企業の研究所のみならず事業部門との人事交流を図るべきである。
○ 国は、引き続き、各機関における上述のような取組を推進するとともに、博士号取得者のキャリアパスの現状及び課題を的確に把握するため、博士号取得者の社会での活躍やキャリア変更の状況などを長期にわたって把握する仕組みを構築すべきである。また、キャリア開発に資する情報の提供と活用を一層推進することも求められる。


3.中央教育審議会大学分科会における審議まとめ

○「未来を牽引する大学院教育改革~社会と協働した「知のプロフェッショナル」の育成~」
          (平成27年9月15日 中央教育審議会大学分科会 審議まとめ)(抜粋)

1.大学院教育の改革の進捗状況と大学院を巡る国内外の情勢
(1) 大学院改革の進展
(大学院の量的充実と規模の考え方)
○ 3年大学院答申が出された当時、我が国の大学院は、教員組織も施設設備も学部に依存していたために独立した実体を具備するものが少なく、その規模も国際的にみて極めて小規模であった。学術研究の進展や社会経済の高度化・複雑化等が進む中で、研究機関における研究者需要の拡大が見込まれており、また、企業へのアンケート調査の結果によれば、大学院修了者の採用割合を将来増やしたいとの希望が示されていたが、当時の大学院は、将来の需要拡大に対応できる体制になっていなかった。
  3年大学院答申では、大学教員・研究者のみならず社会の多様な方面で活躍し得る人材の育成を図るため、大学院を、平成12年(2000年)時点で平成3年時点の規模の2倍程度に拡大することが必要と提言されるとともに、同時に、教育研究の質的な改善・充実と教育研究指導の体制整備の必要性も提言された。この提言を受けて、その後の約10年間(平成3~12年(1991~2000年))にわたり研究力の高い大学を中心に大学院の量的整備が進められ、大学院を設置する大学数は約1.5倍、研究科の数は約1.4倍、大学院生の数は約2.1倍へと拡大され、一部の大学においては従来の助手のポストから研究主宰者である教授等のポストへの移替えも進められた。
  これらの取組により、日本人の修士号や博士号の取得者数は大幅に増え、特許出願件数の増加にみられるような新領域の開拓と論文数の増加等に貢献し、研究力の向上が図られた。また、特に、大企業の研究開発職等では、修士号取得者が採用の圧倒的多数を占めるようになっている。さらに、平成24年(2012年)に行われた企業に対するアンケート調査結果によれば、博士課程修了者を採用した企業の約8割は、博士課程修了者の印象を「期待通り」「期待を上回った」と評価している。
○ その後、平成17年(2005年)の中央教育審議会答申 において、大学全体の量的な整備目標の設定は行わないこととされた。17年大学院答申においても、変化の速度が増している人材需要を国が一元的に予測し調整を行うことは困難であるため、大学院の規模は、社会の諸要請を的確に踏まえつつ、学部の量的な構成も含め、各大学の責任において判断すべき事柄であると提言した。
○ 以上のように、平成3~12年(1991~2000年)の間は、数値目標に基づき大学院の量的整備が進んだ。平成11年(1999年)以降は、大学院を含め大学の設置に関する法令上の規制が緩和され、大学院が設置しやすくなったことも影響して、現在、大学院生の数は平成3年(1991年)時点の約2.5倍(修士課程・博士課程(前期)は2.3倍、博士課程(後期)は2.5倍)まで増加している。
  しかし、他の先進諸国と比較すると、人口当たりの博士号取得者数や修士号取得者数は、依然として大幅に少なく、高度専門人材の層が薄い状況には変わりない(平成22年(2010年)における人口100万人当たりの学位取得者数をアメリカと比較すると、修士号取得者数は約1/4、博士号取得者数は1/2)。
  また、大学院生数(修士課程・博士課程)は平成23年(2011年)をピークに減少し、特に、修士課程修了者の進学率が減少傾向にある。

(2)大学院重点化20年後の課題
(優秀な日本人の若者の博士離れ)
○ 近年、優秀な日本人の若者が博士課程に進学しない「博士離れ」が懸念されている。この状況は、我が国の知的創造力を将来にわたって低下させ、学術や科学技術イノベーションを含めた国際競争力の地盤沈下をもたらしかねない深刻な事態である。
○ 「博士離れ」の原因には、博士号取得後のキャリアパスの不安定さや不透明さから、学生が博士課程(後期)への進学に不安を抱いている点がある。具体的には、1)大学・公的研究機関では、基盤的経費が減少し、外部資金が増加する中で、多くの若手研究者が、ポストドクター(博士号取得後の任期付研究者)や特任助教等という職で、継続性の保証されない研究費による不安定な有期雇用になっており、優秀な学生にとって大学・公的研究機関の研究職が処遇や研究環境の点でも魅力ある職になっていないこと、2)大学の研究費のうち約3割を占めるライフサイエンス分野においては、多くの若手人材が実験の担い手になっているといわれるが、バイオ産業では基礎系研究者の需要数がそれほど多くなく、産学間に人材需給のミスマッチが生じていること、3)民間企業では年齢を重ねている博士人材の採用に雇用慣行による壁があることや、博士号を取得して高度な専門知識・能力を持つにもかかわらず、処遇で優遇されないことなどが指摘されている。
  また、博士課程(後期)教育の現状においても、1)23年大学院答申で指摘したように、大学院教育が、担当教員の研究室等で行う研究活動を通じたものにとどまり、早期に狭い範囲の研究に陥りがちで、産業界等の評価や期待に関する認識も十分に共有されていないこと、2)一部分野では、大学教員ポストを含め博士の社会的需要と学生数にアンバランスが生じていること、3)生活費相当の給与等を受ける博士課程(後期)学生の割合は約1割とアメリカの1/4にとどまっており、進学のための経済的な負担が重いことなども原因となっていると考えられる。

(3)大学院を巡る国内外の情勢
○ 23年大学院答申は、グローバル化や知識基盤社会が進展する中、専門分化した膨大な知識の全体を俯瞰しながら、イノベーションにより社会に新たな価値を創造して、環境、エネルギー問題などの人類社会が直面する課題を解決に導くため、「国際社会でリーダーシップを発揮する高度な人材が不可欠」とし、これまで大学等の研究者となる人材ととらえられていた博士号取得者を、産学官にわたりグローバルに活躍するリーダーとして養成するよう提言を行った。

(若手の人口の大幅な減少)
○ その後の国内外の情勢をみると、平成23年(2011年)から総人口が長期に減少する局面に入り、今後10年間で、国の活力の源であり働き盛りの25歳から44歳までの人口は、約2割(約650万人)も減少することが見込まれている 。
  このように若手の人口が急激に減少する中で、将来、高度専門人材を量的に確保することが難しくなるのではないかと懸念されている。

(我が国の経済的優位性の低下と産業構造変化の加速)
○ 我が国の経済は、近年好循環の兆しが生まれつつあるものの、この20年ほど、我が国の一人当たりのGDPが低迷し続ける一方で、アジア諸国等は急成長し、世界における我が国の経済的優位性や競争力は揺らいでいる。超成熟段階に入った知識基盤社会の中、グローバル化、ICT化の急速な進展が国内の産業構造に大きな影響を与えている。
○ 平成3年(1991年)以降、修士号を取得して就職する者が増加(平成3年(1991年)1.9万人→平成26年(2014年)5.4万人)しているが、産業構造は 急速なスピードで変化しており、民間企業の主要事業は短期間で入れ替わっている。企業においては、外国資本比率が高まり、海外の機関投資家がステークホルダーとして重要な地位を占める傾向がみられる。また、国際競争にさらされている企業では、M&Aの件数が平成3年(1991年)から平成25年(2013年)までの間に約3倍の水準で推移 し、事業部門単位での買収や再編等が活発に行われるなど、急激な環境変化に直面する中で、企業内の能力開発システムだけでは加速する国際競争に追い付けないとの声が出ている。また、博士課程に進学せずに修士課程修了後に民間企業へ就職した優秀な若者の高い能力や専門性が、流動性の低い雇用慣行の中で十分に活用されていないのではないか、といった指摘もある。
  平成26年(2014年)現在、博士課程修了者のうち、民間企業等において専門的・技術的職業に就いた者の割合は、平成3年(1991年)に比べて倍増しており、従前に比べ多様なキャリアパスが少しずつ広がってきていると考えられるが、博士人材が新産業を創出し、企業内の変革を牽引するような力のある人材として多数育成されているとはまだ言い難い。

(諸外国における高度人材の増加と大学院教育)
○ 一方で、欧米諸国やアジア各国では、優秀な自国の学生や外国人留学生を獲得しつつ修士号や博士号の取得者数を伸ばし、国際競争力を高めるために人材の高度化を図っており、我が国と異なり、社会の主要ポストで博士号や修士号を持つ者が、高度な専門性と見識を備えた人材として評価され活躍している。また、これらの国々では、高等教育に関する公的な投資比率が高く、政府の研究開発投資も我が国の伸びを超えて拡充されている。このことは、新しい知識、情報、技術やアイディアなどが活動の基盤となる知識基盤社会が、先進国のみならず新興国も含めて世界的に進展している中で、各国においては、新しい知や社会的価値を生み出す高度な人材こそが、各国の発展の原動力として期待されているからにほかならない。
  アメリカの大学院教育では、文系・理系を超えて学ぶ学生達も多い。また、先行の研究やアイディアを健全な批判精神に基づき創造的に破壊して新しいものを生み出す過程を繰り返すことを通じて、優秀な研究者や起業家等を輩出している。特に、シリコンバレーでは、大学が新産業創出の技術やアイディアを生み出していると言われ、大学院生による起業が社会変革の一翼を担っている。

2.今後の大学院教育の改革の基本的な方向性
(知のプロフェッショナルの育成)
○ 前述のような国内外の情勢に鑑みると、大学院教育において、我が国の発展を担う主役として、高度な専門的知識と倫理観を基礎に自ら考え行動し、新たな知を創り出し、その知から新たな価値を生み出して、既存の様々な枠を超えてグローバルに活躍できる人材、「知のプロフェッショナル」を育成していくことが、我が国社会の喫緊の課題である。
  さらに、資源の枯渇、環境破壊、世界金融不安、少子高齢化、地域間格差、多文化共生など地球規模の課題に知の力を持って挑戦し、人類社会に貢献する「知のプロフェッショナル」を育成することは、我が国の重要な責務である。
○ 特に、博士課程(後期)学生は、高度な「知のプロフェッショナル」として研究やビジネスを含め社会全体の未来を牽引する人材となることが期待される存在であり、将来「社会の宝」として輝くことができるよう育成していく必要がある。博士号を取得する過程では、高度な専門性に加え、科学的論理性を追求する思考力が鍛えられる。その論理的思考力は、異なる分野に進んだとしても、問題解決力、価値創造の源泉となり、知識社会基盤の確立に不可欠なものである。未来を担う優秀な学生達が大きな志をもって博士課程(後期)に挑戦し、その能力を磨き発揮できるような環境づくりを社会全体で進めていかなければならない。
  従来、我が国の大学院教育は、優秀な学生を、専門分野の研究者として選別していくプロセスであるとの認識が強かった。しかし、これからの大学院教育については、専門知識に基づきながら、文理を超えた幅の広い視野を持ち、知のフロンティアや新たな価値を創造・開拓し、社会に貢献する人材を育成するものへと変革していく必要がある。

(大学院教育改革の七つの基本的方向性と世界的に卓越した大学院の形成)
○ 知識基盤社会が急速に進展する中、若者の能力を最大限に伸ばしていくための教育改革が不可欠となっており、このような観点から、初等中等教育の改革、大学入学者選抜改革、学士課程教育の質的転換と厳格な成績評価や卒業認定が一体的に推進されようとしている。社会の様々な分野で活躍できる、高度な能力や専門性を備えた人材、「知のプロフェッショナル」の育成についても、こうした改革と軌を一にして強力に進める必要がある。
  今後、大学院教育の改革の方向性としては、17年大学院答申及び23年大学院答申を踏まえ、教育課程の組織的展開を強化するという「大学院教育の実質化」を通じて、体系的・組織的な大学院教育を推進することを基本に据えつつ、さらに、これまでの各種の大学院改革支援事業による成果を起点として、
  ア. 体系的・組織的な大学院教育の推進と学生の質の保証
  イ. 産学官民の連携と社会人学び直しの促進
  ウ. 専門職大学院の質の向上
  エ. 大学院修了者のキャリアパスの確保と進路の可視化の推進
  オ. 世界から優秀な高度人材を惹き付けるための環境整備
  カ. 教育の質を向上するための規模の確保と機能別分化の推進
  キ. 博士課程(後期)学生の処遇の改善
の七つの基本的方向性を重視するとともに、「卓越大学院(仮称)」の形成を重要施策として位置づけ、大学院教育の改革を強化していくことが必要である。

3.大学院教育の改革の具体的方策
(1)体系的・組織的な大学院教育の推進と学生の質の保証
(将来大学教員となる者を対象とした教育能力養成システムの構築)
○ 17年大学院答申で示したように、大学院は大学教員の養成機能も担っており、近年は、博士号取得者のうち3割程度が将来的に大学教員の職に就くと見込まれる。学士課程教育については、平成24年(2012年)及び平成26年(2014年)の中央教育審議会答申 において示されているように、その質的転換を推進することが求められており、大学教員の教育上の能力を体系的に修得するシステムの構築が急務の課題である。また、国内のみならず海外大学の教員ポストを得てグローバルに活躍できるよう、国際的にも通用する優れた教育上の能力を養成することは、大学の国際競争力強化の観点からも重要な課題である。
○ このため、将来の大学教員を多数輩出することが期待される大学院の教育では、国内外の大学で教員として活躍できるよう、
  1) 将来教員となるための意識を涵(かん)養し、アクティブ・ラーニング やPBL など、学生の主体的な学びを促すための指導法、教材の作成・活用方法や評価方法等を修得するための体系的な教育の機会
  2) TA(ティーチング・アシスタント)、TF(ティーチング・フェロー)、中高生対象の教育経験など、大学院生自身が将来の大学教員として実践的な能力を身に付けることができる機会
の充実を図ることが重要である。
  特に、1)の機会として、FD(ファカルティ・ディベロップメント)の教育関係共同利用拠点等が実施している大学院生対象のプレFDの機会を拡大していくことも必要である。また、2)のTA(ティーチング・アシスタント)及びTF(ティーチング・フェロー)の職務内容は、教員の適切な指導助言と事前研修のもとに、実験、実習、演習等の教育補助業務のみならず、授業の一部の実施や試験の採点など、より実践的な教育経験を積む機会となるように設定されることが求められる。
  大学教員を目指す学生自身にも、1)や2)の機会を積極的に活用して、教育能力を修得し向上させていく姿勢が求められる。
  さらに、各大学の若手教員の新規採用の際には、研究能力のみならず、大学教員としての教育能力や実践的な教育経験についても適正に評価していくことが重要である。国としても、プレFDを実施する教育関係共同利用拠点の充実を図るとともに、各大学院の取組を促すために必要な取組を検討する。

(2)産学官民の連携と社会人学び直しの促進
○ 社会の急速な変化に対応しつつ学生を多様なキャリアパスに導く大学院教育を推進するためには、教育課程の企画段階からキャリアパスの確立まで、産業界や公的研究機関等が参画した取組が効果的である。近年、各大学の努力や産業界の協力により、特に産業界と距離の近い分野を中心に、学生や社会人を対象にした産学連携の教育課程や中長期のインターンシップ等の取組が進んでいる。特に、23年大学院答申を受けた博士課程教育リーディングプログラムにおいては、産学官民が参画した教育が展開されている。
  海外の取組事例 にみられるように、産業界との共同研究の場に、大学院生を一人前の研究者として対等な立場で参加させていくことは、
  ・企業で活躍できる優秀な人材の育成
  ・人材を通じた企業等への技術移転の促進
  ・企業側にとっても優秀な学生を採用する機会の増加
といった効果が期待できる。
○  このため、各大学と企業においては、
  ・教育課程や中長期インターンシップの内容について、密な意見交換を行うこと
  ・大学院生が研究者として参加する産学共同研究を推進すること
  ・あらかじめ知的財産や技術流出防止のマネジメントに関して、必要な学内ルールを整備するとともに、学生も含めて周知を徹底した上で、具体的な運用を大学・企業双方で協議すること
  ・共同研究を行う国立研究開発法人や企業等は、学生のRA(リサーチ・アシスタント)雇用を推進すること
  ・クロスアポイントメント制度の活用など様々な方法により、大学教員と企業研究者の人事交流を推進すること
  ・企業は、採用に当たりどのような知識、能力、経験を重視しているのかについ
て学生や大学側に明示すること
などに取り組むことが期待される。

(社会人の学び直しの促進)
○ 産業構造が急速に変化している中、学士課程や修士課程を修了した社会人が、大学院という最先端の研究活動が行われる場で、自らの能力を更に向上させて博士号等を取得するなど、国際的にも競争力ある人材への学び直しを促進していくことがますます重要となっている。
  このため、各大学院においては、
  ・社会人にとってキャリアアップや就業現場の課題解決につながるような魅力あるカリキュラムを産学協働により開発・実施し、企業や社会人に対して広報すること
  ・社会人にとって学びやすい柔軟なカリキュラムや学修環境を整備すること
  ・知的財産等に関するルールの整備等を前提に、産学共同研究を活用して、優秀な社会人の博士号取得を促進すること
などを更に推進していくことが重要である。
○ これまでも、国では、社会人の大学院における学び直しを促進するため、通信制や夜間の大学院、長期履修制度、履修証明制度の導入などの制度改革が行われ、日本学生支援機構の奨学金をはじめ様々な支援制度においては社会人も対象とするなどの取組が進められてきた。さらに国においては、大学院教育レベルの社会人の学び直しを促進するため、学位が得られる正規の課程だけでなく履修証明制度も対象に、企業等のニーズに応じて職業実践力を育成するプログラムを認定し奨励する仕組みが構築されたところであり、引き続き、大学における社会人の学び直しを推進するため、社会人のニーズを含め現状を検証した上で、必要な取組を検討することが必要である。

(4)大学院修了者のキャリアパスの確保と可視化の推進
(企業等におけるキャリアパスの確保)
○ 博士号取得者や修士号取得者のキャリアパスの多様化のためには、学生自身が、大学教員等の従来型の進路のみならず、産業界等への多様な業種・職種への就職や起業など、広い視野を持って、国内外における新しい進路開拓への挑戦を行うことが期待される。
  近年、大学では、学生自身や所属研究室の努力に加えて、研究科を横断した全学的なキャリア支援を行うことなどにより、進路の多様化や就職率の向上などの成果がみられるようになっている。このような先進的な取組を踏まえ、各大学においては、博士号取得者や人文・社会科学分野の修士号取得者のキャリアパスの多様化のため、教員や産学共同研究等を通じて有する企業等との人的ネットワークを活用して、全学的な支援体制を構築することが重要であり、例えば、
  ・多様な大学院生や外国人留学生に対応した進路ガイダンスの開催や個別相談の実施
  ・企業と大学院生とのマッチング機会の設定
  ・インターンシップ先の紹介
  ・企業の人事担当者などと継続的に密な情報交換を行う場の設置
などの取組を進めることが考えられる。
○ 企業の側からみれば、大学院への講師・メンター派遣、共同研究、中長期のインターンシップの受入れといった機会は、時間をかけて学生の実力を見極めることができ、優秀な博士課程(後期)学生の確実な獲得につながる場としても役に立つものと考えられる 。企業においては、優秀な高度人材を確実に獲得するために、企業トップのみならず人事担当者も含めて大学院教育への理解と連携を深め、採用時に求める能力・経験等に関してより具体的な情報の発信に努めるとともに、充実したインターンシップ、さらに、大学院修了者の積極的な採用と能力に応じた適切な処遇などに取り組むことが期待される。

(大学等におけるキャリアパスの確保)
○ 大学の教育研究力の向上を図るとともに、博士号取得者のキャリアパスを確保するためには、各大学が、退職教員の後継ポストを優先的に若手教員のポストへ振り向けること等によって若手教員の安定的なテニュアポストを拡大し、高齢化傾向にある大学教員の年齢構成を若返らせ、バランスのとれた世代別教員構成となるように計画的な人事を行うことが極めて重要である。また、大学教員が、学生としっかりと向き合うことができるよう、教育研究業務にエネルギーを投入する時間を十分に確保でき、高い成果を生み出せる魅力ある職となるようにすることが求められている。
  大学の教育研究機能の強化を図るためには、研究マネジメントを担う専門的職員(URA など)や教学マネジメントを担う専門的職員など、高い専門性を有する人材についても、博士号取得者や修士号取得者のキャリアパスの一つとして位置付ける ことが重要である。各大学には、その実情に応じて専門的職員の採用・育成・処遇の人事システムを確立し、安定的なポストを継続的かつ十分に確保していくことが期待される。
  また、国立研究開発法人等の公的研究機関においても、優れた若手が挑戦できる安定性のあるポストの拡充を図ることが期待される。
○ このような取組を推進するために、各大学等においては、基盤的経費のみならず、競争的経費やその間接経費等を有効に組み合わせることで、若手が挑戦できる安定性あるポストを拡充するとともに、人事給与制度の改革(年俸制、クロスアポイントメント制度、テニュアトラック制、専門的職員の活用等)を推進することが求められる 。あわせて、大学教員に関しては、自ら担うべき職務と専門的職員等との役割分担を明確にして、教育研究業務に専念できる時間を十分に確保していく工夫が求められる。
  また、国としても、1)若い人材を研究職に惹き付けるため、優秀な若手研究者の新たなキャリアパスとなる「卓越研究員」制度を創設することや、2)大学の教育研究活動、学生支援、管理運営に関して専門的知見を有する職員の法令上の位置付けを検討するなど、その配置や育成を支援することが必要である。

(行政機関等の公的機関や高等学校へのキャリアパスの充実)
〇 行政機関等の公的機関においても、博士号取得者などの大学院修了者の能力を適正に評価した採用が期待される 。また、高等学校教育が課題解決に向けた主体的・協働的な学習に転換される上で、高等学校教員に優れた能力と資質を有する人材を確保することが重要である。このような観点から、博士号取得者の高等学校教員への積極的な登用を推進するため、国及び地方公共団体において、特別免許状制度 や特別非常勤講師制度の一層の活用を推進することや、大学において、教職を目指す博士号取得者等向けに実践的な指導力を身に付けることができる機会を提供することも期待される。

(大学院修了者の活躍状況の可視化と評価)
○ 大学院修了者の進路状況や、その後の社会での活躍状況を適切に把握することは、教育機関として求められる責務であるだけでなく、これらの情報は大学院の教育課程等の見直しや学生の大学院進学の判断材料として生かすことができる貴重な情報である。大学院修了者の進路は、専門分野によっても大きく異なっているため、その分野や課程ごとに学生が正確な情報を入手できることが望まれる。
  このため、各大学院においては、課程・専攻別に入学者数・修了者数を公表するとともに、修了者の進路やその後の活躍状況等に関する情報も適切に把握して、学生や社会に広く公表することが求められる。また、国としても、認証評価制度において大学院修了者の進路状況が評価されるように促進策を検討することや、博士課程修了者の進路状況を全国的に把握するための調査を継続的に実施するとともに、博士課程教育リーディングプログラムの成果を含め、大学院修了者の活躍状況を社会に分かりやすく広報することが必要である。

お問合せ先

科学技術・学術政策局 人材政策課

人材政策推進室
電話番号:03-6734-4051(直通)

((科学技術・学術政策局 人材政策課))

-- 登録:平成28年07月 --